フードビジネス・アップデート

総合型から専門化するグルメサイト

第16回人気急上昇! BYOに特化した第3世代のグルメサイト

飲食店に「BYO」というルールがあることをご存じだろうか。これは「Bring Your Own(wine)」の略称で、飲食店にワインを持ち込み、お店の料理と一緒に楽しむことだ。もともと、オーストラリアで酒類の販売ライセンスを持たない飲食店が始めたドリンクスタイルである。今回はBYOに特化したグルメサイトを紹介する。

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ワイン持ち込みのメリット、デメリット

海外の酒類販売ライセンスを持たない飲食店の付近には必ず酒販店があり、飲食店の従業員がその店のことを教えてくれて、お客さまはそこでワインを購入し持ち込む。これが日本で普及したのは近年で、今日では持ち込み料として一般的にボトル1本あたり500円~3,000円を店に支払う。飲食店はワイングラス、オープナー、クーラーを提供。また、抜栓、デキャンタ―ジュのサービスを行う場合もある。

BYOが普及しているのは、「自分の好きなワインを飲食店で飲みたい」というお客さまがいるからに他ならないが、これに対して飲食店がBYOを行うメリットはどのようなものが挙げられるだろうか。

まず、ワイン好きの新規客を取り入れリピーターにできる可能性がある。店が酒販店にワインを発注したり在庫管理を行う必要がない。ストックスペースの確保が不要。ソムリエを雇用しないなどスタッフを省力化できる。持ち込み料金がそのまま利益となるなど。

飲食店の稼働対策に結び付けるとすれば、オフィス街の飲食店がワイン会の開催を例えば「BYO無料」でアピールしたり、ハッピーアワーやハッピーデーの中に取り入れるということも考えられる。

このように飲食店はBYOによって新規客を取り込み収益対策に活用することができる。

しかしながら、BYOに対して飲食店が懸念する要素もある。

まず、飲食店にとって飲料は利益を生み出しやすいものに関わらず、「持ち込み無料」にしてしまうと、この部分の利益がなくなる。飲料を持ち込むことによって「安く飲もう」という輩がいて店の「格」が崩れる。今日高級レストランでは「持ち込み料4,000円」を表示しているところが散見されるが、このような意図が背景にあるのではないか。

百貨店ワイン売場がお客さまの声を反映

このような環境の中で、今BYOに特化したグルメサイトが人気を博している。

それは201811月に立ち上がった「Winomy(ワイノミ)」で、加盟店は200店舗を超えた。

ワイノミを運営管理しているは株式会社阪急阪神百貨店のフード販売統括部フード外販部で、「BYO事業」が立ち上がったのは20184月のことだ。

先にビオワイン(有機栽培ブドウ使用のワイン)のインポーターの「マヴィ」(ナチュラレッサ麻布)が「BYO Club」というwebサイトを運営管理しており、20187月に阪急阪神百貨店がそれを譲受して同年11月にワイノミをスタートした。

同社フード外販部マネージャーBYO事業担当の井上梓氏は、ワイノミが立ち上がった背景として「百貨店ワイン売場でのお客さまからの声を反映したもの」と語る。

「好きなワインを気軽に飲食店に持ち込みたいが、断られるかもしれないし、電話で話をするのは緊張する」「いただきもので高級ワインがあるが、家で一人で飲むのは寂しい。どうせならプロの料理で飲みたい」……。

 このようにワインの持ち込みをめぐってお客さまが飲食店で食事をすることに躊躇しているということは、「ワイン好きのお客さまを囲い込む機会を失っているのではないか」という発想に至った。

ワイノミに掲載される店舗情報の基本は「BYOのサービス内容」「1本または1人当たりの盛り込み料金などBYOの条件」であるが、さらに「お客さまによる持ち寄りワイン会」「インポーターコラボイベント」「メーカーズディナー」「ワイン飲み比べイベント」など、イベント情報を掲載することによってレストランの魅力をアピールすることもできる。

これらの情報は日増しに増えており、ワイノミの中に一つのコミュニティができ上がっていく気配がある。

加盟するための料金はベーシックプランで月額1万円(ほか、エントリープラン5,000円、プレミアムプラン2万円)となっている。

winomy内特集 持ち寄りワイン会におすすめの店やプランを紹介

 

サイト内ではECも行っている。注文したら店に届けるサービスもあり

グルメサイトが総合型から専門化へ進む

ここで簡単にグルメサイトの変遷を見てみよう。

この先駆けは「ぐるなび」であるが、この母体である交通広告を扱うエヌケービーが同事業を立ち上げたのは19966月のこと。消費者の利用目的にかなった飲食店をweb上で簡便に検索できることは画期的であった。同時に、リクルートのクーポン情報誌『ホットペッパー』がwebに参入、さらに利用者の評価を掲載した『食べログ』と、グルメサイトが広がっていった。

上記をグルメサイトの第一世代とすれば、第二世代となるのは2000年に入って誕生した『ヒトサラ』『一休』『Retty』である。これらが第一世代と異なるのは業種がカテゴライズされ、テーマ性を帯びるようになったことだ。

この流れで述べると『ワイノミ』は第三世代と位置付けられるのではないか。「BYO」という外食シーンの中でもより専門特化されターゲットは絞り込まれている。掲載されている店舗数は第一世代と比べると極端に少なくなるが、ユーザーが閲覧する目的意識は高い。

グルメサイトの第一世代から第三世代までの流れを見ると、「店の情報が知りたい」(情報掲載)、「人気の店を知りたい」(序列)、「好みに合う店を知りたい」(最適化)という形に変化してきている。小売業の変遷である、総合スーパーの後に専門店の時代が到来したことと変遷の沿革が同様だと言えるだろう。

BYOが普及することで外食がより豊かになる

さて、「ワインを売るプロ」はBYOが普及していくことの意義をどのように見ているだろうか。これについて、ワインバルの第一人者である藤森真氏(株式会社シャルパンテ代表取締役)に尋ねた。藤森氏は現在、東京の神田・日本橋エリアにワインバル「ヴィノシティ」を4店舗、ワインショップ1店舗を経営、さらにワインスクールを運営している。

「ヴィノシティ」の藤森真氏は、「日本ワインを愛する会」(会長:辰巳琢郎)の副会長も務める

「飲食店は、BYOによってこれまでの客層とは別の客層が増えると考えるべきです。そのために店のプライドをきちんと保ち、自分の店にふさわしくないお客さまを排除するという姿勢を持つこと。お客さまも飲食店を利用する時のマナーをきちんと守ること。その店の料理を知らないで持ち込みをしたり、自分たちのわがままが許されたと勘違いをして、大きな声を立てるなどしてはNGです」

そして、藤森氏は「スマートなBYO」についてこのように表現する。

「お客さまが自分たちにとって特別なワインを持ち込みする際には、最初の乾杯を店の従業員の人たちと行ったり、ボトルの3分の1ほどを残して『残りはお店の方で飲んでください』と伝えたり。このようなことで新しいワインを経験した従業員たちは、ワインの経験値を高めていくことになるのです」

これらをまとめて藤森氏は、「BYOを行うためにはお店もお客さまも意識改革が必要」と言う。このようなことが一般的に浸透していくことによって、日本の外食はより豊かで、憧れの世界になっていくことであろう。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。