話題沸騰のオリジナルヒーロー、誕生の舞台裏
──そのクオリティの高さから話題沸騰の「薬剤戦師オーガマン」ですが、御社がオリジナルのヒーローを生み出すに至った経緯をお聞かせください。
大賀 大元をたどれば、私自身が仮面ライダーマニアだということに端を発しています。幼少期のリアルタイムは「仮面ライダーブラック」でした。大学のころに、クウガ、アギトを放送していて。2016年にやっていたエグゼイドを見ていたときに、浮かんだのがオーガマンです。
エグゼイドはゲーム好きの医者という設定なんですね。医者のヒーローはいても、薬剤師のヒーローがいないことに気付き、掛け合わせることをおもい付きました。
そこから絵でラフを起こして、初めは私の趣味の延長のような形でいろいろな設定を考えていたのですが、途中で煮詰まり、構想のまま止まっていました。
──具体的にプロジェクトとして動きだしたきっかけは何だったのでしょうか。
大賀 同窓会で知り合った中高の後輩が「悪の秘密結社」という名前で、ヒーローショーの悪役を専門でアウトソーシングするベンチャー企業を立ち上げていて。ご当地ヒーローを立てている行政は数多くありますが、皆予算が限られているので敵役まではつくれないのが現状。「悪の秘密結社」は、敵だけで40~50体のバラエティを持っています。
ニッチですが需要はあります。天才的な起業アイデアですよね(笑)そこで、ヒーローショーのプロである彼にオーガマンの構想を話して、アドバイスを受けたんです。2018年ころだとおもいます。
オーガマンの造形デザインも、コーポレートカラーの大賀ブルーと当社の薬剤師の制服をもとに「悪の秘密結社」に在籍するデザイナーに製作してもらいました。
オーガマンはバットマンに倣い、社長がポケットマネーで開発したスーツという設定なんです。自分で変身して敵を倒すパターンですね。ちなみに、オーガマンのパンチ力200tはクウガの2倍の設定です。
──オーガマン製作における一番のポイントとは。
大賀 私は、ヒーローにとって戦う大義がものすごく大事だと考えています。仮面ライダーが好きなのも、戦う理由が強いから。V3も父母を殺され、自分も殺されかけたうえで改造されている。何のために戦うのか、そこが弱いとヒーローである必要もなくなりますし、面白くない。
オーガマンは薬剤戦師です。薬剤師は何と戦うヒーローなのかといえば、医療財政。医療費の削減が薬剤師の使命です。それをヒーローに落とし込んだときに、戦う対象は残薬になりました。
──病気と戦うのではなく、残薬というその発想はすごいですね。
大賀 SDGsでも示されていることですが、今後私たちは持続的な成長と継続をしていかないといけません。43兆円にも上る医療費の削減は、日本における最大の課題です。
制度改革も含めて、まず若い人たちに興味を持ってもらわないといけない。ヒーローは、そのきっかけづくりです。
いま娘が7歳、息子が4歳ですが、そういう話を真面目にしても聞いてくれません。でも、オーガマンの決めぜりふ「薬飲んで、寝ろ。」は覚えている。彼らは楽しく伝えないと反応してくれないんです。
残薬金額は年間500億円。「やくいく手帳」で子どもから広げる啓発
──実際に、残薬はどのくらいあるのでしょう。
大賀 処方されても飲み忘れなどで残ってしまう薬は1年で約500億円に上るといわれています。そのまま捨てられずに残っている薬を合わせたら1,000億円以上という試算もあります。処方量の調整をしていかなければなりません。
当社でも本部で在庫管理を行っていますが、それとは別に、今回オーガマンと連動した新たな取組みとして「やくいく手帳」をつくりました。子どもを対象に薬育のヒーローショーも行っています。
薬育は、薬は怖くないことや、薬剤師という仕事、病気を予防して薬を減らすことを啓蒙する活動。オーガマンはそのためのヒーローコンテンツ。「やくいく手帳」は、薬の飲み忘れを防ぐために、朝昼晩など服用後にシールを貼っていくものです。
手帳で子どもに薬育を促し「家族の飲み忘れもチェックしてね」と伝えることで、周りの家族も意識します。おじいちゃんやおばあちゃんも、孫に指摘されれば、飲み忘れないでしょう。子どもが家族の健康を守るヒーローになるんです。
──「やくいく手帳」やシールは、大賀薬局の店頭でのみもらえるものなのですか。
大賀 手帳は、当社のほか、AJD(オールジャパンドラッグ、日本最大級のドラッグストアボランタリーチェーン)を通じて加盟店のうち調剤薬局機能を持つ店舗に200部程度無償で配布しています。九州では、サンキュードラッグさんなどでも導入していただいています。
シール自体は薬局で配るようにして、日数分手渡してもらって。手帳を置くことで、店舗側の集客効果も出ているようで、Twitterでは「東京から福岡にいったら大賀薬局にいこう」というツイートも見られます。いま、薬育手帳マップを作製して、受け取れる場所をわかるように準備をしているところです。
──やくいく手帳は今後どう展開されていくでしょう。
大賀 実はいま、薬剤戦師2号として「オーガマン・ルーキー」を企画していて、こちらを全国版の薬剤戦師として活躍させようと動いています。オーガマンは、あくまでも大賀薬局の専属。ご当地と全国版の2本構えで進めています。
薬育の啓蒙に連動する企画としては、今年の4月12日から九州のご当地ヒーローを集めた特撮番組「ドゲンジャーズ」の放送が決まっています。この作品はSDgSの一環として「やくいく手帳」の全国配布を目的にしたものです。
──福岡発のヒーロー番組!なにより、企画を動かす側の楽しさが伝わってきて、いいですね。
大賀 私自身が、薬育ショーやオリジナルヒーローショー※に出演(オーガマンの声を担当)し、九州のご当地ヒーロー同士の横のつながりができていくなかでスタートした企画です。
番組には、キタキュウマン、ヤマシロン、エルブレイブ、フクオカリバー、オーガマン、オーガマン・ルーキーの6人からなる、アベンジャーズならぬ「ドゲンジャーズ」が出演します。九州朝日放送で日曜日朝10時から。「仮面ライダーゼロワン」「キラメイジャー」の放送後に、ドゲンジャーズ。夢のスーパーヒーロータイムです。
(※薬育ショーは大賀薬局が協賛し、保育園や幼稚園で行うボランティア活動。オリジナルヒーローショーは、遊園地やイオンなど、主催者にゲストとして呼ばれて出演するショー。)
「チャレンジ制度」で社員の提案採用。適材適所でデジタルシフトへ
──メディアでの発信でいうと、御社はテレビ番組のほかにもYouTubeチャンネルをお持ちで、うまく活用していらっしゃる印象があります。
オーガマンと同じ発想で、2年ほどやっています。これも「薬剤師のYouTuberはいるのかな?」とおもったところがスタート。動画での啓蒙は影響力が強いですから。ちょうど当社に、歌って踊ってMCができる適役の熱い薬剤師人材がいたので、彼に打診したところすぐに返事が来まして、「薬剤師のインフルエンサーとしてトップを目指したい」と。
彼は、「ワディ・ポップ」という名前で活動しています。店長も兼務していて、月に3日はYouTuber、17日は店舗勤務で働いている感じですね。社内に動画の編集担当もいます。
──アパレルでは、自社の社員を積極的にインフルエンサーとして活用する事例が多く見られますが、DgSではまだほとんど見掛けない。先進オリジナル的な取組みですね。
大賀 これは、大賀薬局で昨年末にスタートした「チャレンジ制度」の一環です。この制度は、新しくやってみたい事業や、既存の事業部に入って自分ができることなどを社員に提案してもらうもの。今回は8つの演題が出て、そのうち4案が採用されました。
ワディ・ポップの彼は、SNSやデジタル戦略について知識があり、よく勉強していました。いまは、YouTuberとして外部へのコミュニケーションを担当するだけでなく、経営戦略室のデジタル推進担当リーダーとしても活躍しています。
──薬局・DgSも、アプリの開発などデジタルシフトしていく流れにあります。
大賀 1回目のチャレンジ制度を経て、「商品開発・サービス開発部」も新設しました。アイデアを出した人間を配属させています。こういうことは、いい出しっぺ、やる気のある人間を入れた方が絶対にいい。
たとえば、薬剤師に相談できたり、管理栄養士のサービスなどいろいろなサブ・スクリプションサービスが出てきていますが、それは商品開発にも絡んでくること。食の部分でのサービスができないか…新しく開発中ですが、いいアイデアが出てきています。
──オーガマンやYouTubeなど、新しい取組みでの成果は出てきていますか。
大賀 オーガマンについては、2019年10月のデビュー後、2時間でYouTubeの再生回数が10万回を超え、いわゆる「バズった」状態になりました。これまで大賀薬局を知らなかった方、いろんな方に知っていただけたとおもいます。広告の投資効果としては40倍くらいと聞きました。
まだ、固定客化までの効果は感じておりませんが、点は後から線になります。100打って1当てられるかどうかといわれるキャラクター界で、1打って1当てたのは大きい。オリジナルなのでキャラクターの版権もかかりません。
公式ツイッターのフォロワー数はご当地ヒーローの中では4位で、3万人を超えています。一般の方のみならず、ドクターなど医療業界、県や市、厚労省などからの評判もよかった。ブランディングとしては、大きな効果を得られたとおもっております。オーガマンは、薬が減れば減るほど必要とされなくなるヒーローでもあります。いつか、目的を達成すると役割が終わるときが来る。そこを目指しながら、今後も子どもの心をつかみ、集客につなげられればいいですね。
──それだけの反響があったとなると、採用面でも変化があったのでは。
大賀 そうですね。インターンには前年の倍近く、約180%の応募がありました。オーガマンへの注目とともに、私自身もメディアに取り上げられることも多く、YouTuberの力も結構大きかったとおもっています。
–記事の全文は月刊マーチャンダイジング2020年4月号でご覧ください。
・大賀薬局の状況
・デジタル活用の今後
・キャッシュレスの動向…等々
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