Edge(エッジ)と呼んでいるクローガー(米国最大のスーパーマーケット)の電子棚札。横長の棚がサイネージになっているので、動画を流したり、棚札のデザインを変更したり、棚札を自由に移動できる。
人口構成、競合状況で「棚割」は個別化する
IoT(Internet of Things)時代とは、すべてのモノやビッグデータがインターネットにつながる社会のことです。IoT社会の到来によって、小売業の「売り方」や「作業」は劇的に変化します。「売り方」の個別化は、以下の3つに分けることができます。
(1)棚割の個別化
(2)価格の個別化
(3)販促・接客の個別化
第1は「棚割」の個別化です。深刻な人口減少時代に突入する日本の小売業は、「県」単位の大雑把なマーケティングではなくて、市区町村別の小さなエリア単位の人口構成を分析し、その地域に適した棚割、売場づくり、売り方を実践する「マイクロマーケティング」に挑戦することが重要です。逆説的にいえば、県単位の棚割、売り方のままでは、市区町村のニーズに合わず、大きな機会損失を起こしているといっていいと思います。
しかし、従来の紙の棚札では、棚割を個別化すると、膨大な作業量が発生しますので、棚割の個別化は現実的ではありませんでした。従来のチェーンストアは、棚割の90%は標準化された棚割で統一し、残り10%を地域に合わせて変更する程度の個店対応しかできませんでした。
しかし、巻頭のクローガーの電子棚札のように、横長の棚をサイネージ化すれば、人的作業をまったく伴わずに、棚札を自由に移動することができます。その店の人口構成、人種構成、地域の特性、競合状況に応じて、棚割を個別化する時代がこれから到来します。標準化された棚割によって失われた機会損失を、個別化によってきめ細かく拾って売上を増やすことが可能になります。
ダイナミックプライシングと販促・接客の個別化
第2は、価格の個別化です。「ダイナミックプライシング」という言葉が最近使われるようになりました。需要と供給、競合状況に応じて、臨機応変に売価を変動させる方法のことです。これも、従来の紙の棚札では、膨大な売価変更作業が伴い、ダイナミックプライシングは現実的な手法ではありませんでしたが、電子棚札の普及が進めば、それが可能になります。しかも、本部で一括して変更し、管理することもできます。
第3は、販促・接客の個別化です。ID-POSによる購買データ、SNSの投稿データなどの「ビッグデータ」を活用して、その個人に最適の販促や接客を行う時代が到来します。チラシやポイント10倍などの不特定多数の販促が廃れ、ワントゥーワンマーケテイングが主流になります。「あなたに最適な販促」をスマホに送る販促の個別化時代が到来します。
SNSの投稿というビッグデータを活用した販促も始まっています。たとえば大手自動車メーカーは、「子供が生まれました」というSNSの投稿者に対して、ミニバンの案内をピンポイントで送る販促を実施しています。子供がいない時はセダンに乗っていた家族が、ミニバンに乗り換えるタイミングが出産だからです。不特定多数の販促よりも、大きな効果を上げています。
マスメディアやSNSなど、どのようなメディアに触れ、購買に至ったのかという幅広いデータを活用した顧客管理のことを「CXP(Customer Experience Management)」と呼びます。従来のID-POSを活用した固定客づくりのことを「CRM(Customer Relationship Management)」と言いますが、それを深化させた概念がCXPです。いずれにしても、来年からは「オンライン」と「リアル」の買物体験の境界が、どんどん曖昧になる10年が始まります。
良いお年をお迎えください。