今週の視点

小さな改善を大きな成果にしよう

第17回「労働生産性」向上のための6つの重点経営課題

ネット販売との競争が激化している昨今、顧客の満足度を確保しつつ労働生産性を向上させるための経営課題について考えます。

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働き方改革の第1の課題が「労働生産性」の向上

この調査は、「働き方改革」に関連して、「自社ですでに実施していること、実施予定のことはありますか?」という月刊MDからの質問に対する小売業21社の回答結果です(詳細は月刊MD10月号参照)。

その第1位が「労働生産性の向上」、第2位が「パートタイマーのキャリアアップ支援」という回答でした。労働人口の急速な減少を解決するためには、「労働生産性の向上と」「パートタイマーの戦力化」の2つが、最重点の経営課題であることがわかります。

「流通用語集」によれば、労働生産性とは、「小売業における人の生産性を総称して労働生産性という。また、ある一定期間における従業員1人当りの粗利益高のこと。労働生産性の目標値は月80万円、年間1,000万円が目安である(8時間換算)」と定義されています。現在、日本の小売業の労働生産性は800万円(年)程度と言われており、目標値である1000万円を達成するためには、現状よりも25%も労働生産性を向上しなければならないことがわかります。

一方で、ネット販売との競争が激化している現在、労働生産性向上のためにリアル店舗を無人化し過ぎると、顧客満足の低下を招くリスクがあります。無人レジの導入を進めていたウォルマートが、今年5月に「無人レジシステム(スキャン&ゴー)」の導入を中止した理由は、無人レジシステムの導入でレジ人員を減らしても、生産性の向上には結びつかず、一方で、「顧客満足」の大幅な低下を招いたからです。

リアル店舗は、ネット販売では体験できない「接客してくれる」「試せる」「試食できる」「話せる」といった、人を介したリアルな買物体験の質を向上させながら、物流センター、バックヤード作業、補充・発注作業などの「顧客接点」以外の単純作業の「省人化・省力化」を進めるという二面作戦が、現代の労働生産性向上のロードマップであると思います。

単純作業を「省力化・省人化」し労働生産性を向上する

単純作業の「省力化・省人化」を進めて、労働生産性を向上するための重点経営課題を以下に整理してみましょう。

この連載の第9回「ピースピッキング生産性が2倍になったPALTACの次世代型物流システム」の記事によれば、従来のPALTACのピースピッキングの仕組みは、オリコンに搭載したカートを人間が動かして在庫商品の場所に移動し、そこでピースピッキングする(オリコンに商品を入れる)方法でした。

PALTACの新しい仕組みは、人間は所定の位置から動かず、商品が動くことでピースピッキングを行う方法です。作業の大半を占めていた人が「歩く」「探す」という作業がなくなり、ピースピッキング生産性は2倍に向上しました。まさに「人の歩行距離を減らす」ことが、単純作業の労働生産性向上の急所であることがわかります。また、多くの小売業で挑戦している「通路別納品(カテゴリー納品)」も、人の歩行距離を減らす取り組みです。

「商品のタッチ回数」を減らすためには、「売れ数比例配分」の原則を徹底することが重要です。よく売れる商品の陳列量(在庫量)、発注単位、補充・物流単位を増やすことで、商品に触る回数を減らすことがローコストオペレーションの原則です。売れ筋が1フェースで陳列されていて、1日に何度もバックヤードから「ピストン補充」している作業状況では、労働生産性は向上しません。

補充・物流の単位は、コストの低い順番で「パレット物流」「ケース物流」「ピース物流」に分類できます。ピース物流は、わざわざケースをばらして、ピース(1個)単位で物流するわけですから、当然、人手とコストがかかります。

パレット陳列のできない小型店でも、販売数量の多い売れ筋商品に関しては、「ケース」や「ボウル」単位での発注・補充・陳列を行うことで、商品のタッチ回数を減らし、労働生産性を向上することができます。

箱(ケース)単位で、発注・補充・陳列を行うことで労働生産性を向上しているアメリカの「アルディ」の陳列。

「波動を少なくする」ことも、ローコストオペレーションのポイントです。人口減少時代のこれからは、無理やり売上を増やす「ハイ&ローの価格販促」から、EDLP(エブリデーロープライス。毎日同じ価格で売り続けること)の売り方に転換すべきだと思います。価格を上げ下げする販促は、作業量と在庫量に大きな波動が生まれ、結果として、作業コスト、在庫コストが増加します。

EDLPによって、「売れ方の波動」を少なくすることで構造的なローコスト経営体質を実現し、その結果として労働生産性を高めることが、これからの流通業の重要な経営戦略だと思います。「売上増」よりも「生産性向上」の方が重視される時代になります。

チェーンストアとは小さな改善を大きな利益にすること

チェーンストアの特徴は、1店舗での「小さな改善」を水平展開(標準化)することで、「1店舗の作業時間削減×店舗数×365日」となり、小さなコスト削減が、企業全体では膨大な利益の確保につながることです。

2018年に国内店舗数2万店を突破したセブン-イレブン・ジャパンでは、本社と同じビル内で営業するセブン-イレブン千代田二番町(以下、二番町店)で、作業改善のための新しい技術と設備の実験を行っています。

とくに商品陳列に関する技術と設備の実験が多く、「スライド式の棚(スライド棚)」はゴンドラ、チルドケース、冷凍リーチインケース、FFウォーマー(揚げ物用ケース)の各所で使用されており、作業時間削減に最も寄与しました。

たとえば、チルドケースと冷凍リーチインケースのスライド棚だけでも、1日54分の作業時間を削減しています。棚を前方にスライドさせることで、時間がかかる「先入れ先出し作業」をスムーズに実施できるため、作業時間の大幅な削減に直結するわけです。54分×2万店×365日≒約4億分の全店・年間の労働時間削減につながります。まさに、小さな改善が大きな利益に直結することが、チェーンストア経営の神髄であることがわかります。

生産性向上に大きく貢献する「スライド棚」。

接客の自動化(オートメーション化)も、顧客満足と生産性向上の両方にとって不可欠です。とくに、タブレット端末を活用する「接客のオートメーション化」への取り組みは、これからの最重点の経営課題です。専門家が不在時でも、誰でもがある程度の接客ができるようにITでサポートすることで、顧客満足の向上につながると同時に、「パートの戦力化」にも貢献します。

「IT化、AI化、ロボット化、デジタル化」は、労働人口減少の中で、単純作業を機械に置き換えることで、「省力化・省人化」を実現することです。PALTACの新型物流センターも、最新のAI技術、ロボット技術を活用して、省力化・省人化を実現しています。また、小売業の現場で季節で変わる「店内ポスター」を貼る、剥がすための作業人時数は想像以上に多くかかっており、今後は「デジタルサイネージ」の導入が一気に進むと思います。

流通先進国であるアメリカと比較すると、まだまだ低い日本の労働生産性。逆説的にいえば、労働生産性の低さこそが、日本の流通業の「伸びしろ」の大きさであり、利益増のチャンスだと思います。つまり、労働生産性の改善こそが、これからの日本の流通業の利益の源泉なのです。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。