「PayPay祭り」に乗り既存店売上高好調
スマホ決済サービスの導入について、コンビニ業界の方たちに聞くと、およそ次のような話になる。
政府はキャッシュレス決済比率を2025年までに40%と目標を掲げた。対して日本の現状は21.3%(17年)と低く、コンビニも同様の数字である。
一方、世界と比較すると(16年)、韓国は96.4%、中国は65.8%、アメリカは46.0%とキャッシュレス比率が高く、上海などに行くと、街場の屋台にQRコードが貼り付けてあり、お客は自らスマホをかざして決済している。日本も対応しないと世界から置いていかれる、といった話の流れだ。
その後、2018年12月にはソフトバンク系のPayPayが「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施、それをいち早く導入したファミリーマートは、期間中の既存店売上高がハネ上がるなど恩恵を手に入れた。他のコンビニチェーンも、ファミマに続き、さまざまなスマホ決済サービス導入するに至っている。
そこにコンビニ独自のスマホ決済サービスが登場する。7月1日にスタートした「ファミペイ」と「セブンペイ」である。セブンは7月11日(セブン-イレブンの日)に、全国で唯一の空白エリア、沖縄への出店を控えていた。勢いに乗ってスマホ決済サービスを加速させるはずだった。
しかしその結果は多くのメディアの既報の通り。
「セブン-イレブンアプリ」の会員登録者(1,200万ダウンロード)は、最短2タップで手続きが完了すると謳って、新サービスを一気に拡大する作戦をとった。それが裏目に出た。
沖縄のセブン-イレブン開店日(14店舗同時オープン)には、スタッフが店頭に机を用意して「nanacoカード」の勧誘に精を出していた。その後(8月1日の午後)、セブン&アイ・ホールディングスは、セブンペイのサービスを9月30日までで廃止すると発表した。
第一に、サービスの再開に相応の時間を要すること、第二に、その間のサービスを継続す
ると「支払いのみ」の不完全なかたちになること、第三に、お客はセブンペイに対して依
然として不安を持っていること。以上3点の理由から廃止の決断に至ったという。
現金チャージを中心に、アナログ客を取り込む
一方のファミペイは、スタート時こそシステムにもたつきが見られたものの、順調な滑り出しを切った。これに先立つ6月27日、都内で記者会見に臨んだファミペイの担当者(ファミリーマート シニアオフィサー 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野大輔氏)は、リアル店舗の優位性を訴えた。
「キャッシュレスが、これからどこで起こるのかといえば(現金比率の高い)リアルな小売り。中でも社会インフラと評価されているコンビニでキャッシュレスが進まないければ、日本のキャッシュレス社会は到来しない。リアルな小売りをキャッシュレスにする、その中でファミリーマートは、キャッシュレスを超えた“お財布レス”に挑んでいく」
“お財布レス”の意味は、買物毎に提示するポイントカード、クーポン、代金の支払いを全てファミペイ上で完結できるということ。
ポイント還元については、2019年11月より、ファミペイは、Tポイント、ドコモのdポイント、楽天スーパーポイントの3社とアプリ連携させて利便性を図る。ファミペイの中に3社の機能が入り、どれでも使用できるようにし、例えば、ファミペイで支払うと200円で1円相当の還元がファミペイ側で起きて、さらに提携しているカードに200円で1ポイントがショッピングポイントとして付与される仕組みにする。
チャージについては、スタート時はレジでの現金チャージを中心に推進していく。銀行口座からのチャージは今年の秋をめどに送金・決済事業を手がけるpring(プリン)社が間に入り実現させる。クレジットカードからのチャージはファミマTカード(5月末1610万人)のみとし、他のクレジットカードとの連携は考えていない。
要はファミマが相手にするのは現金で支払うお客である。オートチャージの利便性よりもまず先に、アプリをダウンロードしてもらい、チャージは店舗のスタッフに任せてくださいね、といったデジタルとアナログを融合させたスタンスを取って会員を獲得していく。リアル店舗の強さであろう。
2020年度内にアプリ1,000万DLが目標
ファミマは今回のファミペイ導入により、顧客の携帯番号、性別、生年月日、郵便番号を取得し、その先はID付きPOSを活用して、商圏分析、商品開発、マーケティングの分析をしていく。こうした「自社デジタルの顧客基盤」を回しながら「オープン主義のデジタル化」のもと、先の3社と連携していく。
Tポイントは店舗基盤、ドコモは携帯電話、楽天はEコマースと異なるデータ基盤を加えた大量のビッグデータを創出し、そこから広告マーケティング事業、さらには金融サービス事業といった「未来の事業創出」につなげていく。ファミマのデジタル戦略の将来図である。
ファミマの澤田貴司代表取締役社長は、ファミペイを契機とした事業創出に意欲を見せる。
「金融サービスにはすぐにでも取り組んでいきたい。われわれは物販だけでも年間3兆円規模の売上を上げている、税金を含めた代行支払いでも約3兆円を取り扱っている。これらを(ファミペイで)払ってもらえれば、いろいろなメリットを提供できるサービスも検討している。われわれは銀行には参入していないが、フィンテックの時代、短期の貸付け、保険の提供、小口のファイナンスなどに取り組んでいきたい」
ファミペイの目標は2020年度内にアプリ1,000万ダウンロード。1000万規模のタッチポイントを持ち、今後は販売促進や、前述のように金融商品の提供に活用していく。