新型コロナ家計への影響「3人に1人が支出増」

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、休校措置や、在宅勤務を積極的に推進する企業、外出禁止要請など、私たちの暮らしはここ1か月の間にすっかり変わってしまいました。今回はソフトブレーンフィールドの登録キャスト会員745名(対象地域:全国、年齢:20代〜60代、平均年齢:49歳)の女性を対象とした「新型コロナウイルス感染拡大による家計の影響」に関するアンケートを調査しました。調査結果には、生活必需品の購買行動の変化や、物資の不足に対する不安だけではなく、勤務時間や勤務日の減少による収入減による家計への不安など、緊急経済対策に対する率直な意見が表れています。(調査実施期間:2020年3月29日~3月31日)

「家庭内の備蓄を増やす」ように購買行動が変化した

最初に、新型コロナウイルスの影響による、食品や日用品など、生活必需品の買い物行動の変化を調査しました。

新型コロナウイルスの影響による、生活必需品の買い物行動の変化を尋ねると、半数以上の50.2%が「買い物行動に変化あり」と回答しています。

直近1か月の買い物行動について、まずは「インスタント・レトルト食品」、「冷凍食品」、「米やパン」、「生鮮食品」、「お菓子」、「牛乳・乳製品」などの食品をセレクトして調査をしました。

「いつもより多めに購入した」食品に注目をしてみると、「インスタント・レトルト食品(33.7%)」が最多となり、3人に1人が回答。それに次ぐ「冷凍食品(24.3%)」を9.4ポイント上回る結果となりました。また、「米やパン(22.8%)」、「お菓子(17.9%)」などが、2割近くの方が多めに購入したと回答しています。

コメントをみると、「学校が休校になったので、昼食やおやつは、普段より食材が多く必要になった(40代女性)」や、「子どもが家にいるので、お菓子やジュースの購入が増えた(40代女性)」など、休校中の子ども用の食材の購入が増えたといった声や、「子どもが好きなコーンフレークの購入制限があった(40代女性)」など、一時的に需要が高まった商品の購入制限が設けられていたといった店頭の変化が表れていました。

また、「常備していなかったレトルト食品などの保存食品を買った(40代女性)」や、「米も1袋は常に在庫として置くようになった(50代女性)」というように、家庭内食の増加でストックをするようになったという、買い物行動の変化が浮き彫りになりました。

買えない日用品は「割高商品購入」や「自作」で対応

次に、未だ品薄状態が続いている「マスク」や「消毒用アルコール」、SNSなどのデマから全国的に品薄になった「トイレットペーパー」などの日用品をセレクトして、直近1か月の買い物行動を調査しました。

「マスク」や「消毒用アルコールなど」は、未だ品薄状態が続いているため、「いつもより多めに購入したいが買えない」と感じている方が多くみられ「マスク(53.0%)」は半数以上、「消毒用アルコール(39.2%)」は4割近く回答がありました。

コメントをみると、「マスク、消毒用アルコールなどは購入したいが買えていない。ウェットティッシュも手に入りにくい(50代女性)」や、「マスクや消毒液はもともと在庫があったものを使用していたが、残り少なく買いたいがお店にない(40代女性)」といった品薄に対する声だけではなく、「マスクは通販、消毒液もサロンから高額商品を買った(60代女性)」や「マスクの市販品は、購入不可能なので、手作りマスクを使用(60代女性)」などといった声もありました。

また、「トイレットペーパー」は、「いつもより多めに購入した(20.9%)」と2割以上が回答し、「いつもより多めに購入したいが買えない(5.9%)」と感じている方は1割にも満たない結果であったため、店頭の在庫はあるようですが、「トイレットペーパーはいつも特売を購入していたがお得なものが手に入らずいつもより割高なものを購入している(40代女性)」や、「トイレットペーパーは、まだストックがあるので特売を待って購入する(40代女性)」といった、特売になるケースが少なくなっていることがコメントからわかりました。

3人に1人が「支出が増えた」と回答

次に、家計全体の影響について調査をしました。

新型コロナウイルスによる家計全体の影響を尋ねると、「全体的に支出が増えた(34.9%)」と3人に1人の方が感じていることがわかりました。

次からは、具体的な支出項目の状況について尋ねました。

新型コロナ感染拡大を防止するために、自宅で過ごすことが増えているため、「水道・光熱費(43.8%)」、「食費(41.7%)」の支出項目は、4割以上の方が「支出が増えた」と感じています。

その一方で、外出を伴う「レジャー・娯楽費(57.0%)」、「外食費(47.8%)」は、「いつもより支出が減った」と回答する方が、「いつもと変わらない(レジャー娯楽費/40.3%、外食費/47.1%)」を上回りました。

コメントをみると、「外食やレジャーが減ったが日用品などの備蓄への出費がかさんでいるから増えていると思う(50代女性)」や「ほとんど家で食べるので食費は増加傾向。トイレットペーパーや除菌シートなど、日用品の購入費が増加(40代女性)」といった食費や日用品などの生活必需品の支出が増えたといった声や、「子ども二人とも新入園でお金がかかる時期に家計に負担がかかっている。旅行もキャンセルした(40代女性)」といった、新生活を始めるための物入りな時期に、新型コロナの影響による生活の変化が家計を圧迫しているといった声もありました。

今回のアンケート結果には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、万が一に備え生活必需品の買いだめなどの購買行動の変化から、自宅で過ごすことが増えたことによる「食費や水道光熱費」など、想定外の支出が家計に影響を及ぼしていることが浮き彫りとなりました。

ポストコロナ社会でお客様は神様ではなくなる!?

思った以上に長期化しそうな新型コロナウイルスとの戦争ですが、コロナ戦争の戦中・戦後の世界はどう変わるのでしょうか? 生活者の「人生観」と「消費感」が劇的に変化していくような気がします。ポストコロナ時代はどんな社会なのでしょうか?

ポストコロナ社会はぜいたく品が売れなくなる

新型コロナウイルスの影響で、生活者の「買い方(購買行動)」は、大きく変化していくと予測できます。変化対応業である小売・流通業は、「買い方」が変われば「売り方」も変えなければなりません。その購買行動の変化を整理したものが冒頭に掲載した図表です。

「お客様は神様」「お客様は常に正しい」「For the Customer」という言葉は、洋の東西を問わず小売業にとっての不変の格言でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で、「お客様は決して神様ではない」という意識が一般的になると思います。

私もドラッグストアのレジで、「なんでマスクがないんだ」と怒鳴り散らす中年男性を目撃しました。そのレジの女性は泣いていました。また、トイレットペーパーが品切れした時期に、高齢者がドラッグストアの開店前に並び、「ここで買ったら、次は〇〇スーパーに買いに行く」と買い占めを話し合う光景を見て、「こんなに人生経験を積み重ねてきたのに、自分さえよければいいのか」とがっかりしました。

緊急事態には人間の本性が出ます。東日本大震災のときにも、高齢者がペットボトルの水を買い占めているのを見て、「ペットボトルの水は未来のある赤ちゃんや若者に回せ、先の短い高齢者は水道水を飲め」と悪態をついたものです。

モンスター・クレイマーに襲われた経験によって、ポストコロナ社会では「お客のいうことを100%聞くことが正義ではない」という価値観が定着していくと思います。過度なストレスに見舞われた現場スタッフを守るためにも、「お客様は神様」という古い価値観を現場に押し付けるのではなくて、具体的なクレーム対応をもう一度明文化することが重要だと思います。

ポストコロナ社会の変化の第2は、「節約志向が高まり、ぜいたく品は売れなくなる」ことです。生活必需品を取り扱うスーパーマーケットやドラッグストアの売上と客数は大きく増えていますが、客単価は下がっています。不要不急の需要ではないぜいたく品の消費が敬遠される傾向は、コロナ後の社会でも定着すると思います。「いつ収入がなくなるかわからない」という恐怖心は、消費者の財布の紐を固く締めます。低価格志向は間違いなく強まります。

買物時間を短縮する店舗ピックアップが増える

MD NEXTでも何度か紹介した「BOPIS(Buy Online Pickup in Store)」がポストコロナ社会では普及すると思います。BOPISとは、ネットで商品を注文し、店舗で商品を受け取るサービスのことです。「三密」を避けることが習慣化した消費者にとって、短時間で買物が完結するBOPISの購買行動を好む傾向は高まることでしょう。

ポストコロナ社会の変化の第4は、「店内作業の省人化が進む」ことです。モンスター・クレーマーに悩まされる小売業の現場勤務を敬遠する人材は増えていき、小売現場の人手不足は深刻になります。新しいテクノロジーを活用した店内作業の省人化・無人化が一気に進むでしょう。ポストコロナ社会では、「無人レジ」が当たり前の社会になるかもしれません。

購買行動の変化の第5は、「接客・商談のリモート化・オートメーション化」が一気に進むことです。先日も、あるドラッグストアの商品部長が、Zoom商談について以下のような感想を述べていました。

(※注:Zoomはアメリカに本社を置くZoom Video Communicationsが提供するオンライン会議サービス。簡単にインストールでき、高画質の会議を開催できることで人気になっている)

「現在は対面商談が禁止なので、Zoomで商談しています。Zoomを使ってわかったことは、対面の商談となんら変わらない内容のある商談ができることです」

ポストコロナ社会は、オンライン商談が一般化していくと思います。月刊MDの編集部も、直近の取材はすべて「オンライン取材」です。MD NEXT編集長の鹿野恵子と、月刊MD編集長の野間口司朗は、すでにプロの「ズーマー」です。

また、タッチアップが基本の「化粧品の接客」についても、タブレットを活用した「リモート接客」のような仕組みが一気に普及するかもしれません。

オンラインセミナー開催のお知らせ

新型コロナウイルスの感染拡大を引き金に、業務量の急激な増加や頻発する品切れ、問い合わせ対応など、大きな変化にさらされる小売業。そこでこの度MD NEXT運営元のニューフォーマット研究所では、緊急オンラインセミナーを開催することになりました。この状況をどう読み解き、乗り越えていくべきか、月刊マーチャンダイジング主幹の日野眞克と店舗のICT研究所代表の郡司昇が提言します。以下の画像からお申込みください。

 

利益の設計図「相乗積」で読み解く小売業の経営方針

与えられた商圏、商品、人材などの店舗資源を最大限活用して予算をクリアしなければならないドラッグストアの店長は、ミニ経営者として数値を理解し、現場を管理する必要がある。今回は「利益の設計図」ともいえる、「相乗積」を解説する。(月刊マーチャンダイジング2020年3月号より抜粋の上転載)

粗利益率×売上構成比で利益全体をコントロール

前項図表2で見たように、儲け方には大きくは3パターンあり、この3つの儲け方を効果的に組み合わせることで店舗、企業全体の収益性を設計することができる。

交差比率を使えば、儲かる商品がわかる

そして、粗利益率の異なる商品グループをどの程度の割合で組み合わせるかで店舗、企業の利益全体をコントロールするのが「相乗積(マージンミックス)」という考え方だ。

相乗積は以下の数式で求められる。全部門の相乗積の合計を100で割ると店全体の粗利益率になる。

冒頭に掲載した図表は粗利益率低下をシミュレーションしたものだ(以下に再掲)。

[図表再掲] 相乗積変化による粗利益率低下のシミュレーション

医薬品の市場は微増、横ばいが続いており、以前のような収益性を望むことは難しくなっている。医薬品の売上構成比が下がり、その分消耗雑貨と食品の構成比が上がるというケースは実際にあり得るだろう。

これをカバーするためには、粗利の高い家庭雑貨や衣料の売上構成比を高める必要がある。

相乗積を発明したマイケル・カレン

相乗積はセルフ販売方式のスーパーマーケット(SM)を発明したアメリカ人マイケル・J・カレン(1884〜1936年)が考え出したといわれる。カレンは「大衆に直結した廉価販売のチェーン方式で、300品目は原価で、200品目は5%を、300品目は15%を、300品目は20%をそれぞれ仕入原価に掛けた価格で販売すれば、世の人たちはわが店の入り口を蹴破って乱入するでしょう」と述べている。まさしく相乗積の考えだ。

このように、粗利益率(正確には値入率)の高い部門・品群・品種・品目の陳列面積を広げたり、売り方を変えることで、店全体や品群・品種などのグループ全体の売上構成を高める方法のことを「粗利ミックス」と呼ぶ。

粗利ミックス

DgSは食品(薄利多売商品)を安く売って集客し、化粧品・医薬品(高利低売商品)で利益を挙げるというビジネスモデルを足掛かりに今日の発展を築いたといってもよい。

基本的には現在もこのモデルは引き継がれているが、小商圏化の下、固定客づくりのために食品の重要性と売上構成比が増した現在では、以前のように食品を赤字覚悟で販売して集客の目玉にするという手法は難しくなっている。

PB開発などで食品でもある程度の利益を残す、中利中売のカテゴリーを拡充させる、メーカーとの協働で利益率の高い化粧品PBを開発して高利を狙うなど、高度な相乗積管理が必要になっている。

粗利ミックスは企業成長のカギ

ディスカウントストアのドン・キホーテは総合スーパー(GMS)のユニーを傘下に収めて食品の売上構成比を高めている。同社の食品の売上構成比は約36%だが粗利益高の構成比では約24%にとどまっている(図表)。

[図表]ドン・キホーテの売上、粗利構成比

食品を安く売ってドンキでしか買えない高粗利のおもしろグッズや化粧品などの非食品で利益を残すという収益性の設計だ。独特の仕入れ、品揃えで非食品の粗利益高が高いので、食品は利益を極限まで圧縮できるというのがドンキの基本粗利ミックスである。

同社の粗利益率は27.9%(2019年6月期)、営業利益率は4.7%(同)、一方でイオンのGMS部門の営業利益率はわずか0.37%(2019年2月期)しかない。

この収益性の差は粗利ミックスの差といってよい。粗利の低い食品の売上構成比が高く、利益をもたらす非食品が育っていないというのはGMSに共通する構造的な問題である。イオンは金融部門(2019年2月期、営業利益率16.2%)や不動産部門(同15.4%)で企業全体のマージンミックスを図っている。

企業の経営方針を知るのに、相乗積の分析はうってつけの数値であることが、このことからもよくわかるだろう。

絶体絶命の時にこそ「商人道」の原点にもどろう

第3次世界大戦は、国と国との戦いではなくて、ウイルスとの戦争だったと歴史に記録されるでしょう。こういう絶体絶命の大混乱期にこそ、「商人道」の原点にもどることが大切だと思います。

地域のインフラを支える 小売業の現場にエール

新型コロナウイルスなどの大災害が発生すると、地域に密着した小商圏型の小売業は、地域の消費者にとって、非常に重要な「ライフライン」であることが改めて実感できます。小売業の店頭で働く人達には、今は大変なときかもしれませんが、今回の不幸な出来事をキッカケに、「なくてはならない存在」で働く者としての誇りをもっともっと強く感じて欲しいと願います。

2011年の東日本大震災のとき、被災地で自分の家族と連絡が取れない中で、懸命に店舗を開店し、水や紙おむつを配るドラッグストアの店長、ガソリン不足の中で店舗に寝泊りし、商品確保に奔走するスーパーバイザー、停電で真っ暗の中、駐車場で焚き火をしながら、一晩徹夜し、店を守った現場社員…彼・彼女たちの震災直後の自主的な行動を見聞きすると、現場スタッフの商人としての「誇り」と「責任感」の強さに感激したことを記憶しています。彼ら現場社員の「モラル」と「現場力」の高さは、日本人の誇りです。

しかし、大震災や新型コロナウイルスのような大災害が発生すると、混乱に乗じて「自分たちだけが儲かればいい」という悪徳商人も跋扈します。混乱期こそ商人道の原点に立ちかえり、どんなに大変でも商売の「王道」を歩む覚悟を強くしたいものです。

「覇道」の暗黒面に堕ちないことを戒める「商売十訓」

私が月刊マーチャンダイジングを創刊する前に働いていた「株式会社商業界」が2020年4月2日に経営破綻しました。残念です。商業界は創業70年の老舗出版社であり、商業の歴史そのものでした。本記事の冒頭に掲載した「商売十訓」も、商業界が後世に語り継いできたものでした。

商売には、「王道」と「覇道」があります。「自分たちだけがよければいい」という商売の「覇道」の暗黒面に堕ちるのではなくて、商人としての「王道」を進むべきという戒めを言葉にしたものが商売十訓でした。商業界という会社はなくなったけど、商業界精神は語り継いでいきたいものです。

『商いの原点』(童門冬二著)という江戸期の商人のことを書いた本を読むと、現代にも通じる話がたくさん書かれています。同書によれば、徳川八代将軍(徳川吉宗)が「享保の改革」を行った時期に、「商人道」を確立しようという動きが、日本全国で起こったのだそうです。

享保の改革以前は、「元禄バブル」が崩壊し、幕府や藩の財政は悪化し、人心はすさみ、金儲けのために客を騙して富を得る「悪徳商人」が、跳梁跋扈した時代でもありました(事故米の食品転用。産地偽装。賞味期限改ざん…etc. なんだか現代にも通じますね)。

しかし、享保年間に至って、吉宗の政策は商工業者に反省をもたらしました。三井家の三代目・三井高房は、その著書の中で、『政治には「王道」と「覇道」がある。王道とは、仁や徳によって行う政治であり、覇道というのは自分の欲望を満たすために、権謀や術策をめぐらすやり方である。商売にも王道と覇道がある。われわれは王道を目指すべきだ。王道を目指す商業というのは、商人道を確立することである』と述べています。

三井高房が、誇り高き商人道を確立するために、まず行った決断は、武士への金融(貸付)を中止することでした。既に貸した金はすべて損金として落としました。

つまり、権力者である武士に何も考えないで追随し、「いつかは返してもらえるだろう」「権力者とくっついていれば、きっといいことがあるはずだ」という甘い期待を持つのではなくて、商人として自立する道を選んだのです。

江戸期の商人は『家訓』を大切にした

同書によれば、江戸時代に豪商といわれた商人たちが、一斉に、『家訓』をつくりはじめたのは、吉宗の改革があった享保年間が多かったそうです。「目安箱」の開設などの政策によって、市民の声を聞き、江戸期の将軍として初めて「市民の存在」に注目したのが徳川吉宗でした。吉宗によって存在を認知された市民である商工業者たちは大いに喜びました。

しかし同時に、「こういう立場に立つわれわれも、自らを戒めなければならない」と考えて、心ある豪商たちが先を争って「家訓」をつくりはじめたのです。家訓とは、今の言葉でいえば、「社訓」であり、企業のミッション(使命)、フィロソフィー(哲学)、ルール(企業文化)を明文化したものです。

つまり、商人道を確立するためには、商人としての王道とは何か?というルールを文章で残し、繰り返しいい続けることで、強固な企業文化を醸成し、つまり、商人道を確立しようとしたのです。

誇りと道徳のない、儲かればいいという「覇道」経営では、最終的な成功はつかめないという「商人道」の本質を、江戸期の商人は熟知していたのです。「損得より先に善悪を考えよう」という言葉は、『商業界』の商売十訓の最初に来る言葉です。

また、江戸中期に活躍した「近江商人」は、京都や大阪には存在しない北陸や東北の名産品を発掘し、「北前船」を活用して商品を京都や大阪に届ける商いを行いました。近江商人は、都の消費者からは、見たこともない名産品を入手できることで感謝されました。北陸・東北の生産者からは、自分たちがつくった商品を、大きな市場である都で販売してくれることで感謝され、また、モノや情報の交流が活発化することで、世間からも感謝されました。

「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」という近江商人の心得は、現代に至るまで語り継がれています。現代は、戦乱が終わり、徳川幕府が安定し、元禄バブルが弾けて、商道徳が地に落ちた「江戸中期」にとてもよく似ています。近江商人のように、「三方よし」の精神を取りもどし、「信頼」に基づいた長期的な商売を目指すべきです。大変な時期こそ、商人道の原点回帰がとても大切だと思います。

交差比率を使えば、儲かる商品がわかる

いくら店舗数が増えても、小売業の勝負は1店舗ごとの強さで決まる。ドラッグストアの店長は、与えられた商圏、商品、人材などの店舗資源を最大限活用して予算をクリアしなければならない。そのためにはミニ経営者として数値を理解し、現場を管理する必要がある。今回は「儲かる商品」判別の指標となる数値「交差比率」を解説する。(月刊マーチャンダイジング2020年3月号より抜粋の上転載)

粗利益率がどれほど高くても回転率が悪ければ儲からない

粗利益率50%、平均の倍近くの「超儲かる」商品があったとしよう。しかし、それが年間2個しか売れなければ儲かる商品といえるのだろうか。逆に粗利益率が10%しかないが、年間100個売れればどうだろう。

このように「儲け」の基準を粗利益率とその商品が年間何個売れるか(何回転するか)で測った指標が「交差比率」である。GMROI(グロス・マージン・リターン・オン・インベントリー)ともいう。交差比率は図表1の数式で求められる。

[図表1] 交差比率の計算式

数式に出てくる商品回転率とは、商品を店に在庫してから売れるまでを1回転とし、その商品が年に何回店を回っていったか、回転数によって表したものだ。商品回転となっているが実際の単位は何回のとなる。交差比率の合格点は200%とされており、これが商品の儲かり具合=収益性を示すひとつの指標となる。

粗利益率が25%の商品なら200÷25=8、年8回転しなければ収益性では合格点とはいえない。年8回転ということは365日÷8=45.625、約46日で売り切らなければ不良在庫になってしまう。このように、交差比率200%を基準にして、粗利益率でこれを割ることで商品やカテゴリーの基準在庫日数を割り出すことができる。

儲け方の3パターン、それぞれの特徴

儲け方には3パターンがある(図表2)。

薄利多売はディスカウンター(安売業態)の儲け方。粗利益率を引き下げても大量に販売できれば交差比率200%超えが達成できる。薄利多売を軸にこのあと説明するマージンミックスをどのように組み立てるかは小売業の原点だ。ただし、大量に売れることが前提なので、粗利を下げても回転が上がらなければ(売れなければ)ムダな値下げとなる。また、薄利多売商品は物流コスト、補充作業コストなどが増加する。

[図表2] 儲け方の3パターン

中利中売商品は地味であまり目立たないが、作業コストもそれほどかからず、そこそこ売れて着実な粗利益を残す。キッチンコンロの油よけパネルや浴槽用ブラシなど、日用雑貨の非消耗品(用品)に中利中売商品は多い。目立って売れないから儲からない商品という印象があるが、コストがかからず営業利益を残す中利中売商品は計画的に育成し売場を確保することが大切である。

高利低売商品の代表格は高価格帯の化粧品やヘルスケア商品なので、陳列するだけでは売れない。十分な商品知識を持ち、的確な接客・コミュニケーションをしてはじめて動く商品だと認識しよう。

[図表3] 粗利益率と商品回転率(交差比率)の違いによる戦略

ホームセンター・ドラッグストアと競合しないペット専門店「アミーゴ」の差別化戦略

ホームセンター(HC)ともドラッグストア(DgS)とも競合しない店「ペットワールド アミーゴ」が好調だ。その理由は、量販店では品揃えしていない「プレミアム専売商品」を購入する「固定客」を一貫してつくり続けているからだ。ファンがアミーゴに再来店する理由がわかる売場を見ていこう。(本誌編集部 日野 克哉/月刊マーチャンダイジング2020年3月号より転載)

業績絶好調のペット専門店 最大店舗がオープン

アレンザホールディングスグループのアミーゴが2019年12月21日、福島市に売場面積726坪の最大店舗「ペットワールド アミーゴ福島西店」をオープンした。

アミーゴの企業全体の粗利益率は40%を超えている。また福島西店の商圏人口は50万人で、宮城県方面まで広域集客できることから、近所で安く買物を済ませる量販店とは異なる「専門店」の経営構造であることがわかる。

「アミーゴのプロトタイプは250坪です。売場面積が約3倍の福島西店では、トリミングサロンやペットホテルに加え、新たに動物病院やドッグスクール(しつけ教室)、多くの休憩スペースを設けました」(専務取締役営業本部長 横須賀忠明氏)

動物病院が併設されている
ドッグスクールの様子
トリミングサロン

横須賀氏は、年商6億円を目標に掲げる。アミーゴの客単価(お客1人当りの平均購買額)は2,800~3,000円であるため、年商÷客単価で1年間に20万人の客数を見込んでいることになる。

ペット専門店アミーゴ全体でとくに好調なのは「既存店売上高」である。限られた商圏内で既存店の売上が伸び続けている理由は、店に通い続ける「固定客」の存在にほかならない。

1年当り20万回ある接客の質向上のため、アミーゴは「Eラーニング」などのツールを活用して、ペットに関する知識の勉強会を担当チームごとに実施している。

知識を深めた従業員が、ナショナルブランド(NB)や自社のプレミアム専売商品を「接客販売」することで、商品の安全性などお客の信頼が得られる。

このように、固定客をつくることが、アミーゴ内のさまざまな施設に通うお客を増やすことにつながり、「客単価・売上・粗利益率向上」といった相乗効果が生まれるのだ。

ペットの種類ごとに4つのエリアに分割

アミーゴの売上構成比は、犬・猫65%、小動物20%、魚10%、その他5%。福島西店も、犬、猫、小動物、アクアの4つのエリアに分けたレイアウトとなっている(図表1)。

[図表1] ペットワールド アミーゴ福島西店レイアウト

店長によると、アクアエリアでは、福島県内では飼う人が多いという「鯉」をはじめて取り扱い、水草もスタッフ自身で植えたという。

「売場のコンセプトとして、ペットの周りに関連する用品やフードを陳列し、大きくゆったりラウンドさせました」(横須賀氏)

アミーゴ初、 鯉の「巨大水槽」
POP
手前の島はメダカ、ウーパールーパー

各エリアごとに関連購買を推進する売場づくりを行っている。たとえば、ドッグエリアでは犬用キャリーバッグ、歯磨き、働く犬用の服などユニークで深掘りした商品を並べることによって買上点数向上をねらっている。

取材時の売場はクリスマス一色だった
ハ虫類で一番人気のトカゲ
フクロウの生体も販売している
除菌・脱臭装置である「ジアイーノ」を店内に大量設置していることで臭いがほとんどしない快適な空間になっている
生体はペットショップを運営する会社AHBのインショップ。1頭目が好評なら「2頭目需要」も見込める
犬のキャリーバッグ売場
犬の工務服をトルソー(マネキン型什器)でプレゼンしている

プレミアム専売商品でHC、DgSと「完全差別化」

ドッグフード売場

40%という高粗利益率を支えるのが、「ニュートロ」や「ロイヤルカナン」といったアミーゴのプレミアムフードである。最大の特徴は、一般的なNBとは異なりHCやDgSでは販売していない点だ。

HCやDgSで販売していない理由は、プレミアムフードは資格がないと販売できない「特別療法食」であるからだ。つまりメーカーは、接客販売を条件にペット専門店と取引している(DgSのカウンセリング化粧品に似た販売方式である)。

「アミーゴのプレミアムフード『ニュートロ』や『ロイヤルカナン』の価格帯は乱さないようにしています。ただし、アミーゴのターゲットである初級者~中級者の方も店に入りやすいように、NB商品も多く取り揃えます。

ニュートロの売場通路
ロイヤルカナンの売場
獣医師の許可がいる特別療法食。病院内に陳列することで差別化

そして、いざ店内に入ると見たことのないプレミアム商品が並び、それらに触れてもらい、接客販売するビジネスモデルです」(代表取締役社長 中村友秀氏)

特別療法食のプレミアムフードは、安売りチラシで集客する商品ではない。「什器」や「POP」を工夫し、実際に売場でお客にプレゼンする。

通路一本プレミアムフードが占めている

接客販売を3年ほど続けると、はじめはNB60% 、プレミアム40%だった売上比率が、プレミアム60%、NB40%に逆転するという。アミーゴは3年かけて、新規客の「固定客化」に取り組んでいるのだ。

「固定客化の施策として、アミーゴ1号店の旧福島西店はポイントカードの会員さんが1万6,000人いました。今回移転増床した福島西店ではプラスして、2万5,000人まで会員数を引き上げたいです」(横須賀氏)

ほかにも特別療法食は、同店内の新施設である動物病院内にも陳列されており、獣医師の許可がないと購入できない仕組みになっている。

アミーゴは、量販店との「徹底的な差別化」を実行する。接客が販売条件の特別療法食で差別化。固定客をつくることで差別化。NB、オリジナル商品を組み合わせた売場で差別化。

そうした差別化戦略がアミーゴを、HCやDgSと隣接出店しても影響がない「オンリーワン」の存在にしているのだ。

お客と会話しやすい「対面レジ」

〈 取材協力 〉

(左から) アミーゴ代表取締役社長 中村友秀氏、ダイユーエイト社長 浅倉俊一氏、アミーゴ専務取締役営業本部長 横須賀忠明氏

男性用洗顔シートを自分用に買う女性も。商品開発もジェンダーレス化進むか?

調査会社の富士経済によると2018年の男性用化粧品市場の規模は1,175億円。2020年には1,191億円まで増加すると予測しています。そこで今回は、フィールド・クラウドソーシング事業を展開するソフトブレーン・フィールド株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:木名瀬博)は、アンケートモニターから独自に収集する「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」(以下POB)のうち、「男性向け化粧品カテゴリ」の購買データ(※1)レシート総枚数5,909枚(調査期間2019年1月~2019年12月)から購買行動を分析しました。男性の美意識の変化を読み解きます。

※1)「男性向け化粧品カテゴリ」購買データ
「洗顔/洗顔シート」・「ブロー/スタイリング剤」・「男性用シャンプー」・「スキンケア」・「育毛/養毛剤」の5カテゴリをセレクト

洗顔関連がトップ、スキンケアも健闘

まず、最初にPOB会員が購入した男性向け化粧品の購入レシートを分析をします。

POB会員の男性向け化粧品の購入レシートを分析すると、「洗顔/洗顔シート(37.6%)」が最多となり、「ブロー・スタイリング剤(26.8%)」、「男性用シャンプー(16.5%)」などの使用頻度の高いカテゴリが続く中、「スキンケア(10.6%)」が健闘していることがうかがえます。

背景には、近年男性の各化粧品メーカーから男性向け化粧品が続々と販売されていることがあります。2019年9月には富士フィルムがアンチエイジング化粧品「アスタリフト」を男性向けに展開することを発表しており、多くのメーカーが成長率の高い市場として積極的に商品開発をしていることも伺えます。

洗顔シートは丈夫さが評価されるメンズビオレと香りで魅せるギャツビーが首位

ここからは、POB会員が購入した「男性洗顔/洗顔シート」、「男性用シャンプー」、「男性スキンケア」に注目して、レシート枚数から、どのような商品が購入されていたのか購買理由とともに分析をします。

まず、「男性洗顔/洗顔シート」の商品別レシート枚数シェアは、1位「花王 メンズビオレ洗顔シート(14.1%)」、2位「マンダム ギャツビーフェイシャルペーパー(13.2%)」と洗顔シートが続き、3位「花王 メンズビオレ 泡タイプ洗顔(12.6%)」、4位「マンダム ギャツビー フェイシャルウォッシュパーフェクトスクラブ(6.2%)」、5位「マンダム ギャツビー フェイシャルウォッシュ薬用トリプルケアアクネフォーム(4.3%)」となります

「花王メンズビオレ洗顔シート」の購買コメントからは、「CMなどで紹介されている特長のとおり、シートが丈夫で破れにくく拭いている途中で丸まったりしないので使いやすい。また、乾きにくいので首や耳の後ろなど広範囲に使用出来る。香りも強過ぎずほのかに香る程度で気に入っている(50代男性)」や、「CMでもやっているように乾きにくいし、破れにくいので長時間使用できて重宝している(40代男性)」といった、CMにより商品特長が浸透し購入したといったコメントが目立ちました。

続いて、「マンダム ギャツビーフェイシャルペーパー」の購買コメントをみると、「拭くとひんやり感がクセになり愛用している。(40代男性)」や、「袋から一枚取り出したときのさわやかな香り、顔に当てたときのひんやりとした感覚が好み(50代男性)」といった、爽快感や香りについてのコメントが多くみられました。

他にも、「この商品を10年以上使っています。洗顔シートのなかでは最高の商品だと思う(30代男性)」など男性向け化粧品を牽引してきたブランド力で長年愛用しているといったコメントもみられました。

シャンプーぶっちぎり1位は頭皮への効果期待される「サクセス」

次に、「男性用シャンプー」カテゴリ商品について分析をします。

「男性用シャンプー」の商品別レシート枚数シェアは、1位「花王 サクセス 薬用シャンプー(21.0%)」、2位「花王 サクセス リンスのいらない薬用シャンプー スムースウォッシュタイプ(7.9%)」、3位「h&s for men ボリュームアップシャンプー(6.6%)」、同率3位「サンスター トニック 爽快頭皮ケアシャンプー リンスイン(6.6%)」、5位「花王 サクセス 薬用シャンプー エクストラクール(5.7%)」となります。

「花王 サクセス 薬用シャンプー」の購買コメントからは、「毛穴のアブラもニオイもよく落とせて洗髪後の爽快感が気持ち良い(60代男性)」という『頭皮の皮脂に届く洗浄力』。「洗髪後臭いが減った(60代男性)」という『頭皮のニオイ』への効果を実感するコメントが多く挙げられ、他にも「主人がいつも使用しており購入を頼まれ、ドラッグストアに来店し購入(30代女性)」といった代理購入や、「残りが少なくなってきたので、自宅近くのスーパーで他の買い物のついでに購入(40代女性)」といった“ついで買い”などが目立ちました。

店頭購入の場合では手軽な価格帯で効果が実感できる薬用シャンプーの支持が高い傾向がコメントに表れていました。

女性による代理購買多いスキンケアカテゴリ

最後に、「スキンケア」カテゴリ商品について分析します。

「男性スキンケア」カテゴリの商品別レシート枚数シェアは、1位「マンダム ギャツビー 薬用スキンケアウォーター(5.3%)」、2位「大塚製薬 ウル・オス スキンミルク(4.6%)」、3位「大塚製薬 ウル・オス スキンローション(4.2%)」、4位「花王 メンズビオレ 毛穴すっきりパック(4.0%)」、同率4位「マンダム ルシード 薬用トータルケア乳液(4.0%)」となります。

「マンダム ギャツビー 薬用スキンケアウォーター」の購買コメントからは、「この商品を常用しており、とてもさらっとしていて、使用後にベタつきが無く匂いが無いのもいい(30代男性)」といった、使用感で自身が購入し選んでいる男性のコメントがありましたが、「男性化粧品の並び方がよくわからず毎回探して購入。メーカー毎なのか、使用目的毎なのか。毎回同じ物をオーダーされ購入(60代女性)」や、「息子に頼まれ、どれがいいのかわからず、名前を知っているお手頃価格なこの商品を購入(50代女性)」といった代理購入をする女性のコメントが多くみられ、前段の「POB会員が購入した男性向けシャンプーカテゴリ商品(図表3)」においても、女性が普段の買い物の“ついで買い”といったコメントがありました。

このことから、男性ターゲットの商品であっても、代理購入をする女性を意識したPRが販売促進に効果的であることがうかがえます。

男性用用品を購入する女性も。ジェンダーフリー商品が増える?

一方で、「POB会員が購入した男性向け洗顔・洗顔シートカテゴリ商品(図表2)」においては、「夏場の暑い時に毎日使うため消費量が多く、大きいサイズが欲しくていつも購入している(30代女性、花王 メンズビオレ洗顔シート購入)」や、「汗をかく季節に入ったのでよく利用する。一枚でスッキリサラサラになるので経済的でいい。一枚で手軽に綺麗になれる(30代女性、マンダム ギャッツビーフェイシャルペーパー購入)」などといった、女性が自分のために指名買いするといったコメントがありました。

他にも、「髪の毛に元気と栄養を与えてくれる気がする(30代女性、花王 サクセス薬用シャンプー購入)」や「自分の髪質に合っており効果を実感できている(50代女性、花王サクセス薬用シャンプー購入)などといった、男性向け商品であっても自分の悩みや自分の体質に合った効果を実感しているといった声もあり、これまでの「男性用」「女性用」といった固定概念で決めつけるのではなく、消費者一人ひとりにあった商品開発がより重要視され、男性も女性も使える「ジェンダーレスな商品」が今後増えていくのではないでしょうか。

PB比率33%!異色のコンビニ「セコマ」の売場が楽しい理由

北海道のご当地コンビニとして愛されながら、独自の戦略でメーカー機能を持つなど、新たな利益の柱をつくり、成長を続ける「セコマ」。同社の商品開発について、広報部長を務める佐々木威知氏に話を聞いた。道内店舗で実際に購入したセコマのプライベートブランド商品の紹介とともに“つくる力”とその原動力を読み解く。(月刊マーチャンダイジング2020年2月号より編集の上転載)

ポテトチップス売場、上段、2段目にPBのスナック菓子が並ぶ。PB比率は3分の1以上ながら、あえてデザインの統一感を崩すことで、PBばかりではない、品揃えの豊富感を戦略的に演出している

総合流通商社として自社で製配販をコントロール

現在、北海道を中心に約1,200店舗のコンビニ「セイコーマート」を展開するセコマだが、酒店の近代化を進めることでチェーンへと発展した歴史がある。また、1号店の開店も1971年とセブン−イレブンより早く、現存する中では日本ではじめてのコンビニチェーンとしても知られている。

この来歴を踏まえれば、セコマがワインを輸入しプライベートブランド(PB)商品として自店で販売するほか、スーパーやドラッグストアなど他企業にまで供給していることに違和感を覚えることはない。

セコマの究極の強みは、小売機能だけでなく、卸機能だけでもなく、メーカー機能も備え、自社で製配販を行い、物流網も含めてトータルでサプライチェーンをコントロールできるところにある。セコマが、ほかの大手コンビニチェーンに比べ、価格を抑えた商品を多く並べられるポイントもそこだ。

PB総菜は、首都圏では200~300円が相場だが、セイコーマートでは1点120~130円で購入できる。グループ所有の生産工場は約21ヵ所、物流拠点は7ヵ所あるという。セコマは、野菜や肉、海産物など北海道の豊かな原材料を地産地消する形で、お客のニーズに振り切った独自商品を多く開発している。

セイコーマートの代名詞ともいえるPBワイン。酒類を豊富に取り揃えているのもセイコーマートの強みだ。PB酒類を集めたリーチインケースも

店頭での見せ方含め商品開発。地域に愛される原動力に

週ごとに発売される新商品PBや話題の商品は、入り口近くに島陳列を設けたり、専用トップボードなどを用いて、しっかりと販促強化を行っている

「商品をつくるときには、サプライチェーンの中でどういう商品に仕上げたいのかを考えます。高いクオリティで、できるだけ買いやすい値段に仕上げるためには、製造で、物流で、店頭で、それぞれどんな工夫をするのかがあって、はじめて価値の高い商品ができ上がってきます」(広報部長 佐々木威知氏、以下同)

どこまでを自社で行い、どの過程を外注し、どの企業と戦略的に手を組むのか。企業によって最適なPB開発の仕方は異なる。

セコマは、北海道という土地柄、気候、自らの出自や経緯などを踏まえて、大部分を自前で賄う方法を答えとして導き出し、大手チェーンとの差別化に成功した。

商品を並べるまでが商品開発だが、セコマでは商品開発部門と売場企画や広告戦略を担当する部門が本社内の同フロアにレイアウトされ、日々自然とコミュニケーションが生まれる場づくりが行われているという。

「メーカーとは異なり、われわれは店頭に並ぶ姿まで自分たちの手でつくり、見届けることもできます。いい原料との出合いがあれば、それを商品化して、最終商品としてお客さまにいかによさを伝えるか。そこまでできて商品開発。商品に対するおもい入れあっての試行錯誤が、地域に愛される原動力につながっているとおもいます」

PB比率は33%、売上構成比は50%

「中札内産卵のふんわり玉子焼」「ひじき五目煮」「大きなおにぎり 昆布」の3品合計で税込み440円。健康的な軽めのランチには十分なメニューだ。総菜は大部分が税込みでも120~130円で購入できる。大手コンビニとは異なり、安さの訴求も特徴的だ

現在、セコマのPB比率は約33%、取扱いアイテム数3,500のうちPBが1,000を占め、全体の売上の半分以上がPB(たばこを除く)だという。ナショナルブランド(NB)の取扱いも行う国内小売企業の売上高PB構成比を見ると、カインズが40%、セブン−イレブンのセブンプレミアムが25%程度。道内るセイコーマートの50%がいかに高いかがわかるだろう。サプライチェーンを経営しているからこそPB戦略がもたらす粗利面での経済効果も、相当大きいものと想像できる。

面白いのは、ここまでPBに力を入れているにもかかわらず、セイコーマートの店頭で「PBばかり」といったような印象を受けることがない点だ。そのポイントはパッケージデザインにある。

「通常、PBはシステマチックに統一した形でパッケージデザインを行います。この方法のメリットは、ブランド認知がされやすく、整然とした印象を与えることができる点です。

一方で、皆が皆PBが欲しいわけではないし、NBを求めている人にとっては面白みのない売場に見えてしまう。セコマでは、ある程度の統一はしながらも個々が独立したデザインを目指しています」(佐々木氏)

PB比率が高いからこそ、買物をする楽しさ、発見する楽しさ、選ぶ楽しさのある売場づくりを心掛けているという。

–続きは月刊マーチャンダイジング2020年2月号でご覧ください。

・ID-POSをどのように参考にしているのか?
・まるでNBのようなバラエティー豊かなPBパッケージ
・来店頻度の高さがの秘密とは?

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亀田社長に聞く「第4次産業革命」の未来のためトライアルが挑戦していること

AIカメラの活用、タブレットカートの導入など、リアル小売業の「デジタル革命」に果敢に挑戦しているトライアルホールディングスの亀田晃一社長に、変貌する小売業の未来を聞いた。(聞き手:本誌主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2020年2月号より転載)

人口減少で日本は生産性革命待ったなし

──現在の日本の流通業を取り巻く「環境変化」についてお聞かせください。

亀田 われわれは、「短期的な環境変化」よりも「長期的な環境変化」を重視しています。長期的な環境変化の第1は、日本の人口減少と高齢化(GDP成長率の低下)です。人手不足により人件費が高騰しますので、IoT(Internet of Things すべてのモノがインターネットでつながる社会)・AI(人工知能)を活用した労働生産性の向上は待ったなしの経営戦略です。

GDP成長の約半分は、人口ボーナスによるもので、生産性改善は半分だといわれています。日本は2060年に人口が現在の3分の2になるといわれています。「人口ボーナス」はもはやない国なので、生産性を高めなければ成長できないということが、日本の小売業として考えなければならない事実ですね。

人手不足のなかで優秀な人材を確保するためにも、働き方改革による待遇改善は不可欠です。また、小売業の生産性向上のためには、専門性の高い人材を確保する必要があり、そうした専門的人材には高水準の報酬を支払うことも重要です。そういう人材は従来の小売業の企業文化とは異なるので、分社化によるIT・AI人材の確保も必要になるとおもいます。

長期的な環境変化の第2は、「100年に一度の基幹技術の革新」という大変化が起こることです。2000年代前半から、世界は第4次産業革命(インターネット・AI革命)の中にいますが、1960年代から発展した日本のチェーンストア産業は、第4次産業革命に乗り遅れ、この半世紀まったく進化できていません。その結果、日本の小売業の生産性はきわめて低い状況です。

AI、IoTなどの技術を活用したデジタル化によって、小売業の仕組みを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)型」の小売業への進化が必要です。

──トランスフォーメーションという言葉が出ましたが、「小売業の在り方」を根本から見直す時期に来ているということですか。

亀田 これからは「単純な安売り」は成り立たなくなっていきます。人件費の高騰、建築費の高騰、物流費も高騰しています。当然、店舗運営のコストも高騰し、これまでの単純なディスカウントはできなくなってきます。当社でも、平均年率3~4%人時単価が上がっています。これに対応できるだけの生産性の改善を進めなければ、間違いなくコストを吸収できなくなります。

現在、「店舗の在り方」「運営の仕方」をもう一度、根本的に見直そうと考えています。デジタルの世界だけを捉えると、1990年ぐらいから劇的な変化が起きています。

ただし注意しなければならないのは、店舗という資産があるなかで、すべての店舗を一気に変化させるのはできないということです。新店や、投資回収の終わった店舗から順次変えていく必要があります。

当社の社内では「レトロフィット」という言葉をよく使います。いまある既存設備と適合させて新設備の導入を図ることを優先するという意味です。当社が実験している「AIカメラ」も「レジカート」も、既存のオペレーションにプラスオンしたデバイスですので、既存の小売業にも導入しやすい機器だとおもいます。

リアル小売業は、Amazonとは異なり、「店舗運営優先」の技術導入が先だとおもいます。少しずつ変化しながら、すべての小売業が第4次産業革命の恩恵を受けられるのは10年以上先の話かも知れません。

パートナーとの協働でデジタル革命を推進

──御社が参画している「リテールAI研究会」などで、多くの企業と協働して、小売業のデジタル化を進めようとしていますね。

亀田 Amazonのような巨大企業のように、一社でサプライチェーン全体を再構築することはできません。だから当社は、多くのパートナー企業さんと協働することを重視しています。

メーカー、卸、小売、物流、メディア、金融、システム、ファシリティなどの、ビジョンを共有できる有力企業さんとの協業を図り、効率的なサプライチェーンを構築できればいいと考えています。

たとえば、冷蔵庫の外付けのデバイスなどで、ある程度の実験結果が出始めた技術を「フクシマガリレイ」さんと共同で開発しています。店舗内の棚や冷蔵・冷凍ショーケースは、老朽化するなかで、新しい技術に置き換わっていきますので、それを設備機器メーカーさんと一緒に進めています。

また、物流に関しても、低温物流に強みを持つ「ムロオ」さんと協働して、デジタル時代の新しい物流システムを構築しようとしています。

メーカーさんとの協働に関しても、ジョイント・ビジネス・プラン(JBP)という手法を使って、当社の販売データ、顧客データをメーカーさんや卸売業さんに提供して、「新しい売り方」や「カテゴリー創造」を製配販で協働して変革する試みも継続的に実施しています。

JBPによる協働では、メーカーさんの営業部門だけでなくて、本部のマーケティング部門の担当者とも取り組んでいます。「リベートを渡すから売ってくれ」という従来の商談から脱却したいと考えています。

また、「リテールAI研究会」には、ドラッグストア(DgS)さんなどのほかの小売業も参加しており、小売業のデジタル化に関して共同で研究しています。当社が実験中の「AIカメラ」も、当社一社で導入するよりも、多くの企業さんに採用してもらえれば、1台当りの費用が下がります。インフラはともに使おうという考え方です。

銀行さんとは「小売」と「決済(金融)」の新たな連携方法を模索しているところです。当社はいま流行の「キャッシュレス還元」よりも、「本質的なキャッシュレス化」への対応を検討しており、「自社プリペイドカード」を軸に低コストの決済方法を銀行さんと一緒に研究中です。

浮動客よりもロイヤルカスタマーを重視

──以前取材させていただいた「新宮店(新宮町)」では、「AIカメラ」や「タブレットカート」などの新しいIT技術を導入していましたね(写真1、2参照)。

亀田 当社もまだすべて実験段階です。とにかくいろんなことに挑戦しています。「AIカメラ」は、人間が目視で確認していたものは、カメラで代替できるようになっています。カメラで「欠品状況」を見たり、「棚割」を見たり、棚前のお客さまの「購買前行動」を見ることができるようになり、そのビッグデータを分析できる時代になっています。

棚前の購買前行動データは、JBPの取組みのなかでメーカーさんに提供し、売り方や棚割の改善につなげればいいと考えています。

これからの小売業は「省人化」を進めていく必要があり、新宮店ではレジ作業を大幅に省人化する「タブレットカート」を導入しました。しかし、タブレットカート導入の目的は、省人化だけではなくて、お客さまの「買物体験」の質の改善も重要な目的です。

当社のハウスカードをスキャンしてからタブレットカートの買物はスタートし、お客さまが商品をタブレットカートでスキャンしながら店内を回遊します。お客さまのIDが特定されているので、お客さまのパーソナルな購入履歴や属性に基づいたパーソナルクーポンを画面に表示したり、「リコメンド機能」でおすすめ商品を表示することもできます。将来的には、販促がよりパーソナル化していくことは間違いないとおもいます。

[写真1]新宮店では、「タブレットカート」を実験している。目的は、レジ作業の省力化と、顧客データに紐付いたパーソナルクーポンなどのワンツーワンマーケテイングの実験。
[写真2]新宮店では天井に設置されたAIカメラで、顧客の購買行動と、棚の状態の可視化を進めている
──不特定多数の浮動客相手の商売から、固定客との長期的な商売に転換するということですね。

亀田 そうです。当社がいままでできなかったことは、本当にトライアルを愛してくれている「ロイヤルカスタマー」に対する特別な対応です。デジタル化によって、プリペイドカードやID-POSデータで、個人のIDを確認できるようになりました。また、AIカメラを使って、個人の属性を特定することもできるようになってきました。

ID特定ができると、当社の「ロイヤルカスタマーがだれなのか」がわかります。これまでは、チラシ販促などで、ロイヤルカスタマーもバーゲンハンターもだれでも万遍なく、同じディスカウント価格で集客していました。

しかし、これからは、ロイヤルカスタマーの購買履歴や属性に合った「特別な販促」をワンツーワンで提供できるようになります。

タブレットカートによる販促の個別化の成果が出るのは、まだこれからです。いま、お客さまがタブレットカートに価値を感じてくれているのは、リコメンド機能よりも、合計金額が見えるとか、決済をレジ待ちせずにできる省力化と便利性の部分です。

当社のタブレットカートは、海外も含めて多くの小売業さんが見学に来られますが、皆さんが驚かれるのは「利用率」の高さです。平均で来店客の40%がタブレットカートを利用しています。これは世界的に見ても高い利用率だとおもいます。

まだ小ロット生産なので、投資回収できる段階ではないのですが、手応ええを感じていることは、「お客さまの購買体験は変わったよね」「利用者は増えているよね」ということです。

──ロイヤルカスタマーとの関係性の強化に取り組んでいこうとしているわけですね。

亀田 ロイヤルカスタマーの関係性の優遇(エンゲージメント)に取り組んでいきたいとおもいます。短期的な浮動客相手ではなくて、固定客の長期的なライフ・タイム・バリュー(LTV)の向上をベースにした経営に転換していきます。

タブレットカートを利用してもらうと、お客さまの購買情報の詳細がわかります。だれが購入したかがわかり、お客さまの購入の順番がわかり、買物時間もわかるようになります。

また、ネット販売が画面のサイズだけの情報提供に対して、「タブレットカート+店全体」で、お客さまの五感に訴えるような情報提供を強化しています。

だから、サイネージによる情報発信も増やしています。五感で体感できるのがリアル店舗の強さですね。実際にリアルの商品がそこにある。全方位で見える、取って触れる、試食できるという体験価値を演出できるのはリアル店舗の最大の強みだとおもいます。当社では「ショールーム」としてのリアル店舗の空間価値と体験価値を向上していき、「リアルの強み」と「デジタルの強み」の融合を目指します。

トレーサビリティ(生産→物流→店舗→廃棄までの追跡システムのこと)を可視化できることもリアル店舗の新しい買物体験ですね。デバイスでバーコードリーダーを読めば、生産者の顔が見えて、取れた場所がわかって、生産方法がわかるなどの情報提供も可能になります。その情報価値によって購買行動は変わります。

とくに、POPよりも伝達能力の高い「動画」による情報発信をもっと店頭で強化したいですね。これからは「店舗のメディア化」の可能性は大きく広がっていくとおもいます。

 

–続きは月刊マーチャンダイジング2020年2月号でご覧ください。

・ワンツーワンの時代に売場で何を工夫しているのか?
・トライアルがPBよりもNBを重視する理由とは?
・トライアルがチャレンジする業態戦略とは。

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「高粗利商品」を定番に差し込みカテゴリー全体の粗利アップを目指す

2月18・19日に開催された「アルフレッサヘルスケア(勝木尚社長)」の展示会で、高粗利の「専売商品」を定番売場に差し込むことで、カテゴリー全体の粗利アップを目指す提案がありましたので、それを紹介します。

生理用品の定番売場に、アルフレッサヘルスケアの「専売商品」であり、高粗利商品の膣洗浄剤「インクリア」を差し込むことで、カテゴリー全体の粗利アップを実現する「売り方」提案。

「専売商品」は固定客化と利益改善に貢献する

2019年は、「死亡数-出生数」(人口の自然減)が初めて51万人を超えました。次の10年の日本は、深刻な人口減少時代に突入します。人口減少時代は、かつてのように販促を強化すれば、売上が大きく増えるという成功体験は通用しません。

むしろ人口減少時代が続くと、何もしなければ売上は減少していきます。また、人手不足による人件費の上昇によって販管費が増えて、営業利益も減少します。

これからの人口減少時代に大切なことは、売上が減っても「粗利益高」を増やすことだと、アルフレッサヘルスケアの勝木尚社長は強調しています。同社は、薬局、ドラッグストアのリアル小売業の粗利対策として、アルフレッサの「専売商品」を店頭起点で育成することを推奨しています。専売商品の特徴は以下の通りです。

[アルフレッサヘルスケア専売商品の特徴]

  1. エビデンスが豊富でオンリーワン商品
  2. 季節性がなく、定番で育成・推奨販売ができる
  3. 流通でしっかりとした利益が確保できる
  4. 特許、製法、特定産地でしか入手できないなど、マネのできない商品

アルフレッサの専売商品を店頭で育成することで、他の業態やネット販売とも差別化でき、年間定番として販売できるので、定番カテゴリー全体の粗利改善に大きく貢献することがわかります。

「専売商品」を店頭で育成する重要性を力説するアルフレッサヘルスケアの勝木尚・社長。

生理用品の定番でインクリアを関連販売

アルフレッサの展示会では、さまざまな専売商品の売り方を提案していました。その売り方提案のひとつが、生理用品の定番売場に、膣洗浄器「インクリア」を年間定番商品として関連販売することで、生理用品カテゴリー全体の粗利改善につなげる提案です(巻頭の写真)。インクリアは、女性の産婦人科医と共同開発した膣洗浄器なので、エビデンスもしっかりしています。

購買頻度の高い生理用品の定番売場に、インクリアを差し込むことで、関連購買が促進されることが期待できます。

しかし、専売商品の多くは、ただ陳列しているだけでは売れない商品がほとんどなので、POPや動画などによる情報発信、接客による推奨販売がとても重要です。ただ陳列しているだけの「自動販売機」のような売場では、専売商品は育成できません。これからのリアル店舗は、「店頭で商品を育成する力」を磨くことが非常に重要です。

女性の産婦人科医と共同開発した膣洗浄器「インクリア」。