今週の視点

レジの生産性向上で販管費を低減させる

第63回ヨークベニマルが 「スキャンカート」の実験開始

大手食品スーパーのヨークベニマル(本社・福島県郡山市)が、お客が自分で商品のバーコードをスキャンしながら買物し、最後にセルフレジで一括清算する「スキャンカート」の実験を開始しました。レジの生産性向上の切り札になるのでしょうか?

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8月28日より運用を開始したヨークベニマルの「スキャンカート」。

販管費の上昇は深刻な経営課題

人手不足による人件費の上昇は、小売業の経営に深刻な影響を与えています。たとえば、新しく採用したパートさんの時給が、古参のパートさんの時給を上回る逆転現象が発生しています。退職を防ぐために、古参のパートさんの時給を上げなければならず、人件費は確実に上昇しています。

絶好調のDgS(ドラッグストア)も、販管費(経費)の上昇が最大の経営課題です。月刊MD2019年10月号(9月20日発行予定)の「ドラッグストア白書2019」によれば、上場Dg.Sの15社すべてが前年比で販管費率(売上に占める販管費の割合)を上昇させています。15社平均の販管費率は22.2%。前年(2018年)が21.7%なので、1年間で0.5%も販管費率が増加しています。ちなみに2016年の15社平均の販管費率は21.2%なので、この3年間で1%も販管費率が増加していることがわかります。

人件費の上昇による販管費の増加をカバーするためには、「人の生産性」の向上が不可欠の経営課題です。新しいテクノロジーを活用して、店内作業の省人化・無人化に取り組む必要があります。

店内作業の30%を占めるレジ作業の省人化

店内作業の中で人時がかかっている作業は、「商品にさわる作業」です。補充作業、陳列作業は多くの人時を使います。その中でももっとも人時のかかっている作業は「レジ作業」であり、店内作業人時の約30%を占めています。

レジ作業の省人化・無人化の挑戦の第1は、Amzon Goのような「ウォークスルー方式」です。アマゾンは店内カメラと棚の重量センサーを活用して、買物行動を補足し、レジの存在しない店舗をアメリカで展開しています。挑戦の第2は、「スキャン&ゴー方式」です。お客が自分で商品のバーコードをスキャンしながら買物し、最後に一括清算する方式です。MD NEXTでも以前紹介した「トライアル」の事例が代表的です。

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ヨークベニマルの「スキャンカート」も、「スキャン&ゴー方式」です。画面とスキャナーを搭載したショッピングカート(下の写真)を使って、商品を自分でスキャンしながら買物を進めていきます。スキャン&ゴー方式を運用する際の最大の課題は、「意図的ではない商品のスキャン忘れ」「意図的にスキャンしない(万引)」ことによって、不明ロスが発生することです。ヨークベニマルのスキャンカートの底には「重量センサー」が付いており、スキャンしていない商品がカゴに入っていると、アラートが出る仕組みのようです(下の写真)。

スキャンカートを実験的に導入したヨークベニマル。
ショッピングカートの底に重量センサーが付いていて、スキャン忘れを防止する

スキャンカートの専用レジコーナーがあり、実験段階だからなのか、専用レジはまだ1台でした。最後にスキャナーでカート画面のQRコードをスキャンして一括清算する流れになります。清算方法は、「現金」「ナナコ」「クレジットカード」の3種類です。

今後は、スキャンカートの利用を促進するために、ポイント付与などのサービスが必要のように感じます。また、トライアルが実施しているように、お客の購買データに紐づけられたパーソナルクーポンなどの個別販促をカート画面に表示できるようになると、スキャンカートを利用する特典がもっと明確になります。

今回見学したヨークベニマルのレジ台数は10台でした。セルフレジが6台、スキャンカート専用レジが1台、有人レジは3台でした。つまり10台中7台は、お客が自分で商品をスキャンして精算するレジだったということです。レジ作業の省人化・無人化は着実に進んでいます。

店内作業の約30%を占めるレジ作業は、レジ担当者の教育コストも含めると売場の販管費の多くを占めています。レジ作業の省人化が進めば、リアル小売業の人の生産性は大きく向上すると思います。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。