「高粗利商品」を定番に差し込みカテゴリー全体の粗利アップを目指す

2月18・19日に開催された「アルフレッサヘルスケア(勝木尚社長)」の展示会で、高粗利の「専売商品」を定番売場に差し込むことで、カテゴリー全体の粗利アップを目指す提案がありましたので、それを紹介します。

生理用品の定番売場に、アルフレッサヘルスケアの「専売商品」であり、高粗利商品の膣洗浄剤「インクリア」を差し込むことで、カテゴリー全体の粗利アップを実現する「売り方」提案。

「専売商品」は固定客化と利益改善に貢献する

2019年は、「死亡数-出生数」(人口の自然減)が初めて51万人を超えました。次の10年の日本は、深刻な人口減少時代に突入します。人口減少時代は、かつてのように販促を強化すれば、売上が大きく増えるという成功体験は通用しません。

むしろ人口減少時代が続くと、何もしなければ売上は減少していきます。また、人手不足による人件費の上昇によって販管費が増えて、営業利益も減少します。

これからの人口減少時代に大切なことは、売上が減っても「粗利益高」を増やすことだと、アルフレッサヘルスケアの勝木尚社長は強調しています。同社は、薬局、ドラッグストアのリアル小売業の粗利対策として、アルフレッサの「専売商品」を店頭起点で育成することを推奨しています。専売商品の特徴は以下の通りです。

[アルフレッサヘルスケア専売商品の特徴]

  1. エビデンスが豊富でオンリーワン商品
  2. 季節性がなく、定番で育成・推奨販売ができる
  3. 流通でしっかりとした利益が確保できる
  4. 特許、製法、特定産地でしか入手できないなど、マネのできない商品

アルフレッサの専売商品を店頭で育成することで、他の業態やネット販売とも差別化でき、年間定番として販売できるので、定番カテゴリー全体の粗利改善に大きく貢献することがわかります。

「専売商品」を店頭で育成する重要性を力説するアルフレッサヘルスケアの勝木尚・社長。

生理用品の定番でインクリアを関連販売

アルフレッサの展示会では、さまざまな専売商品の売り方を提案していました。その売り方提案のひとつが、生理用品の定番売場に、膣洗浄器「インクリア」を年間定番商品として関連販売することで、生理用品カテゴリー全体の粗利改善につなげる提案です(巻頭の写真)。インクリアは、女性の産婦人科医と共同開発した膣洗浄器なので、エビデンスもしっかりしています。

購買頻度の高い生理用品の定番売場に、インクリアを差し込むことで、関連購買が促進されることが期待できます。

しかし、専売商品の多くは、ただ陳列しているだけでは売れない商品がほとんどなので、POPや動画などによる情報発信、接客による推奨販売がとても重要です。ただ陳列しているだけの「自動販売機」のような売場では、専売商品は育成できません。これからのリアル店舗は、「店頭で商品を育成する力」を磨くことが非常に重要です。

女性の産婦人科医と共同開発した膣洗浄器「インクリア」。

亀田社長に聞く「第4次産業革命」の未来のためトライアルが挑戦していること

AIカメラの活用、タブレットカートの導入など、リアル小売業の「デジタル革命」に果敢に挑戦しているトライアルホールディングスの亀田晃一社長に、変貌する小売業の未来を聞いた。(聞き手:本誌主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2020年2月号より転載)

人口減少で日本は生産性革命待ったなし

──現在の日本の流通業を取り巻く「環境変化」についてお聞かせください。

亀田 われわれは、「短期的な環境変化」よりも「長期的な環境変化」を重視しています。長期的な環境変化の第1は、日本の人口減少と高齢化(GDP成長率の低下)です。人手不足により人件費が高騰しますので、IoT(Internet of Things すべてのモノがインターネットでつながる社会)・AI(人工知能)を活用した労働生産性の向上は待ったなしの経営戦略です。

GDP成長の約半分は、人口ボーナスによるもので、生産性改善は半分だといわれています。日本は2060年に人口が現在の3分の2になるといわれています。「人口ボーナス」はもはやない国なので、生産性を高めなければ成長できないということが、日本の小売業として考えなければならない事実ですね。

人手不足のなかで優秀な人材を確保するためにも、働き方改革による待遇改善は不可欠です。また、小売業の生産性向上のためには、専門性の高い人材を確保する必要があり、そうした専門的人材には高水準の報酬を支払うことも重要です。そういう人材は従来の小売業の企業文化とは異なるので、分社化によるIT・AI人材の確保も必要になるとおもいます。

長期的な環境変化の第2は、「100年に一度の基幹技術の革新」という大変化が起こることです。2000年代前半から、世界は第4次産業革命(インターネット・AI革命)の中にいますが、1960年代から発展した日本のチェーンストア産業は、第4次産業革命に乗り遅れ、この半世紀まったく進化できていません。その結果、日本の小売業の生産性はきわめて低い状況です。

AI、IoTなどの技術を活用したデジタル化によって、小売業の仕組みを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)型」の小売業への進化が必要です。

──トランスフォーメーションという言葉が出ましたが、「小売業の在り方」を根本から見直す時期に来ているということですか。

亀田 これからは「単純な安売り」は成り立たなくなっていきます。人件費の高騰、建築費の高騰、物流費も高騰しています。当然、店舗運営のコストも高騰し、これまでの単純なディスカウントはできなくなってきます。当社でも、平均年率3~4%人時単価が上がっています。これに対応できるだけの生産性の改善を進めなければ、間違いなくコストを吸収できなくなります。

現在、「店舗の在り方」「運営の仕方」をもう一度、根本的に見直そうと考えています。デジタルの世界だけを捉えると、1990年ぐらいから劇的な変化が起きています。

ただし注意しなければならないのは、店舗という資産があるなかで、すべての店舗を一気に変化させるのはできないということです。新店や、投資回収の終わった店舗から順次変えていく必要があります。

当社の社内では「レトロフィット」という言葉をよく使います。いまある既存設備と適合させて新設備の導入を図ることを優先するという意味です。当社が実験している「AIカメラ」も「レジカート」も、既存のオペレーションにプラスオンしたデバイスですので、既存の小売業にも導入しやすい機器だとおもいます。

リアル小売業は、Amazonとは異なり、「店舗運営優先」の技術導入が先だとおもいます。少しずつ変化しながら、すべての小売業が第4次産業革命の恩恵を受けられるのは10年以上先の話かも知れません。

パートナーとの協働でデジタル革命を推進

──御社が参画している「リテールAI研究会」などで、多くの企業と協働して、小売業のデジタル化を進めようとしていますね。

亀田 Amazonのような巨大企業のように、一社でサプライチェーン全体を再構築することはできません。だから当社は、多くのパートナー企業さんと協働することを重視しています。

メーカー、卸、小売、物流、メディア、金融、システム、ファシリティなどの、ビジョンを共有できる有力企業さんとの協業を図り、効率的なサプライチェーンを構築できればいいと考えています。

たとえば、冷蔵庫の外付けのデバイスなどで、ある程度の実験結果が出始めた技術を「フクシマガリレイ」さんと共同で開発しています。店舗内の棚や冷蔵・冷凍ショーケースは、老朽化するなかで、新しい技術に置き換わっていきますので、それを設備機器メーカーさんと一緒に進めています。

また、物流に関しても、低温物流に強みを持つ「ムロオ」さんと協働して、デジタル時代の新しい物流システムを構築しようとしています。

メーカーさんとの協働に関しても、ジョイント・ビジネス・プラン(JBP)という手法を使って、当社の販売データ、顧客データをメーカーさんや卸売業さんに提供して、「新しい売り方」や「カテゴリー創造」を製配販で協働して変革する試みも継続的に実施しています。

JBPによる協働では、メーカーさんの営業部門だけでなくて、本部のマーケティング部門の担当者とも取り組んでいます。「リベートを渡すから売ってくれ」という従来の商談から脱却したいと考えています。

また、「リテールAI研究会」には、ドラッグストア(DgS)さんなどのほかの小売業も参加しており、小売業のデジタル化に関して共同で研究しています。当社が実験中の「AIカメラ」も、当社一社で導入するよりも、多くの企業さんに採用してもらえれば、1台当りの費用が下がります。インフラはともに使おうという考え方です。

銀行さんとは「小売」と「決済(金融)」の新たな連携方法を模索しているところです。当社はいま流行の「キャッシュレス還元」よりも、「本質的なキャッシュレス化」への対応を検討しており、「自社プリペイドカード」を軸に低コストの決済方法を銀行さんと一緒に研究中です。

浮動客よりもロイヤルカスタマーを重視

──以前取材させていただいた「新宮店(新宮町)」では、「AIカメラ」や「タブレットカート」などの新しいIT技術を導入していましたね(写真1、2参照)。

亀田 当社もまだすべて実験段階です。とにかくいろんなことに挑戦しています。「AIカメラ」は、人間が目視で確認していたものは、カメラで代替できるようになっています。カメラで「欠品状況」を見たり、「棚割」を見たり、棚前のお客さまの「購買前行動」を見ることができるようになり、そのビッグデータを分析できる時代になっています。

棚前の購買前行動データは、JBPの取組みのなかでメーカーさんに提供し、売り方や棚割の改善につなげればいいと考えています。

これからの小売業は「省人化」を進めていく必要があり、新宮店ではレジ作業を大幅に省人化する「タブレットカート」を導入しました。しかし、タブレットカート導入の目的は、省人化だけではなくて、お客さまの「買物体験」の質の改善も重要な目的です。

当社のハウスカードをスキャンしてからタブレットカートの買物はスタートし、お客さまが商品をタブレットカートでスキャンしながら店内を回遊します。お客さまのIDが特定されているので、お客さまのパーソナルな購入履歴や属性に基づいたパーソナルクーポンを画面に表示したり、「リコメンド機能」でおすすめ商品を表示することもできます。将来的には、販促がよりパーソナル化していくことは間違いないとおもいます。

[写真1]新宮店では、「タブレットカート」を実験している。目的は、レジ作業の省力化と、顧客データに紐付いたパーソナルクーポンなどのワンツーワンマーケテイングの実験。
[写真2]新宮店では天井に設置されたAIカメラで、顧客の購買行動と、棚の状態の可視化を進めている
──不特定多数の浮動客相手の商売から、固定客との長期的な商売に転換するということですね。

亀田 そうです。当社がいままでできなかったことは、本当にトライアルを愛してくれている「ロイヤルカスタマー」に対する特別な対応です。デジタル化によって、プリペイドカードやID-POSデータで、個人のIDを確認できるようになりました。また、AIカメラを使って、個人の属性を特定することもできるようになってきました。

ID特定ができると、当社の「ロイヤルカスタマーがだれなのか」がわかります。これまでは、チラシ販促などで、ロイヤルカスタマーもバーゲンハンターもだれでも万遍なく、同じディスカウント価格で集客していました。

しかし、これからは、ロイヤルカスタマーの購買履歴や属性に合った「特別な販促」をワンツーワンで提供できるようになります。

タブレットカートによる販促の個別化の成果が出るのは、まだこれからです。いま、お客さまがタブレットカートに価値を感じてくれているのは、リコメンド機能よりも、合計金額が見えるとか、決済をレジ待ちせずにできる省力化と便利性の部分です。

当社のタブレットカートは、海外も含めて多くの小売業さんが見学に来られますが、皆さんが驚かれるのは「利用率」の高さです。平均で来店客の40%がタブレットカートを利用しています。これは世界的に見ても高い利用率だとおもいます。

まだ小ロット生産なので、投資回収できる段階ではないのですが、手応ええを感じていることは、「お客さまの購買体験は変わったよね」「利用者は増えているよね」ということです。

──ロイヤルカスタマーとの関係性の強化に取り組んでいこうとしているわけですね。

亀田 ロイヤルカスタマーの関係性の優遇(エンゲージメント)に取り組んでいきたいとおもいます。短期的な浮動客相手ではなくて、固定客の長期的なライフ・タイム・バリュー(LTV)の向上をベースにした経営に転換していきます。

タブレットカートを利用してもらうと、お客さまの購買情報の詳細がわかります。だれが購入したかがわかり、お客さまの購入の順番がわかり、買物時間もわかるようになります。

また、ネット販売が画面のサイズだけの情報提供に対して、「タブレットカート+店全体」で、お客さまの五感に訴えるような情報提供を強化しています。

だから、サイネージによる情報発信も増やしています。五感で体感できるのがリアル店舗の強さですね。実際にリアルの商品がそこにある。全方位で見える、取って触れる、試食できるという体験価値を演出できるのはリアル店舗の最大の強みだとおもいます。当社では「ショールーム」としてのリアル店舗の空間価値と体験価値を向上していき、「リアルの強み」と「デジタルの強み」の融合を目指します。

トレーサビリティ(生産→物流→店舗→廃棄までの追跡システムのこと)を可視化できることもリアル店舗の新しい買物体験ですね。デバイスでバーコードリーダーを読めば、生産者の顔が見えて、取れた場所がわかって、生産方法がわかるなどの情報提供も可能になります。その情報価値によって購買行動は変わります。

とくに、POPよりも伝達能力の高い「動画」による情報発信をもっと店頭で強化したいですね。これからは「店舗のメディア化」の可能性は大きく広がっていくとおもいます。

 

–続きは月刊マーチャンダイジング2020年2月号でご覧ください。

・ワンツーワンの時代に売場で何を工夫しているのか?
・トライアルがPBよりもNBを重視する理由とは?
・トライアルがチャレンジする業態戦略とは。

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最大の売上対策「機会損失」を防ぐPALTACの「PITシステム」

深刻な人口減少時代に突入した日本における売上対策は、「販促強化」よりも「機会損失」を防ぐことの方が重要です。1月30日の「PALTACフェア」で紹介されていた、同社の「機会損失対策を主な目的とした店頭支援機能」を紹介します。

店頭実現力が低いために膨大な機会損失が発生

2019年は、「死亡数-出生数」(人口の自然減)が初めて51万人を超えました。次の10年の日本は、深刻な人口減少時代に突入します。人口減少時代は、かつてのように販促を強化すれば、売上が大きく増えるという成功体験は通用しません。これからのリアル小売業の最大の売上対策は、店頭で発生している膨大な「機会損失」をつぶすことです。

PALTACフェアで展示していた資料(図表1)によれば、メーカーの最大の悩みは「本部商談が決まっても店頭実現力が弱い」という項目でした。2018年調査よりも、2019年調査の方が「悩みの割合」が高いのは、人手不足による「不完全作業」の横行で店頭実現率が大きく低下していることを物語っています。

PALTACでは、店頭現場の悩みとして、以下の5項目を挙げています。

店頭現場の悩み
(1) 人手不足で売場づくりの時間がない
(2) 品出し作業が多すぎる
(3) 作業の標準化ができない(店による作業レベルのバラツキが大きい)
(4) 本部指示の売場が反映できない
(5) レジ応援が頻繁に発生し、作業が中断される

その結果、店頭現場では「欠品による機会ロス」「売るべき商品の未展開」「不十分な接客」によって、膨大な売上ロスを発生させています。また、「労働時間の増加」「無駄な販促物の廃棄ロスの増加」など、店頭のコスト増も、店頭現場のリアルな悩みであると、PALTACは分析しています。

商談結果を「正確」に「早く」「一斉」に実現

PALTACは、「PITシステム」(PALTAC Innovation Technology)という店頭実現率向上のための仕組みを導入し、上記の店頭現場の悩みを解決するサポートを実施しています(図表2)。PALTACでは、約300名(全営業の3割)で構成する「ラウンド営業のスペシャリスト部隊」が、店頭実現率の向上を担当します。

図表2 PALTACの店頭支援機能「PITシステム」

「メーカーから販促物と商品がバックヤードに届いていたのに、店頭に陳列されずにメーカーに返品される」いったよくある機会損失も、ラウンド営業部隊が売場陳列を完全実施します。その結果、機会損失が減るだけでなく、販促物の廃棄ロスを防ぐことができます。店頭陳列されないで捨てられる販促物の廃棄ロスは、メーカーがつくる販促物の6~7割ともいわれています。ばかばかしいですよね。

ラウンド営業部隊による店頭支援機能の特徴の第1は、商談結果を「正確」に店頭実現することです。メーカーのラウンダーの場合、店頭で自社商品の陳列量を増やしたり、有利な陳列位置に変更するなど、恣意的な店頭実現が行われることもあります。PALTACの店頭実現は、商談結果を正確に店頭実現することが最大の特徴です。これなら小売業の信頼も得られますね。

第2は、「早く」「遅れず」に店頭実現を実行することです。とくに季節商品の陳列の遅れは、致命的な機会損失を発生させます。売れる時期に売れる商品を遅れずに陳列することは、売場づくりの最重点課題です。

第3は、「一斉」「広域」に店頭実現できることです。一人のラウンド営業マンが1日4店舗の陳列作業を実行すると、1日で「300人×4店舗=1,200店舗」の広域な店舗網の店頭実現を完了することができます。

PITシステムでは、売場陳列の写真の共有の仕組みもあります。また、単に完全作業を実行するだけではなくて。MD(マーチャンダイジング)に関する知識を持つラウンド営業マンが「こういう陳列にした方が売れる」といった売り方や改善点などを小売業やPALTACの営業マンに「逆提案」する機能もあります。

「単なる作業部隊」を超えた提案ができるのも卸売業の強みですね。

あえて「パッケージを統一しない」というPB戦略

統一されたパッケージデザインのPB(プライベートブラント)商品開発によって、企業としてのブランディング戦略を進める小売企業が増えています。しかし、売場がPBだらけに見えることを嫌って、あえてPB商品のパッケージを統一しないPB戦略を進めている企業もいます。

セイコーマートの菓子売場。PB商品が3分の1を占めているが、あえてパッケージデザインを統一していないので、「PBだらけの売場」という印象がない。

パッケージを統一しないセイコーマートのPB戦略

2020年は、同質競争から脱却し、「差別化」の時代が到来すると思います。差別化戦略のためにも、「看板を取っても、どの企業の店かすぐにわかる」くらいの個性を持つ必要があります。そのためにも、PB戦略を強化し、他店では取り扱いのないブランドを育成し、企業・店としてのブランディングを目指すべきです。

かつての小売業のPB開発は、NB(ナショナルブランド)メーカーのパッケージそっくりに物真似し、価格は半値といった「プライスブランド」が主流でした。しかし最近は、その小売企業の世界観を表現するような統一されたパッケージデザインを開発するPBが主流になっています。

一目でPB商品であることがわかる反面、「PBだらけの棚」を嫌がるお客も一部にはいることは確かです。最近のIYグループの棚を見ても、セブンプレミアムのパッケージが圧倒的な面積シェアを占めています(下の写真)。

一方、北海道民に圧倒的な支持を得ているコンビニの「セイコーマート」は、PBのパッケージデザインをあえて統一していません。セイコーマートは、取扱商品3,500品目のうちPB商品が1,000品目を占めています。PBの売上構成比は50%を超えており、PB比率の高い代表的な企業です(PB開発で有名なカインズでも40%)。それほどPBを強化しているのにあえて、PBのパッケージデザインを統一しないで、単品でブランディングしていく戦略です(巻頭の写真参照。セイコーマートの戦略の詳細は月刊MD2月号に掲載しています)。

アメリカのアルディもデザインが不統一

アメリカで快進撃を続ける「アルディ」も、PBの売上構成比が80%と高いにもかかわらず、パッケージデザインを統一していません。アルディは、売場面積300坪程度の小型のバラエティストアの高速出店を継続しており、売上高2兆8,000億円、店舗数は2,300店を超えています。グループ会社の「トレーダージョーズ」が、「Trader Joe’s」のブランド名でPBのパッケージロゴを統一しているのとは対照的です。

商品カテゴリーごとにPBのパッケージデザインを変更しているアルディ。

日本のドラッグストアのマツモトキヨシも、パッケージデザインを統一しないで、商品によって変更しています。しかし、有名な「マツキヨスラッシュ」をすべてのパッケージに入れることで、デザインは異なるが、マツキヨブランドであることが潜在的にわかるパッケージになっています。マツモトキヨシのPB戦略は、「PBだらけ」というデメリットを解消しながら、統一感を出すことに成功していると言えます(下の写真)。

パッケージデザインは商品によって異なるが、「マツキヨスラッシュ」が入ることで、企業ブランドとしての統一感が出る。

カインズ「ネット注文→店舗受け取り」の「CAINZ PickUpロッカー」実証実験開始

HC(ホームセンター)最大手の「カインズ」は、ネットで注文して店舗で受け取る「CAINZ PickUp ロッカー」の実証実験を、「カインズ浦和美園店」で開始しました。アメリカのリアル店舗の売上増に貢献している同サービスが、日本でも普及段階に入りそうです。

BOPISの実証実験を開始したカインズ浦和美園店。

アメリカ小売業で起きている3つのトレンドは「レジフリー」「BOPIS」「差別化」

ロングテールの売上増で既存店の売上を増やす

この連載でも何度も取り上げているように、ネットで注文し、店舗で受け取るサービスのことをBOPIS(Buy Online Pickup In Store)といいます。ウォルマート、ホームデポのアメリカ大手小売業は、新店を増やさないで、BOPISの強化によって既存店の売上を大きく増やしています。

カインズは、店内にピックアップ用のロッカーを設置し、BOPISの実証実験を開始しました。2021年には全国展開を予定しています。カインズは3年前に「IT企業宣言」を掲げて、デジタル戦略を強化してきました。デジタル戦略の目標として「わずらわしさの解消からエモーショナルな買物体験の創造」という言葉を掲げていました。

カインズは、BOPISのメリットとして以下の4つを挙げています。

(1)ネットで簡単注文
店舗で商品を探し回る「わずらわしさ」を解消し、ネットで簡単に注文できます。
(2)商品を直接確認
商品を店舗で直接確認してから購入できます。現物を確かめてから購入したいという買物客にとっては評価の高いサービスです。
(3)取り寄せサービス
店舗に在庫のないロングテール商品もお取り寄せして受け取ることができます。
(4)送料無料
好きな時間に店舗で受け取れて、送料も無料です。

BOPISサービスの良い点は、ネットで注文した商品の質感や色などの「現物」を店頭でお客が直接確認できることです。もしイメージと違っていたら、その場で購入を中止できることもできます。お客にとってメリットのある新しい買物体験です。

また、店舗に在庫のないロングテール商品をお取り寄せできることがBOPISの最大のメリットです。アメリカのホームデポでは、店頭在庫は3~4万品目程度ですが、ネット在庫は100万品目も在庫しています(メーカーのお取り寄せ在庫含む)。BOPISを導入することで、ロングテール商品の売上がリアル店舗の売上増に貢献することが、ホームデポの既存店が好調な最大の理由です。

現物を確かめてから購入するかどうかを決定

「CAINZ PickUp ロッカー」は、オンラインショップで購入した商品の受取用ではないことが特徴です。あくまで「取り置きサービス」であり、事前決済は必要ありません。本当に購入するかどうかは、店に行って現物を確かめた後に決めればいいのです。また、店に来店した後に、他の商品を購入して、それらと一括清算もできます。ホームデポでは、BOPISで来店したお客の60%以上は他の商品も衝動購買するという結果がでています。「来店→衝動購買」も、リアル店舗の売上増に貢献します。

カインズでは、2019年10月より一部の店舗で従業員向けに「Find in CAINZ」というサービスの提供も開始しました。これは、従業員向けの携帯端末に店舗のレイアウト図が表示し、商品の「在庫数」と「陳列場所」が確認できるサービスです。アメリカのホームデポは、5年ほど前から、「Find it Fast」(早く見つかる)という名称で、同様のサービスを提供しています。

自宅にいながら、購入したい商品の在庫が店舗にあるかないかの確認ができることも、新しい買物体験です。「せっかく来店したのに商品がない」という「店頭欠品」は、店の信頼をもっとも損なうものです。そういう意味で、在庫確認サービスによる顧客満足度のアップは大きいと思います。オンラインの買物では当たり前の「在庫確認」が、リアル店舗でもできるようになります。オンラインとリアルの買物体験がどんどん近づいているようです。

年々スペースが拡大している「ホームデポ」のBOPIS専用カウンター。

PALTACが提携した米国企業のレジフリー実験店を見てきた

話題のアマゾンゴーのように天井の「AIカメラ」で購買行動を補足し、レジを通らないで買物が完結するレジフリー方式を「ジャスト・ウォークアウト」(Just Walk Out)といいます。アマゾンゴーに続く最新事例を紹介します。

サンフランシスコのダウンタウンにある「スタンダードストア」。

アメリカ小売業で起きている3つのトレンドは「レジフリー」「BOPIS」「差別化」

カメラで購買行動を補足するジャスト・ウォークアウト方式

アメリカのスタートアップ企業「スタンダードコグニション社(Standard Cognition)」が、米国サンフランシスコのダウンタウンで実験中の「スタンダードストア」を見てきました。日本の大手卸売業「PALTAC」が提携して話題になった企業です。

東北のドラッグストア「薬王堂」が、スタンダードコグニション社(以下SC社)の技術を導入して、レジなし店舗の実験を開始する計画です。SC社は、今年の6月に東京オフィスを開設し、日本でも小売業向けの「レジ無人化システム」の導入を計画しています。

SC社の技術は、アマゾンゴーと同様に「AIカメラ」でお客の購買行動を補足し、お客は商品を自分のバッグに入れて、そのまま退店すれば精算が完了します。アマゾンゴーとの違いは、アマゾンゴーよりもカメラの台数が少なくてすむため、投資額が低いことです。また、アマゾンゴーは棚に「重量センサー」が付いていますが、SC社の技術では「カメラのみ」でお客の購買行動を補足できます。

さらに、アマゾンゴーのAIカメラが記録したお客の「購買前行動」のデータは原則非公開になるであろうと推測されるのに対し、SC社は「購買前行動」のビッグデータを小売業や取引メーカーに公開します。AIカメラが記録した「ショッパーリサーチ」のマーケティングデータを、製配販で分析し、売り方の改善に結びつけられるのは魅力ですね。

SC社のプレゼン用の実験店。日本人の見学者も多いのか、売場には日本語表示もある。

退店してから約10分後に電子レシートが来る

事前に「SC Checkout」の無料アプリをダウンロードし、メールアドレス、パスワード、クレジットカード情報を入力すると、下の画面が出てきます。入店した後に、「CHECK IN」を押すと買物がスタートします。

スタンダードストアは、あくまでもSC社のプレゼン用のモデル店舗なので、営業時間も平日3時間程度です。売場面積は約40坪の小型店で、1回に来店できる人数は5人以内に制限されていました。この店舗でデータを蓄積し、本格的な「レジ無人化システム」の実現を目指している段階のようです。スタンダードストアは、ノースカロライナ、トロント、ヒューストンにもありますが、売場面積の小さな「売店」からスタートしています。

店内には約30台のカメラがあります。商品を棚から取って、店の外に出ると、買物が完了します。店を出てから約10分後にアプリに電子レシートが飛んできます。今回体験した人達の中で「合法的万引」に成功した人はおらず、カメラのみで購買行動を正確に補足していました。

AIカメラのみで購買行動を補足する。
約10分後にアプリに電子レシートが飛んできた。

ファーストリテイリング、ロボット活用で倉庫完全自動化とサプライチェーン改革に挑む

「ユニクロ」を展開する株式会社ファーストリテイリングは、2019年11月13日に、東京都江東区有明の「UNIQLO CITY TOKYO」にて記者会見を開き、同社が「情報製造小売業」への転換の一環として推し進める「有明プロジェクト」におけるサプライチェーン改革の実現に向けたパートナーシップを拡大すると発表した。(ライター:森山和道)

ファーストリテイリングは2018年10月に、物流倉庫や工場内のマテリアルハンドリング大手の株式会社ダイフクと戦略的グローバルパートナーシップを構築すると発表している。2016年12月から両社で進めた有明倉庫の自動化・省人化を通した提携をさらに強化したもので、世界中の物流拠点で自動化を推進している。

今回はそのダイフクに加えて、株式会社MUJIN、Exotec Solutions SAS(エグゾテック ソリューションズ)と合意書を締結した。ファーストリテイリングはダイフクとは既に国内2拠点、海外2拠点の計4拠点で倉庫自動化に着手している。加えてMUJINのピッキングロボット技術を導入し、Exotec Solutionsとの提携により、それぞれ海外で1拠点ずつ自動化を進めている。さらにグローバル展開を加速してサプライチェーン全体の改革を進める。

投資金額は全体でおよそ1,000億円規模。改革達成までの期間は3年から5年を目処とする。データとアルゴリズムを活用した精緻な予測と細かい発注、リードタイムの短縮によって、必要なものを必要なだけ作り、顧客が欲しい商品を欲しいときに届け、在庫問題を大幅に改善することを目指す。

現状は一ヶ月から二ヶ月くらいかかっているリードタイムを2週間から一ヶ月くらいにまで短縮する。改革が達成できれば、9割くらいの要望には応えられるはずだという。

エンド・トゥ・エンドのサプライチェーン改革

 

株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長 柳井正氏

株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長の柳井正氏は「世界でも珍しい取り組み。お互いに未来を作るために取り組む」と初めに述べた。そして今回、新たに提携した2社について「これから非常に大きく成長する企業だ」と紹介し、これからは世界的にロボティクス、マテハン技術などが協調して「本当の意味でのエンド・トゥ・エンドのサプライチェーンを作ることができた企業だけが今後の世界を作っていく」と語った。

また、記者からの質問に答えて「将来はリアルのビジネスのほうが強くなる。そのためには顧客が欲しいものがそこにあることが必要。お客様の情報が全てを制する。商品をリアルに作れるところが最終的に勝つと思っている」と語った。

株式会社ダイフク 代表取締役社長 下代博氏

株式会社ダイフク 代表取締役社長の下代博氏は、ファーストリテイリングが既にRFIDを埋め込んだ商品タグで物流センターで自動的に読み取って検品効率化していること、同社によるユニクロやGUの店舗ではセルフレジが導入されており、置くだけで自動精算ができることをはじめに紹介し、「これだと思ったことは失敗を恐れずにすぐに実行するスピードに驚いている。スピードこそがファーストリテイリングの成長の力になっている」と語った。

ダイフクもその「スピード感」に追随して、有明以降、海外での3拠点の取り組みを進めていると紹介し、今後もグローバル展開のサポートを行っていくという。ファーストリテイリングは生産から販売までを自社で手がける製造小売業であり、同社が掲げる「情報製造小売業」化を進めるためには全自動化が欠かせない、我々も国際戦略パートナーとしてサプライチェーンの一端を担いたいと述べ、「共通する企業文化のもと、共に汗を流して成長していきたい」と語った。

MUJINと「アパレル用知能ピースピッキングロボット」を開発

株式会社MUJIN CEO兼共同創業者 滝野一征氏

株式会社MUJINは2011年7月創業の産業用知能ロボットコントローラメーカー。MUJINが独自開発したロボットの動きを生成する「モーションプランニング技術」を実装した「コントローラ」と、目にあたる「3Dビジョン」によって、各社の産業用ロボットをメーカーを問わず「知能化」、すなわち、動きをティーチングすることなく(ティーチレス化)ロボット自体が動きを考えて動けるようになるソリューションを展開している。従業員数は2019年9月現在で103名。

MUJINコントローラーと3Dビジョンでロボットを「知能化」する

株式会社MUJIN CEO兼共同創業者の滝野一征氏は「ティーチレス化」は物流倉庫でのロボット導入においては非常に重要だと述べた。通常、ロボットに物体を扱わせるためには、事前に商品を計測してロボットの動作をティーチングする必要がある。だが多品種を扱う物流センターで全ての商品をあらかじめティーチングすることは現実的に難しい。MUJINのコントローラーと3Dビジョンはティーチレスでのピッキングを可能にする。2019年8月時点での世界での累計販売台数はコントローラが560台、3Dビジョンが350台。

自社技術で物流の各種ソリューションを独自開発

今回、ファーストリテイリングとは「アパレル用知能ピースピッキングロボット」を開発した。従来よりファーストリテイリングは世界トップのマテハンメーカーであるダイフクと提携して自動化を進めている。だがピッキングの部分は自動化されていなかった。それには理由がある。アパレルのピースピッキングはシーズンごとに商品が頻繁に変化し、商品自体も柔軟で変形しやすく掴みにくい。また似ている商品、無地商品、サイズ違いなども多く、認識が間違いやすい。そのため従来は人手が欠かせなかった。

MUJINとファーストリテイリングが開発した「アパレル用知能ピースピッキングロボット」

MUJINはそれらに対応するために超多品種対応の3Dビジョン、柔軟なロボットハンド、ピッキング中のロボットによる自動検品機能などを組み合わせてソリューション化した。滝野氏は、今回のパートナーシップを通して、全世界のユニクロ倉庫の完全自動化を目指すと述べた。

ダイフクと合わせて自動倉庫を実現

滝野氏によれば、完全物流自動化に適した会社の条件は3つあるという。ロボットに合わせて荷姿を変えるための自社製造、自動化に合わせた物流システムを構築するための自社物流網、自動化ニーズを支えるための高い成長率だ。これらの条件を満たすファーストリテイリングとのパートナーシップによって「これからのイノベーションを起こしていける」と締めくくった。

完全物流自動化に適した3条件は自社製造、自社物流網、高成長率

自動倉庫ソリューションのExotec Solutionsとは欧州で提携

Exotec Solutions SAS CEO ロマン・ムーラン氏

Exotec Solutions SASは2015年に二人のエンジニアによって創業された企業で、物流分野でのロボット活用によって急速に成長している。現在の従業員は120名。具体的には「Skypod」という自動倉庫を展開している。

Exotec Solutions SAS「Skypod」

秒速4mで動き、30kgのペイロード、自己位置推定技術、バッテリーなどを搭載した自動走行ロボット台車と高さ10mほどの自動倉庫を組み合わせたもので、ロボットは単に地面を走るだけではなく、ラックの上の任意の位置まで登っていくことができる。荷物を持ってきたロボットは定位置のワークステーションに戻ってくるので、人間の作業者は動く必要がない。

自動走行ロボットがラック内を移動する

Exotec Solutions SAS CEO ロマン・ムーラン(Romain Moulin)氏は「物流の波動に対してロボットの台数と棚数を増やすだけで対応できる柔軟なシステムだ」と利点を述べた。同社の工場はフランスにある。2019年には新施設を稼働させており、来年のロボット生産計画は1000台。フランスではカルフールなどに導入されている。ファーストリテイリングともヨーロッパで提携している。

フランスでの導入実績

改革によって「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」

株式会社ファーストリテイリング グループ上席執行役員 神保拓也氏

サプライチェーン改革の全体像については、株式会社ファーストリテイリング グループ上席執行役員の神保拓也氏が解説した。

そもそもサプライチェーンの改革の目的は「お客様が欲しいものがいつもある」という「顧客にとってのあたり前」を実現することで、そのために商品提供側は無駄なものをつくらない、運ばない、売らないことを実現しなければならない。しかし、これらは容易ではない。サプライチェーンは複雑化し、制度疲労しており、最適化しようにも制約が多く、これまでは「改善」はできても「改革」は難しかった。だがファーストリテイリングでは、AIやロボティクスなどのデジタル技術によって改革が実現できる時代になったと考えて取り組みを進めているという。

ファーストリテイリングによるサプライチェーン改革の全体像

同社は「情報製造小売業」を目指している。そのために、あらゆる情報を集めていきたいという。顧客情報、販売情報、各地の天候、マーケット動向など多様な情報を1箇所に、リアルタイムで集積する。そして可視化する。これによって精度の高い販売計画を立てることが可能になる。

だが商品を提供するためには、生産のリードタイムも削減しなければならない。服は実売期よりも、かなり前に生産しなければならないからだ。在庫を最適化して欠品をなくすことも必要となる。

そのために、これまでは各部署ごとだったシステムを見直す。これまでは全体を把握して課題を把握しているとは必ずしも言えなかったという。それをリアルタイムで可視化・一元化する。各部署が連動し、エンド・トゥ・エンドで情報を収集し、機械学習技術や配送技術での数理最適化活用などを用いて解析・予測・最適化する。そして全員が同じ情報を同時に見ることができるようにして意思決定の精度を上げる。

サプライチェーン全体を可視化し一元化する

リードタイムを削減するためには、具体的には工場への発注時期を、実売期により引きつける必要がある。そのために企画・生産・輸送までの全体リードタイム削減を目指す。これまでは実物サンプルの作成・輸送に時間がかかっていたが、3DCADを活用してバーチャル上でサンプル確認をしたり、一部はあらかじめ企画をストックしておいたり、サンプル作成の内製化を進める。

また、これまでは生地素材についてもコスト効率を重視し大ロットで発注していたが、多頻度・小ロット発注とする。縫製プロセスも人に依存していたやりかたから、生産工場の自動化を進めていく。一部素材については予め工場に備蓄することで効率向上を狙う。輸送についても現状は船便をメインに使用しているが、今後は輸送の緊急度などを踏まえて最適な輸送形態を選べるように最適化する。貿易書類の作成や通関手続きも標準化/システム化することで短縮することで、ここでもリードタイムを削減する。そして、日々アップデートされる計画にフレキシブルに対応できる物流を目指す。

在庫の最適化によって過剰在庫・欠品も削減する。計画領域ではAIやアルゴリズムで販売計画を精緻化、更新する。生産では数理最適化を用いて販売計画に連動させる。フレキシブルな生産体制構築も目指す。店舗在庫を最適化するには必要な量・種類を届ける必要がある。

これまでは倉庫であらかじめ決めた種類と量を詰め合わせたアソートメントボックスの送り込みが配荷の中心だったが、この方法は店舗で過剰在庫・欠品の両方の課題を引き起こしていた。そこでこれからは倉庫において各店舗が必要な量を配送する。そのためのピッキングについても人海戦術だと作業費用が大きくなりすぎ、また今後は人手不足によって作業者の確保も困難になることが予想されることから、ロボットを活用した自動化を進める。これらサプライチェーン全体にわたる取り組みによって店舗での過剰在庫・欠品を減らす。

過剰在庫や欠品の削減の実現を目指す

神保氏は、「これほど多岐にわたる取り組みは自分たちだけではできない、世界中の優れた個人・企業との協業が必要不可欠だ」と述べた。今回の提携先だけではなくGoogleやアクセンチュアなど先端的な企業とのコラボレーションをスタートさせており、全世界に最先端自動倉庫を展開しようとしている。

ファーストリテイリングのグローバルパートナー

また「優秀な個人人材も世界中から加わってほしい」と述べた。特に求める人材像は「改革推進リーダー」と「”超”専門家」だという。

「改革推進リーダー」と「”超”専門家」を求める

最後に神保氏は「当たり前を世界で一番最初に実現する企業」を目指すと述べた。それは、今までは最初からできないと諦めていたことにチャレンジすることだという。ここに、AI、アルゴリズム、ロボティクスなどのテクノロジーと人間の知恵を融合させて挑む。そして「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」がファーストリテイリングのミッションだと締めくくった。

アメリカ小売業で起きている3つのトレンドは「レジフリー」「BOPIS」「差別化」

10月28日から1週間、アメリカ小売業の視察に行ってきました。アマゾンの台頭で急激な変化の途上にあるアメリカ小売業の3つのトレンド「レジフリー」「BOPIS」「差別化」を整理してみましょう。

アマゾンゴーの店内。

確実に進んでいるレジフリー

小売業の店内作業でもっとも人時のかかっている作業は「レジ作業」です。客数の多いSM(スーパーマーケット)のような業態では、店内作業の30%はレジ関連作業です。

一方アメリカではレジ作業を減らす「レジフリー」の実験が確実に進んでいます。

レジフリーの目的は、

(1)省人化による生産性の向上
(2)レジ待ちの煩わしさを解消する便利な買物体験の提供

の2つです。

レジフリーの第1は、「アマゾンゴー」の「ジャスト・ウォークアウト」方式です。

アマゾンゴーのアカウントを作成し、QRコードを取得し、日本の電車のSuica(スイカ)のようなゲートにQRコードをかざせば店内に入れます。あとは、自由に商品を取って自分のバッグに入れてそのまま退出するだけです。10分後くらいに購入した商品の画像、購入点数、金額がアマゾンゴーのアプリに送られてきます。天井に設置された監視カメラと、棚の重量センサーの技術を活用して、お客の購買行動を補足しています。

万引しようと、あれこれ不審な行動をとってみましたが、何を持ち出したかを正確に補足されました。

レジフリーの第2は、「スキャン&ゴー」方式です。

日本でもトライアルが「タブレットカート」で同方式を導入していますが、専用端末やアプリのスキャナーで商品のバーコードを、お客が自分でスキャンして一括精算する方式です。ウォルマート、クローガーのような大規模チェーンも、スキャン&ゴー方式に対応したセルフレジのスペースが年々拡大しています。将来的には、アマゾンゴーのようにアプリ内で精算完了し、レジを通らないで退出する精算方式が主流になるかもしれません。

タブレットカート、電子棚札、AIカメラがさらに進化「トライアルクイック 大野城店」

BOPISの導入が一気に進んでいる

ホームデポのBOPIS受け取りカウンター。広い接客カウンターと、広い在庫スペースを確保していた。

オンラインとリアルの継ぎ目のない新しい買物体験として、BOPIS(Buy Online Pickup In Store)の導入が一気に進んでいます。BOPISとは、オンラインで注文した商品を店舗でピックアップするサービスのことです。

BOPISの導入により、店舗で在庫していない「ロングテール商品」を販売することで、既存店の売上が増えます。

ホームデポは、通常の店舗では3~4万のアイテムが在庫されていますが、オンラインでは100万以上のアイテム(メーカーへの客注含む)が販売されています。その膨大なアイテムが店舗売上として計上できれば、当然、既存店舗の売上増につながります。また、店舗ピックアップのために来店した顧客の70%は、なんらかの商品を「衝動購買」するという調査結果もあり、とにかく来店してくれれば、買上点数も増えます。

ホームデポでは、上の写真のような広いBOPISの受け取りカウンターを設置しています。オンラインで注文した商品の受け取りを有人のカウンターで実施することで、接客とカスタマーサービスを強化し、アマゾンに対抗しようとしていることがわかります。

「つまみ食い的」なデジタル施策の失敗を認め、オンラインID獲得へ動け

アメリカ小売業は差別化の時代に突入

今回、アメリカの小売業を視察してもっとも印象に残ったことは、「同質化の競争」から「差別化・異質化の競争」時代に突入していることです。

日本では、「看板を外せばどの店かわからない」という同質化競争の真っただ中ですが、いずれ日本も「差別化・異質化の競争」時代に突入していくことは間違いないと思います。

HC(ホームセンター)大手のホームデポとロウズは、同じHCですが、ターゲット客層が明確に異なっています。ホームデポは、男性のDIY客、プロの職人が多く、ロウズは女性客が多いのです。従ってロウズは、照明器具などの完成品の売場が広く、家庭用品の品揃えも、ホームデポよりもはるかに充実しています。同じ土俵で戦わず、差別化・異質化を志向していることがわかります。

また、アマゾンや量販店のどこでも購入できるペットフードを取り扱っているペット専門店チェーンが好調なので、何をやっているかと視察してみたら、量販店では取り扱いのない高機能のペットフードを主力に取り扱っており、商品で差別化していました。業界第2位のペトコは、手作りのペットフードを提供する専門店「ジャスト・フード・フォー・ドッグス」と提携して、店内にインショップで展開していました。

ペット専門店チェーン業界第2位のペトコは、手作りのペットフードを提供するジャスト・フード・フォー・ドッグスという専門店をインショップで導入している。ウォルマート、アマゾンのペットフードの品揃えとの差別化を目指している。

また、業界第1位のベッツマートは、ペットホテル、ペット病院、ペットの美容室を併設していました。ペットホテルの利用率の高さには驚かされました。さらに、物販スペースを犠牲にして、ドッグランのスペースを確保するなど、量販店との差別化・異質化を徹底していました。

満室近いペットホテルとペットの病院。ベッツマートの店内から入れるように併設していた。

SM業態も、なんでもそろう大型のコンビネーションストアの業績が芳しくありません。同質競争ではウォルマートに勝てないからです。一方、FLONHというライフスタイルを、手頃な価格で実現できるという明確なコンセプトが人気の「スプラウツ・ファーマーズ・マーケット」という「ライフスタイルストア」が急成長しています。FLONHとはFresh(新鮮)、Local(地産) Organic(有機) Natural(自然) Healthy(健康)の頭文字をとったものです。

スプラウツは、コンビネーションストアの売場面積の半分程度の800坪の小型店ですが、明確なコンセプトによる「オンリーワン」の価値が受けて、熱烈なファン(固定客)を増やしているようです。

スプラウツの2017年度の売上は4046億円となり、対前年比12.6%増、店舗数も253店舗、対前年比17%増加し、米国小売業の売上ランキングで82位に成長し、ついにトップ100以内にランクインしました。

LINEで注文&カスタマイズで行列止まらない「TOUCH-AND-GO COFFEE」

まだまだ首都圏の一部店舗でしか体験できないBOPISですが、実際に編集部が使ってみて、その使い勝手をリポートしました。今回は日本橋にお目見えし、大人気を博しているTOUCH-AND-GO COFFEEをご紹介します。(月刊マーチャンダイジング2019年10月号より転載)

コーヒーのボディや甘さなどカスタマイズ自在

サントリーが東京・日本橋にオープンした「TOUCH-AND-GOCOFFEE」はボトルタイプのコーヒー専門店で、独特なモバイルオーダーの仕組みを提供している。

専用のアプリなどはなく、LINEで公式アカウントを友だち登録し、対話形式で注文を進める。注文できるのはブラック(250円、税抜き価格、以下同)とラテ(300円)の2種類。

それぞれホットとアイス、コーヒーのボディや味わい、甘さ、フレーバーなどをカスタマイズできる。簡単なスナックも同時に購入可能。受け取り時間は5分単位で指定することができ、購入の際に登録したクレジットカードから自動で決済される。

LINEの対話形式で注文内容を指定できる

受け取り時間の少し前になると、LINEで「コーヒーができました」と連絡が入る。その際にロッカー番号が通知される。店舗にはディスプレー付きのロッカーがあり、指定された番号の扉を開いて、商品を受け取るという仕組みだ。

商品の準備ができるとLINEで案内が届く

ラベルネームがサイネージに映し出される嬉しい演出

面白いのは注文時に登録した「ラベルネーム」が、それぞれのボトルのラベルに印刷される点だ。このラベルネームは店頭のサイネージにも表示される。

店舗を訪問した日は、店頭で商品を購入したたくさんのお客が、サイネージに映し出される「Welcome 〇〇さん」という文字をスマートフォンで写真に収めていた。

このラベルネームがディスプレーに表示されたり、ボトルに印刷されるというアイデアがSNSでアニメファンや、アイドルファンの間で広がり、「推し」の名前をラベルネームにするのが人気になっているのだ。自分だけのカスタマイズによってロイヤルティーは確実に上がる。表立った報道はされていないが、大変な人気でモバイルオーダーの成功事例といえる。

指定された番号のロッカーで商品を受け取る
店頭ディスプレーにオーダーした人のラベルネームが注文内容とともに掲示されている。“推し”のアイドル・アニメキャラクターの名前を入れる人も

注文のフローもまったくストレスを感じなかった。この「ストレスのない当たり前の使用感」こそ、モバイルオーダー導入を検討している小売業が今後目指すべきスタートラインだろう。

農家の生活をカバーする「トラクターサプライ」が急成長

アメリカの小売業は、2017年からの3年間で約1万5,000店も閉店しました。この連載でも紹介したように、大手企業の「ウォルマート」「ホームデポ」は、新店をつくらず、オムニチャネル化で既存店売上を増やす戦略に大きく舵を切りました。そんな中、「トラクターサプライ」というチェーンストアが、「農村の生活をカバーする」というユニークなコンセプトで急成長しています。

毎年100店前後の大量出店を継続しているトラクターサプライ。

「店舗数減少」でも売上を伸ばすウォルマート、ホームデポの戦略

毎年100店舗前後の大量出店を16年継続

「トラクターサプライ」という企業の名前を知らない流通業関係者の方が多いと思います。私も知りませんでした。1年間に1~2回は米国視察に行っていますが、今まで見たことはありませんでした。その理由は、農村ライフを支援する業態なので、かなり田舎に行かないと店がないからです。

調べてみると、トラクターサプライは田舎立地に大量出店し、密かに大成長を遂げていました。米国テネシー州ブレントウッドに本社をおく企業で、1938年に設立されました。2019年通期の売上予想は94億1600万ドル(1ドル108円換算で約1兆円)の巨大企業であることが分かります。店舗数は約2,000店に達しているので、1店当たりの売上は日本円で5億円程度の業態であることがわかります。

同社の2003年の売上が15億ドル・店舗数450店だったので、16年間で売上を約6倍、店舗数を5倍も増やしています。まさに右肩上がりの成長です。

トラクターサプライのカテゴリー別の売上構成比は以下のようになっています。

カテゴリー 売上構成比
家畜・ペット 45%
ハードウエア・ツール・トラック 20%
季節品・贈答品・玩具 20%
服・靴 10%
農業関連 5%

 

主力の「家畜」カテゴリーでは、家畜のエサ桶や飼料も販売しています。田舎の暮らしに欠かせないペット用品も、ペット専門店チェーンを凌ぐ豊富な品揃えです。また、日本の農協のような農機具だけを販売するのではなくて、農家ライフに必要な商品を幅広く品揃えしていることが特徴です。玩具、服、靴などの生活用品も購入することができます。

また、同社のサイトを見ると、最近流行の「BOPIS(Buy Online Pickup In Stores)」にも取り組んでいます。店舗に在庫のない商品も、オンラインで注文し、店舗で受け取ることができます。店舗に在庫のない商品も購入できるので、1店舗当たりの売上は以前よりも増えています。

ネットでなんでも買える時代であっても、専門性の高い商品は、実物を見て確認して購入したいと消費者は考えます。BOPISであれば、店頭で現物を見て、欲しいものとイメージが違っていたら、その場で返品できることも便利です。リアル店舗があることの強みが発揮できる業態です。だから、店舗増加率が年平均10%を超える成長を継続できているのだと思います。

また、トラクターサプライは、大規模農家よりも、田舎のライフスタイルを楽しむセミプロがメインターゲットのようです。田舎の暮らしに寄り添うというニッチな市場で独り勝ちしているわけです。

日本の田舎は今後、「高齢化」と「人口減少」が加速していきます。多くの小売業が、人口の増加する都心立地に大量出店する戦略に方向転換しています。しかし、いくら人口が減少しても、田舎で暮らす生活者は、これからも存在します。競争相手の小売業が人口の多い立地に移転した後に残った「田舎の生活に寄り添う業態」は、「残存者利益」を獲得して大きく成長するかもしれませんね。

日本と違って人口が減少していない米国ですが、国土が広いので、トラクターサプライの立地の人口密度は驚くほど低く、人口も少ないと思います。そういう立地でもトラクターサプライが成立しているのであれば、田舎立地で展開する日本の小売業のお手本になるかもしれませんね。