実店舗もECもその本質は情報を編集・発信する「メディア」だ

連載「商売に効く本棚」では、毎日の商売に刺激を与える書籍をピックアップしてご紹介します。第1回は世界的に知られる小売コンサルタント ダグ・スティーブンスによるアマゾン一強時代のサバイバル小売論「小売再生ーリアル店舗はメディアになるー」を紹介します。(流通ジャーナリスト:流川通)

リアル店舗の新たな可能性

この世界に無限に散らばる「情報」をすくいあげ、ある評価軸で編集し、発信する媒体を広義の意味で「メディア」と呼ぶならば、まさしく「リアル店舗」は=「メディア」である。

本書の卓越な指摘は、リアル店舗が本来備えているメディア性をアマゾンなどのネット産業の持つ新たな次元のメディア力と対比させながら、双方の特性をあぶり出し、前者のメディア発信力を過去の遺物と断じるのではなく、後者の現在と未来における消費にもたらす様々な影響力を相対化させてリアル店舗の新たな可能性を探っている点にあろう。

著者の対比の軸は、リアル店舗の王者であるウォルマートとネット産業界の破壊的イノベーターであるアマゾンである。

リアル店舗業界の巨人ウォルマートの売場は常に編集され、情報(商品・サービス)を集積、発信している。客数は、メディアの評価指数だ。

その膨大なウォルマートの客数は、「すでに何らかの購買動機を持って来店する買物客」というセグメントにおいては圧倒的であり、ゆえに世界的なメーカー、サービスベンダーがウォルマートと製販の戦略的協働体制を築いてきた。

その力はまだまだ健在だ。たとえば最新の人気ミュージカル映画の楽譜もウォルマートが先行発売できる。あまり知られていないかもしれないが、実はウォルマートは全米でもっともファン層が多いと言われる音楽ジャンルである「カントリーミュージック」のCD、楽譜売上のシェアナンバーワンを誇ってきた。ただし音楽コンテンツの大勢はネット産業に移行し、そのリーチはいまや限りなく少なくなってきているのが現実だ。

一方、アマゾンを筆頭とするネット産業は、スマホやタブレットなど人々の生活にあっという間に浸透してしまったモバイルデバイスのインフラメディアになってしまったため、「店舗に訪れることなく、購買動機もいつ生じるかわからないけど、いつでもどこからでもほしいものが買える」という環境を創り出してしまった。

そして著者が指摘するようにネット産業は技術進化とともに新しい体験を次々とリリースしている。

たとえばそのひとつVR(ヴァーチャルリアリティ=仮想現実)技術がより発達し、コンパクト化されれば、もはやスマホなどのデバイスすら不要となり、コーヒーが切れてしまったらダッシュボタンを押さずとも、コーヒーメーカーから空間に映し出されるヴァーチャルなお好みの選択肢に視線を合わせて、音声で発注するだけで、商品が届く時代が来るだろう。もう何年かすると、「そういえば昔は注文するのにボタンを押したものだよ」という昔話が語られるかもしれない。

「動的な買物体験」を実店舗も提供すべき

著者の描く未来をすこし飛躍させてみよう。

コーヒーの在庫が切れる頃、コロンビアのコーヒー農園主が直接ストリーミングで空間に映し出されたらどうだろう。

「今年もいい出来だ。味はどうだい?」と農場や収穫の様子がよくわかるメッセージが届く。もちろんこれは販売者たる小売業から顧客に提供されるスペシャルコンテンツだ。お客はオーダーすれば、お好み通りに焙煎されたコーヒー豆が送られてくる。「私はこんな風にしてあなたの農園のコーヒーを毎日楽しんでいるよ」、とお客から返事をもらえれば、農園主も嬉しいだろう。それはSNSの世界で不特定多数から「いいね」ボタンを押してもらうよりずっと楽しいはずだ。

小売業はそのような新しいコミュニケーションの中でより優れた作り手を評価、開発し、商品、サービス内容をブラッシュアップさせていく。ときには作り手とお客様を直接引き合わせて好みの豆や焙煎度を比較しあうオフ会を開いてもいい。テーマによってマグや器具、お茶菓子などをいろいろ集めてみると面白いだろう。製販、そしてお客も加わって自分の好みやスタイルを追求していく場を小売業は提案していくのだ。

著者の視点の根底には「店舗に来なくてもほしいものが手に入り」さらには「お客と作り手、あるいは売り手との新しいコミュニケーションが生成されていく」という環境下で、店舗という固定的なメディアの質的転換を図らねば、お客からはどんどん飽きられてしまうだろうという危機感がある。

ネット産業は技術革新とともにどんどん新しい動的な体験を消費者に訴えかけているにもかかわらず、リアル店舗の大半は相変わらず静的な商品を軸とした売場づくりに終始し、坪当たりの販売効率という昔ながらの経営指標の推移を追いかけてしまっている。

著者は、まだまだ規模は小さいが、商品やサービスの動的な体験を売りにした店舗展開で老舗百貨店メイシーズの12倍の坪効率をあげている企業例を引き合いに出して、メイシーズが店舗の半分でもその扱い商品の新しい体験価値を提案する場づくりにチャレンジしてほしいと願っている。

店舗もネット小売も等しく「メディア」であり、顧客にどんな素晴らしい買物体験を与え続けられるかでお客に選ばれていく…これが著者のシンプルなメッセージだ。ただし著者は、やみくもにリアル店舗がデジタルの技術革新に追随することはないと言い切る。大切なことはリアル店舗がわが店の既存の顧客と、まだ見ぬ新しい顧客に独自の価値体験とその満足をもたらせるかどうかであり、それがデジタル技術を援用してより増幅するものであるなら積極的にトライすべきだし、アナログでより深掘りできるのなら、それを追求すべきだと著者は強調する。

アマゾンやアリババといったネット産業がリアル店舗買収に走り、ウォルマートやクローガーがネットベンチャーを買収する構図は、双方のメディア価値と特性を知り抜いているからに他ならないだろう。いずれにせよ、より高い次元での競争がはじまるはずだ。

(ダグ・スティーブンス著 斎藤栄一郎訳 プレジデント社)

ES(従業員満足度)調査で分かった定着率向上の優先課題 [後編]

前回に引き続き、月刊MD2017年11月号で特集した「ドラッグストア従業員満足度(ES)調査2017」のダイジェスト版を掲載します。前回は、ES調査の結果、現在働いている従業員の中で、「当社/当店で働くことを友人、知人に全く勧められない」という「総合満足度」で最低の1点と回答した従業員が10%もいるという結果が出ました。今回は、ES(従業員満足度)を高めるために、どんな課題に優先的に取り組めばいいのかを整理してみましょう。

ESポートフォリオ分析によるES向上の優先課題

図表1 ESポートフォリオ

ESポートフォリオとは、前回の連載で紹介した従業員の匿名アンケートの「各設問の満足度」の得点を縦軸にプロットし、「総合満足度と各設問の満足度の相関係数」を横軸にプロットした4象限の散布図です(図表1)。ES調査の分析では、「相関係数」という統計的な手法を用いています。簡単にいうと、前回で紹介した「設問」と「総合満足度」の相関の強さを、相関係数を使って分析しました。

図表1の縦軸は、各要素(前回の設問項目)の満足度の高さを示しています。上に行く設問ほど満足度が高くなります。また、横軸は、「各要素(設問)の満足度」と「総合満足度」との相関関係を示しています。総合満足度とは、「当社/当店で働くことを友人、知人といった身近な人にどの程度勧めるか」を問うことで判断しました。「全く勧められない」から「大いに勧められる」までの10段階で回答してもらいました。つまり、図表1の右にプロットされた設問ほど、総合満足度との相関が強くなっています。

ESポートフォリオを使った分析方法で、優先的に改善すべき経営課題は、図表1の右下の「①重点改善分野」にプロットされた設問になります。理由は、従業員の満足度が平均よりも低く、かつ総合満足度との相関が高い設問だからです。「重点改善分野」にプロットされた設問の満足度を高めれば、従業員のES向上、定着率向上に大きく貢献します。つまり、優先的に改善しなければならない設問になります。

仕事量が多い、評価が不公平、本部・上司からのフォロー不足

今回の調査で、「①重点改善分野」にプロットされた設問を以下に列挙してみます。

[重点改善分野にプロットされた設問(総合満足度と相関の強い順)]
(30)仕事量は自分の能力と比較し、適切である
(26)給料は公平に決定されている
(6)店の計画達成や課題解決に向けて、本部/上司からの支援が常にある
(25)自分の能力・仕事内容に見合った給料である
(11)仕事を通じ、自分の長所や個性が発揮できている
(14)店には手順書やマニュアルなどが整備されており、仕事をスムーズにこなすのに役立っている
(29)店は働きやすい環境(仕事場の適度な広さ、休憩室の有無、安全衛生面等)や設備(仕事やサービスで使う器具、空調設備等)が整備されている
(27)上司から、仕事において良かった点、至らない点、今後努力すべき点などについてのフィードバックを定期的に受けている

上記の設問・要素は、総合満足度との相関の強い順に並べています。(30)の設問は、作業量の多さによって現場が疲弊している実態を表しています。(30)を改善するためには、作業の仕組み化、IT化で従業員一人当たりの仕事量を減らし、生産性を向上することが課題になります。(14)の設問も同様に、マニュアル化、仕組み化が、ES向上に大きな影響を与えていることがわかります。

(26)(25)の設問の満足度を高めるためには、「評価制度」と「待遇制度」を一致させて、従業員の努力目標をオープンにし、どのスキルを身につけると報酬が上がるかを、誰でもわかるように可視化することが重要です。

(6)(27)の設問は、本部・上司の指示が出しっぱなしで、その後のフォローや、上司と部下の「報連相」が不足している実態を表しています。

(11)の設問は、マニュアル化は重要ですが、あまりにも現場に権限のない組織は、仕事の面白みがなくなり、離職・転職の原因になるということです。

(29)の設問は、環境の悪い、汚くて古い店では働きたくないという実態を表しています。償却が終わって儲かっているという理由で、古い店舗を放置せず、計画的な店舗改装を進めることがESの向上につながります。事実、改装店舗で働く店長や社員のモチベーションはものすごく高まります。

時短ニーズのみならず、メインのおかずとして受け入れられる冷凍食品

みなさんは、普段冷凍食品を利用しますか?忙しいときや、一品足りないときなどとても便利で、最近の冷凍食品はとてもおいしくなったと思いませんか?日本冷凍食品協会が今年4月に発表した2017年の冷凍食品の国内での工場出荷額(速報値)は、前年比4%増の7,180億で、7,000億円台となったのは02年以来であり15年振りに7,000億円台を上回ったと言います。 そこで今回は、冷凍食品の買われ方について自主調査でPOB会員3,232名(男女40代~50代中心)を対象に「冷凍食品の購入」に関するアンケートを実施しました。

27%の人が月に2~3回食べる冷凍食品

まず、冷凍食品を食べる頻度について調査をしました。

冷凍食品を食べる頻度は、「月に2~3回」が27.7%でもっとも多く、4.1ポイント差で「週に2~3回」が23.6%と続きます。

次に、普段店頭で食料品を購入すると回答した方(n=2,860名)に、1回の買い物で、冷凍食品を購入する際に何個購入するか調査をしました。

1回の買い物で冷凍食品を購入する際に、「1~2個」が40.3%、次いで「3~4個」が15.8%、「5個以上」が3.8%と続きました。

購入場所はスーパーがダントツだが、DgSも12.8%と健闘

次からは、普段冷凍食品を利用すると回答した方(n=2,686名)に、深堀をして調査をします。

まず、冷凍食品の購入場所は、「スーパー」が89.2%とダントツで、「ドラッグストア」が12.8%、「生協などの宅配」が8.7%、「コンビニエンスストア」が5.9%と続きます。「スーパー」だけではなく、「ドラッグストア」や「コンビニエンスストア」などに、販路が広がっていますが、圧倒的に「スーパー」で購入する方が多く、店頭で購入していることがわかります。

次に、冷凍食品を利用する理由について、調査をします。

冷凍食品を利用する理由は、「簡単に調理できるから」が44.6%でもっとも多く、次いで「一品足りないとき/追加したいとき」が34.8%、「お弁当のおかずとして」が34.1%、「料理する時間がないとき」が30.9%と続き、「時短・簡便」がキーワードとなっていますが、「メインのおかずとして(16.2%)」や「味がおいしいから(12.4%)」など、立派なおかずとしても受け入れられていることがわかりました。

普段冷食を使う人の30%が買い置きする「ギョーザ」

次に、冷凍食品を食べるシーンについて、調査をします。

冷凍食品を食べるシーンは、「夕食」が57.7%でもっとも多く、「昼食」が40.4%、「お弁当」の25.3%と続き、夕食の一品や昼食など、家庭での食事として利用されることが多いことがわかりました。

次に、日頃買い置きしている冷凍食品について、調査をしました。

日頃買い置きしている冷凍食品は、「ギョーザ」が29.9%でもっとも多く、「からあげ・竜田揚げ」が25.4%、「うどん」が23.1%と続きます。また、天候不順が続く中でも価格が安定している「野菜類」が22.6%となり、ほかにも夕食のメインやお弁当のおかずになるような、「コロッケ(13.7%)」、「シューマイ(12.2%)」、「ハンバーグ(10.9%)」などがランクインしました。

まだまだPBよりNBが人気の冷凍食品

次からは、各社が注力しているプライベートブランド(以下PB)の冷凍食品について調査をします。

直近1年間のPBの冷凍食品の購入経験は、「購入したことがある」が59.1%、「購入したことがない」が29.1%となり、購入したことがある方が、大きく上回りました。

次に、メーカーが自社ブランドで販売するナショナルブランド(以下NB)と、PBの冷凍食品について、どちらの購入頻度が高いか調査をしました。

NBとPBの冷凍食品の購入頻度については、「NBの購入頻度が高い」が40.1%、「PBの購入頻度が高い」が19.6%を20.5ポイントも上回りました。今回の調査では、9割近くの方が冷凍食品をスーパーで購入していたため(図表3参照)、スーパーでの商品展開数が豊富な、NB品のほうが選ばれていたことが考えられます。

次に、冷凍食品を扱う代表的なPBブランドをピックアップし、購入経験を調査します。

購入経験がある冷凍食品のPBブランドは、1位がイオンのPB「トップバリュ」が53.9%で、2位以下と30ポイント近くの差をつけ、2位がセブン&アイ「セブンプレミアム」が25.4%、3位が西友「みなさまのお墨付き」が14.1%と続きます。また、4位には宅配系生協の「CO-OP(11.7%)」、5位にはコンビニエンスストアのローソン「ローソンセレクト(10.7%)」がランクインしています。

冷凍食品は、「時短・簡便」のキーワードから、冷凍食品なのに「こんなにおいしい」という感動を提供できる商品が続々と発売されています。また、販売経路もスーパーからドラッグストア、コンビニエンスストアまで広がり、あらゆる年代の方に様々なシーンで食べられるようになりました。

また、無印良品を展開する良品計画は冷凍食品事業に参入することを発表し、総菜やご飯ものなど今年9月下旬から冷凍陳列棚を置いた国内4店で販売を始め、2019年2月までに20店に拡大すると発表していることから、新規参入するメーカーも増えることが予想されるため、今後も冷凍食品の動向に注目したいと思います。

ES(従業員満足度)調査で分かった定着率向上の優先課題 [前編]

月刊マーチャンダイジング12月号(11月20日発売)は、恒例の「ドラッグストア顧客満足度(CS)調査2018」です。毎年、ものすごい反響の人気企画なので、関心のある方はぜひ月刊マーチャンダイジングを参照してください。CS(顧客満足)とES(従業員満足)の向上は車の両輪です(図表1)。ESが高く、現場の士気が高く、定着率の良い小売業のCSは概ね高く、ESとCSの高さは正比例の関係にあります。今回と次回の2回に分けて、月刊マーチャンダイジング2017年11月号で特集した「ドラッグストア従業員満足度調査2017」のダイジェスト版を掲載します。

ES向上が、CS向上、そして業績の向上につながる

図表1
小売業・サービス業におけるESの向上とは、一言でいうと従業員に「この会社・お店で働き続けたい」と思われることです。ESが低くて短期離職が絶えず、常に人手が足りないお店や、やる気の無い従業員がダラダラと働くお店では、陳列・クリンリネス・接客・レジ対応など、あらゆる面で目にみえるほころびが出てきます。

一方、従業員がやりがいを持って働き続けているお店は、採用コストが抑えられるだけでなく業務への習熟による生産性の向上や、サービスのレベルアップにつながり、顧客の集まるお店になっていきます。つまり、ESの向上は、CSや業績を向上させるための必要条件になります(図表2)。

図表2 ESの向上がCS、そして業績の向上につながる

今回のES調査は、ウイルベース株式会社の協力を得て、2017年5月~8月の期間、DgS(ドラッグストア)の従業員を対象に、無記名式の「Webアンケート」を実施しました。回答数は2万3,044人です。

アンケートの設問は図表3の通りです。「総合満足度」と、「従業員満足度(ES)を構成する6つのカテゴリー」の2種類に大別されます。「総合満足度」は総合的な満足度を表しますが、本件ではこの総合満足度を「当社/当店で働くことを友人、知人といった身近な人にどの程度勧めるか」を問うことで判断します。「全く勧められない」から「大いに勧められる」までの10段階で回答してもらいました。

一方、「従業員満足(ES)を構成する6つのカテゴリー」は「全社・店への理解」「顧客・社会」「業務知識・スキル」「人間関係」「処遇」「就労環境」に分かれており、さらに詳細な構成要素(全部で31)に分かれています。各要素に対して「そう思う/ややそう思う/あまりそう思わない/そう思わない」の4段階で回答する形式です。

図表3 ES調査の設問・選択肢一覧

カテゴリ 設問内容
雇用形態 (1)あなたは次のうちどれに該当しますか?
総合満足度 (2)当社/当店で働くことを友人、知人に勧めることができますか?
会社・
店への理解
(3)私は、会社の理念や店の目標を理解している
(4)上司は、会社/店の方針や決定事項をタイムリーに伝達している
(5)店の計画達成や課題解決に向けて、店の全員が協力して取り組んでいる
(6)店の計画達成や課題解決に向けて、本部/上司からの支援が常にある
顧客・社会 (7)店は近隣の地域や社会に貢献している
(8)店は、仕事のやりやすさや業績を意識するだけでなく、お客様に合った商品・サービスを提供している
(9)店の商品・サービスを友人、知人に自信をもってお勧めできる
(10)お客様は、店が提供する商品・サービスに満足している
業務知識・
スキル
(11)仕事を通じ、自分の長所や個性が発揮できている
(12)割り当てられた仕事については、上司やお店の仲間から信頼され任せてもらっている
(13)以前の自分と比較し、成長できている
(14)店には手順書やマニュアルなどが整備されており、仕事をスムーズにこなすのに役立っている
(15)本部/店はスキルアップのための研修や勉強会などを提供してくれる
(16)上司は優れたスキルや知識を持っており、部下を的確に指導している
(17)自分は、店の仕事をするのに十分なスキルや知識を持っている
人間関係 (18)私は仲間(上司や部下等)が仕事上で困っていたら、積極的にサポートをしている
(19)周囲(上司や店の仲間)に期待されている
(20)上司とは定期的に仕事内容や将来のキャリアについて話す(または面談する)機会がある
(21)上司は一方的に指示するだけでなく、自分の提案や意見も聞いてくれる
(22)私は部下(業務上の指示をする社員、パート・アルバイト等を含む)と定期的に仕事内容や将来のキャリアについて話すようにしている
(23)私は正社員、パート・アルバイトを問わずお店のすべての部下(業務上の指示をする社員、パート・アルバイト等を含む)に対して公平に接している
(24)私は部下(業務上の指示をする社員、パート・アルバイト等を含む)に対し、一方的に指示するだけでなく本人の意見も聞くようにしている
処遇 (25)自分の能力・仕事内容に見合った給料である
(26)給料は公平に決定されている
(27)上司から、仕事において良かった点、至らない点、今後努力すべき点などについてのフィードバックを定期的に受けている
就労環境 (28)店は明るく活気がある
(29)店は働きやすい環境(仕事場の適度な広さ、休憩室の有無、安全衛生面等)や設備(仕事やサービスで使う器具、空調設備等)が整備されている
(30)仕事量は自分の能力と比較し、適切である
(31)休暇や勤務シフトを決定する際、希望を考慮してもらえる
(32)サービス残業を強要されることはない
(33)お店でハラスメント(セクハラ・パワハラ)は発生していないし、発生したことを聞いたことがない

総合満足度の最低評価で1をつけた従業員が1割もいた

今回のES調査の結果では、「全体の調査結果」だけを紹介します。月刊マーチャンダイジングの特集では、正社員、非正規社員、薬剤師の3階層ごとの傾向も分析していますが、長くなるのでMD NEXTでは割愛します。

3つの階層すべてを含めた全体の調査結果では、総合満足度は10段階評価で平均は5.20、標準偏差は2.52となり、比較的バラつきが大きくなる結果となりました(図表4)。「5」と回答した人の割合が一番高く21.5%、最高の「10」(大いに勧められる)と回答した人が6.7%である一方で、最低の「1」(全く勧められない)と回答した人が10.0%もいたことは大きな経営課題です。これは、現在働いている従業員の中で、「当社/当店で働くことを友人、知人に全く勧められない」という回答者が相当割合いることを示しています。彼らのESを向上することは、顧客満足と業績向上に直結する重要な経営課題です。

次回は、ESを向上し、従業員の定着率を高めるためには、どんな項目を優先的に改善すべきか? 「ESポートフォリオ」という分析方法を紹介します。

図表4 総合満足度回答割合

取引先の貢献度評価によって戦略的協業を

安倍晋三首相は2018年10月15日の臨時閣議で、消費税率を来年10月1日に10%へ予定通り引き上げる方針を表明した。この増税基調による「コストプレッシャー」は生活必需品の販売を商売の核とする小売業にとって、多くの経営施策に影響を与えるはずだ。月刊MDアーカイブスとして、以前月刊マーチャンダイジングに掲載した内容から、製販協業によってこの状況をどのように乗り越えるべきかを示唆する。(月刊マーチャンダイジング2013年7月号より転載)

「安くして」一辺倒の商談スタイルでは生き残れない

ここでは、「マーチャンダイジング」(MD:生産から店頭販売まで一気通貫する生産サイクルの費用対効果を最大化させる制度設計)を切り口に「部分最適」ではなく、「流通全体の最適化」を目指すサプライチェーンの高度化に向けたアクションの概要について説明したい。

マーチャンダイジングを戦略的に、そして効率よく実施するためには、需要管理・供給管理を合理化し、効率的な品揃え・新製品・プロモーション品展開を行うことが重要だ。これまで以上に、小売業はメーカー、卸売業との洗練された協働することが必要となり、会社と会社同士でのビジネスの関係を強化できる商品本部体制と需要管理に不可欠な組織開発が必要になる。

小売業はバイヤー・スーパーバイザー(SV)・物流・ITのメンバーで構成された多機能チームが、キーとなるメーカーとカテゴリー成長へ向けた販売施策を立案・実行し、共同で需要管理を実施し、需要を予測し、店頭欠品の撲滅を実現しなければならない。つまり、製販協働で売場における「売り続ける力」と「売り切る力」を強化することが重要なのである。

そのためには小売業は、全方位外交のように、取引先全部のメーカー・卸売業と仲良く取引しようというスタイルを見直す必要があるのではないだろうか。小売業は自ら活動基準の原価計算(ABC分析:Actived Based Costing)を行い、どのメーカー・卸売業が自社に貢献しているのかを明確にし、戦略的評価を行い、優先順位をつけ、カテゴリー全体の成長へ向けたアクションを行うことが必要なのである。

勢いがあって、将来性も高く予測されるカテゴリーをもっとも理解し、熟知する卓越したメーカー・卸売業と戦略的に協働することによって、コストプレッシャーが高まる今後の経営環境に対応することができる。

かつての小売業の常套句である「安くして」一辺倒では優れたメーカー、卸売業の協力を得られないばかりか、消費者にも見放されるだろう。「安くして」一辺倒の小売業は単品の安売り競争の経験値しか持ち合わせていない。今後の小売業は地域の小商圏にあって最適の品揃えと価格を実現することが求められる。つまり単品の安さではなく、カテゴリーの便利さ、用途機能の豊富さが小商圏においてもっとも消費者を満足させる。

優れたメーカーや卸売企業は、そういう次世代を見越したフォーマットを開発したり、売り方の方法論を突き詰めていく文化を持った小売業と組みたいと考えているのだ。

[図表1]点と点の関係からダイヤモンドモデルへ

製販協働高度化の第一歩はSB/PB開発

製販協働のための具体的な手順に入ろう。

まず重要なことは、メーカーの製造・物流・マーケティング・営業においての「機能フィー」を明確にし、小売業にとってコスト削減と利益増大させるアクションを実践することである。重点メーカーの研究・開発に関しては、利益を高めるために、小売業側から品質の高いメーカーにSB/PB(ストアブランド/プライベートブランド)の協働を積極的にアプローチすべきだ。同時に、メーカーの工場で俗に「ひと窯」にあたる1ライン工程で生産された商品を買い取る契約に基づくビジネスモデルを確立することもお勧めだ。

SB/PB戦略を実施することで、小売業は「物流」や、さらに広義の「ロジスティクス」の意識を高めざるをえなくなる。通常は販促商談において、数量の大小で販促条件を獲得しているが、真のポイントは物流合理化に基づく、整合性のある数量引きをメーカー・卸売業が提示しているかどうかなのである。

たとえば、FTL(Full Truck Load:トラックの積荷満載)インセンティブを考えてみよう。メーカーの大半は、車建てで配送業者と契約している。つまり、このトラックを満載にしたほうが、効率がよいということだ。満載にした分、当然それまでよりコストが浮くのだから、浮いた分を製販でシェアすれば良い。

倉庫(保管)もサプライチェーンにおいて見落とされがちな項目だ。メーカーによっては、保管倉庫料軽減のため、本州より1日遅い着荷を条件とする北海道・九州配送条件がある。また、小売業・卸売業が手配した配送トラックの空車を使って、メーカーの工場に、直接引取りにいった際に、インセンティブを支払うメーカーもある。

返品に関しては、カテゴリーによって、対応を考慮しなければいけないが、「返品削減」を目的に協働する際は、メーカーに無返品契約、もしくは、返品削減インセンティブを交渉することがポイントである。返品している場合の条件と、返品削減させた時の条件は同じはずではない。

これらの事例は、ウォルマートなど米欧のグローバルチェーンやアジア最大のDgSチェーンワトソンもほぼ共通する商談スタイルである。つまり、小売業が日々実施している販売促進商談活動に加え、前述の物流商談をミックスさせ、メーカーに整合性ある物流条件を提示してもらい、利益を確実に上乗せさせているのだ。

第2回に続きます。

注目集めるグレーヘア。変わるヘアカラー市場の「売り方」を見直そう

縮小傾向にあると指摘されるヘアカラー市場だが、人口に占める高齢者の割合は増加しており、白髪染め関連商品にはまだ大きな伸びしろがあるといわれている。そんななか、既存の白髪染めカテゴリーの概念を覆す画期的な商品として、鳴り物入りで発売されたのが花王の「Rerise」だ。同社に、カテゴリーの概況と商品の可能性について取材した。(月刊マーチャンダイジング 2018年11月号より転載)

黒髪ブーム、ロールモデル不在で縮小するおしゃれ染め

美容室におけるカラーメニューの低価格化、カラー専門店の台頭など、近年のヘアカラーを取り巻く環境の変化により、自宅で髪を染める「おうち染め」の市場は頭打ちとなっている。おうち染めは、白髪染めとおしゃれ染めに大別できるが、とくに打撃を受けているのがおしゃれ染めだ。現在のおうち染めの内訳を見ると、8対2と圧倒的に白髪染めが多く、おしゃれ染め市場は、白髪染め以上に縮小している。

「おしゃれ染めのピークは2000年ころで、いまは当時の半分以下。当時は、アムラーブームなどギャル文化が全盛で、髪色も明るい方へ明るい方へと移行していきました。“学校の先輩”など、身近なロールモデルがいて、その影響で茶髪に染めていたケースも多くあったとおもいます。今はメジャーアイドルもほとんど黒髪です。2011年に震災があったことなどもあり、全体的なモードが変わったのだとおもいます」(ヘアケア事業部ブランドマネジャー 入交 剛氏)

白髪染め市場は860億円、50歳以上増加で可能性あり

最直近では、インナーカラー(髪の内側のみ色を入れる染め方)など、自分の髪色を楽しみたい、いろんな色を楽しみたいというニーズは出てきているが、まだ市場としての反応は大きくはない。おしゃれ染めの国内市場は追い込まれつつあり、ヘアカラーメーカーはアジア圏のインバウンドも視野に動いているという。

一方、同社によれば白髪染めの市場規模は推定860億円。全身洗浄料や制汗剤をしのぐ規模がある。高齢化によって、全体の白髪の本数は確実に増えているにもかかわらず、それほど伸長していないのが現状で、生活者の潜在需要を掘り起こす新しい切り口の商品が求められている。トレンドとしては、50歳以上がマジョリティになり始めた社会の中で「白髪があるからこそ」のイキイキとしたライフスタイルを評価する生活者も増えてきており、吉川晃司や草笛光子に代表されるようなグレーヘアにも注目が集まっている。

〈図表1〉自分の外見で気になる点は何ですか?(複数回答)

〈図表2〉
グレーヘアを素敵だと思いますか?(単一回答)

ヘアウェルネス発想で、メラニンに着眼して黒髪を取り戻す

このような状況下で、2018年5月、花王にとって10年ぶりとなる新ヘアケアブランドとして発売されたのが「Rerise(リライズ)」だ。Reriseは、既存のヘアカラーやカラートリートメントとはまったく異なり、黒髪メラニンのもとを定着させることで、自然な黒髪色を取り戻す次世代型白髪ケア商品。新しいサブカテゴリーとして成立させることも可能であろう、画期的なアイテムだ。売上も好調で、5月以降計画比1.5倍で伸びているという。

「Reriseは、ヘアウェルネス発想の白髪ケアアイテムです。黒髪メラニンのもとだけで染めるため、髪に負担がかかりませんし、使うたびにハリやコシが出ます。髪にとっていいことをした結果として、色が変わる。髪の傷みとのトレードオフではありません。白髪のケアを健康軸で打ち立てた、まったく新しいブランドです」(入交氏)

Reriseは、酒造メーカーの酒蔵で見つかった、発酵過程で生まれる黒い麹をヒントに開発された。黒髪と白髪の違いは、メラニン色素の有無にある。色素が足りないなら補えばいいというのがReriseの考え方だ。

同商品に配合されている黒髪メラニンの素は、マメ科の植物から抽出した100%天然由来の着色成分で安全・安心。使うたびに、髪表面に定着し、自然な黒さを補っていく。

〈断面図〉

黒髪と白髪の違いは、メラニンがあるかないか

3回の使用で色づき定着、グレーカラーにも対応

白髪が自然に色づくまでには、まず3日間使用する。使い方は簡単で、お風呂場で髪に塗り、5分後に流すだけ。定着した黒髪メラニンのもとは基本的にはとどまるため、その後は生えてくる白髪のケアのために使用する形だ。花王は1週間に1回のケアを推奨している。商品1本の容量は、ショートヘア(女性)4回分。1本購入すれば、いま生えている白髪全体をカバーできる。

「髪のメラニン色素に着目した新発売の技術、これを事業として生産ベースに乗せることができるのが弊社の強みだとおもっています」と、入交氏は自信をのぞかせる。

高齢者でも持ちやすく、押しやすく、濡れた手でも滑りにくい素材で持ち手を設計。湿気のあるお風呂場でも長期間衛生的に使えるよう、容器デザインにも細部までこだわった。商品は「リ・ブラック」「グレーアレンジ」の2色。それぞれ、仕上がりの異なる「まとまり仕上げ」「ふんわり仕上げ」と、1.2倍量の「つけかえ用」の全8SKUをラインアップする。

〈使い方〉

シャンプー後、髪の水気をよく切って使用する。使用量はピンポン玉大。 容器は濡れた手でもすべりにくく、軽く押すだけでクリームが出るため、高齢者でも扱いやすい

〈使用イメージ〉

リ・ブラック
グレーアレンジ

白髪染めのストレスフリー、男性ユーザーの拡大にも

〈図表3〉
白髪染めはいつまで続ける予定ですか。(単一回答)

同商品でもうひとつ注目すべきは、これまで生活者が感じてきた白髪染めにまつわるストレスを解消するストレスフリーアイテムとして登場した点だろう。生活者は、染めても伸びてくる白髪を憂鬱におもい、染めるたびに髪や頭皮へのダメージに不安を抱く。白髪を染め続けるストレス、うまく染められないストレス、やめるにやめられないストレスにもさらされている。

Reriseは、これまで置き去りにされていたこれらの生活者ニーズに寄り添った商品といえる。「グレーアレンジ」は、白髪を染め続けるストレスからの卒業、白髪をキレイに見せる楽しさへのスイッチにもなり得る。また、ビューティではなく、ヘルスケア視点で開発することで、男女関係なく使用しやすい仕上がりとなっている。夫婦で使用することで、女性よりも白髪染めの意識が低い男性も、今後ユーザーとして拡大していきたい構えだ。

「配荷先には、全8SKUを揃えて置いていただくことを基本としてお願いしております。いくら画期的な商品でも、情報発信をしなければ価値が伝わりません。テレビCMも、15秒ではなくBSを中心に長尺で、シニアに届きやすいよう新聞雑誌など活字の媒体でも展開しています」(入交氏)

店頭では、リーフレットなども設置し、引き続き積極的に展開していくという。停滞するヘアカラー売場を活性化させるきっかけとして、同商品を活用しながら、ユーザー目線の見やすく選びやすい売場づくりをいま一度見直してみよう。

取材協力

コンシューマープロダクツ事業部門 ヘアケア事業部 ブランドマネジャー 入交 剛氏

図表1~3:現在白髪染めを行っている40代から70代の男女500人を対象にした白髪染めに関するアンケート(WEB調査、調査期間:2018年5月25日~5月30日)

新店出店から棚割分析まで、広がる商圏調査の適用範囲

ライフスタイルや買物行動がより複雑化している現代。単純な人口の増減や年齢・性別の属性だけによる商圏調査では、次の一手につなげにくくなりつつある。たくさんのデータをどう次の施策へとつなげるか。商圏調査の潮流は「数の予測」から「関係性の把握」へと移りつつある。(月刊マーチャンダイジング 2018年11月号より転載)

関係性を理解するための商圏調査

人口が増えている時代の商圏調査は、人口が増えている場所を探し、そこに出店をする「店舗開発」のためだけのものだった。当時は、開発が終わったあとは商圏について気にすることはなかった。

しかし、「かつて商圏分析は出店余地のある隙間を見つけるための手法でしたが、現在は顧客との関係性を理解するための手法となりつつあります」と大型商業施設のデベロッパーや電鉄会社などをクライアントに持つ、商圏調査会社ジオマーケティングの酒井嘉昭氏はいう。商圏の中にどのような人が住み、どのようなコミュニティがあるのかを理解することは、どのような店舗運営を行い、品揃えを提供していくのかにもつながる(図表1)。

図表2は、店舗売上げを説明するときに考慮すべき空間スケールとその観測ポイントについてまとめたもので、ピラミッドの底辺から読み解く。「だれがどこに住んでいるのか」「その人はどのような経路を経てあなたの店に来ているのか」という質問に正確に答えるためには、「商圏」→「立地」→「施設・店舗」→「オペレーション」の順番で観察する必要がある。業種・業態によって注目すべき空間スケールの違いはあるものの、その関係性は共通している。また、影響の大きさはピラミッドの底辺にいくにつれて大きくなる。

図表3には、商圏調査で活用できるデータについてまとめた。国勢調査や商業統計・経済センサスをはじめ、アンケート調査、ECサイトのデータ、SNSのデータなど、利用できるデータの量は膨大な量に増えつつある。

サザエさんは「富裕層ファミリー地区」に在住!?

しかし、いくら膨大なデータがあっても適切な切り口で分類することができなければ業務に利用することは不可能だ。

そこでジオマーケティングではジオデモというデータベースを作成し、無料で公開している。国勢調査のデータや、独自調査データなどを基に、日本中の地域を10グループ(図表4)74セグメントに分類したものだ。

たとえば、ジオデモの分類によれば、サザエさんは「②富裕層ファミリー地区」に住んでいるのだという。「都心近郊に広がる閑静な住宅街の富裕層資産家ファミリー」という説明は、東京・世田谷区に持ち家がある磯野家(とフグ田家)の設定にぴったりだ。一方、ちびまる子ちゃんは静岡県清水市(現在の静岡市清水区)在住。「⑤メーカー勤務ファミリー地区」に住んでいると考えられる。製造業などの第二次産業に属する勤労者の比率が高く、高校を卒業すると地元に就職する人が多い。生活には車が必需品、という地区だ。

このジオデモを活用することで、居住者の趣味嗜好や買物パターンを直感的に組織内で共有することができる。土地勘がない人でも共通の物差しを持つことができるツールといえよう。本サービスは会員登録すれば無料で利用できるので、だれでも自店舗の周辺を調査することができる。

商圏人口より「関係人口」が重要

酒井氏は、商圏人口の動向も重要ではあるが、今後は「関係人口」をもっと考慮すべきであるという。「人口は減少し、地方の商業は成立させるための難易度がより高くなります。そのなかで重要になるのが関係人口です」。

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指す。

酒井氏が「関係人口」を考えた事例のひとつとして挙げるのが、岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」だ。地域がプロジェクトを立ち上げ、複合商業施設をつくり、都市と農村の新しい結び付きを創造しようとしているというものである。

また、千葉県鴨川市は「里のMUJIみんなみの里」という総合交流ターミナルをつくり、良品計画がその運営をしていて、いずれも人口減少が進む地方の中で好調に機能しているという。「関係人口」という概念は一般には地方活性化の流れで使われるものだが、小売業にも同様の考え方を転用することができるはずだ。

「現在はだれのためのものでもない店がどんどんできてしまっています。しかし大切なのは、店がどのような関係性を地域の住民とつくっていくかです。だれのためのコミュニティをつくるのか、だれのための店をつくるのか。たとえばドラッグストアであれば時間もお金もあり、ウエルネスに対して関心が高い高齢者に対して、滞在時間を長く、よりゆっくり過ごせるような業態を開発することができれば、これまでより関係性を深めることができるかもしれません」(酒井氏)

機械学習を活用し棚割変更後の売上を予測する

そこで目を向けるべきが「地域コミュニティ」であると酒井氏はいう。

「商圏はもともと『コミュニティ』です。そして、商圏がターゲットを決めます。ターゲットを決めるためにはセグメントに分けなければなりません」

ただ、いくら商圏のコミュニティに最適化するといっても、個別店舗ごとに違ったオペレーションをするにはコストがかかりすぎる。細分化しようとすればいくらでも細分化できるが、人間がオペレーションできる粒度には限界があるからだ。いくつかのグループに分類してコミュニティも品揃えも分類していくべきだ。

膨大な情報をどのような軸で分類していくべきか。そんなときに有効なのがAIの一種である「機械学習()」の活用だ。

機械学習はパターン認識に優れている。人間にはできない数多くの繰り返しを実施する問題に非常に有効だ。変数が数百あるようなデータを、数十万回の試行錯誤を繰り返しながら分析をすることができる。

たとえば、売場構成の変更によって、売上がどう変わるかを、実店舗で実際にレイアウト変更して実験し、適正な売場構成を探るのは難しい。

そこでロイヤルホームセンターは、既存店の実績データから、機械学習の方法を応用して売場構成を変更したあとの売上をシミュレーションするモデルを構築した。実際の店舗レイアウトを変更しなくても、システム上でどのような売場構成が売上を最大化できるか検証することが可能になった。工具類を取り扱う売場、木材やコンクリートなどの資材を扱う売場、園芸用品を扱う売場など、6種類の売場構成を自由に変更しながら売上予測を行う。

このような手法を活用すれば、商圏に住む人のコミュニティと、売場の品揃えを連動させることも可能になってくる。機械学習による分析は、インターネット上のSNSのデータ分析や、アンケートの分析などにも有効だ。まだまだ小売業はデータを活用して高度化することができるのである。

酒井氏はいう。「過去のデータから学べば大きな失敗もありません。安全な投資ができれば、より積極的な動きもできます。しかし、データは未来をつくるわけではありませんから、斬新なアイデアは、人間が考えるべきです。そしてそれがうまくいったら横展開をする。そして再度データで検証をする。そのようにすることで新たな需要を発見・創造しながら経営の精度をより上げていくことができます」。

※コンピューターがデータから反復的に学習し、そこに潜むパターンを見つけ出すこと。そして学習した結果を新たなデータに当てはめることで、パターンに従って将来を予測することができる。
ジオマーケティング株式会社 代表取締役 酒井嘉昭氏

 

自宅で「在庫」と「商品情報」を確認できる「ホームデポ」のオムニチャネルの凄さ

11月中旬に、第3回オムニチャネル体感ツアーに行き、「買物体験の質の向上」のためのネットとリアルの融合の最前線を取材してきます。今回は、昨年11月のツアーで体感した「ホームデポ(米国最大のホームセンター企業)のオムニチャネルをリポートします。

在庫、陳列場所、商品情報を一元管理するホームデポ

ホームデポは、この10年間、店舗数はほとんど増えていません。少し古いデータですが、2010年2,248店に対して、2015年は2,274店と店舗数は横ばいです。しかし、売上高は2010年680億ドルに対して、2015年は890億ドルと、約25%も売上を増やしています。

写真1

店舗数は横ばいなのに、売上を大きく増やした理由は、(1)リフォームなどの物販以外の事業の売上が増加したことと、(2)オムニチャネル化で買物体験の質を向上させ、既存店、既存顧客の売上を増やしたことの2点です。今回は、ホームデポのオムニチャネル化による顧客満足向上の最前線をリポートします。

消費者がリアル店舗に来店して最も怒ることは「欠品」です。わざわざ時間を使って来店したのに、欲しい商品が欠品していたら、消費者はその店への信頼を失ってしまいます。店に行く前に在庫の有無を確認したいというのは、永遠の課題でしたが、ITの進化によって自宅に居ながら在庫確認ができるようになりました。

写真2

ホームデポのアプリ(写真2)をスマホに入れて、画像認識システムを立ち上げます。そして、欲しい商品の現物、カタログ写真、パソコンやテレビの画面など何でもいいので、画像スキャン(写真3)すると、その商品を認識します(写真4)。そして、写真4の中央の「Find it Aisle」の部分をクリックすると、近くのホームデポの店内のどの場所に、在庫が何個あると表示されます(写真5では75個)。平面図だけでなくて、立体図でも表示されます(写真6)。

消費者が、「欠品」をもっとも嫌がるように、どんな業態であっても、来店客にもっとも聞かれることは、「この商品はどこにあるのですか?」という質問です。欠品が事前に分かればいいのと同じように、商品の場所が事前にわかれば、買物体験の質は大きく向上します。

ホームデポの店内には「FIND IT FAST」(写真1)というボードを掲示し、「あなたの欲しい商品がすぐに見つかりますよ」ということを積極的にアピールしています。

在庫情報に関しては、ほぼリアルタイムで更新されており、ツアー参加者が試しに、その商品を買物してみたところ、20分後には写真5の数字が1個減っていました。ホームデポはネット販売も行っており、この在庫管理を可能にするためには、ネットとリアルの「在庫データ」「位置データ」「販売データ」を一元管理することが必要十分条件になります。

商品の口コミ、商品説明動画もアプリで確認することができる

自宅で商品検索した結果、欲しい商品の在庫がゼロの場合は、その場でアプリを使って注文することもできます。自宅への配達も可能ですが、配送料が高いので、ほとんどの顧客は店舗受け取りを選ぶようです。ウォルマートの「ピックアップタワー」のような店舗受け取りの無人化はせず、あえて有人のカウンターで接客しながら商品を渡すという「リアルな買物体験」を残しているのも、ホームデポの顧客満足の向上につながっています。

写真4の画面では、その商品の口コミやレビューも見ることができます。ネットとリアルの買物体験を融合させていることがわかります。また、写真4の画面の右上の矢印をクリックすると、この商品の使い方や特徴を短時間で解説した「動画」を見ることができます(写真7)。自宅でも動画を見ることができるし、ホームデポに来店した際に気になった商品を画像認識すると、その商品を解説した動画を売場でも見ることができます(写真7)。

HC(ホームセンター)で取り扱っている商品は、使い方のわからないものも多く、POPや接客をサポートしてくれる非常に便利なツールとなっています。2年前は、取扱商品の50%くらいの商品で動画を見ることができましたが、1年前は70%以上の商品の動画を見ることができるようになっていました。増えているということは、売上増に効果があるということだと思います。

メーカーにとっても、商品の「理解度」を高める有力な「店頭メディア」として活用されているようです。「店頭のメディア化」は、日本でもこれから訪れる未来だと思います。

写真7

店頭で画像認識した商品の使い方動画を見てみた。

[PR]「純白専科」と「洗顔専科」の同時展開で“ワンランク上のすっぴん”提案!

2018年9月に登場した専科の新スキンケアライン「純白専科」が好調だ。特にEC先行発売した「すっぴん白雪美容液」はよい売れ行きを示しており、各種口コミランキングでも1位を獲得するなど、注目を集める。背景にあるのは肌からくすみを取りのぞきたいニーズや、「すっぴん」への意識の高まりだ。

「すっぴん白雪美容液」のECでの先行発売で高評価

EC先行発売した「すっぴん白雪美容液」が女性向け化粧品サイト「iVoCE」の美白部門、乾燥部門で1位を獲得(2018年8月)するなど好評だ。

メイクのトレンドはナチュラル志向になりつつあり、美白、くすみケアはより日常的となってきっている。それにともない手軽な価格帯で効果が期待できるアイテムへの重要性が増している。

純白専科は期待値の高いスペシャルケア「すっぴん白雪美容液」をキーアイテムに多様なニーズに応える商品ラインナップを展開。

それぞれ1アイテム使用でもスキンケアが完結できる多重機能を持ち、時短などお手軽ケアにも対応、アイテムを併用することでしっかりとケアしたいときにも対応できる。“自分の”、“その時の”ニーズに合わせたお手入れができる。

図表1 純白専科の商品ラインナップ

純白専科の商品特長

m-トラネキサム酸と天然由来成分を配合

シミ・ソバカスの無い、みずみずしくうるおった透明感にあふれた明るい肌を目指す女性のために、純白専科は資生堂のスキンケアサイエンスと日本古来の天然由来美容成分で肌本来の生まれ変わりをサポートする(ナチュエンス処方™)。

まず、m-トラネキサム酸が、シミが気になるスポットのメラニンの過剰生成を抑制。加えて、米ぬかエキス、はちみつ、白まゆエキスなど、日本古来の天然美容成分がうるおいを与え、肌の健やかさを保ち、肌本来の生まれ変わりを促し、シミのもととなるメラニンをため込ませない。さらに美容液はよもぎエキスによって、頑固なシミのもとを排出する。

秋から冬にも“美白ケア訴求”が効果的!

年間を通じた美白ケアが必要

「美白」に対する需要は紫外線量が増える夏場に向けて高まるというイメージが強い。しかし肌内にとどまるメラニン量は春夏だけではなく秋冬も引き続き高く、年間を通じた美白ケアが必要だ(図表2)。初夏から盛夏にかけて対策するだけでは足りず、常日頃からメラニンを作らせない、ため込ませない体質作りが重要になる。

図表2 メラニン量と紫外線量の関係

出典・資生堂調べ

2,000円以下のセルフスキンケア市場においては、秋冬の美白市場が成長しつつあり、(図表3)今後通年美白の浸透により、さらに成長の可能性が見込まれる。

図表3 セルフスキンケア市場秋冬期美白市場(金額)

出典:SRI-M化粧品(小売店)集計期間:2013/4/1〜2018/3/31(積上)─拡大推 計値セルフスキンケア2,000円以下

「純白専科」は“美白”だけでなく、乾燥ニーズにも対応する保湿効果を兼ね備えており、季節を問わず“ワンランク上のすっぴん”を提案。これからはじまる秋冬シーズンにもお客さまからの支持を集めること間違いない。

売場展開

「純白専科」「洗顔専科」をエンドで同時展開

「純白専科」は秋からブランドモデルに人気急上昇の女優、吉高由里子さんを起用し、メディアプラン、店頭販促物を連動訴求し、ブランド登場を強力にアピールしてきた。それに続き圧倒的認知度をほこるパーフェクトホイップの洗顔専科にも登場。2つの専科を結び、“ワンランク上のすっぴん”の訴求認知を高める。

洗顔専科の認知度をフックに純白専科の併売をねらいとする同時多面展開で、よりインパクトある売場づくりを目指そう。たとえばエンドでは上段に純白専科、下段に洗顔専科の上置き販売台を陳列し、視認性を高める。サイドネットやすきま展開には吊り下げ販売台を使用。お客様のブランド認知を促し購買につなげることができる。2つの専科の展開で、年間を通した美白ケアの重要性を店頭から発信し、通年美白とワンランク上のすっぴんを提案していこう。

画像1 吉高由里子さんのメインビジュアル

画像2 洗顔専科と純白専科

画像3 サイドネット・吊り下げを活用した多面展開の例

吊り下げ、サイドネットを活用した同時多面展開で「すっぴん白雪美容液」↔︎3つのパーフェクトホイップ単品からの併売促進

画像4 エンド展開での活用イメージ

メディアプラン連動訴求の多様な販促物例

・ブランドサイトURL : http://www.hada-senka.com/

重要ポイントのまとめ

  • 純白専科は「美白」と「保湿」を両立。
  • 秋冬シーズンもエンド、多面展開でお客さまへアピールすることで秋冬の美白市場の成長を促す。
  • 洗顔専科の認知度を有効活用し、併買を促す売場づくりがポイント。

購買意欲を高める「健康志向」「価格訴求」POP実例

編集部が見つけたPOPの実例紹介、後編。今回は健康訴求と、価格の強調などに関するものを紹介する。(月刊マーチャンダイジング2018年11月号より転載)

前編の記事はこちら

ヒント3:健康志向

健康軸は食品を選ぶ際の選択基準のひとつになる。どのように健康によいか、具体的な情報を付けることで、購買される可能性は高まる。

朝の減塩

シリアルのひとつであるフルーツグラノーラのエンドボード。一般的な洋食、和食の朝食と比較して塩分が少ないことを訴求している。簡単、時短、消化のよさなどいくつか切り口があるなかで減塩で切っている。一般食品のなかでも切り口を考えれば健康訴求できる商品は意外にある

健康診断の結果とリンク

青汁のエンドプロモーションのトップボード。成分や効能効果を訴求することも有効だが、「健康診断の結果」と紐付けることで、責任世代の心はぐっと動く

グルテンフリーとは

グルテンフリーは流行の言葉だが、それは何かと問われると、答えに困る。麺、パスタ類の売場でグルテンフリーを説明

スポッター活用

低カロリー、機能性表示食品、低脂質など健康要素をスポッターで表示。日常に使う商品で、どのような健康志向の要素があるかわかりやすい

ヒント4:価格訴求、うまいいい回し

お得に買物できることは、消費者にとって楽しさであり、それがすべてではないが、小売チェーンは安売りの勝負から逃げることはできない。いかにお得か、低価格かを訴求することは行動を変える。ほか、表現に工夫のあるPOPも紹介。

一期一会商品

フレグランス特価のPOP、「次回入荷が未定」とある。限定商品、スポット商品がゆえの安さなのだろう。この表現は安さを引き立て、行動を促す効果がある

正直な説明

食品の見切りワゴン販売。「賞味期限が近いため」という正直なPOPは納得感を引き出す。買物客には、見切り商品は売れ残り商品という認識はあるが、正直に説明されると安心できる

子供への希望

学習教材、文具コーナーに「ハカセのタマゴ」のカテゴリーサイン。好奇心や学習意欲のある子供を応援する気持ちが感じられる。お金を出す立場の親、大人の心に刺さる

言い過ぎくらいの強調

スポーツ用品売場「シューズ界のロールスロイス!!」のPOP。あるブランドに付けたものだが、ちょっと言い過ぎくらいの褒め言葉、たとえが心を引く。○○界の○○という表現はよくあるが、強調したいときには効果的な表現だろう