今週の視点

粗利益の2割は営業利益が基本

第105回小売業のコスト管理の基本「分配率」を知っていますか?

小売企業の中堅幹部は、本業の儲けである「営業利益」の達成が最大の数値目標になります。そのためには、売上高を増やすだけではなくて、販管費(経費)=コストをコントロールすることが重要です。

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分配率は粗利益に占める利益と経費の割合

小売業のコスト管理の基本が「分配率管理」です。冒頭の図表1に示したように、分配率とは粗利益(売上ではありません)に占める利益と経費の割合を表したものです。分配率管理で重要なことは、まず最初に、粗利益の中から「営業利益」を確保することです。

粗利益に占める営業利益(もしくは経常利益)の割合のことを「利潤分配率」と言います。利潤分配率の目安は20%です。つまり、粗利益の2割を営業利益として最初に計上し、残りの8割を経費として配分するわけです。経費分配率の中でもっとも割合の多い経費は人件費であり、それを「労働分配率」と表現します。労働分配率の目安は、粗利益の3分の1強です。

労働分配率を計算する際は、給与だけではなくて「役員報酬」、「福利厚生費」「退職金の積み立て費用」「訓練費用」などの給与以外の労働コストをすべて含めて計算することが重要です。労働分配率以外にも、「不動産分配率」「販促分配率」が主要なコストです。コストコントロールで重要なことは、それぞれの分配率の目標を決めて、その範囲内でコストを管理することです。

販促分配率が低いコスモス薬品

※月刊MD2021年2月号記事から引用

図表2は、上場企業であるコスモス薬品の財務諸表をベースに「分配率」を計算したものです。粗利益(=売上総利益)に占める経費(販売費一般管理費)の割合は78.4%(経費分配率)となっています。つまり、利潤分配率(粗利益に占める営業利益の割合)は21.6%と計算できます(2020年5月末決算)。

利潤分配率の目安が20%なので、コスモスや薬品はより多くの営業利益を確保しています。コスモス薬品の店名は「ディスカウントドラッグコスモス」と安売り店であると堂々と表現していますが、利益配分は高いことがわかります。安売りで儲けが少ない従来のディスカウンターとは収益構造が異なると言っていいでしょう。

一方、コスモス薬品の労働分配率は38.0%と決して低くありません。小売企業としては平均賃金が高いと推測できます。低賃金で安売りを仕掛けるディスカウンターとは報酬面でも異なることがわかります。

特筆すべきは、コスモス薬品の「販促分配率」が3.2%と極めて低いことです。販促分配率の目安は5~7%なので、コスモス薬品の販促費用の低さが目立ちます。販促分配率の低さは、EDLP(エブリデーロープライス。常時低価格)政策の結果だと思われます。

売価を上げ下げして、売れ方(需要)の波動をつくる「ハイ&ロー」の価格政策よりも、売価が一定で売れ方の波動も少ないEDLP政策の方がオペレーションコストが低く、販促にかかる経費も非常に少ないことがわかります。コスモス薬品の販促分配率の低さを見ると、EDLPはEDLC(エブリデーローコスト)であることが改めて実感できます。

コスモス薬品の販管費率(売上に占める販売費一般管理費の割合)は15.5%(2021年5月末決算)とローコスト経営を実践しています。ちなみにマツモトキヨシの販管費率は25.7%ですから、10%以上の差があります。その驚異的なローコスト経営の理由のひとつが、EDLP政策による販促分配率の低さなのです。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。