[寄稿] 中国「新小売」の”今”と次に来るもの

リテールテクノロジーの最先端が集結し、注目を浴びる中国。2016年に提唱された「新小売」という概念の下、さまざまな新業態が登場する一方、既存の実店舗小売業への大型投資のニュースも話題になっています。本稿では、中国の小売業の現状に詳しい元メルペイの家田昇悟さんが「新小売」の現在を紹介しつつ、その次にどのような変化が待ち構えているのかを分析します。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号から転載)

2016年に登場した「新小売」という概念

中国ではモバイルペイメントが2013年ころから急速に普及し始め、2017年ころには大都市部の町中どこでもスマートフォンのみで支払いが済むようになった。日本でも2017、2018年ころにモバイルペイメントが盛り上がり、今年2019年には各ペイメント事業者による積極的な投資が行われている。

このような状況を背景に、中国では2016年に「新小売」という概念が登場した。そして多くのスタートアップや大企業による実店舗小売業への投資が進み、新業態が出現している。もしも中国と同じようにモバイルペイメントが普及していくならば、日本の実店舗小売業にも新業態が登場し得るのではないか。

本稿では、なぜ中国で新小売という現象が世界に先駆けて起こっているのか、さまざまな具体例を挙げて紹介する。今後、日本の実店舗小売業にどのような施策があるかを考えるきっかけになれば幸いである。

「新小売」が注目を集める3つの背景

「新小売」とは、中国の起業家でありAlibaba社の創業者ジャック・マーが2016年に提唱した概念である。「純粋なECの時代は既に過去のもので、未来10年、20年後にECという言葉はなくなる。新小売だけが生き残る。つまりオンラインとオフライン、物流が必ず結びつく」と説明した。なお、似たような概念として「OMO」という言葉があり、こちらは著名ベンチャー・キャピタリストの李開復氏が提起したもの。「Online Mergeswith Offline」の略で、オンラインとオフラインが融合するところに新たな事業が発生すると説いた。

筆者は、中国で新小売にこれだけ注目が集まるのには3つの理由があると考えている。

①中国のECが飽和状態であること

1つ目は、中国の小売のEC化率がかなり高くなってしまっていることだ。「インターネット・トレンド2018」によると、2017年時点で中国EC化率は20%を超え、世界トップに立っている。

しかし同調査では中国のモバイルインターネットユーザー数とモバイルECの成長率は年々減少傾向にあり、インターネット空間での成長余地が限られた結果、ユーザーの獲得コストは高くなっている。新たな成長の機会を求めた結果、いまだ購買活動の80%を占め、成長余地のある実店舗小売業が注目を集めているというわけだ。

②小売業のデータ活用を進めたいから

2つ目は、実店舗小売業に眠るデータを活用したいという狙いからだ。たしかにWeChatPay(中国最大のモバイルゲームとSNSを運営するTencentが展開するチャットアプリ「WeChat」の中で使える決済サービス)とAlipay(中国最大のECとオンライン金融サービスを展開するAlibaba傘下の決済サービス)はオフラインの決済市場において圧倒的なシェアを握っているが、獲得できているデータには限りがある。ユーザーが何を購入したかの品目はわからず、(WeChatPayとAlipayに登録されている)店舗名と合計金額だけである。

「だれが」「何を」購入したのかという購買情報を獲得するためには、実店舗小売業とより深い協業関係や資本関係を結ぶ必要がある。現状保有しているデータよりも精緻なデータを収集できれば、自社アプリやWEBサービスでの広告価値も高まる。どのオンライン企業もオフラインに眠る大量の購買情報にアクセスしたいのだ。

③ECだけでは競争優位に立てないから

3つ目は、インターネット上でサービスを提供するだけでは、競争優位として不十分になっているからだ。その例としてモバイルペイメントのシェアの推移を取り上げる。中国コンビニチェーン協会の調査によると、コンビニで使われる決済サービスのシェアは、2016年にWeChatPay43%、Alipay48%であったのに対して、2019年にはWeChatPayが57%、Alipayが41%となり、WeChatPayのシェアがAlipayを抜いて拡大しているのである。

その背景には、WeChatが至る所で起動され、実店舗における決済のシェアにも影響を与えているという状況がある。

日本ではWeChatが日本版LINEとして紹介されることが多いが、実際はもっと多くの機能を抱えている。Facebookのように転職や結婚の報告を行ったり、Instagramのように画像メインの投稿をしたり、LINEのように友人とのコミュニケーションに使ったり、Messengerのように仕事上のやりとりをしたり、Twitterのようにニュースや趣味を共有する場としても使われている。

さらにWeChatは個人間送金のためのツールとしても利用することができる。日本ではSNSがいくつかに分散し、送金はいまだ現金が主流だ。一方中国ではこれらの機能がほぼWeChatに集約しているといえる。そして、コンビニなどではWeChatを立ち上げてだれかとメッセージを交わしたりしながらレジ待ちをし、レジの順番がくるとそのままWeChatの決済QRコード画面を表示して支払うという光景をよく目にする。

またWeChatでQRコードをスキャンして立ち上がる「アプリ内アプリ」でレストランを予約して、そのままWeChatPayで決済する人も増えてきている。決済の瞬間だけではなく、決済の前の可処分時間や体験を押さえられることで競争優位となっているのだ。

新小売として登場した2つの新業態

では具体的に「新小売」としてどのような店舗・業態が登場しているのか。ここでは先進事例として「luckincoffee」と「盒馬鮮生(ファーマーションシェン)」を紹介したい。

①コーヒーチェーン「luckin coffee」

「luckin cofee」はモバイルオーダーを導入することで店舗運営人員を大幅に削減した

モバイルペイメントが普及したことで、従来の店舗経営を覆すイノベーションを生み出した企業が生まれた。

コーヒーチェーンとして注目を集めているのが「luckin coffee」だ。2017年6月の会社設立からわずか約2年(2019年5月)でナスダックに上場を果たした。1年目で2,000店舗をオープンし、2年目には2,500店舗を展開することを目標に掲げている。

luckin coffeeは、モバイルペイメントでの決済が当たり前に普及した中国の環境を生かし、専用アプリからの注文に特化したのが特徴。結果、レジ業務がなくなり、デリバリーとピックアップに店頭業務を絞った。このことで顧客体験を変え、従来は出店ができなかった場所(オフィスビル下など)にも出店することに成功している。消費者はluckin coffee専用のアプリをダウンロードし、デリバリーかピックアップかを選択して注文する。注文が完了すると指定の場所に配送されるか、指定した店舗に取りに行く。

レジがなくなったことで、レジ業務のために雇用する従業員が不要になり、またテーブルの清掃など店舗運営のために雇用していた従業員も不要になった。コーヒーをつくる人一人がいれば店舗運営が可能になったのである。

このような業態が可能になったのは、モバイルペイメントの普及によるところが大きい。中国ではモバイルペイメントが十分に普及しているからこそ、モバイルペイメントだけの決済に振り切ることができたのだ。日本では一部のレストランや実店舗小売業が実証実験的に現金を取り扱わない店舗をスタートしているが、luckin coffeeは設立当初からそれを志向した。

②食品スーパー「盒馬鮮生」

「盒馬鮮生」はAlipayユーザーしか利用できない店舗。会員100%にすることで購買行動のすべてを可視化する。生きた海の幸がいけすで展示されているのも特徴的(photo by Shutterstock.com

次に紹介するのはAlibaba傘下の「盒馬鮮生」である。2016年上海に1店舗目をオープンし、2019年5月時点で150店舗を展開している。店舗は倉庫を兼用しており、商品購入時に盒馬鮮生専用アプリのダウンロードが必須で、指定商圏以内は30分で購入商品を配送してくれる。専用アプリから商品バーコードを読み取れば生産者や生産地などがわかり、イートイン、生きた海の幸の展示など店内も面白い。多くの機能と話題を備えた食品スーパーである。

生鮮食品の領域はEC化がもっとも遅れている領域だ。アクセンチュアの調査によると、日本が1.9%、アメリカも1.1%、中国でも2.3%と非常に低い。しかし、盒馬鮮生は最初からネットからの注文比率50%を店舗運営継続の条件としている。開店から1年半たった店舗ではEC化率60%を達成していると公表している。

精算時に、Alipayの電子口座に紐付いた盒馬鮮生専用アプリでの決済を強制させることで、会員比率100%を可能にし、しかもアプリをダウンロードさせているため自社アプリを通じて直接お客とコミュニケーションすることができる(なお、現在は現金でも支払えるようになっている)。

顧客1人当りのLTV(ライフ・タイム・バリュー)を最大化するために、オフラインとオンラインを活用するという発想で事業が展開できるのは、来店客を100%可視化できるからだ。店舗とECというチャネル別に売上を分解すると、部門ごとの対立が発生しがちだが、この盒馬鮮生という業態はジャック・マーが唱えたように、店舗とECの区別をなくし、本当に消費者目線でかつデータ・ドリブンな食品スーパーの経営を実践できる仕組みになっている。盒馬鮮生が公開した情報によると、既存の中国の食品スーパーと比較して、坪単価が5倍になるなど大きな効果を挙げている。

なお、先進的な事例として今回取り上げたluckin coffee、盒馬鮮生だが、現在事業の持続可能性について問われている状況だ。luckin coffeeはアプリのクーポン配布に頼ったマーケティングの持続性、盒馬鮮生は「盒馬鮮生」以外にも既に複数の業態を展開しており、本当に消費者に定着するのかという疑問があり、中国国内メディアでも議論となっている。

両企業のポイントは、モバイルペイメントが普及したことで、新たな店舗設計と経営モデルを実現することができたということだ。表面的に彼らの「業態」を模倣するのではなく、発想そのもの(モバイルペイメントが普及したことで挑戦できること)を学び、どのようなことが日本でも展開ができるのかを考えるべきであろう。

AlibabaとTencentの小売業への関わり

新たな業態が出現する一方、新小売という事業機会に対して中国の2大IT(EC)巨頭であるAlibabaとTencentはどのように関わろうとしているのか。

①既存実店舗小売業やスタートアップへの積極投資と提携

AlibabaとTencentともに非常に積極的に投資・提携を行っている。Alibabaは過半数以上の株式を保有することもあり、Alibaba自ら実店舗小売業を運営してこの産業を牽引している。一方Tencentは株式に関しては少数の保有にとどまることが多いが、2018年6月にはWalmartと戦略提携を結ぶなど積極的に実店舗小売業のデジタル化を推進している。

②パパママストアへの積極支援

中国には約600万店のパパママストアが存在するといわれている。しかし経営の効率は悪く、データを活用した仕入れなどは行われていない状況だ。

Alibabaは「LingShouTong(通称LST)」というプロダクトを通じて、パパママストアに対してもサービスを積極的に展開している。最適な受発注のシステムを提供し、またスーパーバイザーを派遣し、棚割などの改善を提案する。日本のコンビニ本部が加盟店にスーパーバイザーを派遣しているのに類似しているといえよう。2018年末には100万店舗をカバーし、2019年には150万店舗をカバーする予定だ。

AlibabaはC2Cのオンライン・ショッピングで中国シェアナンバーワンの「Taobao」とB2Cでシェアナンバーワンの「Tmall」を所有し、中国人のネットでの買物行動をほとんど把握している。それらの購買情報を利用すれば、特定のパパママストアの周辺で、どのような人が何を購入しているのか、的確に把握することができる。そのパパママストアに最適な棚割や販売すべき商品を提案することができるはずだ。

③実店舗小売業向けのクラウドサービス展開

Tencentは「Smart RetailSolutions」という名称で、実店舗小売業のデジタル化を推進するSaaS(Software as a Service、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウエア)を大企業向けに提供している。

出店分析、グループのビッグデータを使った口コミ分析、店舗内カメラ分析、クーポン発行、会員プログラムの提供と、実店舗小売業が必要なデジタルサービスを一気通貫で提供しているのだ。日本国内ではSAPやIBMなどがこうした領域で実店舗小売業をサポートするサービス提供やシステム開発を行っているが、中国では消費者にサービスを展開するインターネット企業が主要プレーヤーとして市場に参加しているのだ。

Alibabaも実店舗小売業向けにSaaSを提供し、とくに食品スーパー業態向けには先ほど紹介した盒馬鮮生のシステムを「ReXOS」と名付け、外販している。自社で培ったノウハウを積極的に同じ業界に向けて販売し、業界をリードしようとしている。

「新小売」の次に来る「新製造」

新小売の次にはいったいどんな動きが予想されるだろうか?筆者はより川上でのIT活用が進むと考える。

データを使ってユーザーの購買行動を細かく分析したあとには、そのセグメントに対応する生産活動を行わなければ意味がない。しかしたとえば自社ユーザーすべてに対し、一人ひとりにカスタマイズしたキャンペーン広告の画像をひとつずつ制作するのは非現実的だ。だが、広告のための画像の生成もコンピュータが自動でやってくれるとしたらどうだろう?Alibabaは画像を選択するだけで、広告のためのバナー画像を自動生成するツール「Luban」を既に運用している。

このように、大量に集めたデータをより有効に活用するため、デザインの制作工程にテクノロジーが使われ始め、消費者もコンピュータがつくった制作物に日常的に触れるようになった。

その領域はデザインのみならず徐々に「製造」へと近づいている。ユーザー像を分析し、コミュニケーションするための広告用画像の自動生成に成功したあとは、製造する商品そのものの最適化も進むだろう。ソフトウエア化された工場が、人間の手を介さずに物をつくるような時代になっているかもしれない。

Alibabaは「新製造」という言葉を使い、工場向けのサービス提供に取り組んでいる。食品スーパーのデジタル化を実現した盒馬鮮生のシステムを外販したように、工場のデジタル化を実現するサービスをパッケージにして提供していくのではないだろうか。

モバイルペイメントはオフラインとオンラインの消費活動を融合する

日本ではモバイルペイメントが「キャッシュレス」の文脈で語られることが多いが、単に「財布を持たなくなる」便利さだけにとどまるのはもったいない。中国のスタートアップや実店舗小売業はluckin coffeeや盒馬鮮生のように、モバイルペイメントの普及をチャンスとして積極的に捉えている。「新小売」を実現するには、オフラインとオンラインの消費活動を融合する役割を持つモバイルペイメントの普及は必須である。

日本の実店舗小売業もモバイルペイメントの導入を単なるコストとして捉えるのではなく、新たな顧客体験や店舗経営を展開できる可能性を秘めたツールとして積極的に推進していくべきだろう。

なお、中国の著名コンサルタント劉潤氏が執筆した『事例でわかる 新・小売革命』(CCCメディアハウス刊)には中国の新小売の実態が非常によくまとめられている。ご一読をお勧めしたい。

游仁堂 シニアマネージャー
家田 昇悟(いえだ しょうご)

大学時代に上海に2年間在住し、中国×スタートアップに特化したメディアを立ち上げる。その後メルカリに入社し、プロダクトマネージャーとして複数のプロジェクトに従事。中国で新規事業リサーチの駐在を経て、メルペイに出向しペイメント事業のマーケティングやアプリの戦略策定に携わる。現在は上海に拠点のある小売業向けCRMの運営・アプリ開発会社、游仁堂にて事業開発に従事(Twitter:@IedaShogo

マツキヨとココカラ経営統合。DgS「1兆円企業連合」が初めて誕生

マツモトキヨシHD、スギHD、ココカラファインの大手DgS(ドラッグストア)の三つ巴の経営統合話は、マツモトキヨシとココカラファインの2社の経営統合で決着しそうです。ついに1兆円規模のDgS連合が誕生することになります。

化粧品の売上高日本一のDgS連合が誕生

図表1の上場DgSの2018年度決算によると、マツモトキヨシHDとココカラファインの売上高を合計すると、約9,765億円になります。2019年度決算では、間違いなく売上高1兆円を突破します。

月刊MDを創刊したはかりの20年前は、「DgSは年商300億円を超えなければ生き残れない」と言われていましたが、そう考えると隔世の感があります。この20年でDgS業界は一気に寡占化が進んだことがわかります。

マツモトキヨシHDとココカラファインの共通点は、化粧品の売上構成比が高いことと、都市型立地の店舗が得意なことです。下の円グラフによれば、マツモトキヨシの化粧品の売上構成比は41.1%と、上場DgSの中でもっとも化粧品の売上構成比が高い企業です。2番目に化粧品の売上構成比が高いのがココカラファインで、30.2%です。化粧品が主力のDgS2社の経営統合であることがわかります。

マツモトキヨシの化粧品の売上高は約2.370億円、ココカラファインは約1,210億円、両社の化粧品の売上高合計は約3,600億円になり、ものすごいバイイングパワーを持つことになります。化粧品メーカーは戦々恐々ですね。

PBでブランディングを進めネットと差別化、固定客を獲得

 

8月22日に行われた記者会見の様子。

今回の2社の経営統合によって、PB(プライベートブラント)の強化がさらに進むと思われます。「安かろう悪かろう」のPB戦略からいち早く脱皮し、固定客のマインドシェアを高めるブランディングに成功しているマツモトキヨシのPBを共通で取り扱えるのは、両社にとって大きなメリットです。

従来のPBは、消費者にとっての最大の価値は「低価格」でした。メーカーのNB(ナショナルブランド)にパッケージがよく似ていて、「NBと比較してみてください。成分が同じでこんなに安いでしょう」という売り方が一般的でした。一方、小売業側の最大のメリットは、NBよりも値入率が高くて儲かることであり、「利益対策」がPB開発の最大の目的でした。

マツモトキヨシは、2015年末にPBのリブランディングを決断。ブランド名を「MKカスタマー」から「matsukiyo」に変更しました。matsukiyoはマツモトキヨシの愛称として広く親しまれている呼び方なので、商品が店舗を連想させやすくなり、コーポレートブランドに「近い」PBとなりました。つまり、低価格だけが魅力のPBから脱皮し、企業のブランディングに貢献するコーポレートブランドとして育成することを、DgSの中でいち早く挑戦したわけです。

PB商品数は2,000点を超え、売上構成比の10.1%をPBが占めています(2018年6月時点)。

「多くのPBは、まず価格訴求(いわゆる『安かろう悪かろう』)から始まりました。2009年ごろにセブンプレミアムが浸透したことで高品質低価格なPBが一般化しました。いまでは高品質低価格が求められ、PBが市民権を得たともいえます。
これまでPBは、『競合との差別化』『利益拡大』『お買い得価格での提供』『来店客数増加』といった役割を果たしてきました。これからは、それらに加えて『ユーザーニーズに応える』『コーポレートブランドのイメージ向上』『企業理念の具現化』といった、企業戦略実現の側面がますます重要になってくるでしょう」(PB商品開発を担当する櫻井壱典氏談)

マツモトキヨシのPBは、低価格だけが価値ではないので、企業のブランディングに貢献します。また、オリジナル商品なので、アマゾンなどのオンライン企業とも差別化できます。さらに、ブランド力のあるPBがあることで、お客の「マインドシェア」が高まり、選ばれる店になることにも貢献します。

パッケージデザインもお洒落で、「マツキヨスラッシュ」という傾斜19度のラインが全商品に共通で入っています。マーケティングに関してはSNSを最大限に活用しており、「EXSTRONGエナジードリンク」は、中身の色の意外さがSNSでバズられて拡散し、大ヒットにつながったそうです(下記写真)。

大ヒットしたマツキヨのPB「EXSTRONGエナジードリンク」。

マツキヨのPB戦略が競合と差別化できた3つのポイント

DgSの1兆円時代が到来しました。第2第3の1兆円企業が誕生することは間違いないと思います。しかし、企業規模の拡大はチェーンストアの目的ではありません。多くの店舗数を持ち、「単品大量販売」を行い、「よりよいものをより安く」を実現することで、消費者の暮らしを豊かにすることが目的です。

次の10年間は、経営戦略の最優先が「大量出店」だった時代が徐々に終焉していきます。本当の意味での自主MD(マーチャンダイジング)に挑戦することが、経営戦略の最優先になる時代が、もうすぐそこまで来ています。MDはメーカー、問屋まかせで、大量出店だけで成長してきた時代から脱却することが、DgSの次の成長のためには不可欠であると考えます。

「サツドラHD」と「コープさっぽろ」が異業態・業務提携の協議開始

8月3日の新聞報道によれば、共に北海道をドミナントとする「サツドラHD」と、生協の「コープさっぽろ」が、包括業務提携に向けた検討及び協議開始の合意書を締結しました。同業同士のM&Aで成長してきたドラッグストア(DgS)ですが、「地域連携」という切り口で、異業態同士が提携する新しい試みとして注目されます。

地域密着企業としての生き残りをかけた提携

前回の視点でも書きましたが、DgSは「高速出店」と「M&A」を進めることで、上位企業の寡占化が加速しました。10年前は、上位40社で約3.5兆円の売上でしたが、最新の決算数値では上位15社で約5.6兆円の売上になり、企業数の減少と上位企業集中が顕著になっています(下の図表1参照)。

令和元年になり、売上順位5位の「マツモトキヨシHD」と、6位の「スギHD」、7位の「ココカラファインの3社三つ巴の資本提携の話題が沸騰しており、M&Aによる寡占化は、今後も進むものと思われます。

一方、DgSの売上順位15位の「サツドラHD」が、同じ北海道の地域密着企業である「コープさっぽろ」と提携するというニュースは、新しい提携の切り口なのかもしれません。上場DgSの売上順位では最下位のサツドラHDの売上規模は、Dg.Sの上位企業とは大きな格差があり、同業とのM&Aよりも、地域密着型の異業態連携を選んだと思われます。

サツドラHDとコープさっぽろは、以前から共同仕入れ会社の「ニチリウグループ」に加盟しており、商品開発の共同化でも交流がありました。また、AI(人工知能)、システム開発面での情報交換でも交流があったそうです。

人口減少、少子高齢化が全国平均よりも早く進む北海道で事業展開を基盤とする両社が提携し、課題を協力して解決するのがベストと考えた結果の判断だったようです。

新たに設置する「業務提携検討会議」と、(1)商流・物流統合、(2)商品開発、(3)決済・ポイントサービス、(4)システム開発、(5)関係会社の事業統合、(6)資産有効活用、(7)地域課題解決のCSR活動の7つの部会を設置し、具体的な提携の内容わ決定する計画です。

強固なリージョナルチェーンストアをつくる

MD NEXT創刊記念の特別セミナー(2018年6月開催)で講演していただいたサツドラHDの富山浩樹社長によれば、同社の成長戦略の1つ目は「強固なリージョナル・チェーンストアづくり」、2つ目は「リージョナル・プラットフォームづくり」です。地域密着型の小売企業としてのサービスを深耕していくことを、講演でも強調していました。

時代が変わる、チェーンストアの役割も変化する

サツドラHDが5年前に設立した「リージョナルマーケティング」という子会社は、地域が輝くプラットフォームづくりというコンセプトを掲げ、地域の共通ポイントカード「EZOCA」を発行しました。EZOCAの提携先企業はこの4年間で114社(ホテル、飲食業など異業種も多数参加)、653店、発行枚数が約165万件(2018年6月時点)です。北海道の世帯カバー率は50%以上を占めています。EZOCAは、サツドラのポイントカードを中心として立ち上げたためにユーザーの72%が女性で、20代から40代の女性が50%以上を占めています。

EZOCAの挑戦でもわかるように、サツドラHDは、自社だけの取り組みではなくて、地域の異業種(ホテル、飲食業など)とも連携して、地域需要を深堀りする試みには以前から挑戦していました。今回のコープさっぽろとの異業態提携も、地域連携プラットフォームづくりの一環であると考えれば納得できます。

キャッシュレスを超えた“お財布レス”に挑む、ファミマ「ファミペイ」のデジタル戦略

韓国や中国に比べて日本ではキャッシュレス決済の比率が低く、政府は2025年までにキャッシュレス決済比率を40%まで高めるという目標を掲げた。それに応えるかのように7月1日、コンビニ独自のスマホ決済サービス「ファミペイ」と「セブンペイ」が登場。ファミマではまず現金で支払うお客をターゲットに会員を獲得し、ゆくゆくは広告マーケティング事業や金融サービス事業を創出していきたい考えだ。

「PayPay祭り」に乗り既存店売上高好調

スマホ決済サービスの導入について、コンビニ業界の方たちに聞くと、およそ次のような話になる。

政府はキャッシュレス決済比率を2025年までに40%と目標を掲げた。対して日本の現状は21.3%(17年)と低く、コンビニも同様の数字である。

一方、世界と比較すると(16年)、韓国は96.4%、中国は65.8%、アメリカは46.0%とキャッシュレス比率が高く、上海などに行くと、街場の屋台にQRコードが貼り付けてあり、お客は自らスマホをかざして決済している。日本も対応しないと世界から置いていかれる、といった話の流れだ。

その後、2018年12月にはソフトバンク系のPayPayが「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施、それをいち早く導入したファミリーマートは、期間中の既存店売上高がハネ上がるなど恩恵を手に入れた。他のコンビニチェーンも、ファミマに続き、さまざまなスマホ決済サービス導入するに至っている。

そこにコンビニ独自のスマホ決済サービスが登場する。7月1日にスタートした「ファミペイ」と「セブンペイ」である。セブンは7月11日(セブン-イレブンの日)に、全国で唯一の空白エリア、沖縄への出店を控えていた。勢いに乗ってスマホ決済サービスを加速させるはずだった。

しかしその結果は多くのメディアの既報の通り。

「セブン-イレブンアプリ」の会員登録者(1,200万ダウンロード)は、最短2タップで手続きが完了すると謳って、新サービスを一気に拡大する作戦をとった。それが裏目に出た。

沖縄のセブン-イレブン開店日(14店舗同時オープン)には、スタッフが店頭に机を用意して「nanacoカード」の勧誘に精を出していた。その後(8月1日の午後)、セブン&アイ・ホールディングスは、セブンペイのサービスを9月30日までで廃止すると発表した。

第一に、サービスの再開に相応の時間を要すること、第二に、その間のサービスを継続す
ると「支払いのみ」の不完全なかたちになること、第三に、お客はセブンペイに対して依
然として不安を持っていること。以上3点の理由から廃止の決断に至ったという。

沖縄セブンのオープン初日、観光客で最も賑わう国際通りの店舗ではnanacoカードの会員募集に注力していた

現金チャージを中心に、アナログ客を取り込む

一方のファミペイは、スタート時こそシステムにもたつきが見られたものの、順調な滑り出しを切った。これに先立つ6月27日、都内で記者会見に臨んだファミペイの担当者(ファミリーマート シニアオフィサー 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野大輔氏)は、リアル店舗の優位性を訴えた。

ファミリーマート代表取締役社長の澤田貴司氏(左から二番目)と同シニアオフィサー 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野大輔氏

「キャッシュレスが、これからどこで起こるのかといえば(現金比率の高い)リアルな小売り。中でも社会インフラと評価されているコンビニでキャッシュレスが進まないければ、日本のキャッシュレス社会は到来しない。リアルな小売りをキャッシュレスにする、その中でファミリーマートは、キャッシュレスを超えた“お財布レス”に挑んでいく」

“お財布レス”の意味は、買物毎に提示するポイントカード、クーポン、代金の支払いを全てファミペイ上で完結できるということ。

ポイント還元については、2019年11月より、ファミペイは、Tポイント、ドコモのdポイント、楽天スーパーポイントの3社とアプリ連携させて利便性を図る。ファミペイの中に3社の機能が入り、どれでも使用できるようにし、例えば、ファミペイで支払うと200円で1円相当の還元がファミペイ側で起きて、さらに提携しているカードに200円で1ポイントがショッピングポイントとして付与される仕組みにする。

チャージについては、スタート時はレジでの現金チャージを中心に推進していく。銀行口座からのチャージは今年の秋をめどに送金・決済事業を手がけるpring(プリン)社が間に入り実現させる。クレジットカードからのチャージはファミマTカード(5月末1610万人)のみとし、他のクレジットカードとの連携は考えていない。

要はファミマが相手にするのは現金で支払うお客である。オートチャージの利便性よりもまず先に、アプリをダウンロードしてもらい、チャージは店舗のスタッフに任せてくださいね、といったデジタルとアナログを融合させたスタンスを取って会員を獲得していく。リアル店舗の強さであろう。

お客役になってファミペイの利用の仕方を実演する澤田貴司氏

2020年度内にアプリ1,000万DLが目標

ファミマは今回のファミペイ導入により、顧客の携帯番号、性別、生年月日、郵便番号を取得し、その先はID付きPOSを活用して、商圏分析、商品開発、マーケティングの分析をしていく。こうした「自社デジタルの顧客基盤」を回しながら「オープン主義のデジタル化」のもと、先の3社と連携していく。

Tポイントは店舗基盤、ドコモは携帯電話、楽天はEコマースと異なるデータ基盤を加えた大量のビッグデータを創出し、そこから広告マーケティング事業、さらには金融サービス事業といった「未来の事業創出」につなげていく。ファミマのデジタル戦略の将来図である。

ファミマの澤田貴司代表取締役社長は、ファミペイを契機とした事業創出に意欲を見せる。

「金融サービスにはすぐにでも取り組んでいきたい。われわれは物販だけでも年間3兆円規模の売上を上げている、税金を含めた代行支払いでも約3兆円を取り扱っている。これらを(ファミペイで)払ってもらえれば、いろいろなメリットを提供できるサービスも検討している。われわれは銀行には参入していないが、フィンテックの時代、短期の貸付け、保険の提供、小口のファイナンスなどに取り組んでいきたい」

国内1万6430店舗でリアルの強さにビッグデータを加えて事業創造に挑戦していく

ファミペイの目標は2020年度内にアプリ1,000万ダウンロード。1000万規模のタッチポイントを持ち、今後は販売促進や、前述のように金融商品の提供に活用していく。

新商品登場で活況の洗濯洗剤。新付加価値で独走する「アタックZERO」

今年2月、P&Gが「アリエールジェル プラチナスポーツ」、「アリエールジェルボール 3D プラチナスポーツ」を新発売し、4月には花王が「アタックZERO」で10年振りの刷新を図るなど、洗濯洗剤各社の動きが活発化しています。そこで今回は、「洗濯洗剤」の購買データから買い方の変化を分析します。(調査期間:2018年4月~2019年5月)

花王・P&G・ライオン3社が続々新製品投入で市場活況


「花王・P&G・ライオン」3社における洗濯洗剤の購入金額構成比をみると、2018年下期から各社新商品の投入がスタート、各社ともに新商品による構成比シェア拡大に成功しています。

まず8月に「速乾性や(ふっくらとした)触り心地」などの新たな価値を提案したライオン「トップ ハレタ」が発売、9月の購入金額構成比は25.6%で前月20.1%より、5.5ポイントアップしています。

その後、2019年2月にP&Gが主力の「アリエール」で“スポーツ”を切り口に「アリエール史上最強消臭洗浄力」を掲げる新商品「プラチナスポーツ」を投入。3月の購入金額構成比は37.6%で、前月35.4%より2.2ポイントアップしています。

同年4月には、花王が「アタックNEO」シリーズの販売を終了し、新洗剤「アタックZERO」を発売、アタック液体史上「最高の洗浄力」、通常ボトルのほか、片手で注入できる「ワンハンドプッシュボトル」や「ドラム式専用」商品を投入。4月における花王の購入金額構成比は、46.1%で、前月42.1%より4.0ポイントアップ。
全期間において花王が購入金額で1位のシェアを獲得し、洗濯洗剤市場を牽引しています。

シェア1位「アタック」、新商品登場でますます好調

次に、「花王・P&G・ライオン」3社における洗濯洗剤の主要ブランド別で購入金額の構成比をみます。

ブランド別では、花王「アタックNEO」が20%以上のシェアをキープ。新洗剤「アタックZERO」は、発売月4月で8.5%(アタック全体27.5%)、5月で8.0%(アタック全体23.3%)のシェアを獲得し、新洗剤においても既存顧客に受け入れられていることが伺えます。

一方、2019年3月発売のP&G「プラチナスポーツ」は数値としてはまだ現れていませんが、2014年同社から洗濯洗剤の新しい形態として発売された「ジェルボール(図表中はGBと記載)」は、「アリエール ジェルボール」および「ボールド ジェルボール」が、今では一定のシェアを獲得している実態があるため、今後の動向に注目です。

他にも、漂白剤や着色料を加えず肌に優しい「P&G さらさ」は、安心安全を求める消費者の心をつかみ、主力の「アリエール」よりも高いシェアを獲得する月も見受けられます。

また、ライオンは主力の「トップ」が大きな構成比を占めていますが、2018年9月発売の新洗剤「ハレタ」や、同月にリニューアル発売した「アクロン」、根強いファンを抱える粉末洗剤の「ブルーダイヤ」などが、数値として表れています。

近年では、「洗浄力」だけではなく、「抗菌」・「消臭」など、様々な機能を提案する洗濯洗剤が増えています。

機能別構成比は「抗菌・ウィルス」が最大

次に、洗濯洗剤の機能や商品特性別で購入金額の構成比をみます。

機能別・商品特性別で構成比をみると、「抗菌・ウィルス」がもっとも大きな構成比を占め、「(アタックZERO)のZERO洗浄」、「無添加・自然派」、「部屋干し用」、「消臭」と続きます。

「抗菌・ウィルス」については、梅雨時の6月~7月と、インフルエンザや風邪など、ウィルスや感染症のリスクが高まる11月~12月にかけて上昇傾向となり、「無添加・自然派」は、ほぼ一定の構成比でリピーターに支えられています。「部屋干し用」や「消臭」は、部屋干しによる生乾き臭を防ぐことや、ニオイ菌を断つというように消費者ニーズが高い機能ではありますが、「抗菌・ウィルス」機能と関連する部分もあるため、数値としては表れにくいことが考えられます。

購買チャネルNo.1はドラッグストア

次に、各社の主力洗剤「花王・アタックZERO」、「P&G・アリエール」、「ライオン・トップ」をセレクトして、店頭における購入チャネルをみます。

各社ともに、購入チャネルとしては「ドラッグストア」が最多となり、「スーパー」が続きます。「花王アタックZERO」のみがスーパーに次いで、「ホームセンター(13.2%)」、「P&Gアリエール」および、「ライオン トップ」は、「ディスカウントショップ」がそれぞれ、21.2%(P&Gアリエール)、15.3%(ライオン トップ)と続きました。

付加価値が購買喚起につながっている「アタックZERO」

最後に、今年4月に発売された新洗剤「花王アタックZERO」の購入者アンケートの結果から店頭販促状況をみます。

購入者アンケートの店頭販促状況をみると、従来品の「アタックNEO」は商品リニューアルに伴う「特売・セールされていた」が50.5%と半数以上の方が回答していますが、「目立つ販促説明(POP)があった(31.6%)」・「同じブランドの商品がたくさん並んで目立っていた(14.0%)」、「購入した売り場とは別に、陳列してあった(7.0%)」・「CMやタレント等、目立つ広告販促があった(5.3%)」などの店頭販促状況は、いずれも新洗剤「アタックZERO」が上回ります。

購買コメントをみると、「どこの売り場でも目立つPOPがあった(30代女性)」・「店内の催事コーナーで目立っていて購入(50代女性)」・「CMでみかけた商品がたくさん陳列されていたので購入(50代女性)」など、主力洗剤10年振りの刷新を消費者にアピールするための売場作りがされていたことや、「好きな俳優がやっていたCMを観て、機会があれば買おうと思っていた(30代女性)」など、旬の若手俳優を起用した広告戦略が購入のきっかけとなっていることや、「ワンハンドプッシュとドラム式専用という新しい形態に惹かれて試し買い(40代女性)」といった、付加価値が購買喚起につながっていることなどが、マルチプルID-POS「Point of Buy®」の購買コメントからわかりました。

今後、新洗剤「アタックZERO」がどのように浸透していくか、また、P&Gや花王に次いで、ライオンが7月に投入する“全部無臭化洗浄”を実現した「トップ スーパーNANOX ニオイ専用」の動向など、活発化する洗濯洗剤市場に注目していきたいと思います。

ライフとアマゾンが提携し最短2時間の宅配サービスを年内に開始

2019年5月30日、大手食品スーパーのライフコーポレーション(大都市圏を中心に計273店舗展開)は生鮮食品のオンライン販売でアマゾンジャパン(Amazon Japan)と提携すると発表しました。2019年中に東京都内の店舗で「アマゾン・プライムナウ」(最短2時間で商品を宅配するサービス)を導入する予定です。オンラインとリアルの融合が一気に進みそうな勢いです。

ホールフーズマーケットでは、アマゾンプライム会員に対し、店内の商品を最短2時間で宅配するプライムナウのサービスを強化している。

ライフ店内の商品を最短2時間で届ける

今回の仕組みは以下です。プライムナウ会員のお客が、アマゾンのポータルサイトからライフの商品を注文。ライフの担当者が店内で商品をピックアップし、梱包した後、プライムナウの配送担当者が店舗に商品を取りに来て、最短2時間でお客に配送。決済はアマゾンの仕組みを活用し、アマゾンに登録されたクレジットカードのみの決済となっています。

生鮮食品、惣菜、冷凍・冷蔵食品、飲料、酒、日用品、コスメ・美容用品、ベビー用品、ペット用品まで、注文から最短2時間で届けるサービスを計画しています。また、ライフの商品だけでなくて、アマゾンの売れ筋商品も注文できます。

ライフのメリットは、その店舗の商圏外に住んでいる消費者に商品を届けることができるので、商圏の拡大と売上増が期待できるという点です。とくに車を持たない世帯の多い東京都区内の消費者にとっては便利なサービスといえます。また、「店に行かないでも生鮮食品を購入できる」という便利性の向上も、売上増に貢献すると思います。

アマゾンのメリットは、ライフで取り扱っている生鮮食品や総菜を最短2時間で届けることができるようになり、アマゾンの生鮮食品の品揃えを充実できることです。

アマゾンが買収したアメリカのスーパーマーケット「ホールフーズ」。プライムナウの宅配サービスを強化し、オンラインとリアルの融合を図る。

ホールフーズの仕組みを写真で見てみよう

今回の提携の仕組みは、アマゾンが買収した「ホールフーズマーケット(Whole Foods Market)」で行っている「プライムナウ」のサービスとほぼ同じ仕組みです。

下の写真のように、専門の担当者がお客の注文に応じて、店内を回って商品をピックアップします。その後、写真の専用台で注文商品を梱包し、写真右の一時保管場所に置き、配達の担当者が商品を取りに来て、注文客の自宅に届ける仕組みです。

冷蔵が必要な食品に関しては、下の写真のような冷蔵ケースに一時保管します。また、冷凍食品は、店の外に冷凍庫があり、その中に保管していました。一時保管スペースに大量の商品が並べられており、ホールフーズのプライムナウの人気を感じます。

これからの時代は、オンラインとリアルのどちらかだけでは生き残れなくなります。オンラインとリアルを融合して、より便利な「買物体験」を提供する競争が始まっています。

しかし、今回のライフとアマゾンの提携で気になることは、「注文」も「決済」もアマゾンのシステムを活用することです。アマゾンは基本的に「データ非公開」の企業なので、「販売データ」「顧客データ」「決済データ」もすべてアマゾンに握られるということは、アマゾンにすべて牛耳られることにはならないですかね? ちょっと心配です。

要冷蔵食品を保管する冷蔵庫。
冷凍食品を保管する冷凍庫。

[寄稿]ココカラ、スギ、マツキヨ経営統合で1兆円企業が登場しても寡占化には至らない

ココカラファイン(以下、ココカラファイン)とスギホールディングス(以下、スギHD)、マツモトキヨシホールディングス(以下マツモトキヨシHD)との経営統合が話題になっています。ココカラファインに設置された特別委員会の意見を参考に、ココカラファイン取締役会で決定されるということになっており、まもなくその期限である7月末がやってきます。そこで今回、以前ココカラファインでマーケティング・ECに携わっていたコンサルタントの郡司昇さんに「提携のその先」を予想してもらいました。

生き残るための緊急M&Aが必要な状況ではないDgS業界

筆者は前職ココカラファインでマーケティングとECの責任者をやっていたためか、講演で名刺交換をしたり、友人・知人と会うたびに「この件、どうなりそうですか?」という質問を受けています。そこで、今回のこの騒動を元「中の人」ということではなく、コンサルタントとして客観的に考察してみました。(従って、OMO含めたデジタルシフトや顧客戦略には触れません)

7月12日にコスモス薬品の2019年5月期決算短信が発表されました。これで出揃った2018年度のドラッグストア(DgS)上位企業は、

1.ツルハホールディングス
2.ウエルシアホールディングス
3.コスモス薬品
4.サンドラッグ
5.マツモトキヨシホールディングス
6.スギホールディングス
7.ココカラファイン
8.(未上場)富士薬品
9.クリエイトSDホールディングス
10.カワチ薬品

ということになります。

百貨店、総合スーパー(GMS)など異業態と比較すると、大部分の大手DgSはまだ前年実績を上回り(既存店は一部前年を下回る企業も出ていますが)、営業赤字の企業もほとんどないということが特徴です。つまり、生き残り手段としてのM&Aが緊急に必要とされている状況ではないということができます。

したがって、今回の統合によって業界ナンバーワンのDgSが誕生したからといって、コンビニ業界のように大手企業数社に絞られるということは、少なくともこの数年の間には考えにくいということがいえます。

仕入原価の低減より専売商品の増加に価値がある

筆者がかつて勤務していたDgSが大型M&Aによって2倍前後の規模となった際に、最も大きな効果が得られたと感じたのは、メーカー・ベンダーに対する発言力が強くなり、商品の仕入原価が低減したことでした。

しかし、これは年商千数百億円~数百億円企業が得られるメリットです。マツモトキヨシHD、スギHD、ココカラファインのようにいずれも年商4千億円を超えている企業同士の合併で得られる仕入原価低減メリットはそれほど大きくはないと考えられます。

それよりも大きなメリットは、企業規模が拡大することで、その企業の専売商品を増やすことができるということでしょう。

コンビニで、菓子コーナーに有名NB商品の「そのコンビニ専用パッケージ」の商品がずらりと並んでいる様子をご覧になったことがある読者の方も多いはずです。

DgS、ディスカウントストア、スーパーマーケットなどの業態で、利益度外視の集客目玉商品として使われがちなNB菓子を、パッケージと容量、場合によっては味を変えて販売することによって、価格競争から遠ざけようと、メーカーは特定の小売業専用の商品を製造するんです。

コンビニエンスストア業界は、統合が続いた結果、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの大手三社に集約され、それぞれ売上高2~4兆円という規模になりました。そこで、メーカーが棚を確保するために、専売商品を製造する必要に迫られたというわけです。DgSでも1兆円を超える企業が多くなると、この流れは加速すると考えられます。

統合相手がスギ・マツキヨのどちらでもココカラはPBの拡販が見込める

多くのDgS企業は、投資家向けの広報活動のなかで粗利益率の向上施策の一つとしてPB商品の拡充を挙げます。しかし、PBといっても実際は販路限定商品や有名NB類似の低価格PBが占めているのが実情で、売上構成比もたかだか10%前後というところです。

アメリカの食品スーパーマーケットTRADER JOE’S(トレーダージョーズ)は、バイヤーが世界中を飛び回って自分達の足で探した健康志向かつ低価格のPB商品を開発しています。さらにその売上構成比は80%と非常に高く、日本の小売業のPBとは一線を画していることがわかります。

アルディ、トレーダージョーズに学ぶ 「よりよいものをより安く」を実現するセオリー

DgS各社は自社PBのブランドマークなどは作っていますが他社のPBと差別化ができていません。ただ、マツモトキヨシHDのPBは、顧客目線で見たときに、一目でマツモトキヨシの商品とわかるので、日本のDgSの開発するPBとしては一歩抜け出しているといえるでしょう。もし、ココカラファインと経営統合する相手がマツモトキヨシHDであった場合は、他社も含めてPBのブランディングなどが進むとみられます。

マツキヨのPB戦略が競合と差別化できた3つのポイント

ココカラファインも産学共同特許技術を使用した美白美容液「VIVCO」、界面活性剤ゼロにこだわった無添加日焼け止め「DEARPERFECT」など、いくつかの特徴ある商品を展開しています。その販路拡大という意味においては、経営統合の相手がマツモトキヨシHD、スギHDのどちらでも、規模が2倍以上になるため大きな意味があると考えられます。

「おもてなしスマートストア」を目指すココカラファイン~塚本厚志社長インタビュー~

ココカラ+マツキヨの場合、物流の効率化が進む

出店エリアについて、多くの経済メディアでは「A社とB社では出店エリアの被りが少ないため、経営統合の相手としてふさわしい」という記事を目にします。

しかし、この考え方はDgSには当てはまりません。銀行などの統廃合とは顧客の要望と課題が違うのです。

顧客にとってどのDgSを利用するかを選択する理由は「近いか遠いか」に尽きます。これまでさまざまな調査を行ってきましたが、結果は必ずこうなります。

なぜかというと小売は物(商品)と人(消費者)を繋ぐ「場」であるからです。100m先にA店、B店、C店が、700m先にD店、E店、F店があった場合、いずれも同じような品揃え・価格であれば人は自分に近いA店、B店、C店に行きます。経営を統合したところでA店、B店、C店も、D店、E店、F店も売上は変わりません。

DgSに限らず、小売業の経営統合で確実に生産性が上がるのは物流効率の向上です。

ココカラファインとマツモトキヨシHDは北海道から沖縄まで出店している全国チェーンです。一方、スギHDは本拠地愛知県を中心とした中部と関東・関西に各500店舗出店するという出店戦略であり、北海道、九州・沖縄、中国・四国、東北には店舗がありません。

現時点で物流効率が良い出店をしているのはスギHDです。1つの物流センターが担当する店舗数が充足している上に、動線も短くて済みますので効率化も出来ますし、センター経由の生鮮食品物流も地域によっては可能です。つまり、効率化された物流をすでにもっているスギHDにとっては、物流の優先順位は他社よりも低い状態ということができます。

一方のココカラファイン、マツモトキヨシHDでは関東・関西・東海以外の店舗数が中途半端な状態です。この2社が統合(下図、A+B)した場合、ココカラファインの北海道地区やマツモトキヨシの中国・四国地区をはじめとした店舗網が薄い地区の物流が効率化できます。経済効果としては無視できない大きさです。

看板・屋号はどうなるのか?

一般論として、大規模な投資をして屋号を統一するコストメリットはありません。地域で浸透した店舗名を捨てて、全国共通の屋号にしたからといって売上は上がりません。特に地元に浸透した老舗の屋号を安易に変更するとデメリットの方が多いものです。数十億規模の思い切ったテレビCM投下などをして、全国チェーン認知度を上げるという戦略に基づかない限り、屋号の統一はデメリットの方が大きいです。

Aという屋号の店舗を増やしたいという経営陣の思いが強くても、屋号を統一することが財務的にプラスにはならない事例が多いのはこのパターンです。

したがって、いずれと経営統合するにせよ、持株会社を新規名称で作り、販社名は存続させるということが合理的判断となります。

ただし、世界に打って出るという話になると別です。ひとつの強力なジャパニーズDgSブランドを作り、グローバル展開をすることを念頭に置くと、中国で大衆点評をはじめ各メディアを活用して知名度抜群なマツモトキヨシが優位と考えられます。

経営理念とポジショニングにも注目

DgS業界と他業界の大きな違いとして、商社の関与が少なく、オーナー一家の影響力が大きい企業が多いという点があります。

一般論として、オーナーの影響力が強い企業のM&Aで決定要因に大きく影響するのは調達コスト・物流コストといったPLへの影響だけではなく、株保有率などの財務、屋号への方針など多岐に渡ります。そこで本稿では最後に経営理念と大手DgS各社のポジショニングについて触れたいと思います。

ココカラファインの経営理念
人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する。

マツモトキヨシHDの経営理念
あなたにとっての、いちばんへ。 1st for You.
私たちは、すべてのお客様のためにまごころをつくします。
私たちは、すべてのお客様の美と健康のために奉仕して参ります。
私たちは、すべてのお客様にとって、いちばん親切なお店を目指します。

スギHDの経営理念
私たちは、社員一人ひとりの幸福、お客様一人ひとりの幸福、そして、あらゆる人々の幸福を願い、笑顔を増やします。

大手ドラッグストア各社を、縦軸はヘルスケアを中心とした専門性注力なのか、あらゆる品がワンストップで揃う利便性注力なのか、横軸は(現在の)PB商品が他社品で代替えが効かないブランド重視なのか、粗利益率獲得手段としての柔軟な運用なのかを一消費者としての私見でプロットしました。

ココカラファインとスギHDの位置づけが非常に似ているということがわかります。

今回の経営統合に関する筆者の考えをまとめます。

  • ココカラファインがマツモトキヨシHDと統合した場合、物流効率向上、PB強化という効果が期待できます。
  • 一方ココカラファインがスギHDと統合した場合は、ポジショニングが近い両社で新しいヘルスケアカンパニーを構築する方向に向かうのではないかと考えます。この場合は数年かけて新ブランドを構築するという方向性もあるかもしれません。

いずれにせよ、7月末の発表を見守りたいと思います。

(店舗のICT活用研究所 郡司 昇)

(2019年7月24日11時追記、図表の間違いを修正しました)

転換期を迎える食品スーパーマーケット、直面する4つの課題

これまで食品小売を牽引してきた食品スーパーマーケット(SM)。近年、ドラッグストア(DgS)やECは続々と食品の取扱いに乗り出していることから転換期を迎えているといえる。食品SMの成長の過程、現状の課題、今後の展望などを、一般社団法人全国スーパーマーケット協会広報課長の名原孝憲氏と主任研究員の長瀬直人氏に伺った。(取材:本誌 鹿野 恵子 構成:宮原 智子/月刊マーチャンダイジング2019年7月号より転載)

景気に左右されない堅調な成長実績

1958年に発足した全国スーパーマーケット協会は、食品SMを中心とした正会員・賛助会合わせて約1,250社の業界団体だ。業界の地位向上を目指し、日本最大級の食品展示会であるスーパーマーケット・トレードショーの運営や、教育研修、資格検定制度の主催などの活動を行っている。

食品SMの原型となる日本初のセルフサービス店として紀ノ国屋がオープンしたのは、1953年のこと。食品SMのワンストップショッピングという利便性は、たちまち民衆の支持を得た。

1960年代後半の人口増加とともに食品SM業界は成長を遂げ、1980年代にはマイカルやジャスコのような総合スーパー(GMS)も台頭を始める。GMSがリゾートやレジャー産業への参入など多角化を進める一方で、食品SMはCGCジャパンやニチリウグループのように、共同仕入れ機構を立ち上げたりグループ化を進めることで、地域に根付きながら成長する態勢を整えていった。

1990年代にバブル経済が崩壊すると事情が一変。価格破壊とディスカウントストア(DS)の台頭によって、マイカルなどのGMSが倒産したのだ。

そこで、それまでGMSとのみ取引をしてきた大手食品メーカーや問屋が注目したのが、地域に根差す中小規模の食品SMである。食品の売上は景気によって大きく変動することがなく、安定した成長を見込める。実際に地域の食品SMはバブル崩壊後も堅調に業績を上げ続けた。

2000年代になると、クイーンズ伊勢丹や成城石井といった「高品質スーパー」が登場。価格破壊によって進んだ「スーパーマーケット=安売り」というイメージを刷新した。2010年代になると商社の動きが活発化し、三菱商事や伊藤忠など商社を軸にした小売業界の再編が進んだ。

食品SMは「食品だけ」で利益を挙げるから強い

日本の食品SMのようにこれほど大・中・小規模のバラエティに富んだ国は、世界的に見ても珍しい。長瀬氏はその理由を、「規模の経済」と「範囲の経済」にあるという。

「規模の経済」とは同じ商品を大量に生産することで、原材料や労働力に必要なコストを削減し、収益率を向上させるビジネスモデルを指す。一方「範囲の経済」とは、同じ生産設備を利用しながらも、種類の異なる製品を生産することで、生産コストを低減させて、異分野進出による事業拡大を目指す企業活動のことをいう。

DgSやDSは、取り扱う食品はプライベートブランド(PB)が中心で「規模の経済」が働きやすい。一方で、食品SMが注力する生鮮や日配品は大量生産が難しい「範囲の経済」の商品である。また、生鮮や日配は日用品などのPBに比べ取扱いも難しい。

大手食品SMでは「規模の経済」の下、全国一律の商品を揃えることでコスト削減を実現するが、中小食品SMがこれに対抗するためには「規模の経済」が働かないカテゴリーで勝負する必要がある。

もうひとつ、日本の食品SM業界に大・中・小さまざまな企業が存在している理由として、多くの食品SMは非上場であり、そもそも外部からの資金調達に頼らずに経営を回していることを長瀬氏は挙げる。

食品SMを取り巻く4つの課題

現在の食品SMを取り巻く課題を4つ紹介する。

ひとつ目が、生産性の格差の問題だ。高齢化が進み人手不足が取り沙汰される昨今、どの業界でも生産性向上は大きな課題だが、たとえば機械化やアウトソーシングによる省人力化をしたくとも、中小食品SMにはそのための投資力がない。

「買物に行ってレジで会話をすることに一定の価値を置かれるお客さまもいます。そういったことに対応している中小食品SMの魅力をどう守るか。どこを効率化し、どこを強化していくか、経営者は見極める必要があります」(長瀬氏)

2つ目は、2020年6月に予定されている食品衛生法の改正である。今後すべての食品等事業者はHACCP(Hazard Analysis and CriticalPoint 食品の安全管理手法)または食品の特性に応じた衛生管理が義務付けられるため、店舗内に食品加工の作業場があればその分管理コストが発生する。

3つ目が、2019年秋に迫る消費税の増税だ。2014年に消費税率が引き上げられた際に大打撃を負った小売業界において、食品SMだけは比較的業績が好調だった。今回の増税では軽減税率が適用され、食品の税率は8%のままとされている。そのうえ、増税分の補填としてプレミアム商品券の発行が予定されているため、駆け込み需要とは逆の現象が起きる可能性がある。そこをどう迎え撃つかがポイントになるだろう。

そして4つ目の課題が、消費増税と同時に行われるキャッシュレス決済のポイント還元事業だ。政府が主導するこの事業の最大のメリットは、キャッシュレス事業者が消費者の購買データを取得できるところにある。

しかしながら、小売業ではこれと逆の動きが起こる。食品SMやDgSなどの小売業は自社でポイントカードを運営しているところも多く、キャッシュレス化を進めることでポイントの二重払いが発生してしまうのだ。

その結果、自社のポイントカードを廃止せざるを得なくなり、顧客情報はすべてキャッシュレス事業者に握られるということも起きかねない。小売業が導入コストと手数料を払ってキャッシュレス事業者を支えるというアンバランスな構造に、長瀬氏らは次のように異論を唱える。

「今回のキャッシュレス事業は情報革命という視点ではなく、消費増税分の還元という話になってしまっている。情報がデジタル化されるという話をきちんと説明して、社会に普及していくべきです」

自らの価値を利益の源泉にする努力を

こうした多くの課題を受けて、食品SMは未来に向けてどのように歩みを進めていくべきなのか。

「今後食品SMは、真面目さだけで生き残っていけるとはおもえません。食品のほかにも利益率の高い商品を扱っているDgSのような業態と戦っていかなければならないので、きちんとお金を儲けられるビジネスモデルを考える必要があります」(長瀬氏)

本とスポーツ用品から流通網を拡大し、取扱い商品を増やしていったAmazonでも、生鮮食品は「範囲の経済」を超えてしまって手が出せないというのが現状だ。しかし、食品SMはその逆で、衣料品をやめ、電化製品をやめ、よろず商品を扱っているところからの絞り込みを図っている。

そうして絞り込んだなかに利益の源泉を探すのもひとつの戦略だが、食品の利益だけに依存していては先が見えている。食品を配達する代わりに配送料は利用者に適切に負担してもらうというように、サービスの対価もきちんと利益として確保するビジネスモデルへの転換が迫られる。

また、食品SMが持つリアル店舗の価値を利益につなげることも欠かせないポイントだ。食品を扱っているというだけで週数回の定期的な来店を見込むことは可能だが、イートインコーナーでのイベントや、カーブスなどの集客装置を設けて来店促進を図る工夫も取り入れたい。

そして、なにより食品SMは、地産地消を支える大きな核であることを忘れてはならない。地元産の豆腐や和菓子など、地域色を出すことができる食品SMは、人々がDgSに対して抱くエンゲージメントとは異なる「地元への愛着」を喚起することができる。こうした、自らが持つ価値を利益につなげる努力が、いま、食品SMに求められている。

竹下通りの入口にオープンしたスギ薬局の旗艦店、同社初の男性BAを採用

女子中高生や外国人を含む観光客が数多く訪れる原宿・竹下通り。その竹下通りの入り口、JR原宿駅の目の前に2019年4月に「スギ薬局 原宿店」がオープン。日本の最新トレンドの発信源のひとつであるこの地で、アンテナショップ、広告塔の役割も果たす同店を取材した。(月刊マーチャンダイジング2019年7月号より転載)

若年層新規客獲得のためキーとなる要素を探す

原宿駅を起点とした周辺エリアは表参道、青山通りなど最新のファッションやコスメ情報の発信源であり、感度の高い人たちが集まる一大拠点である。なかでも竹下通りは若者、外国人を中心とする観光客に人気スポットで、日中は多くの人でにぎわう。

また、企業のオフィスも多くビジネスパーソンの来店が予想できるのに加え、エリア内にはマンションや戸建て住宅も意外に点在しており、日常的な時間を過ごす生活者も多い。

こうした立地環境に合わせスギ薬局 原宿店では、外国人観光客、若年層を中心にトレンドの先端をいく化粧品販売を中心に、プチプラコスメ、低価格のアクセサリー、キャラクターグッズなど、ほかのスギ薬局にはない特徴ある品揃えで営業する。売場面積の約7割はビューティケアである。

外国人観光客用に両替機を設置。青木店長によると中国人観光客はおもったよりは多くなく、ロシアなどヨーロッパからの来訪者が多いという(1階)

化粧品強化に加えて、エリア内の居住者に向けて洗濯、掃除、ベビー用品関連など日用雑貨の基本的な用途機能を品揃えして、地域対応にも気を配る。若いお母さんからは、近隣にベビー用品を買える店舗が少ないので、感謝されることも多いという。

1階入り口を入るとシーズン商品のプロモーションと並んで300円均一のアクセサリーコーナー、キャラクターグッズ、キャンメイクのコーナーや若年層に人気のメイクブランドを複数編集したエンドなどを配して若年層の取り込みを図る。

1階は300円アクセサリーやキャラクターグッズ、若年層向けメイク、食品などを配置。気軽に入れて店のファンになってもらえるよう設計されている
入り口正面にある300円アクセサリーのコーナー、取材中も若年層が多く立ち寄っていた

人口ボリュームは50歳以上の中高年が多いが、ドラッグストア(DgS)の未来対策、とくに化粧品部門の戦略としては、若年層の新規客を獲得し、加齢に応じて商品提案をしていく。こうした生涯にわたる顧客化策を講じる必要がある。スギ薬局 原宿店はこうした未来戦略も踏まえて新規客獲得にどのような商品、ブランドが有効か、テストマーケティング、アンテナショップ的な役割も担う。

2階へ続く階段は赤じゅうたんで天井からはシャンデリアがつるされていてお城風、2階へいかに人を上げるかで売上も変わる

2階には化粧品カウンターを設置、自社のビューティアドバイザー(BA)が肌診断機を活用しながら肌悩みやメイクの好みを聞いて、深いニーズを引き出す。

化粧品のキャラクターにも使われる「ベルサイユのばら」の登場人物のボードがあるインスタ向け撮影スポット(2階)
2階化粧品売場、やわらかな照明、天井に付けられたバラの装飾など細部にまでこだわっている
化粧品のカウンセリングカウンター。対面によるカウンセリングで悩みや希望を引き出し、深いニーズを探る
マキアージュの什器。若者に人気のあるプチプラコスメから、幅広い層に支持される制度品まで幅広く品揃え
肌診断機はカウンターに加えて、気軽にセルフでも使えるように2階フロアにも置いてある

そして、同店の目玉のひとつがスギ薬局初の男性BAを配置していること。仕事の内容は女性BAと同様に女性客対応がメイン。メイクアップアーチストやヘアデザイナーなど、ビューティケアの分野で活躍する男性は少なくない。DgSでもこれをきっかけに新たな分野が切り開かれるかもしれない。

2階にはヘルスケアのコーナーと調剤薬局を設置。近隣のビジネスパーソンや生活者の利用が多いという。都市型、先端的な店舗だが、薬剤師も管理栄養士も配置して、同社らしいトータルヘルスケア(健康体、受診中など、健康状態にかかわらずすべての生活者の健康に貢献すること)を推進している。

調剤薬局を併設。周辺のビジネスパーソン、住民のために処方せん、健康相談にも対応する
2階の約半分のスペースはヘルスケア売場になっている

同社としては新しい試みを多数盛り込んでおり、今後の企業戦略に生かすべく検証と調整をしていく構えだ。若年層の新規客獲得へ向けどのような解が見つかるか、厳しい競争のなか、同店の担うミッションは重要である。

「多様なお客さま、スタッフに対応して竹下通りをリードする店になる」(店長:青木麻里氏)

スギ薬局 原宿店 店長 登録販売者
青木 麻里氏

青木氏は入社7年目、関東の都市型店舗の店長歴が豊富で、多様なお客、人材をまとめられるマネジメント能力を評価され、原宿店の店長を任された。

多国籍なインバウンド客に加え、従業員も中国人、マレーシア人など多様。英語、フランス語を話せる日本人スタッフもいる。

「スギ薬局の先端をいく店を任されたことは光栄です。お客さまはインバウンド客に加え、人と違うことをしたい、はじめて試すなど、いろいろなおもいを持った若い方が多くいます。そうしたご希望に沿えるよう、常に新しい情報、商品を揃えたいとおもいます」

原宿店は平日と休日の客数の波動が大きい。また、夕方4時から閉店まではインバウンド客が集中し、人時をそちらに取られるので、スタッフの配置、スケジュール管理にも気を使う。

将来的には、竹下通りの入り口にある店にふさわしく、トレンドをリードする店にするという展望を持つ。

「メイク商品はジェンダーレス化する」(BA:河邉徹氏)

スギ薬局 原宿店 ビューティアドバイザー
河邉 徹氏

河邉徹氏は2017年、スギ薬局に総合職として入社。以前から化粧品には興味があり、現場で直接お客さまと接するBAを希望していた。しかし、経験が浅く男性BAが活躍できる環境も整っていなかったので一度退社。外資系の化粧品メーカーに転職して売場スタッフの職に就く。スギ薬局を退社してからも同期とは連絡を取り合っており、原宿店オープンに際して男性BAを探しているという話をその同期から聞き、応募して今回の採用に至った。

普段の仕事で気を付けていることは、お客一人ひとりに合った提案をすること。

「トレンドについても一概に『これが流行』と押し付けるのではなくその人の土壌、好みを尊重しています」(河邉氏)

お客一人ひとりに合った個別の提案をするには、化粧品に関する膨大な知識が必要となり、河邉氏はYouTube、ネット、雑誌などから情報を得て、気になるものはさらに調べて深掘りする。また、自らデパートの化粧品売場に行き、タッチアップやカウンセリングを受ける。自分がお客の立場を経験することで、どのように接客すべきかを考えるためだ。

最後に、男性のBA、男性がメイクすることについてどうおもうか尋ねた。

「自分の中では、性別にこだわっていません。メイクをみんなに好きになってほしい。ジェンダーレスになってくれたらいいとおもいます。男性化粧品、女性化粧品を分けないというのもひとつの手で、みんなのものという認識が広がってほしいとおもいます」。難しいとされていたことが2年の時を経て、スギ薬局原宿店で実現に至っている。未来に目を向けた新たな価値創造がここから始まるだろう。

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「精肉工場のアウトレット」やきにく萬野本店が仕掛ける実力派の強さ

さる4月27日、大阪JR環状線の桃谷駅と寺田町の間に全長100mに及ぶ焼肉店と精肉店が並ぶ施設がオープンした。これは大阪の天王寺エリアなどに焼肉店をはじめとした飲食店9店舗の他、食肉卸等を展開している株式会社萬野屋(本社/大阪市天王寺区、代表取締役/萬野和成)によるもので、「やきにく萬野本店」(約40坪53席)、精肉店の「肉 まんのや」(約8坪)、そして同社の精肉工場、本社事務所で構成されている。

精肉店では部位ではなく「ホームカット」で販売

「やきにく萬野本店」は同社創業の店で1999年6月JR大阪環状線の同じく桃谷駅と寺田町駅間のガード下にオープンし(現在地より300mほど北側)、「肉屋が唸る本物の肉屋。」を理念として黒毛和牛に対する卓越した選別眼と肉の捌き技術が注目されて近隣住民に愛されてきたほか、遠方からもファンが訪ねてくる店である。

この度の移転リニューアルは開店20周年を期したものであり、総工費2億円を投入して、大きなプロジェクトを完成させた。焼肉店と精肉店においては「精肉工場のアウトレット」というべき存在である。

萬野屋の焼肉店は「肉屋が唸る本物の肉屋。」が信条

新装した「やきにく萬野本店」は、フードメニューが約130品目、看板商品とも言える「赤身肉盛」270g3,200円(税別、以下同)、450g5,300円、900g1万500円や、「肉寿司」(4巻1400円)のほか「囲炉裏焼き」などの肉メニューに加え、「エゴマとスプラウトのシラスサラダ」700円や、「玉子スープ」400円などバリエーションが豊富。ドリンクメニューは60種類をラインアップ。これらで客単価5,500円を想定している。

精肉は精肉工場の切り落としを「ホームカット」で提供

同社初の精肉店となる「肉 まんのや」は、赤身肉を部位名ではなく「ホームカット」(商標登録済)という名称で精肉工場の切り落とし肉を販売している。

精肉には全て「極雌ホームカット」と名称が付けられ、“薄切り”が「福」100ℊ(以下、同)280円、「宝」380円、「優」480円、「雅」580円、「極」880円。“焼肉”が「優」450円、「雅」550円、「極」850円。“ステーキ”が「優」790円、「雅」890円、「極」990円となっている。他に「ローストビーフ」や「焼き豚」、また純国産豚を60円で販売している。今後は、主に関西圏の百貨店の食品売場で展開していくことを想定している。

精肉工場では、食肉処理の工程別に部屋を変えている。例えば、枝肉をさばく部屋、赤身肉を処理する部屋、内臓を処理する部屋、スープを炊く部屋等々、全てが外気に触れないようにして衛生管理を行っている。

牛と焼肉にかかわるあらゆる仕事を経験

株式会社萬野屋代表取締役の萬野和成氏

萬野屋の原点は昭和5年(1930年)に大阪府羽曳野市で同社社長の萬野和成氏の祖父母が創業した牧場経営、屠畜解体、枝肉を流通する事業である。来年で創業90周年となる。その後、萬野氏の父母に受け継がれ、小売店、業務用卸も事業として加わった。

萬野氏は1963年8月生まれ。1984年に祖父母の会社に入社して主に生体牛屠畜及び内蔵処理業務を担当、同業他社でも修業を積んだ。再入社した祖父母の会社では小売部門に配属され、各精肉売場を巡回した。以後、20年間に渡り、牧場管理、生体牛や枝肉の仕入、業務用(レストラン用)卸を行った。

この業務用卸は小売店の売上が減少する中で大きく活路を見出して、取引先を4年間で1,000店舗まで拡大した。このように牛肉を扱うあらゆる仕事を経験してきた。

1997年に萬野屋の前身となる会社を設立し、飲食店舗開発のサポートを行った。ここでは焼肉店のための技術研修制度や顧客管理ソフトの開発も行った。このように牛肉のあらゆる分野にかかわって来た萬野氏は和牛に魅せられ、全国の多くの生産者と牛と出会い、そこで飼育している牛にあふれんばかりの愛情を注いでいる生産者が存在することに感銘を受け、交流を重ねた。

期待を裏切らない本物の肉を食べられる飲食店

JR大阪環状線のガード下で寺田町駅から北へ100m程度のところに位置する

しかしながら、当時牛肉の業者に「牛肉偽装問題」が顕在化するようになった。その状況に対して、生産者の牛に対する意識との温度差を強烈に感じるようになり、萬野氏自らが「消費者の信頼を裏切らない本物の肉を食べられる飲食店をつくろう」と、自ら店舗展開を志した。

1号店(28坪64席)は、あえてJR大阪環状線のガード下というC級の立地に出店。これは商品力で繁盛店をつくろうと考えたからだ。“焼肉の聖地”鶴橋の近くにありながら、この「やきにく萬野本店」はオープン直後からたちまち繁盛店となり月商1,300万円に達した。

カウンター席、テーブル席と多様なシチュエーションに対応する

近年、焼肉店では赤身肉をロース、カルビという呼称ではなく、部位別の呼称を商品名としているところが増えてきた。例えば、「モモ」をさらに細かく「マクラ」「マルシン」「イチボ」、「友バラ」を「カイノミ」「カッパ」「インサイド」という具合である。

実は、萬野和牛はその先駆けである。1号店の当初からこれを実践し、お客さまからの信頼を得てきた。現状、萬野和牛には部位名が80存在する。このような呼称を持つ焼肉店や精肉店は他に例を見ないのではないか。それが可能なのは“牛肉のエキスパート”ならではのことである。

「極雌 萬野和牛 Premium Queen’s Beef」として流通

老舗の風格が漂う看板

今日萬野屋が販売している精肉は「極雌 萬野和牛 Premium Queen’s Beef」(以下、萬野和牛)というブランドを持って流通している。

これは前述の通り、萬野氏の熱心な生産者との交流から生み出されたものだ。
牛には一頭一頭個性があり、それを目利きできるのは丹念に愛情を込めて牛を見つめている生産者であることを萬野氏は知った。一流の生産者は、じっくりと牛のピークを見極めて最高の状態に達した時に出荷している。

このような「萬野和牛」の条件は大まかに、「未経産の雌牛」「月齢30カ月以上の長期肥育」「脂肪の融点が低い」「肉質の濃度が高い」ということだ。

焼肉店業界は2001年9月に日本で発生したBSEと、2003年12月アメリカで発生したBSEによって大きなダメージを受けたが、後に回復基調となり、今日は大きく隆盛している。

それは言わずもがな、焼肉店の業界が復活のための創意工夫を尽くしてきたからだ。

その点、萬野屋が「精肉工場のアウトレット」をつくり上げ、それが放つ圧倒的な商品力とイメージの高さは、絶好調の「焼肉店ブーム」の中にあって大いにその強さを発揮することであろう。