今週の視点

次の10年の「パラダイムシフト」の「ビフォーアフター」を整理する

第98回2021年、小売業の重点経営課題は「固定客の長期的信頼の獲得」だ

この図は、筆者が5年程前に作成して発表した「パラダイムシフト(大変化)」のビフォーアフターを比較したものです。5年前は少し早かった理論かもしれませんが、「人口減少」「高齢化」「狭小商圏化」「デジタルシフト」といった未曾有の変化が現実化する令和時代の「変化対応」の重要テーマをすべて含んでいますので、改めて整理してみましょう。

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短期的な売上高より固定客の「年間購入金額」と「リピート率」が重要な指標になる

現在、リアル小売業の商圏は「狭小商圏化」が加速しています。理由の第1は「人口減少」と、遠くの店に行きたがらない「高齢者の人口増加」です。またAmazonでなんでも買える時代になり、車で30分もかけて買物に行くぐらいなら、ネット注文を選択する消費者が増えています。必然的にリアル小売業は、「近くて便利」が最大の価値になり、狭小商圏化します。

現在、ドラッグストア(DgS)の商圏人口は1店1万人を切るくらいまで減少しており、近い将来、1店7,000人~5,000人の極小商圏への出店も増えていくと思います。1店の売上高の大きさよりも、商勢圏の店舗網による「小商圏高シェア」がますます重要になります。

狭小商圏化によって、短期特価特売(ハイ&ロー)の販促で浮動客(バーゲンハンター)を広域から集客するような売り方は、ますます廃れていき、EDLP(エブリデーロープライス。毎日低価格)が主流になります。これからの10年間は、狭小商圏に住む消費者をいかに固定客(ロイヤルカスタマー)化するかが重要になります。

短期的な売上高よりも固定客の「年間購入金額」と「リピート率」がもっとも大切な数値目標になります。そのことで、一見客(いちげんきゃく)相手の刹那的な商売から、固定客との長期的な信頼関係をつくる商売に転換することが必要になります。

狭小商圏で成立するにはラインロビングが不可欠

狭小商圏で成立するためには、商圏内に住む消費者の「買物目的」を増やすことが重要になります。そのための基本戦略が、新しいカテゴリー(商品群)を増やす「ラインロビング」です。いろいろな商品が購入できる便利な店になることによって、少ない商圏人口でも商売を成り立たせることができます。

その結果、狭小商圏の立地に出店するリアル小売業の売場面積は必然的に大型化します。DgSの歴史を見ると、大店法の規制時代の1990年代前半に各地で登雨後の筍のように開店した「150坪DgS」(大店法の規制にかからない規模)が、1999年の大店法廃止後に衰退していきました。理由は、新しいカテゴリーのラインロビングに果敢に挑戦した「300坪DgS」にシェアを奪われたからです。

最近の「コスモス薬品」のプロトタイプ(最新標準店)は「600坪型」です。DgS最大手の「ウエルシアHD」も、2020年に「精肉」「青果」「総菜」などの新しい商品群をラインロビングした「600坪型」に挑戦しています。もしかしたらDgSの次の10年のプロトタイプは600坪に大型化するかもしれません。かつての大型化は広域から集客することが目的でしたが、これからの大型化は狭小商圏立地で成立させるための大型化であることが最大の違いだと思います。

押し込み売上よりもキャッシュフローを重視

右肩下がり時代のこれからの日本では、「高値入率・押し込みモデル」は通用しなくなります。小売業の「PB開発」が失敗する最大の原因は、商品部のバイヤーが高値入率主義だからです。「値入率が50%あるから儲かる」と全店に商品を配荷しますが、店頭で不良在庫として滞留し、値下げ、廃棄によって最終的な粗利益率は低くなり、儲からないPBになってしまうからです。これからの商品部のバイヤーは、店頭に配荷した商品の現金化までの責任を持たなければなりません。そのためにも、「値入率」よりも「キャッシュフロー」を重視すべきです。

メーカーや卸売業の営業マンも、「押し込みモデル」から脱却しなければなりません。卸売業の倉庫や店頭への押し込み売上は「架空の売上」です。店頭に押し込むと一時的に売上高は計上されますが、店頭で売れなくて在庫が滞留すれば、再発注がかかりません。需要の先食いにすぎないのです。

「新製品を余分につくって販促金をつけて押し込む」のではなくて、「売れる量だけつくり、流通し、在庫する」という需要予測モデルに転換しなければなりません。かつてのように期末になると、決算対策として商品を押し込む営業マンやバイヤーはもういないと思いますが、押し込んでもいつかは在庫がはけた時代は、完全に終わったと考えるべきです。

「商品軸」のMDから「顧客軸」のMDへ

これからのリアル小売業のMD(マーチャンダイジング)は、「商品軸のMD」から「顧客軸のMD」へ転換することがますます重要になります。そのためには地域の固定客の購買行動やライフスタイルに深く寄り添って、その店を長期的に信頼して利用してくれる「ロイヤルカスタマー」の人数を増やすことが重要になります。

たとえば、従来のDgSの化粧品の売り方は、「商品軸・ブランド軸」の売り方が一般的でした。化粧品メーカーとの「取り組みブランド」や「専売ブランド」を推奨販売し、社内で販売コンクールを実施する方法も、顧客軸というよりも商品軸・ブランド軸の売り方です。販売コンクールで「推奨化粧品」の売上を短期的に大きく増やしたとしても、その推奨品を購入した顧客のリピート購買率が低くて、二度と購入しない顧客が続出し、その店から「離反」したとしたら、むしろ大切な固定客を失う売り方になってしまいます。

推奨品が毎月変わるような「商品・ブランドありきの接客」ではなくて、個人の「肌悩み」やライフスタイルにより添った、ひとりひとりの固定客に対して、よりパーソナルな深い接客を実現することを目指すべきです。

次の10年で間違いなく進む「デジタルシフト」によって、不特定多数の「マスマーケティイング」から、固定客の個別のニーズに長期的に寄り添った「1to1マーケティング」(ワントゥーワン・マーケティング)へ売り方が大きく転換していくと思います。

折込チラシ、紙のクーポンのような不特定多数の販促ではなくて、個人の購買データ、属性情報と紐づいたパーソナルな販促を、スマホにプッシュ通知することができる時代が到来するでしょう。紙のメディアで「パーソナル販促」をしようと思ったら、膨大なコストがかかりますが、デジタルシフトが進めば個別対応の「1to1マーケティング」を低コストで行うことができるようになります。

デジタルシフトというと、機械化が進み、リアル小売業の現場が無機質なものになると思われがちですが、それはまったくの間違いです。デジタルシフトによってむしろ、個人の好みやニーズに対応した、キメの細かい接客や販促ができるようになります。デジタルシフトによって接客や販促が「パーソナル化」していくことも、次の10年の大きなパラダイムシフトだと考えます。

Withコロナによってもパラダイムシフトが加速

2020年は、100年に一度の災禍である「新型コロナウイルス」が発生した歴史的な年になりました。2021年以降も「Withコロナ」の時代が続き、図表で示したパラダイムシフトも加速するでしょう。たとえば、密を恐れる顧客の増加によって、開店前に行列ができるような「ハイ&ロー」型の売り方が廃れ、「EDLP化」が定着していくと思います。

非常事態宣言が発令された2020年の春には、マスク、消毒液そして生活必需品を買い求める顧客がDgSに殺到しました。「マスクはないのか」という過剰な在庫に関する問合せ圧力。DgSの店員がマスクを着けていると、「お前がマスクをしているのに、なぜ販売しないんだ」と怒鳴る客。また、マスクを求めて連日開店時に店頭に並ぶ客の対応に忙殺されて、DgSで働く人達が精神的に追い詰められていきました。早朝から並んでいる人しか購入できない不公平さや、早朝に店頭に並ぶことでさらなる感染拡大を引き起こすのではないかという懸念も指摘されました。
その結果、DgS各社が開店時のマスク・消毒液販売をやめるという告知を行いました。きっかけになったのはサツドラHDの公式アカウントが2020年4月7日にTwitterに投稿した以下の内容でした。

「マスクなどの商品供給が追いついていなく、お客さまには大変ご迷惑をおかけしております。 少しでも多くのお客さまに購入の機会を設けることを目的に、サツドラでは明日8日より原則全店でマスク・消毒液などの「開店時」の販売を中止させていただきます。 ご理解のほどよろしくお願いいたします」。

「短期特価販売」による集客は、開店前に行列をつくり、特定の日に来店客が集中するために、Withコロナ時代の消費者からは敬遠されると思います。

また、Withコロナ時代は、売場づくりが大きく変化します。狭い床面積の店舗に商品と人を詰め込み効率を追求するという日本の店舗の売り方が変わります。ソーシャルディスタンスを保つためには、ある程度余裕を持った通路幅が必要になります。また、「商品の発見のしやすさ」が重視されるようになり、1商品あたりの陳列量が増えます。その結果、店舗で取り扱うアイテム数が減少し、メーカー淘汰が進み、メーカーの押し込み営業ができる余地はどんどん少なくなります。

新型コロナウイルスという災禍によって、店舗で働く人の地位が社会的にも向上していくことも、Withコロナ時代の大きなパラダイムシフトです。医療人などの生活インフラで働く「エッセンシャルワーカー」に対する尊敬の念が高まっていますが、毎日の生活を支える「リアル小売業」で働く人達もまた、エッセンシャルワーカーとして尊敬される存在なのです。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。