フードビジネス・アップデート

同じキッチンが5つ、5人のシェフが120席を共有

第10回シェフ5人、人気投票で入れ替え。シェフのためのコワーキングスペース

食マーケティング総合企業の株式会社favy(ファビー/本社:東京都新宿区、代表:高梨巧)は2019年1月17日、東京・銀座4丁目に“シェフのためのコワーキングスペース”をうたう「re:Dine」(以下、リダイン)をオープン。その独特なシステムのもと5人の腕利きシェフがしのぎを削る。”業界の仕掛人”的に次々に新機軸を打ち出す同社が始めた新しい食の世界を見てみよう。

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飲食店独立開業の課題を解決する

新築ビルの9階にある同店は、エレベーターが開くと縦長に開放的な空間が広がる。店舗規模は約120坪で店内には同じスペックのキッチンが5つ設けられ、それぞれのキッチンでシェフが料理をつくり約120席の客席を共有する。

シェフが独立開業するに際しての課題は多い。それは、「開業資金が乏しい」「スタッフの採用ができるか不安」「プロモーションが不慣れ」「ちゃんと売上が取れるのか不安」ということだ。リダインではこれらを解決し、参加するシェフにとってのメリットを整えた。

縦長の店舗空間に約120席が配されている。ホールスタッフはfavyが雇用している
おしゃれなインテリア、落ち着いた雰囲気の店内

参加に際しては、初期費用20万円、月利用料5万円(平日限定者)、そして売上の45%をfavyに支払う。「これは一般的な開業費用の20分の1に相当する」(favy調べ)。シェフには売上の55%が手元に入るが、これは「一般的に飲食店の原価は3035%、人件費2025%ということから割り出した」(同社取締役、米山健一郎氏)ものだ。

フロアスタッフはfavyで雇用し、その人件費や施設の維持・管理費やプロモーション費用等をfavyが賄う。いきなり一等地である銀座で仕事ができて、銀座に集まる人を顧客にすることができる。他のシェフとキッチンが隣り合わせで料理を切磋琢磨することになり、交流を深めることができる。開業を望むシェフには魅力たっぷりのシステムだ。

厨房の中には同じスペックのキッチンが5つ設けられている

お客様の人気投票によって最下位が入れ替わる

このようなメリットの一方で、シェフはお客様の人気投票で入れ替わるという厳しさもある。お客様が食事を終えて店を出る時に、iPad上の投票パネルにタッチして、さらにシェフごとの売上を加味し、3カ月単位で集計して、その段階で最下位になった人は参加を待つシェフと入れ替わるというものだ。

売上上位のシェフはリダインに居続けることも可能だが、「ここでの出店は腕試しという感覚で、ここでファンのお客様がついたのであれば、街中に出店したほうがメリットがあるのではないか」と米山氏は語る。

シェフが市中への出店を検討する際にはfavyが支援を行う。それは物件や仕入先の紹介、スタッフ教育など店舗経営ノウハウ、favyのグルメサイトでのプロモーション等だ。

ここに参加するシェフは昨年9月よりfavyのホームページで「独立・起業を目指している人」「既に独立済だが、新たなメニューや業態を試したい人」「向上心のある次世代の料理人」「過去に飲食店を営んでいたが、撤退してしまった人」を条件として一般公募された。応募のあった約140人のうち書類等の整っていた約30人に絞り、favy担当者によるメニューの試食審査などを行い参加者を決定した。

コンセプトが明快で高度に専門的なシェフが揃う

今回参加することができたシェフは以下の通り。

・関口彬氏(週末限定)/和の調理法を中心においしい楽しめる料理を提供。カフェ、フレンチ、和食などの経験を持ち、同時に大手料理教室で料理撮影やメニュー監修を担当。

・高山仁志氏(平日限定)/“Play foodEat happiness!をコンセプトとし、東北の食材をメインにしたモダンフレンチ。

・高島朋晃氏(平日限定)/東京・駒沢でスープカレーの店「パッション」を経営。一度食べたらやみつになるカレーづくりを心掛ける。

・谷口健太郎(平日限定)/東京の有名店や星付きのフレンチで修業を重ね、基礎を大切にしたフレンチを提供。

・松山喬洋氏(平日限定)/食×CSR事業で企画開発ディレクション、コンサルティングを展開。おいしい明日のためにをコンセプトに他では食べることのできない料理を提供。

・山口弘氏(週末限定)/アグー唯一の純血種である沖縄の今帰仁(なきじん)アグーや長期肥育の天城黒豚を中心にさまざまな肉料理を提供。

この他、favyから、ラーメン「favy Kitchen」、ソフトクリーム「coisof」が出店した。リダインの入り口近くにはバーカウンターがあり、アルコールを楽しむこともできる。

各シェフ、商品の価格レンジが広いが客単価は「大体4,000円程度ではないか」と米山氏は推察する。

バーカウンターにバーテンダーが常駐している

これまでの外食にはないメニューの楽しみ方ができる

このように、コンセプトが明快なシェフと特徴のはっきりとしたメニューが揃った。

各自のラインアップから、お客様はこれまでの外食にはない楽しさを体験することができる。

まず、食事をするメニューを一人のシェフにこだわることなく、シェフをまたいで一度にジャンルの異なるメニューを食べることができる。そして、リダインに来店するたびに前回と異なるシェフのメニューを体験していいし、またお気に入りのシェフのメニューを食べ続けても構わない。

いずれにしろリダインを出る時にお気に入りのシェフに投票することになり、この投票の数によって、お気に入りのシェフをリダインに継続して参加させることになる。

また、リダインでは完全キャッシュレス化を行う。支払いの際にクレジットカードや電子マネー、QRコード決済に加え、今後は独自の決済システムも導入予定で、先進的な飲食店の機能を切り拓いていくという。

リダインの店舗展開については未定だが、「お客様がたくさん集まる大きな都会であれば出店する可能性はあるのでは」(米山氏)という。

フードサービスと顧客の新しい関係性を創造

favyはデジタルマーケティングの専門家と食の専門家が集まる集団で「飲食店が簡単に潰れない世界を創る」ことをビジョンとしている。事業内容は主にグルメサイトの運営やホームページ作成のサポートを行っている。

201610月にコーヒースタンドの「coffee mafia」(コーヒーマフィア)をオープンし(東京・西新宿)フードサービス業界にあってコーヒーの「定額制サービス」に先鞭を付けた。

その後、東京・飯田橋にも出店し、昨年718日から831日まで「100円ビール」のテスト販売を行った。

また完全会員制で完全予約制の料理店「29ON」(ニクオン)西新宿、池袋、代官山、表参道と4店舗展開しているが、この仕組みによって原価率50%を掛けたコースメニューを提供し、会員以外にその詳しい所在地を公開しないというユニークな営業を行っている。

favyが試みている飲食業の営業方法はフードサービスの提供者と顧客の関係性についてこれまでの常識にない新しい発想がある。飲食業はリピーターの争奪戦が熾烈になっていくことであろうが、同社には、顧客満足とともに同社のビジョンである「飲食店が簡単に潰れない世界を創る」という意欲が感じられる。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。