フードビジネス・アップデート

焼肉店、精肉店、精肉工場が隣接

第14回「精肉工場のアウトレット」やきにく萬野本店が仕掛ける実力派の強さ

さる4月27日、大阪JR環状線の桃谷駅と寺田町の間に全長100mに及ぶ焼肉店と精肉店が並ぶ施設がオープンした。これは大阪の天王寺エリアなどに焼肉店をはじめとした飲食店9店舗の他、食肉卸等を展開している株式会社萬野屋(本社/大阪市天王寺区、代表取締役/萬野和成)によるもので、「やきにく萬野本店」(約40坪53席)、精肉店の「肉 まんのや」(約8坪)、そして同社の精肉工場、本社事務所で構成されている。

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精肉店では部位ではなく「ホームカット」で販売

「やきにく萬野本店」は同社創業の店で1999年6月JR大阪環状線の同じく桃谷駅と寺田町駅間のガード下にオープンし(現在地より300mほど北側)、「肉屋が唸る本物の肉屋。」を理念として黒毛和牛に対する卓越した選別眼と肉の捌き技術が注目されて近隣住民に愛されてきたほか、遠方からもファンが訪ねてくる店である。

この度の移転リニューアルは開店20周年を期したものであり、総工費2億円を投入して、大きなプロジェクトを完成させた。焼肉店と精肉店においては「精肉工場のアウトレット」というべき存在である。

萬野屋の焼肉店は「肉屋が唸る本物の肉屋。」が信条

新装した「やきにく萬野本店」は、フードメニューが約130品目、看板商品とも言える「赤身肉盛」270g3,200円(税別、以下同)、450g5,300円、900g1万500円や、「肉寿司」(4巻1400円)のほか「囲炉裏焼き」などの肉メニューに加え、「エゴマとスプラウトのシラスサラダ」700円や、「玉子スープ」400円などバリエーションが豊富。ドリンクメニューは60種類をラインアップ。これらで客単価5,500円を想定している。

精肉は精肉工場の切り落としを「ホームカット」で提供

同社初の精肉店となる「肉 まんのや」は、赤身肉を部位名ではなく「ホームカット」(商標登録済)という名称で精肉工場の切り落とし肉を販売している。

精肉には全て「極雌ホームカット」と名称が付けられ、“薄切り”が「福」100ℊ(以下、同)280円、「宝」380円、「優」480円、「雅」580円、「極」880円。“焼肉”が「優」450円、「雅」550円、「極」850円。“ステーキ”が「優」790円、「雅」890円、「極」990円となっている。他に「ローストビーフ」や「焼き豚」、また純国産豚を60円で販売している。今後は、主に関西圏の百貨店の食品売場で展開していくことを想定している。

精肉工場では、食肉処理の工程別に部屋を変えている。例えば、枝肉をさばく部屋、赤身肉を処理する部屋、内臓を処理する部屋、スープを炊く部屋等々、全てが外気に触れないようにして衛生管理を行っている。

牛と焼肉にかかわるあらゆる仕事を経験

株式会社萬野屋代表取締役の萬野和成氏

萬野屋の原点は昭和5年(1930年)に大阪府羽曳野市で同社社長の萬野和成氏の祖父母が創業した牧場経営、屠畜解体、枝肉を流通する事業である。来年で創業90周年となる。その後、萬野氏の父母に受け継がれ、小売店、業務用卸も事業として加わった。

萬野氏は1963年8月生まれ。1984年に祖父母の会社に入社して主に生体牛屠畜及び内蔵処理業務を担当、同業他社でも修業を積んだ。再入社した祖父母の会社では小売部門に配属され、各精肉売場を巡回した。以後、20年間に渡り、牧場管理、生体牛や枝肉の仕入、業務用(レストラン用)卸を行った。

この業務用卸は小売店の売上が減少する中で大きく活路を見出して、取引先を4年間で1,000店舗まで拡大した。このように牛肉を扱うあらゆる仕事を経験してきた。

1997年に萬野屋の前身となる会社を設立し、飲食店舗開発のサポートを行った。ここでは焼肉店のための技術研修制度や顧客管理ソフトの開発も行った。このように牛肉のあらゆる分野にかかわって来た萬野氏は和牛に魅せられ、全国の多くの生産者と牛と出会い、そこで飼育している牛にあふれんばかりの愛情を注いでいる生産者が存在することに感銘を受け、交流を重ねた。

期待を裏切らない本物の肉を食べられる飲食店

JR大阪環状線のガード下で寺田町駅から北へ100m程度のところに位置する

しかしながら、当時牛肉の業者に「牛肉偽装問題」が顕在化するようになった。その状況に対して、生産者の牛に対する意識との温度差を強烈に感じるようになり、萬野氏自らが「消費者の信頼を裏切らない本物の肉を食べられる飲食店をつくろう」と、自ら店舗展開を志した。

1号店(28坪64席)は、あえてJR大阪環状線のガード下というC級の立地に出店。これは商品力で繁盛店をつくろうと考えたからだ。“焼肉の聖地”鶴橋の近くにありながら、この「やきにく萬野本店」はオープン直後からたちまち繁盛店となり月商1,300万円に達した。

カウンター席、テーブル席と多様なシチュエーションに対応する

近年、焼肉店では赤身肉をロース、カルビという呼称ではなく、部位別の呼称を商品名としているところが増えてきた。例えば、「モモ」をさらに細かく「マクラ」「マルシン」「イチボ」、「友バラ」を「カイノミ」「カッパ」「インサイド」という具合である。

実は、萬野和牛はその先駆けである。1号店の当初からこれを実践し、お客さまからの信頼を得てきた。現状、萬野和牛には部位名が80存在する。このような呼称を持つ焼肉店や精肉店は他に例を見ないのではないか。それが可能なのは“牛肉のエキスパート”ならではのことである。

「極雌 萬野和牛 Premium Queen’s Beef」として流通

老舗の風格が漂う看板

今日萬野屋が販売している精肉は「極雌 萬野和牛 Premium Queen’s Beef」(以下、萬野和牛)というブランドを持って流通している。

これは前述の通り、萬野氏の熱心な生産者との交流から生み出されたものだ。
牛には一頭一頭個性があり、それを目利きできるのは丹念に愛情を込めて牛を見つめている生産者であることを萬野氏は知った。一流の生産者は、じっくりと牛のピークを見極めて最高の状態に達した時に出荷している。

このような「萬野和牛」の条件は大まかに、「未経産の雌牛」「月齢30カ月以上の長期肥育」「脂肪の融点が低い」「肉質の濃度が高い」ということだ。

焼肉店業界は2001年9月に日本で発生したBSEと、2003年12月アメリカで発生したBSEによって大きなダメージを受けたが、後に回復基調となり、今日は大きく隆盛している。

それは言わずもがな、焼肉店の業界が復活のための創意工夫を尽くしてきたからだ。

その点、萬野屋が「精肉工場のアウトレット」をつくり上げ、それが放つ圧倒的な商品力とイメージの高さは、絶好調の「焼肉店ブーム」の中にあって大いにその強さを発揮することであろう。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。