今週の視点

価格限定のリミテッド・アソートメントストアが絶好調

第55回5ドル以下で10代の生活をカバーする「ファイブ・ビロウ」が急成長している

「5ドル以下の価格」「顧客ターゲットはティーンエイジャー」と、価格帯と顧客を限定した「ファイブ・ビロウ(Five Below)」という「リミテッド・アソートメントストア」がアメリカで絶好調の業績をおさめています。「何でも屋」のリアル店舗よりも、顧客ターゲットを明確にした店の方が、アマゾンと差別化できるということなのでしょうか?

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5ドル以下の価格帯で、キッズとティーンに顧客ターゲットを絞ったファイブ・ビロウ。

年間1,000店舗も出店する最大手のダラーゼネラル

1年間で5,000店を超える店舗がなくなる「閉店ラッシュ」が続くアメリカ小売業界で、価格帯と品揃えを限定した「リミテッド・アソートメントストア(LAS)」の業績が良く、大量出店を継続しています。

LAS業態の市場規模は約500億ドル(約5兆5,000億円)と推定されています。最大手の企業は「ダラーゼネラル」で、店舗数は約1万5,000店舗と、直営チェーンとしては世界最大の店舗数を誇ります。1年間に1,000店前後という超ハイペースの出店を継続しています。しかも、出店している州は44州であり、未出店エリアが残っており、アメリカでもっとも成長余地の大きいリアル小売企業として注目されています。

また、1ドルに価格帯を限定したLAS業態第2位の「ダラーツリー」は2019年に300店、第3位の「ファミリーダラー」は2019年に200店の新規出店を計画しています。閉店ラッシュのアメリカ小売業界の中で、LAS業態の出店意欲が旺盛であることがわかります。

ちなみに、アメリカ最大の小売企業「ウォルマート」の2019年の新規出店数はわずか10店舗です。ウォルマートは、新規出店よりもITに巨大な投資を行い、買物を便利にする「オムニチャネル化」を進め、既存店・既存顧客の売上を増やすことで成長する方向に舵を切っています。この連載で紹介した「カーブサイド・ピックアップ」(オンラインで注文→駐車場で受け取り)も、オムニチャネル化の投資のひとつです。

アプリで注文して駐車場で受け取る「カーブサイド・ピックアップ」に注目

LAS業態は、ダラーゼネラルが5ドル以下、ダラーツリー、ファミリーダラーが1ドルのワンプライスと、宅配サービスには適さない低価格帯の商品に限定しているため、アマゾンと差別化できることが最大の強みです。

また、売場面積も300坪程度と小型店であり、自宅から近い小商圏立地にドミナント出店しています。5,000坪のウォルマート・スーパーセンターの商圏内に、ダラーゼネラルが5~10店も取り囲んで出店するわけです。つまり、「近くて便利」が武器なので、自宅近くのダラーゼネラルを利用すれば、無理にアマゾンで注文して配達してもらう必要がありませんからね。

急成長中のファイブ・ビロウ。

キッズとティーンに限定したファイブ・ビロウが大人気

LAS業態は、価格を限定しているだけでなくて、客層も限定しています。ダラーゼネラル、ダラーツリー、ファミリーダラーの大手3社は、顧客ターゲットを「低所得者層」に限定しています。「1ドルステーキ」「99セントのドレッシング」などの品揃えは、低所得者向けの店であることが明確にわかります。

一方、ファイブ・ビロウは、8歳~12歳のキッズ、13歳~18歳のティーン、そして「その親」に顧客ターゲットを絞っています。キッズとティーンのための文房具、学校用品、衣料品、アウトドア用品、お菓子、化粧品、ホームパーティ用品などの多くの品種を5ドル以下の低価格で販売するLAS業態です。

創業は2002年と比較的新しい企業であり、店舗数は約750店で、毎年100店以上の新規出店を継続しています。全米で2,500店までの出店余地があるといわれています。20118年にはニューヨークの5番街に基幹店舗を開店したことが話題になりました。顧客ターゲットが低所得者層ではないので、マンハッタンの5番街にも出店できるわけですね。

低所得者層向けのダラーゼネラルと異なり、キッズとティーンの生活を楽しくする「ライフスタイルストア」の要素が強く、安さ以外の付加価値があることも大人気の理由のようです。
入口を入ると季節用品の売場で、6月に訪問した際には、夏休みのアウトドアライフに必要な商品が集められた売場を展開していました。「5ドルの水鉄砲」「5ドルの海用シューズ」などを、エンターテインメント性のある陳列で演出していました。また、「5ドルの化粧品」も初めての化粧を体験するキッズにとっては楽しい品揃えです。

「近くて便利で低価格の小型ライフスタイルストア」は、アマゾンと完全に差別化できる新しい乗り物(業態)なのかもしれませんね。

入口すぐは季節商品の売場。6月は夏休みのキャンプ用品を陳列していた。
「4個で1ドル」「10個で1ドル」のキャンディ売場。
キッズとティーン向けの化粧品コーナー。
化粧品はセット中心ですべて5ドルで販売されていた。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。