アメリカ小売業で起きている3つのトレンドは「レジフリー」「BOPIS」「差別化」

10月28日から1週間、アメリカ小売業の視察に行ってきました。アマゾンの台頭で急激な変化の途上にあるアメリカ小売業の3つのトレンド「レジフリー」「BOPIS」「差別化」を整理してみましょう。

アマゾンゴーの店内。

確実に進んでいるレジフリー

小売業の店内作業でもっとも人時のかかっている作業は「レジ作業」です。客数の多いSM(スーパーマーケット)のような業態では、店内作業の30%はレジ関連作業です。

一方アメリカではレジ作業を減らす「レジフリー」の実験が確実に進んでいます。

レジフリーの目的は、

(1)省人化による生産性の向上
(2)レジ待ちの煩わしさを解消する便利な買物体験の提供

の2つです。

レジフリーの第1は、「アマゾンゴー」の「ジャスト・ウォークアウト」方式です。

アマゾンゴーのアカウントを作成し、QRコードを取得し、日本の電車のSuica(スイカ)のようなゲートにQRコードをかざせば店内に入れます。あとは、自由に商品を取って自分のバッグに入れてそのまま退出するだけです。10分後くらいに購入した商品の画像、購入点数、金額がアマゾンゴーのアプリに送られてきます。天井に設置された監視カメラと、棚の重量センサーの技術を活用して、お客の購買行動を補足しています。

万引しようと、あれこれ不審な行動をとってみましたが、何を持ち出したかを正確に補足されました。

レジフリーの第2は、「スキャン&ゴー」方式です。

日本でもトライアルが「タブレットカート」で同方式を導入していますが、専用端末やアプリのスキャナーで商品のバーコードを、お客が自分でスキャンして一括精算する方式です。ウォルマート、クローガーのような大規模チェーンも、スキャン&ゴー方式に対応したセルフレジのスペースが年々拡大しています。将来的には、アマゾンゴーのようにアプリ内で精算完了し、レジを通らないで退出する精算方式が主流になるかもしれません。

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BOPISの導入が一気に進んでいる

ホームデポのBOPIS受け取りカウンター。広い接客カウンターと、広い在庫スペースを確保していた。

オンラインとリアルの継ぎ目のない新しい買物体験として、BOPIS(Buy Online Pickup In Store)の導入が一気に進んでいます。BOPISとは、オンラインで注文した商品を店舗でピックアップするサービスのことです。

BOPISの導入により、店舗で在庫していない「ロングテール商品」を販売することで、既存店の売上が増えます。

ホームデポは、通常の店舗では3~4万のアイテムが在庫されていますが、オンラインでは100万以上のアイテム(メーカーへの客注含む)が販売されています。その膨大なアイテムが店舗売上として計上できれば、当然、既存店舗の売上増につながります。また、店舗ピックアップのために来店した顧客の70%は、なんらかの商品を「衝動購買」するという調査結果もあり、とにかく来店してくれれば、買上点数も増えます。

ホームデポでは、上の写真のような広いBOPISの受け取りカウンターを設置しています。オンラインで注文した商品の受け取りを有人のカウンターで実施することで、接客とカスタマーサービスを強化し、アマゾンに対抗しようとしていることがわかります。

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アメリカ小売業は差別化の時代に突入

今回、アメリカの小売業を視察してもっとも印象に残ったことは、「同質化の競争」から「差別化・異質化の競争」時代に突入していることです。

日本では、「看板を外せばどの店かわからない」という同質化競争の真っただ中ですが、いずれ日本も「差別化・異質化の競争」時代に突入していくことは間違いないと思います。

HC(ホームセンター)大手のホームデポとロウズは、同じHCですが、ターゲット客層が明確に異なっています。ホームデポは、男性のDIY客、プロの職人が多く、ロウズは女性客が多いのです。従ってロウズは、照明器具などの完成品の売場が広く、家庭用品の品揃えも、ホームデポよりもはるかに充実しています。同じ土俵で戦わず、差別化・異質化を志向していることがわかります。

また、アマゾンや量販店のどこでも購入できるペットフードを取り扱っているペット専門店チェーンが好調なので、何をやっているかと視察してみたら、量販店では取り扱いのない高機能のペットフードを主力に取り扱っており、商品で差別化していました。業界第2位のペトコは、手作りのペットフードを提供する専門店「ジャスト・フード・フォー・ドッグス」と提携して、店内にインショップで展開していました。

ペット専門店チェーン業界第2位のペトコは、手作りのペットフードを提供するジャスト・フード・フォー・ドッグスという専門店をインショップで導入している。ウォルマート、アマゾンのペットフードの品揃えとの差別化を目指している。

また、業界第1位のベッツマートは、ペットホテル、ペット病院、ペットの美容室を併設していました。ペットホテルの利用率の高さには驚かされました。さらに、物販スペースを犠牲にして、ドッグランのスペースを確保するなど、量販店との差別化・異質化を徹底していました。

満室近いペットホテルとペットの病院。ベッツマートの店内から入れるように併設していた。

SM業態も、なんでもそろう大型のコンビネーションストアの業績が芳しくありません。同質競争ではウォルマートに勝てないからです。一方、FLONHというライフスタイルを、手頃な価格で実現できるという明確なコンセプトが人気の「スプラウツ・ファーマーズ・マーケット」という「ライフスタイルストア」が急成長しています。FLONHとはFresh(新鮮)、Local(地産) Organic(有機) Natural(自然) Healthy(健康)の頭文字をとったものです。

スプラウツは、コンビネーションストアの売場面積の半分程度の800坪の小型店ですが、明確なコンセプトによる「オンリーワン」の価値が受けて、熱烈なファン(固定客)を増やしているようです。

スプラウツの2017年度の売上は4046億円となり、対前年比12.6%増、店舗数も253店舗、対前年比17%増加し、米国小売業の売上ランキングで82位に成長し、ついにトップ100以内にランクインしました。

LINEで注文&カスタマイズで行列止まらない「TOUCH-AND-GO COFFEE」

まだまだ首都圏の一部店舗でしか体験できないBOPISですが、実際に編集部が使ってみて、その使い勝手をリポートしました。今回は日本橋にお目見えし、大人気を博しているTOUCH-AND-GO COFFEEをご紹介します。(月刊マーチャンダイジング2019年10月号より転載)

コーヒーのボディや甘さなどカスタマイズ自在

サントリーが東京・日本橋にオープンした「TOUCH-AND-GOCOFFEE」はボトルタイプのコーヒー専門店で、独特なモバイルオーダーの仕組みを提供している。

専用のアプリなどはなく、LINEで公式アカウントを友だち登録し、対話形式で注文を進める。注文できるのはブラック(250円、税抜き価格、以下同)とラテ(300円)の2種類。

それぞれホットとアイス、コーヒーのボディや味わい、甘さ、フレーバーなどをカスタマイズできる。簡単なスナックも同時に購入可能。受け取り時間は5分単位で指定することができ、購入の際に登録したクレジットカードから自動で決済される。

LINEの対話形式で注文内容を指定できる

受け取り時間の少し前になると、LINEで「コーヒーができました」と連絡が入る。その際にロッカー番号が通知される。店舗にはディスプレー付きのロッカーがあり、指定された番号の扉を開いて、商品を受け取るという仕組みだ。

商品の準備ができるとLINEで案内が届く

ラベルネームがサイネージに映し出される嬉しい演出

面白いのは注文時に登録した「ラベルネーム」が、それぞれのボトルのラベルに印刷される点だ。このラベルネームは店頭のサイネージにも表示される。

店舗を訪問した日は、店頭で商品を購入したたくさんのお客が、サイネージに映し出される「Welcome 〇〇さん」という文字をスマートフォンで写真に収めていた。

このラベルネームがディスプレーに表示されたり、ボトルに印刷されるというアイデアがSNSでアニメファンや、アイドルファンの間で広がり、「推し」の名前をラベルネームにするのが人気になっているのだ。自分だけのカスタマイズによってロイヤルティーは確実に上がる。表立った報道はされていないが、大変な人気でモバイルオーダーの成功事例といえる。

指定された番号のロッカーで商品を受け取る
店頭ディスプレーにオーダーした人のラベルネームが注文内容とともに掲示されている。“推し”のアイドル・アニメキャラクターの名前を入れる人も

注文のフローもまったくストレスを感じなかった。この「ストレスのない当たり前の使用感」こそ、モバイルオーダー導入を検討している小売業が今後目指すべきスタートラインだろう。

農家の生活をカバーする「トラクターサプライ」が急成長

アメリカの小売業は、2017年からの3年間で約1万5,000店も閉店しました。この連載でも紹介したように、大手企業の「ウォルマート」「ホームデポ」は、新店をつくらず、オムニチャネル化で既存店売上を増やす戦略に大きく舵を切りました。そんな中、「トラクターサプライ」というチェーンストアが、「農村の生活をカバーする」というユニークなコンセプトで急成長しています。

毎年100店前後の大量出店を継続しているトラクターサプライ。

「店舗数減少」でも売上を伸ばすウォルマート、ホームデポの戦略

毎年100店舗前後の大量出店を16年継続

「トラクターサプライ」という企業の名前を知らない流通業関係者の方が多いと思います。私も知りませんでした。1年間に1~2回は米国視察に行っていますが、今まで見たことはありませんでした。その理由は、農村ライフを支援する業態なので、かなり田舎に行かないと店がないからです。

調べてみると、トラクターサプライは田舎立地に大量出店し、密かに大成長を遂げていました。米国テネシー州ブレントウッドに本社をおく企業で、1938年に設立されました。2019年通期の売上予想は94億1600万ドル(1ドル108円換算で約1兆円)の巨大企業であることが分かります。店舗数は約2,000店に達しているので、1店当たりの売上は日本円で5億円程度の業態であることがわかります。

同社の2003年の売上が15億ドル・店舗数450店だったので、16年間で売上を約6倍、店舗数を5倍も増やしています。まさに右肩上がりの成長です。

トラクターサプライのカテゴリー別の売上構成比は以下のようになっています。

カテゴリー 売上構成比
家畜・ペット 45%
ハードウエア・ツール・トラック 20%
季節品・贈答品・玩具 20%
服・靴 10%
農業関連 5%

 

主力の「家畜」カテゴリーでは、家畜のエサ桶や飼料も販売しています。田舎の暮らしに欠かせないペット用品も、ペット専門店チェーンを凌ぐ豊富な品揃えです。また、日本の農協のような農機具だけを販売するのではなくて、農家ライフに必要な商品を幅広く品揃えしていることが特徴です。玩具、服、靴などの生活用品も購入することができます。

また、同社のサイトを見ると、最近流行の「BOPIS(Buy Online Pickup In Stores)」にも取り組んでいます。店舗に在庫のない商品も、オンラインで注文し、店舗で受け取ることができます。店舗に在庫のない商品も購入できるので、1店舗当たりの売上は以前よりも増えています。

ネットでなんでも買える時代であっても、専門性の高い商品は、実物を見て確認して購入したいと消費者は考えます。BOPISであれば、店頭で現物を見て、欲しいものとイメージが違っていたら、その場で返品できることも便利です。リアル店舗があることの強みが発揮できる業態です。だから、店舗増加率が年平均10%を超える成長を継続できているのだと思います。

また、トラクターサプライは、大規模農家よりも、田舎のライフスタイルを楽しむセミプロがメインターゲットのようです。田舎の暮らしに寄り添うというニッチな市場で独り勝ちしているわけです。

日本の田舎は今後、「高齢化」と「人口減少」が加速していきます。多くの小売業が、人口の増加する都心立地に大量出店する戦略に方向転換しています。しかし、いくら人口が減少しても、田舎で暮らす生活者は、これからも存在します。競争相手の小売業が人口の多い立地に移転した後に残った「田舎の生活に寄り添う業態」は、「残存者利益」を獲得して大きく成長するかもしれませんね。

日本と違って人口が減少していない米国ですが、国土が広いので、トラクターサプライの立地の人口密度は驚くほど低く、人口も少ないと思います。そういう立地でもトラクターサプライが成立しているのであれば、田舎立地で展開する日本の小売業のお手本になるかもしれませんね。

オーケー、人気の秘訣は「信頼感」と「地域一番の安さ、品揃え」

日本チェーンストア協会によると、2018年度のスーパーでの売上高は12兆9,883億円となり、前年比0.2%減、3年連続で前年を下回りました。豪雨など、年間を通しての天候不順による野菜の高騰や、ドラッグストアでの食品の取り扱いが拡大した影響を受けていると考えられています。そこで今回は、「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」(以下POB)から、独自に収集する「食品・総合スーパー」の購買データ(レシート総枚数:約116万枚)、18年下期(7月~12月)~19年上期(1月~6月)における食品・総合での購買行動を分析します。

地域ごとに全くシェアが異なる食品スーパー

まず、POB会員のレシート購入金額から、「北海道」・「東北」・「首都圏」・「北陸」・「中部」・「近畿」の6エリアをセレクトして、食品・総合スーパーのエリア別売上状況を分析します。

レシート購入金額からエリア別の食品・総合スーパー売上をみると、全国展開されていない地場の食品スーパーが上位にランクインしていました。全国のPOB会員の購買コメントをセレクトして、特徴や施策を紹介します。

■北海道エリア購入金額レシートシェア
1位「イオン(19.1%)」、2位「マックスバリュ(12.2%)」、3位「コープさっぽろ(11.4%)」、4位「アークス(6.2%)」、5位「ビックハウス(5.1%)」

『アークス』価格重視、楽しく買い物ができる売り場作りの工夫
「この店舗はどこよりも安いのでいつも利用している(40代女性)」
「季節や地域限定商品があることが多く、種類が多くて選ぶ楽しみがある(40代女性)」

■東北エリア購入金額レシートシェア
1位「ヨークベニマル(24.9%)」、2位「イオン(11.6%)」、3位「ユニバース(8.9%)」、4位「ザ・ビック(6.5%)」、5位「ウジエスーパー(4.7%)」

『ヨークベニマル』働く女性の増加や高齢化などライフスタイルの変化による惣菜ニーズの高まりに対応
「疲れていたので惣菜コーナーにてカレーを購入。まろやかで香りもよくおいしかった(40代女性)」
「帰りが遅くなる日があるので、すぐに食べられるように、催事コーナーのレトルト食品が目に付いたので購入(50代女性)」

■首都圏エリア購入金額レシートシェア
1位「オーケー(9.6%)」、2位「西友(7.5%)」、2位「イトーヨーカドー(7.5%)」、4位「イオン(6.8%)」、5位「ライフ(5.6%)」

『オーケー』商品に対する信頼感、地域一番の安さと品揃えの良さで選ばれる
「いつも売れ筋しか置かないスーパーなので、購入して外れはまず無い(50代女性)」
「近所のスーパーの中では、格段に安く品揃えもよく、商品がまとめて置いてあり見やすく、つい購入してしまう(40代男性)」

■北陸エリア購入金額レシートシェア
1位「アルビス(11.9%)」、2位「ザ・ビッグ(10.4%)」、3位「大阪屋ショップ(9.5%)」、4位「ツルヤ(9.4%)」、5位「いちやまマート(8.5%)」

『アルビス』地産地消商品の豊富さ・わかりやすい販促物が購買を後押し
「石川名物のお茶なので他の地方には売っていないので買った(男性20代)」
「値段・特売が分かりやすい表示方法だったため購入(女性40代)」

■中部エリア購入金額レシートシェア
1位「イオン(15.9%)」、2位「マックスバリュ(10.5%)」、3位「バロー(8.8%)」、3位「アピタ(8.8%)」、5位「アオキスーパー(6.3%)」

『バロー』低価格のプライベートブランドのストック購入者が目立った
「PB商品の缶コーヒー安く、寄ると必ずストック用に買っておく(30代男性)」
「PBの麦茶は大変コスパが良く気に入っておりいつもリピート買い(40代女性)」

■近畿エリア購入金額レシートシェア
1位「イオン(12.7%)」、2位「ライフ(9.6%)」、3位「万代(9.2%)」、4位「業務スーパー(5.4%)」、5位「マックスバリュ(3.8%)」

『業務スーパー』プライベートブランドや輸入商品など、オリジナリティ溢れる品揃えで他店との差別化
「関西発プロ仕様のネーミングに惹かれてカレーを購入(60代女性)」
「輸入品のトマトジュースですが、飲みやすいです。これからも継続購入していきたい(40代男性)」

購入金額・買上点数が他社を凌駕するオーケー

次に、「イオン」、「イトーヨーカドー」、「ライフ」、「オーケー」、「西友」の5チェーンをセレクトして19年下期における購入状況を分析します。

オーケーは「高品質・Everyday Low Price」の基本方針を掲げ、ナショナルブランドの商品は地域一番の安値の実現を目指しており、スーパーでは根付いていない「競合店に対抗して値下げする売り方」を採用しています。

図表2の、購買コメントにもある、顧客に対して自信が持てる商品のみを販売する姿勢や、ナショナルブランドの品揃えと価格の安さが強みとなって、“まとめ買い購入者“が多く、平均購入金額および買上げ点数が他社と比較すると大きくなる傾向があることが考えられます。

最後に、首都圏エリアの食品・総合スーパーチェーン別レシート購入金額売上上位10社における、曜日別レシート購入金額シェアを分析します。

首都圏エリアの曜日別レシート購入金額シェアをみると、食品・総合スーパー各社平均して、土日に購入金額がピークとなります。なかでも西友は、土曜日の購入金額シェアが29.3%と約3割を占めており、「セゾンカード(クレディセゾン発行)」利用で、毎月「第1・第3土曜日5%OFF」のキャンペーンの効果が表れていることがわかります。

また、平日の月曜~金曜までは、10%前後のシェアとなる中、「イオン」は火曜日に20.0%のシェアがあり、要因をPOB会員のコメントから分析すると、「イオンの火曜市で食材を買いに行き火曜市の時はヨーグルトが安くなるので購入(50代女性)」や、「イオンの火曜市に行くと、特売されているものが目にとまり購入(30代女性)」など、曜日ごとに対象商品を変えて特売する「曜日市」が開催されていました。

他にも、「マルエツ」は、「お店で朝市をやっていて、この商品もかなり安く売っていたので、迷わず購入を決めた(40代男性)」や、「一の市で日替わり特売になる時にストックとして買った(50代女性)」などから、タイムセールや日替わりセールの開催が、来店・購買に寄与していたことがわかりました。

今回の分析結果から、チェーン別レシート購入金額シェアをエリア別でみると、イオンが勢力を伸ばすエリアもありましたが、全国チェーン展開されていない地場の食品スーパーが上位にランクインする傾向がみられました。

また、チェーン別でみると『オーケー』の支持は非常に高く、公益財団法人日本生産性本部発表の顧客満足度調査(スーパーマーケット部門)でも、2010年から6年連続で顧客満足度1位を獲得し、売上高データからは実際に売り上げを伸ばしていることが確認できました。スーパーでは根付いていない「競合店に対抗して値下げする売り方」を採用し、「高品質・Everyday Low Price」の基本方針が消費者に評価されていることが、POB会員の購買コメントや購入状況からもわかりました。

10月からの消費税増税や、キャッシュレス決済ポイント還元施策、セルフレジの導入など、変革期を迎える食品・スーパーチェーン。ますます競争の激化を予感させ、生き残るには、チェーン独自の経営方針や施策が再重要視されるのではないでしょうか。

「つまみ食い的」なデジタル施策の失敗を認め、オンラインID獲得へ動け

にわかに注目を集める「BOPIS」。「Buy Online Pick-up In Store」の頭文字を取ったもので、スマートフォンなどからインターネット経由で注文した商品をお客が店舗で受け取るというもの。モバイルオーダーとも呼ばれる。この「新しい売り方」に私たちはどのように向き合うべきなのか? その現状と課題を分析する。(月刊マーチャンダイジング2019年10月号より転載)

ネットで注文、店舗で受け取り
店もお客もハッピーに

国内小売業ではヨドバシカメラやビックカメラなどの大型家電量販店、カインズなどのホームセンターの一部が導入しているBOPIS。

全体の仕組みを解説すると以下のようになる。

(1)お客はスマートフォンやPCを通じて、店舗の在庫状況や受け取り可能時間を参考に、自分の欲しい商品を選択してインターネットを通じ店舗に注文する。
(2)注文を受け取った店舗は、お客の来店時間に合わせて商品を製造したり、店内の商品をピックアップして梱包する。
(3)来店したお客は、商品を受け取る。このとき、アカウントIDに紐付けられたカードなどから自動で決済されるため、店頭で支払いをする必要はない。

受け取り方法はカウンター、ロッカーなどが一般的だが、アメリカではカーブサイドピックアップという、店舗に入らずに駐車場で受け取る方法も人気だ。

[図表1] BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)

物販におけるBOPIS導入のお客のメリットとしては、大きく以下の5点を挙げることができるだろう。

(1)店内を歩き回り、商品を探す手間がかからない。レジの順番待ちも不要。
(2)注文時に在庫を確保できるので、店舗に行って品切れという心配がない。
(3)送料の負担がない。とくに単価が低い食品や日用雑貨は配送料の方が高くなってしまうので、家への宅配を選ぶ人は少ないが、店舗受け取りであれば送料を気にすることなくネットから注文できる。
(4)店舗に受け取りに行く日時を指定できる。ネットで商品を購入すると、家で商品の受け取りを待つ必要があり、忙しい人にとってはかなり面倒だ。
(5)生鮮食品やDIYの素材など、画一的でない商品は受け取り時にお客が商品をチェックして、気に入らなければ返品することも可能である。

一方の店舗側のメリットは(1)配送コストの削減、(2)レジ精算の省力化、(3)お客の囲い込み、などが考えられる。同時に(1)システム改修費用、(2)ピックアップのための作業工数増、などのコストを見込んでおく必要がある。

正確な在庫状況を公開できるか
リードタイムは短いか

BOPISの仕組みを導入する際にまず重要となるのが、アプリやウェブサイト上で店舗の在庫状況を正しくお客に開示できるかどうかだ。在庫データが正確でないと、在庫引き当てができずトラブルのもとになる。

また、インターネット経由だと、理論的には上限なしに注文を受けることができてしまうので、シーズン性の高い商品や、人気の商品などを取り扱う場合、注文をさばききれずにお客を待たせるようなことにもなりかねない。注文に対応する従業員の状況を把握し、増減する注文を処理する態勢をつくれるかどうかも鍵となる。

注文から受け取りまでのリードタイムをどれだけ短く、自由に設定できるかもサービスレベルに直結する。いま必要な商品が数日後にしか受け取れない、ということであれば、お客は即座にほかの店舗を選択するだろう。また、自分が希望する店舗訪問時間に商品を受け取ることができないと、利便性も一気に下がってしまう。

図表2は、現在大手小売業で「ネットで注文した商品の店舗受け取りサービス」を行っている一部の事業者の状況を編集部がまとめたものである。

[図表2] 国内でBOPISサービスを提供している主な小売業

ヨドバシカメラ、ビックカメラは、在庫があれば30分で受け取りが可能。会社帰りに駅前の店舗に立ち寄って、欲しいものをピックアップして帰ろうというお客のニーズにも対応できるサービスレベルだ。ヨドバシカメラの大型店は、閉店後もネット注文商品を別窓口で受け取ることができる。大都会に立地する店舗ならではのサービスであるが、きわめて高いサービスレベルの提供を目指していると考えられる。

カインズは2018年12月に、在庫がある商品であれば注文から55分以内に準備完了とする「55-DASH PRO」をスタート。2019年4月現在、5店舗で実施している。

そのほかの企業はオンラインショップの商品を店舗で受け取るというシステムになっているようで、注文から受け取りまで数日以上かかる企業も少なくないし、商品受け取り可能日時を注文時に確定できず、あとからメールなどで連絡が来るという不便なやりとりも発生している。

システム連携に不備があり、店舗の在庫をお客向けに表示できず、ネット用倉庫に在庫されている商品を引き当てているために起きている現象といえよう。このように日本の小売業のBOPISの状況はかなりお粗末なものだ。

対Amazonでネットに投資したから
米国小売業は成功した

日本国内ではまだ発展途上のBOPISだが、アメリカでは一足先に普及が進む。世界最大の小売業であるウォルマートでは店頭に大型のピックアップタワーを配置し、ネットから注文した商品をお客が受け取っている光景が当たり前のものになった。これまで700店舗に設置していたこのピックアップタワーを、同社は今後全店に設置する予定だ。

そのほか大手チェーンストアがこぞって店内の目立つところにピックアップカウンターの設置を進めている。米国では2017年に11.6%だったEC化率が2018年には14.3%にまで高まったが、これをけん引したのがBOPISであるという。

飲食業や小売業向けにモバイルオーダーのシステムを提供しており、各国のBOPISの状況に詳しいShowcase Gigの新田剛史氏はアメリカのBOPISの発達について次のように分析している。

「Amazonの脅威に対抗するため、アメリカの小売業は2000年代にはECの強化を始めていました。ECの肝となるのはお客の決済情報が紐付いたオンラインIDをいかに増やすかです。そのためにありとあらゆる手段でお客の手元に商品を届けようと投資を続けました」

しかしアメリカは人家がまばらな地方も少なくない。隣の家まで車で2時間かかるというような場所も多く、配送コストは割高だ。そのため日本よりも配送料金が高く設定されていることが一般的だった。そこで普及したのが「オンラインで注文したものをお客が店舗に取りに行く」という行動なのだ。

さらに店舗が広すぎて商品の買い回りが大変であることも、ウォルマートやホームデポでのBOPIS拡大を後押しした。ホームセンターに関しては、大型の木材など配送が難しい商品が多く、さらに商品が画一的ではなく、商品を見て買いたいというニーズが高いことなども店舗受け取りを選択する理由となった。ホームデポでは、すでに売上の半分以上はオンライン関与になっている。店頭の目立つ位置にピックアップ専用のロッカーも配置されるようになっている。

ウォルマートのピックアップタワー。ひっきりなしにお客が商品を受け取りに訪れる
ホームデポの宅配ロッカー。日本と違って目立つ位置にある
駐車場で商品が受け取れる「カーブサイドピックアップ」も人気

ピックアップカウンター登場で
変わる売場レイアウト

現在国内の小売業におけるBOPISは、家電量販店やホームセンターなど、高単価の商品や低単価商品の複数購買というシーンで活用されているが、この先はもっと少ない商品点数、低単価の購買行動もBOPIS化していくことが見込まれる。仕事帰りにちょっとした雑貨や医薬品を電車の中からスマートフォンで注文して、店舗に寄ってピックアップしていくという買物行動は、この先拡大していきそうだ。

BOPISの普及は実店舗の景色も変えつつある。ウォルマートで導入されているピックアップタワーの開発元であるクレベロン社(イスラエル)によると、商品をピックアップして帰るお客向けに、ガムやキャンディなどのお菓子やドリンクなどついで買いを誘発する商材をピックアップタワー周辺に展開する店舗が増えてきているという。BOPISによって売場の在り方も徐々に変化している。

在庫データとPOS連動
しないことが足かせに

だが実際にBOPISを導入するとなると、システム面、オペレーション面で越えなければならない課題がある。一番大きいのが在庫データ一元化の問題だ。本来であれば、店舗にある在庫がきちんとデータとして整備されていて、ネットからの注文に対してもここから在庫引き当てを行うという仕組みでなければならない。

しかし店舗のデータはPOS経由でしか取り扱うことができず、そのPOSにBOPISの仕組みをつなぎ込むことができないため、店舗の在庫データとは別にネット用の在庫データを持っている企業はいまなお少なくない。

(オンラインから店舗受け取りの注文を含めた)売上の全数はPOSを通り抜けるような設計になっているべきです。アメリカの小売業はそこのつくり込みができているのですが、日本の場合、既存のPOS事業者とのしがらみが大きく、POSと新規システムのつなぎ込みが難しいという状況です。しばらくはPOSとは別にBOPISのシステムデータを持つような、在庫非連動型の仕組みで動かさざるを得ないのではないかとおもいます」と新田氏は状況を分析する。

「オムニチャネル」への誤解が
日本小売業に影響を与えた

今後、小売業においては、個人の決済手段・配送情報と紐付いたオンラインIDを確保することが最重要課題であることは間違いない。オンラインIDの囲い込みの意味でも、今後日本でもBOPISは間違いなく進むはずだ。

しかし現状の日本の小売業はその投資に後ろ向きな企業が多そうだ。その背景には間違ったオムニチャネルの理解があったのではないかと新田氏はいう。

アメリカの場合、消費者が店舗受け取りを選ぶようになった理由は、自宅に商品を配送してもらって配送料を支払うよりも、お客自身が店舗にピックアップに行った方が安価だという合理性が背景にあった。

またEC強化についても、対Amazonを旗印に、オンラインIDを獲得しようとアメリカの小売業は日本とは比べ物にならないぐらいの投資を行った。このように、オムニチャネル発展の流れの中で、自然にBOPISが成長した。

一方日本でオムニチャネルという言葉が登場したのは、2013年ころ。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長(当時)の号令によって、トップダウンでオムニチャネルが推進された。他企業も追従してはいるが、なぜ導入すべきなのかという議論は後回しで、本質的な意味は理解されていない。これではどんなに逆立ちしてもアメリカの小売業には太刀打ちできない。

環境としてはオンラインからの注文が花開く状況になってきているのに、定義そのものが間違っている。だからオンラインに関わる部門がお荷物扱いになっている小売業が多い。オンラインからの注文件数が少ないからサービスレベルに自信がなく、ピックアップカウンターを置いている小売業の店頭でも、こぢんまりとしかピックアップカウンターを展開していない。ウェブやアプリでも、サービスがお客の目につくような動線設計になっておらず、これでは利用者が増えるわけがないのである。

このように小売業のチェーンストアではなかなか前進しないBOPISだが、チェーン系の飲食店や百貨店の食品部門などでは成功事例が登場しているという。

「去年は懐疑的だった小売業が多かったが、いま感覚的にかなりの数の企業が『BOPISをやらないと話にならない』と考えているようにおもいます。来年はもっと多くの企業さんがそう考えるでしょう」(新田氏)

まだまだ課題が山積しているBOPISだが、いま問題解決に着手し過去の膿を出し切らなければ、次の時代に生き残る小売業になれるはずがない。これまで自社が行ってきたデジタル施策を一度振り返り、間違いを再確認し、過去の負債を清算すべきタイミングなのではないだろうか。求められているのは、勇気ある決断だ。

PALTACのRDC埼玉が竣工。ロボット適用範囲拡大し生産性を従来比2.3倍に

日用品・化粧品・一般用医薬品などの卸販売最大手の株式会社PALTACが、2019年10月10日に「RDC埼玉」竣工披露会見を開催した。人手不足に対応した従来比2倍の人員生産性を可能とするPALTACの物流モデル「SPAID(Super Productivity Advanced Innovative Distribution)」導入第2弾の物流センターとなる。(ライター:森山和道)

ピースピッキングにもロボット活用、従業員数大幅減

「RDC」とはRegional Distribution Center(大型物流センター)の略称。敷地面積は約67,000平米(約2万坪)、床面積は約45,000平米(14,000坪)。2018年8月に稼働した「RDC新潟」と比較すると、規模は出荷額ベースで約5倍と、PALTAC最大規模の物流センターとしてオープンする。年間出荷額は1,200億円を想定している。立地は埼玉県北葛飾郡杉戸町で、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)幸手インターチェンジから車で約8分の場所。首都圏の流通を担うには最適だという。配送エリアは埼玉、千葉、東京、栃木、茨城、群馬の関東エリア。投資総額は230億円。内訳は土地39億円、建物96億円、設備96億円。取り扱いアイテム数は2万SKU。

RDC埼玉。PALTAC最大規模の物流センター

RDC埼玉でもRDC新潟同様、人が歩かないバラピッキングシステム「MUPPS(Multitaskcrane Piece Picking System、マップス)」を活用している。加えて最大の特徴はさらなる生産性を追求するため、ロボットの適用範囲を拡大したこと。RDC新潟ではケースピッキング(デパレタイズ)のみにロボットを活用したが、それに加えてケースローディング(積み付け)、ピースピッキングにもロボットを活用する。人とロボットを組み合わせることで、「バラ出荷」の人員生産性は従来のセンターの2.5倍となった(RDC新潟では2倍)。初期投資効率は新潟の2倍になるという。「ケース出荷」も含めたトータルの生産性は2.3倍を想定している。

ピースピッキングにもロボットを活用することで、バラ出荷の人員生産性は2.5倍に

人員数で見ると、RDC埼玉ではパート従業員300名が常時作業するが、従来の方式なら800名規模になるという。入庫エリアにも「自動入庫検品システム」を導入し、ドライバーの荷下ろし時間を大幅削減する。設備の投資額は従来のセンターに比べると「十数億円くらい高い」が、3年程度でペイするとのこと。維持費は従来のセンターと変わらず約1億円。

PALTACでは卸の枠を超えて自社で技術開発を行っているが、今回は3Dビジョンを活用したモーションプランニングによる知能ロボットソリューションを提供するスタートアップ3社と協業している点も特徴だ。会見にはピースピッキングを自動化したRightHand Robotics, Inc.、ケース積み付けを自動化した株式会社MUJIN、ケースハンドリングを自動化したKyoto Robotics株式会社の3社も同席し、それぞれの強みとソリューションを紹介した。

さらに進化した次世代型物流システム「SPAID」

(左から)PALTAC 常務執行役員 経営企画室長 嶋田政治氏、同 取締役専務執行役員 物流・情報システム統括本部長 田代雅彦氏、同 執行役員 研究開発本部長 三木田雅和氏、同 物流本部 副本部長 佐塚大介氏

物流センターでは常時2万種類以上の商品を在庫し、毎年1万種類近い商品が入れ替わる状況にある。PALTAC取締役専務執行役員 物流・情報システム統括本部長の田代雅彦氏は、生産性の向上と、サプライチェーン全体を視野に入れた「ホワイト物流」について強調した。ロボットのほかに自動入庫検品システムと、作業人員の適正配置を可能とする入庫予約システムを組み合わせることで、トラック着荷時間が平準化。これによってトラックの待機時間を短縮した。また、フォークリフト作業を排除するなどして安全性も増すこともできたという。

PALTAC取締役専務執行役員 物流・情報システム統括本部長 田代雅彦氏

物流センターの物の流れは、ダンボールケースのまま入庫・出荷する「ケース物流」と、ケースの中の物品を一度バラして個別に必要分を組み合わせて出荷する「バラ物流」に大別される。今回は、その両方にロボット技術を導入した。RDC埼玉での内訳は、全体の出荷作業量のうちバラ出荷が7割程度を占める。

[ケース出荷の流れ]重筋作業から人を解放

ケースピッキングロボット。Kyoto Roboticsによる。ティーチレス・マスターレスで、ケースの寸法と重量を自動で高精度計測できる

まずはケース入荷・出荷の場合は、入荷したケースは、「自動入庫検品システム」を経て、最適速度に制御されてパレットを安定搬送できる自動台車「ロボストレージ」で自動的にパレット自動倉庫へ送られる。これによってフォークリフトによる入庫がなくなった。ケース単位入荷商品はケース自動倉庫に送られる。出荷時は、それぞれの自動倉庫から「ケースピッキングロボット」を使って、ケース積み付けシステムを経由して作業者によって出荷されるか、そのまま出荷される場合は「ケースシーケンサー」に一時格納されて積み付け順に順立てて出庫し、「ケースローディングロボット」を使って店舗別に出荷されていく。

ケースシーケンサーで適切な順序に順序立てられたケースが積み付け工程に運ばれて行く。奥に見えるのがケースローディングロボット

ケースピッキングはケース認識率を 99.8%まで向上させた。マスター登録をする必要がなく事前測定作業の必要もない。ピック速度は平均で1時間あたり700ケースで、これは世界最速だという。しかも出荷ミスがゼロになった。ロボットは同時に寸法と重量を計測し、そのデータも一緒に後工程に送られて活用される。

ケースローディングロボットによる積み付け。MUJINによる。多様なケースを出荷先ニーズに応じてパレット・かご車・カートラックへ自動積み付けする

「ケースシーケンサー」には最適充填アルゴリズムを搭載しており、後工程で各種マテハン機器に積み付けを行うケースローディングロボットが扱いやすい順番でケースを出庫する。これにより人手での積み直しがなくなり、ロボットはパレット、かご車、カートラックなど3種のマテハン機器にケースを自動積み付けするが、人手よりも高効率な積み付けができるという。積み付け速度は最大で1時間あたり450ケースで、世界最速。人にとって負荷の高い作業を削減できると同時に、充填効率が最大となり、配送コストの削減が可能になった。

作業者がパレットに積み付けを行うときは「E-ELS」という作業者負荷軽減システムを用いる。パレットの高さを昇降装置で最適な位置にコントロールすることにより、常にほぼ同じ高さで積み付けすることで、作業者の腰の負担を大幅に軽減することができる。

[バラ出荷の流れ]人は歩かず、ロボットと組み合わせ

ピックトレーステーション。RightHand Roboticsのロボットと人手を併用。ロボットは商品の事前登録作業やロボットのプログラミングが不要。これによって作業効率の向上と人の負担の軽減を両立させた

バラ出荷の作業は、効率よく出荷するために、ケース内の商品をストレージトレーステーションで保管トレーに移し替えるところから始まる。この過程にはまだ人手が使われているが、歩き回る必要はない。保管トレーはいったん自動倉庫へ自動搬送される。その後さらにピックトレーステーションで必要数量分を保管トレーからピックトレーに移し替える。ここの過程には、ロボットと人手が組み合わされているが、やはり人は歩いて商品をピックする必要はない。将来的にはすべてロボット化して完全自動化したいと考えているという。

商品を詰められたオリコンはクロスベルトソーターで搬送され、店舗ごとに割り当てられた間口に仕分けされる。そしてパックステーションでオリコンに詰め替え、オリコンシーケンサーで一時格納されてまた積み付け順に順立てされて出庫。そしてオリコンスタッカーかオリコン積み付けロボットによって積み付けられたあと、二度で結束バンドを取り付けられて出荷バースまで自動搬送され、出荷となる。オリコン積み付けロボットは3つのオリコンを把持して同時に積み付けることができる。生産性は3倍に向上した。

ケースの天面カットにはSSカッターまたはオートカートンカッターが用いられており、その後の蓋取り工程も完全自動化されている。これによって作業者負担と安全性が向上した。

既存設備は運用で改善

PALTAC 執行役員 研究開発本部長 三木田雅和氏

「RDC埼玉」の稼働時間は現状は15時間と見て最大出荷額1,200億円という計算になっている。だが自動化によってセンターの稼働時間を延ばすことができれば、出荷額も上げることができる。だがパート従業員の確保は困難になっており「取り合いのような状況」にある。そこで新技術活用による労働環境の良さをアピールしてパートの確保に務める。

生産性向上については、既存設備については「SPAID」は導入できないため、「RDC埼玉」のような仕組み自体を変えることによる生産性改善と、従来のセンターでの運用面での生産性改善を、並行して進めていく。なお、新センターを立ち上げたことによって、従来のセンターであっても活用できるヒントが得られるという。たとえば「歩かない」ということが生産性向上の鍵であることがわかったので、いかに歩行距離を短くするかをカギとして従来のセンターの改善を行なっていくとのこと。

PALTACではシステム担当者が100名、開発で20名が技術関連業務に従事している。全体のシステムはPALTACが設計しているが、今回の取り組みは前述のとおりスタートアップ3社と共同で行われている。今回スタートアップと組んだ理由は「特にスタートアップにこだわっているわけではないがAIやロボティクス領域の活用においてはスタートアップのほうが圧倒的に速度が速いからだ」とのことだった。

[ピースピッキング自動化] RightHand Robotics

RightHand Robotics, Inc. co-founder Leif Jentoft氏(右)と日本法人社長の田村研三郎氏(左)

ピースピッキングの自動化には、2019年3月に協業を発表したRightHand Robotics, Inc.(RHR)のピースピッキングソリューション「RightPick2」を活用している。導入したロボットは10台。同社のco-founder(共同創設者)のLeif Jentoft氏は「PALTACは最先端のものの見方をする企業。未来のフルフィルメント拠点に携わることができてワクワクしている」と語った。「RightPick2」の国内導入は初めて。

RHRは2011年に米国DARPA(国防高等研究計画局)の主催するロボットマニピュレーションの競技会をきっかけに集まったチームをもとにした会社。「顧客課題に対応するソリューションを提供することで初めて世の中を変えることができる」と考えて起業したという。

アメリカでは従業員の無断欠勤が2割以上と大きな課題となっている。また物流センターでは離職率が非常に高く、300%にも及んでいるという。そこで自動化が求められているが、ピースピッキングの自動化は難しい。

RHRはカメラとロボットアーム本体は既製品を用い、手先のグリッパーと制御ソフトウェアは自前で開発している。グリッパーは物体を挟めるクリッパーと吸引が組み合わされた独自のデザインだ。また、ディープラーニングを活用し、過去の経験にもとづいて学習していく機能を搭載している。学習に必要なラベルデータは自動生成され、学習はクラウド上で行われる。

最大の特徴が、事前学習やスキャニングを必要としないモデルフリーアプローチの機械学習をとっているところ。事前にスキャンする必要がないので最初の設定が楽なだけでなく、包装が変わったり、特定シーズンのアイテムなどにも自在に対応ができる。なかには20万種類以上のアイテムをハンドリングしている顧客もあるという。

同社の技術は「Range(範囲)、Rate(速度)、Reliability(信頼性)」の3Rを掲げており、ケース内に高密度に物が入っていてもピックできるなど、様々な掴み方ができるとアピールした。また、日本が戦略的に重要なマーケットだと考えており、日本にも合同会社を設立したと田村研三郎氏を紹介した。Leif Jentoft氏は「ロボットをうまく活用してロジスティクスの世界をよりよくしたい。ロボットは顧客満足を最適化します」と語った。

PALTAC研究開発本部 副本部長 松本祥平氏は質疑に答えて「速度にこだわらなければおおよそ半数はピッキングできるが、ロボットが得意なアイテムとリトライが多いアイテムがある。そのグラデーションのなかでどこまで人で行い、どこまでをロボットでやるかは検討中」と述べた。

[ケース積み付け自動化]MUJIN

MUJIN ケース積み付けロボット。混載ケースを3種類の什器に自動積み付けする

MUJINのロボット・パレタイズ・ソリューションも導入する(2019年6月発表)。出荷時のケース積み付け工程を自動化し、重労働を削減する。パレットやカーゴ車、カートラックなど出荷マテハンに対して最適な積みつけ位置を自動で決定し、ロボットが自動で積みつけていくことができる。積みつけ対象のケースの把持位置、搬送方法などの設定は必要ない。特に一つのロボットによる3種別以上のケース積み付けは従来は難しかったが、今回初めて実現する。

なおMUJINのソリューションは「RDC新潟」にも既に導入されている。RDC新潟ではパレット自動倉庫から出庫したケースを4台のロボットがパレットからおろしてコンベヤに自動投入している。

MUJIN CEO兼共同創業者 滝野一征氏(右)と同 営業本部 物流営業部長 兼 PMリーダー 荒瀬勇氏

MUJIN CEO兼共同創業者の滝野一征氏は、PALTACについて「恩義がある会社だと認識している」と述べて「新しいチャレンジの機会を得て嬉しい」と語った。MUJINはロボットを制御する「コントローラー」を作っている会社だ。産業用ロボットはロボットメーカーごとに操作性が異なり、ティーチングも別々の方法を学ぶ必要がある。また基本的に繰り返し動作を実行するだけなので、柔軟性が必要な中間物流業者では使いづらかった。

MUJINのロボットコントローラーを使うと、事前のティーチング作業なしで多品種の物体をハンドリングできるようになる。現在8社の産業用ロボットに対応しており、物流は同社売り上げのうち60%を占めている。RDC新潟では単載のデパレタイジングをロボットで行なっているが、今回は混載を3種類の什器(パレット、かご車、カートラック)にロボットで積んでいる。。

従来の人手による作業をロボットで自動化した

従来はシュートの下に人が、手作業で目的地に応じて箱を積み、必要に応じて積み直し作業を行なっていた。だがMUJINの技術によって、まず最終的に積載するロボットの動作まで考慮した積み付け計算を事前に行なってケースシャトルで順番立てが行われて、適切な順に箱が流れてくるようになった。単純に詰めばいいわけではなく、ラベルを外にして積んだり、上からドンと置くのではなく横からややスライデンィグして積載するといった動きをロボットが自動生成することができる。また、かご車が変形してることもありえるので、事前にカメラを使って什器を見て認識している。これらの技術によって非常に高い効率で重労働作業を自動化できたと述べた。滝野氏は「PALTACとMUJINが目指す世界は重筋作業がない世界」だと語った。

また前述のRightHand Roboticsのようなピースピッキングも中国JD.comでは行なっているとライバル意識を見せた。「ライバルが入ってくることは悪いことではない」と述べ、「MUJINの強みは様々なアプリケーションがあること。デパレだけ、ピースピッキングだけではなく、一気通貫で上流から下流までやってくれというときに応えられる会社だ。また全て自社のプラットフォームの上で動かしており、自分たちの制御システムで全てを握っている」と語った。

[ケースピッキング自動化]Kyoto Robotics

Kyoto Robotics ケースピッキングロボット

3次元ビジョン技術を活用したマスター登録不要の技術を使ってケースピッキングロボット(デパレタイジングロボット)を提供するKyoto RoboticsとPALTACは2019年5月に自動化パートナーとしての取り組みに合意していた。商品ごとにケースサイズや重量は異なるため、従来は導入初期や改廃の都度行なっていたマスター登録が必要だった。それが不要になり、ヒューマンエラーがなくなると同時に、時間あたり処理能力も向上した。

Kyoto Robotics 代表執行役社長 徐剛氏

代表執行役社長の徐剛氏は同社について「3次元の目と脳を作っている会社だ」と紹介した。3次元ロボットビジョンセンサ「TVS」は、プロジェクタから特殊な模様を照射して高精度な3次元点群データを作ることができる。以前はビジョンセンサだけを提供しFA分野を主な対象としていたが、2017年からは物流分野に進出し、PALTACとの開発を続けてきた。

今回導入されたロボットは8台。1万4000個を収納するパレット自動倉庫から降りてきたパレットからのデパレ作業を行う。ハンドは一種類だけで、様々なケース天面形状を徹底研究して確実にピックできることを確認したという。速度は平均1時間あたり700ケース。ビジョンのパラメーター調整は必要ない。環境光にも非常に強く「倉庫のシャッターを開けたくらいではビクともしない」という。

天井に取り付けられたKyoto Roboticsのビジョンセンサ「TVS」

そのまま出荷される場合は、前述のMUJINのロボットが作業を行なっているケース積み付けに回る。Kyoto Roboticsのロボットは作業中にケースの寸法と重量を高精度計測する。MUJINはそのデータを使ってシミュレーションを行なっている。

寸法はビジョンセンサで計測し、重量はロボットアーム先端の重量センサーで計測する

徐剛氏は、「アナログからデジタル、デジタルからアナログへいくところが難しい」と語った。「目は非常に厄介なアナログの光を相手にしている。そこからデジタルな認識をしないといけない。ハンドも力学や摩擦などアナログの要素が強い」ため難しいと課題を紹介した。今回は単載のデパレロボットだが、今後は混載のニーズにも応えていくという。

スポーツ愛好家による商品開発、体験型の店舗販売を志向する「デカトロン」

フランスで創業したスポーツ関連商品の製造販売企業デカトロン。企業スローガンは「SPORT FOR ALL ALL FOR SPORT(スポーツをすべての人に、すべてはスポーツのために)」で、より多くの人にスポーツを楽しんでもらうために商品や店舗を設計している。商品開発のプロセス、店舗運営、ECを活用したオムニチャネル戦略などは未来へ残るためには参考になる事例である。(月刊マーチャンダイジング2019年9月号より転載)

日本ではEC販売を先行スタート

デカトロンは1976年フランス北部の街リールで誕生。スポーツを愛する人たちが、より多くの人に「スポーツの喜びと恩恵を提供する」ために創業、その精神はいまでも脈々と受け継がれている。

世界55ヵ国に1,500店以上出店しており、2018年のグローバルの売上高は約1兆3,000億円。日本では2015年からEC(インターネット販売)を先行スタート。2017年には大阪にデカトロンラボという小型の実験店を出店。2019年3月に兵庫県西宮市のショッピングモール「阪急西宮ガーデンズ」内に日本1号店をオープンした。

アジアでは2003年上海に中国1号店を立ち上げ、現在289店以上を中国に出店している。店舗数では世界の中でもフランスの319店と双璧をなしており、中国はデカトロンの主要営業エリアとなっている。

その他アジアではインド、マレーシア、ベトナム、カンボジア、インドネシア、タイ、フィリピン、シンガポール、台湾、韓国で営業。いわゆる先進国だけでなく、発展途上国へも出店。

経済力だけが進出の基準ではなく、より多くの人にスポーツを楽しんで欲しいという同社の姿勢が見える。

中国は人口や経済の成長性、競合状況などからキーになる市場ということで早期に出店しており、日本はアジアでは後発の出店となる。スポーツが盛んで経済力のある日本市場を同社では有望視している。

店舗での体験を重視。オムニチャネルを促進する

兵庫県は六甲山系がありマウンテンスポーツやトレッキングが楽しめる。また武庫川水系、揖保川水系などの河川、須磨海岸や但馬海岸などウォータースポーツ、マリンスポーツを楽しむ環境も整っている。こうした同社が取り扱うカテゴリーのスポーツを楽しめる豊かな自然環境を備えていること、人口豊富な大きな都市に近いことで兵庫県西宮市が日本1号店の出店地に選ばれた。

デカトロンは今後は1年に2、3店ほど出店したいとのことで、社内には店舗開発チームがある。出店した地域でスポーツを振興させたいというローカル意識も高い。

一方で実店舗より前にECによる販売を開始しており、実店舗の出店と同時にデカトロンの認知率を上げ、ECの販売も強化していく。リアル店舗で商品を見て体験しECで購入する、ECで商品を見て実店舗で体験して購買するなど、ECと実店舗の相互利用、オムニチャネルを進めていきたい考えだ。西宮店内にもデカトロンのサイトとつながったモニターが設置されており、情報の検索や商品の注文が店舗からできる。

送料は全品無料のキャンペーン実施中、13時までの注文は当日に出荷する。ECサイトは見やすく探しやすい。「イメージと違った」という理由による返品もOK(返品条件の規定あり)。筆者もECサイトから購入してみたが配送は迅速でストレスはない。アマゾン(プライム会員)の買物体験に近い印象。配送センターのオペレーションは相当に効率化が進んでいるものと推測できる。

EC比率は開示していないが、このあと紹介するように、商品のクオリティは高く価格は非常に値ごろ感がある。

デカトロンの認知率が高まればECによる販売が加速度的に高まることも予想される。

人口が多くスポーツが楽しめる自然環境を備えた主要都市に出店し、消費者はそこでショールーム的に商品を体験し、実店舗およびECで購入するというパターンが増えるのではないか。

スポーツ愛好家、ユーザーの声を聞きながら開発

デカトロンでは、携わる者すべての情熱が込められているという意味で「パッションブランド」と位置付けられる自社ブランドをスポーツごとに設けている(図表1)。

スポーツの数はグローバルでおよそ100種類、日本のオンラインでは80種類、デカトロン西宮店では約30種類のスポーツに関連する商品を販売している。ヨーロッパでの競技人口が少ないため野球のブランドがなく問い合わせも多いことから、日本と台湾のチームで現在開発中、近い将来店頭に商品も並ぶ。

[図表1]デカトロンの扱う主要スポーツとパッションブランド名

同社の開発体制はユニークで、開発チームのメンバーは全員そのスポーツに精通した愛好家である。「研究開発センター」と呼ばれる、そのスポーツを楽しむ施設(競技場)、ショップ、研究開発室が一体となった大型の施設をヨーロッパを中心に9ヵ所展開している。

たとえば、サッカー、バスケットボール、その他チームスポーツのブランドであるキプスタは、フランス・リールに4万5,000㎡の広さにサッカー、ラグビー、バスケットボールなど20種類のスポーツができるピッチと研究室を兼ね備えた「キプスタジアム(Kipstadium)」という施設を保有(写真1)。

プレーする人たちからの声を聞き、また開発者自身もスポーツにいそしみながら商品を開発・改良していく。ゴルフブランド、イネシスは「イネシスパーク」と呼ばれる研究開発センターがフランス・リールにあり、敷地内には研究室のほか、ハーフのゴルフコース、ドライビングレンジ(打ちっぱなし場)、ショップを併設している。

[写真1]研究開発拠点「キプスタジアム」

広大な敷地にピッチと研究施設を収容

このように、開発チームのメンバーはエンジニアリングやマーケティングなど役割に必要な専門知識・技術を持ちながら、自らも担当するスポーツを楽しみ、利用者の意見を吸い上げられる環境にあり、アクティブなユーザー目線で商品開発をしている。

SPAで高機能の商品を魅力的な価格で販売

こうした開発プロセスからは、定番商品が常に改良されていくことに加え、革新的な機能を備えたこれまで市場になかった商品が生まれている。たとえば、(SUBEA/スベア)というシュノーケリングのブランドで開発された「イージーブレス」というシュノーケリングマスク(写真2)は、バルブを口にくわえず、顔全体に密着させたマスク内で口と鼻を使って自由に呼吸することができる。シュノーケリング好きの開発チームがもっと簡単に楽しみたいというニーズに焦点を当て実用化に至ったものだ。価格は税込みで4,090円、子供が楽しめるサイズもある。

[写真2]シュノーケリング用マスク「イージーブレス」

その他、2秒で開くテント、ネットや支柱をコンパクトなサイズにまとめて持ち運び自由にしたポータブルバドミントンセットなどは画期的な商品で販売も好調。とりわけバドミントンセットは同店の売れ筋商品である。

「より多くの人にスポーツの喜びと恩恵を提供する」という企業理念のとおり、商品は機能、価格を含めスポーツを始めやすく、自分のレベルに合わせて長い間楽しめるように設計されている。

「スポーツへの垣根をなるべく低くしており、商品のコンセプトはアクセシブル(accessible)、手に入れやすい、手軽に使える、スポーツに手が届きやすいことです」(デカトロンジャパン広報・PR 仲 志乃生氏)

その考えがもっとも当てはまるのは価格だろう。SPA(製造小売業)という手法を取ることで、開発・製造・物流・保管などのサプライチェーンを効率的に整備でき、グローバルで製造するのでロットが大きく、スケールメリットが出て価格を低く抑えられる。店内のほぼすべての商品にはRFIDタグが付けられており、おそらくは緻密な在庫管理や需要予測でロスの少ない生産を行っているとおもわれる。

こうした生産体制により、競争力のある商品が値ごろ感のある価格で販売できる。一例を挙げると、ケシュアの登山・ハイキング用10ℓのバックパックは390円(税込み)、ECで購入しても今ならキャンペーン中なので送料はなし。アクセシブルな価格だ。ほか、ECサイトを見ればわかるが、機能性が高くデザイン性にも優れた商品が魅力的な価格で販売されている。

ターゲットはとくに設定せず、そのスポーツを楽しみたい老若男女。ただし子供にはキッズサイズが用意されており、子供に対するアプローチが充実しているのも特徴。子供のころからスポーツ愛好者を増やしたいという同社の戦略が見える。

また、安全にスポーツを楽しむというポリシーもあり、各商品の安全性に注力していることに加え、防護用の商品も充実している。

ターゲットは特定しないが、自分のレベルに合わせて商品を選ぶことができる。多くのブランドでは初級、中級、上級とレベルに合わせた商品を用意しており、レベルが上がるにつれ機能性は高くなり、価格もそれに合わせて上がるという構造になっている。

専門家がカウンセリング担当。体験を重視したオムニ化を進める

デカトロン西宮店の売場面積は約1,800㎡(約550坪)、グローバルでは約3,500㎡(約1,000坪)を標準としているので、同社の中ではやや小型に属する。

売場レイアウトは、入り口にプロモーションスペース、続いて「TRY ME!(私を試して)」と呼ばれる体験スペースがあり(写真3)、シーズンやタイミングに応じて展示内容は変わる。取材時の体験スペースでは、ミニバスケットボールやバドミントンなどの展示があり、平日だったが小中学生、親子連れでにぎわっていた。

[写真3]TRY ME!スペース

入り口右にあるスペースでは、自由に使える商品が置いてある

[写真5]ポータブルバドミントン

TRY ME!スペースに置いてあるバドミントンはこのケースの中にラケット2本、シャトル2個、ネット、ネットの支柱が収納できる

[写真7]スタンダップパドル

ボードの上に立ちパドルで進む水上スポーツ。空気を抜けばバッグに収納して持ち運べる

売場レイアウトは主通路を入り口から奥まで一直線に通す「I字型」、各通路の入り口にある棚にスポーツ名がわかりやすく大きく表示されている(写真4)。定番売場でも体験用の商品が置いてあり、試せることを重視している。

[写真4]主通路

売場サインが見やすくなっている。通路にはプロモーション商品が置かれる

主通路に近い方から、初心者用で低価格な商品が陳列され、奥に行くほど中級、上級とレベルが上がり価格も上がっていく(写真8)。

[写真8]レディース ウォーキング売場

通路に近い位置には「ベストプライス」と書かれた入門品を販売、奥に行くほど専門性、価格が上がる

売場には常時20人ほどの担当するスポーツに精通したスタッフがいて、基本、声掛けなどはなく、お客から質問、相談があれば専門知識を生かして対応する。

ちなみにウォーキングの担当者は競歩のインターハイや国体の出場経験があり、ウォーキングシューズのソール(靴底)の構造などを詳しく説明してくれた。趣味レベルから大きな大会への参加経験者まで、担当するスポーツへの関与度はさまざまだが、採用条件にはスポーツの好きな人、経験者といった基準があり、カウンセリング能力は当然高い。「スポーツリーダー」というマネージャークラスの店頭スタッフが14人いて、店長とは別にその日の売場責任者を交代で任される。責任者の胸にはC(キャプテン)マークのワッペンが付けられている。コーチとゲームキャプテンという発想だろう。

プレー(営業)中は選手(店頭スタッフ)が試合を組み立てていく自主性が必要となる。また、地域のニーズやどのスポーツが盛んかなど、エリアに関するマーケティングも売場スタッフが担当することになっている。状況を見て考えながら店づくりや品揃えを組み立てていくという、サッカー的なスポーツ感覚を感じる。

買物するためにはデカトロンの会員登録が必要となり、スマホから登録できる。キャッシャーはレジ11ヵ所を設け、商品にはRFIDタグが付いているので、精算は速い(写真9)。

[写真9]精算レジ

最大11台稼働。RFIDタグが付いているので精算もスピーディ

デカトロンはスポーツ関連商品を販売するが、ウェアやバッグなど日常生活でも使えるデザイン性に優れた商品が豊富でヨガ、スポーツウェアを普段着として着用する「アスレジャー」といわれるジャンルでの品揃えも豊富(写真6)。ユニクロをはじめとするアパレル業界とも競合できる商品力を持っている。

[写真6]スポーツウエアも充実

デザイン性のあるフリースが1,000円台で販売されている

また、先述のとおり独特な商品開発スキームを持ち、SPAという特性も生かし競争力のある商品を値ごろ感のある価格で販売する。詳細な取材はできていないが、RFIDタグを活用していることなどから、ITによる業務の効率化、デジタルマーケティングを含むEC促進も相当に進んでいると推測できる。

従業員の育成、体験型を重視した店舗運営にもオリジナルな文化を持つ。ユニークな商品開発、ECを活用したオムニ戦略などにはドラッグストア、他業態も大いに参考にすべき点がある。

デカトロン阪急西宮ガーデンズ店 レイアウト

セブン-イレブンが1日3便体制から2便体制へ変更する理由とは?

セブン-イレブンが現行の3便体制を2便体制に切り替える方針を示した。一般マスコミには、ほとんど取り上げられなかったが、長年、コンビニを取材している立場からすると少なからずの「衝撃」を覚える戦略転換といえる。

お客様の立場を突き詰める=多頻度配送

もう昔のことなので知らない人も多いと思うのだが、セブン-イレブンは、1日3便体制を4便体制に改めた時期もあった。1989年5月より東京23区で4便体制を実施している。当時、常務取締役だった岩国修一氏は次のような説明をしている。

製造から販売するまでには、“作って陳列されている”時間がある。ならば、コストさえ合えば、こまめに配送した方がいい。朝食、昼食、夕食、夜食という1日4食の需要を考えれば、より鮮度の高いものを提供できる体制を組み上げる。製造から販売まで2時間のリードタイムを目標にしたい、といった内容だ。(『食品商業』1989年8月号参照)

この4便体制は、店内オペレーション上難しかったのか、ほどなくして3便体制に戻されたが、要は実質創業者である鈴木敏文氏が理念として訴え続けてきた「すべてはお客様の立場で」を突き詰めると、最大限、鮮度の高い商品をお客様に届けるためには、4便でも、5便でも、多頻度配送が良しとされるのだ。

1日70台のトラックが納品に来た創業期

では、弁当、おにぎり、パスタ、ドリア、サンドイッチ、といったデイリー商品の1日3便体制は、どのような経緯で始まったのか。

セブン-イレブンは1974年5月に東京・江東区の豊洲に1号店を開設した。大手メーカーを主軸とする指定問屋制度とルートセールスにより、当初は1日70台前後の配送トラックが30坪の店へ納品していた。在庫がバックルームはもちろん、自宅の居間にまで積み上がり、「欲しい商品を、欲しい時に、欲しい量だけ」お客に提供できる状況にはなかった。

これを多頻度少量の配送に切り替えるために、集約化と共配のシステム化が図られていった。その発展形が温度帯別の共同配送となった。その過程において、セブン-イレブンは1987年3月、米飯共同配送による1日3便配送体制をスタートさせた。

おにぎりや弁当は、コンビニの主力商品である一方で、納品されてから販売期限は1日しかなく、加盟店の中には廃棄ロスを嫌がり、販売期限前に売り切ってしまう量しか発注をしない店も多かった。

一方のチェーン本部は、廃棄ロスを恐れる気持ちは分かるが、欠品こそが店の評価を下げる最大要因であるとした。欠品の多い店は、いつも売場がスカスカな店だと印象を持たれ、店の評価を下げていく要因となる。廃棄ロス撲滅にだけ注力すると店が「縮小均衡」に陥るとチェーン本部は危惧していた。

その解決策が1日2便体制から3便体制への変更である。コンビニの販売ピークは、朝、昼、晩の3回あり、朝は6時まで、昼は12時まで、晩は18時までに配送できれば、各々のピーク時に欠品している「機会ロス」を削減できるとチェーン本部は考えたのだ。

続いて1993年にはチルド温度帯も従来の2便から3便体制に切り替えた。

デイリーの70%以上が店着後24時間以上販売できる

時は2019年9月、この春商品本部長に就任した、執行役員商品本部長の高橋広隆氏は商品戦略に関する会見で次のように述べた。

「(1日3便体制を敷いた)1987年当時、24時間以上の販売期限があるデイリー商品はゼロだった。しかし今は、納品から24時間以上、並べられるようになった商品はデイリー商品の70%を超えている。なのに、同じサプライチェーンのまま、同じ仕組みを続行している。これを考え直していいのではないか」

この春、石橋誠一郎氏に替わり商品本部長に就任した高橋広隆氏

確かに定温弁当は20度で管理され、15時間程度の販売期限だった。その多くを5度で管理するチルド弁当に置き換えることで、販売期限をプラス48時間延長できた。温度帯だけではなく、さまざまな技術革新により、24時間以上、店着後に販売できるデイリー商品が7割を超えた現状、仕組みを変える時が来たというのだ。

技術革新により定温からチルド化に進む弁当類(横浜市の店舗)

背景としてグループが推進する環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」がある。食品ロスを2030年までに半分に低減、2050年には75%削減する目標を掲げている。

沖縄での2便体制を全国に拡大

本年7月11日、沖縄県に初出店したセブン-イレブン(那覇市国際通りの店舗)

そこで2便体制に臨んだ地が、本年7月11日に初出店した沖縄である。
「ここを先鋭的なアンテナエリアとしてスキームを走らせている」(高橋氏)

セブン-イレブンが、ドミナントを拡張するときに、既存の専用工場が製造するキャパシティを超える、あるいは規定の配送時間を超えると予測できる場合は、新工場をベンダーが建設する流れになる。ただし、新工場を1店、5店で回していくと、スタート直後は赤字になるので、隣接するエリアの既存店への配送を新工場に付け替える措置がとられる。そうすると、立上げから100店、200店の製造ロットで回せるという仕組みである。この場合は、新工場も既存のスキームを踏襲するしかなく、新しい仕組みを試すことはできない。

しかし、沖縄の場合は、隣接エリアの協力は物理的に得られないので、いちから立ち上げることができる。

まずデイリー商品の製造アイテム数を、既存の120から80~100アイテムに絞り込んだ。発注締め時刻を11時から9時に前倒し、既存では可能だった2便、3便の追加修正発注を「不可」にした。そしてデイリー納品便体制を(おにぎりとサンドイッチを除いて)2便制としたのだ。簡単に言えば、製造から販売に至るサプライチェーンの仕組みをシンプルにしたということだ。その結果、1日9台の店舗への納品が沖縄では6台まで合理化できた。

1日1店舗9台の配送車を6台にする実験を沖縄で実施している(画像は東京・杉並区)

製造工場、配送会社、そして店舗も、人手不足であり、特に深夜に関して人手不足はより顕著になっていく。お客への影響は軽微だと考えて踏み切った措置であろう。

サプライチェーン全体の負荷を軽減すべく、四国エリアでは定温弁当のさらなるチルド化を推進、北海道と長野では、新商品の納品日を火曜日に集中させるのではなく、各曜日に平準化、北海道では、通常の一品一品の検品を、通い箱ごとの検品で済ませる仕組みが構築できないかのテストを続けている。

チルド惣菜はレトルトパックのセブンプレミアムも加わり充実度を増している(那覇市の店舗)

高橋氏は「沖縄スキームがきちんとはまったら全国2万店に早急に普及させたい」とサプライチェーンの変革を推進する構えだ。

戦後、日本商業の指導的な役割を担った倉本長治は「店は客のためにあり、店員とともに栄える」と商業者にメッセージを残した。

その言葉をお借りすれば「店は客と、そこに関わる全ての人のためにあり、地球環境とともに栄える」になっていくのかもしれない――――。

レシート調査で判明!カインズ・コーナン、ホームセンターが好調な理由

全国のアンケートモニターから独自に収集する「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」から、コロナ禍での消費者購買行動や背景を分析しています。今回は、「ホームセンター」における購買行動です。ホームセンターは店舗数が増え続ける一方で、市場規模は4兆円弱で横ばいが続いていますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛により、DIYやガーデニング用品などを中心に需要が増えています。

コロナ禍の影響?53%のお客が1人で来店

まずは、利用者の動向の実態を明らかにするために、全国のPOB会員を対象に、ホームセンターの利用に関するアンケート調査を実施しました。(N=3788人、2020年1月7日~11日実施)

はじめに、「直近半年以内のホームセンターの利用」を尋ねると、全体の3788人中、6割以上にあたる2288人(平均年齢52歳、既婚7割)が「利用経験あり(60.4%)」と回答しました。「主に誰と来店するか」を尋ねると、意外にもそのうちの、半数以上が「一人で来店する(53.2%)」と回答し、「配偶者・パートナー(31.5%)」、「家族(14.2%)」、「友人・その他(1.1%)」と続きました。スーパーや飲食店などが併設されているチェーンもみられますが、コロナ禍ということもあり、最少人数で来店する人のほうが多いようです。

日常づかいのホームセンターは地域でバラバラ

次に、「日常的に利用されているホームセンターの実態」を探るため、今回は北海道(N=93人)・東北(N=100人)・関東(N=1165人)・中部(N=331人)・関西(N=402人)・九州/沖縄(98人)をセレクトし、各エリアで利用されているチェーンを調査しました。※()内N数は、直近半年以内にホームセンターの利用経験があると回答した人。

まず北海道では、「ホーマック(DCMホーマック株式会社、北海道)74.2%」が、およそ8割と圧倒的な支持を集め、東北においても2割(22.0%)の人が、日常的に利用すると回答していました。

中部をみると、同じくDCMホールディングスの「DCMカーマ(DCMカーマ株式会社、愛知県)32.6%」が最多回答となり、九州では「ホームプラザナフコ(株式会社ナフコ、福岡県)16.3%」が選ばれていたことから、地方では、地域密着型のホームセンターの根強い人気があることがわかります。

次に、関東では、「カインズ(株式会社カインズ、埼玉県)18.5%」、「島忠(株式会社島忠、埼玉県)18.0%」となり、関東を中心に展開するチェーンが続きました。関西では出店数の多い、「コーナン(コーナン商事株式会社、大阪府)56.0%」が、半数以上が日常的に利用すると回答し、東京・神奈川にも進出しているため、14.8%と関東でも健闘していました。

売上高でみると、2020年2月期決算ではDCMホールディングス(計5,449億円)がカインズ(4,410億円)に業界首位の座を明け渡したことが話題になりましたが、傘下の持分法適用会社ケーヨーの売上高を加えれば依然首位となり、コーナン商事(3,746億円)が続きます。※()内売上高は、2020年2月期または3月期

かつてコメリとコーナン商事が業界2強とみなされていましたが、カインズの躍進で業界地図が一変し、さらに大型M&Aで生まれた新勢力も上位をうかがう構図に変化しています。

ホームセンター選択の基準は「自宅からの近さ」

次に、「日常的に利用するホームセンターを選択する際に重視すること」を尋ねると、「自宅から近い・アクセスがよい(64.7%)」が最多回答となり、「必要な物が売っているから(36.3%)」、「安いから(21.5%)」を大きく引き離し、スーパーやドラッグストアと同様に、身近な場所にあることが重要視されています。

アンケートで「ホームセンターに来店する際の手段」を尋ねると、7割が「自家用車(68.2%)」と回答しており、「駐車場がある・広い(15.8%)」ということも選択する上でのポイントとなりうるようですが、コーナンの利用者からは、「自宅に車がなくても軽トラックの貸し出しをしてくれる」といった声があり、各社独自で行う顧客サービスとして、重い物や自家用車に入らない大型家具などの運搬用に軽トラック貸し出しを行うチェーンも多いようです。

高品質・低価格のPBを支持する声多数

では、ホームセンターではどのような商品が購入されているか、「直近半年でホームセンターの利用経験がある」と回答した2288人に購入した商品カテゴリーを尋ねると、最多回答は「日用品(77.1%)」で、続いて「掃除・洗濯・バス用品(49.0%)」、「キッチン雑貨(41.3%)」と生活必需品・雑貨が上位を占める中、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、自宅でのDIYや園芸がブームとなった背景もあり、「DIY・工具・材料(33.5%)」、「園芸・ガーデニング用品(30.8%)」のような生活必需品以外でも、3割以上の人が「購入経験あり」と回答しました。

上位カテゴリーを分析すると、「DMCブランドの洗濯洗剤が無添加で肌にも衣類にも優しい」「カインズのPBの消臭剤は安くてパッケージも可愛い」「コーナンブランドの除菌シートが安くておすすめ」など、全体的に高品質・低価格なPB(プライベートブランド)を支持する声が多くみられました。他にも、「園芸用の用土など、期間限定セールもありお得に買える」といった、ホームセンターでの品揃えが多い商品のキャンペーンや、「洗剤・ハンドソープなどの大型サイズの詰め替えはホームセンターにしかないので便利」といったユニット単価が安くなる商品の売り方が、購入につながっていることがわかりました。

コロナ禍で買い上げ金額大幅アップ!

次からは、ホームセンターの利用実態をさらに深堀するために、レシートデータから分析します。今回は、カインズ、コーナンのホームセンター2チェーンの他、日用品購入の競合となりうるドラッグストア全体における、コロナ感染拡大前の20年1月~3月と、感染拡大後の7月~9月を比較しPOB会員の購入レシートデータから定量的な観点で分析しました。

まず感染拡大前の20年1月~3月と、感染拡大後の7月~9月の購入状況をみると、購入点数は、3点~5点となりました。購入金額は、カインズは1,947円→2,432円(485円アップ)、コーナンは1,261円→1,652円(391円アップ)に増加し、ドラッグストア全体の1,277円を上回る結果となりました。一般的にドラッグストアよりも来店頻度が低いため、まとめ買いにより1回の買い物金額が高い傾向があることが言えますが、コロナ禍によりホームセンターの需要が高まっていたことがデータからわかります。

また、当社のPOB会員の年齢層が40代~50代が中心であることに特性を受けているため参考データとなりますが、カインズとコーナンにおける利用者の変化をみると両社共通して20年1~3月と7~9月の比較では、男女ともに30代以下が増加しており、またカインズでは40代男性の増加傾向もみられました。

コロナ禍が追い風となり、今までホームセンターで買い物をしたことがない人や、あまり行く習慣がなかった人の来店機会が増え、若年層の利用を取り込んでいることがうかがえます。

では実際に、ホームセンターではどの商品カテゴリーが購入されていたのか、20年7~9月のカインズとコーナンのレシート購入金額全体に占める商品カテゴリー構成比をみると、「日用品」が最多となり、カインズ59.5%、コーナン76.5%でした。レシート表記をみると、いずれも「ごみ袋、食品ラップ、ペット用品」などのコロナ感染拡大前から購入されていた商品の他、「マスク、消毒液」などの感染症対策商品、コロナ禍で需要が高まった「園芸用品、工具、木材」などが購入されていました。

また、コーナンでは、セリアやダイソーといった100円ショップが併設店舗の商品を同時会計ができるため、100円雑貨のレシートが多くみられたため、両社の「日用品」構成比において、17pt差が生まれていたことが想定されます。

ほかにも、カインズでは「食品」7.8%、「飲料」6.4%、「酒類」5.5%の構成比がコーナンよりも大きい特性があります。ホームセンター各社はPBに力を入れていますが、カインズのレシートからは、日用品や日用雑貨などのホームセンターで購入されやすい商品カテゴリーのほか、菓子や米、水だけではなく、乳酸菌飲料や新ジャンルビールなど、多岐にわたるカインズオリジナルPBが消費者に支持されており、そういった商品戦略が購買行動を促進させ、客単価が高くなっていることが予想されます。(POBデータ分析①参照)

ライフスタイル提案などまだ伸びしろあり

最後にアンケートで、ホームセンターに対する要望を尋ねると、「品揃え・安さ」だけではなく、「欲しい商品が必ずある・みつけやすい」、「商品や専門知識のある店員がいる」といった声が多く挙がりました。

品揃えや価格、商圏が狭い点においては、ホームセンターよりもドラッグストアに優位性があるため、客足を奪われやすい傾向があり、各社商圏を越えたアプローチをするためにネット通販にも力を入れていますが、ホームセンターが運営するオンラインショップでの購入経験がある人はわずか2割にとどまりました。(N=2288人、直近半年以内にホームセンターで購入経験あり)デジタル技術を取り入れストレスフリーで買い物ができ、顧客との接点を増やすといった施策においては、まだまだ伸びしろがありそうです。

また、店内商品の販売にもつながるワークショップの開催や、コーナンでは、ペット愛好家をターゲットに動物病院の併設店舗を増やすなど、限られた来店の頻度の中で、生活必需品の割安感だけではなく、ライフスタイルを豊かにするため質の高い商品やサービスを提供し続けることが、コロナ禍で増えた新規顧客をロイヤルカスタマーとして引き込み、成長していくための有効な施策となるのではないでしょうか。

[調査概要]
N=3788人(関東地方2111人、関西地方618人、中部地方477人、東北地方146人、九州/沖縄地方145人、北海道地方127人、中国地方120人、四国地方44人)

調査対象:全国のPOB会員アンケートモニター
調査日時:2021年1月7日~11日
調査方法:インターネットリサーチ
調査機関:ソフトブレーン・フィールド

POBデータ分析①②:マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇから分析、レシート枚数
2020年1月~3月合計(ホームセンター:カインズ1,910枚、コーナン2,216枚、ドラッグストア全体:126,924枚)
2020年7月~9月合計(ホームセンター:カインズ3,423枚、コーナン4,040枚、ドラッグストア全体:187,065枚)

アマゾンハブ、BOPISで客数と客単価を増やす

ファミリーマートが「アマゾンハブ」を導入します。純増店舗数が横ばいもしくは減少傾向のコンビニは、新店よりも既存店の売上を増やすことが重点政策に変化しています。アマゾンロッカーを設置することで、「来店目的」を増やし、既存店の客数増を目指しているようです。

アマゾンロッカー利用客の60%は商品を購入する

日本全国での展開を計画している「アマゾンハブ」は、2つの受け取り方法があります。アマゾンで注文した商品を無人で受け取る「アマゾンロッカー」方式と、受け取りカウンターで人を介して商品を受け取る方式です。

アメリカでは2012年頃からアマゾンハブの導入が進められています。アメリカの「セブンイレブン」、DgS(ドラッグストア)の「ウォルグリーン」、スーパーの「セーフウェイ」などの店内にアマゾンロッカーが設置されています。

5年ほど前にニューヨークのマンハッタンにあるアマゾンロッカーを設置したセブンイレブンで話を聞く機会がありました。店のマネージャーによれば、ロッカー設置店舗は未設置店舗よりも客数が多く、ロッカー利用者の60%は店舗で買物し、店舗だけの利用者と比較して客単価は2倍にもなるそうです。

つまり、アマゾンロッカーに商品を受け取りに来ることで、客数が確実に増えます。また、来店客の60%は店内で衝動購買し、店舗だけの利用者よりも買上点数が多いので客単価が高い優良顧客です。この3つが、アマゾンロッカーを設置したリアル店舗のメリットです。

オンライン注文→店補受取で客数と客単価を増やす

3年間で1万5,000店補の店が閉店する大量閉店時代に突入したアメリカ小売業界は、新店投資で売上を増やすよりも、オムニチャネル化で既存店、既存顧客の売上を増やす戦略に大きく変化しています。

日本では、DgSは「大量出店時代」の真っただ中ですが、コンビニの出店に急ブレーキがかかるなど、他の業態の新規出店ペースは減速しており、既存店の売上を増やすことが重点経営課題に変化していくと思われます。

3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

既存店の売上(客数×客単価)を増やすためのひとつの方法が、地域に暮らす生活者の「買物目的」を増やすことです。アマゾンロッカーを設置することも、来店目的を増やす手段のひとつです。さらに、重要なことは商品を受け取りに来店したお客の「衝動購買」を誘発し、買上点数を増やすことです。

「BOPIS」という新しいサービスを拡大することで、アメリカの「ウォルマート」は、新店をつくらないで既存店の売上を4%も増やしました(2019年決算数値より)。BOPISとは、「Buy Online Pick-up In Store」の頭文字をとったものです。スマートフォンで注文した商品を、お客が店舗で受け取るサービスです。

アプリで注文して駐車場で受け取る「カーブサイド・ピックアップ」に注目

オンラインで注文したお客の60%以上は、店舗受け取り(BOPIS)を選択するそうです。宅配よりも店舗に取りに行った方が、時間を自分で選べるし、便利と考えるお客が多いことがわかります。つまり、BOPISのサービスを導入することで、来店目的が増えて、既存店の客数が増える効果があります。

また、アマゾンロッカー同様に、BOPISで来店したお客の多くは、店舗でなんらかの商品を購入するそうです。ウォルマートの「ピックアップタワー」(オンラインで注文した商品を無人で受け取るタワー)の近くには、衝動購買を誘発する商品を陳列する売場を設置しています。

ウォルマートのピックアップタワー。全店導入も間近。

日本もこれから人口が減少し、オーバーストアによって1店舗当たりの商圏人口は減少していきます。「買物目的を増やす」→「客数を増やす」→「衝動購買で買上点数を増やす」ことに貢献する店舗受け取りサービスを提供することは、狭小商圏で売上を増やすための重要な選択肢だと思います。

スーパーやDgSの店頭に設置している「給水サービス」も、水を汲みにくるという来店目的を増やして客数を増やすサービスですね。物販以外の「サービスで客数を増やす」という戦略は、これからは重要だと思います。