AIリテールイノベーション

リアルでAIを活用できる企業の共通点とは?

第3回各業界に広がるリアルでのAIの適用

今回の記事では、広く小売に限らずどのようなAIの活用事例があるのかを紹介して行き、どのようなAIの活用事例があるのか、またその活用事例における共通点を伝えることで、自社のAI活用に繋がる示唆を得てもらう。

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AIの技術を使って成功を納めている象徴的な例の一つとして、本連載記事における第一回の記事で紹介したAmazon Goがある。Amazon Goでは、店内に無数のカメラやセンサーをつけ、AIを使用することで、店内のお客様の行動解析や決済の無人化を実現している。

無人店舗のサービスを提供する会社については、Amazon Go以外にも出てきている。こちらの記事にあるように、Inokyoなどがその例である。新しい店舗の形は、テクノロジーの進化によって現実のものとなってきているが、無人化の影響は単純にレジを打つ必要なくなるだけではない。

レジ打ちを行なっていた人がお客様の満足度を上げるためのアクションを取ることができることはもちろん、お客様の店内における行動データを全てとることができる。

店に入ってからどこに行ったか、どこで立ち止まり、何の商品を手に取り、そして退店したか、そういった様々なデータを取得することができる。また、その店舗内の行動データだけではなく、ECの購買情報と合わせて管理できるようになっている。

これらのデータを活用して、店内のレイアウトを変えたり、商品企画に生かしたりすることができる。またECなどにおいても、商品のレコメンドなどに活用することができ、リアルとオンラインの両方で、Amazonの包囲網がより大きくなる。

業種を問わないリアルでのAIの活用事例

このようにAmazon Goは未来の小売業にインパクトを与えるサービスの事例としてあげられる。特にAmazon Goに見られるような、インターネットサービス以外の、「リアル」でのAI活用が近年凄まじい勢いで進んでおり、このようなAIを活用した成功事例は、大小はあるものの、業種を問わず出ている。

例えば、製造業の現場でもAIの活用は進んでいる。自動車部品工場の現場では、独自のAIを導入し、検品作業を効率化している企業もある。しかし、自動車部品工場含め、製造業で作る製品は品質が高く、製造される部品の中からは非常に少ない数の不良品しかでない。

本連載における第二回の記事で紹介したように、データがなければ基本的にはAIを学習させることはできない。そのため、異常品が少ない環境では、その分類を行うためのAIを作成することは非常に困難である。この問題に取り組むために、株式会社ABEJAと武蔵精密工業株式会社はDeep Learningを活用し、正常品のみから異常品を検知できるAIを開発するなども行なっている。

物流の分野でも、AIの活用の動きが進んでいる。日本経済新聞によると、日用品卸大手のあらたは2018年6月に約30億円を投じて鹿児島市内に商品管理にAIを活用した物流センターを稼働させている。ピッキング(仕分け)作業の一部を自動化して作業効率を高める。国内流通業の人手不足が進んでいく中、各物流拠点のシステム投資と自動化を加速している。

また医療・バイオの領域においては、病気の診断を自動化にAIを使う取り組みがされており、すでに実現に向かっている。Googleが買収したDeepMindは、ヨーロッパと北アメリカで最大の眼科医療機関であるMoorfieldsと協力し、50件超の眼病を医者に匹敵する精度で実現した。これは、Moorfieldsで治療された患者から得られた1万5000回分のOCTデータをAIに学習させ、開発された。

学習されたAIは、テストにおいて8人の医師と比較した結果、AIの診断結果は眼科医の診断結果と94%以上もの一致率を記録したとされている。このようにAI導入が近年医療分野でも検討されており、やがて人間の医師に代わりなる可能性が出てきた。

このように、人間が行う必要のない領域や、データを活用してより効率化をはかり、コストを下げるためにAIの活用は分野を問わず進んでいる。

ビジネスの成功のためのAI活用の共通点

リアルでのAIの活用が進んでいる企業の特徴として、いくつかあげられる。

まずは、IoTデバイスやロボットとAIの併用・投資である。リアル世界からデータを取得するためにも使う必要があるが、学習したAIを活用し、リアル世界に反映させるための仕組みも必要である。そのためにAIだけでなく、IoTデバイスやロボットへの投資も同時に行なっている。

次にデータの整備である。どの企業もAIを活用するため、目的に対して、どのようなデータを、どのように取得すればいいかについてしっかりと取り組んでいる。Amazon Goでは、入店時に専用のアプリを入れておく必要があるが、そのアプリではECなどでも使えるIDを使っている。これによりオンラインとリアルの両方の顧客データを統一的に管理でき、よりAIを活用しやすくなっている。

最後に、データを利活用し、AIを使っていこうという組織の土壌である。人口減少が進んでいき、またAmazonのような高いレベルの技術を持った企業が今後増えることを考えれば、これまでデータやAIを活用していなかった企業も活用せざるを得なくなる。企業の風土などを変えるためには非常に大きな努力を要するが、将来を見据え、データやAIを活用できる組織になるためには必要な努力だと、筆者は考える。

著者プロフィール

伊藤 久之
伊藤 久之イトウヒサユキ

株式会社リクルートエージェントを経て、JTBグループにて新規事業立ち上げに従事。 その後、サービス立ち上げ期のSaaSベンチャーにてセールス、CS、サービス企画など幅広く担当。2016年株式会社ABEJA入社。 ABEJAでは、ABEJA Insight for Retailを基盤にした次世代の小売経営を推進している。グロービス経営大学院卒業(MBA)。JDLA Deep Learning for GENERAL 2017。