100坪でも目指すのはあくまで「主力買いの店」、サミットストア神田スクエア店の挑戦

サミットは、2020年7月10日、東京都千代田区内初出店となるサミットストア神田スクエア店をオープンした。東京都84店目、全社では119店目の店となる。多数の駅から徒歩圏内ということで、アクセス面では「非常に好立地」(星野郁夫・取締役常務執行役員サイト開発部・店舗開発部分掌)と判断している。(リテールガイドより転載記事)

多数の駅から徒歩圏内、アクセス面では「非常に好立地」

サミットは、7月10日、東京都千代田区内初出店となるサミットストア神田スクエア店をオープンした。東京都84店目、全社では119店目の店となる。JRの神田駅、お茶の水駅からも近く、特に都営新宿線小川町駅からは徒歩7分ほど、都営新宿線・三田線、東京メトロ半蔵門線神保町駅から徒歩9分ほどとなっている他、小川町に直結する東京メトロ千代田線新御茶ノ水、同丸ノ内線淡路町駅といった多数の駅から徒歩圏内ということで、アクセス面では「非常に好立地」(星野郁夫・取締役常務執行役員サイト開発部・店舗開発部分掌)と判断している。

神田警察署、東京電機大学の神田キャンパスの跡地を親会社の住友商事が開発したオフィスビルである神田スクエアの1階、商業施設部分のメインテナントとして出店。

同プロジェクトには東京都千代田区が策定した「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」において、「神田警察通りのヘソとして人を惹きつける文化・交流拠点の形成」が求められていたこともあって、住友商事としても、関西の本社に続く「第二の創業の地」である神田の街に単独で1000億円を投じた肝いりのプロジェクトだ。

1.5㎞圏で見ても競合店としては売場面積300坪超のオリンピック淡路町店がある他は、大きくても100坪程度、その他は50坪程度の小型店のみということで、3年ほど前に当時社長だった竹野浩樹会長が出店を計画。周辺に住む人が日常の買物をする場所が限られる中、何とか「レギュラースーパーが出せないか」ということで今回の出店となった。

商圏内の人口は500m圏で約4700人、1㎞圏で約1万5000人。サミットの平均よりは少ないものの、世帯数・人口の過去5年間の伸び率は、千代田区平均、東京都平均を上回っていて、地価は高いもののアクセスの良さなどから近年人口が増えている地域。高層オフィスビルやマンション開発も進んでおり、今後も人口や就業者の増加が期待できるエリアだという。特にオフィス、学生、生徒などの昼間人口は500m圏で約9万7200人と多く、そこにも期待がかかる。

500m圏内の単身世帯比率は64.3%(サミット平均48.8%、2015年国勢調査)でサミットの平均を大きく上回っている他、20~39歳の構成比が34.9%(18年住民基本台帳)とこれもサミットの平均(27.0%、同)を大きく上回る。

300坪から、あえていきなり思い切って100坪に挑戦

竹野会長は出店の経緯について、「サミットの事業ビジョンである『サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする』の中で、まだ出店できていなかった都心部への出店が課題だった」と語る。「都心部の方々は本当に魅力的なスーパーマーケット(SM)を体験されているのかというのがあって、その一助になれればということで、ビジョンに沿ったSMを実現していきたいという思いからスタートした」(同)

この間、18年2月に売場面積292坪の江原町店(東京・中野)をリニューアルオープンしたのを皮切りに、店内加工の強みを含む最新のマーチャンダイジング(MD)を取り入れた300坪クラスの新たなフォーマットの開発に着手。同年9月の本天沼店(東京・杉並、301.8坪)、同年11月の三田店(東京・港、299.8坪)、19年3月の鍋屋横丁店(東京・中野、278坪)と出店を重ねながら課題を解決してきた。「特に鍋屋横丁店や三田店などは、面積が小さい中でも2フロアのチャレンジもしてきて、一定の進化を進めてきたと思う。売上げもしっかりついていきているので、われわれとしては成果がしっかり出ている」(竹野会長)と、300坪タイプの開発には手応えを感じている。

一方で、今後、さらなる都心部に出店していく上で、たとえ300坪クラスであっても物件がそれほど見つかるものではない。そのためには、より小型化したフォーマットの開発が必要となるが、今回、物件が出てきたこともあって、あえていきなり100坪の物件を手掛けた。「100坪は非常にドキドキしたが、思い切って1回、100坪をやることによって、捨てるものは捨てて拾うものを拾えば、磨くものは何なのか、捨てるものは何なのかがはっきりする。それにチャレンジすることによって、サミットらしい売場がつくれるのではないかと思った」(竹野会長)

今回、売場面積100坪、バックヤード37坪という規模の出店となったが、サミットとしては、かつて60坪強の店を経験しているものの、「ほとんど初めての挑戦と言ってよい」(星野取締役)規模の店となった。

対面レジとサービスカウンターを兼務させる発想

面積が限られるため、店づくりにおいてはめりはりを付けた。大きな特徴は、オフィス需要を取り込む一方で、そこにだけ焦点を当てるのではなく、近隣の住民にいかに利用してもらうかを重視している点だ。「商圏内の世帯数が少ない一方、オフィス街ということで、一見するとオフィス需要を全面に打ち出した店舗にすると思われがちだが、そうではなく、地域の居住者に買物をしたいと思ってもらえることが重要。ポイントは、近くに買うところがないから仕方なく行く店ではなく、『サミットがいいよね』と言っていただける店舗を目指す」(岡田 崇・取締役執行役員/営業企画部マネジャー)

SMとしての機能を十分に果たすため、顔である生鮮と総菜をしっかり品揃えすることを方針としつつ、計画段階では総菜のバックヤードと売場を最初に設置した中で、生鮮・総菜の売場を配置。買物環境の面でも、例えば通路幅は、ゴンドラ内については通常の店が1300~1400㎜のところ、神田スクエア店でも1100㎜程度の幅を確保。さらに主通路については比較的ゆったり歩ける1500㎜をしっかりと維持した。

また、冷蔵ケースについても、開口部をしっかり取った上で棚板の奥行きや段数を調整し、アイテム数でも三田店、鍋屋横丁店が7000~8000のところ、5000弱の4882アイテムをそろえた。

限られたスペースの中で、売場を極力広く取るための工夫として「レジ」に着目。「いろんなことを捨てて改革をやってきたが、捨てるものの代表的なものはレジで使っていた面積」(竹野会長)。今回、対面レジはセルフ精算レジ(セミセルフ)1台のみの設置で、しかもサービスカウンターを兼務。また、他のレジは通常の店ではセルフ精算レジが主力となっている中、全てセルフレジにし、5台設置「狭い面積に対して、どのように売場を確保するかを考えた結果だ。思い切って100坪に挑戦したことで、こうした発想が生まれる」(竹野会長)。セルフレジは鍋屋横丁店で生産性を含め実験した上で、今回の導入となった。

セルフ精算レジ1台、セルフレジ5台を設置。オフィスビルへの出店ということもあって、利便性の面でもセルフレジとの相性もよいと考えている

100坪の中でいかにSMとしてのあるべき売場を実現するかが、さまざまな工夫によって追求された。「この店舗は、都心に向けた出店にとっては大変重要な位置付けと考えている。是が非でもこの店を成功させて、今後の出店戦略の試金石としていきたい」と星野取締役は力を込める。

生鮮部門が手掛ける総菜の売場は設置せず、しかし商品は展開

売場づくりの柱は3つ。1つ目はバックヤードの作業場の環境とオペレーション力。「横持ちをかけながら、横串を指してどうやって実現するかというところが1つの大きな部分で、それは設計段階から相当の工夫を重ねた」(岡田取締役)。バックヤードは生鮮3部門、総菜全てで店内加工ができる作業場を設置。

ただし、精肉に関しては牛、豚は基本的にアウトパックとし、ひき肉、鶏肉の商品化、半加工品の商品化を行うといったように、外部化できる部分は外部化。また、300坪タイプでも設置された青果の「フレッシュサラダ・カットフルーツ」、鮮魚の「煮魚・焼魚」、精肉の「グリルキッチン」といった生鮮部門が管轄する「総菜」の売場は設置していない。

一方で、それらのコーナーで展開されている商品自体は品揃えする。青果のサラダは小サイズをメインに総菜売場の冷惣菜の並びで販売される他、売場が狭い分、時間帯ごとに品揃えを変えることで、需要に応える。鮮魚の「焼き魚」、精肉の「グリルキッチン」などの商品も主力品に絞って夕方の時間帯など時間帯別のMDによって総菜売場で品揃えしていく。

柱の2つ目はMD面で、「居住者に『あの商品があるからサミットに行こう』と思っていただくというのが大きな柱」(岡田取締役)となるが、それら生鮮部門のものも含めた総菜は大きな鍵となる。「地域の居住者には店内製造のおいしい即食商品、簡便商品など加工度の高い品揃えを、しかも適量で、各部門で充実させる。出来たてだとか鮮度への期待にしっかり応えていくことがポイントになる」(同)。鮮魚でも刺身のフェースを広げるなど加工度を高めた商品をしっかりと訴求していく。

生鮮・総菜強化の中で圧縮されがちな加工食品についても、商圏内は平均世帯の所得の高さ、単身比率・若い世代が多いことに着目し、良質でやや高い価格帯の品揃えにもチャレンジ。特にドレッシング、パスタソース、カレーなどでそうしたラインを差し込んだ。

もちろん、既存店のようなコーナーづくりが実現しづらいため、各コーナーの商品を組み合わせるなど売場づくりを工夫。例えばチルド麺の中にギョーザ、シューマイを入れたりしている。

売場面積が限られる中、青果売場では外に売場を設け平台で根菜やトマト、バナナなどを展開
単身世帯比率が高い立地であることから、青果でも少量、適量の品揃えをメインにし、キャベツの1個や大根の1本などの品揃えは実施しない
果物も品揃えを絞り、リンゴやオレンジの袋物の大容量商品も品揃えしない
「フレッシュサラダ・カットフルーツ」は、小サイズのものをメインとし、総菜売場に隣接。短時間で買物できるような売場づくりとしている

鮮魚売場では、売場面積が限られている中でも調理の手間を省いた味付けの魚やミールキットなどのひと手間加えるだけで食べられる「簡便・半調理品」や刺身の品揃えを充実
鮮魚では対面の「おさかなキッチン」は設置しないが、丸物を品揃え。また3枚卸し、開き、輪切りや、切り身の小切れなどの商品化を行うことで「主力買いの店」を目指す
精肉売場では、売場が限られているため、他店舗で実施している用途別陳列でなく、畜種別の陳列。また、限られた売場の中でも地域特性に合わせて黒毛和牛、黒豚、みつせ鶏も品揃え
精肉ではオフィス勤務者の昼食需要に対応するため、レンジアップ商品の品揃えを充実させる。グリルキッチン商品は総菜部門で商品化し、夕方から数アイテムを品揃えする
総菜は売上高構成比22%を見込む。総菜売場では、近隣オフィス勤務者の昼食需要を捉えて、米飯や寿司を中心に値頃感と適量を意識した品揃えを実施すると共に曜日ごとに品揃えを変化させることで、飽きのこない売場を実現する他、夕方以降に向けて、おかずやつまみの売場を拡大し、品揃えを充実
個食需要を捉える中で、おかず系の温惣菜、特にばら販売が売上げをけん引していたが、個包装になり、作業性も低下して売り込みづらくなっている。逆に新型コロナ禍の中で見えてきた需要も取り込みながらやっていく。焼き鳥は、ばら販売が良かったが、3本や5本のパック売りにするとロスも少なくなるなど発見もあった。パックの売上げが上がってきているため、ばら売りの落ち込みをカバーできるようになってきている
立地特性を踏まえ、カテゴリーによってはやや高い価格帯の商品も品揃え。レトルトカレーでは地元の神田にちなんだ商品をコーナー化して展開
売場面積に限りがあるため、パック米飯はエンドに売場を設けた上でばら売りを充実。カップ麺もミニカップの売場を確保している

日配やグロサリーでは電子棚札を実験的に導入している。プライスカードの付け替え作業の削減などオペレーション効率の向上を実験

売場が狭いからこそ、部門を越えた取り組みを強化

柱の3つ目は接客面。今回、ここ最近の新店では必ず配置されている「案内係」は配置していない。一方で売場が狭いからこその取り組みではあるかもしれないが、商品の特徴、取り組みについて店舗の社員全員がお客に伝えられるように、部門を越えて共有していくという。「全員がお客さまに寄り添った、ハイタッチなコミュニケーションをしっかり実現できる店を目指していこうということで店長を中心に一丸となって取り組んでいる」(岡田取締役)

部門を越えた取り組みは、部門別管理が発達したSMではなかなか難しいという現実があるが、サミットの場合、「店長を中心とした全店一丸」の考え方が伝統的に浸透している。しかも、部門を越えた取り組みの重要性が指摘される昨今では、それにさらに注力。部門、担当を越えて、みんなで店を良くしていこうという声が現場サイドからも出てきているという。神田スクエア店には、さらにその深化が期待される。「小さな店ではあるが、この店から他店にも気づきを波及させていく効果も持っているのかなと思う」(服部哲也社長)

また、同社では「ハイタッチな店づくり」を目指しているが、服部社長によると、それは案内係や試食コーナーの「おためし下さい」、あるいは対面の売場がないできないことではないという。「売場の中でお客さまの行動を見ながら、あるいはお客さまに話しかけられたり、会話をしながら、何を考えていらっしゃるのか、何を思われているのか、何を言いたいのかを引き出す。これがハイタッチなサービス、接客、お店であって、それを商品、品揃え、そもそものお店づくりに反映していくのがハイタッチなお店」(服部社長)

その意味では神田スクエア店は、小型店ならではの、これまでよりさらに進んだ形での部門の壁を越えたハイタッチな店づくりが期待される。

100坪でも「選ばれる店」「主力買いの店」になる

竹野会長は神田スクエア店を、仕方なく行くのではない、「選ばれる店」にしなければならないという。「補充買い」ではなく、メインの買物をしてもらう「主力買いの店」になることを重視している。

都心部とはいえ、駅前の立地ではない中、店内加工にも注力した店として売上げをどこまで取れるかが勝負になるとみている。「人がそれほど多く住んでいるわけではないから、チャレンジだ。駅前であれば全く問題はないが、ここは駅前ではない。これが本当に主力買いの店として売上げが10億円を超えてきて大成功するのであれば、都心に店がたくさんできる。これが3億、4億円しか売れないのであれば、商品をただ置いておいてお客さまに買っていただくという仕組みで商売するしかない」(竹野会長)

小型店の中で、通常店と同様の店内加工の商品を提供することで、それに見合う売上げが確保できれば、フォーマットとしての多店化が見えてくる。一方で、それなりの売上げしか上げられないようであれば、割り切ったオペレーションによる商売とするしかないというわけだ。

もちろん、主力買いの店になることに注力する一方で、大きな需要のあるオフィス需要についても重視。「朝と昼のオフィス需要、夜の周辺住民の主力買いの店となること。この二毛作にすることが売上げを確保する鍵と考えている」(竹野会長)

「オフィス就業者に毎日でも来たいと思っていただくのがもう1つのポイントになるので、昼食だけでなく、朝食需要にも対応するということで開店時間を8時にしている。サミットらしく、店内製造の総菜各種を昼のピークに充実させていくが、弁当や寿司などのパッケージの商品で昼食需要に応えていくことだけでなく、サミットらしく、店全体でつむぎ出しながら『ランチにしていただく』こともすごく重要視している。デザートやバナナの1本など、組み合わせていただいて、選べる売場にしていきたい」(岡田取締役)

青果のサラダや、今回はアウトパックの商品を導入しているカットフルーツの他、ワンハンドのスナック、半熟卵などを冷総菜のケースに陳列していることは、面積の狭さをカバーする取り組みであると同時に、こうしたオフィス需要に対して「選びやすさ」を提供することにもつながる。「狭さ」を「価値」に換える取り組みといえる。

セルフレジも狭さをカバーする取り組みではあるが、一方ではオフィス就業者にとっては買いやすさにもつながる。

100坪の実験が描く新しいサミットの未来

もちろん、神田スクエア店はあくまで実験店だ。「これをマーケットの人たち、お客さまがどう評価するか。100坪がちゃんと維持できるか。それができるようになれば、新しいサミットの未来が出てくると思っていて、すごく期待している。もちろん、簡単な道ではなく、300坪にはない、茨の道がたくさん待っていると思うが、それはそれで楽しみにしている」(竹野会長)

新型コロナウイルスの影響で、リモートワークの広がりなどから立地の考え方も変わっていくとみられている。都心は、オフィス需要の減少も予想されるが、一方でそこには住民がいることも確か。その意味では、「主力買いの店」のフォーマットがつくれるか否かは、非常に大きなポイントとなる。服部社長は、今後の立地についての見通しを次のように語る。

「(新型コロナで)働き方が変わって、多分、以前のような働き方に戻ることはない。となると住宅地立地、都心ではないところの駅周辺の価値がすごく高まるのではないか。ワンストップショッピングが見直されて、しかも多頻度で買い回るのではなく、まとめ買うということで、われわれがいままで出してきた店の価値は高まるし、そういう物件は取り合いになるだろう。かといって都心の良いところの出店コストが下がるかといえばそれもなさそう。100坪ぐらいで出る価値があるところが物件として出てくれば、考えて出店する」

これまでの住宅地の店は、今後さらに大きな資産となるとみられる。一方で今回のようなフォーマットを確立することで都心部も押さえることができれば、サミットの存在感は首都圏においてさらに確固たるものとなる。

リテールガイド より転載記事

「ヨーク」はセブン&アイの首都圏スーパーマーケット事業を牽引する

セブン&アイグループの首都圏におけるスーパーマーケット(SM)の新戦略が本格的に動き出した。6月、ヨークマートの商号をヨークに変更し、イトーヨーカ堂の食品館とディスカウントフォーマットのザ・プライスを移管した他、様々な首都圏のSM事業を集約し、シナジーを追求する。(リテールガイドより編集の上転載)

首都圏のSM事業を統合・再編

5月13日には、千葉県市原市に新たなフォーマットの1号店としてヨークフーズちはら台店をオープン。そして6月17日にはイトーヨーカ堂の食品館新宿富久店(東京・新宿)をフラッグシップ(旗艦)店として改装する。ヨークマートの既存店についても順次活性化をしながら、屋号をヨークフーズに切り替えていく他、食品館とザ・プライスについては6月5日に全店、すでに屋号をヨークフーズに切り替えた。

ヨークの大竹正人社長によると、「ヨークはグループの首都圏食品成長戦略の中心的な会社、今後首都圏のSM事業を統合・再編する会社」だという。統合によって資本金はヨークマート時代の10億円から20億円増資し、30億円とした。店舗数も100店舗規模に達し、「自前のインフラを整備する規模になったと思っている」(大竹社長)。

さらに本社を現在のセブン&アイ・ホールディングスがある千代田区2番丁から江東区のテレコムセンターへと移転。統合によって手狭になるという面積の問題の他、商品開発に欠かせないテストキッチンを併設できることが大きな理由となった。

ヨークマートの実験でMDに手応え

大竹社長は、ヨークが目指す姿について、「暮らし提案型の食品SMの実現」と表現する。品揃え基準は「上質」「即食・簡便」「洋風」「健康」、それにプラスして「地域性」。その上で、強化すべきものとして、「生活変化に対応した提案型クロスマーチャンダイジング(MD)」「部門毎のコア商品コアカテゴリーの強化」「付加価値のある新規MD」を挙げる。

即食・簡便を象徴するミールキットは店内加工で差別化
地域性をアピールする地場野菜コーナーは鮮度訴求の武器となる

特に最後の付加価値のある新規MDは、時間をかけて磨きをかけてきた戦略的商品群となっている。例えば、青果売場に作業場併設の形で販売する「ハンドメイドサラダ」や「フルーツデザート」。サラダは青果で販売しているトマトやキャベツを店内で加工し、出来たてを訴求している。フルーツデザートも同様に青果で販売している果物を使った店内加工のスイーツだ。

また、惣菜売場ではなく鮮魚売場で販売する「お魚屋さんのお惣菜」も、鮮魚で販売している素材を使った店内加工の惣菜として差別化。アジフライは朝、入荷したアジを開いて、その場で揚げて提供することで付加価値をアピールする。インストアベーカリーで販売するナポリピザは、500℃の窯を導入しながらレストランの味に近づけることを目指して開発するなど、こだわっている。

さらに、これらの商品については、あえて値入れをそれほど入れず、値頃で販売することで「来店動機」の創出につなげようとしている点が、大きな特徴だ。既存店での実験でも着実に成果が出ている。

例えば2018年3月にイトーヨーカ堂の食品館を引き継いでヨークマートとしてオープンした小豆沢店(東京・板橋)。改装後の18年4月~12月期の売上げは、イトーヨーカ堂時代に比べ141%を達成、直近の20年3月期でも前期比118%、続く4月は新型コロナの影響もあるが、140%と全社を大きく上回るなど、継続的な伸びを示している。さらにその後も新店、改装店では同様のMDを展開し、確実に手応えを得るに至っている。

ニューオペレーション&グループインフラで生産性向上

一方で、付加価値のある商品を値頃で販売するためには、その分、ローコストの取り組みなど生産性向上が求められることになる。その点については、「今後プロセスセンターやセントラルキッチンを自社で内製化することで、さらなる調理の効率化や生産性の向上に取り組んでいきたい」(大竹社長)とする。

もちろん、これまでも、「ニューオペレーション」と名付けたさまざまな省人化への取り組みを導入してきている。検品や私物点検の作業の省人化、あるいは売価変更の作業が省略できるデジタルプライスカードなどによって生産性の改善を試みている。7月には加工食品の棚に、フェイスアップをワンタッチで完了できる什器を導入する予定もある。

それでも、利益率にはまだまだ課題がありそうだ。ヨークマートの19年度の営業収益は1429億円。対する営業利益は7億円で、営業利益率は0.4%にとどまる。出店する地域が異なるとはいえ、惣菜子会社のライフフーズを加えた同年度のヨークベニマルの3.8%と大きな開きがある。

セブン&アイグループとしてはこの違いに注目し、そのポイントを「製販一体のMD・デリカ製造のインフラ」としている。ライフフーズは工場を持つ製造小売業として、製造段階では、原材料を含めた品質、コストの管理を徹底し、一方で店舗での販売においては確実に売り切るということが根付いている。これを首都圏の戦略の中でもグループとして内製化していくことを目指すとしている。

ヨークベニマルの惣菜子会社のライフフーズが強化する電子レンジ加熱前提の冷惣菜を導入。ライフフーズの工場で作られた商品も一部展開している

「今までテストをして、成功してきたインストア(製造)のモデルと外部での集中生産の2つを実現する必要がある」(石橋誠一郎・セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員グループ商品戦略本部長首都圏SM戦略準備室)。実際、グループ内にはさまざまなインフラがある。セブン‐イレブン・ジャパンには、専用工場で専用の設備、専用のレシピ、専用の原材料を駆使して、他ではまねできない商品開発をしてきたノウハウがある。また、一次加工拠点としてはイトーヨーカ堂100%子会社のIYフーズ、セントラルキッチンとしはライフフーズの工場、さらに精肉のプロセスセンターとしてはIY杉戸センターといったように、統合を経て、さまざまなインフラをヨークのサプライチェーンに組み込みながら強化していく意向だ。

フォーマットの実現と併せ、ニューオペレーションの定着を図りつつ、こうしたグループインフラを生かしながら24年度段階の営業利益率3%を目指す。

4つのフォーマットを立地に合わせて出店

今回の統合の特徴の1つに、マルチフォーマット戦略を採っていることがある。ヨークでは、ヨークマートに食品館、ザ・プライス、コンフォートマーケットが加わる中で、フォーマットを4つに整理する。

新規MDを入れた500~600坪の郊外型店を「標準」の基本フォーマットとしつつ、ヨークマートや食品館の小型店の150~300坪の都市型店を「小型」、価格強化型のディスカウントフォーマットの「ヨークプライス」、さらにヨークマートの標準店とザ・プライスの集荷力と演出力を生かした「DS対抗型」が加わる形となる。

小型は250坪型の中町店(東京・世田谷)、DS対抗型は、食品館梅島店(東京・足立)、ヨークマート川崎野川店(川崎市宮前区)で実験をし、それぞれ成果を出している。例えば川崎野川店は非常に19年6月にオープンしたが、競合状況が厳しく、苦戦していたがザ・プライスのMDを入れながら、従来の品揃えと融合することで数字を回復させた。

19年8月は7月比で98%だったが、10月は105%、20年2月は131%と伸ばすことに成功した。大竹社長は、「プライスと標準店舗の融合、シナジー効果で結果が出せた意味では今後、非常に期待ができるフォーマットになっていくのではと考えている。今後主力フォーマットになる可能性もある」と期待を込める。

石橋氏は「さまざまなフォーマットを持つSMの統合会社は首都圏を見ても類を見ない。グループのシナジーを生かして、成長への舵取りができると考えた」と言う。背景には、セブン&アイグループとして首都圏でSMの店数を増やしきれていないという認識がある。

今回、マルチフォーマット戦略を採用したのは、特に首都圏は商圏が多様であると考えており、出店を加速するためにも、立地によってフォーマットを使い分ける必要があると判断しているためだ。

特に小型店においては、セントラルキッチン、プロセスセンターを活用することで店内の作業を軽減するとともにバックルームを狭くすることができるため、より狭い物件への出店が可能となる。現時点では年間の新規出店は3店程度を計画しているが、物件などの状況によっては加速させていく。

吸収合併したフォーキャストが展開していたコンフォートマーケットは、1号店は閉店、2号店は改装後、8月にオープン。150坪型のフォーマットを確立できれば首都圏の都心部にも出店余地を広げることができる

「われわれが近い将来、目指す姿は、それぞれの店はそれぞれの地域に合わせた店舗フォーマット、看板での出店でお客さまの満足に応えていく。店の裏側のセンターやセントラルキッチン、プロセスセンター、一次加工拠点などはグループで垣根を越えてそれぞれの持つインフラを最大限活用する。これをグループの長期的な戦略として示した。グループのインフラ整備は3年以内に実現させたい」(石橋氏)。新型コロナの影響下にオープンした1号店のちはら台店、そして6月に改装オープンした新宿富久店がまずは試金石となる。

新型コロナの影響もあってインストアベーカリーは個包装としている。好評で、売上げを伸ばしている他、集中レジで精算できるためオペレーションもメリットがあるという
環境配慮の取り組みとして精肉でノントレーの商品を導入している他、扉付きの冷ケースなども導入

リテールガイド より転載記事

サミットストアコレットマーレ店が「三角形の売場」で成立させる業務効率

サミットは5月20日、神奈川県横浜市中区に横浜市内9店目、中区内2店目となるサミットストア桜木町コレットマーレ店をオープンした。新型コロナウイルスの影響で、約1カ月遅れてのオープンとなった。(リテールガイドより転載記事)

サミットは5月20日、神奈川県横浜市中区に横浜市内9店目、中区内2店目となるサミットストア桜木町コレットマーレ店をオープンした。新型コロナウイルスの影響で、約1カ月遅れてのオープンとなった。

サミットの店数は東京都が80店以上と圧倒的に多く、次いで桜木町コレットマーレ店を含む神奈川県が16店、さらに埼玉県14店、千葉県5店と続く。

今回、既存商業施設の改装に合わせて地下1階部分に出店。JR、市営地下鉄の桜木町駅前の施設のため、電車、バス共にアクセスが良い立地だ。桜木町駅自体が、みなとみらい地区への玄関口の役割を果たす他、横浜市の市庁舎の最寄駅でもある。そのため近隣に住む人の他、働く人、ホテルの利用者、観光客などの利用も期待できる。

桜木町駅徒歩1分に立地。横浜市の市庁舎にも近いが、市庁舎前には4月28日にオープンしたばかりのリンコス横浜馬車道店がある。

ホテルの宿泊客向けの商品を集積

半径500m圏内の世帯数は3809、人口は6243人(18年住民基本台帳)で、サミット平均の6341世帯、1万2130人を下回るものの、近年マンション開発も進んでいることもあって世帯数、人口ともに大きく伸びているという。

また、同圏内の単身世帯比率は60.8%(15年国勢調査)と高く、サミット平均の48.7%を大きく上回っている他、世代別の構成比でも20~39歳が32.0%(18年住民基本台帳)とサミット平均の26.9%を大きく上回るなど、単信、若年層が多い商圏となっている。

出入口は2カ所だが、三角形に近いスペースに売場を配しているため、かなり変則的なレイアウトになっている。概ねフロアレイアウト図の右側が素材ゾーン、左側が惣菜、加工食品ゾーンとなっているが、惣菜、インストアベーカリーがほぼ真ん中になるように配置することで、2カ所ある出入口のいずれからも、惣菜と飲料を比較的ショートタイムショッピングで買えるように工夫されている。

2カ所ある出入口のうちの1つ、日配側の出入口にもレジを設け、ショートタイムショッピング対応

売場はやや大型となる511坪を確保。三角形という変則的なスペースの中に、サミットがここのところ強化してきたライブ感のある売場や作業場の設計、内装、イートインコーナーの「サミCafé」など磨き込んできた取り組みをちりばめた。もちろん、サービス面では専任の「案内係」を配置。お客に寄り添った対応によって居心地の良い店づくりを実現する。

生鮮売場にぞれぞれの惣菜まで網羅、「選べる」売場づくり

青果売場では、サミットの新店・改装店ではおなじみとなった「フレッシュサラダ&カットフルーツ」コーナーを設置。店内で製造した商品で出来たてを訴求して差別化を図る。

商圏として単身者が多く、また就業者の昼食需要が高い地域であるため、小サイズの商品の品揃えを充実させるとともにフェースを拡大して展開。また、サミットでは初めてとなる常設の「ドライフルーツ・ナッツバイキング」売場を設置した。

鮮魚売場では、加工などを受け付ける「おさかなキッチンコーナー」を作業場一体型の開口タイプで展開。鮮度感や品揃えの豊富さ、ライブ感を演出する。

また、鮮魚部門と精肉部門の商品を集積した「簡便・半調理コーナー」を設置する他、冷凍コーナーも充実させた。

各部門の素材を使い、電子レンジ加熱によって調理が完了するように設計されたパスタ。展開場所は総菜売場で、各部門が商品を持ち寄る

青果のサラダ、カットフルーツもそうだが、サミットでは鮮魚、精肉の各生鮮部門で販売している原料を使用した店内で製造した惣菜を、特に大型店ではあえて生鮮売場内でコーナー化することで、素材のこだわりを訴求するとともに、「選べる」売場づくりを実現している。

桜木町コレットマーレ店でもそれは踏襲され、鮮魚売場には「煮魚・焼魚」コーナー、精肉売場には「グリルキッチン」コーナーを設置。商圏の時間帯ごとのニーズを考慮し、焼き魚では夕方に焼きたての商品を販売するなど、近隣の就業者の帰宅時刻を意識した展開とする他、精肉売場でも店舗の条件が似た他店を参考に、グリルキッチンコーナーの陳列量を通常店より早い11時に100%にするといった取り組みも実施。

就業者の昼食需要、家庭での夕食需要などその時間帯のニーズに合わせ、売場や品揃えに変化を付ける。

総菜売場でも、近隣の就業者の昼食需要を捉えて、米飯や寿司を中心に値頃感と適量を意識した品揃えを実施するとともに、曜日で品揃えに変化を付けることで、「飽きのこない売場」を目指す。

時間帯別では、夕方以降についても、おかずやおつまみを中心に品揃えを充実させながら出来たて販売を強化する。

売場の中央部に配置されたインストアベーカリー売場は、エスカレーターを利用するお客が下りてきたときの見え方を意識して配置。こちらも新店・改装店ではおなじみの、売場から作業場内が見えるようにすることでライブ感とシズル感を演出する。

品揃えでは既存店で好評の窯焼きピッツァ、店内製造のサンドイッチ、調理パン、スイートドーナツを充実。

イートインコーナーの「サミCafé」はインストアベーカリーの裏側、売場内に22席分設置。コイン式のコーヒーマシンを導入し、コーヒーのみでも利用しやすいようにしている。

アイテム数は1万334。部門別売上高構成比は、青果14.1%、鮮魚8.7%、精肉12.2%、総菜12.0%、加工食品22.1%、菓子5.1%、日配19.1%、家庭用品2.8%、ベーカリー3.9%。2020年3月期決算書の全社平均と比べ、家庭用品が低い一方で、総菜、ベーカリーが各2ポイント程度高くなっているなど、現在のサミットの戦略が象徴的に表れている。

冷凍食品はコンパクトながら、くぼみをつけることで平ケースと併せてゾーンを形成している

サミットでは、同じ品種である一方で販売温度帯の異なる商品をいっしょに販売する取り組みを随所で行っている。買いやすさへの挑戦である

リテールガイド より転載記事

大賀薬局、YouTuber薬剤師が語る薬剤師の未来像

福岡市に本社を置き、調剤薬局、ドラッグストア(DgS)合わせ107店舗を運営する大賀薬局。高度医療への対応、地域密着型の薬局では定評がある。最近では同社が生んだヒーロー「薬剤戦師 オーガマン」がテ㆑ビでも活躍するなどユニークな事業展開を見せている。YouTubeチャネル「大賀よかっちゃんねる」の運営もそのひとつだ。このチャンネルでメインMCを務めるワディポップこと和田浩嗣氏に、今後の薬局、薬剤師像などについて聞いた。(月刊マーチャンダイジング2020年7月号より転載)

アメリカの薬局、薬剤師を知り安定志向から挑戦志向に変わった

──周囲からワディと呼ばれることが多いとのことなので、本日はワディさんと呼ばせていただきます。薬剤師になったきっかけ、大賀薬局でYouTubeを始めた経緯などについて教えてください。

ワディ 進路を決めるときに、ハッキリなりたいものがなく、薬剤師である母親から仕事のやりがいや面白さを聞いて自分も同じ道を進もうと決めました。あくまで個人の意見ですが、薬剤師には安定志向と理想を持った挑戦志向の人がいて、自分は超安定志向でした。大賀薬局に入社して5年ほどは大変なこともありましたが、取りあえず安定的な薬剤師生活を送っていました。そんなあるときに上司から採用活動に参加しないかと誘われました。大賀薬局では現場で薬剤師として働きながら採用やマーケティング、医薬品管理などの本部業務にも参加できる制度があります。

そんな中、研修の一環でアメリカを訪れ、現地の薬局や薬剤師と触れ合い見聞を広げるという企画に抜擢されました。これが超安定志向の自分を変える大きなきっかけになりました。

アメリカの薬剤師はインフルエンザの予防接種を注射できるなど、医療行為までできますが、これは薬剤師が自分たちの活動の積み重ねと運動によって勝ち得たものです。アメリカでそういう活動を推進した薬剤師の講演を聴き、講師が結びの言葉で「だれかが導いてくれるのを待ってはいけない」という言葉に感銘を受け、自分の意志を行動に移すことを決意しました。

そのツアー企画に関連して大きな会合で総合司会を務めるなど、転機になるようなことがいくつかありました。人前で話す楽しさを知ったこともあり、その後社長からYouTubeの企画をお願いされたときには二つ返事で引き受け2018年に「大賀よかっちゃんねる」が誕生しました。

Youtubeの「大賀よかっちゃんねる」。チャンネル登録者数は4300名(2020年8月現在)。2年前に投稿された「薬剤師あるある10選」は8万再生を記録している。

これからの薬剤師は健康のスペシャリストになるべき

──入社から10年、店長を含め現場の薬剤師として勤務して、またYouTuberの経験も踏まえて、これからの薬剤師に必要なことはどんなことだとお考えでしょう。

ワディ 地域の方にとってより身近な「健康のスペシャリスト」になることが求められているとおもいます。方法としては2つ考えられます。ひとつは薬剤師がいま以上に地域活動することです。たとえば、病気や健康に関する相談は、ドクターだけでなく、薬局、薬剤師がお手伝いできることはたくさんあります。健康相談会や講習会などの地域活動が浸透していれば、薬局や薬剤師にできることを理解していただけ、気軽に相談を受けられるのだとおもいます。

それから、がんや糖尿病など専門薬剤師が地域活動をすることで、処方せん受け付けのときだけでなく患者さま、地域住民と接する機会が生まれサポートできます。そして、医療機関からも認められ選ばれることにつながります。

もうひとつはセルフメディケーション(軽微な症状はOTCなど使い自己治癒すること)を推進することもこれからの薬剤師の役割です。DgSの視点で考えれば地域のニーズは年齢や性別、健康状態によってさまざまです。こうした多様な健康ニーズへセルフメディケーションの手段を用意することが大事です。

残念ながら現状は多様なニーズに応え切れていないとおもうので、メディアやSNS、イベントなどをお客さまの年齢層に合わせてチョイスして薬剤師が情報発信する。こうして、広くつながることで相手のニーズを理解して私たちにできることもお伝えできます。その結果、店やイベントに来ていただける。オンラインとリアルな場を両方活用することは今後マストだとおもっています。

──薬剤師は今後、在宅医療にも積極的に関わることが求められていますが、これをどうお考えでしょうか。

ワディ 在宅医療は事務作業、医師やヘルパー、ケアマネジャーたちとの連携会議、地域活動などがあり、薬局での調剤に比べれば時間がかかります。薬剤師はプライベートの時間を費やすこともあり、在宅を担当する薬剤師はだんだん疲弊してきます。これをいかに軽減するかが在宅を広げるポイントです。大賀薬局では営業、事務作業、会議、地域活動のフォローなどを「SVチーム」と呼ばれる部署が専任で担当することで、薬剤師の負担を減らし、患者さまに集中できる体制を取っています。

在宅医療は、患者さまとのコミュニケーション、患者さま、ドクターへの提案が重要ですが、作業の中で残薬や医薬品の管理に多くの時間を取られます。これはあくまで個人的な考えですが、調剤のピッキング業務が薬剤師の管理の下、病院事務など資格者以外が行うことが認めらました。同じように在宅の残薬管理などの業務を薬剤師以外が行う。たとえば、事務職が住まいを訪問して写真や動画で現状を薬剤師に伝える。薬剤師がオンラインで患者さまの状況をお聞きして、結果をドクターにオンラインで伝える。こうした仕組みができてくれば、在宅に参入できる薬局も増えるとおもいます。現状の制度では在宅医療で採算を取るのは難しい状態です。

──新型コロナウイルスの影響で、オンラインによる業務が急速に発展しています。効率を考えれば、ワディさんが考えているような方向で在宅は進むのではないでしょうか。そのためには、薬局、薬剤師がその必要性や実績をアピールして現状を変えるしかないですね。そういうおもいはありますか。

ワディ 先ほど話したように、アメリカで薬剤師が自分たちで職能開発した事例を知って、自分たちも行動しなければいけないとおもっています。当然、会社も同じ志ですので、会社、社長と一緒に行政に働き掛けるべきところでは働き掛けたいとおもいます。これはある程度の規模がある企業しかできないので、私たちの責任だとおもっています。

地域活動で生活者とつながれば保険外収入の道も開ける

──薬局はセルフメディケーションを推進すべきということでしたが、OTCの販売、その他保険(調剤)外の収入に関してどうお考えですか。

ワディ 大賀薬局では「ガァガァフェスタ」という地域イベントで血糖値、HbA1c、総コレステロール、中性脂肪などを測定することができます。私の体験談ですが、このイベントで血糖値が異常値のお客さまがいて、専門の医療機関での受診をお勧めしました。そのとき血糖値が高いと健康にどのような悪影響があるかも丁寧に説明しました。そのお客さまは医療機関で検査を受け、大賀薬局に足を運んでくださるようになり、私とかかりつけ薬剤師の契約を結んでくださいました。

このように患者さまにとって近い存在になり信頼関係ができれば、薬局にも足を運んでいただけ結果的に売上にもつながります。将来的に処方せんがなくてもかかりつけ薬剤師の契約ができるようになれば、薬剤師の活動の幅も広がり物販やサービス提供で保険外の利益を拡大することもできるとおもいます。

診療、調剤、精算、すべてがオンラインで完結する時代が来る

──ワディさんは、大賀薬局のデジタル推進の責任者ですが、今後デジタルで薬局はどのように変わるでしょうか。

ワディ 患者さまが医療機関に行かなくても診療、投薬ができるオンライン化は進むとおもいます。これに加えて、電子処方せん、健康保険証のオンラインでの資格確認が進めば、診療、処方せん交付、調剤、服薬指導、窓口業務(精算)がすべてオンライン上でできるようになります。

あくまで個人の仮説ですが、こうした時代では、YouTubeやSNSで情報発信して信頼を得られるような薬剤師がリアルな壁を越えて選ばれるようになるでしょう。これまではお金を払って検索結果を上位に上げたり、視聴回数を増やしたりする「オークションマーケティング」が主流でしたが、これからはクオリティの高い個人や企業が選ばれて集客できる「クオリティマーケティング」に切り替わるとおもいます。

もちろんすべての薬剤師がそうなるわけではありませんが、オンラインで個人で勝負する薬剤師が出てくる可能性があります。会社もそこに目を向けてほしいし私もワディポップとしてその世界で活躍したいです。

──インフルエンサーを集めてYouTuberをマネジメントする会社に勢いがありますが、大賀薬局もそういう事業部門を持つかもしれませんね。

ワディ そうなれば面白いですし、その事業をコンサルティングするビジネスもできます。大賀薬局には個人起業できるベンチャー制度があります。10年後は自分で事業を起こし大賀薬局に恩返しして、同時に個人の力も付けていきたいと考えています。

──本日はありがとうございました。

 

ワディこと和田浩嗣氏(中央)、大賀薬局から生まれたオーガマンは現在九州ローカルのテレビ番組「ドゲンジャーズ」の一員として活躍。左は同番組に出演中の正木郁(かおる)さん(ルーキー役)、右は滝夕輝さん(キタキュウマン)

「残薬を減らす」大義を掲げ、戦う薬剤戦師「オーガマン」誕生の舞台裏

コロナ禍での買物行動と食卓事情の新日常を80万枚のレシートで読み解く

新型コロナの感染拡大により、在宅勤務や時差出勤などの働き方だけではなく、ライフスタイルそのものが変化しています。そこで今回は、全国のアンケートモニターから独自に収集する「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」から、新型コロナ感染拡大前(2020年1月)、緊急事態宣言中(2020年4月)、緊急事態宣言解除後(2020年6月)における買物行動の変化を分析しました。

高まる「まとめ買い」傾向・在宅勤務で変わる買物時間帯

最初に、新型コロナ感染拡大前(昨年12月~今年2月頃)と、感染拡大後(今年3月頃~現在)におけるスーパーやコンビニなど買い物頻度の変化を確認するためにアンケート調査を実施しました。(N=3,650名、20代~60代男女、2020年7月実施「買い物行動に関するアンケートより」)

アンケート結果では、買い物の頻度は、新型コロナ感染拡大前後いずれも、「週2~3日に1回程度<新型コロナ感染拡大前46.4%→感染拡大後45.8%>」が最多となり、半数近くを占めています。

「ほぼ毎日<新型コロナ感染拡大前9.3%→感染拡大後6.5%>」は、2.8ポイントダウンした一方で、「週1回程度<新型コロナ感染拡大前25.2%→感染拡大後30.4%>」が、5.2ポイントアップしていたことから、まとめ買い傾向が強まっていることが考えられます。

買い物行動の変化について、多くの方のコメントからは、頻度を減らす・短時間で済ませる・人が少ない時間帯に一人で行くなどといった、できるだけ人との接触を避ける「感染予防対策」を挙げる声だけではなく、「会社帰りに何か所も回るのが怖いので、買うのはスーパーのみ(50代女性)」や、「自宅近くのコンビニが一番近いので、利用するようになった(40代女性)」といった、利用する業態が変化していたことがわかりました。他にも就業中の方からは、「在宅勤務中は、早い時間にスーパーに行けるようになった(20代女性)」や、「週末にまとめ買いであったが、在宅勤務によりお昼に買い物に行けるようになった(40代女性)」といった、在宅勤務によりスーパーに行く時間や回数が変化したといった声もありました。

生活必需品をスーパーで買いそろえる

次からは、全国のアンケートモニターから独自に収集する「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」から、「スーパー」・「コンビニエンスストア」・「ドラッグストア」3業態において、新型コロナ感染拡大前(2020年1月)、緊急事態宣言中(2020年4月)、緊急事態宣言後(2020年6月)における、買い物行動の変化をみてみましょう。

まずは購入状況(1レシートあたりの平均購入金額・平均購入点数)を分析しました。

各業態ともに、「平均購入金額・平均購入点数」が、新型コロナ感染拡大前(1月)よりも、緊急事態宣言中(4月)に増えており、特に平均購入金額は、「スーパー<1,222円→1,494円:272円アップ>」となります。

買い回りしなくなったといったコメントにも表れていたように、スーパーで食品や日用品などの生活必需品を、買いそろえる行動が読み取れます。

また、「コンビニエンスストア<508円→600円:92円アップ>、「ドラッグストア<1,095円→1,180円:85円アップ>となり、外出自粛や在宅勤務により、自宅近所のコンビニ・ドラッグストアなどの店舗を利用する傾向も表れています。

新型コロナ感染拡大により、できるだけ家で食事をする、外食せずにテイクアウトを利用するなど、食に関しても新様式が浸透しつつあります。

次からは、購入レシートに出現している商品カテゴリの推移から、「食卓事情の変化」を分析しました。

購入レシートから、各カテゴリの出現率をみると、3業態ともに「食品カテゴリ」が最大となります。

業態別に、まずはスーパーとコンビニエンスストアの購入レシートをみていきます。新型コロナ感染拡大前(1月)と、緊急事態宣言中(4月)を比較すると、「スーパー<76.9%→80.7%:3.8ポイントアップ>」「コンビニエンスストア<63.6%→66.4%:2.8ポイントアップ>と増えていたことから、かつてない状況に対する不安から冷凍食品や、お菓子類・パン類など日持ちする食品が多く購入されていました。また、「生鮮・総菜」、「飲料」、「酒類」の出現率は、新型コロナ感染拡大前(1月)よりも、緊急事態宣言解除後(6月)のほうが高まっていることから、家での食事、家飲みなどの機会が増えていることがわかります。

次に、ドラッグストアの購入レシートをみると、「食品」カテゴリの出現率5割をキープしており、緊急事態宣言中(4月)に発生した「マスク」「紙製品」などの日用品の買い占めにより、一時的に「日用雑貨<36.5%→42.4%:5.9ポイントアップ>上昇しましたが、緊急事態宣言解除後(6月)は落ち着きをみせています。

高まる自宅調理ニーズ

食卓事情の変化をさらに読み解くために、「生鮮・総菜」カテゴリに着目して、出現率を分析しました。

「生鮮・総菜」カテゴリの、子カテゴリ「水産」「総菜類」「畜産」「農産」別で出現率をみると、食材を購入して調理をする頻度の高まりや、総菜などを購入し自宅で食事をするといった行動により、緊急事態宣言解除後(6月)においても、緊急事態宣言中(4月)とほぼ横ばいの数値となり、この食に関する新様式が日常化しつつあることがうかがえます。

「コンビニエンスストア」においては、緊急事態宣言解除後に、「総菜類<23.8%→26.4%:2.6ポイントアップ>しており、出社して仕事をするようになった方が会社近くのコンビニエンスストアを利用し始め、スーパーやドラッグストアよりも出現率が上昇しています。

他にも買い物行動の変化に関するアンケートでは(参考図表1)、買物時の変化をフリーコメントで尋ねており、「セルフレジに並んで購入することが増えた(40代女性)」、「なるべくキャッシュレス決済で、色々なモノに触らないようににしている(60代男性)」といった、店員と接触を避けることやキャッシュレス決済を活用し始めたといった声がありました。

決済での現金利用は3割を下回る結果に

実際に決済方法がどのように変化したのか、「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」で分析をしました。

「緊急事態宣言中(4月)」と「緊急事態宣言解除後(6月)」の決済方法をみると、4月の決済方法、1位は「現金(30.4%)」、2位は「クレジットカード(19.3%)」、3位は「(WAON,nanaco,楽天Edyなどの)流通系電子決済(9.6%)」、4位は「PayPay(8.3%)」、5位は「全額クーポン/商品券(6.7%)」となりました。

6月の決済方法をみても、順位に大きな変動はありませんでしたが、緊急事態宣言中(4月)と比較すると、現金の利用者が3割を下回り(27.1%3.3ポイントダウン)、7割以上の方がキャッシュレス決済をするようになりました。

今回の分析結果から、コロナ禍における買い物行動をまとめると、買い物頻度は低下し、「週1回程度」と回答した割合は、感染拡大前と後では25.2%から30.4%に増加し、スーパーにおけるレシートからは平均購入価格と平均購入点数が増え、感染予防対策のために、買い回りせずに、スーパーで生活必需品を買いそろえ、まとめ買いをする傾向が強まっていることがわかりました。決済方法も7割以上の方がキャッシュレス決済をするように変化しました。

他にも、コロナ禍でのワークスタイルやライフスタイルの変化が影響し、「食卓事情」も変化しており、スーパーを利用したレシートからは食品の出現率が1月の76.9%から4月には80.7%まで上昇し、中でも生鮮食品や調味料の出現率が上昇していることから自宅で調理する頻度が高まっているとみられます。

接客を仕組み化する「ルール」と「ツール」

前回は、ファネルの話をいったんお休みして、インストアマーチャンダイジング(ISM)の全体像について解説しましたが、また購買行動のファネル分析の続きに戻ります。ここまでは、お客が店舗を認知し、入店して、商品が目に入るところまでを説明しました。今回は商品をお客が確認し、接客を受け、カゴに入れるところまでを解説します。

接客ルールも標準化しチェーンストアの力を生かす

興味があったものを、お客は手にとり、購入するかどうかを検討します。本当にこれは自分が欲しいものなのか?価格はお値打ちなのか?そういったことを判断したうえで、カゴに入れる(=購入を決定する)のです。

ここでその商品をそのままカゴに入れるのか、ほかの商品に変更するのかを左右するのが接客です。「本当にこの商品が、自分が買うべきものなのか」ということをだれかに尋ねたいときに、お客は従業員に声を掛けます。

接客のフェーズになったときに、接客機会をいかにつくるかは顧客満足度の向上や、客単価アップなどの点から、セルフサービスの店舗にとって非常に重要なポイントです。

それぞれの売場に人がいて、お客がお声がけしやすければそれが一番よいのですが、少人数で運営している店舗においては、そのようなわけにもいきません。

売場に接客を要請するボタンを設置したりするなどして、「接客してほしい」という意思をお客が発信しやすくするというのは、顧客満足度アップのための手軽な方法のひとつです。昨今では、大型のホームセンターやドラッグストア(DgS)で、呼出ボタンを設置している店舗が見られます。

そもそも接客については、これまでほとんどのチェーンできちんと仕組み化されていませんでした。各社「接遇重視・接客重視」という割には、その接客の仕方は現場任せになっています。

一番確実なのは、ワークスケジュールに「接客の時間」をつくることです。最近は店舗に設置されたカメラで記録されたデータから、何曜日の何時に、どの売場にお客の滞留が多いというようなことの分析も可能になってきました。そのデータから「日曜日の15時から17時は化粧品売場のお客が多い」ということがわかれば、その時間帯だけは接客担当の従業員をその売場に張り付ける、というようなワークスケジュールを組むことができます。

もうひとつ考えるべきは「接客ルール」をつくることです。あるDgSには、お客が売場で10秒以上迷っていたら声をかけるというルールがあります。このようなルールを運用している企業は意外と少ないようです。接客の時間ひとつとっても「長く接客した方がいい」、「あっさり引き下がるべき」など、店舗運営部やスーパーバイザー担当者の考え方によって意見が分かれたりします。

このようなバラバラになっているやり方を共通化していくことは、チェーンストアの力のひとつです。共通化して、1,000店舗で同じ手順で業務を行うとき、その手順が5%だけでもよくなれば、全店舗が5%底上げされることになります。ですが、個別に改善しているのであれば、1店舗が5%よくなるだけなのです。接客ひとつとっても、チェーンストアは共通化することで大きなパワーになるのです。

カゴ・カートは手に取りやすいか?

商品を購入するという意思を持ったらカゴに入れます。ここで重要になるのが、カゴやカートをお客に持っていただくということです。

商品を持って店内を移動するとき、ひとつであれば簡単に持っていくことができますが、2つ以上のものを片手に持つのは難しいので、両手がふさがったところでレジを済ませたくなるものです。

ですから、買上点数を向上させるためには、まずはカゴやカートを手に取ってもらうことが重要になります。手に取りやすい、見つかりやすい場所にカゴが設置されているか。店頭のカートは気軽に動かせる状況にあるか、状態は良好かということは、あまり重視されていませんが、大切なチェックポイントといえるでしょう。

実店舗でもCVR(購買率)が重要になってきた

ECの世界では、商品詳細ページを1分半見たのに、結局買わなかったという場合は、当然のように分析されています。商品(情報)に接触した人がそれを買ったか、これは「コンバージョンレート(CVR)」と呼ばれる指標で興味を持った人の買上率です。CVRが低い場合は「商品の説明文を変えてみよう」「迷った人には後日割引クーポンを送ってみよう」などの取組みがなされるわけです。

そして、現在では同じことを実店舗でもやれる仕組みが整いつつあります。画像AIなどによる店頭のデータ分析技術が向上したおかげで「商品を確認したけれども、購入しなかった」というお客の割合を算出することができるようになりました。ですから、そこに対する打ち手を検討し、CVRを上げる施策も検討できるということです。

ちなみに、CVRはカテゴリーによって大きな違いがあります。たとえば、歯磨き粉のCVRを考えてみましょう。

有名メーカーの低価格帯の歯磨き粉は、手に取ったお客はほとんど購入するCVRの高いサブカテゴリーです。とくに不満もなく「家の在庫がなくなったからいつもと同じものを買おう」と計画購買される商品です。

一方、歯槽膿漏などに効果があるような、何百円~千何百円という価格の高付加価値型商品は、店頭の陳列やPOPを見て手に取るものの、そのままカゴに入れて購買に至る人はそう多くはありません。最終的には、懐具合などを勘案して「やっぱり低価格帯のものでいいや」と判断されるお客が少なくないのです。

このように商品によってCVRは違い、それをどう上げていくかは、サブカテゴリーごとに考えていくことが必要なのでしょう。

もうひとつ、かぜ薬カテゴリーについて例を挙げてみましょう。

家族で使う家に置いておきたい大容量のかぜ薬と、「この症状に効く」とうたったパーソナルなかぜ薬では、まったくCVRが違ってきます。安価で大容量の前者の商品は、低価格の歯磨き粉同様、いつも使っている商品で、計画購買で手に取ったお客はほぼ購入されます。

同じぐらいの価格でも3日分しか入っていない、パーソナライズされた症状別のかぜ薬の方は、「本当にこれが自分のかぜに効果があるのか」と迷った挙句、棚に戻されるお客が多くいらっしゃいます。

このような場合に効果があるのが接客です。本当にこのかぜ薬は自分に効果があるのか?ということに疑問を抱いているお客さまに対して、接客することで最後のひと押しになる可能性は非常に高いといえます。

押し売りは顧客満足度を下げる

お客は、①商品選択に関して、自らの知識が足りないから専門家のアドバイスが欲しい、とおもって接客を求めます。

あるいは、②アパレルや化粧品のように、「この色は自分に似合うだろうか」と、専門家ではなくても、第三者の意見が欲しいという領域もあります。お客が第三者の意見を求める理由は、①自分はAかBか判断はつかなかったけど、少なくても一人はAといってくれたらから、Aにしようと判断を委ねたいというのと、②決定を人に任せることで責任を転嫁できるということが挙げられるでしょう。

接客の際の商品の推奨は、きちんとよいものをおすすめすることができればリピートにつながりますが、逆におすすめされた商品が合わないと、次にその従業員に相談するモチベーションは下がります。

最悪のパターンは押し売りされた場合です。推奨商品の売上上位にいるパートさんを、実はお客はこっそり避けている…という話は枚挙にいとまがありません。顧客満足度に与える影響は大きいといえます。

近年は接客時の推奨商品の押し売りはだいぶ減ってきましたが、とはいえそれがお客に与えるストレスについては、どの企業も再考された方がよいようにおもいます。

オンライン商談、91.8%が今後も続くと回答

コロナ禍が小売業にもたらした変化のうち大きなものがコミュニケーションのオンライン化だ。さまざまなコミュニケーションがZoomなどのテレビ会議ツールを通じて実施されることが急激に一般化した。この傾向はこのまま継続するのか。本誌はWEBメディア「MD NEXT」を通じ2020年7月7日から7月12日に、読者を対象としてオンライン商談に関する緊急アンケートを実施。85件の回答を得た。本稿では月刊マーチャンダイジングの記事を一部抜粋し、現状を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2020年9月号より転載)

メーカー勤務者の96.7%がオンライン商談体験

今回の調査の回答件数は85件。業種による内訳は小売業17名、メーカー61名、卸売業7名。

Q2は緊急事態宣言が出された4月7日から解除された5月25日を含む「2020年2月から5月のオンライン商談の状況」について質問したもの。小売業の64.7%、卸売業は42.9%、メーカーに至っては96.7%がオンライン商談を行ったと回答があった。

Q3は、この期間中、体感値でどれぐらいの取引先とオンライン商談をしたかという質問だが、全体で見ると8割と回答したのが14人。5割と回答したのが11人、6人は10割、つまりほぼすべての商談がオンラインになったと回答している。

Q3の回答を業種ごとにグラフ化したものを見てみると、小売業は8割と回答した人が3人、1割と回答した人が4人、0割の人が6人と「大半の商談をオンライン化した」「補助的にオンライン化した」「ほとんど使っていない」という回答が分散している状況。

緊急事態宣言解除後にオンライン商談ゼロの回答も

このような状況を通じて、緊急事態宣言解除後の2020年6月にはどのような状況かというのを全業種の人に尋ねたのがQ4だ。0割の20人、5割の19人が突出しているが、その他の回答は分散していて、全体的な傾向はつかみにくい。

緊急事態宣言期間中は、感染拡大予防の観点や、自社従業員の感染リスク削減のため、外部の取引先企業との対面による面談を禁止する企業がメーカー、小売ともに多数見られた。緊急事態宣言解除後である本記事執筆中の2020年7月時点でも、商談はすべてオンラインで実施しているという企業も見受けられる。一方で対面の商談を実施している企業もそれなりの数はあるということであろう。

人気のツールは圧倒的にZoom 。次いでTeams、Meet

Q5はオンライン商談で使ったことがあるツールについて、複数回答可で集計したもの。圧倒的にZoomの利用率が高い。また、MicrosoftTeamsや、Skype、Google Meetがそれに続く。なお、アンケートの回答項目にはWhereby、ベルフェイス、V-CUBEミーティングなどもあったが、こちらには回答がなかった。

メリットの圧倒的1位は移動時間の削減

Q6、Q7はオンライン商談のメリット、デメリットについての印象を、小売業とメーカーの回答からまとめたもの。

メリットの1位は、小売業もメーカーも突出して「移動時間の削減」を挙げる。とくにメーカーのセールスパーソンにとって、最大のアイドルタイムとなるのが取引先への移動時間をカットできるとあって

また、メーカー、小売業双方が、メリットの2位、3位として挙げている「商談時間の削減」「商談の目的が明確になる」というのはそれぞれリンクしているとおもわれ、「商談の目的が明確になったから、商談時間が削減できた」「雑談が減って、重要なテーマについてのみやりとりしたことで結果商談時間が短くなった」と推測できる。

「ごあいさつに立ち寄る」など、ちょっとしたフェース・トゥ・フェースのやりとりができなくなったことは、営業担当者によっては無駄な時間のカットになり得るし、ちょっとしたコミュニケーションが取りにくい歯がゆさを感じる人も多そうだ。

Q7のオンライン商談のデメリットとしては、小売業、メーカーともに1位「コミュニケーションの質が落ちる」、2位「提案・推奨しにくい」、3位「取引先によって使うツールが違う」の順。その他のデメリットとして「表情が読みにくく、デリケートな質問ができない」「反応が読みづらい」という、対面ならではでわかる「雰囲気」がわからないという回答が主にメーカーの方から寄せられている。

また、同じくメーカーの方から「製品の現物を触っていただくこと、売場展開を見ていただくこと、香りの確認などができない」と、オンライン商談の本質的な欠点を指摘する声もあった。

また、「複数人で話をしていると、発言のタイミングがつかめない」(小売業)、「一方的に話してしまいがち」(メーカー)など、やりとりがオフラインと違うことに対する戸惑いもあることがわかった。「パッションが伝わりにくい」(メーカー)という声も。オンラインになるとどうしても「味気ない情報のやりとり」になってしまいがちだが、それをどう克服するかという悩みが生じているようだ。

91.8%が今後もオンライン商談は続くと回答

Q8では、今後のオンライン商談に関する見通しを聞いてみた。実に回答者91.8%の人がなんらかの形でオンライン商談は続くだろうとしている。興味深いのは、「オンライン商談はなくなり、コロナ禍以前の状況に戻る」と回答した人がメーカーに11.5%いたのに対し、小売業では0%だったということだ。

「便利だが提案するのには難がある」「小売業は商談のオンライン化を受け入れないに違いない」と考えるメーカーに対し、「これは便利だ!」と前のめりにオンライン商談を導入していこうとする小売業の意向が、本調査によって浮き彫りになる結果となった。

「ウエルシア」はイオン(小売)の「営業利益」の50%を稼ぐ

イオングループの小売事業部門の中で業績が絶好調の「ウエルシアHD」は、2020年決算の売上高が8,682億8,000万円となり、ドラッグストア企業の売上高ナンバーワン企業に成長しました。アメリカ型の「調剤併設型ドラッグストア(DgS)」を目指すウエルシアHDの現状と過去を整理してみました。

イオン小売事業でダントツの成長率

図表1は、イオンの2020年2月期の連結決算の数値です。GMS、SM、ウエルシアHDの3つの事業を小売事業として計算すると、イオンの小売事業の営業収益(≒売上高)は7兆1,780億円です。ウエルシアHDの営業収益は8,832億円なので約12.3%を占めています。前年比成長率ではGMSとSMがマイナス成長なのに対して、ウエルシアは前年比11.2%も営業収益を増やしています(ウエルシアHDの単独決算では売上高8,682億8,000万円であり、若干数値が異なりますが、誤差の範囲として併記します)。

一方、ウエルシアHDの営業利益は350億円。GMS+SM+ウエルシアHDの合計の営業利益高が631億円なので、イオンの小売事業の営業利益高の約50%をウエルシアHDが稼いでおり、ウエルシアがイオングループの稼ぎ頭であることがわかります。営業利益率(営業収益対)は約4%と、GMSの0.2%、SMの0.6%と比較すると、ドラッグストア(DgS)の収益性の高さが際立ちます。

図表2は、新型コロナウイルスの影響が大きい第1四半期(3月1日~5月31日)の連結決算の数値です。ウエルシアHD、SMの小商圏業態の業績が好調なのに対して、大型ショッピングモールを開発・運営する「ディベロッパー」の営業収益が前期比マイナス31.6%と大きく落ち込んでいます。また、大型ショッピングモールの核店舗である「GMS」の営業収益も前期比マイナス6.4%です。

さらに、大型ショッピングモールのテナント事業である「サービス・専門店」の営業収益も前期比マイナス27.1%です。新型コロナウイルスの短期的な影響と分析する人もいるかもしれませんが、イオンは「大型ショッピングモール」という、これまでの核になる事業の根本的な見直しを迫られているのではないかと思います。

ウエルシアは平成に最も成長したDgS

ウエルシアHDは、平成時代の中期から後期にもっとも成長したDgS企業です。ウエルシアHDの前身は、創業者の(故)鈴木孝之氏が1965年(昭和40年)に埼玉県春日部市に開店した「一ノ割薬局(鈴木薬局)」です。当時の年商は7,000万円弱の零細商店からの出発でした。

同社の驚異的な成長の原動力は、「日本一のドラッグストアをつくる」という壮大なビジョンを共有する仲間たちとの出会いと、合併戦略です。鈴木孝之氏は、春日部の商店街の薬局経営を経た後、1995年(平成7年)に株式会社グリーンクロスと社名変更し、同年4月に埼玉県上尾市に郊外型大型店の1号店を開店しました。

1995年(平成7年)のマツモトキヨシの売上高が1,000億円を突破していたことと比較すると、当時のウエルシアの前身は、DgSの成長レースのスタートラインにも立っていなかったことがわかります。しかし、25年後の2020年にはマツモトキヨシの売上高を超えて、DgSの売上高日本一になりました。まさに奇跡的ともいえる急成長でした。

急成長の原動力は合併戦略です。1997年(平成9年)に同業の株式会社コアと合併し、株式会社グリーンクロス・コアに社名変更したことが最初の合併です。グリーンクロス・コアの飛躍の大きなキッカケになったのが、2000年(平成12年)にジャスコ株式会社(現イオン)と業務・資本提携を行ったことです。そこからウエルシアHDの大量出店が始まり、2001年(平成13年)にはジャスダック市場へ店頭公開を果たしています。

その後は、地方の名門DgSとの合併を繰り返しながら成長してきました。2015年(平成27年)には、昭和の時代から日本のDgSづくりをリードしてきた「CFSコーポレーション(旧ハックキミサワ)」をウエルシアHDが子会社化しています。時代の移り変わりと栄枯盛衰を象徴するような出来事でした。そして創業者の鈴木孝之氏が亡くなられた後の2014年11月に、イオン株式会社がTOBによりウエルシアHDの株式の51%を取得し、イオンの連結子会社になって現在に至っています。

調剤併設DgSがウエルシアのビジネスモデル

ウエルシアHDは、薬剤師である鈴木孝之氏が創業期から一貫して「調剤併設型DgS」を事業の根幹として据えており、その理想はまったくぶれませんでした。10年ほど前は、調剤は手間がかかるし、薬剤師の人件費がかかるので、調剤併設に二の足を踏むDgS企業も多かったと記憶しています。

しかし、2020年のウエルシアHDの調剤売上高は1,554億5,200万円と大きく成長しました。ウエルシアの既存店売上高成長率の高さは、調剤部門の伸び率がけん引しています。調剤薬局最大手の「アインHD」の調剤売上高約2,500億円に迫るほどです。10年前のウエルシアHDの調剤売上高は、アインHDの調剤売上高の10分の1以下だったことを考えると、この10年間の調剤事業の成長率の高さが実感できます。調剤構成比の高い米国型の「調剤併設型DgS」に向かって着実に歩みを進めてきたことがわかります。

ウエルシアHDの調剤の売上構成比は17.9%です。ウォルグリーンなどのアメリカのDgSの調剤の売上構成比は70%を超えています。米国DgSと比較すると、ウエルシア調剤の売上構成比はまだまだ低いですが、ウエルシアHDの調剤比率は年々高まっています(前年の調剤構成比は16.7%)。

アメリカのDgSは、医者が書いた処方箋の調剤薬を提供する「地域でもっとも身近な医療機関」と位置付けられます。売上高に占める調剤比率が70%ということは、純粋な小売業ではなくて、医療機関が物品販売も行っている業態と表現してもいいくらいです。2018年のGallup調査によると、アメリカで「最も信頼される職業」のトップ3は、1位は看護師、2位は医師、3位は薬剤師です。アメリカの薬剤師は、自宅から近いDgSで働いていて、気軽に相談できて、かつ信頼のおける資格者として、アメリカ人の日常生活になくてはならない存在になっています。

鈴木孝之氏は生前の2013年1月に発行した『運と縁に導かれて』という書籍の中で、「5年以内を目標に調剤の売上構成比を50%に持っていきたいと考えている」と述べています。薬剤師でもある鈴木孝之氏は、薬剤師がもっとも身近な医療関係者として活躍するアメリカのようなDgSの実現を夢見ていたのだと思います。

DgSの市場規模7兆5,000億円に匹敵する「調剤市場7兆7,000億円」のシェアを獲得することが、次の10年のDgSの成長を左右するといっても過言ではありません。将来的にはアメリカ並みの調剤構成比のDgSが誕生する可能性も現実味を帯びてきました。(故)鈴木孝之氏は、創業のころから「先見の明」があったのだと思います。

「商業界」滅びるとも、「商業界精神」は死なず

2020年4月、70年の歴史があった老舗出版社の「商業界」が倒産しました。商売の王道である「商人道」を説き、多くの商人に多大な影響を与えた続けた商業界精神は、会社は滅びても永遠に語り継がれるべきものだと思います。

会社はなかなか潰れない だから革新が遅れる

私事で恐縮ですが、23年前(1997年)に月刊MDを創刊する前に勤めていた株式会社商業界が4月2日に倒産しました。私は、独立する直前まで商業界の月刊『販売革新』の編集記者でした。販売革新という雑誌は、日本のチェーンストア産業の「理論」を支えてきた流通業界の歴史に残る稀有な雑誌だと思います。

その雑誌で働いたことで、小売業の理論の多くを学ぶことができたことを今でも感謝しています。亡くなられたペガサスクラブの渥美俊一先生などの流通業界の一流コンサルタントの皆さんとの出会いも、その後の記者としての理論構築に大いに役立ちました。販売革新に在籍していたことは誇りでしたので、その会社が倒産したことは正直ショックでした。

私が商業界を辞めた理由の第1は、編集方針の違いでした。当時の最大手だったダイエーを礼賛する記事ばかり書いていました。ダイエーの創業者の息子が鳴り物入りで開店した「ハイパーマート」という新業態を取材に行くと、「便器がなくて下を水が流れている昔の小学校のようなトイレ」でした。トイレを簡素にしてまでローコスト経営にこだわったのかと当初は感激しました。

しかし、一級建築士に聞くと、特注だからTOTOの普通のトイレの方が安いと言われました。つまり、わざわざコストをかけてローコストを演出していたわけです。上司に褒めてもらうためだけに。こんな新業態を礼賛したら「販売革新の名がすたる」と会議で反対しましたが、まったく意見は通りませんでした。

また、当時勃興期のドラッグストア向けの雑誌を創刊すべきだと、役員に進言しましたが、これも完全にスルーされました。だったら自分でつくってやると、若気の至りで月刊MDを個人で創刊してしまったわけです。

辞めた理由の第2は、「年齢給一本」という異常な給与体系だったことです。赤旗系の労働組合が強く、能力・職務に関係なく「年齢を聞けば給料がわかる」という会社でした。当時、経営者を除くと、一番給料の高かった社員は、地下のボイラー室で働く50代後半のボイラーマンでした(本当の話です)。私はほとんど参加しませんでしたが、賃上げの時期には過激なストライキも実施していました。

「こんな会社いつかは潰れるさ」と思って独立しましたが、倒産したのは独立から23年後です。会社はなかなか潰れないものです。だから、現状維持に甘んじて、革新が遅れて、気が付いたら手遅れになってしまうのです。

独立して初めて経営の全体像が理解できた

37歳で独立して最初に痛感したことは、「会社をやめればただの人」という悲しい現実です。販売革新時代に親しかった小売業の経営者や、経営コンサルタントからは露骨に距離を置かれました。そりゃあそうだ。天下の『販売革新』を敵に回して独立した、ただの平社員を応援する稀有な人などいるわけもありません。多くの人がニコニコ笑いながら後ずさりしていた光景を今でも忘れません。

苦労もありましたが、独立して良かったこともありました。良かったことの第1は、販売革新の名刺ではなくて、月刊MDで積み重ねてきたことを正当に評価してくれる多くの新しい出会いがあったことでした。「人は他人には興味がないが、誰も見てないわけではない。努力すれば必ず誰かが見ている」という人生の格言を体験することもできました。

独立して良かったことの第2は、会社経営の全体像を自然と理解できたことでした。サラリーマンの記者時代は、知識はあっても、経営のリアリティはわかりませんでした。販売革新に在籍中に「低損益分岐点回転率」というトンデモ理論を唱えていた経営コンサルタントがいました。商品回転率の低い「死に筋在庫」を売場に山積みすれば、損益計算書が改善し、営業利益が増えるという理論でした。販売革新時代の私は、「それはすごい理論」だと思って、そのコンサルタントに執筆してもらったこともありました。

しかし、独立して自分で会社を経営すると、不良在庫も資産なので、短期的には営業利益が増えるが、不良在庫は現金化できないので、いずれ資金繰りが悪化することがわかりました。月刊MDは余分に在庫を持たない主義ですが、経営が悪化して赤字を黒字にする方法は簡単です。月刊MDを余分に印刷し、在庫資産として計上することです。そうすると、あら不思議。赤字が黒字に変わります。

でもいずれは資金繰りが行き詰まります。そして、雑誌の不良在庫を廃棄すれば、利益が大きく減少します。小売業のPB開発の失敗と同じ理屈です。自分で会社を経営することで、キャッシュフローの重要性を身をもって知ることができました。これは、貴重な経験であったと思います。

余談ですが、絶好調のドラッグストアが不良在庫資産を損失計上せず、大量返品でカバーしているとしたら、短期的には良いが、長期的にはしっぺ返しを食うと思います。商売には「王道」と「覇道」があります。自分だけが良ければいいという「覇道経営」が必ず行き詰まることは、歴史が証明しています。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ

残念ながら商業界は経営破綻しましたが、商業の歴史に残る多くの経営者に大きな影響を与えてきた「商業界精神」と「商売十訓」は普遍的な価値観であり、後世に伝えるべき歴史的な精神であると考えます。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉は、初代ドイツ帝国宰相のビスマルクが残した言葉です。個人の「経験知」ではなくて、歴史を学ぶことは多くの先人たちの「集合知」を勉強することです。集合知を知ることは、未来への正しい判断を導くものだという格言です。未来への経営判断を間違わないためにも歴史を学ぶ必要があります。

「商業界精神」と「商売十訓」は、商人の歴史を研究し、長い期間の歴史の風雪を乗り越えて語り継がれた普遍的な価値観や哲学を、現代の言葉に編纂したものでした。下記の商売十訓に書かれている言葉は、当時の多くの商人達に多大な影響を与えました。たとえば商業の「暗黒面」に堕ちそうになった時に、商売十訓に書かれている言葉で救われた小売業経営者も多かったと思う。

商売には、「王道」と「覇道」があります。商売十訓は、「自分たちだけが儲かればいい」という商売の「覇道」の暗黒面に堕ちるのではなくて、従業員や社会の幸せに貢献する「王道」を進むべきという戒めを言葉にしたバイブルです。「商業界滅びるとも、商業界精神は死なず」という言葉を古巣に送りたいと思います。
(この記事は月刊MD5月号で掲載した記事を再編集したものです)

エッグスンシングスが発表したウィズ・アフターコロナの飲食店構想

EGGS ‘N THINGS JAPAN株式会社は2020年7月27日、非接触型「AIアバターレジ」構想記者発表会を開催し、ウィズ/アフターコロナ時代の飲食店運営を目指すための「Customer Along Service(CAS)」構想を発表した。(ライター:森山和道)

EGGS ‘N THINGS JAPAN株式会社は2020年7月27日、非接触型「AIアバターレジ」構想記者発表会を開催し、ウィズ/アフターコロナ時代の飲食店運営を目指すための「Customer Along Service(CAS)」構想を発表した。

「CAS」は飲食業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指す構想で、エッグスンシングス各店舗で試験導入中のスマートフォンを活用した「事前注文システム」「テーブルオーダーシステム」、タグを使った「カスタマートラッキングシステム」、そしてAI スタートアップのウェルヴィル株式会社と共同開発した飲食店向け非接触型「AIアバターレジ」等からなる。「AIアバターレジ」は10月に実証実験を行う予定。既に導入中の「事前注文システム」「テーブルオーダーシステム」、「カスタマートラッキングシステム」はEGGS ‘N THINGS JAPANの親会社であるクージュー株式会社と、ウェルヴィルが共同出資して設立したRetar(レター)株式会社から販売する。アパレルなど飲食業以外の業態への横展開も視野に入れる。

飲食業のDXはコロナ禍前から必要だった

EGGS ‘N THINGS JAPAN株式会社 代表取締役 松田公太氏

会見ではまず、エッグスンシングス代表取締役の松田公太氏が、外食産業の現状と、同社のITシステム導入成果、「AIアバターレジの構想」、「アフターコロナ時代の飲食店DX推進」等について解説した。新型コロナ禍のなか、外食に限らず、テナント型事業者にとっては出口の見えない状況が続いている。エッグスンシングスでも5月の前年比売り上げは9割減。6月になって客足は戻ってきたが35%減、さらに7月になって感染者数が増えるとその度に売り上げが減り、7月は6月と比較しても厳しい状況だという。

松田氏は「この状況はワクチンが開発されて世界に行き渡るまで続くと見ている」と語った。そして、ワクチンが出来たとしても「以前のようには戻らない」と見ており、「新しい生活様式(ニューノーマル)のようなパラダイムシフトが起きている」と述べた。

多くの企業はテレワークを推進しており、オフィスに集まらなくても事業ができるかたちを目指すことになる。テレワークが進むと、昼間にオフィス近辺でランチを食べることもなくなる。そうなると飲食業の多くは過去の売上と比較すると70%~80%に減少すると見ているという。これは厳しい数字で多くの外食産業は赤字になってしまうことを意味している。

特にイートイン型業態は非常に難しい。いっぽう、テイクアウト型は売上を伸ばすことができているところもある。なかには社長自らがデリバリーをやっているところもあるという。しかし、デリバリーを加えても前年比9割くらいにまでしか戻せないのが現状だ。飲食業は損益分岐点が非常に高く、9割でも赤字になるところが多い。営業利益は4%、5%程度しかないからだ。

ただし、コロナ禍で状況は加速しているものの、飲食店が置かれている厳しい状況は以前から続いていたものでもある。そのため、松田氏は昨年からクージュー社ではシステム開発を続けてきたと紹介した。そして、外食産業が生き残っていくために必要なシステムとは「食のホスピタリティの進化=DXの必要性」だとし、「DXを早急に実現していかないと外食産業はどんどん潰れる」と続けた。デリバリー等を活用することで売上を90%くらいまでは戻せるとしても、残りの1割をカバーするには、RPAのようなIT技術や、AIを駆使して生産性を上げていくしかない。

しかし、食の世界でIT化による効率化を進めるとホスピタリティがなくなってしまい、サービス力が下がってしまうのではないかという懸念もある。松田氏も「飲食は人と人が接して、出来立ての料理を運ぶことから温かさが生まれる」と述べ、「人を介することが飲食業においては重要だと思っている。人の手を介するからこそ感動が生まれる」と強調した。「人を介することが飲食業においては重要だと思っている。人の手を介するからこそ感動が生まれる」と語った。効率化の推進と同時に、人の温もりの良さ、心を込めて作るということを残しながら、外食産業が利益を出せるようにしていかなければならないと考えているという。

「テーブルオーダー」は注文・会計時間を月に250時間削減

顧客に寄り添う食のDX「Customer Along Service」構想

今回発表された「Customer Along Service」は、効率化だけではなく顧客に寄り添っていこうというコンセプトのもと、DXを進めていこうという構想だという。顧客一人一人に価値を提供できるITサービスであり、顧客側から見ると、個々にあった趣味嗜好を把握した事細かなサービス提供、コロナ禍の非接触環境の提供やスマートなオーダーなどが可能になる。店舗側から見ると決済処理の実現、そして作業はITに任せることでオペレーションを効率化、空いた時間をさらなるホスピタリティに専念できる職場環境の実現などを目指す。そして飲食だけではない他業種との連携により、お互いに顧客をフォローしあい、ロイヤリティを向上させていく仕組みの実現を目指す。

顧客と飲食その他の業態で価値向上を目指す

「事前注文システム」、「テーブルオーダーシステム」、「カスタマートラッキングシステム」の3つは既に御殿場店等の実店舗で稼働している(https://order.eggsnthingsjapan.com)。AIアバターレジの実用化は10月から実証実験を行なっていく。

事前注文システムはスマホを使って顧客が来店前に専用ウェブサイトから商品の注文と決済を行うシステムだ。エッグスンシングスではコロナ禍前から開発を進めていたが、松田氏は昨今のモバイルオーダーシステムの乱立状況についても触れて「一挙にレッドオーシャンになってしまった」と語った。

スマホを使った事前注文システム
スマホ画面

「テーブルオーダー」も、顧客が自分のスマホとQRコードを使って注文するシステムで、使うことでレジに並んで決済する必要がない。店舗側からすると顧客案内やレジ作業がなくなり、人件費削減につながる。実証実験の結果、見えてきた現状としては、特に「テーブルオーダー」は来店客の1/4が使用しており、注文・会計時間を月に250時間削減することができたという。

「テーブルオーダー」システム
スマホでQRコードを読み取って注文する
実証実験の効果

顧客の店舗内位置情報を把握する「カスタマートラッキングシステム」

顧客の店舗内位置を把握する「カスタマートラッキングシステム」

いっぽう、「カスタマートラッキングシステム」は飲食業においては本邦初だという。タグを用いることで顧客が店舗内のどこにいるかを追跡することができる。レジでオーダーと決済を済ませた顧客に小型のタグを渡す。そのタグの位置を店舗が追跡する。

「カスタマートラッキングシステム」のタグ
顧客の店舗内位置を追跡可能

フードコートで渡される呼び出しベルに似ているが、振動や音はない。また番号札方式と違って顧客側が番号を気にしたり、店員が探し回る必要がない。松田氏は「煩わしさを全て解消できる」もので、これによって顧客は「仕組みに縛られることなく自由な感覚でカフェを楽しめる」と述べた。

同時に、トラッキングシステムなのでさまざまなデータも入手可能だ。どの顧客が何分待ってるかも把握できるし、動線もわかる。これらのデータの蓄積・解析が可能で、今後は蓄積したデータを飲食だけでなく、アパレルともコラボするなど、外に出て繋がる仕組みを考えているという。

デバイスをモノに貼って顧客を個別認識する「カスタマートラッキングシステムVer.2」

タグを活用した「カスタマートラッキングシステムVer.2」

今回、「カスタマートラッキングシステムVer.2」も同時に発表された。これはドリンクの持参タンブラーやサラダボウルなどにタグをつけることで、顧客がいつも頼むメニューや好みなどを自動把握したり、自動決済を実現する仕組み。これによって「顧客との接点がレジではなくバリスタになる」と松田氏は述べた。これまではレジが顧客接点だったが、バリスタやシェフのような、提供飲食物の作り手が顧客とコミュニケーションするべきだというのが松田氏の考え方であり、「Customer Along Service」が掲げる、ITによるホスピタリティを深めることができるようになるものだという。

具体的な技術の詳細については明らかにされなかったが、Bluetoothを活用しているという。

顧客の好みの把握や自動決済を実現する

対話で完全非接触を目指す「AIアバターレジ」は10月から

AIアバターレジ

「AIアバターレジ」は、AIアバターを使った受注決済システム。タッチパネルを用いたセルフレジとは異なり、完全非接触型の注文を実現する。開発したウェルヴィル株式会社CTOの樽井俊行氏は、AIアバターレジは、アバター、決済、AI対話の3つの機能で構成されていると紹介。特にAI対話はAIが人間に対して会話をリードすることがポイントとなっており、音声をテキスト化し、言語を解析して合成音声とアバターで応答することができる。会話は書き言葉とは異なり、意味的に曖昧だったり、主語が省略されることも多い。だがこのシステムは省略された部分を補って正規化を行い、何を言おうとしているのか認識することができる。内容は全てデータ化しており、最終的に合計金額の計算や精算処理、調理指示などに回すことができる。ホール内でのテーブル案内なども可能だ。

AIアバターと会話でやりとりすることでオーダーする
ウェルヴィル株式会社CTO 樽井俊行氏

AIアバターには現実のスタッフの姿を使っている。松田氏はAIアバターレジの次のステージとして、来客に対してどういうスタッフが出て行ったらコミュニケーションを図れるのかについても突き詰めていきたいと述べた。

一連のサービスを販売するレター株式会社代表取締役 久木田敬志氏は「飲食以外にも提供していきたいと考えている」と述べた。販売価格については「事前注文システム」と「テーブルオーダー」は月額2万円~3万円を想定するが、詳細は対象店舗数などで変動する。クラウドシステムであるため、規模感は特に制限なく対応できる。大型店舗の場合は与件定義を行い、都度カスタマイズしていく。「カスタマートラッキングシステム」については現時点では決まってないという。「AIアバターレジ」に関しては、「人件費を半分くらいにできるようなイメージでの提供を考えている」とのことだった。

Retar株式会社 代表取締役 久木田敬志氏