「ひと手間掛ける」をモットーに、ボトムアップ型組織で地域医療に貢献

首都圏を中心に165店を展開するトモズ、そのうち119店は調剤薬局を併設。洗練された店舗ロゴや店内デザインで女性からの支持も高い。プライベートブランドの「APS」は海外ブランドのようなパッケージでスキンケアとボディケアを中心に品揃えして、トモズのブランド力アップにも貢献。都市型店舗を中心に独自の路線を歩む同社の德廣英之氏に成長戦略や注力している点について聞いた。(月刊マーチャンダイジング2018年9月号より転載、聞き手:月刊マーチャンダイジング編集長 野間口司郎)

価格勝負ではなく、医療の一端を担うモデルを追求

─大手の寡占が進むドラッグストア(DgS)ですが、業界全体をどうご覧になっているでしょう。

德廣 海外の事例や小売業の歴史を見ても大手が規模を拡大させながら寡占化していくという流れは止められないと思います。DgSの戦いが実店舗同士で終わるのか、ネットも含めた空中戦になってくるのアマゾンがホールフーズを買収したように、ネット、リアル含め業態の垣根が低くなっています。

DgSをどう定義づけるかという問題もあると思います。ディスカウントを追求するのか、食品を強化するのか、私たちは創業以来一貫して医療の一端を担えるような小売業になろうという理念を掲げ、社会インフラになれるよう努力を重ねています。そこは一貫して今後もぶれることはありません。

─規模の大きな小売業に対して、仕入れ、調達のコストがかかるという実感や危機感はありますか。

德廣 それは当然あります。安さで勝負するなら規模が必要で、当社も決して規模を追わないわけではありません。しかし、一足飛びに何千億という売上規模を目指すのではなく、医療の一端を担うという強みで勝負したい、それが生き残りの方策だとおもっています。店舗の商品の8割が価格勝負ということなら、規模がないと競争には勝てません。しかし、そういう領域で勝負するわけではありません。バイヤーには仕入れる商品で迷ったら調剤につながる商品にしようと言っています。

─生き残りというお言葉が出ましたが、ウォルマートが日本事業から撤退するという報道があります。これを、どうご覧になるでしょう。小売業界に与える影響はあるでしょうか。

德廣 当社も西友系の朝日メディックスを統合した経緯もあって、西友の人材の優秀さはよく知っています。実情はわかりませんが、ウォルマートがアメリカで得意としている物流や仕入れの効率化でコストを下げ競争力のある売価でEDLPをやるというモデルが日本ではつくりにくかったのではないでしょうか。

もし西友が売りに出されるのなら、どの企業が買うかで日本の小売業への影響が決まるとおもいます。

人事制度を改革、教育部の新設で人材育成強化

─2016年6月の社長就任から2年が経ちました。現在もっとも社内で注力していることはなんでしょうか。

徳廣 人材育成、教育に力を入れています。社長に就任してから人事制度改革のプロジェクトを立ち上げ1年で新人事制度への移行ができるとおもったのですが、2年かかりました。

当社の企業理念はここに書いてある通りです(図表1)。トモズの求める人材は「1.明るく 2.素直で 3.謙虚で 4.思いやりのある」という4項目。企業理念、求める人材の全従業員への徹底は愚直にやり続けます。そのための人事制度改革です。

─4項目の中で特に重視するもの、難易度が高いものなどあるのでしょうか。

德廣 意識すれば、どれもそれほど難しいものではないでしょう。薬剤師なら元々人の健康に貢献したい、病気の人を助けたいという意識が高い。日々の仕事でそれがおろそかになっているようなら、そこを深掘りすれば「思いやり」につながります。バイヤーなら取引企業に対して高圧的になっていないか、今一度襟を正せば「謙虚」になれる。新入社員は「素直」でしょうし。役割や状況によって重要なもの、難易度は変わってきます。どれも絶対できませんという要素ではありません。トモズに限らず、こういう人材がいれば会社はよくなります。

希望に添ったキャリアを選択、多様な働き方を実現させる

─人事制度改革の具体的な内容を教えてください。

德廣 今年4月から制度を変えました。一番大きな変更は教育部という新しい部署をつくったことです。知識や技術の教育だけでなく社員のケアを人事部まかせにせず教育部が行う。どういう教育、育成方法がよいか模索しているところです。

当社はいくつかの企業と合併を繰り返しています。あまり細かくルールを決めると元の企業によって合う合わないが出てくるので、これまでは比較的メッシュの粗い人事制度でした。今回の改革で細かいところまで制度化しました。

また、以前はみんなが店長、ブロック長を目指して、その役職に就いたら給与はいくら、就けなかったらここまでといったように、昇進を前提にした選択肢の少ない一本道でした。最近では店長になりたくないという人もいるし、化粧品のカウンセリングが好きで技術も高い、ずっとその職でいきたいという人もいます。そういう希望にも添えるようにしました。

また、店長経験者で育児に忙しいのでパートに戻りたいという人がいれば、一度戻って子育てが一段落した後で店長やバイヤーなど元の職に戻ることもできます。希望に添ったキャリアを歩めるような制度に変えました。

定着率を上げることでコスト削減、売上アップを狙う

德廣 「働き方改革」が叫ばれる以前に小売業では定着率が上がらないという問題が顕在化していました。勤務年数が1年の人と10年の人では知識や販売力、企業文化の理解度が全然違います。1年で辞められたら採用コストがかかる、経験は蓄積されないなど、デメリットが大きい。定着率を上げ従業員の価値を上げるための改革です。

定年制度も見直し中です。これまでのように60才になったら定年、あるいは給与を下げて再雇用ということではなく、パフォーマンスがそのままで本人が希望するなら60才を超えても同じ待遇で店長を続けてもらいます。現在、そういう店長が何人かいます。まだ制度的に変えるまでには至っていませんが、事例が増えて会社として当然のことになれば正式に制度を変えるつもりです。

この4月から多様な働き方を認める制度に改めたら2億6,000万円のコスト増になりました。この数字は社内で公表していてこれをカバーするために「どうする?」と全社員に呼びかけています。みんなでアイデアを出し合って5億円くらい利益を上げれば逆に給料が増える。そういう発想をしています。利益が上がらなかったら、どこかで考えないといけない。

長い目で見れば定着率が上がれば採用コストが削減できて、従業員の販売力も上がって売上増になる。会社が大きくなってからの改革では10億円かかったかもしれない。ここ1、2年は我慢のしどころと腹を括っています。

─いまは我慢のしどころですが、制度改革が軌道に乗ればES(従業員満足)が向上し、それがCS(顧客満足)にも波及してすべての歯車が好転し出す、そういう状況になりそうですか。

德廣 そうなることを願っていますが、こればっかりは時間が経たないとわからない。4月から始めたばかりです。会社としての主要な数字は店長とも共有しています。改革のためのコストで厳しい状況だけどみんなで声を掛け合って、みんなが納得できる制度を一緒につくろうと呼び掛けています。

納得できる制度というのは、再チャレンジできる制度でもあります。店長、ブロック長をやったが、うまくいかなかった。それなら、一度退いてまたチャレンジすればいいのです。男性の育児も支援したい、店長やっているから育児はできませんというふうにはしたくありません。

どうすれば、長く安心して働けるか、その方法を模索しています。

「主体的に挑戦」ベストを尽くせば失敗の責任は問わない

─どの小売業もアマゾンが競合になってきています。実店舗がECと差別化するためにはカウンセリングが重要になりますが強化策などありますか。

德廣 新設した教育部が担当して強化を図っています。部長は昨年まで店舗運営部長で現場、会社の歴史を知り尽くしています。シニアマネジャーも店舗運営部長、商品部長を歴任した人物です。2人とも池尻大橋の1号店の店長経験者です。

ECに勝つためには「人」しかありません。それ以外は全部ECが低コストでできます。できるところは機械化、自動化で効率を上げますが、人にしかできない部分にこだわる。泥臭く人を前に出すことでECや他企業との差別化を図ります。

会議などでよく言うのは「ひと手間掛ける」ということです。売場づくりでも接客でも手間を惜しまず、もうひと手間掛ける。お客さまが何を望んでいるか、どういう売場を好むのか、もう一歩深く考えて、手間を掛ける。

今期のスローガンは「having ago」、日本語でいうとサントリー創業者の鳥井信治郎さんの有名な言葉「やってみなはれ」に近い、挑戦しなさいという意味です。サブタイトルに「主体的に挑戦」と入れています。主体的にという部分が大事です。ですから、社長である私のひと手間は主体性を引き出すために我慢することです。

周りからは青臭いといわれますが、失敗を恐れずに挑戦することで人も会社も成長します。失敗を恐れるなというのは簡単ですが、実際に失敗したとき、社長からコテンパンにやられるなら誰も挑戦しないでしょう。十分な準備もなく挑戦だけして失敗を繰り返したなら叱りますが、やることをやってベストを尽くして失敗したなら何もいいません。店長やブロック長が予算に届かずに、うなだれて「すいません」と言ったりします。すいませんと言うな、その時間がもったいない、やることをやったのはわかっている。どうすればそれを取り返せるかそれを考えようと私は言います。

推奨販売のノルマ撤廃、結果ではなく過程を重視する

─従業員の方が何かに挑戦するときに、それを許可する基準などあるのでしょうか。

德廣 誰が聞いてもやめたほうがいいと思うような案件なら別ですが、何かをやりたいといってきたら基本OKです。ルールも変えていい、そのマニュアルに意味がないと思えばやめてもいいと言っています。

私がたばこの販売をやめようと提案したときも店長たちからの猛反対に合いました。しかし、地域医療の一端を担うといいながら、医学的に健康によくないと証明されているたばこの販売をするのは矛盾している。タバコがないと予算に行かないというなら、それは仕方ない。他で補おうと説明したらわかってくれました。社長発案だから通ったということではなく、ある意味極端な提案でも、深い議論の結果認められるという事例です。

重点商品を決めて、推奨販売もやっています。今期からノルマはありません。各自どれくらい販売するかを自己申告してもらって、それを集計するという形で予算を組みました。結果を求めるのではなく、過程の努力をしてほしいです。ホームランを何本打つか、それは相手があることなので自分では決められない。しかし、素振りを毎日10回するという目標を立てれば、それは実行できます。それをやってくれとお願いをしています。

私に対して意見をいう従業員も増えたし、久しぶりに来社した方が、以前に比べて会社が活気づいたと言われるとうれしいですね。

チャレンジ精神があって活気があるボトムアップ型の組織を目指しています。当社ではお互い名前を呼ぶとき○○さんと呼ぶように徹底しています。私も社長と呼ばれたことがない、「徳廣さん」と呼ばれています。これも貴重な企業文化でこれからも継続させます。

─本日はありがとうございました。

<トモズのプライベートブランドAPS>

洗練されたデザイン、「質が高いこと」「使い心地が良いこと」 「流行に流されないベーシックなものであること」がコンセプト

<DgS初「ポンタ」を導入>

トモズでは三菱商事系のロイヤリティマーケティングが運営する 共通ポイントサービス「ポンタ」を採用。DgSでは初となる。トモズでは200円購入で1ポイント獲得、1ポイント=1円として使えるようにする。2018年8月1日からサービス開始。

ネットとリアルを融合させた書店、アマゾン・ブックスの「売り方」3つの特徴

アマゾン(Amazon)がリアル書店「アマゾン・ブックス(Amazon Books)を全米で展開しようとしています。現在、店舗数はまだ20店前後のようですが、従来の書店とは大きく異なる「売り方」に注目が集まっています。ネットとリアルを融合させたアマゾン・ブックスの「売り方」の特徴をまとめてみましょう。

すべての本の表紙を正面に向けた陳列

アマゾン・ブックスの売場面積は100~200坪程度と、そんなに大きくありません。理論上は無限に在庫できる「ロングテール」が武器のネット販売と、取扱商品の多さを競うことは意味がありません。アマゾン・ブックスの取扱商品は、アマゾンでの評価が4.0以上(星4つ以上)の人気商品に絞り込まれています。

アマゾン・ブックスの「売り方」の第1の特徴は、すべての本が表紙を正面に向けた陳列を行っていることです。一般的な書店のように、背表紙を正面に向けた陳列方法は一切行っていません。「背表紙陳列」によって、多くの品目数を陳列することよりも、商品の探しやすさを重視した陳列であることがわかります。

第2の「売り方」の特徴は、「価格表示」がないことです。本を陳列している棚には「値札」が一切付いておらず、店内に設置してある「スキャナー」や「アマゾン・アプリ」で、本のバーコードをスキャンすると、価格が表示される仕組みになっています。

ネットとリアルの価格はまったく同じです。リアル店舗に価格表示がない理由は、アマゾンのオンライン販売が採用している、需要と供給に応じて価格が日々変動する「ダイナミックプライシング」を採用しているため、値札をつけることができないわけです。

アマゾン・アプリを使ってスキャンすると、価格がわかるだけでなくて、決済もキャッシュレス化できます。アマゾンに登録しているクレジットカードなどで、その場で決済できるわけです。

プライム会員信者を囲い込むための大きな価格差

店内に設置してあるプライスチェッカーで試しに価格を表示してみたところ、アマゾンのプライム会員向けと、一般客向けの価格差が大きくて驚きました。

この本(写真参照)は、一般客の価格が14ドル99セントに対して、アマゾン・プライム会員は8ドル99セントで購入することができます。

この連載の第6回目で「アマゾンはプライム会員信者を増やすためにホールフーズを買収した」という記事を掲載しましたが、アマゾンは年会費119ドルのプライム会員信者(固定客)を徹底的に囲い込もうとしているようです。

2018年4月中旬に行われたアマゾンの年次株主総会で公開された「ベゾスCEOから株主宛に記された手紙」の中で、アマゾン・プライムの加入者数が世界で1億人を突破したことが発表されました。「年119ドルの年会費がアマゾンの利益」と考えると、極端なことをいえばアマゾンは、リアル店舗の利益はゼロでもよいと考えているかもしれません。

ネット検索やレコメンド機能をリアルの売場で実現している

アマゾン・ブックスの第3の特徴は、「アマゾンでの検索数」「レビューの多かった本」「ほしいものランキング」「リコメンド機能(この本を買った人はこれらの本も一緒に買っています)」などのオンラインでの買物体験を、リアル店舗の陳列でも採用していることです。

「if you like」と表示された棚では、リコメンド機能を使って、この本を買った人が良く買う本を近くに関連陳列していました。「Highly Quotable」と表示された棚は、電子書籍キンドルで、もっともハイライトされた本を集めた売場です。ハイライトとは、重要な文章を蛍光ペンのようなものでマーカーできる機能のことです。つまり、ハイライトされた箇所が多い本は、重要な情報が満載されている本という意味です。キンドルのオンラインデータでなければ絶対できない陳列方法ですよね。

「Page Turners」という棚は、読み始めたら止まらないという意味で、電子書籍キンドルで読了時間の短かった本を集めた棚です。

アマゾンの「ほしいものランキング」で上位に来た本を、ジャンル関係なく陳列している。
ロサンゼルス地区で、ノンフィクション分野の売れ筋を陳列したエンド。
アマゾンで1万以上のレビューが投稿された本を集めた陳列。

また、アマゾン・ブックスでは、「アマゾンエコー」「キンドル」などのアマゾン商品も販売しています。また、児童書のコーナーでは、子供が座ってキンドルを読めるコーナーもあります。「本の座り読み」ではなくて、「キンドルの座り読み」なのが面白いですね。

アマゾンエコー、キンドルも販売している。
キンドルで座り読みができる児童書のコーナー。

ZARAの試着に特化したショールーム型実験店

アパレル専門店で世界一の売上を誇るSPA(製造小売業)企業インディテックスが展開する主力ブランドZARA。既存店ベースで好調な売上をキープする同社がロンドン、ミラノに続き、東京で試着に特化した実験店を期間限定でオープンさせている。他に類を見ない実験店の取材から、デジタル販促でも独自路線を突き進むZARAのあり方を考察する。(月刊マーチャンダイジング 2018年9月号から転載)

売上高3.3兆円、世界No.1アパレルの主力ブランド

手ごろな価格で最新流行のファッションを楽しむことができるファストファッション。ZARAは、日本における外資系ファストファッションブランドの先駆けとして広く知られている。ヨーロッパを中心に世界全体で約7,500店舗、日本国内では94店舗を展開する。

メンズ、ウィメンズからキッズ、ベビーまで揃う幅広い商品は約2週間単位で入れ替わり、店内には常にトレンドを反映した新しい商品が陳列される。

ZARAを擁するのは、スペインに本社を置く1975年創業のアパレルメーカー、インディテックスだ。売上の大部分を占めるのがZARAであり、売上高は前年同期比8.6%増の約3兆3,190億円(2018年1月時点)。純利益も同6.6%増の約4,412億円で増収増益と好調で、競争が激化するアパレル専門店のランキングでトップの座を維持している。

同ブランドが日本での認知を大きく広げるきっかけとなったのが2003年の六本木ヒルズへの出店だ。この旗艦店・六本木店が8月末に移転増床リニューアルを行うまでの約4ヵ月間限定でオープンさせたのが、国内初となるショールーミングに特化した実験店「ZARA ROPPONGI POP-UPSHOP ONLINE」だ。

アプリによる試着予約とクリック&コレクトに対応

改装店舗から徒歩数分、六本木ヒルズのノースタワー内に立地するポップアップショップは2階建てで、店舗面積は約800㎡。バナナ・リパブリックの路面店への居抜き出店で、1階がショールームとメンズのフィッティングルーム(全6室)、2階はぜいたくにスペースを使ったウィメンズのフィッティングルームが広がる。

バックヤードには店内に陳列されているアイテムがサイズ別にストックされているが、フロアに出されているのは1品番につき1サイズのみ。ショールームとしての美観を重視し、白を基調にしたフロアには限られた数のアイテムがスッキリと並べられている。

試着予約は、ZARAアプリからのみ可能だ。アプリを立ち上げ、試着したいアイテム、サイズを選び、試着をリクエストする。店舗内で実際に見て気に入った商品のタグに付いているバーコードをスキャンして、予約することも可能だ。広々として高級感のあるフィッティングルームを、貸切気分で使うことができる。

試着後は気に入った商品をアプリやECサイトで購入し、配送か店舗受け取りを選択。店内の商品以外にも、オンラインショップやアプリに掲載されている他の全商品も同時に選択、購入できる。13時までの注文であれば、当日18時以降に同店での受け取りも可能となっている。

広々とした2階のウィメンズ用試着室は全10室。オープン時には戸惑いの声も聞かれたが、スタッフの丁寧な手順説明によってそのメリットも認識され、徐々に浸透していった。場所柄、観光客とマチュアな客層が多く、訪日外国人の利用も予想以上にあったという。アプリに抵抗のない10~20代の若年層の集客が課題
店内のデジタルサイネージでは、インフルエンサーがセレクトした秋シーズンのスタイリングを紹介。ZARAはデジタル販促の一環として、2018年4月にAR(拡張現実)アプリを使ったリテールテインメントサービス(店頭で起動すると、最新ファッションのモデルが歩く様子が見られる)にもチャレンジしている。アプリを軸にした集客・ECへの送客には力を入れているようだ

待ち時間や順番通知で試着ストレスをフリーに

同店は、洋服の購入と試着にまつわるさまざまな不満を解決した、ストレスフリーの店舗だ。

アプリには具体的な待ち時間が表示され、自分の順番が回ってくると通知される。試着したい服を何着も抱えたまま店内を移動する物理的なストレスや、先の見えない試着待ちのストレスはない。購入後、荷物がかさばることもなく、手ぶらで帰ることができる。

最近では、アパレル通販サイトZOZOTOWNがZOZOSUITを開発するなど、試着ができない不安を「試着しなくても買物ができる」という強みに変える流れが生まれている。ZARAの実験店は、あくまでもブランドの資産であるリアル店舗を生かす形でオンラインとクロスさせ、快適な試着サービスという顧客への新しい買物体験を提供している。

アプリ上で商品を選ぶか、店内にある商品バーコードをアプリで読み取る
商品を確認し、サイズを選択する
試着室をリクエストする
待ち時間が表示され、順番が回ってくると通知が届く

顧客満足度の向上が最大の販促につながる

オンラインとオフラインのシームレス化は、現在ZARAが強化する施策のひとつだ。インディテックスの売上高のうち、ECの占める構成比は10%。前年比では41%増の伸びを見せ、重要なチャネルへと成長している。

同社は過去に大規模なデジタル分野への投資も行っているが、いま現在、それは個別マーケティングではなく、刻々と変わりゆく顧客ニーズやトレンドに対応した生産体制、物流や店頭の最適化──「あなたのための店」づくりに注がれている。

アプリやECサイトに蓄積されたユーザーデータの分析に基づく販促は行っておらず、顧客へ向けた情報発信も、Twitter、LINE、Facebook、InstagramなどSNSを使用した新作入荷、年2回のセールの告知などにとどまる(国内)。

現状、ZARAは、あくまでもお客にとって一番都合がよく、自由で快適な買物ができる環境づくりや、お客を楽しませ飽きさせない仕掛けづくりに徹している。

ポップアップショップでは、常に不定期でイベント展示も行われており、実験店そのものが話題性のあるプロモーションとしても機能している。顧客満足度向上は、再来店・再利用を促し、ファンづくりにつながる最大の販促活動となり得るといえるだろう。

在庫はRFID(非接触タグ)で管理。ウィメンズは、ウーマン(モード)、手ごろなベーシック(普段使い)、よりお手ごろでトレンド感の強いトラファルック(ヤングカジュアル)の3ライン。欧米では、ファッションにもサスティナブル(持続可能性)が求められており、それに応じたブランドライン「JOIN LIFE」も発売されている
店舗奥にあるクリック&コレクトコーナー。ロンドン、ミラノ、東京の実験店のうち、試着予約のサービスがあるのは日本のみ。欧米人とはサイズ感の異なる日本人には試着は欠かせない。ほか2店舗は、クリック&コレクトに特化したオムニ店舗だ

[寄稿]授乳中ですが薬を飲んでもいいですか?

地域医療の担い手として期待が高まるドラッグストア。なかでも薬剤師は、在宅医療やセルフメディケーションの推進に欠かすことができない職種として活躍が期待されています。しかしまだまだドラッグストアで働く薬剤師の仕事については議論が少なく、同じ企業内でも接客の内容や質がバラバラであったりする状況です。首都圏のドラッグストアチェーンで薬剤師をしているkuriさんは、先日Twitterで授乳中のOTC服用に関するアンケート調査を実施。その結果から「OTCの添付文書」に関する問題にたどり着きました。(kuriさんのブログから許可をいただき転載した投稿です)

授乳婦のOTC服用に関する合意が形成されていないDgS業界

ドラッグストア勤務者の頭を悩ますお客さんからの薬の問い合わせといえば、授乳中に飲んでよい薬の相談だと思います。私は今年6月にTwitter上でフォロワーのみなさんに、授乳中のお客さんから質問を受けた場合の対応を訊ねてみました。

まずはそちらの結果をご覧ください。

いかがでしょうか?有効回答総数は350名程、回答者は薬剤師と登録販売者が混在しています。

「医師にご相談くださいと伝える」の回答数が少ない印象ですが、概ね現実に近い妥当な回答結果だと思われます。国内外の薬学情報をもとにいえば、正解は「基本的には大丈夫と伝える(時間を空ける必要なし)」が妥当となりますが、会社・店舗の方針や、資格者自身の勉強不足、「万が一」のトラブルを懸念して、そのほかの選択肢を選ぶ方も少なくないでしょう。

このアンケート結果の興味深い点は、3つ選択肢の回答数に極端な偏りが見られず、どれもまんべんなく一定の回答数を得ているということです。これでは、消費者は相談先の店によって、得られる回答がまるで変わってくることになります。「一般的にはこういう対応するよね」といった業界の常識のようなものがなく、会社・店舗・個人の方針や知識レベルに任されている。授乳婦とイブプロフェンの関係についての合意形成が、ドラッグストア業界に存在しないことは否定できないでしょう。

合意形成がない理由の一つは、薬の説明書である添付文書に、授乳中の服用に関する明記がないことだと思われます。

案外ざっくりとしか書かれていない「添付文書」

国の調査によると、添付文書をほとんど読まない人は購入者のわずか1割だそうです(※1)。熟読するのか、さらっと読むのか、程度の差こそあれ9割の人が添付文書に目を通しているようです。

そのような添付文書ですが、ちゃんと読むのはけっこう難しいもの。薬剤師としての立場から言わせていただくと、健康に直結するわりにはずいぶん不親切だなと思う代物です。

具体例を紹介します。

胃腸薬としておなじみのキャベジン。授乳中はこの薬を飲んではいけないことになっています。以下は、添付文書からの引用です。

してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなります)
②授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けてください
(母乳に移行して乳児の脈が速くなることがあります。)

キャベジンを飲むと母乳に移行して乳児の脈が速くなるという理由も丁寧に書かれています。授乳中は服用を避けた方がいいことが腑に落ちやすいでしょう。

では、他の薬はどうでしょうか。頭痛・生理痛の薬、イブの添付文書を見ます。

相談すること
次の人は服用前に医師、歯科医師、薬剤師又は登録販売者に相談してください
(3)授乳中の人。

授乳中の人はイブを飲む時は医師や薬剤師たちに相談することになっています。キャベジンと比べると簡潔な記載です。表現も「してはいけないこと」ではなく「相談すること」となっています。

実際に薬剤師に相談すると、どんな回答が返ってくるのでしょうか。飲む人の状態や、相談を受けた薬剤師によって回答は異なるので一概にはいえませんが、「万が一母乳に移行しても極めて微量なので、健康上の影響はほぼないと考えられています」「心配なら時間をずらして飲むのがよろしいと思います」と説明する薬剤師が多いと思われます。あとは飲む人の納得感と判断に任されます。

キャベジンもイブも母乳に移行するという点では同じです。ただ、それが赤ちゃんに与える影響は一言では表せません。添付文書を読んでも詳しいことが書いてあるとは限らないのです。

もう一例紹介します。今年発売された「ベリチーム」という消化酵素のお薬です。添付文書にはこうあります。

相談すること
次の人は服用前に医師、薬剤師または登録販売者にご相談ください
(2)薬などによりアレルギー症状をおこしたことがある人

ベリチームは酵素なので比較的安心して使える薬です。「相談すること」の欄にアレルギーの注意喚起が書かれていますが、これは大抵の薬に書かれている決まり文句です。全体としてみると、他の薬と比べると副作用のリスクがかなり低いといえます。

ところが、ベリチームには気をつけるべき意外なアレルギーがあります。ブタ・ウシのたんぱく質アレルギーです。ベリチームに含まれるパンクレアチンという酵素はブタの膵臓から作っています。そのため、ブタ・ウシのたんぱく質アレルギーの人がベリチームを飲むと、くしゃみ、涙が出る、肌が赤くなるといった症状が現れる可能性があるのです。

市販薬と同じ成分でできている医療用のベリチームの添付文書には、ウシ・ブタのたんぱく質に過敏症がある人は飲んではいけない(禁忌)ことが書かれています。

医療用の添付文書にははっきりと書かれていることが、ベリチームの市販薬の方には薬剤師か登録販売者に相談してくださいという表現で済まされているわけです。

市販薬の説明書は、こんなふうに案外ザックリとしか書かれていないものなのです。

外箱を読むだけでは情報が足りないことも

購入者の1割は添付文書をほとんど読まないらしい、ということを冒頭で紹介しました。その理由は、私の想像になりますが、飲む時に最低限知りたい重要な情報(1回何錠、1日何回飲むかなど)が外箱に書いてあるからだと思います。添付文書を読まなくても、外箱を読めばだいたいは事足りるのです。

ただ、添付文書を読む必要がないかといえば、そうではありません。

せき止めを例に見ます。アネトンせき止め液という咳止めがあります。添付文書の注意書きにはこう書かれています。

してはいけないこと【守らないと現在の症状が悪化したり,副作用・事故が起こりやすくなります】
2.本剤を服用している間は,次のいずれの医薬品も使用しないでください
他の鎮咳去痰薬,かぜ薬,鎮静薬,抗ヒスタミン剤を含有する内服薬等(鼻炎用内服薬,乗物酔い薬,アレルギー用薬等)

アネトンを飲んでいる間は、他の咳止めは飲んではいけません。これはアネトンに限ったことではなく、ほとんどの市販薬は類似薬を一緒に飲んではいけないと書かれています。

でも、この文言は外箱には書いてありません。購入して、箱を開けて、説明書を読んで、初めて他の咳止めと一緒に飲んではいけないことがわかります。

外箱に書いてある文章は、添付文書のあくまで一部。外箱を読めば添付文書を読む必要はないとはいえません。

添付文書がもっとわかりやすくあるべきという議論が必要ではないか

どうでしょうか。市販薬の添付文書は、薬のことを知らない一般消費者向けに書かれた薬の説明書ですが、意外とややこしく作られています。

これは市販薬の添付文書に限ったことではありません。病院で処方される医療用医薬品の添付文書も、医療従事者からは度々批判の的になっています。そこで、医療用の添付文書の中身は改善の動きが進んでいます。

ですが、市販薬の添付文書に関しては「もっと消費者がわかりやすい表記にしよう」「もっとリスクの程度が分かるようにしよう」といった議論を、私は寡聞にして知りません。あったとしてもまったく盛り上がってないでしょう。

資格者なら目の前のお客さんの役に立ちたい、力になりたいという強い気持ちを抱いていることも間違いないと思います。しかし、お客の立場を思えば思うほど、使い勝手が悪いと感じるのが、いまの添付文書ではないでしょうか?

市販薬の添付文書に最も接しているのは、ドラッグストアで働く資格者(薬剤師、登録販売者)です。まずは私たち自身が問題意識を持つことから始めてはどうでしょうか?


※1 厚生労働省:消費者アンケート調査の結果

※編集部注)本記事は、以下ブログより転載させていただきました。

追記:
※編集部注)本記事はドラッグストア勤務者を中心とした医療従事者の方に向けた記事です。一般の方は記事を読んで自己判断せず、個別に薬剤師にご相談ください。

相互利益を徹底追求した「戦略提携」で、信頼関係と価値あるPB商品が生まれる

2万店を超え、コンビニ業界を牽引するセブン-イレブン。プライベートブランド(PB)商品でも独自の開発・生産体制を構築してヒット商品を次々に世に送り出している。セブン-イレブンがどのようにして独自のPB商品開発体制を生み出したのか、そしてPB開発でセブン-イレブンに学ぶべき点は何か。この分野で多数の著書や研究成果を持つ法政大学名誉教授の矢作敏行氏に聞いた。(月刊マーチャンダイジング2018年8月号より転載)

固有の価値を生み出す仕組みづくりに成功したセブン

セブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン-イレブン)のチェーン全店売上高は4兆5,156億円(2016年度)。そのうち米飯、調理麺、サンドイッチといったファストフードの売上高は1兆3,501億円(29.9%)、焼きたてパン、デザート、パウチ総菜などの日配食品の売上高は6,141億円(13.6%)で、両方で約44%を占める。そして、それらの商品のほとんどが独自開発商品である。

これを支えているのが、セブン-イレブンに商品を供給するため1979年に結成された日本デリカフーズ協同組合(NDF)である。

主な運営企業(子会社含む)は、味の素、東洋水産、ヱスビー食品、ハウス食品、森永乳業、カルビー、プリマハム、伊藤ハム、日本ハムなどで、NDFが運営するセブン-イレブン専用工場は国内164拠点に上る(2018年6月現在)。

このNDFの中で、米飯、調理麺、ベーカリーなどで、セブン-イレブン専門に商品を提供するのが、3大ベンダーと呼ばれる、わらべや日洋、フジフーズ、武蔵野である。

一方、詳細は後述するが、NDFに参画しない大手ビールメーカーや日清食品、コカ・コーラも、セブン-イレブンには独自開発商品を供給している。

セブン-イレブンは、これらメーカーと「戦略提携」を結び、商品開発力を高めてきた。ここでいう戦略とは、自分たちが提案する「固有の価値」を実現することである。日本にチェーンストア理論を持ち込んだ渥美俊一は店数を増やし商品を大量に販売することで価格を下げる「マスマーチャンダイジング」を提唱し、ダイエーの中内㓛はそれを実践し「ローコストマーチャンダイジング」を追求した。

チェーンストアづくりを追求した第一世代は、店舗網を広げることや価格の引き下げには成功したが、「固有の価値」を生み出す「仕組みづくり」にまでは至らなかった。後にセブン-イレブン、ユニクロ、ニトリなどは、「戦略提携」を駆使して仕組みをつくり、それを実現させていく。

セブン-イレブンの高い日販は、囲い込む企業の経営資源の差

セブン-イレブンのPBを語るうえで、パートナー戦略という言葉がキーワードになる。経営学ではストラテジック・アライアンス、すなわち「戦略提携」と呼んでいる。戦略提携には3つの要件がある。

(1)提携相手/だれ(企業)と組んで、どのような目的を共有し、どのように問題を解決するのか。

(2)組織設計/問題を解決するために、どのように組織を設計するのか。
一対一で組むのか、一対「多」になるのか。中堅スーパーマーケット(SM)チェーンが組織する共同仕入機構、たとえばシジシージャパン、八社会、ニチリウなどは「多」対「多」。価値を実現するための役割分担も変わってくる。

(3)互酬性お互いに利益があるということで、これがもっとも重要。いい換えれば小売とメーカーが運命共同体のレベルにまで関係を深めるということだ。そして、最終的にはお客を中心に、トリプルウイン関係を構築する。

互酬性の実現に必要なことは、トップ同士の合意と明確な目標設定である。在庫の適正化、利益拡大、欠品防止、商品開発など具体的な目標が設定されれば、役割分担など実務へ進む。

セブン−イレブンの創業当時に、米飯や調理パンを供給したのは、当時は零細な弁当・総菜工場であった。しかし、セブン−イレブンが500店舗、1,000店舗と規模を急拡大させるのに伴い、商品供給が間に合わなくなってきた。弁当工場を新設すれば(当時は)20〜25億円の投資になる。そこで、「商品の安定供給」という明確で切実な目標の下にNDFが設立されたのである。当然、背景にはトップ同士の合意があった。

[図表1]戦略提携の三要素

セブン-イレブンが生み出した集団的商品開発体制の強み

PB商品は基本的には小売企業とメーカーが一対一の関係により開発するのに対して、NDFのような集団的商品開発体制は一対「多」の関係で開発する。調理麺を例に挙げれば、粉・製麺、調味料、具材、包装資材の各メーカーが参加して、販売実績や顧客データを基に新商品の開発や既存商品の改善を図っていく。

このような集団的商品開発体制は、異質な経営資源や、異なった組織能力を引き出す効果がある。それぞれの得意技を持ち寄ることで、商品開発力が高まっていくのだ。

また、独立企業の集合体という環境は適度な緊張関係を生む。つまり、どこかのプロセスや作業に不備、不都合があれば全体の不利益につながる。食品の不備は健康や命に関わる問題である。これを防ぐため、お互いが注意し、必要なら指摘し合う相互監視機能が働いている。

先述のとおりNDFにはブランド力のある大手ナショナルブランド(NB)メーカーも(多くは子会社の形で)参画している。その理由は、そうしたメーカーは、有名NB商品のほかに、業務用部門を持つからである。プリマハムがNDF発足時から加わったのは、消費者向けのNB商品以外に、焼き肉弁当の食材などを提供できたからである。

セブン−イレブンと取引メーカーは、このように多元的な取引関係を深めている。それが他チェーンとの日販の差となって表れている。ちなみに、日販はセブン−イレブンが65.3万円(2018年2月期)、ファミリーマート52.0万円(同)、ローソン53.6万円(同)となっている。

棚割り独占型、学習型…PBへの向き合い方はさまざま

集団的開発体制がある一方で、カゴメや日清食品など、これに参加せずにPB戦略を進める企業もある。シェアナンバーワンや圧倒的なブランド力がある商品を持つ企業は、セブン−イレブン(小売企業)とは一対一の関係を望む。

日清食品はセブン−イレブンと試作品や容器までを共同で開発し「日清ラ王」を販売している。このように、ブランド力のあるNB商品を有力チェーン向けに販売することも提携のひとつのあり方である。

小売業はメーカーのPBに対する戦略や強みを見極めて提携を進める必要がある。有力メーカーのPB戦略のタイプには次のようなものがある。

たとえば棚割りを独占したいと考える「棚割り独占型」。ビールメーカーなどは、ヒット商品ひとつでシェアが大きく動くので、少数ブランドで棚割りを長期安定的に占有することは至難の業だ。しかし、マヨネーズやポテトチップ市場などはトップメーカーが高いシェアを持っている。そこに、自社で製造を受託したPBを加えれば、圧倒的な棚の占有率が実現し、2位以下のメーカーは研究開発や新工場への投資ができなくなるほどの大きな打撃を受けることもある。非常に攻撃的で排他的なPB開発である。

もうひとつのタイプは「学習型」である。たとえばハムメーカーなどは昨今の健康志向により、既存の商品だけを売っていたのでは頭打ちになる。そこで、チルド総菜を戦略事業にしたいと考える。では、どうやって伸ばしたらいいのか。

あるハムメーカーは、セブン−イレブンにピザのPB商品を提案した。セブン−イレブンで一定期間販売した後、売れ行きを見て仕様を変えてNB商品として発売。ただし、販売チャネルはコンビニではなく食品SM中心にして利益相反を防ぐ。コンビニでの販売がマーケットリサーチの効果も果たし、この戦略は成功した。

<セブン−イレブンと有力NBメーカーとの取組み>

キリンビール執行役員マーケティング本部長 石田明文氏(右)
セブン−イレブン・ジャパン取締役執行役員 商品本部長 石橋誠一郎氏(左)

キリンビールは2018年3月に主力ブランド「一番搾り」のセブン−イレブン専用商品「一番搾り 匠の冴」を開発した。キリンビールが、主力ブランドを使用した専用商品を開発するのははじめての試みである。

コカ・コーラは、セブン−イレブンの2万店達成記念・限定商品として「コカ・コーラレモン&ビタミン」を提供した。“世界初”のレモン果汁入りコーラとして訴求した。

セブン−イレブン・ジャパン代表取締役社長 古屋 一樹氏

日清食品は既に「すみれ」など有名ラーメン店を商品名としたカップ麺「日清名店仕込み」シリーズを提供している。ここ数年、セブン−イレブンが拡充を図っている冷凍食品、その目玉商品として本年6月に投入した「蒙古タンメン中本 汁なし麻辛麺」は、日清食品グループの提供である。

蒙古タンメン中本 汁なし麻辛麺
321円(税込み)

投資回収のサポートなど互酬性を徹底追求

NDFに参画する中小食品メーカーは、衛生管理の技術、商品開発の仕方、発売後のフォロー、リニューアル方法など、小売業との取組みの多くをNDFでの経験から学んでいる。ある漬け物メーカーはNDFで学んだ商品開発や販促方法を活用し、NB市場に参入した。こうした協働体制の構築が戦略提携の中身を進化させてきた。

各メーカーはNDFに対して専用担当者を付けている。その数は一人か二人か、新人か課長か、専用工場を新設するのか、案件によって投資の範囲は幅が広い。それだけ多様な組み方がある。

セブン−イレブンは3大ベンダー以外の地域のベンダーにも地元の食材を使用した弁当や総菜の開発を依頼する。売れ行きがよく、取引が本格化したら、そのエリアの供給を一手に任せる。1年間独占販売をさせることもある。

あるいは作業負荷のかかる試作品づくりでマーケティングに尽力した企業には取引量を増やして対価を与えるなど、セブン−イレブンの取引企業への配慮は実に細かい。

弁当工場をひとつ新設するには40〜50億円の投資になる。その規模の工場を、一企業が年間に幾つも投資できない。投資回収に関しても、2年、3年で黒字化、5年、6年で回収というペースが目標だ。

投資回収を支援するスキームもセブン−イレブンにはある。取引ベンダーが工場を新設する際、担当エリアを一定期間付け替えることで、取引量を増やして工場の稼働率を上げる「インサイドアウト」という手法を用いることがある。

たとえば、東北地区に新工場をつくるとき、仙台地区の既存店100店舗の仕入れを新地区に組み込む。新地区に新たにオープンする100店と合わせて200店にして工場の稼働率を上げ、早期に軌道に乗せていく。こうした柔軟でしっかりしたベンダー対応が他チェーンではなかなかできていない。

セブン−イレブンと取引のあるメーカーやベンダーは、こうした投資回収のさまざまなスキームを40年近く間近で見て知っている。だからこそ、安心して提携することができるのだ。よいPBを生み出すためには、そうした「互酬性」の実績を積み重ねていかなければいけない。

イオン、セブン、2強に求められるストアロイヤルティー向上のPB

PBプログラムは、エコノミー、スタンダード、プレミアム、サブブランドの大きく4つに分類される(図表2)。ダイエーのセービング(販売終了)も、イオンのトップバリュも、基本的にはエコノミーかスタンダードに分類されるブランドである。NBと同じ品質で2割の安さを実現、といった開発コンセプトが語られていた。

[図表2]PPB戦略進化のプロセス

(出所:矢作敏行作成 ©T.YAHAGI 2018)

こうしたコンセプトを実現させる手段としてトレードオフ戦略が取り入れられた。過剰な品質をそぎ落とし、シンプルにする。商品の目的に応じた基本的な機能に落とし込めば価格は下がるのだと提唱し、「価格2分の1の実現」を訴え続けた。

トレードオフは、エコノミーブランドをつくる有効な手法であることは事実である。それを象徴しているのが、1970年代の半ばにフランスのカルフールが開発した「ジェネリックブランド」。それにヒントを得てダイエーは1978年に「ノーブランド」商品を開発した。続いて1980年、西友は「無印良品」を開発した。

2010年代に入り、日本の小売業はイオンとセブン&アイの2強時代と呼ばれるようになった。イオンは伝統的でオーソドックスなPB開発を推進してきたが、昨年から見直しをかけている。それは全PBのうち圧倒的多数がエコノミーかスタンダードであったからだ。

ところが、価格訴求をしないコンビニを主力業態とするセブン&アイは、セブンプレミアムの売上高の80%をセブン−イレブンが占めていた。2010年9月にはセブンプレミアムより“ワンランク上の品質を実現した”「セブンプレミアムゴールド」を発売している。プレミアムが“NBメーカー商品と同等以上”の品質をうたい、ゴールドは、さらにその上をいく“専門店・繁盛店と同等以上”を目指した。

小売業にとって、PBを成功させる秘訣は、PB比率を高めて利益率を向上させ、最終的にはストアロイヤルティーを上げることだ。

そのためには価格訴求ではなく、高い品質と高い価値を生み出す商品を開発しなければならない。独自の価値を提供するPBがその店のイメージやアイデンティティを決定付けるようになる。

イオンは現在、食品部門をアップスケールしている。納豆のパックでも100円から300円台と幅広く取り揃えている。その品揃えの中でPBを販売するということは、お客に対してストアロイヤルティー向上の効果が発揮できるとわかったからだ。

そうなると、PB戦略は、低価格で販売する、粗利益を確保する、といった初期の目的から、ロイヤルティー向上効果がどれだけ大きいかを考える戦略に変わってくる。ここがいまの日本の、PB戦略が当面している大きな問題である。

このように、PB戦略が進化しているので、どこに焦点を当てるのかが重要になる。仮に、ドラッグストア(DgS)が低価格対策を目的にして、エコノミーブランドの展開を考えたときに組む相手は準大手、中小メーカーでもいいかもしれない。トレードオフをして、パッケージは簡素にして、食材は節約し、余計な機能はそぎ落としていく方向である。

しかし、店舗イメージを向上させ、セルフメディケーションを推進し、健康によい食品やサプリメントを開発したいのであれば、低価格を追求するのではなく、品質を追い求めることに注力すべきである。

DgSに期待したい、健康志向のサブブランド開発

先述のとおりPBのタイプは、エコノミー、スタンダード、プレミアムと「サブ」に分かれる。「サブ」とは健康やエコロジーなどテーマを持ったカテゴリー横断的なPBのことである。最後にこのサブブランドについて説明を加えたい。とくにDgSは、サブブランドの開発に競争優位性が発揮できると考えている。

ここでは、サブブランドの開発に成功したセインズベリーを例に挙げる。セインズベリーはほかの食品小売業に先駆けて、フリーフロムのPBを2002年に販売を開始した。「フリーフロム」とは、アレルギー疾患のある顧客のために開発された、小麦・グルテン・乳製品などを含まない食品カテゴリーを指している。

セインズベリーは2009年、顧客データの分析から、フリーフロムを購入するお客はチェーンにとって上客である判断した。店舗への来店頻度や平均購買金額が高く、ワインを購買する顧客層よりもはるかに上客であると結論付けた。

そこで、フリーフロムの商品全体を刷新して、新鮮かつ、おいしいフリーフロム商品に改良しようとした。その際、模倣すべきNBがマーケットに存在していないとわかり、PBによって、多様で高品質の品揃えを実現した。NBメーカにも改良品のNB投入を依頼した。しかも、菓子、パスタ、デザートなどひとつのテーマで商品部門横断的に取り組み、カテゴリーを創造することに成功した。その点がすばらしい。

セインズベリーのEC用ホームページ

フリーフロムは、グルテンフリー、牛乳フリー、小麦フリー、ナッツフリー、大豆フリー、卵フリーの各種無添加商品が用意されている

これを日本で実現する場合、必ずしも大手メーカーである必要はなく、規模を問わず特定の分野で得意技を持っている企業が提携相手となるだろう。

メーカーにしてみると、新製品の導入リスクが大幅に削減される。通常のNBであれば、製品開発して、市場調査して、データを取って、チェーンの本部でプレゼンして、売場を獲得して、広告宣伝して、フォローしてと、膨大な新製品の導入コストが掛かる。

DgSは、健康志向を強め、セルフメディケーションを推進している。健康をテーマとした部門を横断するような新たなサブブランドの商品開発に期待したい。

法政大学名誉教授 矢作 敏行氏

[PR]店頭+デジタル販促が功を奏し売上1.8倍になったスキンケアブランド

南仏アベンヌ村の温泉水と製薬会社の技術で生まれたスキンケアブランドアベンヌから、2017年8月にリニューアル発売されたのが「アベンヌ薬用リップケアモイスト」。SNSやブランドサイトなど各種デジタル販促が効果を挙げて大きく売上を伸ばした。その中には20代若年層も多数含まれている。今年もデジタル、化粧感度の高い人向けの販促を予定しており、秋冬の有望な商材として、若年層と店舗をつなぐブランドとして、さらなる飛躍が期待できる。

リニューアル発売以降の振り返り

リニューアル以降、売上好調。2017年は前年の180%まで成長

アベンヌ薬用リップケアモイスト(以下アベンヌ薬用リップケア)は、2017年のリニューアル以降好調に推移、2017年の対前年比は180%と驚異的な成長を見せている(図表1)。取引先企業の95%以上で売上伸長、全国7エリアすべてで大幅な伸びを見せた(図表2、3)。

このようにアベンヌ薬用リップケアはリニューアル以降、企業、エリアと全方位的に大幅な成長を見せ2017年の売上は前年の2倍近くに達している。

アベンヌ薬用リップケアの参考価格は1,050円(税抜)、高価格帯リップに分類され、肌や乾燥への意識が高い層が購入する可能性が高い。リニューアル以降快調に伸びているこの商品を活用して、「高価格帯リップ領域」を活性化させ、秋冬のシーズン需要を着実に収益に結び付けたい。

20代、30代、50代が伸長。若年層を店舗へ誘引できるブランド

2017年の購入者数の対前年比を年代別で見ると、20代で187%、30代で271%、50代で220%となっている。

DgSが今後ロイヤルカスタマーとして育成したい20代が2倍近くにまで伸びていることは特徴的だ。後述するが、アベンヌでは店頭や既存メディアに加え、デジタルによる販促も強化しており、それが20代へと響き購買に至っているとおもわれる。DgSが取り切れていない若年層が関心を示し購入しているアイテム、ブランドであるという認識は、未来対策としても重要である。

 

さらに、新規購入率を2016年と2017年で比較すると159%と大きく伸びている。これは、アベンヌ薬用リップケアが高価格帯リップ領域への入口商品となっており、店舗へのプラスオン効果をもたらしていることを示している。

購入者像

美容意識の高い優良顧客 情報感度高く、購買前に情報接触

図表5は購入者の美意識に関する調査である。非購入者はアベンヌ薬用リップケアを選択肢に挙げたものの迷った結果購入しなかったという層で、ピエール ファーブル ジャポン(PFJ)社のパネル調査対象者から選んでいる。

各項目における購入者のトップ2ボックス(当てはまる、やや当てはまる)はいずれも高く、購入者が美容に関心が高いことを示している。

また、1ヵ月のスキンケアの購入金額別に購入者の割合を見ると、3,001〜5,000円がもっとも高い構成比を示している。スキンケアだけで、年間で約36,000〜60,000円を購入している優良顧客がボリュームゾーンで化粧品部門、店舗への貢献度は高い。

こうした美容への関心、情報感度の高さを示すように、購入者は店頭以外でも雑誌、SNS、ブロガー記事など多くの情報に接触している。

例)ナショナルジオグラフィックによるアベンヌの紹介動画

購入者は来店前(プレストア)にさまざまな情報と事前に接触しているので、店頭(インストア)では、事前情報を思い出せるように多ヵ所陳列をしたり、接触した情報に近いイメージのツールを展開することが重要となる。

アベンヌ薬用リップケアでも、こうした考えに基づく「プレストア」「インストア」双方を重視した施策を打っていく。

商品特長と売場・売り方

パッケージの評価が高く、露出度が多いほど購買されやすい

白地に薄いピンクでロゴが描かれている。リップクリームは、寒色(青系)が多い中、暖色(赤系)の文字があるパッケージは、希少性もあって、高い支持を得ている。白地のシンプルなデザインは今風でインスタ映えする。印象的なパッケージは事前情報として接触している人も多いので、店頭もこれに連動して、面で大きく展開すれば購買チャンスが増す。

また、ハンドクリームとの併買率が上がっているので、並べて陳列すれば2アイテムが秋冬のシーズン期間内に購買される確率も高まる。

アベンヌブランドの入口として薬用リップケアを捉える

アベンヌを代表するアイテムであるアベンヌ ウオーターの売上も2017年は120%伸長した。20代の若年層の貢献が高い。アベンヌが発信するデジタル、既存メディアを使ったプレストア情報の接触が増えた結果だとおもわれる。

こうした状況を理解し若年層向けに売場を拡大したことで、40代、50代の既存客の購買がさらに進むという相乗効果も見られる。

アベンヌでは2018年9月エイジングケアのミルキージェル エンリッチを新発売。新商品を含め定番什器では独自の世界感のあるスキンケア商品を展開している。薬用リップケアから、ブランド全体の若年ロイヤルカスタマーを育成できれば、人口減時代の未来対策になる。

プレストアとインストア、ダブルの施策で店頭をサポートするアベンヌを化粧品部門拡大のために活用しよう。

ブランド訴求のための定番什器 3尺3段
アベンヌ薬用リップケアモイスト(医薬部外品) 容量4g 1,050円(税抜) ※価格は編集部調べ
ミルキージェル エンリッチ(保湿ジェルクリーム) 50mL 4,000円(税抜) ※価格は編集部調べ
トリクセラNT フルイドクリーム (全身用保湿クリーム) 200mL 3,200円(税抜) ※価格は編集部調べ

ブランドサイトURL: http://www.avene.co.jp/

[PR]拡大する電動鼻吸い器市場。実店舗・ECの購入単価向上に貢献 

2018年8月20日に、ピジョン 電動鼻吸い器が新たに発売される。電動鼻吸い器は、働きながら育児も行う忙しい子育て世代から熱い視線が注がれている。市場規模は年々拡大しており、ECサイトを中心に売れている。今後ドラッグストア(DgS)で扱えば、ますます市場拡大が見込まれる。風邪が増えて需要が高まる秋冬に向けて電動鼻吸い器を売り出そう。

さらなる成長が見込まれる電動鼻吸い器

耳鼻科に行く負担が減る!忙しい母親の必須アイテム

ベビーの鼻水を取り除く「鼻吸い器」市場は、拡大傾向にある(図表1)。理由のひとつは、働く母親の増加だ。鼻水を取らなければならない理由は以下のとおり。耳鼻科に行って鼻水を吸ってもらうことも多いが、働く母親が何度も通院することは非常に大変なうえに、親子ともに別の病気に感染してしまうリスクまである。さらに一度取ってもすぐにつまってしまうことも多いため、鼻吸い器の購入を検討するようになる。

とくに生後7ヵ月以降のベビーは母親からもらう免疫が弱まり風邪をひきやすくなるといわれており、鼻吸い器はますます重要となる。

マニュアルから電動にスイッチ 理由は使いやすさとコスパ

鼻吸い器には電動式、スポイト式、口で吸うチューブ式の3種類があるが、中でも電動鼻吸い器市場が伸びている(図表1)。価格は1万5,000円前後と決して安くはないが、吸引の加減の調整が簡単、鼻水を残さず取れる、機械なので一定の力で吸い続けられる、吸うときに親に風邪がうつってしまうリスクがないなどの理由で評価が高い。加えて何度も耳鼻科に行くコストや時間を考えると、むしろ「割安」だと考えられている。

現状DgSでは電動鼻吸い器がほとんど扱われておらず、多くが通信販売での購入となっている。DgSでの販促活動によって必要性を知ってもらうことができれば、新たな市場を開拓できるはずだ。急な風邪ですぐ買いたい親にも喜ばれるだろう。現状、鼻吸い器を使う親の割合は3割程度。その中で電動鼻吸い器を使うのは5~6%にとどまり、新規・スイッチともにまだまだチャンスがある。

また鼻吸い用品は、風邪をひきやすくなる秋冬にもっとも売れる(図表2)、これから重点的に用意したいカテゴリーだ。

パワフル、使いやすい、やさしい、清潔、コンパクトなピジョンの新商品

耳鼻咽喉科医と共同開発 ピジョン初の電動鼻吸い器

今回新発売となるピジョン 電動鼻吸い器は、ピジョンというブランド力に加えて耳鼻咽喉科医との共同開発で、信頼感は十分。また収納バッグ付きで、持ち運びしやすく清潔に保管しやすい。とくに使用者からの評価の高い特徴は、以下3点だ。

①パワフル吸引

吸引力は耳鼻科の機械に匹敵。パワーがあれば鼻水が取りやすいため、購入時にはとても重視される。さらに生後7ヵ月以降になると鼻水の粘度が上がり、スポイト式、チューブ式では取れにくくなるのでますますパワーが重要だ。吸引の加減をつまみひとつで簡単に調整できて、一定のパワーを維持できるためとても使いやすい。

②お手入れカンタン

従来品の多くは本体にタンクが付いており、本体のタンクごと洗う必要がある。本商品は、ノズルだけ取り外して洗えるので扱いやすく、清潔だ。おかげで本体部分が小さくコンパクトなのも魅力的。

③フィット鼻ノズル

繊細なベビーの鼻は、粘膜が傷つきやすい。本商品は、シリコンゴムでできた柔らかいノズルで鼻にやさしい。サイズが2種類あるので、ベビーの成長に合わせて使い分けられる。

ブランドサイトと実物見本で理解促進

まずは理解促進 マニュアル式に加えて追加購入

DgSの商品としては決して安くないため、商品の必要性を伝えることが非常に重要だ。「鼻水から細菌感染を起こしやすい」という認知は高いわけではない。子育て経験のない従業員も、その重要性を頭に入れておきたい。ピジョンではブランドサイトを立ち上げており、使い方などをイメージできるよう支援を行っている。売場では、ブランドサイトへの誘導を行い理解促進に努めたい。

まずは安価で買いやすいスポイト式や口で吸うチューブ式を買ってもらい、生後7ヵ月ごろの風邪をひきやすく鼻水の粘度が高くなってアナログへの不満で生じ始めるころに、電動鼻吸い器を追加購入してもらうのもいいだろう。

実物見本をいち早く設置して秋冬に向けてイメージ定着を

店頭用の見本

「電動鼻吸い器はあのお店に売っている」というイメージを持ってもらうためにも、先述のブランドサイトとセットで実物見本の設置を確実に行いたい。実際の購買はベビーが風邪をひくなどニーズが生じたあとなので、それまでに認知してもらいたいところだ。DgS ではまだ扱っていない店舗がほとんどなので、競合店よりも早く設置できると、必要になったら自店を想起して来店してくれるようになる。10月以降は需要がピークになるので、それまでに準備したい。

EC サイトとの相性も◎ 自社サイトの活性化に

現状ECサイトでの扱いがメインであるためリアル店舗でのチャンスが大きいのはもちろんだが、自社EC サイトでも扱っていきたい。金額が1万4,000円(税抜き)と安くはないし持ち帰らずに済むため、EC サイトの方が購入しやすいという人も少なくないはずだ。ベビー用風邪アイテムの購入とともにおすすめもしよう。

重要ポイントのまとめ

  • ベビー用電動鼻吸い器の市場は拡大しており、DgSで扱うことでさらなる市場拡大を目指せる
  • リアル店舗だけでなく、自社ECサイトの購入単価アップも期待できる

転換点に立つ小売業。ウェブとリアル、どちらかだけでは立ち行かない

ITを活用し新しい時代を切り開く小売業の経営者に聞くシリーズの第5弾。ECショップ「DIYFACTORY ONLINE SHOP」や実店舗「DIY FACTORY」を運営する大都の山田岳人氏にお話を伺う。昭和12年(1937年)に創業し金物卸売業を営んでいた同社は2002年にインターネット通販をスタート。2015年には4億5,000万円の資金調達を実施し、次のステージに立った。2016年、ホームセンター(HC)大手のカインズと業務提携を行い、リアルリテール企業とデジタルリテール企業の新しい協業のあり方として注目を集める。

─筆者は2000年代の前半からEC企業を取材してきましたが、御社のように成長を続けているEC企業がある一方、家業にとどまっているEC企業は少なくありません。そこを分かつのはいったいどこだったのでしょうか

山田 2000年前半に成功していたEC企業の多くはロングテールモデルでした。彼らはいかに人手をかけずに膨大なアイテムを商品マスタに登録し、ウェブで販売するかに注力していました。中国でシステムに商品登録をするというモデルをつくったり、スクレイピング(インターネットから自動でデータを取得する手法)してきたデータを商品マスタに自動で登録する仕組みで勝負しているような企業もありました。

─EC企業の一部は上場もしています。

山田 ですが、メーカーや卸売業者さんがマスタデータをEC事業者に提供するようになったこともあり、2010年を過ぎたころにはそのようなビジネスモデルも一般化してしまいました。また、書籍しか売らないとおもわれていたAmazonが、ロングテールモデルでさまざまな商品の販売を始めたのも大きい。結局、ロングテールモデルでやっていたいくつかのEC企業は非上場化したり買収されたりしています。そう考えると、既存のECのモデルは限界にきているといえるのかもしれません。

当社は、ECは「小売業」であると考えています。そして、小売業はユーザーとどのような関係性を築くのかが重要です。

─そこで御社はユーザーさんと関係性を構築するために実店舗を出店されたり、オウンドメディアの運営をなさっているのですね。

山田 はい。昨年はGreenSnapというグリーン(園芸)アプリの事業を子会社化しました。今年に入ってからはHORTI(ホルティ)というグリーンのナンバーワンウェブメディアも子会社化しています。

アプリでナンバーワンのGreenSnapと、ウェブメディアでナンバーワンのHORTI。両方一緒になりましたので、いわゆるネット上のグリーンのコミュニティやユーザーに対する当社の接点数は日本一になったと考えています。

グリーン関係ではナンバーワンのウェブメディア「HORTI(ホルティ)」。2018年に子会社化した。月間1,000万PV、ユニークユーザー数は500万人

技術がどうのという前に、組織が強くないと勝てない

─EC企業の中でも御社が成長し続けられている理由は、多分CTO(最高技術責任者)をきちんと据えて技術的に磨き続けているという点と、御社の社風に憧れた従業員の方が入社なさっているという点にあるようにおもいます。

山田 そうですね。僕たちは、企業は「人」でしか差別化できないとおもっています。僕たちのようなメーカーさんからモノを仕入れて販売する小売業は、モノで差別化するのは難しい。ですから人であり組織で差別化をしていきたい。サービスを考えるのも人ですし、お客さまの対応をするのも人です。パートナー(取引先)とのやりとりをするのも人。テクノロジーがどうのという前に、組織が強くないと勝てません。そこは採用も含めてわりと意識してやっています。

─以前取材させていただいたときには、ホラクラシー経営(※注1)を取り入れているとおっしゃっていました。

山田 はい。僕たちは何年も前からホラクラシー経営といっていますし、最近だとティール組織(※注2)という言葉が注目を集めています。ホラクラシーもティールも、元をただせば自律型の組織です。スタッフ一人ひとりが自分ごとと考えて仕事をする組織という点はずっとぶれていません。

ただ、自律型の組織運営は非常に難しい。ツリー型でヒエラルキー構造の組織運営は、指揮命令系統がはっきりしていて、上司が「これをやりなさい」といったことを部下がすればいいだけなので簡単です。ただ「簡単」ということは「だれでもできる」ということです。やはり難しいことをやらなければなりません。

僕たちはメンバーが成長することが会社の役割と考えていて、この点にはこだわっています。ただ、途中から入ってきたボードメンバーは、軍隊的組織でやってきた人間が多いので、苦労しているとおもいます。

─あとから御社に入社した人たちは、たとえばどういうところに難しさを感じるのでしょうか。誰も指示を出さないということでしょうか。

山田 そうですね。あとは自由にやらせていいのかという点です。答えがわかってるんだから、「これをやって」と指示を出した方が早いのではないかと考えがちです。でも、それでずっとやり続けていると「いわれたことをやるだけ」の人が育っていきます。そうすると、自分で考えなくなるんですよね。

たとえば何か問題が起きたときに、自分で考えないと「こういう問題が起きていますがどうしたらいいですか」という聞き方をする人に育ってしまいます。自分の頭で考える人は「こんな問題が起きていて、私はこういうふうにしようとおもうのですが、どうでしょうか」と投げ掛けてくる。これはリクルートの文化なんです。(※編集部注:山田氏はリクルート出身)

リクルートには「あなたはどうしたいの」という口癖があります。「こんな問題が起きているのですが、どうしましょう」といわれたら「え、じゃああなたはどうしたいの」とまず聞かれます。それを考える。

DIY FACTORY OSAKA。2014年にオープンした実店舗の第1弾。これまでのDIY関連ショップとはまったく違った打ち出し方で、多くのHCの売場づくりに影響を与えた

カインズとのスピード提携

─この数年間で御社にはさまざまな動きがありました。中でも注目されたのがカインズさんとの提携です。いまどのようなきっかけでスタートして、いまどのようなステージにあるのかを教えてください。

山田 大都は創業80周年になりますが、3年前の2015年7月にはじめての資金調達ということで、グロービス・キャピタル・パートナーズから4.5億円の出資をしていただきました。そこから人を集めたり、システム開発に投資をしていき、自分たちの目指す未来をつくろうと活動しているなかで、2016年の春、グロービスが行っているG1ベンチャーという日本中のベンチャーが集まるイベントの会場でカインズの土屋社長(土屋裕雅氏)が「面白いことをやっているよね」と、声を掛けてくれたんです。土屋さんのこと、僕たちはスマイリーと呼んでいるんですけどね(笑)(※注3)。

そのときは、立ち話だったのですが、その後大阪でしっかりお話をして、そこでカインズさんが目指す未来と、僕たちがいま考えていることをお互いに補完し合えば、より面白いことができるのではないかということになりました。そこで「ちょうど次の春に広島に店を出すから、やってみる?」というお話をいただきました。そういう流れのなかで秋に業務提携をしました。

─春に出会って、秋に業務提携。すごいスピードですね。

山田 あの規模の企業で、土屋さんの決断の早さやスピード感はすごいですよね。

そこから商品開発、商品仕入れ、店舗開発、プロモーション、デジタル戦略の5つを共同でやりましょうということになりました。共同の店舗開発が広島のLECT(カインズ広島LECT店)です。2017年のゴールデンウィークにオープンして、うちのスタッフも3ヵ月ぐらい住み込みで対応しました。

職人向けと一般向けの売場を分けたLECT

─LECTで御社はどのような提案をなさったのでしょうか。

山田 まずは一般のコンシューマー向けの売場と、職人さん向けの売場を1階と2階で分けました。一般のコンシューマーは感情的価値、職人さんは機能的価値を求めています。だからエモーショナルな売場と、ファンクショナルな売場に振り切ったんです。

たとえばラッカースプレーならば、職人さんであれば価格の安いものや容量の多いものを選びますし、一般の方は価格が安いものよりも使いやすさやパッケージのかわいらしいものを選択します。少量のものの方がうれしいというニーズもあります。もともと求めているものが違うのですから、売場も違う方がいいと考えて、その部分はうまくいったとおもいます。

僕たちはHCの工具売場は、売場自体がコモディティ化というか、同質化していると考えています。看板が違っても、売場はまったく同じで、マーチャンダイジングが成立していない。だれ向けの売場、というコンセプトがなくて、単純に「物」の軸で分類している。そこを「人」や「コト」という軸で分類もしています。

ただ、HCはまねの業界ですので、その後そっくりな売場のお店がいっぱいできましたね。実際にLECTの売場写真を張りながら売場をつくっていたというHCもあると聞いています。HCの売場が同質化する理由のひとつは、ベンダーが売場をつくるという点です。やはりそこはオリジナリティを出さないと、同質化して当然です。

僕たちが運営している実店舗DIY FACTORYは、日本中のHCさんが参考にしてくれています。うちの店に似た店も、たぶん日本中に何十店舗とできているでしょう。僕たちは、そういう店が広がれば広がるほど、僕たちの目指す未来に近づいていくので、(自分たちの店をまねされても)それでいいと考えています。店頭にはPOPで、「写真撮影してSNSにアップしてください」と書いていますしね。

─最近は、写真撮影OKという小売業も増えましたからね。カインズとは5つのことをやると決められて、売場開発、商品開発、仕入れを共同でやるところまでは進まれましたが、プロモーションやデジタル戦略についてはいかがでしょう。

山田 プロモーションは着手しています。たとえば先般はカインズさんでデザイン展というイベントを実施し、そちらに関わらせていただいています。

また、この夏には、子供向けの「キッズ1万人DIYチャレンジ!」というプロジェクトをやっていて、カインズさんのお店百何ヵ所でも開催させていただいています。

業務提携を行う場合は、はじめに基本合意契約書を書面で交わすわけですが、カインズさんとの契約書はその主文が「DIYを日本の文化にするために僕たちは業務提携する」というだけなんですよ。「ああしろ、こうしろ」というのがまったくなくて、本当に変わった提携なんです。それでよしというふうにスマイリーが決めてくれたので、そうなりました。僕たちの株も10%ほど持っていていただいています。

カインズ広島LECT店ではDIY FACTORYがDIY売場づくりに関わり、業務用の資材売場と一般消費者向けの売場を1階と2階に振り分けた。一般消費者向けの売場では、実際の使用例などがわかるエモーショナルな売場づくりを志向する

プライシング・リベート管理のシステムも内製

─いま御社の中ではどのようなことが課題で、次はどのようなステージを目指してきていますか。

山田 ECに関しては、品揃えは必要ですし、ロングテールモデルをやめる気もありません。いかに利益を出していくかというところが課題です。粗利をいくら取ったとしても、いまは物流コストが重いじゃないですか。売上が挙がっていても儲かっていないEC企業はたくさんあるとおもいます。

そういう意味では、僕らはベトナム人のエンジニアを日本に3人、ベトナム本国に7人抱えていて、システムを内製しているんです。僕たちがシステムを内製しているのは、とても意外におもわれるんですけどね。

─正直なところあまりそういうふうには見えません(笑)。

山田 たぶんEC企業の中でも相当エンジニアリングに関しては強いとおもいます。

社内にはいろいろなシステムがありますが、たとえばプライシングでは「最安」ではなくて「最適」な価格がいくらなのかということを、自動的に算出するような仕組みを持っています。

それと、この業界はとてもリベートが多いので、そういうリベートを管理するための仕組みも持っています。今後、商品データベースもAPI (※4)で外部に開放しようと考えています。

─システムの部分は相当つくり込まれているのですね。

山田 といってもNB(ナショナルブランド)のECは、他社も同じものを売っているわけですし、利益に限界があります。そこで、メディアです。僕たちはGreenSnapとHORTIを合わせて月間500万人の方に利用していただいています。

日本においては一度でも園芸をしたことがある人は4,500万人といわれています。そのうち50歳以上が3,000万人で、50歳以下は1,500万人しかいません。ところが僕たちのサービスは50歳以下の500万人を囲い込んでいる。つまり50歳以下の園芸経験者の3人に1人はうちのメディアに通っているんですね。

この若年層の市場を伸ばすのが園芸業界・花き業界の課題なんです。ですから、その若い人たちが、花を生けたり、野菜を育てるような社会にするのが僕たちのミッションのひとつなんです。

2018年7月には、GreenSnapの中に花屋さんの無料紹介サービスも始めました。花をぱっと買おうとおもったときに、どこのお花屋さんで購入すればいいのかわからないことが多いですよね。

─アプリからリアル店舗への送客を行うわけですね。非常に便利そうです。

山田 この先、ECはとにかく研ぎ澄ましていく。メディアはユーザーを集めて啓発していく。この下半期にも、住まい系のアプリのリリースを予定しています。

それと、実はECとメディアはつながりにくいんです。ご経験なさっている方が多いのではないかとおもいますが、オウンドメディアに集まった人をECに送客しても、購入されないというケースが非常に多い。また、ECに集まった人をメディアに集めるというのも難しい。その間に入れるものは、プロダクトだと僕たちは考えていて、いまメーカーさんといろいろ開発をしていて、秋以降どんどん発売していこうと考えています。

グリーン好きが集うアプリ「GreenSnap」では生花店・園芸店の検索サービスをスタート。アプリから実店舗への誘導を図る

お客に気付きを与える場所としてのリアルの重要性

山田 実は大阪の実店舗を9月末に閉店します。2014年に出店した僕たちのリアルショップ第1号なので、非常におもい入れはあるのですが、この4年間で僕たちの認知は高まり、似たようなお店も日本中にできてきました。ひとつの役割は果たしたようにおもっています。そこで、次は店舗で待っているのではなくて、外に出ていこうということで「DIY FACTORY GO!」というものをスタートします。DIYのキャラバンカーをつくって、日本全国をDIY FACTORYが回っていく。いままでだれもやらなかったことをやろうというのが僕たちのコンセプトのひとつなので、だれもまだやっていないDIYのキャラバンをやってみようとおもうのです。

─ウェブとリアルの両輪が必要な時代なのですね。

山田 そうですね。どちらかだけでは立ち行かない時代になっていますし、小売業を再定義するというタイミングだろうなとおもいます。

Amazonもリアルに進出してきています。とはいいつつ、日本のEC化率はまだたかだか6%程度です。94%はリアルで動いています。計画購買と非計画購買は、圧倒的に非計画購買の方が多いので、お客さまに気付きを与える場所としては、まだまだリアルが重要です。両方やらないと駄目だろうとおもっています。

─「だれかと直接会う」ことの希少性が高まっています。会ってお話しすると、相手との関係性が違うフェーズになりますよね。小売業の実店舗にこそそのような機能が求められているのかなとおもいます。

山田 そうですね。一度会って、面と向かってお話をすると、距離が近くなる。ただ、これまでだと1年後には会った人を忘れてしまうのですが、この間にSNSでつながってると、全然そこは感覚が違って「この間会ったばかりだよね」みたいな感じがずっと続きます。

─結局は人間対人間のつながりなのですよね。デジタルの力を利用して、小売業も原点回帰の方向に向かっているということなのかもしれません。今日はありがとうございました。

<注釈>

※注1 ホラクラシー経営 従来の中央集権型・階層型のヒエラルキー組織に相対する新しい組織形態を示す概念。ヒエラルキーが一切存在しない、真にフラットな組織管理体制。

※注2  ティール組織 フレデリック・ラルーが提唱している新しい組織の概念。「セルフ・マネジメント」「全体性」「進化的な目的」などを要素とする。

※注3  大都はイングリッシュネームでメンバーの名前を呼ぶ文化がある。ちなみに、山田社長のイングリッシュネームは「ジャック」。

※注4  API…Application Programming Interfaceの略称。基本ソフト(OS)やアプリケーション・ソフト、インターネットのサービスなどが、自らの機能の一部を、ほかのソフトやサービスから簡単に利用できるように、機能の呼び出しやデータの受け渡しなどの手順を定めたルールのこと。

地図上にデータを表示して「エリア特性」を発見する

前回はTableauで時系列データを表現する方法を説明しました。簡単にグラフ化や細分化、前年比の表示までできることが分かったと思います。この第四回では切り口を変え、Tableauを使ってデータを地図上に表示する方法を説明します。

1.地理的なデータ

地図上にデータを表示することの大きなメリットは、単に数字を並べたりグラフにして見たりしただけでは分からない、「エリア特性」を発見できることです。

例えば、ある商品がよく売れている店と、全く売れない店の違いは何でしょうか?一見ランダムなように見えても、地図に出してみれば「山に近い」「耐久消費財への支出が高い」といった共通点が分かるかもしれません。共通点を見出すことができれば、同じ条件を持つエリアに的を絞って、効率的に売上を上げる施策を打つことができます。あるいは、マーケティングデータと重ねて見ることで、市場における自社のシェアを把握することもできるでしょう。

「自社店舗の住所」のような、公的に整備されていない情報であっても、場所を特定する情報があれば、地図上に可視化することができます。Tableauでは緯度と経度で任意の場所を地図上に表示することができます。※1

2.地図の表示と操作方法

ここではこのリンクからダウンロードしたExcelファイルを利用して、データを地図上に表示する方法、そして表示範囲の移動や拡大縮小といった操作方法を説明します。

2.1.Excelファイルの読み込み

第三回とは別のデータを利用しますので、新しくデータを追加します。画面上部の「新しいデータソース」アイコンをクリックし、Excelを選択します。表示されるダイアログからダウンロードしたExcelファイルを指定して「開く」をクリックします。

<図2-1>

赤枠のアイコンを押してExcelを選択

2.2.地理的役割の設定

Excelを読み込むと、画面下側のプレビューに緯度と経度のデータがあることが分かります。Tableauではこれらのデータに「地理的役割」を与えることで、地図上に表示可能な地点として認識させることができます。まずは経度の「#」記号をクリックし、一番下の地理的役割から「経度」を選択します。「#」記号が地球儀のようなアイコンに変化していれば設定は終わりです。

<図2-2>

経度の上にある「#」記号をクリック

<図2-3>

地理的役割の中から「経度」を選択

<図2-4>

「#」記号が地球儀アイコンに変化

経度と同様に、緯度にも地理的役割の緯度を割り当てます。緯度と経度の両方に地理的役割を設定したら、新しいシートを作成してそちらに移動します。

2.3.店舗を地図上に表示する

Tableauでは列が横軸、行が縦軸を表します。地図に置き換えると横軸が経度、縦軸が緯度となりますので、メジャーにある経度を列に、緯度を行にドラッグ&ドロップします。この時点で日本地図が表示されます。

<図2-5>

画面の中心に小さな青い点がひとつだけ表示されています。Excelの中には40個の店舗がありますので、第三回で折れ線グラフをカテゴリ別に分解したときと同様に、ディメンションの店舗名をマークの「詳細」にドラッグ&ドロップすると、青い点が店舗ごとに分かれて表示されます。

<図2-6>

店舗名をマークの「詳細」にドラッグ&ドロップした直後

店舗の位置が特定できたことで、店舗が近畿地方と福井県の一部に分布していることが分かります。店舗名を文字で表示したいときは、店舗名をマークの「ラベル」に配置するとよいでしょう。

2.4.地図上に売上高を表示して傾向をつかむ

それではここに商品の売上高を表示してみます。メジャーの売上高をマークの「サイズ」にドラッグ&ドロップすると、青い点の大きさが売上高に応じて変化します。

<図2-7>

これだけ見ると特に明確な傾向があるようには見えません。では、商品ごとに掘り下げて見るとどうでしょうか。ディメンションの商品名を右クリックして「フィルターを表示」をクリックし、画面右端に現れたリストから「商品A」だけを選択した状態にします。

<図2-8>

<図2-9>

商品Aだけにフィルタリングした状態

図中の赤い破線はTableauで表示されたものではなく、後で画像に付け足したものですが、およそこの線を境目として、北側の点は大きく、南側の点は小さくなる傾向であることが読み取れます。つまり、「商品Aは近畿地方の北部で売れている」ということです。

2.5.差を際立たせて気付きやすくする

次は画面右端のリストから、今後は「商品B」だけを選択した状態にしてみます。

<図2-10>

商品Bだけにフィルタリングした状態

この時点ではまだ店舗間で差があるのかどうか分かりにくいと思います。このようなとき、差を際立たせる表現にすることで気付きを得ることができる場合があります。

地図上で地点ごとの差を際立たせる方法としては、「2色で塗り分ける」「サイズの範囲を変更する」という2つのやり方がお勧めです。ここでは色を塗ってみましょう。色を塗るのはとても簡単で、メジャーの売上高をマークの「色」にドラッグ&ドロップするだけです。

<図2-11>

マークの「色」に売上高をドラッグ&ドロップした直後

なんとなくですが、外縁部の海岸線沿いは色が濃いように見えます。もっと分かりやすくするために、色を2色に分けてみましょう。画面右端の色のグラデーションを表したカードをダブルクリックすると、色を任意に変更することができます。ここではパレットの選択肢から「赤 – 緑の分化」を選んでOKをクリックします。

<図2-12>

色の変更

<図2-13>

2色で塗り分けた状態

2色に塗り分けることで、より差が分かりやすくなりました。やはり海岸沿いが緑色で売上が大きく、反対に内陸は赤色で売上が小さいということが分かります。

商圏や店舗の規模なども考慮に入れなければなりませんが、仮にこの結果だけ見るとすれば、「海岸沿いなのに売上が小さい(赤色になっている)」という店舗に対して、在庫状況や展開方法を見直すことで数値の改善に繋げるというアクションを起こすことができます。

2.6.表示範囲の拡大縮小と移動

Tableauでは地図を表示した歳、自動的にデータ全体を見渡すよう縮尺が調整されます。特定の範囲にフォーカスしたい場合は、拡大縮小をすることができます。

拡大縮小は地図上でマウスホイールを動かすか、地図左上のプラスマイナスの記号をクリックします。拡大するだけならフォーカスしたい箇所をダブルクリックする方法もあります。※2

<図2-14>

拡大したまま別の場所を見たいときは、地図左上の三角形のアイコンから矢印を縦横に組み合わせた「パン」のアイコンをクリックします。これで地図上でマウスをドラッグすると表示範囲を移動させることができます。※3

<図2-15>

拡大縮小をしたり表示範囲を移動させたりした後、最初の状態に戻すにはピン留めのアイコンをクリックします。

<図2-16>

3.まとめ

今回は緯度経度を持つデータに地理的役割を設定し、地図上に店舗ごとの売上を表示する方法を解説しました。ただリストにして並び替えるだけでは発見できない情報も、地図に表すことで簡単に気付きを得られるケースがあります。売上向上につながる様々な関連性や法則を素早く見つけ出す方法のひとつとして活用してはいかがでしょうか。

また地図は営業部門だけでなく、例えば物流のトラフィック量を経路上に可視化して効率的な輸送や拠点分散の参考にしたり、あるいは市場調査のデータを可視化して優良顧客や潜在顧客の多いエリアに集中的に広告資源を投下したりと、様々な部門で活用するチャンスがあります。

次回は2種類の数値データを散布図で表現し、相関を探る方法をご紹介します。

[注釈]
※1 緯度と経度の取得については様々な方法があります。簡便に求めたいときはこちらのページをご覧ください。
※2 拡大縮小は、地図左上の三角形のアイコンから「ズームエリア」を選択することで、マウスで指定した範囲に拡大することもできます。
※3 ズームエリア以外のモードであれば、「Shiftキーを押しながらマウス左クリックでドラッグ」でも範囲を移動させることができます。

アルディ、トレーダージョーズに学ぶ 「よりよいものをより安く」を実現するセオリー

日本でも大人気のトレーダージョーズ(以下トレジョー)。東京で山手線に乗っていると、カラフルなデザインが人気の「トレジョーのエコバック」を持っている女性を見かけることがよくあります。日本ではあまり知られていませんが、そのトレジョーの親会社は、ハードディスカウンターの「アルディ」です。トレジョー、アルディは、「ハードディスカウンター」「リミテッドアソートメントストア」という業態名で呼ばれています。徹底した絞り込みによって、「よりよいものをより安く」を実現する両社のMD戦略を整理してみましょう。

300坪程度の売場面積で3,000品目程度に絞り込む

アルディの冷ケースの陳列。PDQと呼ばれるメーカーの出荷段階からセットされたケース単位で陳列している。しかも後方から補充ができる。ローコストオペレーションを徹底していることがわかる。

アルディはドイツ出身の企業で、ハードディスカウンターと呼ばれる業態を世界中に展開するグローバルリテーラーです。ハードディスカウンターとは、ウォルマートスーパーセンターなどの大型ディスカウント店のさらに下をくぐる価格帯で食品、グロサリーを提供する小型フォーマットです。

米国アルディは、西海岸の有力スーパーマーケットであるトレーダージョーズを買収し、2017年度は売上2兆5367億円、対前年比9.6%、店舗数は2084店、対前年比7.0%、全米で18位の企業規模に躍進しています。

ディスカウント色の強いアルディに対して、「店内POP」や「試食サービス」などのエンターテイメント性の強いトレジョーとでは、異なる業態のように見えますが、業態コンセプトの多くは共通していますので、以下に整理してみましょう。

図表1 アルディ、トレーダージョーズの特徴

大きすぎない小型店を居抜き物件に出店し、初期投資を低くしています。また、絞り込み、単品大量販売(単品の陳列面積大)、インストア加工ゼロによって、従来のSM(スーパーマーケット)よりも圧倒的なローコストオペレーションを実現しています。また、完全なEDLP業態(価格販促がゼロ)なので、売れ方の波動が少なく、旧来の「ハイ&ロー業態」よりも、作業人時のかからないオペレーションです。

アルディは、パレット、ケースが補充・発注・物流の単位。パンも補充ケースのまま陳列している。

「よりよいものをより安く」を単品大量販売で実現している

洋の東西を問わず、商売繁盛の原理原則は、「よりよいものをより安く」を実現することです。しかし、この概念は実は矛盾しています。「よりよいもの」を単純に追求すれば原価が高くなり、「よりよいものをより高く」になります。

一方、「より安く」を単純に追求すれば、品質が低下し、「よくないものをより安く」になってしまいます。この矛盾する概念を解決する唯一の方法論は、「単品大量販売」です。単品で大量に販売するから、品質を高めながら、売価を下げることができるのです。

チェーンストアが多店舗展開する最大の目的は、大量の店舗数を展開することで、単品大量販売し、「よりよいものをより安く」を実現し、消費者の暮らしに貢献することです。

図表1で整理したアルディとトレジョーの業態コンセプトは、商品を徹底して絞り込み、単品大量販売を実現しようとしていることがわかります。トレジョーの「チャールスショー」というオリジナルワイン[SB(ストアブランド)]は、単品大量販売することで、一定以上の品質を維持しながら、2ドル99セントと驚くほどの低価格を実現しています。

2017年のトレジョーの企業年商130億ドル(推定)を店舗数(467店)で割り算すると、1店当たりの年商は約30億円にもなります。わずか300坪の売場面積で、3000~4000品目に絞り込まれた店舗で、1店舗30億円も売るのだから、いかに単品の売上規模が大きいかがわかります。

トレジョーのコンセプトは、「オーガニック食品を手ごろな価格で提供すること」ですから、まさに単品大量販売によって、「よりよいものをより安く」を実現していることがわかります。しかも、PB、SBのオリジナル商品の比率が90%なので、アマゾンともウォルマートとも完全に差別化できています。

トレジョーを見るたびに、「品揃えの豊富さ」と「品目数の多さ」はまったく無関係であるという原則を再確認させてくれます。

「商品をたくさん揃えましたから自由に選んでください」という売り方は、消費者にとっては選びにくい、不親切な売場なのだと思います。

単品大量販売によって、美味しいワインを2ドル99セントの低価格で提供。
トレジョーはローコストオペレーションだが、「試食体験」「POP演出」の楽しさを売場で表現している。で、「安さ」+「エンターテインメント」によって買物体験の質を向上させている。