フードビジネス・アップデート

7.64坪、30席、坪月商75万円。チェーンレストランの王道を行く。

第12回ビフテキ290円、大繁盛の激安肉バルがチェーン化を推進

「BEEF KITCHEN STAND」(以下、BKS)という肉バルが、2019年1月から首都圏を中心として加盟店募集を開始した。同店を展開するのは株式会社奴ダイニング(本社/東京都千代田区、代表取締役/松本丈志)で、同店7店舗の他、もつ焼き店などを展開している。同店はどのような店かというと、ずばり「ものすごく」安い。そして店は狭いが席の詰め方が上手い。筆者はこれらの店の幾つかを訪ねたが、フードサービスが多様化する中で、同店はチェーンレストランの王道を歩んでいるような印象を抱いた。

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坪当たり月商75万円、超繁盛店のなぜ?

BKSの各店はいずれも素晴らしく繁盛している。とりわけ最も坪効率の高い店は新橋店である。新橋駅前ビル1号館の地下1階にあり、7.64坪、30席、この広さで坪あたり月商は75万円となっている。売上で最も高いのは歌舞伎町店(20坪60席)で2018年12月に1,000万円という実績を持つ。

先に同店の特徴を「安い」と述べたが、具体的にはこうだ。A4見開きのメニューを開くと、左側の上に「MEAT 肉料理」という囲みがあり、「名物ビフテキ(50g)」290円、「オールビーフハンバーグステーキ(120g)」380円、「牛ハツのレアロースト」290円、「四元豚ポークステーキ」380円、「大山鶏のチキンステーキ」380円がラインアップされている。これらが同店のキラーコンテンツであることが伝わって来る。

それ以外は、「ALL100円」2品、「ALL110円」5品、「ALL130円」6品、「ALL150円」7品、「ALL199円」16品、「ALL290円」9品、「ALL380円」8品と、価格で分類されたものを含めて約60品目がラインアップされている。

アルコールは一般的な価格である。ハイボール、ビール、日本酒、ワイン、カクテル等々、大衆的なものをほとんど取り揃えていて、角ハイボール390円、プレミアムモルツ生399円、こぼれワイン(赤・白)390円となっている。

こうした価格構成で客単価2,200円になるというが、単品の価格から考えるとお客は肉も飲み物も複数メニューを楽しんでいると想像できる。リピーターにとってBKSのイメージは「どんなに飲み食いしても2,000円ちょっと」というものだろう。

フードメニューは60品目で380円が上限
メニューの左上にまとめられたキラーコンテンツ

研修を熱心に受講し業態づくりに目覚める

同社代表取締役の松本丈志氏は1978年10月生まれ。横浜市で飲食業を営む家で育ち、自然と将来飲食業を営むことを志すようになった。

高校卒業後に修業に出て、父が営む飲食店に入るが父と考え方が合わず、起業を志して2008年9月に創業の店をオープンした。

同店は和食ダイニングで、2010年11月にオープンした2号店ともに繁盛店となったが、街の雰囲気との違和感を抱いていた松本氏はもつ鍋の店に業態転換した。また、もつ鍋と同様少人数でオペレーションが可能なもつ焼の店をつくり、店舗展開を志していった。

5~6店舗の業容となった2013年当時、松本氏は経営に行き詰りを感じるようになった。ここから経営に関する勉強を熱心に行い、研修にも盛んに参加するようになる。この間に受けたMG(マネジメントゲーム)研修は、現在主力業態となっているBKSのアイデアをもたらした。

MG研修の中には「MQ会計」というものがある。これは「粗利を高める」という経営の考え方のこと。たとえば「売上を上げて経費を下げる」ということが一般的な経営のセオリーであるが、こうした考えの他にも「原価をかけて売価も上げて、お客様の数を減らして粗利をとる」という考え方や、「売価を下げて、原価が上がるけれども、お客様が増えることで粗利をとる」等々、経営に対する考え方が広がるという経験をした。

「ステーキ&ハンバーグ」に「大衆感」をもたらす

この当時に9坪の物件を獲得した。飲食業界のさまざまな先輩に「この物件で商売するためにFCに加盟したい」という相談を持ち掛けたところ、「狭い」ということから断れていた。

それなら、自分でこの物件を活かすことができる業態をつくろうと考え、店舗展開が可能と考えていた他のさまざまな業態を研究し、テーブルの高さや客席を詰め込むポイントなど、先輩のアドバイスを参考にしながらそれぞれの要素を取り入れて、2016年3月BKSの1号店である新杉田店がオープンした。

BKSは「最初からFC店舗展開を考えてつくった業態」(松本氏)という。そのために店づくりに「大衆」の感覚を意識した。

「焼鳥」を筆頭に、「串カツ」「餃子」など、店舗展開をしているところには、それが持つ「大衆感」があるということを考えていった。

そこで「ステーキ&ハンバーグ」に目を転じた時に、この業種はファミリーを想定した食事が中心の大型店がほとんであることと、これらをつまみにお酒を飲むというコンセプトの店がないことに気付いた。
そこで、メニューの軸を「洋風」として、「ステーキ&ハンバーグ」をメインに他のほとんどは大衆感のある肉バルとしてまとめ上げた。

BKSの一番の特徴は、前述の通りバラエティに富んだ商品の価格が著しく安いということだ。ここにMQ会計が活かされており、粗利ミックスによって粗利を生み出している。

具体的には、原価率80%のものがあれば10%の商品もある。「価格が低くても、全部の商品が黒字となる」(松本氏)という。

クオリティの安定感を追求し多店化に備える

BKSでは「ステーキ」を看板メニューに打ち出しており、初めて来店したグループ客がメニュー選びに悩んでいたり、「こちらの店のお薦めは?」と尋ねられた場合は、この左上の5品を全て食べていただくことを提案している。最初に肉料理の5品を食べてみることで、同店の低価格でバラエティに富んだメニューの楽しさを理解することになる。

「名物ビフテキ(50g)」290円について、グラム数に対しての価格の低さが際立っているが、実はこのボリュームは50gではなく「約80g」にしている。お客様は「50gだから290円」という安さの理由を納得するが、実際には予想した以上の満足感があり、それが記憶に刻まれる。

人気メニューの「名物ビフテキ(50g)」290円はそれ以上のボリューム

ステーキとハンバーグはオージーを使用。食味のクオリティが安定した仕入れルートをつくった。また、ビフテキのカット、ハンバーグの成形、その他の肉の調理は業者が行っている。

人気メニューのポテトサラダはPBを仕入れて、各店舗で野菜を加えるなどして完成させている。この他、ステーキのタレ、唐揚げソース、ピクルスの素、アヒージョソースなどPB商品を充実させていて、オペレーションはアルバイト中心で行うことができる。フードコスト34%、レイバーコスト22%を標準としている。

このようにローコストオペレーションの仕組みが整っているが、業態特性から立地は限定されると考え、当面は200店舗と想定している。直営店は年間23店舗のペースで出店する方針だが、FCに関してはこの2年間で25店舗を想定している。

松本氏は2023年に奴ダイニングを上場させることを目指している。それに向かった店舗展開は、「BKSを時代に合わせて変化させていきながら、例えばセブンイレブンやスターバックスのように、BKSのブランドを磨いていく」という。

お客様の記憶に刻まれるメニューをつくり上げ生産性の高い業態に育て、FC展開へと邁進する姿勢に、BKSはフードサービス業界の新勢力となる日が近いと筆者は感じた。

アパホテル秋葉原店では2月より土日祝日に13時から営業するということで18時までの間「ジンビームハイボール0円」のキャンペーンを行った

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。