花粉対策商品は、「新商品」より「愛用品」が選ばれる

各地でスギ花粉飛散のピークを迎えようとしています。今回は花粉症について調査してみました。調査の結果、花粉対策商品は、新商品よりいつも愛用しているアイテムが選ばれる傾向にあるということがわかりました。その理由とは?

半数以上が20代までに発症

最初に、自社調査で調査対象4,400名(20代~60代男女)に対して、「自身が花粉症であるか」を聞くと、「花粉症である」と回答した方は1,807名でした。(40代~50代が中心:平均年齢49歳)

「花粉症である」と回答した方を対象に、発症年齢や、対策について調査を進めます。

まず、花粉症の発症年齢を聞くと、「20代」が29.9%でもっとも多く、「10代」が22.0%、「30代」が22.2%と続き、半数以上の方が20代までに花粉症を発症していることがわかります。

対策の中心は「マスク+他アイテムの併用」

次に、花粉症対策について調査をします。

花粉症対策については、「マスクをする」が60.5%でもっとも多く、「医者に処方された内服薬を飲む」41.7%、「手洗い・うがいをこまめにする」41.1%よりも大きく上回ります。コメントをみると、「花粉を寄せ付けないスプレーを顔やマスクにたっぷり噴射している」、「隙間の少ない、使い捨てマスクとサングラスを着用している」など、マスクと他のアイテムと併用している方が多いことがわかります。

また、花粉症に効果的な内服薬や外用薬について着目すると、手軽な市販品よりも、医者に処方されたものを利用する方が多いことがわかります。その裏付けとして(図表3)、「花粉症で医療機関を受診したことがある」と回答した方は、7割近くに上ることがわかります。

マスクの人気ナンバーワンはユニ・チャームの「超快適マスク」

次に、当社独自に収集するレシートデータから、花粉症の対策関連商品の「使い捨てマスク」と、「鼻炎薬(外用薬含)」に注目して、POB会員のレシートからトレンドを分析します。(調査期間2018年1月~12月)

POB会員の「使い捨てマスク購入レシート(約2,000枚)」による売れ筋は、1位ユニ・チャーム「超快適マスク(14.7%)」、2位玉川商材「フィッティ®シルキータッチモア(4.5%)」、3位奥田薬品「息がしやすいマスク ふつう(4.4%)」となります。

1位のユニ・チャーム「超快適マスク」をセレクトし、購買理由を分析すると、「長時間使用しても耳が痛くならず、肌触りがよい(40代女性)」や、「プリーツタイプで顔にフィットするのに、息苦しくない(40代男性)」などの、使用感の良さで選ばれています。また、「子ども用に購入。大きさもちょうどよくフィットして使いやすい(50代女性)」など、大人から子どもまで、選べるサイズ展開もポイントとなります。他にも、「小顔に見えるとパッケージに書いてあり、マスクを付けるなら小顔に見えた方が良いから(30代女性)」や、「女性用のピンク色のマスクが目に入ったので購入(40代)」など、ビジュアル面に力を入れた点が評価されており、多様化する女性のニーズを取り込む商品企画は重要視されていると言えます。

また、全体の傾向をみると、PBのように価格重視の商品だけではなく、高付加価値の商品もランクインしていることから、使用感や機能性、目的にあった様々な商品がしのぎを削っていることがわかります。

鼻炎薬OTCは「アレグラFX」が人気トップ

次に、「鼻炎薬(外用薬含)」のPOB会員のレシートからトレンドを分析します。
POB会員の「鼻炎薬(約1,100枚))による売れ筋は、1位久光製薬「アレグラFX(14.7%)」、2位佐藤製薬「ナザールスプレー(10.5%)」、3位エスエス製薬「アレジオン20(9.2%)」、4位大正製薬「パブロン鼻炎カプセルSa(8.2%)」、5位佐藤製薬「ストナリニS(8.0%)」となり、1位~5位までの商品で全体の購入レシートシェアの5割を占めています。

購入者のコメントをみると、「アレグラFX」や「アレジオン20」については、「医療用と同じ成分で飲んですぐ効き目がわかり、もう数年飲み続けている(30代男性)」など、確かな効き目が多くの方の支持を集め、「ストナリニS」については、「つらい花粉症でも実際に1日1回で確実な効き目がある(40代男性)」など、手軽さと持続性で選ばれていました。

花粉症対策の市販薬や、今までの対策にプラスαで簡単に対策できるグッズなど、毎年各社から様々な新商品が発売されていますが、花粉症対策グッズ(医薬品も含む)の新商品の購入経験を調査すると8割近くの方が「購入経験がない」と回答しています。(図表4)

今回の調査では、新商品よりいつも愛用しているアイテムが選ばれる傾向が高いことがわかります。

今までの調査結果からその理由を分析すると、ここ数年で「使い捨てマスク(参考①図)」は、様々な高付加価値の商品や、また「鼻炎薬(参考②図)」では、ここ数年で高品質(医療用と同じ成分・1日1回の持続性)の商品が増え、自分の症状や体質にあうアイテムや薬が増えていることが理由として考えられるのではないでしょうか。

※図表1~4:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」20代~60代のアンケートモニター4,400名を対象にした、花粉症に関するアンケート結果より。(WEB調査、調査期間:2019年2月1日~2月4日)

「おもてなしスマートストア」を目指すココカラファイン~塚本厚志社長インタビュー~

「ヘルスケアネットワーク」構想で、ヘルスケアに関するワンストップサービスを目指し、IoT時代に対応する「おもてなしスマートストア」というビジョンを掲げるココカラファイン。同社の塚本厚志社長に、これからのドラッグストアのロードマップを聞いた。(聞き手:本誌主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2019年2月号より転載)

インバウンド、食品は鈍化し調剤は好調を維持

──ドラッグストア(DgS)業界の現状について、塚本社長にお聞きしたいのですが。

塚本 第一は、インバウンドの売上増です。インバウンドは、この数年のDgS業界の売上増を牽引したといってもいいですね。

第二は、ラインロビングの一環であり、コンビニエンス性を強化する目的の「食品強化」も、DgSの売上増を牽引しました。

第三は、「調剤」の売上増です。2017年から2018年は、この3つのファクターがDgS業界を成長させてきました。しかし、2018年の10月後半以降、その3つの要素のうち、インバウンドと食品の売上増が鈍化してきています。とくにインバウンド売上にブレが出ています。個人旅行の需要はまだ伸びるとおもいますが、大量まとめ買いは減っていますし、中国の法規制や、米中貿易戦争の影響もあり、インバウンドへの過度な期待は禁物だと感じています。

また、以前は、食品売場を増やせば、それに比例して売上が増えていましたが、食品による売上増も限界にきていて、これ以上食品を強化しても売上、客数が大きく増えることはないとおもいます。

一方、調剤は、これからも大きく成長していくとおもいます。DgSは、処方せんの受け付けに関しては、まだまだ力の入れ方が弱かったと感じていましたが、近年はDgSの調剤部門のシェアが高まっています。

──ココカラファインの調剤の売上構成比は、年々高まっていますね(図表1)。また、調剤薬局をM&Aで合併するなど、調剤強化に注力されていますね。

塚本 「DgS事業」と「調剤事業」の二本柱を強くすることが、DgS業界が今後も成長していくためのロードマップであるとおもいます。

最近、診療報酬の改定以降、利益率の低下した調剤薬局のM&Aの案件が増えています。地域の数店舗クラスの調剤薬局のM&Aと、自社での調剤併設DgSの出店を進めています。さらに、調剤が入っていなかった既存のDgSにこれを併設する「改装」も進めていきます。新規出店が好調だったので、既存店の調剤併設化は予定より遅れているのですが、そのぶん調剤はまだ伸びしろが大きいと考えています。

[図表1] DgS調剤売上高構成比ランキング (単位:%)

※順位は2018年のランキング
※HD=ホールディングス
月刊マーチャンダイジング2018年10月号より

物販とサービスを提供するヘルスケアネットワークに挑戦

──福岡市の国家戦略特区に立地する「ココカラファイン薬局奈多店」で、オンラインでの「遠隔服薬指導」の実験も2018年9月から始めています。

塚本 薬剤師による服薬指導は「対面」が義務付けられていますが、「オンライン診療」が行われている病院からの処方せんであり、患者さまと調剤薬局が国家戦略特区内に居住・所在しており、さらに、患者さまが交通不便地域に居住しているという3つの条件を満たせば、遠隔服薬指導が可能です。

特区は、福岡と愛知、兵庫にあります。まだ実験の域は出ていませんが、高齢者の一人暮らしで、病院や薬局から遠い交通不便地域に住む患者さまにとっては、価値のあるサービスであるとおもいます。つまり、病院に行きたくてもなかなか行けない人もいるし、また薬局に薬をもらいに行きたくても、自分で行けないので、家族が代理で処方せんをお持ちいただくケースもあります。実際に始めてみると、いままで一度も薬剤師が面会したことがない在宅の患者さんと、iPadでコミュニケーションが取れて、患者さまと身近な服薬アドバイスができるようになりました。まだ事例は少ないのですが、遠隔での服薬アドバイスを求めている患者さまは結構いらっしゃるのではないかという感触を得ましたね。

──調剤事業が好調ということですが、将来的には小売業だけではなくて、いろんなサービスも含めたトータルヘルスケア事業を目指すお考えですか。

塚本 2018年の新入社員のワークショップで、いくつかのチームに分かれて「自分達が将来やりたいこと」という構想を語り合ったなかで、「ココカラ・ハピネスモール」という構想が生まれました。

会社としては、「ヘルスケアネットワーク」という言い方をしています。いわゆるヘルスケアに関する物販やサービスが「ワンストップ」で提供できる複合施設を目指すという考え方です。実際に、提携関係にある中部地方のバローホールデイングスさまの子会社である「アクトス」というスポーツ施設と複合した店舗も2018年12月にオープンしました。1階がDgSで2階がスポーツクラブの複合施設です。

DgS事業、調剤事業を中核にしながらも、物販以外のいろんなサービスを組み合わせていきたい。とはいえ、大型複合施設を開発するのは投資が大きいので、地域でいろいろなサービスを店舗ごとに点在させて結んでいこうというのが、「ヘルスケアネットワーク構想」です。

具体的には、小田急線の千歳船橋駅(東京都世田谷区)近辺では、調剤薬局が2店舗、訪問介護サービス、DgSが連携し、地域医療を支えています。こういう地域での集積をヘルスケアネットワークと呼びます。一ヵ所の施設に、医療機関、調剤、DgS、スポーツジム、在宅介護などが入居したものをココカラファインモールと呼んでいきたいと考えています。ココカラファインモールの構想に一番近いのが、静岡伊勢丹7階にある「ウェルネスパーク」です。

──以前、未病予防対策として、DgSの売場ではあまり見られない「糖尿病対策の定番売場」に挑戦しているというお話を聞きましたが、その後の取組みはいかがですか。

塚本 いまも継続しています。2ヵ月とか3ヵ月のタームで、血糖値対策というヘルスキャンペーンを定期的に企画しています。糖尿病対策を定番化しながら、かつプロモーションで強化月間をつくっています。

また、禁煙などもそうですし、生活習慣病に関わる未病対策に関しては、商品やサービスを通して、お客さま、地域の方々に生活提案していく。これは順番に、「ココカラヘルスキャンペーン」のテーマを決めて行っています。そのなかのひとつが糖尿病対策ですね。全国レベルでは年間1,000回以上の健康イベントを行っています。その内容は、AEDの講習会、骨密度測定会、糖尿病のセミナーなどです。「糖尿病サポーター」という社内資格もつくっています。腎分泌内科の有名なドクターと提携して糖尿病サポーター研修を行い、合格者には糖尿病サポーターという称号を与えて、資格バッジを付けて、調剤薬局やDgSの店頭に立ってもらっています。

[図表2] ココカラファイン2019年3月期第2四半期決算概要 (単位:百万円)

キャッシュレス比率が40%を超えた

──お話をお聞きしていると、地域の人とのつながりを深くしていくような取組みが多いとおもいますね。接客もいま以上に強化していくのですか。

塚本 そこがうちの強みだとおもっていますので。医療と美容という分野に関しては、人と人とのつながりを通して、もう少し深く生活者と関わっていきたいとおもいます。バーゲンハンターよりも固定客、ロイヤルカスタマーを増やしていくことが重要ですね。

──固定客、ロイヤルカスタマーを増やすための取組みは何ですか。

塚本 まずは弊社のクラブカード(プリペイドカード)の利用促進ですね。ココカラファインのキャッシュレス決済のお客さまの比率は40%を超えており、一般的な小売業と比べて高いのが特徴です。小売業のキャッシュレス決済の平均が20%くらいで、その中身はクレジットカードや電子マネーでの決済です。

ココカラファインの40%の内訳は、20%がクレジットカードや電子マネーで、残りの20%は、ココカラファインの「クラブカード」による独自のプリペイドカード決済なのです。もちろんキャッシュバック販促などのインセンティブはありますが、ココカラファインのプリペイドカードの使用率が高まることと比例して、固定客化が進んでいるとおもいます。

現在クラブカードの会員が700万人を超えています。今後は、カード会員に「ココカラアプリ」を利用してもらう活動を進めている途中です。徐々にクラブカードとココカラアプリとを連携させて、より店舗とお客さまとの距離を縮めていこうと考えています。

いま現在、クラブカードとアプリを連携した方々が80万人くらいいます。アプリ会員になった人は、さらに店舗に親近感を持つようになります。アプリ会員は、クラブカード会員に比べて、来店回数が20%以上も伸びるという検証結果も出ています。

──アプリ会員は、より頻繁に来てくれ、固定客化していくということですか。

塚本 はいそうです。パーソナルな販促はこれからの課題ですが、アプリで、お客さまが店舗評価のアンケートができるサービスを提供しています。簡単なアンケートですが、かなりの件数の回答が寄せられます。店舗の評価は星いくつですか? 店舗に対してコメントはありますか? といった内容ですが、年間で換算すると120万件くらいの回答があります。

アンケートに答えてくださるお客さまは参画者意識があるせいか、ネガティブな意見が少ないですね。大半はお褒めの言葉が多く、残りは店に対する「提案」です。こんな商品を取り扱ってほしいとか、こういうサービスをしてほしいなどの提案ですが、売場やサービスの改善に活用できる意見が多いですね。これらのアンケート結果は、統括店長、店長とも共有しています。

[図表3] プリペイドカード、キャッシュレス決済状況

2019年3月期第2四半期決算説明会資料より

クラスターマーチャンダイザーによる「棚割の個別化」にも挑戦

──ココカラファインは、都市、商店街、住宅地、郊外の4つの立地パターンがありますね。

塚本 おおよそですが、都市型が170店、商店街型が320店、住宅地型が400店、あと郊外型が210店という構成(2018年12月現在)で、ココカラファインは「住宅地」に立地する店舗が一番多いのが特徴です。

住宅地型は、都市型のようにインバウンド消費もあり、広域・不特定多数をお客さまとする立地とは大きく異なります。住宅地型は、「地域密着型店舗」なのです。不特定多数ではなくて、特定少数の固定客で成り立っている店舗です。したがって、店舗で接客の粗相があると、固定客を失ってしまうことに直結します。弊社のコーポレートスローガンの「おもてなしNo.1」という目標もありますが、ココカラファインは、人と人との触れ合いを大切にしないと生きていけない立地に多くの店舗数を持っているのです。

──住宅地の立地は、そんなに集客の距離も広くないですね。

塚本 商圏範囲は、半径500mから、車で来ても2㎞くらいです。リピーターで成り立っている商売です。売場面積も、郊外型のように大きくなく、お客さまが何を探しているかが、人対人で気が付くみたいな、お客さまと店の距離感の近い店が多いですね。そういう店で何よりも重要なことは、人と人の接客、接遇のレベルを高め続けることですね。

──DgSの売り方、マーチャンダイジング(MD)に関して取り組んでいることはありますか。

塚本 弊社にはクラスターマーチャンダイザーという専門職があります。

現在弊社の立地タイプである都市、商店街、住宅地、郊外という立地別に、4名のスペシャリストであるクラスターマーチャンダイザーが張り付いています。

その立地に住んでいるお客さまはだれというような分析から入って、データを基につくられた架空のユーザーに満足してもらえる商品を選定する「ペルソナ分析」も行い、立地別・ターゲット顧客などのクラスター別にMDを構築しています。

立地別の4つの業態ごとにクラスターマーチャンダイザーがいますが、今後は統括店長や店長と連携して、立地別・商圏別の棚割の「個別化」も進めていきます。同じ郊外立地でも、人口構成・年齢構成が違う立地ではMDも少し変えていきます。

全店にモバイルレジを導入しスマートストア化を推進

── すべてのモノやビッグデータがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)時代が到来しますが、小売業として取り組んでいることはありますか。

塚本 2019年から来期にかけてのテーマが、「おもてなしスマートストア化」です。サブタイトルが「IoTとデジタライゼーション」なのです。しかし、無人レジなどの省人化・無人化ばかりを追求すると、行き着くところはAmazonになってしまいます。だから、あえて「おもてなし」という言葉を使っています。IoTを活用して、顧客接点をより豊かにし、もっといい体験、経験ができるリアルな買物の場をつくっていきたい。無人化よりも、人が関わる体験を際立たせていくことがテーマなのです。なので、おもてなしIoT、おもてなしスマートストア化がテーマになります。

2019年から「モバイルレジ」を導入します。消費増税前には全店に入ります。たとえば化粧品のカウンターにモバイルレジを持っていって、そこでカードをスキャンして、キャッシュレスで会計ができるようになります。そうすると、店のあらゆる場所が会計の場所になり、同時にカウンセリングの場所にもなっていきます。レジ作業の軽減化と接客強化が同時に実現できるわけです。効率化すべきところと、人が関わるところを研ぎ澄ませていくことが重要です。

──メーカーとの共同開発商品も強化していますね。

塚本 コーセーさまともヘアケアで数年来、「Revirsia(リヴァーシア)」というブランドを共同で商品開発しています。2018年もロート製薬さまと「肌ラボ極潤パーフェクトUVジェル」という日焼け止めをオリジナルで共同開発し、大ヒットしました。日焼け止め全体の市場が広がる効果がありました。

弊社は、すべてを自社で商品開発するプライベートブランド(PB)だけではなく、名の通ったメーカーさまとの共同開発による「限定商品」を強化していく方針です。

PB開発に関しては、コモディティの汎用品の商品ではなくて、「こんな商品があったらいいな」といった、付加価値のある商品を開発していきます。たとえば、「管理栄養士推奨カカオ70%のチョコレート」のような商品をPB化していければいいと考えています。

3つのコースを選べる新・人事制度を導入

──人と人との接客と接遇を重視されていますが、今後の人事・教育制度について教えてください。

塚本 ココカラファインでは、従業員満足(ES)を高めていくために、権限と責任、評価と報酬の不釣り合いをなくす新しい人事制度を整備しました。また、スタッフが「なりたい姿」を実現し、自らの役割を全うするために必要な資質や能力を身に付けるための「キャリアパス」も設計しています。

キャリアパスについて具体的にいえば、DgS部門では、「店舗運営コース」「店舗コース(ヘルス)」「店舗コース(ビューティ)」の3種類があります。

将来経営者となって会社を牽引する次世代の後継者を育成する「店舗運営コース」は、ココカラファインを社会に貢献できる会社として運営し、成長させる人材を育成します。

そして、「友達以上、医者未満」の存在として地域に「cure care fine」を提供する販売エキスパートを育成する「店舗コース」は、ヘルスとビューティの2つのコースがあります。

「店舗コース(ヘルス)」は、ヘルスケアネットワークの中でセルフメディケーションのキーマンとなり、ヘルスケア部門の「販売エキスパート」として医療や介護が必要なときに的確に橋渡しをすることができる人材を育成します。

「店舗コース(ビューティ)」は、地域のお客さまの「美」をテーマに、お客さまのお役に立ちたい方を対象に、お肌のご相談に応じることができる、美しく過ごすための的確なアドバイスを提供できるビューティ部門の「販売エキスパート」を育成します。

──本日はどうもありがとうございました。

ココカラファイン 代表取締役社長 塚本 厚志氏

クローガー、デジタル棚札の活用でリテールメディア化を実現する

1,226億ドルと全米最大級の売上規模を持つSMチェーン、クローガー。オハイオ州シンシナティに本部を置き、SMのクローガーをはじめさまざまな業態の店舗を2,782運営する。SM業態の店舗を見ると非常に真面目な食品SMという印象を抱くクローガーだが、実はその裏側に1,500人のエンジニアを抱え、自社のほとんどのシステムを内製するという、テックカンパニーでもある。2018年11月にニュー・フォーマット研究所が実施した視察ツアーにおいて、同社が特別に公開してくれた実験店「サンライズ」における、同社のテクノロジーによる生産性向上施策をご紹介する。

デジタル棚札「EDGE SHELF」はプライスカード張り替え作業の工数を無くす

「EDGE」はクローガーが開発したデジタルサイネージを組み込んだ陳列棚だ。それぞれの棚には、Bluetooth、Wi-Fi、ZigBeeなどの通信機能が備わっていて、少ない運用の手間でプライスカードをリアルタイムに更新し、常に正確で最新の状態を維持することができる。

商品の補充時に、ある商品を棚のどこに陳列すればいいのか探すのは非常に作業時間に影響を与えるが、ある商品のバーコードをスキャンすれば、どこに補充をすればいいのか、プライスカードの表面が赤く囲まれて表示される。

このサイネージには、単純に価格を表示するだけではなく、動画を表示することができるし、たとえば「オーガニック」「グルテンフリー」「セール品」など、追加のメッセージも添付できる。

 

EDGEに表示される商品は「EDGEクラウドポータル」という画面で管理する。この画面では、EDGEに陳列されている商品価格、広告、メッセージ、製品情報を管理できる。セールやレイアウト変更の際に手間がかかるのがプライスカードの張り替え作業だが、EDGEを使えばその作業工数を削減することが可能だ。

エンドの広告を変更する際も、実際に陳列した商品を端末でスキャンすれば、数分後には自動でプロモーションのプライスカードのデータが表示される仕組みになっている。

単に価格だけではなく「オーガニック」「グルテンフリー」「セール」などの情報も表示できるし、動画も流せる

エンドの広告も、商品のバーコードをスキャンするだけで自動的に入れ替わる

陳列フェース数も表示される作業画面

補充やレイアウト変更のときなどのために、EDGEには従業員用の画面も用意されている。陳列する商品の画像や、何フェース分陳列すればよいのかということが表示されるため、レイアウト変更のときはいちいち棚割図に当たらなくても作業を遂行することができそうだ。陳列の状態は、カメラで撮影されていて、店頭の在庫が切れると補充をするよう通知が届くというシステムも開発中だ。

作業用の画面では、商品の写真、価格、何フェースか、といった情報を表示できる

特別なプロモーション、店内マーケティングテスト、時間限定販売に対応できるように価格を動的に調整することもできるため、需給状況に合わせ売価を変動させるいわゆるダイナミックプライシングを店頭で実現することも可能だ。シェルフは、それぞれ最大225kgまでの重量に対応。ほとんどすべての商品を陳列することができる。

インターネット広告のようにネット経由で広告を入稿

EDGEに表示される広告は、メーカーが直接、各小売業の運営する広告配信プラットフォームに動画・画像をアップロードすることで、店頭放映される。

具体的な手順はこうだ。メーカーは既定のフォーマットの動画・画像を準備し、広告配信プラットフォーム上にアップロードする。配信先は、EDGEとScan,Bag,Goの2媒体だ。小売業側は、アップロードされた動画・画像の内容が自社の規定に従ったものかどうかを確認し、メーカー側に承認か、拒否かを通知する。

メーカーが動画・画像をアップロードする際には、概算でどれぐらいのユーザーに対してその広告が表示されるのか(リーチ数)について、店舗数、広告の総表示回数(インプレッション)、必要な費用が表示される。あたかもインターネットの広告を入稿するような手順である。

これによって、メーカーはお客が商品を選択する最後の接点である店舗での露出を確保できるし、小売業側は広告費収入を見込める。今後、インターネット広告と同じように「リテールメディアアドバタイジング」の世界が広がっていくことを予感させる仕組みだ。

EDGEへの広告入稿画面。メーカーはこの画面からEDGEに配信したい動画や画像をアップロードする。リーチ、インプレッション予測もできる

アルフレッサヘルスケア勝木尚社長が力説「DgSを元気にする処方箋」

ヘルスケアの大手卸売業「アルフレッサヘルスケア株式会社」の勝木尚社長は、テレビCMの入った「売りやすい商品」を安売りするだけでは、DgS(ドラッグストア)の継続的な成長は望めないと力説します。効果効能に優れた、本当に客のためになる「売りにくい商品」を育成する力を養うことが、DgSの継続的な成長のためには不可欠だと強調しています。(以下の文章は2019年3月17日のインタビューのタイジェスト版を、筆者が大幅に意訳して掲載しています。インタビューの全文は月刊マーチャンダイジング5月号で掲載します)。

売りにくい高機能商品を育成し、売って感謝される喜びを体験しよう

これからの日本は、本格的な人口減少時代に突入し、売上は減ることはあっても大きく増えることは期待できません。やみくもに規模の拡大だけを追求する時代は終焉すると思います。たとえば、将来、売上が10%落ちても、粗利益は維持できるような店を、DgS(ドラッグストア)の皆様と協働してつくっていきたいと思います。

そのためには、高機能商品の「売り切る力」を育成し、マージンミックスによって粗利益を改善していくことが重要です。現在のDgSさんは、テレビCMが入った「売りやすい商品」を売るのは得意ですが、高機能高単価の売りにくい商品を店頭で育てる力が弱くなっているように感じます。労働人口の減少で人件費が上昇し、売場の人員が少なくなっていることも「売る力」が低下している原因のひとつです。

しかし、DgSで働く喜びは、現場で働くスタッフの皆さんが、自信をもって推奨した商品を売って、地域の顧客に感謝されることだと思います。たとえば、高血圧の大敵の塩を体外に排出する効果のある当社の専売品「しおナイン」のような、売りにくい商品を育てることで、「売って感謝される喜び」を、DgSの現場スタッフさんに、もっと体験してもらいたいと思います。

アルフレッサヘルスケアでは、THMW(トータル・ヘルスケア・マーチャンダイジング・ホールセラー)というコンセプトで、MD(マーチャンダイジング)機能を強化した卸売業を目指しています。卸売業は、金融機能や物流機能では差別化できにくくなっています。価格・リベート交渉一辺倒の「価格商談」から脱却し、MD機能を強化し、「売り方」を開発・提案することが、アルフレッサヘルスケアの役割だと考えています。

アルフレッサヘルスケア株式会社勝木尚社長

専売品のマージンミックスで将来も元気なDgSでいてほしい

MD強化の中でも、アルフレッサヘルスケアは、(1)エビデンスがしっかりしていて、(2)季節性がなくて、(3)粗利益が確保できて、(4)簡単に真似のできない「専売品」の開拓と開発に力を入れています。その専売品の多くは、テレビCMを打つほどの規模ではなくて、知る人ぞ知るという埋もれた商品がほとんどです。その自信をもって薦められる専売品を発掘・育成することは、社会貢献にもなるし、DgSさんの継続的な成長にも貢献すると思います。

しかし、ある専売品メーカーの経営者と名刺交換して、「ぜひ取引をしてもらえませんか?」とお願いしたところ、その社長から「取引先はどこですか?」と聞かれたので、「薬局・薬店・ドラッグストアです」と答えたところ、その社長から「安売りと返品の業界ですね」と即答されてショックを受けたことがありました。もちろん、競合対策としての安売りはあると思いますが、売りやすい商品だけを売って、「売りにくい商品は返品すればいい」という商売では、専売品を育成することはできないと思います。

DgSさんだけが販売チャネルだった時代は過去のものです。たとえば、大手食品メーカーの健康食品の中で、DgSなどのリアル店舗で販売しないで、インターネット販売だけで何十億のブランドに成長した事例は増えています。インターネットの方が「売りにくい商品」の価値を伝えやすいのであれば、DgSなどのリアル店舗の価値は相対的に低下していきます。

DgSさんが、価格とリベートの話しかしなくて、安易に返品し、高機能商品を育成してくれないのであれば、「もう仕入れてもらわなくて結構です。インターネットで売ります」とDgSに見切りをつけるメーカーが登場するかもしれません。「良い商品を自信をもって販売・育成し、顧客に感謝される」という、DgSの商売の原点に回帰すべきだと思います。

アルフレッサヘルスケアは、売上の98%はDgSさんとの取引に特化しています。ネット販売との取引はほとんどありません。われわれの願いは、専売品の販売などでマージンミックスを行い、いつまでも元気なDgS業界であってほしいということです。

[談・文責/編集部]

コンビニ各社がSDGsに熱視線を注ぐ理由

SDGs(エス・ディー・ジーズ)が今、コンビニ業界で必須の課題となっている。SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のこと。前回紹介したセブン-イレブンの野菜工場の会見で、古屋一樹社長は野菜の安定生産が「SDGsへの取り組みの一つにもなる」と語っている。なぜコンビニ各社をはじめとする大手流通業がSDGsを進めようとしているのか。

サプライチェーン・マネジメントの点検に活用

SDGsを各社が導入しようとするのには実利的な理由もある。2017年春頃から持続可能な経営をする業界や企業に投資する流れが世界的に出来つつあり、同年春には世界銀行がSDGsの達成状況に連動させた債券を発行、同年11月には日本経団連が企業行動憲章を改定してSDGsを達成することを表明している。

SDGsに取り組まないと、株価が下がり、企業価値が毀損されると(コンビニに限らず)業界や企業が考えるようになったのだ。

SDGsは2015年秋の国連サミットの場において全会一致で採択された、2030年までに達成すべき国際社会全体の目標である。17のゴールと、それを詳細にした169のターゲットから構成されている。(上画像参照)

17ゴールのロゴを画像で見ると、ちょうど横3列に分かれている。

1列目(ゴール1~6)は、貧困や飢餓、保険、教育、ジェンダー、水・衛生、といった伝統的な開発課題。

2列目(ゴール7~12)は、エネルギー,経済成長,産業など包摂的な成長のために,先進国・途上国ともに取り組むべき目標。

3列目(ゴール13~17)は、気候変動や環境問題、平和・司法制度、SDGsを達成させる実施手段とされている。

例えば、コンビニの売場には、サプライチェーン・マネジメントにより、生産の現場から、さまざまな経路をたどって商品が届く。製造の現場、流通の現場、小売りの現場、それぞれがSDGsの各ゴールの目から見て「脆弱性」がないか点検することが大切になる。

以前、日本のアパレルチェーンのPB(プライベート・ブランド)商品が、開発途上国の過重かつ危険な労働環境で製造されていると海外NGOから非難され、大きく報道された。今後も引き続き世界企業に対しては厳しい目が注がれるであろう。

ストローは序章、次はレジ袋、ペットボトルへ

使い捨てストローの不使用を外食企業の大手が表明している。この動きは序章に過ぎない

コンビニ業界に関連する当面の課題は海洋に流出するプラスチックごみだ。SDGsで言えばゴール14「海の豊かさを守ろう」。昨年は海亀の鼻にストローが刺さった衝撃的な画像がネット上に拡散した。これを受けて外食チェーンにおいて、使い捨てのプラスチック製ストローを廃止する動きが広がっている。スターバックスコーヒーは2020年までに世界全店で廃止すると発表、米国マクドナルドは順次紙製に変更、ガストは2018年12月に全店で廃止済み、と動きが拡大している。

しかし「ストローは序章に過ぎない」と、環境とCSRをテーマにするビジネス情報誌『オルタナ』の編集長、森摂氏は語る。

「昨年 “ストローは序章(世界同時「脱プラ」の衝撃)”と題する特集を組んだ。ストローの次はレジ袋、その次はペットボトルが問題になる」

使い捨てプラスチックごみの多くは焼却されるが一部は大雨などにより海洋に流出する

日本のコンビニ業界はプラスチック製の使い捨てゴミ袋を無料で配布している。使い捨てプラスチックごみの廃止が先進国の潮流であり、SDGsに沿った目標であれば、レジ袋有料化や使用制限は今後、避けられないのではないか。

そして次がペットボトル。森氏は続ける。

「ペットボトルは利便性の面では理想の形態である一方、リサイクル率が低く、生態系への配慮を問われている。ドイツはペットボトルにデポジット制を課している。そのデポジットが 1 ユーロ(130円)と高額。商品と同じくらいの値段がデポジットの料金になる」

コンビニにとって厳しい条件に見えるが、コンビニがリサイクルの拠点になれば、逆に集客に期待が持てるかもしれない。環境負荷に対する規制は避けて通れない。そこに、どのような商機を見出すかが大切だ。

外国人社員とスタッフに活躍の場を創出

ファミマによる第2回「ダイバーシティアワード2018」で最優秀商を受賞した「ファイターズ」と澤田貴司社長、駆け付けたタレントの香取慎吾さん

「ダイバーシティ」経営とは、多様な人材を活用して企業を発展、活性化させること。SDGsのゴールでは、(5)ジェンダー平等を実現しよう、(8)働きがいも経済成長も、 (10)人や国の不平等をなくそう、に結び付く。

このダイバーシティ推進の一環として、ファミリーマートは、各組織が自部門で実践している「多様性を活かすことで新しい価値を生み出した優れた取り組み」を表彰する第2回「ダイバーシティアワード2018」を本年1月に開催した。

全国から31チームがエントリーし、1次審査の結果選定された6チームが最終プレゼンテーションを実施、最優秀賞が決定する。

内容を紹介すると、あるディストリクト(地区事業所)では、「なりきりだよ全員集合」をキャッチにダイバーシティに取り組んだ。男性管理職も含めた全員が、遅出、早帰りを実施して、子育てや介護を抱えた時間制約の伴う働き方を、家事をサポートすることでリアルに体験、当事者意識から現状課題を見つけようと考えた。

制約があっても、皆で工夫しあって、やり切る気持ちがあれば、生産性の向上にもつながることが全員で共有できた。副次効果として、家族から大変良い取り組みだと絶賛の声をたくさんもらったという。

また、あるディストリクトでは、「メンバーそれぞれの多様性(知識・経験・個性・特徴・得意分野など)を活かすことが組織活性化のカギ」をテーマに、親子ほど年齢の違うベテラン(おやじ)と若手(息子・娘)が相互に補完して、知識や経験を伝承し、ディストリクト全体を活性化させていくことに取り組んだ。例えば、ベテランの持つ豊富な経験、若手が得意とするITスキルを効果的に日常業務に活かしている。

チーム名「ファイターズ」のプレゼンテーション。外国人スタッフが活躍できる環境を整えている

最優秀賞を受賞したのが、チーム名「ファイターズ」(東京第1ディストリクト)。外国人スタッフが多く勤務するこのディストリクトでは、所属する外国籍スーパーバイザー(SV)が講師となりスタッフ研修を実施、外国人観光客に対してインバウンドの売上を図る戦力として育成している。また、中国籍のSVが店舗に出張して中国語による指導を開始、新人スタッフの教育、免税店舗での売場づくり、オペレーション改善など、店舗の課題に合わせた研修を重点地域で実施した。ファミリーマートは、性差や年齢、国籍を問わず、全員が活躍できる環境づくりを目指している。

SDGsの一つ一つは企業活動を制約するものでは決してなく、組織の活性化やビジネスチャンスを生むものとして、企業そして個人として、活用していきたい。

PALTACが「無人レジ店舗」を実験。AIカメラ、画像認識の進化がすごい

日用雑貨卸のPALTAC(本社・大阪市、糟谷誠一社長)は、アメリカのベンチャー企業「スタンダード・コグニション(ジョーダン・フィッシャー社長)」とパートナーシップ契約を締結し、今年中に「無人レジ(スタンダード・チェックアウト)」を実験すると発表しました。PALTACは、東北のDgS「薬王堂」と提携して1号店を開店します。話題の「アマゾンGO」のような店舗が日本でも登場するわけです。

150坪程度の店舗ならカメラ数十台で済む

PALTACが実験する「無人レジ」(スタンダード・チェックアウト)は、店内の天井カメラと画像認識AIの働きで、顧客がどの商品を取って退店したかをすべて把握できる仕組みで、レジやスキャンによる清算の必要がない「アマゾンGO」のようなシステムです。棚から一度取った商品を棚に戻すといったイレギュラーな購買行動も、AIカメラがすべて認識します。

PALTACの糟谷(かすたに)誠一社長によれば、スタンダード・チェックアウトは、アマゾンGOよりもカメラの台数が少なくて済み、150坪程度の店舗なら、数十台の「AIカメラ」で、来店客すべての購買行動を補足できるそうです。1台のカメラで、かなり広範囲の画像データを分析できます。アマゾンGOの棚には「重量センサー」が付いていますが、スタンダード・チェックアウトは、重量センサーはなくて、AIカメラのみで購買行動を補足するシステムです。

また、POSやID-POSなどの購買データではわからない、顧客の「購買前の購買行動」というビッグデータもすべて記録・分析することができます。ショッパーリサーチ(買物客の購買行動分析)にも応用できて、マーケティングデータとしても価値があります。さらにPALTACは、自社の物流センターの業務にもAIカメラの技術を応用していく予定です。

顔認識と行動分析で万引防止にも活用

2018年11月にアメリカ流通視察に行った際に、HC(ホームセンター)最大手の「ホームデポ」の持ち帰り商品専用のレジがほとんど「セルフレジ」に変更されているのを見て驚きました。長尺商品や高額商品も多いので、万引の心配はないのだろうかと思いましたが、AIカメラでしっかり監視していました(下の写真参照)。

「カメラであなたの行動はすべて記録していますよ」と警告しているホームデポのセルフレジ。モニターにはしっかりレジ清算者が映っている。出入口の上部にも監視カメラとモニターか設置されている。

日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014〜2015版」によると、不明ロスの内訳は、従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%です。

同報告書によると、日本の不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.35%、金額にして149億ドル(1ドル100円で換算すると1兆4,900億円)という莫大な金額が不明ロスで失われていることになります。優良小売業の営業利益率の目安が5%ですから、1.35%がいかに大きな数値かが分かります。海外では不明ロス、特に万引き対策を「loss prevention(ロス プリベンション)」と呼び、役員レベルがトップに立って指揮を執る大手小売企業も多く、最重点の経営課題です。不明ロス対策のために、「AIカメラ」を活用する取り組みは今後急速に進むでしょう。

「秒針分歩」のスビートでAIカメラは進化しています。一方で、「監視社会」の恐ろしさも感じます。一度、どこかの店で万引きし、万引き犯として顔が記録されると、「買物お断り」とすべての店で入店拒否される時代が来るかもしれません。そのうち「万引き犯専用の店舗」が登場、ということもありえないとは言い切れませんね。

非常用品のみならず、普段使いのグッズ・食品も備蓄される傾向に

2018年は、6月の大阪府北部地震や、7月の西日本豪雨、9月の北海道胆振東部地震など、全国各地で様々な災害が発生し、その年の世相を表す漢字も「災」であったほどです(日本漢字能力検定協会発表)。今回は、防災意識や防災グッズの買われ方について、調査をします。

季節や時刻に関係なく発生する「地震・津波」が最も不安

まず、当社自主調査では、20代~60代の男女(N=4,259名)に、防災への備えに関する意識調査を実施しました。

まずアンケートでは、お住まいの地域において、現在不安に思っている災害について調査をします。

現在不安に思っている災害については、「地震・津波」が68.2%で最多となり、それに次ぐ「豪雨・洪水などの水害」32.4%、「暴風・竜巻」25.9%を大きく引き離す結果となります。昨年は大阪や北海道などで、大きな地震に見舞われた日本において、季節や時刻に関係なく発生する「地震」が不安であると多くの方が考えていることがわかります。

次に、ご自宅周辺の指定避難場所(※1)や、地震ハザードマップ(※2)の認知について調査をします。

※1 指定避難場所)災害の危険性があり避難した住民等が、災害の危険性がなくなるまで、必要な期間を滞在し、または災害により自宅に戻れなくなった住民等が一時的に避難する場所。
※2 地震ハザードマップ)地震の揺れの強さや揺れによって引き起こされる、建物崩壊や液状化の危険を地図上に表したもの。

ご自宅周辺の指定避難場所について、「知っている」が75.3%となり、前回2016年調査時の69.9%から5.4ポイント上昇しています。お住まいの地域の地震ハザードマップについては、「家にある」が33.2%、「家にはないが見たことがある」が22.8%となり、2人に1人の方が地震ハザードマップをみたことがあることがわかりました。その一方で、半数近くの方が、「見たことがない・わからない」と回答しています。

防災グッズの備蓄・保管に熱心なのは北海道と関東!?

次に、防災グッズの備蓄や保管について、エリア別で調査をします。

防災グッズを「備蓄・保管している」と回答した方は、48.8%(2,077名)で、エリア別にみると、「北海道」が53.8%でもっとも多く、「関東」が51.5、「中部・北陸」が49.0%と続きます。このエリアにお住まいの会員コメントをみると、ご自身の体験やライフイベントなど、様々なことがきっかけとなり、防災グッズの備蓄・保管をするようになったという声がありました。

■北海道エリア
「昨年発生した北海道胆振東部地震後のブラックアウトを経験してから、更に防災意識が高まり、ラジオ、懐中電灯、現金などを用意するようになった(30代)」
「昨年の大規模停電をきかっけに、大容量バッテリーを購入(30代)」

 

■関東エリア
「東日本大震災のタイミングで防災グッズを購入。それ以降9月1日の防災の日に準備したものを点検している(60代東京在住)」
「子どもが生まれて一戸建てに引っ越しをしたときに、家具を揃えるついでに防災グッズを購入した(30代神奈川在住)」

 

■中部・北陸エリア
「昨年の台風や、地震災害をきかっけに、避難するときの持ち出し袋を用意した(20代愛知県在住)」
「昨年の台風で浜松市は3日間に及ぶ大規模停電を体験したが、カセットコンロ・ろうそく、ラジオなど、日頃から備蓄していたものを使いほとんどまかなえた。備蓄の大切さを知った(60代静岡県在住)」

 

■近畿エリア
「阪神淡路大震災を経験しているので、当たり前のように日頃から備蓄をしている(40代兵庫県在住)」
「昨年の台風21号での停電後に、断水の不便さ体験したため、水は常に備蓄するようになった(50代大阪府在住)」

防災グッズの見直しは41.6%が「年に1回以上行っている」

次に、備蓄・保管しているアイテムや防災グッズの見直しのタイミングについて、調査をします。

備蓄している防災グッズについては、「1.懐中電灯」が88.6%でもっとも多く、「2.非常用飲料水」が67,9%、「3.非常用持ち出し袋・防災セット」が55.9%と続き、他にも「6.非常食」の51.8%や、「7.携帯ラジオ」の49.4%など、非常時に使用するアイテムがランクインする中、「4.缶詰・瓶詰」53.6%や、「5.レトルト食品やインスタント食品」52.6%、「8ゴミ袋・ビニール袋」43.6%などの、普段使いの食品や日用雑貨などもランクインしています。

コメントからは、「缶詰、レトルト食品、日持ちしそうなお菓子、飲み物などを多めに日頃からストックしている(60代女性)」や、「パンの缶詰、加熱なしで食べられる食品、水だけで食べられる米飯類などを他の防災品と一緒に各自の防災リュックに入れて玄関の戸袋に入れて保管(40代男性)」など、日頃から防災を意識する姿が伺えます。

また、防災グッズの見直しを「年に1回以上行っている」が41.6%、「数年に1回程度行っている」が43.4%となり、約8割以上の方がある程度の期間で防災グッズの見直しを行っていることがわかりました。

見直しのタイミングについては、「防災の日などに、スーパーで防災用品を売り出したとき(60代男性)」や、「年末の大掃除のとき(40代女性)」、「東日本大震災(3.11)の日に、アマゾンや楽天市場でヘルメットや保存食を購入(50代男性)」など、様々な意見がありました。

今回の調査から、防災グッズについては、非常用のものを購入する方だけではなく、食料や飲料水、日用雑貨等、普段使いのものを災害用に備蓄・保管する傾向もみられました。

また、防災グッズの見直しのタイミングからは、過去の災害の記憶や経験、防災週間に合わせた店頭での展開などが、日頃からの防災への備えを見直すきっかけになっていることがわかります。

調査概要
※図表1~6:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」
20代~60代のアンケートモニター4,259名を対象にした、防災の備えに関するアンケート結果より。(WEB調査、調査期間:2019年1月11日~1月15日)

改革をするのは人間である。人間をつくるのが人事である。

日本最大級の流通グループ「イオン」の創業名誉会長岡田卓也氏の実姉である「小嶋千鶴子」の半生をたどりながら、流通界にあって「人事・組織づくりの神様」と呼ばれたレジェンドの思想と実践を詳らかにする。同書の底本は、小嶋千鶴子自らが筆をとったイオングループの社員にのみ配布される「あしあと」である。そのエッセンスを抜き出した本書は、人事・組織担当者のみならず、店舗をよすがとするすべての流通人にとって「はたらく意味」をあらためて気付かせる拠り所となるであろう。(流通ジャーナリスト:流川通)

どんな時代でも揺るがない組織・人事政策を確立した小嶋

イオングループは、1969年四日市の「オカダヤ」、姫路の「フタギ」、大阪の「シロ」という3つの繁盛店が合併して生まれた「ジャスコ」がその中核となり、大なり小なりの様々な事業体を吸収しながら今日まで発展を続けてきた。その中には、ヤオハン、ニチイ、ダイエーといったかつてジャスコとともに戦後の高度成長期の中を疾走し斃(たお)れた大チェーンも含まれている。

その変遷の姿を評して「発展ではなく膨張だ」と揶揄する業界通もいる。しかし今日まであれだけ膨大かつ個性的な組織体を抱え込みながら、瓦解することなくひとつのグループ経営を推進していくことを可能にしているのは、まさにいつどのような時代にあっても揺るがないイオンの組織・人事政策を貫くポリシーの確立があってこそと言われている。

その骨格をつくりあげ、磨き続けたのが、小嶋千鶴子である。

1916年(大正5年)、岡田家の次女として生まれた千鶴子は、若いときに相次いで両親と姉を失い、9歳年下の弟卓也を早稲田大学在学中に学生社長に据え、オカダヤを切り盛りする。卓也を立派な後継に育て上げることはもちろんのこと、自身は戦中・戦後という激動の時代のなかで翻弄されることなく荒波を乗り越えるためには何が必要なのか。1店舗の時代から、それは人づくり、組織作りであると見定めて、ひたすらにその本質を追求し続けたのである。

先読みとプリンシプルの人

小嶋千鶴子は「先読み」と「プリンシプル」の人と言われている。

先読みは、商人の優れた資質のひとつである。

太平洋戦争中、様々な情報を集めて分析し、負け戦を見越して現金を銀行に預けないようにしていた千鶴子。戦後、店も商品も焼かれなにも売るものがなかったとき、お客の家に焼けずに残っていた岡田屋の商品券をその現金と引き換えた。千鶴子は文字通り「信用」を売ったのである。お客はさすがは岡田屋とその名を高らしめたという。

また千鶴子は戦後のインフレと新円切り替えを予見し、ありったけの現金を商品に変えておき、新円を獲得する。統制経済下、人々は配給に対して商品を引き換える店を指定し、切符を買わねばならなかった。しかし先の「信用」のおかげもあり、オカダヤは地域一番の引き換え指定を受けたという。

先読みの根底には、人に対する厳しくも優しいまなざしがあった。この2つがなければ事業というものは大成しない。

プリンシプルとは、「原理原則」と訳されることが多いが、プリンシプルという英語の持つニュアンスは、例外や条件付が多い日本的な原理原則とは少し異なる。

プリンシプルとは、どんなことがあっても守らねばならない、自身の行動規範という意味に近い。

あるとき、オカダヤにあすの遠足のための遠くの町からお弁当箱を買いに親子がやってきた。ほしかった商品を見つけたが、わずかにお金が足らなかった。「お金が足りないので、家から持ってこようと思いますが、遠いので持ってくることができません。すこし安くなりませんか?」という親子に、千鶴子は「値段は商人が実印を押す気持ちでつけたものなので変えられない」と答えたという。残念そうに諦めて帰る親子の後を追いかけて千鶴子は、「値段はまけられないが、足りない分はお貸しします。お返しはいつでもよいです」といって親子にそのお弁当箱を買って帰ってもらった。

自身の行動規範を変えず、お客の気持ちによりそうという千鶴子のプリンシプルがよく示されているエピソードである。

人事・組織のトップとして常に現場に入り込み問題点を浮き彫りにしていく姿は、オカダヤからジャスコに変わっても、従業員たちをときに畏怖させた。しかしそれは同時に絶対的な信頼の現われでもあったろう。

そのときに大切にしていたのは、自分が問題点を発見するのではなく、当事者たちの観察眼と意識に問い続けることであった。問題が生じたとき、この問題はこの従業員固有のものなのか、この店、部門だけのことなのか、全社的なものか、上司は把握しているのか。本質に迫り、問題の根本要因を突き止める。根本要因を特定して除去しない限り、また同じ問題が起こるからだ。

お客様から商品について聞かれたのに答えられなかった従業員は、単に個人の勉強不足と結決めつけず、年次にどのような研修制度が行われているのか逐一チェックし、教育研修担当者に解決策を提案させた。その解決策には、新しいアイデアがなければ突き返したという。

一方で、個人の勉強も督励した。自己とは己だけにあらず、他者との関係性においてはじめて「自己」は成り立つ。その自己が自ら勉強すれば、周囲にもどんどんよい影響が生まれる。

いつも明るい笑顔の社員が、最近曇りがちになっていたら、直近の個別シートと自己申告書に目を通す。この従業員が親の看病に従事していることを知ると、異動手配や、よい病院、先生を自ら探して、提言する。

この姿は、ウォルマート創業者のサムウォルトンに通じるものがある。彼もまた組織が巨大化してもルーティンとして店舗を訪問し続け、現場の声や問題点に耳を傾けてスピーディに解決策をはかっていくことを自らと幹部に課していた。

「企業内大学」と「人事政策覚書」

業界に先駆けて大卒者を採用し、1964年には、小売業界初ともいえる企業内大学OMC(オカダヤ・マネジメント・カレッジ)を設立したのも小嶋千鶴子である。

5年後、合併を機にジャスコ大学となる。学長に経営学の川崎進一を迎え、マネジメント、計数管理、マーチャンダイジングといった実務講座に当代一流の講師陣を揃え、哲学や文学といった教養講座も整備。実学とリベラルアーツの双方を修め社会に貢献する人間をつくることを目的とした米欧一流大学に通じる体制を一企業内に構築した。

合併による企業規模の拡大には、一握りのスターによる経営では限界であり、常に組織内に新しい人材の発見、育成の装置が必要であること。そして国内外、他分野へと社員たちの活躍舞台が広がる中で、従来の経験値では対処できない事態に対しても臆することなくチャレンジする人材を育成し、同時に他業界の数多専門職能、異才を取り込み生かしていくことが、これからの人事・組織作りに不可欠だと考えたからである。

1977年、小嶋千鶴子は、60歳でジャスコの役員を退任する。「老人が跋扈」しないよう自ら定めた定年制を守ったものであった。退任後は、常勤監査役として人事・組織づくりの裏方に徹する。

本書には、小嶋千鶴子が1980年に人事担当者向けに記した「人事政策覚書」が一部抜粋されている。 彼女の人事・組織政策観の根底にあるものは、次の一文(部分抜粋)でよく示されているだろう。

「経営の安定を維持することが人事戦略なのである。維持の要諦は発展にある。発展はすなわち改革にある。改革をするのは人間である。人間をつくるのが人事である」。

どんな経営環境にあっても倒れない組織を構成する人間をどうつくるのか。その内容は、40年を経てなお、新しい。

*文中人名の敬称は略させていただきました。

(東海友和著 プレジデント社)

QR決済ブランドが乱立する状況は長くは続かない

クレジットカード、QRコード決済、交通系電子マネー…リアル店舗にはさまざまな決済方法が乱立していて混沌としつつある昨今、世界の決済状況はどのようになっているのだろうか? モバイルオーダーアプリ「O:der」などを小売・サービス業に提供しているShowcase Gigの代表で、世界の決済動向に詳しい新田剛史氏にお話を伺う。(まとめ:MD NEXT編集長 鹿野恵子)(月刊マーチャンダイジング 2019年2月号より転載)

現金利用率対GDP比1.4%のスウェーデン

2018年12月、ソフトバンクとヤフーの共同出資会社であり、QRコード決済(モバイル決済)を提供する「PayPay」が実施した100億円キャッシュバックキャンペーンは、消費者が同社の決済機能を使って加盟店で買物をした場合、20%をポイント還元したため、世間から大きな注目を集めた。

次いでLINEの提供するQRコード決済の「LINE Pay」も同様のキャッシュバックキャンペーンを実施。国内においてはさまざまなQRコード決済が登場し、ブランドが乱立している状況だ。しかし、海外を広く見渡してみると、このようにQRコード決済のブランドが乱立している国というのはあまり多くはない。

キャッシュレス先進国として新田さんが挙げるのはスウェーデンだ。

「スウェーデンの現金利用率は対GDP比で1.4%(2016年)。あらゆるものの支払いをクレジットカードなどキャッシュレス決済で済ませることができます」。実際に新田氏がスウェーデンを視察に訪れた際も、現金を用意せずに済んだという。

大手のチェーンストアにおいては、クレジットカードやデビットカードでの決済が中心となっているが、これほどまでに現金が少ない背景には「Swish」という個人間送金のためのスマートフォンアプリの普及も一役買っている。

Swishは2012年、大手6銀行が共同で運営する個人間送金用のアプリとして登場。その後、企業への送金や電子商取引への支払いなどでも使えるよう、サービスを拡充している。

Swishを使えば、振込先の銀行名や口座番号などがわからなくても、携帯電話番号情報だけで、即時に銀行口座へ送金することができる。この仕組みの裏側では、日本のマイナンバーにあたる「パーソナルナンバー」という個人識別番号が利用されている。すでにスウェーデンでは、Swish支払いのみを受け入れる「現金お断り」の店舗も一般的な存在になっているという。

市民生活の届け出がアプリで済む中国

キャッシュレスについては中国も積極的だが、こちらはICではなくてAlipayやWeChatPayなどのQRコード決済が一般的。AlipayやWeChatPayが登場する以前から、中国ではQRコード文化が普及していて、請求書代わりにあらゆる場所に貼られていたためQRコードを見ればとりあえずアクセスしてみるという背景があった。また、クレジットカードリーダーは高額で個人店には導入しにくいことも、QRコードが普及した理由のひとつだ。

Alipay、WeChatPayはQRコード決済も非常に便利だが、それぞれのプラットフォーム上で動くさまざまなミニアプリがあるのも特徴である。たとえばもともとWeChatはメッセージアプリで、友達とのやりとりなどに使われるのはもちろんのこと、電車や飛行機などのチケット購入をはじめ、公共料金の支払い、税金関連手続き、病院の予約など、さまざまな手続きをひとつのアプリ上で済ませることができる。

中国のモバイル決済アプリは、もはや社会インフラといっても過言ではなく、アプリの滞留時間も日本人がLINEを使うのと比べものにならないぐらいに長い。この「依存」といってもいいほどの利便性の高さが、QRコード決済の利用者を爆発的に増加させている。

さらにAlipay、WeChatPayの出資を受けた複数のスタートアップがサービスを浸透させるために数百~数千億円といった金額を投資してキャッシュバックキャンペーンを行い、ユーザー数を増やしている。日本で行われているQRコード事業者のキャッシュバックキャンペーンは、中国の投資金額と比較すると何分の一にすぎない。

つまり、これらのQRコード決済は、日本とは使われ方も投資金額もユーザー規模もまったく違うのである。

大量のIDを保有する事業者がけん引役になる

翻って日本はどうか。日本と状況が似ている国として新田氏はドイツを挙げる。ドイツは現金信仰が強い、いわば現金大国。クレジットカードすら使えないような飲食店が少なくないという。

現地で聞いた話として、日本とドイツの共通点として、第二次世界大戦で敗北したという歴史が影響しているのか、個人情報を国に預けたり、第三者に預けることに過度に抵抗を示すということが挙げられるという。国家規模でキャッシュレス決済を普及させるためには、信頼性の高い「一意のID」をどれだけ集めるかが重要になってくるのだが、確かに日本では国民がマイナンバーに対してもいまだに拒否反応を示していて、これをIDとして活用するのは難しいように見える。

一方、スウェーデンは国を挙げてパーソナルナンバーを活用している。Swishの成功は、パーソナルナンバー、電話番号、銀行口座を紐付けたことによるところが大きい。

ある種、情報が透明化されており、究極のプライバシーレス社会が出来上がっている。これは国家への信頼性の高さがなせる業だろう。

変化が激しく複雑化している現代社会において、インフラの整備は統一意思で一気に進めた方がスムーズで、民主化されている国であればあるほど難易度が高まる。キャッシュレスが普及するかどうかも国が主導できるかどうかがポイントだ。

「決済は、国民全員がほぼそれを使っているというような、『インフラ化』していないと意味がありません。個人間の送金が可能になったり、どの店に行っても使うことができるという状態でなければならなくて、水や空気のようなものです。本来であれば国家主導で行うべきような事業ですが、もし民間がやるのであれば、大量のIDを持っている事業者がけん引することになるのではないでしょうか」と新田氏は分析する。

QRコード決済の多くは近い将来消滅する

では小売業は決済手段が乱立する現在の状況に対し、どのように向き合うべきなのか。

「新しい技術は次々と登場します。まずは自社のIT基盤をきちんと整備し、常にAPI対応(※)ができるように整えることです。お客さまのIDをどのシステムにもはめ込めるようにつくっておくべきでしょう

現在、さまざまなQRコード決済の事業者が、小売業や飲食業に資金的な援助を行い、その事業者が提供する決済手段に対応するアプリやシステム構築の支援をしている。この、各事業者が競争している環境を活用して、赤字にならない範囲でいろいろな決済手段に対応してみるのもひとつの戦略だろう。

小売業の方が取り組むのであれば、将来にわたって決済事業を継続できる体力を持っていて、固有のユーザIDをたくさん持っているような、『筋のよい』企業と組むのがおすすめです。利益が出るのであれば、それ以外を試してみる価値もあるかもしれませんが、長続きするかどうかは疑問です」

現在の決済手法乱立状態は近いうちに収束に向かい、消滅・吸収されるQRコード決済も少なくないだろう。あらかじめそのことも念頭に入れて、決済戦略を決めるべきだ。お客さまの利便性を鑑みあらゆる決済手法を取り入れるのか、それとも厳選した決済手段だけを提供するのか。トップによる適切な経営判断が求められる。

※API…Application Programming Interfaceの略称。基本ソフト(OS)やアプリケーションソフト、インターネットのサービスなどが、自らの機能の一部を、ほかのソフトやサービスから簡単に利用できるように、機能の呼ひ゛出しやデータの受け渡しなどの手順を定めたルールのこと。

〈取材協力〉

Showcase Gig
代表取締役社長
新田 剛史氏

「浮動客」による一時的な売上増よりも「固定客」と長期の信頼関係をつくろう

過激な販促で、「バーゲンハンター」を一時的に集客し、売上を増やす時代は終わりました。これからの小売・流通業は、リアル店舗、オンラインともに、長期的に信頼関係を構築する「固定客」を増やす戦いに突入しています。

プライム会員向けの価格を思い切り安くすることで、「固定客」を増やそうとしているアマゾン(写真はアマゾンが買収したホールフーズの店内POP)。

プライム会員(固定客)を増やすことがアマゾンの最優先の戦略

これからは、一過性の新規客の集客合戦ではなくて、長期的に利用してくれる「固定客」(ロイヤルカスタマー)をいかに獲得するかが、すべての企業の最重点経営課題になります。

たとえば、「アマゾン」の経営戦略の中核は、「プライム会員」という固定客を増やすことです。2018年4月中旬に行われたアマゾンの年次株主総会で公開された「ベゾスCEOから株主宛に記された手紙」の中で、アマゾンプライムの加入者数が世界で1億人を突破したことが発表されました。

アマゾンは、オンライン販売はもちろんのこと、アマゾンが展開するリアル店舗「アマゾンブックス」「アマゾン4スター」「ホールフーズ」でも、「一般客」に比べて、「アマゾンプライム会員」の価格を思いっきり安くしており、プライム会員にならなければこれだけ損をすると手を変え品を変え主張しています。アマゾンの戦略のすべての動線は、プライム会員の獲得につながっているわけです。

世界でもっとも安いといわれている日本のプライム会員の年会費3,900円と比べると、アメリカのプライム年会費は119ドルと、日本の2倍以上もします(2018年に従来の99ドルからさらに値上げしています)。年会費は高くても、「Prime Now」(最短1時間の配送サービス)、「Prime Music」(音楽聞き放題のサービス)、「Prime Video」(映像ストリーミングサービス)などのプライム会員特典を考えると、119ドルの年会費を支払ってもお釣りが来ると考えるアメリカの消費者が多く、プライム会員は増え続けています。

アマゾンプライム会員は、「固定客」というよりも「信者」に近いロイヤリティをアマゾンに抱いている熱烈なファンで構成されています。「儲ける」という漢字を分解すると、「信者」になります。アマゾンは、オンライン販売という最先端の企業でありながら、「信者を増やして儲ける」という、昔からの商いの原理原則を極めようとしているように感じます。

ID-POSを活用して固定客の実態を可視化しよう

固定客の購買状況を可視化するデータが「ID-POS」です。ID-POSとは、買物客のID(個人識別番号)付きのPOS(販売時点)データのことです。ポイントカードの普及によって、カードを利用する際に収集できる個人の購買履歴データです。「どんな商品がいつ何個売れた」かがわかるPOSデータに加えて、「誰が買った」かがわかることがID-POSデータの最大の特徴です。ID-POSデータを分析すると、その店を頻繁に利用してくれる固定客の、店に対する売上貢献度が非常に高いことがわかってきました。

小売業のID-POSデータの分析を強化している「ユニ・チャーム」の調査(下の図参照)では、1年間に10回以上来店する固定客の人数構成比は41%と半数弱ですが、店の総売上に占める割合は約90%を占めています。頻繁に来店してくれる固定客の購入額が非常に高いことがわかります。

一時的な安売りで来店するバーゲンハンターではなくて、長期的に来店してくれる固定客、もっといえば「その店の熱烈なファン」を増やすことが、これからの小売業にとっての最大の売上対策であることがわかります。しかも、年40回以上も来店する、すなわち毎週のように来店するコアな固定客(来店客数の14%)で、売上の48%も占めているのは驚きです。

リアルであれ、オンラインであれ、これからの企業は、不特定多数の浮動客で商売するのではなくて、「特定多数の固定客」と長期的な信頼関係に基づいた商売をすることが重要です。

最後に蛇足ですが、毎週のように来店するコアな固定客の中には、長期的に窃盗を繰り返す万引き常習犯が潜んでいることがあることも、悲しい現実です。「お客様は神様です」と盲信しない冷静さも必要ですね。