今週の視点

職人(プロ客)の利便性向上が目的

第33回ネットで注文、55分以内に在庫を準備。カインズ資材館の「商品取り置き」サービス

オムニチャネルとは、ネット販売をすることではありません。ネットとリアルの購買データ、在庫データなどを一元管理し、「買物体験の質」を向上することです。今回は、プロ向け商品を「スマホで店頭在庫確認」→「スマホで注文」→「店舗受け取り」サービスを実験しているカインズの事例を紹介します。

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在庫が確認できる。仕事前に店に取りに行ける。

ホームセンター(HC)のカインズは、職人(プロ客)向けの商品を取り扱っている「資材館」の商品を対象に、スマホで注文→店舗取り置きサービス「55-DASHプロ」を、昨年12月から開始しました。当初は、鶴ヶ島店(埼玉県鶴ヶ島市)、新座店(埼玉県新座市)の2店舗で実験を開始し、順次店舗数を拡大していく予定です。

「55-DASHプロ」の導入目的は、職人(プロ客)の利便性向上です。プロ客は、カインズのオンラインショップで、仕事で使う道具・材料の在庫を事前に確認・注文します。カインズが55分以内に在庫商品を取り置きし、プロ客のスマホにショートメールや電話で「取り置き完了」の連絡が来ます。プロ客は仕事に行く前にカインズに商品を取りに行きます。「店に行ったが在庫がなかった」「店内で商品を探すのに時間がかかる」などの不満がなくなり、プロ客の利便性は大きく向上します。

Eメールではなくて、あえてショートメールや電話でプロ客に連絡します。会員登録のための入力手順をできるだけ簡単にするために、Eメールの登録は任意にし、電話番号を登録するだけで会員登録できるようにしました。

このサービスの最大のメリットは、資材館の約5万品目の在庫をプロ客が事前にネットで確認できることです。以前は、資材館の商品は、カインズのECサイト「カインズオンラインショップ」には登録されていない商品が大半でした。まず資材館の約5万品目の商品をカインズオンラインショップに登録しました。下の写真の「ECサイト」で商品を確認した後は、「在庫のある店舗を探す」をクリックして、必要な商品の理論在庫数を確認できます。在庫確認は、顧客だけでなくて、店員も見ることができます。

「来店したけど欠品していた」「10本必要なのに在庫が3本しかなかった」といった欠品ストレスは、顧客の最大の不満でしたが、それが解消されたことは顧客にとっての大きなメリットです。とくに、現場で必要な本数が揃わないと仕事にならないプロ客にとっては、在庫確認できるサービスは非常に便利だと思います。

今後の課題は、在庫確認したが必要在庫が不足していた場合の対応です。従来のオンラインショップでは、在庫が10個しかなければ、10個しか注文できませんでしたが、カインズのお取り置きサービスでは、在庫数量を上回る注文ができるようになっています。そして、不足分は、「〇月〇日なら取り寄せできます」と店舗から顧客に連絡して、商品を取り寄せます。ベンダーに注文するだけでなくて、他店在庫の店間移送などのサービスも考えられます。

プロ客が現場で使う道具と材料を現場に届けるサービスも

「55-DASHプロ」のカード会員であるプロ客の利便性を向上するためにカインズは、以下の5つの特典をECサイトで公開していたので紹介します。とくに「事前加工」「スピード配送」は、プロ客にとってはありがたいサービスですね。スピード配送を利用すると、プロ客はカインズに来店する必要がなく、必要な道具・材料が現場に直接届くサービスです。

◇「55-DASHプロ」カード会員限定の5つのサービス

  1. 55-DASH(スピード注文55分)
    店頭の商品をスマートフォンで簡単注文・取り置きできます。
    ご注文より55分以内にご準備致します。
  2. 事前加工、事前切り売り
    電材切り売り、木材カットなどの加工をスマートフォンでご注文できます。
    ご来店時にお待たせしない新サービスです。
  3. スピード修理
    本格的な修理工房を完備!エンジン工具を中心とした修理を承ります。
  4. スピード配送
    近隣エリアの現場、事務所へ、最短翌日配送致します。
    (配送料金につきましては、スタッフまでお問い合わせ下さい)
  5. 会員様限定価格
    いつもプロが使うものを、よりお求め安くをモットーに、限定価格商品をご用意

 

カインズは、プロ客向けの取り置きサービスからスタートし、徐々に一般向け商品の取り置きサービスも開始すると推測できます。たとえば、壁紙やカーペットなどの「切り売り商品」などは、事前に必要な長さを注文できれば、顧客の「買物時間の短縮」につながります。

※カインズと同じHC(ホームセンター)業態の「ホームデポ」(米国)もスマホアプリを活用した「買物体験の質」の向上に取り組んでいます。その事例は、この連載の第23回『自宅で「在庫」と「商品情報」を確認できる「ホームデポ」のオムニチャネルの凄さ』で紹介しています。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。