東京・自由が丘の和食店が「ヴィーガンレストラン世界一」の快挙

日本で1,000人規模の国際会議があれば、用意する食事の25%がベジタリアン用、15%がハラール(イスラム教徒用)、5%がグルテンフリー(小麦粉不使用)だという、国際化と同時に食の多様化も進んでいる。ベジタリアンの中でも卵や牛乳さえ口にしない絶対菜食主義者はヴィーガンと呼ばれその数は増えている。今回はヴィーガン専用で世界一に輝いたレストランを紹介する。

世界の中で最もメジャーな食のジャンルは「ベジタリアン」

筆者は6年前にフードサービス分野の記者として独立したのだが、もう一つの専門分野として2013年当時に話題になり始めた「インバウンド」にも取り組むことを心掛けて記者活動を行ってきた。そこで遭遇したのは「フードダイバーシティ」であった。

これは「食の多様性」という意味である。世界には食習慣、宗教、健康上の理由によって特徴的な食品や、食べられない食品がある人が存在していて、これらの違いを尊重し受け入れるための環境整備を行うということだ。

この分野で最初に出合ったのが「ハラール」だ。イスラム教徒の戒律で「許された」という意味で、具体的には「豚肉、アルコールを使用しない」ということだ。さらに、小麦製品を摂取しない「グルテンフリー」が存在すること、またフードダイバーシティの中で最もメジャーなのは「ベジタリアン」であることも知った。

「ベジタリアン」の存在は、筆者が社会人になりたての三十数年前に日本に紹介された。2000年に入り、アメリカのセレブに絶対菜食主義である「ヴィーガン」が増えてきているということを知り、どうすればそんな菜食主義者になるものかと思っていたものだが、いつの間にか筆者はベジタリアンであってたまに肉食をする「ノンベジタリアン」になっていた。筆者がこのようになった背景を詳しく説明すると長くなるが、簡単に言うと肉食を慎むきっかけとなった健康上の危機を経験したからだ。

筆者は肉食を(ほとんど)しなくなったとはいえ、食生活にはまったく困っていない。外食評論を仕事としているが、チェーンレストランであってもフードダイバーシティを意識しているところが散見されてきて(アレルゲン情報など)、魅力的なベジタリアン、ヴィーガンのレストランは日増しに増えてきている。

筆者がハラールの取材をするようになった2015年当時は、ムスリム(イスラム教徒)のインバウンドが日本で食事をすることに困っていたが、今日はその不便はどんどん改善され、「おいしいハラールレストラン」が選べる状態になっている。

筆者は20189月に、ホテル内の全てのレストランがベジタリアン対応を整えたというヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルのベジタリアン試食会を訪れる機会があった。そこで同社の総料理長である齋藤悦夫氏がこう述べていた。

1000人規模の国際会議があると、25%がベジタリアン、15%がハラール、5%がグルテンフリーとなる。そこで、メニューづくりはベジタリアンを中心に考えると、さまざまな人が一緒に食事をすることができるようになる」

つまり、「ベジタリアン」をメニューの基軸に位置付けるとフードダイバーシティは解決されるということだ。

ハラール対応からフードダイバーシティに挑戦

前振りが長くなったが、ここから本題である。

今日、世界中の人が旅行を楽しむときに「TripAdviser」をのぞいているが、これと同じような感覚で、世界中のベジタリアンとヴィーガンが旅行先のベジタリアンとヴィーガン事情を把握する情報サイトに「Happy Cow」(ハッピーカウ)がある。世界中のベジタリアンとヴィーガンがこれらに関連した情報を寄せている。

このハッピーカウで東京・自由が丘の「菜道(さいどう)」というヴィーガンレストランが世界第1位となった。20191110日のことである。同店がオープンしたのは20189月で、ハッピーカウのランキングには20196月から登場するようになり、同店のことを注目してきた人にとって第1位の獲得は「なるべくしてなった」という感慨を抱いているようだ。

ヴィーガンレストランには「シンプル」が似合うことを実感する

このランキングは実際に訪問して食事をした結果に基づくものであるから、世界中のベジタリアンとヴィーガンが「自由が丘」という交通アクセスが決して至便と言えない場所にわざわざ足を運んでいるということだ。

ちなみに上位にランクインしている国と都市は、2位ギリシア・アテネ、3位ドイツ・ベルリン、4位スペイン・バルセロナ、5位ベトナム・ホイアンと続いている。

同店をヴィーガンレストラン世界一に導いたのは同店の料理監修をしている楠本勝三氏である。

楠本氏は19756月生まれ。大阪の調理師専門学校を卒業後、フランス料理店に就職。2010年東京・西麻布の会員制のレストランで料理長となった。会員制ということで接待需要が多かった。2015年の当時、会員から「これからムスリム(イスラム教徒)の人を接待することが増えるので、ハラールのことを勉強してほしい」と言われるようになった。

このとき、楠本氏は初めてフードダイバーシティのことを知り、それにかなうように一生懸命に取り組んだ。このような楠本氏の姿勢と実績が評判となり、「ヴィーガンができるか」「コーシャ(ユダヤ教徒対応)ができるか」と尋ねられることが増えて、グルテンフリー、アレルギー対応などの問い合わせも受けるようになった。

「映え」も考慮されたヴィーガン料理の数々

「和食」がグローバルに向けてさらに前進

「菜道」を経営するのは株式会社和食社中(本社/東京都港区、代表/大槻昌弘)である。株式会社Funfairというベンチャーと、株式会社交洋という商社によって設立された。

Funfairは「日本が誇る食文化を通じて世界に笑顔を届ける」ことをミッションとしていて、フードダイバーシティに先見的に取り組んで実績を挙げてきている。

その端緒となるのは「Samurai Ramen UMAMI」(以下、サムライラーメン)というインスタントラーメンを日本にやってくるムスリム向けの土産品として開発したことだ。これは2014年当時のことで、「NO MSG」「アルコール不使用」「ヴィーガンレシピ」であることをうたっている。以前はムスリムのインバウンドが集まるショップに置かれていたが、この3つのポイントが欧米系のインバウンドにも受け入れられるようになった。

その後、海外で店舗展開するようになり、20176月、マレーシア・ジョホーバルにあるマレーシア最大規模のイオンモールに初の実店舗である「Samurai Ramen UMAMI Restaurant」をオープンした。東南アジアをはじめとした海外では店舗展開とともに「世界の誰もが食べられるラーメン」を旗頭として、「ラーメンと和食」のマーケットを開拓していく意向だ。

「サムライラーメン」は2014年にムスリム向けのお土産品として開発された
マレーシアの店ではラーメンにとどまらず「和食」メニューを増やしている

このような経験値が背景にありヴィーガンレストラン「菜道」が誕生した。ハッピーカウによる「世界第1位」のブランドは、今後の海外出店や販路を開拓していく上で大きな力を発揮していくことであろう。

前段で、「ベジタリアンはフードダイバーシティを解決する」と述べたが、これは世界中の食のマーケットを対象にできることを意味する。「ミシュランの星付きのことで一喜一憂するグルメの世界は、世界の食のマーケットの半分に過ぎない」というのは言い過ぎであろうが、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された(201312月)ことに加えて、日本の食がグローバルに向けてさらに一歩進展した。

「里山資本主義」の発想から誕生した地域連携型のファミレス「里山トランジット」

「里山資本主義」とはお金の循環ですべてが成り立つ「マネー資本主義」に対して、お金だけに依存しない社会システムを目指すもの。食料、水、燃料などの必需品を人間の居住エリアに近く気軽に立ち入れる「里山(さとやま)」から、人のネットワークを活用して調達するという発想に基づく。この考えを取り込み千葉市で営業するファミレスの事例を紹介しよう。

まちづくりプロデュースでユニークな事業を展開するミナデイン

前回の筆者の記事「飲食店のセレクトショップ増加中」の事例3本目に東京・新橋の「烏森百薬」のことを紹介した。同店は株式会社ミナデイン(本社/東京都港区、代表/大久保伸隆)の経営で、「塚田農場」を展開するエー・ピーカンパニーで副社長を務めた大久保伸隆氏が2018年6月に独立。フードサービス業が抱えてきた課題を解決することを志して8月にオープンしたものだ。

その志は「烏森百薬」で具現化。フードメニューの約25品目の8割に他社の有力商品を導入、2階のスペースを16席の貸し切りに、ドリンクをお客さまに作ってもらう…などの試みによって店の生産性を高めようとしている。

結果、従業員がお客さまに接する時間が増え、会話が巧みでスマイルが豊かで実に居心地のよい空間となった。FC加盟を希望する要望も増えて、2019年12月にその1号店が千葉市内にオープンした。

今回はこのミナデインが手掛けるもう一つの分野、「まちづくりプロデュース」のことについて紹介しよう。

ミナデインの事業内容は、①直営飲食店(固定観念にとらわれないコンセプト、生産性を高めるオペレーション、業界の課題を解決するビジネスモデル)、②まちづくりプロデュース(地域に眠る資源の発掘・再定義、当事者意識を持つ参加型まちづくり、さらなる魅力がつく付加価値の提供)、③FC&コンサルティング(飲食店出店のトータルサポート、独立希望者のアイデアを形に、ネットワークによる優良物件の紹介)となっている。前回紹介した「烏森百薬」はこれらの①を具現化したものだ。

持続可能な「ニュータウン開発」に賛同する

ミナデインが直営飲食店の展開と同時に進めているが、前述の②にある「まちづくりプロデュース」である。この端緒となったのは千葉・ユーカリが丘に2018年12月にオープンしたレストラン「里山transit」(以下、里山トランジット)である。

この構想は、大久保氏が独立してから藻谷浩介氏の対話集『しなやかな日本列島のつくり方』を読み、この中に出てくるデベロッパーの山万株式会社(本社/東京都中央区、代表/嶋田哲夫)が取り組む「ユーカリが丘ニュータウン開発」に感銘を受けたことがきっかけとなった。

藻谷氏は「里山資本主義」の提唱者で、この考え方に基づいてこの本はまとめられている。

「里山資本主義」とはざっくりと述べると、日本から遠く離れた国から資源を輸入するのではなく、日本の各地域にある資源を活用して、地元で生活している人たちの質を向上させる、という考え方である。

山万による「ユーカリが丘ニュータウン開発」が着手されたのは1971年のこと。計画的に持続可能な「里山」を目指して、8,000世帯分の土地を40年間かけて年間200世帯ずつ販売してきた。街の人口は2万人、イオンやスーパーマーケット、映画館などもあり、周辺人口を含めると10万人が集まる。

大久保氏はこの街で、子供からお年寄りまで楽しむことができる地元密着のファミリーレストランの要素を持ち、地元の資源を還元する店をつくろうと考えた。店名は、地元の資源を活かすということで「里山」、モノやヒトの中継点を目指して「トランジット」とした。

千葉・ユーカリが丘地区の人口は2万人、周辺からの来訪者を含めると商圏10万人となる

店舗はスケルトンから設計し、さまざまな年齢層と利用動機を想定して60坪90席のゾーニングは多様にした。店内奥の大きな窓の席はお子さま連れのファミリーを想定した掘りこたつ、その手前に大理石を使用したカフェ的なスペース、店舗入り口近くは円形のカウンターテーブルで一人客がふらりと立ち寄れる感覚。12人を収容できる個室もある。

商品コンセプトは「何屋」ということを限定しない。「和洋折衷でゼロ歳から100歳までを満足させる」(大久保氏)という構成になっている。

「里山transit」のエントランス。スケルトンから店づくりを行った
オープン当初は「総選挙」の名目でアンケートでメニューを取り入れていた

地元農家や市民農家と連携するコミュニティ

「里山トランジット」では、周辺の農家と連携して大久保氏が称する「持参地消」という取り組みを行っている。これは「里山」ならでは食材調達に輸送コストをかけない取り組みで農家から週に2~3回野菜を持ってきてもらう。農家からは季節ごとの播種(はしゅ)計画をあらかじめ受け取り、それに基づいてメニューを開発している。このようなサイクルが見えてきたことから、来年からは店が必要とする野菜の生産をお願いしていきたいと考えている。

また、同じエリアにはプロの農家ではないがリタイアしてから市民農園で野菜をつくっている人々が多くいる。ここではプロの農家と異なり農産物が一気にでき過ぎてしまうこともある。そこで自分たちで食べきれない場合は、人にあげるか、それでも余る場合は捨てることになる。

そこで考えたのが「里山リサイクル」という取り組みで2019年の5月から行っている。「里山トランジット」が市民農園の脇にかごを置いて、不要な野菜を入れてもらう。筆者がリサーチで伺った時には取れ過ぎたコリンキー(カボチャ品種)が店内の入り口近くに置かれ、それで料理をつくるレシピも用意されていた。それを食べてみたいと思ったお客さまが自由に持っていくという仕組みである。ゆくゆくはこれらの野菜を総菜や加工品にして、来店したお客さまに無料で持って行ってもらうということも検討している。

「ビジネスをもって地域社会に貢献する」という言い方があるが、同店はユーカリが丘のコミュニティのハブとしての役割が定着しつつある。

エントランス近くは円形のカウンター席で一人客でもふらりと入ることができる
店舗奥の眺望がよいスペースは掘りごたつにしてファミリー対応
カトラリー、水などはセルフで行う

優秀な全国のFCオーナーと連合する構想

「里山トランジット」の展望について、大久保氏はこう語る。

「これは地域に合わせたファミレスですが、これから1年間ほどかけてブランドとして完成させたい。優秀な全国のFCオーナーとの連合を強くしてそれぞれの人の部分は解決していく」

「立地に関して、都心では高級住宅街の近くということが見えている。地方の場合はFCオーナーが地域にどのようにコミットしているかが重要。このような人の地元でいい場所とはどのようなところになるかがポイントとなるでしょう。そこで、これからは人脈、人間関係をつくっていくことが大切です」

この談話に出てくる「優秀な全国のFCオーナー」とは、前述の「烏森百薬」のFCオーナーと同様に同じ志を持つ「同志的連合」のことだ。組織をヒエラルキーで考えるのではなく、それぞれが地域社会で持ちうる能力をリスペクトしあう関係である。

店舗では無理な調達やオペレーションを追求するのではなく、簡単な言葉で例えると、「楽しい飲食店をつくろう」という発想が息づいている。実に人間臭い世界であり、その現場にいると心が躍る。大久保氏がつくり上げようとしているフードサービスの世界に新しい潮流が生まれつつあることを感じる。

ミナデイン代表の大久保伸隆盛氏、東証一部上場の外食企業副社長から転身して新しいフードサービスにチャレンジしている

「有名店の人気メニューあります」。飲食店のセレクトショップ増加中

「セレクトショップ」という販売形態がある。これはアパレルショップが複数のブランドを仕入れて販売することだ。近年着実に増えてきている「飲食店のセレクトショップ」、三つのパターンを紹介する。

佐野ラーメンの名店日光軒の「ハラール餃子」

筆者が『飲食店経営』の編集長をしていた15年ごろ前の話、フリーのライターさんから「セレクトショップの飲食店」の企画を持ち込まれた。

当時の私は「飲食店が他の店の商品を売るなんてことはあり得ない」と思っていて、結局採用しなかった。飲食店にとっての生命線は料理のクオリティを磨くことではないか。それが看板商品となり、伝説となって、それにあやかろうとしてパクリが生まれる。飲食業とはそういうものだと思い込んでいた。

しかしながら近年「飲食店のセレクトショップ」は現実に増えてきている。ここではその3つのパターンを紹介したい。

まず、ハラール(イスラム教徒の戒律に基づくこと)がきっかけとなったもの。筆者は2013年ごろから急増する兆しにあったインバウンドの取材を継続するようになり、2015年ごろからハラール対応の取材が増えていった。

そこでラーメンで街おこしをしている栃木県佐野市のラーメン店でハラール対応を充実させていた「日光軒」の取材をした。JR佐野駅がある両毛線の沿線では工場団地が多く、その従業員としてイスラム教国の人々が多数居住していることから、「日光軒」では彼らに向けた商品開発をすることと、また日本在住のムスリム(イスラム教徒のこと)にとって、ハラール対応ができていることは目的来店につながるものと確信して、ハラール対応のラーメンと餃子を開発した。

するとにわかに知れ渡り、近隣のムスリムが来店するようになり、また佐野市近郊の商業施設で買物をして「日光軒」でラーメンと餃子を食べるといった〝ハラールツーリズム″が定着するようになった。

特に、ハラール屠畜をした鶏肉と食感をつくるために大きめに切ったキャベツを餡にした餃子が話題になった。世界に向けて日本の「ふるさと名物」を紹介する経済産業省の補助事業のウェブサイト「NIPPON QUEST」の第1回アワード(2016年3月)で、「日光軒のハラール餃子」が食部門でグランプリを受賞した(1,600品が出品)。

このことがハラール対応を行う全国の飲食店から注目されるようになり、「日光軒のハラール餃子」を「日光軒」から仕入れて、この商品名でラインアップする店が多数現れた。

肉はハラール屠畜をした鶏肉だが、キャベツで歯ごたえをつくっている
「日光軒」はラーメン店に転換する以前、カフェを営業していた

「金賞」のから揚げでライセンスビジネス

次に、日本の国民食である「から揚げ」から提案している事例。

この世界のアワードでは日本唐揚協会主催の「からあげグランプリ」が存在し、から揚げを扱う飲食店ではここで金賞を受賞していることをブランディングに活用している。

東京・新小岩のからあげバル「ハイカラ」はまさにその金賞受賞の常連で、2014年に初めて受賞して以来、2018年を除いて5回金賞を受賞している。運営は株式会社ハイカラ(本社/東京都葛飾区、代表/大野太陽)である。

その商品「ハイカラ名物 半身揚げ」880円(税別)は、その名の通り鶏の半身を揚げたもので、皮と肉が柔らかくふっくらとしてカレー粉の風味が食欲をそそる。この形状や味付けは「ハイカラ」の店主であり代表の大野太陽氏の故郷、新潟のソウルフードということだが、肉には同店オリジナルの下処理をして、衣となるシーズニングに味付けをしている。

大野氏は「ハイカラ」のチェーン化構想を抱くようになった。これは飲食店の展開にこだわらずに、半身揚げをテイクアウト専門店も含めて販売チャネルを広く想定している。現状、真空で冷凍する技術も出来上がっていることからネット上での販売も可能だ。

「全国のおいしいものをピックアップしてグランドメニューをつくり、仕込み時間を減らしたことで生まれた時間を接客に費やす。このようにセレクトショップとして腰を据えることによって、その存在感が際立ちます」(大野氏)

この構想通りに「ハイカラ名物 半身揚げ」を商品化している店が徐々に増えてきている。

この取組みは〝ライセンス″という新しい飲食のビジネスを切り開いていくものだ。それは、本部ががんじがらめに管理するのではなくライセンシーにとって自由度の高い世界である。

「ハイカラ」は東京・新小岩の住宅街の入り口にあり、客層の年代は30~70代
「ハイカラ名物 半身揚げ」880円(税別)は消費税が10%になったことからボリュームを10%増量したということがfacebookで話題になっている

コンセプトを磨くことが競争力となる

三つ目は、東京・新橋の烏森神社の参道に20189月にオープンした「烏森百薬」の事例。同店を経営するのは株式会社ミナデイン(本社/東京都港区、代表/大久保伸隆)。代表の大久保伸隆氏は「塚田農場」を展開するエー・ピーカンパニーの副社長を務めた人物だが、これまでのフードサービス業が抱えてきた課題を解決することを志して20186月に退任、最初の事業として同店を立ち上げた。

ここのディナータイムのメニューのうち25品は、大久保氏が厳選したお薦めのお店のものを、つくり手を明記して提供している。

このようなメニュー構成となったきっかけは、大久保氏が独立した当初、料理人がいなかったことである。

前職ではさまざまことを学び、課題として感じていたことがあった。それは、売上が上がると準備が増えて、仕込みも増える。売上が上がると経営者はうれしいが、現場にとっては大変なことで、これが労務問題につながっていく。この問題の根源は利益率の低さにある。それを解決するのが業界全体の課題であろう。

そして、大久保氏はこのようなことを考えるようになった。

「日本全国を食べ歩いていて、例えばから揚げの名店に行って、これに勝とうと思ったら果たして何年かかるだろうか。勝ったとしてお客さまは満足するだろうか。では、僕の持っているスキルを使ってお客さま満足を最大化できるコンセプトは何だろう」

そこで、音楽の世界のDJ、ファッション業界のセレクトショップの存在を思い出した。「僕が日本一と思う食べ物をそろえてキュレーション(情報を選んで集めて整理して新しい価値を付け加える)をすることができれば、お客さま満足度はそれなりに頂くことができるのではないか」

「烏森百薬」で使用する名品のメインは から揚げ、餃子、マグロ。ほか、魚系のおつまみは魚の卸売りの業者にある程度セレクトしてもらっているので、試食だけを行う。現在、料理人が入ってきたので自家製のものを5品くらいラインアップしている。

こうして、料理人は月替りメニューの開発やサービスを磨き上げることに余裕を持って取り組めるようになる。接客も余裕を持って行うことができて、従業員のトークと笑顔が充実するようになり、結果お客さまの満足度は向上する。

このような三つの事例をみていくと、これから「セレクトショップの飲食店」は一般的な業態として認められ、セレクトショップとしてのコンセプトを磨いて競争力をつけるという方向に進むのではないだろうか。

烏森百薬の「気軽に立ち寄る店」というコンセプトがメニューに現れている

法令順守、生産性優先、令和時代の優等生居酒屋「酒場フタマタ」

筆者は調理師専門学校で非常勤講師を務めている。講座名は「フードサービスマネジメント」、飲食店経営の在り方をロジカルに理解してもらうことを信条として授業を組み立てている。その一環として基本的な経営数値を教えているが、筆者が挙げる数値をケタ外れでクリアする居酒屋がある。今回は新時代のモデルにもなり得る「酒場フタマタ」を紹介しよう。

生産性重視、あえて高い売上を目指さない

筆者が学生たちに示している「飲食店の数字」基礎編の一部を紹介しよう。

・売上は「経費」90%以内と「利益」10%以上で構成される
・売上は「原価」30%あたりと「売上総利益」で構成される
・売上総利益のうち人件費はその50%以内が望ましい
・原価(Food cost)と人件費(Labor cost)を足した金額を「FLコスト」と呼び、60%以内が望ましい
・FLコストに家賃(Rent)を足した金額を「FLRコスト」と呼び、70%以内が望ましい

――あくまでも目安となる数字であるが、これらから大きく逸脱することは危険であると説いている。これらは「常識」として試験問題にも組み入れている。

しかしながら、「FLコスト45%」をコンセプトとしている飲食企業が存在する。それは株式会社ゴールデンマジック(本社/東京都港区、代表/山本勇太、以下GM)、株式会社DDホールディングスの事業会社である。同社では2019年8月2日に新業態「博多かわ串・高知餃子 酒場フタマタ」(以下、酒場フタマタ)をオープンしたが、このFLコストを順守していくという。

FとLの内訳はF20%、L25%ということだ。1号店の新橋店は20坪で55席を構成、大衆居酒屋の席数は坪数の2倍とするのが一般的だが、ここにも席数を稼ぎ出す知恵が存在している。

この業態は3店舗で社員4人体制のユニットを構成し、それぞれの法令順守の勤務時間と休日を確保していくという。1号店は日商30万円程度。これからの標準店は月商500万円あたりで利益率17~18%を想定している。

1号店の動向をみると想定月商のレベルを引き上げてもよいのではないかと思うが、GM代表の山本勇太氏の談話では「売上が高くなると人員を増やす必要性があるから、この水準がベスト」という。FLコストが「望ましい」とされる「60%以下」よりはるかに低い45%としているのはなぜか。それはずばり、生産性のバランスを考慮し、高い家賃を吸収する一方で高い利益率を確保するためである。

FLコストを下げて都心の歓楽街で展開

DDホールディングスの代表、松村厚久氏は創業したダイヤモンドダイニングで飲食店の展開を開始した当初(2001年)「エンタメ(=エンターテインメント)」を強烈に打ち出した。1号店のテーマは「吸血鬼」、その後「不思議の国のアリス」や「かぐや姫」といったテーマ性の高い飲食店を展開していった。

銀座や新宿といった家賃の都心の歓楽街に出店し、従業員のコスチュームにもコストをかけることから客単価3,5004,000円のレベルでFLコストは50%としていた。店のコンセプトもさることながら、「飲食店の数字」もこれまでのフードサービスにはないものであった。

筆者は松村氏に何度もインタビューをしていて、かねがね松村氏は「銀座、新宿の一等地で経営するための高い家賃は広告宣伝費と理解している」と述べていた。このような割り切り方がショービジネス的な要素が加わった二つとない個性的な企業文化をつくり上げてきた。

さて、GM代表の山本氏は松村氏がその経営手腕に期待を寄せている人物である。GMはリーマンショック後の20095月にDDの子会社として設立、DDグループプロパーの山本氏を代表に据えた。当時豊富にあった居抜き物件を活用して「5年間で100店舗」をミッションとして邁進してきた(実際には100店舗に7年を要した)。

このようにダイヤモンドダイニングをはじめとするDDグループの展開力はFLコストを抑えていることに起因していると思われる。

仕込み時間を軽減し作業を簡略化

「酒場フタマタ」の商品構成を見ていこう。この店名の頭に「博多かわ串・高知餃子」とある。この二つはどちらもご当地居酒屋の代表的な商品だ。このキラーコンテンツを一つの店が併せ持っているから「フタマタ(二股)」という店名となった。

メニューの一つ、博多かわ串はフィリピンの協力工場で多くの課題をクリアし仕込んでおり、現地でひと串に50g弱の鶏皮を刺して5回焼き、冷凍で輸入し店舗に配送、オーダーがあってから焼いている。このような工程を経て鶏皮を串にさした段階から串の重さは3分の1の115gとなっているが、旨味が濃く香ばしい商品に仕上がっている。1170円(税込、以下同)、10本の場合1,650円となっている。

 高知餃子は専用の餃子製造マシンを導入し、オーダーがあってからこのマシンによって薄皮で包み、従業員がフライパンで蒸して焼き上げる。商品は「高知餃子」450円、「トリュフ餃子」550円となっている。ランチタイムも営業して客単価は2,800円である。

「昭和」を感じさせる店頭のサンプルケース
二つのキラーコンテンツの他にも変化に富んだ一品メニューをそろえる

 店の正面奥にガラス張りのオープンキッチンがあるが、この中の人員が多い。博多かわ串の指導も行われている。おそらく次の出店が間近に控えているのであろう。

 GMではこれまでも「都心から離れた立地」「20坪」「客単価3,000円アンダー」という条件でいくつか業態開発を行ってきたが、軌道に乗らなかったという経緯がある。その要因は「仕込み段階の作業が重かった」(山本氏)という反省がある。上記の通り、フタマタでは過去経験してきたことを解消している。

GMが新業態のフォーマットに「20坪」という規模を当てはめたことは今日の都心の物件事情も起因する。理由はそれよりも広い物件を望んでも物件が出てこないという。

ちなみに同社のメイン業態は「熱中屋」というサバをメインとした居酒屋である。標準店は30坪で、家賃比率を下げるために地下ないしは2階で営業する。これで客単価4,000円となっている。GMの総店舗数は約100でうち熱中屋は70となっているが、これから都心で展開を図る場合は30坪ではなく「20坪」のしばりが求められる。

そして、より日常的な使い勝手を想定するために客単価は3,000円を切る必要がある。労働時間も休日も法令順守の時代である。これらの要素をクリアするべく誕生したのが「酒場フタマタ」、新時代の大衆居酒屋なのである。新業態出店を計画している飲食企業各社が徹底的にリサーチをしていることであろう。

人気急上昇! BYOに特化した第3世代のグルメサイト

飲食店に「BYO」というルールがあることをご存じだろうか。これは「Bring Your Own(wine)」の略称で、飲食店にワインを持ち込み、お店の料理と一緒に楽しむことだ。もともと、オーストラリアで酒類の販売ライセンスを持たない飲食店が始めたドリンクスタイルである。今回はBYOに特化したグルメサイトを紹介する。

ワイン持ち込みのメリット、デメリット

海外の酒類販売ライセンスを持たない飲食店の付近には必ず酒販店があり、飲食店の従業員がその店のことを教えてくれて、お客さまはそこでワインを購入し持ち込む。これが日本で普及したのは近年で、今日では持ち込み料として一般的にボトル1本あたり500円~3,000円を店に支払う。飲食店はワイングラス、オープナー、クーラーを提供。また、抜栓、デキャンタ―ジュのサービスを行う場合もある。

BYOが普及しているのは、「自分の好きなワインを飲食店で飲みたい」というお客さまがいるからに他ならないが、これに対して飲食店がBYOを行うメリットはどのようなものが挙げられるだろうか。

まず、ワイン好きの新規客を取り入れリピーターにできる可能性がある。店が酒販店にワインを発注したり在庫管理を行う必要がない。ストックスペースの確保が不要。ソムリエを雇用しないなどスタッフを省力化できる。持ち込み料金がそのまま利益となるなど。

飲食店の稼働対策に結び付けるとすれば、オフィス街の飲食店がワイン会の開催を例えば「BYO無料」でアピールしたり、ハッピーアワーやハッピーデーの中に取り入れるということも考えられる。

このように飲食店はBYOによって新規客を取り込み収益対策に活用することができる。

しかしながら、BYOに対して飲食店が懸念する要素もある。

まず、飲食店にとって飲料は利益を生み出しやすいものに関わらず、「持ち込み無料」にしてしまうと、この部分の利益がなくなる。飲料を持ち込むことによって「安く飲もう」という輩がいて店の「格」が崩れる。今日高級レストランでは「持ち込み料4,000円」を表示しているところが散見されるが、このような意図が背景にあるのではないか。

百貨店ワイン売場がお客さまの声を反映

このような環境の中で、今BYOに特化したグルメサイトが人気を博している。

それは201811月に立ち上がった「Winomy(ワイノミ)」で、加盟店は200店舗を超えた。

ワイノミを運営管理しているは株式会社阪急阪神百貨店のフード販売統括部フード外販部で、「BYO事業」が立ち上がったのは20184月のことだ。

先にビオワイン(有機栽培ブドウ使用のワイン)のインポーターの「マヴィ」(ナチュラレッサ麻布)が「BYO Club」というwebサイトを運営管理しており、20187月に阪急阪神百貨店がそれを譲受して同年11月にワイノミをスタートした。

同社フード外販部マネージャーBYO事業担当の井上梓氏は、ワイノミが立ち上がった背景として「百貨店ワイン売場でのお客さまからの声を反映したもの」と語る。

「好きなワインを気軽に飲食店に持ち込みたいが、断られるかもしれないし、電話で話をするのは緊張する」「いただきもので高級ワインがあるが、家で一人で飲むのは寂しい。どうせならプロの料理で飲みたい」……。

 このようにワインの持ち込みをめぐってお客さまが飲食店で食事をすることに躊躇しているということは、「ワイン好きのお客さまを囲い込む機会を失っているのではないか」という発想に至った。

ワイノミに掲載される店舗情報の基本は「BYOのサービス内容」「1本または1人当たりの盛り込み料金などBYOの条件」であるが、さらに「お客さまによる持ち寄りワイン会」「インポーターコラボイベント」「メーカーズディナー」「ワイン飲み比べイベント」など、イベント情報を掲載することによってレストランの魅力をアピールすることもできる。

これらの情報は日増しに増えており、ワイノミの中に一つのコミュニティができ上がっていく気配がある。

加盟するための料金はベーシックプランで月額1万円(ほか、エントリープラン5,000円、プレミアムプラン2万円)となっている。

winomy内特集 持ち寄りワイン会におすすめの店やプランを紹介

 

サイト内ではECも行っている。注文したら店に届けるサービスもあり

グルメサイトが総合型から専門化へ進む

ここで簡単にグルメサイトの変遷を見てみよう。

この先駆けは「ぐるなび」であるが、この母体である交通広告を扱うエヌケービーが同事業を立ち上げたのは19966月のこと。消費者の利用目的にかなった飲食店をweb上で簡便に検索できることは画期的であった。同時に、リクルートのクーポン情報誌『ホットペッパー』がwebに参入、さらに利用者の評価を掲載した『食べログ』と、グルメサイトが広がっていった。

上記をグルメサイトの第一世代とすれば、第二世代となるのは2000年に入って誕生した『ヒトサラ』『一休』『Retty』である。これらが第一世代と異なるのは業種がカテゴライズされ、テーマ性を帯びるようになったことだ。

この流れで述べると『ワイノミ』は第三世代と位置付けられるのではないか。「BYO」という外食シーンの中でもより専門特化されターゲットは絞り込まれている。掲載されている店舗数は第一世代と比べると極端に少なくなるが、ユーザーが閲覧する目的意識は高い。

グルメサイトの第一世代から第三世代までの流れを見ると、「店の情報が知りたい」(情報掲載)、「人気の店を知りたい」(序列)、「好みに合う店を知りたい」(最適化)という形に変化してきている。小売業の変遷である、総合スーパーの後に専門店の時代が到来したことと変遷の沿革が同様だと言えるだろう。

BYOが普及することで外食がより豊かになる

さて、「ワインを売るプロ」はBYOが普及していくことの意義をどのように見ているだろうか。これについて、ワインバルの第一人者である藤森真氏(株式会社シャルパンテ代表取締役)に尋ねた。藤森氏は現在、東京の神田・日本橋エリアにワインバル「ヴィノシティ」を4店舗、ワインショップ1店舗を経営、さらにワインスクールを運営している。

「ヴィノシティ」の藤森真氏は、「日本ワインを愛する会」(会長:辰巳琢郎)の副会長も務める

「飲食店は、BYOによってこれまでの客層とは別の客層が増えると考えるべきです。そのために店のプライドをきちんと保ち、自分の店にふさわしくないお客さまを排除するという姿勢を持つこと。お客さまも飲食店を利用する時のマナーをきちんと守ること。その店の料理を知らないで持ち込みをしたり、自分たちのわがままが許されたと勘違いをして、大きな声を立てるなどしてはNGです」

そして、藤森氏は「スマートなBYO」についてこのように表現する。

「お客さまが自分たちにとって特別なワインを持ち込みする際には、最初の乾杯を店の従業員の人たちと行ったり、ボトルの3分の1ほどを残して『残りはお店の方で飲んでください』と伝えたり。このようなことで新しいワインを経験した従業員たちは、ワインの経験値を高めていくことになるのです」

これらをまとめて藤森氏は、「BYOを行うためにはお店もお客さまも意識改革が必要」と言う。このようなことが一般的に浸透していくことによって、日本の外食はより豊かで、憧れの世界になっていくことであろう。

居酒屋甲子園「優勝」の経験生きる、全時間帯フル稼働カフェ

都内のターミナルでは至る所で続々と新しい商業施設が誕生している。直近の話題は7月19日に東京・池袋東口エリアにオープンした「キュープラザ池袋」である。“都内最大“を標榜するシネマコンプレックスが核となり個性的な飲食店も集まってこのエリア一帯のマグネット力を高めている。今回はこのビルの2階にある「EDW」というカフェを紹介しよう。

東京に進出して以来「挑戦」の勢いを増す

三十数年前、筆者が社会人新人の頃、このエリアにサンシャイン60ができて池袋の商業の未来を感じたものだが、当時の周辺には古い小さな飲食店街がある程度でこの一帯はほとんど真っ暗だった。そこにキュープラザ池袋ができたということで訪ねてみると、夜遅くまで人がワサワサと歩いている。「時代は変わる」のである。

さて、このビルの2階にある「EDW」というカフェは、既に行列の店として定着している。同店は60100席と広く、店内の半分をオープンキッチンにして圧倒的な開放感だ。

これほどの規模での家賃を想像すると暗澹とした気分になるが、同店にはそれらを吹き飛ばす活気と絶妙に考えられた収益を生み出すための仕組みが存在している。

同店を経営するのは株式会社DREAM ON(本社/愛知県一宮市、代表/赤塚元気)、「EDW」という店名は「Espresso」「DREAM ON」「Works」の頭文字をつないだものだ。

同社は20年の歴史があり、当初は「寅衛門」(ドラエモン)という居酒屋で成長してきた。その同社が存在感を強くしたのは20062月に開催された第1回居酒屋甲子園のファイナリストとしてのプレゼンテーションである。

実に圧倒的であった。まず、VTRで紹介された同社の店の「バースディ」のシーン、従業員がテーブルの上に立って歌いながらパフォーマンスをしていた。ステージ上にはスーツ姿の従業員が横一列に勢ぞろいして、大きな声であいさつの声を掛け合った。お客さまをもてなす「熱さ」と求心力の強さが伝わってきた。

株式会社DREAM ON、代表取締役社長の赤塚元気氏

そして同社は翌年20073月に開催された第2回居酒屋甲子園で優勝した。筆者はその時のチーム店舗「いなせ寅衛門」に取材で赴いて、クオリティの高さに驚いた。同店は高級和食店のディフュージョン版と言える店だが、料理人の手によるきちんとした料理が礼儀正しくも慇懃無礼ではない接客によって提供されていた。同店は、居酒屋甲子園を目指す店のクオリティを引き上げた存在であると認識している。

201211月に東京に進出してから、同社がオープンしていく店のつくり込みは目を見張るものがあった。居酒屋甲子園の本領である「従業員の元気のよさ」を基調にしつつ、常にフードサービスの繁盛トレンドを追求していった。それはバルであり、イタリアンであり、メキシカンであり、そして今日「カフェの会社」と称されるほどの、目標とされる店を示すようになっている。

収益を押し上げる重層的な仕組み

筆者が今回の「EDW」で注目しているポイントは大きく三つある。

まず、カフェとしての完成度の高さ。フードメニューはチーズ8品目(580円~1,280円税別、以下同)、アンティパスト6品目(480円~980円)、タパス10品目(680円~1.300円)、パスタ7品目(1,280円)、メイン4品目(1,800円~2,700円)、デザート10品目(480円~1,380円)の構成だが、既存店でキラーコンテンツとなった「トリュフのオムレツ」(1,300円)と「パンケーキ」(プレーンが1280円)を池袋でも導入し、これを目当てとするお客さまの行列ができるようになった。

トリュフのオムレツのソースは「渋DRA」で人気メニューとなっている「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」のものを使用してオムレツに重厚感を加えた。これが全時間帯で売れる商品となり、現在1日70食程度を販売しているという。

キラーコンテンツの一つ「ベリーベリーのパンケーキ」1,380円
「トリュフのオムレツ」1,300円は1日70食を販売する

次に、同店には飲食店のあり方の新しい潮流を示唆する試みが散見される。まず「17時以降はサービス料を7%いただく」ということ、そして、デザートを含めたフードメニューをオーダーする際はワンドリンク制を採用している。これを「強気」という例え方をするのは陳腐である。上質のおもてなしをして、お客さまの満足度を高め、きちんと儲けることによってプライドを育むというポジティブな姿勢がある。

そして、来館者の往来の多いエスカレーター近くに設けられた「100(ONE HUNDRED)BAKERY」。この「100(ONE HUNDRED)」とは、これまでのパンづくりでは小麦100対して水分は70程度しか入れることができないと言われてきたことに対して、同社では小麦100に対して水分100を入れることに成功、そこでこのパンをこのように呼んでいる。

一般的な食パンと比べると二回りほど小さいが、これは「パンが自重で潰れない大きさ」なのだという。店内の窯で1回に35個程度が焼き上げられ、1日5回に分けて提供している。価格は2斤で600円となっている。

現状、客単価は2,500円で推移しているとのことだが、全時間帯がフル稼働している様子を見ていて、キラーコンテンツを重層的に携えた店の強さを感じた。

「100(ONE HUNDRED)BAKERY」を開発したことで店舗展開の可能性が広がった
「100(ONE HUNDRED)」のパンはランチセットに付いてくる。写真は「サラダランチ」1,200円

居酒屋で育んだ営業力がカフェに活かされる

ドラエモンがカフェにシフトするようになった背景には、都会の再開発ラッシュが大きな要因となっているようだ。新しいビルにはこれまでにない集客の魅力が存在し、同時に家賃も高騰する。その店(会社)が得意とする時間帯のみの営業では成り立たない。それを補うために単価を引き上げるとお客さまはシュリンクしていく。だからこそ「全時間帯フル稼働」を維持するための仕組みが必要となる。それが「ドラエモン流のカフェ」に行き着くのである。

同社代表の赤塚元気氏はこう語る。

「最近商業施設のリーシングでお声かけをいただく機会が増えてきました。その理由を尋ねると『夜に売れているカフェはほとんどない。その点,ドラエモンのカフェは夜もしっかり、全時間帯でよく繁盛している』とおっしゃってくださる。当社の場合、夜の商売からスタートしていて、夜が得意で、カフェの営業もできる。当社がこれまで積み上げてきていることが、今日待望される業態となっていると言えるかもしれません」

さらに、「カフェ」というネーミングは求人活動を有利に進めるという。今回のEDWの求人では500人の応募があり、その中から30人を採用したという。

また、この間優秀な料理人の採用を進めてきたことが新規店舗の骨格を強くしている。
「今回の店を開発するに際して『皆でこだわりたいことを一生懸命にやってみよう』と呼びかけたところ、当社の職人たちががぜんやる気を出して、それぞれに素晴らしいキラーコンテンツができ上がった」と赤塚氏は語る。

2019年度(2018年10月から2019年9月)は直営4店舗を出店、次年度も同じ出店数が見えている。次年度の出店を加えると、愛知・一宮エリアに10店舗、東京圏に12店舗となる。同社はコンサルティング事業も活発に行い、積み上げてきた卓越したノウハウを伝えている。このように同社の直営店は営業拠点であると同時に、ショールームとしての側面を持っている。

お茶の可能性に賭けた「伊右衛門サロン」驚くほどに広がるメニュー

カフェ・カンパニー株式会社(本社/東京都渋谷区、代表/楠本修二郎)は2019年7⽉3⽇、株式会社福寿園とサントリー食品インターナショナル株式会社(以下、サントリー)の協⼒のもと、「伊右衛門サロン」を商業施設の渋谷ヒカリエ7階にオープンした。同店は渋谷ヒカリエが2012年4月に開業したと同時に出店したカフェをリニューアルしたもので、店舗規模は約140坪140席と都心の商業施設としては珍しく間取りに余裕がある。

「Green Tea & Vegetable First」でコンセプトを強調

「伊右衛⾨サロン」は、「お茶は⽣活⽂化をデザインする」「カフェを通じて新しいライフスタイルを提案していく」という思いや意志のもとで前出3社の共同開発によって誕生。1号店が2008年6⽉に京都・烏丸三条にオープンし、カフェ・カンパニーがサントリーから業務委託される形で運営。2019年に福寿園およびサントリーから「伊右衛⾨」ブランドの飲⾷展開に関するライセンスを取得し、この3月京都・東⼭に「伊右衛⾨サロンアトリエ 京都」として移転・リニューアルオープンした。この度の東京・渋谷ヒカリエ店は同業態の2号店となる。

都心の商業施設としては珍しい約140坪140席というゆったりとした店内
天井は高く開放的。サラダバー、カウンターも設置

カフェ・カンパニーではかねてより“Well-Being”(健康で安心なこと)というミッションを掲げて、そのもとで「フタバフルーツパーラー」「発酵居酒屋5 / 発酵7」等のブランドを展開している。「伊右衛門サロン」も同じく、ブランドが立ち上がった当時からの志を受け継ぎながら、「Green Tea First」(緑茶第一)、「Sustainable」(持続可能な)、「Artisanship 」(職人技)という3つのキーワードを掲げてオープンした。ここを⽪切りに国内外に展開することを予定している。

「伊右衛⾨サロン」という店名には緑茶の専門性とそれによって連想される農産物のイメージが託されていて、同店の楽しみ方として「Green Tea & Vegetable First」をうたっている。具体的には緑茶にふくまれる「テアニン」摂取や、野菜を第一にしたフードメニューを組み立てて、バランスが取れた⾷事を提案している。

緑茶へのこだわりは「久⼭町研究」が背景にある。これは福岡市に隣接した糟屋郡「久⼭町」と九州⼤学が、1961 年から久⼭町住⺠を対象に⽣活習慣病の疫学調査を実施しているもの。その研究結果の⼀つに、緑茶に含まれる旨味成分「テアニン」摂取が糖尿病の発症に対して保護的に働く結果が得られている。同店の「Green Tea First」は、これが背景となっている。

フードメニューは肉、魚があるが、メニューブックに「ベジタリアンの方はスタッフにご相談ください」とある。スイーツはグルテンフリーで、おはぎのご飯は玄米を使用、ケーキのスポンジやパンケーキは米粉を使用している。

これらで食に禁忌を持つ人やインバウンドの食の多様性のニーズに応えることが可能で、「カフェ」の業態づくりを得意とするカフェ・カンパニーにとってもテーマ性が明確であるであると同時にニーズの広がりが想定される業態となっている。

フルーツやハーブを使ったビネガードリンク「シュラブ」、写真は「抹茶フルーツシュラブ」900円~
ドリンクバーの「お茶バー」で「水出し茶」などをラインアップ

「おばんざいバー」でフードメニューの脇を固める

メニュー構成について、以下に特徴的なものを紹介しよう。

まず、フードメニュー。これは料理家のSHIORI⽒プロデュースにより、朝・昼・夜問わず、「お茶」と共に滋味溢れる⾷材を堪能することができる⾷事メニューをコンセプトにして組み立てられた。ディナーメニューのメインは、晩ごはんセットがついた「和牛と彩り野菜の蒸し寿司」2,780円(税別、以下同)、「五目蒸し寿司」2,480円、「鮭と焼きとうもろこし釜炊きご飯」2,480円などがある。

晩ごはんセットとは生野菜や野菜の総菜を約8種類ラインアップした「おばんざいバー」(サイズによって価格が異なる)と⼀晩かけて抽出した「⽔出し茶」などが自由に選べる「日本茶バー」がついていて、「Green Tea & Vegetable First」のコンセプトどおりの構成となっている。これらのメインはアラカルトとしても注文できる(「和牛と彩り野菜の蒸し寿司」の場合、1,750円)。

この他に「本日の肉料理」(ご飯、味噌汁、お茶ふりかけ付/おばんざいバー:レギュラーサイズ1,980円、ラージサイズ2,180円)、「魚の西京焼き」(同/レギュラー1,880円、ラージ2,080円)などの糖質やカロリーを抑えたごはん・お味噌汁がセットになった定⾷スタイルのメニューもある。

「おばんざいバー」の単品はレギュラーサイズ800円、ラージサイズ1,100円。この他「伊右衛⾨ハウスサラダ」900円、「真鯛のカルパッチョ」1,200円、「山椒唐揚げ&チップス」950円など、おつまみとしても楽しむことができるアイテムもラインアップしている。

ランチメニューは、「おばんざいバー」と「日本茶バー」がついた定食セットで1,480円、1,580円、1,680円などがラインアップされている。

生野菜と約8種類のおばんざいを取りそろえた「おばんざいバー」

ビーガン・スイーツで利用客のすそ野を開拓

次に、ティーメニューとスイーツニューについて。

前述の「日本茶バー」(単品では540円)に加えて、「Worldʻs 50 Best Sommeliers」にも選出されたソムリエの梁世柱(ヤンセジュ)⽒を中⼼に結成されたティーメニュー開発チームによるソフトドリンク・アルコール共に「お茶」を軸に開発されたバラエティ豊かなティーメニューをラインアップ。抹茶・煎茶・ほうじ茶などの本来のお茶に加えて、フルーツやハーブを使ったビネガードリンク「Shrub(シュラブ) 」と「お茶」を組み合わせたカクテルや、野菜や果物とのコンビネーションを表現したメニューをラインアップ、それぞれ600円から800円代で構成している。

「伊右衛⾨サロン」で提供するスイーツは全て、カフェ・カンパニー専属のエグゼクティブ・ビーガン・パティシエである岡⽥春⽣⽒によるもの。卵や⽜乳などの動物性⾷材を⼀切使⽤しない100%植物性のビーガン・スイーツをラインアップしている。ケーキのスポンジやパンケーキは米粉を使用。「おはぎ」をモダンにアレンジした「cohagi(コハギ)」のご飯は玄米であり、パフェ、パンケーキ、ティラミス、かき氷などの全てに「お茶」を使用している。

これらのアイテムはティータイムのスイーツの強烈なコンテンツとなっている。

コハギは「伊右衛門サロンのビーガンおやつワゴン5種盛り(抹茶1杯付)」2,200円、「伊右衛門サロンのビーガンおやつの宝石箱12種盛り((抹茶1杯付)」4,200円がある他、1,150円と1,250円の三種盛りもある。かき氷は「伊右衛門かき氷」ほうじ茶が1,250円、抹茶が1,450円。「ほうじ茶豆乳ティラミスパフェ」1,350円、「宇治抹茶豆乳ティラミスパフェ」1,550円も、緑茶に対しての見識が深い「伊右衛門サロン」ならではのアレンジが加わっている。

動物性食材を一切使用していない100%植物性のビーガン・スイーツをラインアップ。ご飯は玄米、スポンジは米粉を使用。「おやつ盛り合わせ」(3種)は1150円~
「おやつ3種盛り合わせ」
「お茶かき氷」は1,400円

さらに、アルコールもビール、ハイボール、チャワリ(茶割り)、日本酒、梅酒、ワイン、スパークリングという具合に基本を押さえたバラエティをラインアップしている。

「緑茶」から連想するコアな客層は「中高年女性」となりそうだが、日本の飲料文化を象徴するコンテンツであることからインバウンドが増加傾向にある中で、訪日外国人客には印象深く伝わることであろう。また、ベジタリアンやビーガン、グルテンフリーに配慮したメニュー設計は食の多様性が顕在化している中で大いに歓迎される。

「伊右衛⾨サロン」の営業時間は 11時~2330分(⽇曜日のみ11時~23時)となっている。「緑茶」の専門性を軸にして、食の多様性に十全に応えることが可能で、かつお客さまの来店動機別に緻密に創出されたメニューを見ていて、「カフェ」を極めてきたカフェ・カンパニーのノウハウの豊かさを大いに実感している。

ゼットン、「サステナビリティ」への取り組みを宣言

アロハテーブルなどの飲食店を展開する株式会社ゼットン(本社/東京都港区、代表取締役社長/鈴木伸典)は、「店づくりは、人づくり 店づくりは、街づくり」を理念として事業に邁進している。会社設立は1995年10月、カフェやレストランの展開から始まり、ビアガーデンの運営、公共施設再開発事業も展開している。2016年9月に株式会社ダイヤモンドダイニング(現・DDホールディングス)の関連会社となった。同社では、この3月から事業の集大成であり新しいステージと言える都立葛西臨海公園(東京都江戸川区)の魅力向上に取り組んでいる。

公共施設の再開発には豊富な実績

この取組みは公益財団法人東京都公園協会が公募したレストランリニューアルに際して、同社が飲食事業者として認定されたことにはじまる。201931日からBBQ広場の運営管理を受託、316日に「PARKLIFE CAFE & RESTAURANT」(160席、うちテラス60席)をオープン。416日に葛西臨海公園の象徴的な建物であるクリスタルビューの中に「CRYSTAL CAFE」(72席)をオープンした。この2つのレストランにはどちらもキッズスペース(プレイランド)を併設しており、子供連れのファミリーに向け便宜を図っている。

同社の設立は199510月で、公共施設再開発事業にはいち早く取り組んできた。まず愛・地球博(2005年)のシンボリックな存在となる名古屋市内の尾張徳川家の屋敷を再開発する事業をコンペティションで獲得し、200411月に「ガーデンレストラン徳川園」の運営を開始したことにはじまり、以来、横浜マリンタワーを横浜市から全面的に借り入れて20095月よりここの再生を行うなど(改修に伴って4月1日より休館)、この分野では多くの実績を持っている。

都立葛西臨海公園内でゼットンが最初に手掛けた「PARKLIFE CAFE & RESTAURANT」は「ハワイ」をテーマとして、店内は自然、木のぬくもり、光、風を表現している。定番メニューであるカレー、ハンバーグ、オムライスなどに加えて、同社が展開するハワイアンダイニング「ALOHA TABLE」のノウハウを活かしたロコモコ、ハワイアンコンボプレート、ハワイアンパンケーキもラインアップしている。

CRYSTAL CAFE」では「海辺で楽しむことができるカフェ&BBQ」をコンセプトとして、店内でのカフェメニューの他に、店舗の前に広がる芝生で楽しむことができるテイクアウトメニューも提供している。

3月16日にオープンしたPARKLIFE CAFE & RESTAURANT」(160席、うちテラス60席)をオープン。

プレミアムBBQ、パークウエディングなどを提案

さらに、プレミアムBBQを楽しむことができる「SORAMIDO BBQ」も展開し、ガーデンパーティやパークウエディングも行い、新しい公園の楽しみ方を提案する。

SORAMIDO BBQ」はBBQサイトが18カ所あり、それぞれ簡易テントでおおわれている。営業期間は416日~1031日(11時~21時)と11月1日~30日(11時~16時)スタンダードのセットメニューは1人6,000円(ソフトドリンク飲み放題付き)で、この他カジュアルなセット、子供と一緒に楽しむことができるプランなどが用意されている。

フードはアンガス牛のリブロース、岩中地豚のペッパーポークチョップなど塊肉にこだわり、またスティックサラダに使用する野菜は江戸川区近郊で取れたものを厳選して使用する。アルコールの飲み放題は別途1,500円となっている。

グリラーはアメリカで人気のWeber社の最上級モデルを使用。蓋付きグリラーであることから、水分を維持したまま均等に加熱することが可能で、サイドバーナーではシーフードパエリアなどを米から炊き上げることもできる。調理は食材ごとの火加減、調理時間と手順のマニュアルが用意されていて、お客自身が行う。

BBQの運営は天候に左右されるが、これについては同社が手掛けているビアガーデン事業のノウハウが生かされている。同社社長の鈴木伸典氏によると、「ここ3年間の悪天候の経験から、売上計画はブレるとしてもハイシーズンとなる130日から150日の間で利益をどのように確保するかということのノウハウが蓄積されている」という。また、この3月からBBQやピクニックなどの「アウトドア事業」をスタートさせ、今後スポーツブランドやアパレルとタッグを組み、さまざまなイベントを仕掛けていく計画を持つ。

東京湾を一望にするパークウエディングを提案
グリラーはアメリカで人気のWeber社の最上級モデルを使用
スタンダードのセットメニューは1人6000円(ソフトドリンク飲み放題付き)

「サステナビリティ」の取組み4大テーマ

さて、同社では2019年から2023年の中期事業計画の中で、2019年から2020年にかけて「サステナビリティ」に取り組むことを表明している。この考え方は(1)2030アジェンダ/SDGs」(17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」)、(2)「パリ協定」(温暖化対策の新しい枠組み)、(3)「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会、持続可能性レガシー」(カヌー・スラロームセンターに隣接する葛西臨海公園飲食店運営事業を踏まえて)という3つの国際的枠組みを踏まえてのものである。

「サスティナビリティ取り組みテーマ」は大きく4つ設けられた。これらの項目をここで紹介しよう。

. 持続可能な低炭素・脱炭素社会実現への貢献
(1)店舗電力を可能な限り再生可能エネルギー化
(2店舗照明のLED

2.持続可能な資源利用社会実現への貢献
(1)使い捨てプラスチックの廃止
(2)食品廃棄削減及び再生利用
(3)店舗内装に再生材活用
(4)再生材・生分解性素材を使用したユニフォームの導入
(5)持続可能な食材・資材調達

3.人権・労働に配慮した社会実現への貢献
(1)社内におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進
(2)障がい児支援NPO法人「Ocean’s Love」活動へ協力

4.持続可能な社会を実現する地域づくりへの貢献
(1)経営理念「店づくりは、人づくり。店づくりは、街づくり。」の実践
(2)公共施設の再生・活性化
(3)地域におけるスポーツの振興

鈴木伸典社長はこう語る。

「葛西臨海公園は2020年の東京オリンピックのカヌー・スラロームの会場に隣接しています。この公園はこれから世の中から非常に注目される場所になって行きます。これを一つの大きなチャンスとして、葛西臨海公園のイメージを健康とか、スポーツを通じた教育など、クリーンなイメージをどのようにブランディングしていくかという役割を当社は担います」

ゼットンの事業展開にはアグレッシブな姿勢を感じさせる。同社の「サステナビリティ宣言」はフードサービス業の方向性としてのモデルケースとしてこれから注目されていくことであろう。

ビフテキ290円、大繁盛の激安肉バルがチェーン化を推進

「BEEF KITCHEN STAND」(以下、BKS)という肉バルが、2019年1月から首都圏を中心として加盟店募集を開始した。同店を展開するのは株式会社奴ダイニング(本社/東京都千代田区、代表取締役/松本丈志)で、同店7店舗の他、もつ焼き店などを展開している。同店はどのような店かというと、ずばり「ものすごく」安い。そして店は狭いが席の詰め方が上手い。筆者はこれらの店の幾つかを訪ねたが、フードサービスが多様化する中で、同店はチェーンレストランの王道を歩んでいるような印象を抱いた。

坪当たり月商75万円、超繁盛店のなぜ?

BKSの各店はいずれも素晴らしく繁盛している。とりわけ最も坪効率の高い店は新橋店である。新橋駅前ビル1号館の地下1階にあり、7.64坪、30席、この広さで坪あたり月商は75万円となっている。売上で最も高いのは歌舞伎町店(20坪60席)で2018年12月に1,000万円という実績を持つ。

先に同店の特徴を「安い」と述べたが、具体的にはこうだ。A4見開きのメニューを開くと、左側の上に「MEAT 肉料理」という囲みがあり、「名物ビフテキ(50g)」290円、「オールビーフハンバーグステーキ(120g)」380円、「牛ハツのレアロースト」290円、「四元豚ポークステーキ」380円、「大山鶏のチキンステーキ」380円がラインアップされている。これらが同店のキラーコンテンツであることが伝わって来る。

それ以外は、「ALL100円」2品、「ALL110円」5品、「ALL130円」6品、「ALL150円」7品、「ALL199円」16品、「ALL290円」9品、「ALL380円」8品と、価格で分類されたものを含めて約60品目がラインアップされている。

アルコールは一般的な価格である。ハイボール、ビール、日本酒、ワイン、カクテル等々、大衆的なものをほとんど取り揃えていて、角ハイボール390円、プレミアムモルツ生399円、こぼれワイン(赤・白)390円となっている。

こうした価格構成で客単価2,200円になるというが、単品の価格から考えるとお客は肉も飲み物も複数メニューを楽しんでいると想像できる。リピーターにとってBKSのイメージは「どんなに飲み食いしても2,000円ちょっと」というものだろう。

フードメニューは60品目で380円が上限
メニューの左上にまとめられたキラーコンテンツ

研修を熱心に受講し業態づくりに目覚める

同社代表取締役の松本丈志氏は1978年10月生まれ。横浜市で飲食業を営む家で育ち、自然と将来飲食業を営むことを志すようになった。

高校卒業後に修業に出て、父が営む飲食店に入るが父と考え方が合わず、起業を志して2008年9月に創業の店をオープンした。

同店は和食ダイニングで、2010年11月にオープンした2号店ともに繁盛店となったが、街の雰囲気との違和感を抱いていた松本氏はもつ鍋の店に業態転換した。また、もつ鍋と同様少人数でオペレーションが可能なもつ焼の店をつくり、店舗展開を志していった。

5~6店舗の業容となった2013年当時、松本氏は経営に行き詰りを感じるようになった。ここから経営に関する勉強を熱心に行い、研修にも盛んに参加するようになる。この間に受けたMG(マネジメントゲーム)研修は、現在主力業態となっているBKSのアイデアをもたらした。

MG研修の中には「MQ会計」というものがある。これは「粗利を高める」という経営の考え方のこと。たとえば「売上を上げて経費を下げる」ということが一般的な経営のセオリーであるが、こうした考えの他にも「原価をかけて売価も上げて、お客様の数を減らして粗利をとる」という考え方や、「売価を下げて、原価が上がるけれども、お客様が増えることで粗利をとる」等々、経営に対する考え方が広がるという経験をした。

「ステーキ&ハンバーグ」に「大衆感」をもたらす

この当時に9坪の物件を獲得した。飲食業界のさまざまな先輩に「この物件で商売するためにFCに加盟したい」という相談を持ち掛けたところ、「狭い」ということから断れていた。

それなら、自分でこの物件を活かすことができる業態をつくろうと考え、店舗展開が可能と考えていた他のさまざまな業態を研究し、テーブルの高さや客席を詰め込むポイントなど、先輩のアドバイスを参考にしながらそれぞれの要素を取り入れて、2016年3月BKSの1号店である新杉田店がオープンした。

BKSは「最初からFC店舗展開を考えてつくった業態」(松本氏)という。そのために店づくりに「大衆」の感覚を意識した。

「焼鳥」を筆頭に、「串カツ」「餃子」など、店舗展開をしているところには、それが持つ「大衆感」があるということを考えていった。

そこで「ステーキ&ハンバーグ」に目を転じた時に、この業種はファミリーを想定した食事が中心の大型店がほとんであることと、これらをつまみにお酒を飲むというコンセプトの店がないことに気付いた。
そこで、メニューの軸を「洋風」として、「ステーキ&ハンバーグ」をメインに他のほとんどは大衆感のある肉バルとしてまとめ上げた。

BKSの一番の特徴は、前述の通りバラエティに富んだ商品の価格が著しく安いということだ。ここにMQ会計が活かされており、粗利ミックスによって粗利を生み出している。

具体的には、原価率80%のものがあれば10%の商品もある。「価格が低くても、全部の商品が黒字となる」(松本氏)という。

クオリティの安定感を追求し多店化に備える

BKSでは「ステーキ」を看板メニューに打ち出しており、初めて来店したグループ客がメニュー選びに悩んでいたり、「こちらの店のお薦めは?」と尋ねられた場合は、この左上の5品を全て食べていただくことを提案している。最初に肉料理の5品を食べてみることで、同店の低価格でバラエティに富んだメニューの楽しさを理解することになる。

「名物ビフテキ(50g)」290円について、グラム数に対しての価格の低さが際立っているが、実はこのボリュームは50gではなく「約80g」にしている。お客様は「50gだから290円」という安さの理由を納得するが、実際には予想した以上の満足感があり、それが記憶に刻まれる。

人気メニューの「名物ビフテキ(50g)」290円はそれ以上のボリューム

ステーキとハンバーグはオージーを使用。食味のクオリティが安定した仕入れルートをつくった。また、ビフテキのカット、ハンバーグの成形、その他の肉の調理は業者が行っている。

人気メニューのポテトサラダはPBを仕入れて、各店舗で野菜を加えるなどして完成させている。この他、ステーキのタレ、唐揚げソース、ピクルスの素、アヒージョソースなどPB商品を充実させていて、オペレーションはアルバイト中心で行うことができる。フードコスト34%、レイバーコスト22%を標準としている。

このようにローコストオペレーションの仕組みが整っているが、業態特性から立地は限定されると考え、当面は200店舗と想定している。直営店は年間23店舗のペースで出店する方針だが、FCに関してはこの2年間で25店舗を想定している。

松本氏は2023年に奴ダイニングを上場させることを目指している。それに向かった店舗展開は、「BKSを時代に合わせて変化させていきながら、例えばセブンイレブンやスターバックスのように、BKSのブランドを磨いていく」という。

お客様の記憶に刻まれるメニューをつくり上げ生産性の高い業態に育て、FC展開へと邁進する姿勢に、BKSはフードサービス業界の新勢力となる日が近いと筆者は感じた。

アパホテル秋葉原店では2月より土日祝日に13時から営業するということで18時までの間「ジンビームハイボール0円」のキャンペーンを行った

ハイボール50円、飲み放題付宴会2,000円から!圧倒的「激安」アピールでFC展開加速する「鶏ヤロー」

「最近の若者は酒を飲まなくなった」という。確かに大局的に見ればそうだろう。とは言え、居酒屋の存在意義となると話は異なる。若者にとっては語らう場所が必要だからだ。そこで、学生街には居酒屋が不可欠となっている。これらの店はクオリティが高いことではなく低価格であることが重要となる。この市場の中に、圧倒的「激安」のチェーンが登場し勢いを増している。

背水の陣でドリンクの「激安」に挑む

激安チェーンとして今注目されているのが、「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー」(「鮭ヤロー」もある。以下、鶏ヤローと表記)。展開しているのは株式会社遊ダイニングプロジェクト(本社/千葉県流山市、代表/和田成司)。創業した2009年10月に会社を設立し、今年5月には直営10店舗、FC・業務委託など14店舗、計24店舗の陣容が見えている。鶏ヤローの1号店は東武スカイツリーラインの獨協大学前で、同じ沿線の北越谷、草加、竹ノ塚、北千住という具合に東武線沿線が目立つが、西千葉、武蔵境など広域に及んでいる。

看板の表示は「激安」のオンパレードだ。「角ハイボール50円」「生ビール280円」「ドリンク全品99円」「宴会コース(3時間飲み放題付き)2000円」……。「これで利益が出るのだろうか?」というのが率直な疑問である。

飲み放題のメニュー

同社代表取締役社長の和田成司氏は1982年12月生まれ、千葉県野田市で育つ。
飲食業に進むことになったのは、高校時代3年間焼肉店でアルバイトをしたことがきっかけだ。高校を卒業してから調理師専門学校に進み、卒業後は焼肉の会社に入り店長、管理職を務めた。2009年10月柏駅西口の雑居ビルに焼肉店を独立開業。「そこそこ繁盛した」(和田氏)幸先の良いスタートとなった。

2号店は東京・亀有に焼肉チェーンの居抜き物件に出店したが、店長に売上金を持ち逃げされるなど不運が続き3ヵ月で撤退した。

この失敗がきっかけとなり「居酒屋をやってみたい」と思うようになった。その理由は、「居酒屋の居抜き物件が多く、ロースターが必要ないから」であった。

そして、千葉・市川市に居酒屋の物件を見つけ初の居酒屋業態である「鮭ヤロー」をオープンする。「サーモンの刺し身」をメインにしたが、客数が低迷していたことで「30分299円飲み放題」を取り入れた。売上は巻き返したもの「前進も後退もできない状態であった」と和田氏は振り返る。

この時、かつて勤務していた焼肉の会社の社長に電話を入れ、自分の窮状を語り相談したところ、和田氏がある居酒屋を業務受託することになった。その店が松原団地(現・獨協大学前)にあり鶏ヤローの創業店舗となる。この街はベッドタウンであるが学生街でもある。

同店の近くには、低価格均一の焼鳥居酒屋チェーンの繁盛店があった。この時、パートナーと集客力をつけるための相談を重ねた。

「どうすれば店がお客様でパンパンとなるか」
「それはタダでしょう」

「タダでは損する」――ということで、「ハイボール50円」ということを打ち出した。

こうして徹底的に「激安」でいこうと考えた。周囲からは「低価格路線はおしまいだ」と言われたが、「低価格だとしても、客単価2,000円になればいい」ということを目標とした。
こうして鶏ヤローの原型がスタートした。2014年の2月4日のことである。

「食べ放題」に終了時間設定、経営数値を健全化

オープン初日は予想外にお客さんが詰めかけて対応できないと判断し、やむなくオープンしたばかりの6時に閉店。翌日から体制を整えてフルに稼働した。

特に人気を博したのは「唐揚げ食べ放題」(現在は行っていない)で、1日70kgの鶏肉を揚げていた。売上があったものの、当初の原価率は70%。FL(材料費+人件費を売上で割った比率)で100%となっていた。つまり儲けなしということだ。

ある日、満席営業中の夜8時ごろ、鶏肉がなくなったにもかかわらず、唐揚げの注文がどんどんやってきた。これにはたまらんと、唐揚げ担当の高齢の女性スタッフがフロアに出て「本日の唐揚げは終了です!」と叫んでしまった。

すると満席の学生たちから、「よっしゃー」という歓声と拍手が起きた。

その時、和田氏は「唐揚げ食べ放題に終了ということがあっていいのだ」と気付いたという。

その日以来、同店は頃合いをみて「唐揚げ食べ放題終了」を宣言するようになった。そして、これを定例化することによって、同店の原価率は30%に収まるようになっていった。

現在のフードメニューは、フライドポテト食べ放題(19時まで)199円、鶏の串が1本120~150円、298円(クイックメニューなど)、499円(サラダ、鉄板料理など)のプライスラインにしている。

フライドポテトは19時まで199円で食べ放題

このような価格構成で経営を健全に保っている理由はこうだ。

和田氏によると、一般的な売上構成比をフード70%(原価率50%)、ドリンク30%(原価率20%)と想定して、これを逆のフード30%(原価率20%)、ドリンク70%(原価率50%)にしているのだという。

また、お通し代380円が存在する。このお通しは店内で揚げるエビ煎餅、ないしは枝豆のどちらかを選んでもらう。エビ煎餅は食べ放題となっており、「鶏ヤロー」の名物となっている。いかにも“利益の基礎票”である。

鶏ヤローのお通しえびせんは食べ放題

若者・学生をターゲットに「激安」で応える

この松原団地(獨協大学前)の店で上手くいったことから、「大学のある駅」に注目するようになった。この後、千葉大学のある西千葉駅、文教大学のある北越谷、早稲田大学の正門横でも営業している。

FCは北越谷が始まりで、現在10店舗となっている。
FC加盟条件は、加盟金50円、ロイヤリティ毎月50円。食材は配送が同じルートであれば同じ業者から仕入れるようにしていて、そうでない場合は独自に仕入れてもらう。

一般的なものと比べると著しく低いが、これは「これまでのFCの条件ではハッピーになれない」と感じていたからだ。そして、本部と加盟店とは「教え合う」関係性であるべきだと考えている。

FCビジネスよる利益は、鶏ヤローはアルコールが大量に売れる業態であることから酒類メーカーや業者からの協賛金で上げている。「激安」の業態であるが、客単価2,000円弱となっている。フードとドリンクの原価のバランスに加えて利益体質が見事に整っている。

鶏ヤロー店内。お通しで食べ放題のえびせんは各テーブルに置いてある

このような鶏ヤローのユニークな売り方が評判を呼んで、FC加盟希望の会社が続々と増えており、2019年には20店舗の増加を想定している。客層ターゲットを若者・学生として、彼らの語らいの場としての満足度を「激安」によって向上させている、実に割り切った業態である。