オーバーストア時代に成長したドラッグストア
[イノベーション(革新)のジレンマとは、業態(ビジネスモデル)が通用する期間は20~30年。既存業態が絶好調の時に新しいイノベーションに挑戦しなければ、次の時代には衰退してしまう、というサイクルを図式化したもの]
日米の小売業の30数年の栄枯盛衰の歴史を振り返ると、その時代に絶好調のビジネスモデルが通用する期間は20年程度です。いつの時代にも、必ず新しい革新者が登場して、画期的な新業態を開発し、主役の交代劇が繰り返されてきました。現在、「ドラッグストアは大手5社しか生き残れない」とも言われていますが、本当でしょうか?
1990年代前半からわずか30年の期間で驚異的な成長を遂げたドラッグストアという業態の成長物語をまとめた『ドラッグストア拡大史』(イースト新書)という本が、2月10日に発売になりました。ドラッグストアという新しい業態の歴史をまとめた本は他にないので、ぜひご購読ください。ドラッグストアのことを知る入門書として最適の一冊です。
ドラッグストアが成長を開始した1990年代前半は、すでに全国津々浦々に近代的な業態が大量出店していた「オーバーストア時代」です。多くの小売企業がチェーン展開を始めた昭和時代のように、個人商店しかなかった「店不足時代」とは大きく異なります。
1990年代前半は、後発のドラッグストアが成長する余地などないように感じたものです。しかし、ドラッグストアは「店不足」「右肩下がり」の時代に、後発でありながら驚異的な成長を遂げています。「なぜドラッグストアだけが成長できたのか?」についてはドラッグストア拡大史を読んでもらえば理由がよくわかります。
そして、1990年代の後半には、昭和時代の小売業の王様だった総合スーパーの長崎屋、マイカル、ダイエーなどが経営破綻しています。まるで小売業の主役が交代するかのように、ドラッグストアの急成長が始まったわけです。
筆者が20歳代の頃に、正式な書名は忘れましたが、『日本の小売業は6社しか生き残れない』という本が発売されてよく売れていました。6社というのは、ダイエー、ジャスコ、イトーヨーカ堂、西友、マイカル、ユニーの総合スーパー(日本型GMS)のことです。戦後に急成長した巨大企業である総合スーパーこそが、日本の小売業の近代化、そして国盗り物語のゴールであり、他の小売企業はすべて大手6社の傘下に入ると、真顔で力説する人も大勢いました。
しかし、ご存知のように、ダイエー、マイカルは経営破綻し、西友はウォルマートの子会社になり、ユニーはドン・キホーテの傘下に入りました。つまり、日本の小売業は6社しか生き残れないのではなくて、「日本の大手小売業6社のうち2社しか生き残れなかった」というのが正解だったわけです。
変化対応できなければどんな大企業も滅びる
現在のドラッグストアは、1兆円企業を視野に入れた企業が数社も登場しています。ドラッグストア国盗り物語の歴史をたどると、地方予選を経て、準決勝が終わり、いよいよ決勝戦(最終決戦)の舞台に来たと感じる人も多いようです。数社の大手ドラッグストアしか生き残れないと感じている人が多いことも事実です。
しかし本当にもうこれがゴールなのでしょうか?商業の栄枯盛衰の歴史を素直に分析すると、次の10年も間違いなく主役の交代が起きると考えた方が必然であるように思えます。
全盛期を迎えた業態(ビジネスモデル)が通用する期間は20~30年です。変化に対応できなければ、どんな巨大な企業も滅びるという歴史は何度も繰り返されています。「今度だけは繰り返さない」という確率の方が低いことは、歴史が教えてくれます。
アメリカの経済学者である(故)クレイトン・クリステンセンの名著『イノベーションのジレンマ』によれば、ビジネスモデルが通用する期間は20年程度で、もっとも儲かっている時期に新しいビジネスモデルに挑戦しなければ、必ず衰退の道をたどると書かれています。しかし多くの企業は、儲かっている時期に、儲からない新しい挑戦をやりたがらないのです。
しかし、長く続く企業は、既存のビジネスモデルが絶好調の時期に、必ず新しいビジネスモデルに挑戦していると書かれています。写真フイルム大手の「コダック」が倒産し、同業の「富士フイルム」がビジネスモデルを乗り換えて生き残っているのは、まさにイノベーションのジレンマの典型的な事例です。
ドラッグストアの次の10年も、現在の規模の大きさよりも、「変化対応力」によって勝敗が分かれると思います。
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