ES(従業員満足度)調査で分かった定着率向上の優先課題 [前編]

月刊マーチャンダイジング12月号(11月20日発売)は、恒例の「ドラッグストア顧客満足度(CS)調査2018」です。毎年、ものすごい反響の人気企画なので、関心のある方はぜひ月刊マーチャンダイジングを参照してください。CS(顧客満足)とES(従業員満足)の向上は車の両輪です(図表1)。ESが高く、現場の士気が高く、定着率の良い小売業のCSは概ね高く、ESとCSの高さは正比例の関係にあります。今回と次回の2回に分けて、月刊マーチャンダイジング2017年11月号で特集した「ドラッグストア従業員満足度調査2017」のダイジェスト版を掲載します。

ES向上が、CS向上、そして業績の向上につながる

図表1
小売業・サービス業におけるESの向上とは、一言でいうと従業員に「この会社・お店で働き続けたい」と思われることです。ESが低くて短期離職が絶えず、常に人手が足りないお店や、やる気の無い従業員がダラダラと働くお店では、陳列・クリンリネス・接客・レジ対応など、あらゆる面で目にみえるほころびが出てきます。

一方、従業員がやりがいを持って働き続けているお店は、採用コストが抑えられるだけでなく業務への習熟による生産性の向上や、サービスのレベルアップにつながり、顧客の集まるお店になっていきます。つまり、ESの向上は、CSや業績を向上させるための必要条件になります(図表2)。

図表2 ESの向上がCS、そして業績の向上につながる

今回のES調査は、ウイルベース株式会社の協力を得て、2017年5月~8月の期間、DgS(ドラッグストア)の従業員を対象に、無記名式の「Webアンケート」を実施しました。回答数は2万3,044人です。

アンケートの設問は図表3の通りです。「総合満足度」と、「従業員満足度(ES)を構成する6つのカテゴリー」の2種類に大別されます。「総合満足度」は総合的な満足度を表しますが、本件ではこの総合満足度を「当社/当店で働くことを友人、知人といった身近な人にどの程度勧めるか」を問うことで判断します。「全く勧められない」から「大いに勧められる」までの10段階で回答してもらいました。

一方、「従業員満足(ES)を構成する6つのカテゴリー」は「全社・店への理解」「顧客・社会」「業務知識・スキル」「人間関係」「処遇」「就労環境」に分かれており、さらに詳細な構成要素(全部で31)に分かれています。各要素に対して「そう思う/ややそう思う/あまりそう思わない/そう思わない」の4段階で回答する形式です。

図表3 ES調査の設問・選択肢一覧

カテゴリ 設問内容
雇用形態 (1)あなたは次のうちどれに該当しますか?
総合満足度 (2)当社/当店で働くことを友人、知人に勧めることができますか?
会社・
店への理解
(3)私は、会社の理念や店の目標を理解している
(4)上司は、会社/店の方針や決定事項をタイムリーに伝達している
(5)店の計画達成や課題解決に向けて、店の全員が協力して取り組んでいる
(6)店の計画達成や課題解決に向けて、本部/上司からの支援が常にある
顧客・社会 (7)店は近隣の地域や社会に貢献している
(8)店は、仕事のやりやすさや業績を意識するだけでなく、お客様に合った商品・サービスを提供している
(9)店の商品・サービスを友人、知人に自信をもってお勧めできる
(10)お客様は、店が提供する商品・サービスに満足している
業務知識・
スキル
(11)仕事を通じ、自分の長所や個性が発揮できている
(12)割り当てられた仕事については、上司やお店の仲間から信頼され任せてもらっている
(13)以前の自分と比較し、成長できている
(14)店には手順書やマニュアルなどが整備されており、仕事をスムーズにこなすのに役立っている
(15)本部/店はスキルアップのための研修や勉強会などを提供してくれる
(16)上司は優れたスキルや知識を持っており、部下を的確に指導している
(17)自分は、店の仕事をするのに十分なスキルや知識を持っている
人間関係 (18)私は仲間(上司や部下等)が仕事上で困っていたら、積極的にサポートをしている
(19)周囲(上司や店の仲間)に期待されている
(20)上司とは定期的に仕事内容や将来のキャリアについて話す(または面談する)機会がある
(21)上司は一方的に指示するだけでなく、自分の提案や意見も聞いてくれる
(22)私は部下(業務上の指示をする社員、パート・アルバイト等を含む)と定期的に仕事内容や将来のキャリアについて話すようにしている
(23)私は正社員、パート・アルバイトを問わずお店のすべての部下(業務上の指示をする社員、パート・アルバイト等を含む)に対して公平に接している
(24)私は部下(業務上の指示をする社員、パート・アルバイト等を含む)に対し、一方的に指示するだけでなく本人の意見も聞くようにしている
処遇 (25)自分の能力・仕事内容に見合った給料である
(26)給料は公平に決定されている
(27)上司から、仕事において良かった点、至らない点、今後努力すべき点などについてのフィードバックを定期的に受けている
就労環境 (28)店は明るく活気がある
(29)店は働きやすい環境(仕事場の適度な広さ、休憩室の有無、安全衛生面等)や設備(仕事やサービスで使う器具、空調設備等)が整備されている
(30)仕事量は自分の能力と比較し、適切である
(31)休暇や勤務シフトを決定する際、希望を考慮してもらえる
(32)サービス残業を強要されることはない
(33)お店でハラスメント(セクハラ・パワハラ)は発生していないし、発生したことを聞いたことがない

総合満足度の最低評価で1をつけた従業員が1割もいた

今回のES調査の結果では、「全体の調査結果」だけを紹介します。月刊マーチャンダイジングの特集では、正社員、非正規社員、薬剤師の3階層ごとの傾向も分析していますが、長くなるのでMD NEXTでは割愛します。

3つの階層すべてを含めた全体の調査結果では、総合満足度は10段階評価で平均は5.20、標準偏差は2.52となり、比較的バラつきが大きくなる結果となりました(図表4)。「5」と回答した人の割合が一番高く21.5%、最高の「10」(大いに勧められる)と回答した人が6.7%である一方で、最低の「1」(全く勧められない)と回答した人が10.0%もいたことは大きな経営課題です。これは、現在働いている従業員の中で、「当社/当店で働くことを友人、知人に全く勧められない」という回答者が相当割合いることを示しています。彼らのESを向上することは、顧客満足と業績向上に直結する重要な経営課題です。

次回は、ESを向上し、従業員の定着率を高めるためには、どんな項目を優先的に改善すべきか? 「ESポートフォリオ」という分析方法を紹介します。

図表4 総合満足度回答割合

取引先の貢献度評価によって戦略的協業を

安倍晋三首相は2018年10月15日の臨時閣議で、消費税率を来年10月1日に10%へ予定通り引き上げる方針を表明した。この増税基調による「コストプレッシャー」は生活必需品の販売を商売の核とする小売業にとって、多くの経営施策に影響を与えるはずだ。月刊MDアーカイブスとして、以前月刊マーチャンダイジングに掲載した内容から、製販協業によってこの状況をどのように乗り越えるべきかを示唆する。(月刊マーチャンダイジング2013年7月号より転載)

「安くして」一辺倒の商談スタイルでは生き残れない

ここでは、「マーチャンダイジング」(MD:生産から店頭販売まで一気通貫する生産サイクルの費用対効果を最大化させる制度設計)を切り口に「部分最適」ではなく、「流通全体の最適化」を目指すサプライチェーンの高度化に向けたアクションの概要について説明したい。

マーチャンダイジングを戦略的に、そして効率よく実施するためには、需要管理・供給管理を合理化し、効率的な品揃え・新製品・プロモーション品展開を行うことが重要だ。これまで以上に、小売業はメーカー、卸売業との洗練された協働することが必要となり、会社と会社同士でのビジネスの関係を強化できる商品本部体制と需要管理に不可欠な組織開発が必要になる。

小売業はバイヤー・スーパーバイザー(SV)・物流・ITのメンバーで構成された多機能チームが、キーとなるメーカーとカテゴリー成長へ向けた販売施策を立案・実行し、共同で需要管理を実施し、需要を予測し、店頭欠品の撲滅を実現しなければならない。つまり、製販協働で売場における「売り続ける力」と「売り切る力」を強化することが重要なのである。

そのためには小売業は、全方位外交のように、取引先全部のメーカー・卸売業と仲良く取引しようというスタイルを見直す必要があるのではないだろうか。小売業は自ら活動基準の原価計算(ABC分析:Actived Based Costing)を行い、どのメーカー・卸売業が自社に貢献しているのかを明確にし、戦略的評価を行い、優先順位をつけ、カテゴリー全体の成長へ向けたアクションを行うことが必要なのである。

勢いがあって、将来性も高く予測されるカテゴリーをもっとも理解し、熟知する卓越したメーカー・卸売業と戦略的に協働することによって、コストプレッシャーが高まる今後の経営環境に対応することができる。

かつての小売業の常套句である「安くして」一辺倒では優れたメーカー、卸売業の協力を得られないばかりか、消費者にも見放されるだろう。「安くして」一辺倒の小売業は単品の安売り競争の経験値しか持ち合わせていない。今後の小売業は地域の小商圏にあって最適の品揃えと価格を実現することが求められる。つまり単品の安さではなく、カテゴリーの便利さ、用途機能の豊富さが小商圏においてもっとも消費者を満足させる。

優れたメーカーや卸売企業は、そういう次世代を見越したフォーマットを開発したり、売り方の方法論を突き詰めていく文化を持った小売業と組みたいと考えているのだ。

[図表1]点と点の関係からダイヤモンドモデルへ

製販協働高度化の第一歩はSB/PB開発

製販協働のための具体的な手順に入ろう。

まず重要なことは、メーカーの製造・物流・マーケティング・営業においての「機能フィー」を明確にし、小売業にとってコスト削減と利益増大させるアクションを実践することである。重点メーカーの研究・開発に関しては、利益を高めるために、小売業側から品質の高いメーカーにSB/PB(ストアブランド/プライベートブランド)の協働を積極的にアプローチすべきだ。同時に、メーカーの工場で俗に「ひと窯」にあたる1ライン工程で生産された商品を買い取る契約に基づくビジネスモデルを確立することもお勧めだ。

SB/PB戦略を実施することで、小売業は「物流」や、さらに広義の「ロジスティクス」の意識を高めざるをえなくなる。通常は販促商談において、数量の大小で販促条件を獲得しているが、真のポイントは物流合理化に基づく、整合性のある数量引きをメーカー・卸売業が提示しているかどうかなのである。

たとえば、FTL(Full Truck Load:トラックの積荷満載)インセンティブを考えてみよう。メーカーの大半は、車建てで配送業者と契約している。つまり、このトラックを満載にしたほうが、効率がよいということだ。満載にした分、当然それまでよりコストが浮くのだから、浮いた分を製販でシェアすれば良い。

倉庫(保管)もサプライチェーンにおいて見落とされがちな項目だ。メーカーによっては、保管倉庫料軽減のため、本州より1日遅い着荷を条件とする北海道・九州配送条件がある。また、小売業・卸売業が手配した配送トラックの空車を使って、メーカーの工場に、直接引取りにいった際に、インセンティブを支払うメーカーもある。

返品に関しては、カテゴリーによって、対応を考慮しなければいけないが、「返品削減」を目的に協働する際は、メーカーに無返品契約、もしくは、返品削減インセンティブを交渉することがポイントである。返品している場合の条件と、返品削減させた時の条件は同じはずではない。

これらの事例は、ウォルマートなど米欧のグローバルチェーンやアジア最大のDgSチェーンワトソンもほぼ共通する商談スタイルである。つまり、小売業が日々実施している販売促進商談活動に加え、前述の物流商談をミックスさせ、メーカーに整合性ある物流条件を提示してもらい、利益を確実に上乗せさせているのだ。

第2回に続きます。

注目集めるグレーヘア。変わるヘアカラー市場の「売り方」を見直そう

縮小傾向にあると指摘されるヘアカラー市場だが、人口に占める高齢者の割合は増加しており、白髪染め関連商品にはまだ大きな伸びしろがあるといわれている。そんななか、既存の白髪染めカテゴリーの概念を覆す画期的な商品として、鳴り物入りで発売されたのが花王の「Rerise」だ。同社に、カテゴリーの概況と商品の可能性について取材した。(月刊マーチャンダイジング 2018年11月号より転載)

黒髪ブーム、ロールモデル不在で縮小するおしゃれ染め

美容室におけるカラーメニューの低価格化、カラー専門店の台頭など、近年のヘアカラーを取り巻く環境の変化により、自宅で髪を染める「おうち染め」の市場は頭打ちとなっている。おうち染めは、白髪染めとおしゃれ染めに大別できるが、とくに打撃を受けているのがおしゃれ染めだ。現在のおうち染めの内訳を見ると、8対2と圧倒的に白髪染めが多く、おしゃれ染め市場は、白髪染め以上に縮小している。

「おしゃれ染めのピークは2000年ころで、いまは当時の半分以下。当時は、アムラーブームなどギャル文化が全盛で、髪色も明るい方へ明るい方へと移行していきました。“学校の先輩”など、身近なロールモデルがいて、その影響で茶髪に染めていたケースも多くあったとおもいます。今はメジャーアイドルもほとんど黒髪です。2011年に震災があったことなどもあり、全体的なモードが変わったのだとおもいます」(ヘアケア事業部ブランドマネジャー 入交 剛氏)

白髪染め市場は860億円、50歳以上増加で可能性あり

最直近では、インナーカラー(髪の内側のみ色を入れる染め方)など、自分の髪色を楽しみたい、いろんな色を楽しみたいというニーズは出てきているが、まだ市場としての反応は大きくはない。おしゃれ染めの国内市場は追い込まれつつあり、ヘアカラーメーカーはアジア圏のインバウンドも視野に動いているという。

一方、同社によれば白髪染めの市場規模は推定860億円。全身洗浄料や制汗剤をしのぐ規模がある。高齢化によって、全体の白髪の本数は確実に増えているにもかかわらず、それほど伸長していないのが現状で、生活者の潜在需要を掘り起こす新しい切り口の商品が求められている。トレンドとしては、50歳以上がマジョリティになり始めた社会の中で「白髪があるからこそ」のイキイキとしたライフスタイルを評価する生活者も増えてきており、吉川晃司や草笛光子に代表されるようなグレーヘアにも注目が集まっている。

〈図表1〉自分の外見で気になる点は何ですか?(複数回答)

〈図表2〉
グレーヘアを素敵だと思いますか?(単一回答)

ヘアウェルネス発想で、メラニンに着眼して黒髪を取り戻す

このような状況下で、2018年5月、花王にとって10年ぶりとなる新ヘアケアブランドとして発売されたのが「Rerise(リライズ)」だ。Reriseは、既存のヘアカラーやカラートリートメントとはまったく異なり、黒髪メラニンのもとを定着させることで、自然な黒髪色を取り戻す次世代型白髪ケア商品。新しいサブカテゴリーとして成立させることも可能であろう、画期的なアイテムだ。売上も好調で、5月以降計画比1.5倍で伸びているという。

「Reriseは、ヘアウェルネス発想の白髪ケアアイテムです。黒髪メラニンのもとだけで染めるため、髪に負担がかかりませんし、使うたびにハリやコシが出ます。髪にとっていいことをした結果として、色が変わる。髪の傷みとのトレードオフではありません。白髪のケアを健康軸で打ち立てた、まったく新しいブランドです」(入交氏)

Reriseは、酒造メーカーの酒蔵で見つかった、発酵過程で生まれる黒い麹をヒントに開発された。黒髪と白髪の違いは、メラニン色素の有無にある。色素が足りないなら補えばいいというのがReriseの考え方だ。

同商品に配合されている黒髪メラニンの素は、マメ科の植物から抽出した100%天然由来の着色成分で安全・安心。使うたびに、髪表面に定着し、自然な黒さを補っていく。

〈断面図〉

黒髪と白髪の違いは、メラニンがあるかないか

3回の使用で色づき定着、グレーカラーにも対応

白髪が自然に色づくまでには、まず3日間使用する。使い方は簡単で、お風呂場で髪に塗り、5分後に流すだけ。定着した黒髪メラニンのもとは基本的にはとどまるため、その後は生えてくる白髪のケアのために使用する形だ。花王は1週間に1回のケアを推奨している。商品1本の容量は、ショートヘア(女性)4回分。1本購入すれば、いま生えている白髪全体をカバーできる。

「髪のメラニン色素に着目した新発売の技術、これを事業として生産ベースに乗せることができるのが弊社の強みだとおもっています」と、入交氏は自信をのぞかせる。

高齢者でも持ちやすく、押しやすく、濡れた手でも滑りにくい素材で持ち手を設計。湿気のあるお風呂場でも長期間衛生的に使えるよう、容器デザインにも細部までこだわった。商品は「リ・ブラック」「グレーアレンジ」の2色。それぞれ、仕上がりの異なる「まとまり仕上げ」「ふんわり仕上げ」と、1.2倍量の「つけかえ用」の全8SKUをラインアップする。

〈使い方〉

シャンプー後、髪の水気をよく切って使用する。使用量はピンポン玉大。 容器は濡れた手でもすべりにくく、軽く押すだけでクリームが出るため、高齢者でも扱いやすい

〈使用イメージ〉

リ・ブラック
グレーアレンジ

白髪染めのストレスフリー、男性ユーザーの拡大にも

〈図表3〉
白髪染めはいつまで続ける予定ですか。(単一回答)

同商品でもうひとつ注目すべきは、これまで生活者が感じてきた白髪染めにまつわるストレスを解消するストレスフリーアイテムとして登場した点だろう。生活者は、染めても伸びてくる白髪を憂鬱におもい、染めるたびに髪や頭皮へのダメージに不安を抱く。白髪を染め続けるストレス、うまく染められないストレス、やめるにやめられないストレスにもさらされている。

Reriseは、これまで置き去りにされていたこれらの生活者ニーズに寄り添った商品といえる。「グレーアレンジ」は、白髪を染め続けるストレスからの卒業、白髪をキレイに見せる楽しさへのスイッチにもなり得る。また、ビューティではなく、ヘルスケア視点で開発することで、男女関係なく使用しやすい仕上がりとなっている。夫婦で使用することで、女性よりも白髪染めの意識が低い男性も、今後ユーザーとして拡大していきたい構えだ。

「配荷先には、全8SKUを揃えて置いていただくことを基本としてお願いしております。いくら画期的な商品でも、情報発信をしなければ価値が伝わりません。テレビCMも、15秒ではなくBSを中心に長尺で、シニアに届きやすいよう新聞雑誌など活字の媒体でも展開しています」(入交氏)

店頭では、リーフレットなども設置し、引き続き積極的に展開していくという。停滞するヘアカラー売場を活性化させるきっかけとして、同商品を活用しながら、ユーザー目線の見やすく選びやすい売場づくりをいま一度見直してみよう。

取材協力

コンシューマープロダクツ事業部門 ヘアケア事業部 ブランドマネジャー 入交 剛氏

図表1~3:現在白髪染めを行っている40代から70代の男女500人を対象にした白髪染めに関するアンケート(WEB調査、調査期間:2018年5月25日~5月30日)

新店出店から棚割分析まで、広がる商圏調査の適用範囲

ライフスタイルや買物行動がより複雑化している現代。単純な人口の増減や年齢・性別の属性だけによる商圏調査では、次の一手につなげにくくなりつつある。たくさんのデータをどう次の施策へとつなげるか。商圏調査の潮流は「数の予測」から「関係性の把握」へと移りつつある。(月刊マーチャンダイジング 2018年11月号より転載)

関係性を理解するための商圏調査

人口が増えている時代の商圏調査は、人口が増えている場所を探し、そこに出店をする「店舗開発」のためだけのものだった。当時は、開発が終わったあとは商圏について気にすることはなかった。

しかし、「かつて商圏分析は出店余地のある隙間を見つけるための手法でしたが、現在は顧客との関係性を理解するための手法となりつつあります」と大型商業施設のデベロッパーや電鉄会社などをクライアントに持つ、商圏調査会社ジオマーケティングの酒井嘉昭氏はいう。商圏の中にどのような人が住み、どのようなコミュニティがあるのかを理解することは、どのような店舗運営を行い、品揃えを提供していくのかにもつながる(図表1)。

図表2は、店舗売上げを説明するときに考慮すべき空間スケールとその観測ポイントについてまとめたもので、ピラミッドの底辺から読み解く。「だれがどこに住んでいるのか」「その人はどのような経路を経てあなたの店に来ているのか」という質問に正確に答えるためには、「商圏」→「立地」→「施設・店舗」→「オペレーション」の順番で観察する必要がある。業種・業態によって注目すべき空間スケールの違いはあるものの、その関係性は共通している。また、影響の大きさはピラミッドの底辺にいくにつれて大きくなる。

図表3には、商圏調査で活用できるデータについてまとめた。国勢調査や商業統計・経済センサスをはじめ、アンケート調査、ECサイトのデータ、SNSのデータなど、利用できるデータの量は膨大な量に増えつつある。

サザエさんは「富裕層ファミリー地区」に在住!?

しかし、いくら膨大なデータがあっても適切な切り口で分類することができなければ業務に利用することは不可能だ。

そこでジオマーケティングではジオデモというデータベースを作成し、無料で公開している。国勢調査のデータや、独自調査データなどを基に、日本中の地域を10グループ(図表4)74セグメントに分類したものだ。

たとえば、ジオデモの分類によれば、サザエさんは「②富裕層ファミリー地区」に住んでいるのだという。「都心近郊に広がる閑静な住宅街の富裕層資産家ファミリー」という説明は、東京・世田谷区に持ち家がある磯野家(とフグ田家)の設定にぴったりだ。一方、ちびまる子ちゃんは静岡県清水市(現在の静岡市清水区)在住。「⑤メーカー勤務ファミリー地区」に住んでいると考えられる。製造業などの第二次産業に属する勤労者の比率が高く、高校を卒業すると地元に就職する人が多い。生活には車が必需品、という地区だ。

このジオデモを活用することで、居住者の趣味嗜好や買物パターンを直感的に組織内で共有することができる。土地勘がない人でも共通の物差しを持つことができるツールといえよう。本サービスは会員登録すれば無料で利用できるので、だれでも自店舗の周辺を調査することができる。

商圏人口より「関係人口」が重要

酒井氏は、商圏人口の動向も重要ではあるが、今後は「関係人口」をもっと考慮すべきであるという。「人口は減少し、地方の商業は成立させるための難易度がより高くなります。そのなかで重要になるのが関係人口です」。

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指す。

酒井氏が「関係人口」を考えた事例のひとつとして挙げるのが、岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」だ。地域がプロジェクトを立ち上げ、複合商業施設をつくり、都市と農村の新しい結び付きを創造しようとしているというものである。

また、千葉県鴨川市は「里のMUJIみんなみの里」という総合交流ターミナルをつくり、良品計画がその運営をしていて、いずれも人口減少が進む地方の中で好調に機能しているという。「関係人口」という概念は一般には地方活性化の流れで使われるものだが、小売業にも同様の考え方を転用することができるはずだ。

「現在はだれのためのものでもない店がどんどんできてしまっています。しかし大切なのは、店がどのような関係性を地域の住民とつくっていくかです。だれのためのコミュニティをつくるのか、だれのための店をつくるのか。たとえばドラッグストアであれば時間もお金もあり、ウエルネスに対して関心が高い高齢者に対して、滞在時間を長く、よりゆっくり過ごせるような業態を開発することができれば、これまでより関係性を深めることができるかもしれません」(酒井氏)

機械学習を活用し棚割変更後の売上を予測する

そこで目を向けるべきが「地域コミュニティ」であると酒井氏はいう。

「商圏はもともと『コミュニティ』です。そして、商圏がターゲットを決めます。ターゲットを決めるためにはセグメントに分けなければなりません」

ただ、いくら商圏のコミュニティに最適化するといっても、個別店舗ごとに違ったオペレーションをするにはコストがかかりすぎる。細分化しようとすればいくらでも細分化できるが、人間がオペレーションできる粒度には限界があるからだ。いくつかのグループに分類してコミュニティも品揃えも分類していくべきだ。

膨大な情報をどのような軸で分類していくべきか。そんなときに有効なのがAIの一種である「機械学習()」の活用だ。

機械学習はパターン認識に優れている。人間にはできない数多くの繰り返しを実施する問題に非常に有効だ。変数が数百あるようなデータを、数十万回の試行錯誤を繰り返しながら分析をすることができる。

たとえば、売場構成の変更によって、売上がどう変わるかを、実店舗で実際にレイアウト変更して実験し、適正な売場構成を探るのは難しい。

そこでロイヤルホームセンターは、既存店の実績データから、機械学習の方法を応用して売場構成を変更したあとの売上をシミュレーションするモデルを構築した。実際の店舗レイアウトを変更しなくても、システム上でどのような売場構成が売上を最大化できるか検証することが可能になった。工具類を取り扱う売場、木材やコンクリートなどの資材を扱う売場、園芸用品を扱う売場など、6種類の売場構成を自由に変更しながら売上予測を行う。

このような手法を活用すれば、商圏に住む人のコミュニティと、売場の品揃えを連動させることも可能になってくる。機械学習による分析は、インターネット上のSNSのデータ分析や、アンケートの分析などにも有効だ。まだまだ小売業はデータを活用して高度化することができるのである。

酒井氏はいう。「過去のデータから学べば大きな失敗もありません。安全な投資ができれば、より積極的な動きもできます。しかし、データは未来をつくるわけではありませんから、斬新なアイデアは、人間が考えるべきです。そしてそれがうまくいったら横展開をする。そして再度データで検証をする。そのようにすることで新たな需要を発見・創造しながら経営の精度をより上げていくことができます」。

※コンピューターがデータから反復的に学習し、そこに潜むパターンを見つけ出すこと。そして学習した結果を新たなデータに当てはめることで、パターンに従って将来を予測することができる。
ジオマーケティング株式会社 代表取締役 酒井嘉昭氏

 

自宅で「在庫」と「商品情報」を確認できる「ホームデポ」のオムニチャネルの凄さ

11月中旬に、第3回オムニチャネル体感ツアーに行き、「買物体験の質の向上」のためのネットとリアルの融合の最前線を取材してきます。今回は、昨年11月のツアーで体感した「ホームデポ(米国最大のホームセンター企業)のオムニチャネルをリポートします。

在庫、陳列場所、商品情報を一元管理するホームデポ

ホームデポは、この10年間、店舗数はほとんど増えていません。少し古いデータですが、2010年2,248店に対して、2015年は2,274店と店舗数は横ばいです。しかし、売上高は2010年680億ドルに対して、2015年は890億ドルと、約25%も売上を増やしています。

写真1

店舗数は横ばいなのに、売上を大きく増やした理由は、(1)リフォームなどの物販以外の事業の売上が増加したことと、(2)オムニチャネル化で買物体験の質を向上させ、既存店、既存顧客の売上を増やしたことの2点です。今回は、ホームデポのオムニチャネル化による顧客満足向上の最前線をリポートします。

消費者がリアル店舗に来店して最も怒ることは「欠品」です。わざわざ時間を使って来店したのに、欲しい商品が欠品していたら、消費者はその店への信頼を失ってしまいます。店に行く前に在庫の有無を確認したいというのは、永遠の課題でしたが、ITの進化によって自宅に居ながら在庫確認ができるようになりました。

写真2

ホームデポのアプリ(写真2)をスマホに入れて、画像認識システムを立ち上げます。そして、欲しい商品の現物、カタログ写真、パソコンやテレビの画面など何でもいいので、画像スキャン(写真3)すると、その商品を認識します(写真4)。そして、写真4の中央の「Find it Aisle」の部分をクリックすると、近くのホームデポの店内のどの場所に、在庫が何個あると表示されます(写真5では75個)。平面図だけでなくて、立体図でも表示されます(写真6)。

消費者が、「欠品」をもっとも嫌がるように、どんな業態であっても、来店客にもっとも聞かれることは、「この商品はどこにあるのですか?」という質問です。欠品が事前に分かればいいのと同じように、商品の場所が事前にわかれば、買物体験の質は大きく向上します。

ホームデポの店内には「FIND IT FAST」(写真1)というボードを掲示し、「あなたの欲しい商品がすぐに見つかりますよ」ということを積極的にアピールしています。

在庫情報に関しては、ほぼリアルタイムで更新されており、ツアー参加者が試しに、その商品を買物してみたところ、20分後には写真5の数字が1個減っていました。ホームデポはネット販売も行っており、この在庫管理を可能にするためには、ネットとリアルの「在庫データ」「位置データ」「販売データ」を一元管理することが必要十分条件になります。

商品の口コミ、商品説明動画もアプリで確認することができる

自宅で商品検索した結果、欲しい商品の在庫がゼロの場合は、その場でアプリを使って注文することもできます。自宅への配達も可能ですが、配送料が高いので、ほとんどの顧客は店舗受け取りを選ぶようです。ウォルマートの「ピックアップタワー」のような店舗受け取りの無人化はせず、あえて有人のカウンターで接客しながら商品を渡すという「リアルな買物体験」を残しているのも、ホームデポの顧客満足の向上につながっています。

写真4の画面では、その商品の口コミやレビューも見ることができます。ネットとリアルの買物体験を融合させていることがわかります。また、写真4の画面の右上の矢印をクリックすると、この商品の使い方や特徴を短時間で解説した「動画」を見ることができます(写真7)。自宅でも動画を見ることができるし、ホームデポに来店した際に気になった商品を画像認識すると、その商品を解説した動画を売場でも見ることができます(写真7)。

HC(ホームセンター)で取り扱っている商品は、使い方のわからないものも多く、POPや接客をサポートしてくれる非常に便利なツールとなっています。2年前は、取扱商品の50%くらいの商品で動画を見ることができましたが、1年前は70%以上の商品の動画を見ることができるようになっていました。増えているということは、売上増に効果があるということだと思います。

メーカーにとっても、商品の「理解度」を高める有力な「店頭メディア」として活用されているようです。「店頭のメディア化」は、日本でもこれから訪れる未来だと思います。

写真7

店頭で画像認識した商品の使い方動画を見てみた。

[PR]「純白専科」と「洗顔専科」の同時展開で“ワンランク上のすっぴん”提案!

2018年9月に登場した専科の新スキンケアライン「純白専科」が好調だ。特にEC先行発売した「すっぴん白雪美容液」はよい売れ行きを示しており、各種口コミランキングでも1位を獲得するなど、注目を集める。背景にあるのは肌からくすみを取りのぞきたいニーズや、「すっぴん」への意識の高まりだ。

「すっぴん白雪美容液」のECでの先行発売で高評価

EC先行発売した「すっぴん白雪美容液」が女性向け化粧品サイト「iVoCE」の美白部門、乾燥部門で1位を獲得(2018年8月)するなど好評だ。

メイクのトレンドはナチュラル志向になりつつあり、美白、くすみケアはより日常的となってきっている。それにともない手軽な価格帯で効果が期待できるアイテムへの重要性が増している。

純白専科は期待値の高いスペシャルケア「すっぴん白雪美容液」をキーアイテムに多様なニーズに応える商品ラインナップを展開。

それぞれ1アイテム使用でもスキンケアが完結できる多重機能を持ち、時短などお手軽ケアにも対応、アイテムを併用することでしっかりとケアしたいときにも対応できる。“自分の”、“その時の”ニーズに合わせたお手入れができる。

図表1 純白専科の商品ラインナップ

純白専科の商品特長

m-トラネキサム酸と天然由来成分を配合

シミ・ソバカスの無い、みずみずしくうるおった透明感にあふれた明るい肌を目指す女性のために、純白専科は資生堂のスキンケアサイエンスと日本古来の天然由来美容成分で肌本来の生まれ変わりをサポートする(ナチュエンス処方™)。

まず、m-トラネキサム酸が、シミが気になるスポットのメラニンの過剰生成を抑制。加えて、米ぬかエキス、はちみつ、白まゆエキスなど、日本古来の天然美容成分がうるおいを与え、肌の健やかさを保ち、肌本来の生まれ変わりを促し、シミのもととなるメラニンをため込ませない。さらに美容液はよもぎエキスによって、頑固なシミのもとを排出する。

秋から冬にも“美白ケア訴求”が効果的!

年間を通じた美白ケアが必要

「美白」に対する需要は紫外線量が増える夏場に向けて高まるというイメージが強い。しかし肌内にとどまるメラニン量は春夏だけではなく秋冬も引き続き高く、年間を通じた美白ケアが必要だ(図表2)。初夏から盛夏にかけて対策するだけでは足りず、常日頃からメラニンを作らせない、ため込ませない体質作りが重要になる。

図表2 メラニン量と紫外線量の関係

出典・資生堂調べ

2,000円以下のセルフスキンケア市場においては、秋冬の美白市場が成長しつつあり、(図表3)今後通年美白の浸透により、さらに成長の可能性が見込まれる。

図表3 セルフスキンケア市場秋冬期美白市場(金額)

出典:SRI-M化粧品(小売店)集計期間:2013/4/1〜2018/3/31(積上)─拡大推 計値セルフスキンケア2,000円以下

「純白専科」は“美白”だけでなく、乾燥ニーズにも対応する保湿効果を兼ね備えており、季節を問わず“ワンランク上のすっぴん”を提案。これからはじまる秋冬シーズンにもお客さまからの支持を集めること間違いない。

売場展開

「純白専科」「洗顔専科」をエンドで同時展開

「純白専科」は秋からブランドモデルに人気急上昇の女優、吉高由里子さんを起用し、メディアプラン、店頭販促物を連動訴求し、ブランド登場を強力にアピールしてきた。それに続き圧倒的認知度をほこるパーフェクトホイップの洗顔専科にも登場。2つの専科を結び、“ワンランク上のすっぴん”の訴求認知を高める。

洗顔専科の認知度をフックに純白専科の併売をねらいとする同時多面展開で、よりインパクトある売場づくりを目指そう。たとえばエンドでは上段に純白専科、下段に洗顔専科の上置き販売台を陳列し、視認性を高める。サイドネットやすきま展開には吊り下げ販売台を使用。お客様のブランド認知を促し購買につなげることができる。2つの専科の展開で、年間を通した美白ケアの重要性を店頭から発信し、通年美白とワンランク上のすっぴんを提案していこう。

画像1 吉高由里子さんのメインビジュアル

画像2 洗顔専科と純白専科

画像3 サイドネット・吊り下げを活用した多面展開の例

吊り下げ、サイドネットを活用した同時多面展開で「すっぴん白雪美容液」↔︎3つのパーフェクトホイップ単品からの併売促進

画像4 エンド展開での活用イメージ

メディアプラン連動訴求の多様な販促物例

・ブランドサイトURL : http://www.hada-senka.com/

重要ポイントのまとめ

  • 純白専科は「美白」と「保湿」を両立。
  • 秋冬シーズンもエンド、多面展開でお客さまへアピールすることで秋冬の美白市場の成長を促す。
  • 洗顔専科の認知度を有効活用し、併買を促す売場づくりがポイント。

購買意欲を高める「健康志向」「価格訴求」POP実例

編集部が見つけたPOPの実例紹介、後編。今回は健康訴求と、価格の強調などに関するものを紹介する。(月刊マーチャンダイジング2018年11月号より転載)

前編の記事はこちら

ヒント3:健康志向

健康軸は食品を選ぶ際の選択基準のひとつになる。どのように健康によいか、具体的な情報を付けることで、購買される可能性は高まる。

朝の減塩

シリアルのひとつであるフルーツグラノーラのエンドボード。一般的な洋食、和食の朝食と比較して塩分が少ないことを訴求している。簡単、時短、消化のよさなどいくつか切り口があるなかで減塩で切っている。一般食品のなかでも切り口を考えれば健康訴求できる商品は意外にある

健康診断の結果とリンク

青汁のエンドプロモーションのトップボード。成分や効能効果を訴求することも有効だが、「健康診断の結果」と紐付けることで、責任世代の心はぐっと動く

グルテンフリーとは

グルテンフリーは流行の言葉だが、それは何かと問われると、答えに困る。麺、パスタ類の売場でグルテンフリーを説明

スポッター活用

低カロリー、機能性表示食品、低脂質など健康要素をスポッターで表示。日常に使う商品で、どのような健康志向の要素があるかわかりやすい

ヒント4:価格訴求、うまいいい回し

お得に買物できることは、消費者にとって楽しさであり、それがすべてではないが、小売チェーンは安売りの勝負から逃げることはできない。いかにお得か、低価格かを訴求することは行動を変える。ほか、表現に工夫のあるPOPも紹介。

一期一会商品

フレグランス特価のPOP、「次回入荷が未定」とある。限定商品、スポット商品がゆえの安さなのだろう。この表現は安さを引き立て、行動を促す効果がある

正直な説明

食品の見切りワゴン販売。「賞味期限が近いため」という正直なPOPは納得感を引き出す。買物客には、見切り商品は売れ残り商品という認識はあるが、正直に説明されると安心できる

子供への希望

学習教材、文具コーナーに「ハカセのタマゴ」のカテゴリーサイン。好奇心や学習意欲のある子供を応援する気持ちが感じられる。お金を出す立場の親、大人の心に刺さる

言い過ぎくらいの強調

スポーツ用品売場「シューズ界のロールスロイス!!」のPOP。あるブランドに付けたものだが、ちょっと言い過ぎくらいの褒め言葉、たとえが心を引く。○○界の○○という表現はよくあるが、強調したいときには効果的な表現だろう

「使用機会提案」POPや「認知促進」POPで心を動かし購買につなげる

ここでは、実際に編集部がまちで見つけた行動を変えるPOPを紹介する。いくつかの切り口ごとに紹介しているので、自店、自分の担当カテゴリーでの情報発信の参考にしていただきたい。(月刊マーチャンダイジング 2018年11月号より転載)

ヒント1:使用機会の提案

膨大な情報があるなかで、購買行動へと促す手段のひとつは「こういう使い方があります」「こういう理由で商品が必要では?」といった使用提案である。納得すれば購入するし、考えていなかった、知らなかったが確かにそのとおりとおもわせられれば購入チャンスは格段に広がる。

時期への気付き

「さぁ、新学期が始まります」のPOPのもとで上履きをプロモーション販売するコーナー。定番にもあるが、シーズン期に大量販売が期待できる商品を売る「コレクション特売」。新学期の始まりをおもい出させると同時に、「さぁ」という行動を促す最初の言葉が効いている

いましかできない

取材時期は8月、夏休み、お盆と帰省、家族が揃う機会が増えるシーズン。家族揃っての「焼き肉パーティ」を提案している。夕飯で悩む料理のつくり手にとって背中を押されるPOP。「おかえりなさい」という言葉は、人の心を開いて、商品に感情移入しやすい言葉である

マルチ機能、万能性

使い勝手がよく、複数の用途を満たせる商品を具体的に使用提案すれば、購買行動を促すきっかけになりやすい。紹介しているPOPではピザを朝食、おやつに使えることを訴求。「明日の朝食で余ればおやつに」といった心理を期待する。ソーセージは煮る、焼くどちらでもおいしく、用途が多いことを訴求

替えどきはいま

キッチンの蛇口につける濾過器。交換、買い換えが必要なことはわかっているが、日常の使用のなかでそれほど切実に交換、買い換えの必要性を感じない商品はある。蛇口の濾過器のほかにひげそりの替え刃、ハブラシなどが該当する。「定期交換で〜」のワードは必要性を想起させる

ストレートな呼び掛け

昔からお茶漬けは時間のないとき、お酒を飲んだ締めに食べる日本のファストフードだった。時間のないときといえば、朝食が一番該当するとおもわれるが、ササッとお茶漬けを食べようという訴えはストレートに心に響く。「ササッと」という擬音も感情に訴える

ヒント2:サービス・商品内容の認知促進

いくらメーカーが懸命に開発しても、小売業が画期的な新サービスを考えても、現代は商品やサービスがありすぎて、自分に合ったものと出合えないままでいることは多い。商品、サービスの特徴を端的にわかりやすく表現する、案内するPOPが来店客とのマッチング(引き合わせ)を手助けする。

新サービスで新ニーズ開拓

総菜は基本つくり置きなので、便利だが新鮮さに欠けるというのが一般的なイメージだ。この食品スーパーでは店内にある鮮魚を天ぷら、フライ、唐揚げ、塩焼きの4つの調理法で総菜にしてくれる。中食と自炊の中間を狙ったサービスは知れば需要増の可能性はある

心細かなペットケア

ホームセンターの犬のシャンプー、グルーミングに関する案内POP。この店舗では犬のシャンプーや爪切り、耳掃除、デンタルケアなどのグルーミングを請け負う。犬の皮膚のカウンセリングとシャンプーのセット、グルーミングの3点セットなど、お得で専門性の高いサービスを告知。細かいサービスだが、店舗のロイヤルティーを上げるのに効果的な内容

除草剤の選択基準

アマチュアにとって除草剤の種類選びは難しい。このPOPでは「種類」「使い方」「持続性」「枯れ始め」「草丈」「特長」6項目で説明している。商品の特徴を切り分けて、比較できる案内をすることは、難しい商品のトライアル購入(初回購入)につながる

特徴をビジュアルで強調

首掛け式でパス部分が伸びるパスケースのPOP。身分証明書、定期券、入館証などを入れることが多いが、自動改札などはパス部分が伸びると便利。伸びないことで不便を感じているという潜在的ニーズもあり、写真一発で特徴を見せる表現は気付きやすいので、ニーズ開拓には効果的

多品目をコンパクトに説明

ヘアカラー売場はアイテム数は多いが、特徴や違いがわかりにくい課題の大きな売場だ(特別企画参照)。この売場は、ブランド、サブカテゴリーごとに商品特徴をコンパクトに説明している。手間はかかるが商品を探している人にとって購買につながる情報になる

比較で推奨商品を引き立てる

昔から伝統的に愛用されている婦人薬の2大ブランドの比較。推奨商品の方がライバル商品よりも優れていることを比較情報でアピールしている。新規客の獲得が必要な商品なので、比較することで具体情報も発信できて、ニーズ開拓にもつながる

新しい言葉で親近感

ディスカウントストアでの「パッケージサラダ」のプロモーション。定番のチルド什器をブロッキングすることで演出。パッケージサラダとは、カットした野菜で1種類の単体ものから複数種のミックスものまである。カット野菜という表現をパッケージサラダに変えることで、おかず感が増して、より食卓に近いイメージを与える

飲むタイミング

プロテインを飲むタイミングを4つに分けて解説。プロテインのヘビーユーザーには周知の事実だろうが、これから使用を考えている層には、商品の特徴や潜在能力を伝達する内容になっている。プロテインというカテゴリーの新規客獲得に有効なPOP

覚えきれないなら写メで

衣料用洗剤、洗濯用品売場で、洗濯する際の注意事項の表示が変わったことをPOPで案内。かなり細かいので、写メで撮影して資料にしてもらうという想定だろう。必要な資料はスマホで写真に撮って持ち帰るという習慣も広く普及しているので、この流れも考えるべきだろう

「スポーツ」「衣料」「健康」強化のMEGAドン・キホーテ船橋習志野店

2018年8月31日「MEGAドン・キホーテ船橋習志野店」(以下、船橋習志野店)がオープン。近隣にはマラソンロード、サイクルロードなどがあり、商圏の中はスポーツ、健康維持の需要が高い。こうした立地環境を考え、船橋習志野店ではスポーツ関連商品を充実させ、地域の特色に対応している。(月刊マーチャンダイジング 2018年11月号より転載)

広域で見ると潤沢な商圏人口

店舗のある千葉県船橋市の人口は約63万人、南は習志野市(人口は約17万人)、東は八千代市(同20万人)、北は鎌ケ谷市(同11万人)と接しており、動線などを配慮して、どこまでを商圏と捉えるかだが、広域で20万〜30万人は想定できる潤沢な商圏人口を持つ。周囲には各種業態取り混ぜてチェーン企業の店舗が多い(図表1)。

一方で、店舗周辺は自衛隊の駐屯地と多数の工場があり住宅が少ないことから、日用品や食品など生活必需品の購入者が住む商圏、いわゆる一次商圏の人口は少ない。

「一次商圏の人口が少ないのですが、食品スーパー(SM)が多数あることから、生活必需品を主力とする業態が成り立っていることがわかります。当店も食品、消耗品で一次商圏を取り切って、18時以降、車でご来店のお客さまニーズを取るという商圏の考え方で店を構えています」(New MEGAドン・キホーテ東日本営業本部第2支社支社長佐々木雅法氏)

こうした立地条件から、消耗品、食品をベースに、広域商圏を対象にしたドン・キホーテが得意とする非食品をいかに販売するかが実績を挙げるカギになる。

収益性の高い非食品は日々の買物の中で記憶に残す

船橋習志野店はスポーツ用品店を居抜きで改装してオープン、建物の構造上生鮮食品を扱うバックヤードのスペースがなく、あえて生鮮のための投資をせず、食品部門は主食も賄える日配、冷凍から、調味料、菓子などの加工食品、酒などで構成している。

食品と並んで集客の柱である消耗品は、パーソナルケア(ヘアケア、ボディケアなど)、ホームケア(衣料用、住居用、台所用など)を中心に低価格で販売。

ドン・キホーテは自社のフォーマットを図表2のように分類しており、船橋習志野店が属するNew MEGAドン・キホーテは生鮮食品を抑え衣料を強化していることが特色だ。

同店では衣料品の中でもとくにスポーツ衣料に重点を置き、通常の店舗よりはビジネス、カジュアル衣料を抑えめに品揃えしている。個店の商圏事情に合わせ細かに品揃え、売場レイアウトをカスタマイズできることも同社の強みである。

スポーツ関連商品以外にも、化粧品、インテリア、家電などで、同社が信条とする「ワクワク・ドキドキ」を感じられる商品が充実。人口潤沢な広域商圏からの集客を見据えた店づくりをしている。

「入り口を入って時計回りに進んで、非食品の売場を見ていただき、最後の方に消耗品、食品があるという売場レイアウトにしています。非食品は今日買っていただかなくてもよい、何回も来ていただき、あそこにあの商品があったと記憶に残してもらえればいいのです」

食品、消耗品で集客し、何回も来店するなかで、ドンキお得意の「面白商品」「お買い得商品」(非食品)をお客の記憶に残し、最終的には購買につなげる。こうした意図が明確になった売場レイアウトである。

入り口入って左トレーニング用品コーナー。この店舗の特色を印象づける
入り口から正面、最初に出迎えるのはシーズンイベントコーナー。取材時は驚安のお菓子とアウトドア用品を展開
ドン・キホーテのプライベートブランド(PB)「ACTIVEGEAR」のコーナー。ACTIVEGEARはスポーツ、アウトドア関連のPB、ここでは主に衣料品を扱う
天井板を取り除いて高さを使ったディスプレーをしているのもこの店舗の特徴
自転車は運動、生活に欠かせない地域密着型カテゴリーの一つ。周囲にはサイクリングロードもある
通路は真っすぐにせず、あえて曲線を出して次の商品に出合うまでの期待感を高める
アジアのエスニック小物売場とフレグランス売場を隣り合わせで展開。趣味の世界を追求
アジアエスニック小物はドン・キホーテらしいカテゴリー。シンプルでアナログな世界は若い女性を中心に人気
化粧品売場つけまつげのフック陳列を面で展開。カラコン売場と隣接しており、アイメイクを強化
驚安のクッションファンデ、75%オフで500円
洗濯洗剤売場、「驚安プライス大集合!」のPOPの下で2段式のピラミッド型の什器で大量陳列
消耗品の売場では「毎日使うものだから」というPOPを複数箇所で展開。日常的に使う商品を厚く安く揃えていることを訴求
お菓子売場も低価格と大量陳列で買物客にアピール。POPには「スナック山脈」とあり、文字どおり山積みをウリにしている
和日配のコーナー、什器上のPOPのフレーズはよく考えられている
冷凍食品のコーナー、和日配同様什器の上でPOP展開。楽しさを演出

与えられた権限をいかに活用するかが重要

取材に対応していただいた佐々木氏はドン・キホーテに新卒採用で入社、勤続23年のベテランである。同社内でいかに小売業従事者としての腕を磨いてきたかを聞いた。

「当社は実力主義、成果主義の側面が大きいです。会社が社員に権限を委譲するので与えられた権限をどう活用するかはいつも考えなくてはいけません。

売場も担当するし、商品の仕入れも担当します。多くの仕事を経験し、いかに自分の与えられた権限をさらに、部下に渡し、みんなが自分の裁量を生かして、うまく店を回すか、それを考えて仕事をしてきました。

一番人数が多く店を支えてくれるのはメイトさん(アルバイト従業員)です。経験を積めばメイトさんにも権限を渡して仕入れから売場づくりまで担当してもらいます。彼女たち、彼らがいかに楽しんで仕事をし、地域の情報を持ってきてくれるか、そこが重要だとおもいます」

New MEGAドン・キホーテ東日本営業本部 第2支社 支社長 佐々木 雅法氏

いくつもの強みのある同社だが、大原孝治社長は「企業価値は社員の知恵の総量」だと語っており、働く者個々人の知恵を上げる仕組みこそ、最大の強みではないか。

「ダイナミック・プライシング」がこれからの値付けの主流になる!?

プライシング(値付け)は、商人のもっとも重要な技術のひとつです。プライシングによって、売上も粗利も、増えるか減るかが決まるといっても過言ではないからです。そのプライシングが技術の革新によって大きな変化を遂げようとしています。

電子棚札を活用して、一部の商品でダイナミック・プライシングを実験中と言われているトライアルの店舗

ハイ&ローよりもEDLPが価格販促の主流に

従来、プライシングには、「ハイ&ロー」と「EDLP(エブリデーロープライス)」の2種類しかありませんでした。昔は、ハイ&ローで売価を短期的に変動させて、売上(需要)を増やす方法が、小売業の価格販促の主流でした。しかし、ハイ&ロー販促は、「バーゲンハンター」ばかりを集客し、固定客化に貢献しないことがわかってきました。また、「低価格時」と「平常売価時」の売れ方(需要)の波動が大き過ぎて、在庫量と作業量が大きく増えるという根本的な課題がありました。

その後、アメリカのウォルマートが「EDLP戦略」で大成功し、小売業のプライシングはEDLPが主流になっていきます。一定の売価で売り続けるので、売れ方の波動が少なく、需要予測の精度が高まって欠品も減り、サプライチェーン全体の保有在庫量も減少しました。さらに、特売日の前夜に値札を貼りかえるという膨大な作業がなくなり、ローコストオペレーションにも貢献しました。また、働く女性の増加も、時間に余裕のある専業主婦向けの価格販促だったハイ&ローの効果が徐々に減少していった理由のひとつです。

需要と供給に合わせて価格が変動する

しかし最近、「ダイナミック・プライシング」という言葉が注目を集めるようになっています。これは、AI(人工知能)を活用して、需要と供給に合わせて価格を変動させる方法です。すでに「ホテル業界」や「航空業界」は、ダイナミック・プライシングを採用しています。同一のホテルチェーンでも、繁忙期と閑散期では宿泊代が随分違いますよね。

ネット販売のアマゾン(Amazon)もダイナミック・プライシングを採用しており、毎日のように価格が変動しています。この連載(今週の視点)の第14回で紹介したアマゾンのリアル書店「アマゾン・ブックス」でもダイナミック・プライシングを採用しています。

アマゾン・ブックスの売場には「値札」(価格表示)がありません。店内に設置してある「スキャナー」(写真参照)や「アマゾン・アプリ」で、本のバーコードを読み取ると、価格が表示される仕組みになっています。ネットとリアルの価格は連動しており、需要と供給に合わせて価格は日々変動しています。

現状の日本の小売業のオペレーションでは、ダイナミック・プライシングの導入は現実的ではありません。価格変動に合わせて紙の棚札を付け替える作業は膨大だからです。

しかし、今後、「電子棚札」が普及していくと、値札の付け替え作業がかからないので、本部管理で店舗の売価を変動させることは可能です。食品であれば、売れ方に応じて1日に何回か売価を変えることができます。適正売価は、立地や競合状況によっても違いますので、将来は店別に売価が異なる時代が来るかもしれません。

さらに進むと、個人の属性(年齢、性別、所得など)や購買データに応じて、個人に合わせた「適正売価」を提示し、それをスマホで決済する時代になると予測できます。個人で売価が異なる時代が来るわけです。

小売業のプライシング(値付け)は、「ハイ&ロー」→「EDLP」→「ダイナミック・プライシング」→「ワントゥーワン・プライシング」の順番で進化しようとしています。「プライシング論争はEDLPで決まりだな」と思っていましたが、小売業のイノベーションは続いていくのですね。

売場に値札が存在しないアマゾン・ブックス。需給に応じて価格が日々変動するダイナミック・プライシングを採用している。