ヘアカット専門店「QBハウス」が1080円→1200円に値上げ

東洋経済オンラインの記事によると、シャンプーもパーマもしないヘアカット専門店「QBハウス」を展開するキューピーネットホールディングスが2019年2月1日から、カット料金を1080円(税込み)から1200円(税込み)に値上げしました。理美容業界に革命をおこした「1000円床屋」の最大手であるQBハウスの値上げの理由はなんなのでしょうか? (QBハウスは34都道府県で552店を展開・2018年6月末時点)

働き方改革で徒弟制度を企業に変えた

個人的なことで恐縮ですが、私はずっと「QBハウス」で髪を切っています。「髪を切るのに時間と金をかけたくない」というのが利用する最大の理由です。それに加えて、徒弟制度を理由に長時間労働を強いる理美容業界の慣習を否定し、理美容師の「働き方」を変えたQBハウスの経営姿勢に共感を覚えていたことも、QBハウスを利用する大きな理由です。

理美容業界は典型的な「徒弟制度」です。社員ではないので、見習いは朝1番に出勤し終電で帰るという長時間労働です。休みも少なく残業代が支払われておらず、結果的に低い賃金となっています。さらに、社会保険に加入していません。カット技術などの研修費は給与天引きであることも多く、仕事が終わった後に研修に行くなどの過酷な労働環境です。指名がとれなくなった40代は、独立するか異業種転職しか選択肢はありませんでした(QBハウスのホームページより抜粋)。

以前、美容室に商品を供給している某化粧品メーカーから聞いた話では、美容室(ヘアサロン)のオーナーのゴルフコンペはとても派手だそうです。高級外車やスポーツカーに乗り、高級ブランドに身を包んだオーナー達が、颯爽とゴルフ場に現れるそうです。ヘアサロンのオーナー達は、とても儲かっています。原価がかかりませんからね。しかし、その儲けは、そのヘアサロンで働く弟子たちの犠牲の上に成り立った儲けです。いくらカリスマ美容師とおだてられていても、尊敬できる業界ではないとずっと思っていました。

一方、QBハウスは、社会保険に加入した社員として採用し、残業代も1分単位で支払う普通の雇用条件にしました。また、徒弟制度はオーナーに気に入られれば昇給する情実人事でした。しかし、QBハウスは2人以上の上司が評価し、さらに社内検定を受けることで昇給・昇格する人事制度を整えました。キャリアアッププランも明示し、評価制度と待遇制度をオープンにしたことも、従来の徒弟制度の理美容業界ではありえないことでした。

QBハウスは、2018年4月の上場前の5年間、「働き方改革」の一環でさまざまな革新を行いました。たとえば、定年制を廃止し、永年勤続を奨励し、定着率の向上を図りました。現在、現役美容師の最高齢は80歳だそうです。また、勤続10年の社員が457名もいるそうです。月間の休日は、6~10日の選択制で、土日、休日も休むことができます。さらに、徒弟制度では給与天引きだった研修も、「有給研修制度」(ロジスカット)によって研修も勤務の一環と規定しました。

美容師の採用難が値上げの最大の理由

徒弟制度を企業化したQBハウスが値上げに踏み切った最大の理由は、美容師の採用難です。理美容室は全国に約36万店あり、現在も微増傾向ですが、美容師の新規免許登録は減少しており、慢性的な人手不足の業界です。QBハウスは、値上げによる増収を原資に、カット技術を教育する「ロジスカット」スクールに投資し、未経験者でも6か月で美容師として育成することを目指しています。美容師の人手不足を教育制度の充実による「早期育成」で乗り切ろうとしているわけです。

1000円に据え置く同業者もあるなか、1080円が1200円に値上がりするのは痛いですが、きちんと教育されて、素晴らしい「カット技術」と「接客」で迎えてくれる美容師が増えるのなら、1割の値上げは我慢しようかな。いずれにしても、徒弟制度のヘアサロンには一生行きません。

ネットで注文、55分以内に在庫を準備。カインズ資材館の「商品取り置き」サービス

オムニチャネルとは、ネット販売をすることではありません。ネットとリアルの購買データ、在庫データなどを一元管理し、「買物体験の質」を向上することです。今回は、プロ向け商品を「スマホで店頭在庫確認」→「スマホで注文」→「店舗受け取り」サービスを実験しているカインズの事例を紹介します。

在庫が確認できる。仕事前に店に取りに行ける。

ホームセンター(HC)のカインズは、職人(プロ客)向けの商品を取り扱っている「資材館」の商品を対象に、スマホで注文→店舗取り置きサービス「55-DASHプロ」を、昨年12月から開始しました。当初は、鶴ヶ島店(埼玉県鶴ヶ島市)、新座店(埼玉県新座市)の2店舗で実験を開始し、順次店舗数を拡大していく予定です。

「55-DASHプロ」の導入目的は、職人(プロ客)の利便性向上です。プロ客は、カインズのオンラインショップで、仕事で使う道具・材料の在庫を事前に確認・注文します。カインズが55分以内に在庫商品を取り置きし、プロ客のスマホにショートメールや電話で「取り置き完了」の連絡が来ます。プロ客は仕事に行く前にカインズに商品を取りに行きます。「店に行ったが在庫がなかった」「店内で商品を探すのに時間がかかる」などの不満がなくなり、プロ客の利便性は大きく向上します。

Eメールではなくて、あえてショートメールや電話でプロ客に連絡します。会員登録のための入力手順をできるだけ簡単にするために、Eメールの登録は任意にし、電話番号を登録するだけで会員登録できるようにしました。

このサービスの最大のメリットは、資材館の約5万品目の在庫をプロ客が事前にネットで確認できることです。以前は、資材館の商品は、カインズのECサイト「カインズオンラインショップ」には登録されていない商品が大半でした。まず資材館の約5万品目の商品をカインズオンラインショップに登録しました。下の写真の「ECサイト」で商品を確認した後は、「在庫のある店舗を探す」をクリックして、必要な商品の理論在庫数を確認できます。在庫確認は、顧客だけでなくて、店員も見ることができます。

「来店したけど欠品していた」「10本必要なのに在庫が3本しかなかった」といった欠品ストレスは、顧客の最大の不満でしたが、それが解消されたことは顧客にとっての大きなメリットです。とくに、現場で必要な本数が揃わないと仕事にならないプロ客にとっては、在庫確認できるサービスは非常に便利だと思います。

今後の課題は、在庫確認したが必要在庫が不足していた場合の対応です。従来のオンラインショップでは、在庫が10個しかなければ、10個しか注文できませんでしたが、カインズのお取り置きサービスでは、在庫数量を上回る注文ができるようになっています。そして、不足分は、「〇月〇日なら取り寄せできます」と店舗から顧客に連絡して、商品を取り寄せます。ベンダーに注文するだけでなくて、他店在庫の店間移送などのサービスも考えられます。

プロ客が現場で使う道具と材料を現場に届けるサービスも

「55-DASHプロ」のカード会員であるプロ客の利便性を向上するためにカインズは、以下の5つの特典をECサイトで公開していたので紹介します。とくに「事前加工」「スピード配送」は、プロ客にとってはありがたいサービスですね。スピード配送を利用すると、プロ客はカインズに来店する必要がなく、必要な道具・材料が現場に直接届くサービスです。

◇「55-DASHプロ」カード会員限定の5つのサービス

  1. 55-DASH(スピード注文55分)
    店頭の商品をスマートフォンで簡単注文・取り置きできます。
    ご注文より55分以内にご準備致します。
  2. 事前加工、事前切り売り
    電材切り売り、木材カットなどの加工をスマートフォンでご注文できます。
    ご来店時にお待たせしない新サービスです。
  3. スピード修理
    本格的な修理工房を完備!エンジン工具を中心とした修理を承ります。
  4. スピード配送
    近隣エリアの現場、事務所へ、最短翌日配送致します。
    (配送料金につきましては、スタッフまでお問い合わせ下さい)
  5. 会員様限定価格
    いつもプロが使うものを、よりお求め安くをモットーに、限定価格商品をご用意

 

カインズは、プロ客向けの取り置きサービスからスタートし、徐々に一般向け商品の取り置きサービスも開始すると推測できます。たとえば、壁紙やカーペットなどの「切り売り商品」などは、事前に必要な長さを注文できれば、顧客の「買物時間の短縮」につながります。

※カインズと同じHC(ホームセンター)業態の「ホームデポ」(米国)もスマホアプリを活用した「買物体験の質」の向上に取り組んでいます。その事例は、この連載の第23回『自宅で「在庫」と「商品情報」を確認できる「ホームデポ」のオムニチャネルの凄さ』で紹介しています。

「作り置きニーズ」で保存容器の「売れ方」が変わった

働く女性の増加や、ライフスタイルの変化にともなう、「作り置き」や「食品保存」のシーンが増え、ジップロック®を活用する消費者が増えています。また、消費者ニーズを捉えた商品構成で、今では食品保存以外のあらゆる利用シーンでも活用されています。今回は、成長を続けているジップロック®が消費者の方々にいかに買われ、使われているかについて、旭化成ホームプロダクツ株式会社 マーケティング部 商品企画グループ 服部健人氏に取材をしました。

まず、ソフトブレーンフィールドの自主調査で、直近1年間で作り置きをしたことがある20代~60代の男女(N=2,099名)に、作り置きや食品保存における、ジップロック®の、「使用経験」や「直近1年間での購入経験」を聞いたところ、半数以上の方が使用・購入経験があることがわかりました。

Q1.半数以上の方が、使用・購入経験があったジップロック®(参考1・参考2)。改めて種類や用途について、お聞かせください。

まず、ジップロック®のバッグシリーズは、大きく分けて5種類です。冷凍保存に適した厚手の「フリーザーバッグ」、冷蔵に適した「ストックバッグ」、スライド式のジッパーで開け閉めしやすい「イージージッパー®」、気軽に使える「お手軽バッグ」、大きなマチ付きで自立するため、汁物の保存や料理の下ごしらえに適した「スタンディングバッグ」です。各種用途に合わせたサイズがあり、それを含めると全部で10種類ものバッグがあります。

次に、ジップロック®コンテナーは、大きく分けて3種類です。正方形と長方形の形状の「コンテナ―シリーズ」、冷凍保存したご飯を電子レンジでムラなくべたつかず加熱できる「ごはん保存容器 一膳用」、スクリュー式のフタで密閉性が高く液体や粉類の保存に適した「スクリューロック®」です。

Q2.ここ数年でジップロック®の売れ筋や消費者ニーズの変化について教えてください。

まず、ジップロック®バッグシリーズの売れ筋は、フリーザーバッグです。冷凍保存から電子レンジ解凍まで可能で、ジップロック®ブランドを代表する商品です。注力商品は、イージージッパー®です。スライド式ジッパーのためお年寄りでも開け閉めがしやすく、小物の持ち運びなど、頻繁に開け閉めする用途に特に適しています。

ジップロック®コンテナーの売れ筋は、使いやすいサイズの正方形1100mlです。注力商品は、競合と明確に差別化ができている「ごはん保存容器 一膳用」です。

Q3.自主調査では、購入業態としてスーパーが半数近くを占め、店頭購入が圧倒的でしたが(参考3)、注力している業態や販売経路などがあれば教えてください。

食品を扱うGMS(大型スーパー)、SMをベースとしつつ、成長著しいドラッグストアやECへの販促にも注力し始めています。また、ここ2~3年では、特に様々な企業とのコラボレーションを積極的に行い、食品保存以外のイメージでの消費者との接点を増やす取り組みをしています。

その一例として、今年はH.I.S.様と旅行シーンでの衣類などのパッキングや小物の整理に、ジップロック®の活用を提案したり、BEAMS COUTURE(ビームス クチュール)様とは、ジップロック®をポーチやリュックにアップサイクルして販売するなどの取り組みを行い、ファッションに敏感な若い層に向けて、ジップロック®=機能的でおしゃれ、というイメージを醸成することで、新たなファン層を開拓していくことを狙っています。

Q4.顧客との接点を増やす取り組みの中で、売れ方に変化はありましたか?

“時短”のニーズは根強く、作り置きだけではなく、ジップロック®フリーザーバッグに、肉や魚などの食材と調味料を入れて冷凍保存する“下味冷凍”での活用を提案し、今ではSNSでレシピの共有や、料理本も発売されるなど、認知が広がっています。

また、食品保存以外での、持ち運びのニーズが高まり、使用枚数が増えたことなども影響していると思いますが、入り枚数の多いジップロック®の大容量品の構成比が高くなってきています。中でも、開け閉めしやすいイージージッパー®の伸長率は高く、小物の整理や、スポーツや旅行での衣類の持ち運びなどでの利用が増えているのではと推測しています。

また、ヘビーユーザーになると、様々なサイズのジップロック®を購入し、入れる物に合わせた使い分けをし、自分に合った使い方をしている傾向が強いことがわかりました。ヘビーユーザーが牽引した結果もあり、あらゆるシーンでの活用範囲が広がったことで、金額、枚数ともにジップロック®は2ケタ成長をしています。

Q5.ジップロック®が伸びている中で、サランラップ®市場の売上に影響はありましたか?

ライフスタイルの変化で、食品保存のシーンが増え、ジップロック®とのカニバリは起きずに、サランラップ®市場も拡大しています。今後、食材をサランラップ®に包んでジップロックに入れて保存する「ラップ&ジップ」の訴求を強化し、より消費者に、よりよい保存スタイルを伝えていきたいと思います。

Q6.年末年始も含めた、これからの販促方法を教えてください。

SNSなどデジタルを活用して「下味冷凍」や「旅行でのパッキングなどの整理・持ち運び」を、一年を通して訴求しながらも、店頭では、季節にあった訴求を心掛け、これからの時期であれば、ジップロック®やコンテナーなど、クリスマスやお節の保存・下ごしらえなど、催事に合った販促に力をいれていくなど訴求ごとの使い分けを考えています。

Q7.最後にジップロック®をどんなブランドへと成長させたいですか?

ジップロック®バッグシリーズの「中身が見える」「密封性が高い」「開け閉めしやすい」などの機能と、ジップロック®コンテナーの、きれいに重ねて整理整頓しやすいスタッキング性は、キッチンだけでの使用に限らず、生活の幅広い場所に活かすことができると考えています。使う人にとって、毎日の生活をよりスマートにしてくれるような提案をしていくことで、ジップロック®をスマートなライフスタイルに欠かせないブランドとして成長させたいと考えています。

※参考1~3:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」20代~60代のアンケートモニター3,974名を対象にした、作り置きに関するアンケート結果より。(WEB調査、調査期間:2018年10月26日~10月29日)

 

ジップロックをスマートなライフスタイルに欠かせないブランドとして成長させたいと語る服部氏

IoT社会の到来で棚割、価格、販促の「個別化」が進む

前回に引き続き、「今年を振り返る」の第2回目です。従来のチェーンストアは、「標準化」することによって効率を追求するビジネスモデルでした。しかし、これからはIoT社会の到来で、チェーンストアの「売り方」が個別化していきます。「標準化」から「個別化」の時代が到来しようとしているのです。

Edge(エッジ)と呼んでいるクローガー(米国最大のスーパーマーケット)の電子棚札。横長の棚がサイネージになっているので、動画を流したり、棚札のデザインを変更したり、棚札を自由に移動できる。

人口構成、競合状況で「棚割」は個別化する

IoT(Internet of Things)時代とは、すべてのモノやビッグデータがインターネットにつながる社会のことです。IoT社会の到来によって、小売業の「売り方」や「作業」は劇的に変化します。「売り方」の個別化は、以下の3つに分けることができます。

個別化する3つの売り方
(1)棚割の個別化
(2)価格の個別化
(3)販促・接客の個別化

第1は「棚割」の個別化です。深刻な人口減少時代に突入する日本の小売業は、「県」単位の大雑把なマーケティングではなくて、市区町村別の小さなエリア単位の人口構成を分析し、その地域に適した棚割、売場づくり、売り方を実践する「マイクロマーケティング」に挑戦することが重要です。逆説的にいえば、県単位の棚割、売り方のままでは、市区町村のニーズに合わず、大きな機会損失を起こしているといっていいと思います。

しかし、従来の紙の棚札では、棚割を個別化すると、膨大な作業量が発生しますので、棚割の個別化は現実的ではありませんでした。従来のチェーンストアは、棚割の90%は標準化された棚割で統一し、残り10%を地域に合わせて変更する程度の個店対応しかできませんでした。

しかし、巻頭のクローガーの電子棚札のように、横長の棚をサイネージ化すれば、人的作業をまったく伴わずに、棚札を自由に移動することができます。その店の人口構成、人種構成、地域の特性、競合状況に応じて、棚割を個別化する時代がこれから到来します。標準化された棚割によって失われた機会損失を、個別化によってきめ細かく拾って売上を増やすことが可能になります。

ダイナミックプライシングと販促・接客の個別化

第2は、価格の個別化です。「ダイナミックプライシング」という言葉が最近使われるようになりました。需要と供給、競合状況に応じて、臨機応変に売価を変動させる方法のことです。これも、従来の紙の棚札では、膨大な売価変更作業が伴い、ダイナミックプライシングは現実的な手法ではありませんでしたが、電子棚札の普及が進めば、それが可能になります。しかも、本部で一括して変更し、管理することもできます。

第3は、販促・接客の個別化です。ID-POSによる購買データ、SNSの投稿データなどの「ビッグデータ」を活用して、その個人に最適の販促や接客を行う時代が到来します。チラシやポイント10倍などの不特定多数の販促が廃れ、ワントゥーワンマーケテイングが主流になります。「あなたに最適な販促」をスマホに送る販促の個別化時代が到来します。

SNSの投稿というビッグデータを活用した販促も始まっています。たとえば大手自動車メーカーは、「子供が生まれました」というSNSの投稿者に対して、ミニバンの案内をピンポイントで送る販促を実施しています。子供がいない時はセダンに乗っていた家族が、ミニバンに乗り換えるタイミングが出産だからです。不特定多数の販促よりも、大きな効果を上げています。

マスメディアやSNSなど、どのようなメディアに触れ、購買に至ったのかという幅広いデータを活用した顧客管理のことを「CXP(Customer Experience Management)」と呼びます。従来のID-POSを活用した固定客づくりのことを「CRM(Customer Relationship Management)」と言いますが、それを深化させた概念がCXPです。いずれにしても、来年からは「オンライン」と「リアル」の買物体験の境界が、どんどん曖昧になる10年が始まります。

良いお年をお迎えください。

労働人口の減少で「生産性革命」は待ったなし

『MD NEXT』が今年(2018年)の6月にスタートして半年が経過しました。『月刊マーチャンダイジング』という紙のメディアを21年も継続している中での新しい挑戦ということで、戸惑いや、やってみて初めてわかったことも沢山ありました。少しずつですが、順調に読者も増えています。広告でサポートしていただいている企業にも応援していただいています。この場を借りて、読者と広告主の皆様に御礼申し上げます。さて、この連載の年内の記事配信はあと2回です。そこで、2回にわたって「今年を振り返る」というテーマで、今年の小売・流通業のトレンドをまとめてみます。

AI、ロボット化で省人化・無人化が一気に進む

今年、小売・流通業でもっとも話題になったことが、新しいテクノロジーを活用した「生産性革命」です。労働人口の減少は深刻で、すでに小売・流通業の現場では、「人が集まらない」「採用コストが増加している」「定着率の低さに悩んでいる」という、悲鳴にも似た声が聞こえてきます。

しかし、これからのリアル店舗の生産性向上は、単純な「人減らし」ではダメなことがわかりました。アマゾン対策としてリアル店舗の価値を高めるためにも、顧客との接点は人間が丁寧に保ちながら、接客を強化する必要があります。

一方、顧客接点以外の単純作業は、徹底的に省人化・無人化を進めるべきです。顧客接点は有人化、それ以外は無人化の二面作戦が、これからの小売・流通業の生産性向上のロードマップになります。

顧客接点以外で省人化・無人化すべきものの代表が「物流センター」です。この連載の第9回(7月30日配信)で紹介した「PALTACの次世代型物流システム」は、この連載でもっとも読まれた記事です。それだけ関心の高いテーマなのだと思います。

PALTACの「ピース物流」は、「摘み取り方式」と呼ばれる方法で、オリコンを搭載したカートを人間が動かして、在庫商品の場所に移動し、そこでピースピッキング(商品をオリコンに入れる)する方法でした。

今回、「RDC新潟」で導入した「MUPPS(マップス)」は、人間は所定の位置から動かず、商品が動くことでピースピッキングを行う方法です。ピースピッキングの作業の大半を占めていた「歩く」「探す」という作業がなくなり、ピースピッキングの生産性は2倍に向上したそうです。

PALTACでは、さらに無人化を進め、現在は人が行っている「商品をオリコンに詰め替える作業」のロボット化も近く実現する予定です。今後は、人が行う作業量と、ロボットが行う作業量が逆転し、どんどん無人化が進みます。

物流センターのロボット化が進むと、ロボットは疲れないので24時間稼働が可能になり、生産性が飛躍的に向上します。現在、人手不足の影響で、24時間稼働の物流センターはほとんどないようです。

また、物流センターの立地選定も、従来は「働く人が集まる立地」に限定されていましたが、ロボット化が進むと、無人の荒野のような立地にも物流センターをつくることができるようになります。

PALTACの新型物流センター「RDC新潟」には、段ボールカットの無人化を実現した「オートカッター」という最新機器も導入されていた。

煩雑なレジ作業の軽減化も待ったなし

現在、日本の小売業のレジ作業は、クーポン処理などの対応に追われて極めて煩雑です。もっとも重要な顧客接点であるレジ応対が、作業の煩雑さに追われて、笑顔のない、不親切な対応しかできないと、その店の顧客満足度は低下します。レジ作業の単純化・省力化は、CS向上のためにも重要です。

九州の「新生堂薬局」は10月15日、九州初となるドラッグストアの「キャッシュレス店舗」を開店しました。「電子マネー」(新生堂薬局の会員カード、nanako、WAON)、「スマホ決済」(楽天Edy、Apple Pay、PayPayなど)、「交通系IC」(Suika、nimoka、SUGOKAなど)が使える店舗です。現金決済はゼロで、すべてキャッシュレス決済の実験店です。

現金が使えないので、利用者の戸惑いはありますが、レジ作業量が軽減した分、レジ担当者と顧客の会話時間が増えたそうです。キャッシュレス化によって、「顧客と店の良い関係が構築できるメリットがある」と店長は感想を述べてくれました。

下の写真は、アメリカのスーパーマーケット「セーフウエイ(SAFEWAY)」(Kroger傘下)で実験中の「Scan Bag Go」です。店内に設置されているハンディスキャナを使って、顧客が自分で商品をスキャンし、最後に無人レジで一括清算する仕組みです。

Krogerのグループが実験中のScan Bag Go。

また、この店の会員カードを持っている顧客(ロイヤルカスタマー)は、このハンドスキャナの中で清算することもできます。顧客は、レジを通らないで買物を完了することができます。顧客のレジ待ちストレスが大きく軽減されますね。

「シーズンファーストバイ」の獲得で 季節品の売上を大きく増やそう

日本は、四季が明確なので、特定の時期に爆破的に売れる、「季節指数」の高い季節品が多いのが特徴です。週による売れ方の波動の大きい「季節品」の機会損失を防ぎ、在庫を余らせないで売り切る技術は、小売・流通業の業績を大きく左右します。今週は、季節品の機会損失対策を解説しましょう。

初回購入を逃すと販売チャンスは半分になる

月刊MDでは、季節品の該当シーズンにおける「初回購入」のことを「シーズンファーストバイ」と表現しています。季節品のシーズンファーストバイは、気温、湿度などの天候要因によって変化します。

図表1は、ID-POSデータを分析した結果の「風邪薬」の週別の販売状況をグラフ化したものです(ジェイビートゥービー社のパネル店のID-POSを分析)。図表1の赤線の「トライアル売上」とは、そのシーズンの風邪薬の第1回目の購入を示しています。一方、グレーの線の「リピート売上」とは、そのシーズンの2回目以降の購入を示しています。

図表1によれば、トライアル売上が跳ね上がる「1日の最低気温の平均が15度」を下回る

10月12日~18日が、「シーズンファーストバイ」が急増する最初の週になっています。また、「1日の最低気温の平均が5度」を下回る12月28日~1月3日も、シーズンファーストバイが跳ね上がる週です。この第1回目の購入が急増する週に、「不完全作業」によって売場づくりが遅れ、競合店にシーズンファーストバイの売上を奪われることは、季節品売上の大きな機会損失につながります。

ジェイビートゥービー社によれば、風邪薬の一人当たり年間購入回数は2.3回と低く、シーズンファーストバイの時期に売り逃すと、風邪薬の販売チャンスは、残り1.3回の購入回数に半減してしまいます。また、風邪薬以外の季節品の「年間購入回数」も意外と低く、シーズンファーストバイを売り逃さないことが、最大の売上対策であることがわかります。

季節品の機会損失を防ぐためには、気温や湿度によって「需要が急増する以前」に売場づくりを「早期展開」することが重要です。風邪薬がそんなに売れない時期に、売場づくりを早期展開することで、来店客の記憶に残り、いざ風邪を引いたときに「あの店で山積みしていたな」という記憶がよみがえり、選ばれる店になる可能性が高まります。経験法則では、季節品を早期展開した店のピーク売上は、展開が遅れた店よりもかなり高くなります。

スペースアロケーションで導入→山積み→処分で売り切る

図表2は、制汗剤(スプレー、ロールオン)の週別の販売状況です。ゴールデンウイーク(4月27日~5月3日)の週が最初のシーズンファーストバイのピークになります。さらに、5月25日~31日の週が2回目のシーズンファーストバイのピークです。風邪薬と同様に、この時期よりも以前に、制汗剤の大量陳列を早期展開することで、機会損失を防ぐことができます。逆にいえば、需要が急増する週に売場づくりが遅れて売り逃すことは致命傷になります。

そして、7月27日~8月2日の週が、制汗剤の売上のピークで、そこから売上が大きく減少していることがわかります。このように季節品は、「導入期」→「ピーク期」→「処分期」の3つの段階があることがわかります(図表3)。

その3つの時期に合わせて、「陳列量」「陳列場所」「価格」「売り方」を変化させる方法を「スペースアロケーション」といいます。最終的には需要予測の精度を高めて、在庫を余らせず、売り切ることが現場には求められます。スペースアロケーションは、「現場力」によって結果が大きく変わる技術の代表です。

「トータルヘルスケア戦略」をデジタルと絡めて推進するスギHD

創業以来調剤事業、それも面分業に注力してきたスギ薬局。現在同社では、病気にかかる前の「予防」、病気にかかってからの「治療」や「軽医療」、高齢になってからの「介護」や「終末期ケア」を一貫してサポートする「トータルヘルスケア戦略」を前面に出して推進している。さらにそこにデジタル技術を活用しての事業展開を進める。事業の進捗や構想などを、杉浦克典代表取締役社長に聞いた。(月刊マーチャンダイジング 2018年12月号より転載)

地域の支持を得る地道な活動で処方せん枚数増加

──スギホールディングスの2019年2月期の半期決算は売上高2,439億円(前期比6.3%増)、営業利益128億円(前期比2.4%増)と増収増益でした。好調の要因を簡単に教えてください。

杉浦 物販でいえば、花粉、猛暑という季節要因が貢献しました。4月の調剤報酬の改定は内容的には大きなマイナスインパクトがあったのですが、処方せん枚数は前期比で112.9%とそれを補って余りあるものがありました。

出店も半期で53店舗と過去最高です。通期で100店舗を目指しており、改装も積極的に行っています。中部地方を中心に100坪、200坪未満の店舗が結構あるので増床できる店は増床し、物理的に難しい場合はカテゴリーの配置を見直したり、食品売場を中心に棚を高くするなどして売場販売効率を上げる努力をしてきました。

──処方せん枚数の伸びは出店によるところが大きいのでしょうか。

杉浦 当然出店効果もあるのですが、それだけではありません。調剤薬局を新規出店すると、地域に認知していただき処方せんが集まるまで時間がかかるので、当初それほど枚数を受けることはできません。ですから、調剤薬局の新店が増えると1店舗当りの平均処方せん枚数は減ることになるのです。

当社は創業から面分業の推進を行っていますが、ただ待つだけの面分業ではなく、お声掛けをしたり、地域に出ていったりして地域の支持を頂くような活動をしています。こうした地道な努力を続けていることが、枚数の増加につながっているのだとおもいます。

[図表1]スギホールディングス2019年2月期第2四半期決算概要

2つのアプリを中心にサービスの強化を推進する

──今年3月にメドピアグループと業務資本提携されました。提携の進捗も含めて今後どのような成長戦略を描いているか教えてください。

杉浦 会社の成長戦略は、「健康維持・予防」「治療・軽医療」、そして「介護・看護・終末期ケア」、この3つの領域で地域のお客さま、患者さまを生涯に渡ってお手伝いする「トータルヘルスケア」という戦略を打ち出しています。

この3つの領域で当社のドラッグストア(DgS)が中核となって、さまざまな機能を持つ拠点と、デジタル技術を使いながら連携していく。こうした地域ネットワークを構築していくと2018年2月期の中間決算説明会で発表して以来、ずっと申し上げ続けています。

──そこに、他企業との提携を活かすということでしょうか。

杉浦 はい。先ほど申し上げた3つの領域で、それぞれ個別に、さまざまな企業や団体、行政の方々との連携が進んでいますが、直近では、スマホにダウンロードするアプリを活用したサービスが始まっています。

この10月より、当社の店舗でお使い頂けるクーポン発行やセール情報の発信などを行っていた「スギともアプリ」を全面改修し、「スギ薬局アプリ」として再スタートを切りました。こちらは提携を生かすというよりは、独自技術をより進化させサービスの幅を広げたものです。

新たな機能としては、ポイントカード会員さまの会員証機能で、アプリの会員証画面をレジで見せればポイントをデジタル上でためることができます。また、会員ページを新設し、ポイント履歴や会員情報の登録・変更、キャンペーン応募などがこのページから可能になります。他にも、電子メールで会員さまのニーズに合ったお買い得情報を受信できるサービスがあり、これを使えば、チラシを見たりホームページで探したりする必要がなくなります。

次に、お客さまの食事や運動を支援させて頂く機能を持つ「スギサポアプリ」と名付けたアプリを11月から順次導入しています。たとえば、健康に関心のある方にこのアプリを使って食事の写真を投稿していただければ、食生活の分析ができて、さらに「スギサポマイル」もためて頂けます。これは「スギサポeats」というアプリです。マイルは一定の割合でスギポイントとの交換が可能で、マイル獲得はスギポイント加算の手段にもなります。

また、歩いた歩数に応じてマイルがたまる「スギサポwalk」というアプリも準備中です。このように日常生活の食事や運動を楽しみながら、健康管理ができるようなアプリになっています。

こうしたサービスは「セルフケア支援」と呼びますが、ここにメドピア社との提携を活かしていきます。

スギサポアプリの案内チラシ

食べる、歩くといった日常行動を記録しマイルに変える。楽しみながら健康管理できるサービスでお客との接点拡大を図る

管理栄養士、医師へ手軽に相談できるサービスの導入

──スギサポアプリには、相談、提案など専門性の高いサービスを付加されるのでしょうか。

杉浦 その考えです。つい先日サービスを開始したアプリでは、利用者さまに、特定の疾患や健康に関する不安がある場合、いまの食事で大丈夫なのか、改善するなら、どのようなメニューがいいのかなどアプリを通じて管理栄養士に相談することができ、それを受けて管理栄養士が食事提案をします。

あるいは、医師に相談したいというご要望があった場合には、メドピアの行っているオンラインの医師相談システム「ファーストコール」を利用することができます。これは、医師による専門性の高いカウンセリングをLINEのようなチャット機能で手軽に受けられるサービスです。

さらに相談対応から一歩進めて、カロリー、塩分、カリウム、タンパク質など特定の成分を制限した食事、療養食を冷凍食品という形でご自宅まで届けるサービスも「スギサポDeli」という名称で始めています。

スギサポDeli案内チラシ

管理栄養士、医師がスマホで対応。遠隔での完結も可能だが、リアル店舗とも連携すればお客との関係がより緊密になる

健康診断と店舗をつなげ新たなサービス提供

──M-aidとの資本業務提携も結んでおられますが、こちらはどのようにサービス強化に生かされていくでしょうか。

杉浦 M-aidは健康診断に関して高い専門性と豊富な経験を持つ企業です。たとえば、M-aidが行っている検診バスを使った巡回健康診断を当社店舗の駐車場で実施するというサービスは既に始めています。当社の社員や社会保険に加入しているパートナー社員を対象に実施し、そこから派生する特定保健指導※を行う。スギ薬局全体で1万人以上が対象となるので、従業員のQOL(生活の質)の向上にもなりますし事業としても成り立ちます。

自社従業員以外では、健康診断を受ける機会の少ない主婦の方なども対象となるでしょう。お住まいの地域で、自宅から近いスギ薬局の敷地内で健康診断が受けられるとなれば、一定の需要が見込めます。

健康診断や特定保健指導を受けた後に、また不安なことや気になることがあれば、スギサポアプリで相談するという循環もあるでしょう。

※特定保健指導:40~74歳を対象に行うメタボリックシンドロームに着目した健康診断(特定健診)の結果、生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善により生活習慣病の予防効果が高く期待できる人に対して、管理栄養士などの専門家が食事や運動などの生活習慣を指導すること

リアル店舗とデジタルを活用して顧客接点を増やす

──アプリとお客さまとの接点を考えると、「来店」の定義が広がりますね。

杉浦 現在、平均してお客さまの来店頻度は月に2~3回弱というところでしょうか。スギサポアプリで食事指導をすれば毎日接点が生まれます。運動にしても接点は相当な頻度になるでしょう。

デジタルで相談を受け、しっかりした信頼関係を築くことができれば、それがリアル店舗への来店動機にもなる。店舗ではいつでも相談を受けますという態勢が整っていればなおさらです。接点がリアル店舗だけでなく、デジタルへ広がることでお客さまとのつながりが強くなるということは、メドピアとの提携事業を進めて確信していることです。おっしゃるとおりデジタルの活用で来店の概念は広がるし、当然ビジネスチャンスも広がります。

──先ほど、DgSを中核として機能を持った拠点とデジタル技術を使いながら連携していくというお話がありました。具体的にはどういう拠点が考えられますか。

杉浦 「健康維持・予防」「治療・軽医療」「介護・看護・終末期ケア」というトータルヘルスケアの3つの領域を考えれば、病院など医療機関もそうでしょうし、健康維持で考えればスポーツクラブとの連携もあるとおもいます。スポーツクラブを利用している健康意識の高い人をスギ薬局の店舗やアプリに送客する。あるいは逆方向もあるでしょう。リアルの相互送客をデジタルが補完する、埋めるといったイメージをいまのところ持っています。

──いまのお話を聞いてリアルとデジタルがつながるという印象を持ちましたが、その延長線上でデジタルでモノを買うというサービスもあるのでしょうか。

杉浦 当社は、ネット販売を数年前に休止していますが、その後も店舗以外でどのように商品をご購入いただき、それを届けるかは常に考えています。先ほどお話した、冷凍の療養食の宅配はそのひとつです。

いま、スギ薬局全体で1万人くらいの患者さまを対象に薬剤師がご自宅や施設に伺って在宅調剤を行っています。そこには介護おむつや生活必需品など、スギ薬局で賄うことのできるさまざまなニーズがあるのですが、それにお応えするまでには至っていません。今後は、ご自宅からネットを通じて必要な商品を注文して決済まで終えるというサービスは、利便性を上げるためにも有効です。

それでは、だれがどのように商品を自宅まで届けるのか、いわゆる「ラストワンマイル」という問題がありますが、それも薬剤師が在宅調剤のとき、あるいは管理栄養士が訪問栄養指導をするときにお届けすればスムーズです。この領域は間違いなく広がっていくとおもいます。

──アマゾンに代表されるECへの対抗策をどのように考えるか、お聞きしようとおもっていましたが、いまのサービスのように専門性の高いところで付加価値の高い宅配をするというのも、その答えのひとつでしょうか。

杉浦 そうですね、安く買える、早く届けられるといったサービスでは既存の有力なEC事業者に勝つことは難しいです。宅配ニーズには、介護おむつや日用品のほかにも、医療衛生材のような特殊なもの、専門的なものもありますが、それもスギ薬局で調達して自宅に届けることができます。宅配、店舗以外での買物には、こうした領域を強化していきます。構想段階ではありますが、ここでもアプリが関わったサービス展開ができます。

──いつごろからサービスの開始を考えていますか。

杉浦 構想の段階で未確定な部分も多いですが、スギサポアプリで初歩的なサービスは2018年11月から順次スタート、2019年3月には専門性のあるサービスのいくつかをスタートさせたいと考えています。

──社内の薬剤師や管理栄養士にとっては、チャレンジングな事業が始まるとおもいますが、そのへんの社内アナウンスはどのようにされていますか。

杉浦 申し上げたとおり、管理栄養士、薬剤師の新たな活躍の場を考えています。全管理栄養士を集めた会合などを開いて施策、方針の浸透やモチベーションアップを図っています。特定保健指導などに関しては、より高い専門知識を身に付ける必要があり、管理栄養士にとっては、大変ではありますがやりがいのある事業になるとおもいます。

新橋駅前店の調剤薬局

駅前、インバウンド需要の高い店舗でも調剤薬局を併設して近隣の面分業のニーズに応える。管理栄養士も配置して定期的に健康相談会も行っている

少子高齢化問題への対応 それがビジネスモデルの中核

──アプリを使ったサービスを展開すると、健康や医療に関する膨大なデータが集まってくるとおもいますが、その分析や活用に関するプランもお持ちですか。

杉浦 データがどのように集まってくるかは、少しずつわかってきています。大まかには、「物販データ」「調剤データ」「運動・食事のデータ」「健康診断データ」といった区分になります。これらのデータを将来的には、一元的に管理、活用するという絵も描きつつ、短期的、現実的には健康診断データを服薬指導に結び付けるとか、食事、運動のデータを物販の販促に活用するなど、相性のいいシンプルなデータの組合せ、活用を考えています。いずれにしても、今後の話となります。

──今後、スギ薬局のようなアプリを使ったサービス、そこから集まるデータ活用というビジネスモデルはDgS企業各社が狙ってくるとおもいます。お話を聞いた限り、御社には先行優位性があります。

杉浦 いや、必ずしもそうはおもいません。おっしゃったようなビジネスモデルは多くのDgSが考えていて準備も進めています。分野によっては後れを取っているところもあるでしょう。医療ビッグデータなどは、生命保険会社が盛んに集めていて、新商品の開発などに既に活用しています。

──そのなかで、あえて御社の優位性を挙げるならどこになるでしょう。

杉浦 どれだけデジタルが進歩しても、これまで培ってきたリアル店舗での人と人との接点では、デジタルで先行する企業に比べて優位性があると自負しています。われわれは、1,000店を超える実店舗でお客さまとの関係づくりに膨大な時間を費やしてきました。そのリアル拠点を元に自分たちでやれることは自分たちでやるし、他企業の力を借りられるところとはどんどん提携していく、こうした柔軟性、デジタルとリアルの相乗効果を狙える環境を整えたことは、当社ならではの強みだとおもいます。

──そうした状況を踏まえ、自社の従業員へメッセージを送るとすれば、どのようなものになるでしょうか。

杉浦 この国の深刻な課題は高齢者が増え、子供の数が減る少子高齢化です。スギ薬局は、この少子高齢化に対応すること、改善することをビジネスモデルの中核に据えています。こうした大きな事業に立ち向かっているのだという気概を持って攻めの営業をしていこう、こう呼び掛けたいですね。

──本日はありがとうございました。

ワークマンの新業態はPB比率90%。「高機能ウエア×低価格」で潜在市場を開拓する

2018年9月5日、ワークウエアと作業用品の専門店として業界トップを走るワークマンが、大型ショッピングセンター(SC)内に一般顧客対応の自社プライベートブランド(PB)衣料品をメインに取り扱う新業態店舗をオープンした。その背景と狙いについて取材した。

60坪で目標年商1.2億円、PB比率9割の新業態

ベイシアグループ傘下で、全国に828店舗をフランチャイズ展開するワークマン(2018年10月時点)。2018年3月期の営業総収入は約560億円で前期比7.7%増、売上高と純利益は8期連続増収増益で推移している。現業態での1,000店舗展開、売上高1,000億円が見えてきた同社が選んだ新業態が、一般客をターゲットにした「WORKMAN Plus」だ。

WORKMAN Plusは、アウトドア、スポーツ、レインウエアの専門店であり、メイン客層は既存店と同じく30〜40代男性。働くプロのための高い機能性を付与した、低価格なカジュアルウエアを品揃えする。店舗面積は60坪で、年商は1億2,000万円を目標とする。既存店は、100坪で平均年商は約1億円。2割増を試算できる要因は、衣料品の構成比の高さにある。客単価は既存店の2,700円に比べ、300円アップの3,000円を見込む。

PB比率も、既存店3割に比べ、新業態店舗では9割以上。一般顧客に合わせた商品構成で、作業用品は一部の手袋などに絞り、利益率の高い衣料品PBで固めた格好だ。店舗の運営については、販売代行会社と契約し、アパレル経験の豊富なスタッフを配し、常時3人態勢で運営していく。

建設技能労働者は減少傾向、一般向け3ブランド立ち上げ

ワークマンが新たなブランド戦略を立ち上げたのは、2016年。業績は好調な一方、主力顧客である建設技能労働者の数は、団塊世代の現役引退とともに減少傾向にある。新戦略の背景には、新規顧客の開拓という命題があった。

既存店を分析したところ、一部購入客がスポーツやアウトドアなどの趣味目的での使用や、その入門用として購入していることが判明。SNSや口コミでも、雨天用の防寒・防水仕様のレインウエアがバイカー用ウエアとして、飲食店の厨房用のノンスリップシューズが赤ちゃんを育てるママの安全なレインシューズとして、その評価が高まっていた。

そこで、プロ仕様でありながら一般客でも日常使いできる商品を、用途別にブランド化。アウトドアウエアの「FieldCore」、スポーツウエアの「Find-Out」、レインスーツの「AEGIS」の3ブランド(図表2)を立ち上げたところ、売上は2018年3月期には60億円に到達(図表3)。品揃えにも深さと広さが生まれ、一般客が店舗購入客の2割に達したことから、「高機能×低価格」ウエアの新業態開発に踏み切った(図表1)。

[図表1] WORKMAN Plusのポジショニングマップ

[図表2] ワークマンの3大PBブランド

[図表3] PB3ブランドの売上推移[図表4] PB製品の売上構成比

[図表4] PB製品の売上構成比

ブレない「プロ機能」の商品開発軸、価格は専門店の3分の1

WORKMAN Plusは、ワークマンの商品群のうち、前述した3ブランドを中心に、プロ専用商品を除く衣料品を集めたフォーマットであって、すべての商品開発の軸はあくまでもプロ仕様だ。一般向け商品を、既存商品と区別して開発しているわけではない。約20人から構成される開発部隊は、すべての商品が作業現場で使われることを想定して商品設計を行う。

たとえば、同社の一部の防寒着に使われているアルミは、アパレルでは一般的ではない素材だが、作業着では当たり前の仕様だ。

価格は、アウトドアブランドの半額〜3分の1以下を設定。ユニクロ、しまむらに次ぐ店舗数を持つ同社のスケールメリットを生かした大量生産と、必要な機能のみを残すトレードオフ方式、廃棄率0%で98%を売り切るビジネスモデルによって低価格を担保している。出店したららぽーとには、ザ・ノース・フェイスやコロンビアスポーツウエアなどアウトドアブランドのテナントもあり、明確な差別化も期待できる。

「既存店は、車でしか行けない立地に多く出店しています。交通の便がよく、アパレルはもちろんホームセンターやホームファッションなどさまざまなテナントが入り、多様なお客さまが来店するSC内に新業態店舗を展開することで、ワークマンの認知度を上げることができると考えています。既存店との相乗効果も期待しています」(営業企画部 販売促進グループマネジャー 林 知幸氏)

大型SCに100店舗、アンテナショップの役割も

11月22日には、埼玉県富士見市内のららぽーとに2店舗目がオープンする。今後は大型SCへの出店を10店舗計画しており、採算のめどがつき次第100店舗、年間売上高200億円を目標に展開していく予定だ。高機能と価格競争力で、接客なしでも売上が立つ店を目指し、フランチャイズ化を進めていく。

WORKMAN Plusで扱う3ブランドは既存店でも取り扱うことから、既存店と新業態でお客が二分化することは想定していないという。WORKMAN Plusをワークマンのアンテナショップとして情報発信を行い、既存店への集客にもつなげていく構えだ。既存店内にWORKMANPlusのインショップをつくる計画も検討されているという。

ファッション性の高い作業着も増え、ワークウエアとカジュアル衣料の垣根はなくなりつつある。時代の変化とともに、自社の強みを捉え直し、新しいフォーマットで新市場にこぎ出したワークマンの快進撃はしばらく続きそうだ。

ららぽーとの3階に出店。同じフロアには、東急ハンズやニトリホームデコ、下の階にはザ・ノース・フェイスなどアウトドアブランドが出店している
店舗面積は60坪。スポットライトを効果的に使った照明と木目調の什器で、店内はシンプルながら客層を選ばない親しみやすい雰囲気。壁面もうまく使い「見せる」陳列に。価格訴求も多箇所で行う
作業現場ではおなじみ、ジャケットの内側にアルミを使った商品も。通常アパレルでは使われない素材を使用しているところが、差別化ポイントになる
入り口近くには今冬の防寒アイテムが並ぶ。マスタード色のジャケットは、「FieldCore」。十分カジュアルにも使えるファッショナブルな一品 2,900円(税込)
レジは2台。売場は、常時3人態勢で運営していくという。WORKMAN Plusのロゴにも、既存店とは異なるアウトドアブランド感が
店奥では、ボクサーパンツなど好評な男性用下着のほか、冬のスポーツに欠かせないトレイルタイツ、ネックウォーマー、キャップなどシーズンアイテムも取り扱う
店奥壁面にはシューズを陳列。全天型のワークブーツや、脱着がしやすく滑りにくいスリッポンなども品揃えする
3ブランドのうちもっとも売上の高い「FieldCore」シリーズ。新製品「DIAMAGICDIRECT」の耐久撥水の様子。悪天候に悩まされるシーンも増えており、折々のイベントなど、入り口として手に取りやすいのがレインスーツだろう 2,900円(税込)
バイカー人気の高い「AEGIS」。カワサキのバイクと同じグリーン「カワサキグリーン」と相性のよいカラーリングが好評だという
入り口すぐの壁面には、ガーデニングやクッキングのシーンが想定できるエプロンも品揃え。客層の間口を広げて、店内に導く
SNSで話題となったファイングリップシューズ。どんな場所でも「滑りにくい」は、赤ちゃんを抱きながら動くママや、妊娠中のプレママのニーズでもある 1,900円(税込)

JR東日本の無人決済店舗は “Amazon Go”を超えられるか?

JR東日本グループが2018年10月17日から12月14日までJR赤羽駅(東京・北区)のキオスク跡地にAIを活用した無人決済店舗「TOUCH TO GO」を開設している。同社は2017年11月にも大宮駅(埼玉県)で同様の実証実験を1週間ほど実施しており、今回はその第2弾となる。

(交通系)電子マネーがあれば誰でも使える

まず入り口で(交通系)電子マネーをタッチして入店。店内の商品を幾つか手に取り、出口のゲートに立つと、横の画面に商品名と金額が提示される。正しければ電子マネーをタッチして決済、開いたドアから退店する。“無人決済”なので店内に従業員はいない。試しに棚から取ったあんぱんをポケットに入れて、冷ケースのミネラルウォーターをバッグに放り込んでも、同じように金額が表示される(筆者、実証済み)。

仕組みは次のようになる。天井に設置した16台のカメラ(のうち何台か)が入店客を捕捉する。お客が手に取った商品を、棚の手前上部に取り付けてある計100台のカメラのうち何台かが作動して商品と入店客を紐づける。天井のカメラは捕捉を続け、ゲートの前に立ったお客に買上げ商品を提示する仕組みである。

これは米国シアトルのアマゾン本社1階にある「Amazon Go」とよく似ている。2018年1月に従業員の利用に限定したテスト運営を終えて、一般のお客に対して営業を始めている。

「TOUCH TO GO」の実証実験を推進するJR東日本スタートアップの柴田裕代表取締役社長に「Amazon Go」との類似性を尋ねると「アマゾンのシステムについては知る由もないが思想性は同じ」と回答した。柴田氏は、アマゾンのみならず中国の無人店舗など最新テクノロジーを検証しながら今回の実証実験に至っている。

違いについては「Amazon Go」が専用アプリをダウンロードしなければ入店できず、決済もアマゾン口座に連結させる一方で、「TOUCH TO GO」は記名でも無記名でも(交通系)電子マネーがあれば、誰でも買い物ができる点にある。

「今回の実証実験は(JR東日本の電子マネーの)SuicaのIDを持つ方の照合はしていない。将来的には未成年の確認や決済回りの不正対策等もあり、IDとひもづけできればと考えている」(柴田氏)

現状は利用者の拡大を優先させている。

過去に営業していた実店舗で実験

実験の詳細を見ていこう。前回は大宮駅のイベントスペースでわずか2週間の実証実験であった。1年間の検証を経て次の3点を進化させた。

1点目は、同時に捕捉できる入店客の人数を、前回は1人までだったが、今回は3人まで、確実に決済できるラインを引き上げた。

2点目は、商品の「取り方」について、前回は一番手前にある1つの商品しか認識できなかったが、今回は2つを同時に手に取っても読み取れるようにした。また奥の方に手を伸ばして取っても商品を認識できるようにした。

3点目は、過去に営業していた“リアル店舗”で実証実験していること。現実の店舗に近い状況を想定し、リアルな課題点が抽出できるようにした。

以上の3点であるが、今回の実証実験の期間中は、係員が入り口と出口に張り付いて、トラブルに対処する体制を組んでいる。

しかし、決済上の不具合があっても、お客が画面操作により処理できる内容がほとんどだ。画面に別の商品が表示されていれば、別のお客が手に取った商品が、こちらに紐づけられた可能性が高い。逆に、あるべき商品が表示されなければ、別のお客に紐づけられたと考えるべきであろう。これらは手動で訂正できる。

また、電子マネーの残高が不足していれば購入できないので出口が開かない。棚に戻す必要があるが実証実験の期間中は係員が対処する。

基本的には無人店舗であるものの商品補充については人時を必要としてる。販売商品は約140種類(飲料、ベーカリー、菓子類)。無人店舗は保健所の許可がおりず、おにぎりや惣菜、調理パン、乳製品といったデイリー商品は扱えない。

商品のマスター登録には画像認識させる工程があり実証実験中は同一商品に固定している。同じ中身の商品でも、例えばパッケージだけ変更してクリスマス使用になると商品の認識が不能になる。これは昨年の実証実験第1弾において現実にあった事例である。新聞や雑誌も表紙文字が異なれば画像認識はできない。日替わりや季節のパッケージ替えへの対応も課題となるだろう。

キャッシュレス社会の推進にもなる

そもそも、なぜ無人決済店舗の開発なのか?

最大の理由は人手不足対策である。品出しには人時を必要とするものの、レジ決済システムを含め基本は店内を無人にしている。近年は駅構内で新聞や雑誌、たばこの売上が減少している。駅ホーム上のキオスクを撤退させ、それをグループ内のコンビニ「ニューデイズ」が改札口近辺で利用客を集客する構図にあった。

しかしながら、駅利用客にとっては“欲しいときに欲しいモノを”手に入れられず、利便性の後退といった側面も現実にはあるだろう。キオスクの営業は損益上は無理でも、無人決済店舗であれば営業利益が期待できる場所が、まだたくさん残されていることだ。

「無人決済店舗は人手不足を解消すると同時に、レジ待ち時間を削減してサービスの向上が図れる。さらにはキャッシュレス化も推進できる」と柴田氏は、未来志向の新業態に期待を膨らませる。

無人決済店舗「TOUCH TO GO」。店舗は18年10月17日から12月14日まで営業。営業時間10~20時、土日祝休み。場所はJR赤羽駅 5、6番線ホーム上。店舗面積は約21㎡
今回使用できるのは交通系電子マネーのみ。タッチするとドアが開く。中に子供を除いて3人入っていればドアは開かない
来店客を捕捉する16台のカメラが天井に設置されている。天井が高ければ1台の捕捉範囲が広がるため台数を減らすことができる
実店舗がなければ、ホーム上では小腹を満たす菓子やパンに対応できていない。人員を極力少なくして店舗を構えることができないのか。その解決策が無人決済店舗となる
決済ゾーンに立って、右横のディスプレーに表示される商品名と価格、合計金額をチェックする。ディスプレーの内容が誤認識していれば再認識をタッチ、別の商品など幾つかの選択肢が示されるので手動で変更する 。正しければ交通系電子マネーをタッチして精算完了、自動で出てくるレシートを受け取る。出口手前のレジ袋も利用できる

アマゾン4スターが挑戦するオンラインとリアルの融合

前回に続き、アメリカ視察ツアー報告です。今回は、現在大注目の「アマゾン4スター(Amazon4-Star)」を紹介します。「オンライン」と「リアル」の買物体験を融合したアマゾンの新業態は、リアル店舗にどんな影響をあたえるのでしょうか?

マンハッタンのSOHO地区の古い建物に居抜き出店した「アマゾン4スター」。

ジャンルを問わず星4つの売れ筋を陳列

アマゾンは今年の9月27日、「アマゾン4スター」というまったく新しいコンセプトのリアル店舗を、NYマンハッタンのSOHO地区に開店しました。アマゾンのオンラインサイトで「星4つ」以上の評価を獲得した売れ筋商品だけを品ぞろえする店です。アマゾンによると、オンラインの「販売データ」と「ほしいものリスト」のデータを使って、さらに商品を絞り込んで、陳列商品を選定しているそうです。マンハッタンの中心の大都会なので、売場面積は130坪程度と、決して大きな店ではありません。

この連載の第14回で紹介した「アマゾンブックス」が書籍に限定しているのに対して、商品ジャンルを問わず、アマゾンの売れ筋商品を陳列しています。取扱商品のジャンルは、書籍、ギフト、アマゾンエコーなどのアマゾンデバイス、ルンバなどのスマート家電、キッチン、文具、生活雑貨、玩具などです。店に入ると、「現在オンラインでもっとも購入したい商品」を、ジャンルを問わず島陳列していました(下の写真)。


アマゾンは、オンラインサイトでの買物体験をリアル店舗でも実現し、オンラインでの買物体験とリアル店舗での買物体験を融合しようとしています。下の写真は「アマゾンブックス」の陳列ですが、「アマゾンで1万以上のレビューのあった本」だけを集めたエンド陳列です。従来のリアル書店では、絶対に実現できない陳列です。

オンラインの買物体験をリアル店舗に導入したアマゾンブックス。

130坪程度の売場で、売れ筋に商品を絞り込んでいるので、選べる楽しみはないのかと思っていましたが、どんな商品が「4スター」の評価を獲得しているのかを見るだけでも、とても楽しい買物体験でした。

アメリカ視察ツアーの参加者の中で、娘にオモチャを頼まれた人がいました。ウォルマート、メイシーズ、玩具専門店などをさんざん探し回ったが見つからず、あきらめかけていたところ、最終日に訪問したアマゾン4スターに、娘に頼まれたオモチャがあったそうです。超売れ筋の4スターを品切れさせないアマゾン、おそるべしです。

ダイナミックプライシングで価格もオンラインと連動

アマゾンブックス同様に、アマゾン4スターも「ダイナミックプライシング」を採用しています。ダイナミックプライングとは、アマゾンが採用している「値付け」の仕組みのことで、需要と供給に応じてリアルタイムに「売価」を変更する値付け方法です。

オンラインでの売価変更は簡単ですが、リアル店舗では「紙の棚札」を付け替える作業が発生するので、ダイナミックプライシングの採用は、現実的な方法ではありませんでした。アマゾンブックスでは、売場に売価表示の棚札を付けないで、店内にあるプライスチェッカーやアプリのスキャナーで書籍のJANコードを読み取り、書籍の売価を表示していました。

アマゾン4スターでは、下の写真のように電子棚札を採用することで、ダイナミックプライシングに対応していました。アマゾンのオンラインの売価が下がると、それに連動してリアルタイムにアマゾン4スターの売価も変わる仕組みです。

また、アマゾンブックスもアマゾン4スターも、「一般客」に比べて、「アマゾンプライム会員」の価格を思いっきり安くしており、プライム会員にならなければこれだけ損をすると徹底的に主張しています。アマゾンのすべての動線は、プライム会員の獲得につながっているわけです。

電子棚札でダイナミックプライシングを導入しているアマゾン4スター。電子棚札に星がいくつの商品かを表示している。