フードビジネス・アップデート

激安業態ながら客単価2,000円で利益体質を維持

第11回ハイボール50円、飲み放題付宴会2,000円から!圧倒的「激安」アピールでFC展開加速する「鶏ヤロー」

「最近の若者は酒を飲まなくなった」という。確かに大局的に見ればそうだろう。とは言え、居酒屋の存在意義となると話は異なる。若者にとっては語らう場所が必要だからだ。そこで、学生街には居酒屋が不可欠となっている。これらの店はクオリティが高いことではなく低価格であることが重要となる。この市場の中に、圧倒的「激安」のチェーンが登場し勢いを増している。

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背水の陣でドリンクの「激安」に挑む

激安チェーンとして今注目されているのが、「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー」(「鮭ヤロー」もある。以下、鶏ヤローと表記)。展開しているのは株式会社遊ダイニングプロジェクト(本社/千葉県流山市、代表/和田成司)。創業した2009年10月に会社を設立し、今年5月には直営10店舗、FC・業務委託など14店舗、計24店舗の陣容が見えている。鶏ヤローの1号店は東武スカイツリーラインの獨協大学前で、同じ沿線の北越谷、草加、竹ノ塚、北千住という具合に東武線沿線が目立つが、西千葉、武蔵境など広域に及んでいる。

看板の表示は「激安」のオンパレードだ。「角ハイボール50円」「生ビール280円」「ドリンク全品99円」「宴会コース(3時間飲み放題付き)2000円」……。「これで利益が出るのだろうか?」というのが率直な疑問である。

飲み放題のメニュー

同社代表取締役社長の和田成司氏は1982年12月生まれ、千葉県野田市で育つ。
飲食業に進むことになったのは、高校時代3年間焼肉店でアルバイトをしたことがきっかけだ。高校を卒業してから調理師専門学校に進み、卒業後は焼肉の会社に入り店長、管理職を務めた。2009年10月柏駅西口の雑居ビルに焼肉店を独立開業。「そこそこ繁盛した」(和田氏)幸先の良いスタートとなった。

2号店は東京・亀有に焼肉チェーンの居抜き物件に出店したが、店長に売上金を持ち逃げされるなど不運が続き3ヵ月で撤退した。

この失敗がきっかけとなり「居酒屋をやってみたい」と思うようになった。その理由は、「居酒屋の居抜き物件が多く、ロースターが必要ないから」であった。

そして、千葉・市川市に居酒屋の物件を見つけ初の居酒屋業態である「鮭ヤロー」をオープンする。「サーモンの刺し身」をメインにしたが、客数が低迷していたことで「30分299円飲み放題」を取り入れた。売上は巻き返したもの「前進も後退もできない状態であった」と和田氏は振り返る。

この時、かつて勤務していた焼肉の会社の社長に電話を入れ、自分の窮状を語り相談したところ、和田氏がある居酒屋を業務受託することになった。その店が松原団地(現・獨協大学前)にあり鶏ヤローの創業店舗となる。この街はベッドタウンであるが学生街でもある。

同店の近くには、低価格均一の焼鳥居酒屋チェーンの繁盛店があった。この時、パートナーと集客力をつけるための相談を重ねた。

「どうすれば店がお客様でパンパンとなるか」
「それはタダでしょう」

「タダでは損する」――ということで、「ハイボール50円」ということを打ち出した。

こうして徹底的に「激安」でいこうと考えた。周囲からは「低価格路線はおしまいだ」と言われたが、「低価格だとしても、客単価2,000円になればいい」ということを目標とした。
こうして鶏ヤローの原型がスタートした。2014年の2月4日のことである。

「食べ放題」に終了時間設定、経営数値を健全化

オープン初日は予想外にお客さんが詰めかけて対応できないと判断し、やむなくオープンしたばかりの6時に閉店。翌日から体制を整えてフルに稼働した。

特に人気を博したのは「唐揚げ食べ放題」(現在は行っていない)で、1日70kgの鶏肉を揚げていた。売上があったものの、当初の原価率は70%。FL(材料費+人件費を売上で割った比率)で100%となっていた。つまり儲けなしということだ。

ある日、満席営業中の夜8時ごろ、鶏肉がなくなったにもかかわらず、唐揚げの注文がどんどんやってきた。これにはたまらんと、唐揚げ担当の高齢の女性スタッフがフロアに出て「本日の唐揚げは終了です!」と叫んでしまった。

すると満席の学生たちから、「よっしゃー」という歓声と拍手が起きた。

その時、和田氏は「唐揚げ食べ放題に終了ということがあっていいのだ」と気付いたという。

その日以来、同店は頃合いをみて「唐揚げ食べ放題終了」を宣言するようになった。そして、これを定例化することによって、同店の原価率は30%に収まるようになっていった。

現在のフードメニューは、フライドポテト食べ放題(19時まで)199円、鶏の串が1本120~150円、298円(クイックメニューなど)、499円(サラダ、鉄板料理など)のプライスラインにしている。

フライドポテトは19時まで199円で食べ放題

このような価格構成で経営を健全に保っている理由はこうだ。

和田氏によると、一般的な売上構成比をフード70%(原価率50%)、ドリンク30%(原価率20%)と想定して、これを逆のフード30%(原価率20%)、ドリンク70%(原価率50%)にしているのだという。

また、お通し代380円が存在する。このお通しは店内で揚げるエビ煎餅、ないしは枝豆のどちらかを選んでもらう。エビ煎餅は食べ放題となっており、「鶏ヤロー」の名物となっている。いかにも“利益の基礎票”である。

鶏ヤローのお通しえびせんは食べ放題

若者・学生をターゲットに「激安」で応える

この松原団地(獨協大学前)の店で上手くいったことから、「大学のある駅」に注目するようになった。この後、千葉大学のある西千葉駅、文教大学のある北越谷、早稲田大学の正門横でも営業している。

FCは北越谷が始まりで、現在10店舗となっている。
FC加盟条件は、加盟金50円、ロイヤリティ毎月50円。食材は配送が同じルートであれば同じ業者から仕入れるようにしていて、そうでない場合は独自に仕入れてもらう。

一般的なものと比べると著しく低いが、これは「これまでのFCの条件ではハッピーになれない」と感じていたからだ。そして、本部と加盟店とは「教え合う」関係性であるべきだと考えている。

FCビジネスよる利益は、鶏ヤローはアルコールが大量に売れる業態であることから酒類メーカーや業者からの協賛金で上げている。「激安」の業態であるが、客単価2,000円弱となっている。フードとドリンクの原価のバランスに加えて利益体質が見事に整っている。

鶏ヤロー店内。お通しで食べ放題のえびせんは各テーブルに置いてある

このような鶏ヤローのユニークな売り方が評判を呼んで、FC加盟希望の会社が続々と増えており、2019年には20店舗の増加を想定している。客層ターゲットを若者・学生として、彼らの語らいの場としての満足度を「激安」によって向上させている、実に割り切った業態である。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。