モバイルオーダーのパイオニアが手掛ける「サラダ販売革命」進行中!

サラダをランチや食事代わりに食べる人は多い。そんな人に向け中身充実のさまざまなサラダを提供する会社が「CRISP SALAD WORKS」だ。売り方もユニークで飲食業界でモバイルオーダーを採用したパイオニア企業でもある。同社が丸の内で運営する新しいサラダ販売ステーションとこれまでの試みを紹介する。

冷蔵庫から好きなサラダを取り出し好きな場所で食べる

東京駅前丸ビル地下1階のお弁当売場の中にたくさんのサラダが整然と詰め込まれた大型の冷蔵庫がある。店頭に従業員はいないが、「CRISP STATION」というサラダ販売店である(従業員は冷蔵庫の裏側にいる)。サラダは8種類、価格はすべて1,180円(税込)。

ここでの購入の仕方は、冷蔵庫の扉を開けて好きなサラダを取り出し、備え付けの紙袋やスプーンをピックアップして、自分のオフィスや好きな場所で食べる。決済はサラダの容器に付いているQRコードをスマホで読み取りクレジットカードで行う。初回はメールアドレス、カード情報の入力が必要だが2回目以降は不要、ワンタップで支払いが終わる。領収書はメールに届く。

CRISP STATION」は2021年111日にオープンしたばかりだが、筆者が見学に訪れた113日のお昼時には冷蔵庫の前のほとんどが女性の人だかりが次々と扉を開けてはサラダを手にしていた。レジ会計がないのでレジに並ぶ必要がない。実に斬新な購入の仕方である。

ランチタイムになると「CRISP STATION」の前には女性がほとんどの人だかりができる
パッケージ正面にはサラダ名と中身が記載されている
サラダの容器はラーメンの丼程度の大きさでボリュームはたっぷり。スプーンでサラダをまぜまぜして食べる。

業界に先駆けてモバイルオーダーを開発

CRISP STATION」を運営するのは株式会社CRISP(本社/東京都港区、代表/宮野浩史)。同社は201412月、東京・麻布十番にサラダ専門店の「CRISP SALAD WORKS」を創業。この店は後に飲食業界に新しい潮流を生み出す存在となる。

代表の宮野氏は19819月生まれ。コーヒーショップチェーンに勤務した後、飲食業で起業。その後「熱狂的なファンをつくる」という経営理念を掲げて「CRISP SALAD WORKS」の立ち上げに臨んだ。

「飲食業にとって一番大事なことは、働く仲間に、お客さまに、お店に、愛情をもって本気で向き合うこと。これは絶対に忘れてはいけない本質だと思っている」

この信念によって創業の店は想定の5倍を売り上げた。しかしながら、この繁盛ぶりは「本来の飲食店の姿ではない」と感じるようになった。それは、サラダをつくることだけに一生懸命になり、結果クオリティも下がる、お客さまもイライラする、といった良くない循環に陥っていた。

「例えば、夜中にスーツ姿のお客様が来店したら『まだ、お仕事でしたか? 夜遅くまで大変ですねぇ、今日も一日お疲れさまでした!』というちょっとしたことだけど、そんな一言こそがお店の価値であり競争優位性であり、注文や購買に必要ない無駄な会話や行為こそが飲食店にしかできない価値を生み出す源泉のはず」

このように宮野氏は考えるようになり、「機械でできることは全部機械に任せて、人間は人間だけが価値を生み出せるような人間らしい行為に時間を使えるようにしよう」と判断した。そして「儲かったお金はとにかくテクノロジーに投資して、既存の飲食の在り方を全部再定義しよう」という結論に至った。

こうして、2017年にテクノロジーを開発する会社を設立し、同年7月にモバイルオーダーアプリ「CRISP APP」をリリースした。

これによるサラダの購入の仕方は、好みのサラダをスマホで事前前注文し、そこで決済を行い、受け取る時間を指定。その時間に店舗に行って、注文していたサラダをピックアップする。店の従業員はお金に触る必要がなくなり、お客も店で注文するために並んだり、出来上がりを待つ必要がなくなった。今日ではコーヒーショップやファストフードをはじめとした飲食店の多くがこの仕組みを採用している。

ファンによる「指名買い」の動機を培う

CRISP APP」が発端となり、CRISPでは次々と多様なサービスを展開していく。

まず、20196月から「CRISP APP」などの開発・運用ノウハウを元に、飲食店向けのモバイルオーダーソリューション「CRISP PLATFORM」の提供を開始。これはCRISPが培ってきた知見を活かして外部の飲食店のDXをサポートするというもの。

20208月、これまでデリバリーをデリバリープラットフォーマーに委託していたものを一部のエリアでは自社デリバリーの「CRISP DERIVERY」をスタートした。

2020年冬から「CRISP BASE」を提供。これはオフィスの中にサラダを食べたい人が5人以上集まることで「CRISP SALAD WORKS」のバーチャル店舗を開設、決まった時間に配送料無料でサラダを届ける(週1回・5食が目安)。このサービスは現在約80カ所で行っている。

今年に入り7月、「CRISP REPLENISH」を立ち上げた。これはサラダのサブスクリプションサービスで、お客が選んだカスタムサラダを、指定した場所に配送料無料で届ける。週に2回以上注文することでこのサービスが可能となる。

宮野氏はこう語る。

「モバイルオーダーはコロナ禍の以前から商業施設の関係者の間で話題になっていた。ランチタイムのお弁当売場はものすごい行列になっている。お弁当屋さんも何がたくさん売れているのか把握できないで廃棄が出ている。だからモバイルオーダーの事前注文は役に立つだろうと。しかしながら、あまり普及しなかった。それはお客様はランチタイムに食べるお弁当を、購入するぎりぎりになるまで決めないから。結果、たまたま目にした店舗で『これでいっか』という感じで決める」

この「たまたま目にした店舗で」という購入動機に対応した店舗が「CRISP STATION」ということだ。

開設して1週間を経て、1日の販売数量は80食程度という。丸ビルに入居しているオフィスではリモート勤務によって出社率が通常時の35%程度とのことだが、「これが通常に戻ると200食が見込めて、日商20万~30万円となり、スタッフを抱えるリアル店舗よりも生産性が数段高い店になる」と宮野氏は想定している。ちなみに、「CRISP STATION」丸ビル店のサラダは麻布鳥居坂店で製造している。

一方で、「CRISP SALAD WORKS」でモバイルオーダーが普及した背景についてこう語る。

「それは、ここのサラダが食べたいというファンが生まれたから。要するに90分前にモバイルオーダーから『指名買い』をして、その時間になったらピックアップするというスタイルが出来上がっていった」

ちなみに、「CRISP SALAD WORKS」のお客の現状は4割がモバイルオーダーによるもので、丸の内店に至っては7割を占めている。

冷蔵庫の横に「CRISP STATION」の利用の仕方が表示されている
容器の包装紙の中央にあるQRコードをスマホで読み取ってから決済をおこなう

購入パターンを最大化する試み

CRISP のデータでは「CRISP SALAD WORKS」で30日間に1回以上購入しているアクティブユーザーの購入金額の平均は3,500円程度。商品の単価は1,200円程度だから30日間に2.12.2回利用していることになる。

このようなアクティブユーザーが「CRISP REPLENISH」を利用することで、このプランの最低の金額が15,000円程度だから、3,500円の4倍となる。このサービスは7月に立ち上げて以来現状150人程度が利用している。「このサービスはこれから増えていくだろう」と宮野氏は期待を寄せている。

CRISP SALAD WORKSのサラダが大好きだけど、今日なぜ食べなかったのだろうというアクティブユーザーはたくさん存在する。それが、定期的に届くということであればこちらの方を利用するという可能性は大いに存在する」

これからはリアル店舗、バーチャル店舗の両方とも満遍なく増やしていくという。リアル店舗は消費者に「CRISP SALAD WORKS」の存在とサービスを知ってもらうための最も効果的な媒体と捉えている。このサービスを体験した人がファンになってバーチャル店舗につながっていく。

CRISP SALAD WORKS」でファンを培い、彼らの定期購入の場として「CRISP BASE」「CRISP REPLENISH」が存在する。そして、お弁当売場でたまたま見かけて購入するという動機に向けて「CRISP STATION」が存在する。このようにCRISPでは同社の商品の購入パターンを最大化する試みを展開している。

北海道発生パスタ店、地元原料にこだわり抜いて東京圏で躍進中!

北海道は「地域ブランド調査2021」(ブランド総合研究所)の都道府県魅力度ランキングで12年連続の第1位を獲得。この北海道ブランドを前面に押し出し、東京圏で店舗拡大している生パスタ店がある。原料調達から北海道にこだわり、生産、製造、販売を垂直統合した六次産業化を進める企業の挑戦を紹介しよう。

店名由来は、最高気温と最低気温の温度差60度

今、東京圏で「下川六○酵素卵と北海道小麦の生パスタ(しもかわろくまるこうそらん) 麦と卵」(以下、麦と卵)という店名の生パスタ専門店が出店ペースを上げている。1号店がオープンしたのは昨年2月東京・吉祥寺で、笹塚、三鷹と続き、この820日渋谷宮益坂、921日神奈川・川崎、1026日東京・新宿西口と続いている。年内中には6店舗となる。冒頭の長い店名からは「ブランド卵と北海道産の食材にこだわっている」ことを読み取ることができる。

商品名にも同等のこだわりが感じられる。グランドメニューは11品目で、冠のマークがついたおすすめメニューは以下の通り(価格は税込)。

・函館・道場(ミチバ)水産特選たらこ使用、絶品たらこスパゲティ 880

・究極のペペたま!グリルチキンと「下川六○酵素卵」がのったオイルソース 980

・ふわふわチーズがたっぷり!北海道カルボナーラ 1080

・自家製北海道キーマ風スパイシーミートソース「「下川六○酵素卵」添え 1080

・生モッツァレラチーズと「農家のベーコン」、茄子のトマトソース 1180

力強い商品名に対して価格がお手頃であることも目を引く。店内には生パスタの製麺機がおかれ、適宜「只今、製麺中」と札をかけて製麺している様子が見える。

この店を展開しているのは北海道札幌市に本拠を置くイーストン(代表/大山泰正)。同社の設立は19865月、札幌市の歓楽街すすきのでバーを開業して飲食業の道を歩み出した。その後、札幌市内でカジュアルレストランの展開がヒットしていくが、これからの成長を想定する上で東京圏への進出を決意した。その前哨戦として20034月宮城県仙台市に進出、そして20079月東京に初進出を果たした。現在は札幌20店舗、仙台9店舗、東京20店舗の全49店舗(202110月末現在)となっている。

「麦と卵」で人気ナンバー1をうたう「究極のぺぺたま!グリルチキンと『下川六○酵素卵』がのったオイルソース」980円(税込、以下同)
「北海道函館・道場(ミチバ)水産の特選たらこ使用」と食材のこだわりをアピールする「絶品たらこスパゲティ」880円
「釜揚げシラスと厚岸産アサリのペペロンチーノ」1080円は海産物の存在感が大きい

「北海道産」を深掘りして一次産業に着手

イーストンでは店舗展開を進めていく過程で、主力業態はカジュアルイタリアンと焼鳥店に定まっていくが、これらは類似業態が数多あることから差別化のポイントを模索するようになった。そこで同社の発祥であり本拠を置いている「北海道」を打ち出すようになった。

ちなみに「北海道」は『地域ブランド調査2021』(ブランド総合研究所)の都道府県魅力度ランキングで第1位を獲得。同ランキングが開始された2009年から第1位は連続している。

イーストンのこの方向性は進化していき、六次化に取り組むことを検討するようになり、一次産業を手掛けることを模索した。そこで金融機関からM&Aの案件を紹介された。それが昭和39年(1964年)創業のあべ養鶏場(当時、阿部養鶏場)であった。

この養鶏場は北海道上川郡下川町という北海道のほぼ北端の内陸部にあり、日本の養鶏業としては最北にあたる。ここでは鶏の飼料として生の米糠にEM菌(有用微生物)を5日間加温しながら培養しトウモロコシを主とした飼料17種類をブレンドし与えていた。これによって鶏の腸内環境は健康で、ストレスがなく産卵していた。さらに鶏の健康を考慮して独自の配合飼料を与えるようになった。内容は、トウモロコシ(3種類)、精白米(2種類)、マイロ(イネ科の一年草)、大豆油かす、魚粉、カニ殻、炭、ミネラル、ガーリック、塩、発酵飼料(乳酸菌)、米糠(国産)、大豆かす、昆布酵素となっている。

同社では老朽化していた設備を近代的なものに一新して、生産体制を整えて、「下川六○酵素卵」というブランドをつくった。ちなみに「六○」とは、養鶏場のある下川町では気温が夏30度、冬はマイナス30度となり、「気温差が60度ある厳しい自然環境の中で生育する元気で健康な鶏が産卵している卵」ということを意味している。

店舗展開が速い「生パスタ専門店」を開発

イーストンでは2年ほど前から多店化する業態として「生パスタ専門店」を検討するようになった。そのポイントは「店舗展開の速さ」である。同社の既存のカジュアルイタリアン業態は「北海道イタリアン ミア・ボッカ」というもので客単価は昼1500円、夜2500円。商業施設の中の50坪~60坪の物件を想定していて、これまで年に2~3店舗を展開してきた。展開を重ねている中でクオリティは十分に安定しているが、人材を育てることに時間がかかっていた。

そして業態開発では、このカジュアルレストランからスピンアウトして「生パスタ専門店」を展開するという発想に進展した。

さらに「商品に圧倒的な特徴があること」がポイントとなった。そこで「下川六○酵素卵」を使用した生パスタの開発を進めていき、試食を重ねていく中で、この卵と北海道産小麦を配合したパスタが想定した通りのものに出来上った。ちなみにパスタの本場である北イタリアのミラノは下川町とほとんど同じ緯度にある(ミラノ45.28度 下川町44.18度)。ミラノでは代表的な家庭料理には生パスタが使用されている。このように北イタリアの家庭料理を北海道ならではの食材で表現することができた。この生パスタの既製品にはない「つるっ」「もちっ」とした食感は「麦と卵」の一番の特徴となった。201912月のことであった。

「麦と卵」が想定する立地は駅前繁華街で乗降者数7万人、物件は地下1階、路面、そして2階、20坪で30席くらい取れるスペースであること。スケルトンではなく居抜き物件ということだ。「麦と卵」の店舗展開はコロナ禍と重なってしまった。しかしながら、撤退物件が出てきている中でコンセプトがしっかりとした業態にとって出店するチャンスが訪れている。「麦と卵」の相次ぐ出店はその象徴的な事例と言える。

店内にパスタの製麺機を置いて適宜製麺することでフレッシュな生パスタを提供している

六次化によって「食物販」を事業化

さて、イーストンの一次産業である「あべ養鶏場」は「下川六〇酵素卵」というブランド卵を育てて、レストランで使用するほかに、これを使用したプリンの製造・販売も行なうようになった。使用食材の牛乳、生クリームは北海道産、同様にミネラルを多く含んだビート糖や「宗谷の塩」(稚内産)を使用している。

商品名は「あべ養鶏場のえっぐぷりん」1個410円~(税込)。EC販売の他に、リアル店舗を札幌(JR札幌駅構内)、東京・新宿(西武新宿ぺぺ)、立川(グランデュオ立川)、武蔵境(エミオ武蔵境)に構えており、商品としての認知度が高まってきている。リアル店舗ではプリンの他に「下川六〇酵素卵」(生)、「下川六〇酵素燻製卵」「下川六〇酵素卵ゆで卵」も販売している。

ここでは季節メニューを取り入れるようになり、直近では811日から10月初旬まで北海道でしか収穫できないハスカップを使用した「ハスカップぷりん」480円(税込)を販売。このハスカップはあべ養鶏場がある下川町の及川農園生産されたものである。さらに、10月8日~1031日にハローインスイーツとして「かぼちゃぷりん」480円(税込)を発売。このかぼちゃには北海道北見市で生産された「くり将軍」が使用されている。

「あべ養鶏場のえっぐぷりん」は季節メニューを導入するようになってリピーターが増えてきている

イーストンが当初他社と差別化するために打ち出した「北海道産」は、自社で一次産業に取り組む動機をもたらし六次化のロジックをつくり上げた。このような試みが特徴のはっきりとした新業態を生み出し、「飲食店経営」に加えて「食物販」の事業を生み出すことになった。飲食業が農業と通じることによって事業拡大の可能性を広げている。

一つ星シェフプロデュース「昭和レトロの洋食店」が町を元気にする

この企画では、コロナ禍で苦境に陥った居酒屋、飲食業の打開策を過去いくつか紹介してきた。今回は、東京郊外のベッドタウンに開業した昭和レトロの演出を凝らした「町の洋食屋さん」の事例である。運営するのは居酒屋やバルを展開していた会社。町への思いとひとつ星シェフの技が町を元気にしていく。

ベッドタウンで起こった飲食店の革新

埼京線・北戸田駅より徒歩2分の場所に「町の洋食 パーラーオオハシ」(以下、パーラーオオハシ)という店がある。この店は外観からして「昭和レトロ」である。とても印象深い。東京タワーと同じ年齢の筆者としては、とても懐かしい気分にかられる。このような外観が並ぶテーマパークがあるが、大抵は外観だけであって扉は開かなかったりする。

しかし、この店は違う。店の中も昭和レトロである。色調がダークブラウンで統一され、椅子やテーブルが若干低めで落ち着きがある。メニューは「町のハンバーグ」1300円(税込、以下同)、「町のエビフライ」1800円、「町のナポリタン」800円と昭和の外食のご馳走である。BGMは昭和の歌謡曲。この一貫して昭和レトロの同店は、昼は中高年の女性、ティータイムは女子高生や若いカップル、ディナー帯はお一人様やファミリーという具合に、さまざまな客層で全時間帯に顧客が存在している。

店頭の食品サンプルも昭和の感覚

時短営業やアルコール提供の自粛を要請されていても(912日に執筆)、同店はそれとは全く無縁である。顧客の目的は食事であり、コーヒーをはじめとしたソフトドリンクである。営業時間は「11時~20時」と書かれてある。

飲食業のトレンドを語る場合に都心の動向を注目しがちだが、「パーラーオオハシ」は東京のベッドタウンで示された飲食業界の革新であると、まず冒頭で述べておきたい。

居酒屋営業ができなくなりパンの販売店を営む

同店を経営しているのは株式会社ロット(本社/埼玉県戸田市、代表/山﨑将志)。同社は前社長の田子英城氏が他の二人と計3人で「飲食で町を元気にしよう」と埼京線・戸田公園駅の近くにカフェを立ち上げたことがはじまりである。2001年のこと、3人は当時20代前半であった。

その後は1号店から遠隔地に出店したこともあったが、店舗展開は埼玉県南部エリアでドミナント出店する方針に定まり、埼京線の戸田公園駅から武蔵浦和駅、武蔵浦和駅を基点として武蔵野線の東川口駅から新座駅というT字型の沿線上で店舗を展開してきた。2016年のピーク時には31店舗を擁していたが、その後社員独立の店舗に充てたり、不採算店舗を閉店するなどして現在は21店舗となっている。このようにロットは「地域密着」で経営していることが大きなポイントだ。

同社の業態は、主として居酒屋である。顧客を同世代と想定すると、居酒屋であれば顧客と共に楽しみながら仕事ができると思うからではないか。また、専門的な料理を扱わないことから営業も比較的容易であることが「居酒屋」を選択していくのであろう。

しかし、コロナ禍は居酒屋を直撃した。営業は夜8時まで、アルコール提供の自粛ということで、居酒屋営業そのものができなくなった。

そこで同社では、休業している路面の居酒屋を臨時に「パンの販売店」に切り替えた。

パンは埼玉県本庄市に本拠を構える「Ohana」というベーカリーショップから仕入れた。

昨年の4月、戸田公園駅前の店舗で行ったところ、たちまち繁盛店となった。そして、同社の本来の商売である居酒屋にはまったく見られない現象があった。

それはまず「日中に商品が売れる」こと。そして、「ベビーカーを引いた女性客」や「中高年の女性客」が大半を占めた。――これが「ベーカリーオオハシ」をオープンすることになる伏線となった。

昨年の5月、戸田公園駅前のワインバルの1階でパンの販売を行った。この時にこれまでにない顧客の存在に気付かされた

一つ星フレンチのシェフが店づくりを監修

さて、同店の店舗コンセプトからメニュー開発を担当したのは東京・代々木上原の一つ星フレンチレストラン「sio」のオーナーシェフ、鳥羽周作氏である。「なぜ代々木上原の一つ星フレンチシェフが北戸田のレストランをプロデュースすることになったのか?」――それは、鳥羽氏は同店のある埼玉県戸田市の出身で、ロットの前社長の田子氏と小学校、中学校時代の同級生というご縁である。二人はそれぞれ飲食の道に進み、幼なじみとして交流を重ねていた。田子氏はかねてより鳥羽氏に業態づくりのアイデアを仰いでいた。その後、ロットの代表は田子氏から現在の山﨑氏に引き継がれ、鳥羽氏との交流も続いた。鳥羽氏は自分の出身地である戸田の町を常々「飲食でイカシタ町にしたい」とアピールしていた。

テーブルは低く落ち着きのある空間を醸し出している
フードメニューは“箸でも食べることができる”洋食で構成している
「パーラーオオハシ」では持ち帰り品となるフルーツサンド、プリン、チーズケーキを店内で手づくりしている

鳥羽氏は一つ星フレンチの一方で、大衆業態の出店を手掛けている。それが201912月東急プラザ渋谷の6階にオープンした「パーラー大箸」である。同店は、ハンバーグ、エビフライ、ナポリタンといった洋食や、プリン、クリームソーダといった昭和レトロのメニューをラインアップしている。大衆的な店であるがクオリティが高いことで評判の店となった。

ロットではコロナ禍によって、不採算店舗の撤退や業態転換が迫られていた。そこで同社ではパンの販売店で見られた顧客の動向を踏まえながら、昼型で食事を中心とした業態をつくることを画策するようになった。

このような状況の中の山崎氏のもとに鳥羽氏から連絡が入った。

「そろそろ何かやりませんか?」

山﨑氏は不振店の一つの北戸田駅近くのワインバルをリニューアルすることに決めて、鳥羽氏のプランに委ねることにした。

鳥羽氏は「パーラー大箸」のアイデアをここにも生かそうと考えた。「パーラー」の語源は「人を迎え入れる」「談話室」というもの、それが昭和の時代に軽食堂をおしゃれな雰囲気で伝わるように用いられた。

山﨑氏は鳥羽氏に「大箸」の意味を訪ねたところ、「箸でも食べることが出来る店」という。高齢者、中高年に加えて若者も来店することを意識して「大」を付けたという。「この感覚は良いな」と山崎氏直感し、「それによって地域から愛される店をつくりたい」と考えた。そしてリニューアルオープンする店の名前は本家の「大箸」の音を生かして「オオハシ」とした。

店数を増やすのではなく顧客を広げていく

山﨑氏と鳥羽氏の間で旧店舗をリニューアルするという話は今年の5月にはじまり、6月には店舗の改装や開業に向けた準備を行った。新店に必要な調理技術を習得するために新店の調理担当の社員が「パーラー大箸」で現場研修を受けた。さらに、オープン1週間前から鳥羽氏サイドのシェフ二人を北戸田の店舗に派遣してもらい、調理調整、クオリティチェックなどの開業準備に携わってもらった。そして、オープンしてから3日間、現場に入って監修をしてもらった。このように鳥羽氏サイドから計3週間の現場研修を受けた。

また、新店舗の従業員は、前店舗の従業員の全員と面談して、意思を確認した上で新店舗の従業員として継続して勤務してもらった。また、営業を開始してから不足している部分を勘案して新規に従業員を採用した。

こうしてロットの新店「パーラーオオハシ」は79日に先行オープンし、「フルーツサンド」ミックス600円、イチゴ650円、「プリン」500円、「チーズケーキ」3000円を販売。

721日にグランドオープンした。

「当社は地域社会に根差した会社です。これからは店数を増やすことではなく、顧客を広げていくことが重要だと考えています」(山崎氏)

このように「パーラーオオハシ」は、「飲食で町を元気にしよう」と志を持った人たちの情熱によって生み出された店舗なのである。現状の売上は前店舗の今年年初の状況の2倍程度になっているという。

「これからは店数ではなく顧客層を広げる」と語るロットの代表取締役社長の山﨑将志氏

沖縄発、革命的ステーキレストラン「やっぱりステーキ」東京で躍進中!

これまでの「ステーキ」という非日常的なご馳走を、手の届く価格にして、クイックに提供するスタイルを生み出して“ファストステーキ”という言葉を誕生させた「いきなり!ステーキ」は、その後の歩みを語る以前に飲食業界において業種・業態の可能性を切り拓いたことを大いに称えたい。そこで今、このファストステーキの分野では「やっぱりステーキ」に勢いがある。この8月2日に東京都港区の芝大門に東京3店舗目、全国75店舗目をオープンしたが、この店の試みが斬新なことから、同店の動向について述べておきたい。

ローコスト経営で生産性を高める

「やっぱりステーキ」を展開するのは株式会社ディーズプランニング(本社/沖縄県那覇市、代表/義元大蔵)。20152月、那覇市の繁華街に3坪6席の規模で1号店をスタートした。

赤身肉のステーキ200gを1,000円(ご飯、サラダ付き)で提供するというスタイルがたちまち人気となり月商280万円を売り上げた。2号店は2024席、日曜日定休、週6日、朝11時から翌朝7時まで営業、夜に営業している人たちが仕事を終えて食べにきて朝6時に満席になり、マックスで137回転という記録を持つ。週末には800人近い顧客が訪れ、これで月商1,800万円を売り上げた。このような繁盛伝説を持つ同チェーンは沖縄で店舗展開し、全国の地方都市で展開していく。

そして、東京1号店を20206月吉祥寺にオープンした。井の頭公園の入り口で住宅街の中にある同店は51店舗目で、この82日にオープンした芝大門店は75号店舗目となる。1年余りで24店舗の増店ということから、その勢いを察するにたやすい。

同チェーンの最大の特徴はローコスト経営で生産性が高いこと。FLコスト(食材費=原価+人件費)は65%、一般的な60%より5%高い。内訳は原価率50%弱、人件費率は20%以下。大抵の店舗では、焼き場に1人、洗い場に1人、ホールに1人という体制、人件費率をうまくコントロールしている店は人件費13%以下になっている。

ローコスト経営を支えるのは、居抜き物件に出店していること。物件の中にある設備機器で使えるものは再利用して、減価償却費を抑えて初期費用を低くしている。さらに、家賃比率を引き下げている。これは一般的に10%であるが5%にしている。基本的に商品力が際立っている業態であるから立地も超一等地である必要がない。

「専用チャンネル」のDJが商品をアピール

さて、東京3店舗目の芝大門店は20坪程度で27席。元カレーチェーン店の店舗造作を生かし、厨房設備やエアコンを入れ替えた。場所は通称軍艦ビルのはす向かい。周辺はオフィス街でランチを中心とした需要が見込まれる。

オープン初日の8月2日には、11時開店の前に20人ほどが行列をつくった。
新規客に向けて、店頭で「1000円ステーキ」であることを訴求している。

同店のグランドメニューはざっと以下のようになっている(すべてサラダ・スープ・ご飯が食べ放題、「OK」とはテイクアウト可能のこと、税込価格)

・おすすめ赤身ステーキ:2001000円、3001500円、4002000円、OK

・ランプステーキ:1501000円、3001500円、OK

・お箸deステーキ:1801000円、3001500円、OK

・ヒレステーキ:1001000円、1501400円、2001750円、3002500円、OK

・ミスジステーキ:1501200円、100950円、2251750円、3002300円、OK

・イチボステーキ:1501200円、OK

・ブラックアンガス サーロインステーキ:2001800円、3002600円、4003400円、OK

・芝大門限定、熟成アメリカンステーキ:2002000円(オープン記念特別価格1500円)、OK

・やっぱりバーグ:2001000円、4001800

・ミスジ半身ステーキ:肉塊約7004980

「芝大門限定、熟成アメリカンステーキ」200g2000円(オープン記念特別価格1500円)。熱せられた溶岩は保温効果が高く柔らかく焼き上がる。
「テイクアウト可能」であることを随所にアピールしている。

筆者はオープン初日の8月2日に同店を訪ね、ディーズプランニング代表の義元氏に話を伺った。義元氏は「芝大門店は実験店」と述べる。テーマはDXだ。「大手回転ずしチェーンで進んでいるDXを、やっぱりステーキのような飲食業の小型店に役立てていきたい」という。

ディーズプランニング代表の義元大蔵氏。ステーキが赤身肉であることはアメリカ生活の経験でひらめいた。

まず、非接触の要素を多く取り入れた。既存店と芝大門店の仕組みの違いについて比較しよう。既存店のほとんどは顧客の入店から退店までこのような流れになっている。

⓵顧客は入店すると「自動券売機」で希望の料理やドリンクなどの画面をタッチして食券を入手。

②従業員が顧客を席に誘導し、顧客は従業員に食券を手渡す。

③顧客は席を立って、食べ放題のご飯、サラダ、スープをそのコーナーに取りに行く。

④従業員がステーキを運んでくる。

*食べ放題のご飯、サラダ、スープをそのコーナーに適宜取りに行く。

⑤顧客が食事を終えたら、そのまま店を後にする。

それが芝大門店ではこのようになっている。

⓵入店する前に「自動受付機」に1組の人数などを入力する。番号が付与されて、自分の前に何組がウエーティングしているかが分かる。

②入店できる顧客を従業員が番号で呼ぶ。

③席に通された顧客は「タッチパネル」でオーダーする。

④顧客が注文した料理を従業員が顧客の元に運ぶ。

*追加オーダーをタッチパネルで行なう(食べ放題のサラダ・スープ・ご飯も同様)

⑤顧客がタッチパネルで会計をタッチすると、従業員がレシートを持ってくる。

⑥顧客はレシートを持って「無人レジ」で精算する。

既存店の仕組みは、新規出店するたびに、例えば無人レジや配膳ロボットを導入するなど、DXの要素が少しずつ加えられていった。その現状の集大成が芝大門店ということだ。

店に入る前に「自動受付機」に登録をして従業員から呼ばれるのを待つ。
「注文」を自動販売機から「タッチパネル」に切り替えることで顧客はゆっくりと注文できる。
最後は「無人レジ」で精算を行う。

 

「注文」を変えることで客単価が上がる

上段の既存店のサービスの仕組みを下段の芝大門店のそれと比べると、その違いのポイントは「注文」と「精算」である。この違いがどのように現れるか。

「注文」は、既存店の場合「自動券売機」で行い、芝大門店では「タッチパネル」で行う。義元氏は「自動券売機は後の人からせかされている気分がして、注文する料理をゆっくり選ぶことができないが、タッチパネルだとゆったりとした気分となり好みの料理を注文するようになる」と語る。

さらに「サラダ、スープ、ご飯」の食べ放題の部分で、芝大門店では顧客が席を立つ必要がない。ここでは、食べ放題のコーナーに顧客が集まるという「密」は無くなり、狭いフロアを顧客が行き交うということもない。安心・安全な食空間が担保され、ゆったりと食事を楽しむことが出来る。

店内のレイアウトは物件の造作をそのまま生かしている。
各テーブルに用意されたさまざまな調味料で好みの味付けを行う。

また、芝大門ではBGMの中に初めて「やっぱりステーキ専用チャンネル」を設けた。これはステーキを食べる雰囲気を高めるBGMを流している合間に、DJがやっぱりステーキの楽しみ方をアピールするというものだ。

その内容は、まず、メニューの解説。ランプステーキ、ヒレステーキ、ミスジステーキといったメニューのバラエティがあることをアピール。さらに「替え肉」をアピール。これは、顧客が注文したステーキのボリューム(100ℊ、150gとか)ではもの足りないと感じた時にステーキを追加注文できるというものだ。例えば、「おすすめ赤身ステーキ」200gのサラダ・スープ・ご飯のセットは1000円(税込、以下同)であるが、このステーキの替え肉は100500円である。BGMでこのことを知った新規客にとって、追加注文してみようという動機をもたらす。

このようにDXによって顧客にゆったりと食事を楽しむ環境を充実させることによって、既存店の客単価が1300円に対して芝大門店では1800円あたりになると予想している。

義元氏は芝大門店の営業初日の顧客の動向を見て、これからの営業状況について「少なくとも月商1200万円以上のペースで行くでしょう」と読む。これでやっぱりステーキの「家賃比率5%」は十分に保つことが出来るという。

今後は店舗のすべてにDXを活用していくのではなく、立地や顧客動向を捉えながら適宜導入していくという。やっぱりステーキは都心のオフィス街にある芝大門店という実験場を得たことによって、これからの伸びしろを広げることができたと言えるだろう。

宴会を捨て個食、昼飲みで生きる。ニューノーマル時代の酒場

コロナ禍によって外食企業の多くが方向転換を余儀なくされた。特にアルコールを提供する夜型、居酒屋を主力としているところはなおさらである。しかしながら、方向転換の結果生まれた業態が思いのほかポテンシャルの高いものとなっている事例が散見される。今回はそのような事例の中から、株式会社ダイナック(本社/東京都港区、代表/田中政明)という会社の動向を紹介しよう。

コロナ禍によって得意とする商売に大きな逆風

ダイナックは、サントリーホールディングス(HD)株式会社(本社/大阪市北区、代表/新浪剛史)の連結子会社で外食事業を展開する株式会社ダイナックHD(本社/東京都港区、代表/伊藤恭裕)の事業会社だったが、コロナ禍で業績を悪化させ202012月期売上高1969,600万円(47.0%減)、最終赤字896,900万円、486,900万円の債務超過となった。そこでサントリーHDではTOB(株式公開買付け)を行ない、ダイナックHDは上場廃止となり、この6月からサントリーHDの完全子会社となった

ダイナックの顧客はオフィス街のビジネスマンで、比較的年齢層が高く、宴会売上が多く、客単価は4,500円~5,000円となっていた。同社の売上の40%はこれらの宴会が占めていた。このような需要に対応して、同社では東京駅周辺、新宿駅周辺、そして大阪・梅田駅周辺にそれぞれ約30店舗を構えていた。しかしながら、コロナ禍によって同社の顧客のほとんどがリモート勤務となり、オフィス街での宴会もほぼなくなった。

同社ではこれまで170店舗を展開していて、筋肉質の体質づくりを進めていたところであったが、それがコロナ禍で一気に加速して130店舗に絞り込まれた。

そこで、同社の新しい方向性を示す新業態の開発を行うことになった。同社代表の田中政明氏は、この間の経営判断をこのように語る。

「コロナ禍が終わっても宴会需要の半分ぐらいは戻ってこないと考えるべきだと。そして、当社主流の店舗規模である80坪をリニューアルする時に、1業態のリニューアルで済ませるのではなく、2業態の合わせ技を行うという必要も出て来るのではと考えました」

そこで同社の既存店の中から、東京・神田の店を新業態の実験舞台にすることになった。この店ではコロナ禍以前、宴会の売上が全体の半分を占めていたという。

業態開発を担ったのは、ダイナックの業態開発部とサントリー酒類㈱の営業推進本部グルメ開発部(以下、グルメ開発部)の二つで、これらが共同で進めた。

個食対応で、昼飲みも夜食事もできる店

キックオフは2020年の9月であった。

ダイナックがサントリー酒類から提案されたことは、まず「ニューノーマルな酒場」をコンセプトとした「酒場ダルマ」。そして「感動ボブン」。これは元々ベトナムに「ブンボー」という食事があって(ブンは麺、ボーは牛のこと)、これがフランスに渡り「ボブン」というB級グルメとして定着するようになり、ヘルシーなアジア料理として人気の食事である。

メニューの完成度の高い「感動ボブン」は、「オープンするとすぐにインフルエンサーで広がるだろう」と即採用された。しかしながら、ダイナックでは「ニューノーマルな酒場」の意味をつかみかねていたようだ。

果たして「ニューノーマルな酒場」とはどのようなものか。サントリー酒類のグルメ開発部担当者はこのように解説する。

「テレワークをはじめ生活様式も以前とは全く変わってきている中で、さまざまな人がそれぞれのライフスタイルの中で食事をしていただくというイメージです。これまでランチは食事、ディナーはお酒という形で分かれていましたが、今回の業態は昼飲みができるし、夜食事もできるという飲食空間」

そして、フードやドリンクの試作を重ねていくうちに、ダイナックサイドでもこのコンセプトがイメージできるようになっていった。代表の田中氏はこう語る。

「『酒場ダルマ』がオープンに向かっている様子を見て感じたことは『お客様の使い勝手に対応する』ということをひたすら考えているということでした。フードメニューは、どのようなお客様にとってもみなつまみになり、ご飯も食べることができます。また、すべて個食対応になっています。お一人様に対して全時間帯で自分の好みの楽しみ方をしてください、といったメッセージがあります」

ダイナック代表取締役社長の田中政明氏。サントリーグループの外食部門を歩んできた

ウイスキーの飲み方に新しい提案があふれる

筆者は6月末に「酒場ダルマ」を訪ねた。果たして、でき上がったメニューは次のようになっていた。

同店の一番の特徴はドリンクの飲み方に新しい提案があること。一番の推しは「ハイボール」で、グラスの中に「氷柱」を入れていることで楽しさを演出している。これは純氷をグラスいっぱいに氷の柱(3㎝×3㎝×10㎝くらいの大きさ)が入れてあり、グラスからハイボールがなくなったら、ハイボールをつぎ足すというものだ。普通の「氷柱角ハイボール」一杯目(氷柱入り)は500円(税込、以下同)、おかわり二杯目300円、おかわり三杯目以降は200円となる。「氷柱濃いめ角ハイボール」というものもあり、同じ仕組みで一杯目590円、二杯目390円、三杯目290円となっている。この氷柱は1時間以上経過しても溶けないとのこと。

一推しの「氷柱ハイボール」。氷はそのままでハイボールをつぎ足して楽しむ
提供方法の演出に昭和レトロのこだわりが見られる

筆者が最も感動したのは「知多 お湯割り」690円というものだ。ウイスキーのお湯割りとはイメージをつかみかねていたが、これは日本酒の熱燗同様の熱さで、ほのかに甘味があった。これは「知多」というグレーンウイスキーの持ち味なのだという。このほか、サントリーオールド(通称、ダルマ)の水割りの前割りがある。とてもマイルドな飲み口だった。

「知多 お湯割り」はほのかな甘みがあり和食の食事にマッチする

「サントリーはウイスキーを得意とする会社」と気付いたが、サントリーグループのウイスキーに対する矜持が感じられた。

フードメニューは定食も含めて70品目強で「大衆酒場」の定番が押さえられている。「食べたい食事がなんでも揃っている」という感じだ。中でも「とらふぐ」がキラーコンテンツになっている。切り身が10枚盛り付けられた「トラフグてっさ」490円は注文するとすぐに持ってくる。「とらふぐの唐揚げ」490円は肉厚で食べ応えがある。刺身が新鮮なのが感動的であった。

キラーコンテンツの「トラフグてっさ」。注文するとすぐに提供される

筆者は、氷柱ハイボール4杯、とらふぐの唐揚げ、刺身三種盛り、オイルサーデンでほぼ3,000円であった。安心感のあるお勘定であった。顧客フリーな気分を尊重して、ふらりと立ち寄ることができて、さまざまな楽しみ方を体験できる。これこそが「ニューノーマルな酒場」の真骨頂というものだろう。

回転すしチェーン、進む寡占化の裏に「出店」と「ロボット化」

回転すしチェーンの動向をみると「寡占化」が顕在化しつつある。その要因として挙げられることは「出店」と「ロボット化(機械化、自動化)」だと筆者は考えている。店数を増やすほどに売上が上がるのは当然として、飲食業にとって最も重要なホスピタリティをロボット化でどう実現していくのか、従来の常識の正反対とも思えることが寡占化の伏線となっている。

都市型店舗の出店を加速する二大チェーン

回転すしを事業とする株式公開企業のランキングは以下のようになっている(数字は売上高〈決算期〉と店舗数〈直近〉)。

1位:FOOD & LIFE COMPANIES2,0495700万円〈20209月期〉、538店〈20213月末、スシロー業態のみ〉

2位:くら寿司/1,3583500万円〈202010月期〉、485店〈20214月末〉

第3位:カッパ・クリエイト/6488100万円〈20213月期〉、314店〈20213月末〉

4位:元気寿司/3825200万円〈20213月期〉、165店〈20213月末〉

まず、「出店」という点では、第1位のFOOD & LIFE COMPANIESの事業会社である、あきんどスシローと第2位のくら寿司では「都市型店舗」を推進してきている。

この両社ともに都市型とは、通常型店舗の標準的な一皿の価格が110円(税込、以下同)であることに対して、スシローは132円、くら寿司は121円と1~2割高く設定している店をこのように定義している。

FOOD&LIFE COMPANIES20209月期では、国内スシロー事業で新規出店33のうち都市型は13店舗となった。

くら寿司では今年初めて都市型を出店し、1月14日に「渋谷店」(159席)と「西新宿店」(192席)を同時にグランドオープンした。以来、くら寿司ではこのタイプを128日「武蔵小杉店」(219席)、24日「小岩駅前店」(210席)、25日「赤羽東口店」(187席)、422日「道頓堀店」(204席)、520日「高田馬場店」(267席)と出店している。

スシローでは2021年318日に伊勢丹新宿店の向かい側地下1階に170208席という「新宿三丁目店」をオープン。TBSの番組でオープン1カ月前からのメイキングが放送されたが、オープン初日の客数は1,022人であった。あらゆる数字が驚異的である。

610日にくら寿司「渋谷店」が営業しているビルの隣にスシロー「渋谷店」がオープンした。こちらは100席強と超大型ではない。

「ロボット化」がもたらすストレスフリー

では、「ロボット化」は回転すしチェーンの寡占化とどのように結び付くのか。これについては、この業界の中で歴史のあるくら寿司の動向から解説する。以下にくら寿司のロボット化の取組みを時系列で紹介する。

・水回収システム1996年):テーブルの皿回収ロボットにすし皿を投入すると、水流により皿が洗い場まで運ばれる。テーブル上でのお皿の積み上げをなくし、片付け作業の負担を軽減できる。

・時間制限管理システム1997年):商品がレーンの上で空気に触れている時間を管理して規定時間を超えた時に廃棄する。

・製造管理システム1998年):すしカバーに取り付けたQRコードなどによってレーン上にある商品が空気に触れている時間と個数などを管理。また、顧客の滞在時間によって変化する消費皿数(食べる量)を予測。係数化した「顧客係数」を厨房に表示し、レーンに流す皿数を最適化、廃棄ロスを軽減している。

・ビッくらポン2000年):水回収システムと連動し、5皿に1回抽選ゲームができる。「当たり」が出たらオリジナルの景品をプレゼントする。子供に大人気のシステム。

・タッチで注文2002年):各テーブルにタッチパネルを置いて、これをタッチしてオーダーする。

・抗菌寿司カバー2011年):従業員も顧客も、カバーに直接触れずに商品を出し入れできる、くら寿司独自開発のカバー。鮮度だけでなく、空気中に漂うウイルスや飛沫からすしを守る。これが前述の時間制限管理システム、製造管理システムによって商品のバラエティを保ち顧客満足度を高める。

・自動受付・案内2017年):スマホアプリから「時間指定」で予約ができ、自動的に客席まで誘導するシステム。顧客の待ち時間の低減や、対従業員との非接触を実現。また、最新の店では、特集センサーが設置されていて、画面に触れることなく操作可能。

・スマホで注文2019年):メニュー注文用タッチパネル(タッチで注文)を業界に先駆けて導入。さらに、2019年には、席にあるQRコードを読み込むことで、顧客が自分のスマホから注文可能とした。皿の投入口に入らないサイドメニューなどもビッくらポンに加算される。

・セルフチェック2019年):すしが流れるレーンの上部に小型カメラが設置されていて、どのテーブルで何枚の皿を取ったか、AI画像を分析して検知。自動でカウントするため、従業員を介することなく会計が確認できる。

・セルフレジ2020年):「自動案内」や「セルフチェック」などのシステムを組み合わせ、入店から退店まで従業員を介することなくサービスの提供が可能となる。「非接触型サービス」が実現。自動受付と同様の特殊センサーを導入することで、タッチレス化も推進。

このように回転すしチェーンのロボット化は、これまで人間が行ってきたサービスを安定化させ、より正確なものにしてきた。ここで働く従業員は煩雑なことから解放されてストレスフリーとなり、結果顧客満足を高めている。

積極的な出店が売上を引き上げる

さて、FOOD & LIFE COMPANIES20219月期上半期決算は以下のようになっている。

・売上収益: 実績1,19042百万円/前年比+10.1

・営業利益: 実績  13114百万円/前年比+59.2

・税引前利益:実績  12414百万円/前年比+57.5

・当期利益: 実績   7760百万円/前年比+52.7

次に、くら寿司の202110月期上半期決算は以下のようになっている。

・売上高:  実績74585百万円/前年比+14

・営業利益: 実績  304百万円/―

・経常利益: 実績  1185百万円/―

・当期純利益:実績  669百万円/―

FOOD & LIFE COMPANIESは実に好調である。くら寿司も前年度の赤字計上から脱出した。

これらの好調な要因として、どちらも出店を加速したことを挙げている。FOOD & LIFE COMPANIES24店舗(うち都市型5店舗)、くら寿司は18店舗出店(うち都市型6店舗)となっている。

さらに、FOOD & LIFE COMPANIESでは前期に開発したTo Go型店舗を「JR我孫子駅店」「JR神戸駅店」「JR六甲道店」3店舗出店。いずれも改札口から徒歩1分以内の場所にあり、近隣のスシロー店舗でつくられた寿司を販売している。今期は積極的に出店していくという。このタイプは駅ナカ・駅前ビルなどのスシロー既存店ではカバーしきれなかった立地に出店していくという。この7月には、東京駅八重洲口にTo Go型店舗の機能を持った回転すしのスシローをオープンする予定。

そして、京樽が4月1日から事業会社となり、上方すしのテイクアウトや都市型で小型の回転すしを展開、これによって回転すしをはじめとしたあらゆるすしの市場を網羅していく構えだ。

回転すしチェーンの動向についてFOOD & LIFE COMPANIESとくら寿司の話題に終始したが、この二つのチェーンが切磋琢磨することによってこの市場はますます活性化していくことであろう。

FOOD & LIFE COMPANIESの事業会社4社でお値打ち感をアピールするイベントを展開。
「くら寿司」では2021年に入り都市型店舗を続々と出店している。
都市型店舗は駅から徒歩圏にありアルコールが売れることが魅力

月刊MD6月号ご紹介 マツキヨ新社長大いに語る!これからの戦略

月刊マーチャンダイジング2021年6月号では、特別インタビューとしてマツモトキヨシ新社長、松本貴志氏にインタビュー。10月から同社と経営統合するココカラファインの塚本厚志社長にもインタビュー、それぞれの記事から、新会社の戦略を読み解きましょう。その他、読みどころたくさん!編集長野間口が動画で紹介しています。

CONTENTS

<今月の視点>

地域の顧客に長期的に寄り添う 正直な商売を継続しよう

[特別インタビュー]
マツモトキヨシ新社長に聞く

株式会社マツモトキヨシ代表取締役社長 松本 貴志氏

 

[ココカラファインの経営戦略]
・ココカラファイン代表取締役社長 塚本 厚志氏に聞く
・フタツカ薬局グループ代表取締役社長 二塚 安子氏に聞く

 

[新店リポート]
・ファミリーマートの無人決済システム店舗第1号店
・ファミマ!サピアタワー/S店

 

【特集】
ラクチン家事提案で日用雑貨売場の支持率アップ

・カインズ「楽カジ」に学ぶ
・キッチン・洗濯・掃除 ラクチン家事提案の傾向と対策
・ラクチン家事雑貨「売場と商品」トピックス

 

[実務企画]
ドラッグストアの基本戦略
「カウンセリング」を磨く

大人用おむつのカウンセリング(ユニ・チャーム)
ドラッグストア 化粧品カウンセリング調査
タブレットを使ったカウンセリング

 

NEW PRODUCTS 注目の新商品
アース製薬「アース製薬 虫よけ剤『サラテクト』を全面リニューアル新発売!」

 

業態STUDY
移動自粛でヘコんだ客数を取り戻せるのか?
コンビニ大手3チェーンの総括と施策
流通ジャーナリスト(月刊コンビニ編集委員)梅澤 聡

 

今月の「現場あるある調査隊」②
お客さまからの質問、クレームを宝の山に変えよう!

 

【連載】
郡司昇のリテール・ニューフレームワーク[第13回]
利益改善の王道「ロス・プリベンション」のすすめ[第1回]
DgSが第二の黄金期を迎えるために[第180回] 有田 英明
流通データ
2021年7月・8月「販促企画と提案ポイント」
編集後記

横浜駅西口の横丁に人気7店が集結。飲食店版「アベンジャーズ」大成功!

2021年3月20日横浜駅西口の繁華街の中に「横浜西口一番街」という“横丁”がオープンした。ここには主に横浜エリアで飲食店を展開している7社が出店、鮮魚、小皿料理、もつ煮込み、焼売、韓国屋台料理といった大衆的な専門店で構成されている。どの店も地元の人によく知られた人気店で、これらが集まることによって集客力を著しく高めている。

物件の広さを見て「横丁化」がひらめく

同店をプロデュースし、現在統括を担当しているのはここにも出店している㈱奴ダイニング(本社/東京都中央区、代表/松本丈志)である。このプロジェクトが立ち上がったきっかけは、2020年5月に同社代表の松本氏に現在の物件の持ち主より出店のオファーがあったこと。

物件の規模は70坪、6年間の定期借家契約であったことから松本氏は当初パートナーと一緒に運営することを想定していたが、実際に物件の広さを目の前にして「横丁にしよう」とひらめいた。モデルとしたのは同社が参画して2018年2月にオープンした「野毛一番街」(後述)である。

そこで、松本氏は飲食店経営者の知人に出店を打診。結果6社から賛同を得て、同社を加えて7社によるユニークな横丁が誕生した。

席が詰め込まれても開放感がある理由

「横浜西口一番街」の中に入って真っ先に感じることは、客席が詰め込まれているということだ。実際の店舗規模は「70261席」であり、「1坪あたり3.7席」となる。ロイヤルホストやデニーズといったファミリーレストランは「1坪あたり1席」、つぼ八、庄やといった大衆居酒屋は「1坪あたり2席」というパターンを念頭に置くと、客席の状況を推し量ることができるであろう。

しかしながら、ここには開放感がある。客席が詰め込まれているのになぜ開放感があるのか。それはまず、店舗ごとの間仕切りはあるが視界に入らない高さになっていること。さらに個性的なバラバラの店舗デザインが一つの空間に凝集されていることが挙げられる。そのポイントは後述する施工の段階で詳しく述べる。

コロナ禍の営業時間短縮の要請に従って21時までの営業としているが、取材をした4月上旬現在、平日で120万円、土日祝では180万円を売り上げている。土日祝には1日700人が来店していることになる。前出の松本氏は、事業計画書に月商4,000万円と記したというが、それを上回る勢いで推移している。

さて、ここの物件を見て松本氏がひらめいたという「野毛一番街」とはJR桜木町近くにある大衆的な酒場が集まる大きな飲食店街「野毛」の中にある。

同店をプロデュースしたのは横浜の飲食企業㈱First Drop代表の平尾謙太郎氏。コンビニが撤退した路面45坪の物件で6店舗182席という複数業態の集合体をつくり上げた。ここの客席効率は「横浜西口一番街」の1坪あたり3.7席を上回る「4.0席」である。

それぞれの業態は、串焼きビストロ、肉バル、炭火焼き鳥、串揚げ×カレーうどん、魚と酒、韓国屋台居酒屋で、客単価は1,500円~2,300円と大衆業態で構成された。オープンして間もなく1日500人が来店するという盛況を博し、コロナ禍前には月間で2,800万円を売っていた。

松本氏にとって、ここで経験したことが「1社だけでは醸し出すことができない強烈なパワーが放出された」と記憶に刻まれていた。

そこで、松本氏は早速平尾氏に「横浜西口の物件を『野毛一番街』を参考にした店にしたい」と構想を披露し、出店も了承していただいた。こうして、個性的な7社の店舗が一つの空間に揃うことになった(各店舗の概要は巻末で紹介)。

詰め込んだ店内の中に個性的なデザインが凝集されている
張り出したテラス席によって店内の賑わいと楽しさをアピールしている

施工業者が複数入りバラバラな空間ができ上がった

「横丁」は統一感がなく雑多な個性が集まっていることが魅力である。そこで松本氏は設計施工の進め方に工夫を凝らした。

まず、全体のデザインとA工事、B工事は奴ダイニングが担当。出店する会社が担当したのはC工事のみである。これで出店する会社の出店コストは1社で新規出店する場合と比べて抑えることができた。

次に、A工事、B工事の施工業者は2社、C工事には4社が入った。これらの工程を調整することは容易ではないが、松本氏はこれらの業者すべてと交流があることからスムーズに進めることができた。また、複数の施工業者が内装工事を行うことによって、内装のテーストが統一されておらずバラバラな集合体ができ上がった。

工事の内容をざっくりと言うと、まず、物件の持ち主からスケルトンの状態で受け取った奴ダイニングは、A工事、B工事において、間口の改造、電気、水道、エアコン、トイレ、テラス、共有部の床を整えた。C工事では各出店者と造作に関する一定の規定を共有して、出店社それぞれが思い通りの造作を行なった。全体の工事費用は約12,000万円となった。

出店している店舗の客単価は2,0003,000円に収まっている。既存店舗は高級店であってもこのプロジェクトに合わせて大衆的な新業態を開発した事例もある。

コロナ禍の中で新規出店したこともあり、オープンに際して「withコロナの先駆けとなる横丁」をうたっている。そのポイントは「横丁の抜け目ない4つの感染症対策」である。内容は、①検温・消毒の実施、②十分な換気、③マスクの着用、④光触媒のコーティングである。④の光触媒は抗菌だけではなく、消臭、防藻・防カビ、有害物質の分解・除去に効果があり、コロナ禍で注目をされるようになった。

「圧倒的な集客力の創出」「出店コストを抑える」「安全・安心な店内環境」という具合に「横浜西口一番街」は飲食業の展開の在り方に新しい要素を創出している。

ロゴや提灯などのブランディングはお馴染みのものがそのまま掲出されている
店舗ごとの敷居を低くしていることと店舗デザインがバラバラになっていることで開放感がある
テイクアウトを積極的にアピールしている店もあり売り方の多様性が広がっている

「横浜西口一番街」に出店している店舗名、(坪数・席数)、会社名は以下の通り(店名の五十音順)。カギカッコの中の太い文字はキャッチフレーズ。

韓兵衛(かんべえ)(10坪・38席)㈱YOSHITSUNE

「気軽に韓国屋台料理を楽しめる」。キムチ、ナムルにはじまり、ビビンバ、サムギョプサルなど本格的な韓国料理を、韓国の家の庭先で食べるようなイメージ。

魚と酒 はなたれ7坪・35席)㈱First Drop

「こだわりの魚と酒」。横浜中央市場に買参権を持つ。また、三崎半島佐島漁港でその日獲れたての「湘南朝生しらす」をはじめとした市場に出荷前の朝どり魚を仕入れる。

焼売酒場 しげ吉10坪・32席)㈱シゲキッチン

「おいしいものを通じて人同士が仲良くなれる場」。横浜界隈で焼肉店「食彩和牛 しげ吉」を展開する企業の新業態でA5メス和牛を使用した焼売専門店。蒸し、揚げ、炙りで提供。

野毛焼きそばセンター まるき10坪・32席)㈱Omnibus

「記憶に残る絶品焼きそば」。東京・浅草「開花楼」特注の麺×オリジナルソース。横浜・野毛の本店は「横浜で食べ歩き料理5選」に選出されている。メキシコ料理もある。

BEEF KITCHEN STAND10坪・47席)㈱奴ダイニング

「ステーキや肉料理でお酒が飲める大衆居酒屋」。「名物ビフテキ50290円(税込319円)をはじめとしてスモールポーションのフードメニューのバラエティが豊富。

もつしげ(9坪・32席)㈱ニュールック

「横浜西口一番街にふさわしいもつしげ」。横浜・野毛が発祥のブランドで、毎朝仕入れる鮮度が際立つモツを串焼き、名物の「塩もつ煮込み」などで提供する。

もつ煮込み専門店 沼田14坪・45席)㈲珈琲新鮮館

「日本で唯一のもつ煮込み専門店」。味噌、醤油、塩、カレーなど、常時5~6種類のもつ煮込みを揃える。味ごとに素材を変えている。モツを使用したバラエティが豊富。

設備投資、ノウハウ一切不要。「居酒屋のランチラーメン」請負企業

日本人にとって国民的な料理ともいえるラーメン。人気店には行列ができ、有名店になれば、コンビニや大手食品メーカーとのコラボでインスタントになることもある。しかし、味が認められ、客が付くまでには厳しい修行と実践の積み重ねが必要で夢破れ途中退場する店も多い。そんなラーメンを居酒屋の人気ランチメニューするためのノウハウとサポート体制をもった企業が今注目されている。

フランチャイズを表に出さない「ステルスFC」で成功

飲食業はコロナ禍で時短営業が求められ、それによって営業時間を前倒しする傾向が見られている。特に夜営業が主体となる居酒屋では、これまでクローズしていたランチタイムを活用するようになった。テイクアウトもそのひとつだが、ここでは「ランチラーメン」の取組みを紹介したい。これは、居酒屋がランチタイム限定でラーメンを販売している動向である。

この立役者となっている会社は株式会社テイクユー(本社/東京都新橋、代表/大澤武)。同社は東京都内にラーメン店15店舗、居酒屋5店舗を展開しているほか、「ステルスFC」によって全国に約100店舗のラーメン店を展開している。ステルスFCとは、決められた屋号ではなくオーナーが自由に店名を決めることができ、原材料の仕入れを本部から行うといった仕組みのFCである。

同社ではこのコロナ禍で、ランチタイムを有効活用するためのランチラーメンをプロデュースする依頼が増えるようになり、これまで十数店舗の実績をつくった。

「設備投資不要」「職人不要」の仕組みをつくる

テイクユーがラーメン店を手掛けたのは20127月のこと。「鶏白湯」から始まり、「煮干し」が加わり、昨年の3月に「貝出汁」の直営店を出店した。また、ステルスFCが増えてきたことから、それぞれとスープがバッティングしないように、「担々麺」「二郎系」「濃厚豚骨」「博多豚骨」という具合にスープのレシピをストックするようになった。

同社がランチラーメンのプロデュースを初めて手掛けたのは5年程前、ランチ営業をしたいという居酒屋から相談を受けたことがきっかけであった。条件は「設備投資がない」こと。

これを機に居酒屋がランチラーメンを導入するための障壁を取り払っていった。

その障壁とは、①設備投資が必要(茹で麺機など)、②スープを仕込みたくない(設備、レシピ、労力など)、③調理・販売ノウハウを持っていない、④ラーメン専門店に勝つ自信がない――このように、ランチラーメンに魅力を感じているが、失敗するリスクが心配だということだ。

同社ではステルスFCを展開するために、ラーメン専門のメーカーに、ラーメンの麺、スープ、かえし、油のスペックをオーダーして、メーカーがこれらを一括して加盟先にデリバリーを行っている。店舗ではラーメン職人が不在だが、メーカーではスープを大量につくるラーメン職人が存在する。そこで、ランチラーメンを導入する店舗は基本的にはコンロが2台あれば十分という。

このようなソリューションによって、ランチラーメンは「提供時間が短い」「回転率が速い」「老若男女とターゲットが広い」「客単価が950円前後と比較的に高い」というメリットをもたらした。

居酒屋がランチラーメンを手掛けるためのポイントについて大澤氏はこう語る。

「本来の居酒屋営業とのストーリー性が重要です。鮮魚の居酒屋を営んでいるところが担々麺を売っても売れません。当社が新しく考えた貝出汁がふさわしい。これは本来の営業と『魚介類』ということで一貫性があります。担々麺を出すのであれば、小籠包の店がふさわしい。大衆食堂には煮干しラーメンが向いています」

以下に、同社のランチラーメンの仕組みを導入した事例を二つ紹介しよう。

立ち飲み居酒屋がランチラーメンと二毛作営業

東西線・神楽坂駅から徒歩2分、出版社の新潮社ビルの斜め向かいにある立ち飲み居酒屋「魚匠」では1月5日からテイクユーのランチラーメンを導入している。導入前までは16時から22時営業としていたが、1月5日からは1145分から14時までランチラーメンを営業、16時から22時まで立ち飲み営業となり、その後、時短営業要請に従っている。

同店は20207月にオープン。10坪強、立ち飲みは最大で25人収容。経営者の長谷川勉氏はかねがねランチラーメンを導入したいと考えていたところ、12月にテイクユー代表の大澤武氏と知り合い、意気投合し、ラーメンの食材すべてをワンストップで供給するテイクユーに依頼した。

長谷川氏はテイクユーの商品をいろいろと試食した結果、スープは貝出汁、麺は平打ち麺とした。料理長と研究を重ね、かえしとチャーシューの一部は同店でつくるようにしてオリジナルな貝出汁ラーメンをつくり上げた。

ランチラーメンの告知は現状SNSのみで1日20食以上(客単価950円)を販売している。一人で来店する女性客も定着してきていて、これからは二毛作を定番化していくという。

東京・神楽坂でランチラーメンを導入している立ち飲み居酒屋の「魚匠」。ランチラーメン営業時には専用の暖簾を掛けている
「魚匠」の「特製醤油らぁめん」と味変の柚子胡椒、「貝だし炊き込みご飯」
「魚匠」のランチラーメンのメニュー構成。テイクユーの貝出汁ラーメンの内容を踏襲している。

飲食店街の4店舗のうち1店舗をラーメン店に転換

有限会社珈琲新鮮館(本社/神奈川県相模原市、代表/沼田慎一郎)では、東京の飲食店街である新宿三丁目に居酒屋を4店舗擁しているが、そのうちの1店舗をテイクユーのラーメンプロデュースによってラーメン店に業態転換した。こちらはランチラーメンではなく、全時間帯でラーメン店を営んでいる。

同社の新宿三丁目の旗艦店は「もつ煮込み専門店 沼田」。その隣に2017年に6.5坪、9席の物件を取得して「もつ煮込み専門店沼田 はなれ」(以下、はなれ)として営業してきた。

コロナ禍の1回目の緊急事態宣言では新宿三丁目はゴーストタウンとなり、その後少しずつ顧客の数は回復してきたもののコロナ第三波で再び町は沈むようになった。

同社では本拠地となる神奈川・相模原地区にカフェや食事中心の店舗を展開していて、これらはコロナ禍による売上の落ち込みが一様に軽微で、中でもラーメン店の「麵屋沼田」では平常時の売上に対し8割、9割で推移していた。

18日から二回目の緊急事態宣言が発出され、新宿三丁目の4店舗の居酒屋は時短営業要請に従った。そこで、新宿三丁目の4店舗のうちラーメン店営業に向いている「はなれ」を「貝出汁中華そば 貝香屋」(かいかや)という店名に切り替え、看板も新しくつくり、116日よりラーメン店の営業を開始した。商品は「醤油そば」(850円、税込以下同)、「塩そば」(850 円)、「味噌そば」(900円)、「辛味噌そば」(950円)、「まぜそば」(850円)など。同社ではラーメン店を擁していることから従業員はジョブローテーションでラーメンのオペレーションを経験しており、居酒屋からの転換はスムーズに行われた。

こうして前述の営業体制で日商10万円を超えたこともあり、現在も7万円を下回ることなく営業を継続している。

東京・新宿三丁目の「もつ煮込み専門店沼田 はなれ」では「貝香屋」というラーメン専門店に転換した
「貝香屋」ではラーメンメニューの看板を設けてラーメン専門店として定着している
「貝香屋」の「塩そば」850円。こちらで原価率30%を保っている

さて現在、テイクユーでは居酒屋からのランチラーメンの相談案件が増えて来ていているという。コロナ禍は飲食業界に「テイクアウト」「デリバリー」「ゴーストレストラン」という新しいキャッシュポイントをもたらしているが、ランチラーメンもこれらと同様の可能性を生み出している。

ランチラーメンをプロデュースしているテイクユーが昨年3月に貝出汁ラーメンの直営店を出店し、同社のスープのバラエティを広げた

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