ヒット商品を生む「品質」「楽しさ」「デザイン性」

マツキヨのPB戦略が競合と差別化できた3つのポイント

2015年リブランディングしたマツモトキヨシのプライベートブランド(PB)「matsukiyo」は、ブランディング、組織体制、デザイン、消費者ニーズ研究、どれを取っても戦略的でこだわりがあり、ヒット商品も数多く評価が高い。お客が求めているのに市場に足りない商品を見つけて開発し、ナショナルブランド(NB)メーカーの商品と共存できるように徹底的に差別化して市場拡大を目指す、三方よしも実現している。理想的なPBづくりの一例といえるであろう、マツモトキヨシの商品開発をひもとく。(月刊マーチャンダイジング2018年8月号より転載)

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ブランド戦略でますます重要になるPB

以前からあるPB「MKカスタマー」、2015年より展開の「matsukiyo」、加えて独立したオリジナルブランドも複数開発しているマツモトキヨシ。PB商品数は2,000点を超え、売上構成比の10.1%をPBが占めており(2018年3月時点)、ドラッグストア(DgS)の中でもひときわPBに注力している企業といえるだろう。そんなマツモトキヨシでPB商品開発を担当する櫻井壱典氏は、PBへの認識と役割が変化してきていると語る。

「多くのPBは、まず価格訴求から始まりました。2009年ごろからプレミアム系商品が浸透したことで高品質のPBも一般化して、いまでは高品質で付加価値のある商品が求められ、PBが市民権を得たともいえます。

これまでPBは、『競合との差別化』『利益拡大』『お買い得価格での提供』『来店客数増加』といった役割を果たしてきました。これからは、それらに加えて『ユーザーニーズに応える』『コーポレートブランドのイメージ向上』『企業理念の具現化』といった、企業戦略実現の側面がますます重要になってくるでしょう」

かつてPBは、低価格最優先でブランドとしてのアピールは二の次だったかもしれないが、いまや企業のブランディング手段として商品や自社ブランドをもっとアピールするべき時代なのだという。

マツモトキヨシでは大手メーカーとの専売商品にも積極的に取り組んでおり、これらも競合との差別化や両社のコーポレートブランドのイメージ向上につながる。しかし「企業理念の具現化」までできるのは、やはりPBだろう。

企業イメージに直結するPB、重視するのはブランド力と品質管理

そういった時代の変化に対応して、マツモトキヨシでは2015年末にPBのリブランディングを決断。ブランド名を「MKカスタマー」から「matsukiyo」に変更した。matsukiyoはマツモトキヨシの愛称として広く親しまれている呼び方なので、商品が店舗を連想させやすくなり、コーポレートブランドに「近い」PBとなった。認知向上・アピールになる一方で、もし商品に問題があれば企業イメージを損ねる危険もありハイリスクハイリターンだ。

「いままで以上にブランド戦略が重要になると同時に、製造責任も大きくなりました。ですから『matsukiyo』の展開を始めてからは、ブランド力向上と品質管理の徹底を両輪で強化するために、商品開発担当とは別にそれぞれ担当者を配置しました。ブランド担当は、商品ブランドコンセプト(図表1)に合致しているかを徹底します。品質管理担当は、商品開発の各工程で品質記録を取り、何かがあったときに原因を追えるようにしています」(櫻井氏、以下同)

[図表1]マツモトキヨシグループのPB、matsukiyoのブランドコンセプト

時代の変化に合わせて戦略の舵を切り、組織体制から見直し、機能させている。「PBを目立たせるブランディング」は、組織体制が整った企業だけができる戦略ともいえるだろう。

ブランド力がないと購入検討の土俵にすら上がれない

これほどまでにPBのブランド力向上を目指すのは、同社が経営において強い危機感を持っているからだ。

「アマゾンなどのECサイトが躍進を遂げており、競合は多く小売業にとって厳しい時代です。だから、まずは購入検討の段階で、お客さまの頭の中に『マツキヨにはこんな商品があるよ』というイメージがないと勝負にもなりません。われわれはブランドコンセプトに合致した『マツキヨらしい』商品を複数開発して、マツモトキヨシという企業そのものの存在感を強めたいのです」

PBは、差別化だけでなくコーポレートブランド自体のマインドシェアを高めるために役立つのだ。コンセプトや品質など徹底的にこだわって開発するため、医薬品や化粧品は開発期間が1年から長くて2年かかることもあるという。こうした一商品の積み重ねが、良質なコーポレートブランドを形成しているのだ。

エナジードリンクに見るコンセプト反映の徹底

たとえばmatsukiyoの「EXSTRONGエナジードリンク」(写真1)には、ブランドコンセプトのひとつ「面白さ・楽しさのあるアイディア」に基づく多くのこだわりがある。まずは色だ。オレンジ色の缶に緑色の液体という組合せに驚く。メロンソーダのような色なので甘いのかとおもって飲むと、意外とスッキリした味わいでまた驚く。強炭酸でシュワシュワの強さに驚き、成分の含有量の多さにも驚く。

この驚きが、「マツキヨらしさ」を強烈に印象付けている。ブランドコンセプトにのっとってちりばめられているあらゆる驚きと楽しさは、消費者がおもわず話題にしたくなる「ツッコミポイント」となり、結果SNSやインターネット上で話題になって、大ヒットした。

競合と差別化するために、国内外約300種のエナジードリンクを研究し、ほかにないこの色・商品に行き着いたという。

「このようにとがった商品を複数集積することで、マツキヨの楽しいイメージが刻み込まれていくはずです。これは『NB商品をまねしよう』という発想では生まれてこない。むしろ、どのような商品が『マツキヨ』らしいかを大切にしています。そのためにも、他メーカーの新商品は注視しています。『マツキヨ』らしさは、お客さまの選択肢を増やすことにつながり、NBからのスイッチではなく市場拡大に貢献するはずです」

[写真1]EXSTRONGエナジードリンク

中身は緑色で、「オレンジ色の缶なのでオレンジ色の液体が出てくる」とおもっていると意表を突かれる。6月20日には、新ラインアップとして「EXSTRONGZERO ENERGY DRINK」も発売。缶はイエロー、中身はパープルだ

カテゴリーごとに最適化されたデザインへのこだわり

商品開発に当たって、デザインはとくにこだわるポイントだという。

「SNSが普及して、デザインを重視するお客さまが増えています。ですので、食品はカラフルで楽しく、健康食品はシックで部屋に置いても景観を損ねないなど、カテゴリーそれぞれにデザインへのこだわりがあります」

消費者にとってベストなデザインであることを前提に、さらに売場で目立つ配色になるよう研究する。たとえば女性向けのプロテイン「matsukiyoLAB アスリートライン」は黒くてシックなパッケージで、競合商品の中にあっても目立つ(写真2)。

[写真2]黒いパッケージのアスリートライン

マツキヨLABの新商品で、今後力を入れていきたいというアスリートライン。プロテインをしっかり摂取するという目的に絞り、美容成分などは配合せずに価格を抑えている。プロテインは比較的多く摂る必要があるため、低価格の方がリピートを得られやすいと考えられるからだ。女性の日常的な運動が増えていることと、美容と運動の関連性、そしてオリンピックによる運動機運上昇の3点を鑑みると、成長の可能性が高い分野だ

カテゴリーごとにそれぞれデザインを変えるとブランドとして統一感を損ねる恐れもあるが、matsukiyoのパッケージは「マツキヨスラッシュ」という傾斜19度のラインが全商品共通で入っている。19度とはマツモトキヨシのカタカナロゴの斜角度が由来で、知らなければそれほど意識はされない控えめさだが、ファンになると「あの商品matsukiyoだな」とひと目でわかる、絶妙なラインになっている。

ECサイトとの差別化に「商品を持ち帰る楽しさ」を

実店舗での買物には必然的に「持ち帰る」作業が発生する。とくにトイレットペーパーのような大きな商品は、持って帰る労力を要し、人目も気になる商品ゆえにECサイトに分があるかもしれない。ここに着目したmatsukiyoのトイレットペーパーは、写真4のようなデザインで「家に持ち帰る楽しみ」を追求したという。差別化が難しいトイレットペーパーに、デザインによる情緒的価値を加えたアイデア商品だ。

[写真3]持って帰る楽しみを生むトイレットペーパー

まるで買い物袋を持っているかのように、ラジカセを担いでいるように見え、「持ち方」を楽しめる。機能的価値での訴求が中心となりがちなトイレットペーパーを、情緒的価値で差別化した。ペントアワードなど数々の世界的なデザイン賞を受賞している

医薬品のパッケージ統一でお客も販売員もわかりやすい

医薬品PBは、わかりやすいデザインにこだわっているという。写真5を見ると、決められた位置に決められた情報が書かれてフォーマット化されていることがわかる。このおかげで薬剤師や登録販売者は案内しやすく、お客の前でも迷わずに済む。お客が不安になってしまうことを防げるのだ。医薬品PBにおいてパッケージデザインをフォーマット化しているのは、日本では「マツキヨ」だけだという。

もちろんお客にとっても用法や効果・効能などを見比べやすいだろう。お客と販売員との円滑なコミュニケーションをデザインが促進しており、現場の負荷軽減にまで貢献する。デザインも重要な機能である。

これらのPB商品はフランチャイズ契約企業からも高い評価を得ており差別化の強みとなっているようだ。

[写真4]フォーマットが統一された医薬品パッケージ

matsukiyoの医薬品にはいろいろなサイズ・形の箱があるが、左上にロゴ、右上に容量、中央に症状、右下に薬のはたらき、といった具合に、どこにどの情報が表記されているかが共通で決まっている。ブランドコンセプトのうち、「選びやすさ、使いやすさ、わかりやすさを追求したパッケージ開発と商品情報の表記」が強く反映されている

ニッチな市場を開拓して育てることができるのがPB

PBは、NB商品には難しい「新しい市場を開拓する」役割も持っている。

「『ユーザーニーズに応える』ことは、PBのもっとも重要な役割だと考えています。お客さまの趣味嗜好は多様化しているうえに、『だれもが使っているような大衆化された商品は使いたくない』というニーズも高まっています。しかしそんなニッチな商品開発は、メジャーなマスブランドでは実現できないでしょう。つまり、市場にはスキマがあるはずなのです。PBはそこを埋めることができます。弊社オリジナルブランドのアルジェランは、まだオーガニックシャンプーが一般的になる前の2012年から発売しましたが、当時この市場はいまよりも小さかった。それでも、オーガニックなものをお手頃価格で使いたいというニーズはたしかにありました。いまでは市場も広がり、むしろNBメーカーさまがあとから出している状況ではないでしょうか。われわれ小売はお客さまに近いので、ニッチなニーズも捉えやすい。PBの未来は明るいとおもっています」

商品企画、ニーズ探しはお客の購買行動から

消費者ニーズを見つけるという点で、お客に近い小売はメーカーにまねできない力を持っている。とくに、丁寧なカウンセリングによるお客の悩み相談、要望に応えられることはDgS独自の強みだ。マツモトキヨシでも、各店舗の顧客情報を本部にフィードバックする体制が整っており、商品企画だけでなく品質管理とブランド管理強化にも役立てているという。

またマツモトキヨシの場合はオムニチャネル化が進んでおり、実店舗とネット両方の買物行動をキャッチアップできる。さらに店舗ごとに棚割を細分化させているため、エリア別・棚割別の分析も得意だ。そのうえ、独自の意識調査やクラスター分析を行うなど、生活者の研究にも努めている。

多方面からお客の理解に努め、PB開発やその他戦略に役立てている。お客を理解する体制が全方面で揃っており、かつそのデータを持て余すことなく生かしているところに、マツモトキヨシの抜きんでた強さがありそうだ。