オンライン、リアル…活躍の場はまだまだ広がる

大賀薬局、YouTuber薬剤師が語る薬剤師の未来像

福岡市に本社を置き、調剤薬局、ドラッグストア(DgS)合わせ107店舗を運営する大賀薬局。高度医療への対応、地域密着型の薬局では定評がある。最近では同社が生んだヒーロー「薬剤戦師 オーガマン」がテ㆑ビでも活躍するなどユニークな事業展開を見せている。YouTubeチャネル「大賀よかっちゃんねる」の運営もそのひとつだ。このチャンネルでメインMCを務めるワディポップこと和田浩嗣氏に、今後の薬局、薬剤師像などについて聞いた。(月刊マーチャンダイジング2020年7月号より転載)

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アメリカの薬局、薬剤師を知り安定志向から挑戦志向に変わった

──周囲からワディと呼ばれることが多いとのことなので、本日はワディさんと呼ばせていただきます。薬剤師になったきっかけ、大賀薬局でYouTubeを始めた経緯などについて教えてください。

ワディ 進路を決めるときに、ハッキリなりたいものがなく、薬剤師である母親から仕事のやりがいや面白さを聞いて自分も同じ道を進もうと決めました。あくまで個人の意見ですが、薬剤師には安定志向と理想を持った挑戦志向の人がいて、自分は超安定志向でした。大賀薬局に入社して5年ほどは大変なこともありましたが、取りあえず安定的な薬剤師生活を送っていました。そんなあるときに上司から採用活動に参加しないかと誘われました。大賀薬局では現場で薬剤師として働きながら採用やマーケティング、医薬品管理などの本部業務にも参加できる制度があります。

そんな中、研修の一環でアメリカを訪れ、現地の薬局や薬剤師と触れ合い見聞を広げるという企画に抜擢されました。これが超安定志向の自分を変える大きなきっかけになりました。

アメリカの薬剤師はインフルエンザの予防接種を注射できるなど、医療行為までできますが、これは薬剤師が自分たちの活動の積み重ねと運動によって勝ち得たものです。アメリカでそういう活動を推進した薬剤師の講演を聴き、講師が結びの言葉で「だれかが導いてくれるのを待ってはいけない」という言葉に感銘を受け、自分の意志を行動に移すことを決意しました。

そのツアー企画に関連して大きな会合で総合司会を務めるなど、転機になるようなことがいくつかありました。人前で話す楽しさを知ったこともあり、その後社長からYouTubeの企画をお願いされたときには二つ返事で引き受け2018年に「大賀よかっちゃんねる」が誕生しました。

Youtubeの「大賀よかっちゃんねる」。チャンネル登録者数は4300名(2020年8月現在)。2年前に投稿された「薬剤師あるある10選」は8万再生を記録している。

これからの薬剤師は健康のスペシャリストになるべき

──入社から10年、店長を含め現場の薬剤師として勤務して、またYouTuberの経験も踏まえて、これからの薬剤師に必要なことはどんなことだとお考えでしょう。

ワディ 地域の方にとってより身近な「健康のスペシャリスト」になることが求められているとおもいます。方法としては2つ考えられます。ひとつは薬剤師がいま以上に地域活動することです。たとえば、病気や健康に関する相談は、ドクターだけでなく、薬局、薬剤師がお手伝いできることはたくさんあります。健康相談会や講習会などの地域活動が浸透していれば、薬局や薬剤師にできることを理解していただけ、気軽に相談を受けられるのだとおもいます。

それから、がんや糖尿病など専門薬剤師が地域活動をすることで、処方せん受け付けのときだけでなく患者さま、地域住民と接する機会が生まれサポートできます。そして、医療機関からも認められ選ばれることにつながります。

もうひとつはセルフメディケーション(軽微な症状はOTCなど使い自己治癒すること)を推進することもこれからの薬剤師の役割です。DgSの視点で考えれば地域のニーズは年齢や性別、健康状態によってさまざまです。こうした多様な健康ニーズへセルフメディケーションの手段を用意することが大事です。

残念ながら現状は多様なニーズに応え切れていないとおもうので、メディアやSNS、イベントなどをお客さまの年齢層に合わせてチョイスして薬剤師が情報発信する。こうして、広くつながることで相手のニーズを理解して私たちにできることもお伝えできます。その結果、店やイベントに来ていただける。オンラインとリアルな場を両方活用することは今後マストだとおもっています。

──薬剤師は今後、在宅医療にも積極的に関わることが求められていますが、これをどうお考えでしょうか。

ワディ 在宅医療は事務作業、医師やヘルパー、ケアマネジャーたちとの連携会議、地域活動などがあり、薬局での調剤に比べれば時間がかかります。薬剤師はプライベートの時間を費やすこともあり、在宅を担当する薬剤師はだんだん疲弊してきます。これをいかに軽減するかが在宅を広げるポイントです。大賀薬局では営業、事務作業、会議、地域活動のフォローなどを「SVチーム」と呼ばれる部署が専任で担当することで、薬剤師の負担を減らし、患者さまに集中できる体制を取っています。

在宅医療は、患者さまとのコミュニケーション、患者さま、ドクターへの提案が重要ですが、作業の中で残薬や医薬品の管理に多くの時間を取られます。これはあくまで個人的な考えですが、調剤のピッキング業務が薬剤師の管理の下、病院事務など資格者以外が行うことが認めらました。同じように在宅の残薬管理などの業務を薬剤師以外が行う。たとえば、事務職が住まいを訪問して写真や動画で現状を薬剤師に伝える。薬剤師がオンラインで患者さまの状況をお聞きして、結果をドクターにオンラインで伝える。こうした仕組みができてくれば、在宅に参入できる薬局も増えるとおもいます。現状の制度では在宅医療で採算を取るのは難しい状態です。

──新型コロナウイルスの影響で、オンラインによる業務が急速に発展しています。効率を考えれば、ワディさんが考えているような方向で在宅は進むのではないでしょうか。そのためには、薬局、薬剤師がその必要性や実績をアピールして現状を変えるしかないですね。そういうおもいはありますか。

ワディ 先ほど話したように、アメリカで薬剤師が自分たちで職能開発した事例を知って、自分たちも行動しなければいけないとおもっています。当然、会社も同じ志ですので、会社、社長と一緒に行政に働き掛けるべきところでは働き掛けたいとおもいます。これはある程度の規模がある企業しかできないので、私たちの責任だとおもっています。

地域活動で生活者とつながれば保険外収入の道も開ける

──薬局はセルフメディケーションを推進すべきということでしたが、OTCの販売、その他保険(調剤)外の収入に関してどうお考えですか。

ワディ 大賀薬局では「ガァガァフェスタ」という地域イベントで血糖値、HbA1c、総コレステロール、中性脂肪などを測定することができます。私の体験談ですが、このイベントで血糖値が異常値のお客さまがいて、専門の医療機関での受診をお勧めしました。そのとき血糖値が高いと健康にどのような悪影響があるかも丁寧に説明しました。そのお客さまは医療機関で検査を受け、大賀薬局に足を運んでくださるようになり、私とかかりつけ薬剤師の契約を結んでくださいました。

このように患者さまにとって近い存在になり信頼関係ができれば、薬局にも足を運んでいただけ結果的に売上にもつながります。将来的に処方せんがなくてもかかりつけ薬剤師の契約ができるようになれば、薬剤師の活動の幅も広がり物販やサービス提供で保険外の利益を拡大することもできるとおもいます。

診療、調剤、精算、すべてがオンラインで完結する時代が来る

──ワディさんは、大賀薬局のデジタル推進の責任者ですが、今後デジタルで薬局はどのように変わるでしょうか。

ワディ 患者さまが医療機関に行かなくても診療、投薬ができるオンライン化は進むとおもいます。これに加えて、電子処方せん、健康保険証のオンラインでの資格確認が進めば、診療、処方せん交付、調剤、服薬指導、窓口業務(精算)がすべてオンライン上でできるようになります。

あくまで個人の仮説ですが、こうした時代では、YouTubeやSNSで情報発信して信頼を得られるような薬剤師がリアルな壁を越えて選ばれるようになるでしょう。これまではお金を払って検索結果を上位に上げたり、視聴回数を増やしたりする「オークションマーケティング」が主流でしたが、これからはクオリティの高い個人や企業が選ばれて集客できる「クオリティマーケティング」に切り替わるとおもいます。

もちろんすべての薬剤師がそうなるわけではありませんが、オンラインで個人で勝負する薬剤師が出てくる可能性があります。会社もそこに目を向けてほしいし私もワディポップとしてその世界で活躍したいです。

──インフルエンサーを集めてYouTuberをマネジメントする会社に勢いがありますが、大賀薬局もそういう事業部門を持つかもしれませんね。

ワディ そうなれば面白いですし、その事業をコンサルティングするビジネスもできます。大賀薬局には個人起業できるベンチャー制度があります。10年後は自分で事業を起こし大賀薬局に恩返しして、同時に個人の力も付けていきたいと考えています。

──本日はありがとうございました。

 

ワディこと和田浩嗣氏(中央)、大賀薬局から生まれたオーガマンは現在九州ローカルのテレビ番組「ドゲンジャーズ」の一員として活躍。左は同番組に出演中の正木郁(かおる)さん(ルーキー役)、右は滝夕輝さん(キタキュウマン)

「残薬を減らす」大義を掲げ、戦う薬剤戦師「オーガマン」誕生の舞台裏