東京に進出して以来「挑戦」の勢いを増す
三十数年前、筆者が社会人新人の頃、このエリアにサンシャイン60ができて池袋の商業の未来を感じたものだが、当時の周辺には古い小さな飲食店街がある程度でこの一帯はほとんど真っ暗だった。そこにキュープラザ池袋ができたということで訪ねてみると、夜遅くまで人がワサワサと歩いている。「時代は変わる」のである。
さて、このビルの2階にある「EDW」というカフェは、既に“行列の店”として定着している。同店は60坪100席と広く、店内の半分をオープンキッチンにして圧倒的な開放感だ。
これほどの規模での家賃を想像すると暗澹とした気分になるが、同店にはそれらを吹き飛ばす活気と絶妙に考えられた収益を生み出すための仕組みが存在している。
同店を経営するのは株式会社DREAM ON(本社/愛知県一宮市、代表/赤塚元気)、「EDW」という店名は「Espresso」「DREAM ON」「Works」の頭文字をつないだものだ。
同社は20年の歴史があり、当初は「寅”衛門」(ドラエモン)という居酒屋で成長してきた。その同社が存在感を強くしたのは2006年2月に開催された第1回居酒屋甲子園のファイナリストとしてのプレゼンテーションである。
実に圧倒的であった。まず、VTRで紹介された同社の店の「バースディ」のシーン、従業員がテーブルの上に立って歌いながらパフォーマンスをしていた。ステージ上にはスーツ姿の従業員が横一列に勢ぞろいして、大きな声であいさつの声を掛け合った。お客さまをもてなす「熱さ」と求心力の強さが伝わってきた。
そして同社は翌年2007年3月に開催された第2回居酒屋甲子園で優勝した。筆者はその時のチーム店舗「いなせ寅“衛門」に取材で赴いて、クオリティの高さに驚いた。同店は高級和食店のディフュージョン版と言える店だが、料理人の手によるきちんとした料理が礼儀正しくも慇懃無礼ではない接客によって提供されていた。同店は、居酒屋甲子園を目指す店のクオリティを引き上げた存在であると認識している。
2012年11月に東京に進出してから、同社がオープンしていく店のつくり込みは目を見張るものがあった。居酒屋甲子園の本領である「従業員の元気のよさ」を基調にしつつ、常にフードサービスの繁盛トレンドを追求していった。それはバルであり、イタリアンであり、メキシカンであり、そして今日「カフェの会社」と称されるほどの、目標とされる店を示すようになっている。
収益を押し上げる重層的な仕組み
筆者が今回の「EDW」で注目しているポイントは大きく三つある。
まず、カフェとしての完成度の高さ。フードメニューはチーズ8品目(580円~1,280円税別、以下同)、アンティパスト6品目(480円~980円)、タパス10品目(680円~1.300円)、パスタ7品目(1,280円)、メイン4品目(1,800円~2,700円)、デザート10品目(480円~1,380円)の構成だが、既存店でキラーコンテンツとなった「トリュフのオムレツ」(1,300円)と「パンケーキ」(プレーンが1280円)を池袋でも導入し、これを目当てとするお客さまの行列ができるようになった。
トリュフのオムレツのソースは「渋DRA」で人気メニューとなっている「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」のものを使用してオムレツに重厚感を加えた。これが全時間帯で売れる商品となり、現在1日70食程度を販売しているという。
次に、同店には飲食店のあり方の新しい潮流を示唆する試みが散見される。まず「17時以降はサービス料を7%いただく」ということ、そして、デザートを含めたフードメニューをオーダーする際はワンドリンク制を採用している。これを「強気」という例え方をするのは陳腐である。上質のおもてなしをして、お客さまの満足度を高め、きちんと儲けることによってプライドを育むというポジティブな姿勢がある。
そして、来館者の往来の多いエスカレーター近くに設けられた「100(ONE HUNDRED)BAKERY」。この「100(ONE HUNDRED)」とは、これまでのパンづくりでは小麦100対して水分は70程度しか入れることができないと言われてきたことに対して、同社では小麦100に対して水分100を入れることに成功、そこでこのパンをこのように呼んでいる。
一般的な食パンと比べると二回りほど小さいが、これは「パンが自重で潰れない大きさ」なのだという。店内の窯で1回に35個程度が焼き上げられ、1日5回に分けて提供している。価格は2斤で600円となっている。
現状、客単価は2,500円で推移しているとのことだが、全時間帯がフル稼働している様子を見ていて、キラーコンテンツを重層的に携えた店の強さを感じた。
居酒屋で育んだ営業力がカフェに活かされる
ドラエモンがカフェにシフトするようになった背景には、都会の再開発ラッシュが大きな要因となっているようだ。新しいビルにはこれまでにない集客の魅力が存在し、同時に家賃も高騰する。その店(会社)が得意とする時間帯のみの営業では成り立たない。それを補うために単価を引き上げるとお客さまはシュリンクしていく。だからこそ「全時間帯フル稼働」を維持するための仕組みが必要となる。それが「ドラエモン流のカフェ」に行き着くのである。
同社代表の赤塚元気氏はこう語る。
「最近商業施設のリーシングでお声かけをいただく機会が増えてきました。その理由を尋ねると『夜に売れているカフェはほとんどない。その点,ドラエモンのカフェは夜もしっかり、全時間帯でよく繁盛している』とおっしゃってくださる。当社の場合、夜の商売からスタートしていて、夜が得意で、カフェの営業もできる。当社がこれまで積み上げてきていることが、今日待望される業態となっていると言えるかもしれません」
さらに、「カフェ」というネーミングは求人活動を有利に進めるという。今回のEDWの求人では500人の応募があり、その中から30人を採用したという。
また、この間優秀な料理人の採用を進めてきたことが新規店舗の骨格を強くしている。
「今回の店を開発するに際して『皆でこだわりたいことを一生懸命にやってみよう』と呼びかけたところ、当社の職人たちががぜんやる気を出して、それぞれに素晴らしいキラーコンテンツができ上がった」と赤塚氏は語る。
2019年度(2018年10月から2019年9月)は直営4店舗を出店、次年度も同じ出店数が見えている。次年度の出店を加えると、愛知・一宮エリアに10店舗、東京圏に12店舗となる。同社はコンサルティング事業も活発に行い、積み上げてきた卓越したノウハウを伝えている。このように同社の直営店は営業拠点であると同時に、ショールームとしての側面を持っている。