極上のごきげんストアソング「ラブリイ エブリイ」。ウキウキビートの秘密に迫る!!

ストソン探偵、西へ…。今回の舞台は広島県福山市に本社を置く食品スーパーマーケット「エブリイ」。思わずステップを踏みたくなる楽しげなストソン「ラブリイ エブリイ」の秘密に迫ります。(月刊マーチャンダイジング2019年9月号から転載)



※ももいろクローバーZ「オレンジノート」「いつだって挑戦者」/AKB48「ヤンキーマシンガン」/SKE48「1!2!3!4!ヨロシク」/NMB48「プライオリティー」/乃木坂46「遥かなるブータン」「シークレットグラフィティー」ほか多くの作・編曲に携わる

[小売業働き方改革のリアル]5日間の有給取得義務化は7割超の企業が実施済み

月刊MDによるドラッグストアおよび小売業各社へのアンケート調査第2回。今回は有給取得義務化について、具体的な施策や従業員の反応などを聞いた。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号より転載)(分析・執筆/社労士事務所ワークスタイルマネジメント・小林麻理 調査/月刊マーチャンダイジング編集部)

前の記事「労働時間削減に8割弱が肯定も、残業代減への不安残る」はこちら

有給取得義務化に対する施策実施済み企業は7割超

Q5:5日間の有給取得義務化に対し、従業員向けになんらかの施策をしましたか?または予定はありますか?

全従業員実施済みが7割超。ただし検討中の企業も

「有給取得義務化」は4月から適用が開始されている法律の対応とあって、全従業員へなんらかの施策を実施している企業が7割超(75%)となった。ただし検討中の企業もあり、今後の対応が急がれる。

法定有給「20日」のうち「5日」の取得や、パートタイマーの有給取得に対して感じるハードルは、企業によってかなり差があるだろう。しかし、とくに家庭の事情を抱えていることが多いパートタイマー人材には、有給制度の運用実績が募集時のアピールポイントにもなる。ぜひ人材獲得にプラスになると捉えたい。

また、義務化にあたっては、続くアンケート調査にもあるように取得させる方法はさまざまである。自社の状況を踏まえて、組み合わせるとよいだろう。

Q6:有給取得義務化に対する具体的な施策は?

■5日取得義務化を実行するための方法について

計画年休や推奨日の設定など多様な施策で対応

周知・指導だけでなく、期日を設ける、期間を区切るなど方法は分かれた。また、企業や個人単位で計画年休を導入したり、推奨日を設定するなど各社の工夫が見られる。

その他には、「長期休暇取得制度」の取組みもあった。従業員が「一定期間職場を離れる」ことは、従業員自身がリフ㆑ッシュできるのはもちろん、業務の「属人化(特定の人に仕事がつき、その人がいないと業務が回らない状態)」を防ぐ効果もある施策だ。

■店舗・組織運営上の有給取得推進の工夫

雰囲気づくりがトップ。新規人員の採用や閉店も検討

施策の中では、「休みやすい」雰囲気づくりがトップだった。漠然とはしているものの、「休みづらい」雰囲気の日本企業にとっては、これも立派な施策のひとつといえる。続く「新規人員の採用」がうまくいくかどうかは、従業員のための「働き方改革」ができているかに左右されるといえる。さらに、営業日・時間を減らす、閉店を検討している企業もあった。

■人事労務管理上の工夫

データ整備が最多。導入予定はシステムが最多

この機会に有給管理簿をデータで整備したという企業がもっとも多かった。紙の整備でも法律的には問題ないが、少なくともデータ整備、できればシステムの導入をおすすめする。

有給を適切に管理するのはもちろん、従業員の勤怠管理を人手で管理する手間は極力、効率化しておきたいところ。それが、バックオフィスの働き方改革につながるだろう。

施策の実施で「自身の計画が崩れる」という意見も

Q7:有給取得義務化に関して従業員の反応はどのようなものですか?

フリーコメントを一部紹介する。

◆どちらかといえば肯定的である

責任感の強い従業員は、時間短縮で仕事の精度が下がることを懸念している傾向が見受けられる。
有給取得が進むことにより業務が滞る・負荷が増えることを危惧する従業員はいる。
いままでなかなか利用できなかったため、積極的に利用していきたいが、現場の状態を考えると不安が残る。

◆どちらともいえない・わからない

従業員の個人的な意見としては有給休暇の取得日数が増えることに肯定的であるが、所属長はじめ管理者からすれば労働時間の減少になるため否定的である。
病気になったときなどのためにあえて消化したくない従業員もいる。
有給付与期間の設定により、自身の計画がずれるといわれた。いままでは、有給の使用に関して推進してきたのだが、かえって使用の制限が発生するようになってしまったから。

実際の取得には不安も多い

「とても肯定的である」+「どちらかといえば肯定的である」が8割弱(76%)と有給取得義務化自体には肯定的との見方が大勢を占めた。

必要時に取得できるようにするのはもちろん、普段できない家庭や地域の役割を担う日、生活者としての視点を磨く日として、積極的に有給を利用できるとなおよいだろう。

また、職場のだれかがいつでも有給を取得できる状況をつくることは、Q6でも触れた業務の「属人化」防止にも効果的である。有給取得によって業務が滞ることや、作業品質の低下を不安視する現場を心配する声も一定数ある。こうした不安の声を払拭するためにも、業務の見直しと改革を進めたい。

調査概要

  • 調査時期/2019年6月
  • 調査方法/無記名式書面アンケート
  • 有効回答数/設問によって異なる(各図表に明記)
    ※グラフ表記については、小数点以下四捨五入のため、100%にならない場合もある。

回答者属性

  • 協力社数/25社ドラッグストア22社、食品スーパー1社、総合スーパー1社、ホームセンター1社
  • 対象者/人事もしくは労務部門の責任者、総務、店舗運営部門などに所属する担当者(各社1名が回答)

「側面接客販売」がドラッグストアの売り方

月刊マーチャンダイジングが毎年12月号で特集している『顧客満足度調査』。本年の調査の途中経過を見ていると、ドラッグストア(DgS)の売り方は、まずはセルフで商品が選びやすいことがもっとも重要であると感じます。

セルフで選びやすいことが顧客満足向上のポイント

顧客満足度調査は、全国の500店のDgSを、主婦のミステリーショッパー(覆面調査員)が訪問し、クリンリネス、レジ応対、接客などの調査項目を採点し、もっとも顧客満足度の高い企業と店舗を決定する企画です。

その中に「総合満足度」という調査項目があります。調査の最後にミステリーショッパーが「この店は友人・知人に自信をもって推薦できる店ですか?」という質問に10段階評価で回答するものです。総合満足度の高い店は、顧客の「再来店意向が強い店」つまり「固定客がつきやすい店」と評価します。

さらに、「相関係数」という統計的な指標を活用して、総合満足度に相関の高い調査項目を数値化します。総合満足度と相関の高い調査項目は、その項目を改善すれば、総合満足度に直結することになります。

今年の調査では、接客の重要性の高い[医薬品]に関して、「目薬は疲れ目、かすみ目、ドライアイ、コンタクト等の機能別、悩み別にわかりやすいく分類されていて、見つけやすかったですか?(メーカー別に分類されていて、その中で機能別、悩み別に分類されているものも含む)」という質問が総合満足度と相関の高い調査項目でした。一方で、「風邪薬売場で商品を探していた時、店舗従業員からの声掛けはありましたか?」という調査項目は、総合満足度との相関が低いという結果になりました。つまり、声かけをしても総合満足度は高まらないようです。

もちろん、買物客ではないミステリーショッパーなので、「声をかけられて調査しにくくなった」という理由で顧客満足度との相関が低いという結果になったのかもしれません。しかし、DgSに顧客が求めていることは、「まずはセルフで選びやすい」ことだというのは間違いないと思います。

質問されたら親切に対応する接客が重要

また、医薬品同様に接客が重視される化粧品でも、「洗顔料はブランド別、悩み別、剤型別(泡洗顔、チューブ、石鹸等)にわかりやすく分類されていて、見つけやすかったですか?」「テスターは清潔に保たれており、周りは整備されていましたか?」という調査項目が、総合満足度との相関が高いという結果でした。「わかりやすい分類」で「きれいな売場」であることが、固定客化のために重要であることがわかります。

化粧品の接客に関しては、「ファンデーションは何が良いかと聞いた時、悩みのヒアリングや、具体的な商品の提案はありましたか?」という調査項目が、総合満足度との相関が高いという結果でした。つまり、まずはセルフで選びやすく、クリンリネスが維持されており、「質問には丁寧に答えてくれる店」の総合満足度が高いことがわかります。

デパートのような「対面接客販売」とは異なり、自由に商品を選べるが、質問したいときには的確に答えてくれる「側面接客販売」が、顧客がDgSに求める接客のようです。

一方、前回調査まではなかった「他のチェーン(違う看板のお店)には無い特長や工夫を感じましたか? 」が、総合満足度に大きく影響を与える調査項目でした。大量出店で成長してきたDgSは、「看板を取ったらどの企業の店かわからない」と揶揄されるほど同質化していました。しかし、今後は「看板を取っても〇〇ドラッグとはっきりとわかる」ほどの個性を持っことが顧客満足の向上対策であり、競合対策でおり、アマゾン対策でもあると感じました。

つまり、これからの最大の経営課題は「ブランディング」なのです。

[小売業働き方改革のリアル] 労働時間削減に8割弱が肯定も、残業代減への不安残る

働き方改革法成立から約1年が経過した。月刊MDでは、昨年10月号に続き、ドラッグストア(DgS)および小売業各社にアンケートを実施。同改革に対する見方や各施策の取り組み状況について、25社から回答を得た。本稿では、ES(従業員満足)向上のための「働き方改革」実行のヒントについて解説していく。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号より転載)(分析・執筆/社労士事務所ワークスタイルマネジメント・小林麻理 調査/月刊マーチャンダイジング編集部)

「働き方改革はES向上に寄与する」と7割の企業が考える

Q1:「働き方改革」はES向上に寄与するとおもいますか?

フリーコメントを一部紹介する。

◆大いに寄与する

働き方に対して会社が関心を持っている、イコール従業員の生活に関心があるということ。働き方改革へのメスを入れることは従業員に対するアピールにもなる。

◆どちらかといえば寄与する

有給休暇によって減った労働時間をおぎなうために、残業や応援による負担が増えることも予想される。とくに薬剤師や登録販売者などの資格者のカバーはだれでも行えるわけではないため、偏った負担が生じないように相互協力が一層不可欠である。
働き方そのものが本当に変わらなければ(作業効率アップなど)どこかにしわ寄せがいく可能性がある。

◆どちらともいえない

実際の業務量は決して減っていない。以前より社員の「働き方」は意識しており法制化されるされないはあまり関係ないとおもわれる。
強制力を持って有給を付与するため、現在適正に管理している職場においてはかえって残業が増えるなどの弊害が発生し、困惑している業態があるはず。
従業員満足度の上位は給与の維持・向上。働き方改革を実行するための必要な設備投資費の捻出をするには、販管費を抑えるもしくは下げる必要が出てくるため、どちらともいえないを選択。

◆どちらかといえば寄与しない

実施方法による。仕組みを変えずに時間の削減だけしても、仕事を持ち帰ることになり、働き方は変わらない。

掛け声先行に疑問の声も

「大いに寄与する」+「どちらかと言えば寄与する」が7割強(72%)を占めた。ただし、企業の具体的な声を見ると、残業削減や休暇取得の土台ができていない(業務量が減っていない)にもかかわらず制度が先行することで、かえって現場に負担が生じることを苦慮する現状がうかがえる。働き方改革法の成立から施行までの期間の短さも、現場での混乱を招く一因になっているだろう。

一方で、ES向上のための「働き方改革」は、本来、国が主導で(上からいわれて仕方なく)実行するものではなく、企業が主体的に実施すべきものともいえる。実際、「以前より働き方は意識しており、法制化されるかどうかはあまり関係ないとおもっている」という声もあった。

いままで、ES向上のための「働き方改革」を意識してこなかった企業も、今回の法律をきっかけとして、今後は、自社と従業員のための取組みとして積極的に実施したい。

Q2:「働き方改革」や「働き方」に関する法律対応に関連して、すでに自社で取り組んでいるものはありますか?または取り組む予定のものはありますか?

労働時間削減から同一労働同一賃金の検討へ

2019年4月から適用が開始された「有給取得の義務化」「残業上限規制」などに対応する取組みは、ほぼ全社が実施中という結果になった。

また、ほぼ全社が取り組み中か取り組み予定だったのが「多様な正社員」制度だ。ライフスタイルに合わせ、時間や地域を限定して働きたいというニーズは大きい。人材確保の面でも、ぜひ実施したい制度である。

そして、取り組み予定の企業が多かったのが「同一労働同一賃金」対応だ。いよいよ、同施策の検討フェーズに入ったことがうかがえる。

労働時間削減に対し肯定的な意見の裏に、残業手当削減への拒否感も

Q3:Q2で労働時間削減に取り組み中/取り組み予定と答えた方にお聞きします。どのような手段で労働時間を減らしていますか?または、減らすために取り組む予定のものはありますか?

進む効率化の一方で営業時間縮小も検討

自動発注システムやセルフ㆑ジ、ITツールの導入など、業務手順や業務量削減に直結する取組みを実施している企業は多かった。こうした「投資」は、省人化・効率化という観点(経費削減)だけでなく、マーチャンダイジング(MD)の精度やサービス、顧客満足の向上(売上増)や、従業員の働きやすさの向上といった観点からもぜひ取り組みたい。

そして、営業時間縮小を検討している企業も一定数ある。とくに深夜を含む長時間営業の費用対効果(以前と同様なのか)は、この機会に検証する価値はあるだろう。

Q4:労働時間の削減に関して従業員の反応はどのようなものですか?

以下に企業からのフリーコメントの一部を紹介する。

◆どちらかといえば肯定的である

一部残業手当が減ることへの不安がある従業員も存在する。
責任感の強い従業員は、時間短縮で仕事の精度が下がることを懸念している傾向が見受けられる。
時間外業務に関しては減らしたいと考えているため肯定的である。一方で対患者さまの調剤においては患者さまの来局次第で業務延長が生じるため、労働時間を減らすことが困難だと考えている従業員が多い。
採用や業務の効率化が進まなかった場合負荷が増えるなどを不安視したり、残業代が減ることを危惧する従業員はいる。

◆どちらともいえない

労働時間の変更に伴い、作業内容の変更および課せられる業務が増えるなどの弊害が起こる。または労働時間の削減に伴い、収入が減少する人が発生して困っている。
人手不足、資格者不足などで店長などは稼働計画づくりが難しくなるのでは…。

◆どちらかといえば否定的である

残業代が生活給の一部になっているから。
「残業代が減る」「残業した人は頑張っているので評価する(一部上司)」「業務量は減っていない」などの理由により、会社としての取組みと労働側の実態が合致しておらず、不満が出ている状況。

8割弱「肯定的」も作業品質低下や残業代減への不安残る

「非常に肯定的である」+「どちらかといえば肯定的である」が8割弱(76%)を占めたが、接客・作業品質の低下や、残業代減への不安を感じている従業員を心配する声も多い。

IT投資や業務量の見直しなど、(掛け声だけではない)組織の取組みとして残業を減らし、削減した残業代は広く従業員へ還元するという、従業員のための「働き方改革」を目指したい。

調査概要

  • 調査時期/2019年6月
  • 調査方法/無記名式書面アンケート
  • 有効回答数/設問によって異なる(各図表に明記)
    ※グラフ表記については、小数点以下四捨五入のため、100%にならない場合もある。

回答者属性

  • 協力社数/25社ドラッグストア22社、食品スーパー1社、総合スーパー1社、ホームセンター1社
  • 対象者/人事もしくは労務部門の責任者、総務、店舗運営部門などに所属する担当者(各社1名が回答)

セルフレジはコンビニ人手不足の救世主となるのか

人件費の高騰がコンビニ経営を圧迫している。2019年度の最低賃金は時給ベースで過去最大の引き上げとなり全国平均は900円台に達する。東京は1013円、神奈川は1011円と全国で初めて1000円を超える。ここ数年は毎年3%台の高い伸び率により、人件費の全てを支出するコンビニ加盟店にとっては厳しい店舗運営が強いられている。今回は人手不足の特効薬になることが期待されているレジの「セルフ化」を中心とした省人化への取り組みを紹介したい。

国内初の終日無人コンビニを投入したNewDays

本来であれば、高騰する人件費をカバーするだけの売上を確保すればよいのだが、近年はコンビニ同士の競合のみならず、ドラッグストアやEC勢力の台頭も影響し、売上の増加は容易ではない。そこで、喫緊の課題になったのが、加盟店の利益に直結する人件費の圧縮、具体的な仕事に落とし込めば「レジ業務」の省人化だ。セブン-イレブンの試算によれば、レジ業務に費やされる人時は店舗業務全体の3分の1にあたるという。この3分の1の人時を圧縮できれば、加盟店にとって、目に見える利益の向上が見込まれるであろう。

JR東日本グループの駅ナカコンビニ「NewDays」は、レジ2台を無人化した、セルフレジのみで精算する新型の実験店舗「NewDays 武蔵境 nonowa」を本年7月にJR武蔵境駅(東京・武蔵野市)改札口の外にオープンした。売場の人員は基本ゼロで、国内初の終日無人コンビニと言えるだろう。

「NewDays 武蔵境 nonowa」は、中央線 武蔵境駅 nonowa口改札外に出店。

NewDaysは、東北、関東、甲信越、静岡に計491店舗を展開している。店舗は全て直営で、駅ナカ立地のため、ほとんどが開閉店である。今回の(売場)無人店舗の狙いについて、JR東日本リテールネット八王子支店営業課課長の永山秀実氏は次のように説明する。

「私たちの店舗は今、人手不足が課題であり、その人手が最も掛かっているレジ作業を省力化したのが今回の店舗です。一方で、賞味期限のチェックや、キャンペーンの準備、人の仕事は残っていきます。自動販売機ですら、商品を中に入れる人がいないと成り立たないのだから、売場を無人化にしても人の手は必要です。機械でもできる部分、人にしかできない部分を明確にし、レジについ今回はセルフ化を図りました」

売場は無人でも、バックヤードには必ず1人が常駐して、お客がセルフレジの操作に迷えば、すぐに売場に出て対応する。その他に、荷受けや品出し、フェースアップ、清掃業務など、売場に出て作業する時間帯もある。

店舗面積は25㎡(売場面積18㎡)、客数目標は(1日)700人、客単価は300円前後、セルフレジ2台(交通系電子マネーと、クレジットカードのみ対応)、アイテム数は500~600、営業時間は7時~22時、従業員は1人で運営する。

商品バーコードを読み取らせ、品目と価格を確認、交通系電子マネーかクレジットカードかを選択し、タッチして精算完了

 終日無人店舗を可能にした4つの理由

では、なぜ終日(売場)無人店舗が可能となったのか、その条件を整理した。

第一に、店舗従業員が駅施設の他の2店舗から交替で配置されていること。

実は武蔵境駅構内にNewDaysが別に2店舗あり、同じ店長の管理下でシフトが組めるなどオペレーションが容易であること。

第二に、店舗が立地する改札口が交通系ICカード専用であること。

すなわち店前を通る、ほぼ全ての人がSuicaやPASMOなどの交通系電子マネーによる買物が可能である。現金しか使えないお客は、ほぼゼロであろう。

第三に、セルフレジが駅ナカで急ぐお客に好まれること。

駅ナカ立地は、ペットボトル1本とか、プラスおにぎり1個など、買上点数が少ない。また電車の乗降や乗り継ぎで急いでいるお客が多い。その点、セルフレジは、収納代行や割引クーポン券、サービス商品の取り扱いがなく、レジが止まることなく待ち時間も予測できる。また1人当たりの買上点数が少なく、袋詰めに長時間掛かる心配もない。

第四に、セルフレジを使い慣れているお客が多いこと。

セルフレジはNewDays 491店舗の中では、372台が導入されている。キオスクタイプの小型店「NewDays KIOSK」294店舗の中では53台が設置されている。セルフレジでも躊躇なく利用できるお客を育ててきたのだ。

一方で、この新型店舗を今後、展開していくにあたり課題点もある。

第一に、酒、たばこの免許品の販売ができないこと。画像による遠隔操作で、身分証明書を提示させれば可能だと思うのだが、現状の法令だと難しいとの判断である。

第二に、キャッシュレスの比率が、依然として低いこと。

NewDays全店におけるキャッシュレス比率は、42.6%(2018年度実績)に留まっている。他のコンビニチェーンの2倍の比率と高いものの、駅ナカにあって6割のお客が現金決済を選択している現実がある。そのため、無人店舗の水平展開(多店舗化)については、キャッシュレス比率の推移と、実験店舗の検証を経て、慎重に考えていくとしている。

売場は、飲料、おにぎり、サンドイッチ、パン、菓子、健康ドリンクで構成、雑貨は極力絞り込んだ
什器はスライド式にして陳列作業の人時を削減した
米飯は、弁当を扱わず、おにぎりのみとした。レンジアップが不要になる

セブンはセルフレジ導入で最大9時間分の人時削減と試算

セブン-イレブンは本年7月に、作業時間や作業量の削減を目指した実験店舗を東京・町田市に開設した(町田玉川学園5丁目店)。ペースの移動や新設など、幾つかの取り組みの中で、今回の目玉はフルセルフレジの設置であろう。

カウンター内の3台のレジのうち2台をセルフレジ(現金での支払いも可能)とした。また、状況に応じてセミセルフレジへの切り替えが可能とし、その場合は、商品の読み取りや袋詰めを従業員が行い、現金やカード決済はお客がセルフで行うようにする。他にもセルフレジ1台を、カウンター外に設置して、従業員がレジ業務に携わる人時の大幅な削減を図っている。セブン-イレブンはセルフレジの導入により、最大9時間分の人時削減が可能になると試算している。

セブン-イレブンはセルフレジの導入を実験的に始めた

深夜帯無人店舗の実験を開始したローソン

ローソンは深夜0時から5時まで売場を無人にする実験を、本年8月23日より半年間をめどに実施している。当面はバックヤードに1人が勤務する体制をとる。

店舗(ローソン氷取沢町店)は、横浜市の幹線道路に面した住宅地に立地し、深夜帯の客数は同チェーンの中では少ない方に分類される。

入店には誰でも入手できるローソンアプリか店舗で発行する「お得意様入店カード」、それらの準備がないお客は、入り口で顔撮影を行えばすぐに入店できる。

売場は従業員が不在のため、酒売場とカウンターはカーテンで覆って、酒・たばこの販売はせず、従業員を必要する宅配などのサービスも休止している。

レジはローソンスマホレジ(当連載の第1回目に詳細)か、自動釣銭機付きのセルフレジの利用となる。防犯対策として、防犯カメラを増設するほか、モニターも設置して安全対策に努める。

ローソンの深夜(売場)無人店舗の見取り図(氷取沢町店)

深夜帯の無人化で問題になるのが納品の有無。売場は無人になるが、従業員がドライバーの入店をインターフォンで許可して、バックヤード、または店舗横の倉庫に商品を搬入してもらう。

無人店舗が増えても深夜帯の物流に変更はない。課題は酒の販売。深夜帯のレジ通過客のうち2人に1人は酒を購入するため、売上にどの程度の影響があるか検証していくという。

深夜帯の営業に関して、その是非が論議されている。根っこにあるのが、人手不足と人件費高騰による加盟店の収益悪化である。

近年、日本で急速に店舗を拡大したのがアメリカに本社を持つ「エニタイムフィットネス」。このマシン特化型ジムは24時間営業し、夜間の従業員はゼロになる。ICチップによる本人確認と防犯カメラによる監視体制。

深夜に活動したいニーズは依然としてある。問題は損益分岐点であろう。チェーン本部による店舗運営およびシステム改革に期待したい。

ヨークベニマルが 「スキャンカート」の実験開始

大手食品スーパーのヨークベニマル(本社・福島県郡山市)が、お客が自分で商品のバーコードをスキャンしながら買物し、最後にセルフレジで一括清算する「スキャンカート」の実験を開始しました。レジの生産性向上の切り札になるのでしょうか?

8月28日より運用を開始したヨークベニマルの「スキャンカート」。

販管費の上昇は深刻な経営課題

人手不足による人件費の上昇は、小売業の経営に深刻な影響を与えています。たとえば、新しく採用したパートさんの時給が、古参のパートさんの時給を上回る逆転現象が発生しています。退職を防ぐために、古参のパートさんの時給を上げなければならず、人件費は確実に上昇しています。

絶好調のDgS(ドラッグストア)も、販管費(経費)の上昇が最大の経営課題です。月刊MD2019年10月号(9月20日発行予定)の「ドラッグストア白書2019」によれば、上場Dg.Sの15社すべてが前年比で販管費率(売上に占める販管費の割合)を上昇させています。15社平均の販管費率は22.2%。前年(2018年)が21.7%なので、1年間で0.5%も販管費率が増加しています。ちなみに2016年の15社平均の販管費率は21.2%なので、この3年間で1%も販管費率が増加していることがわかります。

人件費の上昇による販管費の増加をカバーするためには、「人の生産性」の向上が不可欠の経営課題です。新しいテクノロジーを活用して、店内作業の省人化・無人化に取り組む必要があります。

店内作業の30%を占めるレジ作業の省人化

店内作業の中で人時がかかっている作業は、「商品にさわる作業」です。補充作業、陳列作業は多くの人時を使います。その中でももっとも人時のかかっている作業は「レジ作業」であり、店内作業人時の約30%を占めています。

レジ作業の省人化・無人化の挑戦の第1は、Amzon Goのような「ウォークスルー方式」です。アマゾンは店内カメラと棚の重量センサーを活用して、買物行動を補足し、レジの存在しない店舗をアメリカで展開しています。挑戦の第2は、「スキャン&ゴー方式」です。お客が自分で商品のバーコードをスキャンしながら買物し、最後に一括清算する方式です。MD NEXTでも以前紹介した「トライアル」の事例が代表的です。

タブレットカート、電子棚札、AIカメラがさらに進化「トライアルクイック 大野城店」

ヨークベニマルの「スキャンカート」も、「スキャン&ゴー方式」です。画面とスキャナーを搭載したショッピングカート(下の写真)を使って、商品を自分でスキャンしながら買物を進めていきます。スキャン&ゴー方式を運用する際の最大の課題は、「意図的ではない商品のスキャン忘れ」「意図的にスキャンしない(万引)」ことによって、不明ロスが発生することです。ヨークベニマルのスキャンカートの底には「重量センサー」が付いており、スキャンしていない商品がカゴに入っていると、アラートが出る仕組みのようです(下の写真)。

スキャンカートを実験的に導入したヨークベニマル。
ショッピングカートの底に重量センサーが付いていて、スキャン忘れを防止する

スキャンカートの専用レジコーナーがあり、実験段階だからなのか、専用レジはまだ1台でした。最後にスキャナーでカート画面のQRコードをスキャンして一括清算する流れになります。清算方法は、「現金」「ナナコ」「クレジットカード」の3種類です。

今後は、スキャンカートの利用を促進するために、ポイント付与などのサービスが必要のように感じます。また、トライアルが実施しているように、お客の購買データに紐づけられたパーソナルクーポンなどの個別販促をカート画面に表示できるようになると、スキャンカートを利用する特典がもっと明確になります。

今回見学したヨークベニマルのレジ台数は10台でした。セルフレジが6台、スキャンカート専用レジが1台、有人レジは3台でした。つまり10台中7台は、お客が自分で商品をスキャンして精算するレジだったということです。レジ作業の省人化・無人化は着実に進んでいます。

店内作業の約30%を占めるレジ作業は、レジ担当者の教育コストも含めると売場の販管費の多くを占めています。レジ作業の省人化が進めば、リアル小売業の人の生産性は大きく向上すると思います。

増税に伴い4人に1人が購入アイテムを低価格のものに変更する意向あり!?

消費税率8%から10%への引き上げが実施される10月が、いよいよ近づいてきました。政府は消費を冷え込ませないために、初のポイント還元や特定の品目の課税率を他の品目に比べて低く定める軽減税率などの緩和措置を打ち出しています。そこで今回は、増税前の日用品の買い物行動について、「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」(以下POB)のアンケート会員(N=7,745名、20代~60代男女)を対象にした「消費税増税前後の日用品の買い物行動の変化」に関するアンケート結果を中心にご紹介します。

33%の人が「増税前に購入・まとめ買いしたい」

最初に、今年10月の消費税率8%から10%の引き上げ前に、「購入したい」「まとめ買いしたい」と考えているものがあるか、またそれらを購入する時期について調査をします。

増税前に「購入したい」「まとめ買いしたい」ものがあるか尋ねると、33.1%で3人に1人が「ある」と回答し(図表1)、事前購入する時期については「2ヵ月以上前(20.0%)」、「2ヵ月~1ヵ月前(22.8%)」、「1ヵ月~2週間前(22.6%)」となり、今回の増税の場合、8月頃から意識的に増税前に購入しておこうという購買行動が現れることが予想されます。

一方で、購入意欲はあっても具体的な時期を「特に決めていない(22.6%)」方もいるようです。(図表2)

「購入したい」「まとめ買いしたい」回答した方(N=2,567名)を対象に、具体的なアイテムについて選択肢で尋ねると、「日用品(57.0%)」がもっとも多く、「食品(37.6%)」と生活必需品が続きます。他にも「電化製品(36.3%)」や、少数派ですが「車(5.8%)」、「住宅(3.0%)」と回答した方もみられましたが、身近な消耗品や生活必需品が多くを占め、特別な消費行動はあまりみられない結果となります。

消費税増税で買物行動に変化があると考える女性は60%

次からは、増税前に「購入したい」「まとめ買いしたい」と考えているアイテムで最多の「日用品」における買い物行動について、深堀して調査をします。

まず、消費税増税の前後で、日用品の購入における買い物行動に変化があると思うか調査をします。

消費税の増税前後で、日用品の買い物行動に変化があると思うか尋ねると、まず女性では、「変化があると思う(14.6%)」、「一時的に変化があると思う(46.1%)」となり、6割の方が「変化がある」と回答しました。続いて男性では、「変化があると思う(14.5%)」、「一時的に変化があると思う(36.3%)」となり、半数の方が「変化がある」と回答しており、女性の方が9.9ポイント上回る結果となります。

一方で「変化はないと思う」は、女性が22.0%、男性が33.4%で、男性のほうが11.4ポイント上回ります。

「変化がある」と回答した方(N=4,378名)を対象に、具体的にどのような変化がありそうか、選択肢で尋ねると、「増税前と購入アイテムは同じでも、セールや特売を利用して購入すると思う」が、男女ともにもっとも多く、女性が57.5%、男性47.7%となりました。また、「増税前より低価格のアイテムを選んで購入すると思う」が、女性が23.7%、男性が31.9%となり、全体では増税に伴い4人に1人は「購入するアイテムそのものを低価格のものに変更する」と考えていることがわかります。

消費税の増税前後で、日用品の買い物行動の変化において、最多であった「増税前と購入アイテムは同じでも、セールや特売を利用して購入すると思う」と回答した方(2,354名)を対象に、具体的なアイテムについて選択肢で尋ねると、「シャンプー/リンス(69.4%)」、「洗濯洗剤(59.9%)」、「ティッシュ(54.8%)、「台所用洗剤(53.4%)」と続き、これらのアイテムが半数以上を占める結果となります。

キャッシュレス決済の頻度が増えると思う人は48.3%

最後に、増税に伴い政府が中小規模店舗におけるキャッシュレス決済時のポイント還元策や、企業独自のキャッシュレス決済ポイント還元キャンペーンなどを打ち出していますが、10月の消費税率引き上げ後に、キャッシュレス決済の頻度が増えると思うか調査をします。

 

増税に伴うキャッシュレス決済の頻度は、「増えると思う」が48.3%となり、半数近くの方が回答しており、政府や企業のポイント還元施策が浸透していることが伺えます。

他にもアンケート調査では、増税前に「購入したい」「まとめ買いしたい」ものがあると回答した2,567名を対象に、「増税のどのくらい前から購入するか?」尋ねており、「1ヵ月~2ヵ月以上前」と回答した方が、半数近くを占めています。

増税まで2ヵ月を切りました。消費者の購買意欲を掻き立てるような、セールやイベントなどの動きが、小売りやメーカーなど様々なところでみられることが今後予想されます。

また、前回増税の2014年とは異なる消費を落ち込ませないための施策もあるため、どのような購買行動の変化が起こるか注目したいと思います。

調査概要
※図表1~6:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」
20代~60代のアンケートモニター7,745名を対象にした、「消費税増税前後の日用品の買い物行動の変化に関する意識調査より」
(WEB調査、調査期間:2019年7月10日~7月12日)

「AI万引監視カメラ」の普及で不明ロスが激減する!?

ウォルマートは、AI(人工知能)を搭載した「精算ミス防止用の商品追跡システム」を1,000店以上に導入しました。万引きやスキャンミスを防ぐAIカメラの普及によって、不明ロスが激減する未来がくるのでしょうか?

日本の不明ロスは1兆5,000億円もある

万引きや不正による「不明ロス」は、セルフサービス型小売業の永遠の課題です。日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014−2015版」によると、不明ロスの内訳は図表1のとおりです。

従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%、取引業者の不正7%です。同報告書によると、2017年のアメリカの不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.33%、金額にすると年間470億ドルの損失を出しているそうです。

一方、日本の不明ロス率は1.35%、金額にして149億ドルです。1ドル100円で換算すると1兆4,900億円という莫大な金額が不明ロスで失われていることになります。小売業で優良といわれる営業利益率の目安が5%ですので、不明ロス率1.35%がいかに大きな数値かがわかります。

AI万引監視カメラでスキャンしない商品を追跡

ウォルマートは3年前から、店内での犯罪を防止もしくは予防するためのシステムに5億ドル以上の投資をしてきました。アメリカの不明ロス率1.33%をウォルマートの年商に換算すると、万引などの不明ロスによる損失は年間40億ドル(約4,000億円)にのぼります。その投資の一環でAIカメラの設置を急速に進めています。

すでに1,000店以上に導入されたウォルマートのAIカメラは、「セルフレジ」「従来式レジ」の両方を監視できる位置に設置されています。レジで商品をスキャンしないで通過すれば、追跡システムが担当者に通知を出し、お客が店内を出る前に声をかけることができます。

未精算の原因は、精算し忘れか、レジ担当者のミスですが、AIカメラを設置した店舗の不明ロス率を着実に改善されているようです(具体的な改善結果は未公表)。普通の買物客にとってはAIで監視されていることはわかりませんが、精算し忘れの単純ミスなのにスタッフから声をかけられると、お客は不快に感じるかもしれませんね。「プライバシー保護」の問題もあり、どう運用するかが今後の課題のようです。

店内にもAIカメラを設置し、お客の購買行動を可視化している。

ユナイテッド・スーパーマーケットHD藤田氏が語る食品スーパーの危機感と変革

「食&料理×サイエンス・テクノロジー」をテーマにしたイベント「Smart Kitchen Summit Japan 2019」が8月8日と9日に行われた。主催は株式会社シグマクシスとNextMarket Insights社。日本では三回目の開催となる。二日目のセッションでは「スーパーマーケットをつくり変える」と題して、マルエツ・カスミ・マックスバリュ関東の共同持株会社であるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長の藤田元宏氏が講演した。

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長 イオン代表執行役副社長 藤田元宏氏

スーパーマーケットの存在感が薄れつつあるという危機感

チャレンジの背景

藤田氏は「スーパーマーケットを作り替えなければならない」と話を始めた。40年以上スーパーマーケットの仕事に携わってきた藤田氏は「今のスーパーは商品やサービスが少しずつ変わってはきたが、変化の速度はいつもゆっくりで、社会の変化の速度についていけていないのではないか」と語った。POSシステムなども最初は先進的だったはずだが、便利になったにせよ、その機能はあまりかわっておらず変化に対する遅れを感じているという。

そしてここ5年くらい、売り場で客が買い物する様子を見ていて「スーパーマーケットに対する存在感や信頼感が徐々に薄らいでいる」と肌で感じるようになってきたという。当初は「消費が冷え込んでいる」といった言葉で言われていたが、最近は食品を購入するチャネルが急速に多様化し「肌感覚は危機感に変わった」。そして「これまでのスーパーマーケットでは必ず行き詰まる。作り替えなければならない」と考えて、昨年からどう作り変えるべきか検討してきたと述べた。「食」を通して新たな価値を模索するプレイヤーたちが集まる「スマートキッチンサミット」に登壇したのも、新たなコラボレーションを求めてのことだという。

アセットとビジネスモデルを見直し「生活者中心主義」に変革

藤田元宏氏

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社は、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を事業会社とする共同持株会社で、首都圏最大のスーパーマーケット。2019年7月20現在で、関東6県に518店舗を展開している。年間売上高は7,000億円。「マルエツプチ」のような小規模店から大型の郊外店まで様々な規模の店舗を展開しており、現在も年間15〜20店舗程度を新規出店している。

藤田氏は「ローカルコミュニティの一員として誰もが入りやすい環境をどうやって作り上げていくか」に注力してきたが、アセットをもう一度「生活者中心主義」に変革し、驚きや感動、地域のつながりのハブ機能を持つスーパーへ、食を通じて従業員や客が笑顔になる組織に生まれ変わりたいというのが、これからのチャレンジだと述べた。

市場の背景とスーパーマーケットの集客力の低下

背景には人口減少、高齢化による市場の縮小がある。これらは既に起きている変化だ。いっぽう、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが店舗を展開する首都圏エリアは一極集中で、人口も増えている。また高齢者世帯の消費という新たなチャンスも見出せる。従って新たなプレイヤーがたくさん参入しており、競争環境が厳しくなっている。そして「人生100年時代」を迎えて「ウェルビーイング」に対して志向が高まっているといった現状がある。

藤田氏は、これまではアメリカの経営理念に学んでチェーンで経営し、ワンストップで購入できる便利さで成長したスーパーマーケットだが、さまざまな変化で提供価値が「中庸な評価」しかもらえなくなり、多くの生活者に選ばれることが少なくなりつつあると感じているという

従来のスーパーは物的充足を尺度とし、売上高を追い求めてきた。しかしそれ以上の価値が社会的に求められるようになり、変化を余儀無くされてきたということではないかと自己分析しているという。そして社内で議論を続け、たどりついた結論は「これまでのビジネスモデルにとらわれることなく『生活者中心主義』を店舗で実現すること」。それが「今後の持続性と成長性を可能にする道だ」と考えたという。

4つの価値「突き抜け鮮度」「商品との出会い」「エンリッチ」「つながり創出」

新たな4つの生活者への提供価値

多くの客に愛着を持ってもらうお店になるためにはどうすればいいか。ベースにあるのは「顧客の理解を深める」こと、そして「顧客と価値を共創する」ことだという。この二つの仕組みを基盤として作り上げる。その上で、感動の食体験やつながりを創造する。そのために「突き抜け鮮度」、「商品との出会い」、「エンリッチ」、「つながり創出」を生み出す店舗を目指す。

「突き抜け鮮度」

「突き抜け鮮度」とは、単なる掛け声や売り文句としての鮮度保証ではなく、エビデンスに基づき、顧客に理解・納得される価値としての鮮度保証であり、それと矛盾する事象を排除する仕組みが必要になる。したがって、取り組みは非常に広範囲に及ぶ。藤田氏は、従来のスーパーは食品製造と消費者の中間に位置しており、それぞれに対してある一定の距離を保ちながら、物流で流したり、量やクオリティ、グレードをなんとなくこなしてきたと述べた。しかしこれからは従来のようになんとなくやりすごすということを目的とするのではなく、鮮度や品質、おいしさを目的とするように立ち位置を変えなければならない。そのためには、これからのスーパーを変えるためのサプライチェーン新構築が必須となると考えていると述べた。

「商品との出会い」

「商品との出会い」は、誰かに伝えたい商品、双方向ネットワークやパーソナライズによって作り出される新たな価値だという。従来のように「商品」を軸におくのではなく、あくまで1to1、個を軸にする。

「エンリッチ」

「エンリッチ」は、買い物や献立などに関わるストレスをなくすことで豊かさを感じてもらう取り組みだ。生活者のストレスを解放し、豊かな時間を感じてもらうようにする。これまでのスーパーにも、いわゆる時短食材はあった。しかし問題は最終ゴールだ。それは「生活者側が豊かさ、ゆとりを感じること」であり、「手渡しの仕方も含めて、もっと違うやり方があるのではないか」と考えているという。

「つながり創出」

「つながり創出」は、いろいろな人がタッチポイントにすることを目指す。これまでも店舗の一部を顧客に提供することはしてきたが、場づくりの主体をもっと外側に向けて押し広げていき、生活者と従業員、そしてコミュニティによるつながりを創造することで、一緒に店作りをしていくことを目指す。

プロトタイプ店舗で検証し、2021年以降に全面展開へ

新タイプ店舗のプロトタイプを開発する

藤田氏はこれからのフェーズについて「我々のビジョンに興味を持った方々とディスカッションさせて頂きたい。違いにシナジーがあるパートナーと一緒にプロトタイプをつくりたい」と述べた。具体的なフィールドとしては、年間15から20の新規店舗や、年間30店舗くらいのペースで改装する店舗を想定する。プロトタイプ店舗での検証を踏まえ、修正を繰り返して、2021年から3年間くらいで店舗全体に広げていくという。藤田氏は「トライアンドエラーを繰り返しながら調整していかないと進んでいかないだろう」と述べ、プロトタイプつくりに意欲を示した。

最後に、これまで述べた新プランについて「とりたてて新しいビジョンではない。しかしスーパーと生活者との距離感が広がりつつあるのは自分たちの価値観を変えなかったからだろう。4つの価値をもとに新たなパートナーシップで変化にキャッチアップしていきたい。ただ当社においても五十年以上の歴史のなかで作り上げられてきたので作り変えることは簡単ではない。新たな技術やパートナーと共創することこそが、変化へのキャッチアップを可能にすると考えている。皆さんのたくさんのアクセスを期待している」と講演を締めくくった。

「新しい価値」を創造するパートナーを募集中とのこと

[寄稿] 中国「新小売」の”今”と次に来るもの

リテールテクノロジーの最先端が集結し、注目を浴びる中国。2016年に提唱された「新小売」という概念の下、さまざまな新業態が登場する一方、既存の実店舗小売業への大型投資のニュースも話題になっています。本稿では、中国の小売業の現状に詳しい元メルペイの家田昇悟さんが「新小売」の現在を紹介しつつ、その次にどのような変化が待ち構えているのかを分析します。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号から転載)

2016年に登場した「新小売」という概念

中国ではモバイルペイメントが2013年ころから急速に普及し始め、2017年ころには大都市部の町中どこでもスマートフォンのみで支払いが済むようになった。日本でも2017、2018年ころにモバイルペイメントが盛り上がり、今年2019年には各ペイメント事業者による積極的な投資が行われている。

このような状況を背景に、中国では2016年に「新小売」という概念が登場した。そして多くのスタートアップや大企業による実店舗小売業への投資が進み、新業態が出現している。もしも中国と同じようにモバイルペイメントが普及していくならば、日本の実店舗小売業にも新業態が登場し得るのではないか。

本稿では、なぜ中国で新小売という現象が世界に先駆けて起こっているのか、さまざまな具体例を挙げて紹介する。今後、日本の実店舗小売業にどのような施策があるかを考えるきっかけになれば幸いである。

「新小売」が注目を集める3つの背景

「新小売」とは、中国の起業家でありAlibaba社の創業者ジャック・マーが2016年に提唱した概念である。「純粋なECの時代は既に過去のもので、未来10年、20年後にECという言葉はなくなる。新小売だけが生き残る。つまりオンラインとオフライン、物流が必ず結びつく」と説明した。なお、似たような概念として「OMO」という言葉があり、こちらは著名ベンチャー・キャピタリストの李開復氏が提起したもの。「Online Mergeswith Offline」の略で、オンラインとオフラインが融合するところに新たな事業が発生すると説いた。

筆者は、中国で新小売にこれだけ注目が集まるのには3つの理由があると考えている。

①中国のECが飽和状態であること

1つ目は、中国の小売のEC化率がかなり高くなってしまっていることだ。「インターネット・トレンド2018」によると、2017年時点で中国EC化率は20%を超え、世界トップに立っている。

しかし同調査では中国のモバイルインターネットユーザー数とモバイルECの成長率は年々減少傾向にあり、インターネット空間での成長余地が限られた結果、ユーザーの獲得コストは高くなっている。新たな成長の機会を求めた結果、いまだ購買活動の80%を占め、成長余地のある実店舗小売業が注目を集めているというわけだ。

②小売業のデータ活用を進めたいから

2つ目は、実店舗小売業に眠るデータを活用したいという狙いからだ。たしかにWeChatPay(中国最大のモバイルゲームとSNSを運営するTencentが展開するチャットアプリ「WeChat」の中で使える決済サービス)とAlipay(中国最大のECとオンライン金融サービスを展開するAlibaba傘下の決済サービス)はオフラインの決済市場において圧倒的なシェアを握っているが、獲得できているデータには限りがある。ユーザーが何を購入したかの品目はわからず、(WeChatPayとAlipayに登録されている)店舗名と合計金額だけである。

「だれが」「何を」購入したのかという購買情報を獲得するためには、実店舗小売業とより深い協業関係や資本関係を結ぶ必要がある。現状保有しているデータよりも精緻なデータを収集できれば、自社アプリやWEBサービスでの広告価値も高まる。どのオンライン企業もオフラインに眠る大量の購買情報にアクセスしたいのだ。

③ECだけでは競争優位に立てないから

3つ目は、インターネット上でサービスを提供するだけでは、競争優位として不十分になっているからだ。その例としてモバイルペイメントのシェアの推移を取り上げる。中国コンビニチェーン協会の調査によると、コンビニで使われる決済サービスのシェアは、2016年にWeChatPay43%、Alipay48%であったのに対して、2019年にはWeChatPayが57%、Alipayが41%となり、WeChatPayのシェアがAlipayを抜いて拡大しているのである。

その背景には、WeChatが至る所で起動され、実店舗における決済のシェアにも影響を与えているという状況がある。

日本ではWeChatが日本版LINEとして紹介されることが多いが、実際はもっと多くの機能を抱えている。Facebookのように転職や結婚の報告を行ったり、Instagramのように画像メインの投稿をしたり、LINEのように友人とのコミュニケーションに使ったり、Messengerのように仕事上のやりとりをしたり、Twitterのようにニュースや趣味を共有する場としても使われている。

さらにWeChatは個人間送金のためのツールとしても利用することができる。日本ではSNSがいくつかに分散し、送金はいまだ現金が主流だ。一方中国ではこれらの機能がほぼWeChatに集約しているといえる。そして、コンビニなどではWeChatを立ち上げてだれかとメッセージを交わしたりしながらレジ待ちをし、レジの順番がくるとそのままWeChatの決済QRコード画面を表示して支払うという光景をよく目にする。

またWeChatでQRコードをスキャンして立ち上がる「アプリ内アプリ」でレストランを予約して、そのままWeChatPayで決済する人も増えてきている。決済の瞬間だけではなく、決済の前の可処分時間や体験を押さえられることで競争優位となっているのだ。

新小売として登場した2つの新業態

では具体的に「新小売」としてどのような店舗・業態が登場しているのか。ここでは先進事例として「luckincoffee」と「盒馬鮮生(ファーマーションシェン)」を紹介したい。

①コーヒーチェーン「luckin coffee」

「luckin cofee」はモバイルオーダーを導入することで店舗運営人員を大幅に削減した

モバイルペイメントが普及したことで、従来の店舗経営を覆すイノベーションを生み出した企業が生まれた。

コーヒーチェーンとして注目を集めているのが「luckin coffee」だ。2017年6月の会社設立からわずか約2年(2019年5月)でナスダックに上場を果たした。1年目で2,000店舗をオープンし、2年目には2,500店舗を展開することを目標に掲げている。

luckin coffeeは、モバイルペイメントでの決済が当たり前に普及した中国の環境を生かし、専用アプリからの注文に特化したのが特徴。結果、レジ業務がなくなり、デリバリーとピックアップに店頭業務を絞った。このことで顧客体験を変え、従来は出店ができなかった場所(オフィスビル下など)にも出店することに成功している。消費者はluckin coffee専用のアプリをダウンロードし、デリバリーかピックアップかを選択して注文する。注文が完了すると指定の場所に配送されるか、指定した店舗に取りに行く。

レジがなくなったことで、レジ業務のために雇用する従業員が不要になり、またテーブルの清掃など店舗運営のために雇用していた従業員も不要になった。コーヒーをつくる人一人がいれば店舗運営が可能になったのである。

このような業態が可能になったのは、モバイルペイメントの普及によるところが大きい。中国ではモバイルペイメントが十分に普及しているからこそ、モバイルペイメントだけの決済に振り切ることができたのだ。日本では一部のレストランや実店舗小売業が実証実験的に現金を取り扱わない店舗をスタートしているが、luckin coffeeは設立当初からそれを志向した。

②食品スーパー「盒馬鮮生」

「盒馬鮮生」はAlipayユーザーしか利用できない店舗。会員100%にすることで購買行動のすべてを可視化する。生きた海の幸がいけすで展示されているのも特徴的(photo by Shutterstock.com

次に紹介するのはAlibaba傘下の「盒馬鮮生」である。2016年上海に1店舗目をオープンし、2019年5月時点で150店舗を展開している。店舗は倉庫を兼用しており、商品購入時に盒馬鮮生専用アプリのダウンロードが必須で、指定商圏以内は30分で購入商品を配送してくれる。専用アプリから商品バーコードを読み取れば生産者や生産地などがわかり、イートイン、生きた海の幸の展示など店内も面白い。多くの機能と話題を備えた食品スーパーである。

生鮮食品の領域はEC化がもっとも遅れている領域だ。アクセンチュアの調査によると、日本が1.9%、アメリカも1.1%、中国でも2.3%と非常に低い。しかし、盒馬鮮生は最初からネットからの注文比率50%を店舗運営継続の条件としている。開店から1年半たった店舗ではEC化率60%を達成していると公表している。

精算時に、Alipayの電子口座に紐付いた盒馬鮮生専用アプリでの決済を強制させることで、会員比率100%を可能にし、しかもアプリをダウンロードさせているため自社アプリを通じて直接お客とコミュニケーションすることができる(なお、現在は現金でも支払えるようになっている)。

顧客1人当りのLTV(ライフ・タイム・バリュー)を最大化するために、オフラインとオンラインを活用するという発想で事業が展開できるのは、来店客を100%可視化できるからだ。店舗とECというチャネル別に売上を分解すると、部門ごとの対立が発生しがちだが、この盒馬鮮生という業態はジャック・マーが唱えたように、店舗とECの区別をなくし、本当に消費者目線でかつデータ・ドリブンな食品スーパーの経営を実践できる仕組みになっている。盒馬鮮生が公開した情報によると、既存の中国の食品スーパーと比較して、坪単価が5倍になるなど大きな効果を挙げている。

なお、先進的な事例として今回取り上げたluckin coffee、盒馬鮮生だが、現在事業の持続可能性について問われている状況だ。luckin coffeeはアプリのクーポン配布に頼ったマーケティングの持続性、盒馬鮮生は「盒馬鮮生」以外にも既に複数の業態を展開しており、本当に消費者に定着するのかという疑問があり、中国国内メディアでも議論となっている。

両企業のポイントは、モバイルペイメントが普及したことで、新たな店舗設計と経営モデルを実現することができたということだ。表面的に彼らの「業態」を模倣するのではなく、発想そのもの(モバイルペイメントが普及したことで挑戦できること)を学び、どのようなことが日本でも展開ができるのかを考えるべきであろう。

AlibabaとTencentの小売業への関わり

新たな業態が出現する一方、新小売という事業機会に対して中国の2大IT(EC)巨頭であるAlibabaとTencentはどのように関わろうとしているのか。

①既存実店舗小売業やスタートアップへの積極投資と提携

AlibabaとTencentともに非常に積極的に投資・提携を行っている。Alibabaは過半数以上の株式を保有することもあり、Alibaba自ら実店舗小売業を運営してこの産業を牽引している。一方Tencentは株式に関しては少数の保有にとどまることが多いが、2018年6月にはWalmartと戦略提携を結ぶなど積極的に実店舗小売業のデジタル化を推進している。

②パパママストアへの積極支援

中国には約600万店のパパママストアが存在するといわれている。しかし経営の効率は悪く、データを活用した仕入れなどは行われていない状況だ。

Alibabaは「LingShouTong(通称LST)」というプロダクトを通じて、パパママストアに対してもサービスを積極的に展開している。最適な受発注のシステムを提供し、またスーパーバイザーを派遣し、棚割などの改善を提案する。日本のコンビニ本部が加盟店にスーパーバイザーを派遣しているのに類似しているといえよう。2018年末には100万店舗をカバーし、2019年には150万店舗をカバーする予定だ。

AlibabaはC2Cのオンライン・ショッピングで中国シェアナンバーワンの「Taobao」とB2Cでシェアナンバーワンの「Tmall」を所有し、中国人のネットでの買物行動をほとんど把握している。それらの購買情報を利用すれば、特定のパパママストアの周辺で、どのような人が何を購入しているのか、的確に把握することができる。そのパパママストアに最適な棚割や販売すべき商品を提案することができるはずだ。

③実店舗小売業向けのクラウドサービス展開

Tencentは「Smart RetailSolutions」という名称で、実店舗小売業のデジタル化を推進するSaaS(Software as a Service、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウエア)を大企業向けに提供している。

出店分析、グループのビッグデータを使った口コミ分析、店舗内カメラ分析、クーポン発行、会員プログラムの提供と、実店舗小売業が必要なデジタルサービスを一気通貫で提供しているのだ。日本国内ではSAPやIBMなどがこうした領域で実店舗小売業をサポートするサービス提供やシステム開発を行っているが、中国では消費者にサービスを展開するインターネット企業が主要プレーヤーとして市場に参加しているのだ。

Alibabaも実店舗小売業向けにSaaSを提供し、とくに食品スーパー業態向けには先ほど紹介した盒馬鮮生のシステムを「ReXOS」と名付け、外販している。自社で培ったノウハウを積極的に同じ業界に向けて販売し、業界をリードしようとしている。

「新小売」の次に来る「新製造」

新小売の次にはいったいどんな動きが予想されるだろうか?筆者はより川上でのIT活用が進むと考える。

データを使ってユーザーの購買行動を細かく分析したあとには、そのセグメントに対応する生産活動を行わなければ意味がない。しかしたとえば自社ユーザーすべてに対し、一人ひとりにカスタマイズしたキャンペーン広告の画像をひとつずつ制作するのは非現実的だ。だが、広告のための画像の生成もコンピュータが自動でやってくれるとしたらどうだろう?Alibabaは画像を選択するだけで、広告のためのバナー画像を自動生成するツール「Luban」を既に運用している。

このように、大量に集めたデータをより有効に活用するため、デザインの制作工程にテクノロジーが使われ始め、消費者もコンピュータがつくった制作物に日常的に触れるようになった。

その領域はデザインのみならず徐々に「製造」へと近づいている。ユーザー像を分析し、コミュニケーションするための広告用画像の自動生成に成功したあとは、製造する商品そのものの最適化も進むだろう。ソフトウエア化された工場が、人間の手を介さずに物をつくるような時代になっているかもしれない。

Alibabaは「新製造」という言葉を使い、工場向けのサービス提供に取り組んでいる。食品スーパーのデジタル化を実現した盒馬鮮生のシステムを外販したように、工場のデジタル化を実現するサービスをパッケージにして提供していくのではないだろうか。

モバイルペイメントはオフラインとオンラインの消費活動を融合する

日本ではモバイルペイメントが「キャッシュレス」の文脈で語られることが多いが、単に「財布を持たなくなる」便利さだけにとどまるのはもったいない。中国のスタートアップや実店舗小売業はluckin coffeeや盒馬鮮生のように、モバイルペイメントの普及をチャンスとして積極的に捉えている。「新小売」を実現するには、オフラインとオンラインの消費活動を融合する役割を持つモバイルペイメントの普及は必須である。

日本の実店舗小売業もモバイルペイメントの導入を単なるコストとして捉えるのではなく、新たな顧客体験や店舗経営を展開できる可能性を秘めたツールとして積極的に推進していくべきだろう。

なお、中国の著名コンサルタント劉潤氏が執筆した『事例でわかる 新・小売革命』(CCCメディアハウス刊)には中国の新小売の実態が非常によくまとめられている。ご一読をお勧めしたい。

游仁堂 シニアマネージャー
家田 昇悟(いえだ しょうご)

大学時代に上海に2年間在住し、中国×スタートアップに特化したメディアを立ち上げる。その後メルカリに入社し、プロダクトマネージャーとして複数のプロジェクトに従事。中国で新規事業リサーチの駐在を経て、メルペイに出向しペイメント事業のマーケティングやアプリの戦略策定に携わる。現在は上海に拠点のある小売業向けCRMの運営・アプリ開発会社、游仁堂にて事業開発に従事(Twitter:@IedaShogo