2020年10月、JR山手線目白駅改札口隣に「KINOKUNIYA Sutto」がオープンした。この店舗は無人決済レジシステムを導入しており、レジでの商品登録作業なしに、お客が手に取った商品の合計金額を計算、セルフで会計を済ませることができる店舗だ。国内でも先進的なこの取組みの開発と導入の背景について、株式会社TOUCH TO GOの代表取締役社長、阿久津智紀さんにお話を伺った。(取材・文:MD NEXT 鹿野 恵子/月刊マーチャンダイジング2021年1月号より抜粋)
2019年には、無人AI決済店舗の開発をさらに加速するため、JR東日本スタートアップとサインポストが合弁で株式会社TOUCH TO GO(以下TTG)を設立。2020年3月、JR山手線の高輪ゲートウェイ駅構内において、無人AI決済店舗の第1号店となる「TOUCH TO GO」を開業した。そして、2020年11月に開店したKINOKUNIYASutto目白駅店は、同システムの外部導入第1号店となる。
阿久津さんがCVCを立ち上げた背景には、JR東日本という超大企業で感じた「歯がゆさ」があった。「大企業は大きすぎて、スピード感ある意思決定ができません。予算取りで1年かかるようなことは往々にしてありますし、システム発注の仕様決定にも時間がかかる。PoC(Proof of Concept新しい技術や理論が実現可能か、目的の効果や効能が得られるか、などを確認するための検証工程のこと)すら進めることができません」。しかし環境変化のスピードは日に日に早まっている。物事を決定してから数ヵ月以内に着手しないと、世の中の流れ自体が変わってしまいかねない。
既存の製造業以外の分野でのロボット活用が期待されると言われ始めて久しい。しかし実際にはなかなか始まらなかった。主な理由は二つ。高コストと技術不足である。しかしながら技術は徐々にであっても着実に向上していく。ロボットはようやく、それなりに物体を認識し、比較的安定して移動できるようになり、事前マスター登録しようがない多品種商品であってもある程度なら扱えるようになった。使い勝手も徐々に徐々にだが向上し始めている。少なくともメーカーもロボット慣れしてないユーザーのことを意識し始めている。導入においても購入だけではなくリースやRaaS(Robotics as a Service)と言われるモデルが登場し、自社でハードウェアアセットを保有しなくても、ロボットを使ったサービスのみを活用できる社会的な仕組みが構築されつつある。
いわゆるAI活用であれば、需要予測による自動発注や販売管理、惣菜の割引幅自動算出や欠品予測などが既に始まっている(NEC、日立、富士通などのシステムのほか、ベイシアとオプティムによるシステム、東急ストアとダイエー、シノプスによるシステムなど)。また決済や広告提示の可能なスマートカートの活用(トライアルによる取り組みなど)、環境固定カメラの活用による無人ショッピング(TOUCH TO GO)等のほか、チャットボットによるリコメンドや商品問い合わせ対応、写真画像を使ったビジュアル検索などなども活用され始めている。
だがGTPタイプは初期投資が必要である。そこで、既存の棚倉庫でのピックアップを助ける自律走行搬送ロボット「AMR(Autonomous Mobile Robot)」も活用され始めている。ロボットがピックアップをサポートし、人が歩く距離を限定することで歩行距離を減らすことができる。国内ではGROUNDやRapyuta Robotics、Syrius Japanなどが提供している。レトロフィットを重視する場合はこちらということになる。
その後、POPの期限チェックだけでなく商品棚の品切れ検知機能なども開発し、2020年12月には、日本ユニシスから小売店舗の棚チェックを行うAIロボットサービス「RASFOR(Robot as a Service for Retail)」として外部提供も始まった。2021年6月ごろには陳列状況を把握する棚割実態把握機能の追加を予定しているとのことだ。
使用されているロボットはハウステンボス系のhapi-robo stが国内代理店として販売している temi USA inc.の「temi」。ただ、カインズに筆者も実際に訪れて店舗で試してみたが、まだ使いこなせているとは言い難かった。そもそも案内ロボット自体が目立っていないし、操作インターフェースも使いづらい。これはロボットだけではなくデジタルサイネージも同様だった。