関東に本格進出する「不況の申し子」コスモス薬品

新型コロナウイルスの影響で、小売業にも大きな変化が訪れている。一方でドラッグストア(DgS)はインバウンドの構成比が大きかった企業を除き、おおむね好調だ。くしくも、こうした時代の変わり目と同時期にコスモス薬品が関東への本格出店を開始。変わる時代、コスモス薬品の戦力分析を軸にDgSの戦い方を考える。(本誌編集長 野間口司郎/月刊マーチャンダイジング2020年7月号より編集の上転載)

宮崎で生まれ、商勢圏を拡大 600坪が標準フォーマット

福岡市に本社を置くコスモス薬品は、1973年宮崎県延岡市で創業、1983年同市にコスモス薬品岡富店を開店、1993年には宮崎市に本格的なDgSをオープンし多店舗展開していく。1999年には初の300坪型のDgSを日向市に出店。食品が充実しEDLP(毎日低価格)で販売する営業スタイルは近隣の支持を集め繁盛する。

このころから、繁盛店の近隣に新店をオープンさせ、1店舗当りの商品回転率や販管費を標準化するというチェーンオペレーションを徹底し、密度の高いドミナント出店を今日まで継続している。

宮崎県から九州全域をドミナント化すべく出店を重ね、2003年には初の600坪タイプの店舗を熊本県人吉市に出店。現在の主力フォーマットの原型である。

関西までの出店傾向を見ると、開発のしやすさや将来性などを見て効率のよくない地域は深追いせず、他県や他商勢圏への出店を優先させているように見える。

一方注目は出店強化を宣言している関東だ。人口を見ても関東が魅力ある土地であることは歴然としている。あくまで計算上だが福岡県のドミナント率で出店すれば東京都だけで400店以上の出店余地があり、これに埼玉県、神奈川県、千葉県が加われば関東はまさしく「肥沃な大地」である。2021年5月期以降20〜30店舗を関東へ出店するとのことだ。

出店に関して、同社の横山英昭社長は2020年5月期第二四半期の決算説明会で次のように語っている。

われわれは店舗年齢を若く保つことが競争力だとおもっている。コスモス薬品は地名度のないところに多額の投資をして新店を出している。3年間は赤字だがそれを過ぎると利益を生む店になる。車でたとえれば出店後3年間はローギア走行、それ以降はトップギアに入り飛躍的な貢献をする店舗になる。成長には出店が必要だとおもうので、今後も年間100店程度の出店を続ける。来期以降関東に20〜30店を出店したい。われわれは『コスモス薬品』というひとつの業態をつくったとおもっているので他社がいる場所でも出店し独自の業態で根付いていきたい。出店余地はまだあるし限界値があるともおもっていない

11年平均で12.4%ずつ店数を増やし決算資料によると2020年2月末時点の店舗数は1,041店、DgSでM&Aなしで「4桁出店」を果たしたのは同社のみだ。計画的な自力出店がゆえに退店数も少ない。改装も積極的に行っており横山社長の発言のように店舗年齢を常に若く維持している。

10年間でM&Aなしで売上高3.4倍に拡大

コスモス薬品の過去11年の決算数値を見てみると、売上高は2009年と2019年比で343.8%と11年で約3.4倍に拡大。既述のようにM&Aなしの自力成長である。

2020年5月期は原稿執筆時点(5月中旬)では未決だが通期予想では6,585億円とされている(前期比7.7%)。(7月の決算発表によると、売上高は6844億円で着地、前期比12.0%増であった)

2025年には売上高1兆円を目指す。2020年5月期予想の6,585億円を起点に直近の成長率7.7%で計算すると2025年には9,542億円になり、2025年自力1兆円は現実的である。

これまでの成長を振り返ると、2006年の1,000億円突破まで、本格的なDgSを開店した1993年から数えると13年を要している。4年後の2010年には2,000億円を、その3年後の2013年に3,000億円を、その後2年刻みで4,000億円、5,000億円、6,000億円を突破。10年余りをかけコスモス薬品の基本モデルを完成させ、その後は出店を継続することで築いた土台の上に実績も積み重ねている。

粗利益率を見ると、この11年おおよそ19〜20%台の幅に収まっている。20%を超えたのは2009年の1度だけ。販管費率は2009年の17.2%を除けば14〜15%台を維持。販管費の増加率を見ると人手不足で人件費が高騰傾向にあった2019年5月期でも10.8%に抑え、過去の増加率を下回っている。

こうした緻密に計算された粗利、販管費により営業利益率は11年平均で4.2%。

食品の構成比が5割を超え業界屈指の低価格販売を行っていることを考えれば、販管費のコントロールは当然だが、利幅の大きなHBC(ヘルスアンドビューティケア)で利益を挙げ巧みにマージンミックスしているとおもわれる。化粧品やヘルスケア商品で同社の推奨力、接客力は高く、取組み商品で利益を挙げる技術を持っている。

期末現金及び現金同等物残高は直近で190億2,200万円、直近の同じ名目でウエルシアHD375億9,900万円、ツルハHD437億円、スギHD563億4,700万円。順調にキャッシュを残しているが、大手他社と比較して出店への投資が大きい分、売上高との比率では低くなっている。自己資本比率も経年で高めており、安定性を増している。

「コロナ不況」はコスモス薬品飛躍のステップボードになるか

売上高伸長率は11年平均で13.8%と高度成長を見せている。特に2009年5月期は約20%、続く2010年、2011年も15.5%と大きく伸びている。2008年はリーマンショックが起こった年であり、日本の実質GDPはマイナス3.7%と大きく落ち込んだ。翌2009年もマイナス2.0%で当時、戦後最悪ともいわれた不況下に同社は大きな成長を遂げている。

生活必需品を中心に品揃えをしているDgSは比較的景気に左右されにくいが2009年他社の売上高伸長率を見ると、当時売上1位だったマツモトキヨシHDが0.3%、同2位のスギHD9.7%、3位ツルハHD10.6%(2009年ウェルネス湖北子会社化)、4位カワチ薬品4.1%とコスモス薬品の強さがわかる。東日本大震災があり景気後退した時期を含む2012年5月期も17.6%と大きく飛躍している。社長自らが自社を「デフレ不況の申し子」と呼ぶゆえんである。

–続きは月刊マーチャンダイジング2020年7月号でご覧ください

・11年間の経営数値推移
・他社の出店状況との比較
・他社の経営数値との比較

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整理整頓のような「平凡」なことを徹底できることは「非凡」である

ポストコロナ社会の小売業にとって最も重要な経営課題のひとつが「クリンリネス」です。不潔な店は「感染リスク」が高いと感じる消費者がコロナ前よりも間違いなく増えます。クリンリネスは、当たり前のことが当たり前にできることが重要です。小売業の現場作業の格言である「凡事徹底」がますます重要になります。

ポストコロナ社会では汚い売場からは女性が逃げる

毎年実施しているドラッグストアの顧客満足度調査で、ミステリーショッパー(覆面調査員)の女性が、「汚い売場は女性が逃げる」というコメントを残したことがあります。その店で商品を「買わなかった理由」の第1位が、「売場が汚い、テスターが汚れていた」というクリンリネスに関する項目だったからです。

小売業というのは、「基本の徹底がなによりも重要」ということを再認識したと同時に、売場や商品が汚れていても、平気で放置している店舗が予想以上に多いことに驚いたものです。しかし、ポストコロナ社会では、「汚い店」は間違いなく選ばれなくなる店になります。

冒頭の図表は、店頭の現場力を高める5ヵ条を整理したものです。その中の2項目が「整理整頓」「クリンリネス」と売場を清潔に保つ項目です。すべての項目は、だれにでも理解でき、だれにでも実行できる「当り前のこと」です。しかし、当り前のことを全員で、全店で、100%実行することは、とても困難なことであります。

「小売業とは、だれにでもできることを、だれにもできないくらい徹底する」ことが、最大の差別化戦略です。ダメな組織ほど、本部から、店頭や店長に対して、商品部、店舗運営部、社長、副社長、専務—etc.と、ありとあらゆる方向から、ありとあらゆる異なった指示が嵐のように降り注いでいます。

大体、指示を出す側は、指示を出すことで安心してしまうので、指示が実行されたかどうかは確認しないまま放置されます。店頭現場では、指示を実行しなくても叱られないということが分かると、必ず、指示を左から右に受け流すようになります。

そして、本部からの指示・命令は、現場では実行されず、「指示の屍」が累々と積み上げられていく。実は、こういう組織ってほんとに多いんですよね。したがって、小売業の店頭実現力を高めるためには、「100の指示より1の徹底」という意識をなによりも優先することが大切です。

100の指示より1の徹底を重視せよ

江戸時代の商家である三井家で、享保年間の初期に、組織のタガが緩んで業績が悪化した時期があったそうです。創業家(オーナー経営者)が業績回復のために、ありとあらゆる指示を出しましたが、一向に現場では実行されませんでした。しかし、ある番頭さん(サラリーマン経営者)が、ただひとつの指示だけを徹底するという組織改革を断行しました。

その「ただひとつの指示」というのは、当時の商家は、住み込みの丁稚奉公でしたから、全員が「門限を守る」というひとつのルールを徹底することだけでした。だれにでもできる簡単な決まりを、たったひとつだけ守ることを、番頭さんは従業員と約束した代わりに、その決まりに関しては100%妥協しないことを徹底しました。

妥協しないとは、1分でも遅れたら、門を閉めて締め出すルールを厳守したことです。寒い夜に外に締め出すのは可愛そうだからと、同情して門を開けることは絶対にしないことを徹底したのです。結果として、たったひとつの決まりを、全員が守るようになることで、組織は活性化し、企業文化は変わり、業績も回復したそうです。現代にも通用する「組織改革のセオリー」が、その逸話の中にあると思います。

また、以前ある経営者が、新社長に就任した際に、「仕事が終わって帰社する時に、机の上のもの(書類や本、事務用品など)をすべて引き出しにしまって、机の上に何も置かないで帰る」という決まりだけを徹底したそうです。

その経営者は、あれこれやりたいのを我慢して、図表の「整理・整頓」の1点を全員で守り、徹底することだけに、こだわったそうです。「机の上に何も置かないで帰る」という、だれにでもできそうな決まりも、実は全員で徹底するのは簡単なことではなくて、繰り返しいい続けて、何ヵ月もかかって、やっと徹底することができたそうです。

ところが、不思議なことにひとつのことが徹底できると、2番目、3番目の「決まり」を徹底する速度は、確実に速くなるそうです。つまり、ひとつのことを徹底することが、組織を活性化する近道だということが分かります。そういう意味で、図表の「整理・整頓」と「クリンリネス」の徹底は、小売業がまず実行すべき基本中の基本です。

とくにドラッグストアの場合、化粧品売場のクリンリネス、整理整頓の徹底は喫緊の経営課題です。使い捨ての小さなスポンジの設置と維持、消毒液の徹底が、選ばれる店になるためには不可欠です。化粧品売場では、定期的に「消毒タイム」を設けて、「これから売場を消毒しまーす」と声を出して、来店客にクリンリネスに配慮していることをアピールすることもとても重要だと思います。

コロナに関連して働けなくなった従業員への休業補償は?

今春は、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大防止のために、休業や時短営業をする小売店も多く、そのなかで企業や従業員への休業補償についても連日、ニュースで報じられてきました。今回は平時でも存在する従業員に対する休業補償制度を中心に、従業員自身がコロナに感染してしまった場合も含めて、どのような休業補償があるのかを解説します。

感染が労災認定されると受けられる保険給付

まず、従業員がコロナにかかったことが労災(業務災害、通勤災害)と認定された場合は労災保険(労働者災害補償保険)による休業補償が考えられます。

具体的には、休業してから4日後から、(働けない間は)業に関する給付が受けられます。金額は、平均賃金の8割に相当する額です(※1)。

ただし、労災認定については、「第1回 明日は大雪 !? 出社するべき、させるべき?」の記事でも解説したように、通勤や業務が原因であることが必要となります。

明日は大雪 !? 出社するべき、させるべき?

 

この点、一般的には(因果関係が証明しづらい)病気の労災認定は事故よりは難しいとされますので、コロナに関しても、同様のことは言えるでしょう。

なお、コロナの労災認定の判断基準としては、「感染経路が特定されたこと」などが、厚生労働省から示されています(※2)。

※1:休業給付基礎日額×60%の休業(補償)給付と、同×20%の休業特別支給金

※2:「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて(4月28日)
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000635285.pdf
医療従事者以外は「感染経路が特定されたもの」や「感染リスクが相対的に高いと考えられる、複数の感染者が確認されたり、労働環境下での業務、顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること」とあります。

療養で休む場合に支給される「傷病手当金」

健康保険に加入している従業員は、コロナを含む病気や事故が労災認定されない場合も、休業中に請けられる補償があります。それが、「療養で休むために働けない場合」に加入している健康保険組合などから支給される「傷病手当金」です。

傷病手当金は、療養のために労働ができなくなった日より3日を経過した日から、(働けない間は最長1年6か月)みなし平均給与額(※3)の3分の2が支給されます。

療養は、必ずしも通院や入院が必須ではなく、病後の自宅療養を含みます(ただし、療養のため働けないことの証明は必要です)。また、コロナの場合について、厚生労働省によると(※4)自覚症状があり自宅療養をするケースも傷病手当金の支給対象になり得るとされています。

なお、傷病手当金は「業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること」が前提ですから、労災の保険給付と重複受給とはなりません。

※3:直近12カ月の平均の標準報酬日額の30分の1に相当する額
※4:「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給について」(3月6日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000604969.pdf

会社都合の場合に会社が払う「休業手当」

上記2つの支給状況にあてはまらない(従業員自身がコロナを含む病気になっていない)場合でも、会社都合で従業員を休ませる場合は、会社が従業員に「休業手当」を支給することが、労働基準法で定められています。

金額は、平均賃金の3分の2以上です。ここでいう「会社都合」とは、「使用者の責に帰すべき事由」があることです。たとえば、「不可抗力」の場合は、会社都合とはみなされません。

「不可抗力」の具体的な要件としては「①その原因が事業の外部より発生した事故であること」、「②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること」が必要とされており、地震などの天災が典型例と言えます。

今回のコロナ対応に関する休業が「不可抗力」かどうかについての判断も、上記2つの基準をもとに個別に判断することになります。
たとえば。厚生労働省によると、(感染防止や疑いなどによって)経営者の自主的な判断で従業員を休ませる場合は、「使用者の責に帰すべき事由」となる(休業手当の支払い義務がある)とされています※5。

※5:「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(随時更新)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

「雇用調整助成金」や「感染症対応休業支援金」とは?

以上まとめると、業務・通勤に起因したコロナ感染で働けなくなったら「労災保険からの保険給付」、コロナ感染が業務・通勤に起因していない場合は「健康保険からの傷病手当金」、自身がコロナに感染していないのに働けない場合は、「会社からの休業手当」が従業員の休業補償として考えられるということになります(図)。

なお、休業補償に関して「雇用調整助成金」の活用ということをニュース等で聞いたことがある方も多いと思います。雇用調整助成金は、「企業が休業手当を支払った場合」に、その休業手当の一部(平時は、中小企業には休業手当の3分の2など)を「企業」に対して給付するものです。

雇用保険の雇用安定事業として、以前から存在した「雇用調整助成金」ですが、コロナ対応に際し、支給条件緩和や給付額の増額(一定の要件を満たした場合、休業手当の100%を支給など)が行われています。

問題は、休業手当をそもそも支払っていない企業は給付対象にならないことや、(企業経由のため)従業員が補償を受けられないケースが出てしまうことです。
そのため、6月12日に成立した二次補正予算において、従業員に休業に対する給付を直接行う「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金(仮称)」が導入されることになりました。

これは、会社都合での休業することになったけども、休業手当をもらっていない従業員本人が申請して給付を受ける、という制度です。

こうしたコロナ対応に関連する休業補償は、数々の特例措置が講じられています。休業補償に関する平時の原則を踏まえたうえで、特例措置についても随時、最新の情報をチェックすることが必要です。

経営者が進んでテレワークしなければ、従業員には浸透しない

新型コロナウイルスが感染拡大するなか、世の中が急速にデジタルに移行。動きが鈍かった小売業も、オンライン商談が始まるなど業務のオンライン化が加速しそうな気配だ。九州を中心に65店舗(2020年6月現在)のホームセンター(HC)を運営する株式会社グッデイはいち早く本部機能のテレワーク化を成功させた。同社がどのようにオンライン化を進めたか。代表取締役社長の柳瀬隆志氏に聞く。(取材:MD NEXT編集長 鹿野 恵子/まとめ:ライター 宮原 智子)(取材は2020年5月に実施/月刊マーチャンダイジング2020年7月号より転載)

テレワーク化を迅速に決断。まず店長会議をオンライン化

グッデイが毎月開催する100人規模の店長会議をオンラインに切り替えたのは2020年2月26日のこと。このとき福岡県の新型コロナウイルス陽性患者が2人であったことを考えると、同社がいかに早い段階から危機意識を持っていたかがわかる。翌月、3月27日には福岡県内を含むすべての取引先との商談を電話かオンラインで行うよう通達、3月31日には本部従業員全員が在宅勤務に移行した。

本部機能のテレワーク化にあたっては、在宅勤務を決断する1ヵ月前から、経理や財務の限られたパソコンからしかアクセスできないアプリケーションをどうやって運用するかが検討されていたが、Google Chromeのリモートデスクトップ機能を使うことで、本部でパソコンを立ち上げておけば社外からもアクセスできることが検証されたため、業務をストップすることなくスムーズにオンライン化に移行できたという。

「3月30日にテレワーク化の意思決定をして翌日に開始できたのは、弊社がここ4、5年のあいだに蓄積してきたノウハウがあったためです。本部業務がすべてオンラインで完結するよう、オンライン会議はGoogleMeetで、ほかにチャット、カレンダー、Google Driveなど、Googleのプラットフォームで統一できていたことが大きいですね」

テレワーク化に移行後は本部に3、4人、必要最低限の従業員が出勤しているが、代表である柳瀬氏が出社したのは1ヵ月に3度ほどだ。「経営者が進んでテレワークをしなければ、従業員に浸透しません」(柳瀬氏)

グッデイの柳瀬隆志社長。今回は自宅から取材に応じていただいたが、自宅感を消すためにバーチャ
ル背景を用意してくれた。キャラクターの「良日出来太(よいひできた)」くんが印象的

勤怠管理はチャットで実施 回線問題はルーター貸し出しで回避

グッデイではテレワーク化にあたって、勤怠管理をチャット上で行うようにした。タイムカードの代わりに出勤・退勤をチャットで報告するだけだ。出勤したら一日の業務予定を報告し、退勤時には実際に取り組んだ業務を箇条書きにする。これは、グッデイのグループ会社であるカホエンタープライズが先行して取り組んでいたテレワークの方法だ。

「従業員は日ごろからチャットを活用していたので、抵抗はなかったとおもいます。ほかに、ツールが使えない、オンライン会議に参加できないという人もほぼいませんでした。」と柳瀬氏。むしろ、チャットでコミュニケーションを取ることで会話の記録がすべて残る、文章を短くまとめるといった効率化につながっているという。

しかし、なかには問題もあった。たとえば、自宅にインターネット回線がない従業員がいたり、あったとしてもオンライン会議や画像編集で回線容量をオーバーしてしまうようなケースだ。

また、今回のコロナ禍では家族全員が外出自粛となり、在宅勤務やオンライン授業を余儀なくされた家庭もある。その結果、家庭内で一斉にネットワーク回線が必要となり、接続スピードが落ちるという問題もあちこちで起きている。同社では、こうした事例に対し、従業員にWi-Fiルーターを貸与することで対応した。

一方で、社外とのやりとりについては、メーカーを含め300社ほどの取引先とオンライン商談を進めている。取材時はZoomやSkype、ベルフェイスなど、取引先に合わせて異なったツールを使用してきたが、今後は取引先の理解も得ながら、GoogleMeetに統一していく手はずだという。

テレワーク化でスピード感ある意思決定が可能に

社内のテレワーク化は、おもわぬ副産物を生み出した。グッデイでは、コミュニケーションツールとしてGoogleMeetとチャットを使うことで、いままでよりもスピーディに意思決定できるようになったという。「これまで部長会議を開催する場合、各部の部長が会議室に集まる時間を確保しなければいけませんでした。しかし、オンラインならその日のうちに会議を開催することができます」と、柳瀬氏はオンライン会議のメリットについて言及する。議事録は全員に共有されたGoogle Docsでリアルタイムに記録されるため、メンバーは普段の会議よりも集中して議題に取り組むことができるという。

写真1 「緊急事態宣言下でホームセンターは営業自粛の対象外」という発表があった日のチャット。代表者が自分の言葉で、きちんと数字に基づいて今後の方針や注意すべき点を明確にすることは、従業員にとって前向きなメッセージになるだろう

政府の緊急事態宣言が発出された際、HCが自粛対象となるのかどうか、事態は流動的だった。こうした場面ではことさら、スピード感ある意思決定が必要となる。グッデイでは緊急事態宣言が出されるなか、いち早く営業継続を決定した。4月7日の店舗営業開始前、8時45分から15分ほどGoogle Meetでオンライン朝礼を行い、全店長に営業継続の方針を伝えた(写真1)。その際のやりとりでは、感染防止策としてどのような対応をすればよいか、従業員の安全を確保するために何をすればよいかなど、その場で質問を受け、即決した事柄もあったという。

「たとえば、感染防止のためお客さまへの車両貸し出しを中止するなど、各店舗の店長から寄せられた質問に対して、対応する・しないをその場で決定していきました。実際に顔を合わせているわけではありませんが、画面越しに対面しながら話をすることができるのです」

全店長が参加する「店長チャット」には現在137人のメンバーが参加している。そこでは、安全対策について情報共有をしたり、従業員から上がっている不安の声に本部スタッフが対応。感染を防止するためレジ前にアクリル板を施す、フェースシールドを導入するなど、現場スタッフの不安を取り除くための施策を指示したり、柳瀬氏自らが福岡市の新型コロナ感染状況を分析し全従業員に発信するなど、詳細な情報を提供してきた。「情報を整理、分析し指針を示すのは本部の役割です。取引先やほかのHCは休業しているのに、『どうしてうちだけが』と従業員は非常に不安になっているので、なぜグッデイは営業するのか、なぜ大丈夫といえるのか、根拠を示すことが大切です」

本部と店舗の業務分担を適切に行わなければ、従業員の中に不公平感やサボタージュを引き起こす原因となる。柳瀬氏は、本部が店舗をサポートするという姿勢を示すことが重要だと考え、行動してきた。

コロナ禍で再認識したHCの役割

このコロナ禍にあっては、「自粛要請が出ているのになぜ店舗を営業しているのか」という近隣住民やお客からの苦情も覚悟していたという柳瀬氏だが、ふたを開けてみれば「営業してくれてありがとう」という声が多かったそうだ。店舗を営業するか、しないかを判断するにあたっては、次のように考えたと話す。

「こうした場面では、店の営業を取るか、従業員の健康を取るかという図式に捉えられがちですが、それは間違っています。店を営業するかどうかは『必要とされているかどうか』ですし、健康を守るかどうかは『きちんと安全対策が取られているかどうか』なのです」

営業を継続しながら、いかに従業員とお客の健康を守るのか。同社では、ソーシャルディスタンスを保つ、アクリル板を設置する、フェースシールドを導入するなどさまざまな施策を取ってきた。店舗の状況は文字情報だけでは把握しにくいため、店内に設置されているセーフィー社のカメラを活用。レジや通路の状況を常にモニターしながら「密」になっていないかどうかを判断してきた。同社が運営する工房「ファブラボ太宰府」の存在も大きい。

3Dプリンターやレーザーカッターなどの最新のデジタル工作機械を備えたファブラボ太宰府では、現場スタッフが着用するフェースシールドの製作を行っている。地域の医療機関の要請に応じ、これらの感染予防アイテムの製造・提供も行った。

写真2 グッデイが運営する「ファブラボ大宰府」のスタッフから柳瀬氏へのフェースシールド製造についての相談のやりとり。小さな組織とはいえ、代表者に現場から直接提案ができ、その場で判断が下せれば、機動力はより高まるはずだ

新型コロナと共存する時代。今後のカギは「オンライン化」

安全に配慮して営業を続けるなか、グッデイでは当初のマスクやアルコール消毒液から、木材や園芸用品、DIY関連用品へと売れ筋商品が移り変わってきたという。長引く外出自粛によって、お客の関心が「いかに自宅での時間を充実させるか」に移ってきたことを実感した同社では、ゴールデンウイークにYouTubeのライブ配信を開始した。動画には、DIY道具の使い方など自宅で過ごすためのヒントが詰まっている。

グッデイの公式Youtubeチャンネル

「ライブ配信ははじめての試みでしたが、店舗で商品を販売するだけでなく、メディアを使って商品を使うための知識や技術を伝えるのもサービスのひとつになり得るという新たな発見でした」

物づくりの体験を重視してきたグッデイでは、これまで工作ワークショップに積極的に取り組んできた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されるあいだは当面、「密」の状況をつくり出すワークショップを見合わせるほかない。そこで同社では、先述のYouTubeによるライブ配信を含め、今後さまざまなコンテンツをオンライン化しようと考えている。

「売場の実感としては、このコロナ禍でHCをはじめて利用していただいたお客さまは増えていると感じます。さまざまな物資が不足する状況で、自分の手で何かをつくろうという人が増えている印象です。HCとして、新しく物づくりに興味を持ってくれた人のフォローをしていきたいですし、オンラインであれば九州でも関東でも関係がないので、今後はオンラインによる発信を増やしていきたいとおもっています」

今回の新型コロナウイルスの流行は、多くの場面ではマイナスの影響をもたらしているが、半面、プラスの効果も表れていると柳瀬氏はいう。

「歴史上、何度も伝染病が発生していますが、過去の例ではそれによって進歩したこともあります。今回も、新型コロナウイルスによって業務や教育のデジタル化が進むというとても興味深い現象が起きています」

これまで遅々として進まなかった働き方改革や業務のテレワーク化、授業のオンライン化が、半ば強引に時計の針を進めるように必要不可欠なものとなっている。「そうした流れについていけるようにオンライン化を推し進めていくことが、今後の大きなカギになるのではないかとおもいます」

新型コロナウイルスの陽性患者数は全国で日に日に落ち着いてきているが、しばらくは「3密にならない」「ソーシャルディスタンスを保つ」といった新しい生活様式が続いていくものとおもわれる。同社ではこれまで新型コロナウイルス感染拡大を防ぐためのリアル店舗での対策を発信し続けてきたが、今後はそれに加え、G Suite(業務に必要なグーグルのクラウド上で使えるアプリを1個にまとめたもの)の活用法などテレワークのノウハウを小売の現場に広めていきたいと意欲を示す。

カインズ、DXの鍵を握るのは「くらしに寄り添うカインドネス精神」

2019年3月からカインズが取り組む「プロジェクトカインドネス」で重要な役割を担うのがデジタル戦略だ。IT小売企業にかじを切ろうとしている同社が、ここまでどのようにデジタル化を推し進めてきたのか。これからどこへ向かうのか。同社ならではのデジタル戦略について、デジタル戦略本部本部長の池照直樹氏にお話を伺った。 (聞き手:MD NEXT編集長 鹿野 恵子/月刊マーチャンダイジング2020年6月号より転載)

「自分たちができること」を向上・拡大させるためのIT

──着任されてから約半年がたちました。小売業のITシステムについてどのような印象をお持ちでいらっしゃいますか。

池照 私はこれまでさまざまな企業さんのデジタル化支援を手掛けてきました。デジタル化支援の対象には2種類あります。ひとつは業務システム、もうひとつがマーケティングです。この2つは仕事の種類こそ異なるものの、お客さまによい情報をお届けするという目的は共通しています。

業務システムにおける成功とマーケティング活動における成功は表裏一体です。表側(マーケティング活動)の仕組みによってお客さまへのリーチを広げたり、転換率を高めたりする一方で、裏側(業務システム)の仕組みについてはデータのクオリティを高めていかなければなりません。その両方を同時に整えていく必要がありますが、小売業は「裏側のデータのクオリティ」に課題があるように感じています。

──どういうことでしょうか。

池照 これまで小売業は、POSや物流システムのような裏側の仕組みの構築に焦点が置かれていて、お客さまに対するIT投資については消極的でした。

お客さま情報の一元管理ができていないという点は、小売業界全体の大きな弱みですが、その理由としては、お客さま一人ひとりに対して働き掛けをするというよりも、お店に来ていただいたお客さまに対して最大限の接客を行ってきたという自負があったからなのだとおもいます。

一方カインズには約1,000万人のカード会員がいますが、非常に大きな強みである一方で、まだそれを生かしきれているとはいえません。

──お客さま情報の重要性を知りつつ、それを活用することができていなかったのはなぜですか。

池照 活用するために何をすればいいのかがわからなかったのだとおもいます。一口でITエンジニアといっても、物流システムが得意な人もいれば、POSが得意な人、データ分析が得意な人など、いろいろな人がいます。それらの人材がきちんと揃っている状態をつくっていかなければ、良いサービスをお客さまに提供することは難しいとおもいます。

──技術者を採用する側がそこを理解しておらず、お客さまにサービスを提供できる体制がつくれていなかったのですね。

池照 そうですね。でも、カインズにはお客さまのくらしに寄り添い続けることを目標とする、カインドネスな精神があり、これが今後の鍵を握るとおもっています。店舗を持たずECのみで成立している小売事業者は、お客さまと直接お会いする機会が少ないこともあって、お客さまをデータとして見がちな傾向があります。

最近ではさまざまな企業がワン・ツー・ワン・マーケティングの仕組みを導入していますが、このような企業はお客さまと対峙するシナリオが描けず、なかなか進められないと思います。

Aという商品を購入したお客さまに、次に何をおすすめするか、それに合わせてどんな商品をおすすめするのかなど、このような肌感覚がマーケティングオートメーション(※1)のシナリオになるんです。ですから、ワン・ツー・ワン・マーケティングを実現しようとするときには、お客さまによいご提案をしようとする気持ちが文化として存在するかどうかが、非常に重要になるとおもいますね。

(※1 マーケティングオートメーション…デジタルマーケティングの一部のプロセスを自動化するシステムのこと)

昔、私の生家の近所に「さわや」というよろずやがありました。さわやのおばちゃんは、私の母親が昨日何を買って、私が夕飯で何を食べたか、何を飲んだかを知っています。だから母親に対してよい提案ができますし、私にも「コーラ飲みすぎたらお母さんにいいつけるよ」といえるわけです(笑)。

ワン・ツー・ワンの仕組みというのは、このさわやのおばちゃんをスケールアップさせているだけなんですよね。システムでなくても、1,000万人のさわやのおばちゃんがいればカインズのカード会員をサポートできます。しかし現実に1,000万人雇うのは無理なのでシステムに投資をする。システムの幻想を追うのではなく、あくまでも自分たちができることを向上・拡大してくれるのがシステムだということを念頭に置いて、物事を進めていくのがいいとおもっています。

そのためには、そもそもよいサービスを持ってないといけないですよね。カインズのメンバーのほとんどは店頭に立ったことがありますから、そこは強みだとおもいます。

アプリ会員を2ヵ月で50万人増やした店頭の力

──昨年の3月からプロジェクトカインドネスというテーマで経営改革をされていますが、その中でデジタルを活用してどのような戦略を取ってこられたか伺いたいとおもいます。

池照 プロジェクトカインドネスでは4つの戦略を掲げています(詳しくは高家正行社長インタビュー記事参照)。その2つ目がデジタル戦略で、その中で一番重点を置いているのが、「わずらわしさ解消」、そして「パーソナライゼーション」です。

HC業界首位に。カインズ社長高家氏に聞く「第3の創業の行動計画」

 

当社はこれまで顧客系のシステムにあまり投資をしてきませんでした。そこで最初に着手したのが組織づくりです。私が着任した当時はコンテンツも含めてECの運用をしているのが10人程度でしたが、そこから1年でデジタル系人材を30人ほど増員しました。

内訳は半分がエンジニアで、半分がデジタルマーケティング関連の人材です。エンジニアは、アジャイル開発(※2)をするメンバーが十数人、デジタルマーケティングの運用も10人ほど増えています。ほかにもEC関連の業務に携わるメンバーが40人ほどいて、現在はデジタル戦略本部として70〜80人の陣容になります。

(※2 アジャイル開発…迅速かつ適応的にソフトウエア開発を行うシステム開発手法の総称)

──組織づくりの次は何をしましたか。

池照 次に手掛けたのも、実はデジタル関連ではなく、当社の「カインズアプリ」のユーザーを増やすという仕事でした。カインズではこれまでさまざまなワン・ツー・ワンのアプローチをしていて、その内容自体は悪くなかったのですが、対象人数が少なかったんです。そこでマーケティングが機能するようにまずは母数を増やしたのです。ユーザー数を増やすために行ったのが店頭での販促活動です。当時のアプリのユーザー数は70万人程度だったのですが、2ヵ月で50万人増えて約120万人になりました。店頭での効果の大きさを改めて感じました。

そうしてユーザー数を増やしたところへ、現在はマーケティングオートメーションの仕組みを使ってプッシュ機能を入れたりしています。今年の2月にはアプリの大幅バージョンアップを行いました。さまざまな機能を付け加えましたが、商品の陳列位置がわかる点が一番大きな進化だとおもいます。

──商品の陳列位置を表示するためにはある程度在庫数や陳列位置がシステム上で把握できる状態になっていなければなりませんが、2020年2月のリリースに合わせて準備をしてきたのですか。

池照 元々2019年10月に当社のメンバー用アプリ(Find in CAINZ)で先行リリースしていた機能を、お客さま向けにリリースしたものなので、基盤はあったといえます。

お客さま向けのアプリには商品取り置き機能を追加しました。当初、取り置き機能は今年5月にリリースする予定だったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため前倒ししたのです。店頭に大勢の人が並ぶのを避けようと、チームメンバーに取り置き機能を早くリリースしたいと相談したら、数日で実装してくれました。

──そのスピード感は社内で内製しているからこそなのでしょうか。

池照 そうですね。それと、裏側でシステムの設計がきちんとできていたことも大きかったとおもいます。当社では昨年のFind in CAINZリリース時点にはその基盤ができていました。ただ、在庫数量の表示などについては、いまでもリアルタイム性という課題は残っています。

日本の小売業の情報システムは、さまざまなベンダーに発注していることが多く、バッチ処理(※3)という方法でデータのやりとりがされています。当社でもまだバッチ処理が多くデータをさばききれていないのが課題になっています。

(※3 バッチ処理…コンピュータでプログラム群を処理目的ごとに区切り、この区切りごとに順次実行していく処理のこと)

一つひとつのシステムからAPI(※4)でデータをやりとりできればリアルタイム性の高いシステムをつくることができます。アメリカでは、日本と違ってAPIを公開するのが当然とされるなど、システムは再利用されることを前提としてつくられています。日本はさまざまな立場の思惑があり、あえて閉じたシステムになっているように思います。

(※4 API…アプリケーション・プログラミング・インターフェースの略。広義ではシステム同士が互いに情報をやりとりするための仕様のこと)

システムを俯瞰的に見て、全体の設計図を考えられる人材が社内にいないというのが日本の小売業の大きな課題です。小売業だけでなく、日本のあらゆる業界における課題かもしれません。

私たちが考えるべきは、企業のシステムの設計図をどのように描くかということです。日本の開発は機能優先型で、全体設計を置き去りにしたままでビジネス要件定義がなされます。これは家を建てるとき、先に内装を決めてから柱の位置を考えるようなものです。

まずは枠組みを設計したうえで内装を施さないと建物はうまく建ちません。これと同じでITの世界でも先に全体の設計図を決めてから、あとで機能を考えていく必要があります。

希少品抽選システムを短期で開発できた理由

──今後アプリに関してはどのような展開を予定していますか。

池照 いろいろなことをやろうと考えてはいたのですが、新型コロナウイルスの影響があり、いまはそちらの対応に追われています(取材は2020年4月中旬に実施)。

たとえば、これまで小売業はお客さまにどう店内を回遊していただくかということを考えてきましたが、これからしばらくはおそらく、いかに店舗に滞留せず、短時間で買物を済ませていただくかという、まったく逆の方向性になっていくことでしょう。

近々リリースする予定の機能が、マスクなど希少商品アイテムの抽選システムです。開店時間前から店の前に並んでいただくのは感染リスクを伴いますし、陳列されたマスクめがけて店内を走られるのも危険です。はじめはインターネット販売から展開していく予定です。

また、日中お仕事をしている人は、平日昼間に店舗に行くことができませんので、そうした人向けのサービスも展開しています。これからも、急に売れ始めた商品や、欠品になる商品は存在することでしょうし、そのたびに人が殺到する状態をつくるのはよくありません。当社のメンバーも感染リスクを抱えながら働いていますので、早い段階でそうした状況を解決したいとチームに話しています。

4月29日からスタートした品薄商品の抽選販売サイト。カインズ会員限定で抽選に参加できる

取材協力
カインズ
デジタル戦略本部本部長
池照直樹氏

–続きは月刊マーチャンダイジング2020年6月号でご覧ください

・デジタル戦略本部の組織について
・いかにして優秀な人材が集まる文化をつくるか
・小売業における情報システム部の役割とは

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市場規模7.5兆!ドラッグストアの次の成長の鍵を握るのは調剤だ

前回の連載で述べたように、過去10年間で驚異的な成長を遂げたドラッグストア(DgS)ですが、現在のDgSの市場規模よりも「調剤」の市場規模の方が大きい。店舗数の飽和点が近づいてるDgSの次の10年の成長は、調剤市場の攻略が鍵を握っているといっていいでしょう。

DgS市場は7.3兆円 調剤市場は7.5兆円

これからのDgSの成長を考える上で「調剤部門」は今後、非常に重要な役割を果たすと思います。スギHD、ウエルシアHDは、DgSのチェーン展開を開始した当初から、「調剤併設型DgS」にこだわってきました。「調剤のないDgSなどDgSではない」とまで言い切っていました。

厚労省のまとめでは、調剤の市場規模は約7.5兆円(2018年)、DgSの市場規模が約7.3兆円(同)なので、それを上回る規模です。ちなみに「一般医薬品(OTC薬)」の市場規模は7,000億円前後と推定されており、調剤と一般医薬品(OTC薬)では市場規模が10倍も違います。

図表はクリックで拡大できます。

上記の図表は、DgSを含む調剤薬局の売上高ランキングです。DgS、調剤薬局チェーン双方調剤事業のみの売上高を掲載しています(一部除く)。決算時期のズレもありますが、DgS業態で売上高1位(2020年4月時点)のウエルシアHDが全体の3位に、スギHDが5位に入っており、いずれも調剤売上が1,000億円を超えています。2021年に経営統合を予定しているマツモトキヨシHDとココカラファインを合計すると約1,100億円となり、調剤薬局の競争のなかでもDgSはキープレイヤーになっています。

ちなみに10年前の2009年(平成21年)当時、調剤薬局チェーントップの「アインファーマシーズ(現アインHD)」の調剤売上高が約1,010億円に対して、DgSトップの「ツルハHD」の調剤売上高が約188億円でした。つまり10年前は、調剤薬局チェーンと比較してDgSの調剤売上高は1桁少なかったのです。しかし、この10年間の大量出店・規模拡大によって、調剤薬局チェーンに匹敵する調剤売上高に達していることがわかります。

調剤薬局は個人薬局主体で上位寡占化が進んでいない

また、日本の調剤事業は、DgSのように大手の寡占化が進んでいません。調剤市場の大半は「個人薬局」で占められています。図表に示した18企業の調剤売上高の合計は約1兆6,850億円、調剤市場7.5兆円の22%に過ぎません。DgSの上場企業14社の売上高合計が約5兆5,000億円で、DgS市場の73%を占めて寡占化しているのとは対照的です。

現在は調剤を取り扱っていない食品強化型DgSのコスモス薬品は、決算発表の記者会見のたびに、面分業(門前薬局以外の医薬分業)が進み、薬剤師の採用が現在よりも容易になれば調剤事業に進出すると明言しています。現在は一般医薬品しか取り扱っていないが、機が熟せば調剤薬にも参入すると宣言しているわけです。

ビジネスの観点で考えれば、現在の「DgS市場約7.3兆円」と同規模の「調剤市場約7.5兆円」(2018年)がそこに存在しているわけです。しかも調剤産業は、個人薬局主体で近代化が進んでいない産業です。今後10年間のDgSの成長に「調剤」が大きな役割を果たすことは間違いないと思います。

HC業界首位に。カインズ社長高家氏に聞く「第3の創業の行動計画」

ホームセンター(HC)のSPA(製造小売業)化などの革新的な改革を行い、HC業態の枠を超えて注目されているカインズ。2020年2月期決算では、売上高4410億円と、これまで業界一位の売上高だったDCMホールディングスの営業収益を越え、売上高で業界首位になった。同社は「第3の創業期」を迎えて、どんなイノベーションに挑戦しようとしているのか。その全貌をカインズの高家正行社長に聞く。(聞き手:本誌主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2020年6月号より転載)

プロ経営者として第3の創業期を担う

──カインズの社長に就任された経緯をお聞かせください。

高家 大学卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)に入行しました。30代のころ入社した会社で出世して社長になるのではなくて、「職業としての経営者」になりたいと考えました。

そして1999年35歳のときにA.T.カーニーというコンサルティング会社に転職。2004年に、精密機械部品から、工具や手袋などの間接生産材をワンストップで提供するビジネスモデルで急成長していた株式会社ミスミ(現株式会社ミスミグループ本社)に入社し、2008年から5年間代表取締役社長を務めました。その後、2016年にカインズの取締役となり、2019年3月に代表取締役社長に就任しました。

──カインズに入社されたのは、土屋裕雅社長(現・会長)から誘われたからですか。

高家 ミスミの社長時代から土屋とは顔見知りでした。当時から土屋は勉強熱心で、ミスミの経営も研究していました。ミスミを退職したときに、土屋からカインズの経営を見てくれませんか、と誘われてカインズに月1回、2回と行き始めたのがきっかけです。

カインズは、昨年創業60年を迎えたベイシアグループからスピンオフして、30年ほど前に創立した会社です。カインズの第1の創業期は、日本型のHCという業態が生まれた時代でした。その後、土屋が社長になって、HC業態の中でSPA化をいち早く推進し、HCの中では異色な存在として成長した時期が、第2の創業期です。商品開発力がつくことで、横並びのHCではなくて、完全に差別化された「カインズ」という業態を目指してきました。

──カインズの第3の創業期の社長として就任されたということですね。

高家 第3の創業についての土屋の考えは、自分たちがつくってきたカインズを超えるような存在になることです。「従来の連続的な改善ではなくて、不連続な大改革を行うためにはもっとも大きな人事異動が必要です。それはトップが代わることだから、社長を交代することにしました」と土屋が全幹部の前で発表しました。

第3の創業の行動計画 PROJECT KINDNESS

──大改革の方針を教えてください。

高家 第3の創業のための具体的な中期経営計画が、昨年の前期からスタートした「PROJECT KINDNESS」(プロジェクトカインドネス)です(図表1)。それは4つの柱で構成されています。第1は、「SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)戦略」です。

[図表1] PROJECT KINDNESSの4つの戦略

カインズは、4,000億円を超える売上になり、大型店では商品点数も10万SKU以上あります。何でも揃っているようですが、本当にお客さまのニーズにきちんと応えられているのかを突き詰めるために、いまから2年前、3つのビジネスユニットに社内分社化して責任を明確にしようと考えました。ユニットは以下の3つです。

第1のユニットが、プロの職人のための売場でづくりを目的とする「プロSBU」です。第2のユニットが、日用雑貨や家庭用品、酒・飲料などの売場で、「日用雑貨SBU」です。第3のユニットが、この十数年カインズがつくってきたPB商品を中心として、お客さまに対して「暮らしの提案」をするための「ライフスタイルSBU」です。

この3つのSBUは、お客さまに提供する価値の源泉が異なりますので、商品ではなく、価値を軸にして会社を3つに分けて疑似的に社内分社化しました。それぞれのSBUの年商は1,000億円前後ありますので、3つのSBUのトップに次世代のリーダーを立てて、「君たちが社長だとおもって伸ばしてくれ」といっています。

──日用雑貨の売場を拝見すると、たとえば洗濯洗剤は地域一番の広い売場を確保していますね。

高家 HCはドラッグストア(DgS)よりも売場面積を広く確保できます。DgSは、店舗面積に限りがあるので売れ筋に絞って品揃えしますが、カインズはロングテールの洗剤も品揃えできます。たとえば「襟の汚れ落とし洗剤」のような商品は、一度買うと長持ちするので、購買頻度は低いのですが必需品です。そういう商品をきちんと品揃えすることが、カインズの提供する価値なのです。

また、郊外立地のカインズでは、週末に車で来店されるお客さまが多く、同じ用途でも大容量がよく売れます。大容量の商品は一回買うと、3ヵ月くらい持ちますが、ユニット単価は安いのでお買い得です。同じ洗濯洗剤でも、そういう売り方をするのもカインズの特徴だとおもいます。

モノを売るのではなくライフスタイルを売る

──PBを中心とした「ライフスタイルSBU」は、どう進化させようとしていますか。

高家 グッドデザイン賞を8年連続で受賞するなど、PB商品のデザインと機能性は向上してきました。売上構成比の4割弱を占めるPB商品は、SPAをベースとしてつくってきました。さらに「コストを下げて品質を高める」ことに挑戦するために、SPAのもう一段上の進化が必要だとおもっています。

商品を企画し、開発し、試作し、量産化し、物流し、陳列して売るというサプライチェーンの一気通貫が、どれだけスピーディにできるかがSPAの極意だとおもいます。トヨタの「かんばん方式」のように店頭販売から生産計画までをどれだけリーンにつなげられるかが重要です。

たとえば、多くのPB商品に使われているプラスチック素材の品質向上に挑戦すれば、カインズのプラスチック製のPB商品の品質は大きく向上します。このように、製造業と比較すると、小売業のSPAはまだまだ進化する余地がたくさんあります。

──ライフスタイルSBUは、商品を売るよりも生活や暮らしの提案力を高めることに挑戦していますね。

高家 そうです。ライフスタイルSBUは、モノ(商品)からコト(お客の新しい暮らし)を提案する売り方に力を入れています。家事が楽になる商品を集めた「楽カジ」の売場。ペットと快適に暮らす商品を集めた「&PET」の売場のように、暮らしのテーマに合わせて商品を再編集し、新しい売り方を開発しています。

たとえば「楽カジ」の提案のひとつが、「短時間で調理できるキッチン用品」という新しい分類による売場づくりで、時短調理のためのフライパン、時短できるキッチン用品(アルミホイル)など、モノの分類を超えた構成です。

例えば、フライパンの売場では、ずらっと陳列された商品のなかに時短機能のあるフライパンが埋もれて目立たなくなっていました。それを生活のテーマで再編集することで、「楽カジ」売場の売上が2桁も伸びた成功事例も出ています。

やはり、同じカテゴリーを大量陳列するよりも、暮らしのテーマで訴求した方が、お客さまに伝わりやすいのだと実感しています。

「&PET」の売り方も、ペット用品だけを取り扱う売場ではなくて、ペットのいる生活に必要な商品を集めた売場です。インテリア売場に陳列していると見つけられない消臭機能の高いカーテンもペット売場に陳列します。

また、猫が爪を研いでも大丈夫な耐久性の強いカーペットなど、このような暮らしに関するテーマを10ほど掲げて推進しているところです。そういう商品の再編集が、ライフスタイルSBUの一番大きな取組みです。

デジタルシフトに大きな予算を使った

──「PROJECT KINDNESS」の2番目の柱である「デジタル戦略」についてお聞かせください。

高家 日本の小売業がアメリカの小売業と比べて遅れているのが「デジタルシフト」だと考え、社長就任の1年目(昨年)にデジタルに大きく投資する予算を取り、実行しました。デジタル投資によって前期は、最初から減益計画を立てたのです。大きく飛躍するために、一度力を蓄える必要があると判断しました。

デジタルシフトの投資は、人材確保の分野にも及んでいます。東京・表参道に「CAINZ INNOVATIONHUB」というデジタル拠点を開設しました(写真A)。このオフィスには、40人ほどの人材が働いています。カインズのプロパー人材と、この1年以内に異業種から採用したデジタルに強い人材の混成チームです。

[写真A]東京・表参道に開設したデジタル人材が働くオフィス「CAINZI NNOVATION HUB」
──デジタル人材を確保するためには、こういう都心のオフィスが必要なのですか。

高家 カインズの本社がある本庄市早稲田(埼玉県)では、通勤の問題等もあり、デジタル人材が確保しにくいと考えました。また、デジタル人材と小売業の働き方・勤務時間などが異なりますので、無理やり小売業の枠にはめるよりも、別会社にしてデジタル人材の受け皿をつくった方がいいと判断しました。

──アメリカの大手小売業のウォルマートやホームデポは、新規出店投資を抑えて、デジタルにものすごく投資していますね。

高家 当社も「PROJECT KINDNESS」を開始した昨年前半は、新規出店をかなり抑えました。来年くらいまでは新規出店を抑えようと考えています。年間5~6店は新規出店しますが、やみくもに大量出店することは考えていません。

──カインズさんのアプリをスマホに入れると、マイストア(登録店舗)の在庫数と陳列場所(レイアウト図に表示)が事前にわかるサービスを始めましたね。来店して欲しい商品が欠品しているというガッカリがなくなるのはお客にとってメリットがありますね。

高家 アメリカのHCのホームデポは何年か前から同様のサービスを始めていましたが、それに近いことができるようになりました。当社の事前在庫確認サービスは、理論在庫数と陳列位置がスマホで事前にわかるサービスです。棚割登録したデータを反映しますので、季節や企画によって売場が換わると、最新のレイアウト図に陳列位置が更新されます。

在庫の更新はリアルタイムではないですが、タイムラグが極力少ない方法で在庫数と陳列位置を更新できるようにしています。大型店では特に、来店する前に在庫のあるなしがわかって、しかも陳列位置がわかることは、お客さまにとって便利なサービスだとおもいます。

──店頭欠品は、顧客満足(CS)を下げる大きな要因ですね。

高家 事前に在庫を確認できるのは、とくにプロの職人さんに大好評です。プロの職人さんは早朝に来店し、必要な材料を買い揃えた後、現場に行きますから、時間をかけて店内を買い回りたくないので、陳列位置がわかるサービスは好評です。

また、ねじが1本足りなくても仕事になりませんから在庫数がわかることも重要です。「カインズアプリ」で事前に在庫数がわかって、不足している場合は必要数をお取り置きするサービスも提供しています。

店舗に在庫がない商品も、「今日のお昼までに取り置きを申し込んでいただくと、明日の朝には店舗でピックアップできます」というサービスを始めています。プロの職人さんの新しいHCの使い方として徐々に定着しています。

新アプリを使って、マイストアの在庫数が事前にわかるサービスを開始した
購入したい商品の陳列位置がスマホのレイアウト図に表示される

–続きは月刊マーチャンダイジング2020年6月号でご覧ください

・デジタル戦略はストレスフリーが重要
・店頭ピックアップはリアル店舗の壁を超える
・情緒的な接客力と生産性向上を両立したい
・カインズと提携したb8taとは?

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M&Aと高速出店で伸びたドラッグストア、10年で売上5倍の企業も

日本のドラッグストア(DgS)は、人口減少時代の平成時代の10年間で驚異的な成長を遂げました。2009年(平成21年)~2019年(平成31年)の10年間で、上場DgS14社の合計の売上高は約2.3倍も増加しています。日常生活を支える総合業態であるコンビニ、総合スーパー、ホームセンターの売上高が横ばいもしくは減少しているのに対して、平成後期の10年間で唯一成長した業態がDgSです。

10年間で驚異的に伸びたDgS

日本のDgSの市場規模は約7兆3,000億円(未上場企業も含む。日本チェーンドラッグストア協会調べ)。株式を上場している14社のDgSの総売上高は約5.4兆円(2019年決算)に達しています。DgSの店舗数は2万店を超えており、コンビニの5万5,620店(2019年12月末)に次いで店舗数の多い総合業態です。

新型コロナウイルスの自粛期間で外出できないので、月刊MD10月号で毎年掲載している「ドラッグストア白書」の過去10年間の数値を分析したところ、日本のDgSの驚くべき成長率が改めて明確になったので、そのダイジェストを解説します。

下の図表は、2009年~2019年の10年間で、上場DgS企業が「売上」と「店舗数」をどのくらい伸ばしたのかを一覧表にしたものです。

図表によれば、売上高トップのウエルシアHDは、なんと10年間で約4倍も売上を伸ばしています。ツルハHDも3.4倍、コスモス薬品も3.1倍の売上増加率です。中堅DgSではクスリのアオキが10年間で5倍も売上を増やしています。クスリのアオキは、2009年約494億円の売上高が、2019年には約2,500億円に達しており、驚異的な売上増加率です。

ウエルシアHDは2019年の売上高が約7,800億円、ツルハHDも約7,800億円、コスモス薬品が6,100億円と、この3社は「1兆円企業」の大台を視野に入れています。

また、経営統合を発表しているマツモトキヨシHD(約5,700億円)とココカラファイン(約4,000億円)の売上高を合計すると1兆円に迫る規模になり、近い将来にDgSの1兆円企業が誕生することになります。

M&Aと高速出店で規模を拡大

DgSはM&Aによる規模拡大が多い業態です。とくにウエルシアHD、ツルハHDは、大量出店と同時に、志を同じくするDgS企業との積極的なM&Aによって規模を拡大してきました。一方、コスモス薬品、クスリのアオキは、1年間で50~100店の高速出店によって、M&Aに頼らず規模を拡大しています。

店舗数も、この10年間で大きく伸ばしています。もっとも店舗数の多いDgS企業はツルハHDで、グループ全体で2,165店(2020年の予想値)に達しています。ウエルシアHDも2,000店、マツモトキヨシも1,700店を超えています。日本のDgS企業は、未上場の富士薬品(店名はセイムス)も加えて10社の企業の店舗数が1,000店を超えています。

いずれにしても、この10年間のDgSの大成長は、驚異的という言葉を使ってもなんら差し支えありません。平成末期の10年間、総合スーパーは閉店ラッシュでしたし、ホームセンターも市場規模は横ばいです(下の図表)。平成時代の前半に大成長したコンビニも、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップの大手4社の「純増店舗数(出店数-閉店数)」が2016年の1,679店を境に減少に転じており、2019年の純増店舗数はわすが40店です。2020年には大量閉店も発表しており、コンビニの店舗数の増加に急ブレーキがかかっています。

一方、DgSは2020年以降も、大手DgSは年間100店規模の大量出店を計画しています。そう考えると、生活必需品を取り扱う総合業態の中で、唯一DgSだけが成長しているといっても過言ではありません。

※10年間のドラッグストアの成長物語の詳細は、月刊MD7月号(6月20日発売)に掲載しています。なぜここまでの大成長が可能だったのかのポイントも解説しています。

トレンド雑貨を低価格で。バラエティストアの新機軸オーサムストア

レプレゼントが運営する雑貨ショップ、オーサムストアが好調だ。全商品自社開発の生活雑貨を、デザインのトレンドを押さえつつも低価格で展開。バラエティストアのニューウェーブとして店舗数拡大を目指す。(月刊マーチャンダイジング2020年5月号より編集の上転載)

写真はすべてオーサムストア&カフェ池袋。カフェを併設しており、オーサムストアの世界に浸ることができる

30年以上かけてたどり着いた新業態

オーサムストアは株式会社レプレゼントが運営する雑貨チェーンだ。全国に53店舗を展開(2020年3月末現在)し、オリジナル雑貨、食品、化粧品、アパレルなどを取り扱う。レプレゼントは1982年創業。1998年から女性向け雑貨チェーン「off&on(オフノオン)」を展開しており、2012年には70店舗まで成長したが、2014年から新業態「AWESOME STORE(オーサムストア)」をスタート。

現在オフノオン既存店のオーサムストア業態転換を進めている。設立当初は雑貨の仕入れ販売が中心だったが、徐々に自社開発商品主体へと移行。現在は取扱い商品すべてが自社企画・デザインだ。総取扱い商品点数は4,000〜5,000SKU。季節によって変動はあるが平均して月100アイテムほどが追加される。

段ボールをそのまま置いても絵になる倉庫風の内装。ラップやホイルのようなキッチン消耗品も取り揃える。野菜をモチーフにしたおしゃれなパッケージ

「オーサムストアは、創業から30年以上かけて立ち上げたといっても過言ではありません。製造から企画、デザインまですべて一貫して行うSPA(製造小売業)モデルを生活雑貨の分野で展開している数少ない企業として、お客さまにご支持いただけているのだとおもいます」と店舗運営部部長の堀口周作氏は語る。

「元々雑貨を楽しんでくださる、20代から50代の女性の反応は大きい」とはいうが、店頭の中性的なデザインをはじめアウトドアやカー用品など男性にも親和性の高いカテゴリー展開から、男女問わず、カップル、ファミリーでも入店しやすい雰囲気の店舗に仕上がっている。

オーサムストアが取り扱う商品カテゴリーは幅広い。キッチン用品、洗濯用品、食器などの生活必需品から、化粧品、ヘアケア雑貨などのビューティグッズ、文具、カー用品、アウトドア用品、スポーツ用品、トラベルグッズ…等々、一部菓子やレトルトカレー、お茶などのグロサリーも展開。すべて統一感のあるデザインで、かつ低価格で提供できるのは自社開発のたまものだ。現在中国に200以上の提携工場を抱えており、開発する商品の仕様により使い分けているという。

生活必需品からSNS映え意識の商品まで

オーサムストアのベストセラーのひとつが、フェルトのデコレーショングッズだ。イベントのときに部屋を飾り付けるためのフェルトでつくられたカラフルなアイテムを提供。

モチーフはイベントごとに違い、たとえば節分の時期にはフェルトでつくった鬼のお面、ひなまつりにはフェルトでできたお内裏さまとおひなさま、こどもの日にはこいのぼりやかぶとのガーランド…というように、同じ素材を使いつつ、季節に合わせたデザインを展開している。

人気商品のフェルトグッズ。取材した時期はこどもの日に向けてこいのぼりやかぶとのガーランドが販売されていた。オーサムストアオリジナルの独特の色合いが特徴的

200〜300円という手に取りやすい価格で「イベントのときに簡単に安価に部屋を華やかにしたい」というお客のニーズにマッチして人気となっている。季節ごとにモチーフを変化させているので、売場で季節が感じられる。

家庭用に購入されるだけではなく、飲食店や小売店が自分の店舗の飾り付けのために購入するケースも多いのだとか。このほかホームパーティで使うプラスチックの食器やカトラリー、ペーパーナプキンなどもよく動いているという。

ペットグッズも人気のカテゴリー。首輪(390円~)、Tシャツ(390円~)など低価格アイテムや、ペット用おやつ、SNS映えする爪とぎなど、バリエーション豊富だ。

ペット用品は注力カテゴリーのひとつ。デザインにこだわりながら、低価格の商品を展開。首輪が390円~、おやつは98円など

2020年にスタートした新しいカテゴリーが自転車グッズである。サドルカバー(390円)やヘッドライト(390円)のような定番商品から、ウォーターボトル(390円)、スマホホルダー(590円)のようなサイクリングのときにあると便利な用品、自転車のスポークに取り付けるライト(390円)のような遊び心のある商品までラインアップ。郊外の店舗では自動車用品が売れるのに対し、都心の店舗ではサイクル用品が売れるなどといった地域性が見られるという。

倉庫やガレージをイメージした店内は、高めの天井にコンクリート打ちっぱなしの壁という内装。いわゆるブルックリンスタイルで、照明は薄暗く、商品の段ボールをそのまま店頭に置いても違和感がないよう調整されている。この方法だと在庫をバックヤードに持っていく必要がないため効率もいい。

売場づくりに関しては、本部のビジュアルマーチャンダイジング(VMD)の部隊が店舗に向けて「VMD指示書」「販売戦略シート」を売場づくりの参考として提供している。大まかな店内レイアウトやシーズン企画の内容は本部主導で進めているが、細かい売場づくりについては、店長の采配でやっても構わないということだ。

マイクロファイバーのキッチンスポンジは洗剤がなくてもある程度汚れが落ちる。少し汚れたら買い替えてもらうことを意識し、5個で150円という価格。シリーズ累計150万個売れたベストセラー
スナック菓子、レトルトカレー、鍋のだし、お茶などの食品も展開。かわいいパッケージのスナック菓子98円はさまざまな色を取り揃えており、複数購入してプレゼントに使うお客も

一生涯にわたり生活に寄り添う店に

高い天井にむき出しの配管、打ちっぱなしのコンクリートの壁…骨太の世界観を感じさせる店内。スチールと木、さびたように演出した金属を組み合わせた什器も、オーサムストアの世界観を表現しているようだ

商品企画は発売の1年ほど前にスタート。中国語・日本語を巧みに操るバイヤー十数人が提携工場との交渉を担当。企画が固まれば、このバイヤーが生産可否について工場と調整し、生産可能となればデザインを開始する。

特筆すべきは「オーサムストアらしい」デザインの統一感だろう。デザインに関しては代表の堀口靖弘氏がオーサムストアの世界観を繰り返し全体に伝え続けていて、各部署もそのオーサムストアイズムを理解しながら企画や店づくりを進めているという。

38年の歴史がある企業だけに、店舗からのたたき上げで本部採用となったメンバーが多く、人材の厚みを感じさせる。「ベンチャーのように見られますが、年齢層は意外と高い」と堀口周作氏は語る。

また、かなりお値打ちに感じる価格のアイテムが多いのもポイントだ。単価が低い一方コーディネートして複数購入が見込める。常に新商品が展開されているので、一度ファンになれば来店頻度も高い。

「いまのオーサムストアはバラエティ雑貨というイメージが強いのですが、より生活に寄り添った雑貨を展開していきたいとおもっています。10代のころステーショナリーでオーサムストアを知っていただき、20代で一人暮らしのための生活雑貨を、30代になったら家族の生活に必要なものをご購入いただく…生活のなかでずっとオーサムストアを使っていただける状態を目指したい。そのためにはカテゴリー拡充も進めていくつもりです」(堀口周作氏)。当面はキッチン雑貨やペット用品カテゴリーの拡充を検討しているそうだ。

「お客さまのライフスタイルはどんどん変化していきます。その変化を切り取ればどんなカテゴリーでも商品を開発していくことができる。生活が変わればそれに合わせて商品を生み出すことができます」(堀口周作氏)

お客さまの生活の悩みを商品で解決する。生活雑貨の可能性は無限大なのだ。

オーサムストア&カフェ池袋店ゾーニング(編集部作製)

(本記事は抜粋版です。全文は月刊マーチャンダイジングでご覧ください。ご購読は以下バナーから)

安さと誠実さで支持率トップ!オーケーの「超合理的」MDに学ぶ

TBSラジオの生活情報番組「ジェーン・スー 生活は踊る」が主催した「スーパー総選挙」。首都圏中心の333社からリスナーイチオシのスーパーを投票で推薦するというものだが、その第3回となる2019年のスーパー総選挙で、3年連続1位になったのが「オーケー」だ。その支持の理由は「『安さ』と『誠実さ』。『安かろう悪かろう』ではなく、きちんとしたものを安く提供する姿勢(TBSラジオHPより)」であるという。(ロジカル・サポート代表 三浦 美浩/月刊マーチャンダイジング2020年4月号より転載)

経費率16.72%のスリム経営

オーケー(二宮涼太郎社長)のお客からの支持は、決算数値にも表れている。オーケーのホームページの数値を見れば、2019年3月期の既存店売上高前年比は104.5%で全店売上高は3,936億円(テナント売上高含む)、3年前の3,072億円から28%増と急速成長している。3年間で29店舗の新規出店があったことを勘案しても、この低成長時代に驚異的な数値だ。

しかも今年度の経費率は16.72%、経常利益率は4.79%とローコスト&高収益率を誇っている。この低経費率の理由は何といっても高い坪当り売上高にある。

同社の2019年3月期の売場面積は5万7,106坪(期中平均)で坪売上高は688万円。ほぼ同じ企業規模のヤオコーの営業収益は3,810億円(2019年3月期・単体)で売場面積は9万3,122坪(同)となり409万円(これでも十分に高効率なのだが)、オーケーは約1.7倍の坪効率となる。

まさに「高い坪売上高」こそが低経費率=高収益に結び付いている例といえよう。

「オーケークラブの会員価格」で全品「103分の3」割引に

今回視察したのは2012年開店のオーケー 溝ノ口店。売場面積726坪で同社が言うところの大型店・ディスカウントセンターである。

溝ノ口(住所表記は溝口)は東急田園都市線・大井町線(溝の口)とJR南武線(武蔵溝ノ口)が乗り入れており、1日当りの乗降客は東急線が15.6万人、JRが8.6万人でいずれも増加傾向だ。出店した川崎市は2018年の1年間で人口が1万2,399人が増加し、なかでもオーケー 溝ノ口店の足元である中原区は人口増が3,054人ともっとも多い。とくに20歳代の若年層の流入が続いている地域である。

店舗は地上2階、地下1階の3層構造で主な売場は地下にあり、オートスロープで1階とつながる。1階には若干の雑貨売場とレジ、サービスカウンターがあり、2階は駐車場になっている。

高い支持率=売場販売効率の高さの理由は、第一にはスーパー総選挙がいうところの「安さ」である。オーケーの経営方針は「高品質・Everyday Low Price」である。品揃えはNB主力。加工食品などのNBは「万一、他店より高い商品がございましたら、お知らせください。値下げします。」と店頭に表示している。これは「競合店対抗値下」といい、表示には「だから、オーケーで買って損をすることはないのです」とまでいい切る。

競合店と比較する価格は「オーケークラブ会員価格」である。オーケークラブ会員になると全商品(酒類を除く)が「103分の3」割引になるという制度で1989年の消費税3%が導入された際から続く施策である。

特徴的なのは、この会員価格が「見える化」されているということだ。たとえばNBの食パンのPOPには「会員現金払価格(3/103割引後)」として77円(税抜き)と一緒に「非会員・カード払価格」として79円を表示、レジ登録段階ではなく店頭表示価格段階で会員が有利であることを示す(現在は現金とPayPay払いに割引適用)。

もちろん会員価格は全般的に安い。2月初旬の同店の店頭では、納豆65円(非会員66円、以下同)、豆腐64円(65円)、ヨーグルト118円(121円)、牛乳155円(159円)、卵134円(138円)と消費頻度の高い商品で他店より低価格に設定している。しかもこの価格はEDLPで毎日同一価格だ。

オーケーはチラシは発行するが恒常的な新聞折り込みはない。店頭にはチラシが置かれているが「商品情報紹介」という位置付けで、新商品の紹介や値下げをした際の新価格のお知らせの役割を果たす。「チラシ期間は安いが翌日は値上げして高くなる」ことはなく、お客の価格への信頼感は高い。

オーケー 溝ノ口店折り込みチラシ

EDLP+売り切り特売で安値イメージ醸成

オーケークラブ会員は2019年3月段階で491万人を超えている。主力で展開する東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県(ほかに宮城県に1店)の総世帯数が1,772万世帯であり、3.6世帯に1枚発行している計算(2019年1月住民基本台帳調査より)になるので、かなり高い占拠率といえる。

一方で、特売も何種類か実施している。ひとつが「更にお買徳」で、これは普段から扱っている商品が、特別な条件や時期に通常よりも低価格で仕入れられた場合に行われ、その商品がなくなった時点で終了するもの。

もうひとつは「特別提供品」でこれは普段、定番では扱っていない商品を特別な条件で仕入れたもので、なくなり次第、終売になる。これはチェーンストアの言葉でいう「シーゾナル商品」で非定番のアイテムを短期に集中的に売り切ることを指す。

たとえばオーケーでは品質と価格のバランスから和牛に関してはA4ランクの商品を販売しているが、溝ノ口店は2月初旬に「特別に仕入れることができた」としてA5ランク商品をA4価格の「特別提供価格」で販売するとしていた(A5ランクとは脂肪、肉質、色と歩留まりで評価した和牛の最上級の肉。A4はA5のひとつ下のランク)。

常時低価格に加えたこうした売り切り型特売で、さらなる安さイメージをつくる。

一方、生鮮食品に関しては「高鮮度・美味しさ・高品質を先ず吟味し、その上で安さを訴求しています」(同社HPより)というコンセプトを掲げる。市場流通の生鮮食品に関しては、競合店に想定外の低価格が登場する可能性があり、それに価格を合わせていったら限りなく「安かろう、悪かろう」になる場合もある。高鮮度・美味しさ・高品質は「安かろう、悪かろう」を避けるためのスローガンなのだ。

A5、A4ランクの和牛も扱うし、野菜では九条ネギ、聖護院大根などのこだわりの京野菜も品揃えする。同時にモヤシは28円(28円)、おにぎり49円など価格比較がなされやすい商品は徹底して低価格にして安さイメージは崩さない。

オネストカードに見える「誠実さ」

オーケーがスーパー総選挙で1位に選ばれたもうひとつの理由の「誠実さ」は、オーケーの「オネストカード」に代表される(honestは英語で正直なの意)。これは、商品の情報を「出来るだけ正確で、正直な商品情報をお客様にお知らせ」(同社HP)するため、冷蔵ケースなどのガードレールに取り付けられた横長のPOPである。

たとえば1月17日付のオネストカードには、こんな表現があった。

「バナナについて 台風等の産地天候不順の影響により、スレ・キズが多く果肉が変色しており、品質が良くありませんのでご購入はおすすめいたしません。2月上旬ごろの入荷分より、産地状況が改善されて品質が良くなる見込みです。ご了承ください。回復するまではキウイフルーツをおすすめします。」

品質の低下に関しての正確な理由と、お客が取るべき策を伝え、合理的な消費をすすめようとしているのである。

こうした表示物は本部の会議体で徹底して議論される。店内には手書きの掲示物はひとつもなく、その点ではセントラルコントロールが徹底されている。

表示の種類はかなり多い。「緑豆、黒豆、大豆などモヤシの違いや適した調理方法」「牛肉の部位の違いとおすすめの食べ方」「野菜を長持ちさせる保存方法」など、多岐にわたる。

取扱い商品にもこだわる。店頭には「合成着色料を使用した商品は原則として取り扱っておりません」とあり、添加物に関しても、ソルビン酸カリウム(保存料)、亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)などを使った商品を扱っていないことを伝える。

昨年度の客数伸長率は10.3%。安さだけでなく、こうした誠実さ、情報提供の丁寧さが、子育て世代などのそれほど裕福でないお客、料理が苦手な若い世代に支持を拡大している要因だろう。

ローコスト経営2つのポイント

高坪効率であることは確かだが、オーケーが経費率も低い「ローコスト経営」であることは間違いない。2019年3月期の売上総利益率は21.71%、対する経常総経費率は16.72%で、結果、この差額が経常利益率4.79%となる(同社HP)。そのローコスト策のポイントは大きく①廃棄・見切り作業の削減、②重点販売商品と予約販売である。

–記事の全文は月刊マーチャンダイジング2020年4月号でご覧ください。ご購読は以下のバナーから。