文具からヲタ活まで網羅!100円ショップ陰の立役者「アミファ」

さまざまなデザインに彩られたキッチンウエアや文房具。手に取るだけで楽しくなるようなこれらの商材を100円ショップに供給する“陰の立役者”のひとつが「アミファ」(本社:東京都港区)だ。業務用包装資材販売業から100円ショップ向け商品開発へ業態を転換、ラッピング用品から文具、キッチンへと取扱いカテゴリーを広げ、昨年は上場も果たした。同社商品の人気の理由を、社長の藤井愉三氏に聞いた。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野 恵子/月刊マーチャンダイジング2020年5月号より編集の上転載)

年間1,500アイテムを開発し3ヵ月で売り切る

もはや毎日の生活に欠かせない存在となった100円ショップ。キッチン用品店や文具店が減少傾向にある昨今、生活者のニーズを取り込み成長を続けている。

アミファはそんな大手100円ショップに商品を供給する雑貨メーカーだ。全社の売上高は約50億円(2019年9月期、図表1)で、そのうち100円ショップ向けとなる「ワンプライス商品」が約45億円と9割を占める。ワンプライス商品の内訳はラッピング48%、文具19%、キッチン17%、クラフト12%、ライフスタイル4%(2017年を100とした「指数」の推移は図表2を参照)。

包装用品や紙をベースとしつつ、広く関連カテゴリーのアイテムをラインアップしている。開発するアイテム数は年間約1,500。トレンドを押さえたデザインのアイテムを豊富に投入することで、100円ショップの売場に季節感や新鮮さを与える役割を担う。現在セリア、ダイソー、キャンドゥ、ワッツと大手100円ショップチェーンすべてに商品を納入している(図表3)。

[図表1] 売上高推移(全社)(単位:百万円)
[図表2] 売上高構成比推移(ワンプライス商品)
[図表3] ワンプライス商品取引先別シェア(2019年9月期)

アミファの生産体制の特徴は自社工場を保有せず、ファブレスメーカーを志向しているという点だ。社内には企画やデザイン、商品管理の機能のみを持ち、製造は主に中国の提携工場で行う。

社長の藤井愉三氏はその意図について「工場を持たないことで、新しいカテゴリーに低リスクで挑戦することができます」と語る。従業員数は約80人(2020年2月現在)。マーケティングや生産管理、品質管理の部署も含めると、全従業員の3分の2が商品開発に関わっている。

商品の企画は発売の約1年前からスタート。前年の反省から始まり、各チェーンのバイヤーとコンセプトの段階から綿密に打ち合わせを繰り返し、計画的に商品開発、売場計画を行う。一部の定番商品を除き、基本的には3ヵ月の売り切りだ。

大量の商品をメーカーとチェーンで協働して企画し、生産し、一気に売り切るという一連の流れが、100円ショップの店頭の新鮮さの秘訣といえそうだ。

包装、文具、キッチン…カテゴリーを拡大

アミファは1973年に東京都台東区でフジ産業として創業。当初メインの業務はギフト向け化粧箱内装用資材の販売業であった。しかし2000年前後から簡易包装を求める風潮が高まり、売上が漸減。新規事業立ち上げを模索していた。

ちょうどそのころ成長していたのが100円ショップだ。当時の100円ショップもラッピング用品を販売していたものの、ヨーロッパ市場に向けた商材が多く、「サンタクロースの顔がリアルすぎる」など、デザインが日本市場に向かないものが多かった。アミファはそこに商機を見いだし、日本向けデザインのラッピング用品の企画をスタート。1999年にキャンドゥへ納品を開始した。

2000年代前半はラッピング商品を中心に生産していた同社だったが、大きな転機になったのが2000年代中盤のマスキングテープ(マステ)ブームである。「mt」(製造はカモ井加工紙株式会社)というマステのブランドが火付け役となり、ラッピング、DIY、工作などさまざまなシーンでマステが使われるようになったのである。

当時マステの平均単価は150〜200円。そこで「マステを100円で販売したらきっと大ブレイクする」と考え、ある大手100円ショップに「ぜひやらせてほしい」と提案し、提携工場と調整の末、包装用品を製造している工場で、上代100円でマステを製造することに成功した。アミファが開拓した100円のマステは、いまや文具売場の顔となるほどの人気商品だ。

「マステが売れたことで、文房具のバイヤーさんとお話ができるようになりました。そこから『付箋紙をやりませんか』『ノートは?』『メモパッドは?』と新しいお話を頂戴することができるようになったのです」(藤井氏)

さらにキッチンウエアの取扱い開始が2017年以降の同社の2桁成長を後押しした。手描きのイラストが印象的なメラミン食器は、軽くて手軽に扱えることもあってヒット商品に。このヒットによって、アミファはさらにほかのキッチンカテゴリーへと商品ラインアップを広げている。

紙コップ、紙皿、保存用の袋、メラミン食器…。提携工場を広げ、対応できるカテゴリーを増やしていくたびに売上が増加。こうしてアミファは2019年9月、ジャスダックへの上場を果たした。

統一したテイストでコーディネートして販売

アミファの売上の中心はバレンタイン、クリスマス、ハロウィンなどのシーズンイベントだ。ここで威力を発揮するのが「統一したテイストでコーディネートできる商品群」というアミファの一番の強みである。

たとえば、2019年冬テーマである「いちごシリーズ」は、幅広い層に人気のいちごのイラストをモチーフにしたキッチンアイテムのシリーズ(写真1)。定番のペーパーカップやプレートだけでなく、メラミン食器や保冷剤、ウエットシートケースなど全13商品をラインアップ。これらをエンドで展開すれば、お客にトータルコーディネートした生活シーンを提案できる。

写真1 「いちごシリーズ」の商品。定番の紙コップ、紙皿だけでなくメラミン食器や保冷剤、ウエットシートケースなど全13商品をラインアップする。ファブレスだからこそできる幅の広さだ

「既存のメーカーさんは、たとえば紙コップメーカーであれば多種多様な紙コップだけを製造なさっていて、フィルム製品や文具まで広げているメーカーさんはそう多くはありません」(藤井社長)。しかし実際のユーザーのニーズは使用するシーンに合わせてコーディネートされた商品群だ。「たとえばクリスマスのパーティーで、紙皿、紙コップ、紙ナプキン、ラッピング、そして部屋の装飾まで絵柄を揃えたいとおもったときに、当社の商品を購入していただければすべて一人の作家さんの世界観で統一することができます」(同)。コーディネート提案することにより、おのずと買上点数もアップする。

アミファは「パートナー」と呼ぶイラストレーター100人以上とのネットワークを構築しており、これも「世界観が統一された商品群」の提供を後押しする。「雑貨は手間と時間がかかるイラストが命です。たとえば紙皿・紙コップであれば売れるサイズは決まっています。あとは絵柄の勝負です」(藤井社長)。センスのあるイラストレーターを起用し、さまざまなアイテムで世界観を展開する。一人のイラストレーターが、ワンシーズン30アイテムの商品をデザインすることもあるという。

クリエイティブの幅広さとそれをのせる素材の豊富さこそ、他社にはまねできないアミファの強さの秘訣なのだ。

2020年春のヒット商品のシステムバインダーも、さまざまな商品を統一した世界観で展開できるアミファならではの商品といえる(写真2)。A5サイズバインダーとスパンコール入りのPVCカバー、リフィル、シールなどのアイテムを展開。そのまま使うのではなく、自分の好きなようにカスタマイズできるのがポイントで、発売直後から人気の商品となっている。

写真2 2020年春のヒット商品、システムバインダー。カスタマイズする楽しさ、かわいらしさで人気に

未開拓カテゴリーに果敢に挑戦 キャラクターものがSNSで人気に

アミファは現在2つの成長戦略を掲げる。ひとつが100円ショップの中でカテゴリーを増やしていくことと、もうひとつが新しい業界への挑戦だ。

前者は100円ショップ内での取扱いカテゴリーを増やすことを目指す。たとえばコスメグッズやファッショングッズなど、未開拓の分野は多い。

現在同社が挑戦している新機軸がオタク女子に向けたキャラクター展開だ。2019年夏に発売した「スマプロ!」のカレンダーは、年齢も個性も違う12人の男性アイドルのキャラクターたちをフィーチャーしたもの。アニメが好きな女子たちに受け入れられて、SNSを中心に話題となった。

カレンダー自体は販売期間が短いこともあり、売上への貢献度はそう高くはなかったものの、アニメ雑誌で記事化されたり、「スマプロ!」のキャラクターが登場する漫画の電子書籍が発売されるなど、いまでも盛り上がりを見せ続けている。今後こういったキャラクターものにもどんどん挑戦していきたいと藤井社長はいう。

写真3 セリアで販売したカレンダーから人気に火が付いた「スマプロ!」。アニメ雑誌への掲載、ファン向けの電子書籍発売など、おもわぬ方向に成長を続けている

また、新しい業界への挑戦としては、ドラッグストアやホームセンターなど、100円ショップ以外の業態にも商品を供給していきたいと考えている。

長期的な目標として掲げるのは売上高100億円。「100円ショップ業界は現在7,700億円規模。仕入額でいうと4,000億円という市場ですが、そのうち弊社のシェアは1%にすぎません。まだまだ伸ばしていくことができるはずです」(藤井社長)

0.5歩先をいく商品開発を目指す

雑貨にははやり廃りがつきもので、どんなに売れているものでも数年たつと飽きられて、新しいものにお客の興味・関心が移っていくものだ。

そのため、次のトレンドをどう読むかが非常に重要で、アミファの商品開発担当者は日常的に周辺の店舗調査を行ったり、国外まで視察に赴くこともある。7年前には本社を青山に移転し、感度の高い人材の採用などにも力を入れてきた。

藤井社長は、従業員に対し「0.5歩先を目指そう」といい続けている。

「100円ショップには幅広い購買層がいらっしゃいます。一歩先を狙うと、一般的なお客さまから『使いこなせなさそう』と敬遠されてしまいかねません。かといって0歩…つまり他社と変わらない商品を提供しても、数万点の商品を取り扱う100円ショップでは埋没してしまいます。目指すのは『0.5歩』のさじ加減です」

アミファは100円ショップという舞台に「0.5歩のさじ加減」のさまざまなアイテムを提供し、店頭と人々の生活に刺激を与え続ける。

〈取材協力〉

株式会社アミファ 代表取締役社長
藤井 愉三氏

ヤオコーが子会社化してまで欲しがった日本版ウォルマート「エイビイ」の実力とは!?

神奈川県を本拠とする有力食品SMチェーン「エイビイ」。30期連続増収増益、経常利益率4.2%のエクセレントカンパニーである「ヤオコー」が2017年4月に完全子会社化したことによって、SM業界に驚きが広がった。なぜこの企業が数多くのお客の支持を受け、これほどまでの収益力を誇っているのか。ストアコンパリゾンで解き明かす。(ロジカル・サポート代表 三浦 美浩/月刊マーチャンダイジング2020年4月号より編集の上転載)

店舗当り年商48億円超の驚異的な売上高

エイビイは、神奈川県と東京都に食品SMと、スーパーセンターと称する大型店を12店舗展開(2020年2月現在)。ヤオコー子会社化の直前に公表された2016年3月期の決算では売上高483億円、経常利益28億円で経常利益率5.8%とヤオコー以上の高収益。当時の店舗数は10店舗で1店当りの年商は48億円超と食品、雑貨のみの食品SMとしては驚異的な売上高だ。

なぜこの企業が数多くのお客の支持を受け、これほどまでの収益力を誇っているのか。

今回モデルとして視察したのはエイビイりんかんモール店である。神奈川県大和市の中央林間駅から徒歩10分の幹線道路沿いに立地する売場面積800坪の店だ。

エイビイりんかんモール店は2011年に開店。中央林間駅は小田急線と東急線の2線が乗り入れていて都心へのアクセスもよいが、市に隣接した米軍厚木基地の騒音問題などから人気はそれほど高くなかった。しかし2000年代に入ると中央林間駅周辺に大型SCが多数開業する。

エイビイの東2kmには2000年にアウトレットのグランベリーモールが開業、2001年には南に1.5km離れた地点に大和オークシティSC(イトーヨーカドーとイオンモールが連結された大型SC)が出店した。グランベリーモールは2017年にいったん閉店したが、2019年11月にその跡地を再開発した南町田グランベリーパークが開業し、人気を集めている。

そのためこの地域は現在人気が出て人口増加中。エイビイの近くには2019年に分譲が始まった総戸数857戸の巨大マンションが完成、70㎡で3,800万円台と比較的手に入りやすい価格で子育て世代に好評を博す。

コモディティ商品の圧倒的低価格

エイビイが1店舗当り50億円近い売上高を獲得している秘訣は、なんといっても価格の安さである。店舗の入り口にはかご3個が載せられるカートが大量に置かれていて、お客は最初からひとつのカートにかごを3つ載せて買う気満々だ。

レイアウトはコの字型の主通路設定で、入り口にはスイングドアが設置されており、ワンウエイコントロールの意図が読み取れる。

入り口から果物の平台が6台と左右に野菜の売場、次に鮮魚売場、精肉売場とつながり、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、ハム・ソーセージなどの加工肉と続く。

野菜・果物売場ではキャベツ69円、大根79円、モヤシ19円、バナナ1房99円などの低価格、鮮魚ではサンマが1尾100円、マサバ1尾199円などである(すべて税抜き、以下同。2020年2月7日に調査)。お客をもっとも引き寄せる「主通路壁面の第一磁石売場」の精肉コーナーでは豚ひき肉(国産、輸入混合)69円、国産もち豚バラ・スライス99円など、100g単位の価格(ユニットプライス)が2桁の商品が数多い。鶏ムネ肉(国産)は2枚入りが100g44円、3枚入りが同39円で、容量が多くなるほどユニットプライスが安くなるような売価設定も。育ち盛りの子供がいる家庭にはうれしい売価だ。

牛乳は「主通路突き当たりの第二磁石売場」に配置。牛乳1ℓ155円の売価で遠目からもお客を引き寄せる。主通路沿いの「エンド部分の第三磁石売場」には卵を配置して、買上点数のプラスオンを狙う。

パン売場にはバターロール13個入りが189円と1個当り14.5円の超低価格。この商品は「ジェネリック」というストアブランドで(製造者は山崎製パン)、商品名やパッケージの印刷も品質表示以外まったくない(なお、医療分野のジェネリック医薬品という意味ではない)。

定番のゴンドラ内にはワイヤー什器(キャスターの付いたかご型の什器)に1kgで185円のパスタがある。これはレストランなど外食用につくられた商品でゴンドラ最下段に大量に陳列されている。

安さの追求とこだわりの両立

同時に、必ずしも低価格一辺倒になっていないところが、エイビイの大いなる魅力でもある。エイヴイのホームページに掲載された木村社長のメッセージではエイヴイが目指す店として「単なる生活充足型の品揃えを脱皮し、多様な個々人のスペシャリティーニーズを満たす売場」と書かれている。このコンセプトが、安さだけではない、「こだわり」も求める広い客層の獲得へとつながっている。

入り口脇の青果ゾーンのトマト売場は、最近の「トマト人気」に対応して大きさ、色や味もさまざまなトマトを12品種取り扱う。青果内側の巨大キノコ売場には冬の需要期ということもありシイタケからマイタケ、シメジ、ブラウンとホワイトのマッシュルームまで21品種を品揃えするこだわりである。

青果奥のバナナ売場も既述のように1房99円の最大フェースで確保しながら、総アイテム数は6にまで拡大。バナナダイエット以降人気が続く高単価バナナも揃える。

牛肉はオーストラリア産、アメリカ産も揃えながら黒毛和牛も陳列。豚肉も国産だけでなく人気のカナダ産やスペイン産のイベリコ豚まで置いている。

日配ではナショナルブランド(NB)の3連納豆65円を12フェースで揃える一方で、中段には「わらづと(わらを束ねた筒)」に入った伝統的な納豆も197円で販売、納豆合計32アイテムと品揃えの深さを追求する。

「単なる生活充足型」ではない、「多様な個々人のスペシャリティーニーズ」を満たすことが1店舗50億円近い大人気に直結している。

ローコスト運営4つのポイント

本稿の主題の「ローコストオペレーション」に関しては4つのポイントが挙げられる。

①SKUの絞り込み、陳列位置の固定

第一にこの品揃えのメリハリが、エイヴイのコスト削減につながっている。

青果ではトマト、キノコは拡充しながらキャベツ、大根、ニンジンなど基礎的な商材は1アイテムに絞り込み。キャベツのような重い商品は陳列も大変だが、年中同じ売場の位置で販売する徹底ぶりで、品出し、作業負荷の軽減を図る。

絞り込んだ牛乳は扉の付いたリーチインへのバックロード方式(後方が冷蔵庫になっていて後ろ側から陳列什器のまま並べる)の陳列で一気に大量陳列が可能。これも作業負担軽減と補充回数の削減に直結する。

② 什器の工夫、陳列動線の超効率化

エイヴイの第二のローコストのノウハウは、こうした什器活用の方法にある。

ワイヤー什器は投げ込み方式ではなく商品をきちんと並べて陳列しているが、可動式の什器を活用しており、後方での品出しができて作業効率は高い。

エイビイを視察する際、中央林間駅側からアプローチをすれば店の納品口が目に入る。この場所で荷下ろししているトラックは多くが「ダブルウイング型(扉が車の後方でなく両側に鳥の羽のように開く車)」である。

エイビイ中央林間店の荷受け場。ここからパレットでフルフラットの売場まで品出しされる

パレット納品の商品でフォークリフトを活用すれば、荷台の横から荷役ができ、荷下ろし効率は高い。りんかんモール店の荷受け場の天井高は、この納品形態を前提に設計されている。

パレットで納品された商品は荷受け場から段差のないストックルーム(在庫場)へそのままフォークリフトで引き込まれる。荷受け場は納品時以外、常にシャッターが下ろされていて、在庫場は外側と区画される。温度管理ができ、商品の保管の面でも従業員の作業の面でも確実な環境保全がなされている。

パレット納品された商品はカートラックに移動され、フルフラットのフロアに品出しされる。重たい飲料や酒の売場は在庫場に隣接しており、売場でカートラックのまま販売する箱売りの商品も多くある。この合理的な店舗運営がローコスト運営を支えている。

③ナイナイ化によるローコストの追求

第三のローコストの特徴は「店舗のナイナイ化」にある。

価格はチラシ「ナシ」のエブリデーロープライス(EDLP)作戦。売価変更の作業もチラシ費用もナイし、お客は昨日より高い商品を買わされる不満も「ナイ」(実はお客は「安いものを買えた満足」より「間違って昨日より高いものを買わされた不満」の方が大きい)。現金以外の決済手段も「ナイ」。商品の価格と品質のバランスが取れていて満足できれば、購入金額が多くても現金で買物してくれる。

ポイントカードも「ナイ」。レジ台数は18台だが、かご3個に商品を満載した顧客が多いため土日には15分以上待つような光景もあるものの、お客はひたすら並んで、精算して帰っていく。

店内のBGMも「ナイ」、売場での「いらっしゃいませ」の掛け声も「ナイ」。店内ではレジで商品をスキャンした「ピッ、ピッ」という音ぐらいしかなく、まったく静かである。お客も買物に集中して楽しんでいる。

④オールアウトパック加工ありきの店舗運営

エイビイの第四の、そして最大のローコストの仕組みがオールアウトパック加工(店舗外の自社センター、外部メーカーによる加工の総称)の商品づくり、店舗運営にある。

食品SMとDgSなど非食品の業態とでまったく異なる点は、野菜、鮮魚・刺し身、牛豚鶏肉やひき肉の「店内加工(「インストア加工」)」の有無にある。

歴史的に食品SMはこのインストア加工を「強み」として差別化を図ってきた。各店の各部門に設置された作業場で商品をその日に加工、その日に品出しして鮮度をアピール。店頭商品が品薄になれば追加加工し、店頭在庫が多くなりそうであれば製造を控える形で現場スタッフが逐次、売場を管理してきた。

総菜もでき立てを求める声があれば、夕方4時からでも揚げたてを並べ顧客に対応してきた。

食品SMの店は「広い売場+さまざまな作業のできる作業場+多彩な要望を実現できる人材」がセットになって流通業界の主役を務めてきたのである。

(記事の全文は月刊マーチャンダイジング2020年4月号でご覧ください。ご購読はこちらから

オンラインセミナー開催のお知らせ

ニューフォーマット研究会の定例セミナーでは、新型コロナウイルス感染拡大予防のため、大きな業務の変化に直面するリアル店舗の売り方に関するテーマを取り上げます。7月のセミナーは、本記事の執筆者であるエイジスリテイルサポート研究所所長の三浦美浩氏による食品小売業の動向分析など、リテールマーケティングワンの渡會公士氏による化粧品、ヘルスケアの「新しい売り方」解説など、実務者に向けた価値ある情報が盛りだくさんの内容を予定しています。詳しくは以下のバナーからご確認ください。

 

 

コロナ禍に振り回された2020年2月~3月の売れ方を振り返る

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、外出自粛による生活スタイルの変化で、食品や日用品など生活必需品の購買行動が変化しています。そこで今回は、全国のアンケートモニターから独自に収集する「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」(以下POB)から、購買行動を分析しました。調査期間は、2020年2月1日~3月31日で、期間中の購入レシート総枚数は、約56万枚です。調査結果からは、どの商品カテゴリの需要が高まっていたか、購買コメントには、購買理由だけではなく店頭状況やどのような購買行動をしたのかなど、消費者心理が表れていました。

前週より購入金額358円、購入点数が2点増加した3月23日週

まず、レシート1枚あたりの購入状況(購入金額および購入点数)推移を分析します。

レシート1枚あたりの購入状況推移は、2/17週の「購入金額(847円)、購入点数(4.0点)」でしたが、翌2/24週は、「購入金額(1,019円)、購入点数(4.8個)」となり、購入金額は前週よりも、172円上昇していました。2月24日(月)に政府による新型コロナウイルス基本方針の発表、2月27日(木)の休校要請、SNSで拡散した「トイレットペーパーが買えなくなる」といったデマなど、物資の不足を不安に感じた消費者の生活必需品の購買意欲が高まったことが考えられます。

その後3/2週から3/16週にかけてのレシート1枚あたりの購入状況をみると、購入金額は<893円~932円>となり、上昇傾向で推移し、3/23週に「購入金額(1,290円)、購入点数(6.1個)」となり、前週よりも購入金額358円がアップし(前週932円)、購入点数は2点増加していました(前週4.3点)。

背景には、3月25日に新型コロナウイルスの国内感染者が1,000人を超え、緊急事態宣言への必要性が徐々に高まり「食品など、今必要ないと思っている商品でも、今後買えなくなりそうな不安から、購入してしまう(50代女性)」といった、緊急時に備えた生活必需品の備蓄だけではなく、「普段からまめに買い物に出るので買い置きはあまりしてなかったが、スーパーの棚から商品がどんどん無くなるのを見て、乾麺や缶詰やレトルト等をストック用に購入した(50代女性)」や、「どうなるか不安なので、いつもより買いだめしているので、支出が増えています。普段買わない(食品など)を購入してしまう(50代)」といった、普段とは異なる光景を目の当たりにした消費者の「買いだめ」や「買い急ぎ」心理がコメントに表れていました。

食品関連の構成比急上昇。日用品は割高でも仕方なく購入

次に、2/17週~3/23週のカテゴリ別のレシート構成比を分析します。

2/17週のカテゴリ別のレシート構成比は、「生鮮・総菜(32.4%)」、「食品(31.4%)」、「飲料(8.7%)」、「日用品(5.0%)」であったのに対し、2/24週は、各カテゴリの構成比に変化がみられました。

まず「食品(34.6%)」が「生鮮・総菜(32.9%)」を、1.7ポイント上回り、保存がきく・日持ちする食品の購入が増えていたことがわかります。

「学校が休校になったので、昼食やおやつ用に、普段より食材が多く必要になった(40代女性)」や、「子どもが家にいるので、お菓子やジュースの購入が増えた(40代女性)」といった、休校中の子ども用の食材を購入したというコメントが多くみられました。

また、食品関連カテゴリ(「生鮮・総菜」+「食品」)の構成比は、「2/17週(63.8%)」から、「3/23週(72.6%)」となり、8.8ポイント上昇し、レシート全体の枚数に占める構成比が7割を超えていました。

「家での食事が増え、買物する商品数、量は3割ぐらい多くなっている(40代女性)」といった、家庭での食事の機会が増加したことによる、購入量の増加がコメントに表れていました。

「日用品」カテゴリの商品別では「トイレットペーパー」や「ティッシュペーパー」などの紙製品や、「洗濯用洗剤」などの構成比が上昇し、「2/17週(5.0%)」から、「2/24週(6.7%)」で推移し、前週比1.7ポイント上回りましたが、3/2週以降は、「5.3%~5.7%」で推移しています。

紙製品類の需要の高まりがメディアでも多く取り上げられていましたが、「トイレットペーパーやティッシュの在庫がなくなりつつあり、洗剤も心配でストックがあったが買っておいた(60代女性)」や、「トイレットペーパーを買いに行った際に価格を確認したら安かったので洗濯洗剤をストック用に購入(50代男性)」などといった、「ついで買い」が発生していたことがわかりました。

紙製品類に関しては、一時店頭から品薄状態となった後、メーカー側の生産体制や物流の見直しによって、回復に向かっていましたが、「コロナの影響で、トイレットペーパーやティッシュ、ウェットティッシュの在庫が無い異常事態なので、何でもいいので購入。価格が異常に高い(50代女性)」や、「トイレットペーパーは、いつも特売を購入していたが、お得なものが手に入らずいつもより割高なものを購入(40代女性)」など、店頭価格やブランドが変化しており、いつも購入しているものではないブランドでも必要性を感じて購入していたことや、「コロナウイルス騒動で生理用品までもが数量限定で、ないと困る為ストック用に購入(30代女性)」といった、店頭状況に関するコメントが多くみられました。

一方で、「(外食などの)飲食」レシートの構成比は、外出自粛により減少傾向で、「2/17週(10.6%)」であったのが、「3/23週(4.3%)」まで落ち込んでおり、テイクアウトや様々な工夫により、お客様をもてなそうと必死の外食業界ですが、苦しい状況が表れていました。

「牛乳・大豆加工品」の売上は前月の1.5倍に

最後に、2月と3月で同じレシート枚数を比較し、その商品カテゴリの出現率から、どの商品カテゴリの購入に変化があったのか、分析をします。

まず、3月のレシート28万枚における商品カテゴリの出現率は、「総菜(20.6%※以下()内は3月のレシート枚数シェアを記載)」、「野菜(14.3%)」、「麺類(8.8%)」、「ベーカリー(8.3%)」、「生肉(7.1%)」と続き、上位20商品カテゴリすべてにおいて、2月の出現率を上回る結果となりました。

また、上位20商品のカテゴリのうち変動率の高い商品カテゴリに注目すると、「牛乳(158.5% ※以下()内は変動率を記載)」がもっとも大きかったことがわかり、学校の休校措置により、牛乳の供給停止を余儀なくされた酪農家支援のために、政府からの牛乳消費の呼びかけや、レシピサイトなどで牛乳が大量消費できるレシピが話題となるなど、支援の輪が広がり需要が増えたのではないかと推測されます。

次いで、健康意識の高まりから、納豆や豆腐などの「大豆加工品(155.4%)」、休校中の子ども用のおやつとして「スナック菓子(138.9%)」、食事や軽食用の「ベーカリー(132.7%)」、保存性があり調理の手助けしてくれる「冷凍食品(129.9%)」などが上位となり、2月よりも3月のほうが1.2~1.5倍購入されていたことがわかりました。他にも、家飲み需要の増加で、「ビール系飲料(120.5%)」となりました。

必要なときは価格もブランドも気にせず買わざるを得ない

今回の分析結果から、新型コロナの感染拡大で外出自粛による家庭での食事機会の増加や、物資の不足や緊急時の不安からの「買い急ぎ」や、買い物頻度を減らすための「買いだめ」行動が、トイレットペーパーなどの紙製品だけではなく、一部の食品類でもみられ、それらが店頭で品薄状態を引き起こしていたことがわかりました。

そういった緊急の状況下でも、メーカーや小売が安定した商品供給をするために、店頭で取り扱うブランドやアイテム数が一時的に減少していたことから、「いつも購入しているブランドだから買う」のでなく、「必要としているから価格やブランドにこだわらず買う」といった、消費者の“買い方”の変化が浮き彫りとなりました。

また、スーパーやドラッグストアでは、最少人数の来店、店内が密集状態にならないよう、店内の客の数に応じた入店制限や、特売のチラシ配布や、タイムセールなどを見合わせるなどの対策をとるケースが増えています。

お客様に安心して買い物をしていただくための感染防止策を講じた“売り方”にも変化が表れています。

「残薬を減らす」大義を掲げ、戦う薬剤戦師「オーガマン」誕生の舞台裏

福岡県を中心に、107店舗(2020年3月時点)の調剤薬局とドラッグストア(DgS)を展開する大賀薬局。一部の薬局では24時間365日体制で緊急の問い合わせにも対応するなど、地域住民の信頼をベースにする一方で、ユニークなコミュニケーション戦略で独自のポジションを築き、存在感を高めている。同社の代表取締役社長である大賀崇浩氏に、その取組みを聞いた。(聞き手:本誌主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2020年4月号より一部を抜粋の上転載)

話題沸騰のオリジナルヒーロー、誕生の舞台裏

──そのクオリティの高さから話題沸騰の「薬剤戦師オーガマン」ですが、御社がオリジナルのヒーローを生み出すに至った経緯をお聞かせください。

大賀 大元をたどれば、私自身が仮面ライダーマニアだということに端を発しています。幼少期のリアルタイムは「仮面ライダーブラック」でした。大学のころに、クウガ、アギトを放送していて。2016年にやっていたエグゼイドを見ていたときに、浮かんだのがオーガマンです。

大賀薬局 代表取締役社長の大賀崇浩氏

エグゼイドはゲーム好きの医者という設定なんですね。医者のヒーローはいても、薬剤師のヒーローがいないことに気付き、掛け合わせることをおもい付きました。

そこから絵でラフを起こして、初めは私の趣味の延長のような形でいろいろな設定を考えていたのですが、途中で煮詰まり、構想のまま止まっていました。

──具体的にプロジェクトとして動きだしたきっかけは何だったのでしょうか。

大賀 同窓会で知り合った中高の後輩が「悪の秘密結社」という名前で、ヒーローショーの悪役を専門でアウトソーシングするベンチャー企業を立ち上げていて。ご当地ヒーローを立てている行政は数多くありますが、皆予算が限られているので敵役まではつくれないのが現状。「悪の秘密結社」は、敵だけで40~50体のバラエティを持っています。

ニッチですが需要はあります。天才的な起業アイデアですよね(笑)そこで、ヒーローショーのプロである彼にオーガマンの構想を話して、アドバイスを受けたんです。2018年ころだとおもいます。

オーガマンの造形デザインも、コーポレートカラーの大賀ブルーと当社の薬剤師の制服をもとに「悪の秘密結社」に在籍するデザイナーに製作してもらいました。

オーガマンはバットマンに倣い、社長がポケットマネーで開発したスーツという設定なんです。自分で変身して敵を倒すパターンですね。ちなみに、オーガマンのパンチ力200tはクウガの2倍の設定です。

──オーガマン製作における一番のポイントとは。

大賀 私は、ヒーローにとって戦う大義がものすごく大事だと考えています。仮面ライダーが好きなのも、戦う理由が強いから。V3も父母を殺され、自分も殺されかけたうえで改造されている。何のために戦うのか、そこが弱いとヒーローである必要もなくなりますし、面白くない。

オーガマンは薬剤戦師です。薬剤師は何と戦うヒーローなのかといえば、医療財政。医療費の削減が薬剤師の使命です。それをヒーローに落とし込んだときに、戦う対象は残薬になりました。

──病気と戦うのではなく、残薬というその発想はすごいですね。

大賀 SDGsでも示されていることですが、今後私たちは持続的な成長と継続をしていかないといけません。43兆円にも上る医療費の削減は、日本における最大の課題です。

制度改革も含めて、まず若い人たちに興味を持ってもらわないといけない。ヒーローは、そのきっかけづくりです。

いま娘が7歳、息子が4歳ですが、そういう話を真面目にしても聞いてくれません。でも、オーガマンの決めぜりふ「薬飲んで、寝ろ。」は覚えている。彼らは楽しく伝えないと反応してくれないんです。

オーガマンのスペック

残薬金額は年間500億円。「やくいく手帳」で子どもから広げる啓発

──実際に、残薬はどのくらいあるのでしょう。

大賀 処方されても飲み忘れなどで残ってしまう薬は1年で約500億円に上るといわれています。そのまま捨てられずに残っている薬を合わせたら1,000億円以上という試算もあります。処方量の調整をしていかなければなりません。

当社でも本部で在庫管理を行っていますが、それとは別に、今回オーガマンと連動した新たな取組みとして「やくいく手帳」をつくりました。子どもを対象に薬育のヒーローショーも行っています。

薬育は、薬は怖くないことや、薬剤師という仕事、病気を予防して薬を減らすことを啓蒙する活動。オーガマンはそのためのヒーローコンテンツ。「やくいく手帳」は、薬の飲み忘れを防ぐために、朝昼晩など服用後にシールを貼っていくものです。

手帳で子どもに薬育を促し「家族の飲み忘れもチェックしてね」と伝えることで、周りの家族も意識します。おじいちゃんやおばあちゃんも、孫に指摘されれば、飲み忘れないでしょう。子どもが家族の健康を守るヒーローになるんです。

やくいく手帳
「やくいく手帳」はオーガマンの変身ツール。仮面ライダーベルトよろしく、子どもが欲しがるように、アイテム設定されている

──「やくいく手帳」やシールは、大賀薬局の店頭でのみもらえるものなのですか。

大賀 手帳は、当社のほか、AJD(オールジャパンドラッグ、日本最大級のドラッグストアボランタリーチェーン)を通じて加盟店のうち調剤薬局機能を持つ店舗に200部程度無償で配布しています。九州では、サンキュードラッグさんなどでも導入していただいています。

シール自体は薬局で配るようにして、日数分手渡してもらって。手帳を置くことで、店舗側の集客効果も出ているようで、Twitterでは「東京から福岡にいったら大賀薬局にいこう」というツイートも見られます。いま、薬育手帳マップを作製して、受け取れる場所をわかるように準備をしているところです。

──やくいく手帳は今後どう展開されていくでしょう。

大賀 実はいま、薬剤戦師2号として「オーガマン・ルーキー」を企画していて、こちらを全国版の薬剤戦師として活躍させようと動いています。オーガマンは、あくまでも大賀薬局の専属。ご当地と全国版の2本構えで進めています。

薬育の啓蒙に連動する企画としては、今年の4月12日から九州のご当地ヒーローを集めた特撮番組「ドゲンジャーズ」の放送が決まっています。この作品はSDgSの一環として「やくいく手帳」の全国配布を目的にしたものです。

──福岡発のヒーロー番組!なにより、企画を動かす側の楽しさが伝わってきて、いいですね。

大賀 私自身が、薬育ショーやオリジナルヒーローショー※に出演(オーガマンの声を担当)し、九州のご当地ヒーロー同士の横のつながりができていくなかでスタートした企画です。

番組には、キタキュウマン、ヤマシロン、エルブレイブ、フクオカリバー、オーガマン、オーガマン・ルーキーの6人からなる、アベンジャーズならぬ「ドゲンジャーズ」が出演します。九州朝日放送で日曜日朝10時から。「仮面ライダーゼロワン」「キラメイジャー」の放送後に、ドゲンジャーズ。夢のスーパーヒーロータイムです。

(※薬育ショーは大賀薬局が協賛し、保育園や幼稚園で行うボランティア活動。オリジナルヒーローショーは、遊園地やイオンなど、主催者にゲストとして呼ばれて出演するショー。)

オーガマン・ルーキー(右) 大賀薬局専属のオーガマンに対し、オーガマン・ルーキーは「やくいく手帳」を全国展開していくための薬剤戦師2号

「チャレンジ制度」で社員の提案採用。適材適所でデジタルシフトへ

──メディアでの発信でいうと、御社はテレビ番組のほかにもYouTubeチャンネルをお持ちで、うまく活用していらっしゃる印象があります。

大賀 「大賀よかっちゃんねる」ですね。

オーガマンと同じ発想で、2年ほどやっています。これも「薬剤師のYouTuberはいるのかな?」とおもったところがスタート。動画での啓蒙は影響力が強いですから。ちょうど当社に、歌って踊ってMCができる適役の熱い薬剤師人材がいたので、彼に打診したところすぐに返事が来まして、「薬剤師のインフルエンサーとしてトップを目指したい」と。

彼は、「ワディ・ポップ」という名前で活動しています。店長も兼務していて、月に3日はYouTuber、17日は店舗勤務で働いている感じですね。社内に動画の編集担当もいます。

──アパレルでは、自社の社員を積極的にインフルエンサーとして活用する事例が多く見られますが、DgSではまだほとんど見掛けない。先進オリジナル的な取組みですね。

大賀 これは、大賀薬局で昨年末にスタートした「チャレンジ制度」の一環です。この制度は、新しくやってみたい事業や、既存の事業部に入って自分ができることなどを社員に提案してもらうもの。今回は8つの演題が出て、そのうち4案が採用されました。

ワディ・ポップの彼は、SNSやデジタル戦略について知識があり、よく勉強していました。いまは、YouTuberとして外部へのコミュニケーションを担当するだけでなく、経営戦略室のデジタル推進担当リーダーとしても活躍しています。

──薬局・DgSも、アプリの開発などデジタルシフトしていく流れにあります。

大賀 1回目のチャレンジ制度を経て、「商品開発・サービス開発部」も新設しました。アイデアを出した人間を配属させています。こういうことは、いい出しっぺ、やる気のある人間を入れた方が絶対にいい。

たとえば、薬剤師に相談できたり、管理栄養士のサービスなどいろいろなサブ・スクリプションサービスが出てきていますが、それは商品開発にも絡んでくること。食の部分でのサービスができないか…新しく開発中ですが、いいアイデアが出てきています。

──オーガマンやYouTubeなど、新しい取組みでの成果は出てきていますか。

大賀 オーガマンについては、2019年10月のデビュー後、2時間でYouTubeの再生回数が10万回を超え、いわゆる「バズった」状態になりました。これまで大賀薬局を知らなかった方、いろんな方に知っていただけたとおもいます。広告の投資効果としては40倍くらいと聞きました。

 

まだ、固定客化までの効果は感じておりませんが、点は後から線になります。100打って1当てられるかどうかといわれるキャラクター界で、1打って1当てたのは大きい。オリジナルなのでキャラクターの版権もかかりません。

公式ツイッターのフォロワー数はご当地ヒーローの中では4位で、3万人を超えています。一般の方のみならず、ドクターなど医療業界、県や市、厚労省などからの評判もよかった。ブランディングとしては、大きな効果を得られたとおもっております。オーガマンは、薬が減れば減るほど必要とされなくなるヒーローでもあります。いつか、目的を達成すると役割が終わるときが来る。そこを目指しながら、今後も子どもの心をつかみ、集客につなげられればいいですね。

──それだけの反響があったとなると、採用面でも変化があったのでは。

大賀 そうですね。インターンには前年の倍近く、約180%の応募がありました。オーガマンへの注目とともに、私自身もメディアに取り上げられることも多く、YouTuberの力も結構大きかったとおもっています。

 

–記事の全文は月刊マーチャンダイジング2020年4月号でご覧ください。

・大賀薬局の状況
・デジタル活用の今後
・キャッシュレスの動向…等々

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店舗ピックアップサービスは既存店の売上を底上げする

ポストコロナ社会ではアプリなどのデジタル技術を活用した「店舗ピックアップサービス」が急速に普及します。店舗ピックアップサービスは、オンラインとリアルの買物の融合を進めると同時に、リアル店舗の「在庫の壁」を突破するサービスでもあります。

吉野家のモバイルテークアウト

危機によって大きな変化が起きる

変化とはなだらかなカーブでおきるものではなくて、ある時期に一気に階段を駆け上がるようにおこるものです。そのきっかけのひとつが「歴史的な危機」であることは歴史が証明しています。たとえば「9月新学期」の導入も、「危機的な混乱状況の今だから変えられる」といわれています。つまり、新型コロナのような歴史的な「危機」の到来は、大きく変化するためのチャンスの時期でもあります。

事実、「便利だけど日本では難しいよ」と固定観念に縛られて遅々として進まなかった「リモートワーク」や「リモート授業」が、わずか1か月で一気に普及しました。まさに階段を駆け上がるような変化です。面白いのは、企業や学校の旧来のシステムを利用したのではなくて、個人がZOOMなどのアプリを活用してリモートワークに対応したことです。

かつてDgS(ドラッグストア)が台頭した時期は、平成バブルが崩壊した時期と重なります。現在のようなDgSが、日本人に認知され始めたのは、平成時代の前半から中盤にかけてです。都市型DgS「マツモトキヨシ」の渋谷パルコ店(90坪)が開店したのは、平成7年(1995年)のことです。一方、ツルハ、ウエルシア、コスモス薬品などの「郊外型DgS」も同じ時期に大量出店を開始しています。現在(2020年)は売上高3位の「コスモス薬品」が1号店を開店したのは平成5年(1993年)のことです。

その後、平成8年(1997年)には「山一証券」が経営破綻し、世にいう「バブル崩壊」が始まった時代にDgSの急成長期が始まっています。DgSの業界団体である「日本チェーンドラッグストアストア協会(略称JACDS)」が設立されたのは平成11年(1999年)のバブル崩壊の真っただ中です。

平成バブルが崩壊した平成前期~中期には、第二次世界大戦後の高度経済成長とともに大成長を遂げた「総合スーパー」のダイエーやマイカルがそれぞれ経営破綻した時代でもあります。まさに昭和時代の小売業の王様だった総合スーパーが急速に衰退していった時代が平成前期~中期でした。そして小売業の主役が交代するかのように、DgSの勃興期が始まったのです。DgSは、バブル崩壊によって戦後の好景気の価値観が激変した時代に大成長を遂げています。まさに、大きな危機による大変化は、「ゲームチェンジ」のチャンスでもあります。

店舗ピックアップは既存店の売上を増やす

ポストコロナ社会の小売・サービス業で一気に普及しそうなサービスが、本連載で何度か取り上げた「BOPIS(Buy Online Pickup in Store)」です。BOPISとは、オンラインで商品を注文し、店舗で商品を受け取るサービスのことです。「三密」を避けることが習慣化した消費者は、短時間で買物が完結するBOPISのような店舗ビックアップサービスを好むようになります。これも階段を駆け上がるような変化のひとつです。

店舗ピックアップサービスは、既存店の売上を間違いなく底上げします。オンライン注文→店舗ピックアップによって、牛丼の「吉野家」の3月の既存店売上高は減少していないそうです。吉野家は全店で営業時間を短縮しているので、店舗ピックアップが既存店の売上を底上げしたことがわかります(巻頭写真参照)。

カインズピックアップロッカー

また、大手HC(ホームセンター)のカインズも、デジタル戦略のひとつとして、「カインズピックアップ」を全店に普及させようとしています。カインズの高家正行社長によれば、カインズピックアップのメリットは、リアル店舗の「売場面積」と「取扱品目数」の壁を突破できることだそうです(インタビューの詳細は月刊MD6月号・5月20日発行で掲載しています)。

第1段階の「壁突破」は、小型店では品揃えできないロングテール商品をオンライン注文によって他店や倉庫から取り寄せることができることです。第2段階の「壁突破」は、取扱品目数の限界を超えられることです。卸売業やメーカー在庫の「客注」サービスを仕組み化すれば、小売業では取り扱っていない商品の取り寄せサービスが実現できます。つまり、BOPISによってリアル小売業の「取扱品目数」の壁を突破することができるわけです。

BOPISの導入には、オンラインとリアルの販売データ、在庫データを一元管理することが必要十分条件になります。とくに在庫の一元管理のできていない小売企業では、BOPIS導入は不可能です。しかし、BOPISを導入することができれば、自然とオンラインとリアルが融合でき、お客にとって「ストレスフリー」の買物が実現できます。新型コロナとの戦いによって、BOPISという購買行動は、すでに消費者の日常に定着しています。この大変化をモノにできるかどうかが、ポストコロナ社会で成長できるかどうかを決定するような気がします。

新型コロナ家計への影響「3人に1人が支出増」

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、休校措置や、在宅勤務を積極的に推進する企業、外出禁止要請など、私たちの暮らしはここ1か月の間にすっかり変わってしまいました。今回はソフトブレーンフィールドの登録キャスト会員745名(対象地域:全国、年齢:20代〜60代、平均年齢:49歳)の女性を対象とした「新型コロナウイルス感染拡大による家計の影響」に関するアンケートを調査しました。調査結果には、生活必需品の購買行動の変化や、物資の不足に対する不安だけではなく、勤務時間や勤務日の減少による収入減による家計への不安など、緊急経済対策に対する率直な意見が表れています。(調査実施期間:2020年3月29日~3月31日)

「家庭内の備蓄を増やす」ように購買行動が変化した

最初に、新型コロナウイルスの影響による、食品や日用品など、生活必需品の買い物行動の変化を調査しました。

新型コロナウイルスの影響による、生活必需品の買い物行動の変化を尋ねると、半数以上の50.2%が「買い物行動に変化あり」と回答しています。

直近1か月の買い物行動について、まずは「インスタント・レトルト食品」、「冷凍食品」、「米やパン」、「生鮮食品」、「お菓子」、「牛乳・乳製品」などの食品をセレクトして調査をしました。

「いつもより多めに購入した」食品に注目をしてみると、「インスタント・レトルト食品(33.7%)」が最多となり、3人に1人が回答。それに次ぐ「冷凍食品(24.3%)」を9.4ポイント上回る結果となりました。また、「米やパン(22.8%)」、「お菓子(17.9%)」などが、2割近くの方が多めに購入したと回答しています。

コメントをみると、「学校が休校になったので、昼食やおやつは、普段より食材が多く必要になった(40代女性)」や、「子どもが家にいるので、お菓子やジュースの購入が増えた(40代女性)」など、休校中の子ども用の食材の購入が増えたといった声や、「子どもが好きなコーンフレークの購入制限があった(40代女性)」など、一時的に需要が高まった商品の購入制限が設けられていたといった店頭の変化が表れていました。

また、「常備していなかったレトルト食品などの保存食品を買った(40代女性)」や、「米も1袋は常に在庫として置くようになった(50代女性)」というように、家庭内食の増加でストックをするようになったという、買い物行動の変化が浮き彫りになりました。

買えない日用品は「割高商品購入」や「自作」で対応

次に、未だ品薄状態が続いている「マスク」や「消毒用アルコール」、SNSなどのデマから全国的に品薄になった「トイレットペーパー」などの日用品をセレクトして、直近1か月の買い物行動を調査しました。

「マスク」や「消毒用アルコールなど」は、未だ品薄状態が続いているため、「いつもより多めに購入したいが買えない」と感じている方が多くみられ「マスク(53.0%)」は半数以上、「消毒用アルコール(39.2%)」は4割近く回答がありました。

コメントをみると、「マスク、消毒用アルコールなどは購入したいが買えていない。ウェットティッシュも手に入りにくい(50代女性)」や、「マスクや消毒液はもともと在庫があったものを使用していたが、残り少なく買いたいがお店にない(40代女性)」といった品薄に対する声だけではなく、「マスクは通販、消毒液もサロンから高額商品を買った(60代女性)」や「マスクの市販品は、購入不可能なので、手作りマスクを使用(60代女性)」などといった声もありました。

また、「トイレットペーパー」は、「いつもより多めに購入した(20.9%)」と2割以上が回答し、「いつもより多めに購入したいが買えない(5.9%)」と感じている方は1割にも満たない結果であったため、店頭の在庫はあるようですが、「トイレットペーパーはいつも特売を購入していたがお得なものが手に入らずいつもより割高なものを購入している(40代女性)」や、「トイレットペーパーは、まだストックがあるので特売を待って購入する(40代女性)」といった、特売になるケースが少なくなっていることがコメントからわかりました。

3人に1人が「支出が増えた」と回答

次に、家計全体の影響について調査をしました。

新型コロナウイルスによる家計全体の影響を尋ねると、「全体的に支出が増えた(34.9%)」と3人に1人の方が感じていることがわかりました。

次からは、具体的な支出項目の状況について尋ねました。

新型コロナ感染拡大を防止するために、自宅で過ごすことが増えているため、「水道・光熱費(43.8%)」、「食費(41.7%)」の支出項目は、4割以上の方が「支出が増えた」と感じています。

その一方で、外出を伴う「レジャー・娯楽費(57.0%)」、「外食費(47.8%)」は、「いつもより支出が減った」と回答する方が、「いつもと変わらない(レジャー娯楽費/40.3%、外食費/47.1%)」を上回りました。

コメントをみると、「外食やレジャーが減ったが日用品などの備蓄への出費がかさんでいるから増えていると思う(50代女性)」や「ほとんど家で食べるので食費は増加傾向。トイレットペーパーや除菌シートなど、日用品の購入費が増加(40代女性)」といった食費や日用品などの生活必需品の支出が増えたといった声や、「子ども二人とも新入園でお金がかかる時期に家計に負担がかかっている。旅行もキャンセルした(40代女性)」といった、新生活を始めるための物入りな時期に、新型コロナの影響による生活の変化が家計を圧迫しているといった声もありました。

今回のアンケート結果には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、万が一に備え生活必需品の買いだめなどの購買行動の変化から、自宅で過ごすことが増えたことによる「食費や水道光熱費」など、想定外の支出が家計に影響を及ぼしていることが浮き彫りとなりました。

ポストコロナ社会でお客様は神様ではなくなる!?

思った以上に長期化しそうな新型コロナウイルスとの戦争ですが、コロナ戦争の戦中・戦後の世界はどう変わるのでしょうか? 生活者の「人生観」と「消費感」が劇的に変化していくような気がします。ポストコロナ時代はどんな社会なのでしょうか?

ポストコロナ社会はぜいたく品が売れなくなる

新型コロナウイルスの影響で、生活者の「買い方(購買行動)」は、大きく変化していくと予測できます。変化対応業である小売・流通業は、「買い方」が変われば「売り方」も変えなければなりません。その購買行動の変化を整理したものが冒頭に掲載した図表です。

「お客様は神様」「お客様は常に正しい」「For the Customer」という言葉は、洋の東西を問わず小売業にとっての不変の格言でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で、「お客様は決して神様ではない」という意識が一般的になると思います。

私もドラッグストアのレジで、「なんでマスクがないんだ」と怒鳴り散らす中年男性を目撃しました。そのレジの女性は泣いていました。また、トイレットペーパーが品切れした時期に、高齢者がドラッグストアの開店前に並び、「ここで買ったら、次は〇〇スーパーに買いに行く」と買い占めを話し合う光景を見て、「こんなに人生経験を積み重ねてきたのに、自分さえよければいいのか」とがっかりしました。

緊急事態には人間の本性が出ます。東日本大震災のときにも、高齢者がペットボトルの水を買い占めているのを見て、「ペットボトルの水は未来のある赤ちゃんや若者に回せ、先の短い高齢者は水道水を飲め」と悪態をついたものです。

モンスター・クレイマーに襲われた経験によって、ポストコロナ社会では「お客のいうことを100%聞くことが正義ではない」という価値観が定着していくと思います。過度なストレスに見舞われた現場スタッフを守るためにも、「お客様は神様」という古い価値観を現場に押し付けるのではなくて、具体的なクレーム対応をもう一度明文化することが重要だと思います。

ポストコロナ社会の変化の第2は、「節約志向が高まり、ぜいたく品は売れなくなる」ことです。生活必需品を取り扱うスーパーマーケットやドラッグストアの売上と客数は大きく増えていますが、客単価は下がっています。不要不急の需要ではないぜいたく品の消費が敬遠される傾向は、コロナ後の社会でも定着すると思います。「いつ収入がなくなるかわからない」という恐怖心は、消費者の財布の紐を固く締めます。低価格志向は間違いなく強まります。

買物時間を短縮する店舗ピックアップが増える

MD NEXTでも何度か紹介した「BOPIS(Buy Online Pickup in Store)」がポストコロナ社会では普及すると思います。BOPISとは、ネットで商品を注文し、店舗で商品を受け取るサービスのことです。「三密」を避けることが習慣化した消費者にとって、短時間で買物が完結するBOPISの購買行動を好む傾向は高まることでしょう。

ポストコロナ社会の変化の第4は、「店内作業の省人化が進む」ことです。モンスター・クレーマーに悩まされる小売業の現場勤務を敬遠する人材は増えていき、小売現場の人手不足は深刻になります。新しいテクノロジーを活用した店内作業の省人化・無人化が一気に進むでしょう。ポストコロナ社会では、「無人レジ」が当たり前の社会になるかもしれません。

購買行動の変化の第5は、「接客・商談のリモート化・オートメーション化」が一気に進むことです。先日も、あるドラッグストアの商品部長が、Zoom商談について以下のような感想を述べていました。

(※注:Zoomはアメリカに本社を置くZoom Video Communicationsが提供するオンライン会議サービス。簡単にインストールでき、高画質の会議を開催できることで人気になっている)

「現在は対面商談が禁止なので、Zoomで商談しています。Zoomを使ってわかったことは、対面の商談となんら変わらない内容のある商談ができることです」

ポストコロナ社会は、オンライン商談が一般化していくと思います。月刊MDの編集部も、直近の取材はすべて「オンライン取材」です。MD NEXT編集長の鹿野恵子と、月刊MD編集長の野間口司朗は、すでにプロの「ズーマー」です。

また、タッチアップが基本の「化粧品の接客」についても、タブレットを活用した「リモート接客」のような仕組みが一気に普及するかもしれません。

オンラインセミナー開催のお知らせ

新型コロナウイルスの感染拡大を引き金に、業務量の急激な増加や頻発する品切れ、問い合わせ対応など、大きな変化にさらされる小売業。そこでこの度MD NEXT運営元のニューフォーマット研究所では、緊急オンラインセミナーを開催することになりました。この状況をどう読み解き、乗り越えていくべきか、月刊マーチャンダイジング主幹の日野眞克と店舗のICT研究所代表の郡司昇が提言します。以下の画像からお申込みください。

 

利益の設計図「相乗積」で読み解く小売業の経営方針

与えられた商圏、商品、人材などの店舗資源を最大限活用して予算をクリアしなければならないドラッグストアの店長は、ミニ経営者として数値を理解し、現場を管理する必要がある。今回は「利益の設計図」ともいえる、「相乗積」を解説する。(月刊マーチャンダイジング2020年3月号より抜粋の上転載)

粗利益率×売上構成比で利益全体をコントロール

前項図表2で見たように、儲け方には大きくは3パターンあり、この3つの儲け方を効果的に組み合わせることで店舗、企業全体の収益性を設計することができる。

交差比率を使えば、儲かる商品がわかる

そして、粗利益率の異なる商品グループをどの程度の割合で組み合わせるかで店舗、企業の利益全体をコントロールするのが「相乗積(マージンミックス)」という考え方だ。

相乗積は以下の数式で求められる。全部門の相乗積の合計を100で割ると店全体の粗利益率になる。

冒頭に掲載した図表は粗利益率低下をシミュレーションしたものだ(以下に再掲)。

[図表再掲] 相乗積変化による粗利益率低下のシミュレーション

医薬品の市場は微増、横ばいが続いており、以前のような収益性を望むことは難しくなっている。医薬品の売上構成比が下がり、その分消耗雑貨と食品の構成比が上がるというケースは実際にあり得るだろう。

これをカバーするためには、粗利の高い家庭雑貨や衣料の売上構成比を高める必要がある。

相乗積を発明したマイケル・カレン

相乗積はセルフ販売方式のスーパーマーケット(SM)を発明したアメリカ人マイケル・J・カレン(1884〜1936年)が考え出したといわれる。カレンは「大衆に直結した廉価販売のチェーン方式で、300品目は原価で、200品目は5%を、300品目は15%を、300品目は20%をそれぞれ仕入原価に掛けた価格で販売すれば、世の人たちはわが店の入り口を蹴破って乱入するでしょう」と述べている。まさしく相乗積の考えだ。

このように、粗利益率(正確には値入率)の高い部門・品群・品種・品目の陳列面積を広げたり、売り方を変えることで、店全体や品群・品種などのグループ全体の売上構成を高める方法のことを「粗利ミックス」と呼ぶ。

粗利ミックス

DgSは食品(薄利多売商品)を安く売って集客し、化粧品・医薬品(高利低売商品)で利益を挙げるというビジネスモデルを足掛かりに今日の発展を築いたといってもよい。

基本的には現在もこのモデルは引き継がれているが、小商圏化の下、固定客づくりのために食品の重要性と売上構成比が増した現在では、以前のように食品を赤字覚悟で販売して集客の目玉にするという手法は難しくなっている。

PB開発などで食品でもある程度の利益を残す、中利中売のカテゴリーを拡充させる、メーカーとの協働で利益率の高い化粧品PBを開発して高利を狙うなど、高度な相乗積管理が必要になっている。

粗利ミックスは企業成長のカギ

ディスカウントストアのドン・キホーテは総合スーパー(GMS)のユニーを傘下に収めて食品の売上構成比を高めている。同社の食品の売上構成比は約36%だが粗利益高の構成比では約24%にとどまっている(図表)。

[図表]ドン・キホーテの売上、粗利構成比

食品を安く売ってドンキでしか買えない高粗利のおもしろグッズや化粧品などの非食品で利益を残すという収益性の設計だ。独特の仕入れ、品揃えで非食品の粗利益高が高いので、食品は利益を極限まで圧縮できるというのがドンキの基本粗利ミックスである。

同社の粗利益率は27.9%(2019年6月期)、営業利益率は4.7%(同)、一方でイオンのGMS部門の営業利益率はわずか0.37%(2019年2月期)しかない。

この収益性の差は粗利ミックスの差といってよい。粗利の低い食品の売上構成比が高く、利益をもたらす非食品が育っていないというのはGMSに共通する構造的な問題である。イオンは金融部門(2019年2月期、営業利益率16.2%)や不動産部門(同15.4%)で企業全体のマージンミックスを図っている。

企業の経営方針を知るのに、相乗積の分析はうってつけの数値であることが、このことからもよくわかるだろう。

絶体絶命の時にこそ「商人道」の原点にもどろう

第3次世界大戦は、国と国との戦いではなくて、ウイルスとの戦争だったと歴史に記録されるでしょう。こういう絶体絶命の大混乱期にこそ、「商人道」の原点にもどることが大切だと思います。

地域のインフラを支える 小売業の現場にエール

新型コロナウイルスなどの大災害が発生すると、地域に密着した小商圏型の小売業は、地域の消費者にとって、非常に重要な「ライフライン」であることが改めて実感できます。小売業の店頭で働く人達には、今は大変なときかもしれませんが、今回の不幸な出来事をキッカケに、「なくてはならない存在」で働く者としての誇りをもっともっと強く感じて欲しいと願います。

2011年の東日本大震災のとき、被災地で自分の家族と連絡が取れない中で、懸命に店舗を開店し、水や紙おむつを配るドラッグストアの店長、ガソリン不足の中で店舗に寝泊りし、商品確保に奔走するスーパーバイザー、停電で真っ暗の中、駐車場で焚き火をしながら、一晩徹夜し、店を守った現場社員…彼・彼女たちの震災直後の自主的な行動を見聞きすると、現場スタッフの商人としての「誇り」と「責任感」の強さに感激したことを記憶しています。彼ら現場社員の「モラル」と「現場力」の高さは、日本人の誇りです。

しかし、大震災や新型コロナウイルスのような大災害が発生すると、混乱に乗じて「自分たちだけが儲かればいい」という悪徳商人も跋扈します。混乱期こそ商人道の原点に立ちかえり、どんなに大変でも商売の「王道」を歩む覚悟を強くしたいものです。

「覇道」の暗黒面に堕ちないことを戒める「商売十訓」

私が月刊マーチャンダイジングを創刊する前に働いていた「株式会社商業界」が2020年4月2日に経営破綻しました。残念です。商業界は創業70年の老舗出版社であり、商業の歴史そのものでした。本記事の冒頭に掲載した「商売十訓」も、商業界が後世に語り継いできたものでした。

商売には、「王道」と「覇道」があります。「自分たちだけがよければいい」という商売の「覇道」の暗黒面に堕ちるのではなくて、商人としての「王道」を進むべきという戒めを言葉にしたものが商売十訓でした。商業界という会社はなくなったけど、商業界精神は語り継いでいきたいものです。

『商いの原点』(童門冬二著)という江戸期の商人のことを書いた本を読むと、現代にも通じる話がたくさん書かれています。同書によれば、徳川八代将軍(徳川吉宗)が「享保の改革」を行った時期に、「商人道」を確立しようという動きが、日本全国で起こったのだそうです。

享保の改革以前は、「元禄バブル」が崩壊し、幕府や藩の財政は悪化し、人心はすさみ、金儲けのために客を騙して富を得る「悪徳商人」が、跳梁跋扈した時代でもありました(事故米の食品転用。産地偽装。賞味期限改ざん…etc. なんだか現代にも通じますね)。

しかし、享保年間に至って、吉宗の政策は商工業者に反省をもたらしました。三井家の三代目・三井高房は、その著書の中で、『政治には「王道」と「覇道」がある。王道とは、仁や徳によって行う政治であり、覇道というのは自分の欲望を満たすために、権謀や術策をめぐらすやり方である。商売にも王道と覇道がある。われわれは王道を目指すべきだ。王道を目指す商業というのは、商人道を確立することである』と述べています。

三井高房が、誇り高き商人道を確立するために、まず行った決断は、武士への金融(貸付)を中止することでした。既に貸した金はすべて損金として落としました。

つまり、権力者である武士に何も考えないで追随し、「いつかは返してもらえるだろう」「権力者とくっついていれば、きっといいことがあるはずだ」という甘い期待を持つのではなくて、商人として自立する道を選んだのです。

江戸期の商人は『家訓』を大切にした

同書によれば、江戸時代に豪商といわれた商人たちが、一斉に、『家訓』をつくりはじめたのは、吉宗の改革があった享保年間が多かったそうです。「目安箱」の開設などの政策によって、市民の声を聞き、江戸期の将軍として初めて「市民の存在」に注目したのが徳川吉宗でした。吉宗によって存在を認知された市民である商工業者たちは大いに喜びました。

しかし同時に、「こういう立場に立つわれわれも、自らを戒めなければならない」と考えて、心ある豪商たちが先を争って「家訓」をつくりはじめたのです。家訓とは、今の言葉でいえば、「社訓」であり、企業のミッション(使命)、フィロソフィー(哲学)、ルール(企業文化)を明文化したものです。

つまり、商人道を確立するためには、商人としての王道とは何か?というルールを文章で残し、繰り返しいい続けることで、強固な企業文化を醸成し、つまり、商人道を確立しようとしたのです。

誇りと道徳のない、儲かればいいという「覇道」経営では、最終的な成功はつかめないという「商人道」の本質を、江戸期の商人は熟知していたのです。「損得より先に善悪を考えよう」という言葉は、『商業界』の商売十訓の最初に来る言葉です。

また、江戸中期に活躍した「近江商人」は、京都や大阪には存在しない北陸や東北の名産品を発掘し、「北前船」を活用して商品を京都や大阪に届ける商いを行いました。近江商人は、都の消費者からは、見たこともない名産品を入手できることで感謝されました。北陸・東北の生産者からは、自分たちがつくった商品を、大きな市場である都で販売してくれることで感謝され、また、モノや情報の交流が活発化することで、世間からも感謝されました。

「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」という近江商人の心得は、現代に至るまで語り継がれています。現代は、戦乱が終わり、徳川幕府が安定し、元禄バブルが弾けて、商道徳が地に落ちた「江戸中期」にとてもよく似ています。近江商人のように、「三方よし」の精神を取りもどし、「信頼」に基づいた長期的な商売を目指すべきです。大変な時期こそ、商人道の原点回帰がとても大切だと思います。

交差比率を使えば、儲かる商品がわかる

いくら店舗数が増えても、小売業の勝負は1店舗ごとの強さで決まる。ドラッグストアの店長は、与えられた商圏、商品、人材などの店舗資源を最大限活用して予算をクリアしなければならない。そのためにはミニ経営者として数値を理解し、現場を管理する必要がある。今回は「儲かる商品」判別の指標となる数値「交差比率」を解説する。(月刊マーチャンダイジング2020年3月号より抜粋の上転載)

粗利益率がどれほど高くても回転率が悪ければ儲からない

粗利益率50%、平均の倍近くの「超儲かる」商品があったとしよう。しかし、それが年間2個しか売れなければ儲かる商品といえるのだろうか。逆に粗利益率が10%しかないが、年間100個売れればどうだろう。

このように「儲け」の基準を粗利益率とその商品が年間何個売れるか(何回転するか)で測った指標が「交差比率」である。GMROI(グロス・マージン・リターン・オン・インベントリー)ともいう。交差比率は図表1の数式で求められる。

[図表1] 交差比率の計算式

数式に出てくる商品回転率とは、商品を店に在庫してから売れるまでを1回転とし、その商品が年に何回店を回っていったか、回転数によって表したものだ。商品回転となっているが実際の単位は何回のとなる。交差比率の合格点は200%とされており、これが商品の儲かり具合=収益性を示すひとつの指標となる。

粗利益率が25%の商品なら200÷25=8、年8回転しなければ収益性では合格点とはいえない。年8回転ということは365日÷8=45.625、約46日で売り切らなければ不良在庫になってしまう。このように、交差比率200%を基準にして、粗利益率でこれを割ることで商品やカテゴリーの基準在庫日数を割り出すことができる。

儲け方の3パターン、それぞれの特徴

儲け方には3パターンがある(図表2)。

薄利多売はディスカウンター(安売業態)の儲け方。粗利益率を引き下げても大量に販売できれば交差比率200%超えが達成できる。薄利多売を軸にこのあと説明するマージンミックスをどのように組み立てるかは小売業の原点だ。ただし、大量に売れることが前提なので、粗利を下げても回転が上がらなければ(売れなければ)ムダな値下げとなる。また、薄利多売商品は物流コスト、補充作業コストなどが増加する。

[図表2] 儲け方の3パターン

中利中売商品は地味であまり目立たないが、作業コストもそれほどかからず、そこそこ売れて着実な粗利益を残す。キッチンコンロの油よけパネルや浴槽用ブラシなど、日用雑貨の非消耗品(用品)に中利中売商品は多い。目立って売れないから儲からない商品という印象があるが、コストがかからず営業利益を残す中利中売商品は計画的に育成し売場を確保することが大切である。

高利低売商品の代表格は高価格帯の化粧品やヘルスケア商品なので、陳列するだけでは売れない。十分な商品知識を持ち、的確な接客・コミュニケーションをしてはじめて動く商品だと認識しよう。

[図表3] 粗利益率と商品回転率(交差比率)の違いによる戦略