マツキヨのPB戦略が競合と差別化できた3つのポイント

2015年リブランディングしたマツモトキヨシのプライベートブランド(PB)「matsukiyo」は、ブランディング、組織体制、デザイン、消費者ニーズ研究、どれを取っても戦略的でこだわりがあり、ヒット商品も数多く評価が高い。お客が求めているのに市場に足りない商品を見つけて開発し、ナショナルブランド(NB)メーカーの商品と共存できるように徹底的に差別化して市場拡大を目指す、三方よしも実現している。理想的なPBづくりの一例といえるであろう、マツモトキヨシの商品開発をひもとく。(月刊マーチャンダイジング2018年8月号より転載)

ブランド戦略でますます重要になるPB

以前からあるPB「MKカスタマー」、2015年より展開の「matsukiyo」、加えて独立したオリジナルブランドも複数開発しているマツモトキヨシ。PB商品数は2,000点を超え、売上構成比の10.1%をPBが占めており(2018年3月時点)、ドラッグストア(DgS)の中でもひときわPBに注力している企業といえるだろう。そんなマツモトキヨシでPB商品開発を担当する櫻井壱典氏は、PBへの認識と役割が変化してきていると語る。

「多くのPBは、まず価格訴求から始まりました。2009年ごろからプレミアム系商品が浸透したことで高品質のPBも一般化して、いまでは高品質で付加価値のある商品が求められ、PBが市民権を得たともいえます。

これまでPBは、『競合との差別化』『利益拡大』『お買い得価格での提供』『来店客数増加』といった役割を果たしてきました。これからは、それらに加えて『ユーザーニーズに応える』『コーポレートブランドのイメージ向上』『企業理念の具現化』といった、企業戦略実現の側面がますます重要になってくるでしょう」

かつてPBは、低価格最優先でブランドとしてのアピールは二の次だったかもしれないが、いまや企業のブランディング手段として商品や自社ブランドをもっとアピールするべき時代なのだという。

マツモトキヨシでは大手メーカーとの専売商品にも積極的に取り組んでおり、これらも競合との差別化や両社のコーポレートブランドのイメージ向上につながる。しかし「企業理念の具現化」までできるのは、やはりPBだろう。

企業イメージに直結するPB、重視するのはブランド力と品質管理

そういった時代の変化に対応して、マツモトキヨシでは2015年末にPBのリブランディングを決断。ブランド名を「MKカスタマー」から「matsukiyo」に変更した。matsukiyoはマツモトキヨシの愛称として広く親しまれている呼び方なので、商品が店舗を連想させやすくなり、コーポレートブランドに「近い」PBとなった。認知向上・アピールになる一方で、もし商品に問題があれば企業イメージを損ねる危険もありハイリスクハイリターンだ。

「いままで以上にブランド戦略が重要になると同時に、製造責任も大きくなりました。ですから『matsukiyo』の展開を始めてからは、ブランド力向上と品質管理の徹底を両輪で強化するために、商品開発担当とは別にそれぞれ担当者を配置しました。ブランド担当は、商品ブランドコンセプト(図表1)に合致しているかを徹底します。品質管理担当は、商品開発の各工程で品質記録を取り、何かがあったときに原因を追えるようにしています」(櫻井氏、以下同)

[図表1]マツモトキヨシグループのPB、matsukiyoのブランドコンセプト

時代の変化に合わせて戦略の舵を切り、組織体制から見直し、機能させている。「PBを目立たせるブランディング」は、組織体制が整った企業だけができる戦略ともいえるだろう。

ブランド力がないと購入検討の土俵にすら上がれない

これほどまでにPBのブランド力向上を目指すのは、同社が経営において強い危機感を持っているからだ。

「アマゾンなどのECサイトが躍進を遂げており、競合は多く小売業にとって厳しい時代です。だから、まずは購入検討の段階で、お客さまの頭の中に『マツキヨにはこんな商品があるよ』というイメージがないと勝負にもなりません。われわれはブランドコンセプトに合致した『マツキヨらしい』商品を複数開発して、マツモトキヨシという企業そのものの存在感を強めたいのです」

PBは、差別化だけでなくコーポレートブランド自体のマインドシェアを高めるために役立つのだ。コンセプトや品質など徹底的にこだわって開発するため、医薬品や化粧品は開発期間が1年から長くて2年かかることもあるという。こうした一商品の積み重ねが、良質なコーポレートブランドを形成しているのだ。

エナジードリンクに見るコンセプト反映の徹底

たとえばmatsukiyoの「EXSTRONGエナジードリンク」(写真1)には、ブランドコンセプトのひとつ「面白さ・楽しさのあるアイディア」に基づく多くのこだわりがある。まずは色だ。オレンジ色の缶に緑色の液体という組合せに驚く。メロンソーダのような色なので甘いのかとおもって飲むと、意外とスッキリした味わいでまた驚く。強炭酸でシュワシュワの強さに驚き、成分の含有量の多さにも驚く。

この驚きが、「マツキヨらしさ」を強烈に印象付けている。ブランドコンセプトにのっとってちりばめられているあらゆる驚きと楽しさは、消費者がおもわず話題にしたくなる「ツッコミポイント」となり、結果SNSやインターネット上で話題になって、大ヒットした。

競合と差別化するために、国内外約300種のエナジードリンクを研究し、ほかにないこの色・商品に行き着いたという。

「このようにとがった商品を複数集積することで、マツキヨの楽しいイメージが刻み込まれていくはずです。これは『NB商品をまねしよう』という発想では生まれてこない。むしろ、どのような商品が『マツキヨ』らしいかを大切にしています。そのためにも、他メーカーの新商品は注視しています。『マツキヨ』らしさは、お客さまの選択肢を増やすことにつながり、NBからのスイッチではなく市場拡大に貢献するはずです」

[写真1]EXSTRONGエナジードリンク

中身は緑色で、「オレンジ色の缶なのでオレンジ色の液体が出てくる」とおもっていると意表を突かれる。6月20日には、新ラインアップとして「EXSTRONGZERO ENERGY DRINK」も発売。缶はイエロー、中身はパープルだ

カテゴリーごとに最適化されたデザインへのこだわり

商品開発に当たって、デザインはとくにこだわるポイントだという。

「SNSが普及して、デザインを重視するお客さまが増えています。ですので、食品はカラフルで楽しく、健康食品はシックで部屋に置いても景観を損ねないなど、カテゴリーそれぞれにデザインへのこだわりがあります」

消費者にとってベストなデザインであることを前提に、さらに売場で目立つ配色になるよう研究する。たとえば女性向けのプロテイン「matsukiyoLAB アスリートライン」は黒くてシックなパッケージで、競合商品の中にあっても目立つ(写真2)。

[写真2]黒いパッケージのアスリートライン

マツキヨLABの新商品で、今後力を入れていきたいというアスリートライン。プロテインをしっかり摂取するという目的に絞り、美容成分などは配合せずに価格を抑えている。プロテインは比較的多く摂る必要があるため、低価格の方がリピートを得られやすいと考えられるからだ。女性の日常的な運動が増えていることと、美容と運動の関連性、そしてオリンピックによる運動機運上昇の3点を鑑みると、成長の可能性が高い分野だ

カテゴリーごとにそれぞれデザインを変えるとブランドとして統一感を損ねる恐れもあるが、matsukiyoのパッケージは「マツキヨスラッシュ」という傾斜19度のラインが全商品共通で入っている。19度とはマツモトキヨシのカタカナロゴの斜角度が由来で、知らなければそれほど意識はされない控えめさだが、ファンになると「あの商品matsukiyoだな」とひと目でわかる、絶妙なラインになっている。

ECサイトとの差別化に「商品を持ち帰る楽しさ」を

実店舗での買物には必然的に「持ち帰る」作業が発生する。とくにトイレットペーパーのような大きな商品は、持って帰る労力を要し、人目も気になる商品ゆえにECサイトに分があるかもしれない。ここに着目したmatsukiyoのトイレットペーパーは、写真4のようなデザインで「家に持ち帰る楽しみ」を追求したという。差別化が難しいトイレットペーパーに、デザインによる情緒的価値を加えたアイデア商品だ。

[写真3]持って帰る楽しみを生むトイレットペーパー

まるで買い物袋を持っているかのように、ラジカセを担いでいるように見え、「持ち方」を楽しめる。機能的価値での訴求が中心となりがちなトイレットペーパーを、情緒的価値で差別化した。ペントアワードなど数々の世界的なデザイン賞を受賞している

医薬品のパッケージ統一でお客も販売員もわかりやすい

医薬品PBは、わかりやすいデザインにこだわっているという。写真5を見ると、決められた位置に決められた情報が書かれてフォーマット化されていることがわかる。このおかげで薬剤師や登録販売者は案内しやすく、お客の前でも迷わずに済む。お客が不安になってしまうことを防げるのだ。医薬品PBにおいてパッケージデザインをフォーマット化しているのは、日本では「マツキヨ」だけだという。

もちろんお客にとっても用法や効果・効能などを見比べやすいだろう。お客と販売員との円滑なコミュニケーションをデザインが促進しており、現場の負荷軽減にまで貢献する。デザインも重要な機能である。

これらのPB商品はフランチャイズ契約企業からも高い評価を得ており差別化の強みとなっているようだ。

[写真4]フォーマットが統一された医薬品パッケージ

matsukiyoの医薬品にはいろいろなサイズ・形の箱があるが、左上にロゴ、右上に容量、中央に症状、右下に薬のはたらき、といった具合に、どこにどの情報が表記されているかが共通で決まっている。ブランドコンセプトのうち、「選びやすさ、使いやすさ、わかりやすさを追求したパッケージ開発と商品情報の表記」が強く反映されている

ニッチな市場を開拓して育てることができるのがPB

PBは、NB商品には難しい「新しい市場を開拓する」役割も持っている。

「『ユーザーニーズに応える』ことは、PBのもっとも重要な役割だと考えています。お客さまの趣味嗜好は多様化しているうえに、『だれもが使っているような大衆化された商品は使いたくない』というニーズも高まっています。しかしそんなニッチな商品開発は、メジャーなマスブランドでは実現できないでしょう。つまり、市場にはスキマがあるはずなのです。PBはそこを埋めることができます。弊社オリジナルブランドのアルジェランは、まだオーガニックシャンプーが一般的になる前の2012年から発売しましたが、当時この市場はいまよりも小さかった。それでも、オーガニックなものをお手頃価格で使いたいというニーズはたしかにありました。いまでは市場も広がり、むしろNBメーカーさまがあとから出している状況ではないでしょうか。われわれ小売はお客さまに近いので、ニッチなニーズも捉えやすい。PBの未来は明るいとおもっています」

商品企画、ニーズ探しはお客の購買行動から

消費者ニーズを見つけるという点で、お客に近い小売はメーカーにまねできない力を持っている。とくに、丁寧なカウンセリングによるお客の悩み相談、要望に応えられることはDgS独自の強みだ。マツモトキヨシでも、各店舗の顧客情報を本部にフィードバックする体制が整っており、商品企画だけでなく品質管理とブランド管理強化にも役立てているという。

またマツモトキヨシの場合はオムニチャネル化が進んでおり、実店舗とネット両方の買物行動をキャッチアップできる。さらに店舗ごとに棚割を細分化させているため、エリア別・棚割別の分析も得意だ。そのうえ、独自の意識調査やクラスター分析を行うなど、生活者の研究にも努めている。

多方面からお客の理解に努め、PB開発やその他戦略に役立てている。お客を理解する体制が全方面で揃っており、かつそのデータを持て余すことなく生かしているところに、マツモトキヨシの抜きんでた強さがありそうだ。

タニタ食堂ライト版?商業施設に進出する「タニタカフェ」

「健康総合企業」の株式会社タニタ(東京・板橋区、社長/谷田千里)は、「こころの健康づくり」をコンセプトとした「タニタカフェ有楽町店」を6月6日、JR有楽町駅構内のルミネストリートの一角にオープンした。同社が飲食事業に参入したきっかけは同社の社員食堂にある。「タニタの社員食堂の定食は1食あたり500kcaℓ前後、塩分3ℊ以下で、それを毎日継続して食べるとからだが変わる」ということがにわかに話題に上った。それを書籍にしたレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』(大和書房刊)は2010年2月に発行され、続編を含め累計発行部数542万部という出版界ではまれな超ベストセラーとなっている。

若い世代に向け健康志向を訴求、商業施設の中で成り立つ業態

タニタは2012年1月、東京・丸の内に同社の社員食堂のコンセプトを忠実に再現したレストラン「丸の内タニタ食堂」(43坪70席)をオープン。同店はランチタイム特化型ながら大ヒットし、FC、メニュー提供という展開を行い、現在直営1店、FC7店、メニュー提供21(2018年7月現在)という陣容になっている。

タニタカフェはこのタニタ食堂がバックボーンとなり誕生したもの。その開発の狙いと展望について株式会社タニタ食堂の取締役営業本部長、浅尾祐輔氏が解説してくれた。

「タニタ食堂はタニタの社員食堂をベースとした業態であり、広く一般のお客さまに毎日1回は食べてほしいという思いで運営していることから、日替わり定食の価格を800円台に設定。一方で野菜を200g前後使用するというメニュー構成のために原材料費が高くなる傾向があることから、フードサービスとしては利益率は高くなく、店舗立地及び客層が限定されます。そこで、タニタカフェは若い世代に向けて健康志向を訴求し、商業施設の中で成り立つ業態として開発しました」

「タニタカフェ」が商標として立ち上がったのは2014年11月、新潟県長岡市とのアライアンスで誕生した。当時は、店舗展開することを前提としていなかったが、タニタ食堂をライトな感覚にしたという点では、今回の原点となっている。

具体的に出店計画が立ち上がったのは1年半前のことで、今年の3月に本格的に展開することを発表し、オープンに至った。

コンセプトは「楽しさ」「心地よさ」といった「こころの健康づくり」のエッセンスをふんだんに取り入れたものであること。メーンターゲットは20~30代の女性。旬の有機野菜をたっぷりと使用したオリジナルメニューを提供し、「日々の暮らしの中で自然と健やかになっていく」新しいカフェの楽しみ方を提案するという。

「ぷりぷり海老豆乳マヨソースのもち麦サラダボウル」1080円(税別)

フードメニューのテーマは「野菜不足解消」

提供するメニューは、飲食店開業・経営コンサルティング会社の株式会社オペレーションファクトリー(大阪・西区、社長/笠島明裕)と共同で開発。運営も同社と共同で行う。使用する有機食材は楽天株式会社(東京・世田谷区、会長兼社長/三木谷浩史)と提携し、同社が展開する農業サービス「Rakuten Ragri」に参画する生産者から直送された旬の有機野菜を一部使用している。

フードメニューのテーマは「野菜不足を解消しましょう」ということで、1食で1日の目標摂取野菜量350gの半分を摂ることができるものにした。カテゴリーは「和だしのフォー」9品目980円~1280円(税別、以下同)、「有機野菜のもち麦サラダボウル」3品目980円~1,280円、「一汁五菜健康プレート」1品目(月替わり)1,280円。フォーは和だしをベースに鶏肉、牛肉、豆乳をラインアップ。サラダボウルは10種類の有機野菜サラダにもち麦と総菜をトッピングして丼スタイルで提供。プレートは一汁五菜をプレートにして提供。

カロリーについてはタニタ食堂のような厳密な規定を設けていない。一様に抑え気味ではあるが700kcalを超えるものもある。カロリー表示はしていないが、従業員がお客さまから質問を受けたら答えられるようにしている。

盛付けは彩りが良くインスタ映えするもので、食味も豊かで良い印象が記憶に残る。

「ぷりぷり海老豆乳マヨソースのもち麦サラダボウル」1080円(税別)
「黒毛和牛しゃぶしゃぶと焼ねぎのフォー」1280円(税別)
「一汁五菜健康プレート」1280円(税別)

ドリンクメニューは「カムージー」3品目680円~750円、「ラテ」580円、「タニタフレーバーティー」480円、「タニタコーヒー」480円。カムージーとはチアシード、コンニャクゼリー、豆腐、フローズンカットフルーツなどが入った「噛む」スムージー。ラテはタニタカフェ監修のアーモンドミルク、オーガニック豆乳を使用。タニタフレーバーティーは心の健康=リラックス効果に着眼。タニタコーヒーにはコーヒーに含まれるポリフェノールの一種のクロロゲン酸が通常のコーヒーの約2倍含まれている。さらに、タニタカフェ監修 オーガニック豆乳を使用した「ソフトクリーム」500円もラインアップした。

3種類のカムージー 680円〜750円(税別)
「ソフトクリーム」500円(税別)

広い客層が目的来店し1日10回転以上

現在、有楽町店ではモニター会員(先着100人)に対してポイントサービスを行っている。それは通信機能を持つタニタの活動量計「AM-150」(モニター会員価格2,000円)を会員証として、1来店につき50ポイントを付与(1日1回)、さらに次回の来店前日まで平均歩数200歩につき1ポイント付与(データ保存最長30日まで)。たまったポイントは商品と交換できる。

ポイント数の少ないものでは300ポイントのタニタコーヒープレミアムブレンドドリップバック1個、多いものでは8,000ポイントの体組成計まで、タニタカフェオリジナルのものからタニタの健康計測機器までさまざま取り揃えている。将来的には会員アプリを設けてポイント数に応じた割引なども検討しているが、現状のポイントシステムはそれに向けた実験と位置付けている。「健康総合企業」の同社らしい試みと言える。

現在、タニタカフェ有楽町店はオープンして1カ月が経過したが大繁盛を呈している。43席の同店は1日の客数が約500人で、満席率100%計算で10回転を超えている。これは顧客からの信頼性が高く、ほとんどが目的来店であること、それが当初20代~30代女性を想定していたところ広い客層に及び、お客さまの滞在時間が30分間と短いという特性によるものだ。

今後の展開は二つのパターンを想定している。一つはFC、もう一つはコラボレーション(コラボ)で展開するパターン。これは異業種とコラボしたメニュー提供店として、小売業や飲食店、セレクトショップ、スポーツジム、クリニックなどに併設する方式のものだ。既に「食堂カフェpotto×TANITA_CAFE」(3月、大阪・堺市)、「KURUTOおおぶ×TANITA CAFE」(4月、愛知・大府市)、「Gobanchi×TANITA CAFE」(6月、岩手・盛岡市)、「ASICS×TANITA CAFE」(7月、東京・丸の内)など8店舗オープンしている。これらで2022年に100店舗の展開を想定している(FC30店舗、コラボ70店舗)。

タニタカフェはこれからブラッシュアップしていくことによってタニタ食堂のもう一つの成長軸となっていくことであろう。

【ダイソー・ドンキ・ファミマ・イオン】SNSで人気のPB、共通項は「コスパ」と「驚き」

Twitter、Instagram、Facebook…近年、生活者の大部分が日常的に触れるようになったSNS。SNS上で話題となり、爆発的に多数の人々に取り上げられた商品が、売場で急激に売上を伸ばすケースも多いようです。ここでは、月刊マーチャンダイジング編集部がインターネットをパトロールし、最近SNSで取り上げられたプライベートブランド(PB)や注目を集めたPBを調査。独断と偏見でご紹介します。(月刊マーチャンダイジング2018年8月号より転載)

「プチブロック」(ダイソー)

キッズも大人もハマる人続出 第二弾登場のコスパ最強おもちゃ

元ネタは、大人向けの世界最小級ブロック「ナノブロック」とおもわれる。ダイソーのほかにも、セリアは「マイクロブロック」、キャンドゥは「ミニブロ」の名前でそれぞれ発売。100均ならではの圧倒的なコストパフォーマンスが特徴で、実際に組み立ててみると、インスタ映えする「カワイイ」ビジュアルでなかなかのクオリティ。「インテリアにもいい」「コンプしたくなる」「子供が毎日遊んでいる」などの声が見受けられた。

2018年春ころにシリーズ第二弾を発売。子供にはショベルカーや消防車などのはたらく車シリーズが人気。インコやフラミンゴなどの動物のほか、ウエディング需要に対応した新郎・新婦、ケーキなども。「#プチブロック」をのぞくと、凝りに凝った大作のオリジナルフィギュア作品を見ることもできる。おもちゃ好き、子育てママ、インスタ女子、100均ファンなど特定の層ではあるが、息の長い盛り上がりを見せている。

所要時間は30分~1時間で「少し難しい」ところがミソか
価格 108円(税込み)
発売日 ※2017年初頭?
内容量 1体分
製造者
参照サイト Twitter、Instagram、まとめサイト
関連ハッシュタグ #プチブロック,#ダイソー

ACTIVE GEAR「ブルートゥーススピーカー」(ドン・キホーテ)

アウトドアに最適、高音質に驚き!ワイヤレスブルートゥーススピーカー


iPhoneや音楽機器などに入った音楽を、車の中やキャンプなどのお出掛けシーンで流したい…そんなときに便利なのが、ワイヤレスで機器同士を接続することができるブルートゥース対応スピーカーだ。ドン・キホーテのスポーツ系ファッション・雑貨PBライン「アクティブギア」は、アウトドアで使えるデジタルガジェット(携帯型電子機器)カテゴリーまでカバーしている。なかでも、2014年ころに発売されたブルートゥーススピーカーは、YouTuberが取り上げたことで注目度を高め、その後音楽好きの間でもその音質のよさとコスパが評価され、ジワジワと人気が拡大。シリーズ累計約20万台のヒット商品となっている。価格は1,980円~。全天候型の防水タイプもラインアップ。軽量でカラビナ(フック)付き、カラーバリエーションも豊富だ。

ジェネリック家電などが売上を伸ばし、昨年度のPB売上構成比は11%にまで拡大しているドンキ。「あなどれない」PBに、注目度も高まっている。

価格 1,980円~(税込み)
発売日 2014年~
内容量 1個
製造者
参照サイト Twitter、まとめサイト
関連ハッシュタグ #ドンキ

ファミマベーカリー「チョコミントパンケーキ」(ファミリーマート)

チョコミン党も当惑!?「衝撃的な味」で話題沸騰

菓子やアイス、飲料メーカーがこぞってチョコミント味の商品を発売している2018年。これまでもある程度固い地盤を築いてきた感のあるチョコミント好きの人々も、改めて「チョコミン党」というキャッチーなネーミングでくくられ、スポットを浴びている。

このチョコミントブームのさなか、ファミリーマートが発売したのがチョコミント味のパンケーキだ。以前も、スライム肉まんで青色の着色料を用いた食品を発売したことのあるファミマらしい、ネタ方向に振り切った商品。味に関しては「歯磨き粉」「湿布の味」「途中で何を食べているかわからなくなる」、率直に「マズイ」などネガティブな意見が多いが、逆に買わずにはいられない気持ちを刺激して、ネット上で話題となった。

ファミマは、ほかにもチョコミント味の「メロンパン」「フラッペ」を発売。限定商品と合わせて、チョコミン党をターゲットに攻勢をかける。

パンケーキを開いて見たところ。中央にミントクリーム、その周りにチョコクリーム。
価格 138円(税込み)
発売日 2018年6月5日
内容量 2枚(1枚当り194Kcal)
製造者 敷島製パン
参照サイト Togetter(Twitterまとめ)64245view/2chまとめサイト
関連ハッシュタグ #チョコミント,#チョコミン党,#チョコミン党過激派,#ファミマ

HÓME CÓODY「そのままレンジ保存容器」(イオン)

フタをしたままレンジOK フチなしの洗いやすさも◎

主婦をはじめ、料理をする人にとって欠かせないのが保存容器だ。こだわりによってホーロー製のもの、耐熱ガラス製のものなどを使い分けるケースも多々あるが、割れにくく気軽に使えるプラスチック製も1セットは持っておきたいもの。

この商品は、イオンのPB「トップバリュ」の日用品・生活雑貨ブランドHÓME CÓODYにラインアップされている。もっとも優れている点は、ネーミングもそのものズバリ「フタをしたままレンジが使える」こと。材質問わず、ほとんどの保存容器のフタは、レンジ加熱時は外す必要がある。そのたびにいちいちラップをかけるストレスからフリーになれるのがこの商品。デザインはシンプルで、フタには溝もなく洗いやすい。サイズもいろいろ。Mは4個入りで価格も税込み213円。Instagramなどで画像とともに口コミで拡散され、人気の出ている商品だ。

2018年1月に正方形サイズが登場し、再び注目を集めるきっかけとなった。写真は従来の角形M。
価格 213円(税込み)
発売日 2014年~
内容量 4個
製造者 イオン株式会社
参照サイト Instagram、まとめサイト
関連ハッシュタグ #homecoody,#ホームコーディ,#ホワイトインテリア,#シンプルホーム

ピースピッキング生産性が2倍になったPALTACの次世代型物流システム

労働人口の減少は、日本社会の深刻な課題です。労働力不足を解決するための「省力化・省人化」の挑戦が、さまざまな分野で進んでいます。AIとロボット技術を駆使した省人化によって、物流センターの庫内作業の生産性を2倍に向上したPALTACの最新物流センター「RDC新潟」を視察してきました。

顧客接点は有人で行い、単純作業は省人化を進める

無人レジの導入を進めていたウォルマートが、今年5月に「無人レジシステム(スキャン&ゴー)の導入を中止」という発表をしました。中止の理由は、無人レジシステムの導入でレジ人員を減らしても、生産性の向上には結びつかず、一方で、「顧客満足」の大幅な低下を招いたからです。

顧客との接点である売場を省人化しすぎると、リアル店舗の顧客満足は低下してしまいます。無人店舗で買物をするくらいなら、ネットで買物した方が便利ですし、リアル店舗にわざわざ行く理由がなくなってしまいます。

リアル店舗は、ネット販売では体験できない「接客してくれる」「試せる」「試食できる」「話せる」といった、人を介したリアルな買物体験の質を向上させることが、ネット販売との差別化につながります。顧客接点である買物体験(売場)には人手をかける一方で、物流センター、バックヤード作業、補充・発注作業などの顧客接点以外の作業の「省人化・省力化」はどんどん進むでしょう。

株式会社PALTAC(本社・大阪市、二宮邦夫社長)は2018年8月より、AIとロボットの最新技術を駆使した最新物流センター「RDC新潟」を稼働させます。AI(人工知能)とロボット技術などの最新テクノロジーと物流ノウハウを融合させた独自開発の次世代型物流システム「SPAID(Super Productivity Advanced Innovative Distribution)」を導入する第1号の物流センターです。

人が動かないで商品が動く、最新ピースピッキング

RDC新潟の最大の特徴は、「MUPPS(Multitaskcrane Piece Picking System)」と呼ぶ「ピースピッキング」の仕組みを根底から変革したシステムを導入したことです。

物流の単位は、コストのかからない順番で「パレット物流」「ケース物流」「ピース物流」に分類できます。ピース物流は、わざわざケースをばらして、ピース(1個)単位でピッキングするわけですから、当然、人手とコストがかかります。日本はアメリカほど店舗面積が大きくなく、また、PALTACの物流センターの取扱商品は、低回転の非食品が中心なので、必然的に「ピース物流」が主体になります。

従来のPALTACの「ピース物流」は、「摘み取り方式」と呼ばれる方法で、オリコンを搭載したカートを人間が動かして、在庫商品の場所に移動し、そこでピースピッキング(商品をオリコンに入れる)する方法でした。

今回PALTACが新開発した「MUPPS(マップス)」は、人間は所定の位置から動かず、商品が動くことでピースピッキングを行う方法です。ピースピッキングの作業の大半を占めていた「歩く」「探す」という作業がなくなり、ピースピッキングの生産性は2倍に向上したそうです。

メーカーから納品されたケースの商品を保管トレー(緑色)に詰め替える。保管トレーは、「トレー自動倉庫」に格納される。当然、人は歩かないですべての作業が完了する。
自動倉庫に格納された保管トレーが高速で移動する世界初のマルチタスククレーンシステム。1時間に1万トレー以上の仕分能力を持つ。
保管トレー(緑色)からピックトレー(青色)に詰め替えた後に、手元に搬送されたピックトレーの商品を店別のオリコンに詰める作業でピースピッキングは完了。人は動かない、商品だけが動く。

単品を詰めるピースピッキングも。ロボット化の実現を目指す

もうひとつの新技術が、「目(カメラ)」と「脳(AI)」を搭載した「AIケースピッキングロボット」です。ロボットが段ボールのデザインと形状を記憶するので、従来のピッキングロボットのような同じ動作の繰り返しではなくて、ランダムに置かれた段ボールを自動識別して、同じ種類のケースを選んで出庫します。メーカーから納品された段ボールケースが格納された「パレット自動倉庫」からの出庫作業の完全自動化を実現しました。1時間に600ケースを出庫でき、世界最速のスピードだそうです。

ロボットのピッキング作業を見学しましたが、ものすごいスピードでした。ロボットの良い点は、24時間稼働できること。当然、ピッキングの生産性は飛躍的に向上します。

PALTACは、「AIケースピッキングロボット」の技術を応用して、商品そのものをオリコンに入れる「ピースピッキング作業のロボット化」にも挑戦します。早ければ、2019年冬に開業予定の「RDC杉戸(埼玉県)」で、ピースピッキングのロボット化が実現できるそうです。映画ターミネーターで見た「未来」がもうすぐそこまで来ています。

AIケースピッキングロボット

Amazonは顧客満足だけを追求し独走する21世紀の「宗教」だ

Amazonの2017年12月期決算は前年比30.7%増の1,778億ドル(約19兆5,580億円)、営業利益が同1.9%減の41億ドル(約4,510億円)でした。その成長は止まらず、Amazonによって起こる業界の混乱を指す「アマゾンエフェクト」なる言葉も登場するに至ります。日に日に存在感を強めるAmazonとはいったい何者なのでしょうか。いまさら人には聞けないAmazonのサービスの全体像を解説します。(月刊マーチャンダイジング2018年8月号より転載/文:MD NEXT編集部)

「地球上でもっとも大きな書店」目指し誕生

Amazon.com, Inc. (アマゾン・ドット・コム)は、アメリカ合衆国ワシントン州シアトルに本拠を構えるECサイト、Webサービス会社です。Amazonは1995年にネット書店としてサービスをスタート。「地球上でもっとも大きな書店」というキャッチコピーを掲げ、インターネットの成長とともに、事業規模を拡大し続けました。1997年にはNASDAQに上場。しかし創業から7年間はずっと赤字続きでした。同社は、売上高や利益の最大化ではなく、フリーキャッシュフローの最大化を目的に掲げており、成長事業への投資を惜しまなかったのがその理由です。

あらゆるものをラインアップする小売事業

Amazonはさまざまなビジネスを展開しています。書店をきっかけにスタートしたAmazonですが、いまではEC事業としては、書籍はもちろん、日用雑貨から食品、家電に至るまでありとあらゆるものを販売しています。

Amazonの特徴は、在庫を持つ小売業を運営するだけでなく、「マーケットプレイス」も運営しているということです。これは2000年の秋からスタートした仕組みで、日本では「出品サービス」という名称で提供されています。

Amazonの商品リストの中に、Amazon以外の売り手(出品者)を掲載し、お客はAmazonから購入するか、出品者から購入するかを選択することができます。Amazonの方が値段が高かったなどの理由で、Amazon以外の出品者からお客が商品を購入した場合、Amazonは出品者から手数料を受け取るというものです。販売手数料は商品代金の総額(配送料、包装料を含む)に商品カテゴリーごとの料率を掛けたもので、たとえば食品・飲料は10%です。

出品者側はフルフィルメント byAmazonというサービスを利用し、Amazonの物流拠点に在庫を置くことで、商品の保管から注文処理、配送、返品に関するカスタマーサービスまでをAmazonに代行してもらうこともできます。こちらは1点当り数百円の配送代行手数料と、商品サイズと在庫日数により算出される在庫保管手数料が必要になります。

2017年のアニュアルリポートによれば、ワールドワイドのAmazonにおいて、半分以上の売上が出品者によるものだということです。2017年には、30万以上のアメリカの中小企業がAmazonで販売をスタートしたといいます。

本質は「インターネット上の商品台帳」

このマーケットプレイスという業態からわかるように、Amazonの本質は「すべての商品を網羅したインターネット上の商品台帳」であり、さまざまな売り手が集う「プラットフォーム事業」であるということができるでしょう。商品台帳はオープンになっていて、さまざまな出品者が商品を登録することができます。Amazonの基本機能は、この商品台帳になるべく多くの商品を掲載し、リコメンド機能を使うことで「買い手が想定していなかったような商品」や「買い忘れていた商品」などをお勧めしてさらなる購買につなげるというものです。

このように、自社だけに小売事業を閉じないことで、Amazonはありとあらゆる商品を取り扱いながら、在庫を持つ必要がないという状況をつくり出しました。そして、もし自社が在庫して販売するに値する商品を見つけたら、自社で在庫を持って販売するというスタンスを取っています。

Amazonといえば「ロングテール」(少量が長期間売れ続けること)という言葉で評されることが一時期はやりました。これも、商品全部を在庫しているわけではなくて、さまざまな出品者が集うプラットフォームだからこそ実現できた「売り方」ということができます。

ビジネスの根幹を支えるPrime会費

またAmazonの小売ビジネスのもうひとつの大きなポイントは、会員制のビジネスであるという点です。Amazonの大きな収入の柱のひとつが、Prime会員の会費であるといわれています。Prime会員になると、お急ぎ便の利用が無料になり、後述するAmazon Prime Videoなどのさまざまなデジタルコンテンツも利用することができます。日本での年会費は3,900円(税込み)となっています(2018年6月現在)。

Amazon Prime Videoは無料で見られる映画も多い

ヘビーユーザーにとってはそれほど高い値段ではありません。2017年度のAmazonアニュアルリポートによれば、全世界で1億人がプライム会員として会費を支払っているとのことです。なお、アメリカでは月12.99ドル、年額99ドルとなっており、この会費は徐々に値上がりしています。この会費収益を基盤として、安価な商品価格や、使い勝手のよいユーザーインターフェースの開発などに力を入れているのです。

コンテンツの閲覧方法を次々に革新

Amazonはコンテンツ事業にも力を入れています。その筆頭がAmazon Prime Videoです。Prime Videoは、映画や動画が見放題のサービスで、NetflixやHuluのようなサブスクリプション型の動画配信サービスと競っている状況です。2017年には、3,000以上のビデオの配信権利を確保し、映画製作者やその他の権利保有者にロイヤルティーを1,800万ドル以上も支払いました。

オリジナルのコンテンツ制作にも積極的です。日本では婚活サバイバルドキュメンタリーの「バチェラー・ジャパン」や密室笑わせ合いサバイバルの「ドキュメンタル」などがCMでおなじみでしょう。Amazon Prime Videoを使うと、最新映画も数百円でレンタルできるため、レンタルDVDショップなどにとっては驚異的な競合といえます。

Amazon Prime Videoが映画や動画の閲覧方法を改革したとすると、書籍を読むという体験を大きく変えたのが「Kindle」による電子書籍の購入・閲覧革命です。電子書籍リーダーの「Kindle」を使えば、書店に赴かなくても本を購入できますし、かさばる書籍の保管場所も必要ありません。もちろんPCやタブレット、スマートフォンでもKindleの書籍は閲覧することができます。

購入体験のイノベーション

Amazonの特徴のひとつが、コンテンツや商品をお客に届けるために最適なデバイスを開発し安価に提供しながら、目的の商品・コンテンツの販売を拡大していくという点です。Kindleは電子書籍リーダーですが、家庭でテレビにつないで、テレビの大画面でPrime Videoをはじめとするコンテンツを見ることができる「FireTV」は4,980円(Fire TV Stick)、同じくAmazonが販売している7インチディスプレータブレット「Fire 7 8GB」は執筆時では5,980円と他のデバイスも非常に安価に提供されています。

そういう意味では、昨年日本で発売されたスマートスピーカーの「Amazon Echo」も、最終的にはAmazonでの商品やコンテンツ購入を増やすためのツールということができるでしょう。Echoは、音声で操作できるスマートスピーカーです。「アレクサ、〇〇をして」と話し掛けるだけで、音楽の再生、天気やニュースの読み上げ、アラームのセットなど、さまざまな機能を利用することができます。

スマートスピーカーのAmazon Echoは居間にいても 買物ができる体験を提供する

このEchoと、Amazonのアカウントを紐付ければ、「アレクサ、おむつを注文して」などと呼び掛けるだけで、Amazonでいつも購入しているおむつの注文をすることができます。もはや買物をする場所は店ではなく居間なのです。購入体験のイノベーションということができるでしょう。

2016年に日本でもサービスを開始したAmazon Dash Buttonも同じく購入体験のイノベーションということができます。Amazon DashButtonは、ワンプッシュでお気に入りの商品を簡単に注文できるボタンです。2018年6月時点で150種類以上が販売されています。ボタンを押すだけで、登録されたスマートフォンに接続し、自動的にAmazonに商品が注文されます。

お客にとっては飲料や日用雑貨などのボタンを用意しておけば、家庭の在庫が切れたときにボタンひとつで補充することができ非常に便利です。また、このボタンを家庭に設置できたメーカーにとっても、ブランドスイッチを阻止し、リピート購入が期待できるというメリットがあります。

ほかにも、注文から最短4時間で生鮮食品を配送するAmazon Fresh、注文から最短1時間以内に商品を配送するAmazon Prime Nowなどのサービスが日本国内で展開されています。海外ではセルフサービスで宅配便を受け取ることができるAmazonlockerや、オンラインで注文した商品を店舗でピックアップする拠点のAmazonFresh Pickupなども展開されていて、ありとあらゆる方法での購買体験を実験、実践しているということがわかるでしょう。

AmazonFresh Pickup
Amazon Locker

急成長する企業を支えるAWS

AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)はAmazonが提供しているクラウドコンピューティングサービスです。簡単に説明すると、会社の業務で使うコンピュータやシステムを、インターネット上で必要なときに必要な量だけ使用することができるサービスといえます。

これまでは業務に必要なシステムをつくる際には、サーバと呼ばれるコンピュータを購入し、それを置く専用の場所やそこに接続するためのネットワークなどを、導入企業がいちいち用意しなければなりませんでした。物理的なコンピュータには業務の処理量に限界があります。

たとえばECサイトで取り扱っている商品が急にテレビに取り上げられて注文が殺到した場合など、処理量の限界を超えてしまい、ECサイトが稼働を停止してしまうようなことも多々ありました。クラウドのよいところは、必要に応じて自由にリソースを増やすことができるので、急にアクセス数が増えたときは、自動で規模を大きくすることができます(これをスケーラビリティといいます)。

AWSは、Amazonが急成長するときに、コンピュータのリソースを迅速に用意するために構築された仕組みです。この「自社の痛みを解消するため」につくったサービスを、周辺の開発企業に提供したところ非常に好評だったため、2006年に社外向けに事業化されたという経緯があります。このAWSという基盤を利用したことで、民泊大手のAirbnbや、Dropboxなどの企業は急成長を遂げることができました。

資本力に関係なく、最新のITの仕組みを使うことができるのも、AWSの大きな特徴です。売上高数兆円の企業と同じ仕組みを、中小企業でも安価に利用することができるというのは、システムを開発する側にとっても革新的なものでした。(※https://logmi.jp/33928

Amazon GOのプラットフォームが普及する?

2018年1月にリリースされたAmazonGOは小売関係者以外にも大きな話題となりました。飲料や食品が販売されている店内には数百台ものカメラが設置されていて、お客の購買行動を確認しています。入口のゲートでスマートフォンアプリのバーコードをスキャンすることでカメラに映った映像と個人のAmazonアカウントを紐付け、商品を持って店舗の外に出るとAmazonのアカウントから自動で決済がされるという流れです。

技術の粋を極めたこの店舗に、衝撃を受けた方も少なくはないでしょう。2017年にはアメリカのスーパーマーケットチェーン、WholeFoods Marketを137億ドルで買収し、リアル店舗への進出を進めているAmazon。EC企業である同社は、なぜここまでリアル店舗に近づいてきているのでしょうか。

ひとつ予測できるのは、Amazonがリテールテクノロジーのプラットフォームをつくろうとしている点です。Amazonマーケットプレイスのように、Amazon GOで使われている技術を小売企業やメーカーに提供し、手数料等を得るという業態が予想できます。つまりAmazon GOの技術を使ったドラッグストアやコンビニエンスストアが続々店舗数を増やすという未来です。

Amazon GOは決済体験を革新する

そのときに注意したいのが、もしAmazon GOのプラットフォームがマーケットプレイスと同じ構造で提供されるのであれば、それを利用して得られた顧客の購買情報はAmazonが独占し、そのプラットフォームを利用する小売業やメーカーにはほとんど与えられない可能性が高いということです。

さらに、もしその企業が展開するビジネスが有望とおもわれれば、Amazonが独自にその業態の運営に乗り出すことも考えられます。トイザらスは2017年9月、米連邦破産法11条の適用を申請して破綻しました。その原因のひとつが2000年のAmazonとの提携であるともいわれています。

この破綻に関しては以下のような報道がなされています。

………………引用………………

(略)世間がドットコムバブルに沸いた2000年、アマゾンとトイザらスは10年契約を結んだ。これはアマゾン上でトイザらスが唯一の玩具の販売業者となる契約で、トイザらスの公式サイトをクリックするとアマゾン内のトイザらス専用ページに飛ぶ仕掛けになっていた。

この取り組みは当初、アマゾンとトイザらスの両社にメリットをもたらすと見られていた。しかし、アマゾンはその後、トイザらスが十分な商品を確保できていないことを理由に、他の玩具業者らをサイトに招き入れ始めた。

トイザらスは2004年にアマゾンを提訴し、10年契約を終了させた。そして2006年に自社サイトを立ち上げた。しかし、その後のトイザらスの動きは遅すぎた。(略)
https://forbesjapan.com/articles/detail/17781

………………………………………

また、今後は国内外でもAmazonGO方式の決済を提供するサービス事業者など登場することが予想されます。Amazonのプラットフォームにのるのか、他社の提供するそれを利用するのか、あるいは自社で開発するのか、はたまた利用しないのか…、小売事業者は今後難しい判断を求められるでしょう。

Amazonの恐ろしい点はAWSで稼いだ利益を使って、小売事業の利便性の高さや、原価割れするほどの安価な価格を実現している点です。彼らは顧客の購買データを持つことがなによりもメリットであると考えているのです。

巨大化するビジネスに付きまとう闇の側面

小売業にイノベーションを次々と起こすAmazon。しかし一方で、巨大化する同社のビジネスには闇も付きまといます。なりふり構わず顧客のことだけを見て、競合を駆逐し、その後一気に値上げをする…共存共栄なのか、独占/寡占への道なのか、独自の道をAmazonはひた走ります。

Amazonに関わる人たちの労働環境も問題視されています。とくにAmazonのビジネスを支える配送業界は、Amazonのおかげで革新が進む一方で、疲弊もしていて、日本では2013年に佐川急便が完全撤退をしたり、2017年にはヤマトが当日配送サービスから撤退しています。

1995年、Amazonのスタート時に掲げられたミッション・ステートメントは、“ to be Earth,s most customer centriccompany, where customers canfind and discover anything theymight want to buy online, andendeavors to offer its customersthe lowest possible prices.”
だったそうです。(※https://www.amazon.jobs/en/working/workingamazon

「地球上でもっとも顧客中心の会社になること。お客さまがオンラインで買いたいとおもったものをなんでも見つけることができる場所になること。可能な限り商品を安価な値段で販売すること」

…なりふり構わずその理想を実現するために邁進するAmazon。もしかするとAmazonは、この3つのミッションステートメント、すなわちドグマ(教義)を実現するため「だけ」に存在している、21世紀の「宗教」なのかもしれません。

SNSでバズってヒットしたマツキヨのPB「エナジードリンク」

現在、すべての小売業の最大の経営テーマは、いかにアマゾンと差別化できるかです。そして最大のアマゾン対策は、アマゾンでは取り扱いのないPB(プライベートブランド)を強化することです。とはいっても、デザインはNB(ナショナルブランド)のパクリで、価格は半値といった従来の「パチモノPB」ではなくて、その小売業の世界観を明確にした本当のブランディングを行わなければなりません。今週は、PBのリブランディングが成功した「マツモトキヨシ」の事例を紹介します。

これからのPB開発は定期的なリブランディングが不可欠

従来の商慣行を破壊するモンスターであるアマゾンに対抗するためには、わざわざ時間とコストをかけてリアル店舗に行く理由を明確にしなければなりません。そのためには、店舗をブランディングする必要があります。

ドラッグストアであれば、看板を外せばどの店だか分からない無個性の「業態」ではなくて、その小売業独特の世界観をもった個性的な「個態」を創造していかなければなりません。また、アマゾンでは取り扱いのないPB(プライベートブランド)を強化することも、店舗のブランディングには不可欠です。そのPBがあるから、その店にわざわざ行くというくらいのブランド力のあるPBを創造していくことが大切です。

そのためには、「つくりっぱなしのPB」ではなくて、2年くらいの期間で常にPBの品質やデザインを見直し、リブランディングをしていく必要があります。

チェーンストアの最大のブランドである店舗は、古い既存店を計画的に改装し、店舗の平均年齢を5年程度に若く保つことがセオリーです。それと同様に、PBも定期的なリブランディングをする必要があります。「店舗」も「PB」も磨き続けなければ陳腐化し、競争力を失ってしまいます。

マツモトキヨシは、2015年末にPBのリブランディングを決断しました。ブランド名を「MKカスタマー」から「matsukiyo」に変更したのです。これまでのPBは、『競合との差別化』『利益拡大』『お買い得価格での提供』『来店客数増加』といった役割を果たしてきました。しかし、これからは、それらに加えて『ユーザーニーズに応える』『コーポレートブランドのイメージ向上』『企業理念の具現化』といった、企業戦略の実現、つまり「ブランディング」の側面がますます重要になってくると考えたからだそうです。マツキヨのPB商品数は2,000点を超え、売上構成比の10.1%をPBが占めています(2018年6月時点)。

「マツキヨスラッシュ」がPB全体の統一感をつくる

それらのマツキヨのPBの中で最近大ヒットした商品が「エナジードリンク」です。カフェインが従来品の1.5倍入っており、インパクトは抜群。しかもレッドブル289円に対して、PBは150円とお手頃価格です。

マツキヨは、PBのエナジードリンクの販促のためにSNSを効果的に活用しました。ブランドコンセプトのひとつである「面白さ・楽しさのあるアイデア」に基づいて、オレンジ色の缶に緑色の液体という組合せに驚かされます。メロンソーダのような色なので甘いのかとおもって飲むと、意外とスッキリした味わいでまた驚かされ、ガス圧の強いシュワシュワ感に驚かされ、成分の含有量(コスパ)にも驚かされる…という意外性がSNSで拡散されて大ヒットしました。

マツキヨによると、早稲田大学エナジードリンク研究会が、SNSで「これは魔剤だ。すごい」という表現を使い始め、そこからバズって売上が10倍に急増したといいます。メガブランドが育ちにくく、「スモールマス」のブランドが乱立する時代は、テレビよりもコストパフォーマンスの高いSNSの活用で、ブランド認知度を上げることが大切なようです。

また、PBのブランド名「matsukiyo」の「y」の角度(19度)を「マツキヨスラッシュ」と呼び、すべてのPBのパッケージにデザインされており、さりげないアクセントですが、PB全体に統一感があるのも面白いですね。

エナジードリンクとデザインはまったく異なるが、「マツキヨスラッシュ」がPB全体の統一感をつくっている。

月刊マーチャンダイジング2018年8月号やMD NEXTでは、より詳しい内容の記事を掲載の予定です。

シンクロ率120%!?「ドン・キホーテのテーマ」と売場の深い関係

元ドン・キホーテ社員で、現在はコンサルタントとアーティストの両輪を回しながら活動する田中マイミさん。作詞・作曲・歌唱を担当した田中さんの驚くべきプロフィールと、ストアソング制作時のエピソードを聞きました。売場は、エンタメだ! ※2018年7月に掲載された記事を、一部加筆修正して再掲載(2019年3月)。

事業や部門の成長過程を「時系列」で分析する

前回はTableauでデータを表現する方法を、基礎用語の説明を交えながら説明しました。Tableauでは、簡単なマウス操作で大量のデータの分類・集計と視覚化を行うことができ、またグラフの色や形など、表現を多様に切り替えることが可能なことを説明しました。この第三回からは、Tableauの機能を活かした、更に詳細な分析を取り上げます。

1.時系列分析で分かること

分析手法として、今回は「時系列分析」に取り組んでみましょう。状況を分析する際に、事業や部門がどのように成長してきたか、あるいは製品のライフサイクルがどのステージにあるのか等を「時間」の視点から見ることは非常に重要です。

分析の基本は大きな視点で物事を俯瞰し、特徴的なデータを掘り下げて傾向や要因、因果関係を発見することです。時系列分析では過去のデータとの類似度などから、いわゆる季節性やトレンドを見ることができます。また、季節性が顕著で他の要因が少ない場合は将来の予測もTableauの機能を使うことで、容易に行うことが出来ます。

2.売上の推移を見てみる

まずサンプルデータの売上推移を見てみましょう。ここでは、時間を表すデータの操作方法を解説しながら、前年比を表示することに取り組みます。

2.1.シートを追加する

第二回で作成したデータがあるときは、それを残したまま新しくシートを追加します。シートを追加するボタンは画面下部にあります。

<図2-1>

赤枠のアイコンを押してシートを追加

2.2.年から四半期、月へと掘り下げる

新しいシートが用意できたら、時間を表すデータを使って、売上の推移を可視化してみます。Tableauでは時間を表すデータを「日付型のデータ※1」と呼び、基本的に画面左端のディメンションにあります。日付型のデータは名前の左にカレンダーのアイコンが付いています。

※1 正確には年月日を表す「日付型」と、年月日+時分秒まで持つ「日付時刻型」があります。

<図2-2>

それでは、「オーダー日」を列に、メジャーの「売上」を行にドラッグ&ドロップしてみましょう。オーダー日は自動的に年になり、売上は合計で表示されます。ここで列の「年(オーダー日)」をよく見ると、先頭に四角で囲われたプラス記号があることが分かります。

<図2-3>

Tableauは日付型のデータの単位をワンクリックで変更することができます。「年(オーダー日)」のプラス記号をクリックすると、四半期に掘り下げる(ドリルダウンする)ことができます。さらに四半期のプラス記号をクリックすると月に、またさらに月から日へと簡単に細かくできます。※2

ここでは月までドリルダウンし、年と月の間にある四半期は削除しておきましょう。

※2 プラス記号を押すとマイナス記号に変わります。このマイナス記号を押すと、より大きな単位に集約(ドリルアップ)します。

<図2-4>

こうして見ると、毎年7月に大きく落ち込んでいることが分かります。

2.3.前年の数字と比較する

上図2-4.のようになったら、月ごとに前年の数字と比較してみましょう。日付型のデータは簡単に前年比を出すことができます。行にある「合計(売上)」を右クリックして、簡易表計算の中にある「前年比成長率」をクリックするだけです。

<図2-5>

<図2-6>

前年比成長率をクリックした直後

このように、一瞬で成長率のグラフに変化しました。図2-4.では売上の金額が7月に落ち込んでいることが分かりましたが、成長率にしてみると7月は少しずつ成長してきていることも発見できました。

前年比のほか、累計や移動平均なども同じ手順で行うことができます。

2.4.会計年度の開始月をカスタマイズする

現在のグラフは1月から12月までで一区切りになっていますが、会計年度で一年を区切りたいケースもあります。そのような場合に合わせ、Tableauでは会計年度の開始月を変更することができます。

ディメンションにある「オーダー日」を右クリックし、既定のプロパティから「会計年度の開始」を探して、その中の4月をクリックします。

<図2-7>

<図2-8>

会計年度の開始を4月にセットした直後

このように1年が4月スタートになり、年の表記が年度に変わりました。※3

※3 2016年度の7月から12月にグラフがないのは、前年比成長率の計算元となる前年(2015年)のデータがないためです。

2.5.カテゴリごとに分解する

ここまではサンプルデータに存在する全てのデータを見てきましたが、より詳細に状況を把握するため、カテゴリ別に見てみましょう。

「年度ごとの成長率の折れ線グラフ」という形を保ったまま、その中身を細分化するには「マーク」を利用します。

<図2-9>

ここでディメンションから「カテゴリ」をマークの「色」にドラッグ&ドロップします。そうするグラフがカテゴリ別に3色に分けて表示されます。

<図2-10>

画面右上に現れた凡例をクリックすると、任意のカテゴリをハイライト表示することができます。

<図2-11>

2.6.連続値と不連続値

別の表現として、次は年や年度ごとに区切らず、1本の線につなげて表現してみましょう。新しいシートを作成し、列にオーダー日の年と月を、行に売上を配置します。図2-4.を作ったときと同じ操作ですが、会計年度の開始月を4月に設定してあるので、最初から4月スタートの年度で表示されます。

<図2-12>

Tableauでは日付や数値を連続的に表すか、区切って不連続とするかを選ぶことができます。画面右上の「表示形式」から「線グラフ(連続)」のアイコンをクリックします。そうすると1本の折れ線グラフで表示されるようになります。

<図2-13>

図中左列の上から5番目が「線グラフ(連続)」

<図2-14>

列を見てみると、「オーダー日の月」が青色から緑色に変化しています。Tableauでは青色が不連続、緑色が連続を表します。連続値になっていると特定の日付にラインを引いたり予測機能を使ったりすることができるようになります。

試しに予測機能を使ってみましょう。グラフが描かれているエリアの何もないところを右クリックし、予測の中から「予測の表示」をクリックします。

<図2-15>

<図2-16>

予測の表示をクリックした直後

薄い色で将来の予測を表すグラフが追加されました。季節性が強く、トレンドが安定しているものであれば参考になるでしょう。※4

※4 予測は指数平滑法モデルを採用しています。右クリックメニューの「予測の説明」や「予測のオプション」からモデルの内容を確認して手を加えることができます。

3.まとめ

今回は「時系列データ」の操作説明を交えながら、前年比を簡単に表示したり、さらにそれをカテゴリ別に分解したりする方法を解説しました。ビジネスの現場では過去の状況を見て次の計画(プラン)の重要度や方向性を決めることが多いと思います。あるいは行動(アクション)に対する結果をチェックするときに、前年に比べて何パーセント向上したかがひとつの指標になることもあります。Tableauのような分析ツールを使うと、こうしたPDCAの基礎となる情報を簡単に、且つインタラクティブに扱うことができます。

次回は小売店舗の立地という地理的な情報を扱い、データを地図上に表示する方法をご紹介します。

地域のライフラインとして災害から迅速復旧するための5つのポイント

今週は、2017年3月号の月刊MDで掲載した、熊本地震から迅速復旧した「コスモス薬品」に学ぶ「迅速復旧への5ポイント」の記事の一部を再掲載したいと思います。

写真は、2011年3月11日の東日本大震災からの迅速復旧作業を行っているツルハドラッグの復旧現場。

この度の「西日本豪雨災害」により、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆様にお悔やみを申し上げます。また、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。1日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

日本という国は「自然災害」を避けて通ることができません。2011年3月の「東日本大震災」、2014年8月の「豪雨による広島の土砂災害」、2015年9月の「関東・東北の豪雨災害」、2016年4月の「熊本地震」、そして今年6月の「西日本豪雨災害」と、自然災害は定期的に日本人の暮らしを直撃しています。

チェーンストアは、地域の暮らしを守る「ライフライン」として、災害発生後から店舗や物流を迅速復旧することで、被災者に生活物資を届け、被災者の普段の暮らしを届けることに貢献することが最大の使命です。その機能こそが、地域に密着したチェーンストアの最大の「役割」と「価値」であると思います。自然災害時に「ネット販売」はほとんど役に立ちません。地域とともに生きるリアル店舗だからこそできる社会貢献だと思います。

そこで今週は、2017年3月号の月刊MDで掲載した、熊本地震から迅速復旧した「コスモス薬品」に学ぶ「迅速復旧への5ポイント」の記事の一部を再掲載したいと思います。

15分で対策本部立ち上げ 翌朝には被災地に水送る指示

余震の混乱が続くなか、他店と比べ営業再開までの期間も短く、商品供給力も高かったといわれるコスモス薬品。災害時に各所からの情報処理・情報発信の基地となり、組織の課題と指示を導き出す頭脳ともなる災害対策本部の立ち上げもいち早かった。

前もって、立ち上げる際の明確な基準は定められていないが、熊本地震では発災から15分後に、災害対策本部長である店舗運営部長(現取締役)が本社に到着。地震発生30分後に始まった断水に対して、翌朝には現地に水を届けられるよう、その日の夜のうちに集荷の迅速な指示が出されている。

まず、コスモス薬品がスピード感のある復旧を遂げたポイントのひとつめに、緊急時に組織を動かす指示基盤となる[ポイント①]災害対策本部の立ち上げが早かったことが挙げられる。

「現場は混乱していて、何が欲しいといっている余裕がありません。間違いなく必要なものは、ある程度本部側からプッシュ型で送り込む必要があります。非常時、1店分に必要な物量はどのくらいで、何店分なのか。店を作るのと直すのは、実際はほとんど変わりません。結局、新店をつくるときは、1店分の商品をまとめてボンと送りますから。我々は年間100店近い出店をしており、対応の素地はできているかと思います」(コスモス薬品のコメント。以下同様)

新店・改装、店づくりに長けた100名体制の応援部隊

2つ目のポイントとしては[ポイント②]新店づくりに長けた専門部隊が迅速に対応に当たったことが挙げられる。

同社は新店・改装を本業とする専門部隊を複数チーム擁する。先述したとおり、新店づくりと災害時の復旧作業の基本は同じだ。社外との調整もある新店のスケジュールは変えにくいが、社内のスケジュール調整で対応できる改装であれば、彼らは予定されていた作業をキャンセルして災害復旧に当たる。

また、年間100店をオープンするコスモス薬品には、約70人のエリア長が在籍する。エリア長で新店開業を経験していないエリア長は1人もいない。彼らは1年間で5店、最低でも1店は新店づくりに携わるため、年中行事として経験している。新店を開業する際は、メーカーの応援が入ることもしばしばあり、自社の応援と共に他社の応援部隊も使いながら店をつくっていく。この点も復旧作業との共通項だ。

「あるとき、メーカーの方に『同じように被害に遭った企業に応援にいっても、現場の司令塔がおらず多くの人間が指示待ちをしている。コスモスの応援は大変だが、的確な指示が飛び早く終わる。遊んでいる暇はないが、集中して作業できるので達成感がある』といわれました。新規出店がない会社というのは、企業規模が大きくても変化がありません。災害時には弱いし、組織が停滞していく。そういう意味でも新店を出し続けることには意味があります

水害で鍛えられた復旧作業 20年かけて2日で開店

コスモス薬品の災害対応力を、より鍛え上げている要因がもうひとつある。[ポイント③]水害経験の多さだ。九州は、台風を始め、川の氾濫、最近ではゲリラ豪雨など、水害に見舞われることが多い。4、5年前には堤防が決壊し、人間の背丈くらいの水が入って来て、店舗が水没した事例もあるという。

「水害には慣れていますから、立ち上げは早いですね。建物の被害がなければ、地震の復旧に関しては、汚れていない分、水害よりは楽ともいえる。エリア長ともなると、店長時代に何度か災害を経験している人材がほとんどなので、明確な指示を出すことができます。今年も何店か浸かって、だいたい1日で復旧させていますが普通は無理でしょう。わが社も、15年、20年前は、棚に商品を入れて並べるまでに1カ月はかかっていました」

水害は、浸水後の処理が厄介だ。水に濡れた商品の処分。店内に流されてきた、腐った匂いのするヘドロ状のものやゴミの清掃。それらを片付け、店内を消毒し、新しい商品を入れ直してPOPをつけるまでが復旧作業となる。通常では数週間から1カ月ほどかかる作業だが、コスモス薬品では総力を結集し、水が引いた後に丸1日、2日あれば開店まで持っていけるまでになったという。

今回の熊本地震では、同社被災店舗の大部分がわずか数日で復旧。作業が長引いた店舗も最終的に1カ月程度で復旧している。

熊本地震直後のコスモス薬品の店内。

第一に通常営業の再開を 営業可能な店舗に物資

現場の作業に加え、震災後の売場に商品を満たすスピードも早かった。震災後からまだ間もない時期は物流も滞るため、商品もなかなか入ってこない。早い段階で店を開けても、実質的に売るものがない状態に陥る店舗も多い。

コスモス薬品は他企業に先んじて、そのとき立ち上げられる店を絞り、閉じている店舗からも商品をかき集めた。今回、閉鎖店舗の駐車場で商品を販売する「青空店舗」のような形をとっていないのも、万全な態勢でより多くのお客に商品が行き渡るように、通常営業の早期再開を第一に優先させた結果だ。

[ポイント④]旗艦店としてひとつの店舗に物資を集中したことも、営業再開までの迅速さと物量における他社との差となったといえる。

「この判断が正しいかどうかはわかりません。ただ、今回たくさんのお客さまにご利用いただけたという実績はありますし、他社より物はあったと思います。営業できない店舗から、売れ筋だけを集めて供給しました。さきほどお話した、新店専門の立ち上げ部隊のトラックや、従業員の車も使用しましたね

建物に被害が出た場合はケースバイケースだが、隣の店の看板が見えるほど密なドミナントを築いていることから、開けられる店に全力投球するという方向が考えられるという。

非常時でも売り切る力 メーカーも優先的に協力

また、物資を集められた理由として、自社で賄った商品のほかに、メーカーの協力が得られたことも大きいだろう。幾多の企業が被災するなか、メーカー側も全社平等に商品を供給することは難しい。そのとき、なぜコスモス薬品だったのか。

「日頃から良好な関係を築いていること、信頼関係によるところも大きいと思います。ですが、結局は、非常時とはいえ、商品がどれだけさばき切れるか。それに尽きるのではないでしょうか。送り込んだはいいが、末端が機能していなければフンづまりになってしまいます。
[ポイント⑤]非常時でもある程度商品が末端まで流せる仕組みと力があれば、メーカー側も安心して流してくれるのでしょう」

震災直後の初期は、置けば何でも売れていくが、刻一刻と状況が変わるにつれ、お客のニーズも変化していく。特に、行政から無料で配られる菓子パンは、あっという間に余るようになったという。そのような環境でも、やはりオムツ、ウェットティッシュ、トイレットペーパーなどの紙製品、カップ麺、袋から出してすぐに食べられるような栄養食品、ゼリー系飲料など日持ちのする簡易的な食品。そして紙コップ、紙皿、ラップ類は飛ぶように売れたという。[以上、月刊MD2017年3月号より転載]

これ以外にも、熊本地震発生4日目あたりに、2日程度、疲弊していた現地の従業員をあえて休ませたそうです。コスモス薬品の店舗は標準化ができているため、開けた店に隣県から店長中心に応援スタッフを送り込んで対応したそうです。

また、熊本地震ではコスモス薬品の従業員約2,000人が被災しました。罹災証明の出た従業員には雇用形態を問わず、それが1日4時間労働のパートタイマーであっても会社として御見舞金を出しており、その総額は5,000万円に上ったそうです。

東日本大震災の際にも、ツルハドラッグでは、見舞金を銀行振り込みではなくて、被災地のスタッフに直接手渡す方法を取ったことで、現場の士気が大いに高まったそうです。自然災害のときには、地域の生活者の暮らしを守るだけでなくて、ES(従業員満足)を高めることも、迅速復旧のための原理原則だと思います。

不動在庫マッチングで調剤薬局の収益性向上目指す「ファーマクラウド」

薬局経営の傍ら、煩雑な作業の多い調剤薬局の業務をサポートする現場起点のソリューションを開発しているファーマクラウド。自身も薬剤師であり、ITエンジニアとしての顔も持つ山口洋介代表に、サービス開発の経緯を伺った。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子/構成:イシヤママキ)

薬局を経営したからこそ気づいた問題点

全国に約5万6,000店舗あるとされる調剤薬局。医療機関が発行する処方せんに基づき調剤を行い、患者に服薬の指導を行うことでQOL(quality of life、生活の質)を向上させることを目的とする小売業態である。

調剤薬局は主に病院の近隣に形成される「門前型」、ドラッグストア内に設置する「併設型」の2つに分けられるが、他の小売業態と大きく異なるのは、10店舗以下の小規模チェーンが圧倒的に多い点にある。

例えばコンビニエンスストアの場合、セブン‐イレブン・ジャパン、ユニー・ファミリーマート、ローソンの大手3社で売上シェアの約9割を占めるが、調剤薬局の場合、アインファーマシーズ、日本調剤、クラフト、クオールなど、調剤専業チェーン大手10社を合わせてもシェア15%にも満たない。全体の約7割が家族など1~2名で経営する個人商店で形成された低寡占マーケットである。

2006年の薬学部教育6年制導入やドラッグストアの店舗数増加、女性薬剤師の出産・育児による休業などの影響から薬剤師は常に売り手市場であり、調剤薬局の薬剤師不足は長年の課題だ。煩雑な調剤薬局内での作業効率化は、人手不足に悩む同業態にとって最も求められている要素である。

ファーマクラウドはITを活用し薬局内の作業効率向上に役立つサービスを開発・提供している創業1年半の新興企業である。

代表を務める山口洋介氏は九州大学薬学部を卒業後、製薬メーカーに勤務。元々独立志向が強く、7年間勤務した後、薬剤師として働きながら筑波大学主催の公開講座「サービスカイゼン研修コース」に参加し、起業に関するアイデアを練っていた。

「トヨタのカンバン方式のような製造業での業務効率化を、サービス業にも導入できることを実践的に学ぶコースだった。ここで学んだサービスサイエンスの概念を、自身が身を置く調剤薬局業界にも生かしたいと思ったのがサービス開発の原点」と山口氏は語る。

2012年に満足度調査を行う企業『ファーサス』を設立。薬局特化型SaaS『PHARSAS』を開設し、2014年に『空飛ぶ処方せん』というサービスをスタートさせている。これはかかりつけ薬局のための処方せん送受信システムであり、スマートフォンのカメラで撮影した処方せん画像を薬局に送ることで、患者の待ち時間短縮と薬剤師のストレス軽減を実現するためのものだ。

山口氏は2016年、『ファーサス』社内で自分の薬局『御茶ノ水ファーマシー』をスタート。自ら薬局を経営することで、現場ならではの問題点を発見したという。

山口氏は「薬局は在庫管理について常に問題を抱えている。薬局勤めだった頃、経営者から『在庫を過剰に持つな』と言われてきた。通常、薬局は医療用医薬品を薬卸から9掛けで仕入れているが、元々の価格が高いこともあり、棚卸の際、期限切れによって数十万円分の薬を廃棄することもある。チェーン展開している薬局やドラッグストア企業であれば微々たる金額でも、個人経営の薬局にとっては大きな痛手だ。とはいえ調剤薬局は病院や患者とのやりとりの中で、品揃えを決める部分がある。通常の小売業のように、単にアイテム数を絞り込めばいいというものではないため、ある程度の在庫を抱えることが避けられない点があるのも事実。実際に自分で薬局を運営する立場になり、在庫コントロールの難しさを自身の問題として改めて感じるようになった」と当時を振り返る。

不動在庫をマッチング。薬局同士で売買

不動在庫を作らないためには日頃から在庫状況を把握し、周辺の薬局と情報を共有して、余っている時は他店と協力し消化する必要がある。しかし現状、多くの薬局ではこれを手作業で行っているため現場のカン頼みな部分があり、決して正確さを期するものではない。

そこで山口氏がこの問題を解決するため企画したのが、不動在庫のシェアリングエコノミー『Med Share(メドシェア)』(2017年1月リリース)だ。

山口氏は起業以前の2014年ごろから、現在シェアリングサービスのトップをひた走る『メルカリ』を興味深くウォッチしていたという。

「なぜ多くの生活者が『ヤフオク』ではなく『メルカリ』を利用するのかを考えた時、需要と供給を超効率的にマッチングしているCtoCのサービスと気づいた。このイノベーションを薬局業界にも取り入れたいと試行錯誤して開発したのが『Med Share』。薬局はインフラ的な側面もあるため、地域包括ケアシステムが求める広範囲からの処方せんにも使命感を持って対応しているが、幅広い在庫を抱えることによるデッドストックのリスクは、個人商店の経営者にとって厳しい面もある。そのため安心して処方せんを受け入れられるよう、過剰在庫があれば買い取ってもらえるような仕組み作りが必要だと感じ、このシステムを作った」(山口氏)

薬局の不動在庫を売るサービスを提供する競合は何社か存在するが、どちらかというと消費期限が近い商品の投げ売りが主であり、自店舗の在庫回転率に合った商品は探しにくい。それと比較し『Med Share』はマッチング精度が高く、最終調剤日からの推計処方人数や自店での回転数に加えて、値引き率や利益につながる薬価差も表示されるため、より購入がしやすくなっている。

不動在庫が検出されるので、在庫を確認して出品するだけ
マッチング精度が高いのですぐに売れる

山口氏は薬剤師とエンジニアという二つの顔を持っている。現在、『Med Share』利用店数は約170店舗。個店経営、大きくても20店舗程度の小規模チェーンが中心だ。利用は無料だが将来的には後述する『ファーマシストオンライン』を利用手数料によるマネタイズを検討している。

スマートスピーカーを活用した薬剤師の作業時間短縮

ファーマクラウドの最新サービスがスマートスピーカー「Google Home」による薬剤師アシスタントAI『ファーマシストオンライン』だ。

『Med Share』でデッドストックの発見と処分は可能になったが、そもそもデッドストックを出さないことが重要である。そこで薬剤師は、日々の調剤業務の中で過剰と思われる薬を発見したときに、在庫管理システムなどで直近の使用状況を調べて在庫を調整している

『ファーマシストオンライン』では、薬剤師からの口頭の質問にスマートスピーカーが回答する。ある処方薬が、何人分、何錠処方されているのか、あるいはある薬がどの棚にあるか?といった初歩的な質問から、処方薬の過去の動き、今後、その薬がどれくらい処方されそうかといった予測、同グループ内での他店舗への在庫問い合わせ、不動在庫のリストアップ・FAXによるプリントアウトなど、使用シーンも幅広い。

薬局のアイテム数は小さいところでも約600、大学病院や大型総合病院などの門前薬局では1,000を超えるため、経験則によるカンに頼るのにも限界がある。

『ファーマシストオンライン』を活用することで、従来の在庫管理ソフトと比べて作業時間を5分の1に削減。これまで、パソコンに拘束されていた視線と両手が音声での問い合わせになることで自由になるため、薬を扱いながら在庫管理ができ作業効率の改善に役立っている。

薬剤師かつ薬局経営者ならではの視点が生かされた同社のプロダクツ。ファーマクラウドでは2年以内に『Med Share』導入数を全国約5,000店舗まで拡大し、『ファーマシストオンライン』と共に、同社のメインコンテンツとして販売網を広げていきたいとしている。