「顔に潜むハート形の診断」で店頭誘引、コーセー ルシェリの新しい「売り方」

コーセーのルシェリは2018年8月に誕生したエイジングケアのブランドである。顔の中に潜むハート形に着目した点が新機軸で、これを販促にも活用する。ここではハート形の診断機である「ハートリフト シミュレーター」、およびそれを使ったカウンセリングを中心に、店頭でのカウンセリングによる個の捉え方を見ていく。(月刊マーチャンダイジング2018年9月号より転載)

顔の中のハート形を4つのタイプに分類

人の顔の中には、鼻の頭を起点に鼻先・あご先を支点に、頬(ツヤ)のもっとも高い位置とフェースラインを結ぶことでハート形ができる。ルシェリではこれをハリ・ツヤのある肌の目安とし、美しいハート形を目指すためのブランドであるというメッセージを発信している。

写真1は特殊な撮影で顔のハート形を可視化したもの。加齢によりハリ・ツヤがなくなることで、「ハートのラインがガタガタ」になり、さらに肌のハリ・ツヤがなくなることで「ハートの山が低くなる」様子が見て取れる。

〈写真1〉 顔に潜むハート形

このように、肌のツヤやハリの状態を具体的なハート形で示すことで、目指すべき目標がわかり消費者は関心を持ちやすくなる。売り手側も商品の紹介がしやすくなる。

店頭でハート形を診断するのが「ハートリフト シミュレーター」。美容部員、営業担当、ラウンダー(店舗巡回担当)などコーセーのスタッフが持つ接客用のタブレットにアプリの形で搭載されている。

まず、対象者の顔写真をとると、画面にハート形がすぐに表れる(図解1参照)。

このハート形はカウンセリングの途中で必要に応じて消したり表示したりできる。さらに、画面に出てきたハート形は、次の4つの顔立ち印象の中から分類されている。

クールハート(右上) フェースラインが細くて頬の位置が高い。大人っぽいシャープ感のある、スタイリッシュでかっこいい印象
フレッシュハート(右下) すっきり感のあるヘルシーで爽やかな印象
フェミニンハート(左上) 女性らしいカーブ感のある優しくエレガントな印象
キュートハート(左下) 丸みや柔らかさのある、かわらしくピュアな印象

技術的には顔認証技術がベースとなっており、よりリアルなイメージをつくるための細かいプログラミングがされている。

〈図解1〉 ハートリフトシミュレーターでのカウンセリング法

①ピンクのガイドラインに顔を合わせて撮影する
②顔にハートが表示され、4つのタイプのハート形のうちどれに該当するか診断
③ハートリフトバーをUpにすると若返りを体験
④ハートリフトバーをDownにすると老け顔体験

ハート形をきっかけに個のニーズを引き出す

4つのハート形のタイプは、とくに優劣をつけているわけではない。それぞれ個性の表れとして捉え、現状のハート形を維持したいのか、別なタイプを目指したいのか、カウンセリングで聞いていく。

たとえば、クールハートの人がもう少し丸みのあるハート形の顔にしたいと希望する場合は、部分的にツヤを出すルシェリのグロウエッセンススティックを頬骨のやや外側下めに付けることで、ハートの山が左右に広がり丸みが出る。

ハートリフト シミュレーターの使用方法やカウンセリングの教育を担当する、チェーンオペレーション推販部美容教育課の鶴ヶ崎さんは次のように語る。

「このようなハート形が理想、こうしましょうという提案ではなく、あくまでお客さまの希望を聞きながらお話をします。ハート形の診断だけでなく、お悩みをうかがってパーソナルな提案をしていきます。今回の化粧水、乳液はそれぞれ3タイプを組み合わせることにより個人に合ったご提案ができる設計になっています」

エイジングケアは一般的には「年齢に応じた肌のお手入れ」と定義づけられ、ハリ、ツヤ、しわ、たるみなどが具体的な悩みとなる。ルシェリではそうした具体的な悩みを顔の中の「ハート形」にいったん集約させ、そこからカウンセリングによって再び個別の悩みを引き出すという販売プロセスを取る。顔の中のハート形およびハートリフト シミュレーションはカウンセリングにより個別の悩み、ニーズを引き出すためのきっかけになっている。

ハートリフト シミュレーターを使ったカウンセリングは「きれいなハート形の維持がエイジングケアにつながる」というわかりやすいテーマに基づいた推奨販売、販促の手法である。

さらに、ハートリフト シミュレーターの目玉機能ともいえるのが「ハートリフトバー」(図解1の③ ④ )である。Up方向にバーを動かすと、ハリ・ツヤが増し若返ったように見える。Down方向に動かすとハリ・ツヤがなく全体に老けた印象になる。

ハートリフトバーにより顔印象の変化を自分の顔で体験できるので、エイジングケアのモチベーションアップに役立つ。シミュレーションの写真を活用することで、ハリ・ツヤの度合いをイメージできる個別体験型の販促である。

デジタル技術を使ったカウンセリングが今後重要

インターネット、SNSの影響で、化粧品に関する情報源が多様化、複雑化している。とくにインフルエンサーと呼ばれるSNSやインターネット上で消費や購買行動に影響を与える個人を、大手から中小まで多くの化粧品メーカーが販促のために採用している。こうした流れについて鶴ヶ崎さんに聞いた。

「インフルエンサーの与える影響は大きいとおもいます。実際に役に立つ情報もたくさんあります。個人の意見として影響を与えていることが評価されていますが、大きな枠組みとしては一部マス広告と似てきているようにも見えます。インフルエンサーの情報にプラスして、店頭で自分だけに合ったスキンケアやメイクの方法を知ることも試していただきたいですね。ただスタッフと話すだけでも気分転換やストレス発散になるかもしれません。それも美容にとっていいことですよ」

インフルエンサーを使った販促の成功事例は多数ある。個人の中立的な立場からの情報発信が強みとされるが、多くのケースで、メーカーとインフルエンサーとの間に「契約」があることも事実である。

そういう意味では、インフルエンサー販促も、一部ではマス媒体化しているといっていいだろう。その次に何が来るのか、インターネット、SNSの販促には常に新しい手法が求められている。

ドラッグストアの店頭での販促を考えれば、アプリやマーケットオートメーションなどデジタルを使ってターゲットを絞る「個」の捉え方もある。一方で、ハートリフトシミュレーターのように、デジタル技術を使いながらも、カウンセリングによって個のニーズを捉えるという手法もある。後者は、リアル店舗の強みを出すため、ロイヤルカスタマーを育成するためには、今後強化すべき手法である。

その際は、メーカーの発想、技術を店舗で生かしてクロージングするという製販一体的な体制づくりが重要である。

「労働生産性」向上のための6つの重点経営課題

ネット販売との競争が激化している昨今、顧客の満足度を確保しつつ労働生産性を向上させるための経営課題について考えます。

働き方改革の第1の課題が「労働生産性」の向上

この調査は、「働き方改革」に関連して、「自社ですでに実施していること、実施予定のことはありますか?」という月刊MDからの質問に対する小売業21社の回答結果です(詳細は月刊MD10月号参照)。

その第1位が「労働生産性の向上」、第2位が「パートタイマーのキャリアアップ支援」という回答でした。労働人口の急速な減少を解決するためには、「労働生産性の向上と」「パートタイマーの戦力化」の2つが、最重点の経営課題であることがわかります。

「流通用語集」によれば、労働生産性とは、「小売業における人の生産性を総称して労働生産性という。また、ある一定期間における従業員1人当りの粗利益高のこと。労働生産性の目標値は月80万円、年間1,000万円が目安である(8時間換算)」と定義されています。現在、日本の小売業の労働生産性は800万円(年)程度と言われており、目標値である1000万円を達成するためには、現状よりも25%も労働生産性を向上しなければならないことがわかります。

一方で、ネット販売との競争が激化している現在、労働生産性向上のためにリアル店舗を無人化し過ぎると、顧客満足の低下を招くリスクがあります。無人レジの導入を進めていたウォルマートが、今年5月に「無人レジシステム(スキャン&ゴー)」の導入を中止した理由は、無人レジシステムの導入でレジ人員を減らしても、生産性の向上には結びつかず、一方で、「顧客満足」の大幅な低下を招いたからです。

リアル店舗は、ネット販売では体験できない「接客してくれる」「試せる」「試食できる」「話せる」といった、人を介したリアルな買物体験の質を向上させながら、物流センター、バックヤード作業、補充・発注作業などの「顧客接点」以外の単純作業の「省人化・省力化」を進めるという二面作戦が、現代の労働生産性向上のロードマップであると思います。

単純作業を「省力化・省人化」し労働生産性を向上する

単純作業の「省力化・省人化」を進めて、労働生産性を向上するための重点経営課題を以下に整理してみましょう。

この連載の第9回「ピースピッキング生産性が2倍になったPALTACの次世代型物流システム」の記事によれば、従来のPALTACのピースピッキングの仕組みは、オリコンに搭載したカートを人間が動かして在庫商品の場所に移動し、そこでピースピッキングする(オリコンに商品を入れる)方法でした。

PALTACの新しい仕組みは、人間は所定の位置から動かず、商品が動くことでピースピッキングを行う方法です。作業の大半を占めていた人が「歩く」「探す」という作業がなくなり、ピースピッキング生産性は2倍に向上しました。まさに「人の歩行距離を減らす」ことが、単純作業の労働生産性向上の急所であることがわかります。また、多くの小売業で挑戦している「通路別納品(カテゴリー納品)」も、人の歩行距離を減らす取り組みです。

「商品のタッチ回数」を減らすためには、「売れ数比例配分」の原則を徹底することが重要です。よく売れる商品の陳列量(在庫量)、発注単位、補充・物流単位を増やすことで、商品に触る回数を減らすことがローコストオペレーションの原則です。売れ筋が1フェースで陳列されていて、1日に何度もバックヤードから「ピストン補充」している作業状況では、労働生産性は向上しません。

補充・物流の単位は、コストの低い順番で「パレット物流」「ケース物流」「ピース物流」に分類できます。ピース物流は、わざわざケースをばらして、ピース(1個)単位で物流するわけですから、当然、人手とコストがかかります。

パレット陳列のできない小型店でも、販売数量の多い売れ筋商品に関しては、「ケース」や「ボウル」単位での発注・補充・陳列を行うことで、商品のタッチ回数を減らし、労働生産性を向上することができます。

箱(ケース)単位で、発注・補充・陳列を行うことで労働生産性を向上しているアメリカの「アルディ」の陳列。

「波動を少なくする」ことも、ローコストオペレーションのポイントです。人口減少時代のこれからは、無理やり売上を増やす「ハイ&ローの価格販促」から、EDLP(エブリデーロープライス。毎日同じ価格で売り続けること)の売り方に転換すべきだと思います。価格を上げ下げする販促は、作業量と在庫量に大きな波動が生まれ、結果として、作業コスト、在庫コストが増加します。

EDLPによって、「売れ方の波動」を少なくすることで構造的なローコスト経営体質を実現し、その結果として労働生産性を高めることが、これからの流通業の重要な経営戦略だと思います。「売上増」よりも「生産性向上」の方が重視される時代になります。

チェーンストアとは小さな改善を大きな利益にすること

チェーンストアの特徴は、1店舗での「小さな改善」を水平展開(標準化)することで、「1店舗の作業時間削減×店舗数×365日」となり、小さなコスト削減が、企業全体では膨大な利益の確保につながることです。

2018年に国内店舗数2万店を突破したセブン-イレブン・ジャパンでは、本社と同じビル内で営業するセブン-イレブン千代田二番町(以下、二番町店)で、作業改善のための新しい技術と設備の実験を行っています。

とくに商品陳列に関する技術と設備の実験が多く、「スライド式の棚(スライド棚)」はゴンドラ、チルドケース、冷凍リーチインケース、FFウォーマー(揚げ物用ケース)の各所で使用されており、作業時間削減に最も寄与しました。

たとえば、チルドケースと冷凍リーチインケースのスライド棚だけでも、1日54分の作業時間を削減しています。棚を前方にスライドさせることで、時間がかかる「先入れ先出し作業」をスムーズに実施できるため、作業時間の大幅な削減に直結するわけです。54分×2万店×365日≒約4億分の全店・年間の労働時間削減につながります。まさに、小さな改善が大きな利益に直結することが、チェーンストア経営の神髄であることがわかります。

生産性向上に大きく貢献する「スライド棚」。

接客の自動化(オートメーション化)も、顧客満足と生産性向上の両方にとって不可欠です。とくに、タブレット端末を活用する「接客のオートメーション化」への取り組みは、これからの最重点の経営課題です。専門家が不在時でも、誰でもがある程度の接客ができるようにITでサポートすることで、顧客満足の向上につながると同時に、「パートの戦力化」にも貢献します。

「IT化、AI化、ロボット化、デジタル化」は、労働人口減少の中で、単純作業を機械に置き換えることで、「省力化・省人化」を実現することです。PALTACの新型物流センターも、最新のAI技術、ロボット技術を活用して、省力化・省人化を実現しています。また、小売業の現場で季節で変わる「店内ポスター」を貼る、剥がすための作業人時数は想像以上に多くかかっており、今後は「デジタルサイネージ」の導入が一気に進むと思います。

流通先進国であるアメリカと比較すると、まだまだ低い日本の労働生産性。逆説的にいえば、労働生産性の低さこそが、日本の流通業の「伸びしろ」の大きさであり、利益増のチャンスだと思います。つまり、労働生産性の改善こそが、これからの日本の流通業の利益の源泉なのです。

小売各社PBを比較してみました~スムージー・サプリ編~

流通小売業各社が開発にしのぎを削るプライベートブランド(PB)。このコーナーは見て、触って、使ってみて、リアルな商品のホントのトコロを編集部員のNとTがチェックし、イチ生活者目線で大いに語らった記録です。お気楽にお読みください!(月刊マーチャンダイジング 2018年9月号より流用)

総合力はローソンが?「グリーンスムージー」

イオン、名称「生菓子」の衝撃

T
まずは、スムージーから。健康を気にする男女の手が思わず伸びるヘルス&ビューティな商品だとおもうのですが、現在プライベートブランド(PB)として取り扱っているのは、ほぼコンビニですね。私もランチ時なんかに1本買い足したりするのですが…。
N
ドラッグストア(DgS)にあるのは、粉末状のものが多いよね。
T
そうなんですよね。今回は4社全8品のPBスムージーを集めてみました。
N
ファミリーマートは、PBではなく専売品なんだ。
T
まずパッケージのデザインはどうでしょうか。
N
印象がよいのはローソンかな。表示も見やすい。レギュラーのものとワンデイとが少し見分けにくいかも。
T
あと、中ぶたを開けるための耳部分があるのはローソンとファミマのグリーンスムージーだけですね。まあ、コップに開けて飲むのか?という感じもしますけども。
N
ファミマのサラダスムージーは、容器もデザインも差別化できているよね。あまりない感じで。「モコズキッチン」風のイメージというか…。
T
味や食感はどうですか。
N
フルーツの甘味が強いものと、いわゆる青くさい系と分かれているね。セブン、ファミマのグリーンスムージーはリンゴの甘味が強い。その分、ジュースっぽくて飲みやすいともいえる。
T
甘い…ということで、気になる糖質ですが、そこまでの差はないですね。私は南国系のフルーツの臭みがダメなので、パインとかマンゴー、キウイがきついとちょっと…。ファミマのサラダスムージーは好みが分かれそうですね。コリアンダーとかハーブもいろいろ入っているのでアジア、タイ料理には合いそう。のどごしは一番いいです。
N
ローソンは全体的にケールっぽさが強いね。とくにワンデイ。青くささを求めている人はぜひ。レギュラーは、その中でも案外フルーティ。あらごし感の強い飲み口でいいね。
T
濃縮還元ではなくて野菜をつぶしてつくっている商品は安心できます。
N
スーパーフードのスピルリナが入っているのも(ナチュラル)ローソンらしい。
T
イオンはどうですか。パッケージはなかなかおしゃれな感じで仕上がっていますけども。
N
トロみというか、ドロみというかゼリーのようだね。(容器の表示を見る)え…これは…!?
T
名称、生菓子…!?
N
抹茶ペーストとかも入っているんだ!ちょっとびっくりする表記だね。 ライトの方は、糖質もかなり抑えて葉酸やビタミンDも入れて健康を考えた設計のようだけど…うーん。

[図表1] グリーンスムージー比較表(編集部調べ)

「サプリメント」は美容系成分も充実のスギが?


マツキヨはスタイリッシュに攻める

T
続いてサプリメントです。このカテゴリーは最近DgSでもPBが目立つようになってきましたよね。
N
正直、効果的なところは個人にもよるし、体感的な比較は難しいよね。
T
おっしゃるとおり! ですので、ここでは、パッケージのわかりやすさや手に取りやすさ、錠剤のサイズ感などで比較をしたいと考えております。
N
ダイソーも出してるんだね…!
T
40粒で108円…1粒2.7円。大体1粒4円代なので、やはり安いといえば安いですね。1日2粒で済むのも楽です。錠剤も一番小さいです。
N
イオンとカインズの錠剤サイズは同程度。スギは厚みが少し気になるかな。
T
カインズは栄養機能食品の表示ナシ。でも女性が気になる葉酸については、国の定める1日の摂取量240μgが含有されていたりします。
N
カロリーはスギさんが5kcalと高めだけど、その分美容系の成分や乳酸菌を入れていて、ターゲットの設定がしっかりされている印象かな。
T
たしかに。パッケージにも唯一、女性が描かれていますね。イオンはファミリーユース、カインズも幾何学模様で男女は選ばない印象ですが、少しケミカル感がありますかね。
N
イオンはおしゃれとはいい難いけど、これはこれで伝わるものがあるよね。成分の説明も表面にあって、ポイントがハイライトされている。
T
ダイソーは、金と赤で訪日客受けする高級感を感じます。
N
マツキヨは、デザインされた線の色と太さを配合成分とシンクロさせていて、中身が目で見てもわかりやすい。成分もあえて絞っている印象だね。
T
管理栄養士推奨、という表示もDgSならではの安心感を感じさせていいですね。

[図表2] サプリ比較表(編集部調べ)

アイシャドウ選びを「5つの選択肢」で簡素化したマキアージュの「売り方」

口紅やチークなどは自分に合う色味が重要で、とくにアイシャドウは色のバリエーションも多く、カウンセリングには技術を要するといわれてきた。マキアージュのアイシャドウでは2017年「運命のブラウン」というコンセプトのもと5種を発売、「瞳に合った色を選ぶ」という新機軸で大きなヒットを飛ばした。インターネットで膨大な情報が飛び交う時代、選びやすく購買につながる販促手法を見ていく。(月刊マーチャンダイジング2018年9月号より流用)

瞳の色に合わせてアイシャドウを選ぶ

自分の瞳の色に合ったアイシャドウを選んでくれるスマホサイト I(EYE)SHADOW

マキアージュでは「黒目」と呼ばれている虹彩の色(写真1)が個人によって異なることに着目。瞳の色を調査、研究し、自分の瞳の色に合わせてアイシャドウを選ぶことで、自然に大きな目もとを演出できることを提案している。瞳の色の明るさを5段階に分類し、それぞれの瞳色に合わせた5種のアイシャドウを発売し、「運命のブラウン」と名付けた。自分の瞳の色に合うアイシャドウとの運命の出会いという趣旨である。

〈写真1〉アイシャドウの仕上がりに影響を与える瞳の色

このキャンペーンは消費者に響き、「運命のブラウン」アイシャドウは2017年8月の発売から同12月までの売上金額で前年の215%を記録するという好調ぶりを見せた。

この好調を支えたのが店頭販促ツール「瞳色チェッカー」と「I(EYE)SHADOW」というスマートフォン用のデジタルコンテンツである。

「瞳色チェッカー」(写真2)は5段階の瞳の色を印刷したドーナッツ状の部分を瞳に合わせ、自分の瞳色がどの色に近いかをチェックするツールである。自分の瞳の色が分かれば、なじむ「運命のブラウン」アイシャドウが導き出される。店舗従業員が案内しながらチェックしてもいいし、セルフで簡単に試すこともできる。

〈写真2〉瞳色チェッカー

「I(EYE)SHADOW」(写真3、4)は、スマホでサイトにアクセスして自分の顔を撮影すると、資生堂独自の解析システムが瞳色を解析し、5種のブラウンアイシャドウの中から最適なものを選んでくれる。

〈写真3〉I(IEYE)SHADOW画面1

〈写真4〉I(EYE)SHADOW画面2

アイシャドウ以外のメイクとのコーディネーションも提案

「瞳色チェッカー」を使えばアイシャドウの接客は怖くない

店頭でのアプローチは「瞳の色に合わせて、自然に目を大きく見せることができるアイシャドウをご存じですか」と声掛けすることから始まる。色の説明をした後で、瞳色チェッカーを使い色を選んでいく。日本人の瞳色の平均を中心色としているので、その色を起点に合わない場合は明るい色、または暗い色を試し、自分の瞳の色を確認する。自分の瞳の色がわかれば、「運命のブラウン」アイシャドウが見つかるという仕組みだ。

こうした接客で、技術を要さない簡単な案内ながら、お客の関心、納得度は高まる。資生堂でドラッグストアチェーンの化粧品販売の責任者を対象に研修を担当している資生堂ジャパン コスメティクスブランド事業本部 事業戦略推進部所属の澤田幸(みゆき)氏はこう語る。

「これまでアイシャドウの色選びは難しいとおもわれていました。『運命のブラウン』というコンセプトで瞳色チェッカーを使えば、高い技術がなくてもお客さまに納得してご購入いただけるチャンスが広がります。ツールを使うことで苦手意識を払拭していただきたいです」

瞳色チェッカーはセルフでも使えて、アイシャドウの色選びをサポートする。そこに運命のブラウンが見つかるツールがあることを案内するだけでも購買チャンスは格段に広がるだろう。これは化粧品の深い知識がないパート従業員や男性店長でもできることである。

「I(EYE)SHADOW」はスマホ用のサイトで瞳色チェッカー同様色選びが簡単にできる。その他、アイシャドウのメイクアップ方法、他のポイントメイクとのコーディネーションのコンテンツがある。

2017年7月にサイトを立ち上げ、同年12月までに445万PVを記録した。「I(EYE)SHADOW」は自宅など店外での使用を想定しており、デジタルによる店外カウンセリングツールともいえる。

「最近の女性はカラーコンタクトをしている人も多く、付けているときと外したとき、両方の色を見たい場合にI(EYE)SHADOWは便利です」(澤田氏)

「運命のブラウン」を見つけるという同じ目的で、店頭ツールとデジタルツールを用意して、接客機会を広げている。

購入する根拠、目的をテーマとして設定する

「運命のブラウン」の成功のポイントは、使う側、販売する側双方にとって迷いがちなアイシャドウの色選びを、瞳の色で絞り込んだことだろう。加えてこの5種類の中にあなたに合った「運命のブラウン」がある、というコンセプトは、購買に向けて背中を押す有力な一手になる。

現代は情報があり過ぎて買う側はどの情報を根拠に購買すればいいのか迷っている人は多い。SNSでお気に入りのインフルエンサーの情報に頼ったり、行動を後追いしたりするのも、膨大な情報を自分では処理しきれないことの表れだろう。

そこに、確かな研究結果に基づいた選択肢があり、それを試すツールが用意され、選択した結果に「運命のブラウン」という情緒あふれるコンセプト、ワードが裏打ちされていたら購買率は高まる。215%成長もうなずける。

マキアージュでは2018年3月、「透明感を引き出す」口紅とチークを発売し好調だった。通常、透明感を引き出すのはファンデーションやスキンケアの領域だが、ポイントメイクにその手法を取りいれたことは新鮮な切り口である。これも「運命のブラウン」同様、テーマ設定により成功したマーケティングである。

何を根拠に購入するか(5種の中に「運命のブラウン」がある)、何を目的に購入するか(透明感を引き出す)、膨大な情報量で選びづらい環境では、商品選びのナビゲーターとなる根拠、目的を指し示すことの重要性を、マキアージュの成功事例は物語っている。これはメーカー㆑ベルの話にとどまらず、店頭での売り方にも共通する。不特定多数を対象に商品を並べるのではなく、収益性の高い重点商品は、購入すべき根拠や目的を示して選びやすくすることで購買は促進される。

壁のない組織体制で販促はより機能する

「運命のブラウン」の成功の裏には、組織体制という要素もある。資生堂ではブランド、営業、販売(美容部員)が一体となって動いており、意見交換も活発に行っている。マキアージュではブランドと営業が月一回ミーティングを行い、施策や意見をすり合わせる。

瞳色チェッカーに関しては、「運命のブラウン」というキャンペーンの準備段階で、カラコンの色合わせツールをヒントに営業と連携しながらブランドが製作したものである。こうした緊密な連携は当然販売の現場まで落とし込まれている。

「ブランド、営業の考えや施策はすべて販売の現場と共有しています。さまざまなアイデアや販促ツールが出てくるので、美容部員は販売しやすくなったと感謝しています」(澤田氏)

情報源は多様化しており、膨大な量がある。選択肢を絞って、買いやすく一次選別することでマキアージュは売上拡大に成功している。加えて、多様化する情報源に対応するため、メーカーもこれまで以上に多くの媒体で情報を発信し、販促を打たざるを得ない。複雑になるマーケティングは、ブランド、営業、販売が一体となり、その意図や施策を共通理解していなければ機能しない。販促が機能するためには壁のない組織体制が重要なのだ。

「天災」発生時の現場の行動力で「企業文化」の強さがわかる

企業経営は、「企業文化づくり」に始まり、「企業文化づくり」に終わると言われています。企業文化の強さが、その企業の競争力であるといっても過言ではありません。企業文化の強さがもっとも試されるのは、天災などの突発的な出来事が発生したときです。今年は、「西日本大豪雨」「北海道胆振( いぶり)東部地震」と立て続けに天災に見舞われました。月刊MDで取材した、天災発生時の店舗現場の「行動力」の実例を掲載します。

東日本大震災の発生後、東北のツルハドラッグの店頭に行列ができた様子。まさに小売業は地域のライフラインである。

「行動」が変わって初めて企業文化は強くなったといえる

企業文化とは、その企業の「経営理念」や「経営哲学」が、単なるお題目ではなくて、その企業に属する社員全員の意識に深く浸透し、それが全員の「行動」に結びついた状態のことをいいます。

すべての企業は、「顧客第一主義」「店は客のためにある」などの素晴らしい経営理念を掲げています。しかし、経営理念は素晴らしくても、現場社員の行動は、客のことなどまるで考えていない組織はたくさんあります。企業文化の強さは、組織に属する全員の「行動」が変化したときに初めて、達成できるものです。

そのためには、経営理念を具現化する「行動改革」を何度も何度も繰り返し教育し、こういう状況のときには、こういう行動をとるべきだということを全員が共有化できるまで徹底することが大切です。

本部と連絡の取れない非常事態でも、現場の判断で正しい行動を選択できる「強い企業文化」をつくった組織が、最終的に競争優位に立つことができます。

以下に、月刊MDで取材した天災発生時の現場の行動力を紹介します。2つの事例ともに企業文化の強さが、現場の行動力に表れています(古い事例に関しては、人も店も変わっている可能性がありますので、あえて匿名で掲載しています)。

現場の判断で震災直後に営業開始~ツルハドラッグ~

2011年3月、東日本大震災直後、停電状態で電気もレジも使えない中、現場の判断で地域の消費者に商品を販売したツルハドラッグ(巻頭写真)。地域生活のライフラインとして、「1日も早く店を開ける」という企業文化が、現場社員の自主的な行動に結びついた事例です。

東北エリアでは地震の後、ガソリンの供給が止まり出勤できない従業員が続出しました。当時の担当SV(スーパーバイザー)は、営業を続けるために、また保安上の理由からも店舗駐車場に車を駐め、3日にわたり車内で寝泊まりしながら仕事に当たったそうです。この間、口にしたものは店の商品であるポテトチップスと水だけでした。

「(地震があっても)全店営業というのが会社の方針でしたし、私も絶対に担当する店は閉めないという強い意志を持っていました。車に寝泊まりしたのは私だけではなく店長たちも同じです。

地震直後から大勢のお客様が、「商品がほしい」といって店に来られました。店内は危険だったので店の外で商品を販売し続けました。駐車場に並んで待っていただきましたが、多い時で700mくらいの行列ができる程に商品へのニーズは強く、特に赤ちゃんのミルクを求めるお客様が多くいらっしゃいました。

地震の混乱で皆疲れて、極限状態ともいえるような状況だったと思います。それでも皆、紙と鉛筆と電卓で必死に外売りを続けました。

私たちの支えになったのは『こんな時に店を開けてくれてありがとう』というお客様の声でした。困難な状況でもこれだけのお客様に必要とされ、感謝され、ライフラインである店を守り続けていることに誇りを感じました」。

(※月刊MD2011年5月号掲載の記事を抜粋)

企業文化の定着がわかったことが、不幸な出来事からの大きな収穫~レデイ薬局~

2018年7月6日(金)から激しい雨が降り続いた愛媛県南部では、一級河川「肱川(ひじかわ)」上流をせき止める野村ダムの水位が急上昇し、これを受け国土交通省では午前6時20分、基準の6倍の量にあたる最大毎秒約1,800トンを放流しました。

浸水被害にあったくすりのレデイ東大洲店。

このエリアのSVの越智氏は、当日の行動を次のように振り返ります。「朝6時前に大洲店(東大洲店から西南に約2km)の高砂店長から連絡があり、店舗前の道路が既に2〜3cm冠水しているので、当日の営業を検討する必要があるということになりました。その時点で近隣では防災無線などで避難を呼び掛けていました。

私は東大洲店から2kmくらい離れた場所に住んでいるので、大洲店の店長と二人で現場の確認を行いました。その場で従業員の安否の確認と出勤可能かどうかを緊急連絡網で確認しました。その結果、従業員の住まいの多くが、避難指示区域にあることが分かりました。

午前7時過ぎには従業員の安否、店舗周辺の状況確認が終わり、出勤できる従業員が少なく、本日の営業は困難なので店休したい旨、店舗運営部長に連絡しました。部長からは何よりも従業員の安全を優先させるように、という指示があり、店休が決定しました」

決定した時間は野村ダムの放流により肱川が氾濫して大洲市にも避難指示が出された時間とほぼ同時刻であり、的確な判断であったといえます。近隣にはこの日営業して店内が浸水し、従業員が危険な目にあった店舗もありました。

什器の下段まで浸水被害にあったくすりのレデイ東大洲店。

その2日後の7月9日に東大洲店の復旧作業が始まりました。田村店長の号令の下、東大洲店の従業員たちは午前8時、店舗復旧のため店に集合しました。本部からの応援メンバーに加え、前日に依頼していたベンダー、メーカーの応援部隊も駆けつけ、東大洲店復旧チームは90人程になりました。

「当日は道路が復旧していたことも分かっていたので午前7時前には東大洲店に到着しました。当日駆けつけた従業員の中には、自宅が浸水したり、断水になるなど困難な状況にある人もいましたが、自分がDgSという地域に貢献する店に勤務しているという責任感から店舗復旧に駆け付けてくれた人もいました」(店長談)

店舗復旧にあたり本部からは営業本部副本部長を筆頭に、商品部長、店舗運営部長の3人が陣頭指揮を執り作業が進められました。第一に行ったのが、浸水で廃棄処分となった商品の運び出し。それらすべてを一旦駐車場に集め、罹災証明用の写真を撮った後、設置されたコンテナの中に廃棄する作業が行われました。

店内から廃棄物を出し終わると床や什器の清掃に取りかかった。店舗内の床清掃、消毒には外注した清掃業者も加わりました。「事前の報告により什器の下段が浸水にあったということだったので、最下段と下から二番目の棚にある商品は前日に本部から発注をかけていました。9日午前に発注した商品が到着。廃棄物の撤去、床の清掃・消毒、商品の補充を終え東大洲店を再開させたのは10日の正午頃というスピーディな復旧でした」。

田村店長は当初、被害状況から見て店舗の再開までには1週間くらいかかるのではと心配していましたが、作業に加わったメンバーのチームワークで、驚異的なペースで店は復旧していったそうです。

最後に、白石明生・代表取締役副社長執行役員営業本部長は、次のように感想を述べています。「自分の困難よりも店舗復旧を優先させた従業員がいるように、レデイ薬局では企業文化の定着に一定程度成功していると実感しました。これは、不幸なできごとからの大きな収穫だったと思います。当社の企業スローガンは、『すべてはお客さまのために』とあります。そのスローガンが災害時の具体的な行動に結びついたことは大きな収穫だったと思います」

(※月刊MD2018年10月号掲載の記事から抜粋)

散布図を作成して複数の数値の「相関関係」を突き止める

前回はTableauで地図上にデータを表示する方法を説明しました。自社拠点などの地点をプロットし、数値で色を塗り分けることで、ただ数表を眺めるだけでは気付きにくい地理的な要因を可視化できるというマップならではの利点を知ることができました。この第五回では再び切り口を変えて、複数の数値の関係性を理解する時に使う、散布図の作成方法を説明します。

1.数値の相関

「売上の推移を月ごとに見る」、「利益を拠点ごとに比較する」といった1つの数値を分析するだけではなく、複数の数値の関係性を見つけようとするケースは多くあり、ビジネスの現場でもよく行われています。

例えば、「製品の価格は販売数量にどの程度影響を与えているのか?」、「顧客アンケートの設問数と回答率に関係はあるのか?」など、ある要素が別の要素にどの程度の影響を与えているのかを、分析したい場合があります。

こういった数値項目(Tableauにおけるメジャー)同士の関係性を認識するには、まずは「相関性」の分析を行います。相関とは「一方が変動しているときは、もう片方も変動している」という関係性のことを指します。例えば、「身長が伸びると体重も増える」「売上が増えると利益も増える」という場合です。ただ、相関は必ずしも2つの数値の関係性を保証するものではありませんし、因果関係とも異なるものですので注意が必要です。

2.散布図の作成

相関を視覚的に捉える最もスタンダードな方法は、散布図を描くことです。ここでは売上と利益を例にとって、Tableauでの散布図作成のための操作方法を順を追って説明します。

2.1.Excelファイルの読み込み

第二回と第三回で使用した「サンプルサンプル – スーパーストア.xls」を再び使用します。新しくはじめる場合は、Tableau起動直後に左上にある「接続→ファイルへ→Microsoft Excel」をクリックしてファイルを選択します。ファイルの中の「注文」シートをドラッグして読み込み、シート1または新しいシートに移動しましょう。

2.2.二つの軸を作る

散布図を作成する最初のステップは、縦軸と横軸になるメジャーを明確にすることです。今回は売上と利益の関係性を見てみるので、画面左端にあるメジャーの売上を列に、利益を行にドラッグ&ドロップします。

<図2-1 売上と利益の配置>

第三回まではメジャーの軸はひとつでしたが、列と行にひとつづつメジャーを入れることで縦と横の2つの軸が出来上がりました。そしてビューエリアには丸い点がひとつだけ存在しています。この丸い点は「注文」シートの全データの合計値を表しています。

<図2-2>

2.3.点を分解して分布を見る

点がひとつだけでは関係性を表すことができませんので、この点を製品ごとに分解して分布を見てみましょう。散布図を作成するときは、メジャーで縦軸と横軸を作成してから、ディメンションをマークに配置します。画面左端のディメンションから製品名をマークの詳細にドラッグ&ドロップすると、多くの丸い点が出現します。この点のひとつひとつが個別の製品の実績を表しています。

<図2-3 製品名をマークの詳細に配置する>

<図2-4>

こうして見てみると、利益は売上に必ずしも比例していないことが読み取れます。右にある点ほど売上が高いのですから、そのような製品は利益も高くあってほしいものです。つまり「売上が増えれば利益も増える」という正の相関を期待しているのですが、しかし実際には利益が取れていないどころかマイナスになっている製品がいくつもあります。

2.4.特徴のある点の共通項を探る

それでは、「売上が増えるほど利益がマイナスになる」製品たちには何か共通の要因があるのでしょうか。利益がマイナスになっている幾つかの点にマウスオーバーしてみると、「充電器」や「机」といったキーワードが共通しています。どうやら製品カテゴリに偏りがあるようですので、ディメンションの中からサブカテゴリをマークの色にドラッグ&ドロップして色分けしてみます。

<図2-5 サブカテゴリをマークの色に配置>

<図2-6>

利益がマイナスになっている点は、少数の同じ色であることが目立ちます。特に数が多く見えるのはテーブルと電話機です。この2つに絞って詳細な分析を進めていけば、今まで見えていなかった課題が浮き彫りになってくるかもしれません。

色が見づらい場合にはマークの形状をクリックし、中を塗りつぶした黒丸を選択すると見やすくなることがあります。また、画面右端に色の凡例が出ますので、その中から任意のサブカテゴリを選択すると、ハイライト表示することができます。

<図2-7 マークの形状から塗りつぶしを選択>

<図2-8 電話機のサブカテゴリをハイライトしたとき>

以上のように、散布図はメジャーを行列にひとつずつ、マークにディメンションを配置すると作成することができます。プロットした点が多すぎるときはフィルタリングしたり、階層をワンランク上げてみたりするとよいでしょう。

3.傾向線で相関の強さを定量的に把握する

散布図にプロットした点を読み解くときのポイントは「点がどのように集束しているか」を見ることです。それぞれの点がばらばらに分布しているほど関係性(相関)が弱く、1本の直線上に沿っていれば関係性は強いと言えます。※1 この相関の強弱は数学的に計算することができ、Tableauを使えば簡単にそれを知ることができます。

画面左上の「アナリティクス」をクリックすると統計機能のメニューが表示され、その中に「傾向線」があります。この傾向線をビューにドラッグ&ドロップしましょう。ドラッグすると線形や対数といったアイコンが出ますが、ここでは線形または何もないところにドロップします。

<図3-1>

<図3-2 傾向線をビューにドラッグ&ドロップした直後>

傾向線をドラッグ&ドロップすると、たくさんの線が表示されました。この線1本がひとつのサブカテゴリを表しています。このとき、統計的にはTableauの傾向線は最小二乗法による単回帰式となっており、式は「y=ax+b」の形を取ります。

傾向線にマウスオーバーすると、式とともにR2乗値とP値が表示されます。R2乗値は決定係数といって相関の強さを表すもので、1に近づくほど関係が強いということができます。例えば、テーブルの傾向線にはR2乗値が0.37と表示されているので中程度の相関があり、しかも式の傾きがマイナスですので「売上が高くなるほど利益が小さくなる(マイナスになっていく)」ということが明らかになっています。※2

<図3-3 テーブルの傾向線>

4.まとめ

今回はデータを散布図に表す方法、そしてデータの相関を傾向線から読み取る方法を解説しました。関係性を明らかにしてある程度の相関を見出すことができれば、例えば将来の予測を行うことができます。また、傾向線から大きく外れるデータは「いつもとは異なるデータ」と看做すこともできますので、プロモーションの効果測定や異常検知に活用することもできます。

[注釈]
※1 説明上は「直線」としていますが、実際には直線である必要はありません。データが指数関数グラフのように並んでいる場合は対数変換をかければ直線になりますので、相関性を認めることができます。
※2 Tableauにおける傾向線モデルの詳細は https://onlinehelp.tableau.com/v2018.2/pro/desktop/ja-jp/help.htm#trendlines_add.htmlをご覧ください。

新商品が続々登場した透明飲料。来年の夏はどう動く?

店頭に多数並ぶ透明のペットボトル飲料。従来のフレーバーウォーターだけではなく、ついにコカ・コーラや、ノンアルコールのビールテイスト飲料まで登場し、この夏のトレンドとなりつつあります。そこで今回は、人気の透明ペットボトル飲料について独自データに基づき分析します。

購入理由は60.7%が「試し買い」

まずは、自主調査でPOB会員3994名を対象に「透明ペットボトル飲料の購入に関する」アンケートを実施し、透明飲料の購入経験について調査をします。

透明ペットボトル飲料の購入経験は、「購入したことがある」が55.0%で、2人に1人が購入した経験があり、購入者層の男女比はほぼ半々で、男性は50代、女性は30代がボリュームゾーンとなります。

次に、透明ペットボトル飲料の購入経験がある方を対象に購入理由について調査をします。(N=2196名)

透明飲料の購入理由は、「試し買い」が60.7%とダントツで、購入時に重視される味に関する「おいしそうだから」はわずか22.0%となります。ほかにも「流行っている・話題だから」が15.5%、「珍しいから」が15.1%、「新商品だったから」が14.2%など、購入理由からは、ほとんどの方が、新しさに手を伸ばすトライアル購入者であることがわかります。

一番人気の「ヨーグリーナ&サントリー天然水」

次に、代表的な透明飲料の銘柄をピックアップし、購入経験について調査をします。

購入したことがある透明ペットボトル飲料について、1位~10位までをみると「サントリー」天然水シリーズと「コカ・コーラ」い・ろ・は・すなどの、既に定着している商品が目立ちます。中でも1位の「ヨーグリーナ&サントリー天然水(サントリー)」は、45.2%と半数近くの方が購入したことがあると回答し、多くの支持を集めました。

「乳酸菌飲料なのに、甘過ぎずにしつこくなくて、スッキリ飲める。夏でもスッキリした味の乳酸菌飲料なので気にいっている。(40代女性)」や、「無色透明なのに、ヨーグルトの味がする不思議さ。子どもが好きで頼まれて購入(30代男性)」など、乳製品のコクがありながらも、甘酸っぱくスッキリした味は、代替品が少なく、2015年4月から発売され、透明飲料市場を切り開いたブランド力で長く、幅広い年代に定番商品として親しまれています。また、今年3月にはリニューアルを実施し、乳酸菌UPでさらにヨーグルト感を味わえるようになりました。

また2位の「い・ろ・は・す 白桃(コカ・コーラ)」は、25.4%で、2015年10月から発売している「い・ろ・は・す もも」の後継品として、今年2月に発売され、「「もも」が「白桃」にリニューアルされたことを知っており店頭で見つけて購入。甘さや香りが強すぎずに飲みやすい(50代男性)」や「以前から気に入って購入していたが、白桃にリニューアルされ、購入したくなり店頭に行くと、かなりのお客様が関心を持ったようで商品も少なくなっていた。白桃のみずみずしさがよい(40代男性)」など、リニューアルがきっかけで購入につながり、商品に対する満足度がよりアップしていることがわかります。また10位以内には、4位に「コカ・コーラ クリア(20.1%)」、10位には、「爽健美水(10.2%)など、コカ・コーラは6月に発売されたばかりの2商品がランクインしましたが、コーヒーフレーバーの「クリアラテ from おいしい水(アサヒ飲料)」や、ノンアルコールビールテイスト飲料の「オールフリーオールタイム(サントリー)」は、少数派で、以前から発売され、既に定着している「ヨーグリーナ」や「い・ろ・は・す」の人気が根強いことがわかります。

では、透明ペットボトル飲料を購入しなかった方の理由について調査をします。(N=1556名)

透明飲料を購入しなかった理由については、「透明より通常の色のほうがよい」が33.6%でもっとも多く、「おいしそうにみえないから」が33.0%、「成分などが不安」が28.7%と続きます。本来は色がついている飲み物が透明であり、味やペットボトルのデザインが異なっても、どれも同じものに見えてしまうため、商品からのおいしさがみえにくいのと、透明である仕組みに疑問をいただく方が多いことがわかります。

コーヒー・ビール・お茶を選ぶのは少数派

今年6月には、サントリーからノンアルコールビアテイスト飲料の「オールフリーオールタイム」が発売され、様々なジャンルの透明飲料が揃いました。今後どのジャンルの透明ペットボトル飲料を飲みたいか聞きました。

今後飲んでみたい透明ペットボトル飲料のジャンルは、1位が「炭酸水」で23.3%、2位が定番の「フレーバーウォーター」が18.7%と続き、この2つのジャンルに人気が集まり、3位以下は少数派で、3位は「コーヒー」で4.3%、4位は「ビール・発泡酒」が3.9%、5位は「お茶」で3.8%と続きます。

最後に、今後新商品の透明ペットボトル飲料が発売された場合、消費者の購入意欲について調査をします。

今後新商品の透明ペットボトル透明飲料が発売された際の購入意欲は、「購入したい」が9.3%、「やや購入したい」が19.9%で、約3割の方が「購入したい」と回答しました。一方で、「あまり購入したくない」が32.7%、「購入したくない」が14.9%で、約4割以上の方が、「購入したくない」と回答しました。理由としては、様々なカテゴリの透明飲料が出揃ってしまった今後は驚きのカテゴリやフレーバーが発売されない限り、購入につながりにくくなっているのかもしれません。

この夏は、たくさんの消費者が透明飲料を試し買いしたと考えられますが、「ヨーグリーナ&サントリー天然水」のように、他社にはない味の追及や、「コカ・コーラ クリア」の今まで何十年も変わらぬ色を変えてしまう挑戦など、消費者に継続的に購入してもらうための、様々な企業の努力が感じられた調査結果となりました。

 

POBデータとは

「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」データベース。

全国の消費者から実際に購入/利用したレシートを収集し、ブランドカテゴリや利用サービス、実際の飲食店利用者ごとのレシート(利用証明として)を通して集計したマルチプルリテール購買データのデータベース。消費財カテゴリ68種類 約6,000ブランド、飲食利用カテゴリ10種類約200チェーン(2018年1月現在)。

「セゾンポイントモール」会員と、「Ponta Web」会員、当社登録会員「キャスト」で構成された約20万人のネットワーク。マーケティング戦略に不可欠なデータを、“より精度を高く”を企業・メーカーに提供します。

各業界に広がるリアルでのAIの適用

今回の記事では、広く小売に限らずどのようなAIの活用事例があるのかを紹介して行き、どのようなAIの活用事例があるのか、またその活用事例における共通点を伝えることで、自社のAI活用に繋がる示唆を得てもらう。

AIの技術を使って成功を納めている象徴的な例の一つとして、本連載記事における第一回の記事で紹介したAmazon Goがある。Amazon Goでは、店内に無数のカメラやセンサーをつけ、AIを使用することで、店内のお客様の行動解析や決済の無人化を実現している。

無人店舗のサービスを提供する会社については、Amazon Go以外にも出てきている。こちらの記事にあるように、Inokyoなどがその例である。新しい店舗の形は、テクノロジーの進化によって現実のものとなってきているが、無人化の影響は単純にレジを打つ必要なくなるだけではない。

レジ打ちを行なっていた人がお客様の満足度を上げるためのアクションを取ることができることはもちろん、お客様の店内における行動データを全てとることができる。

店に入ってからどこに行ったか、どこで立ち止まり、何の商品を手に取り、そして退店したか、そういった様々なデータを取得することができる。また、その店舗内の行動データだけではなく、ECの購買情報と合わせて管理できるようになっている。

これらのデータを活用して、店内のレイアウトを変えたり、商品企画に生かしたりすることができる。またECなどにおいても、商品のレコメンドなどに活用することができ、リアルとオンラインの両方で、Amazonの包囲網がより大きくなる。

業種を問わないリアルでのAIの活用事例

このようにAmazon Goは未来の小売業にインパクトを与えるサービスの事例としてあげられる。特にAmazon Goに見られるような、インターネットサービス以外の、「リアル」でのAI活用が近年凄まじい勢いで進んでおり、このようなAIを活用した成功事例は、大小はあるものの、業種を問わず出ている。

例えば、製造業の現場でもAIの活用は進んでいる。自動車部品工場の現場では、独自のAIを導入し、検品作業を効率化している企業もある。しかし、自動車部品工場含め、製造業で作る製品は品質が高く、製造される部品の中からは非常に少ない数の不良品しかでない。

本連載における第二回の記事で紹介したように、データがなければ基本的にはAIを学習させることはできない。そのため、異常品が少ない環境では、その分類を行うためのAIを作成することは非常に困難である。この問題に取り組むために、株式会社ABEJAと武蔵精密工業株式会社はDeep Learningを活用し、正常品のみから異常品を検知できるAIを開発するなども行なっている。

物流の分野でも、AIの活用の動きが進んでいる。日本経済新聞によると、日用品卸大手のあらたは2018年6月に約30億円を投じて鹿児島市内に商品管理にAIを活用した物流センターを稼働させている。ピッキング(仕分け)作業の一部を自動化して作業効率を高める。国内流通業の人手不足が進んでいく中、各物流拠点のシステム投資と自動化を加速している。

また医療・バイオの領域においては、病気の診断を自動化にAIを使う取り組みがされており、すでに実現に向かっている。Googleが買収したDeepMindは、ヨーロッパと北アメリカで最大の眼科医療機関であるMoorfieldsと協力し、50件超の眼病を医者に匹敵する精度で実現した。これは、Moorfieldsで治療された患者から得られた1万5000回分のOCTデータをAIに学習させ、開発された。

学習されたAIは、テストにおいて8人の医師と比較した結果、AIの診断結果は眼科医の診断結果と94%以上もの一致率を記録したとされている。このようにAI導入が近年医療分野でも検討されており、やがて人間の医師に代わりなる可能性が出てきた。

このように、人間が行う必要のない領域や、データを活用してより効率化をはかり、コストを下げるためにAIの活用は分野を問わず進んでいる。

ビジネスの成功のためのAI活用の共通点

リアルでのAIの活用が進んでいる企業の特徴として、いくつかあげられる。

まずは、IoTデバイスやロボットとAIの併用・投資である。リアル世界からデータを取得するためにも使う必要があるが、学習したAIを活用し、リアル世界に反映させるための仕組みも必要である。そのためにAIだけでなく、IoTデバイスやロボットへの投資も同時に行なっている。

次にデータの整備である。どの企業もAIを活用するため、目的に対して、どのようなデータを、どのように取得すればいいかについてしっかりと取り組んでいる。Amazon Goでは、入店時に専用のアプリを入れておく必要があるが、そのアプリではECなどでも使えるIDを使っている。これによりオンラインとリアルの両方の顧客データを統一的に管理でき、よりAIを活用しやすくなっている。

最後に、データを利活用し、AIを使っていこうという組織の土壌である。人口減少が進んでいき、またAmazonのような高いレベルの技術を持った企業が今後増えることを考えれば、これまでデータやAIを活用していなかった企業も活用せざるを得なくなる。企業の風土などを変えるためには非常に大きな努力を要するが、将来を見据え、データやAIを活用できる組織になるためには必要な努力だと、筆者は考える。

「人口減少&人口構造」の大変化時代を 生き延びるための3つのポイント

国立社会保障・人口問題研究所が2018年3月に発表した「日本の地域別将来推計人口」では、2020年~2030年までは東京都と沖縄をのぞく45都道府県で人口が減少し、2030年~2035年には47すべての都道府県で人口が減少するという、驚くべき「未来予想図」が発表されました。来るべき「人口減少時代」に起こる「消費の変化」を以下に整理してみましょう。

料理をあまりしない「単独世帯」の増加によって、おかず、つまみ、総菜などの「中食」売場を強化し、SM(スーパーマーケット)の夕食市場を奪おうとしているコンビニ(写真はファミリーマート)。

人口構造が大きく変わる2025年問題に備えよう

日本では、2025年に、2015年対比で約445万人も人口が減少します。一方、65歳以上の人口は約262万人も増加し、高齢化率が高まります。人口減少時代の変化の第1は、「高齢者の人口がマジョリティ」になることです。人口減少&人口構造が大きく変わる「2025年問題」は、流通業に関わる者にとっては深刻な問題です。

人口減少時代は、従来の「売り方」の延長線では、間違いなく売上が減少します。それを解決するための重点対策は、地域の人口構成に対応した「マイクロマーケティング」を実践することです。そのためには、従来の47都道府県といった大雑把な単位ではなくて、全国1,628の市区町村という小さな単位の人口構造を調査し、その人口構造に合わせて「棚割」を変化させることが大切です。

たとえば高齢化率の高い県であっても、市区町村別に見ると、若年層や子育て世代が多く住む地域は存在します。当然、高齢化率の高い市区町村とは、棚割が違っていて当然です。

もうひとつのマイクロマーケティングは、市区町村別の「地域の売れ筋」を確実に品揃えすることです。同じ東北でも、仙台市の売れ筋商品と、高齢化率の高い「村」の売れ筋商品は異なります。

人口減少時代におけるマイクロマーケティングとは、市区町村という小さな単位の地域ニーズにきめ細かく対応することで、「機会損失」を減らす活動のことです。人口減少時代は、機会損失対策こそ、最大の売上対策です。

「ファミリー世帯」が減り「単独世帯」が消費の中心になる

人口減少時代の2番目の変化は、「単独世帯が消費の中心」になることです。図で示したように、すでに2015年の調査でも、「単独世帯」の世帯構成比が32.6%ともっとも多い世帯になっています。結婚しない若者、独居老人の増加によって、この単独世帯の増加はさらに加速します。かつては、夫婦と子供からなる「ファミリー世帯」が消費の中心でしたが、これからの消費の中心は、間違いなく単独世帯になります。

単独世帯が増加することで、「SM(スーパーマーケット)で食材を一から買って料理する市場」が減少し、総菜やデリなどの「中食」市場が大きく成長します。最近のSMの新店では、中食市場の成長に対応して、入口すぐの場所に「総菜」を配置する店も増えています。

また、冒頭の写真のように、コンビニは、調理しない「単独世帯」の増加に対応して、夕食のおかず、つまみ、総菜などの「中食」売場を強化し、SMの夕食市場を奪おうとしています。

マスブランドが減りスモールマス市場が拡大する

「スモールマス」で構成されている米国のビール売場。

また、単独世帯が消費の中心になることで、消費のパーソナル化はさらに進むと思います。1品で高いシェアを獲得する「マスブランド」の市場が減り、「スモールマス」の市場が増えるでしょう。

写真の米国のビール売場では、かつては最大の面積を確保していた「バドワイザー」などのマスブランドの陳列量が大きく減少し、「IPA(ホップの多い苦みの強いビール)」「エールビール」などのスモールマス商品が売場の大半を占めています。

専業主婦が減り働く女性が増える

人口減少時代の第3の変化は、「専業主婦」が減り、「働く女性」が消費の中心になることです。図で示したように、45~49歳の労働率が78.0%、50~54歳の労働率も76.4%と高く、もはや専業主婦は化石のような存在なのかもしれませんね。

働く女性が増加することで、健康や美容に気をつかう女性は増えるでしょうから、いつまでも「美しくいたい」「健康でいたい」という人間の根源的な欲求に対応した、HBC(ヘルス&ビューティ・ケア)の市場はこれからも拡大していくでしょう。

また、時間のある専業主婦のための販促である期間限定の「ハイ&ロー販促」が減り、いつ行っても公平な価格で買える「EDLP(エブリデーロープライス)」が売り方の主流になっていくでしょう。

小売業は「変化対応業」です。「人口減少&人口構造」の未曾有の大変化に果敢に対応して、来るべき未来を切り拓いてもらいたいものです。

「ひと手間掛ける」をモットーに、ボトムアップ型組織で地域医療に貢献

首都圏を中心に165店を展開するトモズ、そのうち119店は調剤薬局を併設。洗練された店舗ロゴや店内デザインで女性からの支持も高い。プライベートブランドの「APS」は海外ブランドのようなパッケージでスキンケアとボディケアを中心に品揃えして、トモズのブランド力アップにも貢献。都市型店舗を中心に独自の路線を歩む同社の德廣英之氏に成長戦略や注力している点について聞いた。(月刊マーチャンダイジング2018年9月号より転載、聞き手:月刊マーチャンダイジング編集長 野間口司郎)

価格勝負ではなく、医療の一端を担うモデルを追求

─大手の寡占が進むドラッグストア(DgS)ですが、業界全体をどうご覧になっているでしょう。

德廣 海外の事例や小売業の歴史を見ても大手が規模を拡大させながら寡占化していくという流れは止められないと思います。DgSの戦いが実店舗同士で終わるのか、ネットも含めた空中戦になってくるのアマゾンがホールフーズを買収したように、ネット、リアル含め業態の垣根が低くなっています。

DgSをどう定義づけるかという問題もあると思います。ディスカウントを追求するのか、食品を強化するのか、私たちは創業以来一貫して医療の一端を担えるような小売業になろうという理念を掲げ、社会インフラになれるよう努力を重ねています。そこは一貫して今後もぶれることはありません。

─規模の大きな小売業に対して、仕入れ、調達のコストがかかるという実感や危機感はありますか。

德廣 それは当然あります。安さで勝負するなら規模が必要で、当社も決して規模を追わないわけではありません。しかし、一足飛びに何千億という売上規模を目指すのではなく、医療の一端を担うという強みで勝負したい、それが生き残りの方策だとおもっています。店舗の商品の8割が価格勝負ということなら、規模がないと競争には勝てません。しかし、そういう領域で勝負するわけではありません。バイヤーには仕入れる商品で迷ったら調剤につながる商品にしようと言っています。

─生き残りというお言葉が出ましたが、ウォルマートが日本事業から撤退するという報道があります。これを、どうご覧になるでしょう。小売業界に与える影響はあるでしょうか。

德廣 当社も西友系の朝日メディックスを統合した経緯もあって、西友の人材の優秀さはよく知っています。実情はわかりませんが、ウォルマートがアメリカで得意としている物流や仕入れの効率化でコストを下げ競争力のある売価でEDLPをやるというモデルが日本ではつくりにくかったのではないでしょうか。

もし西友が売りに出されるのなら、どの企業が買うかで日本の小売業への影響が決まるとおもいます。

人事制度を改革、教育部の新設で人材育成強化

─2016年6月の社長就任から2年が経ちました。現在もっとも社内で注力していることはなんでしょうか。

徳廣 人材育成、教育に力を入れています。社長に就任してから人事制度改革のプロジェクトを立ち上げ1年で新人事制度への移行ができるとおもったのですが、2年かかりました。

当社の企業理念はここに書いてある通りです(図表1)。トモズの求める人材は「1.明るく 2.素直で 3.謙虚で 4.思いやりのある」という4項目。企業理念、求める人材の全従業員への徹底は愚直にやり続けます。そのための人事制度改革です。

─4項目の中で特に重視するもの、難易度が高いものなどあるのでしょうか。

德廣 意識すれば、どれもそれほど難しいものではないでしょう。薬剤師なら元々人の健康に貢献したい、病気の人を助けたいという意識が高い。日々の仕事でそれがおろそかになっているようなら、そこを深掘りすれば「思いやり」につながります。バイヤーなら取引企業に対して高圧的になっていないか、今一度襟を正せば「謙虚」になれる。新入社員は「素直」でしょうし。役割や状況によって重要なもの、難易度は変わってきます。どれも絶対できませんという要素ではありません。トモズに限らず、こういう人材がいれば会社はよくなります。

希望に添ったキャリアを選択、多様な働き方を実現させる

─人事制度改革の具体的な内容を教えてください。

德廣 今年4月から制度を変えました。一番大きな変更は教育部という新しい部署をつくったことです。知識や技術の教育だけでなく社員のケアを人事部まかせにせず教育部が行う。どういう教育、育成方法がよいか模索しているところです。

当社はいくつかの企業と合併を繰り返しています。あまり細かくルールを決めると元の企業によって合う合わないが出てくるので、これまでは比較的メッシュの粗い人事制度でした。今回の改革で細かいところまで制度化しました。

また、以前はみんなが店長、ブロック長を目指して、その役職に就いたら給与はいくら、就けなかったらここまでといったように、昇進を前提にした選択肢の少ない一本道でした。最近では店長になりたくないという人もいるし、化粧品のカウンセリングが好きで技術も高い、ずっとその職でいきたいという人もいます。そういう希望にも添えるようにしました。

また、店長経験者で育児に忙しいのでパートに戻りたいという人がいれば、一度戻って子育てが一段落した後で店長やバイヤーなど元の職に戻ることもできます。希望に添ったキャリアを歩めるような制度に変えました。

定着率を上げることでコスト削減、売上アップを狙う

德廣 「働き方改革」が叫ばれる以前に小売業では定着率が上がらないという問題が顕在化していました。勤務年数が1年の人と10年の人では知識や販売力、企業文化の理解度が全然違います。1年で辞められたら採用コストがかかる、経験は蓄積されないなど、デメリットが大きい。定着率を上げ従業員の価値を上げるための改革です。

定年制度も見直し中です。これまでのように60才になったら定年、あるいは給与を下げて再雇用ということではなく、パフォーマンスがそのままで本人が希望するなら60才を超えても同じ待遇で店長を続けてもらいます。現在、そういう店長が何人かいます。まだ制度的に変えるまでには至っていませんが、事例が増えて会社として当然のことになれば正式に制度を変えるつもりです。

この4月から多様な働き方を認める制度に改めたら2億6,000万円のコスト増になりました。この数字は社内で公表していてこれをカバーするために「どうする?」と全社員に呼びかけています。みんなでアイデアを出し合って5億円くらい利益を上げれば逆に給料が増える。そういう発想をしています。利益が上がらなかったら、どこかで考えないといけない。

長い目で見れば定着率が上がれば採用コストが削減できて、従業員の販売力も上がって売上増になる。会社が大きくなってからの改革では10億円かかったかもしれない。ここ1、2年は我慢のしどころと腹を括っています。

─いまは我慢のしどころですが、制度改革が軌道に乗ればES(従業員満足)が向上し、それがCS(顧客満足)にも波及してすべての歯車が好転し出す、そういう状況になりそうですか。

德廣 そうなることを願っていますが、こればっかりは時間が経たないとわからない。4月から始めたばかりです。会社としての主要な数字は店長とも共有しています。改革のためのコストで厳しい状況だけどみんなで声を掛け合って、みんなが納得できる制度を一緒につくろうと呼び掛けています。

納得できる制度というのは、再チャレンジできる制度でもあります。店長、ブロック長をやったが、うまくいかなかった。それなら、一度退いてまたチャレンジすればいいのです。男性の育児も支援したい、店長やっているから育児はできませんというふうにはしたくありません。

どうすれば、長く安心して働けるか、その方法を模索しています。

「主体的に挑戦」ベストを尽くせば失敗の責任は問わない

─どの小売業もアマゾンが競合になってきています。実店舗がECと差別化するためにはカウンセリングが重要になりますが強化策などありますか。

德廣 新設した教育部が担当して強化を図っています。部長は昨年まで店舗運営部長で現場、会社の歴史を知り尽くしています。シニアマネジャーも店舗運営部長、商品部長を歴任した人物です。2人とも池尻大橋の1号店の店長経験者です。

ECに勝つためには「人」しかありません。それ以外は全部ECが低コストでできます。できるところは機械化、自動化で効率を上げますが、人にしかできない部分にこだわる。泥臭く人を前に出すことでECや他企業との差別化を図ります。

会議などでよく言うのは「ひと手間掛ける」ということです。売場づくりでも接客でも手間を惜しまず、もうひと手間掛ける。お客さまが何を望んでいるか、どういう売場を好むのか、もう一歩深く考えて、手間を掛ける。

今期のスローガンは「having ago」、日本語でいうとサントリー創業者の鳥井信治郎さんの有名な言葉「やってみなはれ」に近い、挑戦しなさいという意味です。サブタイトルに「主体的に挑戦」と入れています。主体的にという部分が大事です。ですから、社長である私のひと手間は主体性を引き出すために我慢することです。

周りからは青臭いといわれますが、失敗を恐れずに挑戦することで人も会社も成長します。失敗を恐れるなというのは簡単ですが、実際に失敗したとき、社長からコテンパンにやられるなら誰も挑戦しないでしょう。十分な準備もなく挑戦だけして失敗を繰り返したなら叱りますが、やることをやってベストを尽くして失敗したなら何もいいません。店長やブロック長が予算に届かずに、うなだれて「すいません」と言ったりします。すいませんと言うな、その時間がもったいない、やることをやったのはわかっている。どうすればそれを取り返せるかそれを考えようと私は言います。

推奨販売のノルマ撤廃、結果ではなく過程を重視する

─従業員の方が何かに挑戦するときに、それを許可する基準などあるのでしょうか。

德廣 誰が聞いてもやめたほうがいいと思うような案件なら別ですが、何かをやりたいといってきたら基本OKです。ルールも変えていい、そのマニュアルに意味がないと思えばやめてもいいと言っています。

私がたばこの販売をやめようと提案したときも店長たちからの猛反対に合いました。しかし、地域医療の一端を担うといいながら、医学的に健康によくないと証明されているたばこの販売をするのは矛盾している。タバコがないと予算に行かないというなら、それは仕方ない。他で補おうと説明したらわかってくれました。社長発案だから通ったということではなく、ある意味極端な提案でも、深い議論の結果認められるという事例です。

重点商品を決めて、推奨販売もやっています。今期からノルマはありません。各自どれくらい販売するかを自己申告してもらって、それを集計するという形で予算を組みました。結果を求めるのではなく、過程の努力をしてほしいです。ホームランを何本打つか、それは相手があることなので自分では決められない。しかし、素振りを毎日10回するという目標を立てれば、それは実行できます。それをやってくれとお願いをしています。

私に対して意見をいう従業員も増えたし、久しぶりに来社した方が、以前に比べて会社が活気づいたと言われるとうれしいですね。

チャレンジ精神があって活気があるボトムアップ型の組織を目指しています。当社ではお互い名前を呼ぶとき○○さんと呼ぶように徹底しています。私も社長と呼ばれたことがない、「徳廣さん」と呼ばれています。これも貴重な企業文化でこれからも継続させます。

─本日はありがとうございました。

<トモズのプライベートブランドAPS>

洗練されたデザイン、「質が高いこと」「使い心地が良いこと」 「流行に流されないベーシックなものであること」がコンセプト

<DgS初「ポンタ」を導入>

トモズでは三菱商事系のロイヤリティマーケティングが運営する 共通ポイントサービス「ポンタ」を採用。DgSでは初となる。トモズでは200円購入で1ポイント獲得、1ポイント=1円として使えるようにする。2018年8月1日からサービス開始。