コンビニネクスト

2030年までに達成すべき国際社会全体の目標

第9回コンビニ各社がSDGsに熱視線を注ぐ理由

SDGs(エス・ディー・ジーズ)が今、コンビニ業界で必須の課題となっている。SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のこと。前回紹介したセブン-イレブンの野菜工場の会見で、古屋一樹社長は野菜の安定生産が「SDGsへの取り組みの一つにもなる」と語っている。なぜコンビニ各社をはじめとする大手流通業がSDGsを進めようとしているのか。

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サプライチェーン・マネジメントの点検に活用

SDGsを各社が導入しようとするのには実利的な理由もある。2017年春頃から持続可能な経営をする業界や企業に投資する流れが世界的に出来つつあり、同年春には世界銀行がSDGsの達成状況に連動させた債券を発行、同年11月には日本経団連が企業行動憲章を改定してSDGsを達成することを表明している。

SDGsに取り組まないと、株価が下がり、企業価値が毀損されると(コンビニに限らず)業界や企業が考えるようになったのだ。

SDGsは2015年秋の国連サミットの場において全会一致で採択された、2030年までに達成すべき国際社会全体の目標である。17のゴールと、それを詳細にした169のターゲットから構成されている。(上画像参照)

17ゴールのロゴを画像で見ると、ちょうど横3列に分かれている。

1列目(ゴール1~6)は、貧困や飢餓、保険、教育、ジェンダー、水・衛生、といった伝統的な開発課題。

2列目(ゴール7~12)は、エネルギー,経済成長,産業など包摂的な成長のために,先進国・途上国ともに取り組むべき目標。

3列目(ゴール13~17)は、気候変動や環境問題、平和・司法制度、SDGsを達成させる実施手段とされている。

例えば、コンビニの売場には、サプライチェーン・マネジメントにより、生産の現場から、さまざまな経路をたどって商品が届く。製造の現場、流通の現場、小売りの現場、それぞれがSDGsの各ゴールの目から見て「脆弱性」がないか点検することが大切になる。

以前、日本のアパレルチェーンのPB(プライベート・ブランド)商品が、開発途上国の過重かつ危険な労働環境で製造されていると海外NGOから非難され、大きく報道された。今後も引き続き世界企業に対しては厳しい目が注がれるであろう。

ストローは序章、次はレジ袋、ペットボトルへ

使い捨てストローの不使用を外食企業の大手が表明している。この動きは序章に過ぎない

コンビニ業界に関連する当面の課題は海洋に流出するプラスチックごみだ。SDGsで言えばゴール14「海の豊かさを守ろう」。昨年は海亀の鼻にストローが刺さった衝撃的な画像がネット上に拡散した。これを受けて外食チェーンにおいて、使い捨てのプラスチック製ストローを廃止する動きが広がっている。スターバックスコーヒーは2020年までに世界全店で廃止すると発表、米国マクドナルドは順次紙製に変更、ガストは2018年12月に全店で廃止済み、と動きが拡大している。

しかし「ストローは序章に過ぎない」と、環境とCSRをテーマにするビジネス情報誌『オルタナ』の編集長、森摂氏は語る。

「昨年 “ストローは序章(世界同時「脱プラ」の衝撃)”と題する特集を組んだ。ストローの次はレジ袋、その次はペットボトルが問題になる」

使い捨てプラスチックごみの多くは焼却されるが一部は大雨などにより海洋に流出する

日本のコンビニ業界はプラスチック製の使い捨てゴミ袋を無料で配布している。使い捨てプラスチックごみの廃止が先進国の潮流であり、SDGsに沿った目標であれば、レジ袋有料化や使用制限は今後、避けられないのではないか。

そして次がペットボトル。森氏は続ける。

「ペットボトルは利便性の面では理想の形態である一方、リサイクル率が低く、生態系への配慮を問われている。ドイツはペットボトルにデポジット制を課している。そのデポジットが 1 ユーロ(130円)と高額。商品と同じくらいの値段がデポジットの料金になる」

コンビニにとって厳しい条件に見えるが、コンビニがリサイクルの拠点になれば、逆に集客に期待が持てるかもしれない。環境負荷に対する規制は避けて通れない。そこに、どのような商機を見出すかが大切だ。

外国人社員とスタッフに活躍の場を創出

ファミマによる第2回「ダイバーシティアワード2018」で最優秀商を受賞した「ファイターズ」と澤田貴司社長、駆け付けたタレントの香取慎吾さん

「ダイバーシティ」経営とは、多様な人材を活用して企業を発展、活性化させること。SDGsのゴールでは、(5)ジェンダー平等を実現しよう、(8)働きがいも経済成長も、 (10)人や国の不平等をなくそう、に結び付く。

このダイバーシティ推進の一環として、ファミリーマートは、各組織が自部門で実践している「多様性を活かすことで新しい価値を生み出した優れた取り組み」を表彰する第2回「ダイバーシティアワード2018」を本年1月に開催した。

全国から31チームがエントリーし、1次審査の結果選定された6チームが最終プレゼンテーションを実施、最優秀賞が決定する。

内容を紹介すると、あるディストリクト(地区事業所)では、「なりきりだよ全員集合」をキャッチにダイバーシティに取り組んだ。男性管理職も含めた全員が、遅出、早帰りを実施して、子育てや介護を抱えた時間制約の伴う働き方を、家事をサポートすることでリアルに体験、当事者意識から現状課題を見つけようと考えた。

制約があっても、皆で工夫しあって、やり切る気持ちがあれば、生産性の向上にもつながることが全員で共有できた。副次効果として、家族から大変良い取り組みだと絶賛の声をたくさんもらったという。

また、あるディストリクトでは、「メンバーそれぞれの多様性(知識・経験・個性・特徴・得意分野など)を活かすことが組織活性化のカギ」をテーマに、親子ほど年齢の違うベテラン(おやじ)と若手(息子・娘)が相互に補完して、知識や経験を伝承し、ディストリクト全体を活性化させていくことに取り組んだ。例えば、ベテランの持つ豊富な経験、若手が得意とするITスキルを効果的に日常業務に活かしている。

チーム名「ファイターズ」のプレゼンテーション。外国人スタッフが活躍できる環境を整えている

最優秀賞を受賞したのが、チーム名「ファイターズ」(東京第1ディストリクト)。外国人スタッフが多く勤務するこのディストリクトでは、所属する外国籍スーパーバイザー(SV)が講師となりスタッフ研修を実施、外国人観光客に対してインバウンドの売上を図る戦力として育成している。また、中国籍のSVが店舗に出張して中国語による指導を開始、新人スタッフの教育、免税店舗での売場づくり、オペレーション改善など、店舗の課題に合わせた研修を重点地域で実施した。ファミリーマートは、性差や年齢、国籍を問わず、全員が活躍できる環境づくりを目指している。

SDGsの一つ一つは企業活動を制約するものでは決してなく、組織の活性化やビジネスチャンスを生むものとして、企業そして個人として、活用していきたい。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。