居酒屋が編み出した二毛作営業
同じ店舗で、異なる時間帯にそれぞれ別の商売をすることを「二毛作」という。居酒屋の場合、営業が夜に集中することから、日中の時間帯に生産性を上げることは重要なポイントとなる。そこで、ランチ営業で売上をつくろうと考えるのだが、夜のメンバーがそれを担うとすると体力的にきつくなる。ならば、物販か、労働負荷が少ない営業を行うということが考えられるのではないか。
これからのウィズコロナ時代は、ソーシャルディスタンスが常識となることから、飲食店ではかつてのように「席を詰め込む」ということができない。それだけに、居酒屋の二毛作は営業政策としてこれから特に重要になっていく。その素晴らしいヒントが、今回の事例だ。
「今年も酷暑になる」でひらめいたこと
東京・千葉で居酒屋等の飲食店を17店舗展開しているKUURAKU GROUPでは、銀座店、町屋店、北千住店、本八幡店の4店舗で、日中を活用して「かき氷専門店」を営業している。従来の居酒屋営業では営業時間外である。この「かき氷専門店」は独自の店として位置付け、ファサードにオリジナルの青い暖簾を下げ、たくさんの風鈴を飾り付けて、居酒屋営業とは全く異なるイメージをつくり上げている。5月30日にオープンした北千住店を皮切りに順次オープンしていき、営業時間は12時から16時30分の4時間30分となっている。
これらの4店舗のうち特に下町の3店舗はウェーティングができるほどの好調ぶりで、営業を開始して以来1カ月たたずに4店舗合計で4000杯を販売した。「かき氷専門店」の営業は10月頃までと想定している。
KUURAKU GROUPの「かき氷専門店」で注目されるポイントとして、まず、店舗が路面店であること。初期投資、ランニングコストが低いこと。そして労働負荷が低いことが挙げられる。
同社代表の福原裕一氏によると、「かき氷専門店」営業のヒントはこのようなことだ。
「コロナ禍で多くの飲食店ではテイクアウト・デリバリーを行ないましたが、これはレッドオーシャンで、ここに人件費をかけて行うのではなく、『お店』という資源を活かして何か新しいことができないかと考えた」
「当社の海外事業であるスリランカの店舗でかき氷の営業を試みたことがあり、ウィズコロナの中で、『今年も酷暑になる』『みなマスクを着けて過ごしている』ことから『かき氷』がひらめいた」
同業者に向けたライセンス販売を画策
同社の4店舗が秀逸なことは、「居酒屋がかき氷を売っている」というイメージを払拭して、「かき氷専門店」に徹底していることだ。ファサードの暖簾は既製品ではなくオリジナルのデザインを施したもので、ファサードの上にはたくさんの風鈴を付けて涼感を演出している。
商品は、まず「期間限定商品」の「まるごとメロン」「まるごとメロンミルク」が目を引く。メロンの果肉を小さなボール状にくり抜いて、かき氷を盛り込んで側面にそのボール状のメロンを張り付けている。涼感と共にとてもインスタ映えする商品だ。メロンは1日6~10食程度を用意しているとのことだが、この商品はほとんど売り切れになるという。
価格は銀座店の「かき氷大吉」を例にとると、前述のメロンがそれぞれ1,280円と1,350円、このほか「いちご」880円、「いちごミルク」950円、「マンゴー」880円、「マンゴーミルク」950円、「宇治金時(わらび餅入り)」950円、「宇治金時(同)」1,050円となっている。他の3店は「かき氷大吉」よりも低めとなっている。
テイクアウトの商品に「まるごとメロン」はなく、「いちご」「マンゴー」「宇治金時」がイートインの商品よりもポーションを小さくし、2割安程度で販売している。
氷は「純氷」(じゅんぴょう)を使用。これは水をろ過することで純度を高くし、ゆっくりと凍らせているもの。この氷はそれぞれの製氷業者でつくられていて、製氷業者が異なっていてもクオリティは共通している。
これらの取組みは1店舗あたり初期投資が20万円ではじめたことであるが、現状の営業ペースで8月度は4店舗で1,000万円の売上が想定されている。ランニングコストとしては「かき氷の原価」「人件費」ということから4店舗で300万円の利益を見込んでいるという。
同社としてはこのノウハウを「日本唯一無二のかき氷専門店チェーン」の構想につなげたい構えだ。さらに、この間培ったノウハウを生かし「かき氷専門店」のライセンス販売を展開していきたい意向。労働負荷が低いことから、居酒屋営業店舗の新しい働き方として提案していきたいとしている。
コロナ禍の渦中で進むさまざまなチャレンジ
さて、KUURAKUではこのコロナ禍にあって「かき氷専門店」以外にもさまざまなチャレンジを行っている。
まず、この3月から「KUURAKU GROUP公式アプリ」を設けて利用者にたくさんの特典や利便性を付与している。この利用者は6月末に4,600人を超えて、急速に増えて続けている。
DX(Digtal Transformation/ITの浸透を活用する)としてEC(通信販売)を新規に事業化、さらにモバイルオーダー、キャッシュレス決済、デリバリーサービス、Googleマイビジネスを活用するようになった。
ECでは、同社の高級店である比内鶏専門店「銀座かしわ」で、冷凍の親子丼セット、つくねなどのミールキットの拡販に努めている。
キャッシュレス決済ではアジア系の100種のペイメントシステムに対応できる「Take Me Pay」を導入し、最終的には世界1,000種のペイメントシステムに対応できるようにする。
さらにオーダーしてから決済するまでをこなすオーダリングシステムの「Take Me Order」を導入してデリバリーで活用していく予定だ。
また、新規事業として「キッチンカー」をはじめた。キッチンカーでお客さまにより近づくことによって、お客さまとの会話から生まれる発想などを取り入れ、次のビジネスにつなげていきたいとしている。現状は取引先である精肉工場の敷地内と都内のオフィスビル街で販売している。今後はホームセンターと提携するなどして、販売場所を確保していく計画だ。
当然ながら、このコロナ禍の渦中にチャレンジを重ねているのはKUURAKUに限ったことではない。飲食業界では、いずれ近いうちに「コロナ禍の中でどのようなことをしていたか」ということの成果が如実に表れることになるであろう。