首都圏のSM事業を統合・再編
5月13日には、千葉県市原市に新たなフォーマットの1号店としてヨークフーズちはら台店をオープン。そして6月17日にはイトーヨーカ堂の食品館新宿富久店(東京・新宿)をフラッグシップ(旗艦)店として改装する。ヨークマートの既存店についても順次活性化をしながら、屋号をヨークフーズに切り替えていく他、食品館とザ・プライスについては6月5日に全店、すでに屋号をヨークフーズに切り替えた。
ヨークの大竹正人社長によると、「ヨークはグループの首都圏食品成長戦略の中心的な会社、今後首都圏のSM事業を統合・再編する会社」だという。統合によって資本金はヨークマート時代の10億円から20億円増資し、30億円とした。店舗数も100店舗規模に達し、「自前のインフラを整備する規模になったと思っている」(大竹社長)。
さらに本社を現在のセブン&アイ・ホールディングスがある千代田区2番丁から江東区のテレコムセンターへと移転。統合によって手狭になるという面積の問題の他、商品開発に欠かせないテストキッチンを併設できることが大きな理由となった。
ヨークマートの実験でMDに手応え
大竹社長は、ヨークが目指す姿について、「暮らし提案型の食品SMの実現」と表現する。品揃え基準は「上質」「即食・簡便」「洋風」「健康」、それにプラスして「地域性」。その上で、強化すべきものとして、「生活変化に対応した提案型クロスマーチャンダイジング(MD)」「部門毎のコア商品コアカテゴリーの強化」「付加価値のある新規MD」を挙げる。
特に最後の付加価値のある新規MDは、時間をかけて磨きをかけてきた戦略的商品群となっている。例えば、青果売場に作業場併設の形で販売する「ハンドメイドサラダ」や「フルーツデザート」。サラダは青果で販売しているトマトやキャベツを店内で加工し、出来たてを訴求している。フルーツデザートも同様に青果で販売している果物を使った店内加工のスイーツだ。
また、惣菜売場ではなく鮮魚売場で販売する「お魚屋さんのお惣菜」も、鮮魚で販売している素材を使った店内加工の惣菜として差別化。アジフライは朝、入荷したアジを開いて、その場で揚げて提供することで付加価値をアピールする。インストアベーカリーで販売するナポリピザは、500℃の窯を導入しながらレストランの味に近づけることを目指して開発するなど、こだわっている。
さらに、これらの商品については、あえて値入れをそれほど入れず、値頃で販売することで「来店動機」の創出につなげようとしている点が、大きな特徴だ。既存店での実験でも着実に成果が出ている。
例えば2018年3月にイトーヨーカ堂の食品館を引き継いでヨークマートとしてオープンした小豆沢店(東京・板橋)。改装後の18年4月~12月期の売上げは、イトーヨーカ堂時代に比べ141%を達成、直近の20年3月期でも前期比118%、続く4月は新型コロナの影響もあるが、140%と全社を大きく上回るなど、継続的な伸びを示している。さらにその後も新店、改装店では同様のMDを展開し、確実に手応えを得るに至っている。
ニューオペレーション&グループインフラで生産性向上
一方で、付加価値のある商品を値頃で販売するためには、その分、ローコストの取り組みなど生産性向上が求められることになる。その点については、「今後プロセスセンターやセントラルキッチンを自社で内製化することで、さらなる調理の効率化や生産性の向上に取り組んでいきたい」(大竹社長)とする。
もちろん、これまでも、「ニューオペレーション」と名付けたさまざまな省人化への取り組みを導入してきている。検品や私物点検の作業の省人化、あるいは売価変更の作業が省略できるデジタルプライスカードなどによって生産性の改善を試みている。7月には加工食品の棚に、フェイスアップをワンタッチで完了できる什器を導入する予定もある。
それでも、利益率にはまだまだ課題がありそうだ。ヨークマートの19年度の営業収益は1429億円。対する営業利益は7億円で、営業利益率は0.4%にとどまる。出店する地域が異なるとはいえ、惣菜子会社のライフフーズを加えた同年度のヨークベニマルの3.8%と大きな開きがある。
セブン&アイグループとしてはこの違いに注目し、そのポイントを「製販一体のMD・デリカ製造のインフラ」としている。ライフフーズは工場を持つ製造小売業として、製造段階では、原材料を含めた品質、コストの管理を徹底し、一方で店舗での販売においては確実に売り切るということが根付いている。これを首都圏の戦略の中でもグループとして内製化していくことを目指すとしている。
「今までテストをして、成功してきたインストア(製造)のモデルと外部での集中生産の2つを実現する必要がある」(石橋誠一郎・セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員グループ商品戦略本部長首都圏SM戦略準備室)。実際、グループ内にはさまざまなインフラがある。セブン‐イレブン・ジャパンには、専用工場で専用の設備、専用のレシピ、専用の原材料を駆使して、他ではまねできない商品開発をしてきたノウハウがある。また、一次加工拠点としてはイトーヨーカ堂100%子会社のIYフーズ、セントラルキッチンとしはライフフーズの工場、さらに精肉のプロセスセンターとしてはIY杉戸センターといったように、統合を経て、さまざまなインフラをヨークのサプライチェーンに組み込みながら強化していく意向だ。
フォーマットの実現と併せ、ニューオペレーションの定着を図りつつ、こうしたグループインフラを生かしながら24年度段階の営業利益率3%を目指す。
4つのフォーマットを立地に合わせて出店
今回の統合の特徴の1つに、マルチフォーマット戦略を採っていることがある。ヨークでは、ヨークマートに食品館、ザ・プライス、コンフォートマーケットが加わる中で、フォーマットを4つに整理する。
新規MDを入れた500~600坪の郊外型店を「標準」の基本フォーマットとしつつ、ヨークマートや食品館の小型店の150~300坪の都市型店を「小型」、価格強化型のディスカウントフォーマットの「ヨークプライス」、さらにヨークマートの標準店とザ・プライスの集荷力と演出力を生かした「DS対抗型」が加わる形となる。
小型は250坪型の中町店(東京・世田谷)、DS対抗型は、食品館梅島店(東京・足立)、ヨークマート川崎野川店(川崎市宮前区)で実験をし、それぞれ成果を出している。例えば川崎野川店は非常に19年6月にオープンしたが、競合状況が厳しく、苦戦していたがザ・プライスのMDを入れながら、従来の品揃えと融合することで数字を回復させた。
19年8月は7月比で98%だったが、10月は105%、20年2月は131%と伸ばすことに成功した。大竹社長は、「プライスと標準店舗の融合、シナジー効果で結果が出せた意味では今後、非常に期待ができるフォーマットになっていくのではと考えている。今後主力フォーマットになる可能性もある」と期待を込める。
石橋氏は「さまざまなフォーマットを持つSMの統合会社は首都圏を見ても類を見ない。グループのシナジーを生かして、成長への舵取りができると考えた」と言う。背景には、セブン&アイグループとして首都圏でSMの店数を増やしきれていないという認識がある。
今回、マルチフォーマット戦略を採用したのは、特に首都圏は商圏が多様であると考えており、出店を加速するためにも、立地によってフォーマットを使い分ける必要があると判断しているためだ。
特に小型店においては、セントラルキッチン、プロセスセンターを活用することで店内の作業を軽減するとともにバックルームを狭くすることができるため、より狭い物件への出店が可能となる。現時点では年間の新規出店は3店程度を計画しているが、物件などの状況によっては加速させていく。
「われわれが近い将来、目指す姿は、それぞれの店はそれぞれの地域に合わせた店舗フォーマット、看板での出店でお客さまの満足に応えていく。店の裏側のセンターやセントラルキッチン、プロセスセンター、一次加工拠点などはグループで垣根を越えてそれぞれの持つインフラを最大限活用する。これをグループの長期的な戦略として示した。グループのインフラ整備は3年以内に実現させたい」(石橋氏)。新型コロナの影響下にオープンした1号店のちはら台店、そして6月に改装オープンした新宿富久店がまずは試金石となる。
リテールガイド より転載記事