化粧品の売上高日本一のDgS連合が誕生
図表1の上場DgSの2018年度決算によると、マツモトキヨシHDとココカラファインの売上高を合計すると、約9,765億円になります。2019年度決算では、間違いなく売上高1兆円を突破します。
月刊MDを創刊したはかりの20年前は、「DgSは年商300億円を超えなければ生き残れない」と言われていましたが、そう考えると隔世の感があります。この20年でDgS業界は一気に寡占化が進んだことがわかります。
マツモトキヨシHDとココカラファインの共通点は、化粧品の売上構成比が高いことと、都市型立地の店舗が得意なことです。下の円グラフによれば、マツモトキヨシの化粧品の売上構成比は41.1%と、上場DgSの中でもっとも化粧品の売上構成比が高い企業です。2番目に化粧品の売上構成比が高いのがココカラファインで、30.2%です。化粧品が主力のDgS2社の経営統合であることがわかります。
マツモトキヨシの化粧品の売上高は約2.370億円、ココカラファインは約1,210億円、両社の化粧品の売上高合計は約3,600億円になり、ものすごいバイイングパワーを持つことになります。化粧品メーカーは戦々恐々ですね。
PBでブランディングを進めネットと差別化、固定客を獲得
今回の2社の経営統合によって、PB(プライベートブラント)の強化がさらに進むと思われます。「安かろう悪かろう」のPB戦略からいち早く脱皮し、固定客のマインドシェアを高めるブランディングに成功しているマツモトキヨシのPBを共通で取り扱えるのは、両社にとって大きなメリットです。
従来のPBは、消費者にとっての最大の価値は「低価格」でした。メーカーのNB(ナショナルブランド)にパッケージがよく似ていて、「NBと比較してみてください。成分が同じでこんなに安いでしょう」という売り方が一般的でした。一方、小売業側の最大のメリットは、NBよりも値入率が高くて儲かることであり、「利益対策」がPB開発の最大の目的でした。
マツモトキヨシは、2015年末にPBのリブランディングを決断。ブランド名を「MKカスタマー」から「matsukiyo」に変更しました。matsukiyoはマツモトキヨシの愛称として広く親しまれている呼び方なので、商品が店舗を連想させやすくなり、コーポレートブランドに「近い」PBとなりました。つまり、低価格だけが魅力のPBから脱皮し、企業のブランディングに貢献するコーポレートブランドとして育成することを、DgSの中でいち早く挑戦したわけです。
PB商品数は2,000点を超え、売上構成比の10.1%をPBが占めています(2018年6月時点)。
「多くのPBは、まず価格訴求(いわゆる『安かろう悪かろう』)から始まりました。2009年ごろにセブンプレミアムが浸透したことで高品質低価格なPBが一般化しました。いまでは高品質低価格が求められ、PBが市民権を得たともいえます。
これまでPBは、『競合との差別化』『利益拡大』『お買い得価格での提供』『来店客数増加』といった役割を果たしてきました。これからは、それらに加えて『ユーザーニーズに応える』『コーポレートブランドのイメージ向上』『企業理念の具現化』といった、企業戦略実現の側面がますます重要になってくるでしょう」(PB商品開発を担当する櫻井壱典氏談)
マツモトキヨシのPBは、低価格だけが価値ではないので、企業のブランディングに貢献します。また、オリジナル商品なので、アマゾンなどのオンライン企業とも差別化できます。さらに、ブランド力のあるPBがあることで、お客の「マインドシェア」が高まり、選ばれる店になることにも貢献します。
パッケージデザインもお洒落で、「マツキヨスラッシュ」という傾斜19度のラインが全商品に共通で入っています。マーケティングに関してはSNSを最大限に活用しており、「EXSTRONGエナジードリンク」は、中身の色の意外さがSNSでバズられて拡散し、大ヒットにつながったそうです(下記写真)。
DgSの1兆円時代が到来しました。第2第3の1兆円企業が誕生することは間違いないと思います。しかし、企業規模の拡大はチェーンストアの目的ではありません。多くの店舗数を持ち、「単品大量販売」を行い、「よりよいものをより安く」を実現することで、消費者の暮らしを豊かにすることが目的です。
次の10年間は、経営戦略の最優先が「大量出店」だった時代が徐々に終焉していきます。本当の意味での自主MD(マーチャンダイジング)に挑戦することが、経営戦略の最優先になる時代が、もうすぐそこまで来ています。MDはメーカー、問屋まかせで、大量出店だけで成長してきた時代から脱却することが、DgSの次の成長のためには不可欠であると考えます。