今週の視点

小売のブランド=店舗は磨き続けなければ陳腐化する

第94回過去10年に成長したドラッグストアは店舗年齢を若く維持したことが共通点

ドラッグストアの成長期は、1980年代後半~1997年頃の第1次成長期、1998年~2008年までの第2次成長期、2009年以降の第3次成長期の3つに分けられます。最後の第3次成長期に大きく成長したドラッグストア(DgS)に共通することは「店舗年齢」を若く保ったことです。

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店舗年齢を平均5~7年に若く保つことが重要


図表1に2009年と2020年の主要DgSの売上高と、11年間の成長率を整理しました。11年前の2009年にもっとも売上高の大きかった企業は「マツモトキヨシ」であり、第2位は「スギHD」でしたが、この11年間で売上高順位の入れ替わりがあったことがわかります。

「第3次成長期」に大きく成長したDgS企業の共通点は、「店舗年齢を若く維持した」ことです。チェーンストアにとって店舗はもっとも重要な「ブランド」であり、ブランドは常に磨き続けなければなりません。メーカーが「リ・ブランディング」することで、ブランドの価値を高め続けることと同じです。

小売業の場合は、計画的に店舗年齢の古い既存店の「スクラップ&ビルド」を繰り返し、「店舗年齢」を若く保つことがリ・ブランディングです。店舗年齢は、古い既存店を「全面改装」もしくは「移転増床」した時点で「ゼロ歳」に戻ります。チェーンストアの場合は、店舗年齢を平均5年(歳)に維持することが原則といわれています。

10年ほど前、アメリカのDgSウォルグリーンの店舗数が5,000店舗前後の時代に、ウォルグリーンのシカゴ本社で「平均の店舗年齢は何年ですか?」と質問したところ、「5年です」と即座に回答したことを鮮明に覚えています。

M&A後も店舗改装で店舗年齢を若く保つ

第3次成長期に飛躍したツルハHDは、M&A先の企業のスクラップ&ビルドに投資することで、グループ企業の店舗年齢を若くし、既存店の売上高を改善することを重視しました。約3年前に当時の社長の「堀川政司」氏にツルハグループの店舗年齢を聞いたところ、「6.6年」という回答がありました。すでにグループで2,000店を突破した時期にもかかわらず、店舗年齢を若く維持しているのは凄いと思ったものです。

ツルハHDは、第3次成長期の期間、100店近く新規出店していると同時に、毎年コンスタントに30店程度閉店しており、スクラップ&ビルドと新規出店(M&A含む)の両面で開発予算を立てていることがわかります。

ウエルシアHDも、合併企業の店舗を「ウエルシアモデル」(調剤併設+深夜営業+カウンセリング+介護)と呼ばれる業態に店舗改装することで、合併先の店舗の業績を向上させています。単にM&Aによる足し算で店舗数と売上高が増えたのではなくて、店舗改装によって既存店の競争力を高めたことが、第3次成長期に躍進したウエルシアHDとツルハHDの共通点であると思います。積極的に既存店を改装することによって、店舗年齢の古い既存店の割合を減少させているわけです。

また、コスモス薬品、クスリのアオキ、ゲンキーなどのM&Aに頼らず直営で店舗数を増やしてきた企業の店舗年齢も若いです。コスモス薬品の代表取締役社長の横山英昭氏は、決算発表のときに「われわれは店舗年齢を若く保つことが競争力だとおもっています。M&Aで古い店舗を手に入れれば最初から利益があるので当面はいいかもしれないが、将来的には厳しくなるのではないでしょうか」とコスモスが直営出店にこだわる理由が「店舗年齢の若さ」であることを強調しています。

2009年以降の第3次成長期に急成長したクスリのアオキ、ゲンキー、薬王堂、中部薬品などの中堅企業の店舗年齢も若いです。店舗年齢の若さが、第3次成長期を牽引した最大の要因であると思います。とくにクスリのアオキは、2009年の店舗数132店を2020年に630店と、この11年間に大量出店しており、必然的に店舗年齢は若いのです。

第3次成長期の時代は、第1次、第2次成長期に開店したDgSの古い既存店がすでに全国にあふれかえっていた時期でした。1980年代末から始まった「DgSの第1次成長期」、さらには「第2次DgS成長期」に開店した店舗は、第3次成長期の2009年以降には既に開店から10年以上が経過した古い既存店になっていました。マツモトキヨシが、大店法廃止前に郊外に大量出店した「競争力のない古い既存店(150坪型)」のスクラップに時間がかかったことが、第3次成長期に伸び悩んだ最大の理由だと思います。

また、ココカラファインは2015年以降、古い既存店の閉店数が増加しています。また、「純増店舗数(店舗増加数-閉店数)を見ると、ココカラファインは2015年~2017年の3年間は純増店舗数がマイナスでした。その時期にM&Aで手に入れた古い既存店(不採算店)の閉店が大きな経営課題であったことがわかります。

「店舗の償却が終わって営業利益が出ているから」という理由で、競争力のない既存店を放置することは短期的には業績の良さに貢献しますが、長期的にはよくない結果をもたらします。小売業の最大のブランドである店舗は、「磨き続けなければ輝きを失ってしまう」という歴史の教訓をここに記録しておきたいと思います。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。