店長からSVにステップアップするために必要な5つのスキル

月刊マーチャンダイジング2021年3月号は特集「店長・スーパーバイザーの教科書」を掲載しています。そこで、1980年代の株式会社ツルハに入社し、スーパーバイザー(SV)、部長を経て、2020年8月 関東店舗運営本部長に就任、総勢20名のSVを率いる半澤剛本部長に、「SVに求められるスキル」とは何かを伺いました。(月刊マーチャンダイジング2021年3月号より編集の上転載)

SVは担当地域の店を統括する経営者

半澤 店長がSVになるために必要なスキルは以下です。

①「現場」と「数値」の両方が分かること。
②完全作業を徹底させる3原則(報告・連絡・相談)を徹底していること。
③小売業の基本5原則の理解と実行(整理・整頓・清潔・清掃・躾)ができていること。
④顧客が買いたい売れ筋商品が、探しやすく店頭欠品のない状態で維持できていること。
⑤商売の原点を理解し実行していること。

――御社におけるSVの役割について教えてください。

半澤 私がSVをやっていた2003年当時はマニュアルがなく、毎日失敗しながら覚えていきました。(1)少ない経費で営業利益を上げる、(2)店のデコボコをなくす、(3)本部と店のパイプ役、(4)本部の指示の徹底といったヒト・モノ・カネすべての管理が当時の職務でした。

現在は、店舗数が2,000店舗を超え、分業体制が確立されました。現在のSV最大の役割は、経営者の「意思と意図」を現場に落としこむための「総責任者」という位置づけです。

基本的にSVの担当エリアの店舗数は10~12店舗です。OJTによって、現場での不完全作業を指摘し、その場で自らが手本を示して「作業の標準化」を推進します。店舗格差をなくし「標準化」することがSVの最大の職務です。

2003年当時は、ツルハの新しい商勢圏である山梨県エリアのSVを担当していました。店長兼任ではなく、店は持たずにSVとして活動していました。3年で黒字を目指すため、チラシを4回から1回に減らす経費削減も実行しました。常に売価について考えていたわけです。数値を管理する「経営感覚」は、今のSVにも絶対に必要なスキルです。

SVの適正能力は「リーダーシップ」

──SVの数値管理はどのように定義されていますか。

半澤 売上・粗利・利益の目標をすべて達成することです。達成する気がないなら、やってはいけない職務だと思います。現場仕事が中心の店長と異なり、SVは8割がた「数字」で評価されます(人時売上高は最低1万7,000円、粗利は5,000円が目安)。目標を担当エリアの店長、部下と一緒に「共有」して達成していくわけです。

つまり、10~12店舗の店長を同じ方向に向かせる力がSVには必要です。SVと店長は違います。優秀な店長が、SVになれば優秀とは限りません。

1店舗のスペシャリストよりも、人を引っぱっていける「リーダーシップ」や「マネジメント」の能力がSVには重要なのです。

OJTによる練習の徹底が担当エリアを底上げする

──SVは具体的にはどのようにして10~12店舗のデコボコをなくす「標準化」するのですか?

半澤 よくある話ですが、10店舗あるので手がかからない「いい店」に訪店したがるんですよね。本来は逆で…。

続きは月刊マーチャンダイジング 2021年3月号にて!

株式会社ツルハ 関東店舗運営本部長
半澤 剛氏

ロピア「精肉」の強みは牛肉の「部位の種類の豊富さ」と「ボリューム」

ドラッグストア業界で売上高構成比が増加を続けている食品部門。しかし、いまだ「単に並べて販売している」だけの領域から出ていない企業も多い。業態としての歴史の長い食品スーパーの売場から学ぶべきものは多いはずだ。本企画では、月刊「食品商業」誌の元編集長である筆者が、注目の食品スーパーの新店をストアコンパリゾンし、色気のある売場づくりのヒントを探る。(エイジスリテイルサポート研究所 所長 三浦 美浩/月刊マーチャンダイジング2021年2月号より編集の上転載)

楽しく、感動を目指し突出した人気を誇る

TBSラジオの番組内企画「スーパー総選挙」で2019年、オーケー、ライフ、ヤオコーに次いで第4位に入ったのが今回紹介する株式会社ロピア(高木勇輔社長)である。上位3社のオーケー(123店/2020年3月末)、ライフ(275店/2020年4月末)、ヤオコー(178店/2020年3月末)が100店以上の店舗網を有するのに対し、ロピアの店舗数は56店舗(2020年12月)と半分以下。この店舗数で上位に匹敵するポイントを稼ぐのだから、その人気の高さは突出している(ちなみに得票は3位・ヤオコーが658票に対し、ロピアは591票と拮抗)。

ロピアの創業は1971年、精肉専門店「肉の宝屋」として神奈川県で誕生した。その後、1996年には社名を「ユータカラヤ」に変更し、その後「新鮮大売ユータカラヤ」を出店、さらに新業態の「ロピア」を開店し、2011年には社名を「ロピア」に再変更している。2012年には大型SC、ららぽーとTOKYO-BAY(千葉県船橋市)にテナント出店し大成功、ここから快進撃が始まる。

店舗網は神奈川県、東京都、千葉県、埼玉県の関東と、2020年9月から出店開始し現地で大反響を起こした大阪府、兵庫県の3店舗を加え、2020年12月現在で56店舗で、年商は1,595億円(2020年2月期)である。

ロピアの企業名、店舗名は「ロープライスのユートピア」の略。「食生活♥♥(ラブラブ)ロピア」をモットーに、「ユートピア=楽しく感動していつも行きたいところ」を目指すとしている(同社HPより)。

ではその「楽しく感動」は、どのような背景で生まれているのか。ストコンで探ってみよう。

部位のバラエティとボリューム 「2つの驚き」の牛肉が強み

今回視察したのは、西武池袋線の小手指(こてさし)駅から約1km離れた島忠・ホームズ所沢店にテナント出店した店舗である。小手指駅前にはセブン&アイ系のSM、ヨークフーズと西友の大型店があり、競争状況は厳しいエリアだ。

ロピア 所沢島忠ホームズ店は2019年10月に増床オープンしたホームセンター内の1階にテナント出店した。SC全体では1万4,000㎡になり約2倍の売場面積になった

2016年に開店したホームズ所沢店は2019年10月に売場を約2倍に拡大してリニューアルオープン、商業施設の面積は4,242坪だ。この間、島忠へのテナント出店が相次いでいるロピアは、駅から少し離れた国道沿いのこの商業施設への集客力の中核を担っている。

ロピアの人気の秘密は、精肉専門店出身ということからの「肉の強み」にほかならない。売場は野菜・果物、鮮魚、精肉と続き、肉売場は奥の壁面沿いにスペースを確保されている。食品中心のSMで、肉は大変重要な商材である。たとえば、総務省の家計調査の消費支出(全国・2人以上世帯)で見ると、この重要さがよくわかる(図表1)。

生鮮食品の中で1ヵ月の購買頻度(100世帯当り)がもっとも多いのが生鮮野菜の3,839回(1世帯当り38.3回とほぼ毎日)。これは野菜が肉料理、魚料理いずれにも使用される「共通食材」である点から当然だ。次に高いのが生鮮肉で、生鮮肉は購入頻度が月間1,232回で、うち豚肉586回、鶏肉347回、加えて加工肉(ハム・ソーセージ)の459回と肉関連では高い。生鮮魚介(生の丸魚、切り身、貝類)は月の購入が717回で、生鮮肉+加工肉の半分以下の購買頻度でしかない。

金額でいうと生鮮肉は生鮮魚介の約2倍の6,447円で、加工肉を加えると8,000円近い。とくに牛肉は月190回(1世帯当り2回以下)でしかないのに、支出金額は1,771円と額が大きく、「ごちそう」であることがわかる。

このように食品SMにおいて野菜と肉が購買頻度、購入金額のいずれにおいても重要なのである(ちなみにDgSで扱う石けん類・化粧品などボディ関連が3.7回・4,010円、ラップ、柔軟剤など家事用消耗品が8.0回・1,953円となっている)。

とくにロピアの精肉売場の人気の理由は「牛肉の強み」にある。

ロピアは店ごとの品揃えや売価は、それぞれの店の各部門の責任者であるチーフが決める。たとえば所沢店の場合、平日は交雑(こうざつ)種(乳用牛であるホルスタイン種の雌牛と黒毛和牛の雄牛を掛け合わせた比較的安価な国産牛)と輸入牛を中心に販売している。

交雑種は「みなもと牛」という4等級(肉質は上から2番目のランク)を扱うが、精肉専門店出身ということで丸ごと一頭買いで仕入れ、自社加工ができ多彩な部位と、低価格が両立できている(通常のSMは「パーツ」という精肉メーカーが部位ごとに加工しパックして、納品する形態が多いため、人気部位を自由に買うことは容易でない)。焼き肉などでおいしい希少部位の「みすじ」なども100g500円前後で販売している(調査は2020年12月初旬)。

輸入牛はアメリカ産のアンガス種の熟成肉を販売。たとえば「アンガス牛・牛肩ロースステーキ肉」は100g189円と「豚肉以下」価格。大きさは25cm超で厚さは1.5cm程度。1枚361gで682円(税抜き)なので食べ盛りの子供は大喜びだ。ロピアの牛肉は自社加工なので、焼き肉店ぐらいでしか食べられないような珍しい部位も選べるし、値ごろ価格で提供できる。輸入牛なども100g単価が安いので思い切って厚く、大きくカットして販売できる。

米国産のプレミアムアンガス牛・熟成肉は100g189円の安さ。大きさは25㎝超で厚さは約1.5㎝と厚い。たとえばバーベキューなどでこれを焼いたら子供たちは大喜びするだろう

購買頻度は低いが、金額は高くなる「ごちそう」の牛肉を、部位のバラエティと、見た目のボリュームの「2つの驚き」で販売する、これがロピアの牛肉の強みだ。2020年12月8日〜14日のチラシでも生鮮のトップは牛肉。週半ばの火曜日の98円、水曜日の198円から、週末の398円、498円へと部位をランクアップさせてごちそう感を醸成、土日は低価格の牛肉も交えて、こだわりと安さの両面作戦を採用する。

12月初旬のチラシは上段のトップの商品が牛肉。火曜日から98円、198円、298円とランクアップして週末の金曜日は398円、土・日曜日は498円、458円の「ごちそう」部位を販売する

「大容量」「バンドル販売」で安さと驚きのイメージを訴求する売場

ロピアは青果、鮮魚、精肉、総菜などの店舗の各部門を事業部という形態で分離、独立させている。既述したが仕入れ、品揃え、売価も各店・各部門のチーフが決定し、各店舗の各部門が独立した運営を行っている。

各部門には個人商店のように屋号が付けられており、たとえば「肉のロピア」「八百物屋 あづま」「日本橋魚萬」「Meat Deli 肉の十八番」などの看板が店内に掲げられている。

ロピアの売り方の特徴は、同一商品を2個、3個とまとめて売るバンドル販売(束売り)である。自社製造の加工肉に関してもバンドルを多用しており…。

続きは月刊マーチャンダイジング2021年2月号で!

駅前250坪超の進化形「matsukiyo LAB市川駅南口店」レポート

matsukiyo LABは、薬剤師、管理栄養士、ビューティスペシャリストの専門スタッフが美容と健康を総合的にサポートする専門性の高い業態で、2015年9月に千葉県松戸市に1号店をオープン。現在、26店舗を出店しており(2020年12月末)、市川駅南口店は2020年10月30日オープンの最新店である。美容と健康関連商品の充実はもちろんのこと、食品、日用雑貨の品揃えも豊富で、新たな可能性を追求した店舗である。(月刊マーチャンダイジング2021年2月号より抜粋)

自社開発の電子台帳を使って接客履歴を記録

店舗はJR総武線市川駅前に立地している。市川駅から東京駅まではJR総武線快速で20分。商圏内には東京へ通勤・通学する人も多い。

入り口は歩道に面した場所と駅ビルに面した場所の2ヵ所あり、後者からの入店客が約7割を占める。駅直結という立地特性から入り口付近には飲料や菓子、朝食として簡単に食べられる食品などを品揃え、コンビニや駅売店的なニーズに応えている。

駅前立地なのでレジ付近には、ガム、あめ、菓子、飲料などを販売

matsukiyo LAB業態では、「HEALTH CARE Lounge」(処方せん受け付け、ヘルスチェック)」、「SUPPLEMENT Bar」(サプリメント、健康カウンセリング)、「BEAUTYCARE Studio」(化粧品カウンセリング)、この3つの機能を持つことが条件となっている。

市川駅南口店は地上1階、地下1階の2層で、売場面積は地下1階、1階合わせて約260坪。駅前立地が多いmatsukiyo LABでは2018年11月にオープンした妙典駅前店と並んで最大レベルである(妙典駅前店は1層)。この広さを生かしてHBC(ヘルス&ビューティケア)の深い品揃えと同時に、地下では食品、日用品を幅広く揃えている。

壁面には制度化粧品を陳列。 店内は木調のフロア、 明るい照明で商品を演出
マツモトキヨシグループでの専売品、化粧下地「プリマヴィスタ」のトーンアップ(明るい発色)商品

化粧品売場は壁面に制度化粧品を陳列し、中面にはセルフ商品を展開。コロナ禍でニーズが高まる目元メイクはとくに品揃えを強化している。若年層のニーズに応えるために、バラエティストアなどで扱うブランド「excel(エクセル)」、人気韓国コスメ「espoir(エスポア)」や、「マジョリカマジョルカ」「キャンメイク」「セザンヌ」など特徴ある商品、ブランドを取り揃えている。

中面に配置されたセルフ化粧品売場には「エクセル」などバラエティストアなどで扱うブランドを品揃え
espoir、CLIOなど人気韓国コスメを集めた棚
テスターの備品も充実

ビューティコンサルタント(BC)はすべて自社スタッフ。matsukiyo LABでは電子台帳を採用しており、メーカー、ブランド問わず接客、サンプリングの履歴は保存され、次回のカウンセリングに生かされる。また、管理栄養士が使う電子台帳の記録と化粧品の記録は相互に閲覧可能で、管理栄養士が肌悩みに合ったサプリを紹介することもある。

カウンセリングカウンターには肌チェック機を設置、肌の状況を定期的に見ることで必要なケアや商品の案内ができ、継続来店を促進できる。

化粧品のカウンセリングカウンター、背面にはPBの「THE RETINOTIME」を陳列
肌チェック機、肌状態を測定することで、継続的な来店、カウンセリングができる

日配、冷凍食品、酒類は郊外型以上、豊富な品揃え

地下にはヘアケア、ボディケアなどのトイレタリーを含む日用雑貨と食品売場を配置している。階段を下りて最初の壁面は男性化粧品売場。3尺8本の棚があり…。

続きは月刊マーチャンダイジング2021年2月号で!

参入余地のない成熟市場でも必ず「新業態」は誕生する

2018年6月にスタートしたMD NEXTに連載してきた「今週の視点」の第100回目の原稿です。今週の原稿は、流通専門のジャーナリストという仕事を30年以上も継続してきた筆者が目撃してきた小売企業の「イノベーションのジレンマ」と「栄枯盛衰」について述べたいと思います。

オーバーストア時代に成長したドラッグストア

[イノベーション(革新)のジレンマとは、業態(ビジネスモデル)が通用する期間は20~30年。既存業態が絶好調の時に新しいイノベーションに挑戦しなければ、次の時代には衰退してしまう、というサイクルを図式化したもの]

日米の小売業の30数年の栄枯盛衰の歴史を振り返ると、その時代に絶好調のビジネスモデルが通用する期間は20年程度です。いつの時代にも、必ず新しい革新者が登場して、画期的な新業態を開発し、主役の交代劇が繰り返されてきました。現在、「ドラッグストアは大手5社しか生き残れない」とも言われていますが、本当でしょうか?

1990年代前半からわずか30年の期間で驚異的な成長を遂げたドラッグストアという業態の成長物語をまとめた『ドラッグストア拡大史』(イースト新書)という本が、2月10日に発売になりました。ドラッグストアという新しい業態の歴史をまとめた本は他にないので、ぜひご購読ください。ドラッグストアのことを知る入門書として最適の一冊です。

ドラッグストアが成長を開始した1990年代前半は、すでに全国津々浦々に近代的な業態が大量出店していた「オーバーストア時代」です。多くの小売企業がチェーン展開を始めた昭和時代のように、個人商店しかなかった「店不足時代」とは大きく異なります。

1990年代前半は、後発のドラッグストアが成長する余地などないように感じたものです。しかし、ドラッグストアは「店不足」「右肩下がり」の時代に、後発でありながら驚異的な成長を遂げています。「なぜドラッグストアだけが成長できたのか?」についてはドラッグストア拡大史を読んでもらえば理由がよくわかります。

そして、1990年代の後半には、昭和時代の小売業の王様だった総合スーパーの長崎屋、マイカル、ダイエーなどが経営破綻しています。まるで小売業の主役が交代するかのように、ドラッグストアの急成長が始まったわけです。

筆者が20歳代の頃に、正式な書名は忘れましたが、『日本の小売業は6社しか生き残れない』という本が発売されてよく売れていました。6社というのは、ダイエー、ジャスコ、イトーヨーカ堂、西友、マイカル、ユニーの総合スーパー(日本型GMS)のことです。戦後に急成長した巨大企業である総合スーパーこそが、日本の小売業の近代化、そして国盗り物語のゴールであり、他の小売企業はすべて大手6社の傘下に入ると、真顔で力説する人も大勢いました。

しかし、ご存知のように、ダイエー、マイカルは経営破綻し、西友はウォルマートの子会社になり、ユニーはドン・キホーテの傘下に入りました。つまり、日本の小売業は6社しか生き残れないのではなくて、「日本の大手小売業6社のうち2社しか生き残れなかった」というのが正解だったわけです。

変化対応できなければどんな大企業も滅びる

現在のドラッグストアは、1兆円企業を視野に入れた企業が数社も登場しています。ドラッグストア国盗り物語の歴史をたどると、地方予選を経て、準決勝が終わり、いよいよ決勝戦(最終決戦)の舞台に来たと感じる人も多いようです。数社の大手ドラッグストアしか生き残れないと感じている人が多いことも事実です。

しかし本当にもうこれがゴールなのでしょうか?商業の栄枯盛衰の歴史を素直に分析すると、次の10年も間違いなく主役の交代が起きると考えた方が必然であるように思えます。

全盛期を迎えた業態(ビジネスモデル)が通用する期間は20~30年です。変化に対応できなければ、どんな巨大な企業も滅びるという歴史は何度も繰り返されています。「今度だけは繰り返さない」という確率の方が低いことは、歴史が教えてくれます。

アメリカの経済学者である(故)クレイトン・クリステンセンの名著『イノベーションのジレンマ』によれば、ビジネスモデルが通用する期間は20年程度で、もっとも儲かっている時期に新しいビジネスモデルに挑戦しなければ、必ず衰退の道をたどると書かれています。しかし多くの企業は、儲かっている時期に、儲からない新しい挑戦をやりたがらないのです。

しかし、長く続く企業は、既存のビジネスモデルが絶好調の時期に、必ず新しいビジネスモデルに挑戦していると書かれています。写真フイルム大手の「コダック」が倒産し、同業の「富士フイルム」がビジネスモデルを乗り換えて生き残っているのは、まさにイノベーションのジレンマの典型的な事例です。

ドラッグストアの次の10年も、現在の規模の大きさよりも、「変化対応力」によって勝敗が分かれると思います。

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コロナストレス対応や休暇助成金も新設、妊娠中の従業員のための制度

新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)禍の収束が見えないなか、前回は「雇用シェア」をはじめとした最新の主なコロナ対応制度について押さえました。今回は特に、出産を控える従業員自身、そうした従業員の方とともに働く人々や事業主が知っておきたい、働く妊婦さんのための制度についてまとめます(2021年1月25日執筆時点)。

母体保護に必要な労働時間の削減や業務配慮

コロナ特例措置をご紹介する前に、平時の制度について押さえておきます。まず、基本となるのは、妊娠・出産する女性の身体を守る(労働基準法上は「母性保護」と言います)ための規定です。次表のように、産休制度をはじめ、職務内容、労働時間に関する制限があります。

事業主には症状に応じた措置が義務付けられている

そして、男女雇用機会均等法には、妊娠中の女性の身体を守りつつその能力を十分発揮することを目的とした「母性健康管理」の規定などが設けられています。主な内容をまとめたのが次表です。

なお、健康検査(表中No.1)の回数は、標準的な妊婦検診に合わせた回数になっていますが、医師などが指示した場合、その必要な時間を確保する必要があります。

また、指導事項の実施(表中No.2)に関する措置の1つ、「通勤緩和」は、在宅勤務も含まれます。そして、始業・終業の時間の移動、フレックスタイム制度の導入や、時短を取り入れるなども選択肢の1つです。

こうした対策を通じて(つわりの悪化や流・早産につながるおそれがある)ラッシュの苦痛を妊婦がうけないようにする必要があります。

そして、医師の指導に対し適切な措置を実施するために、「母性健康管理指導事項連絡カード(通称、母健連絡カード)」を利用することが推奨されています。

母性健康管理指導事項連絡カードの一部

「コロナ感染ストレス」も対象、休暇助成金が新設

そしてコロナ禍の特別措置として、措置対象の症状に「コロナへの感染のおそれに関する心理的なストレスが母体又は胎児の健康保持に影響がある」場合が加わりました。

医師の指導の例として「感染のおそれが低い作業への転換又は出勤の制限(在宅勤務・休業)」が挙げられています。

休業を支援するための助成金も設けられました(新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金)。

これは通常の年次有給休暇とは「別に」、休業が必要とされた妊娠中の女性が取得できる有給(年次有給休暇で支給する賃金相当額の6割以上)の休暇を整備し、この休暇を合計して5日以上取得させた事業主に対して給付する助成金です。

対象労働者1人当たりの金額は、休暇計5日以上20日未満は25万円、以降20日ごとに15万円加算(上限額:100万円)です。

1つ目のコロナ感染ストレスへの対応に関する特別措置が、2021年1月末→2022年4月末日まで、2つ目の助成金制度は2021年1月末→2021年3月末に延長されることが、2020年12月に決まりました。

また、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)において、コロナへの感染について、ストレスを感じたり、通勤や働き方で悩む妊婦の方を対象に、「母性健康管理措置等に係る特別相談窓口」を設け、相談に対応しています。この相談窓口の開設期間についても、2022年1月末まで延長されました。

個人の体調に合わせた働き方ができる職場づくりを

さて、平時でもコロナ措置でも、前述のように法律措置で義務化しているのは、「医師の指導があった場合」が原則となっていますが、そうでない場合も従業員の申し出に応じて配慮するのが望ましいことはもちろんです。

筆者の経験上からも、妊娠中は異常な状態(病気・著しい症状がある)と診断が下されなくても「つらい」と感じるケースがあるからです。特に、つわりをはじめ、妊娠に伴う体調不良はとても個人差があります。実際、ほぼつらさを感じず出産直前まで通常通り働いていたという人から、つわりや体調不良で以前と同じ勤務状況が耐えられないことをきっかけに、退職してしまったという人までいます。

なお、厚生労働省の発表(2020年12月)によると、2020年4月以降の妊娠届出数は昨年割れを続けており(下図)、特に5月は17.6%減でした。コロナ禍のなか、妊娠・出産に不安を感じる人の多さがわかる数字です。

▲出典:厚生労働省・令和2年度の妊娠届出数の状況について

妊娠・出産への不安に拍車をかけるコロナ禍のなか、出産を控える従業員が体調に合わせた働き方ができるように、職場全体で配慮いただき、助成金も活用していただければと思います。

妊娠中の従業員に関するコロナ対応特別措置・助成金の詳細や最新情報は「職場における妊娠中の女性労働者等への配慮について」をチェックしてください。

NFI定例セミナー「Withコロナ時代の商品構成と商品分類」(2021/03/17 13:00~16:10)開催ご案内(オンライン)

3月の定例セミナーのテーマは、「Withコロナ時代の商品構成と商品分類」です。Withコロナ時代の売り方は、密を招く「短期特価特売」が廃れていきます。必然的にプロモよりも「定番売場」の強化が重要になります。そのためには陳列量にメリハリのある「商品構成グラフ」を維持することが買いやすく選びやすい定番売場の条件になります。改めて商品構成グラフの原則と実例を学びましょう。また、ワンストップショッピングを実現する「商品分類」と「売場レイアウト」の原則も解説します。

開催概要

・開催日:2021年3月17日(水) 13:00~16:10
開始時間は運営の都合で若干ずれることがある旨をご了承ください。
・実施方法:zoomによるオンラインセミナー
(アクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:1万5,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2021年3月8日(月)

スケジュール

(1)ショートタイムショッピングを実現する商品構成&分類
(2)ワンストップショッピングを実現する商品構成&分類
[13時00分~14時10分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

・商品構成グラフの原則と作成方法
・良い商品構成、悪い商品構成のグラフ比較
・Withコロナ時代は品目の「絞り込み」が進む
・買上点数を増やす商品分類と売場レイアウトの原則  他

(3)「非接触接客」時代の「POP広告」の原理原則&実例集
[14時20分頃~15時頃]

月刊『マーチャンダイジング』編集部

・リアル店舗の価値を高めるPOP広告の原則
・お客に価値が伝わるPOP広告の実例紹介
・推奨品・重点商品のPOP作成は商品理解の重要な機会  他

(4)特別講座・ドラッグストア「食品売場」の課題と強化策
[15時10分頃~16時10分頃]

エイジスリテイルサポート研究所(株) 三浦 美浩所長

・今注目すべき、強いスーパーマーケットの売場づくりに学ぶ
・ドラッグストアの食品売場の課題
・ドラッグストアの食品売場の強化策  他

注意事項

・今回のセミナーはzoomを利用して実施します。具体的な接続手順、URLなどは、受講者様にお送りいたします。あらかじめ https://zoom.us/ にアクセスできるパソコンをご用意ください。スマートフォンでも受講できますが、パワーポイントのスライドを画面に共有して進めますので、なるべくパソコンでの受講をおすすめしております。

・セミナー終了後10日間はアーカイブされた録画を閲覧することが可能です。
閲覧のためのURLは、セミナー終了後にご案内いたします。

・企業様によって、Zoomへのアクセスができないという場合がございます。
Zoomへの接続については、受講企業様にてご対応くださいますようお願い申し上げます。(弊社にてサポートは致しかねますのでご了承ください)。また、受講者様側の都合で当日受講できなかった場合も返金は致しかねますのでご了承ください。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

お申込み受付は終了しました

店頭の「手書きPOP」はリアル店舗の価値を高める

Withコロナの時代は「非接触」の接客が求められるようになり、店頭でのPOP広告の価値が今まで以上に高くなります。POPによる非接触の接客によって、商品の「売れ方」が大きく変わるからです。

買物客がリアル店舗に求める4つのニーズ

買物客がリアル店舗に求めるニーズは以下の4つです。

リアル店舗の4つのニーズ
(1)コンビニエンス・ニーズ
→近くて便利
(2)ディスカウント・ニーズ
→安い、ポイント販促
(3)スペシャルティ・ニーズ
→親切な接客、深い品揃え、専門的なカウンセリング
(4)エンターテインメント・ニーズ
→楽しい、ワクワクする、新しい発見

もっとも強いニーズはコンビニエンス・ニーズです。Amazonでなんでも買える時代において「近くて便利」がリアル店舗の最大の価値です。もちろん「ディスカウント・ニーズ」(安さ)も、「スペシャルティ・ニーズ」(接客・深い品揃え)も重要です。

これからのリアル店舗は、とても安いけれど、遠くに立地しているので不便、しかも不愛想な接客という「単一価値」の店は、選ばれる店にはなりません。これからのリアル店舗は、近くて便利で、安くて、親切な店という、すべての価値をレベルアップしなければ競合優位に立つことができません。

さらに、Amazonとの競争が激化する中で、リアル店舗の価値を高めるためには「エンターテインメント・ニーズ」が4番目のニーズとして重要視されるようになりました。リテール(小売業)とエンターテインメントを掛け合わせた「リテールテインメント」という造語で表現されることもあります。店頭でのPOP広告は、売場の楽しさ、ワクワク感、新しい発見に貢献するツールなのです。Amazonでなんでも買える時代において、ローコスト一辺倒の「自動販売機」のようなリアル店舗では、わざわざ時間とコストをかけて来店する価値がなくなります。

ドラッグストアが平成時代に大成長した理由のひとつが、「セルフ販売」と「接客販売」をミックスした売り方を採用したことです。しかも、人による接客のサポートツールとして、当初からPOP広告を重要視しました。店内に「手書きPOP」が溢れるようなドラッグストアの売り方が、新しい発見のある楽しい売場づくりにつながったのだと思います。

手書きPOPは客と社員の商品理解を深めるツール

POP広告はサイレントセールスマン(物言わぬ販売員)とも表現されます。売場の楽しさを演出するだけではなくて、商品の価値を理解させる「非接触の接客ツール」でもあります。とくに「手書きPOP」の有効性は高く、現場で働く店長や化粧品担当者に質問すると、「手書きPOPを付けると間違いなく売れる」という回答がもれなく返ってきます。

また、手書きのPOP広告は、お客の商品理解を深めると同時に、現場で働く社員・パートさんの「商品知識」の勉強にもなります。巻頭の「軽失禁・給水量の早見表」を作成した売場担当者は、POPを作成する過程で軽失禁の商品知識を勉強し、深く理解できたと思います。つまり、手書きPOPの作成過程そのものが、商品知識の勉強に最適のツールなのです。当たり前の話ですが、本部から支給されたPOPを貼る作業だけを繰り返しても、その商品やカテゴリーに関する商品知識は身に付きません。

もちろんすべての商品に手書きPOPを付けることはコスト的にも不可能ですが、わが店の重点商品や推奨品に関しては「手書きPOP」を推奨しているドラッグストアも多いようです。いずれにしても、手書きPOP以外のPOP広告も、サイレントセールスマンとしての価値がありますので、以下の5つの種類に整理して、店頭POPを管理すべきだと思います。

POP広告の種類
(1)手書きPOP(売場担当者が主に作成)
(2)エリアでの共有POP(エリアのPOP名人が作成した手書きPOPを印刷)
(3)本部から提供されたPOP広告(できれば手書きPOPを印刷したものが良い)
(4)メーカー提供のPOP広告(その小売業の専用POPがベスト)
(5)商品名と価格を表示した基本POP

無人決済システムでスマートショッピングを実現する「TOUCH TO GO」

2020年10月、JR山手線目白駅改札口隣に「KINOKUNIYA Sutto」がオープンした。この店舗は無人決済レジシステムを導入しており、レジでの商品登録作業なしに、お客が手に取った商品の合計金額を計算、セルフで会計を済ませることができる店舗だ。国内でも先進的なこの取組みの開発と導入の背景について、株式会社TOUCH TO GOの代表取締役社長、阿久津智紀さんにお話を伺った。(取材・文:MD NEXT 鹿野 恵子/月刊マーチャンダイジング2021年1月号より抜粋)

レジ前に立つだけで購入商品が一覧に

「KINOKUNIYA Sutto目白駅店」は約12坪の小さな店舗だ。店内には弁当、総菜、飲料、菓子などが品揃えされており、ひっきりなしに通勤途中のビジネスマンや地元の住民が訪れる。一見普通の店舗だが、天井を見上げると無数のカメラに驚かされるだろう。このカメラが店内のお客の動きを読み取り「だれがどの商品を手に取ったか」を自動で判別する。

KINOKUNIYA Sutto目白駅店。JR山手線目白駅改札脇に立地。場所柄ビジネスマンの利用が多い
レジ台数は2台。青枠の中に入ると会計がスタートする

会計の方法は非常に簡単。入り口の入場ゲートを通過し、商品を手に取り、2台あるレジの前に立てば、その瞬間画面に自分が購入しようとしている商品がディスプレーに映し出される。その内容を確認し、レジ袋が必要か不要を選択した後、交通系ICカードかクレジットカードかという決済種別を選択、会計すればそれで買物は完了。スマートフォンを取り出したりする必要もなく、直感的に買物を済ませることができる仕様になっている。

ただ商品を手に取るだけ。ここで持参したバッグの中に入れてもよい
購入した商品とディスプレーの表示を見比べる。間違いがあればここで修正可能。年齢確認が必要な商品はこのあとの画面で遠隔で確認できる
レジ袋の要否を確認
決済手段を選ぶ。現在は交通系ICカードとクレジットカードのみ。近々現金決済にも対応したい考え

この店舗に導入されているのが、JR東日本のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル事業会社が自社の戦略目的のために行うベンチャー投資のこと)であるJR東日本スタートアップと無人レジシステム「ワンダーレジ」を開発していたサインポスト社の合弁会社であるTOUCH TO GOの無人決済システムだ。

2017年、「JR東日本スタートアッププログラム」の最優秀賞受賞企業であったサインポスト社は、同社が開発した無人AI決済システム「スーパーワンダーレジ」の実証実験をJR東日本スタートアップの支援の下、JR大宮駅で実施。さらに2018年にはJR赤羽駅のホーム内店舗で実証実験を展開した。

2019年には、無人AI決済店舗の開発をさらに加速するため、JR東日本スタートアップとサインポストが合弁で株式会社TOUCH TO GO(以下TTG)を設立。2020年3月、JR山手線の高輪ゲートウェイ駅構内において、無人AI決済店舗の第1号店となる「TOUCH TO GO」を開業した。そして、2020年11月に開店したKINOKUNIYASutto目白駅店は、同システムの外部導入第1号店となる。

同時入店10人 認識率95%

赤羽での実証実験のときは入店制限が約3人で認識精度も高くはなく、コンセプトが先行している印象だったTTGの無人AI決済システム。KINOKUNIYA Sutto目白駅店では10名前後の同時来店に対応でき、認識率は約95%になるまで進化を遂げた。天井に設置されたカメラ台数もTTG高輪ゲートウェイ駅店が50台であるのに対し、KINOKUNIYA Sutto目白店は30台で済んでいる(ただしこれはTTG高輪ゲートウェイ駅店は18坪、KINOKUNIYA Sutto目白店は12坪という売場面積の違いも関係あろう)。

入り口にはゲートを設置。現在入店客数の上限は7〜10人

なお、どのお客がどの商品を手に取ったかについては、カメラ以外にもさまざまなセンサー類を使用し、総合して判断しているとのこと。

天井に設置されたカメラ
棚にも重量計のようなものが見受けられる。既存設備に変更なしで導入可能

また技術力向上による精度アップだけでなく、アルバイト1人でも店舗運営ができるレベルにまで使いやすさも磨いているそうだ。

「ソフトウェアをバージョンアップする場合には、まず実験店である高輪ゲートウェイ駅店でテストを行い、実用に耐え得ると判断できたら、ほかの店舗にも展開するという形を取っています。(アメリカの電気自動車会社大手の)テスラの自動車のように、ハードウエアはそのままでも、ソフトウェアがどんどんアップデートされていくような運用です」と阿久津さんはいう。今後、決済種別に現金を加えるなども検討しているそうだ。

KINOKUNIYA Sutto目白駅店はオープン後の手ごたえも上々だ。

「もともと有人店舗だったときと比較して、無人化してからも売上は維持できています。もっとも売上の高い朝の時間帯はビジネスマンの方がぱっと買物を済ませてお帰りになります。日中来店する女性のお客さまは、まだ利用に対して迷いがある方もいますが、一回使っていただけると、次回以降は抵抗なく利用してもらえる印象です」(阿久津さん)

ちなみにKINOKUNIYA Sutto目白駅店の大まかな売上構成比は菓子2割、飲料2割、米飯2割、アルコール1.5割という割合で、食品スーパーよりもコンビニに近い構成になっている。

なお紀ノ国屋は、2010年よりJR東日本グループ入りしており、これまでもエキナカ店舗を運営していたという縁で今回の導入に至った。TTGの無人AI決済システムを導入することで、省人化による店舗オペレーションコストの低減を目指す。

実店舗運営の背景持つテック企業のトップ

TTG代表の阿久津さんは、JR東日本に入社後、駅ナカコンビニNewDaysの店長や、JR東日本ウォータービジネスでのバイヤー、青森でのシードル工房事業、ポイント統合事業の担当などを経て、JR東日本スタートアップの立ち上げに参画、2019年7月にTTGの社長になるという経歴の持ち主。テックスタートアップの代表者でありながら、実店舗運営のバックグラウンドを持つ。

阿久津さんがCVCを立ち上げた背景には、JR東日本という超大企業で感じた「歯がゆさ」があった。「大企業は大きすぎて、スピード感ある意思決定ができません。予算取りで1年かかるようなことは往々にしてありますし、システム発注の仕様決定にも時間がかかる。PoC(Proof of Concept新しい技術や理論が実現可能か、目的の効果や効能が得られるか、などを確認するための検証工程のこと)すら進めることができません」。しかし環境変化のスピードは日に日に早まっている。物事を決定してから数ヵ月以内に着手しないと、世の中の流れ自体が変わってしまいかねない。

「そうであれば、外部の人や企業と連携するのが一番手軽であると考えました。スタートアップ企業も、最後は大企業と組まないとスケール(規模拡大)することができません。そこで、JRがある程度出資して、スタートアップ企業をサポートし、自社にとってもメリットが得られるような体制をつくりたいと考え、CVCを立ち上げたんです」(阿久津さん)

狙うは採算が合わない「マイクロマーケット」

TTGは今後この無人AI決済システムを、月額サブスクリプションモデルで提供していく予定だ。2020年度中にあと数店舗出店の予定もあるという。

JRグループだからといって、エキチカ、エキナカにこだわるわけではなく、「マイクロマーケットで人手不足に悩んでいるようなところをターゲットとしている」と阿久津さんはいう。広い店舗で、従業員が常駐していても採算が合うようなところはターゲットから外している。

過疎化が進み買物難民の悩みを抱える地域、高速道路のサービスエリア内店舗、道の駅のような、商品を買う場所のニーズはあっても、人件費をかけると成立しないような立地への出店を、テクノロジーの力でサポートする。

さらに、非接触がウリの無人AI決済システムは、このコロナ禍で一気にニーズが高まった。

TTGの無人AI決済システムは、もともと省人化のために開発されたもので、現在のような状況はまったく想定していなかった。しかしコロナ禍によって、病院内のコンビニからの引き合いが増えているという。病院内コンビニは、もともと立地的に人を集めにくいうえ、感染対策などを考えると、無人化のニーズは非常に高いからだ。

また、コロナ禍で、アルバイトが集めやすいという話も聞かれる一方、売上が下がっている店舗も少なくはなく、採算を合わせるのが難しくなっている業態も多い。無人決済レジの実用化・一般化は、省人化によるコストダウンで、売上の減少に悩む企業にとっても恩恵を受けることになり得る。現在は、TTG高輪ゲートウェイ駅店、KINOKUNIYA Sutto目白駅店、いずれも従業員1人での運営態勢となっている。米飯や乳製品などは食品販売管理者が常駐していないと販売することができないための措置だが、そういった商品を扱わない場合は、完全無人での運営も不可能ではない。配送トラックが複数店舗を巡回して商品の納品と品出しを行う、「自動販売機」と「コンビニ」の中間のような店舗オペレーションが現実となる日も近い。

重要なのは既存の買物のUIを変えないこと

注目度が高まる一方の無人AI決済システム。阿久津さんは一番の競合をAmazonだと考えているが、Amazonが既存小売業をディスラプト(破壊)してすべてをEC化しようとしている一方、TTGはあくまでも実店舗小売業をサポートするためのシステムでありたいと言う。

「日本の小売業は海外に比較すると現金比率が高く、POSレジとのつなぎ込みが必要であるなど障壁が多い。海外から簡単に参入できる市場ではありません。そういう意味で私たちはかなり先行していると考えています。

駅の中というのは本当にいろいろなお客さまがいらっしゃっていて、6割の方が現金決済を求めるような場所です。モバイルアプリをダウンロードしないと使えないような店舗では、一般のお客さまにはまったく受け入れられません。既存の買物のUI(ユーザーインターフェース、利用者と製品やサービスとの接点のこと)を変えないことが重要です」

2020年11月、TGGはコンビニエンスストアのファミリーマートと無人決済システムを活用した無人決済コンビニ実用化に向けて業務提携を行った。1号店のオープンは2021年春ころに予定されている。

〈取材協力〉

株式会社TOUCH TO GO
代表取締役社長 阿久津 智紀さん

ラインロビングに挑戦したウエルシア「600坪型」最新標準店

狭小商圏の立地で成立するための基本対策が「ラインロビング」である。ラインロビングによって買物目的が増えれば、「ワンストップショッピング性」が高まり、従来よりも小さな商圏でも商売を成立させることができる。ウエルシア薬局は、従来のプロトタイプである300坪型の2倍の売場面積の「600坪型」店舗「平塚四之宮店」(神奈川県)を開店し、最新標準店(プロトタイプ)づくりに挑戦している。(月刊マーチャンダイジング2021年1月号より一部転載)

狭小商圏で成り立つ600坪の最大店舗に挑戦

ウエルシア平塚四之宮店の開店は2020年4月9日。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出される直前であった。従来の300坪型の2倍の面積なので、青果、精肉、総菜、弁当、園芸などの新しい商品群をラインロビングしている。車で5分圏内の狭小商圏でも成立する実験店という位置づけである。狭小商圏で成立する600坪型のノウハウを蓄積し、今後は600坪型をプロトタイプとして全国に出店していく方針だという。

初めてラインロビングに挑戦した青果の島陳列

新しくラインロビングした「青果」「精肉」は、客数の増加に貢献している。「青果の購入客は1日100人と、1日の客数700人の7%を占めており、買上率が高い商品です。また青果の1日の買上点数は180点前後と多いので客数増に貢献していると思います」(石庭俊一・店長)

定番陳列の青果と精肉。食品売場の最初に配置されている。鮮魚の取扱いはないが、「塩干」商品の品揃えを充実させている

冷凍食品、日配品、パン売場は、300坪型よりも売場面積を広くし、品目数も増やした。酒類に関しては、焼酎の量り売り、地域一番の缶チューハイ売場、4ℓのウイスキーを10種類以上も品揃えするなど、広くて深い品揃えに挑戦している。

売場面積を大幅に拡大し、品目も増やした日配商品。ボリューム感を維持しながら、廃棄と値引きのロス管理の精度を高めることを最重要視している
冷凍食品も大きく売場を広げたカテゴリー

開店7ヵ月の時点で、食品の売上構成比は42%を占めており、ウエルシア全店の食品の売上構成比22.1%(2020年決算)よりも大幅に、食品の売上構成比を高めていることがわかる。取材時点の1日の客数は700人、客単価2,000円、買上点数8.7点。とくに買上点数が300坪型よりも多いのが特徴で、9~10点に増えるのも時間の問題である。開店直後の売上と客数の伸び率が、従来の300坪型よりも高いそうである。

カテゴリー単位で品揃えの強弱を明確に付けている。コンビニのデザート需要を奪うことを意識したデザート売場。手書きPOPが目立つ
パウチ惣菜も強化している
タンパク質という切り口でゾーニングした陳列

接客を強化する化粧品、調剤、医薬品

売場面積が2倍に増えても、それぞれの売場をまんべんなく増やしたのではない。酒類、パンなどの特定のカテゴリーを思いきり広げている。化粧品、調剤、医薬品のようなDgSの専門性を発揮する売場も大きく広げている。

全文は月刊マーチャンダイジング2021年1月号で!

「ローカルチェーンの価値はもっと高まる」サンキュードラッグ平野氏

日本のドラッグストア(DgS)市場の寡占化が進んでいる。市場規模約7兆7,000億円のうち上場企業14社の売上げは約76%。そんななか、人口約95万人の北九州市で「調剤併設型DgS」を狭小商圏でドミナント展開する「サンキュードラッグ」の平野健二社長に、地域密着のローカルチェーンの「可能性」を聞いた。(聞き手:月刊MD主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2021年1月号より転載)

地域の多くの立地に出店できることが強み

──大手ドラッグストア(DgS)の集約化が進んでいますが、大手小売業の寡占化は今後も進むのでしょうか?

平野 現在、日本では人口の減少が加速し、高齢化が進んでいます。北九州市の「高齢化率(65歳以上の人口の割合)」は30.7%と、日本の市区町村の中でもっとも高齢化率の高い市です。まさに、われわれが商売している地域は、日本の「未来都市」なのです。

人口減少、高齢化が進む日本において、次の10年間の戦略として、全国に多店舗展開することが正解なのだろうかと疑問に感じています。大手小売業が当たり前だと思っている「スケールメリット」は、人口が増え続けていた時代には有効でした。早く多店舗化し、早く大型化することで、空白市場を獲得し、売上と利益の両方を伸ばしていたことは間違いありません。

しかし、1店当りの人口は減り始め、新市場はなかなか生まれません。この10年間でDgSチェーンの「坪当り売上高」は半分以下に下がり、今後も1店当たりの売上高は減少します。多店舗化は将来赤字になるリスクの高い店を増やしていくことになります。今の延長線上だと大手DgSの出店戦略は、近い将来に飽和状態になると思います。

また、ナショナルチェーンは、プロトタイプ(最新標準店)に適した「立地」を選んで、全国に出店しています。しかし、われわれのような「ローカルチェーン」は、ひとつの商勢圏の中のさまざまな立地に出店し、より深く地域に密着していきます。

北九州市のさまざまな立地に出店しているサンキュードラッグ。その高密度展開によって地域医療の「かかりつけネットワーク」の役割を担うことができる

サンキュードラッグの立地は、三方山で一方海の閉鎖商圏です。北九州市内で、サンキュードラッグの店舗数と、「コスモス薬品」さんの店舗数は肉薄しています。しかしコスモス薬品さんは、車で行きやすい「車来店」の立地に出店しています。

一方、サンキュードラッグは「徒歩来店」の立地に出店しています。北九州市内の店舗数はほぼ同じですが、立地が異なります。たとえば、冷凍食品のまとめ買いはコスモス薬品さんでして、お昼の冷食はサンキューで買うので、あまり競合せずに「すみ分け」ができています。大手DgSチェーンと差別化する場合は、立地戦略が重要になります。

半径500m間隔で超高密度出店しているサンキュードラッグ

とくに、地域のローカルチェーンの店舗展開で大切なことは、「店舗密度」だと思います。ナショナルチェーンと1店舗単位で戦えば負けるかもしれません。ですが、ローカルチェーンが密度をつくる戦い方を貫けば、「近さ」という最大の武器が手に入ります。ナショナルチェーンよりも1店舗当りの商圏を更に小さく取る戦略が重要になるわけです。

調剤DgSの高密度出店が「面処方」の最適条件

──狭小商圏DgSを成立させるためには、「調剤」の併設が重要ですね。

平野 そうです。当社はDgS43店(うち28店が調剤併設型)、調剤薬局32店を展開しています。半径500mの狭小商圏で成立するためには調剤はとても重要な役割を果たします。ローカルチェーンの立地戦略による「近さ」という便利性に加え、調剤を併設して地域のヘルスケアの専門性を強化すれば、本当の意味での地域密着型モデルを実現できると考えます。

入口の近くに調剤の待合室、漢方の相談薬局も併設している

人口減少時代に重要になるのは「調剤」です。いま調剤は約8兆円の巨大マーケットです。さらに、これまで個人の調剤薬局が担ってきた調剤市場は、処方せん単価下落によってマンツーマン調剤薬局が淘汰され、集中率の低い「面分業」のDgSの調剤枚数が増えていきます。調剤を取り込むかどうかがDgSの次の10年の成長を決めると思います。

高齢者は1人当り3~4の病院を受診していますので、DgSは複数の病院の処方せんを取り扱って、1人の患者さんを総合的に見ていく必要があります。だからサンキュードラッグは、1kmごとに出店し、500mで来店できる「高密度」の店舗展開をしているわけです。

──地域の医療機関との人間関係、地域医療の担い手と考えると、全国チェーンより地域密着チェーンの方が有利かもしれませんね。

平野 調剤における高密度の店舗展開は、ローカルチェーンに適しています。大型病院の門前だけではなくて、地域に集中的に調剤併設型で店舗展開すれば、大型病院の処方せんと、内科のお薬を一緒に見ることができます。圧倒的な高齢者市場である調剤においては、「歩ける距離」の強みが生きてきます。

今後、DgSで調剤の構成比は上がっていきますが、スケールメリットは減っていくと思います。なぜなら、日本では医療用医薬品の売価が「公定価格」だからです。調剤薬局チェーンが2、3社と言われるアメリカの売価は自由であり、保険会社との交渉力で売価が決まるため、巨大化せざるを得ませんでした。

一方で、日本は公定価格であるため、大手、中小に関わらず売価は一緒です。したがって、大型化するよりも、調剤で選ばれる店を目指すべきです。そのためには、地域の緻密な店舗網や、薬歴を共有する重要性が増していきます。在宅医療に関しても、サンキュードラッグは1kmごとに出店しているため、ローコストかつ迅速にお薬を届けることができます。

結局、ローカルチェーンは、ミニナショナルチェーンになってはいけないのです。エリアを拡大しないで、ディープに地域を深掘りするべきです。地域の人のお役に立つためのお店ならば、決してローカルチェーンは捨てたものではありません。

アメリカよりも敷地の狭い日本では、車を受付口に停車する「ドライブスルー調剤」ではなくて、「ドライブイン調剤」の方が適している

固定客の来店頻度を増やすことが重要

──病気になる前のアドバイスができる管理栄養士の育成にも力を入れていますね。

平野 はい。管理栄養士は、お客さまの「来店目的」をつくる重要なサービスです。現在、「スマイルクラブ」という会員組織をつくり、管理栄養士が地域の患者さんの栄養相談に、週1回の頻度で乗っています。歩数計も記録し、「今月はどのくらい歩いたか?」などのデータを競い合っています。

とても「コミュニケーション能力」の高い栄養士さんが、親切に栄養相談に乗ってくれる

売上=客数×客単価という公式がありますが、1回当りの客単価を上げる論理は、「一元客」が多い大商圏型モデルのもので、狭小商圏型のローカルチェーンでは成り立ちません。ローカルチェーンの場合、新規客は少ないため、1人の固定客の「年間購入額」が勝負になります。年間購入額は、年間客数(=ユニーク客数×来店頻度)と年間客単価(=1回の客単価×来店頻度)の掛け算です。つまり年間購入額は、「来店頻度」の関数なのです。

来店頻度を上げるためには、食品に代表される「購買頻度」が高い商品の構成比を上げることです。2つ目は、「来店目的」を増やすことです。来店目的が増え、来店頻度が上がると「ついで買い」が増え、年間客単価も上がります。したがって、1週間に1回アドバイスを受けるなど、お客さまの来店目的になる管理栄養士の接客には、力を入れるべきです。

狭小商圏で成立するために来店頻度を高めてくれる精肉や青果もラインロビングしている

また、来店頻度は、サービスと商品の幅を広げることでも上がります。人口が減少している北九州では、文具屋、肌着、本屋が減っています。要は、買いたいのに買う場所がないのです。この地域では、カテゴリー単位、サブカテゴリー単位で、無くなったお店の商品をラインロビングすることが重要になっていくでしょう。

地域で買い場がなくなっている「文具」「実用衣料」などもラインロビングしている

続きは月刊マーチャンダイジング2021年1月号で!

  • 調剤併設DgSの処方せんは調剤薬局の5倍の枚数
  • 地域をさらに深掘りするOne to Oneマーケティング
  • ローカルDgS32社、8,000億円をグループ化したSOO