今週の視点

人口5,000~7,000人の田舎立地は総取りできる!

第92回人口減少の「過疎地」出店はブルーオーシャンの立地戦略!?

人口が減少し、高齢化率が上昇する地方都市の「過疎地」立地に敢えて出店する経営戦略が注目されています。小売業は「立地産業」と呼ばれ、人口の増加している地域に出店するのがセオリーですが、敢えて人口減少立地に逆張り出店することで、残存者利益を獲得し、需要を総取りする作戦です。

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年1,000店の出店続けるダラー・ジェネラル

最近のアメリカ小売業は大きく3つのトレンドに分類できます。第1は、大型ショッピングモールの大量閉店です。ショッピングモールに入居している核店舗のデパートやGMSの閉店が相次ぎました。さらにショッピングモールにテナント出店するアパレルなどの専門店の倒産も続出しています。

第2は、世界最大の小売業「ウォルマート」や大手ホームセンターの「ホームデポ」のように新規出店をほとんどしないで、デジタルシフトによって売上を増やしているグループです。この2社は、「オンライン」と「リアル」の買物体験を融合し、既存店の売上高を増やしています。たとえば、「オンラインで注文し店舗受け取り」「オンラインで注文して宅配」「在庫のない商品のお取り寄せ」などの新しい買物体験を提供することで、店舗数は増えなくても売上高を増やしています。

第3は、大量出店を継続している「小型の小商圏業態」です。代表的な企業は「ダラー・ジェネラル」であり、人口の少ない立地に出店できる売場面積300坪程度の「小商圏&小型ディスカウンター」です。ダラー・ジェネラルは、ほとんどの商品が10ドル以下で売られ、2020年1月末で全米45州に16,278店舗を展開。アメリカは50州なので、まだ出店していないエリアが残っており、アメリカでもっとも成長余地の大きいリアル小売企業として注目されています。

ダラー・ジェネラルの店舗の多くは、大型店が少ない人口1万人以下の郊外やルーラル(田舎)地域に展開されています。今期、1万6,000店目の開店を含み975ヵ所の新規開店、1,024店舗で改装、100ヵ所の店舗を移転しました。これら店舗網で全米45州をカバー、人口の75%以上が店舗から半径5マイル(約8㎞)以内に住んでいる小商圏店舗です。

ダラー・ジェネラルのような業態の大きな特徴は、Amazonのようなネット通販と棲み分けできることです。「近くて便利」「10ドル以下の低価格帯」が武器なので、自宅近くのダラー・ジェネラルを利用すれば、無理にAmazonで注文して配達してもらう必要がありません。また、オンラインで注文して店舗受け取りという新しい買物体験「BOPIS(Buy Online Pickup In Store)」にも今年挑戦していますが、自宅から近いので受け取りが便利という理由で好調で、今後BOPISを拡大していく方針です。また、総合ディスカウントストアのウォルマート以上の安さを実現しており、所得格差の激しいアメリカでは、低所得者層にとって便利な業態として定着しています。

人口7,000人以下の田舎に大量出店するゲンキー

ダラー・ジェネラルをベンチマークしているのは、日本のDgS(ドラッグストア)企業である「Genky DrugStores(以下ゲンキー)」と「薬王堂」などです。上記の図表のDgSの食品部門の売上構成比率を見ると、ゲンキーが62.2%と第1位です。薬王堂も42.3%と食品の構成比率の高いDgSです。

両社に共通するのは、人口5,000~7,000人の田舎立地への出店を主力としていることです。ゲンキーは福井、岐阜などの中部圏で、薬王堂は岩手県などの東北エリアで展開しています。田舎立地で展開する店舗の特徴は、取扱品種の多いバラエティストア型の品揃えであることです。両社とも食品、日用雑貨、実用衣料まで幅広く品ぞろえすることで、一人当たりの支出金額を増やして、少ない人口でも成り立たせるMDが特徴です。

このように「食品強化型DgS」は、たまたま薬局・薬店の経営者が創業したからDgS業態に分類されていますが、アメリカのダラー・ジェネラルのような「ハードディスカウンター」「バラエティストア」と呼ばれる業態に近い役割です。

ゲンキーは、300坪型の店舗を今後3年間で272店も開店し、2023年6月期の店舗数568店、売上高2,400億円の目標を立てています。ダラー・ジェネラルのように、大量出店を計画しているわけです。ゲンキーは自動発注など店舗で考える作業を極力減らし、入社2年で店長になれる仕組み化を武器にして、レイアウトもまったく同じ「金太郎飴店舗」を量産しようとしています。

人口7,000人以下の地方都市の田舎は人口減少と高齢化が進み、免許返納によって遠くの大型店よりも、近くの便利な小商圏店舗を選ぶ高齢者が増えていきます。人口減少が続く地方都市の店舗が少なくなる中で成立すれば、唯一残った便利な店舗として「残存者利益」を得ることになるかもしれません。コンビニしかないような過疎立地であれば、300坪店舗でも地域の最大店舗です。

また、アメリカ同様に日本も所得格差が開いています。ゲンキーで販売している弁当の最安値は198円ですが、こういう激安商品を好んで購入する消費者が増えていきます。とくに高齢者は年金生活者なので、ストック(資産)はあってもフロー所得は少ないので、節約志向は今後も高まっていくと思われます。いずれにしても小商圏の食品強化型DgSは、一般的なDgSとはまったく異なる業態として進化していく可能性があります。

注/ゲンキーの企業研究の詳細は月刊MD11月号(10月20日発行)に掲載します。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。