今週の視点

客の近くに立地する店舗しか生き残れない!?

第104回リアル店舗の狭小商圏化は加速 「商圏人口3,000人」時代に備えよう

月刊MDでも何度か紹介している食品強化型ドラッグストア(DgS)「ゲンキー」は、人口が減少し、高齢化率が上昇する地方都市の「過疎地」立地に、売場面積300坪の店舗を出店する経営戦略で急成長しています。ゲンキーが想定する商圏人口は7,000人~5,000人と、従来の総合小売業の商圏人口としては極めて狭小商圏立地を想定しています。

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商圏人口7,000~5,000人を狙うゲンキー、薬王堂

月刊MDでも何度か紹介している食品強化型ドラッグストア(DgS)「ゲンキー」は、人口が減少し、高齢化率が上昇する地方都市の「過疎地」立地に、売場面積300坪の店舗を出店する経営戦略で急成長しています。ゲンキーが想定する商圏人口は7,000人~5,000人と、従来の総合小売業の商圏人口としては極めて狭小商圏立地を想定しています。

また、東北地域にドミナント展開する「薬王堂」も、商圏人口5,000人の過疎地の生活を支える業態を店舗展開しています。今年からはアプリを活用したBOPIS(Bye Online Pickup In Store。アプリで注文し店舗受け取り)のサービスを開始し、近い将来は客の自宅まで商品を届ける「宅配」にも挑戦する計画です。高齢化が進み、免許返納の高齢者が増加する東北の過疎地の「ラストワンマイル」を実現する宅配に取り組むことで、「狭小商圏高シェア」を目指す戦略のようです。

小売業は「立地産業」と呼ばれ、人口の増加している地域に出店するのがセオリーです。しかし、車で30分もかけて来店するような大商圏のリアル店舗は、Amazonなどのeコマースとの競争に弱いと考えられます。「コストコ」のようなAmazonにはない特別な来店目的を持つ業態以外は成立しにくくなると考えられます。

Amazonと共存できるリアル店舗は、「近くて便利」という価値を磨いた小商圏店舗だけになる日が来るかもしれません。ゲンキーや薬王堂は、あえて人口5,000~7,000人の人口減少立地に「逆張り出店」することで、残存者利益を獲得し、需要を総取りする作戦です。

5,000人~7,000人の立地でも商売を成立するためには「ラインロビング」は不可欠の戦略です。新しいカテゴリーを増やすことで「来店目的」を増やし、一人当たりの支出金額を増やすことが、狭小商圏立地で成立させるためのセオリーです。ゲンキー、薬王堂ともに生鮮食品までラインロビングし、地域の便利な店を目指そうとしています。

年1,000店の出店続けるダラー・ジェネラル


ゲンキーや薬王堂がベンチマークしているアメリカ小売業は「ダラー・ジェネラル」だそうです。ダラー・ジェネラルは、ルーラル(田舎)立地に高密度でドミナント出店し、毎年1,000店前後の新規出店を継続しています。

最近のアメリカ小売業界は、大商圏立地の「大型ショッピングモール」の大量閉店が続いています。ショッピングモールに入居している核店舗のデパートやGMSの閉店が相次ぎ、コロナ禍の中で、ショッピングモールにテナント出店するアパレルなどの専門店の倒産も相次ぎました。

一方で、ダラー・ジェネラルやアルディのような「小型の小商圏業態」の大量出店が続いています。両社とも人口の少ない立地に出店できる売場面積300坪程度の「小商圏小型ディスカウンター」です。ダラー・ジェネラルは、ほとんどの商品が10ドル以下で売られ、2020年1月末で全米45州に16,278店舗を展開。アメリカは50州なので、まだ出店していないエリアが残っており、アメリカでもっとも成長余地の大きいリアル小売企業として注目されています。

ダラー・ジェネラルの店舗の多くは、大型店が少ない人口1万人以下の郊外やルーラル(田舎)地域に展開されています。2019年度、975店舗の新規開店、1,024店舗を改装、100ヵ所の店舗を移転しました。これら店舗網で全米45州をカバー、人口の75%以上が店舗から半径5マイル(約8㎞)以内に住んでいる小商圏店舗です。

ダラー・ジェネラルの大きな特徴は、Amazonのようなネット通販と棲み分けできることです。「近くて便利」「10ドル以下の低価格帯」が武器なので、自宅近くのダラー・ジェネラルを利用すれば、無理にAmazonで注文して配達してもらう必要がありません。また、オンラインで注文して店舗受け取りという新しい買物体験「BOPIS」にも2019年から挑戦していますが、自宅から近いので受け取りが便利という理由で好調です。また、総合ディスカウントストアのウォルマート以上の安さを実現しており、所得格差の激しいアメリカでは、低所得者層にとって便利な業態として定着しています。

日本でも地方都市は人口減少と高齢化が進み、免許返納によって遠くの大型店よりも、近くの便利な小商圏店舗を選ぶ高齢者が増えていきます。人口減少が続く地方都市の店舗が少なくなる中で成立すれば、唯一残った便利な店舗として「残存者利益」を得ることになるでしょう。また、コンビニしかないような過疎立地であれば、300坪店舗でも地域の最大店舗です。「小さな町に大きな店をつくる」という昔からある商業経営の格言は、洋の東西を問わず共通しています。

また、アメリカ同様に日本も所得格差が開いています。ゲンキーで販売している弁当の最安値は198円ですが、こういう激安商品を好んで購入する消費者が増えていきます。とくに高齢者は年金生活者なので、ストック(資産)はあってもフロー所得は少なく、節約志向は今後も高まっていきます。

ゲンキーは、300坪型の「Rタイプ」店舗を今後3年間で272店も開店し、2023年6月期の店舗数568店、売上高2,400億円の目標を立てています。ダラー・ジェネラルのように、大量出店を計画しているわけです。ゲンキーは自動発注など店舗で考える作業を極力減らし、入社2年で店長になれる仕組み化を武器にして、レイアウトもまったく同じの「金太郎飴店舗」を量産しようとしています。

生鮮全店導入により7,000人商圏での勝ち残り図るゲンキー

人口減少、Amazonとの競争の中で、リアル店舗の狭小商圏化は加速していきます。近い将来、「商圏人口3,000人」時代に備える必要があるかもしれません。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。