バブル崩壊から始まった「平成」小売業の30年間を振り返る

平成の30年間は、小売・流通業にとっては大きな変動の時代でした。小売業の主役が交代し、IT革命が起きた時代でした。令和元年を迎えるにあたって、平成小売業の栄枯盛衰の総括をしてみましょう。

平成初期の大型投資はすべて失敗に終わった

ついに令和元年が始まりました。令和時代の小売・流通業は、どんな変化を遂げるのでしょうか? 小売・流通業は、「変化対応業」です。変化の第一は「消費者」の購買行動の変化です。変化の第二は、競合状況や法律改正などの「競争環境」の変化です。

平成の30年間を振り返っても、「消費者」と「競争環境」という2つの変化に対応できず、衰退していった業態や企業はたくさんあります。一方、平成時代に飛躍を遂げた小売業もあります。

平成は「バブル経済」の絶頂期からスタートしました。平成元年(1989年)の4月30日に誕生した「マイカル本牧(現・イオン本牧)」は、まさにバブル時代を象徴する大型ショッピングセンター(SC)でした。総投資額400億円、初年度年商目標320億円。投資回収期間100年といわれた無謀な投資でした。

関西のスーパーマーケット(SM)だったニチイは、マイカル本牧開店の前年に「マイカル宣言」を行い、社名・店名もニチイからマイカルに変更し、「質販店」なる疑似デパートへの投資に大きく舵を切りました。

マイカルのような戦後成長した小売業の経営は、「土地本位制」が基本でした。土地は上昇し続けるものという「土地神話」によって、ダイエーやマイカルなどの大手小売業は土地を購入し、それを担保に借入を行い、巨大な投資を行いました。

マイカル本牧が開店する5年前の昭和59年(1984年)にはダイエーが「プランタン銀座」(現在は閉店)を開店しました。これもまた土地本位制に基づいた投資回収期間100年という無謀なプロジェクトでした。

また、長崎屋(現・ドン・キホーテ)は平成4年(1992年)、北海道の苫小牧に全天候型の遊園地併設型のSCを開店しました(平成9年閉店)。開店披露の記者会見で、SMの隣の遊園地の中をジェットコースターが走っているのを目撃して、「大根を買ったついでにジェットコースターに乗る客がいるのだろうか」と呆然としたことを、今でも鮮明に覚えています。

その後、バブルの終焉に合わせるように、ダイエー、マイカル、長崎屋は経営破綻しました。まさに平成の小売業界は、バブル崩壊から始まったわけです。

ROA主義のDgSは平成に急成長した

バブル崩壊によって、小売業の経営は、「売上至上主義」から「ROA(総資産回転率×経常利益率)主義」に大きく転換していきました。平成の始まりの頃に勃興期が始まったドラッグストア(DgS)は、売上や市場が右肩上がりではなくなった時代に大量出店をスタートしており、投資回収の速さを重視した経営を行いました。企業の収益性をもっとも効果的に示す経営指標であるROAが、他の業態と比較して高いことが、平成時代に成長したDgSの経営の特徴です(図表1参照)。ROAの目安は10%以上であり、上場DgS14社中、9社が10%を超えています。

一方、バブル時代に驚くべき成長を遂げた代表企業が「ユニクロ」です。ユニクロは、バブル崩壊後の平成9年(1997年)頃からPB(プライベートブランド)の売上比率を一挙に高め、製造直売小売業(SPA)に業態転換したことで、大きく飛躍しました。月刊MD創刊(平成9年)の翌年の平成10年に発売された「フリース」は、衣料は2~3万枚も売れればヒットといわれた時代に、200万枚も販売しました。翌年は800万枚のメガヒットを記録し、日本中がフリースブームに沸いたのを今でも覚えています。低価格&高品質のユニクロの快進撃は、バブル崩壊、デフレ時代の申し子であったと思います。

バブル崩壊後に急成長した、ユニクロ、ニトリのような専門業態、コンビニ、DgSのような小商圏業態は、GMSといわれた「総合スーパー」の売上を、薄皮を剥がすように奪っていきました。そして、昭和時代の小売業の王様「総合スーパー」は衰退し、平成時代は小売業の主役が明確に交代した時代でもありました。

デバイス革命、SNS革命、IT化が進んだ平成後期

そして、平成の後半に起きた大きな変化は、「デバイス革命」「SNS革命」です。スマホで簡単に商品を購入できるようになり、消費者の購買行動は激変し、アマゾンなどの「オンライン小売業」が急成長しました。

この変化は、驚くほど急激でした。デバイス革命を牽引した初代「iPhone」が登場したのは平成19年(2007年)と、わずか10年ちょっと前の出来事です。また、SNS革命を牽引したfacebook、twitter、Youtube、Gmail、Instagramなどのサービスは、平成22年(2010年)から急速に普及したものであり、平成時代の前半には存在すらしていませんでした。そう考えると、平成時代の小売・流通業は、驚くべきスピードで変化していったことがわかります。

いよいよ新しい令和時代が始まります。小売業の主役が交代した平成時代と同様に、令和時代も主役交代、新業態の台頭が起こるのでしょぅか? 現在、平成時代の申し子であるコンビニの出店が急減速し、DgSの収益性にも陰りが出始めています。

いずれにしても、過去の成功体験にとらわれず、「消費者の購買行動の変化」「競争環境の変化」の2つの変化に素直に対応することだけが、令和時代の活路を拓く原理原則であるとおもいます。

[美白ケアの売り方]最大の山となる3月から7月、売場展開の継続でリピーターを獲得

季節商品は「シーズンファーストバイ(=季節商品の初回購入)」の獲得が命!定番商品でもニーズの高まりに合わせて在庫を厚くするべき時期があります。カテゴリーごとに、商品の仕掛け時期やピークを把握して、タイムリーな売場づくりに役立てましょう。

[美白スキンケア 季節指数] ※インテージSRI /カテゴリー:美白スキンケア市場/期間:2014年1月〜2018年12月/指標:販売金額ベースの季節指数(5ヵ年)/グラフの縦軸:5ヵ年の月別販売金額の平均を1とする

[概況]3,000億円の成長市場、スキンケアの構成比が8割

美白ケア市場は、2018年度で約3,000億円まで拡大する見込みで、10年前の2008年と比較すると、伸長率が約120%で非常に伸びているカテゴリーだ。そして、市場のうちスキンケアが80%、ベースメイクが15%、その他ボディケアが5%と、スキンケアがその多くを占めている。金額にするとスキンケアが2,500億円を占める見込みで、前年比106%で推移している。

スキンケアのうち構成比が高いのが美容液(3割)と化粧水(2割)で、2アイテムで半分以上を占めている。昨年度は、ONE BY KOSEシリーズから「メラノショットホワイト」の発売、資生堂「HAKU」のリニューアルなどカウンセリング化粧品で大きな動きがあり、美白美容液が好調だった。

市場拡大の背景にあるのは、2000年代から続く白肌ブームだ。スマートフォンなどでは美白補正アプリが人気となっているほか、肌のトーンをアップさせるクリームや、美白成分の入ったシートマスクなどの国内外のコスメも流行しており、美容業界の流れは引き続き美白傾向にある。

さらに、紫外線による皮膚がんを予防する意識が高まっていることも市場を後押ししており、今後も成長が見込まれる。

2019年は、先述の「HAKU」から高機能美白ファンデーションが発売されるほか、ロート製薬「Obagi」からは最高濃度のビタミンCを配合した美容液「Obagi C25セラム NEO」が発売される予定だ。安全・安心を確保したうえで、より高機能なアイテムが求められているといえる。

[ポイント]3月と7月に売上の山。購入から1年は継続使用の傾向

美白ケアカテゴリーは、大きく分けて年間に2回、売上のピークがある。最大のピークは、紫外線が増え始めてくる3月ころ、第二のピークは紫外線量が最大になる5月から7月だ。美白化粧品を購入するお客の特徴として、一度購入した商品を1年間は使い続ける傾向がある。お客も使ってすぐにシミ、そばかすが薄くなったり、消えたりするとは考えておらず、継続使用によって効果が生まれることを理解している。そのため、第二の山である5月から7月はリピート購入が期待できる。

第一の山に向けて2月に準備をした後に7月まで継続して販売を強化する形が、購買チャンスを逃さず、リピーターを確実に獲得するためにもっとも有効で理想的だ。そのほかにも、7月、12月のボーナス景気で売上の山が生まれる。

メーカー側も、増量キャンペーンや、「●本買ったら1本無料プレゼント」などの購入特典を用意することが多い。販売店でもPOPを活用するなど積極的に情報発信を行い、製販協働で売上アップに生かしたい。

あるメーカーが行った一般消費者調査によると、シミ、そばかす、くすみは、20代から50代の幅広い年代の悩みで、とくに40代前半から50代前半の肌悩みのトップにシミ、そばかすが挙げられている。ひとくちに美白といっても、世代によって肌悩みは異なる。20~30代はシミやそばかすをつくりたくないと予防する人が多く、40~50代はできてしまったシミをなくしたい人が多い。出産を機に、女性ホルモンが関係しているといわれるシミの一種、肝かんぱん斑が出てきて、慌てて美白ケアを始めるケースもある。それぞれの美白ニーズを把握したうえで、売場での訴求を行いたい。

〈 関連商品 〉
メラノショットホワイト
(販売名 OBK 薬用美白美容液 40mℓ)
医薬部外品

[売場提案]メカニズムをわかりやすく解説、情報ツールの活用が肝

売り方に関しては、商品のキャッチコピーだけでなく、この商品を使うとどういうメリットがあるのかをわかりやすく伝えることが、購買につなげるポイントとなる。

シミ、そばかすに対して深い悩みがあるユーザーは、インターネットなどで事前に情報を仕入れている場合も多い。各社の多様な成分やメカニズムを説明するPOPなど宣伝ツールを有効に活用することで、お客の納得度を上げ、選びやすさをサポートしよう。エンド陳列などでお客の目の届くところに配置することも大切だ。

2019年は、3月に資生堂「HAKU」から「薬用 美白美容液ファンデ」が発売されたほか、5月にポーラから新規美白有効成分を使った新商品の発売が発表されている。発売時期には品出しの遅れがないよう、売場をつくり込みたい。

美白ケアのプロモーション売場例

[敏感肌関連商材の売り方]冬の乾燥や、春先の花粉でお肌は敏感状態。冬の仕掛けは9月スタート

季節商品は「シーズンファーストバイ(=季節商品の初回購入)」の獲得が命!定番商品でもニーズの高まりに合わせて在庫を厚くするべき時期があります。カテゴリーごとに、商品の仕掛け時期やピークを把握して、タイムリーな売場づくりに役立てましょう。

インテージSRIカテゴリー:敏感肌基礎化粧品市場/期間:2015年1月〜2017年12月/指標:販売金額ベース季節指数(3ヵ年)/グラフの縦軸:3ヵ年の月別販売金額の平均を1とする

[概況]市場規模は900億円に ボディ・ヘアケア商品も増

現在、敏感肌市場は約900億円といわれるほどにまで拡大。ヘアケアやボディケア用商品も増加傾向にあるが、敏感肌市場でもっとも大きな構成比を占めるのがスキンケアだ。

敏感肌は、肌のバリア機能が低下した状態を指す。エアコンや紫外線などの外的要因で起こる「乾燥性敏感肌」、生活習慣の乱れや腸内環境悪化など内的要因によって起こる「ライフスタイル敏感肌」、季節の変わり目など一時的にニキビや吹き出物が出る「敏感ニキビ」といった、さまざまな原因とタイプがある。最近では、春先の花粉も肌荒れの一因となることから、花粉による肌の不調対策を訴求する商品も出ている。

敏感肌を自覚する女性は2人に1人ともいわれており、年代を問わないニーズの高まりに応える形で敏感肌をターゲットにしたブランドや新商品も次々に登場し、多様性が生まれている。

市場の拡大とともに、「敏感肌+α」の機能性(ニキビケア、エイジングケア)を持つアイテムやラインが増え、これまで敏感肌用スキンケアを使っていなかった生活者にも、安心できる高機能なスキンケアとして浸透していった形だ。

[ポイント]9月中旬に、冬場の仕掛けを。花粉関連の肌荒れ対策は1月下旬

敏感肌用スキンケアは、そこまで大きな季節変動は見られないが、多くの女性が敏感肌を感じるのは、季節の変わり目といわれる。売上が伸び始める時期は、大きく分けて2つ。

ひとつ目は、冬から春にかけての時期だ。夏が終わり、気温が下がり、空気の乾燥が進んでいく10月ころから需要が増え、12月にピークを迎えているのがわかる。

とくに、東京をはじめとする大都市圏の年間平均湿度は低下傾向にある。寒い冬には欠かせない暖房の使用も、肌の水分が奪われる要因のひとつとなる。乾燥が原因となる冬場の敏感肌への仕掛けは9月中旬を目安に行いたい。

その次のピークとなるのが3月から5月にかけての時期だ。冬の入りとは逆に、急激な気温の上昇や紫外線への対応に肌の代謝が追い付かず、バランスを崩すケースが多く見られる。そこに花粉をはじめ偏西風に乗った黄砂、PM2.5などアレルギーを引き起こす原因物質が飛来することで、肌荒れを起こす人も多く、敏感肌用スキンケアの売上も伸長傾向にある。

春先の揺らぎやすい敏感肌を自覚する生活者に向けては、1月下旬までには売場を整えよう。切り替えやすいクレンジングや洗顔料、ふだんのお手入れにプラスするだけの美容液などを入り口に、トライアルを訴求したい。

一方で、日本製の「安全・安心」を体現する最たる商品群でもあるため、インバウンド需要も比較的大きい。最近は、インバウンドでもスキンケアアイテムのニーズが高いという。2月の春節や4月のお花見シーズンなど、アジア圏の訪日外国人の集客が見込まれる。とくに都市圏のドラッグストアでは、在庫を厚くして臨みたい。

〈 関連商品 〉

アルージェ トラベルリペア リキッド

[売場提案]定番に「敏感肌」コーナー展開 花粉時期には重点的に仕掛けを

第一に、化粧品の定番売場内での、敏感肌ブランドを集めたコーナーづくりはマスト。そのうえで、肌が不調を感じやすい時期やタイミングに合わせて、医薬品やサプリメント売場、ボディケア売場などと連携し、適宜「敏感肌」訴求を試みたい。

春先は花粉のほかにも、日照時間が長くなり、日差しも強くなる季節。UVケアのニーズが高まるが、揺らぎやすい肌にとってはUV剤そのものが刺激になることもある。安全・安心素材の敏感肌用のUVケアや、角層の状態を整え、健康な肌に導くスキンケアの重要性を、改めて情報発信するのもよい。

パーソナルなタイミングとしては、肌が荒れやすい生理時期、肌質が変わる産前産後の女性に向けたトライアル訴求も有効だ。生理用品売場や肌荒れ対策ドリンク剤、自然派洗剤とのクロスマーチャンダイジングもよい。

[花粉症対策売場での展開例]
※トライアルセット、プラスワン商品などを展開

[デオドラント用品の売り方]シート好調で7月に最大、剤型別にピークの山あり

季節商品は「シーズンファーストバイ(=季節商品の初回購入)」の獲得が命!定番商品でもニーズの高まりに合わせて在庫を厚くするべき時期があります。カテゴリーごとに、商品の仕掛け時期やピークを把握して、タイムリーな売場づくりに役立てましょう。

[制汗剤市場 季節指数・販売構成比推移]

[概況]市場規模417億円。男女ともにシートが好調

2018年1~9月のデオドラント市場は約420億円。そのうち女性の市場は約290億円、男性の市場は約125億円だ。同時期での女性の市場は前年比約4%アップ、男性の市場は前年比約10%アップしている。同カテゴリーの剤型には、シート、スティック、ロールオン、パウダースプレー、クリーム、ミスト、ウォーターがあり、温度の変化や季節の流れの中で、お客の意識や購入の流れが変わってくる。

剤型別の利用目的は、スティックが汗も臭いもケアしたい人、ロールオンは汗と汗じみを抑えたいニーズに応えている。スプレーは制汗・消臭、シートがリフレッシュの目的で購入される傾向がある。

男女別で見ると、女性向け市場では、一時シュリンクしていたスプレーが伸長。ロールオンはやや縮小気味でシートの売上が拡大。特筆すべきは男性向け市場で、市場自体が圧倒的に伸びている。

男性は女性に比べるとトレンドがワンテンポ遅く、平均的に30代からビジネスシーンで使い始める向きが強い。使用するきっかけは、加齢に伴う体臭ケアだ。そのため、メーカー各社が20代から30代に向けてのプロモーションを行っている。男性の場合、ロールオンも好調だが、売上構成比でもっとも大きく占めるのはシートとなっている。

また、カテゴリー拡大の施策としては、未使用者を取り込む「ストレス臭」ケアなどの新しい価値観や、フットクリームなどアドオンにつながるケア部位の提案が見られる。

[売り方のポイント]2、3月が立ち上げ期 剤形の山に合わせ強弱を

デオドラント市場の売上の山は剤型ごとに異なり、気温の上昇とともに変動していく。日焼け止めが日差しの強さを感じる季節に売上を伸ばすのに対し、制汗剤は湿度を感じる時期に強く反応するのも特徴だ。

とはいえ、販売構成比の高いシートの売上によって制汗剤カテゴリー全体のピークは7月にある。例年、梅雨明け直後の海の日付近に大きな山を迎えることが多いが、スプレーは年間を通して安定的に売れており、ロールオン、スティックに関しては冬から春にかけて売れる傾向にある。

それを踏まえて、2、3月を立ち上げ期、4、5月を拡大期、6~8月を最盛期として展開を図りたい。1、2月はまだ冬期で寒いが、気温が高くなる前に売場を立ち上げれば機会損失にはならない。シートの売上が伸びる4月・5月の連休も狙い目だ。

ロールオンやシートは汗に対して比較的軽い悩みのお客向け。匂い意識が高い人には、スプレーを勧めたい。打ち出しの時期は2月後半からが適している。

〈 関連商品 〉

エージーデオ24
パウダースプレー(無香性)180g(医薬部外品)
※ストレス臭に着目した新製品

[売場提案]ライトユーザーや未使用者に目立つ場所で山積み

汗じみや匂いに悩み、積極的に制汗剤で対策をしたいお客は、男女それぞれの定番売場に向かうため、悩み別の訴求や情報発信、テスターなど、売場のつくり込みが必要となる。

一方、プロモーション売場では、悩みが浅いライトユーザーや、デオドラント未使用者にどれだけ訴求できるか、気付きを与えられるかが、売場づくりにおける大事なポイントになる。

気温が上昇し、お客が汗を気にするようになってくるタイミングで、店頭やレジ横など、目立つところに制汗シートを山積みすることで、ついで買いにつながる可能性も高い。新規ユーザー獲得には、新しい価値観を提供する商品の陳列も効果的だ。ニュースやSNSなどでも話題となり、注目度の高い「ストレス臭」を防ぐケア商品も発売されている。季節を問わず、使用部位も脇だけに限らないため、使用量も増え商品の回転率も高まる。いままでニオイ対策を何もしていなかった男性のトライアルも期待できるだろう。

新規獲得のためのプロモーション展開例

男性も3割近くが気にしている紫外線対策、購入の決め手は?

4月18日は、「よ(4)い(1)おは(8)だ」(よいお肌)と読む語呂合わせから、よいお肌の日と制定されています(株式会社明治制定)。今回は紫外線(UV)対策や、日焼け止めの買い方について、調査をします。

女性は約半数が通年で対策

まず、当社自主調査で、20代~60代の男女(N=3,867名)に、紫外線(UV)対策をしている時期について分析します。

紫外線(UV)対策をしている時期を男女別でみると、女性では「一年を通して」が46.8%、「紫外線が気になる季節」が38.0%となりました。また、男性では「紫外線が気になる季節」が18.3%、「一年を通して」の7.2%と合わせると、3割近くの男性が紫外線(UV)対策をしていることがわかります。

次からは、紫外線(UV)対策をしている回答した方(N=2,298名男女)を対象に、調査をします。

まず、紫外線(UV)対策をする理由は、「しみ・そばかす予防」が82.8%でもっとも多く、「しわ・たるみの予防」の37.5%、「白い肌を保つため」の31.9%を大きく引き離す結果となります。

女性のみ年代別で理由をみると、(図表2-2)全年代で「しみ・そばかす予防」が最多となり8割を超えます。

年代によって変化する紫外線対策のニーズ

年代別での特徴は、20代~30代の若い女性は「白い肌を保つため」が次に挙げられ、20代が69.9%、30代が46.9%となります。また、40代以上になると、「しわ・たるみの予防」が次に挙げられ、4割を超えています。また、年代が上がるにつれて、「皮膚がんの予防」や「眼の病気の予防」など、病気のリスクを避けるために紫外線対策を行う方が増えていることがわかります。

次に、紫外線(UV)対策に効果的な「日焼け止め」について、購入したことがある商品タイプや、購入時に重視するポイントなどを調査します。

紫外線(UV)対策をしている方の「日焼け止め」の購入経験は、女性ではほとんどの方の購入経験があり、男性でも8割近くの方の購入経験がありました。商品タイプは、「乳液」や「クリーム」が6割を超え、「スプレー」が32.9%、「ジェル」が31.2%と続きます。

重視ポイントは「SPF」「塗り心地」「べたつかなさ」

次に、「日焼け止め」を購入する際に、重視するポイントを調査します。

日焼け止めを購入する際に重視するポイントは、「SPF値が高い」が66.0%でもっとも多く、「塗り心地」が44.8%、「べたつかない」が43.1%と続きます。中でも、「塗り心地(男女差24.9pt)」や「肌への刺激が少ない(21.0pt)」「白くならない(20.2pt)」といった項目は、男女差が20pt以上となり、男性よりも女性のほうが重視する傾向が高いようです。

また、「店頭でのPOP」については、女性が8.6%に対し、男性が13.1%となり、女性よりも男性のほうが、POPなどの販促物が、購入の後押しとなっているようです。

日焼け止めの購入チャネルは、8割近くの方が「ドラッグストア」で購入しています。

一方で、店頭以外の「ネットショップ」が8.7%となり、「スーパー」の5.8%よりも多い結果となりました。

販売チャネルとしては、圧倒的に多くの方がドラッグストアで購入していますが、近年では、従来の「日焼け止め」以外にも、「飲む日焼け止め」が大手ドラッグストアやネットショップを中心に販売されています。まだ高額であり、商品の認知度も低く、購入経験がある商品タイプにはランクインしていませんが(図表4)、「日焼け止め」の購入経験がある方の3割近くの方が「機会があれば使ってみたい」と回答しています。

今回の調査では男性の3割が紫外線(UV)対策を行っており、女性よりも男性のほうが「日焼け止め」購入時に販促物が購入の後押しとなる傾向がわかりました。男性向けのスキンケア商品も増えていることから、「日焼け止め」についても今後、男性をターゲットとした商品開発や販促活動が、需要の拡大につながることが予想されます。

調査概要
※図表1~6:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」
20代~60代のアンケートモニター3,867名を対象にした、紫外線(UV)対策のアンケートより(WEB調査、調査期間:2019年2月21日~2月25日)

3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

アメリカ小売業での記録的な閉店ラッシュが続いています。大型ショッピングセンター(SC)の閉鎖、廃墟化も加速しています。アメリカ小売業の5~10年遅れで追随している日本の小売業界も、近い将来、アメリカ小売業界のような「大量閉店」が始まるのでしょうか?

大型SCテナントの大量閉店が続いている

2017年のアメリカ小売業は、1年間で約5,000店も閉店した。(出典:Business Insider)

「Business Insider」によれば、アメリカ小売業は、2017年に約5,000店(上記図表)も閉店しました。そして、閉店した小売店舗の面積が1億200万平方フィート(約950万平方メートル)という記録的な数字になりました。2018年は、それを上回る1億5500万平方フィート(約1400万平方メートル)の閉店となりました。さらに、2019年にはすでに4,300店舗の閉店が発表されています。

上記図表の閉店企業の多くは、大型SC(ショッピングモール)にテナントとして出店している企業です。閉店数が第一位の「Radio Shack」は老舗の家電専門店ですが、経営破綻の結果の大量閉鎖です。「Radio Shack」は、単独店もありますが、店舗数の多くは大型SC内に出店しています。

閉店数が第二位の「Payless」も、大型SCに店舗展開する靴の専門店チェーンです。2年前に経営破綻しており、2019年には、北米で展開する2,000店以上の店舗を閉鎖すると発表しました。2017年に250店閉鎖した「The Limited」も、大型SCのモールに出店するアパレル専門店チェーンです。

また、「JCPenny」(138店閉鎖)、「Sears」(54店閉鎖)は、大型SCの核テナントとして出店してきた総合店です。核店舗が不在のショッピングモールが増加していることが推測できます。それ以外にも、総合DSの「Kmart」(126店)、オフィス文具専門店の「Staples」(70店)など、ネット販売との競合にさらされやすい「大商圏業態」の閉店が多いように感じます。

小商圏DS、ライフスタイルストアは店数を増やしている

その一方で、店舗数を増やす小売業も存在します。代表的な企業が、バラエティストア(VS)の「Dollar General」です。1~10ドルの低価格帯で商品をアソートメントした300坪程度の小型店です。低価格が武器ですが、「Kmart」のような大商圏DSではなくて、小商圏の店舗であることが特徴です。「Dollar General」は、2019年に約1,000店舗を新規出店する計画です。

また、小型のハードディスカウンター「Aldi」も、2019年に大量出店を計画しています。「Dollar General」と「Aldi」に共通することは、「300坪程度の小型店舗」「品目数が少ない」「SCに入居しない単独出店」であることです。つまり、閉店数が多い大型SCのモール出店店舗よりも、小商圏であるということが大きな違いです。

ネットで何でも買える時代において、家から遠くの大型SCに行くという購買行動が減少し、「近くて便利な店」を求める消費者が増えていることも、出店数と閉店数の明暗が分かれた原因のひとつです。

一方、健康志向のスーパーマーケットの「Sprouts Farmers Market」、 化粧品専門店の「ULTA」、は、2019年以降も大幅に店舗数を拡大すると発表しています。この2社に共通することは、小型DSと同様に「SCに入居しない単独出店」であり、「商品を売る」というよりも「ライフスタイルや体験」を提案するライフスタイルストアであるということです。

「Sprouts Farmers Market」は、FLONH(Fresh、Local、Organic、 Natural、 Healthy)というライフスタイルを、手頃な価格で実現できるという明確なコンセプトの「ライフスタイルストア」です。売場面積は800坪程度と、通常のスーパーマーケットの半分程度の売場面積ですが、その明確なコンセプトを支持する熱烈なファン(固定客)を獲得することで成長しています。逆説的にいえば、これからの時代は、「単なるモノ売りのリアル店舗」は淘汰される運命にあるのかもしれません。

熱烈なファン(固定客)を増やすことで成長しているSPROUTS。

熱烈なファン(固定客)を増やすことで成長している。

「ULTA」は、カウンセリング化粧品を、遠くのデパートではなくて住宅地から近い店舗で、対面接客販売ではない「側面接客販売」(セルフで自由に選べて、必要ならカウンセリングやタッチアップもしてくれる)という新しい「買物体験」が支持されて店舗数を増やしています。また、全店で「ヘアサロン」が店内にあり、非物販サービスの充実も、ファンづくりに貢献しています。商品ではなくて、ライフスタイルを売ることが、「vsアマゾン」の回答のひとつだと思います。

「Sprouts Farmers Market」と「ULTA」にいては、昨年のこの連載で記事を掲載していますので、興味のある方は参照してください。

明確なコンセプトでアマゾンと差別化する「スプラウツ」

化粧品専門店「ULTA(アルタ)」がアマゾンと差別化し、快進撃を続ける理由

リアル店舗の閉店という記事を掲載すると、「オンライン販売」との戦いに敗北したことが原因と、短絡的に解説されることが多いのですが、決してオンライン販売だけが「大量閉店」の原因ではありません。

たとえば、小売全体に占めるアメリカのオンライン販売額の比率は、まだまだ多くはありません。もちろん、オンライン販売の伸び率はすさまじいものがありますが、それでもまだ大半の売上はリアル店舗が稼いでいるわけです。消費者の購買行動も、すべてオンライン販売で完結し、リアル店舗がなくなることはありません。大量閉店の原因は、オンラインとの競争というよりも、その業態や店舗が、消費者の「購買行動の変化」に対応できなかったことが最大の原因だと思います。

コンビニ各社、経産省との実証実験でRFIDと画像認識の共存模索

RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波を利用して非接触で電子タグのデータを読み書きする自動認識技術のこと。経済産業省が主導し、コンビニ各社と共同で策定した「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」に基づき2025年までにコンビニの全商品に電子タグを貼付する計画だ。その第三弾の実証実験が先ごろローソンで実施された。実現に向けて、どれだけ近づいたのか現状をリポートする。

電子タグの技術とその価値を理解するためにはマラソンをイメージしてみるとわかりやすいのではないだろうか。電子タグを装着した数万人のランナーがスタートからゴールまで各関門で識別される。「お団子」状態で関門を通過しても個々のデータが誤って認識されることはない。5キロの関門、10キロの関門を何時何分に通過したかはほぼリアルタイムにネット上で確認できる。

RFIDを活用した経産省とコンビニ各社との実証実験は2017年2月にローソンの「パナソニック前店」(大阪府・守口市)にて第一回目が実施された。ここではパナソニックが開発した完全自動セルフレジ機 「レジロボ」により、一個一個の商品に電子タグが付いた複数の商品情報を一瞬にして読み取るシステムを導入した。

第二回目の実証実験は2018年2月にファミマ、ローソン、ミニストップで実施されている。サプライチェーンの上流で商品に電子タグを貼付、入出荷時に当該データを読み取り、情報共有システムに投入することで、在庫情報などをサプライチェーンで共有できるかを検証した。

そして今回が第三回目。2019年2月12日から28日、「ローソンゲートシティ大崎アトリウム店」(東京都品川区)にて実施。画像認識の新技術を加えた画期的な取り組みとなった。

ローソン本社のあるビル地階の店舗入り口の近くに専用の売場をつくり実施した。ゴンドラ上部にカメラが設置されている

実質値下げ情報が分かり食品廃棄ロス削減に貢献

新たに取り入れたシステムの第一が「ダイナミックプライシング」だ。

対象商品に貼付した電子タグのデータを、棚に設置したリーダーが自動で読み取ることにより消費期限の近い商品を特定。その特定した商品情報(実質値下げ情報)を、お客が事前に登録した実験用LINEアカウントに通知。その対象商品を購入したお客に対しては、後日LINEポイント(10ポイント)を還元する。

スーパーマーケットでは消費期限が近づくと一個一個値引きシールを貼って売り切りを図る。お客は実際に店に足を運び、自分の目で確認しないと、どの商品がいくら安くなっているかを知ることはできない。

今回の実証実験においては、どこでもスマートフォンからお得な単品情報を得ることができるので、実際に「店舗行かなければわからない」というストレスを回避することが可能になった。

ローソン経営戦略本部アシスタントマネジャーの佐藤正隆氏に聞くと「将来的には、商品を手に取った瞬間に、これがそう、これは違うと、対象商品をお知らせする機能の追加や、会計時に自動で判別して値引きする仕組みも可能」と補足する。店舗スタッフの手を煩わせずに、店外でも店内でも、実質値下げ商品が容易に判別できれば、お客にとっては非常に便利な機能であろう。

弁当やサンドイッチ、惣菜といった中食の廃棄ロス削減にも大きな効果が期待でき、また、在庫管理においても、棚に在庫している調味料の消費期限がいつまでかをデータ上で把握できれば、売場で商品をひっくり返して確認する必要もなり、作業量の削減に効果が持てる。

あらかじめ登録したアプリに、消費期限が近づいた商品と、後日ポイントが付与される条件が提示される。
LINE上、今回の実証実験における精算方法とポイント付与に関する注意事項を掲載

画像認識とRFIDで分かる棚前消費者の目線と行動

システムの第二はデジタルサイネージによるターゲティング広告である。

商品棚の画面には通常のCMが流れている。上部に設置した赤外線センサーが、お客が近づくと感知して、その属性を認識して、適切なCMを選択する。男性40代とか女性20代といった属性に合わせた情報を提供している。さらに、手に取った商品を、棚に設置した赤外線センサーが認識し、商品の下に敷いた電子タグのリーダーも感知して、商品情報を提示している。

お客が売場に近づくと、性別、年齢を、天井のセンサーが画像認識し、その人に適したCMを流す仕組み

また、お客の属性や手に取った商品だけではなく、棚前消費者の「行動」も知ることができる。悩んだあげく購入しなかった、あるいは、画面のCMを見たか見ないかも、お客の目線で知ることができる。手に取ったけれども、途中で購入を止めるなど、棚前消費者の行動が、メーカーにとって非常に価値があるという。

「例えば、商品の購入を迷っているタイミングで、背中を押すようなCMを流すといった販促もできます。私たちとメーカーにとって価値があることです」(佐藤氏)

商品を手に取ると、画像を読み取るセンサーと、ベーカリーの下に設置した電子タグのリーダーが感知して商品を特定し、画面に商品情報などが流れる

RFIDによる商品感知とカメラによる画像認識。この二つの技術を共存させて、物流の効率化だけでなく、新たなマーケティング機能を創り出している。

RFIDを担当する経済産業省消費・流通政策課の加藤彰二係長は昨年5月、筆者の取材に、こう答えている

「物の動きを電子タグで認識し、例えば「Amazon Go」のように、人の動きをカメラで補捉する、このやり方が最適であると思います。RFIDとカメラは排他的な関係ではなく、センサーの一つでしかありません。その組み合わせにより最適な環境が構築可能だと考えています。テクノロジーが組み合わさって、生活者に価値提供を実現する店舗こそ、われわれが目指しているスマートストア、そのものなのです」

その言葉通りの実証実験がローソンの協力により実現できた。

コンビニが電子タグ付きの商品を販売する条件を、電子タグが1枚1円以下になること、製造段階で貼付すること、としている

生活者の冷蔵庫の中にまでRFIDが入り込めるかに期待?

システムの第3は、電子タグリーダー付きレジの設置である。

専用のレジカウンターに、商品情報を読み取るリーダーを設置、その上に商品を置くと、電子タグ情報を瞬時に読み取るようにした。従業員が商品をスキンしなくても、価格が表示されるため、作業効率のアップにも貢献している。

専用のレジでは、商品の下に敷かれたリーダーにより、商品を置いただけで一瞬にして商品情報を読み取る

ローソンによると、これまでRFIDの実証実験には、物流担当者たちの参加が多かったという。しかし今回は、メーカーのデータマーケティングを担当する人たちの参加も目立ってきたそうだ。消費材メーカーにとっては、物流の効率化だけではなく、自社の商品がどのような買われ方をしているのか、さらに生活者が家の中で、どのように使っているのかを知りたいところ。イメージしやすいのが、冷蔵庫にリーダーを搭載して、庫内にある商品の消費情報をデータで共有すること。将来的な話だが、これを可能にすれば、RFIDを活用した製配販の取り組みに期待が膨らむであろう。

ファミリーマートとパナソニック、IoT活用「次世代型コンビニ」を開店

株式会社ファミリーマートとパナソニック株式会社、パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社は、2019年4月2日、IoTを活用した「次世代型コンビニエンスストア」の実現に向けた実証実験店舗として「ファミリーマート佐江戸店」をオープンすると発表し、記者会見を行った。(ライター:森山和道)

パナソニックがファミマのフランチャイジーとなりPJを推進

本取り組みでは、全国47都道府県に約17,000店舗を展開するファミリーマートと、製造業現場で培った技術・ノウハウを流通・店舗、倉庫やサプライチェーンマネジメントに適用しようとしているパナソニックの「現場プロセスイノベーション」を組み合わせる。接客、従業員オペレーション、売り場づくり、バックヤード業務のノウハウと現状の課題を習得・把握し、それらをIoT、画像分析、顔認証決済、導線改善、データ収集活用、空間演出などの技術とソリューションで改善し、省力化・ローコスト運営、店舗の付加価値拡大、顧客満足度向上の実現を目指す。

パナソニックは今回、ファミマのフランチャイジーとなってプロジェクトを進める。パナソニックは2018年4月1日付で店舗運営を統括する100%子会社・ストアビジネスソリューションズ株式会社を設立しており、ストアビジネスソリューションズとファミリーマートがフランチャイズ契約を締結して、店舗運営を行なっていく。両社での実店舗の運営を通じて課題とその解決策を見出し、他店舗への展開を図り、日本国内の顧客視点による次世代型店舗ビジネス確立を目指す狙い。実証実験の場となる佐江戸店にはパナソニックから店長を、ファミリーマートからは副店長を出す。

ファミマとパナソニック、双方の強みを持ち寄り、次世代コンビニを作る

パナソニックの技術を駆使したコンビニ店舗

株式会社ファミリーマート 代表取締役社長 澤田貴司氏

記者会見で株式会社ファミリーマート代表取締役社長の澤田貴司氏は「パナソニックの技術を駆使した店舗がこれから開店する。本当にわくわくしており、一緒に未来を作ることができればと興奮している。店舗運営は実際にやってみないとわからないことがいっぱいある。いろんな苦労もすると思うが、それは当たり前だ。店長と副店長が一緒になって、技術陣と協力しながら色々な課題を解決できると思う。技術革新は待ったなしで進めていかなければならない」と挨拶した。

パナソニック株式会社コネクテッドソリューションズ社社長 樋口泰行氏

パナソニック株式会社コネクテッドソリューションズ社社長の樋口泰行氏は、顧客の困りごとを解決するインテグレーターになりたいと考えていると同社のビジョンを紹介。製造業で培ったノウハウが、製造業以外のあらゆる分野でも求められていると考えていると述べ、「つくる、運ぶ、売る」のなかにある困りごとを一手に引き受けられるインテグレーターになろうとしていると語った。今回の実証実験については「ベストのロケーションで、ベストのパートナーと組むことができたと考えている」と述べた。

株式会社ファミリーマート営業本部 ニューマーケット運営事業部、佐江戸店担当スーパーバイザー兼副店長 山田恵理子氏 

株式会社ファミリーマート営業本部ニューマーケット運営事業部、佐江戸店担当スーパーバイザー兼副店長の山田恵理子氏は、業務改善は進められているがコンビニ業界を取り巻く環境は変化が激しく、まだ店舗業務は改善できる余地があると述べた。そして副店長として藤田店長をサポートしながら取り組んでいきたいと語り、業務削減の一助を手伝いながら他の加盟店にもソリューションを展開していきたいと抱負を述べた。

パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社プロジェクト統括の下村康之氏(左)、同法人営業本部 佐江戸店店長 藤田卓氏(右)

具体的な取り組みについては、パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社プロジェクト統括の下村康之氏と、同社法人営業本部所属で佐江戸店店長の藤田卓氏が述べた。下村氏はパナソニックが店舗経営まで乗り出して行う今回の協業の意義について、現場最前線で起きている真の課題の抽出を行い、ICTソリューションと店舗オペレーションの一体開発ができること、そしてスピード感を持ってPDCAを回せることの3つを上げた。顧客にとってはより便利に、加盟店にとってはより働きやすい次世代のコンビニ構築を目指す。

パナソニックには3つの強みがあるという。IoTによる現場のデータ化・見える化、画像分析技術、家電で培ったユーザーフレンドリーの知見だ。まず現場見える化については、佐江戸店には80台のエッジデバイス・センサーを設置し、リアル店舗を数値化・デジタル化する。このデータと、もともとファミマが持っているデータをかけあわせることで、店舗運営に必要、あるいは価値をより高めるデータを生み出せるプラットフォーム構築を目指す。

画像分析は顔認証や物体認識技術を用いて、新しい購買体験へ繋げる。具体的には無人店舗販売を目指して実験を始めていく。顧客は事前に顔を登録しておくことで、顔認証によるチェックイン、商品一括スキャン、そして顔認証を使った決済で買い物ができるようになる。この実験を通して技術を成熟させ、少人数オペレーションや新たな購買体験の実現、また、これまではコンビニの商圏として認められていないビル内の小規模販売など、ごく小さなところにも出店ができるようにしていくという。

ユーザーフレンドリーについては、働きやすい店舗設計や、スマホアプリを使ったモバイルオーダーへの対応を進める。下村氏は「本当に新しいサービスが提供できるのかどうか実験してきたい」と述べた。

今回の取り組みについては「個店最適化と商圏拡張」、そして「省力化と売り上げアップ」の二つの軸で捉えており、今後、ソリューションを増やしていく。佐江戸店は共創の場、オープンイノベーションの場であり、2年にわたり両社で検討を行ってきたという。下村氏は最後に、店舗運営に乗り出したパナソニック自体や未来に期待していると述べた。

パナソニックとファミマ協業のまとめ

佐江戸店店長となる藤田卓氏は、「今後、新たなコンビニを作り出すことができると信じ、第一人者として取り組んでいく」と決意表明を行った。なお藤田氏はもともと営業職。「実際の課題は現場にある」と考えて、今回の実験において店長となることについては自ら立候補したとのこと。

他店への導入もスピーディに検討

簡単に顔認証で買い物ができることをアピールするファミリーマート澤田氏

初期導入ソリューションは、

●ディープラーニングを活用した「顔認証決済/物体検知」による無人決済
●ウェアラブル端末やカメラなどセンサー情報を組み合わせて従業員をサポートする「業務アシストシステム」
●価格表示や店内POPの作成・入れ替え業務を電子棚札を活用して電子化し、業務効率化を行う「店内POP・電子棚札」
●POSデータに加えて、店舗内カメラやセンサーによる滞留ヒートマップやスマートフォンアプリでのアンケートなどを組み合わせてデータ経営を行うことで、顧客にとってより便利な店舗レイアウトや棚割、品揃え実現を目指す「IoTデータマーケティング」
●デジタルとアナログを融合させた居心地良い空間、さりげない情報発信を演出する「イートイン・空間演出」
●顧客がスマホアプリで注文・決済した商品を店舗でピッキング・配達する「モバイルオーダー」

など。

今回はバックヤードへの技術導入はなく、基本的に店頭での業務をサポートするものになっている。

ファミマの澤田氏は、「労働力不足は待った無しの状況になっている。今すぐにでも他店にも導入したいものもある。検証した上で、なるべくスピーディに順次展開していきたい」と述べた。

パナソニックが社員を店長にし、店舗まで持って進めることについて、樋口氏は「実際にリアルな環境でPDCAを高速回転させることがものすごく大事。フランチャイジーになって、店舗運営を自らやることで、顧客の『困りごと』が、よりつぶさにわかる」と意義を強調した。

天井がセンサーだらけのファミリーマート佐江戸店

「ファミリーマート佐江戸店」。営業時間はAM6時からPM23時まで。

パナソニックの構内だったスペースに路面店として開店した「ファミリーマート佐江戸店」は、広さ270平米。天井に様々なカメラが多いことと、顔認証決済セルフレジの店舗部分を除けば、いたって普通のファミリーマートだ。品揃えも特に変わったものはない。

店内は普通のファミマだが…
天井には複数種類のカメラが設置されている

天井のカメラは、通常の防犯カメラのほか、欠品チェック用のカメラ、店舗内での導線分析用360度カメラ、滞留状況を遠赤外線で検知してヒートマップを作るカメラ、棚に手を伸ばしたかどうかなどを見るためのToFカメラ、顧客の属性認識用カメラなど様々な種類のカメラ・センサーが設置されている。

合計およそ80個の各種カメラ群

店員は腕にウェアラブルデバイスを付けており、欠品などが検知されると音とディスプレイ表示で通知される。

店員がつけるウェアラブルデバイス。欠品などが通知される。

顔認証決済、レジでのインバウンド対応

顔認証決済システムでは、事前に顔とクレジットカードを登録しておけば、顔認証と暗証番号だけで買い物ができる。商品を取ってレジの上に並べ、顔認証させて暗証番号を入力して決済。最後に顔をもう一度ゲートで認証させる。当面はパナソニック社員を対象に実験を進める。

顔認証決済システム。事前に顔とクレジットカードを登録しておけば、顔認証と暗証番号だけで買い物が可能
ディープラーニングを活用した顔認証用カメラ
商品認識も画像で行う

ファミマが導入を進めている通常のセルフレジも、通常レジの横に設置されている。

セルフレジも別途ある

レジには、インバウンド対応用として音声認識翻訳デバイス「対面ホンヤク」も用意される。据え置きではなく、モバイルデバイスで、必要に応じて卓上に出して使うイメージだ。店内は大勢の記者たちでかなり混雑して騒がしかったが、特に問題なく音声認識できていた。

「対面ホンヤク」。必要に応じてレジ上に出して用いる
リアルタイムに翻訳を行い、地図を示したりできる

電子値札にはNFCを内蔵

商品に付けられている電子棚札は、通常の常温の品用と冷蔵品用がある。商品マスタに「新発売」というデータがあると、そのようなレイアウトで目立つように表示される。電子棚札にはNFCが内蔵されており、今後、顧客への追加商品情報提供なども実験していくとのこと。

電子棚札
新発売商品(右)は目出つように赤が使われている
冷蔵品用の電子棚札

なお、デイリーの弁当やチルドなどには今回は電子棚札が用いられていなかった。その理由は、弁当類は賞味期限を示す必要があり、かつ、一つの棚のなかでも様々な賞味期限の商品が混在する可能性があることと、もともと弁当自体に値札が付けられているからとのことだった。

チルドコーナー、弁当コーナーには今回は電子値札は使われていなかった

5月からはモバイルアプリを使ったオーダー・配達にも対応する。当面はパナソニック社内向けとなる。会議室にまで弁当を届けてもらうようなイメージだ。アプリではクーポン情報やセール情報も提示されるほか、店舗のイートインコーナーの混み具合もわかる。

モバイルオーダーアプリ
モバイルアプリからはイートインコーナーの混雑具合もわかる

イートインコーナーではプロジェクションマッピングやそれと連動するサイネージデバイスを用いた空間演出が行われる

過激なチラシで広域集客よりも店頭ロス対策が優先される時代へ

かつての小売業の一番の売上対策は、新聞の「折込チラシ広告」でした。しかし、狭小商圏化が進み、チラシ販促の効果は年々低下しています。その結果、チラシ回数を減らし、EDLP(エブリデーロープライス)戦略を進める小売業が増えています。人口減少時代に突入した日本では、チラシ販促で「浮動客」をかき集めるような売上対策よりも、「機会損失」を減らすことの方が優先順位の高い売上対策になっています。

折込チラシ広告費は10年でほぼ半分に減少

電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、折込チラシ広告費は、2006 年の6,662 億円をピークに減少を続けています。リーマンショックの影響があった2009 年に6,000億円を割り込み5,444 億円、消費税増税の影響を受けた2014 年に4,920 億円に減少、そして、2017年は4,170億円、2018年は3,911億円と4,000億円を割り込みました。

2006 年のピーク時を100 とした場合、2018年は58.7% となり、12年間で市場規模が42%とほぼ半減したことがわかります。

人口減少時代に突入し、リアル小売業の売上が大きく増えない時代においては、過激の割引セールや、ポイント10倍などの販促のあの手この手で、前年比の売上を無理やり増やすよりも、「店頭ロス」を減らすことの方が、売上と利益を増やす優先対策です。

店頭で発生しているロスを整理すると、図表1の6項目になります。店頭ロスの第1は、「欠品による機会損失」です。売上減少時代において、もっとも優先順位の高い売上対策は、店頭欠品の撲滅です。しかしも、欠品は「ゼロ欠品」だけが欠品ではありません。棚札も商品も消失した「VOID(完全欠品)」や、「品薄」によって購入をためらう「心理的欠品」も欠品です。商品を売るためには、心理的に購入したくなる「陳列量の爆発点」を維持する必要があります。

しかも、視力の悪いシニア層(高齢者)が増加する今後は、陳列量の爆発点はますます重要になります。ある小売業の調査では、高齢者がよく購入する商品の売価はそのままで、陳列量だけ3倍に増やしたところ、その商品の売上は大きく増加したそうです。

6つの店頭ロスを減らし機会損失を防ごう

店頭ロスの第2は、日配品や総菜などの「廃棄・値下げロス」を減らすことです。これからの時代は、あの手この手の販促で需要を無理やりつくるよりも、需要に合わせていく、つまり需要予測の精度を高めていくことの方が重要です。

図表2は、おにぎりの廃棄ロスが年間で1,000億円もあった「ファミリーマート」が、AI(人工知能)を活用した自動発注に切り替えたところ、30%もあった発注誤差が、3週間後には発注誤差が9.68%に減少したという成功事例です。

店頭ロスの第3は、「不完全作業」によるロスです。メーカーと小売業のバイヤーが商談した結果の「店頭実現率」は、かつては20~30%と言われていました。たとえば、100店チェーンに、A商品が発売日に陳列されるのは100店中20店の20%という意味です。こうした「不完全作業」による売り逃しは、欠品による機会損失と並ぶ、最大の店頭ロスです。

完全作業率を高めるためには、さまざまな計画を立てることは上手だが、店頭でまったく実行されない「計画(プラン)主義」の企業文化から、凡事徹底を第一とする「行動主義」の組織・企業文化に変革することです。極端なことをいえば、二流三流の戦略でいいから、一流の実行力をもった組織が競合優位に立つと思います。

店頭ロスの第4は、「棚割の画一化によるロス」です。従来のチェーンストアは、どの店舗の棚割も画一化されていました。しかしこれからは、IT技術の進化によって、極端なことをいえば、棚割を全店で個別化しても、全店の棚割をリアルタイムで可視化できて、その効果もリアルタイムに数値で評価することができます。ITの進化によって、棚割を個別化しても、管理不能に陥らず、個別化によるコストもそれほど増えない時代が到来します。

店頭ロスの第5は、「無駄な値下げによるロス」です。陳列量に爆発点があるように、価格にも爆発点があります。価格の爆発点を調査して、無駄な値下げを減らすべきです。「価格敏感商品」と「価格鈍感商品」をきちんとグルーピングし、価格鈍感商品まで一律に値下げしないようにすべきです。

店頭ロスの第6は、不明ロス(万引き・不正など)です。日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014〜2015版」によると、不明ロスの内訳は、従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%です。

同報告書によると、日本の不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.35%、金額にして149億ドル(1ドル100円で換算すると1兆4,900億円)という莫大な金額が不明ロスで失われていることになります。優良小売業の営業利益率の目安が5%ですから、1.35%がいかに大きな数値かが分かります。

海外では不明ロス、特に万引き対策を「loss prevention(ロス プリベンション)」と呼び、役員レベルがトップに立って指揮を執る大手小売企業も多く、最重点の経営課題になっています。

「シニア世代」を固定客にする 小売業の4つのポイント

日本は、世界中で誰も経験したことのない「超・高齢化社会」に突入します。人口構造の中核となる「シニア世代」の購買行動の特徴は、「近くて、便利で、親切な、特定の店を利用する」ことです。また、シニア層に選ばれる店になるためには、「ワンストップショッピング性」を高めることが重要になります。

シニア世代の買物の特徴「近」「多品種」「特定」「午前中」

日本の高齢化率(65歳以上人口)は、2017年10月時点で27.7%に達しています。県別に見ると、もっとも高齢化率の高いのは秋田県の35.6%、2番目が島根県の33.6%です。東北6県は、宮城県を除く5県はすべて高齢化率が30%を超えています。また、今から7年後には全国平均の高齢化率が30%を超えます。

日本の人口構造のマジョリティになった「シニア世代」の買物の特徴を分析し、シニア世代を固定客化することが非常に重要です。

シニア世代の買物の特徴を整理すると、第1は、(1)移動距離が短いことです。遠くの店ではなくて、近くの店を選択するようになります。小売業の「狭小商圏化」は加速するでしょう。

第2は、(2)ワンストップショッピングのニーズが高まることです。高齢化率が進み、人口減少が進む立地においては、高齢者の免許返納も進み、「買物難民」が増えます。「巡回バス」や「車の乗り合い」で来店する高齢者にとっては、頻繁に来店できないので、来店したついでに多くの必需品を関連購買したいというワンストップニーズが高まります。高齢化率の高い立地の店は、「多品種の品揃え」でワンストップショッピングでき、しかも近いことが選ばれる店の条件になります。さらに、「高齢者の自宅に届ける宅配」も不可欠のサービスになるでしょう。

一方、SM(スーパーマーケット)のID-POSの5年間の経年変化を分析すると、たとえば、58歳の顧客が5年たって63歳になると、冷凍魚、冷凍食品、パウチ総菜などの「単独世帯」対応の商品の買上率が高まると同時に、トイレットペーパーや衣料洗剤などの「消耗雑貨」の買上率が高まるそうです(ジェイビートゥビー社調査)。

つまり、従来は、衣料洗剤やシャンプーなどの日用雑貨はDgS(ドラッグストア)で購入し、食品はSMで購入していた顧客の「買い回り傾向」が低下し、食品と同時に日用雑貨もSMで購入するワンストップショッピング志向が高まるという意味です。

シニアの来店ピークは「午前中」朝の接客で固定客化する

第3は、(3)特定の店舗を選ぶ傾向が強いことです。図表1は、各世代がDgSを何店補程度利用しているかを調査したものです。図表1によれば、前期シニア層の利用店舗数は1.76店、後期では1.48店といずれも2店を切っています。1店舗のみを利用する後期シニア層は70%に達しており、大多数のシニアは自分が決めた1店舗で買物している実態がわかります。高齢者の多い立地では、シニアに選ばれる店が一人勝ちする傾向が高まると思われます。

また、シニア世代の固定客(ロイヤルカスタマー)は、一般客の売れ筋とは異なる「シニアの売れ筋」を定期購入していることが多いのです。ABC分析によるとCランク商品の「死に筋」だからと単純にカットすることは、「シニアの固定客」を失うことになります。データ分析では死に筋であっても、高齢者の「リピート率」の高い商品はカットしないで、売場に残すという配慮が必要になります。

第4は、(4)シニア層の来店時間は圧倒的に「午前中」だということです。一般的に小売業のピークタイムは15時以降であり、客数の少ない午前中には、人員を減らしたり、補充作業に専念する稼働計画を組んでいる店が多いと思われます。しかし、シニア層の来店のピークタイムは圧倒的に、「開店直後の午前中」です。

客数が少ない午前中に、医薬品や化粧品の接客人員を敢えて配置することで、シニア層と「悩みの相談」などのコミュニケーションが取れ、シニア層に選ばれる店になれるかもしれませんね。