「個」を捉えた店頭での接客

アイシャドウ選びを「5つの選択肢」で簡素化したマキアージュの「売り方」

口紅やチークなどは自分に合う色味が重要で、とくにアイシャドウは色のバリエーションも多く、カウンセリングには技術を要するといわれてきた。マキアージュのアイシャドウでは2017年「運命のブラウン」というコンセプトのもと5種を発売、「瞳に合った色を選ぶ」という新機軸で大きなヒットを飛ばした。インターネットで膨大な情報が飛び交う時代、選びやすく購買につながる販促手法を見ていく。(月刊マーチャンダイジング2018年9月号より流用)

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瞳の色に合わせてアイシャドウを選ぶ

自分の瞳の色に合ったアイシャドウを選んでくれるスマホサイト I(EYE)SHADOW

マキアージュでは「黒目」と呼ばれている虹彩の色(写真1)が個人によって異なることに着目。瞳の色を調査、研究し、自分の瞳の色に合わせてアイシャドウを選ぶことで、自然に大きな目もとを演出できることを提案している。瞳の色の明るさを5段階に分類し、それぞれの瞳色に合わせた5種のアイシャドウを発売し、「運命のブラウン」と名付けた。自分の瞳の色に合うアイシャドウとの運命の出会いという趣旨である。

〈写真1〉アイシャドウの仕上がりに影響を与える瞳の色

このキャンペーンは消費者に響き、「運命のブラウン」アイシャドウは2017年8月の発売から同12月までの売上金額で前年の215%を記録するという好調ぶりを見せた。

この好調を支えたのが店頭販促ツール「瞳色チェッカー」と「I(EYE)SHADOW」というスマートフォン用のデジタルコンテンツである。

「瞳色チェッカー」(写真2)は5段階の瞳の色を印刷したドーナッツ状の部分を瞳に合わせ、自分の瞳色がどの色に近いかをチェックするツールである。自分の瞳の色が分かれば、なじむ「運命のブラウン」アイシャドウが導き出される。店舗従業員が案内しながらチェックしてもいいし、セルフで簡単に試すこともできる。

〈写真2〉瞳色チェッカー

「I(EYE)SHADOW」(写真3、4)は、スマホでサイトにアクセスして自分の顔を撮影すると、資生堂独自の解析システムが瞳色を解析し、5種のブラウンアイシャドウの中から最適なものを選んでくれる。

〈写真3〉I(IEYE)SHADOW画面1

〈写真4〉I(EYE)SHADOW画面2

アイシャドウ以外のメイクとのコーディネーションも提案

「瞳色チェッカー」を使えばアイシャドウの接客は怖くない

店頭でのアプローチは「瞳の色に合わせて、自然に目を大きく見せることができるアイシャドウをご存じですか」と声掛けすることから始まる。色の説明をした後で、瞳色チェッカーを使い色を選んでいく。日本人の瞳色の平均を中心色としているので、その色を起点に合わない場合は明るい色、または暗い色を試し、自分の瞳の色を確認する。自分の瞳の色がわかれば、「運命のブラウン」アイシャドウが見つかるという仕組みだ。

こうした接客で、技術を要さない簡単な案内ながら、お客の関心、納得度は高まる。資生堂でドラッグストアチェーンの化粧品販売の責任者を対象に研修を担当している資生堂ジャパン コスメティクスブランド事業本部 事業戦略推進部所属の澤田幸(みゆき)氏はこう語る。

「これまでアイシャドウの色選びは難しいとおもわれていました。『運命のブラウン』というコンセプトで瞳色チェッカーを使えば、高い技術がなくてもお客さまに納得してご購入いただけるチャンスが広がります。ツールを使うことで苦手意識を払拭していただきたいです」

瞳色チェッカーはセルフでも使えて、アイシャドウの色選びをサポートする。そこに運命のブラウンが見つかるツールがあることを案内するだけでも購買チャンスは格段に広がるだろう。これは化粧品の深い知識がないパート従業員や男性店長でもできることである。

「I(EYE)SHADOW」はスマホ用のサイトで瞳色チェッカー同様色選びが簡単にできる。その他、アイシャドウのメイクアップ方法、他のポイントメイクとのコーディネーションのコンテンツがある。

2017年7月にサイトを立ち上げ、同年12月までに445万PVを記録した。「I(EYE)SHADOW」は自宅など店外での使用を想定しており、デジタルによる店外カウンセリングツールともいえる。

「最近の女性はカラーコンタクトをしている人も多く、付けているときと外したとき、両方の色を見たい場合にI(EYE)SHADOWは便利です」(澤田氏)

「運命のブラウン」を見つけるという同じ目的で、店頭ツールとデジタルツールを用意して、接客機会を広げている。

購入する根拠、目的をテーマとして設定する

「運命のブラウン」の成功のポイントは、使う側、販売する側双方にとって迷いがちなアイシャドウの色選びを、瞳の色で絞り込んだことだろう。加えてこの5種類の中にあなたに合った「運命のブラウン」がある、というコンセプトは、購買に向けて背中を押す有力な一手になる。

現代は情報があり過ぎて買う側はどの情報を根拠に購買すればいいのか迷っている人は多い。SNSでお気に入りのインフルエンサーの情報に頼ったり、行動を後追いしたりするのも、膨大な情報を自分では処理しきれないことの表れだろう。

そこに、確かな研究結果に基づいた選択肢があり、それを試すツールが用意され、選択した結果に「運命のブラウン」という情緒あふれるコンセプト、ワードが裏打ちされていたら購買率は高まる。215%成長もうなずける。

マキアージュでは2018年3月、「透明感を引き出す」口紅とチークを発売し好調だった。通常、透明感を引き出すのはファンデーションやスキンケアの領域だが、ポイントメイクにその手法を取りいれたことは新鮮な切り口である。これも「運命のブラウン」同様、テーマ設定により成功したマーケティングである。

何を根拠に購入するか(5種の中に「運命のブラウン」がある)、何を目的に購入するか(透明感を引き出す)、膨大な情報量で選びづらい環境では、商品選びのナビゲーターとなる根拠、目的を指し示すことの重要性を、マキアージュの成功事例は物語っている。これはメーカー㆑ベルの話にとどまらず、店頭での売り方にも共通する。不特定多数を対象に商品を並べるのではなく、収益性の高い重点商品は、購入すべき根拠や目的を示して選びやすくすることで購買は促進される。

壁のない組織体制で販促はより機能する

「運命のブラウン」の成功の裏には、組織体制という要素もある。資生堂ではブランド、営業、販売(美容部員)が一体となって動いており、意見交換も活発に行っている。マキアージュではブランドと営業が月一回ミーティングを行い、施策や意見をすり合わせる。

瞳色チェッカーに関しては、「運命のブラウン」というキャンペーンの準備段階で、カラコンの色合わせツールをヒントに営業と連携しながらブランドが製作したものである。こうした緊密な連携は当然販売の現場まで落とし込まれている。

「ブランド、営業の考えや施策はすべて販売の現場と共有しています。さまざまなアイデアや販促ツールが出てくるので、美容部員は販売しやすくなったと感謝しています」(澤田氏)

情報源は多様化しており、膨大な量がある。選択肢を絞って、買いやすく一次選別することでマキアージュは売上拡大に成功している。加えて、多様化する情報源に対応するため、メーカーもこれまで以上に多くの媒体で情報を発信し、販促を打たざるを得ない。複雑になるマーケティングは、ブランド、営業、販売が一体となり、その意図や施策を共通理解していなければ機能しない。販促が機能するためには壁のない組織体制が重要なのだ。