今週の視点

「市区町村」「年齢」「性」「職業」の人口データを活用

第19回「人口減少時代」を生き抜くためにマイクロマーケティングで機会損失を防ごう

『国立社会保障・人口問題研究所』が2018年3月に発表した「日本の地域別将来推計人口」によれば、今から12年後の2030年の日本の人口は、2015年対比で比較すると93.7%に減少することがわかります(図表1の最下段の数値参照)。今回紹介する「日本の地域別将来推計人口」は、2015年から2045年までの30年間の人口推移(年齢別)を5年間隔で推計したものです。「県」単位の人口データだけではなくて、全国1,682の市区町村を対象にも人口推移を集計しています。このデータはオープンデータであり、Excelで自由に加工できます。小売業の開発部、商品部、店舗運営部は大いに活用すべきでしょう。

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人口減少率の高い県は秋田県、青森県

図表1は、2030年に人口が減少する「県」のトップ10です。東北、四国の人口減少が目立ちます。1位は秋田県、2位は青森県。トップ10の中に、宮城県を除く東北5県が入っています。

図表2は、さらに先の未来の2045年に人口が減少する「県」のトップ10です。秋田県は、27年後には2015年対比で、半分近くに人口が減少することがわかります。

一方、2030年の人口維持率の高い都道府県のトップ10は図表3の通りです。12年後に人口を維持できるのは、東京都と沖縄県の2都県のみです。

沖縄県は、40代以下の人口が多く、出生率も高いのが特徴です。2016年の全国平均の出生率1.44に対して、沖縄県の出生率は1.95と、日本の都道府県の中で出生率がもっとも高い県です。出店すると物流費がかかるという課題はありますが、こと人口だけを考えると、沖縄県は日本でもっとも将来性のある商業立地ということができます。

ちなみに東京都の出生率は1.24と全国平均を下回っています。12年後の2030年も東京都の人口は増えますが、少子高齢化が急速に進んでいることがわかります。これも深刻な未来です。

市区町村別の人口データを活用して機会損失を防ぐ

この調査の良い点は、「市区町村別」「年齢別(5歳刻み)」「性別」の人口推移データを参照できることです。

図表4は、2025年(7年後)に人口維持率の高い市区町村のトップ20です。大都市圏の市区町村が上位に来ていますが、福岡県新宮町のように、福岡市のベッドタウンとして宅地開発が進んだ市が6位にランクインしています。また、20位にランクインした埼玉県戸田市は、東京都心へのアクセスの良さや、行政による子育てサポートの充実などで、30代、40代世帯の流入が増加している地域です。

一方、図表5は、2015年時の人口1,000人以上の市区町村で、「子供人口(0~14歳)の維持率の低い市区町村」のトップ10です。中小規模の市町村でも7年後に子供人口がほぼ半減する地域があることがわかります。

日本全体では、2015年基準で、2020年(+2年)に子供(0-14歳)の人口を維持できるのは東京都(100.7%)と沖縄県(100.2%)だけです。子供(0-14歳)の人口は2025年以降すべての都道府県で減少します。データを見ると、日本の少子化は本当に深刻な問題ですね。

図表5は、子供人口の低い市町村ですが、逆に、子供人口の維持率が県平均よりも高い市区町村を抽出することもできます。たとえば、2030年に人口が約2割も減少する「秋田県」であっても、市区町村別に見れば、子供人口の維持率の高い市区町村、子育て世代の多い市区町村は当然あります。

深刻な人口減少時代に突入するこれからの小売業は、「県」単位の大雑把なマーケティングではなくて、市区町村別の小さなエリア単位の人口構成を分析し、その地域に適した棚割、売場づくり、売り方を実践する「マイクロマーケティング」に挑戦することが重要です。

逆説的にいえば、県単位の棚割、売り方のままでは、市区町村のニーズに合わず、大きな機会損失を起こしているといっていいと思います。人口減少時代には、何も手を打たなければ、間違いなく売上は減ります。市区町村単位のマイクロマーケティングで機会損失を防ぐことが、最大の売上対策になると思います。

最近の基礎データの良い点は、今回紹介した『国立社会保障・人口問題研究所』の「日本の地域別将来推計人口」のようなオープンデータが、無料で簡単に抽出・加工できることです。また、別のオープンデータ(国勢調査)では、2キロメートルの範囲の「職業別」の人口を抽出・加工することができます。田舎立地では、農業人口の多い町と、林業人口の多い町では、作業用手袋の売れ筋がまるで異なるそうです。

MD NEXTに連載されいる「Tableauを使った小売の数値可視化入門」でも紹介しているように、汎用化した分析ツールを活用すれば、オープンデータの取り込み、分析を低コストで行うことができます。本部主導一辺倒ではなくて、現場でマイクロマーケティングを実践する環境は整いつつあると思います。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。