散布図を作成して複数の数値の「相関関係」を突き止める

前回はTableauで地図上にデータを表示する方法を説明しました。自社拠点などの地点をプロットし、数値で色を塗り分けることで、ただ数表を眺めるだけでは気付きにくい地理的な要因を可視化できるというマップならではの利点を知ることができました。この第五回では再び切り口を変えて、複数の数値の関係性を理解する時に使う、散布図の作成方法を説明します。

1.数値の相関

「売上の推移を月ごとに見る」、「利益を拠点ごとに比較する」といった1つの数値を分析するだけではなく、複数の数値の関係性を見つけようとするケースは多くあり、ビジネスの現場でもよく行われています。

例えば、「製品の価格は販売数量にどの程度影響を与えているのか?」、「顧客アンケートの設問数と回答率に関係はあるのか?」など、ある要素が別の要素にどの程度の影響を与えているのかを、分析したい場合があります。

こういった数値項目(Tableauにおけるメジャー)同士の関係性を認識するには、まずは「相関性」の分析を行います。相関とは「一方が変動しているときは、もう片方も変動している」という関係性のことを指します。例えば、「身長が伸びると体重も増える」「売上が増えると利益も増える」という場合です。ただ、相関は必ずしも2つの数値の関係性を保証するものではありませんし、因果関係とも異なるものですので注意が必要です。

2.散布図の作成

相関を視覚的に捉える最もスタンダードな方法は、散布図を描くことです。ここでは売上と利益を例にとって、Tableauでの散布図作成のための操作方法を順を追って説明します。

2.1.Excelファイルの読み込み

第二回と第三回で使用した「サンプルサンプル – スーパーストア.xls」を再び使用します。新しくはじめる場合は、Tableau起動直後に左上にある「接続→ファイルへ→Microsoft Excel」をクリックしてファイルを選択します。ファイルの中の「注文」シートをドラッグして読み込み、シート1または新しいシートに移動しましょう。

2.2.二つの軸を作る

散布図を作成する最初のステップは、縦軸と横軸になるメジャーを明確にすることです。今回は売上と利益の関係性を見てみるので、画面左端にあるメジャーの売上を列に、利益を行にドラッグ&ドロップします。

<図2-1 売上と利益の配置>

第三回まではメジャーの軸はひとつでしたが、列と行にひとつづつメジャーを入れることで縦と横の2つの軸が出来上がりました。そしてビューエリアには丸い点がひとつだけ存在しています。この丸い点は「注文」シートの全データの合計値を表しています。

<図2-2>

2.3.点を分解して分布を見る

点がひとつだけでは関係性を表すことができませんので、この点を製品ごとに分解して分布を見てみましょう。散布図を作成するときは、メジャーで縦軸と横軸を作成してから、ディメンションをマークに配置します。画面左端のディメンションから製品名をマークの詳細にドラッグ&ドロップすると、多くの丸い点が出現します。この点のひとつひとつが個別の製品の実績を表しています。

<図2-3 製品名をマークの詳細に配置する>

<図2-4>

こうして見てみると、利益は売上に必ずしも比例していないことが読み取れます。右にある点ほど売上が高いのですから、そのような製品は利益も高くあってほしいものです。つまり「売上が増えれば利益も増える」という正の相関を期待しているのですが、しかし実際には利益が取れていないどころかマイナスになっている製品がいくつもあります。

2.4.特徴のある点の共通項を探る

それでは、「売上が増えるほど利益がマイナスになる」製品たちには何か共通の要因があるのでしょうか。利益がマイナスになっている幾つかの点にマウスオーバーしてみると、「充電器」や「机」といったキーワードが共通しています。どうやら製品カテゴリに偏りがあるようですので、ディメンションの中からサブカテゴリをマークの色にドラッグ&ドロップして色分けしてみます。

<図2-5 サブカテゴリをマークの色に配置>

<図2-6>

利益がマイナスになっている点は、少数の同じ色であることが目立ちます。特に数が多く見えるのはテーブルと電話機です。この2つに絞って詳細な分析を進めていけば、今まで見えていなかった課題が浮き彫りになってくるかもしれません。

色が見づらい場合にはマークの形状をクリックし、中を塗りつぶした黒丸を選択すると見やすくなることがあります。また、画面右端に色の凡例が出ますので、その中から任意のサブカテゴリを選択すると、ハイライト表示することができます。

<図2-7 マークの形状から塗りつぶしを選択>

<図2-8 電話機のサブカテゴリをハイライトしたとき>

以上のように、散布図はメジャーを行列にひとつずつ、マークにディメンションを配置すると作成することができます。プロットした点が多すぎるときはフィルタリングしたり、階層をワンランク上げてみたりするとよいでしょう。

3.傾向線で相関の強さを定量的に把握する

散布図にプロットした点を読み解くときのポイントは「点がどのように集束しているか」を見ることです。それぞれの点がばらばらに分布しているほど関係性(相関)が弱く、1本の直線上に沿っていれば関係性は強いと言えます。※1 この相関の強弱は数学的に計算することができ、Tableauを使えば簡単にそれを知ることができます。

画面左上の「アナリティクス」をクリックすると統計機能のメニューが表示され、その中に「傾向線」があります。この傾向線をビューにドラッグ&ドロップしましょう。ドラッグすると線形や対数といったアイコンが出ますが、ここでは線形または何もないところにドロップします。

<図3-1>

<図3-2 傾向線をビューにドラッグ&ドロップした直後>

傾向線をドラッグ&ドロップすると、たくさんの線が表示されました。この線1本がひとつのサブカテゴリを表しています。このとき、統計的にはTableauの傾向線は最小二乗法による単回帰式となっており、式は「y=ax+b」の形を取ります。

傾向線にマウスオーバーすると、式とともにR2乗値とP値が表示されます。R2乗値は決定係数といって相関の強さを表すもので、1に近づくほど関係が強いということができます。例えば、テーブルの傾向線にはR2乗値が0.37と表示されているので中程度の相関があり、しかも式の傾きがマイナスですので「売上が高くなるほど利益が小さくなる(マイナスになっていく)」ということが明らかになっています。※2

<図3-3 テーブルの傾向線>

4.まとめ

今回はデータを散布図に表す方法、そしてデータの相関を傾向線から読み取る方法を解説しました。関係性を明らかにしてある程度の相関を見出すことができれば、例えば将来の予測を行うことができます。また、傾向線から大きく外れるデータは「いつもとは異なるデータ」と看做すこともできますので、プロモーションの効果測定や異常検知に活用することもできます。

[注釈]
※1 説明上は「直線」としていますが、実際には直線である必要はありません。データが指数関数グラフのように並んでいる場合は対数変換をかければ直線になりますので、相関性を認めることができます。
※2 Tableauにおける傾向線モデルの詳細は https://onlinehelp.tableau.com/v2018.2/pro/desktop/ja-jp/help.htm#trendlines_add.htmlをご覧ください。

新商品が続々登場した透明飲料。来年の夏はどう動く?

店頭に多数並ぶ透明のペットボトル飲料。従来のフレーバーウォーターだけではなく、ついにコカ・コーラや、ノンアルコールのビールテイスト飲料まで登場し、この夏のトレンドとなりつつあります。そこで今回は、人気の透明ペットボトル飲料について独自データに基づき分析します。

購入理由は60.7%が「試し買い」

まずは、自主調査でPOB会員3994名を対象に「透明ペットボトル飲料の購入に関する」アンケートを実施し、透明飲料の購入経験について調査をします。

透明ペットボトル飲料の購入経験は、「購入したことがある」が55.0%で、2人に1人が購入した経験があり、購入者層の男女比はほぼ半々で、男性は50代、女性は30代がボリュームゾーンとなります。

次に、透明ペットボトル飲料の購入経験がある方を対象に購入理由について調査をします。(N=2196名)

透明飲料の購入理由は、「試し買い」が60.7%とダントツで、購入時に重視される味に関する「おいしそうだから」はわずか22.0%となります。ほかにも「流行っている・話題だから」が15.5%、「珍しいから」が15.1%、「新商品だったから」が14.2%など、購入理由からは、ほとんどの方が、新しさに手を伸ばすトライアル購入者であることがわかります。

一番人気の「ヨーグリーナ&サントリー天然水」

次に、代表的な透明飲料の銘柄をピックアップし、購入経験について調査をします。

購入したことがある透明ペットボトル飲料について、1位~10位までをみると「サントリー」天然水シリーズと「コカ・コーラ」い・ろ・は・すなどの、既に定着している商品が目立ちます。中でも1位の「ヨーグリーナ&サントリー天然水(サントリー)」は、45.2%と半数近くの方が購入したことがあると回答し、多くの支持を集めました。

「乳酸菌飲料なのに、甘過ぎずにしつこくなくて、スッキリ飲める。夏でもスッキリした味の乳酸菌飲料なので気にいっている。(40代女性)」や、「無色透明なのに、ヨーグルトの味がする不思議さ。子どもが好きで頼まれて購入(30代男性)」など、乳製品のコクがありながらも、甘酸っぱくスッキリした味は、代替品が少なく、2015年4月から発売され、透明飲料市場を切り開いたブランド力で長く、幅広い年代に定番商品として親しまれています。また、今年3月にはリニューアルを実施し、乳酸菌UPでさらにヨーグルト感を味わえるようになりました。

また2位の「い・ろ・は・す 白桃(コカ・コーラ)」は、25.4%で、2015年10月から発売している「い・ろ・は・す もも」の後継品として、今年2月に発売され、「「もも」が「白桃」にリニューアルされたことを知っており店頭で見つけて購入。甘さや香りが強すぎずに飲みやすい(50代男性)」や「以前から気に入って購入していたが、白桃にリニューアルされ、購入したくなり店頭に行くと、かなりのお客様が関心を持ったようで商品も少なくなっていた。白桃のみずみずしさがよい(40代男性)」など、リニューアルがきっかけで購入につながり、商品に対する満足度がよりアップしていることがわかります。また10位以内には、4位に「コカ・コーラ クリア(20.1%)」、10位には、「爽健美水(10.2%)など、コカ・コーラは6月に発売されたばかりの2商品がランクインしましたが、コーヒーフレーバーの「クリアラテ from おいしい水(アサヒ飲料)」や、ノンアルコールビールテイスト飲料の「オールフリーオールタイム(サントリー)」は、少数派で、以前から発売され、既に定着している「ヨーグリーナ」や「い・ろ・は・す」の人気が根強いことがわかります。

では、透明ペットボトル飲料を購入しなかった方の理由について調査をします。(N=1556名)

透明飲料を購入しなかった理由については、「透明より通常の色のほうがよい」が33.6%でもっとも多く、「おいしそうにみえないから」が33.0%、「成分などが不安」が28.7%と続きます。本来は色がついている飲み物が透明であり、味やペットボトルのデザインが異なっても、どれも同じものに見えてしまうため、商品からのおいしさがみえにくいのと、透明である仕組みに疑問をいただく方が多いことがわかります。

コーヒー・ビール・お茶を選ぶのは少数派

今年6月には、サントリーからノンアルコールビアテイスト飲料の「オールフリーオールタイム」が発売され、様々なジャンルの透明飲料が揃いました。今後どのジャンルの透明ペットボトル飲料を飲みたいか聞きました。

今後飲んでみたい透明ペットボトル飲料のジャンルは、1位が「炭酸水」で23.3%、2位が定番の「フレーバーウォーター」が18.7%と続き、この2つのジャンルに人気が集まり、3位以下は少数派で、3位は「コーヒー」で4.3%、4位は「ビール・発泡酒」が3.9%、5位は「お茶」で3.8%と続きます。

最後に、今後新商品の透明ペットボトル飲料が発売された場合、消費者の購入意欲について調査をします。

今後新商品の透明ペットボトル透明飲料が発売された際の購入意欲は、「購入したい」が9.3%、「やや購入したい」が19.9%で、約3割の方が「購入したい」と回答しました。一方で、「あまり購入したくない」が32.7%、「購入したくない」が14.9%で、約4割以上の方が、「購入したくない」と回答しました。理由としては、様々なカテゴリの透明飲料が出揃ってしまった今後は驚きのカテゴリやフレーバーが発売されない限り、購入につながりにくくなっているのかもしれません。

この夏は、たくさんの消費者が透明飲料を試し買いしたと考えられますが、「ヨーグリーナ&サントリー天然水」のように、他社にはない味の追及や、「コカ・コーラ クリア」の今まで何十年も変わらぬ色を変えてしまう挑戦など、消費者に継続的に購入してもらうための、様々な企業の努力が感じられた調査結果となりました。

 

POBデータとは

「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」データベース。

全国の消費者から実際に購入/利用したレシートを収集し、ブランドカテゴリや利用サービス、実際の飲食店利用者ごとのレシート(利用証明として)を通して集計したマルチプルリテール購買データのデータベース。消費財カテゴリ68種類 約6,000ブランド、飲食利用カテゴリ10種類約200チェーン(2018年1月現在)。

「セゾンポイントモール」会員と、「Ponta Web」会員、当社登録会員「キャスト」で構成された約20万人のネットワーク。マーケティング戦略に不可欠なデータを、“より精度を高く”を企業・メーカーに提供します。

各業界に広がるリアルでのAIの適用

今回の記事では、広く小売に限らずどのようなAIの活用事例があるのかを紹介して行き、どのようなAIの活用事例があるのか、またその活用事例における共通点を伝えることで、自社のAI活用に繋がる示唆を得てもらう。

AIの技術を使って成功を納めている象徴的な例の一つとして、本連載記事における第一回の記事で紹介したAmazon Goがある。Amazon Goでは、店内に無数のカメラやセンサーをつけ、AIを使用することで、店内のお客様の行動解析や決済の無人化を実現している。

無人店舗のサービスを提供する会社については、Amazon Go以外にも出てきている。こちらの記事にあるように、Inokyoなどがその例である。新しい店舗の形は、テクノロジーの進化によって現実のものとなってきているが、無人化の影響は単純にレジを打つ必要なくなるだけではない。

レジ打ちを行なっていた人がお客様の満足度を上げるためのアクションを取ることができることはもちろん、お客様の店内における行動データを全てとることができる。

店に入ってからどこに行ったか、どこで立ち止まり、何の商品を手に取り、そして退店したか、そういった様々なデータを取得することができる。また、その店舗内の行動データだけではなく、ECの購買情報と合わせて管理できるようになっている。

これらのデータを活用して、店内のレイアウトを変えたり、商品企画に生かしたりすることができる。またECなどにおいても、商品のレコメンドなどに活用することができ、リアルとオンラインの両方で、Amazonの包囲網がより大きくなる。

業種を問わないリアルでのAIの活用事例

このようにAmazon Goは未来の小売業にインパクトを与えるサービスの事例としてあげられる。特にAmazon Goに見られるような、インターネットサービス以外の、「リアル」でのAI活用が近年凄まじい勢いで進んでおり、このようなAIを活用した成功事例は、大小はあるものの、業種を問わず出ている。

例えば、製造業の現場でもAIの活用は進んでいる。自動車部品工場の現場では、独自のAIを導入し、検品作業を効率化している企業もある。しかし、自動車部品工場含め、製造業で作る製品は品質が高く、製造される部品の中からは非常に少ない数の不良品しかでない。

本連載における第二回の記事で紹介したように、データがなければ基本的にはAIを学習させることはできない。そのため、異常品が少ない環境では、その分類を行うためのAIを作成することは非常に困難である。この問題に取り組むために、株式会社ABEJAと武蔵精密工業株式会社はDeep Learningを活用し、正常品のみから異常品を検知できるAIを開発するなども行なっている。

物流の分野でも、AIの活用の動きが進んでいる。日本経済新聞によると、日用品卸大手のあらたは2018年6月に約30億円を投じて鹿児島市内に商品管理にAIを活用した物流センターを稼働させている。ピッキング(仕分け)作業の一部を自動化して作業効率を高める。国内流通業の人手不足が進んでいく中、各物流拠点のシステム投資と自動化を加速している。

また医療・バイオの領域においては、病気の診断を自動化にAIを使う取り組みがされており、すでに実現に向かっている。Googleが買収したDeepMindは、ヨーロッパと北アメリカで最大の眼科医療機関であるMoorfieldsと協力し、50件超の眼病を医者に匹敵する精度で実現した。これは、Moorfieldsで治療された患者から得られた1万5000回分のOCTデータをAIに学習させ、開発された。

学習されたAIは、テストにおいて8人の医師と比較した結果、AIの診断結果は眼科医の診断結果と94%以上もの一致率を記録したとされている。このようにAI導入が近年医療分野でも検討されており、やがて人間の医師に代わりなる可能性が出てきた。

このように、人間が行う必要のない領域や、データを活用してより効率化をはかり、コストを下げるためにAIの活用は分野を問わず進んでいる。

ビジネスの成功のためのAI活用の共通点

リアルでのAIの活用が進んでいる企業の特徴として、いくつかあげられる。

まずは、IoTデバイスやロボットとAIの併用・投資である。リアル世界からデータを取得するためにも使う必要があるが、学習したAIを活用し、リアル世界に反映させるための仕組みも必要である。そのためにAIだけでなく、IoTデバイスやロボットへの投資も同時に行なっている。

次にデータの整備である。どの企業もAIを活用するため、目的に対して、どのようなデータを、どのように取得すればいいかについてしっかりと取り組んでいる。Amazon Goでは、入店時に専用のアプリを入れておく必要があるが、そのアプリではECなどでも使えるIDを使っている。これによりオンラインとリアルの両方の顧客データを統一的に管理でき、よりAIを活用しやすくなっている。

最後に、データを利活用し、AIを使っていこうという組織の土壌である。人口減少が進んでいき、またAmazonのような高いレベルの技術を持った企業が今後増えることを考えれば、これまでデータやAIを活用していなかった企業も活用せざるを得なくなる。企業の風土などを変えるためには非常に大きな努力を要するが、将来を見据え、データやAIを活用できる組織になるためには必要な努力だと、筆者は考える。

「人口減少&人口構造」の大変化時代を 生き延びるための3つのポイント

国立社会保障・人口問題研究所が2018年3月に発表した「日本の地域別将来推計人口」では、2020年~2030年までは東京都と沖縄をのぞく45都道府県で人口が減少し、2030年~2035年には47すべての都道府県で人口が減少するという、驚くべき「未来予想図」が発表されました。来るべき「人口減少時代」に起こる「消費の変化」を以下に整理してみましょう。

料理をあまりしない「単独世帯」の増加によって、おかず、つまみ、総菜などの「中食」売場を強化し、SM(スーパーマーケット)の夕食市場を奪おうとしているコンビニ(写真はファミリーマート)。

人口構造が大きく変わる2025年問題に備えよう

日本では、2025年に、2015年対比で約445万人も人口が減少します。一方、65歳以上の人口は約262万人も増加し、高齢化率が高まります。人口減少時代の変化の第1は、「高齢者の人口がマジョリティ」になることです。人口減少&人口構造が大きく変わる「2025年問題」は、流通業に関わる者にとっては深刻な問題です。

人口減少時代は、従来の「売り方」の延長線では、間違いなく売上が減少します。それを解決するための重点対策は、地域の人口構成に対応した「マイクロマーケティング」を実践することです。そのためには、従来の47都道府県といった大雑把な単位ではなくて、全国1,628の市区町村という小さな単位の人口構造を調査し、その人口構造に合わせて「棚割」を変化させることが大切です。

たとえば高齢化率の高い県であっても、市区町村別に見ると、若年層や子育て世代が多く住む地域は存在します。当然、高齢化率の高い市区町村とは、棚割が違っていて当然です。

もうひとつのマイクロマーケティングは、市区町村別の「地域の売れ筋」を確実に品揃えすることです。同じ東北でも、仙台市の売れ筋商品と、高齢化率の高い「村」の売れ筋商品は異なります。

人口減少時代におけるマイクロマーケティングとは、市区町村という小さな単位の地域ニーズにきめ細かく対応することで、「機会損失」を減らす活動のことです。人口減少時代は、機会損失対策こそ、最大の売上対策です。

「ファミリー世帯」が減り「単独世帯」が消費の中心になる

人口減少時代の2番目の変化は、「単独世帯が消費の中心」になることです。図で示したように、すでに2015年の調査でも、「単独世帯」の世帯構成比が32.6%ともっとも多い世帯になっています。結婚しない若者、独居老人の増加によって、この単独世帯の増加はさらに加速します。かつては、夫婦と子供からなる「ファミリー世帯」が消費の中心でしたが、これからの消費の中心は、間違いなく単独世帯になります。

単独世帯が増加することで、「SM(スーパーマーケット)で食材を一から買って料理する市場」が減少し、総菜やデリなどの「中食」市場が大きく成長します。最近のSMの新店では、中食市場の成長に対応して、入口すぐの場所に「総菜」を配置する店も増えています。

また、冒頭の写真のように、コンビニは、調理しない「単独世帯」の増加に対応して、夕食のおかず、つまみ、総菜などの「中食」売場を強化し、SMの夕食市場を奪おうとしています。

マスブランドが減りスモールマス市場が拡大する

「スモールマス」で構成されている米国のビール売場。

また、単独世帯が消費の中心になることで、消費のパーソナル化はさらに進むと思います。1品で高いシェアを獲得する「マスブランド」の市場が減り、「スモールマス」の市場が増えるでしょう。

写真の米国のビール売場では、かつては最大の面積を確保していた「バドワイザー」などのマスブランドの陳列量が大きく減少し、「IPA(ホップの多い苦みの強いビール)」「エールビール」などのスモールマス商品が売場の大半を占めています。

専業主婦が減り働く女性が増える

人口減少時代の第3の変化は、「専業主婦」が減り、「働く女性」が消費の中心になることです。図で示したように、45~49歳の労働率が78.0%、50~54歳の労働率も76.4%と高く、もはや専業主婦は化石のような存在なのかもしれませんね。

働く女性が増加することで、健康や美容に気をつかう女性は増えるでしょうから、いつまでも「美しくいたい」「健康でいたい」という人間の根源的な欲求に対応した、HBC(ヘルス&ビューティ・ケア)の市場はこれからも拡大していくでしょう。

また、時間のある専業主婦のための販促である期間限定の「ハイ&ロー販促」が減り、いつ行っても公平な価格で買える「EDLP(エブリデーロープライス)」が売り方の主流になっていくでしょう。

小売業は「変化対応業」です。「人口減少&人口構造」の未曾有の大変化に果敢に対応して、来るべき未来を切り拓いてもらいたいものです。

「ひと手間掛ける」をモットーに、ボトムアップ型組織で地域医療に貢献

首都圏を中心に165店を展開するトモズ、そのうち119店は調剤薬局を併設。洗練された店舗ロゴや店内デザインで女性からの支持も高い。プライベートブランドの「APS」は海外ブランドのようなパッケージでスキンケアとボディケアを中心に品揃えして、トモズのブランド力アップにも貢献。都市型店舗を中心に独自の路線を歩む同社の德廣英之氏に成長戦略や注力している点について聞いた。(月刊マーチャンダイジング2018年9月号より転載、聞き手:月刊マーチャンダイジング編集長 野間口司郎)

価格勝負ではなく、医療の一端を担うモデルを追求

─大手の寡占が進むドラッグストア(DgS)ですが、業界全体をどうご覧になっているでしょう。

德廣 海外の事例や小売業の歴史を見ても大手が規模を拡大させながら寡占化していくという流れは止められないと思います。DgSの戦いが実店舗同士で終わるのか、ネットも含めた空中戦になってくるのアマゾンがホールフーズを買収したように、ネット、リアル含め業態の垣根が低くなっています。

DgSをどう定義づけるかという問題もあると思います。ディスカウントを追求するのか、食品を強化するのか、私たちは創業以来一貫して医療の一端を担えるような小売業になろうという理念を掲げ、社会インフラになれるよう努力を重ねています。そこは一貫して今後もぶれることはありません。

─規模の大きな小売業に対して、仕入れ、調達のコストがかかるという実感や危機感はありますか。

德廣 それは当然あります。安さで勝負するなら規模が必要で、当社も決して規模を追わないわけではありません。しかし、一足飛びに何千億という売上規模を目指すのではなく、医療の一端を担うという強みで勝負したい、それが生き残りの方策だとおもっています。店舗の商品の8割が価格勝負ということなら、規模がないと競争には勝てません。しかし、そういう領域で勝負するわけではありません。バイヤーには仕入れる商品で迷ったら調剤につながる商品にしようと言っています。

─生き残りというお言葉が出ましたが、ウォルマートが日本事業から撤退するという報道があります。これを、どうご覧になるでしょう。小売業界に与える影響はあるでしょうか。

德廣 当社も西友系の朝日メディックスを統合した経緯もあって、西友の人材の優秀さはよく知っています。実情はわかりませんが、ウォルマートがアメリカで得意としている物流や仕入れの効率化でコストを下げ競争力のある売価でEDLPをやるというモデルが日本ではつくりにくかったのではないでしょうか。

もし西友が売りに出されるのなら、どの企業が買うかで日本の小売業への影響が決まるとおもいます。

人事制度を改革、教育部の新設で人材育成強化

─2016年6月の社長就任から2年が経ちました。現在もっとも社内で注力していることはなんでしょうか。

徳廣 人材育成、教育に力を入れています。社長に就任してから人事制度改革のプロジェクトを立ち上げ1年で新人事制度への移行ができるとおもったのですが、2年かかりました。

当社の企業理念はここに書いてある通りです(図表1)。トモズの求める人材は「1.明るく 2.素直で 3.謙虚で 4.思いやりのある」という4項目。企業理念、求める人材の全従業員への徹底は愚直にやり続けます。そのための人事制度改革です。

─4項目の中で特に重視するもの、難易度が高いものなどあるのでしょうか。

德廣 意識すれば、どれもそれほど難しいものではないでしょう。薬剤師なら元々人の健康に貢献したい、病気の人を助けたいという意識が高い。日々の仕事でそれがおろそかになっているようなら、そこを深掘りすれば「思いやり」につながります。バイヤーなら取引企業に対して高圧的になっていないか、今一度襟を正せば「謙虚」になれる。新入社員は「素直」でしょうし。役割や状況によって重要なもの、難易度は変わってきます。どれも絶対できませんという要素ではありません。トモズに限らず、こういう人材がいれば会社はよくなります。

希望に添ったキャリアを選択、多様な働き方を実現させる

─人事制度改革の具体的な内容を教えてください。

德廣 今年4月から制度を変えました。一番大きな変更は教育部という新しい部署をつくったことです。知識や技術の教育だけでなく社員のケアを人事部まかせにせず教育部が行う。どういう教育、育成方法がよいか模索しているところです。

当社はいくつかの企業と合併を繰り返しています。あまり細かくルールを決めると元の企業によって合う合わないが出てくるので、これまでは比較的メッシュの粗い人事制度でした。今回の改革で細かいところまで制度化しました。

また、以前はみんなが店長、ブロック長を目指して、その役職に就いたら給与はいくら、就けなかったらここまでといったように、昇進を前提にした選択肢の少ない一本道でした。最近では店長になりたくないという人もいるし、化粧品のカウンセリングが好きで技術も高い、ずっとその職でいきたいという人もいます。そういう希望にも添えるようにしました。

また、店長経験者で育児に忙しいのでパートに戻りたいという人がいれば、一度戻って子育てが一段落した後で店長やバイヤーなど元の職に戻ることもできます。希望に添ったキャリアを歩めるような制度に変えました。

定着率を上げることでコスト削減、売上アップを狙う

德廣 「働き方改革」が叫ばれる以前に小売業では定着率が上がらないという問題が顕在化していました。勤務年数が1年の人と10年の人では知識や販売力、企業文化の理解度が全然違います。1年で辞められたら採用コストがかかる、経験は蓄積されないなど、デメリットが大きい。定着率を上げ従業員の価値を上げるための改革です。

定年制度も見直し中です。これまでのように60才になったら定年、あるいは給与を下げて再雇用ということではなく、パフォーマンスがそのままで本人が希望するなら60才を超えても同じ待遇で店長を続けてもらいます。現在、そういう店長が何人かいます。まだ制度的に変えるまでには至っていませんが、事例が増えて会社として当然のことになれば正式に制度を変えるつもりです。

この4月から多様な働き方を認める制度に改めたら2億6,000万円のコスト増になりました。この数字は社内で公表していてこれをカバーするために「どうする?」と全社員に呼びかけています。みんなでアイデアを出し合って5億円くらい利益を上げれば逆に給料が増える。そういう発想をしています。利益が上がらなかったら、どこかで考えないといけない。

長い目で見れば定着率が上がれば採用コストが削減できて、従業員の販売力も上がって売上増になる。会社が大きくなってからの改革では10億円かかったかもしれない。ここ1、2年は我慢のしどころと腹を括っています。

─いまは我慢のしどころですが、制度改革が軌道に乗ればES(従業員満足)が向上し、それがCS(顧客満足)にも波及してすべての歯車が好転し出す、そういう状況になりそうですか。

德廣 そうなることを願っていますが、こればっかりは時間が経たないとわからない。4月から始めたばかりです。会社としての主要な数字は店長とも共有しています。改革のためのコストで厳しい状況だけどみんなで声を掛け合って、みんなが納得できる制度を一緒につくろうと呼び掛けています。

納得できる制度というのは、再チャレンジできる制度でもあります。店長、ブロック長をやったが、うまくいかなかった。それなら、一度退いてまたチャレンジすればいいのです。男性の育児も支援したい、店長やっているから育児はできませんというふうにはしたくありません。

どうすれば、長く安心して働けるか、その方法を模索しています。

「主体的に挑戦」ベストを尽くせば失敗の責任は問わない

─どの小売業もアマゾンが競合になってきています。実店舗がECと差別化するためにはカウンセリングが重要になりますが強化策などありますか。

德廣 新設した教育部が担当して強化を図っています。部長は昨年まで店舗運営部長で現場、会社の歴史を知り尽くしています。シニアマネジャーも店舗運営部長、商品部長を歴任した人物です。2人とも池尻大橋の1号店の店長経験者です。

ECに勝つためには「人」しかありません。それ以外は全部ECが低コストでできます。できるところは機械化、自動化で効率を上げますが、人にしかできない部分にこだわる。泥臭く人を前に出すことでECや他企業との差別化を図ります。

会議などでよく言うのは「ひと手間掛ける」ということです。売場づくりでも接客でも手間を惜しまず、もうひと手間掛ける。お客さまが何を望んでいるか、どういう売場を好むのか、もう一歩深く考えて、手間を掛ける。

今期のスローガンは「having ago」、日本語でいうとサントリー創業者の鳥井信治郎さんの有名な言葉「やってみなはれ」に近い、挑戦しなさいという意味です。サブタイトルに「主体的に挑戦」と入れています。主体的にという部分が大事です。ですから、社長である私のひと手間は主体性を引き出すために我慢することです。

周りからは青臭いといわれますが、失敗を恐れずに挑戦することで人も会社も成長します。失敗を恐れるなというのは簡単ですが、実際に失敗したとき、社長からコテンパンにやられるなら誰も挑戦しないでしょう。十分な準備もなく挑戦だけして失敗を繰り返したなら叱りますが、やることをやってベストを尽くして失敗したなら何もいいません。店長やブロック長が予算に届かずに、うなだれて「すいません」と言ったりします。すいませんと言うな、その時間がもったいない、やることをやったのはわかっている。どうすればそれを取り返せるかそれを考えようと私は言います。

推奨販売のノルマ撤廃、結果ではなく過程を重視する

─従業員の方が何かに挑戦するときに、それを許可する基準などあるのでしょうか。

德廣 誰が聞いてもやめたほうがいいと思うような案件なら別ですが、何かをやりたいといってきたら基本OKです。ルールも変えていい、そのマニュアルに意味がないと思えばやめてもいいと言っています。

私がたばこの販売をやめようと提案したときも店長たちからの猛反対に合いました。しかし、地域医療の一端を担うといいながら、医学的に健康によくないと証明されているたばこの販売をするのは矛盾している。タバコがないと予算に行かないというなら、それは仕方ない。他で補おうと説明したらわかってくれました。社長発案だから通ったということではなく、ある意味極端な提案でも、深い議論の結果認められるという事例です。

重点商品を決めて、推奨販売もやっています。今期からノルマはありません。各自どれくらい販売するかを自己申告してもらって、それを集計するという形で予算を組みました。結果を求めるのではなく、過程の努力をしてほしいです。ホームランを何本打つか、それは相手があることなので自分では決められない。しかし、素振りを毎日10回するという目標を立てれば、それは実行できます。それをやってくれとお願いをしています。

私に対して意見をいう従業員も増えたし、久しぶりに来社した方が、以前に比べて会社が活気づいたと言われるとうれしいですね。

チャレンジ精神があって活気があるボトムアップ型の組織を目指しています。当社ではお互い名前を呼ぶとき○○さんと呼ぶように徹底しています。私も社長と呼ばれたことがない、「徳廣さん」と呼ばれています。これも貴重な企業文化でこれからも継続させます。

─本日はありがとうございました。

<トモズのプライベートブランドAPS>

洗練されたデザイン、「質が高いこと」「使い心地が良いこと」 「流行に流されないベーシックなものであること」がコンセプト

<DgS初「ポンタ」を導入>

トモズでは三菱商事系のロイヤリティマーケティングが運営する 共通ポイントサービス「ポンタ」を採用。DgSでは初となる。トモズでは200円購入で1ポイント獲得、1ポイント=1円として使えるようにする。2018年8月1日からサービス開始。

ネットとリアルを融合させた書店、アマゾン・ブックスの「売り方」3つの特徴

アマゾン(Amazon)がリアル書店「アマゾン・ブックス(Amazon Books)を全米で展開しようとしています。現在、店舗数はまだ20店前後のようですが、従来の書店とは大きく異なる「売り方」に注目が集まっています。ネットとリアルを融合させたアマゾン・ブックスの「売り方」の特徴をまとめてみましょう。

すべての本の表紙を正面に向けた陳列

アマゾン・ブックスの売場面積は100~200坪程度と、そんなに大きくありません。理論上は無限に在庫できる「ロングテール」が武器のネット販売と、取扱商品の多さを競うことは意味がありません。アマゾン・ブックスの取扱商品は、アマゾンでの評価が4.0以上(星4つ以上)の人気商品に絞り込まれています。

アマゾン・ブックスの「売り方」の第1の特徴は、すべての本が表紙を正面に向けた陳列を行っていることです。一般的な書店のように、背表紙を正面に向けた陳列方法は一切行っていません。「背表紙陳列」によって、多くの品目数を陳列することよりも、商品の探しやすさを重視した陳列であることがわかります。

第2の「売り方」の特徴は、「価格表示」がないことです。本を陳列している棚には「値札」が一切付いておらず、店内に設置してある「スキャナー」や「アマゾン・アプリ」で、本のバーコードをスキャンすると、価格が表示される仕組みになっています。

ネットとリアルの価格はまったく同じです。リアル店舗に価格表示がない理由は、アマゾンのオンライン販売が採用している、需要と供給に応じて価格が日々変動する「ダイナミックプライシング」を採用しているため、値札をつけることができないわけです。

アマゾン・アプリを使ってスキャンすると、価格がわかるだけでなくて、決済もキャッシュレス化できます。アマゾンに登録しているクレジットカードなどで、その場で決済できるわけです。

プライム会員信者を囲い込むための大きな価格差

店内に設置してあるプライスチェッカーで試しに価格を表示してみたところ、アマゾンのプライム会員向けと、一般客向けの価格差が大きくて驚きました。

この本(写真参照)は、一般客の価格が14ドル99セントに対して、アマゾン・プライム会員は8ドル99セントで購入することができます。

この連載の第6回目で「アマゾンはプライム会員信者を増やすためにホールフーズを買収した」という記事を掲載しましたが、アマゾンは年会費119ドルのプライム会員信者(固定客)を徹底的に囲い込もうとしているようです。

2018年4月中旬に行われたアマゾンの年次株主総会で公開された「ベゾスCEOから株主宛に記された手紙」の中で、アマゾン・プライムの加入者数が世界で1億人を突破したことが発表されました。「年119ドルの年会費がアマゾンの利益」と考えると、極端なことをいえばアマゾンは、リアル店舗の利益はゼロでもよいと考えているかもしれません。

ネット検索やレコメンド機能をリアルの売場で実現している

アマゾン・ブックスの第3の特徴は、「アマゾンでの検索数」「レビューの多かった本」「ほしいものランキング」「リコメンド機能(この本を買った人はこれらの本も一緒に買っています)」などのオンラインでの買物体験を、リアル店舗の陳列でも採用していることです。

「if you like」と表示された棚では、リコメンド機能を使って、この本を買った人が良く買う本を近くに関連陳列していました。「Highly Quotable」と表示された棚は、電子書籍キンドルで、もっともハイライトされた本を集めた売場です。ハイライトとは、重要な文章を蛍光ペンのようなものでマーカーできる機能のことです。つまり、ハイライトされた箇所が多い本は、重要な情報が満載されている本という意味です。キンドルのオンラインデータでなければ絶対できない陳列方法ですよね。

「Page Turners」という棚は、読み始めたら止まらないという意味で、電子書籍キンドルで読了時間の短かった本を集めた棚です。

アマゾンの「ほしいものランキング」で上位に来た本を、ジャンル関係なく陳列している。
ロサンゼルス地区で、ノンフィクション分野の売れ筋を陳列したエンド。
アマゾンで1万以上のレビューが投稿された本を集めた陳列。

また、アマゾン・ブックスでは、「アマゾンエコー」「キンドル」などのアマゾン商品も販売しています。また、児童書のコーナーでは、子供が座ってキンドルを読めるコーナーもあります。「本の座り読み」ではなくて、「キンドルの座り読み」なのが面白いですね。

アマゾンエコー、キンドルも販売している。
キンドルで座り読みができる児童書のコーナー。

ZARAの試着に特化したショールーム型実験店

アパレル専門店で世界一の売上を誇るSPA(製造小売業)企業インディテックスが展開する主力ブランドZARA。既存店ベースで好調な売上をキープする同社がロンドン、ミラノに続き、東京で試着に特化した実験店を期間限定でオープンさせている。他に類を見ない実験店の取材から、デジタル販促でも独自路線を突き進むZARAのあり方を考察する。(月刊マーチャンダイジング 2018年9月号から転載)

売上高3.3兆円、世界No.1アパレルの主力ブランド

手ごろな価格で最新流行のファッションを楽しむことができるファストファッション。ZARAは、日本における外資系ファストファッションブランドの先駆けとして広く知られている。ヨーロッパを中心に世界全体で約7,500店舗、日本国内では94店舗を展開する。

メンズ、ウィメンズからキッズ、ベビーまで揃う幅広い商品は約2週間単位で入れ替わり、店内には常にトレンドを反映した新しい商品が陳列される。

ZARAを擁するのは、スペインに本社を置く1975年創業のアパレルメーカー、インディテックスだ。売上の大部分を占めるのがZARAであり、売上高は前年同期比8.6%増の約3兆3,190億円(2018年1月時点)。純利益も同6.6%増の約4,412億円で増収増益と好調で、競争が激化するアパレル専門店のランキングでトップの座を維持している。

同ブランドが日本での認知を大きく広げるきっかけとなったのが2003年の六本木ヒルズへの出店だ。この旗艦店・六本木店が8月末に移転増床リニューアルを行うまでの約4ヵ月間限定でオープンさせたのが、国内初となるショールーミングに特化した実験店「ZARA ROPPONGI POP-UPSHOP ONLINE」だ。

アプリによる試着予約とクリック&コレクトに対応

改装店舗から徒歩数分、六本木ヒルズのノースタワー内に立地するポップアップショップは2階建てで、店舗面積は約800㎡。バナナ・リパブリックの路面店への居抜き出店で、1階がショールームとメンズのフィッティングルーム(全6室)、2階はぜいたくにスペースを使ったウィメンズのフィッティングルームが広がる。

バックヤードには店内に陳列されているアイテムがサイズ別にストックされているが、フロアに出されているのは1品番につき1サイズのみ。ショールームとしての美観を重視し、白を基調にしたフロアには限られた数のアイテムがスッキリと並べられている。

試着予約は、ZARAアプリからのみ可能だ。アプリを立ち上げ、試着したいアイテム、サイズを選び、試着をリクエストする。店舗内で実際に見て気に入った商品のタグに付いているバーコードをスキャンして、予約することも可能だ。広々として高級感のあるフィッティングルームを、貸切気分で使うことができる。

試着後は気に入った商品をアプリやECサイトで購入し、配送か店舗受け取りを選択。店内の商品以外にも、オンラインショップやアプリに掲載されている他の全商品も同時に選択、購入できる。13時までの注文であれば、当日18時以降に同店での受け取りも可能となっている。

広々とした2階のウィメンズ用試着室は全10室。オープン時には戸惑いの声も聞かれたが、スタッフの丁寧な手順説明によってそのメリットも認識され、徐々に浸透していった。場所柄、観光客とマチュアな客層が多く、訪日外国人の利用も予想以上にあったという。アプリに抵抗のない10~20代の若年層の集客が課題
店内のデジタルサイネージでは、インフルエンサーがセレクトした秋シーズンのスタイリングを紹介。ZARAはデジタル販促の一環として、2018年4月にAR(拡張現実)アプリを使ったリテールテインメントサービス(店頭で起動すると、最新ファッションのモデルが歩く様子が見られる)にもチャレンジしている。アプリを軸にした集客・ECへの送客には力を入れているようだ

待ち時間や順番通知で試着ストレスをフリーに

同店は、洋服の購入と試着にまつわるさまざまな不満を解決した、ストレスフリーの店舗だ。

アプリには具体的な待ち時間が表示され、自分の順番が回ってくると通知される。試着したい服を何着も抱えたまま店内を移動する物理的なストレスや、先の見えない試着待ちのストレスはない。購入後、荷物がかさばることもなく、手ぶらで帰ることができる。

最近では、アパレル通販サイトZOZOTOWNがZOZOSUITを開発するなど、試着ができない不安を「試着しなくても買物ができる」という強みに変える流れが生まれている。ZARAの実験店は、あくまでもブランドの資産であるリアル店舗を生かす形でオンラインとクロスさせ、快適な試着サービスという顧客への新しい買物体験を提供している。

アプリ上で商品を選ぶか、店内にある商品バーコードをアプリで読み取る
商品を確認し、サイズを選択する
試着室をリクエストする
待ち時間が表示され、順番が回ってくると通知が届く

顧客満足度の向上が最大の販促につながる

オンラインとオフラインのシームレス化は、現在ZARAが強化する施策のひとつだ。インディテックスの売上高のうち、ECの占める構成比は10%。前年比では41%増の伸びを見せ、重要なチャネルへと成長している。

同社は過去に大規模なデジタル分野への投資も行っているが、いま現在、それは個別マーケティングではなく、刻々と変わりゆく顧客ニーズやトレンドに対応した生産体制、物流や店頭の最適化──「あなたのための店」づくりに注がれている。

アプリやECサイトに蓄積されたユーザーデータの分析に基づく販促は行っておらず、顧客へ向けた情報発信も、Twitter、LINE、Facebook、InstagramなどSNSを使用した新作入荷、年2回のセールの告知などにとどまる(国内)。

現状、ZARAは、あくまでもお客にとって一番都合がよく、自由で快適な買物ができる環境づくりや、お客を楽しませ飽きさせない仕掛けづくりに徹している。

ポップアップショップでは、常に不定期でイベント展示も行われており、実験店そのものが話題性のあるプロモーションとしても機能している。顧客満足度向上は、再来店・再利用を促し、ファンづくりにつながる最大の販促活動となり得るといえるだろう。

在庫はRFID(非接触タグ)で管理。ウィメンズは、ウーマン(モード)、手ごろなベーシック(普段使い)、よりお手ごろでトレンド感の強いトラファルック(ヤングカジュアル)の3ライン。欧米では、ファッションにもサスティナブル(持続可能性)が求められており、それに応じたブランドライン「JOIN LIFE」も発売されている
店舗奥にあるクリック&コレクトコーナー。ロンドン、ミラノ、東京の実験店のうち、試着予約のサービスがあるのは日本のみ。欧米人とはサイズ感の異なる日本人には試着は欠かせない。ほか2店舗は、クリック&コレクトに特化したオムニ店舗だ

[寄稿]授乳中ですが薬を飲んでもいいですか?

地域医療の担い手として期待が高まるドラッグストア。なかでも薬剤師は、在宅医療やセルフメディケーションの推進に欠かすことができない職種として活躍が期待されています。しかしまだまだドラッグストアで働く薬剤師の仕事については議論が少なく、同じ企業内でも接客の内容や質がバラバラであったりする状況です。首都圏のドラッグストアチェーンで薬剤師をしているkuriさんは、先日Twitterで授乳中のOTC服用に関するアンケート調査を実施。その結果から「OTCの添付文書」に関する問題にたどり着きました。(kuriさんのブログから許可をいただき転載した投稿です)

授乳婦のOTC服用に関する合意が形成されていないDgS業界

ドラッグストア勤務者の頭を悩ますお客さんからの薬の問い合わせといえば、授乳中に飲んでよい薬の相談だと思います。私は今年6月にTwitter上でフォロワーのみなさんに、授乳中のお客さんから質問を受けた場合の対応を訊ねてみました。

まずはそちらの結果をご覧ください。

いかがでしょうか?有効回答総数は350名程、回答者は薬剤師と登録販売者が混在しています。

「医師にご相談くださいと伝える」の回答数が少ない印象ですが、概ね現実に近い妥当な回答結果だと思われます。国内外の薬学情報をもとにいえば、正解は「基本的には大丈夫と伝える(時間を空ける必要なし)」が妥当となりますが、会社・店舗の方針や、資格者自身の勉強不足、「万が一」のトラブルを懸念して、そのほかの選択肢を選ぶ方も少なくないでしょう。

このアンケート結果の興味深い点は、3つ選択肢の回答数に極端な偏りが見られず、どれもまんべんなく一定の回答数を得ているということです。これでは、消費者は相談先の店によって、得られる回答がまるで変わってくることになります。「一般的にはこういう対応するよね」といった業界の常識のようなものがなく、会社・店舗・個人の方針や知識レベルに任されている。授乳婦とイブプロフェンの関係についての合意形成が、ドラッグストア業界に存在しないことは否定できないでしょう。

合意形成がない理由の一つは、薬の説明書である添付文書に、授乳中の服用に関する明記がないことだと思われます。

案外ざっくりとしか書かれていない「添付文書」

国の調査によると、添付文書をほとんど読まない人は購入者のわずか1割だそうです(※1)。熟読するのか、さらっと読むのか、程度の差こそあれ9割の人が添付文書に目を通しているようです。

そのような添付文書ですが、ちゃんと読むのはけっこう難しいもの。薬剤師としての立場から言わせていただくと、健康に直結するわりにはずいぶん不親切だなと思う代物です。

具体例を紹介します。

胃腸薬としておなじみのキャベジン。授乳中はこの薬を飲んではいけないことになっています。以下は、添付文書からの引用です。

してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなります)
②授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けてください
(母乳に移行して乳児の脈が速くなることがあります。)

キャベジンを飲むと母乳に移行して乳児の脈が速くなるという理由も丁寧に書かれています。授乳中は服用を避けた方がいいことが腑に落ちやすいでしょう。

では、他の薬はどうでしょうか。頭痛・生理痛の薬、イブの添付文書を見ます。

相談すること
次の人は服用前に医師、歯科医師、薬剤師又は登録販売者に相談してください
(3)授乳中の人。

授乳中の人はイブを飲む時は医師や薬剤師たちに相談することになっています。キャベジンと比べると簡潔な記載です。表現も「してはいけないこと」ではなく「相談すること」となっています。

実際に薬剤師に相談すると、どんな回答が返ってくるのでしょうか。飲む人の状態や、相談を受けた薬剤師によって回答は異なるので一概にはいえませんが、「万が一母乳に移行しても極めて微量なので、健康上の影響はほぼないと考えられています」「心配なら時間をずらして飲むのがよろしいと思います」と説明する薬剤師が多いと思われます。あとは飲む人の納得感と判断に任されます。

キャベジンもイブも母乳に移行するという点では同じです。ただ、それが赤ちゃんに与える影響は一言では表せません。添付文書を読んでも詳しいことが書いてあるとは限らないのです。

もう一例紹介します。今年発売された「ベリチーム」という消化酵素のお薬です。添付文書にはこうあります。

相談すること
次の人は服用前に医師、薬剤師または登録販売者にご相談ください
(2)薬などによりアレルギー症状をおこしたことがある人

ベリチームは酵素なので比較的安心して使える薬です。「相談すること」の欄にアレルギーの注意喚起が書かれていますが、これは大抵の薬に書かれている決まり文句です。全体としてみると、他の薬と比べると副作用のリスクがかなり低いといえます。

ところが、ベリチームには気をつけるべき意外なアレルギーがあります。ブタ・ウシのたんぱく質アレルギーです。ベリチームに含まれるパンクレアチンという酵素はブタの膵臓から作っています。そのため、ブタ・ウシのたんぱく質アレルギーの人がベリチームを飲むと、くしゃみ、涙が出る、肌が赤くなるといった症状が現れる可能性があるのです。

市販薬と同じ成分でできている医療用のベリチームの添付文書には、ウシ・ブタのたんぱく質に過敏症がある人は飲んではいけない(禁忌)ことが書かれています。

医療用の添付文書にははっきりと書かれていることが、ベリチームの市販薬の方には薬剤師か登録販売者に相談してくださいという表現で済まされているわけです。

市販薬の説明書は、こんなふうに案外ザックリとしか書かれていないものなのです。

外箱を読むだけでは情報が足りないことも

購入者の1割は添付文書をほとんど読まないらしい、ということを冒頭で紹介しました。その理由は、私の想像になりますが、飲む時に最低限知りたい重要な情報(1回何錠、1日何回飲むかなど)が外箱に書いてあるからだと思います。添付文書を読まなくても、外箱を読めばだいたいは事足りるのです。

ただ、添付文書を読む必要がないかといえば、そうではありません。

せき止めを例に見ます。アネトンせき止め液という咳止めがあります。添付文書の注意書きにはこう書かれています。

してはいけないこと【守らないと現在の症状が悪化したり,副作用・事故が起こりやすくなります】
2.本剤を服用している間は,次のいずれの医薬品も使用しないでください
他の鎮咳去痰薬,かぜ薬,鎮静薬,抗ヒスタミン剤を含有する内服薬等(鼻炎用内服薬,乗物酔い薬,アレルギー用薬等)

アネトンを飲んでいる間は、他の咳止めは飲んではいけません。これはアネトンに限ったことではなく、ほとんどの市販薬は類似薬を一緒に飲んではいけないと書かれています。

でも、この文言は外箱には書いてありません。購入して、箱を開けて、説明書を読んで、初めて他の咳止めと一緒に飲んではいけないことがわかります。

外箱に書いてある文章は、添付文書のあくまで一部。外箱を読めば添付文書を読む必要はないとはいえません。

添付文書がもっとわかりやすくあるべきという議論が必要ではないか

どうでしょうか。市販薬の添付文書は、薬のことを知らない一般消費者向けに書かれた薬の説明書ですが、意外とややこしく作られています。

これは市販薬の添付文書に限ったことではありません。病院で処方される医療用医薬品の添付文書も、医療従事者からは度々批判の的になっています。そこで、医療用の添付文書の中身は改善の動きが進んでいます。

ですが、市販薬の添付文書に関しては「もっと消費者がわかりやすい表記にしよう」「もっとリスクの程度が分かるようにしよう」といった議論を、私は寡聞にして知りません。あったとしてもまったく盛り上がってないでしょう。

資格者なら目の前のお客さんの役に立ちたい、力になりたいという強い気持ちを抱いていることも間違いないと思います。しかし、お客の立場を思えば思うほど、使い勝手が悪いと感じるのが、いまの添付文書ではないでしょうか?

市販薬の添付文書に最も接しているのは、ドラッグストアで働く資格者(薬剤師、登録販売者)です。まずは私たち自身が問題意識を持つことから始めてはどうでしょうか?


※1 厚生労働省:消費者アンケート調査の結果

※編集部注)本記事は、以下ブログより転載させていただきました。

追記:
※編集部注)本記事はドラッグストア勤務者を中心とした医療従事者の方に向けた記事です。一般の方は記事を読んで自己判断せず、個別に薬剤師にご相談ください。

相互利益を徹底追求した「戦略提携」で、信頼関係と価値あるPB商品が生まれる

2万店を超え、コンビニ業界を牽引するセブン-イレブン。プライベートブランド(PB)商品でも独自の開発・生産体制を構築してヒット商品を次々に世に送り出している。セブン-イレブンがどのようにして独自のPB商品開発体制を生み出したのか、そしてPB開発でセブン-イレブンに学ぶべき点は何か。この分野で多数の著書や研究成果を持つ法政大学名誉教授の矢作敏行氏に聞いた。(月刊マーチャンダイジング2018年8月号より転載)

固有の価値を生み出す仕組みづくりに成功したセブン

セブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン-イレブン)のチェーン全店売上高は4兆5,156億円(2016年度)。そのうち米飯、調理麺、サンドイッチといったファストフードの売上高は1兆3,501億円(29.9%)、焼きたてパン、デザート、パウチ総菜などの日配食品の売上高は6,141億円(13.6%)で、両方で約44%を占める。そして、それらの商品のほとんどが独自開発商品である。

これを支えているのが、セブン-イレブンに商品を供給するため1979年に結成された日本デリカフーズ協同組合(NDF)である。

主な運営企業(子会社含む)は、味の素、東洋水産、ヱスビー食品、ハウス食品、森永乳業、カルビー、プリマハム、伊藤ハム、日本ハムなどで、NDFが運営するセブン-イレブン専用工場は国内164拠点に上る(2018年6月現在)。

このNDFの中で、米飯、調理麺、ベーカリーなどで、セブン-イレブン専門に商品を提供するのが、3大ベンダーと呼ばれる、わらべや日洋、フジフーズ、武蔵野である。

一方、詳細は後述するが、NDFに参画しない大手ビールメーカーや日清食品、コカ・コーラも、セブン-イレブンには独自開発商品を供給している。

セブン-イレブンは、これらメーカーと「戦略提携」を結び、商品開発力を高めてきた。ここでいう戦略とは、自分たちが提案する「固有の価値」を実現することである。日本にチェーンストア理論を持ち込んだ渥美俊一は店数を増やし商品を大量に販売することで価格を下げる「マスマーチャンダイジング」を提唱し、ダイエーの中内㓛はそれを実践し「ローコストマーチャンダイジング」を追求した。

チェーンストアづくりを追求した第一世代は、店舗網を広げることや価格の引き下げには成功したが、「固有の価値」を生み出す「仕組みづくり」にまでは至らなかった。後にセブン-イレブン、ユニクロ、ニトリなどは、「戦略提携」を駆使して仕組みをつくり、それを実現させていく。

セブン-イレブンの高い日販は、囲い込む企業の経営資源の差

セブン-イレブンのPBを語るうえで、パートナー戦略という言葉がキーワードになる。経営学ではストラテジック・アライアンス、すなわち「戦略提携」と呼んでいる。戦略提携には3つの要件がある。

(1)提携相手/だれ(企業)と組んで、どのような目的を共有し、どのように問題を解決するのか。

(2)組織設計/問題を解決するために、どのように組織を設計するのか。
一対一で組むのか、一対「多」になるのか。中堅スーパーマーケット(SM)チェーンが組織する共同仕入機構、たとえばシジシージャパン、八社会、ニチリウなどは「多」対「多」。価値を実現するための役割分担も変わってくる。

(3)互酬性お互いに利益があるということで、これがもっとも重要。いい換えれば小売とメーカーが運命共同体のレベルにまで関係を深めるということだ。そして、最終的にはお客を中心に、トリプルウイン関係を構築する。

互酬性の実現に必要なことは、トップ同士の合意と明確な目標設定である。在庫の適正化、利益拡大、欠品防止、商品開発など具体的な目標が設定されれば、役割分担など実務へ進む。

セブン−イレブンの創業当時に、米飯や調理パンを供給したのは、当時は零細な弁当・総菜工場であった。しかし、セブン−イレブンが500店舗、1,000店舗と規模を急拡大させるのに伴い、商品供給が間に合わなくなってきた。弁当工場を新設すれば(当時は)20〜25億円の投資になる。そこで、「商品の安定供給」という明確で切実な目標の下にNDFが設立されたのである。当然、背景にはトップ同士の合意があった。

[図表1]戦略提携の三要素

セブン-イレブンが生み出した集団的商品開発体制の強み

PB商品は基本的には小売企業とメーカーが一対一の関係により開発するのに対して、NDFのような集団的商品開発体制は一対「多」の関係で開発する。調理麺を例に挙げれば、粉・製麺、調味料、具材、包装資材の各メーカーが参加して、販売実績や顧客データを基に新商品の開発や既存商品の改善を図っていく。

このような集団的商品開発体制は、異質な経営資源や、異なった組織能力を引き出す効果がある。それぞれの得意技を持ち寄ることで、商品開発力が高まっていくのだ。

また、独立企業の集合体という環境は適度な緊張関係を生む。つまり、どこかのプロセスや作業に不備、不都合があれば全体の不利益につながる。食品の不備は健康や命に関わる問題である。これを防ぐため、お互いが注意し、必要なら指摘し合う相互監視機能が働いている。

先述のとおりNDFにはブランド力のある大手ナショナルブランド(NB)メーカーも(多くは子会社の形で)参画している。その理由は、そうしたメーカーは、有名NB商品のほかに、業務用部門を持つからである。プリマハムがNDF発足時から加わったのは、消費者向けのNB商品以外に、焼き肉弁当の食材などを提供できたからである。

セブン−イレブンと取引メーカーは、このように多元的な取引関係を深めている。それが他チェーンとの日販の差となって表れている。ちなみに、日販はセブン−イレブンが65.3万円(2018年2月期)、ファミリーマート52.0万円(同)、ローソン53.6万円(同)となっている。

棚割り独占型、学習型…PBへの向き合い方はさまざま

集団的開発体制がある一方で、カゴメや日清食品など、これに参加せずにPB戦略を進める企業もある。シェアナンバーワンや圧倒的なブランド力がある商品を持つ企業は、セブン−イレブン(小売企業)とは一対一の関係を望む。

日清食品はセブン−イレブンと試作品や容器までを共同で開発し「日清ラ王」を販売している。このように、ブランド力のあるNB商品を有力チェーン向けに販売することも提携のひとつのあり方である。

小売業はメーカーのPBに対する戦略や強みを見極めて提携を進める必要がある。有力メーカーのPB戦略のタイプには次のようなものがある。

たとえば棚割りを独占したいと考える「棚割り独占型」。ビールメーカーなどは、ヒット商品ひとつでシェアが大きく動くので、少数ブランドで棚割りを長期安定的に占有することは至難の業だ。しかし、マヨネーズやポテトチップ市場などはトップメーカーが高いシェアを持っている。そこに、自社で製造を受託したPBを加えれば、圧倒的な棚の占有率が実現し、2位以下のメーカーは研究開発や新工場への投資ができなくなるほどの大きな打撃を受けることもある。非常に攻撃的で排他的なPB開発である。

もうひとつのタイプは「学習型」である。たとえばハムメーカーなどは昨今の健康志向により、既存の商品だけを売っていたのでは頭打ちになる。そこで、チルド総菜を戦略事業にしたいと考える。では、どうやって伸ばしたらいいのか。

あるハムメーカーは、セブン−イレブンにピザのPB商品を提案した。セブン−イレブンで一定期間販売した後、売れ行きを見て仕様を変えてNB商品として発売。ただし、販売チャネルはコンビニではなく食品SM中心にして利益相反を防ぐ。コンビニでの販売がマーケットリサーチの効果も果たし、この戦略は成功した。

<セブン−イレブンと有力NBメーカーとの取組み>

キリンビール執行役員マーケティング本部長 石田明文氏(右)
セブン−イレブン・ジャパン取締役執行役員 商品本部長 石橋誠一郎氏(左)

キリンビールは2018年3月に主力ブランド「一番搾り」のセブン−イレブン専用商品「一番搾り 匠の冴」を開発した。キリンビールが、主力ブランドを使用した専用商品を開発するのははじめての試みである。

コカ・コーラは、セブン−イレブンの2万店達成記念・限定商品として「コカ・コーラレモン&ビタミン」を提供した。“世界初”のレモン果汁入りコーラとして訴求した。

セブン−イレブン・ジャパン代表取締役社長 古屋 一樹氏

日清食品は既に「すみれ」など有名ラーメン店を商品名としたカップ麺「日清名店仕込み」シリーズを提供している。ここ数年、セブン−イレブンが拡充を図っている冷凍食品、その目玉商品として本年6月に投入した「蒙古タンメン中本 汁なし麻辛麺」は、日清食品グループの提供である。

蒙古タンメン中本 汁なし麻辛麺
321円(税込み)

投資回収のサポートなど互酬性を徹底追求

NDFに参画する中小食品メーカーは、衛生管理の技術、商品開発の仕方、発売後のフォロー、リニューアル方法など、小売業との取組みの多くをNDFでの経験から学んでいる。ある漬け物メーカーはNDFで学んだ商品開発や販促方法を活用し、NB市場に参入した。こうした協働体制の構築が戦略提携の中身を進化させてきた。

各メーカーはNDFに対して専用担当者を付けている。その数は一人か二人か、新人か課長か、専用工場を新設するのか、案件によって投資の範囲は幅が広い。それだけ多様な組み方がある。

セブン−イレブンは3大ベンダー以外の地域のベンダーにも地元の食材を使用した弁当や総菜の開発を依頼する。売れ行きがよく、取引が本格化したら、そのエリアの供給を一手に任せる。1年間独占販売をさせることもある。

あるいは作業負荷のかかる試作品づくりでマーケティングに尽力した企業には取引量を増やして対価を与えるなど、セブン−イレブンの取引企業への配慮は実に細かい。

弁当工場をひとつ新設するには40〜50億円の投資になる。その規模の工場を、一企業が年間に幾つも投資できない。投資回収に関しても、2年、3年で黒字化、5年、6年で回収というペースが目標だ。

投資回収を支援するスキームもセブン−イレブンにはある。取引ベンダーが工場を新設する際、担当エリアを一定期間付け替えることで、取引量を増やして工場の稼働率を上げる「インサイドアウト」という手法を用いることがある。

たとえば、東北地区に新工場をつくるとき、仙台地区の既存店100店舗の仕入れを新地区に組み込む。新地区に新たにオープンする100店と合わせて200店にして工場の稼働率を上げ、早期に軌道に乗せていく。こうした柔軟でしっかりしたベンダー対応が他チェーンではなかなかできていない。

セブン−イレブンと取引のあるメーカーやベンダーは、こうした投資回収のさまざまなスキームを40年近く間近で見て知っている。だからこそ、安心して提携することができるのだ。よいPBを生み出すためには、そうした「互酬性」の実績を積み重ねていかなければいけない。

イオン、セブン、2強に求められるストアロイヤルティー向上のPB

PBプログラムは、エコノミー、スタンダード、プレミアム、サブブランドの大きく4つに分類される(図表2)。ダイエーのセービング(販売終了)も、イオンのトップバリュも、基本的にはエコノミーかスタンダードに分類されるブランドである。NBと同じ品質で2割の安さを実現、といった開発コンセプトが語られていた。

[図表2]PPB戦略進化のプロセス

(出所:矢作敏行作成 ©T.YAHAGI 2018)

こうしたコンセプトを実現させる手段としてトレードオフ戦略が取り入れられた。過剰な品質をそぎ落とし、シンプルにする。商品の目的に応じた基本的な機能に落とし込めば価格は下がるのだと提唱し、「価格2分の1の実現」を訴え続けた。

トレードオフは、エコノミーブランドをつくる有効な手法であることは事実である。それを象徴しているのが、1970年代の半ばにフランスのカルフールが開発した「ジェネリックブランド」。それにヒントを得てダイエーは1978年に「ノーブランド」商品を開発した。続いて1980年、西友は「無印良品」を開発した。

2010年代に入り、日本の小売業はイオンとセブン&アイの2強時代と呼ばれるようになった。イオンは伝統的でオーソドックスなPB開発を推進してきたが、昨年から見直しをかけている。それは全PBのうち圧倒的多数がエコノミーかスタンダードであったからだ。

ところが、価格訴求をしないコンビニを主力業態とするセブン&アイは、セブンプレミアムの売上高の80%をセブン−イレブンが占めていた。2010年9月にはセブンプレミアムより“ワンランク上の品質を実現した”「セブンプレミアムゴールド」を発売している。プレミアムが“NBメーカー商品と同等以上”の品質をうたい、ゴールドは、さらにその上をいく“専門店・繁盛店と同等以上”を目指した。

小売業にとって、PBを成功させる秘訣は、PB比率を高めて利益率を向上させ、最終的にはストアロイヤルティーを上げることだ。

そのためには価格訴求ではなく、高い品質と高い価値を生み出す商品を開発しなければならない。独自の価値を提供するPBがその店のイメージやアイデンティティを決定付けるようになる。

イオンは現在、食品部門をアップスケールしている。納豆のパックでも100円から300円台と幅広く取り揃えている。その品揃えの中でPBを販売するということは、お客に対してストアロイヤルティー向上の効果が発揮できるとわかったからだ。

そうなると、PB戦略は、低価格で販売する、粗利益を確保する、といった初期の目的から、ロイヤルティー向上効果がどれだけ大きいかを考える戦略に変わってくる。ここがいまの日本の、PB戦略が当面している大きな問題である。

このように、PB戦略が進化しているので、どこに焦点を当てるのかが重要になる。仮に、ドラッグストア(DgS)が低価格対策を目的にして、エコノミーブランドの展開を考えたときに組む相手は準大手、中小メーカーでもいいかもしれない。トレードオフをして、パッケージは簡素にして、食材は節約し、余計な機能はそぎ落としていく方向である。

しかし、店舗イメージを向上させ、セルフメディケーションを推進し、健康によい食品やサプリメントを開発したいのであれば、低価格を追求するのではなく、品質を追い求めることに注力すべきである。

DgSに期待したい、健康志向のサブブランド開発

先述のとおりPBのタイプは、エコノミー、スタンダード、プレミアムと「サブ」に分かれる。「サブ」とは健康やエコロジーなどテーマを持ったカテゴリー横断的なPBのことである。最後にこのサブブランドについて説明を加えたい。とくにDgSは、サブブランドの開発に競争優位性が発揮できると考えている。

ここでは、サブブランドの開発に成功したセインズベリーを例に挙げる。セインズベリーはほかの食品小売業に先駆けて、フリーフロムのPBを2002年に販売を開始した。「フリーフロム」とは、アレルギー疾患のある顧客のために開発された、小麦・グルテン・乳製品などを含まない食品カテゴリーを指している。

セインズベリーは2009年、顧客データの分析から、フリーフロムを購入するお客はチェーンにとって上客である判断した。店舗への来店頻度や平均購買金額が高く、ワインを購買する顧客層よりもはるかに上客であると結論付けた。

そこで、フリーフロムの商品全体を刷新して、新鮮かつ、おいしいフリーフロム商品に改良しようとした。その際、模倣すべきNBがマーケットに存在していないとわかり、PBによって、多様で高品質の品揃えを実現した。NBメーカにも改良品のNB投入を依頼した。しかも、菓子、パスタ、デザートなどひとつのテーマで商品部門横断的に取り組み、カテゴリーを創造することに成功した。その点がすばらしい。

セインズベリーのEC用ホームページ

フリーフロムは、グルテンフリー、牛乳フリー、小麦フリー、ナッツフリー、大豆フリー、卵フリーの各種無添加商品が用意されている

これを日本で実現する場合、必ずしも大手メーカーである必要はなく、規模を問わず特定の分野で得意技を持っている企業が提携相手となるだろう。

メーカーにしてみると、新製品の導入リスクが大幅に削減される。通常のNBであれば、製品開発して、市場調査して、データを取って、チェーンの本部でプレゼンして、売場を獲得して、広告宣伝して、フォローしてと、膨大な新製品の導入コストが掛かる。

DgSは、健康志向を強め、セルフメディケーションを推進している。健康をテーマとした部門を横断するような新たなサブブランドの商品開発に期待したい。

法政大学名誉教授 矢作 敏行氏

[PR]店頭+デジタル販促が功を奏し売上1.8倍になったスキンケアブランド

南仏アベンヌ村の温泉水と製薬会社の技術で生まれたスキンケアブランドアベンヌから、2017年8月にリニューアル発売されたのが「アベンヌ薬用リップケアモイスト」。SNSやブランドサイトなど各種デジタル販促が効果を挙げて大きく売上を伸ばした。その中には20代若年層も多数含まれている。今年もデジタル、化粧感度の高い人向けの販促を予定しており、秋冬の有望な商材として、若年層と店舗をつなぐブランドとして、さらなる飛躍が期待できる。

リニューアル発売以降の振り返り

リニューアル以降、売上好調。2017年は前年の180%まで成長

アベンヌ薬用リップケアモイスト(以下アベンヌ薬用リップケア)は、2017年のリニューアル以降好調に推移、2017年の対前年比は180%と驚異的な成長を見せている(図表1)。取引先企業の95%以上で売上伸長、全国7エリアすべてで大幅な伸びを見せた(図表2、3)。

このようにアベンヌ薬用リップケアはリニューアル以降、企業、エリアと全方位的に大幅な成長を見せ2017年の売上は前年の2倍近くに達している。

アベンヌ薬用リップケアの参考価格は1,050円(税抜)、高価格帯リップに分類され、肌や乾燥への意識が高い層が購入する可能性が高い。リニューアル以降快調に伸びているこの商品を活用して、「高価格帯リップ領域」を活性化させ、秋冬のシーズン需要を着実に収益に結び付けたい。

20代、30代、50代が伸長。若年層を店舗へ誘引できるブランド

2017年の購入者数の対前年比を年代別で見ると、20代で187%、30代で271%、50代で220%となっている。

DgSが今後ロイヤルカスタマーとして育成したい20代が2倍近くにまで伸びていることは特徴的だ。後述するが、アベンヌでは店頭や既存メディアに加え、デジタルによる販促も強化しており、それが20代へと響き購買に至っているとおもわれる。DgSが取り切れていない若年層が関心を示し購入しているアイテム、ブランドであるという認識は、未来対策としても重要である。

 

さらに、新規購入率を2016年と2017年で比較すると159%と大きく伸びている。これは、アベンヌ薬用リップケアが高価格帯リップ領域への入口商品となっており、店舗へのプラスオン効果をもたらしていることを示している。

購入者像

美容意識の高い優良顧客 情報感度高く、購買前に情報接触

図表5は購入者の美意識に関する調査である。非購入者はアベンヌ薬用リップケアを選択肢に挙げたものの迷った結果購入しなかったという層で、ピエール ファーブル ジャポン(PFJ)社のパネル調査対象者から選んでいる。

各項目における購入者のトップ2ボックス(当てはまる、やや当てはまる)はいずれも高く、購入者が美容に関心が高いことを示している。

また、1ヵ月のスキンケアの購入金額別に購入者の割合を見ると、3,001〜5,000円がもっとも高い構成比を示している。スキンケアだけで、年間で約36,000〜60,000円を購入している優良顧客がボリュームゾーンで化粧品部門、店舗への貢献度は高い。

こうした美容への関心、情報感度の高さを示すように、購入者は店頭以外でも雑誌、SNS、ブロガー記事など多くの情報に接触している。

例)ナショナルジオグラフィックによるアベンヌの紹介動画

購入者は来店前(プレストア)にさまざまな情報と事前に接触しているので、店頭(インストア)では、事前情報を思い出せるように多ヵ所陳列をしたり、接触した情報に近いイメージのツールを展開することが重要となる。

アベンヌ薬用リップケアでも、こうした考えに基づく「プレストア」「インストア」双方を重視した施策を打っていく。

商品特長と売場・売り方

パッケージの評価が高く、露出度が多いほど購買されやすい

白地に薄いピンクでロゴが描かれている。リップクリームは、寒色(青系)が多い中、暖色(赤系)の文字があるパッケージは、希少性もあって、高い支持を得ている。白地のシンプルなデザインは今風でインスタ映えする。印象的なパッケージは事前情報として接触している人も多いので、店頭もこれに連動して、面で大きく展開すれば購買チャンスが増す。

また、ハンドクリームとの併買率が上がっているので、並べて陳列すれば2アイテムが秋冬のシーズン期間内に購買される確率も高まる。

アベンヌブランドの入口として薬用リップケアを捉える

アベンヌを代表するアイテムであるアベンヌ ウオーターの売上も2017年は120%伸長した。20代の若年層の貢献が高い。アベンヌが発信するデジタル、既存メディアを使ったプレストア情報の接触が増えた結果だとおもわれる。

こうした状況を理解し若年層向けに売場を拡大したことで、40代、50代の既存客の購買がさらに進むという相乗効果も見られる。

アベンヌでは2018年9月エイジングケアのミルキージェル エンリッチを新発売。新商品を含め定番什器では独自の世界感のあるスキンケア商品を展開している。薬用リップケアから、ブランド全体の若年ロイヤルカスタマーを育成できれば、人口減時代の未来対策になる。

プレストアとインストア、ダブルの施策で店頭をサポートするアベンヌを化粧品部門拡大のために活用しよう。

ブランド訴求のための定番什器 3尺3段
アベンヌ薬用リップケアモイスト(医薬部外品) 容量4g 1,050円(税抜) ※価格は編集部調べ
ミルキージェル エンリッチ(保湿ジェルクリーム) 50mL 4,000円(税抜) ※価格は編集部調べ
トリクセラNT フルイドクリーム (全身用保湿クリーム) 200mL 3,200円(税抜) ※価格は編集部調べ

ブランドサイトURL: http://www.avene.co.jp/