本当の意味での地域密着型ドラッグストアとは

「ローカルチェーンの価値はもっと高まる」サンキュードラッグ平野氏

日本のドラッグストア(DgS)市場の寡占化が進んでいる。市場規模約7兆7,000億円のうち上場企業14社の売上げは約76%。そんななか、人口約95万人の北九州市で「調剤併設型DgS」を狭小商圏でドミナント展開する「サンキュードラッグ」の平野健二社長に、地域密着のローカルチェーンの「可能性」を聞いた。(聞き手:月刊MD主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2021年1月号より転載)

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地域の多くの立地に出店できることが強み

──大手ドラッグストア(DgS)の集約化が進んでいますが、大手小売業の寡占化は今後も進むのでしょうか?

平野 現在、日本では人口の減少が加速し、高齢化が進んでいます。北九州市の「高齢化率(65歳以上の人口の割合)」は30.7%と、日本の市区町村の中でもっとも高齢化率の高い市です。まさに、われわれが商売している地域は、日本の「未来都市」なのです。

人口減少、高齢化が進む日本において、次の10年間の戦略として、全国に多店舗展開することが正解なのだろうかと疑問に感じています。大手小売業が当たり前だと思っている「スケールメリット」は、人口が増え続けていた時代には有効でした。早く多店舗化し、早く大型化することで、空白市場を獲得し、売上と利益の両方を伸ばしていたことは間違いありません。

しかし、1店当りの人口は減り始め、新市場はなかなか生まれません。この10年間でDgSチェーンの「坪当り売上高」は半分以下に下がり、今後も1店当たりの売上高は減少します。多店舗化は将来赤字になるリスクの高い店を増やしていくことになります。今の延長線上だと大手DgSの出店戦略は、近い将来に飽和状態になると思います。

また、ナショナルチェーンは、プロトタイプ(最新標準店)に適した「立地」を選んで、全国に出店しています。しかし、われわれのような「ローカルチェーン」は、ひとつの商勢圏の中のさまざまな立地に出店し、より深く地域に密着していきます。

北九州市のさまざまな立地に出店しているサンキュードラッグ。その高密度展開によって地域医療の「かかりつけネットワーク」の役割を担うことができる

サンキュードラッグの立地は、三方山で一方海の閉鎖商圏です。北九州市内で、サンキュードラッグの店舗数と、「コスモス薬品」さんの店舗数は肉薄しています。しかしコスモス薬品さんは、車で行きやすい「車来店」の立地に出店しています。

一方、サンキュードラッグは「徒歩来店」の立地に出店しています。北九州市内の店舗数はほぼ同じですが、立地が異なります。たとえば、冷凍食品のまとめ買いはコスモス薬品さんでして、お昼の冷食はサンキューで買うので、あまり競合せずに「すみ分け」ができています。大手DgSチェーンと差別化する場合は、立地戦略が重要になります。

半径500m間隔で超高密度出店しているサンキュードラッグ

とくに、地域のローカルチェーンの店舗展開で大切なことは、「店舗密度」だと思います。ナショナルチェーンと1店舗単位で戦えば負けるかもしれません。ですが、ローカルチェーンが密度をつくる戦い方を貫けば、「近さ」という最大の武器が手に入ります。ナショナルチェーンよりも1店舗当りの商圏を更に小さく取る戦略が重要になるわけです。

調剤DgSの高密度出店が「面処方」の最適条件

──狭小商圏DgSを成立させるためには、「調剤」の併設が重要ですね。

平野 そうです。当社はDgS43店(うち28店が調剤併設型)、調剤薬局32店を展開しています。半径500mの狭小商圏で成立するためには調剤はとても重要な役割を果たします。ローカルチェーンの立地戦略による「近さ」という便利性に加え、調剤を併設して地域のヘルスケアの専門性を強化すれば、本当の意味での地域密着型モデルを実現できると考えます。

入口の近くに調剤の待合室、漢方の相談薬局も併設している

人口減少時代に重要になるのは「調剤」です。いま調剤は約8兆円の巨大マーケットです。さらに、これまで個人の調剤薬局が担ってきた調剤市場は、処方せん単価下落によってマンツーマン調剤薬局が淘汰され、集中率の低い「面分業」のDgSの調剤枚数が増えていきます。調剤を取り込むかどうかがDgSの次の10年の成長を決めると思います。

高齢者は1人当り3~4の病院を受診していますので、DgSは複数の病院の処方せんを取り扱って、1人の患者さんを総合的に見ていく必要があります。だからサンキュードラッグは、1kmごとに出店し、500mで来店できる「高密度」の店舗展開をしているわけです。

──地域の医療機関との人間関係、地域医療の担い手と考えると、全国チェーンより地域密着チェーンの方が有利かもしれませんね。

平野 調剤における高密度の店舗展開は、ローカルチェーンに適しています。大型病院の門前だけではなくて、地域に集中的に調剤併設型で店舗展開すれば、大型病院の処方せんと、内科のお薬を一緒に見ることができます。圧倒的な高齢者市場である調剤においては、「歩ける距離」の強みが生きてきます。

今後、DgSで調剤の構成比は上がっていきますが、スケールメリットは減っていくと思います。なぜなら、日本では医療用医薬品の売価が「公定価格」だからです。調剤薬局チェーンが2、3社と言われるアメリカの売価は自由であり、保険会社との交渉力で売価が決まるため、巨大化せざるを得ませんでした。

一方で、日本は公定価格であるため、大手、中小に関わらず売価は一緒です。したがって、大型化するよりも、調剤で選ばれる店を目指すべきです。そのためには、地域の緻密な店舗網や、薬歴を共有する重要性が増していきます。在宅医療に関しても、サンキュードラッグは1kmごとに出店しているため、ローコストかつ迅速にお薬を届けることができます。

結局、ローカルチェーンは、ミニナショナルチェーンになってはいけないのです。エリアを拡大しないで、ディープに地域を深掘りするべきです。地域の人のお役に立つためのお店ならば、決してローカルチェーンは捨てたものではありません。

アメリカよりも敷地の狭い日本では、車を受付口に停車する「ドライブスルー調剤」ではなくて、「ドライブイン調剤」の方が適している

固定客の来店頻度を増やすことが重要

──病気になる前のアドバイスができる管理栄養士の育成にも力を入れていますね。

平野 はい。管理栄養士は、お客さまの「来店目的」をつくる重要なサービスです。現在、「スマイルクラブ」という会員組織をつくり、管理栄養士が地域の患者さんの栄養相談に、週1回の頻度で乗っています。歩数計も記録し、「今月はどのくらい歩いたか?」などのデータを競い合っています。

とても「コミュニケーション能力」の高い栄養士さんが、親切に栄養相談に乗ってくれる

売上=客数×客単価という公式がありますが、1回当りの客単価を上げる論理は、「一元客」が多い大商圏型モデルのもので、狭小商圏型のローカルチェーンでは成り立ちません。ローカルチェーンの場合、新規客は少ないため、1人の固定客の「年間購入額」が勝負になります。年間購入額は、年間客数(=ユニーク客数×来店頻度)と年間客単価(=1回の客単価×来店頻度)の掛け算です。つまり年間購入額は、「来店頻度」の関数なのです。

来店頻度を上げるためには、食品に代表される「購買頻度」が高い商品の構成比を上げることです。2つ目は、「来店目的」を増やすことです。来店目的が増え、来店頻度が上がると「ついで買い」が増え、年間客単価も上がります。したがって、1週間に1回アドバイスを受けるなど、お客さまの来店目的になる管理栄養士の接客には、力を入れるべきです。

狭小商圏で成立するために来店頻度を高めてくれる精肉や青果もラインロビングしている

また、来店頻度は、サービスと商品の幅を広げることでも上がります。人口が減少している北九州では、文具屋、肌着、本屋が減っています。要は、買いたいのに買う場所がないのです。この地域では、カテゴリー単位、サブカテゴリー単位で、無くなったお店の商品をラインロビングすることが重要になっていくでしょう。

地域で買い場がなくなっている「文具」「実用衣料」などもラインロビングしている

続きは月刊マーチャンダイジング2021年1月号で!

  • 調剤併設DgSの処方せんは調剤薬局の5倍の枚数
  • 地域をさらに深掘りするOne to Oneマーケティング
  • ローカルDgS32社、8,000億円をグループ化したSOO