今週の視点

企業の寿命30年説を超え続けるウォルマート

第85回強い「企業文化」を持つ組織がコロナ後の大変化を克服できる

ポストコロナ社会は、消費者の購買行動、企業経営、業務システムなどの未曽有の大変化が起こります。この大変化を克服できる組織とは、実は根幹に強固な「企業文化」を持った組織です。時代の大変化を克服し続けている「ウォルマート」の企業文化に改めて学びましょう。

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大変化の時代だから商売の原点に帰ろう

日米の小売業の栄枯盛衰を30年以上にわたって定点観測している筆者が断言できることは、「変化」や「ゲームチェンジ」は毎年なだらかに起こるものではないということです。歴史的な変化が起こった時期に、まるで階段を駆け上がるかのように一気に変化するものです。

新型コロナ後の次の10年もまた、平成の価値観がまったく通用しないゲームチェンジの時代が始まることを意味しています。平成バブルの崩壊という大変化の時代に、ドラッグストアは階段を駆け上がるように一気に大成長しました。コロナ後の10年間もまた未曽有の大変化が起こり、主役の交代も間違いなく起こります。これは歴史の必然なのです。

この大変化を克服するためにもっとも大切なことは、組織の根幹に太くてぶれない強い「企業文化」を持つことです。時流に乗ることが上手で、損得に敏感な企業は、短期的には成長しますが、時代の大変化を超えて、次の時代の主役であり続けることはできません。

企業の寿命30年説を克服し続けるウォルマート

企業の寿命は30年といわれています。たとえばアメリカの小売業も20~30年周期で主役が交代しています。太平洋戦争後にアメリカの退役軍人が帰国し、新しい家庭を持った「ベビーブーマー」時代の小売業の王様は「シアーズ」でした。その後、1960年代に台頭したディスカウントストアの「Kマート」がアメリカでナンバーワンの小売企業として君臨しました。

しかし、シアーズもKマートも、時代の変化を乗り越えられず衰退していきました。1980年代に台頭した「トイザらス」などのカテゴリーキラーも、アマゾンとの競争に敗れて倒産してしまいました。

ところが、Kマートと同時期の1960年代に創業した「ウォルマート」は、時代の変化を克服し続けて、現代もナンバーワン企業として成長を継続しています。1980年代にディスカウントストアという業態が時代に合わなくなると、ウォルマートはディスカウントストアとスーパーマーケットを合体した「スーパーセンター」という新業態を開発して大きな成長を遂げました。一方、時代の変化を克服できなかったKマートは衰退していきました。

もともと非食品業界の出身だったウォルマートが、食品流通に挑戦することは、当時のアメリカでは常識外れの無謀な挑戦と揶揄されたものでした。しかしウォルマートは外野の意見など意に介さず、食品流通に果敢に挑戦しました。今では全米でもっとも食品を販売する小売企業は、非食品出身のウォルマートなのです。ダントツの1位です。

巻頭に掲載したウォルマート創業者のサムウォルトンのサムズルールの10番目に「ルール10 逆流に向かって泳ぎなさい」という言葉があります。サムウォルトンは、逆境に挑戦し続けることがウォルマートの企業文化であることを、生前に明文化していたわけです。ちなみに、このサムズルールという小冊子は、アーカンソー州ベントンビルのウォルマートの創業店舗(現在は記念館)で配布していたものです。

変わってはならないもの 変わり続けるもの

ウォルマートの企業文化は、サムウォルトンの死後(1992年没)にも脈々と受け継がれています。近年のアメリカでは、Amazonに代表されるオンライン小売業の急成長によって、リアル小売業はシェアを奪われる側に回っていました。まさに「ゲームチェンジ」が進行中だったわけです。2017年のトイザらスの倒産は、その変化を象徴しています。また、4年ほど前のウォルマートは既存店の売上が低迷し、Amazonとの競争で業績を悪化させていました。

しかし、3年ほど前からウォルマートは新規出店投資を抑えて、ITに巨大な投資を行いました。デジタルトランスフォーメーションに挑戦することによって、オンラインとリアルの買物を融合しました。「リアルでの買物」「オンライン注文→店舗受取」「オンライン注文→宅配」と、オンラインとリアルの買物を融合した、ストレスフリーの新しい買物体験を提供することに成功しました。近年ウォルマートのオンライン売上は大きく成長しています。

また、全米にリアル店舗網を持つことが逆に強みになり、最近ではオンライン小売業のAmazonの売上を奪っているとも言われています。まさに、オンライン小売業との戦いという時代の大変化を克服しようとしているわけです。

創業経営者の最大の職務(=使命)は、生涯をかけて強固な企業文化をつくることだと思います。時代の変化に対応できる強い企業文化づくりのためには、「変わってはならないものと、変わり続けるもの」の両方を同時に持つことが重要です。

まずは時代が変わっても通用する普遍的な価値観や哲学を強固にすべきであり、それを明文化すべきです。その普遍的な考え方を組織の全員が共有し、困ったときにはその原則に戻れるような普遍的な言葉であるべきです。サムズルール10もまた現代にも通用する普遍的な価値観と言葉だと思います。

一方で、時代に合わせて「柔軟に変化できる。変化を恐れない。変化を善とする」という企業文化も持つ必要があります。ウォルマートのサムズルールのように、核となる企業文化が太くて強い組織ほど、変化に柔軟に対応できるのではないかと思います。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。