[PR]拡大する電動鼻吸い器市場。実店舗・ECの購入単価向上に貢献 

2018年8月20日に、ピジョン 電動鼻吸い器が新たに発売される。電動鼻吸い器は、働きながら育児も行う忙しい子育て世代から熱い視線が注がれている。市場規模は年々拡大しており、ECサイトを中心に売れている。今後ドラッグストア(DgS)で扱えば、ますます市場拡大が見込まれる。風邪が増えて需要が高まる秋冬に向けて電動鼻吸い器を売り出そう。

さらなる成長が見込まれる電動鼻吸い器

耳鼻科に行く負担が減る!忙しい母親の必須アイテム

ベビーの鼻水を取り除く「鼻吸い器」市場は、拡大傾向にある(図表1)。理由のひとつは、働く母親の増加だ。鼻水を取らなければならない理由は以下のとおり。耳鼻科に行って鼻水を吸ってもらうことも多いが、働く母親が何度も通院することは非常に大変なうえに、親子ともに別の病気に感染してしまうリスクまである。さらに一度取ってもすぐにつまってしまうことも多いため、鼻吸い器の購入を検討するようになる。

とくに生後7ヵ月以降のベビーは母親からもらう免疫が弱まり風邪をひきやすくなるといわれており、鼻吸い器はますます重要となる。

マニュアルから電動にスイッチ 理由は使いやすさとコスパ

鼻吸い器には電動式、スポイト式、口で吸うチューブ式の3種類があるが、中でも電動鼻吸い器市場が伸びている(図表1)。価格は1万5,000円前後と決して安くはないが、吸引の加減の調整が簡単、鼻水を残さず取れる、機械なので一定の力で吸い続けられる、吸うときに親に風邪がうつってしまうリスクがないなどの理由で評価が高い。加えて何度も耳鼻科に行くコストや時間を考えると、むしろ「割安」だと考えられている。

現状DgSでは電動鼻吸い器がほとんど扱われておらず、多くが通信販売での購入となっている。DgSでの販促活動によって必要性を知ってもらうことができれば、新たな市場を開拓できるはずだ。急な風邪ですぐ買いたい親にも喜ばれるだろう。現状、鼻吸い器を使う親の割合は3割程度。その中で電動鼻吸い器を使うのは5~6%にとどまり、新規・スイッチともにまだまだチャンスがある。

また鼻吸い用品は、風邪をひきやすくなる秋冬にもっとも売れる(図表2)、これから重点的に用意したいカテゴリーだ。

パワフル、使いやすい、やさしい、清潔、コンパクトなピジョンの新商品

耳鼻咽喉科医と共同開発 ピジョン初の電動鼻吸い器

今回新発売となるピジョン 電動鼻吸い器は、ピジョンというブランド力に加えて耳鼻咽喉科医との共同開発で、信頼感は十分。また収納バッグ付きで、持ち運びしやすく清潔に保管しやすい。とくに使用者からの評価の高い特徴は、以下3点だ。

①パワフル吸引

吸引力は耳鼻科の機械に匹敵。パワーがあれば鼻水が取りやすいため、購入時にはとても重視される。さらに生後7ヵ月以降になると鼻水の粘度が上がり、スポイト式、チューブ式では取れにくくなるのでますますパワーが重要だ。吸引の加減をつまみひとつで簡単に調整できて、一定のパワーを維持できるためとても使いやすい。

②お手入れカンタン

従来品の多くは本体にタンクが付いており、本体のタンクごと洗う必要がある。本商品は、ノズルだけ取り外して洗えるので扱いやすく、清潔だ。おかげで本体部分が小さくコンパクトなのも魅力的。

③フィット鼻ノズル

繊細なベビーの鼻は、粘膜が傷つきやすい。本商品は、シリコンゴムでできた柔らかいノズルで鼻にやさしい。サイズが2種類あるので、ベビーの成長に合わせて使い分けられる。

ブランドサイトと実物見本で理解促進

まずは理解促進 マニュアル式に加えて追加購入

DgSの商品としては決して安くないため、商品の必要性を伝えることが非常に重要だ。「鼻水から細菌感染を起こしやすい」という認知は高いわけではない。子育て経験のない従業員も、その重要性を頭に入れておきたい。ピジョンではブランドサイトを立ち上げており、使い方などをイメージできるよう支援を行っている。売場では、ブランドサイトへの誘導を行い理解促進に努めたい。

まずは安価で買いやすいスポイト式や口で吸うチューブ式を買ってもらい、生後7ヵ月ごろの風邪をひきやすく鼻水の粘度が高くなってアナログへの不満で生じ始めるころに、電動鼻吸い器を追加購入してもらうのもいいだろう。

実物見本をいち早く設置して秋冬に向けてイメージ定着を

店頭用の見本

「電動鼻吸い器はあのお店に売っている」というイメージを持ってもらうためにも、先述のブランドサイトとセットで実物見本の設置を確実に行いたい。実際の購買はベビーが風邪をひくなどニーズが生じたあとなので、それまでに認知してもらいたいところだ。DgS ではまだ扱っていない店舗がほとんどなので、競合店よりも早く設置できると、必要になったら自店を想起して来店してくれるようになる。10月以降は需要がピークになるので、それまでに準備したい。

EC サイトとの相性も◎ 自社サイトの活性化に

現状ECサイトでの扱いがメインであるためリアル店舗でのチャンスが大きいのはもちろんだが、自社EC サイトでも扱っていきたい。金額が1万4,000円(税抜き)と安くはないし持ち帰らずに済むため、EC サイトの方が購入しやすいという人も少なくないはずだ。ベビー用風邪アイテムの購入とともにおすすめもしよう。

重要ポイントのまとめ

  • ベビー用電動鼻吸い器の市場は拡大しており、DgSで扱うことでさらなる市場拡大を目指せる
  • リアル店舗だけでなく、自社ECサイトの購入単価アップも期待できる

転換点に立つ小売業。ウェブとリアル、どちらかだけでは立ち行かない

ITを活用し新しい時代を切り開く小売業の経営者に聞くシリーズの第5弾。ECショップ「DIYFACTORY ONLINE SHOP」や実店舗「DIY FACTORY」を運営する大都の山田岳人氏にお話を伺う。昭和12年(1937年)に創業し金物卸売業を営んでいた同社は2002年にインターネット通販をスタート。2015年には4億5,000万円の資金調達を実施し、次のステージに立った。2016年、ホームセンター(HC)大手のカインズと業務提携を行い、リアルリテール企業とデジタルリテール企業の新しい協業のあり方として注目を集める。

─筆者は2000年代の前半からEC企業を取材してきましたが、御社のように成長を続けているEC企業がある一方、家業にとどまっているEC企業は少なくありません。そこを分かつのはいったいどこだったのでしょうか

山田 2000年前半に成功していたEC企業の多くはロングテールモデルでした。彼らはいかに人手をかけずに膨大なアイテムを商品マスタに登録し、ウェブで販売するかに注力していました。中国でシステムに商品登録をするというモデルをつくったり、スクレイピング(インターネットから自動でデータを取得する手法)してきたデータを商品マスタに自動で登録する仕組みで勝負しているような企業もありました。

─EC企業の一部は上場もしています。

山田 ですが、メーカーや卸売業者さんがマスタデータをEC事業者に提供するようになったこともあり、2010年を過ぎたころにはそのようなビジネスモデルも一般化してしまいました。また、書籍しか売らないとおもわれていたAmazonが、ロングテールモデルでさまざまな商品の販売を始めたのも大きい。結局、ロングテールモデルでやっていたいくつかのEC企業は非上場化したり買収されたりしています。そう考えると、既存のECのモデルは限界にきているといえるのかもしれません。

当社は、ECは「小売業」であると考えています。そして、小売業はユーザーとどのような関係性を築くのかが重要です。

─そこで御社はユーザーさんと関係性を構築するために実店舗を出店されたり、オウンドメディアの運営をなさっているのですね。

山田 はい。昨年はGreenSnapというグリーン(園芸)アプリの事業を子会社化しました。今年に入ってからはHORTI(ホルティ)というグリーンのナンバーワンウェブメディアも子会社化しています。

アプリでナンバーワンのGreenSnapと、ウェブメディアでナンバーワンのHORTI。両方一緒になりましたので、いわゆるネット上のグリーンのコミュニティやユーザーに対する当社の接点数は日本一になったと考えています。

グリーン関係ではナンバーワンのウェブメディア「HORTI(ホルティ)」。2018年に子会社化した。月間1,000万PV、ユニークユーザー数は500万人

技術がどうのという前に、組織が強くないと勝てない

─EC企業の中でも御社が成長し続けられている理由は、多分CTO(最高技術責任者)をきちんと据えて技術的に磨き続けているという点と、御社の社風に憧れた従業員の方が入社なさっているという点にあるようにおもいます。

山田 そうですね。僕たちは、企業は「人」でしか差別化できないとおもっています。僕たちのようなメーカーさんからモノを仕入れて販売する小売業は、モノで差別化するのは難しい。ですから人であり組織で差別化をしていきたい。サービスを考えるのも人ですし、お客さまの対応をするのも人です。パートナー(取引先)とのやりとりをするのも人。テクノロジーがどうのという前に、組織が強くないと勝てません。そこは採用も含めてわりと意識してやっています。

─以前取材させていただいたときには、ホラクラシー経営(※注1)を取り入れているとおっしゃっていました。

山田 はい。僕たちは何年も前からホラクラシー経営といっていますし、最近だとティール組織(※注2)という言葉が注目を集めています。ホラクラシーもティールも、元をただせば自律型の組織です。スタッフ一人ひとりが自分ごとと考えて仕事をする組織という点はずっとぶれていません。

ただ、自律型の組織運営は非常に難しい。ツリー型でヒエラルキー構造の組織運営は、指揮命令系統がはっきりしていて、上司が「これをやりなさい」といったことを部下がすればいいだけなので簡単です。ただ「簡単」ということは「だれでもできる」ということです。やはり難しいことをやらなければなりません。

僕たちはメンバーが成長することが会社の役割と考えていて、この点にはこだわっています。ただ、途中から入ってきたボードメンバーは、軍隊的組織でやってきた人間が多いので、苦労しているとおもいます。

─あとから御社に入社した人たちは、たとえばどういうところに難しさを感じるのでしょうか。誰も指示を出さないということでしょうか。

山田 そうですね。あとは自由にやらせていいのかという点です。答えがわかってるんだから、「これをやって」と指示を出した方が早いのではないかと考えがちです。でも、それでずっとやり続けていると「いわれたことをやるだけ」の人が育っていきます。そうすると、自分で考えなくなるんですよね。

たとえば何か問題が起きたときに、自分で考えないと「こういう問題が起きていますがどうしたらいいですか」という聞き方をする人に育ってしまいます。自分の頭で考える人は「こんな問題が起きていて、私はこういうふうにしようとおもうのですが、どうでしょうか」と投げ掛けてくる。これはリクルートの文化なんです。(※編集部注:山田氏はリクルート出身)

リクルートには「あなたはどうしたいの」という口癖があります。「こんな問題が起きているのですが、どうしましょう」といわれたら「え、じゃああなたはどうしたいの」とまず聞かれます。それを考える。

DIY FACTORY OSAKA。2014年にオープンした実店舗の第1弾。これまでのDIY関連ショップとはまったく違った打ち出し方で、多くのHCの売場づくりに影響を与えた

カインズとのスピード提携

─この数年間で御社にはさまざまな動きがありました。中でも注目されたのがカインズさんとの提携です。いまどのようなきっかけでスタートして、いまどのようなステージにあるのかを教えてください。

山田 大都は創業80周年になりますが、3年前の2015年7月にはじめての資金調達ということで、グロービス・キャピタル・パートナーズから4.5億円の出資をしていただきました。そこから人を集めたり、システム開発に投資をしていき、自分たちの目指す未来をつくろうと活動しているなかで、2016年の春、グロービスが行っているG1ベンチャーという日本中のベンチャーが集まるイベントの会場でカインズの土屋社長(土屋裕雅氏)が「面白いことをやっているよね」と、声を掛けてくれたんです。土屋さんのこと、僕たちはスマイリーと呼んでいるんですけどね(笑)(※注3)。

そのときは、立ち話だったのですが、その後大阪でしっかりお話をして、そこでカインズさんが目指す未来と、僕たちがいま考えていることをお互いに補完し合えば、より面白いことができるのではないかということになりました。そこで「ちょうど次の春に広島に店を出すから、やってみる?」というお話をいただきました。そういう流れのなかで秋に業務提携をしました。

─春に出会って、秋に業務提携。すごいスピードですね。

山田 あの規模の企業で、土屋さんの決断の早さやスピード感はすごいですよね。

そこから商品開発、商品仕入れ、店舗開発、プロモーション、デジタル戦略の5つを共同でやりましょうということになりました。共同の店舗開発が広島のLECT(カインズ広島LECT店)です。2017年のゴールデンウィークにオープンして、うちのスタッフも3ヵ月ぐらい住み込みで対応しました。

職人向けと一般向けの売場を分けたLECT

─LECTで御社はどのような提案をなさったのでしょうか。

山田 まずは一般のコンシューマー向けの売場と、職人さん向けの売場を1階と2階で分けました。一般のコンシューマーは感情的価値、職人さんは機能的価値を求めています。だからエモーショナルな売場と、ファンクショナルな売場に振り切ったんです。

たとえばラッカースプレーならば、職人さんであれば価格の安いものや容量の多いものを選びますし、一般の方は価格が安いものよりも使いやすさやパッケージのかわいらしいものを選択します。少量のものの方がうれしいというニーズもあります。もともと求めているものが違うのですから、売場も違う方がいいと考えて、その部分はうまくいったとおもいます。

僕たちはHCの工具売場は、売場自体がコモディティ化というか、同質化していると考えています。看板が違っても、売場はまったく同じで、マーチャンダイジングが成立していない。だれ向けの売場、というコンセプトがなくて、単純に「物」の軸で分類している。そこを「人」や「コト」という軸で分類もしています。

ただ、HCはまねの業界ですので、その後そっくりな売場のお店がいっぱいできましたね。実際にLECTの売場写真を張りながら売場をつくっていたというHCもあると聞いています。HCの売場が同質化する理由のひとつは、ベンダーが売場をつくるという点です。やはりそこはオリジナリティを出さないと、同質化して当然です。

僕たちが運営している実店舗DIY FACTORYは、日本中のHCさんが参考にしてくれています。うちの店に似た店も、たぶん日本中に何十店舗とできているでしょう。僕たちは、そういう店が広がれば広がるほど、僕たちの目指す未来に近づいていくので、(自分たちの店をまねされても)それでいいと考えています。店頭にはPOPで、「写真撮影してSNSにアップしてください」と書いていますしね。

─最近は、写真撮影OKという小売業も増えましたからね。カインズとは5つのことをやると決められて、売場開発、商品開発、仕入れを共同でやるところまでは進まれましたが、プロモーションやデジタル戦略についてはいかがでしょう。

山田 プロモーションは着手しています。たとえば先般はカインズさんでデザイン展というイベントを実施し、そちらに関わらせていただいています。

また、この夏には、子供向けの「キッズ1万人DIYチャレンジ!」というプロジェクトをやっていて、カインズさんのお店百何ヵ所でも開催させていただいています。

業務提携を行う場合は、はじめに基本合意契約書を書面で交わすわけですが、カインズさんとの契約書はその主文が「DIYを日本の文化にするために僕たちは業務提携する」というだけなんですよ。「ああしろ、こうしろ」というのがまったくなくて、本当に変わった提携なんです。それでよしというふうにスマイリーが決めてくれたので、そうなりました。僕たちの株も10%ほど持っていていただいています。

カインズ広島LECT店ではDIY FACTORYがDIY売場づくりに関わり、業務用の資材売場と一般消費者向けの売場を1階と2階に振り分けた。一般消費者向けの売場では、実際の使用例などがわかるエモーショナルな売場づくりを志向する

プライシング・リベート管理のシステムも内製

─いま御社の中ではどのようなことが課題で、次はどのようなステージを目指してきていますか。

山田 ECに関しては、品揃えは必要ですし、ロングテールモデルをやめる気もありません。いかに利益を出していくかというところが課題です。粗利をいくら取ったとしても、いまは物流コストが重いじゃないですか。売上が挙がっていても儲かっていないEC企業はたくさんあるとおもいます。

そういう意味では、僕らはベトナム人のエンジニアを日本に3人、ベトナム本国に7人抱えていて、システムを内製しているんです。僕たちがシステムを内製しているのは、とても意外におもわれるんですけどね。

─正直なところあまりそういうふうには見えません(笑)。

山田 たぶんEC企業の中でも相当エンジニアリングに関しては強いとおもいます。

社内にはいろいろなシステムがありますが、たとえばプライシングでは「最安」ではなくて「最適」な価格がいくらなのかということを、自動的に算出するような仕組みを持っています。

それと、この業界はとてもリベートが多いので、そういうリベートを管理するための仕組みも持っています。今後、商品データベースもAPI (※4)で外部に開放しようと考えています。

─システムの部分は相当つくり込まれているのですね。

山田 といってもNB(ナショナルブランド)のECは、他社も同じものを売っているわけですし、利益に限界があります。そこで、メディアです。僕たちはGreenSnapとHORTIを合わせて月間500万人の方に利用していただいています。

日本においては一度でも園芸をしたことがある人は4,500万人といわれています。そのうち50歳以上が3,000万人で、50歳以下は1,500万人しかいません。ところが僕たちのサービスは50歳以下の500万人を囲い込んでいる。つまり50歳以下の園芸経験者の3人に1人はうちのメディアに通っているんですね。

この若年層の市場を伸ばすのが園芸業界・花き業界の課題なんです。ですから、その若い人たちが、花を生けたり、野菜を育てるような社会にするのが僕たちのミッションのひとつなんです。

2018年7月には、GreenSnapの中に花屋さんの無料紹介サービスも始めました。花をぱっと買おうとおもったときに、どこのお花屋さんで購入すればいいのかわからないことが多いですよね。

─アプリからリアル店舗への送客を行うわけですね。非常に便利そうです。

山田 この先、ECはとにかく研ぎ澄ましていく。メディアはユーザーを集めて啓発していく。この下半期にも、住まい系のアプリのリリースを予定しています。

それと、実はECとメディアはつながりにくいんです。ご経験なさっている方が多いのではないかとおもいますが、オウンドメディアに集まった人をECに送客しても、購入されないというケースが非常に多い。また、ECに集まった人をメディアに集めるというのも難しい。その間に入れるものは、プロダクトだと僕たちは考えていて、いまメーカーさんといろいろ開発をしていて、秋以降どんどん発売していこうと考えています。

グリーン好きが集うアプリ「GreenSnap」では生花店・園芸店の検索サービスをスタート。アプリから実店舗への誘導を図る

お客に気付きを与える場所としてのリアルの重要性

山田 実は大阪の実店舗を9月末に閉店します。2014年に出店した僕たちのリアルショップ第1号なので、非常におもい入れはあるのですが、この4年間で僕たちの認知は高まり、似たようなお店も日本中にできてきました。ひとつの役割は果たしたようにおもっています。そこで、次は店舗で待っているのではなくて、外に出ていこうということで「DIY FACTORY GO!」というものをスタートします。DIYのキャラバンカーをつくって、日本全国をDIY FACTORYが回っていく。いままでだれもやらなかったことをやろうというのが僕たちのコンセプトのひとつなので、だれもまだやっていないDIYのキャラバンをやってみようとおもうのです。

─ウェブとリアルの両輪が必要な時代なのですね。

山田 そうですね。どちらかだけでは立ち行かない時代になっていますし、小売業を再定義するというタイミングだろうなとおもいます。

Amazonもリアルに進出してきています。とはいいつつ、日本のEC化率はまだたかだか6%程度です。94%はリアルで動いています。計画購買と非計画購買は、圧倒的に非計画購買の方が多いので、お客さまに気付きを与える場所としては、まだまだリアルが重要です。両方やらないと駄目だろうとおもっています。

─「だれかと直接会う」ことの希少性が高まっています。会ってお話しすると、相手との関係性が違うフェーズになりますよね。小売業の実店舗にこそそのような機能が求められているのかなとおもいます。

山田 そうですね。一度会って、面と向かってお話をすると、距離が近くなる。ただ、これまでだと1年後には会った人を忘れてしまうのですが、この間にSNSでつながってると、全然そこは感覚が違って「この間会ったばかりだよね」みたいな感じがずっと続きます。

─結局は人間対人間のつながりなのですよね。デジタルの力を利用して、小売業も原点回帰の方向に向かっているということなのかもしれません。今日はありがとうございました。

<注釈>

※注1 ホラクラシー経営 従来の中央集権型・階層型のヒエラルキー組織に相対する新しい組織形態を示す概念。ヒエラルキーが一切存在しない、真にフラットな組織管理体制。

※注2  ティール組織 フレデリック・ラルーが提唱している新しい組織の概念。「セルフ・マネジメント」「全体性」「進化的な目的」などを要素とする。

※注3  大都はイングリッシュネームでメンバーの名前を呼ぶ文化がある。ちなみに、山田社長のイングリッシュネームは「ジャック」。

※注4  API…Application Programming Interfaceの略称。基本ソフト(OS)やアプリケーション・ソフト、インターネットのサービスなどが、自らの機能の一部を、ほかのソフトやサービスから簡単に利用できるように、機能の呼び出しやデータの受け渡しなどの手順を定めたルールのこと。

地図上にデータを表示して「エリア特性」を発見する

前回はTableauで時系列データを表現する方法を説明しました。簡単にグラフ化や細分化、前年比の表示までできることが分かったと思います。この第四回では切り口を変え、Tableauを使ってデータを地図上に表示する方法を説明します。

1.地理的なデータ

地図上にデータを表示することの大きなメリットは、単に数字を並べたりグラフにして見たりしただけでは分からない、「エリア特性」を発見できることです。

例えば、ある商品がよく売れている店と、全く売れない店の違いは何でしょうか?一見ランダムなように見えても、地図に出してみれば「山に近い」「耐久消費財への支出が高い」といった共通点が分かるかもしれません。共通点を見出すことができれば、同じ条件を持つエリアに的を絞って、効率的に売上を上げる施策を打つことができます。あるいは、マーケティングデータと重ねて見ることで、市場における自社のシェアを把握することもできるでしょう。

「自社店舗の住所」のような、公的に整備されていない情報であっても、場所を特定する情報があれば、地図上に可視化することができます。Tableauでは緯度と経度で任意の場所を地図上に表示することができます。※1

2.地図の表示と操作方法

ここではこのリンクからダウンロードしたExcelファイルを利用して、データを地図上に表示する方法、そして表示範囲の移動や拡大縮小といった操作方法を説明します。

2.1.Excelファイルの読み込み

第三回とは別のデータを利用しますので、新しくデータを追加します。画面上部の「新しいデータソース」アイコンをクリックし、Excelを選択します。表示されるダイアログからダウンロードしたExcelファイルを指定して「開く」をクリックします。

<図2-1>

赤枠のアイコンを押してExcelを選択

2.2.地理的役割の設定

Excelを読み込むと、画面下側のプレビューに緯度と経度のデータがあることが分かります。Tableauではこれらのデータに「地理的役割」を与えることで、地図上に表示可能な地点として認識させることができます。まずは経度の「#」記号をクリックし、一番下の地理的役割から「経度」を選択します。「#」記号が地球儀のようなアイコンに変化していれば設定は終わりです。

<図2-2>

経度の上にある「#」記号をクリック

<図2-3>

地理的役割の中から「経度」を選択

<図2-4>

「#」記号が地球儀アイコンに変化

経度と同様に、緯度にも地理的役割の緯度を割り当てます。緯度と経度の両方に地理的役割を設定したら、新しいシートを作成してそちらに移動します。

2.3.店舗を地図上に表示する

Tableauでは列が横軸、行が縦軸を表します。地図に置き換えると横軸が経度、縦軸が緯度となりますので、メジャーにある経度を列に、緯度を行にドラッグ&ドロップします。この時点で日本地図が表示されます。

<図2-5>

画面の中心に小さな青い点がひとつだけ表示されています。Excelの中には40個の店舗がありますので、第三回で折れ線グラフをカテゴリ別に分解したときと同様に、ディメンションの店舗名をマークの「詳細」にドラッグ&ドロップすると、青い点が店舗ごとに分かれて表示されます。

<図2-6>

店舗名をマークの「詳細」にドラッグ&ドロップした直後

店舗の位置が特定できたことで、店舗が近畿地方と福井県の一部に分布していることが分かります。店舗名を文字で表示したいときは、店舗名をマークの「ラベル」に配置するとよいでしょう。

2.4.地図上に売上高を表示して傾向をつかむ

それではここに商品の売上高を表示してみます。メジャーの売上高をマークの「サイズ」にドラッグ&ドロップすると、青い点の大きさが売上高に応じて変化します。

<図2-7>

これだけ見ると特に明確な傾向があるようには見えません。では、商品ごとに掘り下げて見るとどうでしょうか。ディメンションの商品名を右クリックして「フィルターを表示」をクリックし、画面右端に現れたリストから「商品A」だけを選択した状態にします。

<図2-8>

<図2-9>

商品Aだけにフィルタリングした状態

図中の赤い破線はTableauで表示されたものではなく、後で画像に付け足したものですが、およそこの線を境目として、北側の点は大きく、南側の点は小さくなる傾向であることが読み取れます。つまり、「商品Aは近畿地方の北部で売れている」ということです。

2.5.差を際立たせて気付きやすくする

次は画面右端のリストから、今後は「商品B」だけを選択した状態にしてみます。

<図2-10>

商品Bだけにフィルタリングした状態

この時点ではまだ店舗間で差があるのかどうか分かりにくいと思います。このようなとき、差を際立たせる表現にすることで気付きを得ることができる場合があります。

地図上で地点ごとの差を際立たせる方法としては、「2色で塗り分ける」「サイズの範囲を変更する」という2つのやり方がお勧めです。ここでは色を塗ってみましょう。色を塗るのはとても簡単で、メジャーの売上高をマークの「色」にドラッグ&ドロップするだけです。

<図2-11>

マークの「色」に売上高をドラッグ&ドロップした直後

なんとなくですが、外縁部の海岸線沿いは色が濃いように見えます。もっと分かりやすくするために、色を2色に分けてみましょう。画面右端の色のグラデーションを表したカードをダブルクリックすると、色を任意に変更することができます。ここではパレットの選択肢から「赤 – 緑の分化」を選んでOKをクリックします。

<図2-12>

色の変更

<図2-13>

2色で塗り分けた状態

2色に塗り分けることで、より差が分かりやすくなりました。やはり海岸沿いが緑色で売上が大きく、反対に内陸は赤色で売上が小さいということが分かります。

商圏や店舗の規模なども考慮に入れなければなりませんが、仮にこの結果だけ見るとすれば、「海岸沿いなのに売上が小さい(赤色になっている)」という店舗に対して、在庫状況や展開方法を見直すことで数値の改善に繋げるというアクションを起こすことができます。

2.6.表示範囲の拡大縮小と移動

Tableauでは地図を表示した歳、自動的にデータ全体を見渡すよう縮尺が調整されます。特定の範囲にフォーカスしたい場合は、拡大縮小をすることができます。

拡大縮小は地図上でマウスホイールを動かすか、地図左上のプラスマイナスの記号をクリックします。拡大するだけならフォーカスしたい箇所をダブルクリックする方法もあります。※2

<図2-14>

拡大したまま別の場所を見たいときは、地図左上の三角形のアイコンから矢印を縦横に組み合わせた「パン」のアイコンをクリックします。これで地図上でマウスをドラッグすると表示範囲を移動させることができます。※3

<図2-15>

拡大縮小をしたり表示範囲を移動させたりした後、最初の状態に戻すにはピン留めのアイコンをクリックします。

<図2-16>

3.まとめ

今回は緯度経度を持つデータに地理的役割を設定し、地図上に店舗ごとの売上を表示する方法を解説しました。ただリストにして並び替えるだけでは発見できない情報も、地図に表すことで簡単に気付きを得られるケースがあります。売上向上につながる様々な関連性や法則を素早く見つけ出す方法のひとつとして活用してはいかがでしょうか。

また地図は営業部門だけでなく、例えば物流のトラフィック量を経路上に可視化して効率的な輸送や拠点分散の参考にしたり、あるいは市場調査のデータを可視化して優良顧客や潜在顧客の多いエリアに集中的に広告資源を投下したりと、様々な部門で活用するチャンスがあります。

次回は2種類の数値データを散布図で表現し、相関を探る方法をご紹介します。

[注釈]
※1 緯度と経度の取得については様々な方法があります。簡便に求めたいときはこちらのページをご覧ください。
※2 拡大縮小は、地図左上の三角形のアイコンから「ズームエリア」を選択することで、マウスで指定した範囲に拡大することもできます。
※3 ズームエリア以外のモードであれば、「Shiftキーを押しながらマウス左クリックでドラッグ」でも範囲を移動させることができます。

アルディ、トレーダージョーズに学ぶ 「よりよいものをより安く」を実現するセオリー

日本でも大人気のトレーダージョーズ(以下トレジョー)。東京で山手線に乗っていると、カラフルなデザインが人気の「トレジョーのエコバック」を持っている女性を見かけることがよくあります。日本ではあまり知られていませんが、そのトレジョーの親会社は、ハードディスカウンターの「アルディ」です。トレジョー、アルディは、「ハードディスカウンター」「リミテッドアソートメントストア」という業態名で呼ばれています。徹底した絞り込みによって、「よりよいものをより安く」を実現する両社のMD戦略を整理してみましょう。

300坪程度の売場面積で3,000品目程度に絞り込む

アルディの冷ケースの陳列。PDQと呼ばれるメーカーの出荷段階からセットされたケース単位で陳列している。しかも後方から補充ができる。ローコストオペレーションを徹底していることがわかる。

アルディはドイツ出身の企業で、ハードディスカウンターと呼ばれる業態を世界中に展開するグローバルリテーラーです。ハードディスカウンターとは、ウォルマートスーパーセンターなどの大型ディスカウント店のさらに下をくぐる価格帯で食品、グロサリーを提供する小型フォーマットです。

米国アルディは、西海岸の有力スーパーマーケットであるトレーダージョーズを買収し、2017年度は売上2兆5367億円、対前年比9.6%、店舗数は2084店、対前年比7.0%、全米で18位の企業規模に躍進しています。

ディスカウント色の強いアルディに対して、「店内POP」や「試食サービス」などのエンターテイメント性の強いトレジョーとでは、異なる業態のように見えますが、業態コンセプトの多くは共通していますので、以下に整理してみましょう。

図表1 アルディ、トレーダージョーズの特徴

大きすぎない小型店を居抜き物件に出店し、初期投資を低くしています。また、絞り込み、単品大量販売(単品の陳列面積大)、インストア加工ゼロによって、従来のSM(スーパーマーケット)よりも圧倒的なローコストオペレーションを実現しています。また、完全なEDLP業態(価格販促がゼロ)なので、売れ方の波動が少なく、旧来の「ハイ&ロー業態」よりも、作業人時のかからないオペレーションです。

アルディは、パレット、ケースが補充・発注・物流の単位。パンも補充ケースのまま陳列している。

「よりよいものをより安く」を単品大量販売で実現している

洋の東西を問わず、商売繁盛の原理原則は、「よりよいものをより安く」を実現することです。しかし、この概念は実は矛盾しています。「よりよいもの」を単純に追求すれば原価が高くなり、「よりよいものをより高く」になります。

一方、「より安く」を単純に追求すれば、品質が低下し、「よくないものをより安く」になってしまいます。この矛盾する概念を解決する唯一の方法論は、「単品大量販売」です。単品で大量に販売するから、品質を高めながら、売価を下げることができるのです。

チェーンストアが多店舗展開する最大の目的は、大量の店舗数を展開することで、単品大量販売し、「よりよいものをより安く」を実現し、消費者の暮らしに貢献することです。

図表1で整理したアルディとトレジョーの業態コンセプトは、商品を徹底して絞り込み、単品大量販売を実現しようとしていることがわかります。トレジョーの「チャールスショー」というオリジナルワイン[SB(ストアブランド)]は、単品大量販売することで、一定以上の品質を維持しながら、2ドル99セントと驚くほどの低価格を実現しています。

2017年のトレジョーの企業年商130億ドル(推定)を店舗数(467店)で割り算すると、1店当たりの年商は約30億円にもなります。わずか300坪の売場面積で、3000~4000品目に絞り込まれた店舗で、1店舗30億円も売るのだから、いかに単品の売上規模が大きいかがわかります。

トレジョーのコンセプトは、「オーガニック食品を手ごろな価格で提供すること」ですから、まさに単品大量販売によって、「よりよいものをより安く」を実現していることがわかります。しかも、PB、SBのオリジナル商品の比率が90%なので、アマゾンともウォルマートとも完全に差別化できています。

トレジョーを見るたびに、「品揃えの豊富さ」と「品目数の多さ」はまったく無関係であるという原則を再確認させてくれます。

「商品をたくさん揃えましたから自由に選んでください」という売り方は、消費者にとっては選びにくい、不親切な売場なのだと思います。

単品大量販売によって、美味しいワインを2ドル99セントの低価格で提供。
トレジョーはローコストオペレーションだが、「試食体験」「POP演出」の楽しさを売場で表現している。で、「安さ」+「エンターテインメント」によって買物体験の質を向上させている。

未病・予防・健康市場を開拓するアルフレッサヘルスケアのCDT提案

さまざまな業界の商品を、顧客や生活を主語に再編集(アソートメント)することは、メーカーにはできません。「つくる立場」「売る立場」ではなくて、「使う立場」「買う立場」で商品を再編集することが、消費者のために、流通業(小売業・卸売業)だけができる、最も重要な「生活提案」であり、「社会的使命」です。今週は、CDT(カテゴリー・デシジョン・ツリー)という技術を深化させて、ヘルスケア(未病・予防・健康)市場の潜在需要開拓を進める「アルフレッサヘルスケア」の挑戦を紹介します。

倒産寸前の医薬品卸しを8年間で立て直した

写真は、医薬品卸のアルフレッサヘルスケア株式会社が8月8日に開催した「おかげさまで8周年記念式典」の様子です。壇上で挨拶している勝木尚・代表取締役社長は、倒産寸前の医薬品卸「丹平中田(旧社名)」を再生させた立役者です。

勝木社長は、ピジョンというベビー用品メーカーからヘッドハンティングされて10年ほど前に「丹平中田」という医薬品卸に入社し、その後、丹平中田を買収したアルフレッサヘルスケアの社長に就任しました。いまから8年前のことです。勝木さんが社長に就任された当時のアルフレッサヘルスケアは、資金繰りが悪化し、倒産寸前の状態だったといいます。

業績悪化の理由は、売上至上主義による押し込み営業、見かけの売上をつくるために販促費を無計画に使ったことが原因と筆者は推測します。売上を無理に増やすために、無計画に経費を使う。ダメになる企業の典型的な状態だったと思われます。

勝木社長は、3つの改革を実行しました。第1は、「財務体質」の改革です。在庫管理を徹底し、キャッシュフローを改善しました。また、コスト管理も徹底し、最新の決算では、売上高は2,600億円を超えて、薄利多売の卸売業としては合格ラインの「営業利益率1%」を達成しました。

第2の改革は、「情報武装」です。「alf-net」というBtoBの取引先専用サイトは、オンライン発注、商品情報、販促情報、営業情報を発信し、アルフレッサの営業マンと、ドラッグストア、薬局のバイヤーがリアルタイムで情報を共有することができます。その結果、スピーディな商談が実現できるようになりました。現在、年間約200万件のアクセスがあります。

第3の改革は、「専売品」の強化です。医薬品メーカーの新製品がほとんど発売されない現状にあって、小売業の利益向上に貢献し、固定客を獲得する専売品の発売は、卸売業の役割として、非常に評価できると思います。

そして、最も重視した第4の改革が、「人材育成」です。同社では、単に商品を右から左に流すだけの問屋業から脱却し、提案型の営業ができる人材開発に最大の投資を行いました。
同社は、これからの中間流通業に求められる人材として、THMWという言葉を使っています。

T Total(トータル)
H Healthcare(ヘルスケア)
M Merchandising(マーチャンダイジング)
W Wholesaler(卸売業者)

CDTの勉強会で提案型営業を育成した

THMWという言葉に象徴されるような、ヘルスケア(未病・予防・健康)の提案営業ができる人材を育成するために同社では、体系的な教育カリキュラムにもとづいた教育制度を充実させました。その教育の一環として、CDT(カテゴリー・デシジョン・ツリー)の勉強会を、全営業マンを対象に実施しました。

CDTは、顧客の購買意思決定ツリーともいわれており、生活、症状、ライフスタイルなどの「顧客軸」の切り口で再編集して、潜在需要を開拓する技術の総称です。

とくにアルフレッサヘルスケアが提案するヘルスケア市場では、未病・予防・健康に関する「症状別」「問題解決別」の定番売場は少ないのが現状です。たとえば、予備軍も含めて全国に2,000万人も患者がいるといわれている「糖尿病」を、総合的に問題解決できる定番売場は、ドラッグストアの売場にはほとんど存在しません。

「高血圧対策」に関しても、血圧の測定器のように単品の売場は存在していても、高血圧対策のさまざまな商品(健康食品など)を集積した定番売場は、ほとんど存在していません。

下の図表は、アルフレッサヘルスケアが提案した「感染症対策」のCDTです。感染症対策は、インフルエンザ、ノロウイルスなど、特定の季節に発症するものではなくて、年間で対策が必要ですが、感染症対策の定番売場は、ほとんど存在しません。

下の図のようなCDTに基づいたヘルスケアの症状別の生活提案を行い、「新・定番」を創造することが、潜在需要の開拓につながります。CDT開発による需要創造は、人口減少、売上減少時代に流通業が取り組むべき、最大の経営テーマであると思います。

TPOS分類が、流通業の商品分類(アソートメント)の基本

マーチャンダイジング(MD)という言葉の正しい意味は、メーカーのつくった「製品」(プロダクツ)の「売り方」を開発し、製品に魂を注入することで、「製品」を「商品」(マーチャンダイズ)に変える活動のことをいいます。

POPを付けるなどのアノ手コノ手の売り方の工夫だけではなくて、棚割における商品のフェース数と奥行き数を決定すること(商品構成)も、重要なMD活動です。たとえば、すべての商品が1フェースで並んでいる状態は、売場とはいいません。それは単なるメーカーのショールームです。

今回紹介したアルフレッサヘルスケアのCDTのような「商品分類」(アソートメント)を設計することも重要なMD活動になります。その場合には、「つくる立場」「売る立場」を否定して、「使う立場」「買う立場」に商品を再編集することが、小売業のアソートメント(商品分類)の原理原則です。その原理原則を表す言葉を「TPOS」分類といいます。小売業の技術の基本中の基本なので、以下にまとめておきます。

【テスコ・セインズベリー・ウェイトローズほか】お店を用途で使い分けるロンドンっ子たち:イギリス小売事情レポート

流通小売業に見識のあるフリーライターのイシヤママキさんが、2018年5月に訪問したイギリス・ロンドンの小売業に関するレポートを寄稿してくれました。訪問期間中の5月19日はダイアナ妃の次男であるヘンリー王子と女優のメーガン・マークルさんのロイヤルウェディングでロンドンの街は大賑わい。そんな中、ロンドン市内の最新の売場やディスプレイを観察しながら、ロンドンっ子の買い物事情を探ります。(2018年5月の為替レートは1ポンドあたり約146円)

作業効率化で低価格の商品を提供する「テスコ」

英国スーパーマーケット売上規模首位のテスコ。2003年に日本進出の足掛かりとしてシートゥーネットワークを買収、既存店の「つるかめランド」と都市型の「テスコ」の両ブランドで展開していましたが、2011年に日本から撤退しています。

ロンドン市内は都市型の「Tesco Metro」や小型店「Tesco Express」が中心。日常使いのベーシックなスーパーマーケットとしてロンドンっ子に定着しているようです。

立ち寄った店舗はコヴェントガーデン近郊の「Tesco Metro」。ロンドン中心部であるピガデリーサーカスからも近く、オペラハウスやブランドショップが並ぶ街中ですが、観光客よりは近隣で働く地元の買い物客が多い印象でした。

青果売場。価格は1ポンド以下の商品も多く安価な印象。バラの青果を緑色のコンテナに入れて陳列することで、陳列作業の効率化をはかっていることが見受けられます。

このように、補充作業もコンテナごとに行うので簡単です。

出来上がりがイメージしやすいパッケージが食欲をそそるレンジアップのパスタ売場。価格は2~4ポンド程度。Quorn、Goshともにベジタリアン向けの商品を展開しているメーカー。この価格帯でもベジタリアンメニューをそろえているところに、欧米のヘルシー志向が伺えます。

タバコや酒類を扱うカウンター以外はほぼセルフでした。駅や空港内の小売店もセルフレジを多数導入しており、どのお客もセルフレジを使い慣れていることが分かります。

「セインズベリー」の美しい売場作り

英国スーパーマーケット売上規模2位のセインズベリー。今年3月にアメリカ・ウォルマート傘下で、英国スーパーマーケット売上規模3位のアズダとの経営統合が発表され、大きな話題となりました。

訪れたのはグロスターロード駅から徒歩10分程度のケンジントン地区の店舗。グロスターロード駅周辺は駅直結のアーケード内に王室御用達スーパーの「ウェイトローズ」とドラッグストアの「ブーツ」、駅の向かいには「テスコ・エクスプレス」がありますが、こちらのセインズベリーは上記の店舗に比べて、駅前から離れた住宅地区にあることから売場面積も広くゆったりとした印象です。

「ウェイトローズ」や「マークス&スペンサー」と比べて、中級スーパーの位置づけの「セインズベリー」や「テスコ」。高級住宅街のケンジントン地区の中ではかなり庶民的な店ですが、食料品から日用品、アパレルまで幅広く扱う大型店ということもあり、ゆっくりと買い物を楽しむ主婦層やシニア層が多かったです。

日本の場合、インストアベーカリーはエントランス付近にありますが、イギリスではデリカテッセンと共に主通路沿いでも奥の方に設置されている店舗が多いです。バケット類は45~80ペンス、カップケーキは90ペンスと手に取りやすい価格帯。

鮮魚売場はサーモンの扱いが多いことが分かる品揃え。丸魚よりも切り身中心です。

セインズベリーPBの米料理と乾燥パスタのコーナー。欧米では米をパスタに近い感覚で使用するため、売場も必然的に近くなります。セインズベリーPBのパッケージは安価ながらカラーリングが美しく、思わず手に取りたくなります。マカロニなどのショートパスタは大容量品が中心です。

誰もが知る庶民的な王室御用達チョコレート「キャドバリー」。同店では棚2本使ってキャドバリーブランドを展開していましたが、板チョコだけでなく定番の「デイリーミルク」のタブレットタイプやスナックタイプを多く扱っていました。日本ではチョコバー中心の品揃えですが、この薄くて丸い形のタブレットタイプは食べやすいので、日本でも流行るのでは?と思いました。

日用品の洗濯用洗剤売場は大容量品中心で、日本のホームセンターのような品揃え。フェイスもしっかりとっています。

丁寧な情報発信でライフスタイルを提案する「ウェイトローズ」

王室御用達の高級スーパーとして知られるウェイトローズ。一部のオリジナル商品はイオン系の店舗でも取り扱われており、日本人にもなじみがあるのではないでしょうか。

立ち寄った店舗がグロスターロード駅直結のアーケード内ということもあり、夜遅くまで営業していることから仕事帰りのビジネスパーソンを多く見かけました。

写真はビールの冷蔵ケース売場です。取り扱いメーカーや商品のバリエーションが多いことから1商品のフェイス数は少なくなっています。

ウェイトローズでは、各売場でレシピカードを多く見かけました。洒落たデザインや盛り付けが光るA5サイズのカード。裏面にレシピと料理に使用するおすすめメーカーの食材(ウェイトローズPBもあり)画像が掲載されています。

また同社では「Waitrose Food」という月刊誌(価格2ポンド、メンバーズカードユーザーは無料)を発行しています。100頁超えの冊子は料理のレシピに加えて、産地やレストラン、地域の紹介など凝った作りで、さながらエアラインの機内誌のよう。

ウェイトローズでは自社のウェブサイトの他、YouTubeInstagramTwitterFacebookでもこれらのレシピを紹介しており、食を通じた健康的で豊かなライフスタイル提案に力を入れていることが伝わってきます。

アメリカのスタイルそのままの「ホールフーズマーケット」

オーガニックブームの欧州には、アメリカのホールフーズマーケットも7店舗ほど進出しています。訪れた店舗はピカデリーサーカス駅から徒歩3分程度の繁華街から一歩入った通り沿い。日中からにぎわっており、国際都市ロンドンのビジネスマンのランチ需要をしっかり取り込んでいるようです。

にぎわう店内では焼きたてパンやデリの香りが食欲をそそります。内装はブルックリンデザイン。

人気の「HotBar」コーナー。温かいスープ類や料理を容器に詰めてレジに持っていき会計するスタイル。

パンのコーナーは回遊しやすいよう島陳列。こちらは総菜パンよりもプレーンな食事パンが中心です。ホールフーズはEAT LOCALを推奨していますが、ここにも大きな「LOCAL」の文字が。

NBをお得に買えるワンプライスショップ「ポンドランド」

今回、イギリス在住の友人に連れて行ってもらったのが、ワンプライスショップ業態(いわゆる100均)の「ポンドランド」です。週末の蚤の市でにぎわうノッティングヒルのポートベロー散策中に訪れた店舗は、売場面積も広く品揃えも非常に豊富。この日はヘンリー王子とメーガンさんの結婚式当日ということもあり、彼らのお面やユニオンジャックモチーフのオーナメントなども飾られていました。

飲料の向いにシャンプーや洗剤、通路にアパレルやジャンブル陳列のビーチサンダルも並ぶ激安店らしい売場。

すべてが1ポンドというわけでなく、洋服売場では2~5ポンドといった商品も。

同社のホームページより。日本のダイソーのようなオリジナル商品中心というよりは、NBメーカーの商品が多くを占めており、よく知るNB商品をお得に購入できる場所として地元の人に浸透しているようです。

1時間単位で配達の時間指定ができるオンラインスーパー「オカド」

最後に紹介するのが、オンラインスーパーマーケットの「オカド(ocado)」です。小学生の娘さんを持つ友人は毎日の学校の送り迎え(イギリスでは原則、小学生までは送り迎え必須、また子どもを一人にしてはいけないなどのルールがある)や習い事の付き添いなどで、買い物に行けないことがしばしばあるため、ネットスーパーを利用しているとのことでした。

オカドの最大の特徴は朝5時半から夜の11時半まで、1時間単位で配達の時間指定ができる点。生鮮食品については高級スーパーであるウェイトローズの商品を取り扱っており、品質面での信頼も高いとのことでした。またオカドの宅配員は他の小売業が行うネットスーパーよりも応対が良いため、価格が少々高めでも使いたいと考える主婦層が多いそうです。

土地が狭く車を持たない家庭が多いことからネットスーパーの利用者も多いロンドン。価格面だけでなく、利便性やサービスの質で利用者の心をつかむオカドは、日本のネットスーパー運営のお手本にもなりそうです。

<プロフィール>イシヤママキ

法政大学文学部卒。輸入チーズ卸久田のチーズ専門店で食品小売の基礎を学び、イトキンでの服飾ブランド販売チーフを経験後、日本リテイリングセンター入社。渥美俊一の元、セミナー運営やテキスト編集の業務に就く。結婚による退職後、物流新聞社、流通専門出版社を経て2008年よりフリー。現在は流通ビジネスやクラシック音楽、ペット情報など幅広いジャンルで取材・執筆活動を行う。好きなものは旅と猫とダイビング。

消費者が選んだトレジョの人気PB、実食してみました

アメリカの食品スーパー「トレーダージョーズ」は、アイテム数を2,500~4,000に絞り込み、そのほとんどがPBや専売品という独特のスタイル。そこで、同社が毎年発表している「消費者が選ぶおすすめ商品2017年度版」のなかからいくつかの商品を、実際に購入・使ってみた。アメリカらしさを感じさせる商品が多く、日本での商品開発にそのまま活用することはできないかも知れないが、日本にない特徴もあるので参考にしてほしい。(月刊マーチャンダイジング 2018年8月号より転載)

17品目のおすすめ商品をお客の投票で決定

2018年1月、トレーダージョーズの 「消費者が選ぶおすすめ商品2017年度版」(https://www.traderjoes.com/digin/post/9th-customer-choice-winners)が発表された。これは実際にトレーダージョーズのお客の投票で決まるもので、バイヤーや納入業者の商品開発モチベーションを非常に高め、消費者に注目されることでそれらの商品の売上も伸びる。今回は、この17品目の中からいくつかをピックアップして月刊マーチャンダイジング編集部が実際に食べてみた。

甘しょっぱくて病みつきに!「Dark Chocolate PEANUT BUTTER CUPS」(キャンディー・チョコレート部門)

中には濃厚でねっとりしたピーナッツバターが詰まっており、さぞ甘いだろうとおもわせておいて、塩味が効いており甘じょっぱい。チョコレートのビターな風味、ピーナッツバターの甘じょっぱさが合わさり濃厚でありながら後味が重くなく、止まらなくなってしまう。やみつきになること請け合いだ。

 

濃い味とサクサク感が絶妙。「Peanut Butter Filled Pretzels」(スナック部門)

プレッツェル。表面は香ばしい香りがして、かじると強い塩辛さとほのかなピーナッツバターの甘さが広がり、濃い味とサクサクとした食感が楽しめる。中は空洞だが絶妙に含まれたピーナッツバターのおかげで少しだけ甘く、塩味を引き立てている。454gも入っているので満足感が高く、気持ち悪くなるまで食べてもまだまだある。

めくるめくチーズの味に包まれる「Spanakopita」(冷凍アペタイザー部門)

華氏400度で10分レンジで温める。容器ごと温められて、利便性は悪くない。温めていると、チーズのおいしそうな匂いが部屋中に充満する。ほうれん草の冷凍パイと書かれているが、実際に食べてみるとほぼチーズの味しかしない。柔らかくて食べやすく、冷凍パイでありながらパサパサしない。3.99ドルで12切れ入っていて、コスパもよい。レンジの温度設定を間違えるとすぐに焦げて食べられなくなってしまう、繊細な一品。

清涼感あり夏向けのナチュラルヘアケア「TEA TREE TINGLE Shampoo」(健康美容商品部門)

容器がかなり縦長にもかかわらずポンプ式のため、使い勝手には難ありか。オーガニックのボタニカルハーブを使用。ティーツリー、ミントなど清涼感のある香りが広がり、夏に向けてよさそう。スーッとした香りだが、頭皮にクール感はない。粘度は高めだが、泡立ちはよい。シャンプー後のキシキシ感はナチュラル系としては許容範囲では?コンディショナーは、3~5分マッサージしてくださいとの表示あり。洗い上がりは適度な保湿感も感じられて悪くない。5点満点で3.8点。

【ウォルグリーン・CVS・ホールフーズ・クローガー】アメリカ小売業 ヘルスケアPBの売り方4つの潮流

日本より先を行くアメリカ小売業のPB開発。特にヘルスケアの啓蒙の意識が高く、関連するプライベートブランド(PB)の商品開発や売り方は非常に参考になる部分が多い。本稿では2018年6月14日~19日まで、ニューフォーマット研究会で実施したアメリカロサンゼルスとラスベガス視察ツアーから、小売業各社のプライベートブランドの商品開発事例や売り方事例をご紹介する。(月刊マーチャンダイジング2018年8月号から転載)

ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスの糖尿病用品売場

米国No.1のドラッグストア(DgS)、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)。PBはヘルスケア、食品、ビューティケアが中心。同社はPBに注力する方針で、現在売上の25%程度がPBとされている。種類は豊富だ。

同社は日本にはない「糖尿病(=Diabetes)」の棚とPBをつくっており、売場での啓発活動も行っている。WBAのヘルスケアPB「Well at Walgreens」には、血糖測定計や血圧計など、測定器まで揃っている。

インシュリンの保冷ケースやメディカルIDブレスレット、血糖値測定器や血糖値測定機用の針、ケトン体試験紙までPBで展開。

食品PB「NICE」。ジャンクな菓子ではなく、健康志向の菓子を訴求している。

CVSヘルスに見るPBデプスアソートメント

CVSは、米国の最大規模のDgSチェーン2強のうちの1社。WBAに比べるとPBは少ないが、たとえば、ウイークリーピルケースだけで複数種類何色もあるなど、特定のカテゴリーではPBだけでデプスアソートメントを形成している。ポイントを絞って強化しているカテゴリーがあるようだ。

写真は、日焼け止めのPBデプスアソートメント。すべてPBである。

「うおのめ」ケア売場も、NB商品が一部交じっているがほぼPB。

ハンドサニタイザー(手用消毒ジェル)のPBも種類が豊富だ。

ホールフーズの情緒的卵訴求

アマゾンに買収されてからは比較的安価な商品も増えているホールフーズ。新業態の365はミレニアル世代がメインターゲットになっており価格も比較的安価。動物愛護の観点から、ケージフリー卵がPRされている。卵に情緒的な価値を付加した例と言える。

写真は、4種類の卵1ダースパック。上3つはケージフリープラスで、一番下はオーガニックの上にオメガ3脂肪酸入りのプレミアム卵だ。

ケージフリー卵とは従来のケージ飼いと比較して、配慮した方法で飼養された鶏由来の卵のこと。卵での情緒価値訴求は、日本ではあまり見られないあまりない要素だ。ちなみに売場ではNBの卵も豊富に扱っている。

マルチブランド展開するクローガー(ラルフス)

種類も多く売上比率で26%程度あるクローガー。店頭では健康訴求の「simple truth」がプッシュされている。トマト缶だけで複数種類のPBが並ぶ。

売場に多かったのは健康志向PB「simple truth」だが、その中でもサブブランド「simple truth organic」はニーズがあるのか競合を意識してか、とくに推しているようだ。

AIはなんでもできる魔法の杖なのか?

前回の連載でAIが発展した要因や今世界で求められていることを述べた。今回の記事では、そもそもAIとはなんなのかをもう少し掘り下げ、AIのやっていること、特に機械学習の分野について説明をし、概念レベルで正しいAIの理解をしてもらうことを目標とする。

第一回目となる前回の記事では、人工知能の概要と歴史、そして発展した要因と社会的なニーズについて述べた。今回の記事では、AIの特に機械学習やDeep Learningにおける概念的な説明を行う。

汎用人工知能と特化型人工知能

AIという言葉を聞いたときに、SF映画などに登場するような「人間のように自律的に、かつ分野を横断して柔軟に思考・決定・行動をする」といったコンピュータシステムを思い浮かべる方も多いのではないだろうか。鉄腕アトムやドラえもんなどもそのような類の一つである。

これらは、「汎用人工知能」と呼ばれるもので、AIというものを最も大きな軸で分類しようとした際の方法の一つである。「汎用人工知能」が実現し、人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れるという予測をしている学者もおり、実現に向けて研究を進めている。

AIを大きな軸で分類する際のもう一つが「特化型人工知能」と呼ばれるもので、これは「個別の課題やタスクに特化して能力を発揮する」ものである。現在スマートフォンで使われているSiriなどの音声認識システムや、Googleの子会社であるDeep Mindが開発し、韓国のプロ囲碁棋士「李世乭」を破った囲碁プログラムである「AlphaGo」などはその代表例である。

「データから学習する」とは何か

このように、AIは汎用人工知能と特化型人工知能の二つに分類することができるが、2018年現在、ビジネスや現実世界で実現できているのは特化型人工知能である。

特化型人工知能の分野で、現在特に活発にビジネスへの応用が進められているのが、機械学習・Deep Learningである。これらは「特定の問題を解けるように、データから学習する」といったものである。

データから学習するアプローチ方法は、データの与え方や問題設定に応じて様々だ。そのうちの一つが「教師あり学習」と呼ばれるものである。

教師あり学習では、AIに入力データと、そのデータから導き出すべき答えである目標ラベルをセットで与える。この入力データと目標ラベルのセットを「教師データ」と呼ぶ。例えば、顔から性別を予測する問題の場合、入力データとして人の顔写真を与え、答えとなるラベルとして男性や女性といった情報をセットで与える、といったようなものである。

機械学習やDeep Learningの分野の手法を用いる場合、このようなデータが与えられた後、入力データから目標ラベルをより精度よく出力できる手法を考え、数式とアルゴリズムで表現することが一般的だ。

使用する数式やアルゴリズムが決まったら、「データからの学習」を行う。この「データからの学習」とは、入力データから目標ラベルをより良く出力することが出来るように、このアルゴリズムと数式内における調整可能なパラメーターを修正することを指す。

 AIは魔法の杖ではない

そのため、例えば小売業において、来客人数の予測・人の性別の判別・人の年齢の推定などといった問題を解きたい場合、「データで学習していないこと」を実現することは基本的にはできない。

もちろん、様々な顔のデータで性別を予測する問題を学習させれば、新しい顔のデータが来た時に、性別を分類することはできる。しかし、「顔データから性別を学習したAI」は、同じ顔データであっても、「年齢を推定すること」はできない。また、もし入力データに日本人の顔データしかなかった場合には、日本人以外の顔データの場合には精度が低くなる可能性も含んでいる。

先述した例にあるように、一口に「顔のデータがある」と言っても、その顔のデータを使って何がやりたいか、そしてそのやりたいことに対して適切なラベルがデータに付いているか、が非常に重要である。

課題設定とデータの量・質が重要

これまで紹介してきたことが、昨今のAIブームの中心となっている機械学習、Deep Learningで出来ることの大きな枠組みである。

もちろん、これ以外にも入力データに対してラベルを付与することなく、データからその関係性を学習する「教師なし学習」と呼ばれるものや、AlphaGoなどで用いられた「強化学習」のような手法も存在する。教師なし学習で行われるものとしては、例えば店舗での購買実績をもとに顧客をカテゴライズしたり、お勧め商品をレコメンド(Recommendation)したりするものがあげられる。

これらの枠組みの中では、与えられた課題に対して、手法を決め、その手法内における調整可能なパラメーターをデータを元に修正することで、より精度が良い出力を出すように訓練する。

そのため、課題設定がそもそも既存のAIの枠組みで解くことができないようなものであったり、目的に沿う形でデータが整備されていなかったり、データ量が十分に集まっていなかったりした場合には、そもそもAIを活用することができない。よって、課題設定をうまく行い、質の良いデータを多く収集しておくことが、ビジネスにおいてAIを活用するあたってもっとも重要と言っても過言ではない。

逆に、課題設定が上手く出来ており、質の良いデータが十分にあれば、ビジネスに応用することができる。また大きなコスト削減や新たなビジネスチャンスの創出に起因するだろう。

次回は、実際に課題設定やデータの収集をうまく行い、ビジネスにおいて成功を収めた事例とそのポイントをいくつかの業界に渡って紹介する。

化粧品専門店「ULTA(アルタ)」がアマゾンと差別化し、快進撃を続ける理由

成熟している米国の小売業で、店舗数、売上ともに2桁増の企業は4社しかなく、そのうちの1社である化粧品専門店チェーンの「ULTA(アルタ)」の快進撃が続いています。毎年、定点観測していますが、年々客数が増えているように感じます。全米で974店舗(2017年時点)を展開しています。アマゾンとの差別化に成功し、快進撃を続けるアルタの特徴を解説します。

デパートコスメをセルフで自由に選べる

CLINIQUEのようなデパートブランドも入っている。

アルタが登場する以前は、アメリカの化粧品の売り方は、「セルフ販売」と「カウンセリング(対面接客)販売」の2種類に完全に分かれていました。DgS(ドラッグストア)の化粧品の売り方は、完全な「セルフ販売」です。テスターで化粧品を試すこともできない、セルフ陳列に徹しています。日本のDgSは、化粧品をテスターで試せて、ビューティ担当者が接客してくれますが、その点がアメリカと日本のDgSとの大きな違いです。

一方、アメリカでカウンセリング販売をしてくれる業態はデパートでした。DgSはセルフ販売、デパートがカウンセリング販売という棲み分けができていたわけです。

アルタは、セルフ販売とカウンセリング販売を組み合わせた売り方が特徴です。従来は、デパートでしか取扱いができなかった「CLNIQUE」「LANCOME」などのカウンセリングブランド(デパートコスメ)も取り扱っています。チェーン展開の初期の頃は、一流のデパートブランドがなかなか入らず、二流三流のブランドしか取り扱えなかったのですが、店の雰囲気もよく、接客レベルも高いことが、一流のデパートブランドからも評価され、少しずつブランドの種類が増えて現在に至っています。

デパートブランドをセルフで自由に選ぶことができる売り方が特徴。
売場の中にタッチアップコーナーが複数ある。

カウンセリング化粧品の売り方は、デパートのようなブランドごとのカウンター越しの対面接客販売とは異なり、セルフで自由に試せて、必要なときにはビューティ担当者が接客してくれる「側面接客販売」が特徴です。お願いすれば、化粧品担当者がタッチアップ(実際にメイクをして使用感とか色を確かめること)をしてくれます。

立地戦略は、都心部やフリーウェイ近くの大型SCに立地しているデパートに対して、より住宅地に近い近隣型SCに出店する戦略で成長してきました。わざわざデパートに行かなくても、自宅の近くでカウンセリング化粧品を買える便利性を武器に出店してきました。最近は、ダウンタウンの都市部にも出店しており、郊外と都市の2つの立地に展開しています。

「試せる」「接客してくれる」がリアル店舗の価値を高める

さらにアルタは、セルフ化粧品の品ぞろえも豊富です。アメリカのDgSが完全セルフ販売であるのに対して、すべての商品にテスターがあり、化粧品を試すことができます。つまり、セルフ化粧品とカウンセリング化粧品のワンストップショッピングができることも、アルタの大きな魅力です。

また、店の奥にはヘアサロンを併設しており、物販以外の来店目的もあります。ドライヤーの品ぞろえも豊富で、すべてのドライヤーに電源が入っており、風圧や使用感を試すことができます。「接客してくれる」「テスターで試せる」「ヘアサロン併設」といったリアル店舗ならではの「買物体験の質の向上」を実現することで、アマゾンと差別化し、急成長しているのです。

セルフ化粧品はすべてテスターで使用感を試すことができる。

SNSで化粧品に関するさまざまの情報を検索する女性も、最後に化粧品を購入する場所は圧倒的にリアル店舗です。SNSでいろいろ調べても、最後はテスターで試して、接客してもらって、現物を触った後に購入したいと考えるから、アルタはアマゾンと差別化することができるわけです。アマゾンでは体験できない価値を提供しているから、熱烈なファン(固定客)を増やすことに成功しています。

また近年は、自社のネット販売にも力を入れており、2017年はネット販売の売上が前年比40%も成長しました。アルタのサイトには、大量のレビューが集まり、アマゾンにも劣らない化粧品の「口コミサイト」に成長しています。また、アルタのアプリは、自撮り写真に簡単にメイク処理ができる機能もあり、ソーシャルメディアとの親和性が高く、インスタグラムなどで拡散されています。さらに、アルタのアプリでは「ロイヤルティプログラム」のポイント管理だけでなく、ヘアサロンの予約までできるようになっており、オムニチャネル化に積極的に投資していることがわかります。

アルタのスマートフォンアプリでは、化粧品をバーチャルに試用することができる。

これからリアル小売業が、アマゾンと差別化して生き残っていくためには、「ライフスタイル提案」と「ブランディング」が不可欠です。化粧という女性にとっては不可欠なライフスタイルを提案し、単なる物販にはとどまらないリアル店舗の価値創造というブランディングに成功したことで、アルタは熱烈なファンを獲得しています。

これからの時代は、アマゾンがプライム会員の信者を囲い込もうとしているように、リアル小売業も、「固定客の囲い込み」「ファンづくり」が重要です。単なる「モノ売り」の価値しか提供できないリアル小売業は、10年後に生き残ることはできないと思います。

売場の奥はヘアサロンが全店併設されている。
ドライヤーはすべて電源が入っており、風圧や使用感を試せる。