人口7,000人のルーラル立地に展開する小売業の3つの特徴

日本は、2025年に2015年対比で約455万人も人口が減少します。一方、65歳以上の人口は約262万人増加し、高齢化率は高まります。「2025年問題」は流通業に関わる者にとっては深刻な問題です。

全店の生鮮化計画を進めるDgSのゲンキー

サバーバン立地(郊外)、ルーラル立地(田舎)の人口減少と高齢化が急速に進み、アーバン立地(都市)の人口が増加しているため、小売業やショッピングセンターの出店戦略の「都市回帰」の動きが進んでいます。

しかし、そのトレンドに背を向けて、行政人口5,000人、7,000人というルーラル立地に大量出店して、順調に業績を伸ばしているDgS(ドラッグストア)が存在します。

代表的な企業は、北陸の「ゲンキー」と、東北の「薬王堂」です。ゲンキーは、「Rタイプ」と呼ぶ売場面積300坪型と「メガ」と呼ぶ750型(一部900坪型もある)を行政人口1万人以下の、いわゆる田舎に大量出店しています。ゲンキーの詳細は、月刊マーチャンダイジング7月号(6月20日発売)を参照してください。

ここでは、ルーラル立地に敢えて出店する小売業の「売り方」の特徴を以下に整理してみましょう。

(1)ワイドアソートメントであること

立地戦略の格言に、「小さな町に大きな店をつくる」という言葉があります。人口の少ない立地で商売を成り立たせるためには、住民一人当たり、一世帯当たりの財布の中から支出する金額を増やすことがセオリーです。そのためには、いろいろな商品を買ってもらう必要があり、結果的に、店が大きくなるという意味です。

そのためには、「品種」の種類を増やして「品目」を絞るという「ワイドアソートメント(広い品揃え)」が基本です。つまり、DgSの核売場である医薬品、化粧品だけではなくて、食品、日用雑貨、家庭用品、酒類、実用衣料まで品種の種類を増やすことで、ワンストップショッピング性を高める品揃えが基本となります。多品種の品揃えによって、買物目的を増やし、来店頻度と買上点数を増やすことを目指します。

ゲンキーは、全店の「生鮮化計画」を一気に進めており、生鮮4品を導入することで、来店頻度と買上点数を増やし、既存店の売上を10%以上増やしています。

一方、薬王堂(売場面積300坪)は、ファブリック(下着、軽衣料、エプロン、スリッパ、クッションなど)の売場を3尺25本も確保しており、比較的人口の多いサバーバン立地の同規模のDgSが3尺4本と絞り込んでいるのに対して、意図的に広い面積を確保しています。「来店したらいろいろな品種を買ってもらいたい」という戦略が明確です。同時に、粗利益率の高いファブリックを販売することで、店全体の粗利益率の改善につなげています。

ゲンキーは生鮮食品の低価格販売で集客する一方で、化粧品のPBの推奨販売、医薬品の接客強化で「粗利ミックス」を行っています。ゲンキーは、その戦略を「ハイブリッド戦略」と呼んでいます。

人口の少ない田舎立地ほど「地域の売れ筋」を把握しよう

(2)買上点数を増やすレイアウトであること

ゲンキーも薬王堂も、出入口を左右どちらかの端に設置し、壁面沿いに売場を大きく回遊できる主通路動線になっています。来店客の「歩行距離」と「買上点数」は正比例するので、買上点数を増やす売場レイアウトです。

田舎立地は高齢化率が高まり、今後は免許を返納する高齢者が増加します。子供が高齢の母親を車で買物に連れて行ったり、巡回バスで買物に行く高齢者も増加し、来店頻度は減少すると思われます。そうすると、来店した際に、いろいろな商品を購入したいというワンストップショッピングのニーズが高まります。田舎立地の店は、品種揃え、買上点数を増やすレイアウトが、都市、郊外立地よりもはるかに重要になるということです。

また、ゲンキーも薬王堂も、ゴンドラ(棚)の連結が長く、23~26本もあります。長い連結の中で「通路の両側関連」で多くの品種を来店客に見せることで、自然と買上点数が高まります。

(3)マイクロマーケティングであること

人口の少ない田舎立地のMDでもっとも大切なことは、「その地域独特の売れ筋」をきちんと把握し、品揃えすることです。地域の売れ筋の単位は、「県」という大雑把な単位ではなくて、全国1,682の市区町村別といった、さらに小さな単位で人口動態や売れ筋を把握することが重要になります。この方法を「マイクロマーケテイング」といいます。

たとえば、仙台市で売れる商品だけの売場を、人口5,000人の東北の田舎町にそのまま持っていくと、その地域の売れ筋が欠落し、膨大な機会損失を発生させます。対象人口が少なければ少ないほど、「地域や個人」のニーズを深堀りしたマイクロマーケティングが不可欠です。

現金取扱い無しのロイヤルHD実験店に見る「発想の転換」

2017年11月、ロイヤルホストやてんやなどの飲食店チェーンを傘下に持つロイヤルホールディングス(HD)は、ロイヤルグループの生産性向上と働き方改革の両立を目指し、次世代の店舗運営を研究するR&D(研究開発)店舗として「GATHERING TABLE PANTRY馬喰町店」をオープンした。完全キャッシュレス、セルフオーダー。キッチンオペレーション改革により調理時間なども短縮。設備のコンパクト化により、小規模・低投資型の店舗展開も可能になった。本業態について、その開発の背景を聞く。(月刊マーチャンダイジング 2018年5月号より転載、企業概要等は当時のものです)

オーダーはiPadで 決済は電子マネー・クレジットのみ

「GATHERING TABLE PANTRY馬喰町店」は、JR総武本線馬喰町駅から徒歩数分の場所に位置する、店舗面積35坪、席数40席の飲食店だ。ワインをはじめとするアルコール類と前菜、サラダ、洋食、デザートなどを手ごろな価格で揃え、気の合う仲間が気軽に集える楽しい空間を目指す。この店舗は、ロイヤルHDのR&D店舗として位置付けられており、同社はここを足掛かりに、少子高齢化による生産労働人口の減少や、市場変化などサービス産業を取り巻く環境が厳しくなるなかで、グループ全体の課題解決や次世代のビジネスモデル確立に向けた取組みを加速させていく。

店内の様子。むき出しの配管やコンクリートのテーブルなどがカジュアルな雰囲気

この店舗の実証実験の中で注目を集めているのは、現金を一切取り扱わない点だ。店頭には「キャッシュレスチャレンジ」という看板が掲げられており、決済はクレジットカード、電子マネー、楽天アプリで行う。同店での決済の流れは以下のとおりだ。

店頭に掲げられた「キャッシュレスチャレンジ」の看板。いまのところお客からのクレームやトラブルは起きていないとのこと

席に案内されたお客は、はじめに従業員からiPadを渡される。iPadでお客はメニューを選択し、オーダーする。オーダーが入ると、キッチンのタブレットに表示される。その表示を見てキッチンでは調理を行い、注文された品をお客に提供。食後は、お客がiPadに表示されている会計ボタンを押すと、従業員が決済用の端末を持ってお客のテーブルまで行き、クレジットカードや電子マネー、アプリを用いて支払いを行う。決済には楽天ペイを用いており、主要クレジットカードと電子マネーに対応。全体のシステムはマウント・スクエアが開発を担当している。

iPadのメニューで注文を行う。 操作は簡単で、写真も大きくメニューをイメージしやすい

現金を扱わないことによるメリットは大きい。釣り銭の用意やレジ締め作業はなくなり、作業時間が短縮される。のみならず、違算が許されないレジ作業はだれにとっても精神的なプレッシャーが大きい業務であるため、それがなくなるメリットは、現場にとって計り知れない負荷の軽減となる。新人に対するレジ操作のトレーニングも不要となる。

現金を一切扱わないことに関しては、いまもロイヤルHD社内で議論をしている最中だが、お客からの反応は上々だ。「オープンからまだ3ヵ月しかたっていませんが、非常にスムーズに受け入れていただいています。むしろご支持いただいている印象の方が強い」と同店舗の企画を担当したロイヤルHD企画開発部の中西喜丈氏は話す。

この店が目標の1つとしているのは、店舗運営のペーパーレス化だ。オーダー伝票、レシート、納品伝票などなど、店舗業務には「紙」がつきものだが、システム全体がつながり、紙が店舗にない状態が実現できれば、大きな生産性向上も可能になるだろう。

いまのところ会計作業はテーブルで従業員が行っているが、お客がより、ストレスなく会計できるようにすることを目指す。現在の決済方法は、クレジットカードか電子マネー、アプリだが、今後はWeChatPayやAlipayなどの他のQRコード決済にも対応し、幅広いお客を取り込んでいきたいと考えている。

決済は楽天ペイを使用。主な電子マネーとクレジットカードが利用可能
店頭はこれらの決済端末とiPad、iPhoneが用いられている

同店舗では、生産性向上と働き方改革に関する課題を解決するために、このような実験的な決済方法導入(IT活用による店長業務の効率化)をはじめ、キッチンオペレーション改革による調理工程短縮と料理の質の両立、設備のコンパクト化による小規模・低投資型店舗の展開という3つの取組みを行う。

厨房スペースが店舗面積の40%から15%まで縮小

キッチンオペレーション改革では、自社のセントラルキッチン(CK)活用比率を高めることで、品質の安定と作業コストの削減を行い、CKを最大限に活用する。

同店舗では、CKの活用比率を55%までに高め、だれでも簡単に短時間で調理ができるメニューを開発。調理器具もレンジ、オーブン、グリルの機能をプログラミングできるマイクロウェーブコンベクションオーブンを活用し、開発元であるパナソニックと共同研究を実施。何百回と試作を繰り返し、調理時間の短縮を実現しながら、熟練コックが調理したときと同じ熱の入り方になるようなレシピをつくり上げた。

グラスワインは300円から。おすすめメニューの煮込みハンバーグは980円(ともに税抜き)

この店舗には揚げ物をつくるためのフライヤーも設置されていない。揚げ物を取り扱わないことで、キッチンの掃除の手間を減らし、また働く人の環境も良好に維持しようという考えだ。排気ダクトや換気扇などの投資も不要になる。あえて「揚げ物を取り扱わないなかで、お客さまに満足していただくにはどのようなメニューがいいのか」ということを考え、メニューを決定した。これまではキッチンの清掃に営業終了後1時間はかかっていたが、同店舗では営業終了後15分程度で済む。

セントラルキッチン比率を高めることで、ホールとキッチンの多能工化を推進する。調理器具も厳選し、厨房面積を従来より大幅に圧縮することに成功した

このような、おもい切ったメニュー開発、レシピ開発によるメリットは、作業負荷の軽減にとどまらない。厨房面積も大幅に縮小できた。通常のロイヤルの店舗であれば店舗面積の40%を厨房を含むバックヤードが占めるというが、同店舗では店舗面積35坪中で5坪と約15%になっており、同社の中では画期的なサイズだという。

飲食業はホールとキッチンで役割分担を行うのが一般的だが、キッチンが忙しいとホールが手隙になったり、その逆になることもしばしばで、この役割分担が無駄なコストを発生させている原因にもなっていた。

同店舗では、オペレーションが簡易化されたことで、教育コストも大幅に削減。キッチン業務は3日もあれば習得することができるため、どの従業員もトレーニングを受けた上でホールとキッチン、両方の業務に対応する。席数40という規模ながら、3人(ピーク時は4人)という少人数での運営が可能となっている。

ワンシフトで業務が完了する 営業時間で残業もなし

オープン時間も特徴的だ。平日が15時から22時30分、土日祭日は13時から21時30分と、飲食店であるにもかかわらずランチタイムを外している。ワンシフトで業務が完了する時間帯を選択したことで残業の必要がなくなった。「ランチ営業をしたらもっと売上が上がるはずなのに」という社内からの声もあったが、とりあえず研究開発段階なので、大胆な方向性で一度やってみることを決断した。

「このように振り切った店舗をつくることができたのも、ロイヤルHDのR&D業態だからこそでしょう。今後は成功した部分を横展開していったり、あるいはこのオペレーションの上に新しい業態をつくるということもあり得ます。現在はこれぐらいの店舗面積でやっていますが、より広いスペースでやればやるほど生産性が上がるのではないかともおもっています。横展開できるものをこの店で確立することができれば、事業会社にもっといい効果が与えられるはずです」(中西氏)

突飛なことをしたわけではなく、これまでロイヤルHDが培ってきた方法論を応用、集積してできた業態といえる。発想の転換ができたのは、たくさんの制約の中で、どうやったら「生産性向上と働き方改革の両立が可能になるか」ということを考え抜いたからだろう。

ホスピタリティサービスの産業化の実現

同社のITの活用の最終的な目標は、単なる生産性向上ではなく、同社が目標に掲げる「ホスピタリティサービスの産業化の実現」である。

お客さまとの接点がタブレットやスマートフォンになると、どうしても冷たい雰囲気になってしまいがちだ。「そこを乗り越えて温かい雰囲気をどうつくるかというのが、この店の一番の課題です。温かさが出てはじめてホスピタリティにつながる。さまざまな管理業務をなるべくそぎ落とし、店長が接客の温かさに注力することができたら、お客さまにより喜んでいただくことができるのではないでしょうか」と中西氏。さらに、こう続ける。

「働き方改革の話につながるとおもいますが、店で働くことが楽しい、商売が楽しい、わくわくできる、そういう人に集まってもらうことが最終的な目標です」

同社経営企画部の吉田弘美氏はいう。

「飲食業は目の前でお客さまに『ごちそうさま』『ありがとう』といっていただけて、チャレンジすれば数字も変わるという、非常に面白い仕事です。そんな飲食業の楽しさや面白味を従業員にしっかりと感じてもらえるようにすることが大事です。

レジ締めや棚卸しのような人がやっても機械がやっても付加価値が変わらない仕事は機械に置き換えていって、本当に人間でなければできないような仕事に注力できる環境をつくっていきたい。そういうところに時間を使えるようにすることが、本当の意味で働き方改革、生産性向上につながっていくと考えています。

当社の会長(兼CEO)の菊地(唯夫)は、この20年間のデフレで、モノの値段は下がっていったが、そもそも価格に含まれていたホスピタリティやおもてなしなどの付加価値がどんどん削られてしまったといっています。そういったものを取り戻していかなければならないのではないかとおもいます」

生産性の向上というと、とかく業務をITや機械に置換して合理化するという話に帰結しがちだ。しかし、これまで私たちは生産性向上や経済合理性の掛け声に流されすぎて、付加価値の向上をないがしろにしていたのではないか。単に安くナショナルブランドを販売するだけであれば、実店舗がAmazonや自動販売機に取って代わられるといわれても文句の返しようがないだろう。

なによりも先に自社ならではの付加価値を確立したうえで、工夫によって生産性を向上させ、ホスピタリティのある接客や店頭を実現していく。あるいは、より働きがいのある職場をつくっていく。すべてのチェーンストアは、もう一度その優先順位を考える時期に来ているのかもしれない。

地域貢献こそDgSの使命

調剤薬局併設店舗にこだわり、グループ会社には訪問看護を担う企業も擁して地域への貢献を追求するスギ薬局。ヘルスケア特化型、地域密着型のドラッグストア(DgS)を目指す同社の社長に就任して2018年3月で1年たつ杉浦克典氏に、成長戦略や社会状況の変化に対する備えなどを聞いた。(聞き手:月刊マーチャンダイジング編集長 野間口司郎)

社会的課題のお手伝い それを事業の中核にする

──2017年3月にスギ薬局の社長に就任されて1年がたちますが、率直ないまのご感想はいかがでしょう?

杉浦 最終的に何で評価されるかは、私が社長に就任して店がどうなったか、人も含めて店のありようだとおもっています。それがすべてだと理解した上で個人的な感想を申し上げると、1年がたち、会社を挙げて発信すること、事業の領域を決めること、社員のベクトルを揃えることなどが、仕事の中心になってきたと感じています。

多くの方に支えられ、育てていただいたからこそ今があります。ジョンソン・エンド・ジョンソン時代のプレジデントをはじめ、入社後は外部からお招きした前スギホールディングス社長の下で約7年間、組織づくり、売上規模に応じた企業運営など、経営に関する世界を教えていただき、現場の視点、現場感覚は、創業者のお二人から入社以来ずっと学んできました。

経営者としての基本的な知識や振る舞いを身に付け、現場の感覚、考え方を踏まえて、いままでの1年は、これからスギ薬局社長として何をすべきかを打ち出していく時期であったと思っています。中期経営計画で2020年までに自力成長で売上高5,400億円、提携、M&Aを含めて8,000億円という数字を発表しています。数字は当然重要ですが、その目標のためにどういう世界をつくっていくのか、中期経営計画を単年度ごとにどう進めるのか、それらがいまの大きな関心事になってきました。

──いま一番強くおもっていらっしゃること、やりたいことはなんでしょうか。

杉浦 私たちの会社は地域にどれだけ貢献できるかが存在理由だとおもっています。社会的な課題を解決することが地域貢献だとおもうのですが、いまの社会の最大の課題は「少子高齢化」です。医療費や雇用などさまざまな問題がそこに紐付けられており、従来の仕組み、社会システムのままでは時代に対応していくことが難しくなってきています。これを少しでも解決するためにわれわれに何ができるのか、そこに大きな関心があります。

私たちの仕事にも関係のある、健康、医療の領域で考えれば、これまでのように病気になれば病院にすべておまかせというやり方では財政も人材も持ちません。病院は必要な治療に専念し、治療が終わったら病院ではなく、住まいや施設で生活を支える。国は今後さらに増える高齢者の医療に対してこのような態勢、「地域包括ケアシステム」で対応するという方針を立てています。これをどのようにお手伝いしていけるか、ここが当社の事業領域と大きく重なると考えています。

在宅医療に必要な訪問看護事業を行っているスギメディカルというグループ会社がありますが、2018年3月1日に私はその会社の副社長に就任しました。処方せん調剤、OTC医薬品の販売といった事業に加えて、在宅医療に関する領域も視野にいれて、より総合的に地域包括ケアシステムをお手伝いする体制をとっていきます。

健康の維持、未病・予防のためにはウェルネスという領域で事業やサービスを展開します。血圧、血管年齢、骨強度など健康状態を店舗でセルフチェックしてもらったり、ウォーキングなどの軽い運動を推奨したり、サプリメントや健康食品販売、減塩、低糖質、有機原料など健康を考えた一般食品販売などがこの領域に入ります。

健康維持、未病・予防のためのウェルネス、OTC医薬品を使ったヘルスケア、調剤処方せんによる治療、加えて在宅医療の支援、これらの領域を効果的、有機的に組み合わせて少子高齢化により発生する問題の解決を少しでもお手伝いする。これを事業と結び付けて成長していくというのが大きな構想です。

健康のセルフチェックなど、未病・予防の領域も強化(スギ薬局牟呂店)

医療系企業と業務資本提携 質の高い地域貢献を目指す

──その構想をさらに拡大、強化させる目的だとおもいますが、医療系の企業との業務資本提携を発表されました。

杉浦 当社グループとメドピアグループとの業務資本提携を3月5日に発表させていただきました。

メドピアグループは全国の多くの医師が参加する医師専用コミュニティサイトの運営など、医療分野でITを活用した事業展開や、予防医療事業として医師によるオンライン相談サービスなどの遠隔医療事業。そのほか、管理栄養士による食生活コーディネイトサービス等の生活改善支援事業を展開されています。

両社グループが互いの経営資源を活用して協業することにより、健康・医療・介護領域におけるネットとリアルを融合した統合型プラットフォームを創出すること、そして「IT×地域密着」を軸とした独自の予防・医療サービスを開発・提供することを目指してまいります。

──具体的にはどのようなことに取り組まれるのですか。

杉浦 具体的な業務提携の内容を一部ご紹介しますと、お客さまに向けて、アプリと店舗を通じた医療・栄養相談、食生活改善プログラム等のセルフケアサービスを提供する事業を展開します。このサービスでは医師や当社の薬剤師・管理栄養士にアプリを通じて相談したり、店舗で健康改善プログラムに参加することが可能になります。

また、メドピアグループがもつ医師10万人の会員基盤と当社がもつ開業用地を活用し、在宅医療開業希望の医師に向けたオンライン上の開業支援プラットフォームを構築・提供していきます。

さらに前述の医師が登録するコミュニティプラットフォームと当社グループがもつ400を超える訪問薬局、訪問看護ステーションを活用した、在宅医療従事者向けコミュニティ事業や、在宅医療開業希望医師への開業支援、薬剤師等の専門家に対する求人サービス等を提供する事業も展開します。

健康によいPBの食品は企業の独自性、優位性を生み出す

──DgS業界、あるいは流通業全体を見渡してどのような認識をお持ちでしょうか。

杉浦 DgSでいえば、価格訴求と食品強化といったように、利便性、ディスカウントに特化したグループと、未病・予防から調剤までヘルスケア、専門性に特化したグループ、2つの集団による二極化が今後ますます進むのではないかとおもいます。

もうひとつは寡占化の進行です。一企業で売上高7,000億円に迫る企業が出てきましたが、今後は1兆円、2兆円という規模の企業も出て2025年、DgS業界全体はいまの6.5兆円から10兆円といった規模になるのではないでしょうか。

流通業全体でいえば、扱い商品を見るとDgS、食品スーパー、ホームセンターといった業態の垣根がどんどん下がってきて、これまでの業態論では捉えきれなくなっています。ライバルはDgSだけではなく、他業態も見なければいけないし、ネットもあります。

──商品軸で差別化が難しい時代には、御社の理念をベースにしたウェルネス、地域包括ケアシステム支援といったサービスや事業で独自性、優位性が生まれますね。

杉浦 おっしゃるとおりです。しかし、商品でも独自性、優位性を持つ余地はあります。たとえば、健康食品やサプリメントだけでなく、日常使いで健康に資する食品、われわれが「ウェルネスフーズ」と呼んでいる領域には可能性があります。

冷凍食品のカテゴリーで、単に空腹を満たすだけでなく、そこにオンかオフのある商品を自社で開発製造する。オンは健康によい栄養成分を加えること、オフは健康によくないものを減らす、なくすという意味です。こうした商品開発には今後取り組んでいこうとおもっています。

スギ薬局では健康によい冷凍食品も販売している(NB商品)

少子高齢化の後に来る世界では機械と人間の仕事の分担が進む

──少子高齢化がさらに進むと高齢層が徐々に減っていき少子の部分が先鋭化するとおもいますが、少子高齢化の後の世界をどうお考えでしょうか。

杉浦 長期的なトレンドとしては、高齢層が多くて若い世代が少ないという人口構成はこの先しばらく続きます。そこから生まれる課題の解決をお手伝いするという基本姿勢は変わりません。

その後は人口減になって、これまで人がやっていた仕事をロボットやAIがやるというように省力化や無人化などの技術がもっと発達していくでしょう。

AMAZONが実用化しているスマホひとつでレジを通さなくてもすべての決済ができてしまうという店が増えていけば、これまでのように店舗運営に人手をかける必要がありません。IT技術、機械ができる仕事、人間しかできない仕事にわかれる。そういう時代が来るのでしょう。

規制緩和の問題とも関係しますが、いまある技術を使えば、医師がモニター越しで患者さんを診察する遠隔診療も可能で、その後、処方された薬を私たち薬局が自宅までお届けできれば高齢者や忙しい方には便利です。

こうした時代になったときに薬剤師の職能をどこで発揮するかが問われます。薬剤を調合する、指定された薬品を間違いなく選んで袋に入れるといったいまの薬剤師の多くの仕事は機械でもできるでしょう。

とはいえ、薬剤師の役割や使命は明確にあって、在宅調剤を含む人と人との関わり合い、コミュニケーションがその核にならなければいけません。目指すべき絵を見せてそこに向かって職能を磨いていきます。

志を同じくする者同士で非効率なシステムを変えていきたい

──規制緩和という言葉が出ましたが、いまの法規制や医療システムの中で社会保障費、医療費がふくれあがって財政を圧迫しています。今後これを改善していく方向性はあるのでしょうか。

杉浦 国も後発医薬品、いわゆるジェネリックを推進するなど、対応策を考えています。しかし、処方せん調剤ひとつとっても現状、非常に非効率なことが多いと感じます。

医療をもっと効率化できる遠隔医療や電子処方せんといった分野で、共通となるプラットフォームを社会インフラのような形でつくって、そこに各社が参加するのも一つの方法だとおもいます。企業がバラバラにやるよりも効率的です。今回のメドピアグループとの業務資本提携は、その具現化のための第一歩です。

──いまおっしゃったインフラ的なプラットフォームの構築も含め、もっと効率のよい方法を探るべく、大同団結する道はあるのでしょうか。

杉浦 冒頭申し上げたように少子高齢化の問題は深刻です。DgSや調剤薬局がその中でどのような価値を発揮できるかは商圏内のお客さまや患者さまに対して何ができるかということになります。

今後DgSが寡占化して、1兆円企業、2兆円企業ができたとき、この業界の使命として地域社会の少子高齢化に対応し、課題解決に向けた役割を果さなければいけません。志を同じくする者が大同団結して関係各所とも協力をしながら良い流れをつくっていく必要があります。

──社会インフラとしての共通のフォーマットづくりとか、規制の枠組みを変えるという話にしても、企業間の競争は当然ありますが、大きな目的に向かって共通の理念を持つ者同士が手を組むほうが効率的かもしれませんね。

杉浦 そうだとおもいます。

マスの消費者を画一的に見る販促、マーケティングには限界が

スギ薬局代表取締役 杉浦克典氏

──物流業界では、センター内でロボットやAIを使って省人化、自動化を進めるなどの動きがあります。最新のテクノロジーで流通業は変わるとおもいますか。

杉浦 変わるとおもいます。テクノロジーによる効率化の前提条件として費用対効果の判断があります。その業務を自動化、機械化することでトータルのコストは下がるかをまず計算しなくてはいけません。物流センターや発注業務では機械化も含めて当社も進化させる方向で考えています。

ITや情報技術ということでいえば、最近取り組んでいるのが販売データの活用です。POSデータにカード会員の年齢や性別といった個人情報を付けたものがID付きのPOSデータです。さらに、そこに処方せん調剤のデータを加える。このことにより、疾病と買物、性別・年齢といった各条件の関係性を示すデータが取れる。それぞれの条件によるさまざまな傾向がわかって価値を生み出すのです。

従来のようにお客さまをひとつの層として捉えて、全体に向かって同じチラシを打つといったマーケティングではなく、個人に向けて提案するという一対一のマーケティングがデジタルによって可能になりつつあります。

小売の持つデータを使って小売り主導でマーケティングしていく時代が来るとおもいます。ただ、一足飛びにカード会員500万人とか600万人を相手に一対一のマーケティングをする訳にはいかないので、条件を絞ってフィルターをかけ共通するグループごとに分けていくことが現実的でしょう。その際にAIを使ってどういうグループに分類できるかを分析していくのがよいのだとおもいます。そういう販促の実現に向け現在模索している段階です。

福井県を新たな商勢圏に 東名阪の出店は継続強化

──福井県を新たなドミナントエリアにすることを発表されています。

杉浦 中学校の学区程度のエリアに1店舗、これを10店舗ほど出店してその中にカウンセリング機能やヘルスケア商品を強化した核店舗を1店設けるという出店パターンでドミナントエリアづくりを進めます。

加えて、一貫して出店を続けている、人口集中エリアである関東、中部、関西の各エリアへは今後もドミナント策を深耕していきます。

──お膝元の岐阜県、愛知県へ出店する企業が増えています。迎え撃つ格好になりますが、どういう対抗策をお持ちでしょうか。

杉浦 スギ薬局の未病・予防の段階から健康を守るウェルネス事業、地域包括ケアをお手伝いしていくという方針は他企業との優位性になるかとおもいます。

高頻度で来店していただき、われわれの提案している商品をご購入いただけるように、売場のカテゴリーを再編したり、古くなった店は時代に合わせて改装したり、新店を出したり、売場、店舗政策でも競合優位を図っています。

それから、買物目的でなくても気軽に来店していただいて健康測定していただく、そして管理栄養士や薬剤師に健康相談していただく。こういうカウンセリングや健康相談に特化した特色のある店を中部中心につくっています。

競合店は価格に優位性を持たせた企業も多いので主要な商品では負けないような売価を付けていくということも実践しています。

──最近の上場DgSの決算を見ると、食品強化で低価格志向のDgS企業の中には、売上は増えているものの利益率を落としている企業が現れています。こうした状況をどうご覧になりますか。

杉浦 その状況は承知しています。ただ、事業をやる上でさまざまな変動要因もありますし、構造的な問題というよりは単年度のブレの範囲内だとおもいます。

その一方で、商勢圏を拡大してくるとそれまで成功していたエリアとは客層ですとか地代・家賃、人件費などのコスト条件が異なることもあるので、出店エリアを急激に広げている企業は、商勢圏の拡大による足踏み、後退ということも今後起こってくる可能性はあるとおもいます。

マスが効きにくい時代の戦略 BAインフルエンサー化計画

──社会の変化にともない、これまでのメーカーマーケティングが揺らいでいるようにおもいますが、これに関してどうお考えでしょう。

杉浦 画一的な従来の販促は通用しなくなっています。先ほど申し上げたように、お客さまを一層と見なしてチラシ販促を打つという手法が効かなくなっているように、テレビCMの効果もこれまでよりは下がっています。手元にスマホがあれば、新聞も、折り込みチラシもテレビCMも要らない。そういう方が増えているように思えます。

大手メーカーもこういう状況を理解していて、日本人すべての消費を対象にしたマス市場ではなく、マス市場よりも小さいけれど一定の規模を持つスモールマス市場を重視するといった見解を示しています。趣味嗜好が多様化してひとつのフィルターでは捉えきれない時代になっているのです。

こうしたトレンドを背景に、スギ薬局でも売り方や販促の方向性を変える必要があるとおもっています。たとえば、化粧品販売を担当するビューティアドバイザー(BA)の役割や機能も時代に適合させていきたいと考えています。

これまでBAは化粧品のカウンセリングを通じて商品を販売することが主な役割でした。新たな役割としては、BAが化粧品の情報をSNSやインターネットで発信することで、憧れの存在、共感を促す存在になる。「BAさんがしているメイクを私もしてみたい」「BAさんみたいにかわいくなりたい」などとおもわれる存在になってもらう。従来のおすすめ軸から、憧れ軸、共感軸にBAの機能を変化させれば、いまの若いお客さまの価値観やライフスタイルに合うのではないかとおもいます。

構想段階ではありますが、憧れの存在であるBAがSNSやネットで使っていた商品が売場にある。店に行けばBAに会える。こうした店づくり、売場づくりができればリアル店舗の強みが出せます。

──そうすると、画一的に大手メーカーから商品調達をするのではなく、トレンドに合わせて目利きのバイヤーが多品種小ロットで仕入れるといった体制も必要になりますね。

杉浦 トレンドに合った商品、これから流行りそうな商品を仕入れる提案型のバイヤー集団がいれば強みは出るでしょう。以前よりマス販促が効かない時代、商品調達にも何らかの修正が必要なのでしょう。その辺は模索の段階です。

──最後に10年後の会社、ご自身をどのようにイメージされているでしょう。

杉浦 繰り返しになりますが、少子高齢化が引き起こす課題に対応できる企業になっていたいとおもいます。そして地域に貢献していければいいですね。

DgSが社会の課題解決に貢献し、当社並びに自分もその一翼を担う。時代が進むべき方向を指し示せる経営者になっていたいです。

志は高いですが、大事なのは各店舗が地域にどれだけ貢献できるか、お客さまに笑顔になっていただけるかだとおもいます。

──本日はありがとうございました。

「データドリブン」な会社を目指して

大量のデータを簡単に処理し、可視化するツールとして、高く評価されている「Tableau」の使い方を紹介する連載の第1回目。今回は、Tableauの概要をご紹介するとともに、1万件のデータを使ったデータ分析に挑戦してみましょう。

1.はじめに

小売業の仕事の中で、様々な数字・データを元に適切な判断をすることは大変重要であり、いわゆる「ビッグデータ」を呼ばれる大量のデータを分析することで、客観的な事実に基づく判断を行う「データドリブン」な仕事のやり方に変革することが求められています。

一方で日々の業務の中で分析作業に使える時間は限られています。また、大量のデータをExcelなどの表計算ソフトで分析すると、ファイルの容量が大きくなり過ぎ、うまくファイルが開かなかったり、データが壊れたりする恐れがあります。

大量のデータを簡単に処理し、可視化するツールとして、最近は様々なソフトウェアやサービスが出てきていますが、本連載ではそのBIツール(※)の中でも高く評価されているTableauの使い方を紹介していきます。

※BIツールとは?・・・Business Intelligenceの略で、膨大なデータを分析し、可視化するための専用ツールのことです。

2.Tableauってなんだ?

Tableau社は、2003年にアメリカ(シアトル)で設立され、データを可視化し、誰でも簡単にデータを理解できることをミッションとしている会社です。Tableau社が開発している製品には、あらゆるデータを自在に分析できるTableau Desktop、分析結果や発見を簡単に共有できるTableau Server・Tableau Onlineという種類があります。これらは有料ですが、2週間の無料トライアル期間も設定されていますので、本連載で興味を持たれた方は、これらの製品をダウンロードして試してみると良いでしょう。

また、無料版として、Tableau Publicという製品もあります。有償版に比べると、読み込めるデータが限定されていたり、ファイルを保存すると一般公開されて誰でも見れるようになってしまうなど、不便なところもありますが、誰でも簡単に利用を始めることが出来るという利点もあります。

本連載では、利用のハードルを下げるために、Tableau Publicを使って出来ることについて、色々なデータを用いながら説明していきます。

3.Tableau Publicのダウンロードとインストール

Tableau Publicを使うために、まずはソフトウェアをダウンロードし、自分のパソコンにインストールしましょう。パソコンの使用要件として、Windows版はWindows 7以降、Internet Explorer 8以降。Mac版はiMac/MacBook 2009以降、OS X 10.10以降となっていますので、ご自分のパソコンが要件を満たしているか、確認しておいて下さい。

3.1.Tableau Publicのダウンロード

まず、普段使用しているブラウザからTableau Publicをダウンロードするページ(https://public.tableau.com/ja-jp/s/download )にアクセスして下さい。

下のような画面が出て来ます。

「メールアドレスを入力」のところにご自分のメールアドレスを入力し、「Publicをダウンロード」というボタンを押して下さい。「ダウンロードは自動的に開始します」というメッセージが出て来て、パソコンに「TableauPublicDesktop-XXbit-10-X-X.exe」というファイルがダウンロードされます。(「X」の部分にはバージョン等を表す数字が入ります。)

3.2.インストール

ダウンロードしたファイルを開くと、下のような画面が出ますので、ライセンス条件を読み、同意できれば「このライセンス契約書の条件を読んで同意します」というチェックボックスにチェックを入れ、「インストール」ボタンを押します。

しばらく待つとインストールが完了し、Tableau Publicが起動します。下のような画面が出れば準備完了です。

4.簡単な分析をしてみよう

Tableauが提供しているサンプルデータに、「スーパーストア」というデータセットがありますので、それを使って基本的な操作方法を説明していきます。

まず、インストールを終えて起動したとき、またはTableau Publicのアイコンをダブルクリックすると、図4−1のような画面になります。

<図4-1>

左上にある「接続→ファイルへ→Microsoft Excel」をクリックしてファイル選択画面を開き、「サンプル – スーパーストア.xls」というファイルを開いて下さい。このファイルが見つからないときは、windowsの場合は「マイドキュメント→My Tableau Repository→Datasources→10.X→ja_JP-Japan」フォルダから探してください。ファイルを開くと、図4-2のような画面になります。

<図4-2>

これでTableauはサンプルデータを読み込みました。このExcelファイルには、「注文」「返品」「関係者」という3つのシートが含まれており、画面左側にこれらのシート名が表示されています。この中の「注文」シートを、ドラッグアンドドロップで右上の「ここにシートをドラッグ」と書いてある部分に持っていきます。そうすると、右下部分にシートのデータが読み込まれて表示されます。これで「注文」シートのデータを使う準備は完了です。(図4-3)

<図4-3>

画面下側にある「シート1」という部分をクリックして、分析を行うシートに切り替えます。(図4-4)左側は、「ディメンション」という欄と「メジャー」という欄に分かれており、ここにデータが並んでいます。分析する画面は、右部分の「ここにフィールドをドロップ」と書いてある部分です。

<図4-4>


まずはオーダー日による分析をしてみます。左側のディメンションの欄から、「オーダー日」を上段の「列」の欄にドラッグアンドドロップすると、2014~2017までの数字が表示されます。(図4-5)

Tableauでは、日付データは自動的に認識され、「年>四半期>月>日」という単位でドリルダウンしていくことが出来ますが、今回はこのまま「年」の単位での分析を行います。

<図4-5>

ここに、売上データを表示してみます。左下のメジャーの欄から「売上」を「列」の欄にドラッグアンドドロップします。そうすると、Tableauが自動的に最適なグラフの形を選択し、グラフ化してくれます。今回は時系列データですので、折れ線グラフが最適と判断し、折れ線グラフで表示します。(図4-6)

<図4-6>

自分が好きなグラフ・表形式にすることも簡単にできます。右上の「表示形式」をクリックすると、グラフの形を選ぶアイコンが出てきます。試しにここの左上にある表形式のアイコンをクリックします。(図4-7)

<図4-7>

表形式をクリックすると、折れ線グラフで表示されていたデータが表形式として数値で表示されます。(図4-8)

<図4-8>

ここから売上の内容を分析する事も出来ます。例えば、カテゴリ別の売上を見る場合には、左のディメンションの欄から「カテゴリ」を「行」にドラッグアンドドロップします。すると瞬時にデータが切り替わり、カテゴリ別の売上高を表示します。(図4-9&図4-10)

<図4-9>

<図4-10>

(今回のサンプルデータには1万件のデータが入っていますが、)このようにTableauでは、大量のデータを簡単にグラフや表で表示することが出来ます。Tableauには様々な機能が搭載されており、それらの機能を使うことで複雑な分析を簡単な操作で行うことが出来ます。次回以降は色々な機能の紹介をしていきます。

「スマホ」と「レジ」が生産性向上の切り札となるか

「スマホの活用」と「レジの省力化」。コンビニの“今”を語る上で外せないテーマが、この二つである。既存店の売上高伸長率が頭打ちとなる一方、人件費の上昇が続いている。チェーン本部に求められている政策が、店舗の売上をオンさせる、あるいはコストをダウンさせる新たな仕組みづくりだ。コンビニ3大チェーンが、導入と改革を図るスマホとレジ。最新の取組みを整理する。

“飛び道具”スマホの活用で売上オン

全国6万店弱、客数約900人、客単価600円前後、日常生活にすっかり根付いたコンビニが売上をオンするなど至難の業である。来店客数も買上金額も、地道な改善により1%が増減する世界。その厚い壁を壊す取り組みが、「スマホアプリを活用した商品の受注」である。

ローソンは店舗での取り置きサービス「ローソンフレッシュピック」、セブンは店舗からのお届けサービス「セブンネットコンビニ」を推進する。

フレッシュピックは、生鮮三品を中心に、日配品、菓子、調味料、ドリンク等、スーパーマーケットで手に入る商品の購入が可能となる。専用アプリをダウンロードし、カテゴリーごとに分類された商品の中から好きなものを選択してカートに入れる。受け取り日時と店舗を指定して確定し、会計用のバーコードが専用画面に付与される。朝8時まで予約をすれば、当日の(遅くても)18時までに指定するローソン店舗で商品をピックアップできる。

「フレッシュピックはスマホの利用により無限のSKUを展開できる。お客様は、家で待つ必要もなく、遠いお店に行く必要もなく、夕方に近くのローソンに取りにいくだけで無駄のないサービスを受けられる」(ローソン代表取締役社長 竹増貞信氏)

加盟店には、ほとんど負荷が掛からず売上を計上できる。発注も陳列も不要であり、生鮮品を扱っても廃棄の心配もいらない。現在は東京と神奈川200店舗において、仮説、実行、検証を繰り返し、今年度下期になってから首都圏から拡大を図っていく。

ローソンフレッシュピックの商品。センターで袋詰めされウォークイン(ドリンクのバックヤード)に納品される。店舗の負荷はほぼなし。

セブンのネットコンビニは、札幌地区の15店舗で昨年10月にスタート、本年7月に市内100店舗に拡大し、19年度上期に北海道全店(約1000店舗)、同年度下期に順次全国に展開させていく。

専用のアプリに配達可能な近隣のセブン店舗が表示され、お客は店舗を選択し、個店ごとに異なる2800品目の中から選択する。注文を受けた店舗は従業員が商品をカゴに入れ、セブン専用の宅配業者(西濃運輸の子会社)に渡して、業務は完了する。配送車はドミナント内の複数店舗を受け持ち、集荷にあたり、依頼主に配達する。代金は代引きで当面は現金のみ。

現状は基幹システムと連動させず、POS情報が反映されていないため、従業員が商品の有無をチェックし、欠品が生ずれば、店側からお客にショートメールで返信して代替商品は必要か判断を仰ぐ。北海道地区では、配達料は216円(税込み)、注文は1,000円以上、3000円以上は配達料は無料とした。配達時間は11時から20時まで、1時間毎の指定を受け、最短2時間でお届けする。この実験により、少なくても日販2円のプラスが実証されたという。

アマゾンを代表とするEコマースに対してセブンのネットビジネスは、どこに強さがあるのか。オペレーション本部デジタル戦略部統括マネジャーの新居義典氏は次のように説明する。

「全国約2万店を在庫拠点と見なすと1,500億もの在庫金額がある。お店の在庫を有効活用することによって、お客様に一番早く、お届けを実現できるのではないかと考えた。もう一つの強みは私どもの商品。朝昼晩の食シーンのご提案が可能であり、水、米、トイレットペーパー、最寄り品と言われる商品を手頃な価格で用意している。拠点と商品。これを活かすことによって、一番効率的なお届けビジネスを考えたのがセブンネットコンビニである。」

「お客様にとって便利って何? と考えたときに、いつでも頼める、しかも最寄りのセブンから、どこにいても頼める、これが原点である」(セブン-イレブン・ジャパン 古屋一樹 社長、セブンネットコンビニの会見で)。

ネットビジネスに関して回り道をした感のあるセブンだが、“アマゾンエフェクト”に対する解答は、(人時を含む)既存店舗の活用と、配達業務の専用化である。問題は加盟店の負荷であるが、売上が見込めて、オーナーの納得を得られたと判断したのだろう。

ストレスフリー、人時削減でレジは省人化

スマホの活用とレジの省力化。その二つを掛け合わせたシステムが、スマートフォン専用アプリを使用したセルフ決済サービス「ローソンスマホペイ」である。ローソン店内において、お客自身で商品バーコードをスマホのカメラで読み取り、専用のアプリ上でクレジットカード、楽天ペイ、Apple Payを使って決済する。退店時に、スマホに表示されたQRコードを店頭に設置された専用読み取り機にかざすことで、決済済みであることを確認し、電子レシートを表示することができる。都内の3店舗(晴海トリトンスクエア店、大井店、ゲートシティ大崎店)にて4月23日から5月31日まで実証実験をする。

ローソンスマホペイは、店内の商品を手に取ってバーコードを読み取り精算が済む、最後に、専用レジで決済済みを確認し、電子レシートが発行されて完了する。

日中の時間帯はスマホペイと有人レジの併用により混雑が緩和されている。会計に費やす時間を計測すると、スマホペイはレジ待ちする既存の会計と比較して、およそ3分の1に時間短縮が実現できている。お客にとってのストレスフリーだけではなく、混雑時に入店を取り止めたお客の「機会ロス」を削減する効果もある。客数の少ない深夜帯においては、従業員のレジ作業が軽減され、レジ無人化も実現できる。

レジの省力化について、ファミリーマートは本年度、効果が見込める店舗に1000台の「セルフレジ」を導入する。ピーク時は、キャッシュレスによるセルフレジにより、お客の流れも速くなり、列に並ぶストレス緩和に効果を発揮する。1台につき1日1人時の削減効果があるという。

ローソンは本年度、全店に「自動釣銭機付きPOSレジ」を導入する。商品のスキャンと読み上げ、袋詰めは従業員の仕事だが、現金の支払いについては、お客自身が紙幣や硬貨を機械に通して精算する。コンビニの風景をも変える大きな決断と言える。

この新しいPOSにより、レジ点検、レジ締めが不要になり、1日2人時の削減が可能になる。“浮いた”2人時に対してチェーン本部は、コスト削減に終わらせるのではなく、カウンターFF(ファストフード)など販売強化への充当を期待する。

一方のセブンも釣銭機付きPOSの導入を検討しているが、総じてレジの合理化には前向きではない。セブンは“レジ業務”と言わずに、レジは接客する場だから“レジ接客”と呼んでいる。顧客接点を大切に考え、レジは単なる金銭授受の場ではなくコミュニケを図る場と考えているようだ。

カウンターフーズも、この夏から「焼き鳥」を新規導入する。カウンターのレジを受け持つ従業員が、おいしさを伝え、販売を担っていく。セブンは元々、商売に向きあう商人のDNAが強いのだ。デジタル化が進むコンビニだが、守るべきアナログ思考も健在である。

テレビ広告より響くようになったYouTube販促

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役、『月刊マーチャンダイジング』主幹の日野眞克です。WEBメディア『MD NEXT』に毎週、その週の話題のニュースを解説したり、取材内容のエキスを紹介したり、月刊マーチャンダイジングに掲載された記事の解説などを連載していきます。

YouTubeを使った店頭販促の実験

第1回は、『月刊MD』6月号に掲載されているドラッグストア店頭におけるYouTube販促の事例を解説します。この販促は、昨年(2017年)11月から、資生堂が「アベンヌウォーター」というブランドで実施したものです。

アベンヌウォーターは、フランスの製薬メーカー「ピエール ファーブル社」と資生堂の合弁会社である「ピエール ファーブル ジャポン」が日本での正規代理店を務めています。

アベンヌウォーターでYouTube販促を行った目的のひとつは、新規客の獲得です。ロングセラーブランドであるアベンヌウォーターの固定客は、発売当初よりも年齢層が高くなっており、10代、20代の新規客を獲得することが課題とされていました。(固定客が高齢化しているロングセラーのブランドって結構多いんですよね)。

また、資生堂が得意とするテレビ広告は、高年齢層には効果がありますが、10代20代の若者にはあまり効かないということもYouTube販促を行った理由のひとつです。事実、私の19歳の息子も、ほとんどテレビは見ないで、YouTube、Twitterでほとんどの情報を収集しています。

販促の内容は、ドラッグストアの店頭のトップボードに、ビューティ系の人気YouTuber「かわにしみき」さんの写真を使用し、中央にDVDプレーヤーを設置、そこで「かわにしみき」さんが、アベンヌウォーターを紹介する動画を流しました。

動画もテレビ広告のようなブランドの宣伝ではなくて、富士急ハイランドに遊びに行った「かわにしみき」さんが、乾燥した肌をケアするために、さりげなくアベンヌウォーターを使って効果を伝えるというものです。ブランド目線ではなくて、使用者目線の情報発信で好感がもてます。

実施期間:2017年11月21日〜2018年2月20日
実施店舗数:首都圏中心に214店舗
設置物:トップボード(600mmワイド)、POP、商品、テスター、DVDプレイヤー

マーケテイング、営業、小売業 三位一体の販促

結果は、YouTube販促を実施した2017年12月のアベンヌウォーターの売上は前年比122%と、YouTube販促が一定の効果を上げていることがわかります。ピエール ファーブル ジャポンの担当者によれば、「YouTube販促は若年層の獲得に効果をあげていると実感しています」とのことです。

また今回の販促の良い点は、通常は縦割りで分業化しているメーカーの「マーケテイング」と「営業」の2つの組織が、企画段階から共同で会議を開き、行動し、小売業に企画を提案したことです。資生堂にとっても、マーケテイングと営業が協働した、従来にない貴重な事例だったそうです。縦割組織の弊害を突き破ることも、SNS時代のマーケテイングでは重要なポイントだと思います。

一方、昔の小売業のバイヤーは、「テレビCMの投入量」で商品や企画の採用を決定する傾向が強かった。資生堂も、小売業のバイヤーは、YouTube販促に否定的なのではと心配していたそうですが、予想以上に好意的で、積極的に多くの売場を提供してくれたそうです。小売業のバイヤーの意識も変化しているようです。いいことです。

さらに、小売業の2つの縦割組織である「商品部」と「店舗運営部」も緊密に連携して、企画の売場実現と検証に積極的に協働しました。

今回のYouTube販促は、テレビ広告のような分業販促とは異なる、メーカーの「マーケテイング」と「営業」と「小売業」の三位一体の協働販促だったわけです。もっといえば、「マーケテイング」「営業」「商品部」「店舗運営部」の四位一体の協働販促でした。

店頭をメディア化するためには、縦割組織の壁を越えた緊密な連携と、スピード感のある行動、素早い検証がなによりも重要だなと実感しました。

ジーユー横浜港北ノースポート・モール店が提案する「新しい買物体験」

2017年9月15日、ファストアパレル大手のジーユーは、神奈川県横浜市都筑区のショッピングセンター、ノースポート・モール内に「ジーユー横浜港北ノースポート・モール店」をオープンした。ジーユー史上最大級の品揃えと売場面積を誇る同店は、デジタル技術を駆使したファッションデジタルストアという位置付け。実験的なさまざまな取組みをご紹介する。(月刊マーチャンダイジング 2018年2月号より転載、企業概要等は当時のものです)

カートと鏡でスタイリング提案

ノースポート・モールは、横浜市都筑区の港北ニュータウンの中心エリア、横浜市営地下鉄センター北駅前に位置する2007年4月開業の複合商業施設だ。2017年9月に大規模リニューアルを実施し、この「ジーユー横浜港北ノースポート・モール店」も450坪から820坪へと売場面積を拡大、国内最大級の店舗としてリニューアルオープンした。

ジーユー横浜港北ノースポート・モール店内レイアウト図
ジーユーといえば、カジュアルなコーディネートという印象があるが、 キレイめコーディネートや超大型店限定商品も取り扱う

スポーツ系商品の利用シーン想起のために 特注したマネキン

同改装により商品点数も標準店の2倍に拡充され、超大型限定商品の取扱いも開始。特筆すべきは「新しい買物体験ができるファッションデジタルストア」として、さまざまなテクノロジーが売場に導入されているという点だ。

そのひとつである「オシャレナビ・カート」は、ショッピングカートにタブレットとセンサーが付いていて、お客が気になった商品のタグをセンサーにかざすと、タブレットの画面にさまざまな商品情報が表示されるというもの。

「オシャレナビ・カート」。カートにタブレットとRFID読み取り機が付いている

たとえば在庫について「在庫あり」「在庫わずか」「品切れ」「取り寄せ可能」と表示。取り寄せの場合は、オンラインストアから送料無料で自宅に発送、または店舗受け取りを選ぶことができる。タブレットには商品を着用したイメージ画像が表示されるため、コーディネートのイメージづくりの役に立つ。また、タブレットに表示されるお客からの口コミ情報を、購入に迷ったときの参考にすることもできる。

カートのRFID読み取り部に商品タグを近づけるだけで 商品が認識される
商品ごとの色、サイズ展開が表示され、それぞれの在庫状況が参照可能。またスタイリング画像も表示され、コーディネートの参考にすることができる
お客からの口コミ情報も掲載されるので、いちいちスマートフォンで商品を探して口コミをチェックするという手間もかからない

商品タグをかざさなくても、このオシャレナビ・カートは店内のさまざまな場所に設置されているビーコンの情報を拾い、それぞれの売場のおすすめ商品情報などを表示する。広い売場の中で、お客がスムーズに好みの商品を発見することで、買物をさらに快適に楽しんでもらうことを目指す。

もうひとつのデジタルツールが店舗内に数ヵ所設置された「オシャレナビ・ミラー」だ。通常は普通の鏡として利用できるが、鏡の脇に設置されたRFIDセンサーに商品をかざすと、鏡にその商品を着用したモデルや一般人のコーディネート、購入したお客の商品レビューなどが表示される。新しいスタイリングの発見に使ってもらいたいと考えている。

「オシャレナビ・ミラー」は、鏡の裏側から画像が投影されていて、画像が透けて見える
読み込み部にRFIDタグを近づけると、オシャレナビ・カート同様スタイリング画像や口コミが表示される

店長の新井香緒さんによれば、「(これらのツールについて)お客さまからの関心も高く、楽しく使っていただいています。楽しくお買物ができました、という声をいただくこともあります」と、総じて利用したお客の満足度は高いという。

なお、これらのツールで表示される画像には、スタイリストによるコーディネート写真だけでなく、同社のスマートフォンアプリ「ジーユーアプリ」の中の「ジーユーシェア」という写真投稿コミュニティの投稿を利用している。ユーザーの投稿写真を利用することで、もっと身近さを感じてもらいたいという狙いだ。

また、購入時にお客が参考にするのはマネキンだけでなく、ジーユーのアプリやWEB上のコーディネート画像である。その商品を使ってどのようなコーディネートをすればいいのか、参考となるイメージ画像のニーズが非常に高いのだ。今回のデジタルツールは、そんな利用シーンを想起させる実験のひとつといえそうだ。

RFIDタグ導入で決済・棚卸しのスピードアップ

もうひとつ大きなデジタル化は、セルフレジの導入だ。白いタイル壁の部屋には、10台のセルフレジが並ぶ。ATMのような形をした、大きなタッチパネルの付いたレジの下部には、ロッカーのような扉があり、ハンガーを外した商品を、かごのままその中に入れる。扉を閉めてタッチパネル上のボタンを押すだけで、あっという間に商品情報の読み込みが済み、合計金額が表示される。

真っ白なタイル壁の部屋に10台のセルフレジが並ぶ
セルフレジの下部に扉が付いており、 この部分に商品を入れ、扉を閉める

あとは、現金かクレジットカードかを選択し、投入口に入れればよい。商品登録前にはアプリの会員証のバーコードをレジに読み込ませることもできる。

商品情報の読み込みは一瞬で完了。 当然間違いもない
本体下部の投入口に現金もしくはクレジットカードを入れることで決済完了。 所要時間がこれまでの最大で約3分の1に短縮されるという結果が出ている

また、タッチパネルでは言語(英語、韓国語、中国語)の選択もできるので、インバウンド対応にも効果を発揮する。商品のサッキングは、会計コーナーの奥にある台でお客自身が行う。

このレジによって精算時間が最大で約3分の1に短縮できるという結果も出ており、スピーディに会計を済ませることができる。SPA(製造小売業)であり、全商品にRFIDタグを付することができる同社ならではの取組みといえる。違算のストレスの排除など、決済に関しては大きなメリットがある。

RFID導入によるもうひとつの大きなメリットは、棚卸し時間の短縮・作業量の削減だ。RFIDタグが付けられた商品の棚卸しは、商品のそばでハンドスキャナーをかざすだけで済む。大量の商品を扱う同店にとって、その効果は計り知れない。

「効率化した分だけ、店舗従業員が売場に出て、お客さまへの接客を増やしていこうと考えています」と店長の新井さんはいう。「ジーユーの超大型店ということもあり、オープンから2ヵ月が経過しましたが、多くのお客さまから支持をいただいています。大きい店舗でデジタルツールを使うという新しい取組みの難しさもありますが、お客さまの反応を見てやりがいを感じています。お客さまには不備のないように配慮していきたいです」(新井さん)。

店長 新井香緒さん

機材やデータのメンテナンスなど、これまでにない業務が店舗に発生していることもうかがえるが、効率的なオペレーション確立に対し非常に積極的に取り組む同社の姿勢には学ぶべきものが多いのではないだろうか。

「小売業はマッチングの精度の競争になる」

日本全国に約200店舗を展開するトライアルホールディングスの西川晋二氏が登場。1980年代の創業初期段階から日本の小売市場の発展を見越し、小売・流通業にフォーカスしたIT分野に着目し続けている同社は、そのIT技術を駆使しつつロープライスを実現しています。超激安のプライベートブランド(PB)戦略がイメージされる同社ですが、近年はジョイント・ビジネス・プラン(JBP)を採用し、メーカー協働で売場をつくる方向へ大きく方針転換。その裏側には、MD-LINKというITシステムの存在があるといいます。リテールメディアの将来、小売業のAI活用…同社のITについての考え方を西川さんに伺いました。(月刊マーチャンダイジング 2017年12月号より転載、企業概要等は当時のものです)

 急成長に追随できる柔軟なシステムをつくる

──御社はもともとシステム開発事業が基盤にあった会社と伺っています。まずは小売業に転換した経緯を教えていただけますでしょうか。

西川 当社は創業40年のうち30年以上の間、情報システム開発事業に取り組み続けています。創業当時は家電中心のリサイクルショップで、そこから家電の量販店ビジネスに転換しました。 そこで関係ができた家電メーカーさんから、パソコンやオフコン(オフィスコンピュータ)の販社をやらないかという声が掛かりました。でも販社だけでは商品が売れませんので、ソフトを開発するようになったというのが、システム開発事業を手掛けるようになった経緯です。そこで小売関係のシステム開発も行うようになりました。ルミネさんなどのショッピングセンター、アパレル関係、道の駅など、さまざまな小売業にシステムを導入しました。1990年代後半ぐらいのことですね。

並行して、当社の経営陣は家電量販以外の小売フォーマットを確立しようと、アメリカ視察を続けていました。ちょうどそのころ発見したのが、ウォルマートのスーパーセンターです。まだスーパーセンターという業態が日本であまり知られていないころで、この業態の開発に乗り出すことになりました。1996年には初のスーパーセンターフォーマットとして、トライアル北九州空港バイパス店をオープンしています。

──ウォルマートが西友沼津店に日本初のスーパーセンターをオープンしたのが2004年ですから、相当早い時期ですね。

西川 そうですね。その時期からPOSを自社で開発したりしていました。

──御社はシステムを内製化しているということですが。

西川 以前より内製の度合いは下がりました。現在は基幹システムの中心に数理技研社の「CoreSaver」という高速なデータベースを採用していて、その周囲のオペレションに関わる部分を内製しています。オペレーションに関わる部分は差別化の源泉になりますのでそこは自分たちでつくって、中心のデータを一元的に処理する部分は「餅は餅屋」で外部のパッケージを使うという構成です。データ分析はさらに競争力の源泉となりますので、データ分析基盤を「SMART」と命名して内製しています。

──その方が柔軟性のある運用ができるということですね。

西川 そうですね。いまから15年前の当社は売上高200億円ほどの規模でした。現在は売上高3,700億円まで伸びていて、5年後の2022年までに売上高1兆円を目指すというかなりアグレッシブな成長を計画しています。システムもこの成長に追随していく必要があります。

今後、高齢化と人口減少によって、流通小売業の市場はより縮小します。一方、Eコマースの伸長によって、既存の小売市場は30年後には半分になるともいわれています。小売業はもちろん、メーカー、卸もその波に巻き込まれます。この流通構造の変化に危機感を持ち、時代の変化とともに変わっていく必要があります。寡占化による効率化と、IT、AIによる効率化は不可欠です。

当社は、商圏人口に合わせたマルチフォーマット戦略で、地域ドミナントを達成することを目指しています。マルチフォーマットは「スーパーセンター」「メガセンター」「ドラッグストア(DgS)」の3業態を持っていて、商圏に合わせて出店をしています。主体となるのがスーパーセンターです。商圏半径3km、人口2万~3万人の商圏に対し、売場面積1,200坪の田舎型と、600坪の都市型店舗を展開しています。 メガセンターでは、商圏半径10km、人口10万人の大商圏に対し、売場面積2,000坪の大型店舗を展開。店舗内では約15万SKUに及ぶ深い品揃えとなっています。DgSは、商圏半径3km、人口1万人の小商圏向けの店舗を展開します。そして、今後はこの業態を踏襲しつつ、中食に力を入れた新業態「クイック」を立ち上げる予定です。

会計は、セルフレジ3割、セミセルフ7割。トライアルでは、 セミセルフの割合を高めていきたいとしている

JBPを支えるMD-LINK

西川 日本における流通市場規模は、約140兆円ともいわれていますが、そこには膨大の額の「モノを売るためのコスト」が掛けられており、多くの無駄なコストも存在しているといわれています。そのため、日本の流通小売業のROE(ReturnOnEquityの略。株主資本対純利益率。経営効率の指標とされている)は欧米と比較して格段に低い値です。この無駄なコストを削減していくことが、収益力を上げる鍵になってくると私たちは考えています。

そのための手段のひとつがJBP戦略です。JBPとは、小売業がメーカーや卸とともに販売促進や物流、在庫管理に共通の目標を掲げて取り組んでいく取引形態のことです。それは単なる取引ではなく、小売とメーカー間の壁を取り払い、課題を理解し協力し合う、いわば、取引ではなく「取組み」でなければなりません。また、JBPにおいては、小売と取組み企業間の「ミラー型」の体制を組むことが実現への第一歩となります。

当社は定期的にこのJBP先進国であるアメリカに赴き、メーカーに選ばれた小売が生き残るということを学んできました。そして昨年度より、現地の大手小売店と大手メーカーとの取組みをビジネスモデルにしながら、日本独自のJBPをスタートさせました。その結果、生産、物流、在庫、店頭などのコストを削減、流通を効率化することで、着実に成果が出始めています。

──その中で情報システムをどのように活用されているのでしょうか。西川 MD-LINKという仕組みを使って、現在約240社の取引先と情報共有しています。このコンセプトはウォルマートのリテールリンクからヒントを得たものです。ユーザーは当社のID-POSデータにアクセスすることができます。好きな切り口でデータを抽出することはもちろん、WEBシステム上に分析メニューもありますので、それを使って分析することもできます。システム開発と運用のコストの一部負担という趣旨で、売上高に比例した課金をさせていただいていますが、リベートの代わりにPOSデータを販売するというような考え方ではありません。

当社はカテゴリキャプテン制度を採用していまして、カテゴリーごとにメーカーさんにキャプテンになっていただき、トライアル全体のカテゴリーの売上・利益をどうすれば最大化できるかということを見ていただきながら、品揃えや売場づくりを提案していただいています。

──どのレベルまで細かいデータを見ることができるのでしょうか。

西川 見ようとおもえば、単品レベルのID明細、つまりお客さま一人ひとりのデータを見ることができます。在庫や入荷が見られるのはもちろん、単に売上だけではなく、営業利益まで参照することができます。

飲料カテゴリーは、利幅が少なかったこともあり去年までは赤字が続いていたのですが、某大手飲料メーカーさんがカテゴリキャプテンをつとめてくださったことで、黒字化することができました。カテゴリキャプテンになってもらって、数字を握ってもらう以上は、そのために必要な実績は見ていただこう、という考えです。

──MD-LINKの利用にあたってはいろいろな要望がメーカーさんから出てくるかとおもいますが、どのような優先順位で開発に着手されているのでしょうか。

西川 当社と取り組んでくださっている企業さんと一緒に、MD-LINK研究会という勉強会を実施しています。その中で議論をしながら、MD-LINKの活用法・改善点や業務課題を意見交換してもらったり、新商品立ち上げや、サプライチェーンの成功事例などをサプライヤーさんに発表していただいています。

──御社はPB中心というイメージがありました。

西川 JBPを行うように方針を転換してから、PBを減らしてナショナルブランド(NB)中心に扱うように変化していま す。

JBPでは、年1回ほどのペースで、メーカーさんと一緒にアメリカ研修に行っています。前回は140人ほどの陣容で、某大手外資系メーカーの本社や、ウォルマートの本社があるベントンビルを訪問しています。前半のハイライトは、P&Gとウォルマートがいかに協力関係をつくっていったのかをP&Gの初代カスタマーチームリーダーに語っていただきました。次にユニリーバのカスタマーマーケティングチームの方に、JBPの具体的なプロセスをご紹介いただき、最後に某大手外資系メーカーの本社で、最新の企業対企業の取組みについてのお話を伺っています。

タブレットカートでリテールメディア化推進

これがプロモーションのテストを行っているカート

──以前は中国に600人規模の開発の拠点を持って、オフショア(海外)でシステムを開発しているのも御社の特徴でした。

西川 中国の開発人員はひところより減っています。現在は日本と中国を含めて300人ぐらいの陣容です。いま中国にいるメンバーは、長く一緒にやってくれている強い人材が残っていて頼もしい仲間です。いまも開発の主たる現場は中国です。オフショアといえば、上流工程を日本人がやって、プログラミングを海外で、というのが一般的でしたが、当社では日本に中国人のメンバーが来て上流の仕事をするというようなこともあります。

──情報システムはクラウド上で運用されているのですか?

西川 いいえ、いまはクラウドは使っていません。オンプレです(データセンターにある物理サーバーを利用している)。

──クラウドの採用は時期尚早ということでしょうか。

西川 たまたまシステム刷新のタイミングと、クラウド普及のタイミングが合いませんでした。また、現在のシステム構成では、コスト面でもいまのところオンプレの方が優れているという状況です。次のシステム更新のタイミングでは、クラウドの活用も考えたいとおもっています。要するにやりたいことができればいいので、クラウドがいいとか、オンプレがいいということではありません。

──技術を採用するときに方針はありますか。

西川 システムにイノベーションを起こしていこうとしたときには、新しいものにチャレンジしなければなりませんが、基幹システムやオペレーションをつかさどる方は、枯れた技術がよいと考えています。

──最近バズワードかとおもうほど、ちまたではAIという言葉が使われていますが、御社はAIをどのように活用されようとしていますか?

西川 AI技術を活用して、OneToOneマーケティングをしたいと考えています。過去の購買データや、回遊データをAIで分析し、そのデータを現在テスト中のタブレットカートなど、情報発信の技術と組み合わせることで、お客さまの買物をサポートするというものです。ログインした状態でタブレットカートを使っていただくことで、売場に合わせてパーソナライズされたクーポンをタブレット上に表示することができる状態を目指します。今後、売場のマーケティングは重要なポイントだと考えています。モノを売るためのコストが売場にシフトすることで、無駄なコストが省けるはずです。

決済ができるタブレットカート。 カート置き場で充電をしている
チャージ済みのプリペ イドカードをスキャン。 カード裏に記載された PINコードを入力する ことでログイン完了
ログインすると、ビーコンでカートの位置を把握し、近くのカテゴリーの おすすめ商品がポイント10倍商品として表示される。 店内を移動する と、画面に表示されるカテゴリーも変化する。 将来的には、この画面を購 買履歴などを参考に、それぞれのお客に合わせて最適化して表示したい という。 実験段階ということもあり、ビーコンの精度はまだ低いが、現在 新しい技術の導入を検討しており、より精度の高い店内での位置補足を目指したいという

もうひとつ取り組んでいることが、タブレットカートでチェックアウトをしながら買物をしていただくというものです。ログインした状態で購入した商品をスキャンし、その情報を分析することで、タブレット上でおすすめする商品もリアルタイムに変わっていく。よりよい買物体験をしていただくことを目指します。

商品詳細画面には「52A-3」のよう に棚番号が記載されているので、 掲示されている棚番号と照らし合わせて目的の商品の場所にたどり 着くことができる。ビーコンの精 度が高まれば、レイアウト図に現在 地をリアルタイムでマッピング表示 することも可能になるだろう
トライアルカードの会員のみ が利用できる。通常ポイント は200円 で1ポ イント付与されるが、このカートを利用する と、カート専用ポイントがプラスされる仕組み

われわれは、お客さまの買物行動をプッシュする新しいメディア、つまりリテールメディアをつくっていこうとしています。実店舗に日常の買物に来られるお客さまのうち、買うものを事前に品目まで決めている割合は2割程度で、残りの8割は非計画購買だという調査結果があります。つまり8割のお客さまは「夕飯のおかずの肉を買おう」とか、「子供の衣類を買おう」とか、「生活消耗品を買おう」とか、漠然と買うカテゴリーを決めていても、ブランドやアイテムは決まっていないという状態なのです。テレビや広告などのマス広告は、商品についての一定の認知を得られるかもしれませんが、最後にお客さまをプッシュする効果は見込めません。ですから、店舗のメディアとしての役割は非常に重要です。売上の違いにもつながりますし、ブランドスイッチのきっかけにもなります。

当社の会長の永田(久男氏)は、ビールのシェア上位3社で使われている、テレビCMを中心とした莫大な額の広告宣伝費は大きな効率化の対象になりうると常日ごろからいっています。これを店頭にシフトしていくべきですし、もっと効率的に使っていかなければおかしいのです。店舗のメディアがマスメディアに取って代わる部分が必ず発生する。リテールメディアで価値をつくっていこうとしています。

膨大な最適化課題はITなしには解決し得ない

タブレットの下についているスキャナで商品バーコードを読み取ると、商品の価 格 などがタブレットに表示され、登録完了。 この後右下の支払い画面へのボタンを押すだけで、プリペイド カードから商品代金が引き落とされ、決済完了となる
ビールなど、対面での確認が必要 となる商品は、店舗従業員のネー ムカードのバーコードを読み込む ことで確認をして販売終了という 流れになる。レシートは、レジ横に 置かれたプリンターでプリントす ることができる

──中国にもよく行かれているようですが、比較して今後日本の小売業はどのように変化していくと思われますか。

西川 あちらはほぼキャッシュレスの状況です。日本も支払いはできるだけキャッシュレスにしていく必要がありますね。ATMに代わるものを小売が提供すべきでしょう。プリペイドカードへのチャージも、銀行口座と直結してオートチャージになっているといいですね。現金やチャージの手間がない状態で、買物できる環境を目指したいです。

Amazonが全部を席巻するのではないかということに関しては、実店舗が便利で安くて、欲しい品揃えをきちんとしているという状態をつくることで、お店に行った方がいいよね、とお客さまにおもっていただくことが大切です。危機感を持って変化すべき時期なのだとおもいます。

われわれは、お客さまのニーズや地域ごとのいろいろな違いに対して、究極のところまでマッチングできているかというと、まだまだできていないことの方が多い状態です。ですからまだやる余地は大きいですし、そこにいままでよりもより早く細かく自動で情報を処理できるコンピューティングを活用しない手はありません。

人間に欠けているのは「網羅性」です。小売はどうしても、「勘と度胸」のようなところがあって、これまではそれでも一定の成果を挙げることができました。しかしこれは局地的なものにすぎません。当社のように、大量のアイテム数があって、最適な品揃えをしなければならないような業態にとって、コンピュータやAIは不可欠な存在です。小売業は、膨大な最適化の課題を解くということだと思っています。マッチングの精度の競争ではないでしょうか。マッチングとマッチングの戦いになります。

──店頭起点のマーケティングの高度化を訴え続ける本誌と非常に親和性がある取組みですね。本日は大変刺激的なお話をありがとうございました。

「情報格差を無くすことが新しいチェーンストアの役割」

連載第2回目は、北海道を中心にドラッグストア(DgS)を約190店舗展開するサツ ドラホールディングス(HD)代表取締役社長の富山浩樹氏が登場。 企業規模は中堅ですが、2016年8月に設立した純粋持ち株会社サツドラホールディ ングスでは「リテール(小売業)×マーケティング」をコンセプトに掲げ、子会社の リージョナルマーケティングでは地域ポイントカードのEZOCAを推進。 既存店舗のリブランディングや、AI関連会社の子会社化、地域コミュニティの創出など、 幅広く挑戦的な取組みを行います。 技術が小売業を、そして社会をどう変えるのか。 話は「産業革命に匹敵する社会の変化」にまで広がりました。(月刊マーチャンダイジング 2017年9月号より転載、企業概要等は当時のものです)(聞き手:月刊マーチャンダイジング主幹 日野眞克)

POSとMDシステムが ITの基軸となる

──御社はこの6月に情報系の企業を2社子会社化されました。まずはその経緯からお聞かせください。

富山 今回、人工知能(AI)関連の会社であるエーアイ・トウキョウ・ラボを資本提携で、クラウドPOSシステム開発の会社であるGRIT WORKS(以下グリットワークス)を4U Applicationsと合弁で設立し、子会社化しました。

私どもはリテールを含めたあらゆる事業にとって、テクノロジーは不可欠なものになると考えています。世の中には新しい技術がどんどん登場していて、情報システムをまるでプラモデルのようにいろいろなパーツを組み合わせてつくり上げていくようになりつつあるなか、何を核と考え、何を外部に開発委託するのかの選択が非常に重要になりました。そして、核の部分を自分たちでしっかりとコントロールできる体制も必要です。

リテールテクノロジーの基軸は、POSとマーチャンダイジング(MD)システムです。POSはすべてのデータの入り口で、MDシステムは商品マスタを軸に、発注や販売管理、在庫管理などを含めた、一気通貫した商品の流れであり、チェーンストアの核となる仕組みといえます。ここを柔軟に、スピード感を持ってつくっていかなければなりません。しかし、これまでの情報システムのつくり方ではスピード感が足りず、自分たちでやりたいこともなかなか実現できないという状況でした。

──ITの会社を子会社化することで、スピード感のある開発ができるようになるということですね。

富山 はい。たとえば今回エーアイ・トウキョウ・ラボを子会社化したことで、商品リコメンドのような仕組みであれば、自分たちで開発することができるようになりました。一方データ分析であれば、Tableau(タブロー)のようなグローバルスタンダードのツールを選択していくというような切り分けができるようになります。

──グリットワークスはクラウドPOSの会社ということですが、御社はかなり早い段階でクラウドPOSを導入されたそうですね。

富山 はい。2013年に当社の子会社で、EZOCAという地域共通ポイントカードのサービスを提供しているリージョナルマーケティングを立ち上げたのがきっかけでした。EZOCAをサツドラに導入するため、POSの改修をメーカーに打診したのですが、開発費の見積もりが非常に高額になり、さらに数年先の仕様まで決めてほしいといわれました。これではEZOCAをスタートできないと、4UApplicationsさんとともに当社オリジナルのクラウドPOS開発に着手したんです。2013年6月にプロジェクトが始動し、2014年に実店舗での実験にこぎつけました。同5月には600台の既存POSをすべてクラウドPOSに移行し、その後ギフトカードや銀聯(ぎんれん)決済対応、免税パスポート対応、SuicaなどのICマネー対応などなど、日本でもかなり早い段階でさまざまな決済方法に対応しています(図表1)。

当社は、企業規模もさほど大きくはなく、体力があるわけでもありません。これだけのことを行うのに、大手ベンダーさんに外注したらコスト的に耐えることはできませんでした。内製化してクラウド化したからこそ、自社の仕様に適したものを低コストでつくることができたのだとおもいます。

IT企業との協業の秘訣は歩み寄りと相互理解

──少し下世話な話ですが、POSのレジをクラウドPOSにすることでコストは下がるのでしょうか。

富山 そうですね。新店のPOSシステム導入コストは44%ダウンしました。

──POSは、一般的にはハードとアプリは抱き合わせで販売され、運用や改修にも相当な費用が掛かります。

富山 そうですね。アプリを内製化してハードとアプリの分離に成功したので、さまざまなメーカーのPOSを導入できるようになりましたし、使わない機能が多いパッケージライセンスを購入する必要もなくなります。

──4UApplicationsさんというIT企業とのクラウドPOS開発という協業が功を奏したのですね。

富山 4UApplicationsさんは、技術的には優れていましたが、エンドユーザーである小売業と直接取引をする体力はなく、大手システムベンダーの黒子に甘んじていました。直接の取引はわれわれがはじめてだったそうです。

──お互いが歩み寄ることができたから成功したのでしょうか。

富山 歩み寄ったことと、理解したことが重要です。いわゆる受託の関係ではなくて、パートナーシップという関係性を築けたことが大切なのだとおもいます。

──なるほど。しかしこれだけスピード感のある開発ができるのであれば、5年リースのPOSで縛られている小売企業は遅れてしまいますよね。

富山 そうですね。DgSのレじはたぶん全業態の中で、一番オペレーションが煩雑なのではないでしょうか。クーポンやポイントを複数導入しているようなDgSチェーンさんでは、POSの仕組みが全然追い付いていなくて、人間業で何とかしなければならないような状況で、大変だなとおもっています。

当社は全店約700台のレジで、POSレジを通過した瞬間に、レシートごとに売上がシステムに計上されるようになっています。(スマートフォンを見せながら)

これは当社のいま現在の実績です。たとえばここに客数という項目がありますが、今日これまでに3万2873人がレジを通過されたということがわかります。いま3万2888人になりました。もちろん店舗別や地区別のようにさまざまな切り口で表示することもできます。

──これはすごいですね。リアルタイムでの売上や在庫のデータ処理はあるべき姿ですが、実現できている企業はそう多くはありません。アメリカでオムニチャネルを視察した際。実店舗とECの在庫データを一元管理できないと実現できないということがよくわかりました。いまDgSでそれができている企業はほとんどありません。

富山 私どもは、オムニチャネルについてはまだ全然着手できていない状態ですが、今後非常に重要になると感じています。将来的にはいつでもどこでも買物ができる体験をオムニチャネルを通じて提供していきたいのです。

──昔は情報システムの導入は、業務のローコスト化が主な目的でした。ですが、いまはシステムを入れることによって、お客に店としての価値やブランドとしての価値を提供し、満足度を上げていくためのものになりつつありますね。そういう意味で、情報システムの導入により、いわゆるお客さまの満足度や、サツドラさんの強みをより強化できたような事例はありますか。

富山 POSにさまざまな決済の仕組みを追加していくことができたのは、そのひとつだとおもっています。EZOCAも会員が141万人まで増えました。提携社数は100社、600店舗(2017年6月現在)です。先般(ホームセンターの)ジョイフルさんにも導入いただきました。電子マネーや決済系の新しい仕組みが出てきたときに、自社に導入しようとしても、POSを更新できずに止まってしまう企業さんは少なくありません。POS導入の予算が取れないとか、時間がかかるというような悩みに対して、グリットワークスでソリューションを提供することができるのではないかと考えています。

クラウドPOSを独自開発することで、POSのハードウエアは自社で好きなものを選択できる状況になった。これはFujituのPOSレジに、NCRのバーコードリーダーが付いている様子。使い勝手がよいものを、自社の基準で組み合わせられる、まさに内製化によってシステムイニシアティブを勝ち得た事例といえる。
電子マネーはシンクライアント型を採用し交通系、iD、QUICPay、nanaco、WAON、楽天edyのフルラインナップを低コスト、短期間で全店舗に導入。レジ金額入力後、カードをかざすまで数秒待たされるものが多いが、こちらはシンクライアント型であることを感じさせないスピーディな決済を実現している

可能性のあるDgSのデータ領域

──現在御社の情報システム関連の社内体制はどのようになっているのでしょうか。

富山 業務システム部という部署が担当しています。もともとは業務改革チームという組織が、社内の業務改革を担当していました。そのほかにITを中心に担当する情報システム部があったのですが、それらをひとつにして業務システム部にしたのです。このようにして、業務に沿ったシステム開発ができるようになりました。要件定義から、開発、テストというITシステム開発の一連の流れを内製化して自分たちで回せるようになったのと同時に、ITを業務に落とし込んで、マニュアル化するところまでこの部署で担当しています。この体制をつくることができたのが肝だとおもっています。

──縦割りの業務に、横串を指す役割ですね。

富山 はい。現在業務システム部は15人ほどで運営しています。今回グループ会社を増強した理由のひとつが、開発のスピードを上げたいと考えたからです。内外の組織と密に連携し、外にネットワークをつくり、技術が好きな人材を集めるための仕組みともいえます。これから実店舗を含めたリアルな世界がデジタル化するところが主戦場になっていくと、私はおもっています。デジタル側の人材も、店舗や決済の仕組みを含めて、生活に関連するサービスを開発することができ、開発したものを多くの人に使っていただけるという環境を求めているようです。今後、オープンイノベーション※1の実行団体を設立し、そこでさまざまな実証実験を行っていきたいとおもっています。当社は実店舗という場や、そこから得られたデータを提供し、さまざまな企業・団体の方に、それを利用して研究開発をしていただく。単なる受託関係ではなく、お互いに次に使うことができるものを開発していきましょうという試みです。

※1 オープンイノベーション:自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデル、研究成果、製品開発、サービス開発、組織改革、 行政改革、地域活性化、ソーシャルイノベーションなどにつなげるイノベーションの方法論である。

私たちが目指しているのはこういう世界(図表2)です。お客さまが中心にいて、クラウドPOSと基幹システム、決済や医療データ、また従業員向けのIoTツール、そういうものが全部連携している。このような世界は、オープンイノベーションでないと絶対にできません。

──行政データやバイタルデータも入るとなると、DgSの扱うデータの幅というのは本当に広いですね。

富山 広いです。すごく可能性があるんですよ。

──いろいろやらなければならないことがあるとおもうのですが、優先順位についてはどのようにお考えでしょうか。

富山 「全部同時」ですね。「まずはここをやってから次はここ…」というのは遅すぎます。いかにスピードを上げていくかということを常に考えています。とりあえず「やる」です。そしてやりたい企業を集めていきます。「この分野をやりたい人がいたら、うちでやってみませんか」という輪をどうやって広げていくかだとおもうんですよ。

テクノロジーが働き方を変える

同社の業務基準書である「サツドラウェイブック」。 2015年に紙の冊子として作成されたが、現在はタ ブレット(iPad)で閲覧できるようになっている

──外向きのお話が多いように感じますが、社内業務の生産性向上についてはいかがでしょうか。

富山 生産性向上のためのツールとしてPOSはその最たるものです。POSから業務システム、基幹システムをくっつけていくのが本丸でしょうね。将来的には店舗従業員向けのスマートデバイス上で、業務についてのサジェスト(提案)がポップアップでどんどん出てきて、だれでもすぐに店頭業務をすることができるようになるのではないでしょうか。

──そのうち、店舗がタブレット上で「品出しする人募集」というボタンを押したら、近所で手が空いている人が集まって手伝ってくれて、働いた分のポイントで店頭で買物ができる、なんて仕組みができるかもしれませんね(笑)。

富山 そうそう。それは私は本当にそうなるとおもっていますよ。単純化してシステム化することができれば、ワークシェアもできるようになる。雇用の仕方も変わりますし、お金というものの価値も変わってきます。

──産業革命に匹敵する変化ですね。

富山 そうですね。経営者がそういうことをリアリティを持って捉えられているかどうかが大きな分かれ目なのではないでしょうか。「そうはいっても」と心の底からおもっていない人が大半です。

──働き方も変わりますね。

富山 テクノロジーの変化が働き方も変えていきます。当社は現在多様性のある組織づくりを目指していて、社内人材の活性化のために、連続休暇制度も導入しています。最低5日間連続で休むというもので、導入初年度に取得率99%を実現しました。女性活躍推進に関する取組みが優良な企業に与えられる、厚生労働省認定の「えるぼし」認定も取得しました。最近では、新たな人事制度「サツドラジョブスタイル」を発表し、パラレルキャリアや副業、兼業も促進しています。変化に対応し、成長し続けられる人材をどう育てていくかが重要です。

現金レス決済WeChat Payの導入を支援

──子会社であるリージョナルマーケティングでは、QRコードを活用した中国の決済サービス、WeChat Payment(以下、WeChat Pay)の導入も行われているとのことですね。

富山 WeChatは中国におけるLINEのようなSNSです。アカウント数は13億、月間アクティブユーザー数は9億人といわれています。このWeChatが提供するQRコードを使った決済方法がWeChat Payです。中国では一般的に利用されているサービスで、中国の都市部では現金を持ち歩かない人が増えています。日本に来た中国人観光客は、現金を持ち歩く不自由を強いられている状況です。当社がこのサービスを提供することで、中国人観光客の皆さまに日本でも中国と同じような消費体験をしていただけるようにしていきたいと考えています。

──(実際に決済のデモを見て)決済のスピードがとても速いですね。

富山そうですね。銀聯(ぎんれん)カードなどの決済手段もあるのですが、お客さまからカードをお預かりして、端末にカードを通し、サインをしていただいて…という一連の動作の時間がかかります。それに比べるとWeChat PayはQRコードを読み込むだけなので非常にスムーズです。最近中国では賽銭(さいせん)箱にもQRコードのシールが貼られていて、そこにWeChat Payでお賽銭を振り込むそうですよ。

WeChat PayはSNSによる拡散性が非常に高いのも特徴です。たぶんこれからはQRコードによる決済が主戦場になります。NFC※2は非常に高コストですが、QRコードであれば安価にいくらでもばらまくことができます。

※2 NFC:かざして通信するための規格。スマート フォンやSUICAなどのカード型電子マネーに採用さ れている。

──先ほどお金の概念が変わるとおっしゃいましたが、まさにこういうことなんですね。

富山 そうですね。WeChat Payのもうひとつのよさは、オンライン予約と決済が同時に行われるので、外国人観光客のキャンセルリスクを軽減できるという点です。当社はこの決済の端末を、ホテルやスキー場などリゾート系の施設やショッピングセンター中心に、2017年8月までで500台の導入を予定しています。

専門家不要の時代でも対面は残る

──これだけ大きな変革の時代を迎えて、今後小売業はどのような姿になるとおもわれますか。そしてその中で御社はどのような存在でありたいとおもわれますでしょうか。

富山 これからは店舗というリアルな場を持っていることが、大きな意味を持つようになるとおもいます。そしてAIがやるべきことと、人がやるべきことが分かれていって、自動化できることはAIに任せ、人間はクリエイティブやコミュニケーションに特化するようになります。また、スマートフォンを使うことで、いつでもどこでも買物ができるようになります。店やモノ、人の時間なドはシェアし合うようになるでしょう。たぶんそういった変化の中で、フレキシブルなサービス設計ができたり、買物体験がつくれるかどうかが、大きな課題になっていくのだとおもいます。だいたい頭の中でイメージは固まりつつあって、いまそれをまとめているところです。

──昔は人が集まらなかった店頭でのワークショップも、SNS効果で人が来るようになっているようですね。

富山 何かを体験することや、人に対面で接するものは、今後も残っていきます。

接客のスタイルは、販売の手前までは機械がAIでサジェストし、人間がそれをうまくお客さまとコミュニケーションしておすすめするようになるのではないでしょうか。スマートフォンやタブレットのようなデジタル機器を使うことで、いままでは専門的な知識がなければお客さまに販売できなかったものを、だれでも売れるようになります。だから専門家は必要なくなりますが、最後のひと押しは人間がすべきでしょうね。このような一連の流れをどうやって設計するか。システム設計だけではなく、いかにサービス設計をするかがとても大切です。

(故)渥美俊一先生が、経済民主主義の実現ということで、地域格差や経済格差をなくすことが大衆化であり、小売業の社会的意義であるとおっしゃられていましたが、今後は情報格差も格差のひとつになっていくとおもいます。情報を持っている人と持っていない人の間で、生活がまったく違っている。自分の周囲を見てみても、既にそのような状況になりつつあります。この情報格差を埋めていくことも、これからのチェーンストアの役割のひとつだと私はおもっています。

──今日は刺激的なお話をありがとうございました。

サツドラ江別錦店に学ぶ店舗リブランディング

北海道を中心に約190店舗(2017年5月現在)を展開するサッポロドラッグストアー。2016年6月に屋号をこれまでの「サッポロドラッグストアー」から「サツドラ」へ変更し、リブランディングを行った。店舗を象徴するCIも従来の赤を基調にしたものから、プラスの形が印象的なブルーを基調としたものへと大幅に変更。2016年8月には持株会社のサツドラホールディングス(HD)を設立している。競合他社に迎合しないという同社の決意が感じられるリブランディングの内幕と新店を紹介する。(月刊マーチャンダイジング 2017年11月号より転載、企業概要等は当時のものです)

楽しくなければDgSじゃない

同社がリブランディングの検討を始めたのは、さかのぼること今から4年前の2013年のことだ。北海道内でドラッグストア(DgS)のシェア8割を占めるトップ3のツルハドラッグ、サンドラッグ、そしてサッポロドラッグストアーは、いずれも赤を基調としたロゴマークで道内に店舗を展開していた。そのためお客に個々の企業として認知されておらず、サツドラの店舗でもお客から他社のポイントカードやチラシを提示されるようなことが頻発していたという。

そんな状況のなか「今後、DgSも個々の企業としてお客さまから認識、選別される時代が来る。個のサツドラとしてお客さまに意識してもらいたい」との考えで、現代表取締役社長の富山浩樹氏(当時は社長就任前)がリブランディングを決定。

かねてよりデザインを経営に取り入れたいという思いがあったという富山氏が、視察や情報収集を重ねた末にパートナーとして選んだのが、エイトブランディングデザインの西澤明洋氏だ。西澤氏はクラフトビール「COEDO」やキリン「生茶」など多数のブランディング実績があり、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めたブランディングデザインを手掛けている。サツドラ側は、リブランディングの担当者として1名を専任。常時富山氏を含む3〜15人のメンバーが入れ替わりながらプロジェクトを推進した。

リブランディングといっても、単にデザインを変更すればいいというわけではない。まずは企業としての強みと弱みを挙げ、ポジショニングを明確にするところからスタートした。「赤い看板のDgS」としてしか認知されていない弱みがある一方で、北海道に根差したDgSとして地域の活性化を目指しつつ、道外に対しても北海道から健康や美を発信しているなど、とことん「北海道」を大切にしている企業であるという強みも見つかった。

サツドラ江別錦店
新ロゴを掲げた江別錦店ファサード。 これまでの店舗と比較するとシンプル な外装で住宅街の中ではかなり目立つ

議論の末にたどり着いた新しいブランドコンセプトは「北海道のいつもを楽しく」。現会長で創業者の富山睦浩氏が言い続けていた「楽しくなければDgSではない」という考えがベースになっている。DgSという業界の枠を超え、ライフスタイルストアへ進化していくという決意も表したコンセプトだ。ロゴマークはブルーと黄緑を基調とした2色のプラスが並んだものに刷新。創業当時に使用していた青色を使用することで、ブランドのルーツを表現。黄緑色は北海道の大地をイメージしており、創業以来北海道の地で培ってきた「サツドラ」ブランドを基盤としつつ、さらなる飛躍を目指すという思いを込めた。

サツドラ江別錦店
同社が6月にリニューアルした「サツドラ江別錦 店」は同社の新デザインプロトタイプ店舗。 こ のリブランディングを象徴するかのように斬新 な店舗デザインを採用している

選びやすさと買いやすさ

コンセプトやロゴなどのソフト面からスタートしたリブランディングは、現在ハード面にまで進展している。今回取材したサツドラ江別錦店は、2017年6月にスクラップ&ビルドでオープンした新デザイン店舗のプロトタイプという位置付けだ。

もともとサツドラは、欲しいものがすぐに見つかり、店頭で迷わないという「選びやすさと買いやすさ」そして「居心地のよさ」を店舗づくりの指針としてきている。この江別錦店は、十分に余裕を持たせた通路幅や、入り口からどこに何があるのかを見渡せるようにつけられた陳列棚の高低差、カテゴリーのサインなどから、店づくりへのこだわりが感じられる。

サツドラ江別錦店
入店してすぐのビューティコーナー。 1,350mmと低めの什器を採用し、圧迫感を持たせない工夫をしている。 また、暗めの色の什器のシャープな印象を、木目調の天井と床のコンクリートの床のカラーリングで中和している

入店すると入り口正面に化粧品売場が広がり、壁面の第1マグネットのシーゾナルとサツ安超プライス(3ヵ月間価格を固定した商品)コーナーで店内奥まで誘導。第2マグネットにはヘアケア売場を配置。店舗の最奥には食品売場を、レジ横には医薬品コーナーを展開している。これはゼネラルフォーマットと呼ぶ同社標準業態のものに準じたレイアウトだ。店内には、居心地のよさを演出するかのようなさまざまな工夫が目につく。

サツドラ江別錦店

サツドラ江別錦店
入店してすぐ左手のシーゾナルの棚では、季節商品を展開。 取材時は温活と 鍋で冬を先取りして提案。 それに続くサツ安超プライスの棚では、3ヵ月間価 格を固定して販売する

コンクリートの床には白い塗料で手描き風のイラストが施されており、壁面に掲げられたアイコン風のカテゴリーサインもユニークだ。サイン類のフォントは今回サツドラのためにオリジナルで作成されたもので、店舗全体に統一感をもたらしている。

サツドラ江別錦店

サツドラ江別錦店
コンクリートの床面に描かれたさまざ まな手描き風のイラスト。シーゾナ ルコー ナ ーの 床には北 海 道 が、 ヘアケアコーナーには長い髪の 女性の後ろ姿があしらわれている

主導線には道路のセンターラインや進行方向の指示表示のような交通標識も描かれていて、ついついそれに従って店内奥まで足を運んでしまう。天井の照明はLEDで調光付きのダウンライト形式。通常店舗より若干照度は落とされているようで、照明によって生まれた陰影が売場に落ち着いた雰囲気をもたらす。

什器の高さの工夫で圧迫感を減らす

入り口から見て手前の化粧品、医薬品売場には高さ1,350mmの什器を配置し、店舗奥の日雑、食品売場には高さ1,800mmの什器を採用。入店した際の見通しをよくすることで、什器の高さの割に圧迫感がないよう工夫している。天井は既存店舗より高く、木目調になっていることで暗い色の什器の雰囲気を中和している。

商品在庫はなるべく店頭に並べることで、バックヤードの面積を従来より縮小した。このことによって、後方での在庫管理の手間も減少したという。なお店舗の設計はブランディングパートナーであるSUPPOSE DESIGN OFFICEが手掛けた。

サツドラ江別錦店

サツドラ江別錦店
江別錦店では陳列の実験も行う。 歯ブラシの棚はゴンドラ1本で1種類の商品を大量陳列し 視認性を高める。エンドのパンツ型軽失禁パッドは最上部の棚1枚をディスプレーコーナーに

サツドラHDは、店舗の新デザイン導入と並行してプライベートブランド(PB)のリブランディングも行う。現在同社のPBには初期のサッポロドラッグストアーのロゴ入り商品や、子会社で製造元の「Creare(クレアーレ)」ブランドの商品が混在しているが、これを今後「サツドラ」ブランドに統一する。既に人気商品の「超炭酸水」や「ソフトパックティッシュ」などは新ブランドへの移行を完了。現在500〜600SKUほど開発しているPBに波及させていく予定だ。

サツドラ江別錦店
店舗奥の壁面で冷凍食品 を展開。 有職女性の増 加に伴い、大容量の冷凍 食品などの人気が高まっ ている。これまでは平台 のオープン冷凍ケースを 利用していたが、リーチイ ンを採用することでエネ ルギー効率が向上し、お 客からの商品視認性も高 まった
サツドラ江別錦店
ハンドタオル、バスタオルなどの糸物もPBを開発。 ハンドタオルはフック付きでさまざまなシーンでの 活用を想定している。ベーシックな白だけでなく、少 しくすんだピンク、ブルー、ブラウンと、生活に取り込 みやすいカラーバリエーション

「楽しさ」は実店舗にとって重要な差別化戦略のひとつだが、これを明言しているDgS企業はほとんどない。その一方で、このサツドラ江別錦店からは「選びやすさ」と「楽しさ」という実店舗が注力すべきポイントを真面目に考えていることが伝わってくる。サツドラHDによれば同店舗はあくまで実験店という位置付けとのことだが、挑戦を感じられる野心的な店舗であることに間違いはない。斬新なデザインの店舗は、立ち上げ当初は好調でも、陳列などがルールどおりになされず店頭が乱れる事例が多々ある。この店舗も今後陳列や店舗管理の質の維持が課題になるだろう。オペレーションレベルをいかに保つかが鍵を握る。