労働人口の減少で「生産性革命」は待ったなし

『MD NEXT』が今年(2018年)の6月にスタートして半年が経過しました。『月刊マーチャンダイジング』という紙のメディアを21年も継続している中での新しい挑戦ということで、戸惑いや、やってみて初めてわかったことも沢山ありました。少しずつですが、順調に読者も増えています。広告でサポートしていただいている企業にも応援していただいています。この場を借りて、読者と広告主の皆様に御礼申し上げます。さて、この連載の年内の記事配信はあと2回です。そこで、2回にわたって「今年を振り返る」というテーマで、今年の小売・流通業のトレンドをまとめてみます。

AI、ロボット化で省人化・無人化が一気に進む

今年、小売・流通業でもっとも話題になったことが、新しいテクノロジーを活用した「生産性革命」です。労働人口の減少は深刻で、すでに小売・流通業の現場では、「人が集まらない」「採用コストが増加している」「定着率の低さに悩んでいる」という、悲鳴にも似た声が聞こえてきます。

しかし、これからのリアル店舗の生産性向上は、単純な「人減らし」ではダメなことがわかりました。アマゾン対策としてリアル店舗の価値を高めるためにも、顧客との接点は人間が丁寧に保ちながら、接客を強化する必要があります。

一方、顧客接点以外の単純作業は、徹底的に省人化・無人化を進めるべきです。顧客接点は有人化、それ以外は無人化の二面作戦が、これからの小売・流通業の生産性向上のロードマップになります。

顧客接点以外で省人化・無人化すべきものの代表が「物流センター」です。この連載の第9回(7月30日配信)で紹介した「PALTACの次世代型物流システム」は、この連載でもっとも読まれた記事です。それだけ関心の高いテーマなのだと思います。

PALTACの「ピース物流」は、「摘み取り方式」と呼ばれる方法で、オリコンを搭載したカートを人間が動かして、在庫商品の場所に移動し、そこでピースピッキング(商品をオリコンに入れる)する方法でした。

今回、「RDC新潟」で導入した「MUPPS(マップス)」は、人間は所定の位置から動かず、商品が動くことでピースピッキングを行う方法です。ピースピッキングの作業の大半を占めていた「歩く」「探す」という作業がなくなり、ピースピッキングの生産性は2倍に向上したそうです。

PALTACでは、さらに無人化を進め、現在は人が行っている「商品をオリコンに詰め替える作業」のロボット化も近く実現する予定です。今後は、人が行う作業量と、ロボットが行う作業量が逆転し、どんどん無人化が進みます。

物流センターのロボット化が進むと、ロボットは疲れないので24時間稼働が可能になり、生産性が飛躍的に向上します。現在、人手不足の影響で、24時間稼働の物流センターはほとんどないようです。

また、物流センターの立地選定も、従来は「働く人が集まる立地」に限定されていましたが、ロボット化が進むと、無人の荒野のような立地にも物流センターをつくることができるようになります。

PALTACの新型物流センター「RDC新潟」には、段ボールカットの無人化を実現した「オートカッター」という最新機器も導入されていた。

煩雑なレジ作業の軽減化も待ったなし

現在、日本の小売業のレジ作業は、クーポン処理などの対応に追われて極めて煩雑です。もっとも重要な顧客接点であるレジ応対が、作業の煩雑さに追われて、笑顔のない、不親切な対応しかできないと、その店の顧客満足度は低下します。レジ作業の単純化・省力化は、CS向上のためにも重要です。

九州の「新生堂薬局」は10月15日、九州初となるドラッグストアの「キャッシュレス店舗」を開店しました。「電子マネー」(新生堂薬局の会員カード、nanako、WAON)、「スマホ決済」(楽天Edy、Apple Pay、PayPayなど)、「交通系IC」(Suika、nimoka、SUGOKAなど)が使える店舗です。現金決済はゼロで、すべてキャッシュレス決済の実験店です。

現金が使えないので、利用者の戸惑いはありますが、レジ作業量が軽減した分、レジ担当者と顧客の会話時間が増えたそうです。キャッシュレス化によって、「顧客と店の良い関係が構築できるメリットがある」と店長は感想を述べてくれました。

下の写真は、アメリカのスーパーマーケット「セーフウエイ(SAFEWAY)」(Kroger傘下)で実験中の「Scan Bag Go」です。店内に設置されているハンディスキャナを使って、顧客が自分で商品をスキャンし、最後に無人レジで一括清算する仕組みです。

Krogerのグループが実験中のScan Bag Go。

また、この店の会員カードを持っている顧客(ロイヤルカスタマー)は、このハンドスキャナの中で清算することもできます。顧客は、レジを通らないで買物を完了することができます。顧客のレジ待ちストレスが大きく軽減されますね。

「シーズンファーストバイ」の獲得で 季節品の売上を大きく増やそう

日本は、四季が明確なので、特定の時期に爆破的に売れる、「季節指数」の高い季節品が多いのが特徴です。週による売れ方の波動の大きい「季節品」の機会損失を防ぎ、在庫を余らせないで売り切る技術は、小売・流通業の業績を大きく左右します。今週は、季節品の機会損失対策を解説しましょう。

初回購入を逃すと販売チャンスは半分になる

月刊MDでは、季節品の該当シーズンにおける「初回購入」のことを「シーズンファーストバイ」と表現しています。季節品のシーズンファーストバイは、気温、湿度などの天候要因によって変化します。

図表1は、ID-POSデータを分析した結果の「風邪薬」の週別の販売状況をグラフ化したものです(ジェイビートゥービー社のパネル店のID-POSを分析)。図表1の赤線の「トライアル売上」とは、そのシーズンの風邪薬の第1回目の購入を示しています。一方、グレーの線の「リピート売上」とは、そのシーズンの2回目以降の購入を示しています。

図表1によれば、トライアル売上が跳ね上がる「1日の最低気温の平均が15度」を下回る

10月12日~18日が、「シーズンファーストバイ」が急増する最初の週になっています。また、「1日の最低気温の平均が5度」を下回る12月28日~1月3日も、シーズンファーストバイが跳ね上がる週です。この第1回目の購入が急増する週に、「不完全作業」によって売場づくりが遅れ、競合店にシーズンファーストバイの売上を奪われることは、季節品売上の大きな機会損失につながります。

ジェイビートゥービー社によれば、風邪薬の一人当たり年間購入回数は2.3回と低く、シーズンファーストバイの時期に売り逃すと、風邪薬の販売チャンスは、残り1.3回の購入回数に半減してしまいます。また、風邪薬以外の季節品の「年間購入回数」も意外と低く、シーズンファーストバイを売り逃さないことが、最大の売上対策であることがわかります。

季節品の機会損失を防ぐためには、気温や湿度によって「需要が急増する以前」に売場づくりを「早期展開」することが重要です。風邪薬がそんなに売れない時期に、売場づくりを早期展開することで、来店客の記憶に残り、いざ風邪を引いたときに「あの店で山積みしていたな」という記憶がよみがえり、選ばれる店になる可能性が高まります。経験法則では、季節品を早期展開した店のピーク売上は、展開が遅れた店よりもかなり高くなります。

スペースアロケーションで導入→山積み→処分で売り切る

図表2は、制汗剤(スプレー、ロールオン)の週別の販売状況です。ゴールデンウイーク(4月27日~5月3日)の週が最初のシーズンファーストバイのピークになります。さらに、5月25日~31日の週が2回目のシーズンファーストバイのピークです。風邪薬と同様に、この時期よりも以前に、制汗剤の大量陳列を早期展開することで、機会損失を防ぐことができます。逆にいえば、需要が急増する週に売場づくりが遅れて売り逃すことは致命傷になります。

そして、7月27日~8月2日の週が、制汗剤の売上のピークで、そこから売上が大きく減少していることがわかります。このように季節品は、「導入期」→「ピーク期」→「処分期」の3つの段階があることがわかります(図表3)。

その3つの時期に合わせて、「陳列量」「陳列場所」「価格」「売り方」を変化させる方法を「スペースアロケーション」といいます。最終的には需要予測の精度を高めて、在庫を余らせず、売り切ることが現場には求められます。スペースアロケーションは、「現場力」によって結果が大きく変わる技術の代表です。

「トータルヘルスケア戦略」をデジタルと絡めて推進するスギHD

創業以来調剤事業、それも面分業に注力してきたスギ薬局。現在同社では、病気にかかる前の「予防」、病気にかかってからの「治療」や「軽医療」、高齢になってからの「介護」や「終末期ケア」を一貫してサポートする「トータルヘルスケア戦略」を前面に出して推進している。さらにそこにデジタル技術を活用しての事業展開を進める。事業の進捗や構想などを、杉浦克典代表取締役社長に聞いた。(月刊マーチャンダイジング 2018年12月号より転載)

地域の支持を得る地道な活動で処方せん枚数増加

──スギホールディングスの2019年2月期の半期決算は売上高2,439億円(前期比6.3%増)、営業利益128億円(前期比2.4%増)と増収増益でした。好調の要因を簡単に教えてください。

杉浦 物販でいえば、花粉、猛暑という季節要因が貢献しました。4月の調剤報酬の改定は内容的には大きなマイナスインパクトがあったのですが、処方せん枚数は前期比で112.9%とそれを補って余りあるものがありました。

出店も半期で53店舗と過去最高です。通期で100店舗を目指しており、改装も積極的に行っています。中部地方を中心に100坪、200坪未満の店舗が結構あるので増床できる店は増床し、物理的に難しい場合はカテゴリーの配置を見直したり、食品売場を中心に棚を高くするなどして売場販売効率を上げる努力をしてきました。

──処方せん枚数の伸びは出店によるところが大きいのでしょうか。

杉浦 当然出店効果もあるのですが、それだけではありません。調剤薬局を新規出店すると、地域に認知していただき処方せんが集まるまで時間がかかるので、当初それほど枚数を受けることはできません。ですから、調剤薬局の新店が増えると1店舗当りの平均処方せん枚数は減ることになるのです。

当社は創業から面分業の推進を行っていますが、ただ待つだけの面分業ではなく、お声掛けをしたり、地域に出ていったりして地域の支持を頂くような活動をしています。こうした地道な努力を続けていることが、枚数の増加につながっているのだとおもいます。

[図表1]スギホールディングス2019年2月期第2四半期決算概要

2つのアプリを中心にサービスの強化を推進する

──今年3月にメドピアグループと業務資本提携されました。提携の進捗も含めて今後どのような成長戦略を描いているか教えてください。

杉浦 会社の成長戦略は、「健康維持・予防」「治療・軽医療」、そして「介護・看護・終末期ケア」、この3つの領域で地域のお客さま、患者さまを生涯に渡ってお手伝いする「トータルヘルスケア」という戦略を打ち出しています。

この3つの領域で当社のドラッグストア(DgS)が中核となって、さまざまな機能を持つ拠点と、デジタル技術を使いながら連携していく。こうした地域ネットワークを構築していくと2018年2月期の中間決算説明会で発表して以来、ずっと申し上げ続けています。

──そこに、他企業との提携を活かすということでしょうか。

杉浦 はい。先ほど申し上げた3つの領域で、それぞれ個別に、さまざまな企業や団体、行政の方々との連携が進んでいますが、直近では、スマホにダウンロードするアプリを活用したサービスが始まっています。

この10月より、当社の店舗でお使い頂けるクーポン発行やセール情報の発信などを行っていた「スギともアプリ」を全面改修し、「スギ薬局アプリ」として再スタートを切りました。こちらは提携を生かすというよりは、独自技術をより進化させサービスの幅を広げたものです。

新たな機能としては、ポイントカード会員さまの会員証機能で、アプリの会員証画面をレジで見せればポイントをデジタル上でためることができます。また、会員ページを新設し、ポイント履歴や会員情報の登録・変更、キャンペーン応募などがこのページから可能になります。他にも、電子メールで会員さまのニーズに合ったお買い得情報を受信できるサービスがあり、これを使えば、チラシを見たりホームページで探したりする必要がなくなります。

次に、お客さまの食事や運動を支援させて頂く機能を持つ「スギサポアプリ」と名付けたアプリを11月から順次導入しています。たとえば、健康に関心のある方にこのアプリを使って食事の写真を投稿していただければ、食生活の分析ができて、さらに「スギサポマイル」もためて頂けます。これは「スギサポeats」というアプリです。マイルは一定の割合でスギポイントとの交換が可能で、マイル獲得はスギポイント加算の手段にもなります。

また、歩いた歩数に応じてマイルがたまる「スギサポwalk」というアプリも準備中です。このように日常生活の食事や運動を楽しみながら、健康管理ができるようなアプリになっています。

こうしたサービスは「セルフケア支援」と呼びますが、ここにメドピア社との提携を活かしていきます。

スギサポアプリの案内チラシ

食べる、歩くといった日常行動を記録しマイルに変える。楽しみながら健康管理できるサービスでお客との接点拡大を図る

管理栄養士、医師へ手軽に相談できるサービスの導入

──スギサポアプリには、相談、提案など専門性の高いサービスを付加されるのでしょうか。

杉浦 その考えです。つい先日サービスを開始したアプリでは、利用者さまに、特定の疾患や健康に関する不安がある場合、いまの食事で大丈夫なのか、改善するなら、どのようなメニューがいいのかなどアプリを通じて管理栄養士に相談することができ、それを受けて管理栄養士が食事提案をします。

あるいは、医師に相談したいというご要望があった場合には、メドピアの行っているオンラインの医師相談システム「ファーストコール」を利用することができます。これは、医師による専門性の高いカウンセリングをLINEのようなチャット機能で手軽に受けられるサービスです。

さらに相談対応から一歩進めて、カロリー、塩分、カリウム、タンパク質など特定の成分を制限した食事、療養食を冷凍食品という形でご自宅まで届けるサービスも「スギサポDeli」という名称で始めています。

スギサポDeli案内チラシ

管理栄養士、医師がスマホで対応。遠隔での完結も可能だが、リアル店舗とも連携すればお客との関係がより緊密になる

健康診断と店舗をつなげ新たなサービス提供

──M-aidとの資本業務提携も結んでおられますが、こちらはどのようにサービス強化に生かされていくでしょうか。

杉浦 M-aidは健康診断に関して高い専門性と豊富な経験を持つ企業です。たとえば、M-aidが行っている検診バスを使った巡回健康診断を当社店舗の駐車場で実施するというサービスは既に始めています。当社の社員や社会保険に加入しているパートナー社員を対象に実施し、そこから派生する特定保健指導※を行う。スギ薬局全体で1万人以上が対象となるので、従業員のQOL(生活の質)の向上にもなりますし事業としても成り立ちます。

自社従業員以外では、健康診断を受ける機会の少ない主婦の方なども対象となるでしょう。お住まいの地域で、自宅から近いスギ薬局の敷地内で健康診断が受けられるとなれば、一定の需要が見込めます。

健康診断や特定保健指導を受けた後に、また不安なことや気になることがあれば、スギサポアプリで相談するという循環もあるでしょう。

※特定保健指導:40~74歳を対象に行うメタボリックシンドロームに着目した健康診断(特定健診)の結果、生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善により生活習慣病の予防効果が高く期待できる人に対して、管理栄養士などの専門家が食事や運動などの生活習慣を指導すること

リアル店舗とデジタルを活用して顧客接点を増やす

──アプリとお客さまとの接点を考えると、「来店」の定義が広がりますね。

杉浦 現在、平均してお客さまの来店頻度は月に2~3回弱というところでしょうか。スギサポアプリで食事指導をすれば毎日接点が生まれます。運動にしても接点は相当な頻度になるでしょう。

デジタルで相談を受け、しっかりした信頼関係を築くことができれば、それがリアル店舗への来店動機にもなる。店舗ではいつでも相談を受けますという態勢が整っていればなおさらです。接点がリアル店舗だけでなく、デジタルへ広がることでお客さまとのつながりが強くなるということは、メドピアとの提携事業を進めて確信していることです。おっしゃるとおりデジタルの活用で来店の概念は広がるし、当然ビジネスチャンスも広がります。

──先ほど、DgSを中核として機能を持った拠点とデジタル技術を使いながら連携していくというお話がありました。具体的にはどういう拠点が考えられますか。

杉浦 「健康維持・予防」「治療・軽医療」「介護・看護・終末期ケア」というトータルヘルスケアの3つの領域を考えれば、病院など医療機関もそうでしょうし、健康維持で考えればスポーツクラブとの連携もあるとおもいます。スポーツクラブを利用している健康意識の高い人をスギ薬局の店舗やアプリに送客する。あるいは逆方向もあるでしょう。リアルの相互送客をデジタルが補完する、埋めるといったイメージをいまのところ持っています。

──いまのお話を聞いてリアルとデジタルがつながるという印象を持ちましたが、その延長線上でデジタルでモノを買うというサービスもあるのでしょうか。

杉浦 当社は、ネット販売を数年前に休止していますが、その後も店舗以外でどのように商品をご購入いただき、それを届けるかは常に考えています。先ほどお話した、冷凍の療養食の宅配はそのひとつです。

いま、スギ薬局全体で1万人くらいの患者さまを対象に薬剤師がご自宅や施設に伺って在宅調剤を行っています。そこには介護おむつや生活必需品など、スギ薬局で賄うことのできるさまざまなニーズがあるのですが、それにお応えするまでには至っていません。今後は、ご自宅からネットを通じて必要な商品を注文して決済まで終えるというサービスは、利便性を上げるためにも有効です。

それでは、だれがどのように商品を自宅まで届けるのか、いわゆる「ラストワンマイル」という問題がありますが、それも薬剤師が在宅調剤のとき、あるいは管理栄養士が訪問栄養指導をするときにお届けすればスムーズです。この領域は間違いなく広がっていくとおもいます。

──アマゾンに代表されるECへの対抗策をどのように考えるか、お聞きしようとおもっていましたが、いまのサービスのように専門性の高いところで付加価値の高い宅配をするというのも、その答えのひとつでしょうか。

杉浦 そうですね、安く買える、早く届けられるといったサービスでは既存の有力なEC事業者に勝つことは難しいです。宅配ニーズには、介護おむつや日用品のほかにも、医療衛生材のような特殊なもの、専門的なものもありますが、それもスギ薬局で調達して自宅に届けることができます。宅配、店舗以外での買物には、こうした領域を強化していきます。構想段階ではありますが、ここでもアプリが関わったサービス展開ができます。

──いつごろからサービスの開始を考えていますか。

杉浦 構想の段階で未確定な部分も多いですが、スギサポアプリで初歩的なサービスは2018年11月から順次スタート、2019年3月には専門性のあるサービスのいくつかをスタートさせたいと考えています。

──社内の薬剤師や管理栄養士にとっては、チャレンジングな事業が始まるとおもいますが、そのへんの社内アナウンスはどのようにされていますか。

杉浦 申し上げたとおり、管理栄養士、薬剤師の新たな活躍の場を考えています。全管理栄養士を集めた会合などを開いて施策、方針の浸透やモチベーションアップを図っています。特定保健指導などに関しては、より高い専門知識を身に付ける必要があり、管理栄養士にとっては、大変ではありますがやりがいのある事業になるとおもいます。

新橋駅前店の調剤薬局

駅前、インバウンド需要の高い店舗でも調剤薬局を併設して近隣の面分業のニーズに応える。管理栄養士も配置して定期的に健康相談会も行っている

少子高齢化問題への対応 それがビジネスモデルの中核

──アプリを使ったサービスを展開すると、健康や医療に関する膨大なデータが集まってくるとおもいますが、その分析や活用に関するプランもお持ちですか。

杉浦 データがどのように集まってくるかは、少しずつわかってきています。大まかには、「物販データ」「調剤データ」「運動・食事のデータ」「健康診断データ」といった区分になります。これらのデータを将来的には、一元的に管理、活用するという絵も描きつつ、短期的、現実的には健康診断データを服薬指導に結び付けるとか、食事、運動のデータを物販の販促に活用するなど、相性のいいシンプルなデータの組合せ、活用を考えています。いずれにしても、今後の話となります。

──今後、スギ薬局のようなアプリを使ったサービス、そこから集まるデータ活用というビジネスモデルはDgS企業各社が狙ってくるとおもいます。お話を聞いた限り、御社には先行優位性があります。

杉浦 いや、必ずしもそうはおもいません。おっしゃったようなビジネスモデルは多くのDgSが考えていて準備も進めています。分野によっては後れを取っているところもあるでしょう。医療ビッグデータなどは、生命保険会社が盛んに集めていて、新商品の開発などに既に活用しています。

──そのなかで、あえて御社の優位性を挙げるならどこになるでしょう。

杉浦 どれだけデジタルが進歩しても、これまで培ってきたリアル店舗での人と人との接点では、デジタルで先行する企業に比べて優位性があると自負しています。われわれは、1,000店を超える実店舗でお客さまとの関係づくりに膨大な時間を費やしてきました。そのリアル拠点を元に自分たちでやれることは自分たちでやるし、他企業の力を借りられるところとはどんどん提携していく、こうした柔軟性、デジタルとリアルの相乗効果を狙える環境を整えたことは、当社ならではの強みだとおもいます。

──そうした状況を踏まえ、自社の従業員へメッセージを送るとすれば、どのようなものになるでしょうか。

杉浦 この国の深刻な課題は高齢者が増え、子供の数が減る少子高齢化です。スギ薬局は、この少子高齢化に対応すること、改善することをビジネスモデルの中核に据えています。こうした大きな事業に立ち向かっているのだという気概を持って攻めの営業をしていこう、こう呼び掛けたいですね。

──本日はありがとうございました。

ワークマンの新業態はPB比率90%。「高機能ウエア×低価格」で潜在市場を開拓する

2018年9月5日、ワークウエアと作業用品の専門店として業界トップを走るワークマンが、大型ショッピングセンター(SC)内に一般顧客対応の自社プライベートブランド(PB)衣料品をメインに取り扱う新業態店舗をオープンした。その背景と狙いについて取材した。

60坪で目標年商1.2億円、PB比率9割の新業態

ベイシアグループ傘下で、全国に828店舗をフランチャイズ展開するワークマン(2018年10月時点)。2018年3月期の営業総収入は約560億円で前期比7.7%増、売上高と純利益は8期連続増収増益で推移している。現業態での1,000店舗展開、売上高1,000億円が見えてきた同社が選んだ新業態が、一般客をターゲットにした「WORKMAN Plus」だ。

WORKMAN Plusは、アウトドア、スポーツ、レインウエアの専門店であり、メイン客層は既存店と同じく30〜40代男性。働くプロのための高い機能性を付与した、低価格なカジュアルウエアを品揃えする。店舗面積は60坪で、年商は1億2,000万円を目標とする。既存店は、100坪で平均年商は約1億円。2割増を試算できる要因は、衣料品の構成比の高さにある。客単価は既存店の2,700円に比べ、300円アップの3,000円を見込む。

PB比率も、既存店3割に比べ、新業態店舗では9割以上。一般顧客に合わせた商品構成で、作業用品は一部の手袋などに絞り、利益率の高い衣料品PBで固めた格好だ。店舗の運営については、販売代行会社と契約し、アパレル経験の豊富なスタッフを配し、常時3人態勢で運営していく。

建設技能労働者は減少傾向、一般向け3ブランド立ち上げ

ワークマンが新たなブランド戦略を立ち上げたのは、2016年。業績は好調な一方、主力顧客である建設技能労働者の数は、団塊世代の現役引退とともに減少傾向にある。新戦略の背景には、新規顧客の開拓という命題があった。

既存店を分析したところ、一部購入客がスポーツやアウトドアなどの趣味目的での使用や、その入門用として購入していることが判明。SNSや口コミでも、雨天用の防寒・防水仕様のレインウエアがバイカー用ウエアとして、飲食店の厨房用のノンスリップシューズが赤ちゃんを育てるママの安全なレインシューズとして、その評価が高まっていた。

そこで、プロ仕様でありながら一般客でも日常使いできる商品を、用途別にブランド化。アウトドアウエアの「FieldCore」、スポーツウエアの「Find-Out」、レインスーツの「AEGIS」の3ブランド(図表2)を立ち上げたところ、売上は2018年3月期には60億円に到達(図表3)。品揃えにも深さと広さが生まれ、一般客が店舗購入客の2割に達したことから、「高機能×低価格」ウエアの新業態開発に踏み切った(図表1)。

[図表1] WORKMAN Plusのポジショニングマップ

[図表2] ワークマンの3大PBブランド

[図表3] PB3ブランドの売上推移[図表4] PB製品の売上構成比

[図表4] PB製品の売上構成比

ブレない「プロ機能」の商品開発軸、価格は専門店の3分の1

WORKMAN Plusは、ワークマンの商品群のうち、前述した3ブランドを中心に、プロ専用商品を除く衣料品を集めたフォーマットであって、すべての商品開発の軸はあくまでもプロ仕様だ。一般向け商品を、既存商品と区別して開発しているわけではない。約20人から構成される開発部隊は、すべての商品が作業現場で使われることを想定して商品設計を行う。

たとえば、同社の一部の防寒着に使われているアルミは、アパレルでは一般的ではない素材だが、作業着では当たり前の仕様だ。

価格は、アウトドアブランドの半額〜3分の1以下を設定。ユニクロ、しまむらに次ぐ店舗数を持つ同社のスケールメリットを生かした大量生産と、必要な機能のみを残すトレードオフ方式、廃棄率0%で98%を売り切るビジネスモデルによって低価格を担保している。出店したららぽーとには、ザ・ノース・フェイスやコロンビアスポーツウエアなどアウトドアブランドのテナントもあり、明確な差別化も期待できる。

「既存店は、車でしか行けない立地に多く出店しています。交通の便がよく、アパレルはもちろんホームセンターやホームファッションなどさまざまなテナントが入り、多様なお客さまが来店するSC内に新業態店舗を展開することで、ワークマンの認知度を上げることができると考えています。既存店との相乗効果も期待しています」(営業企画部 販売促進グループマネジャー 林 知幸氏)

大型SCに100店舗、アンテナショップの役割も

11月22日には、埼玉県富士見市内のららぽーとに2店舗目がオープンする。今後は大型SCへの出店を10店舗計画しており、採算のめどがつき次第100店舗、年間売上高200億円を目標に展開していく予定だ。高機能と価格競争力で、接客なしでも売上が立つ店を目指し、フランチャイズ化を進めていく。

WORKMAN Plusで扱う3ブランドは既存店でも取り扱うことから、既存店と新業態でお客が二分化することは想定していないという。WORKMAN Plusをワークマンのアンテナショップとして情報発信を行い、既存店への集客にもつなげていく構えだ。既存店内にWORKMANPlusのインショップをつくる計画も検討されているという。

ファッション性の高い作業着も増え、ワークウエアとカジュアル衣料の垣根はなくなりつつある。時代の変化とともに、自社の強みを捉え直し、新しいフォーマットで新市場にこぎ出したワークマンの快進撃はしばらく続きそうだ。

ららぽーとの3階に出店。同じフロアには、東急ハンズやニトリホームデコ、下の階にはザ・ノース・フェイスなどアウトドアブランドが出店している
店舗面積は60坪。スポットライトを効果的に使った照明と木目調の什器で、店内はシンプルながら客層を選ばない親しみやすい雰囲気。壁面もうまく使い「見せる」陳列に。価格訴求も多箇所で行う
作業現場ではおなじみ、ジャケットの内側にアルミを使った商品も。通常アパレルでは使われない素材を使用しているところが、差別化ポイントになる
入り口近くには今冬の防寒アイテムが並ぶ。マスタード色のジャケットは、「FieldCore」。十分カジュアルにも使えるファッショナブルな一品 2,900円(税込)
レジは2台。売場は、常時3人態勢で運営していくという。WORKMAN Plusのロゴにも、既存店とは異なるアウトドアブランド感が
店奥では、ボクサーパンツなど好評な男性用下着のほか、冬のスポーツに欠かせないトレイルタイツ、ネックウォーマー、キャップなどシーズンアイテムも取り扱う
店奥壁面にはシューズを陳列。全天型のワークブーツや、脱着がしやすく滑りにくいスリッポンなども品揃えする
3ブランドのうちもっとも売上の高い「FieldCore」シリーズ。新製品「DIAMAGICDIRECT」の耐久撥水の様子。悪天候に悩まされるシーンも増えており、折々のイベントなど、入り口として手に取りやすいのがレインスーツだろう 2,900円(税込)
バイカー人気の高い「AEGIS」。カワサキのバイクと同じグリーン「カワサキグリーン」と相性のよいカラーリングが好評だという
入り口すぐの壁面には、ガーデニングやクッキングのシーンが想定できるエプロンも品揃え。客層の間口を広げて、店内に導く
SNSで話題となったファイングリップシューズ。どんな場所でも「滑りにくい」は、赤ちゃんを抱きながら動くママや、妊娠中のプレママのニーズでもある 1,900円(税込)

JR東日本の無人決済店舗は “Amazon Go”を超えられるか?

JR東日本グループが2018年10月17日から12月14日までJR赤羽駅(東京・北区)のキオスク跡地にAIを活用した無人決済店舗「TOUCH TO GO」を開設している。同社は2017年11月にも大宮駅(埼玉県)で同様の実証実験を1週間ほど実施しており、今回はその第2弾となる。

(交通系)電子マネーがあれば誰でも使える

まず入り口で(交通系)電子マネーをタッチして入店。店内の商品を幾つか手に取り、出口のゲートに立つと、横の画面に商品名と金額が提示される。正しければ電子マネーをタッチして決済、開いたドアから退店する。“無人決済”なので店内に従業員はいない。試しに棚から取ったあんぱんをポケットに入れて、冷ケースのミネラルウォーターをバッグに放り込んでも、同じように金額が表示される(筆者、実証済み)。

仕組みは次のようになる。天井に設置した16台のカメラ(のうち何台か)が入店客を捕捉する。お客が手に取った商品を、棚の手前上部に取り付けてある計100台のカメラのうち何台かが作動して商品と入店客を紐づける。天井のカメラは捕捉を続け、ゲートの前に立ったお客に買上げ商品を提示する仕組みである。

これは米国シアトルのアマゾン本社1階にある「Amazon Go」とよく似ている。2018年1月に従業員の利用に限定したテスト運営を終えて、一般のお客に対して営業を始めている。

「TOUCH TO GO」の実証実験を推進するJR東日本スタートアップの柴田裕代表取締役社長に「Amazon Go」との類似性を尋ねると「アマゾンのシステムについては知る由もないが思想性は同じ」と回答した。柴田氏は、アマゾンのみならず中国の無人店舗など最新テクノロジーを検証しながら今回の実証実験に至っている。

違いについては「Amazon Go」が専用アプリをダウンロードしなければ入店できず、決済もアマゾン口座に連結させる一方で、「TOUCH TO GO」は記名でも無記名でも(交通系)電子マネーがあれば、誰でも買い物ができる点にある。

「今回の実証実験は(JR東日本の電子マネーの)SuicaのIDを持つ方の照合はしていない。将来的には未成年の確認や決済回りの不正対策等もあり、IDとひもづけできればと考えている」(柴田氏)

現状は利用者の拡大を優先させている。

過去に営業していた実店舗で実験

実験の詳細を見ていこう。前回は大宮駅のイベントスペースでわずか2週間の実証実験であった。1年間の検証を経て次の3点を進化させた。

1点目は、同時に捕捉できる入店客の人数を、前回は1人までだったが、今回は3人まで、確実に決済できるラインを引き上げた。

2点目は、商品の「取り方」について、前回は一番手前にある1つの商品しか認識できなかったが、今回は2つを同時に手に取っても読み取れるようにした。また奥の方に手を伸ばして取っても商品を認識できるようにした。

3点目は、過去に営業していた“リアル店舗”で実証実験していること。現実の店舗に近い状況を想定し、リアルな課題点が抽出できるようにした。

以上の3点であるが、今回の実証実験の期間中は、係員が入り口と出口に張り付いて、トラブルに対処する体制を組んでいる。

しかし、決済上の不具合があっても、お客が画面操作により処理できる内容がほとんどだ。画面に別の商品が表示されていれば、別のお客が手に取った商品が、こちらに紐づけられた可能性が高い。逆に、あるべき商品が表示されなければ、別のお客に紐づけられたと考えるべきであろう。これらは手動で訂正できる。

また、電子マネーの残高が不足していれば購入できないので出口が開かない。棚に戻す必要があるが実証実験の期間中は係員が対処する。

基本的には無人店舗であるものの商品補充については人時を必要としてる。販売商品は約140種類(飲料、ベーカリー、菓子類)。無人店舗は保健所の許可がおりず、おにぎりや惣菜、調理パン、乳製品といったデイリー商品は扱えない。

商品のマスター登録には画像認識させる工程があり実証実験中は同一商品に固定している。同じ中身の商品でも、例えばパッケージだけ変更してクリスマス使用になると商品の認識が不能になる。これは昨年の実証実験第1弾において現実にあった事例である。新聞や雑誌も表紙文字が異なれば画像認識はできない。日替わりや季節のパッケージ替えへの対応も課題となるだろう。

キャッシュレス社会の推進にもなる

そもそも、なぜ無人決済店舗の開発なのか?

最大の理由は人手不足対策である。品出しには人時を必要とするものの、レジ決済システムを含め基本は店内を無人にしている。近年は駅構内で新聞や雑誌、たばこの売上が減少している。駅ホーム上のキオスクを撤退させ、それをグループ内のコンビニ「ニューデイズ」が改札口近辺で利用客を集客する構図にあった。

しかしながら、駅利用客にとっては“欲しいときに欲しいモノを”手に入れられず、利便性の後退といった側面も現実にはあるだろう。キオスクの営業は損益上は無理でも、無人決済店舗であれば営業利益が期待できる場所が、まだたくさん残されていることだ。

「無人決済店舗は人手不足を解消すると同時に、レジ待ち時間を削減してサービスの向上が図れる。さらにはキャッシュレス化も推進できる」と柴田氏は、未来志向の新業態に期待を膨らませる。

無人決済店舗「TOUCH TO GO」。店舗は18年10月17日から12月14日まで営業。営業時間10~20時、土日祝休み。場所はJR赤羽駅 5、6番線ホーム上。店舗面積は約21㎡
今回使用できるのは交通系電子マネーのみ。タッチするとドアが開く。中に子供を除いて3人入っていればドアは開かない
来店客を捕捉する16台のカメラが天井に設置されている。天井が高ければ1台の捕捉範囲が広がるため台数を減らすことができる
実店舗がなければ、ホーム上では小腹を満たす菓子やパンに対応できていない。人員を極力少なくして店舗を構えることができないのか。その解決策が無人決済店舗となる
決済ゾーンに立って、右横のディスプレーに表示される商品名と価格、合計金額をチェックする。ディスプレーの内容が誤認識していれば再認識をタッチ、別の商品など幾つかの選択肢が示されるので手動で変更する 。正しければ交通系電子マネーをタッチして精算完了、自動で出てくるレシートを受け取る。出口手前のレジ袋も利用できる

アマゾン4スターが挑戦するオンラインとリアルの融合

前回に続き、アメリカ視察ツアー報告です。今回は、現在大注目の「アマゾン4スター(Amazon4-Star)」を紹介します。「オンライン」と「リアル」の買物体験を融合したアマゾンの新業態は、リアル店舗にどんな影響をあたえるのでしょうか?

マンハッタンのSOHO地区の古い建物に居抜き出店した「アマゾン4スター」。

ジャンルを問わず星4つの売れ筋を陳列

アマゾンは今年の9月27日、「アマゾン4スター」というまったく新しいコンセプトのリアル店舗を、NYマンハッタンのSOHO地区に開店しました。アマゾンのオンラインサイトで「星4つ」以上の評価を獲得した売れ筋商品だけを品ぞろえする店です。アマゾンによると、オンラインの「販売データ」と「ほしいものリスト」のデータを使って、さらに商品を絞り込んで、陳列商品を選定しているそうです。マンハッタンの中心の大都会なので、売場面積は130坪程度と、決して大きな店ではありません。

この連載の第14回で紹介した「アマゾンブックス」が書籍に限定しているのに対して、商品ジャンルを問わず、アマゾンの売れ筋商品を陳列しています。取扱商品のジャンルは、書籍、ギフト、アマゾンエコーなどのアマゾンデバイス、ルンバなどのスマート家電、キッチン、文具、生活雑貨、玩具などです。店に入ると、「現在オンラインでもっとも購入したい商品」を、ジャンルを問わず島陳列していました(下の写真)。


アマゾンは、オンラインサイトでの買物体験をリアル店舗でも実現し、オンラインでの買物体験とリアル店舗での買物体験を融合しようとしています。下の写真は「アマゾンブックス」の陳列ですが、「アマゾンで1万以上のレビューのあった本」だけを集めたエンド陳列です。従来のリアル書店では、絶対に実現できない陳列です。

オンラインの買物体験をリアル店舗に導入したアマゾンブックス。

130坪程度の売場で、売れ筋に商品を絞り込んでいるので、選べる楽しみはないのかと思っていましたが、どんな商品が「4スター」の評価を獲得しているのかを見るだけでも、とても楽しい買物体験でした。

アメリカ視察ツアーの参加者の中で、娘にオモチャを頼まれた人がいました。ウォルマート、メイシーズ、玩具専門店などをさんざん探し回ったが見つからず、あきらめかけていたところ、最終日に訪問したアマゾン4スターに、娘に頼まれたオモチャがあったそうです。超売れ筋の4スターを品切れさせないアマゾン、おそるべしです。

ダイナミックプライシングで価格もオンラインと連動

アマゾンブックス同様に、アマゾン4スターも「ダイナミックプライシング」を採用しています。ダイナミックプライングとは、アマゾンが採用している「値付け」の仕組みのことで、需要と供給に応じてリアルタイムに「売価」を変更する値付け方法です。

オンラインでの売価変更は簡単ですが、リアル店舗では「紙の棚札」を付け替える作業が発生するので、ダイナミックプライシングの採用は、現実的な方法ではありませんでした。アマゾンブックスでは、売場に売価表示の棚札を付けないで、店内にあるプライスチェッカーやアプリのスキャナーで書籍のJANコードを読み取り、書籍の売価を表示していました。

アマゾン4スターでは、下の写真のように電子棚札を採用することで、ダイナミックプライシングに対応していました。アマゾンのオンラインの売価が下がると、それに連動してリアルタイムにアマゾン4スターの売価も変わる仕組みです。

また、アマゾンブックスもアマゾン4スターも、「一般客」に比べて、「アマゾンプライム会員」の価格を思いっきり安くしており、プライム会員にならなければこれだけ損をすると徹底的に主張しています。アマゾンのすべての動線は、プライム会員の獲得につながっているわけです。

電子棚札でダイナミックプライシングを導入しているアマゾン4スター。電子棚札に星がいくつの商品かを表示している。

ロピア、カワチ、トライアル、クリエイトSD…ストコンの穴場「千葉ニュータウン」を歩く

東京から電車で約1時間の千葉ニュータウン。国道沿いに大規模商業施設が林立していて、まるでアメリカ郊外の流通激戦区のようだ。なかでも北総線の千葉ニュータウン中央駅と印西牧の原駅の間は、イオン、カインズ、ジョイフル本田、コストコ、ヤオコー、マツモトキヨシ、ロピア、クリエイトエス・ディー、カワチ薬品、トライアル……などなど、あらゆる業態の大型チェーンストアがしのぎを削っている。(月刊マーチャンダイジング2018年11月号より転載)

本誌は、なかでも一時テナントの撤退が続き「シャッター通りショッピングセンター(SC)」ともいわれたSC「ビッグホップガーデンモール印西」に注目した。テナントが続々離脱し、閑散としていた時期もあった同SCだが、2018年春にロピアの誘致に成功。その後クリエイト エス・ディ―、セリアと強力なテナントミックスを構築し、勢いを盛り返してきている。そこで、ロピアと周辺企業の店舗概要を紹介しながら、この地区の小売業の特徴を分析し、ロピアの強さの秘訣を分析する。また、ハンドソープカテゴリーの商品構成グラフの作成を通じ、カテゴリーの強さの比較方法についても学ぶ。

ロピア印西BIGHOP店

シャッター通りのSCを復活させた精肉特化型スーパー「ロピア」の求心力

PART1では千葉ニュータウン地区にある5店舗をピックアップして見どころを紹介する。注目は食品スーパーマーケット(SM)のロピアだ。1971年に神奈川県藤沢市精肉店からスタートした同社は、途中SMに業態転換し、精肉を中心とした強力なディスカウント戦略で急成長している。ロピア印西BIGHOPの店舗分析から同社の魅力に迫ってみよう。

精肉店からスタートし1都3県で出店を加速

神奈川県を地場とする食品スーパー(SM)のロピアが全国的に知られるきっかけとなったのは、2013年11月。千葉県船橋市の巨大ショッピングセンター「ららぽーとTOKYOBAY」の西館リニューアルに合わせ、核店舗として入店したことだった。

イオン最大の旗艦店舗である「イオンモール幕張新都心」への対抗策として、デベロッパーの三井不動産から誘致されたロピアは、高品質な精肉を圧倒的なボリュームと値段で提供し、オープン当初から大盛況。精肉以外の生鮮品や加工食品の中にも激安商品は多く、価格・品質の両面で満足度の高いSMとして、主婦層を中心に口コミで話題となり、その認知度は急速に広まった。

ロピアはもともと、精肉店を出自とする企業である。1971年、神奈川県藤沢市で肉の宝屋として創業した同社は、1970年代後半より精肉店をチェーン展開。1990年代後半からスーパーマーケット業態にも進出し、神奈川県から東京都、埼玉県、千葉県へと店舗を拡大していった。

現在、ロピアでは「ユータカラヤ」業態5店舗、「ロピア」業態37店舗を展開。そのうち出店を加速している千葉県内には、ららぽーとTOKYO-BAY店、美浜ニューポート店、ゆめまち習志野モール店、柏コジマ店、アクロスプラザ流山店、印西BIGHOP店の6店舗を構えている。

「ロピア印西B I G H O P 店」は、2018年4月にオープンしたばかりの新店である。同店が入店する「ビッグホップガーデンモール印西」(以下、ビッグホップ)は北総鉄道・印西牧の原駅から徒歩すぐの位置にあるショッピングセンター(SC)だ。

衣料品店をはじめ靴専門店、インテリア雑貨店、大型書店、スポーツ用品店などが入店。パソコン教室や学習塾、印西市市役所の出張所もあり、コミュニティセンターとしても機能する。同SCのランドマークである観覧車をはじめ、子供向けの遊具も揃っており、フードコートなどもあることから、子供連れの来店客が中心のSCとなっている。

ビッグホップがある北総鉄道および国道464号線沿いの印西・千葉ニュータウン地区は、ホームセンターの「ジョイフル本田千葉ニュータウン店」「カインズ千葉ニュータウン店」をはじめ、SCでは「ドン・キホーテ」が入店する「イオンモール千葉ニュータウン」や「ヤオコー」を核店舗とする「牧の原モア」、ディスカウント業態の「スーパーセンタートライアル 千葉ニュータウン店」、そのほか「コストコホールセール千葉ニュータウン店」など大型商業施設がひしめいており、周辺住民は車での買物に慣れている。

2007年にオープンしたビッグホップは開業当初、年間売上目標240億円、年間来場者目標600万人を見込んでいたが、翌年に開発・運営企業が経営破綻。たび重なる運営会社の変更に加えて、周辺地域の競合激化から客足が伸びず、地場の食品スーパーも数年前に撤退し、テナントの空きが目立っていた。

2018年春、SC内バリューモール地区の大規模リニューアルにより、「ロピア印西BIGHOP店」が新たな核店舗としてオープン。同店の両隣はドラッグストアのクリエイト・エス・ディーとコーヒー・輸入食材のカルディ、向かいには100円ショップのセリアと、集客力の高い店舗で構成されており、同SCの再活性化に懸ける意気込みが伝わってくる。

この読みは大当たりし、ロピアのオープン以降、まばらだったモールにはお客が戻り、休日には大型駐車場が混み合うまでに回復。新たなテナントも入り始め、平日の日中でもロピアやセリアのショッパーを持った子供連れの若い母親世代のお客を多く見掛けるようになった。

強みの肉類を前面に出した活気のある売場づくり

ロピアは精肉店出身ということもあって、その売場づくりは独特だ。店舗によってレイアウトは異なるが、「ロピア印西BIGHOP店」での生鮮売場は、食品スーパーのセオリーである〈青果~鮮魚~精肉〉の順ではなく、〈精肉~鮮魚~青果〉という、肉製品の魅力を最大限に打ち出した配置となっている。

主通路をたどっていくと、青果売場に続く店内最奥部は総菜コーナーとなっており、ロースカツや焼き豚、キャベツメンチカツといった肉総菜を中心に、弁当類やピザ、中華総菜などを売り込む。主通路内の要所には島陳列による特売品コーナーを設け、チラシ掲載商品やその日のおすすめを大量陳列する。

精肉をはじめとした生鮮売場のすぐ裏が酒売場になっている点もロピアの特徴だろう。とくに肉料理に合う値ごろ感のある赤ワインが主通路側に配置され、定番のビール類やRTD(レディ・トゥ・ドリンク/缶チューハイなど)はレジ側に配置されている。

また、加工食品売場の上部には汽車を走らせ、市場のような勢いのある筆文字風の天つりPOPや、チョークアート風イラストによる商品アイコンが、にぎわいのある楽しい買物空間を演出している。

「ロピア印西BIGHOP店」の周辺には、徒歩圏内に同じ食品スーパー業態の「ヤオコー牧の原モア店」や「カスミフードスクエア西の原店」、メガ・ドラッグストアの「カワチ薬品牧の原店」があり、車を走らせれば大型の商業施設がいくつもあることから競合も激しい。なかでもジョイフル本田内にある、ロピアと同じ精肉特化型スーパー「ジャパンミート生鮮館」と、アメリカ産牛肉を中心とした大容量パックが売りの「コストコ」は、「ロピア印西BIGHOP店」にとってベンチマークすべき店舗だ。

「ロピア印西BIGHOP店」の精肉売場では、上記2社との差別化を図るため、みなもと牛をはじめとした国産牛肉の品揃えに力を入れている。週末には5等級和牛のすき焼き用、焼き肉用盛り合わせをはじめ、ランプやイチボといった希少部位を詰め合わせたステーキの盛り合わせ、ローストビーフ用の塊肉、最上級のシャトーブリアンなどを手ごろな価格で提供。

また平台には国産豚やイベリコ豚、国産ハーブ鶏もも肉などのメガ盛りパックが価格訴求品として展開され、食べ盛りの子供がいるファミリー客に人気だ。自社製ウインナーや自社製薫煙ベーコンといったプライベートブランド(PB)もあり、休日には試食販売も積極的に行っている。

「ロピア印西BIGHOP店」は、もうひとつの集客の要として、直営のステーキ専門店「THE BIFTEKI」を運営している。注文は食券制で、メニューは「ビフテキスモール( SSIZE、約200g)」500円、「ビフテキミドル(M SIZE、約400g)」1,000円、「ザ・ビフテキ(BIG SIZE、約600g)」1,500円、「国産牛ステーキ(約300g)」1,980円のほか、サイドディッシュとしてライス、カレー、焼き野菜、サラダがある。ステーキは軽く火を通しスライスされた状態で提供され、ペレット(焼き石)で好みの焼き加減に調整できる。立食のカウンター席のほか、奥の休憩スペースでも食事ができ、ステーキ用のソースやドレッシング類も用意されている。

「THE BIFTEKI」は平日・休日問わず混雑していて、肉の焼けるいい香りがそのままスーパー部門の集客にもつながっており、いままでにない販売手法は一見の価値があるといえるだろう。

[店舗概要]

店舗所在地 千葉県印西市原1-2 BIG HOPガーデンモール印西1階
開店日 2018年4月
営業時間 10:00~20:00(THE BIFTEKIは11:00~14:30、16:30~19:00)

ジョイフル本田 千葉ニュータウン店

日用品の大容量サイズを豊富に品揃え

北総鉄道・印西牧の原駅から6.5㎞の位置にあるホームセンター「ジョイフル本田」の超大型店舗。通常のホームセンター業態のほか、プロユースの資材館、ガーデンセンター、生体販売やトリミングルーム、動物病院機能も持つペットワールドなどの別棟を構えている。

また、精肉の品揃えに定評のある「ジャパンミート生鮮館」をはじめ、シネコンの「USシネマ」、カジュアル衣料の「ユニクロ」や「ココス」「魚べい」といった飲食店もエリア内に出店。圧倒的な規模感と品揃えで、直線距離で約3.5㎞の競合である「カインズ千葉ニュータウン店」との差別化を図っている。

同店の最大の特徴はトイレットペーパーの18ロール入りをはじめ、ティッシュペーパー5個パック×3のセット商品や洗剤の大容量パックなど日用雑貨品の大容量サイズの豊富な品揃えにある。とくにP&G社の品揃えに強く、「アリエール3Dジェルボール」「レノア」などがメインエントランス正面にタワー状に積まれ、存在感を放っている。

また洗剤やシャンプーの定番売場では、専用棚にテスターが置かれており、好みの香りを確認できるようになっている。

ハンドソープの品揃えは51SKUで、こちらも洗剤類やシャンプー同様、大容量品が多い。ホームセンター内にはドラッグストアコーナーもあるが、必要最低限の品揃えにとどめている。

[店舗概要]

店舗所在地 千葉県印西市牧の原2-1
開店日 2002年12月
営業時間 9:00~19:30(※資材館のみ 7:00から営業)
駐車場 3,290台

スーパーセンタートライアル 千葉ニュータウン店

絞り込んだ品揃えで低価格訴求

北総鉄道・千葉ニュータウン中央駅から0.5kmの位置にあるディスカウントストア「トライアル」の24時間営業店舗。元家電量販店の居抜き出店らしく、1階をすべて駐車場に、2階を売場に充てている。

線路を挟んで向かい側にはSCの「イオンモール千葉ニュータウン」があり、同SC内にはディスカウントストア業態である「ドン・キホーテ千葉ニュータウン店」が入店。また、低価格帯の食品に強い「ベイシア千葉ニュータウン店」が直線距離で約1.5㎞、「ロピア印西BIGHOP店」までは約6.0㎞、ジョイフル本田内の「ジャパンミート生鮮館」が約4.5m、「コストコホールセール千葉ニュータウン店」が約2.4㎞と、食品分野での競合は激しい。

フロアは食品売場と日用雑貨売場に大きく分かれる。食品、日用雑貨品ともに低価格を実現しているが、食品売場の定番棚と日用雑貨売場の定番棚が平行に並んでいないため、棚の高さも相まって全体の見通しはよくない。

ハンドソープの品揃えは28SKUと絞り込んだ。「キレイキレイ」と「ビオレ」の2大ブランドとともに、安価なローカルブランドの薬用ハンドソープの詰め替え用を、中通路側エンドでもフェースを取って展開している。日用雑貨品売場の最奥部にドラッグストアコーナーが併設されているが、こちらは24時間営業ではなく9時から20時までの営業となっている。

[店舗概要]

店舗所在地 千葉県印西市武西学園台1-1358-1
開店日 2007年12月
営業時間 24時間(※サービスカウンター 9:00~22:00、カー用品・家電9:00~22:00、 ドラッグストア 9:00~20:00)

クリエイトエス・ディー BIGHOPガーデンモール印西店

若年層ターゲットにビューティ強化

北総鉄道・印西牧の原駅から徒歩1分の位置にある巨大ショッピングセンター「ビッグホップガーデンモール印西」のバリューモール地区1階にある小型店舗。同SCの新たな核店舗となった「ロピア印西BIGHOP店」のオープンと同時期に入った新店であり、SCの再活性化に一役買っている。

線路を挟んで向かい側のショッピングセンター・モア内に「マツモトキヨシ 牧の原モア店」、道路を挟んだ向かい側には「カワチ薬品 牧の原店」があるが、競合として意識している様子は見られない。

また「ビッグホップガーデンモール印西」内には医薬品や日用品を扱う店舗がないため、ロピアや100円ショップのセリアなどに来たお客が、気軽に立ち寄れるコンパクトな店づくりとなっている。

クリエイトエス・ディーの大型店では医薬品や日用品のほか、食品や酒類でも幅広い品揃えが見られるが、隣接店舗が食品スーパーということもあり、一部健康食品などを除き食品はほとんど扱っていない。

同SCのメインターゲットである若年層や子供連れの母親世代を意識し、シャンプーなどのヘアケアやプチプラコスメといったビューティを強化している。ハンドソープの品揃えは42SKU。「キレイキレイ」「ビオレ」「ミューズ」のほか、500mℓクラウディア・ジャンセン「薬用ハンドソープ」を価格訴求品として展開する。

[店舗概要]

店舗所在地 千葉県印西市原1-2 BIG HOPガーデンモール印西1階
開店日 2018年4月
営業時間 10:00~20:00

カワチ薬品 牧の原店

安さと豊富な品揃えで集客 調剤も併設

北総鉄道・印西牧の原駅から約1.0㎞の位置にあるメガ・ドラッグストア「カワチ薬品」の大型路面店舗。同じロードサイドにはカジュアル衣料の「ファッション市場サンキ 千葉ニュータウン店」、スポーツ用品の「スポーツデポ千葉ニュータウン店」の大型店舗が並び、線路を挟んだ対向の「ジョイフル本田」とは別の存在感を放っている。

同じドラッグストア業態では線路を挟んで向かい側のショッピングセンター・モア内に「マツモトキヨシ 牧の原モア店」があるが、カワチ薬品は大型店舗ということもあり、それほど影響を受けていない。しかし「ビッグホップガーデンモール印西」内に、今年4月オープンした食品スーパー「ロピア印西BIGHOP店」は、食品のEDLP(エブリデーロープライス)を重視する同店に大きな影響を及ぼしているようだ。

とはいえ、本業であるドラッグストアの機能として同店は調剤薬局を併設しており、固定客もついている。医薬品や日用品の品揃えは新たな競合である「クリエイトエス・ディー BIGHOPガーデンモール印西店」よりも豊富で、食品や菓子類、飲料など幅広い品揃えを持つから、安さに加えて買物を一ヵ所で済ませたい客層にとっては使い勝手がよい店といえるだろう。

ハンドソープの品揃えは、82SKUと4店の中ではもっとも豊富。ハンドソープコーナーの脇にウイルス対策として「クレベリン」「手ピカジェル」なども展開している。

[店舗概要]

店舗所在地 千葉県印西市西の原1-1-1
開店日 2004年4月
営業時間 9:00~20:00

実店舗もECもその本質は情報を編集・発信する「メディア」だ

連載「商売に効く本棚」では、毎日の商売に刺激を与える書籍をピックアップしてご紹介します。第1回は世界的に知られる小売コンサルタント ダグ・スティーブンスによるアマゾン一強時代のサバイバル小売論「小売再生ーリアル店舗はメディアになるー」を紹介します。(流通ジャーナリスト:流川通)

リアル店舗の新たな可能性

この世界に無限に散らばる「情報」をすくいあげ、ある評価軸で編集し、発信する媒体を広義の意味で「メディア」と呼ぶならば、まさしく「リアル店舗」は=「メディア」である。

本書の卓越な指摘は、リアル店舗が本来備えているメディア性をアマゾンなどのネット産業の持つ新たな次元のメディア力と対比させながら、双方の特性をあぶり出し、前者のメディア発信力を過去の遺物と断じるのではなく、後者の現在と未来における消費にもたらす様々な影響力を相対化させてリアル店舗の新たな可能性を探っている点にあろう。

著者の対比の軸は、リアル店舗の王者であるウォルマートとネット産業界の破壊的イノベーターであるアマゾンである。

リアル店舗業界の巨人ウォルマートの売場は常に編集され、情報(商品・サービス)を集積、発信している。客数は、メディアの評価指数だ。

その膨大なウォルマートの客数は、「すでに何らかの購買動機を持って来店する買物客」というセグメントにおいては圧倒的であり、ゆえに世界的なメーカー、サービスベンダーがウォルマートと製販の戦略的協働体制を築いてきた。

その力はまだまだ健在だ。たとえば最新の人気ミュージカル映画の楽譜もウォルマートが先行発売できる。あまり知られていないかもしれないが、実はウォルマートは全米でもっともファン層が多いと言われる音楽ジャンルである「カントリーミュージック」のCD、楽譜売上のシェアナンバーワンを誇ってきた。ただし音楽コンテンツの大勢はネット産業に移行し、そのリーチはいまや限りなく少なくなってきているのが現実だ。

一方、アマゾンを筆頭とするネット産業は、スマホやタブレットなど人々の生活にあっという間に浸透してしまったモバイルデバイスのインフラメディアになってしまったため、「店舗に訪れることなく、購買動機もいつ生じるかわからないけど、いつでもどこからでもほしいものが買える」という環境を創り出してしまった。

そして著者が指摘するようにネット産業は技術進化とともに新しい体験を次々とリリースしている。

たとえばそのひとつVR(ヴァーチャルリアリティ=仮想現実)技術がより発達し、コンパクト化されれば、もはやスマホなどのデバイスすら不要となり、コーヒーが切れてしまったらダッシュボタンを押さずとも、コーヒーメーカーから空間に映し出されるヴァーチャルなお好みの選択肢に視線を合わせて、音声で発注するだけで、商品が届く時代が来るだろう。もう何年かすると、「そういえば昔は注文するのにボタンを押したものだよ」という昔話が語られるかもしれない。

「動的な買物体験」を実店舗も提供すべき

著者の描く未来をすこし飛躍させてみよう。

コーヒーの在庫が切れる頃、コロンビアのコーヒー農園主が直接ストリーミングで空間に映し出されたらどうだろう。

「今年もいい出来だ。味はどうだい?」と農場や収穫の様子がよくわかるメッセージが届く。もちろんこれは販売者たる小売業から顧客に提供されるスペシャルコンテンツだ。お客はオーダーすれば、お好み通りに焙煎されたコーヒー豆が送られてくる。「私はこんな風にしてあなたの農園のコーヒーを毎日楽しんでいるよ」、とお客から返事をもらえれば、農園主も嬉しいだろう。それはSNSの世界で不特定多数から「いいね」ボタンを押してもらうよりずっと楽しいはずだ。

小売業はそのような新しいコミュニケーションの中でより優れた作り手を評価、開発し、商品、サービス内容をブラッシュアップさせていく。ときには作り手とお客様を直接引き合わせて好みの豆や焙煎度を比較しあうオフ会を開いてもいい。テーマによってマグや器具、お茶菓子などをいろいろ集めてみると面白いだろう。製販、そしてお客も加わって自分の好みやスタイルを追求していく場を小売業は提案していくのだ。

著者の視点の根底には「店舗に来なくてもほしいものが手に入り」さらには「お客と作り手、あるいは売り手との新しいコミュニケーションが生成されていく」という環境下で、店舗という固定的なメディアの質的転換を図らねば、お客からはどんどん飽きられてしまうだろうという危機感がある。

ネット産業は技術革新とともにどんどん新しい動的な体験を消費者に訴えかけているにもかかわらず、リアル店舗の大半は相変わらず静的な商品を軸とした売場づくりに終始し、坪当たりの販売効率という昔ながらの経営指標の推移を追いかけてしまっている。

著者は、まだまだ規模は小さいが、商品やサービスの動的な体験を売りにした店舗展開で老舗百貨店メイシーズの12倍の坪効率をあげている企業例を引き合いに出して、メイシーズが店舗の半分でもその扱い商品の新しい体験価値を提案する場づくりにチャレンジしてほしいと願っている。

店舗もネット小売も等しく「メディア」であり、顧客にどんな素晴らしい買物体験を与え続けられるかでお客に選ばれていく…これが著者のシンプルなメッセージだ。ただし著者は、やみくもにリアル店舗がデジタルの技術革新に追随することはないと言い切る。大切なことはリアル店舗がわが店の既存の顧客と、まだ見ぬ新しい顧客に独自の価値体験とその満足をもたらせるかどうかであり、それがデジタル技術を援用してより増幅するものであるなら積極的にトライすべきだし、アナログでより深掘りできるのなら、それを追求すべきだと著者は強調する。

アマゾンやアリババといったネット産業がリアル店舗買収に走り、ウォルマートやクローガーがネットベンチャーを買収する構図は、双方のメディア価値と特性を知り抜いているからに他ならないだろう。いずれにせよ、より高い次元での競争がはじまるはずだ。

(ダグ・スティーブンス著 斎藤栄一郎訳 プレジデント社)

ES(従業員満足度)調査で分かった定着率向上の優先課題 [後編]

前回に引き続き、月刊MD2017年11月号で特集した「ドラッグストア従業員満足度(ES)調査2017」のダイジェスト版を掲載します。前回は、ES調査の結果、現在働いている従業員の中で、「当社/当店で働くことを友人、知人に全く勧められない」という「総合満足度」で最低の1点と回答した従業員が10%もいるという結果が出ました。今回は、ES(従業員満足度)を高めるために、どんな課題に優先的に取り組めばいいのかを整理してみましょう。

ESポートフォリオ分析によるES向上の優先課題

図表1 ESポートフォリオ

ESポートフォリオとは、前回の連載で紹介した従業員の匿名アンケートの「各設問の満足度」の得点を縦軸にプロットし、「総合満足度と各設問の満足度の相関係数」を横軸にプロットした4象限の散布図です(図表1)。ES調査の分析では、「相関係数」という統計的な手法を用いています。簡単にいうと、前回で紹介した「設問」と「総合満足度」の相関の強さを、相関係数を使って分析しました。

図表1の縦軸は、各要素(前回の設問項目)の満足度の高さを示しています。上に行く設問ほど満足度が高くなります。また、横軸は、「各要素(設問)の満足度」と「総合満足度」との相関関係を示しています。総合満足度とは、「当社/当店で働くことを友人、知人といった身近な人にどの程度勧めるか」を問うことで判断しました。「全く勧められない」から「大いに勧められる」までの10段階で回答してもらいました。つまり、図表1の右にプロットされた設問ほど、総合満足度との相関が強くなっています。

ESポートフォリオを使った分析方法で、優先的に改善すべき経営課題は、図表1の右下の「①重点改善分野」にプロットされた設問になります。理由は、従業員の満足度が平均よりも低く、かつ総合満足度との相関が高い設問だからです。「重点改善分野」にプロットされた設問の満足度を高めれば、従業員のES向上、定着率向上に大きく貢献します。つまり、優先的に改善しなければならない設問になります。

仕事量が多い、評価が不公平、本部・上司からのフォロー不足

今回の調査で、「①重点改善分野」にプロットされた設問を以下に列挙してみます。

[重点改善分野にプロットされた設問(総合満足度と相関の強い順)]
(30)仕事量は自分の能力と比較し、適切である
(26)給料は公平に決定されている
(6)店の計画達成や課題解決に向けて、本部/上司からの支援が常にある
(25)自分の能力・仕事内容に見合った給料である
(11)仕事を通じ、自分の長所や個性が発揮できている
(14)店には手順書やマニュアルなどが整備されており、仕事をスムーズにこなすのに役立っている
(29)店は働きやすい環境(仕事場の適度な広さ、休憩室の有無、安全衛生面等)や設備(仕事やサービスで使う器具、空調設備等)が整備されている
(27)上司から、仕事において良かった点、至らない点、今後努力すべき点などについてのフィードバックを定期的に受けている

上記の設問・要素は、総合満足度との相関の強い順に並べています。(30)の設問は、作業量の多さによって現場が疲弊している実態を表しています。(30)を改善するためには、作業の仕組み化、IT化で従業員一人当たりの仕事量を減らし、生産性を向上することが課題になります。(14)の設問も同様に、マニュアル化、仕組み化が、ES向上に大きな影響を与えていることがわかります。

(26)(25)の設問の満足度を高めるためには、「評価制度」と「待遇制度」を一致させて、従業員の努力目標をオープンにし、どのスキルを身につけると報酬が上がるかを、誰でもわかるように可視化することが重要です。

(6)(27)の設問は、本部・上司の指示が出しっぱなしで、その後のフォローや、上司と部下の「報連相」が不足している実態を表しています。

(11)の設問は、マニュアル化は重要ですが、あまりにも現場に権限のない組織は、仕事の面白みがなくなり、離職・転職の原因になるということです。

(29)の設問は、環境の悪い、汚くて古い店では働きたくないという実態を表しています。償却が終わって儲かっているという理由で、古い店舗を放置せず、計画的な店舗改装を進めることがESの向上につながります。事実、改装店舗で働く店長や社員のモチベーションはものすごく高まります。

時短ニーズのみならず、メインのおかずとして受け入れられる冷凍食品

みなさんは、普段冷凍食品を利用しますか?忙しいときや、一品足りないときなどとても便利で、最近の冷凍食品はとてもおいしくなったと思いませんか?日本冷凍食品協会が今年4月に発表した2017年の冷凍食品の国内での工場出荷額(速報値)は、前年比4%増の7,180億で、7,000億円台となったのは02年以来であり15年振りに7,000億円台を上回ったと言います。 そこで今回は、冷凍食品の買われ方について自主調査でPOB会員3,232名(男女40代~50代中心)を対象に「冷凍食品の購入」に関するアンケートを実施しました。

27%の人が月に2~3回食べる冷凍食品

まず、冷凍食品を食べる頻度について調査をしました。

冷凍食品を食べる頻度は、「月に2~3回」が27.7%でもっとも多く、4.1ポイント差で「週に2~3回」が23.6%と続きます。

次に、普段店頭で食料品を購入すると回答した方(n=2,860名)に、1回の買い物で、冷凍食品を購入する際に何個購入するか調査をしました。

1回の買い物で冷凍食品を購入する際に、「1~2個」が40.3%、次いで「3~4個」が15.8%、「5個以上」が3.8%と続きました。

購入場所はスーパーがダントツだが、DgSも12.8%と健闘

次からは、普段冷凍食品を利用すると回答した方(n=2,686名)に、深堀をして調査をします。

まず、冷凍食品の購入場所は、「スーパー」が89.2%とダントツで、「ドラッグストア」が12.8%、「生協などの宅配」が8.7%、「コンビニエンスストア」が5.9%と続きます。「スーパー」だけではなく、「ドラッグストア」や「コンビニエンスストア」などに、販路が広がっていますが、圧倒的に「スーパー」で購入する方が多く、店頭で購入していることがわかります。

次に、冷凍食品を利用する理由について、調査をします。

冷凍食品を利用する理由は、「簡単に調理できるから」が44.6%でもっとも多く、次いで「一品足りないとき/追加したいとき」が34.8%、「お弁当のおかずとして」が34.1%、「料理する時間がないとき」が30.9%と続き、「時短・簡便」がキーワードとなっていますが、「メインのおかずとして(16.2%)」や「味がおいしいから(12.4%)」など、立派なおかずとしても受け入れられていることがわかりました。

普段冷食を使う人の30%が買い置きする「ギョーザ」

次に、冷凍食品を食べるシーンについて、調査をします。

冷凍食品を食べるシーンは、「夕食」が57.7%でもっとも多く、「昼食」が40.4%、「お弁当」の25.3%と続き、夕食の一品や昼食など、家庭での食事として利用されることが多いことがわかりました。

次に、日頃買い置きしている冷凍食品について、調査をしました。

日頃買い置きしている冷凍食品は、「ギョーザ」が29.9%でもっとも多く、「からあげ・竜田揚げ」が25.4%、「うどん」が23.1%と続きます。また、天候不順が続く中でも価格が安定している「野菜類」が22.6%となり、ほかにも夕食のメインやお弁当のおかずになるような、「コロッケ(13.7%)」、「シューマイ(12.2%)」、「ハンバーグ(10.9%)」などがランクインしました。

まだまだPBよりNBが人気の冷凍食品

次からは、各社が注力しているプライベートブランド(以下PB)の冷凍食品について調査をします。

直近1年間のPBの冷凍食品の購入経験は、「購入したことがある」が59.1%、「購入したことがない」が29.1%となり、購入したことがある方が、大きく上回りました。

次に、メーカーが自社ブランドで販売するナショナルブランド(以下NB)と、PBの冷凍食品について、どちらの購入頻度が高いか調査をしました。

NBとPBの冷凍食品の購入頻度については、「NBの購入頻度が高い」が40.1%、「PBの購入頻度が高い」が19.6%を20.5ポイントも上回りました。今回の調査では、9割近くの方が冷凍食品をスーパーで購入していたため(図表3参照)、スーパーでの商品展開数が豊富な、NB品のほうが選ばれていたことが考えられます。

次に、冷凍食品を扱う代表的なPBブランドをピックアップし、購入経験を調査します。

購入経験がある冷凍食品のPBブランドは、1位がイオンのPB「トップバリュ」が53.9%で、2位以下と30ポイント近くの差をつけ、2位がセブン&アイ「セブンプレミアム」が25.4%、3位が西友「みなさまのお墨付き」が14.1%と続きます。また、4位には宅配系生協の「CO-OP(11.7%)」、5位にはコンビニエンスストアのローソン「ローソンセレクト(10.7%)」がランクインしています。

冷凍食品は、「時短・簡便」のキーワードから、冷凍食品なのに「こんなにおいしい」という感動を提供できる商品が続々と発売されています。また、販売経路もスーパーからドラッグストア、コンビニエンスストアまで広がり、あらゆる年代の方に様々なシーンで食べられるようになりました。

また、無印良品を展開する良品計画は冷凍食品事業に参入することを発表し、総菜やご飯ものなど今年9月下旬から冷凍陳列棚を置いた国内4店で販売を始め、2019年2月までに20店に拡大すると発表していることから、新規参入するメーカーも増えることが予想されるため、今後も冷凍食品の動向に注目したいと思います。