「つなげる」商品開発と売場づくり

カインズ「楽カジ」に学ぶ、日用雑貨売場の作り方

2020年夏、カインズが首都圏初出店した新業態「Style Factory」。200坪の小型店で日用雑貨を中心に取り扱う。本業態は売場をいくつかのテーマで商品をくくっているのが特徴だが、そのテーマのひとつとして掲げるのが「楽カジ」だ。「KITCHEN」「LAUNDRY」「CLEAN」の3つの切り口で、お客の生活をサポートする「楽カジ」。同社が長年にわたり開発し続けてきた楽カジ商品開発の裏側と、その特徴的な「売り方」について伺う。(月刊マーチャンダイジング2021年6月号より抜粋)

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家事の工程・回数・時間を30%削減

「楽カジ」はカインズが提案する生活雑貨のコンセプトだ。くらしの大半を占める家事を、調理(KITCHEN)、洗濯(LAUNDRY)、掃除(CLEAN)の3つの軸に分類し、それぞれの工程や回数、時間を約30%削減するという約束を掲げ商品を取り揃える。「楽カジ」によって削減できた家事の時間で、自分らしさや楽しみを新たに生み出し、「くらしを家事から変えていく」ことを提案するという。

「楽カジ」コンセプト誕生の背景について、同社で長年商品開発を担当し、「立つほうき」や折り畳める物干し「パタラン」をはじめとする数々のヒットアイテムを生み出した、商品本部ライフスタイル事業部 オフィス・家庭用品部部長代理の清水政良さんはこう語る。

「小売業はメーカーと違ってお客さまとの最後の接点であり、お客さまの声を生かした商品を開発することができるのが強み。弊社も当初は、既存の商品を海外製造に切り替え、価格優位性を出すことを主眼に置いた商品開発を行っていましたが、そこからお客さまの視点を入れたオリジナル商品の開発へと変更するのは当然の流れでした」

カインズ 商品本部ライフスタイル事業部
オフィス・家庭用品部部長代理
清水 政良さん

カインズはホームセンター(HC)業態として、工具や木材からインテリア用品、グリーン、生活雑貨、ペット用品、食品など幅広いカテゴリーを取り扱う。共通しているのは「DIY」の精神だ。そしてDIYを提案できるのはHCならでは。ただ単にDIYをおすすめするだけではなく、くらし全体をDIYして、その中でも家事を楽しくしたり、時間を縮めるという提案が、楽カジのコンセプトの背景にある。

「家事を楽にして、浮いた時間で自分らしい時間を過ごしていただく。その結果、DIYでお部屋を自分らしくカスタムしてもらったり、グリーンを育ててもらったり…。家事そのもののやり方を、もっと自分らしくしていただくこともできるかもしれません」

そして開発者自身もいち生活者として、日々の料理や洗濯、掃除などの家事に関わり、その生活の中で「これって面倒だよな」「こうだったらいいのにな」という気付きを一つひとつ形にしていったのが楽カジアイテムの源流にあるという。

同社ではさまざまな商品を開発しているが、「楽カジというコンセプトに合っているかどうか」という点については、外せない大前提だという。時短をうたう商品の集積は、ともすると「アイデア雑貨売場」のようになりかねないが、具体的に工程や回数、時間を約30%削減ができなければ「楽カジ」を名乗ることを認めないという社内的なラインを明言することで、統一感を出すことに成功している。

「新商品の開発も行いますが、既存商品のブラッシュアップも欠かさずに行っています。たとえば20枚入りの商品を、毎日使う商品という観点で30枚入りに変更するとか、スポンジ置きの新商品に合わせて、既存のスポンジの形を変えるなど、商品開発には終わりがありません」と清水さんは語る。

カインズが楽カジという商標を登録したのは2014年。長年の積み重ねがあり、ラインアップされるアイテム数も豊富だ。

「はじめは点と点だったものが、線になり、最近ではちょっとした面になって、その面を“楽カジ”として提案できるようになりました」

2020年11月に発売されてから爆発的なヒットとなっている「まな板シート」。調理時のまな板洗いの面倒くささをなくす。

不満・不便の解消で既存商品の倍売れる

「これまでたくさんの商品を開発してきましたが、圧倒的にお客さまの支持を得られるのは生活の不便や不満を解消するためのアイテムです。ちょっとした改善で大幅に販売数が伸びたものもあります」

日常生活の不便解消を考えて開発したのが、ベストセラーとなった「パタラン」だ。「パタラン」はアルミの折り畳みランドリーラックで、大量の洗濯物を干すことができ、軽量で簡単に小さく畳んで収納できるのが特徴。

人気の「洗濯家具」パタラン

価格は7,980円からとそう安価ではないが、発売当初から爆発的な人気で、発売から6年たついまなおベストセラーとして売れ続けている。この商品の開発のきっかけは店頭での接客だった。

「店頭で室内用の物干しが欲しいとおっしゃるお客さまに接客をする機会があったのですが結局購入まで至りませんでした。何がネックなのかと尋ねたところ、(既存の商品は)組み立てるのが怖い。出しっぱなしにするのも嫌だ。簡単に収納できるといいのだけど、とおっしゃられた。そこから、たくさん干せて簡単に畳めるものがあれば売れるのでは?とおもいました」

別の製品の開発の際、メーカーにこのような商品をアルミでつくれないかと軽い気持ちで相談してみたところ試作品があがってきた。試しに新店で実験的に300個販売したところ、メディアに取り上げられたこともあり、あっという間に売り切れてしまったという。そう安い商品でもなかったので、はじめはさまざまな意見があったが、即増産へとかじを切った。

パタランはその後強度を上げたり、デザインのバリエーションを増やすなどのマイナーチェンジを続け、いまなお売れ続けている。家事を楽にしながら、素材や見た目を重視し、インテリアとしても見られるような洗濯用品をカインズでは「洗濯家具」と呼んでいる。

当たり前の不満や不便を掘り起こす

もうひとつ商品開発に関するエピソードをご紹介しよう。ほうきの定番売場を棚割り変更した際の話だ。

続きは月刊マーチャンダイジング 2021年6月号に!