今週の視点

生鮮食品、園芸、衣料まで品揃えする!?

第93回「ラインロビング」への貪欲な挑戦がドラッグストアの強さである

最近のドラッグストア(DgS)は、生鮮食品、園芸、実用衣料などの新しいカテゴリーの品揃えに挑戦しています。「なぜ薬局で精肉を売るの?」と不思議に思うかもしれませんが、ラインロビングへの貪欲さが、DgSという業態の最大の強みであると思います。

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ドラッグストアの歴史はラインロビングの歴史

青果、精肉をラインロビングしたツルハドラッグ札幌南6条店。

薬局・薬店という業種店から業態化したDgSの歴史は、ラインロビングの歴史であったといっても過言ではありません。ラインロビングとは、新しい商品群の品揃えに挑戦し、商品群単位で他の業態からシェアを奪う作戦のことです。医薬品主体の薬局・薬店では、病気にならないと来店してもらえません。薬局・薬店が母体のDgS企業は、当初から日用雑貨、一般食品などの新しい商品群をラインロビングし、低価格で販売すること他の業態からシェアを少しずつ奪っていたのです。

精肉、青果、鮮魚などの生鮮食品の導入はできなかった初期のDgSは、「日配品」をラインロビングすることで客数を増やしました。日配品とは、賞味期限が短いので、毎日のように店舗に配達する商品という意味です。牛乳、豆腐、納豆、ヨーグルトなどです。日配品は日持ちしないので、頻繁に買物に来店する代表的な商品です。日配品を強化することで、薬局・薬店時代とは比べ物にならないほど顧客の来店頻度が高まり、客数も増えて、小商圏でも成立する業態に進化していきました。

ツルハドラッグ 青果、精肉にも挑戦

DgSの市場規模は約7兆5,000億円に達し、産業として認知されるほど巨大市場に成長しましたが、ラインロビングへの貪欲さはまったく衰えていません。巻頭の青果、精肉の売場写真は、「ツルハドラッグ札幌南6条店」のものです。コスモス薬品やクスリのアオキなどの食品強化型DgSと比べると、食品構成比の低いツルハドラッグストアですが、青果、精肉のラインロビングに果敢に挑戦しているわけです。

南6条店は、札幌の繁華街の「すすきの」の近くに立地する都市型店舗です。大型の食品スーパーが近くになくて、コンビニしかないような立地です。都市型立地なので、ツルハドラッグには珍しく2層式の300坪店舗です。青果、精肉などの食品売場は2階で展開しています。レジは1階のレジのみのオペレーションです。食品スーパーが少ない立地なので、精肉、青果を含めた食品売場を目的に客数も大きく増えているそうです。

青果、精肉は、専門業者に管理を委託するコンセッショナリー方式です。面白いのは写真のような監視カメラが青果と精肉売場を常時撮影しており、専門業者が遠隔で売場の状況をチェックして、品薄になると補充に来るそうです。食品スーパーのようにバックヤードで精肉をカットしたり、トレーにラッピングできなくても、生鮮を取り扱うことができる仕組みに挑戦しています。

ツルハドラッグの鶴羽樹・会長は、以前は「食品の売上構成比は10%以内にとどめる。それ以上は増やしません」と公言していましたが、数年前から食品強化に方針転換しました。鶴羽会長は、前言を翻したことに関して、「やっぱり食品を増やすと、朝礼暮改を恐れないことがツルハのいいところだ」と悪びれず話す姿に、ツルハの強さを感じたものです。

監視カメラが青果、精肉を撮影しており、専門業者が売場を遠隔でチェックし、品薄であれば補充に来る仕組み。
ツルハドラッグ札幌南6条店。2層式300坪で、2階が食品売場。

ウエルシア 園芸、生鮮にも挑戦

ツルハ以外のDgS企業の多くは、現在も「ラインロビング」に非常に熱心です。たとえばウエルシアHDの松本忠久・社長は次のように語ってくれました。
「ラインロビングは常に継続しなければなりません。ある実験店ではアパレルを強化しています。また、同店の食品の構成比は売上の40%です。食品を強化するために地元の業者を選定して肉、野菜、惣菜などの品揃えに挑戦しています。また、福井のホームセンター企業『みつわ』と資本提携し、DgSらしい園芸用品の品揃えに挑戦します」

さらに松本氏は、「とにかくラインロビングに挑戦しないとダメです。失敗なら元に戻せばいいのです。企業力とは『質×量×スピード』です。今、量はできたのでスピードと質を高めていくチャレンジが未来につながると思います」と新しい商品群への挑戦こそが企業の強さにつながると述べています。「園芸」に関しては、ツルハグループの「杏林堂薬局」が園芸強化型の実験店を昨年開店しています。現状維持に甘んじない、常に挑戦し続ける企業文化が、若い業態であるドラッグストアの最大の強みです。

現在DgSの商圏人口は1万人を切る「狭小商圏化」が進んでいます。狭小商圏で成り立つためには、地域の消費者の来店目的を増やすためにワンストップショッピング性を強化することが必要です。つまり、ラインロビングとは、少ない商圏人口でも成立させるための基本対策なのです。たとえば、人口5,000人の過疎地立地でも、生鮮食品をラインロビングすれば成立させることができます。「すすきの」のような都市型立地に食品スーパーが少ないのと同様に、人口5,000人の過疎地立地にも大型の食品スーパーは少なく、コンビニしかないような立地が存在します。そこに300坪の食品強化型DgSを出店すれば、地域の最大店舗として重要を総どりすることもできるはずです。

「ドラッグストアだから取扱商品はこうあるべき」という業界常識の固定観念が他の業態よりも少なかったことも、DgSの成長の大きな要因であったと考えます。「業態論は関係ない。小売業は目の前の顧客が求める商品を素直に品揃えすることがすべてである」というDgSが成長した歴史の格言もここに記録しておきたいと思います。

※ツルハドラッグ南6条店の詳細は月刊MD12月号(11月20日発行)に掲載します。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。