「デジタライゼーション」による産業革命の中で流通小売業はなにを目指すのか

日進月歩で進む技術革新をスピーディーに「ビジネス」レベルに落とし込み、それを社会システムの中に組み込んでいくという点で、中国は世界でもトップランナーであることは間違いない。アジアでは台湾、欧州ではエストニアといったIT立国も挙げられようが、規模と影響力で考えれば、中国はやはり米国と並び立つ存在である。(流通ジャーナリスト:流川通)

戦後日本の流通小売企業の多くは、米国チェーンストアを範として、視察を繰り返し、一商店、一家業から、企業へ、産業化への道を歩み、ウォルマートやアマゾンには詳しいが、アリババやテンセントといった中国企業の知識はキャッシュレス決済と越境EC(電子商取引)サイト運営の巨大企業といった程度でとどまっている人が多いのではないだろうか。中国ビジネスを紹介する書籍は増えてきたが本書が優れているのは、中国の先端企業の事例を挙げながら、彼らの思考のフレームワークを整理し、体系化、さらには行き着くビジョンを明らかにしている点である。巷で流行りの「DX」(デジタルトランスフォーメーション)や「CX」(カスタマーエクスペリエンス)という言葉はこの思考のフレームワークと体系、ビジョンの中で理解しなければ、狭小なビジネスの部分最適に終始してしまうだろう。

ディディとフーマー

ウーバーは知っていてもディディは知らない、ウォルマートは知っていてもフーマーは知らない人は多いだろう。

ディディはウーバーと同様のアプリ配車サービスだ。ウーバーも乗客と運転手の相互評価による「信用スコア」による報酬システムを構築しているが、ディディのそれは、ユーザー満足ポイントを徹底してより客観的なデータ取得によって計測している点だ。「配車リクエストの応答時間」「リクエスト後のお待たせ時間」、さらには、急発進、急ブレーキ、速度などのセンシングも記録され「目的地到着時間と安全運転度」という顧客接点ポイントをすべてデータ化し「乗客を安全に目的地へ運ぶ」を実現している。中国でタクシーを乗った人なら理解できると思うが、かつて中国のタクシーは日本では考えられないほど激しい運転だった。しかし中国のモバイルユーザーのうち約45%の人が使うまでになったこのディディの登場によってドライバーのマナー、品質向上が図られたのである。

米国スーパーマーケットの雄クローガーが、店内カメラによってレジ待ち時間の短縮を行い顧客満足度を向上させたのも、このようなセンシング技術をオペレーションやマネジメントの向上に活用した事例だが、小売業の持つ顧客接点のセンシングとリアルデータベース化は、UX(ユーザーエクスペリエンス)改善の具体的なツールとしてより認識されていくに違いない。

フーマーはアリババが展開するEC機能を持つスーパーマーケット企業である。フーマーが立地する3キロ圏内なら30分以内に店内の商品を配送してもらえるサービスが核となっている。

アマゾンフレッシュと同じようなサービスだが、フーマーの店内は、中国スーパー特有のフードコートとのコンボスタイルで、生け簀で魚が泳ぐ姿を眺めながら、お客はその隣で食事をとることができる。ECサイトから注文が入るとそこからピッキングし加工され配達される。お客は、フードコートにも食べに来るので、その様子を実際に見ることができるのだ。

店内はオンライン端末を持った店員がデリバリーピッキングを行っており、ピッキングから店舗に併設された配送センターに届くまでの所要時間は5分。配送センターには専門のドライバーが待機している。お客は店頭でもデリバリーでもアプリ上で決済でき、利用頻度と状況に応じたパーソナライズ画面が設定され、ロイヤルティプログラムを享受することができる。

店内に生け簀があり、デリバリーピッキングが往来する躍動感を本書では「リテールテインメント」(リテールとエンターテインメントを掛け合わせた造語、リアル店舗の価値を表す要素のひとつ)と評している。

「リアル店舗の楽しさ×宅配の利便性」の両輪をまわすことで、フーマーがある地域の不動産相場が他エリアよりも高くなっているほど影響力が高いという。しいて言えば、米国アマゾンが都市部のホールフーズでピッキングサービスを実施しているイメージだろうか。

フーマーの特徴は、表面的なものにとどまらない。「生産―仕入れ―加工―在庫管理」までのサプライチェーンを顧客起点で設計しているため、いわゆる生鮮の廃棄ロスは最小限に抑えられているという。しかも、アリババのオンラインユーザーデータベースと連結しているために、このようなリテールテイメント型ストアが成立する立地を事前に詳細に分析できる。出店当初は、オンライン利用が8-9割からスタートするが、お客が店舗体験をすることによって、来店売上は4割程度まで上昇する。このモデル構築によって、フーマーの店舗は赤字店がほとんどないという。

OMOの世界を体現する平安保険

フーマーのモデルは、日本でもかつてさかんに使われたオムニチャネルやO2O(オンラインtoオフライン、オフラインtoオンライン)といった次元から一歩抜け出たものだ。

オムニチャネルもO2Oも、ひとつの小売企業が起点となり、ECからリアル店舗への送客、リアル店舗からEC利用を促すといった双方向コミュニケーションを志向したものだったが、フーマーはアリババという巨大なプラットフォームの一接点に過ぎなく、お客は、その時々のニーズ、ウォンツでフーマーをひとつのコンテンツとして利用している。つまり、今日は仕事で忙しかったので、帰宅するころ合いに、出来立ての食事を届けてもらいたい、あるいは週末、家族が久しぶりに揃うからフーマーに食べに行こうというというニーズを実現するのはもちろんのこと、その家族の誕生日プレゼントは、アリババのサイトで購入し、すべてアプリ上で決済が行える。子供に良い家庭教師を見つけるのも、保育サービスや医療サービスを見つけるのもアプリを駆使する。

小売もまたその巨大なプラットフォームの持つデータベースを利用して、業態開発や出店を行っている。いうなれば、デジタルという大きなフレームワークの中で、バリューネットワークをデザインする、あるいはビジネス化するという発想が起点になっている。

これを著者は、「OMO(Online merges with Offline)オンラインとオフライン世界の一体化」と表現している。オフライン、つまりリアル店舗は常にオンライン世界の中で利用され、そのポジションが刻々と変化していくことを余儀なくされていく。

本書では、このOMOの世界をもっとも端的に表している企業として「平安保険グループ」の事例を挙げている。

平安保険は1988年に創業した保険会社だったが、2013年に中核だった金融ビジネスの枠を超えて、デジタルサービスを起点にした医療、移動、住宅、娯楽といった生活圏サービス業に変換し、成功を収めている企業である。

中でも、「平安グッドドクターアプリ」は約2億人のユーザーが利用するという魅力的なコンテンツだ。主要機能は3つ。1つ目は、無料で制限時間内で医師に問診サービスが受けられる、2つ目は、病院の予約機能があり、その病院医師のキャリアと評価スコアも公開されているので、自身で予め希望するマッチングができるようになっている。3つ目が「ユーザーが歩くだけでたまるポイントシステム」。歩いてたまったポイントでアプリ内の健康食品や化粧品、医薬品などを購入できるようになっている。このポイントシステムは、1日1回必ずポイントを換金しないとリセットされてしまうために、必ずこのアプリを1日1回見るようになってしまうところに勘所がある。

米国ドラッグストア企業ウォルグリーンも医師や薬剤師との問診ビデオチャットサービスを取り入れているが、平安保険は、このアプリを、膨大な行動データ収集にとどまらず、実際のリアルな営業ツールとして活用しているところに特徴がある。ウォルグリーンのアプリは便利だが、店舗の従業員と必ずしも同期化されていないので、店舗は店舗、アプリはアプリというイメージが先行する。平安保険の場合は、アプリでの行動履歴が、営業員にフィードバックされるので、より具体的かつ親身な提案ができるという。ただし彼らは保険を売り込むというスタンスは持たない。あくまでもお客様の生活を向上させるお手伝いをするという姿勢に徹している。そのために「保険に入るなら平安」と考える人が増えているということだ。

かつての日本でも生保レディと称する営業ウーマンたちが、直接の保険の売り買いだけではなく、世間話から子供の進学相談にのったり、オフィス街では美味しい定食屋さん案内、高齢者には病院の口コミ評価をそれとなく伝えるような文化があり、世界最大と言われた巨大な生保マネーの下支えをした。平安保険は、アプリの利便性とお客の生活に寄り添うコンシェルジュ的な日本のおもてなし文化をミックスさせたところに強みがあるのではないだろうか。

ビジネスプラットフォーム構築から社会システムのアップデートへ

ディディやフーマー、平安保険といった事例を眺めると、信用スコアや行動履歴、購買履歴といった個人情報をビジネスの「種」にしているようなイメージも出てくる。当然これらによる社会的デメリットも考慮した上で健全な発展ができるような法制度整備も不可欠だろう。

一方で、交通マナーの向上や歩くポイントなどよりよい行動変容を促すことで、一企業の儲けにとどまらず、ビジネスプラットフォームの構築から、社会システムがアップデートされるという社会貢献的なバックグラウンドがなければ、顧客の支持を得られず、このようなビジネスは成立しえないという点は見逃せない。本書の筆者はさりげなく書いているが、古来、善行を積むことで、徳知が自然に行われる社会を最良とする思想が生まれたのも中国である。

かつて日本の小売業は、社会インフラやビジネスの基盤を根底から変えた「モータリゼーション」によって業態変換、ビジネスモデルチェンジが図られたが、いままさに「デジタライゼーション」によって新しい流通小売りの萌芽が生まれてくることを期待したい。

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本稿を書き上げた朝、アリババグループ傘下で電子決済サービスアリペイを運営する「アント・グループ」が上海と香港の株式市場に上場し、史上最高額である約3兆6000円億円を調達するのでは、というニュースが流れたが、後になって延期との報道が追加された。様々な憶測が流れるが、一説には中国政府が同企業のトップの姿勢に不快感を示したからだという。同グループを率いるジャック・マー氏は、いまだ様々な規制がイノベーションを妨げ、小規模企業や個人が恩恵を受けていないと語った。イノベーションによる恩恵享受の格差はいつも時代でも社会的課題であり政治マターだ。

かつて日本で席巻した新興チェーンストア企業群が大店法の規制に縛られ、国民の多くがチェーンによる物価引き下げの恩恵を受けていないと主張した姿が重なった。いまの日本の流通小売業は何を社会に実現したいのだろうか。

(藤井保文 尾原和啓著 日経BP)

過去10年に成長したドラッグストアは店舗年齢を若く維持したことが共通点

ドラッグストアの成長期は、1980年代後半~1997年頃の第1次成長期、1998年~2008年までの第2次成長期、2009年以降の第3次成長期の3つに分けられます。最後の第3次成長期に大きく成長したドラッグストア(DgS)に共通することは「店舗年齢」を若く保ったことです。

店舗年齢を平均5~7年に若く保つことが重要


図表1に2009年と2020年の主要DgSの売上高と、11年間の成長率を整理しました。11年前の2009年にもっとも売上高の大きかった企業は「マツモトキヨシ」であり、第2位は「スギHD」でしたが、この11年間で売上高順位の入れ替わりがあったことがわかります。

「第3次成長期」に大きく成長したDgS企業の共通点は、「店舗年齢を若く維持した」ことです。チェーンストアにとって店舗はもっとも重要な「ブランド」であり、ブランドは常に磨き続けなければなりません。メーカーが「リ・ブランディング」することで、ブランドの価値を高め続けることと同じです。

小売業の場合は、計画的に店舗年齢の古い既存店の「スクラップ&ビルド」を繰り返し、「店舗年齢」を若く保つことがリ・ブランディングです。店舗年齢は、古い既存店を「全面改装」もしくは「移転増床」した時点で「ゼロ歳」に戻ります。チェーンストアの場合は、店舗年齢を平均5年(歳)に維持することが原則といわれています。

10年ほど前、アメリカのDgSウォルグリーンの店舗数が5,000店舗前後の時代に、ウォルグリーンのシカゴ本社で「平均の店舗年齢は何年ですか?」と質問したところ、「5年です」と即座に回答したことを鮮明に覚えています。

M&A後も店舗改装で店舗年齢を若く保つ

第3次成長期に飛躍したツルハHDは、M&A先の企業のスクラップ&ビルドに投資することで、グループ企業の店舗年齢を若くし、既存店の売上高を改善することを重視しました。約3年前に当時の社長の「堀川政司」氏にツルハグループの店舗年齢を聞いたところ、「6.6年」という回答がありました。すでにグループで2,000店を突破した時期にもかかわらず、店舗年齢を若く維持しているのは凄いと思ったものです。

ツルハHDは、第3次成長期の期間、100店近く新規出店していると同時に、毎年コンスタントに30店程度閉店しており、スクラップ&ビルドと新規出店(M&A含む)の両面で開発予算を立てていることがわかります。

ウエルシアHDも、合併企業の店舗を「ウエルシアモデル」(調剤併設+深夜営業+カウンセリング+介護)と呼ばれる業態に店舗改装することで、合併先の店舗の業績を向上させています。単にM&Aによる足し算で店舗数と売上高が増えたのではなくて、店舗改装によって既存店の競争力を高めたことが、第3次成長期に躍進したウエルシアHDとツルハHDの共通点であると思います。積極的に既存店を改装することによって、店舗年齢の古い既存店の割合を減少させているわけです。

また、コスモス薬品、クスリのアオキ、ゲンキーなどのM&Aに頼らず直営で店舗数を増やしてきた企業の店舗年齢も若いです。コスモス薬品の代表取締役社長の横山英昭氏は、決算発表のときに「われわれは店舗年齢を若く保つことが競争力だとおもっています。M&Aで古い店舗を手に入れれば最初から利益があるので当面はいいかもしれないが、将来的には厳しくなるのではないでしょうか」とコスモスが直営出店にこだわる理由が「店舗年齢の若さ」であることを強調しています。

2009年以降の第3次成長期に急成長したクスリのアオキ、ゲンキー、薬王堂、中部薬品などの中堅企業の店舗年齢も若いです。店舗年齢の若さが、第3次成長期を牽引した最大の要因であると思います。とくにクスリのアオキは、2009年の店舗数132店を2020年に630店と、この11年間に大量出店しており、必然的に店舗年齢は若いのです。

第3次成長期の時代は、第1次、第2次成長期に開店したDgSの古い既存店がすでに全国にあふれかえっていた時期でした。1980年代末から始まった「DgSの第1次成長期」、さらには「第2次DgS成長期」に開店した店舗は、第3次成長期の2009年以降には既に開店から10年以上が経過した古い既存店になっていました。マツモトキヨシが、大店法廃止前に郊外に大量出店した「競争力のない古い既存店(150坪型)」のスクラップに時間がかかったことが、第3次成長期に伸び悩んだ最大の理由だと思います。

また、ココカラファインは2015年以降、古い既存店の閉店数が増加しています。また、「純増店舗数(店舗増加数-閉店数)を見ると、ココカラファインは2015年~2017年の3年間は純増店舗数がマイナスでした。その時期にM&Aで手に入れた古い既存店(不採算店)の閉店が大きな経営課題であったことがわかります。

「店舗の償却が終わって営業利益が出ているから」という理由で、競争力のない既存店を放置することは短期的には業績の良さに貢献しますが、長期的にはよくない結果をもたらします。小売業の最大のブランドである店舗は、「磨き続けなければ輝きを失ってしまう」という歴史の教訓をここに記録しておきたいと思います。

小売業にテレワークは「縁のないもの」?~導入の処方箋(前編)

コロナ禍で一気に身近になった感のある「テレワーク」。しかし店舗を運営する小売業では「難しい」「縁のないもの」と受け取られがちです。でも、本当に小売業ではテレワークはできないのでしょうか?今回は小売業の「働き方改革」を数多く支援し、店長のテレワーク導入支援の経験も持つリクルートマネジメントソリューションズの武藤久美子氏にお話を伺いしました。前編では「難しい」と受け取られるポジションごとの理由を、そして後編ではその理由に対する対処法について見ていきます。

「小売業=テレワークは無理」と多くの人が考えるのはなぜ?

今年6月に行われた内閣府の調査※によると、テレワークを経験した人は、全体で34.5%、東京23区では55.5%と高い数値となっています。一方、卸・小売業は20.19%です。それでも「意外に高い」と思われた方もいるかもしれません。というのも、小売業では「テレワークは無理」と考えている経営者や従業員が多いのが実情のようだからです。武藤氏はその理由を次のように説明します。

「小売業は『働き方の選択肢が広い』と他業種の方から思われがちなのですが、(非正規社員は勤務場所や時間が選べるなど)その働き方の選択肢によって雇用形態を分けている企業が多いため、正社員の働き方はむしろ固定化しやすのが現状です。つまり『いつでも、どこでも』働くことが求められてきた正社員ほど、働く場所を選べる『テレワーク』導入への意識のハードルが高いということです」。

小売業におけるこうした事情を前提として、店舗メンバー、店舗の店長以上の管理職、本部・本社によって「テレワークは難しい」と思われる理由は違うと言います。まず、最もわかりやすいのが、店舗メンバーのテレワークが難しい理由でしょう。それは、接客や品出しなど「店舗にいないとできない業務」がほとんどのためというものです。

「感染症の影響下において、経験した働き方とテレワークの実施状況」

一国一城の主、店長がテレワークとはとんでもない?

次に、店舗にいる店長(をはじめとした管理職層)がテレワークをできない理由は、もう少し複雑です。なぜなら、店長の業務は(前述のメンバーのように)すべてが接客や品出しなど「店舗にいないとできない業務」ではないからです。

「店長の業務を洗い出してみると、『計画』など、店舗でやらなくてもいい業務がある程度は出てきます。さらに、お休みはもちろん本社・本部との会議などで、実際に店舗にいないというケースもあります。つまり店長は『ずっと』店舗にいなければいけないわけではないのです」と武藤氏は指摘します。

このように店舗にいなくても実施できる業務があるのであれば、それらの業務を週1回などの限定的なテレワークで実施することは難しくないように思います。それに対し、武藤氏は店長のテレワークを検討する際の大きなハードルを2つ挙げます。

1つ目は、店長は従業員や経営者から「店にいてなんでも対応すること」が大事であり、テレワークで「ラクしている」「サボっている」ことは店舗の責任者として許されないと思われがちなことです。

「これには、ラクをしている、サボっているという、テレワークに対するまず大きな誤解があり、だからこそ『一国一城の主である店長がラクをしてはいけない』という考えで育ってきた小売業の人達からすると、店長がテレワークをするなど受け入れられない、というわけです」(武藤氏)。

もう1つのハードルは、店長自身が「店にいないと不安である」ことで、これにはさらに2つの側面があると言います。まず前述のような「店長が店にいてなんでも対応すること」を期待する従業員から信頼されなくなってしまうのではないか、と店長自身が不安に思うことです。

「店にずっといて『ちょっとしたお困り事になんでも対応すること』『従業員を見てあげていること』で従業員から『信用・信頼』を勝ち得てきた店長は多いものです。だからこそ、店にずっといないと不安に思ってしまうのです」(武藤氏)。

そしてもう1つは、店がうまく運営できなくなってしまうのではないかという不安です。実際、次席(副店長、チーフなどのサブマネージャー層)が育っていないがため、店舗で起こる様々なイレギュラーな出来事に店長がいないと対処できないという事態があるかもしれません。

コミュニケーションの問題は「テレワークのせい」?

最後に、本社(バックオフィス)や本部(たとえば店舗開発、商品開発、営業支援など)でテレワークが進まない理由はどのようなものでしょうか。一見、店舗での現場対応が不要な本社・本部ではテレワークはすぐに可能なようにも思えます。それができないのは2つの大きな理由があると言います。

1つ目は、店舗ができないのに本部がやって(ラクして)いいのか、という問題です。

「小売業においては、特に『店舗(現場)こそが大事である』という姿勢が重要視されています。それ自体は、もちろん悪いことではないのですが、店舗(現場)ができない『テレワーク』というラクを本部がしてはいけないという考えにつながってしまうのです」(武藤氏)。

2つ目は、テレワーク=「店舗(現場)と疎遠になる」「部署間とのコミュニケーションがとりづらくなる」というイメージが強いということです。

「たとえば、本部から店舗へ同様の内容が重複依頼されたり、店舗から本部への問い合わせの応答が遅いという場合があるとします。すると、すぐ『テレワークのせいだ』となってしまう。しかし、こうした店舗と本部や本部間のコミュニケーションの問題は、テレワークが悪者、というより、普段からの問題が顕在化しただけだったりします」(武藤氏)。

ハードルが高い? テレワーク導入の2つの条件

こうしたポジションごとのできない理由をまとめたのが下記図です。

このように様々な「できない理由」を見てくると、それを乗り越えてまで、テレワークを導入する意味を(感染症対策は別として)どのように考えればよいのでしょうか。武藤氏は、テレワーク実施条件として次の2つの効果が得られることを挙げます。

1つ目は、ライフとワークのバランスのとりやすさ、それに伴う仕事の継続性が高まるということ。たしかに、週に1度でも場所を限定せず働けるということで、時間と気持ちに余裕が生まれることは大きいでしょう。

2つ目は従業員が力を発揮しやすくなるということ。テレワークは、生産性の低下ではなく、むしろ力の発揮しやすさを手助けするものと捉えるべきだということです。

たとえば前述の「計画」といった集中して考えることが必要な業務については、様々な相談ごとが持ちかけられる店舗ではない場所で行ったほうが効率的なはずです。

「働きやすさ」に合わせて働く環境をつくる時代へ

こうした条件は、小売業に限らないものと言えます。さらに武藤氏は、テレワークを実施することでほかの様々な効果も得られると指摘します。

「たとえば、店長が『ずっと』いなくても回る店になる、つまり『次席(副店長、チーフなどのサブマネージャー層)が育つということです。また、店舗間や店舗と本社の移動時間を節約することで、ほかの業務により時間を割けるようにもなります」(武藤氏)。

もちろん特に店舗においては、すべてテレワーク、ということは難しいでしょう。武藤氏は、その点の考え方について、次のように説明します。

「すべて『対面』、すべて『テレワーク(オンライン)』というのは極端です。両者の適切なバランスを見つけ、より従業員が『力を発揮しやすい』そして『継続可能な』働く環境をつくることが大切です。いまは『働きやすさ』に合わせて、働く環境をつくる時代です。そうすることで、小売業の魅力が高まり、優秀な『人材獲得』にもつながるでしょう」。

たしかに「テレワーク」を含めた、多様な働き方が選択できることによって、「小売業で働きたい」という人々が確実に増えると思われます。後編では、前編で見てきた「できない理由」を踏まえて、検討・実践する際のポイントについて押さえていきます。

〈取材協力〉

リクルートマネジメントソリューションズ
シニアコンサルタント、社会保険労務士
武藤久美子(ぶとうくみこ)氏

ワークマンの強さを紐解く本書は、さながら流通業界版「三国志」だ

現在、流通企業に関連する書籍で、平積みされて次々と若いお客が手にとっていくようなものは極めて少ない。そんな中、本年6月に発売され、瞬く間にベストセラーとなったのが「ワークマン」の強さを論じた本書。筆者は思わず本書を手に取ってしまったのだが、さながら、流通版「三国志」を読むような痛快な本だ。(流通ジャーナリスト:流川通)

リブランディングとオペレーションの妙

ワークマン躍進を煎じ詰めて言えば、①元々あった職人向け商品の魅力を一般に向けてリブランディングした点、②フランチャイズパッケージを目的としたチェーンオペレーションで培った高い実務能力を持つ従業員、経営幹部に開拓すべき新市場を指し示し、その能力を十分に発揮できるよう組織を作り直した点、というところだろう。

「三国志」を引き合いに出したのは、古代中国後漢末期、帝室の末裔ながら流浪の将となっていた劉備に、軍師諸葛孔明は、「天下三分の計」を提示し、劉備の拠って立つ場所を明らかにし、そして、関羽、張飛、趙雲といった優れた豪傑が活躍できる舞台と組織を作り上げた故事になぞらえたものだ。ビジネス風に言えば、「既存の経営資源を生かし、新市場を開拓、リブランディングを図った」のである。

その諸葛孔明にあたる人物が土屋哲雄氏(以下土屋氏)である。一代で1兆円規模の売上を誇るベイシアグループをつくりあげた土屋嘉雄氏の甥にあたる。哲雄氏は、孔明であり、劉備にもあたるのかもしれない。劉備は50歳近い年齢で27歳の孔明を三顧の礼で迎えた。哲雄氏が、三井物産を退職し、ワークマンのCIO(最高情報責任者)に就任したのは60歳のときである。創業家の血筋であり、孔明の戦略をもって、新しい国家(企業集団)を建設したのである。

既存経営資源を生かした組織と人材開発

ひとつの企業を、マンネリから脱却させ、より高いステージへと進化させていくためには、「組織(人財)開発」と「新市場開拓(ビジョン)」の両輪をまわさなくてはならない。その場合、流通小売業の歴史をたどれば、社内にまったく異なる組織文化を持ち込む方法が一番効果的だった。

もっとも著名な例はイトーヨーカ堂におけるセブンイレブンだろう。新興勢力ながらスピード成長でダイエーや西友といったライバル企業としのぎを削り、大企業病に陥りつつあったイトーヨーカ堂を危惧して、創業者の伊藤雅俊氏は、鈴木敏文氏をアメリカに派遣。鈴木氏がコーヒーショップ、ドーナツチェーンといろいろな候補が上がる中で、コンビニエンスストアを見出したのは、伝説的なエピソードだ。その後のセブンイレブン、コンビニ業態の躍進は、グループはもとより業界全体の地図をも変えてしまった。

ワークマンの場合は、広い意味ではベイシアグループの一角としての立ち位置もあるが、既存の経営資源をもって社内の構造改革を果たした例と言えるだろう。

「組織(人財)開発」の改革は、2014年、土屋氏が中心となって起草した「中期業態変革ビジョン」という名の3か条を社内外に宣言したことが起点となっている。

1.社員一人当たりの時価総額を上場小売企業でナンバーワンに
2.新業態の開発
①「客層拡大」で新業態に向かう
②「データ経営」で新業態を運営する準備を行う
3.5年で社員の年収を100万円ベースアップ

「時価総額」「年収100万円のベースアップ」というフレーズは、いかにも商社出身らしい発想だろう。しかし流通小売業界におけるチェーンストアの常識のなかにいたワークマンからからすれば、新鮮な言葉だったに違いない。「年収100万円のベースアップ」を実現するためには、いわゆる従前の事業の組み直しや、延長線上の改善活動ではなく、「構造改革」による生産性の劇的変化が必要となる。

一方で、いわゆるチェーンストア業界の原理原則を中核に据えたことで、既存の社員たちへのビジョンの浸透度を高くした。ワークマン商品(ブランド)の一般化を狙った「客層拡大」は、チェーンストア企業が目指すべき「一丁目一番地」である。

かつてユニクロは機能性の高いフリース素材に絞り込んで、低価格かつファッショナブルな商品をラインナップした。これによってこれまでフリースを着たことがない高齢者層まで取り込んだのである。「絞り込むことで広げる」―チェーンストアの原理原則をワークマンもまた徹底したと言えるだろう。

その手段として何を武器とするか。「データ経営」によって、一つひとつの商品開発からオペレーションに至るまでの設計能力を向上させ、従業員一人ひとりの生産性を高めていくことを宣言したわけである。

本書では、従業員ひとり一人に「エクセル」から基本的な数理モデルを理解させ、「自分で数字を立案する」というクセを身に着ける教育からはじめ、気象など非線形モデルを組み込んだ在庫コントロール、受発注の最適化に至るまで、かなり細かな数字を挙げて「データ経営」の要素を描き出している。ここまでしっかりと数字を公開する経営者はいまどき珍しいが、商社マンらしいオープンマインドとも言える。

「情報」は与えることで、より質の高い情報を集めることができ、ひいてはインテリジェンスに長けた組織、人材ごと引き寄せるからである。

トレードオフによる新市場開拓

ワークマンはいわゆる作業現場で働く人たちをターゲットにした商品を低価格帯で開発してきた企業だ。作業現場で働く人たちが求めるのはまずは安全性や機能性である。耐久性、撥水、防水、通気性といった職人たちが重視してきた機能品質と低価格を同時に実現するためには、機能を絞り込み、素材や製造方法に遡って仕様を設計しなければならない。これはチェーンストアにおける「トレードオフ」の原則そのものであり、ある意味、ワークマンはそのノウハウを地道に築いてきたといえるだろう。気が付いてみたら、SPA(製造小売)として「高機能&低価格+ファッション性」を実践できる企業はワークマンが先頭を走っていたのである。ここに追随できるのはファーストリテイリングやニトリぐらいしかいない。

土屋氏は、このブルーオーシャンを発見し、ワークマンのモノづくりのノウハウに付加価値を与えた。かつてABCマートは、1万円以上もするブランドスニーカーを5000円―6000円台に引き下げてお客の支持を集めたが、いまや高い機能性とファッション性を備えた980円、1500円、1900円のスニーカーがとってかわろうとしている。他社のボリュームゾーンを新しい価格と品質でシェアを奪い取ることをチェーンストアの世界では「ラインロビング」という。

ワークマンはこのラインロビングの手法に、顧客を巻き込んだ活動をプラスアルファしている点が新しい。それが「製品開発アンバサダー制度」と呼ばれるものだ。

同制度は、インスタグラマー、ユーチューバーといったSNSの口コミの世界においてワークマン商品をこよなく愛し、独自の使い方を提案することでフォロワーを集めている人たちを実際の商品開発の現場に取り込むといったものだ。このアンバサダーを活用したマーケティングは広報活動をはじめリアル店舗とも本格連動させていくという。

2020年10月、桜木町にワークマンの実験店舗がオープンした。ワークマン女子をターゲットにし、アンバサダーマーケティングと最新テクノロジーを駆使して物販と情報発信をつなげる「コネクティッドストア」を目指すという。こういう発想は、原宿などでポップアップストアをつくりホームセンターPBのファッション性を劇的に高めてきたカインズの土屋裕雅社長と通じるものがある。土屋家のDNAなのだろう。

契約更新率99% 高いオーナー満足度

もうひとつワークマンの強みとして着目すべきは、ワークマンは、全店舗の約95%がフランチャイズ契約であり、契約期間は6年。その更新率は99%という。これは従業員満足度ならぬオーナー満足度の高さを示すものだ。

高い満足度の源泉のひとつが、加点方式の報奨金制度にあるという。売上、返品ゼロ、ストアオペレーションの高さ、昨対比(ステップアップ)といった項目ごとに金額が示され、売上とは別に、年間150万から300万円超のボーナスが用意されている。

若い世代のオーナー開拓においても低保証金、低金利融資と返還、制度が整っている。経営はオーナー、店舗はワークマンが用意するのである。これは海外の優良FC企業が力を入れている分野だ。

また、年間休日を増やし、2020年の正月は三が日を全休した。月間営業日は昨年から1日減ったが、売上は既存店で二桁増となった。休日が増えたにもかかわらず、売上が伸びるという成長企業の好スパイラルは流通小売業界において久しく見当たらなかったベストプラクティスだ。

奇手に陥らず、チェーンストアの王道を踏まえながら、新しい挑戦に取組み、既存事業をリブランディング、優れた企業にしていくのか。あらゆる流通小売業がワークマンを当面ベンチマークしていくべきだろう。

(日経BP、酒井大輔著)

「小売業ではテレワークはできない」は過去のもの?~導入の処方箋(後編)

コロナ禍で一気に身近になった感のある「テレワーク」。しかし店舗を運営する小売業では「難しい」「縁のないもの」と受け取られがちです。前編ではその理由について見てきました。後編では、その理由を乗り越え、導入・検討する際のポイントについて、前編から引き続き小売業の「働き方改革」を数多く支援し、店長のテレワーク導入支援の経験も持つリクルートマネジメントソリューションズの武藤久美子氏にお話を伺いしました。

店舗メンバーのテレワークは、経営戦略

まず、店舗メンバーのテレワークができない理由は「接客や品出しなど店舗にいないとできない業務のため」というものでした。この理由を乗り越えることも不可能なことではないと武藤氏は言います。

「店舗におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)、オンライン接客など、仕組みそのものを変えることで、テレワークの可能性も出てきます。どうやってリアル以外でも顧客接点を増やすか?は多くの小売業が検討している課題のはずです」。

MD NEXTでも、自社が実践するDXの取り組みを他社へも提供するトライアルを筆頭に、数多くのDXの取り組みが紹介されています。

亀田社長に聞く「第4次産業革命」の未来のためトライアルが挑戦していること

トライアルが放つ、リテールAI プラットフォームプロジェクト「リアイル」の戦略とは

逆を言えば、店舗メンバーが店から離れるということを考えるには、「働き方」という枠組み以上の経営戦略として取り組む必要があると言えます。

店長は「ずっといる」から「やること」で信頼獲得を

次に店長について見ていきます。まず、最初に乗り越えるべきは、店長の「不安」の問題です。それに対し、武藤氏は次のようにポイントを説明します。

「店長の『従業員から信頼されなくなってしまうのでは』という不安を払拭するためには、『ずっといること』だけでない信頼を勝ち得る方法を見つけるしかありません。つまり、『いること』でなく時間をコントロールしながら『やること』に重きをおいて信頼を得るということです。また、『店にいないと不安』と思う店長は、『任せる』ことで『育てる』という意識を持つことも大事になります」。

そして、いざテレワークを検討・実践するためには、まずは店舗でなくてもできる(テレワークできる)業務を洗い出す必要があります。その際も、コツがあると武藤氏は言います。

「私は店長に『店舗でなくてもできる業務は?』だけでなく、『時間があったらやりたい仕事は?』と聞きます。すると、『商圏の実情調査や競合視察などがしたい』という店長が多いものです。そうした業務はテレワーク化の突破口になりやすいのです」。

というのも、前編で触れたように「テレワーク」はラク、サボっているとみられがちなのは「在宅(家にいる)」のイメージからくるものが大きいからです。そのため、まずは在宅業務に限らず「店を離れる」ことから始めると良い、というわけです(なお、「テレ=tele」は「離れたところ」を意味し、必ずしも在宅である必要はありません)。

そして何より大切なのは、経営者や従業員が「店長はずっと店にいてなんでもやるべきで、ラクをさせない」という考え方をやめることだと武藤氏は強調します。
店長以外の人が育つことで、店舗運営は必ずスムーズになるからです。また、人材獲得や従業員満足の面からも、店長の働きやすさが大切であることは言うまでもありません。

「店舗の働き方を考えている」という姿勢を伝える

最後に本部・本社のポイントに見ていきます。できない理由が前編で触れたように「店舗がしていないから」なのであれば、店舗がテレワークを実施/検討すると同時に、本部・本社も実施/検討すればよい、ということになりそうです。それに対し、武藤氏は次のように指摘します。

「たしかに店舗が先(または同時)に導入するのがベストなのですが、そこで躓いてしまい、(やろうと思えばすぐにできるはずの)本部・本社の検討がいつまでたっても始まらないケースも出てきてしまいます。そのため、『テレワーク』実施のハードルが高い場合は、まず、現場の『働き方の改善』に着手することから始めてもよいでしょう」。

つまり、店舗の働き方も改善するから、本部・本社の働き方も改善して「テレワーク」を導入する、という流れにするということです。

「店舗の働き方の改善方法は様々ですが、大切なのはその施策そのもの以上に、『本部は店舗の働き方のことを考えている』という姿勢です。そうした姿勢が伝われば、店舗側も本部の働き方の変化も受け入れられやすくなります」(武藤氏)。

「働き方」だけでなく「お客様」起点で考える

そして武藤氏が、働き方の改善について、現場ヒアリングする際に気を付けているのが、「どんな働き方をしたいか」だけでなく「お客様とどう関わりたいか、お客様にどういう価値を提供したいか」を中心に、多面的に質問するということだそうです。

「小売業の方には『お客様』起点で考えてもらったほうが、本質的な答えがみつけやすい場合が多いです。同様に、働き方改革を推進する際には、『消費者の多様化』に直面してきた小売業において、従業員側も多様化することが大事というお話をよくします」。

たしかにテレワークを「多様化するお客様に近づく手段でもある」と捉えれば「働き方」を超えた検討につながりそうです。

さらに武藤氏は、たとえ店舗の働き方改善の検討を同時に行うことが難しい場合でも「本部・本社が、まずテレワークをやってみること」は非常に意味のあることだと強調します。効果や課題など、やってみて初めて分かることも多く、本社本部が実践したことで、店舗への展開もしやすくなるからです。

常識を改めて見直し「テレワーク」を検討する

さて、前編と後編にわけて、小売業のテレワーク導入について見てきました。前編でまとめた「できない理由」に対する処方箋をまとめたのが下図です。

筆者は、感染症対策の面はもちろん、コロナ禍前の「常識」が覆るいまだからこそテレワークの検討がしやすいと考えます。なぜなら近年このコロナ禍の時期以上に、これまで「当たり前」だった価値観や行動の劇的な変化に直面し、短期間でそれに対処しなければならなかった時期はなかったように思うからです。

だからこそ次のように、テレワークを阻んできた様々な「常識」を改めて問い直してみる好機ではないでしょうか。

・会議や商談はすべて顔を突き合わせてやらなければいけないのか?
・店長は「ずっと」店にいなければいけないのか?
・接客やサービスは本当に対面でなければいけないのか?

そして、常識を覆して実践してみた先に、いままで実現不可能だと思っていた「新たな働き方」、さらには「新たな顧客との関わり方」の発見があるかもしれません。

最後に、導入の際、従業員の勤怠把握や残業代など、労務管理の基本的な考え方は、これまでと同様であることを導入の注意点として付け加えておきます。テレワークの場合は、従業員の勤怠把握や残業代が不要という誤解が巷で見受けられるからです。

「開店前のミーティング」って「労働時間」に入りますか?

「残業時間」って何種類もあるの?

 

こうした労務管理の問題や武藤氏が前編で指摘した本部(-店舗)間コミュニケーションの問題など、もしかしたらテレワークは様々な組織の問題や課題を顕在化させるかもしれません。

しかし、逆の見方をすれば、テレワーク導入は、それらの課題を克服するきっかけになるとも言えます。一連のコロナ禍によるピンチを変革や革新のチャンスととらえ、ぜひテレワークについても前向きに検討してほしいと思います。

〈取材協力〉

リクルートマネジメントソリューションズ
シニアコンサルタント、社会保険労務士
武藤久美子(ぶとうくみこ)氏

「ラインロビング」への貪欲な挑戦がドラッグストアの強さである

最近のドラッグストア(DgS)は、生鮮食品、園芸、実用衣料などの新しいカテゴリーの品揃えに挑戦しています。「なぜ薬局で精肉を売るの?」と不思議に思うかもしれませんが、ラインロビングへの貪欲さが、DgSという業態の最大の強みであると思います。

ドラッグストアの歴史はラインロビングの歴史

青果、精肉をラインロビングしたツルハドラッグ札幌南6条店。

薬局・薬店という業種店から業態化したDgSの歴史は、ラインロビングの歴史であったといっても過言ではありません。ラインロビングとは、新しい商品群の品揃えに挑戦し、商品群単位で他の業態からシェアを奪う作戦のことです。医薬品主体の薬局・薬店では、病気にならないと来店してもらえません。薬局・薬店が母体のDgS企業は、当初から日用雑貨、一般食品などの新しい商品群をラインロビングし、低価格で販売すること他の業態からシェアを少しずつ奪っていたのです。

精肉、青果、鮮魚などの生鮮食品の導入はできなかった初期のDgSは、「日配品」をラインロビングすることで客数を増やしました。日配品とは、賞味期限が短いので、毎日のように店舗に配達する商品という意味です。牛乳、豆腐、納豆、ヨーグルトなどです。日配品は日持ちしないので、頻繁に買物に来店する代表的な商品です。日配品を強化することで、薬局・薬店時代とは比べ物にならないほど顧客の来店頻度が高まり、客数も増えて、小商圏でも成立する業態に進化していきました。

ツルハドラッグ 青果、精肉にも挑戦

DgSの市場規模は約7兆5,000億円に達し、産業として認知されるほど巨大市場に成長しましたが、ラインロビングへの貪欲さはまったく衰えていません。巻頭の青果、精肉の売場写真は、「ツルハドラッグ札幌南6条店」のものです。コスモス薬品やクスリのアオキなどの食品強化型DgSと比べると、食品構成比の低いツルハドラッグストアですが、青果、精肉のラインロビングに果敢に挑戦しているわけです。

南6条店は、札幌の繁華街の「すすきの」の近くに立地する都市型店舗です。大型の食品スーパーが近くになくて、コンビニしかないような立地です。都市型立地なので、ツルハドラッグには珍しく2層式の300坪店舗です。青果、精肉などの食品売場は2階で展開しています。レジは1階のレジのみのオペレーションです。食品スーパーが少ない立地なので、精肉、青果を含めた食品売場を目的に客数も大きく増えているそうです。

青果、精肉は、専門業者に管理を委託するコンセッショナリー方式です。面白いのは写真のような監視カメラが青果と精肉売場を常時撮影しており、専門業者が遠隔で売場の状況をチェックして、品薄になると補充に来るそうです。食品スーパーのようにバックヤードで精肉をカットしたり、トレーにラッピングできなくても、生鮮を取り扱うことができる仕組みに挑戦しています。

ツルハドラッグの鶴羽樹・会長は、以前は「食品の売上構成比は10%以内にとどめる。それ以上は増やしません」と公言していましたが、数年前から食品強化に方針転換しました。鶴羽会長は、前言を翻したことに関して、「やっぱり食品を増やすと、朝礼暮改を恐れないことがツルハのいいところだ」と悪びれず話す姿に、ツルハの強さを感じたものです。

監視カメラが青果、精肉を撮影しており、専門業者が売場を遠隔でチェックし、品薄であれば補充に来る仕組み。
ツルハドラッグ札幌南6条店。2層式300坪で、2階が食品売場。

ウエルシア 園芸、生鮮にも挑戦

ツルハ以外のDgS企業の多くは、現在も「ラインロビング」に非常に熱心です。たとえばウエルシアHDの松本忠久・社長は次のように語ってくれました。
「ラインロビングは常に継続しなければなりません。ある実験店ではアパレルを強化しています。また、同店の食品の構成比は売上の40%です。食品を強化するために地元の業者を選定して肉、野菜、惣菜などの品揃えに挑戦しています。また、福井のホームセンター企業『みつわ』と資本提携し、DgSらしい園芸用品の品揃えに挑戦します」

さらに松本氏は、「とにかくラインロビングに挑戦しないとダメです。失敗なら元に戻せばいいのです。企業力とは『質×量×スピード』です。今、量はできたのでスピードと質を高めていくチャレンジが未来につながると思います」と新しい商品群への挑戦こそが企業の強さにつながると述べています。「園芸」に関しては、ツルハグループの「杏林堂薬局」が園芸強化型の実験店を昨年開店しています。現状維持に甘んじない、常に挑戦し続ける企業文化が、若い業態であるドラッグストアの最大の強みです。

現在DgSの商圏人口は1万人を切る「狭小商圏化」が進んでいます。狭小商圏で成り立つためには、地域の消費者の来店目的を増やすためにワンストップショッピング性を強化することが必要です。つまり、ラインロビングとは、少ない商圏人口でも成立させるための基本対策なのです。たとえば、人口5,000人の過疎地立地でも、生鮮食品をラインロビングすれば成立させることができます。「すすきの」のような都市型立地に食品スーパーが少ないのと同様に、人口5,000人の過疎地立地にも大型の食品スーパーは少なく、コンビニしかないような立地が存在します。そこに300坪の食品強化型DgSを出店すれば、地域の最大店舗として重要を総どりすることもできるはずです。

「ドラッグストアだから取扱商品はこうあるべき」という業界常識の固定観念が他の業態よりも少なかったことも、DgSの成長の大きな要因であったと考えます。「業態論は関係ない。小売業は目の前の顧客が求める商品を素直に品揃えすることがすべてである」というDgSが成長した歴史の格言もここに記録しておきたいと思います。

※ツルハドラッグ南6条店の詳細は月刊MD12月号(11月20日発行)に掲載します。

すき家、KFC、丸亀…コロナ禍で利用者増えた外食チェーンの共通項

新型コロナの感染拡大により、在宅勤務や時差出勤などの働き方だけではなく、ライフスタイルそのものが変化しています。そこで今回は、全国のアンケートモニターから独自に収集する「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」から、新型コロナ感染拡大前後における「外食サービス利用」について調査をしました。どのような施策がコロナ禍における外食売上回復のポイントとなるか読み解きます。

新型コロナ感染拡大後52%が外食を月1回以下に

まずは、新型コロナ感染拡大前(2020年2月頃まで)と後(2020年3月頃~現在)における、外食利用回数の変化(店内飲食・テイクアウト・ドライブスルーを含み、デリバリーは含まず)を調査しました。

外食利用回数の変化をみると、感染拡大前は、「月に2~3回程度(33.8%)」と回答した割合がもっとも多かったのに対し、感染拡大後は、「月に1回以下(52.4%)」と回答した割合が、半数を超え最多となりました。

また、「週に1回以上外食をしていた」人の割合は、34.6%→21.7%に減少していたことから、外食離れの傾向が強まっていることがわかります。

次に、感染拡大前と後において、外食の利用で変化したと感じることを調査しました。

外食の利用で変化したと感じることを選択肢で尋ねると、前出の「利用回数の変化(53.2%)」が最多となり、2人に1人が回答していました。

その理由からは「週末は夫婦でショッピングモール等に買い物に出たついでに夕飯をレストランやフードコートで済ませて帰ることが多かったが、外出もしなくなったので行かなくなった(40代女性)」「特に行かなくなったのは、夜の居酒屋チェーン。ほとんど行っていない(60代男性)」といった内容の、様々なジャンルの外食チェーンにおいて、店内利用回数の減少を挙げる声が多くみられました。

他にも、「利用するチェーン(店舗)の変化(17.1%)」、「利用時間帯の変化(14.5%)」が続き、その理由には、「以前は仕事の打ち合わせでドトールなど使っていたが、在宅ワーク中心となり行かなくなった(50代男性)」や、「在宅勤務中のランチに、ケンタッキーやバーガーキングなどのファーストフードでテイクアウトすることが多くなった(40代男性)」といった、在宅勤務の浸透や、「ランチよりも夕食にテイクアウトをよく利用するようになった(30代女性)」、自炊疲れから解放され、自宅で家族団らんを楽しむ食事としての利用などが挙げられました。

感染拡大後の夕食の店内飲食の割合は、およそ半減

次からは、外食の利用シーンの変化をみてみましょう。

外食の利用シーンを選択肢で尋ねると、感染拡大前は、「朝食」「昼食」「夕食」「おやつ・休憩」の目的において店内飲食の割合がテイクアウトを上回っていましたが、感染拡大後は、「朝食」を除き、テイクアウトの割合が増えていることがわかります。

テイクアウトの割合は、「昼食(32.8%→46.1%)」と「夕食(23.3%→36.5%)」では、ともに増加した一方で、店内飲食の割合は、「昼食(64.6%→39.1%)」、「夕食(52.6%→28.1%)」となり、特に感染拡大後の夕食の店内飲食の割合においては、およそ半数の減少となりました。

また、「朝食(10.8%→5.1%)」の店内利用の割合は、半減したにも関わらず、昼食や夕食のようにテイクアウト利用の割合は増加せずに、ほぼ横ばいとなり(5.2%→4.7%)、「出社前に会社近くのマクドナルドでコーヒー購入が日課であったが、今はテレワークとなり朝の利用が減った(30代男性)」「以前は会社の近くにある吉野家やガストで朝食をとっていたが、今はテレワークとなり朝の利用が減った(50代男性)」といった、従来は出勤前の朝の時間帯に利用していたのが、在宅勤務が広がったことで、利用そのものが減少している傾向が表れていることがわかります。

今までの調査結果から、主に利用シーンにおいては、「昼食・夕食」の時間帯の、店内飲食からテイクアウトにシフトしつつあることが傾向として表れています。
現在においても収束の目途が立たず、外食産業は厳しい状況が続いている中ですが、今回の調査対象のうち、新型コロナ感染拡大前と比較して、「外食サービスの利用が増えた(N=357名)」と感じている方が一定数いました。

コロナ禍で利用が増えた外食5チェーンとは

次からは、利用が増えたといった内容のコメントがみられた外食チェーン5社「すき家(ゼンショーホールディングス)」・「ケンタッキーフライドチキン(日本KFCホールディングス)」・「丸亀正麺(トリドールホールディングス)」・「スシロー(あきんどスシロー)」「サイゼリヤ(サイゼリヤ)」をセレクトし(レシート枚数順に記載)、全国のアンケートモニターから独自に収集する「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」から、外食全体のレシートからそれらチェーンを利用のレシート出現率をみて、各社が実施した、コロナ禍における売上回復の施策を利用者のコメントから探ります。(調査期間:2020年2月~6月、外食チェーン利用のレシート合計120,694枚)

コスパの良さが魅力の「すき家(ゼンショーホールディングス)」

2月の出現率は、7%台で3月は4%台に落ち込んだもの、4月から6月にかけては、およそ6%台をキープし、特に緊急事態宣言中の4月は、外出自粛などの制限がありながらも、前月から出現率の2%以上の上昇をみせていました。
その理由として、「すき家、松屋など安いテイクアウトが増えた(50代女性)」、「吉野家、すき家が値段が安いので家族でよく利用する(50代男性)」といった、気軽に食べることができ、家族分購入した場合でも、コストパフォーマンスのよさを挙げるコメントが多くみられました。

テイクアウトのシステム好評「ケンタッキーフライドチキン(日本KFCホールディングス)」

2月から5月における出現率は、およそ3%台であったに対し、6月はレシート枚数が754枚→1,596枚に上昇し、それにより出現率を6%に増加していました。緊急事態宣言明けの6月は、外食全体のレシート枚数自体が増加傾向となった中でも、大きく健闘していたと言えるでしょう。

その理由として、「ケンタッキーのテイクアウトのシステムがしっかりしている(30代男性)」、「マクドナルドとケンタッキーのドライブスルーは接触が最小限なので利用が増えた(40代女性)」といった、ドライブスルーを含めたテイクアウトのオペレーションを挙げる声や、図表2のコメントにあったように、在宅勤務中のランチ需要の拡大においても、好調な理由の一つであると考えられます。

テイクアウト開始、スピード提供で利用者増の「丸亀正麺(トリドールホールディングス)」

2月から5月における出現率は、およそ3%台であったに対し、6月には4%台に増加しています。その理由としては、「以前はテイクアウト自体がなかったが、昼にテイクアウトを利用するようになった(20代女性)」といった内容のコメントが多く、5月26日からサービスを開始したテイクアウトが需要拡大につながっていることがわかります。他にも、「天ぷら5個以上で10%割引があるから(30代女性)」といった、企業側からは購入単価アップを狙いつつも、消費者にはお得なまとめ割引や、「短時間で食事が済ませられる(50代男性)」といった、入店してからのスピーディー提供スタイルが、感染症対策として捉えられていることが考えられます。

テイクアウトがお得な「スシロー(あきんどスシロー)」

4月の緊急事態宣言中のレシート枚数約300枚から、6月にはレシート枚数が約2倍の600枚に増加し、出現率は2%台に上昇しています。その理由には、「スシローやくら寿司など短い滞在時間で済ませられる店を利用したり、デリバリーも利用するようになった。(50代女性)」や、「テイクアウトの割引があるので(30代男性)」といった声がありました。

密を避けるといった意味では、大々的なキャンペーンの実施が難しくなっていますが、直近では8月のお盆期間限定で、持ち帰り商品が割引になるキャンペーンを実施しています。需要が高まる時期に合わせ、事前の注文や受け取り時間を指定することで、安心して来店喚起につながるキャンペーンの打ち出し方も今後各社で取り入れることができる施策の1つかもしれません。

メニューの工夫が受け入れられた「サイゼリヤ(サイゼリヤ)」

4月の緊急事態宣言中のレシート枚数約200枚から、6月には400枚近くにまで増加しています。

コメントをみると、女性からの支持が高いことがわかり、「ランチよりも夜ご飯用のテイクアウトをよく利用するようになり、特にサイゼリヤはテイクアウトメニューが充実しているため利用頻度が増えた(30代女性)」メニューの工夫があり目新しさを感じ利用するようになった(50代女性)」といった、家族で楽しむことができる上、テイクアウト限定などのメニュー投入も利用者増に貢献していると言えるでしょう。

全体的に外食の利用が減少している中で、感染拡大前よりも「外食の利用が増えた」と感じている方のコメントからは、テイクアウトやドライブスルーなど、注文から商品受け渡しまでのサービスの速さ、事前注文による割引サービス、継続利用を促すメニューのバリエーションやコストパフォーマンスなど、家で食べる需要に対する各社の対応が、自社のファンを増やすための強みとなり、感染症対策を行うチェーンとして、イメージアップにもつながっていることがわかりました。消費者にとってより便利で安心して利用できるチェーンの在り方を探っていく必要がありそうです。

オンラインセミナー「中堅幹部が絶対に理解すべき流通業の数値管理」(2020/11/19 13:00~16:20)開催ご案内

11月セミナーのテーマは、「流通業の数値管理の原理原則」です。中堅幹部が絶対に理解すべき「数値」の分析方法、そして目指すべき数値の目安を体系的に解説します。また、毎年調査している「ドラッグストア顧客満足度(CS)調査」に基づいて、CSを向上するための具体的な行動・対策を解説します。さらに、製配販の協働によるカテゴリー強化のロードマップを解説します。

開催概要

・開催日:2020年11月19日(木) 13:00~16:20
開始時間は運営の都合で若干ずれることがある旨をご了承ください。
・実施方法:zoomによるオンラインセミナー
(アクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:1万5,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:11月10日(火)

スケジュール

(1)流通業の数値を体系的に学ぶ
売上、粗利益、経費、営業利益、在庫 etc.数値管理の見方と目安
[13時00分~14時20分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

・狭小商圏時代に「売上高」を増やすための重点数値管理
・「粗利益」を増やすための数値管理原則
・「経費」コントロールの基本と目安
・「在庫」と「キャッシュフロー」の基本と目安  他

(2)2020顧客満足度(CS)調査速報
CS調査による顧客満足度を高める具体策
[14時30分頃~15時20分頃]

月刊『マーチャンダイジング』編集長 野間口 司郎

・総合満足度に大きな影響を与える要素
・フリーコメントに見るCSの高い店舗の特徴
・CSの低い店舗の特徴  他

(3)日本型カテゴリーマネジメントのススメ
製配販の「協働」によるカテゴリー強化のロードマップ
[15時30分頃~16時20分頃]

NFI副社長 村瀬 一弘

・製配販の協働によるカテゴリー強化&CS向上のロードマップ
・メーカーの「トレードマーケティング」の機能と活用法
・日米ショッパー(店頭・買物客起点)マーケティングの最前線  他

注意事項

・今回のセミナーはzoomを利用して実施します。具体的な接続手順、URLなどは、受講者様にお送りいたします。あらかじめ https://zoom.us/ にアクセスできるパソコンをご用意ください。スマートフォンでも受講できますが、パワーポイントのスライドを画面に共有して進めますので、なるべくパソコンでの受講をおすすめしております。

・セミナー終了後10日間はアーカイブされた録画を閲覧することが可能です。
閲覧のためのURLは、セミナー終了後にご案内いたします。

・企業様によって、Zoomへのアクセスができないという場合がございます。
Zoomへの接続については、受講企業様にてご対応くださいますようお願い申し上げます。(弊社にてサポートは致しかねますのでご了承ください)。また、受講者様側の都合で当日受講できなかった場合も返金は致しかねますのでご了承ください。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

本セミナーのお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

人口減少の「過疎地」出店はブルーオーシャンの立地戦略!?

人口が減少し、高齢化率が上昇する地方都市の「過疎地」立地に敢えて出店する経営戦略が注目されています。小売業は「立地産業」と呼ばれ、人口の増加している地域に出店するのがセオリーですが、敢えて人口減少立地に逆張り出店することで、残存者利益を獲得し、需要を総取りする作戦です。

年1,000店の出店続けるダラー・ジェネラル

最近のアメリカ小売業は大きく3つのトレンドに分類できます。第1は、大型ショッピングモールの大量閉店です。ショッピングモールに入居している核店舗のデパートやGMSの閉店が相次ぎました。さらにショッピングモールにテナント出店するアパレルなどの専門店の倒産も続出しています。

第2は、世界最大の小売業「ウォルマート」や大手ホームセンターの「ホームデポ」のように新規出店をほとんどしないで、デジタルシフトによって売上を増やしているグループです。この2社は、「オンライン」と「リアル」の買物体験を融合し、既存店の売上高を増やしています。たとえば、「オンラインで注文し店舗受け取り」「オンラインで注文して宅配」「在庫のない商品のお取り寄せ」などの新しい買物体験を提供することで、店舗数は増えなくても売上高を増やしています。

第3は、大量出店を継続している「小型の小商圏業態」です。代表的な企業は「ダラー・ジェネラル」であり、人口の少ない立地に出店できる売場面積300坪程度の「小商圏&小型ディスカウンター」です。ダラー・ジェネラルは、ほとんどの商品が10ドル以下で売られ、2020年1月末で全米45州に16,278店舗を展開。アメリカは50州なので、まだ出店していないエリアが残っており、アメリカでもっとも成長余地の大きいリアル小売企業として注目されています。

ダラー・ジェネラルの店舗の多くは、大型店が少ない人口1万人以下の郊外やルーラル(田舎)地域に展開されています。今期、1万6,000店目の開店を含み975ヵ所の新規開店、1,024店舗で改装、100ヵ所の店舗を移転しました。これら店舗網で全米45州をカバー、人口の75%以上が店舗から半径5マイル(約8㎞)以内に住んでいる小商圏店舗です。

ダラー・ジェネラルのような業態の大きな特徴は、Amazonのようなネット通販と棲み分けできることです。「近くて便利」「10ドル以下の低価格帯」が武器なので、自宅近くのダラー・ジェネラルを利用すれば、無理にAmazonで注文して配達してもらう必要がありません。また、オンラインで注文して店舗受け取りという新しい買物体験「BOPIS(Buy Online Pickup In Store)」にも今年挑戦していますが、自宅から近いので受け取りが便利という理由で好調で、今後BOPISを拡大していく方針です。また、総合ディスカウントストアのウォルマート以上の安さを実現しており、所得格差の激しいアメリカでは、低所得者層にとって便利な業態として定着しています。

人口7,000人以下の田舎に大量出店するゲンキー

ダラー・ジェネラルをベンチマークしているのは、日本のDgS(ドラッグストア)企業である「Genky DrugStores(以下ゲンキー)」と「薬王堂」などです。上記の図表のDgSの食品部門の売上構成比率を見ると、ゲンキーが62.2%と第1位です。薬王堂も42.3%と食品の構成比率の高いDgSです。

両社に共通するのは、人口5,000~7,000人の田舎立地への出店を主力としていることです。ゲンキーは福井、岐阜などの中部圏で、薬王堂は岩手県などの東北エリアで展開しています。田舎立地で展開する店舗の特徴は、取扱品種の多いバラエティストア型の品揃えであることです。両社とも食品、日用雑貨、実用衣料まで幅広く品ぞろえすることで、一人当たりの支出金額を増やして、少ない人口でも成り立たせるMDが特徴です。

このように「食品強化型DgS」は、たまたま薬局・薬店の経営者が創業したからDgS業態に分類されていますが、アメリカのダラー・ジェネラルのような「ハードディスカウンター」「バラエティストア」と呼ばれる業態に近い役割です。

ゲンキーは、300坪型の店舗を今後3年間で272店も開店し、2023年6月期の店舗数568店、売上高2,400億円の目標を立てています。ダラー・ジェネラルのように、大量出店を計画しているわけです。ゲンキーは自動発注など店舗で考える作業を極力減らし、入社2年で店長になれる仕組み化を武器にして、レイアウトもまったく同じ「金太郎飴店舗」を量産しようとしています。

人口7,000人以下の地方都市の田舎は人口減少と高齢化が進み、免許返納によって遠くの大型店よりも、近くの便利な小商圏店舗を選ぶ高齢者が増えていきます。人口減少が続く地方都市の店舗が少なくなる中で成立すれば、唯一残った便利な店舗として「残存者利益」を得ることになるかもしれません。コンビニしかないような過疎立地であれば、300坪店舗でも地域の最大店舗です。

また、アメリカ同様に日本も所得格差が開いています。ゲンキーで販売している弁当の最安値は198円ですが、こういう激安商品を好んで購入する消費者が増えていきます。とくに高齢者は年金生活者なので、ストック(資産)はあってもフロー所得は少ないので、節約志向は今後も高まっていくと思われます。いずれにしても小商圏の食品強化型DgSは、一般的なDgSとはまったく異なる業態として進化していく可能性があります。

注/ゲンキーの企業研究の詳細は月刊MD11月号(10月20日発行)に掲載します。

メーカーと小売業が協働するデュアルブランド戦略が本格化する

大規模チェーンが誕生したドラッグストア(DgS)では、カテゴリーキャプテンのメーカーがDgSと共同開発したSB(ストアブランド)と、自社商品のNB(ナショナルブランド)を同時に陳列し、NBとSBの両方でカテゴリーシェアを高める「デュアルブランド戦略」が今後進みます。

DgSの商品開発はPBよりもSBが中心

商品開発にはSB(ストアブランド)とPB(プライベートブランド)の2種類があります。SBはメーカーが製造し、パッケージは小売業のブランド名を使う商品開発のことです。製造責任はメーカーで、販売責任は小売業が持ちます。製販が共同開発するという意味で「ダブルチョップ」という通称で呼ぶこともあります。

一方、PBは小売業が生産工場に対して「仕様書発注」してモノづくりする商品開発のことです。原材料調達→生産→物流→販売までの流通工程をすべて小売業が設計する本当の意味での商品開発のことをPBといいます。SPA(製造直売小売業)である「ユニクロ」「ニトリ」「カインズ」などの商品開発をPBと呼びます。

図表1に主要DgSの売上高に占めるPB及びSB比率を掲載しましたが、DgSの商品開発の大半はメーカーと共同開発したSBが中心になります。SB・PB比率が14.9%ともっとも高い「コスモス薬品」の食品売場でコスモスオリジナル商品をチェックするとほとんどがSBです。たとえば、冷凍餃子(10個入り228円)のパッケージの裏側を見ると製造者は「味の素」です。

また、SBの冷凍うどんの製造者は「テーブルマーク」です。つまり、そのカテゴリーのトップメーカーがコスモス薬品と共同してSBを開発しているわけです。冷凍餃子のトップメーカーの味の素は、NBの冷凍餃子とSBの冷凍餃子の両方でカテゴリーシェアを高めるデュアルブランド戦略に取り組んでいることがわかります。

コスモス薬品と味の素が共同開発した冷凍餃子

大手メーカーもSB開発に意欲的!?

DgSは現在も大量出店を継続している数少ない業態です。すでに1,000店を超えたDgS企業が9社、2,000店を超えたDgSが2社もあります。コンビニの次に店舗数の多い業態がDgSなのです。大手NBメーカーにとっても、これだけの店舗数の小売業とSBを共同開発することはメリットがあります。

SBは、ブランドを育成するためのマーケティングコスト(テレビCMなど)がほとんどかかりません。そのぶん価格を安くしても、メーカーと小売業の両方が利益を分け合うことができます。また、導入店舗数が最初から決まっているので、販売予測が立てやすく、生産計画の無駄も少なくなります。

最近、大手消費財メーカーの幹部に開発について質問したところ次のように話をしてくれました。「3年前なら小売業のSBをつくることには反対でした。しかし、DgSの店舗数がこれだけ増えてくると、大手DgSと共同でSBを開発することは重要な経営戦略です。大手NBメーカーも変化対応する時期なのかもしれません」。

一方、コンビニのセブン-イレブンは、中小の食品メーカーを開拓・育成する「チームマーチャンダイジング」による商品開発(PB開発)です。セブン-イレブンの売場の棚は「セブンプレミアム」などのPBで占有されており、大手食品メーカーの商品が棚に入る余地が少なくなっています。コンビニよりも売場面積の広いDgSは、コンビニの「棚落ち商品」の受け皿になっており、メーカーとDgSのSB開発は今後さらに増えていくと思います。